空気を考える - 日本マーケティング協会

MARKETING HORIZON
March 2014
特集:
空気を考える
CONTENTS
TOP INTERVIEW
イラスト 小田桐 昭
空気が読めるマーケティング考
慶應義塾大学 商学部 教授
……3
清水 聰
FEATURE
時代によって変わる空気
組織の空気
ユーモアの空気を醸成する感性
ニュースの感性
空気ひとつで人の成長は大きく変わる
──
中島 聡
……
11
エチエンヌ・バラール
……
13
安澤 輝香
……
15
子安 大輔
……
17
見山 謙一郎
……
20
──
空気をつくれるリーダーの条件
──
肩の力を抜いて飲食を楽しめる空気感
「脱・緊張」
という外食の空気
──
世代の違いによる
「空気」の捉え方
「さとり」
と
「悟り」
消費者の心に浸透する空気
買いたい価格とプレミアム感
──
──
情報という空気の喚起も必要
戦略 PR それは空気づくりである
──
白鳥 和生 …… 21
本田 哲也…… 23
★MARKETING NEWSトピックス★ 大坪 檀
……
25
ADVERTISING
サーベイサンプリングジャパン合同会社
サーベイサンプリングジャパン
(SSIジャパン)は、国内外のインターネット調査、
電話調査をより効率よくスピーディーに実現する大手グローバルカンパニーです。
MARKETING EYES
…… 26
……30
女性マーケターの眼/クリエーターの眼
BOOKS
『空気の研究』
『日本の消費者はなぜタフなのか』
31
……
特集
空気を考える
今回の号は、2 号の「対立概念共存」の概念を異なった視点から考える特集
である。
消費税率改定という、消費の変化をもたらし、ライフスタイルの変化までも
起こしうる制度の改革時に、今一度、私達を取り巻く
「目に見えない空気という
もの」を捉え直したいと思う。
一般的には、マーケティングの概念の成立は、1900 年初頭の米国であると
言われている。
大量生産の結果生まれる様々な物をいかにして、効率的に全米
に展開させるかという一種の「配給論」的なものであったようである。
また、日
本にマーケティングに概念がもたらされたのは、約 60 年前であったとの見方
が多い。当時の時代を考えると、戦後の復興から、一つの時期を経て、
「高度成
長」に向かい、新たな一歩を踏み出した時であったと考えられる。
「空気」とい
うものは、目にも見えないし、普段は全く意識しないものである。
(PM2.5 のよ
うな汚染の場合を除いて)コーホートの概念からは時代効果と言えるものかも
しれない。
しかしながら、私達は、この
「目に見えない何か」
にナントナク支配されてい
るのではないであろうか。
しばしば使われる言葉として KY(空気が読めない)
という言葉があり、KY は悪のように言われている。
「目に見えない何か」が
善であり、「目に見えない何か」から逸脱した何かが悪なのであろうか。
全く逆
で、KY が善であり、
「空気」
が悪なのかもしれない。
冒頭、マーケティング概念の成立時期というものを提示したが、マーケティ
ングに携わる私達は何らかの意味で、
「空気を読み」そして「空気」を作り出し
ているのである。
ただ単なる流れの中で「空気を読み」
「空気に迎合し」
「空気
を作り出す」ことで、マーケターとしての社会的責任を果たしているのであろ
うか。一種の切符社会
(同じ行先の切符を持ち、同じ方向に向かうという日本社
会の特徴)とも言われる日本において、私達マーケターの責任は大変重いもの
があるのかもしれない。
今号は、私達マーケターの果たすべき責任、役割、立ち位置を考える号と致し
たい。
2
MH March 2014
TOP INTERVIEW
空気が読めるマーケティング考
SNS などのコミュニケーションツールの発展の一方で、消費者間の情報格差が広がって
いる。
また、
そのことは消費行動にも大きな変化をもたらしている。
新しい情報に敏感で、先端的な価値観を持つ「はや耳」、情報を取捨選択し、みんなが良い
という商品を選ぶ「聞き耳」、情報感度が低く、その人が商品を購入する頃にはブランドの
寿命が終わりに近づいている「死神層」など、情報格差から新たな消費者の見方や、それに
伴うマーケティングの可能性が出てきている。そこで今回は消費者行動を研究している
