ナイチンゲール研究学会 第 35 回研究懇談会 テーマ 1 2014/10/05 『看護覚え書』に基づいた「生活科学教育」普及の試み―第 3 期 MOST フェローシップにおける活動報告― 宮崎県立看護大学 普遍科目 「自然界と看護」 准教授 小河一敏 k-og@mpu.ac.jp MOST(モスト)とは、京都大学高等教育開発推進センターが構築している大学教員のためのオンライン上の コミュニティサイトである。そこではスナップショットという形で「大学教員の授業実践や教育上の課題および その改善プロセスをマルチメディア・ポートフォリオとして顕在化すること」が可能となる。 MOST フェローシップとは、全国から教育に情熱を注ぐ大学教員 10 名を選抜し、フェロー間の相互交流を通 して、MOST を利用した授業実践の見直しや教育改善の活動に取り組む機会を与えるプログラムである。 この度、第 3 期 MOST フェローシップに『看護覚え書』に基づいた「生活科学教育」をテーマとして採用さ れた。集ったフェローの専門は国語・数学・英語・情報・科学史・国際交流等々多岐に渡っていた。 「“夢の実現” を支える“健康な生活”を全ての若人に!」との願いを掲げて 3 月と 8 月のミーティングに臨み、 『看護覚え書』 に基づいた「生活科学教育」の内容を紹介し交流してきた。その大切さは、ある程度伝えられた手応えがある。 現在、 『ナイチンゲール研究第 12 号・第 11 号』に掲載された、 「看護のための生活科学教育への取り組み 第 2 報・第 1 報」に基づき、WEB 上で閲覧可能な「生活科学教育」のコースポートフォリオを作製しつつあり、 来年 3 月に京都大学で開催される第 21 回大学教育研究フォーラムで発表する準備を進めている。 テーマ 1 では、現在作製しつつあるコースポートフォリオを示しつつ、上記 8 月の第 2 回ミーティングで、第 3 期 MOST フェロー及び京都大学主催スタッフにどのように「生活科学教育」を紹介し、どのように伝わったか を示す。看護専門外の方々、また『看護覚え書』を読んだことがない方々に伝わるように、上記コースポートフ ォリオを作製し、上記フォーラムで発表するには、今後どうすればよいか、ご意見を頂ければ幸いである。 (下記は、第 3 期 MOST フェロー第 1 回ミーティングでの自己紹介資料。一部抜粋) 生活科学教育―『看護覚え書』 (F.ナイチンゲール著)に基づいた「人間の生活の体系像」を学生の頭脳に形成し、 学生が主体的に健康的な生活を創りだすセルフケア能力を育成する― 宮崎県立看護大学では、 「看護とは生命力の消耗を 最小にするよう生活過程をととのえること」という F.ナイチンゲールに遡る看護一般を踏まえた看護学 教育がなされています。学生が卒業時に身につける べきは、患者という生命力が小さくなっている他者 の生活過程を回復に向けてととのえる能力です。 しかし、入学時の学生は自己の生活を健康的に維 持する能力すら余り身につけておらず、この傾向は 年々深まってきています。例えば、居住環境をとと のえるための換気・保温・採光・清掃、あるいは身 体そのものの健康を維持するために必須の食事・排 泄・運動・睡眠のありかた等が、どのように人間の 図1 生命維持に大切なのかという原理的な理解、そこから導かれる具体的な方法などを実践している学生は年々減っ てきています。結果として、親元を離れた生活の中で体調を崩してしまう学生も現れてきます。 看護という生活実践に深いつながりをもつ分野を志す学生ですらこのような状態ですから、他の様々な分野を 専攻する学生達も、生活過程の基本的なととのえ方に関しては推して知るべしと思われます。しかし、いかなる 専門を志す人であっても、人生の基盤は健康であり、生活の積み重ねによって、その人の健康・不健康は創られ てしまいます。大きな目的を実現したい人ほどに、その人生を支える健康な生活が必要です。本学で私が取り組 んでいる生活科学教育は、この意味で看護学生のみならず、あらゆる分野を志す学生に益あるものと思います。 