慶應義塾大学の清水 聰教授にお話を伺った。
Interview 清水 聰 慶應義塾大学 商学部 教授
情報格差から見た新たな消費者の捉え方
清水 情報格差ということからすると、今までは
セグメンテーションをやっても年齢が高い人低い
中島 私が担当するマーケティングホライズン 3
人、ライフスタイルをみてもA タイプ B タイプ C
号では「空気を考える」というテーマを設定しま
タイプというように、ただ分けてみるというセグ
した。消費者にとっての「情報」を「空気」と置
メンテーションという考え方で、そこに格差とい
き換えてみると、空気(情報)を読める消費者と
う考え方はありませんでした。でも情報軸でみて
読めない消費者とでかなりの情報格差が生じてい
みると、情報感度が高い人低い人、情報をまとめ
るのではないかと思います。そのことが企業のマ
る力のある人ない人、かなり格差があるというこ
ーケティング戦略などにも大きく関わってきま
とが分かってきています。
す。清水先生のご研究のなかから、ぜひお考えを
では、消費者の意思決定プロセスの点から見ま
伺えればと思います。
すと、いわゆるプロモーション系の研究などでい
清水 私が研究している消費者行動という分野
われているのは“今日は安いから買っちゃおう”
は、大きく2 つに分けることができます。ひとつ
“積まれているから買っちゃおう”というような
はセグメンテーションの軸から探るということ。
「刺激反応型」がひとつ。もうひとつはその人の
もうひとつは消費者の意思決定プロセスを探ると
目的に合わせて、例えば地肌や頭皮に問題がある
いう面で、たとえば情報の認知段階ではどんなメ
からそれに合わせたシャンプーを買っていくとい
ディアがいいのか、情報探索する時はどんなメデ
う「情報処理型」で考えていたのです。しかし、
ィアがいいのかというところを研究しています。
それはどちらかというと購買までのことしか考え
中島 意思決定プロセスを中心に研究されていら
ておらず、買った後に人に話すとか、誰かに勧め
っしゃいますが、情報格差から見た新たな消費者
るということまでは考えていなかったのです。最
の捉え方はどのようなものでしょうか。
近の調査をみると、若い人はSNS を多く利用して
MH March 2014
3
いて、それも認知媒体としてだけではなくて情報
信しています。いい情報を発信してくれる人とい
探索するときも、態度を決める時もSNS の情報に
うのは情報感度が高くて、いわゆる「空気の読め
基づいて行動を決める傾向があります。今までは
る人」ということが分かってきています。
どちらかというとメディアの役割は認知の時はテ
実際にそれを応用することで何がわかるのかと
レビ、調べるときはインターネット、買う時は店
いうと、今までは顧客サンプル数に対するトライ
頭でという役割分担があったのですが、どうもそ
アル率やリピート率などで需要予測をしていまし
うではなくて、どの段階でも口コミなどを重視す
たが、顧客サンプル数がこれだけビックデータ的
る傾向が大きくなっています。
に多くなると全てを網羅的に見なくてもいいだろ
中島 では、実際に口コミをする人はどういった
うと。なかでも感度の高い人だけみればもっと早
人なのでしょうか。
く予想ができるようになるのではないか。逆にい
清水 実はこれが先程のセグメンテーションの格
うと空気の読めない人がたくさん支持しているブ
差ととても関係してくるのですが、いまや多くの
ランドはライバルのブランドが出るとブランドス
人がツイッターやフェイスブックを使って情報発
イッチして負けてしまうとか、そういうことも分
かるようになってきました。情報の循環でいうと、
どれだけ感度の高い人が当該の商品を選択してく
れているのかということが重要です。そこから派
生して考えられるのは、今までCRM はひとりの
人のライフタイムバリューの最大化だったのが、
実はそうではなくて「この人すごく広めてくれる
よね、自分は1 個しか買わないけれど1 0 人に伝達
してくれるならその人もCRM の対象としていい
のではないか」というような空気の読める人も大
事になっています。つまり商品の力を測定したり、
コミュニケーション力を高めたりとCRM 対象者
にしてもいいのではないかというところを現在取
り組んでいるところです。
中島 先生の著書を拝読させていただきますと
「マーケットメイブン」という言葉が出てきます
が、ご専門の方にとりまして比較的ポピュラーな
言葉かもしれませんが、読者層にとりましてはあ
まり聞きなれない言葉かと思いました。
清水 そうですね。マーケットメイブン(Market
Maven)というのは、もともとピッツバーグ大学
のFeick 教授らによって1 9 8 7 年に提唱された理
清水 聰
しみず あきら 慶應義塾大学 商学部 教授
慶應義塾大学大学院 商学研究科卒
博士課程卒博士
(商学)
専門分野: マーケティング
4
MH March 2014
論です。ここでは、イノベーターというのは真っ
先に買う人、オピニオンリーダーはとにかく広め
る人、そしてマーケットメイブンは必ずしも買う
わけではなくて評論家としてこの商品は売れるか
売れないかということをある特定の商品カテゴリ
ーではなくて全体として見ている人。つまりオピ
ニオンリーダーやイノベーターは特定の商品カテ
TOP INTERVIEW
ゴリーに非常に強いのですが、マーケットメイブ
実際に経験しているというのも大事なのではない
ンは全般的に見ています。カテゴリーを横断的に
かと思いますね。
わかるかわからないかというところが大きな違い
中島 先生の研究のなかで「はや耳」
「聞き耳」
「死
です。
神」というキーワードが出ておりますが、一種の
中島 マーケットメイブンにあたる人は年齢的に
空気をつくる人はこのなかの「聞き耳」の層なの
はどのあたりが多いのでしょうか。
でしょうか。
清水 一番わかりやすいのは、母子でデパートに
清水 そうですね。「聞き耳」は上から2 番目の層
買い物へ行っている人というのは、やはりマーケ
なのですが、どうしても我々は一番上の「はや耳」
ットメイブン、「聞き耳」にはなりやすいですね。
の層に注目しがちです。「はや耳」は先端的な消
どういうことかというと、娘の先端的な感性と母
費者であり、情報感度が鋭く、マス媒体からネッ
親の保守性があいまってちょうどいい中間点に落
トメディアまで幅広く、深くキャッチしています。
ち着く。確かに母親世代なら手を出さないだろう
買物経験も豊富で、常に売り場もチェックしてい
な、若い子でもこれはちょっとというところが普
る人々です。しかし、先端ゆえに考え方も不安定
通の人から見るといいなというポジションになる
といった感じです。母子消費も一時話題になって
母子で買えば倍買われるなどと言われていました
が、そうではなくて母と子があいまってこの辺が
いいよね、というものは世の中全般から見てもち
ょっといいな、半歩先行くぐらいのところなんだ
と思います。
空気を読み、そして空気をつくれる人
中島 これからのマーケターに必要なものは何な
のかということはよく議論になるのですが、先生
のお話をお聞きすると、これは私個人の考えです
がリベラルアーツは絶対に必要ではないかなと思
うのですが、どうお考えですか。
清水 リベラルアーツもそうですが大事なのは若
いときの消費経験だと思います。似たような概念
で「はや耳」ということに関してある企業さんと
調査をしました。要はこの人が売れるといったら
売れるという“この人”ですが、バブル時代に上
司に美味しいお店に連れて行ってもらった、今は
専業主婦の人が多いです。やはり若いときに消費
経験、リベラルアーツに近いのかもしれませんが、
いろいろなものに興味を持ってとりあえず参画し
てみるとか、そういう経験がない人はやはり感度
が高くならないのかなという気はしています。そ
ういう意味でリベラルアーツというのもひとつで
すけれども、机上の学問だけではなく自分の足で
中島 聡
なかしま さとし
株式会社明治 マーケティング推進本部
マーケティング推進部長
高千穂大学 客員教授
明治大学大学院 グローバルビジネス研究科 講師
MH March 2014
5
で、時代とともに価値観も変わっていく側面があ
中島 先生がお考えになる、マーケティングを行
ります。2 番目の「聞き耳」層は、影響力として
なう上での空気というのは、何でしょうか。
は非常に重要になっています。
「はや耳」ほどで
清水 空気は、マーケティングでいえば今の時代
はないですが、情報に敏感で、バランスの取れた
に売れるものが読めるか読めないか、ということ