1. MOST(モスト)とは Mutual Online System for Teaching & Learning ① MOST とは https://most-keep.jp/portal ② MOST フェローシップとは http://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/fd/project/most-fellow/most2014.html ③ 第 3 期 MOST フェロー採択と第 1 回ミーティング発表 http://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/fd/project/most-fellow/member-2014.html https://most-keep.jp/access/content/group/3fa433e3-4fed-4ab6-ba6a-81970befae7b/_BBS/_ARTICLE _0000607/MOST%E7%AC%AC3%E6%9C%9F%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%BC %E5%8F%96%E3%82%8A%E7%B5%84%E3%81%BF%E3%81%AE%E6%80%A7%E8%B3%AA.jpg 2. 第 3 期 MOST フェロー第 2 回ミーティング発表 ① 「生活と科学」のスナップショット:コースポートフォリオ https://most-keep.jp/keep25/toolkit/html/snapshot.php?id=982476918941808 ② 発表内容 i. 目的・目標 セルフケア能力: 「生活の体系像」に従って生活上の意味を捉え行動できる 頂点が何故「生命とは、人間とは」なのか 『看護覚え書』を用いる理由と『看護覚え書』に基づいた体系像 ii. 方法 授業展開の全体像:反転授業・グループディスカッション・PBL? 授業展開の具体像: 「換気と保温」を例に 『看護覚え書』に基づいた体系像形成過程 iii. 結果 総括発表討論会の内容 3 年後のエピソード ③ フェロー・スタッフからの反響 i. 『看護覚え書』 (学習)と生活(事実)とのつながり⇔知識教育 ii. 「生活科学」としての普遍性:看護のみならず全ての分野を志す土台 3. 来春、看護専門外の方々、 『看護覚え書』を読んだことがない方々にどう伝えるか? ① スナップショット完成 ② 第 21 回大学教育研究フォーラム口頭発表 ナイチンゲール研究学会 第 35 回研究懇談会 テーマ 2 2014/10/05 学生が「生活の体系像」の構造を構築していく過程 ―「看護のための生活科学教育への取り組み 第 2 報」に基づいて― 宮崎県立看護大学 普遍科目 「自然界と看護」 准教授 小河一敏 k-og@mpu.ac.jp 2012 年 10 月、ナイチンゲール研究学会第 33 回研究懇談会にて「『看護覚え書』を通して、学生の頭脳に「生 活の体系像」が描かれていく過程の素描」とのテーマで発表した。これは「看護のための生活科学教育への取り 組み 第 2 報」 ( 『ナイチンゲール研究第 12 号』 )に認めた「 「生活と科学演習」2010 年度教育実践報告」の前半、 展開 I と展開 II の冒頭を紹介したものだった。その要諦を当時のレジメに以下の様に記した。 「 『看護覚え書』各論の学びを、一方では学生自身の生活改善に適用させ、他方では「生命とは、人間とは」 から位置づけ、両者を繋げて体系化する過程を工夫した。結果、受講生は凡そ全体として、『看護覚え書』を通 した形で「生活の体系像」を描き出し、そこから自己の生活を改善していく段階に到達した。」 第 33 回研究懇談会では、授業開始後約 2 か月を経た時点で学生の頭脳に『看護覚え書』を通した形で「生活 の体系像」が描かれ始めると共に、確かに生活改善が進んでいる様子を示した。ただ、この段階での到達度はあ くまでも「素描」だった。ここで学生の頭脳に「生活の体系像が描かれた」と誤解して、学生自身の興味に任せ て具体的な生活改善実践に集中させてしまうと、描かれ始めた「生活の体系像」は雲散霧消してしまうのである。 