消費者といえます。常に「はや耳」の評価に聞き
ではないかなと思います。売れる売れないという
耳を立て、何が良いのかを冷静に判断することが
のが主観的ではなくて、周りのバランスで考えて
できます。よく吟味したうえでの消費は安定して
答えられるかどうかだと思います。そして、
“自
おり、進歩的保守層とも呼べます。
分はいいと思うけれど一般人にはうけないだろう
最後の「死神」層は、中間層と無関心層の間に
な”“自分は嫌いだけど売れると思う”という感
いる消費者です。主にマスメディアからの情報に
覚を持てる人が空気の読める人だろうと思いま
頼り、信念はあるが独善的で頑固、人の話を聞か
す。
ず、自分の話ばかり展開するタイプの人々を指し
中島 先生の著書のなかに直線という概念と循環
ます。この人達が好む商品は、やがて市場から退
という概念がありますが、空気との関係をお話願
出を余儀なくされることから、このように命名さ
えればと思います。
れています。
清水 直線というのは私たちの消費者行動の考え
中島 まさに自分の住んでいる世界と同じ空気を
方からすると、認知して、探索して、態度を決め
共有するという感じでしょうか。
て、買って、それで満足するという直線の流れを
清水 そういう意味でも、まさに空気が読めると
今までずっと仮定していたのですが、その人が買
いうことですよね。
ったあと満足して他の人にしゃべる、それが別の
中島 「聞き耳」の特徴として、人間としての一
人の認知にきくとか別の人の態度形成にきくとい
般的な常識を持っている、自分の所属している組
うようなことはほとんど考えられていませんでし
織体の中でも空気を共有できるということが前提
た。それゆえ直線だったのですが、どうもいまの
なのですね。
若い人を見てみると意思決定のどの段階でもSNS
清水 やはり売れる商品というのは、斬新であっ
を見ていて、他人の意見がスタート地点になり、
ても常識の許容範囲内で斬新であるものが売れる
その人にとっての購買活動が始まるということが
わけです。何かそのブランドのイメージを高める
多いことがわかってくると、人にしゃべってそれ
ために意図的に先端すぎるものをつくるといって
が次の人の認知につながるというように、次々
も、それは売上を狙っていないわけで、そういう
と回っていくことが大事で、その担い手として先
意味では売れるというのはやはり、空気を読めて、
程の「聞き耳」層があります。つまり多くの人が
さらに他人と空気を共有できる「聞き耳」層が関
SNS を用いて発信していますが、無駄も多いでわ
心を示す常識的斬新さです。
けです。先端的すぎる人や遅れている人の意見は
以前、広告代理店さんと一緒に調査をやりまし
聞かない。自分と共感できそうなやや進んでいる
たが、空気が読める人というのは“ここをこうす
人の意見は聞く。すると情報が回るようになって、
ればもっと売れるんじゃないか、この商品はこれ
回りながら進んでいくのだと思います。
だからダメなんだ”とかなり的確です。そして今
そこで、今考えていることは、これまでの広告
ほしいニーズを分かっている人なので、その人た
効果というのは今までは認知率何%、購買率何%
ちを集めて話した方がはるかによくわかる。なぜ
という捉え方でしたが、そうではなくてその商品
その人がいいかというと情報をちゃんと回せる人
の話題はどれだけ回っているのかというのが測定
でその商品をきっちり回してくれる。それを見て
の基準になりうると思います。また、一周回るの
いる人が半歩先行く話だなと思って飛びつくとい
に何日、何週間かかったのか、情報量はどうなの
うことだと思います。
か、回っているうちに減っていくのか、線は太く
6
MH March 2014
TOP INTERVIEW
なっているのか、というのも基準になってくると
があります。
思います。そういう新しい指標を使って、回るス
ピードはどうなのか、たくさん回っているのか、
循環型マーケティングの可能性
誰が回しているのか、ということをみていくこと
がこれからは大事なのかなと思っています。
中島 先生の著書の中で「コミュニケーション型
中島 例えば共感を持てる情報は5 歩ではなくて
生活者」と「ロイヤルユーザー」とありますがこ
半歩先くらいでないと共感は持てないですよね。
の違いは何でしょうか?
その情報に対して共感を持った瞬間、半歩前の情
清水 簡単に言うと、コミュニケーション型生活
報はその人の中に内在化されていくのでしょう
者は自分がいいなと思って人にもしゃべる、ロイ
ね。
ヤルユーザーは自分だけいいと思って人にはしゃ
清水 そうですね。メーカーさんとしては常に話
べらない。ロイヤルユーザーの中にはもちろんコ
題になるような、ギミックという言葉がいいのか
ミュニケーション型もいると思いますが、多くの
どうかはわかりませんが、そういうものを出して
場合において人にあまり伝達しない。今まではひ
いって「聞き耳」の層がおもしろいと言ってくれ
とりの人のライフタイムバリューを考えるならば
るようなものをつくらないといけないと思いま
ロイヤルユーザーがどれだけ多いかがポイントだ
す。実際に昨年夏から新製品でいろいろな実験を
ったのですが、他の人に勧める人がいないとマス
してみたのですが、ライン拡張商品というのは認
だけでマーケット開拓するのは限られています。
知は容易いのですが話題にならない。ところが新
ですので、これからは、コミュニケーション型生
しいブランドで何か機能を追及したりするものだ
活者をどれだけ囲えるかということが重要だと思
と結構話題になる。爆発的な売上は確かにライン
います。
拡張品が多いのですが、じわじわと話題が残って
中島 企業にとって一番利益の源泉はブランドで
いくのは新製品でも機能型のものがいいというの
あり、ブランドはまさに企業をつくってくれてい
が分かってきています。やはりこれは今までとは
ますけれども、循環型マーケティングを前提とす
違うなと実感しています。
ると企業のブランド戦略は大きく変わる必要があ
中島 刺激反応型、情報処理型、いろいろなモデ
りますか。
ルがあると思いますが、明らかに意思決定のモデ
清水 どうしても今まではデータというとPOS デ
ルは変わってくるわけですね。
ータやカードデータがメインで、でもそれは売上
清水 循環の輪の中に、買う場で入ってきてその
のデータですよね。売上はこれだけ取れているか
まま出て行ってしまう人、これは刺激反応型です。
らいいとか、値引きしなくても売れるからいいと
循環の購買の前のテレビ CM などから入ってきて
か、そういう指標しかなかったのですが、それが
買う人、これは情報処理型なのですが、そこから
だんだん人が何をしゃべったのか、何を見て買っ
入っていってしゃべる人もいたり、人がしゃべっ
たのか、シングルソースで取れるようになってく
たところから始まる人もいたりすると、今までの
ると、この人は本当に好きで買っているのか、嫌
一直線の意思決定プロセスではいろいろなタイプ
いなのに買っているのかなど分かってきますし、
の意思決定プロセスが説明できないのです。循環
そうなるといくら売れているからといっても仕方
することによってそういうやり方を考えていくの
ないから買っている人が多ければブランドスイッ
が大事なんだろうと思っています。忘れてはいけ
チが絶対に起きる。買っている人が多くなくても
ないのは、全員がSNS を見ているわけではなくて、
“私はこれが好きだからあなたも絶対食べてみて”
店頭で安いから買ってくる人やテレビ CM を見て
という人が多ければおそらくスイッチしない。実
買う人もすごく多いですから、そういう人も含め
際にある商品カテゴリーで調査したところ、一番
てトータルでどうなっているのかをみていく必要
好きなブランドに関して2 回調査をして2 回とも
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7
同じブランドをあげる人は強いブランドでロイヤ
れではだめだと思うんですよね。
ルティ率 6 0%くらい、弱くて3 0%くらいです。
中島 この循環型マーケティングは一例をあげま
その中でも特に強い情報感度の高い人がいるよう
すと、私どもの会社の菓子という観点から見ると
なブランドはライバルブランドから入って来る人
生存領域はやはりチョコレートです。この循環型
が多いのですが、出ていく人は少ない。ところが
マーケティングが一番適している分野というの
同じロイヤルティ率 6 0%でも「聞き耳」の層が
は、その企業の本当の生存領域みたいなものなの
少ないブランドというのは、入ってくるのも多い
でしょうか。
けど出て行く人も多い。6 0%という数字は安定し
清水 例えばスーパードライをみると、確かに安