ここに 2009 年度の反省があり、後の検証も裏付けている。 テーマ 1 では展開 IV の到達段階及び 3 年後のエピソード を紹介するが、このレベルでのセルフケア能力が学生に身に つくには、 「その後」の展開 II および展開 III が必須だった。 授業開始時、学生に目標として描かせたのは、テーマ 1 レ ジメの図 1 だった。約 2 か月の演習を経て、展開 II 冒頭段階 で学生の頭脳に描かれ始めた「生活の体系像」が図 2 だった。 この段階で、学生は各論に相当する「新鮮な空気とか陽光、 図2 暖かさ、清潔さ、静かさ、食事の規則正しさと食事の世話」 同士の具体的な繋がり方を捉え、これらがライフサイクルた る「生活過程」の一環である事を掴んでいた。 表題の「生活の体系像」の構造とは、一に図 3 に示す体系 の頂点から底面まで貫く中心軸となる柱(「生命とは」が黄 緑、「人間とは」が緑)であり、二に図 4 に示す中心軸と各 各論との繋がり(青)及び各論相互の繋がり(紫)である。 展開 II では『看護覚え書』の「序章・おわりに」によって、 体系の土台をライフサイクル、頂点を「生命とは、人間とは」 図3 と明確化した。その上で学生自身が頂点から各各論の意味を 把握し、その成果を持ち寄って共通性を抽出する事で構造の 一を確定した。そこから構造の二を描き出す事で「生活の体 系像」が簡単に崩れないレベルで描かれ始めた。展開 III は 以上の構造を各人が自主的に熟成させる過程だった。 テーマ 2 では、以上の展開 II を中心に、学生が「生活の体 系像」の構造を構築していく過程を、上記「第 2 報」論文に 基づき報告する。テーマ 1 のコースポートフォリオにどう表 現すれば、看護専門外の方々、『看護覚え書』を読んだこと 図4 がない方々に伝わるか、ご意見を頂ければ幸いである。 1. 「 『看護覚え書』を通して、学生の頭脳に「生活の体系像」が描かれていく過程の素描」の要諦と限界 ① 要諦 ② 第 33 回研究懇談会での到達段階 ③ 2009 年度の失敗: 「素描」段階を「完成」と見誤った⇒学生の興味による個別実践⇒体系像が雲散霧消 2. 体系の構造とその必要性 ① 構造の表象:柱がないとすぐ崩れてしまう ② 構造の中身: 「生命とは、人間とは」から『看護覚え書』各論の意味を捉え、自己の生活に適用する筋道 つまり、 「生活の論理的な=性質上の構造」に即して頭脳が一般から現象まで系統的に考えられる実力 「生活の論理的な=性質上の構造」それ自体は対象たる生活に内包される⇔取り出さなければ見えない ③ 展開 I と展開 II: i. 展開 I:教師の指導に従って、学生は構造を無自覚の内に辿り、体系の全体像を凡そ描く ii. 展開 II:学生自身に展開 I 歩みを意図的に辿り返させて、構造を掴みとらせる 3. 体系の構造の創出過程 ① 展開 II:教師の指導に従って、構造の創出過程を辿る i. 土台と頂点:二つの出発点の確認 土台:「序章・おわりに」から、「生活過程とは」 頂点: 「序章・おわりに」から、「生命とは、人間とは」 ・ 「癒すのは自然」の自然とは? ・ 生命の法則 身体と環境 Reparative process⇒修復過程⇒つくりかえ⇒代謝 身体と認識 ⇔ 健康の法則・看護の法則 ii. 構造の創出 中心軸:大黒柱の創出 ・ 学生自身による「生命とは、人間とは」からの各論の捉え返し ・ 成果を相互に学ぶ⇒「生命とは、人間とは」からの各各論の捉え返しの共通性抽出 梁・骨組みの創出 ・ 各各論の優先順位の把握⇒中心軸と各各論とのつながりの特殊性を把握 ・ 各各論相互の具体的な連関を把握 iii. 体系構造の総括 『看護覚え書』に即した「生活の体系像」:各学生による総括⇒相互に学び合い、描き出す ② 展開 III:展開 I から展開 II の流れを学生自身が復習し熟成させる i. 優れた学生の総括の共有 ii. 展開 I から展開 II の流れの繰り返し推奨 iii. 「生活の体系像」から自己の大学生活を展望する
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