てるのですが、入る人出る人がごちゃごちゃにな
いから買うとか店頭で惹かれて買っている人もす
っての6 割。ところが「聞き耳」層が多い6 割は
ごく多いのですが、でもやはり感度の高い人が多
入ってくる人が多くて出て行く人が少ないから、
いのです。普通ならロングセラーはだんだん年を
徐々にパーセンテージが増えていきます。
取って古臭くなっていってしまうのですが、感度
中島 売れた売れないだけが指標ではなくて誰が
の高い人が多い間はなぜか古臭くなっていかな
買っているのかを見ないといけないわけですね。
い。ですから感度の高い人が買い続けているとい
清水 今までの需要予測などは、全ての購買履歴
うのは、ブランドが古臭くならない、いわば永遠
を眺めていて主婦は何個買っているとか、そうい
に若い状態です。これはとても大事なことです。
う見方をしていたのですが、そうではなくて感度
中島 もしかしたら循環型マーケティングはブラ
の高い人はそのうち何個買っているのかというこ
ンド戦略の根幹になるのかもしれませんね。
とがポイントで、感度がそれ程でもない人がたま
清水 ブランドというのは結局その企業のアイデ
たま買っていってもそれは売れない。1 0 年以上
ンティティや伝統、そういうものも持っているの
前に、ある百貨店の調査をした時もそうでしたが、
ですが、必ずしも全部とは言いませんが、少なく
秋冬物のコートが早めに売れたから追加発注を早
とも消費者視点でブランドを考えていく場合はや
めにかけるわけですが、同じ数が出ていても追加
はり循環しているかどうか、情報が回っているか
発注して余るものもあれば追加してもまだ足らな
どうか、回す人がちゃんとつかまえられているか
いものもある。この違いは一体何かというと、最
どうか、回すスピードは早いのかどうかというの
初に飛びついて買った人が誰かというのを見極め
は、ブランドを見ていく上で非常に大事だと思っ
ないといけない。ファッションセンスのある人が
ています。
最初に飛びついた商品だと追加発注しても足りな
中島 まさに企業に取りましてはブランドが命で
い。ところが最初に買った人がたまたま買ったよ
すからね。それを支持する「聞き耳」層、これか
うな人だと絶対に余ってしまう。そこなんだと思
らの重要なキーポイントになることがわかりまし
います。
た。本日はお忙しい中ありがとうございました。
中島 「聞き耳」の人をどう企業が見極めるか、
それがいろいろな面でこれからの企業の明暗を分
けますね。それをどこで見分けるのでしょうか。
清水 例えば購買履歴を見れば過去にどんな買い
方をしているかわかるわけです。新製品が出ると
この人は飛びついた、この人は飛びつかないとわ
かって、
今生き残っている新製品はどのように「聞
き耳」層の購買が推移したのかを眺めることがで
きます。今までの購買履歴は誰が買っても1 個は
1 個、感度が鈍い人が買っても1 個は1 個、でもそ
8
MH March 2014
(インタビュアー : 中島 聡 本誌編集委員)
FEATURE
空気を考える
sense the atmosphere
マーケティングに携わる私達は何らかの意味で、
「空気を読み」そして「空気」
を作り出しているのである。ただ単なる流れの中で「空気を読み」
「空気に迎
合し」「空気を作り出す」ことで、マーケターとしての社会的責任を果たして
いるのであろうか。一種の切符社会(同じ行先の切符を持ち、同じ方向に向か
うという日本社会の特徴)
とも言われる日本において、私達マーケターの責任
は大変重いものがあるのかもしれない。
そこで、今号では、私達マーケターの果たすべき責任、役割、立ち位置を考える
内容を示していく。
FEATURE
manegement
時代によって変わる空気
組織の空気
空気を考える
のであろう。
組織風土、組織文化というものが「組織の空気」
という言葉に近い意味を持つのであろう。別表で、
約 60 年間の「日本経済と製・配・販の変遷」という
ものを簡単にまとめてみた。大きな変化がこの 60
年の間にあった事は明白である。
環境変化に伴い、生活者の価値観も変化するし、
Writer 中島 聡
企業・組織体制も変化する。組織は戦略に従い変化
するのが当然の事ではあるが、同時に組織の空気
も文化というものも変化するのであろう。
「空気」というものの定義は大変難しいものであ
コーホート分析手法時にしばしば耳にする言葉
る。色がついているものではないし、型があるもの
として、「時代効果」というものがあるが、まさに
でもない。
皆様方がお酒のつまみとして召し上がっている
「時代」というものが「組織の空気」を変化させてゆ
くのであろう。
「烏賊の塩辛」
等は、
工業的には全く同じ原料・製法
バブル絶頂期、またバブル崩壊後も、一部の
であっても、生産する場の空気によって全く味が
「マーケティングコンサルタント」と呼ばれる方々
変わると言われている。それ程に力を持つ空気と
や、一世を風靡したマーケターからは「前年比主義
いうものを組織の中で捉えればどういう事となる
の弊害」
「予算主義の弊害」が唱えられ、
「消費の
MH March 2014
11
sense the atmosphere
美徳、あまつさえ浪費の美徳」
が唱えられた事を忘
て、雇用を継続し、従業員の生活を保障するか。そ
れてはならないであろう。
実際、大学の通信講座を
の大前提の前には、「利益は後から付いてくる」的
受講している学生のスクーリング時に、乏しい資
な「不確実な曖昧な空気」は避けなければならな
金を工面しながら宿泊代・交通費・滞在費を作りス
い。今、必要なのは未来を語ると同時に現実をいか
クーリングに参加した学生に対し、
「なぜ、君た
にマネジメントするかという事なのかもしれな
ちは毎日同じ服を着ているのか。消費は美徳であ
い。
る。服を買いに行きなさい。
」と言われた教授の言
夢を語ることは必要なことである。しかしなが
葉は今でも良く覚えている。消費という観点から
ら、現実に即さない夢をいくら語ろうとも、夢は夢
はマーケティングの本質であるが、時代という空
である。夢とイノベーションが表裏一体であるこ
気が、このようなご発言になったのかもしれない。
とから、イノベーションを起こす原資を獲得する
また、同時に
「売上と利益は後からついてくる。
」
と
ためにも、現実を冷徹な眼でマネジメントするこ
いう耳ざわりの良い言葉があった事も忘れてはな
が重要であろう。
らない事である。
今述べて来た事も、時代というも
しばしば、外資系企業や、成功企業の事例として
のが作りだした空気に翻弄された結果なのであろ
スピードの速さが言われているが、淘汰の中で永
う。
続的に成長している企業はスピードだけではな
く、強い理念と徹底した利益マネジメントがある
時代が生み出した新たな空気
ことを考えなければならない。
ステークホルダーに関する概念も、現在では、た
だ単に株主だけではなく、
従業員・その家族・お取
空気のイノベーション
引業者・地域社会等々広がってきている。本来の
ソーシャルメディアの発展に伴い、マーケティ
マーケティングの存在価値から言っても当然の事
ング手法が大きな変化をしてきている。従来の
であろうと思われる。
AIDMA 理論から、様々な新たな購買意思決定モ
「需要の創造」であれ、
「生活課題解決」であれ、
デルが次々と生み出されてきている。また、職場
「夢の実現」であれ、「幸福の増大のためのスキー
内のコミュニケーションに関しても、目の前にい
ム」がマーケティングの存在価値であるならば当
る仲間とも、直接のコミュニケーションを行う事
然の事であろう。しばしば言われることであるが、
無しに、メールでのやり取りを行う事もしばしば
リストラチュアリングという言葉は、構造改革で
見受けられる事となっている。一種の無言文化と
あり、イノベーションである。
決して、人員整理解
言ってもよいかもしれない。このことが「声が大
雇の事ではない。
しかしながら、現実はどうなって
きい人の意見がまかり通る」「ノリの良さのみで
いるか。
方向性を決定する」「徳というつかみどころの無
全世界的に不振企業の業績回復予想と併記され
い概念の中で、迎合的な意思決定がなされる。」と
るのは、人員解雇整理である。
これではリストラと
言った予想もしない悪弊を生み出していることは
は人員整理と同じ意味合いになるのではないであ
ないか。
ろうか。経営の現在は、過去の集大成である。人員
また、街行く人々、スポーツをする人々、耳には
整理を行った場合に、過去営幹部は、私財を売り払
イヤホンである。風の音、ザワメキ、五感で感じる
い、整理対象者に対してどれほどの支援を行った
気配、これでは感じ取ることができない。
であろうか。
成熟市場のなかでは「物」だけではなく、
「事」
「感
「曖昧模糊とした空気の中で決断した事業の方
性」「心」にアプローチすることが必要と言われて
向性」の犠牲者に対して責任を取ることができた
いるが、「事」を理解するには他者を慮る姿勢、即
ケースは皆無なのではないであろうか。いかにし
ち冷静他者との関係性の中で自らの立ち位置を確
12
MH March 2014
FEATURE
空気を考える
認設定することが必要である。
マネジメントするかといわれている。
「感性」を磨くには、常に五感を研ぎ澄ます必要
「声の大きさ」「ノリの良さ」「徳と言う概念を
があろう。
「心」にアプローチするには、他者の考
曲解した迎合」まずはこの 3 つに惑わされない空
え、課題を冷静に判断し、自らが解決のために何が
気を創り出す事が求められているように思われ
できるのかを冷静にマネジメントする必要がある
る。
であろう。
決して、声の大きさ、ノリや、迎合ではな
いであろう。
ショッパーズインサイト・消費者イン
サイトと言った言葉が注目されているが、勘処は
らわれず、いかに相手の価値観をナレッジとして
中島 聡 (なかしま さとし)
株式会社明治 マーケティング推進本部 マーケティング推進部長
高千穂大学 客員教授
明治大学大学院 グローバルビジネス研究科 講師
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トをかぶった大統領が乗り、夜のパリを走り、愛
いかに聞き上手になるか。また自分の価値観にと
ユーモアの空気を醸成する感性
ニュースの空気
フランスの広告に見る絶妙な間合い
の巣まで駆け込んだ。そこで愛人と一晩と過ごし
たことは今年に入ってから最初のビックニュース
だった。芸能誌 Closer の発売日は 1 月 10 日だっ
たことを頭に入れてほしい。たった 12 日後の 1
月 22 日、フランスのニュース新聞紙 Libération
(リベラーション)の 5 ページ目におもしろい広
告枠が掲載されていた(写真 1)
。なんと、真っ黒
Writer エチエンヌ・バラール
のブラックヘルメットの商品写真と共に「Merci
Monsieur le président」(大統領氏、ありがとう)
というキャッチコピーが堂々と載せられていた。
「空気を読む」というのはとても日本的なしきた
続いて、「あなたの安全を守るために我が社のヘ
りと言われているが、フランスの最新マーケティ
ルメットを選んでいただいて感謝しています」
。こ
ング・トレンドを見ると、
フランスの広告代理店は
の広告は大統領宛の手紙をイメージし、以下のよ
立派に空気を読んでおもしろい企画を次々披露し
うな内容だった。「拝啓、大統領様、我が社のヘル
ている。
最新の例として、今年の 1 月に暴露された
メットをかぶっていた大統領の写真が掲載された
オランドフランス大統領の愛人スキャンダルに絡
事をきっかけに、この商品はお陰様で好評につき
んだこの動向を観察したいと思う。
売り切れになりました。スクーターでの移動の際、
フランス大統領が女優のジュリー・ガイエと密
国産のヘルメットブランドを使っていただいてあ
会を繰り返し、その様子が芸能誌 Closer に証拠写
りがとうございます。ヘルメットのほかに女性の
真付きで出されたことを日本のマスコミも大々的
方におしゃれなバイクウェアもご用意しています
に報道したので、まだ皆さんの記憶に新しいと思
ので、よろしければバレンタインデーのプレゼン
う。Closer 誌は、
パパラッチ・カメラマンが盗撮し
トにどうぞ。」
た写真を七ページにわたって掲載し、異例のマス
この広告コピーの優れたところは、ニュースと
コミ騒動を起こした。
写真では、ボディーガードが
連動した即効性だ。ニュースとして全くの偶然で
運転する二人乗りスクーターの後部席にヘルメッ
話題になった課題を即分析し、即広告として展開
MH March 2014
13
sense the atmosphere
写真 2
写真1
させているポイントがうまい。ブランドの反射神
経が鈍かったら、どうだろう?自社のヘルメット
がニュースに出たと気づいても、広告としてそれ
をアイテムにするタイミングを見逃していれば、
読者達がこの話題を忘れた頃に広告キャンペーン
が出て、意味がない。インパクトもない。スキャン
ダルが露呈した二週間以内、まだニュースとして
毎日扱われていた頃だからこそ、最高の宣伝効果
をもたらしたに違いない。
今件はたまたま大統領のヘルメットが話題の
写真 3
ポイントだったのだが、実はここ数年前から政治
ニュースまたは社会ニュースと密に関連している
て話題を呼んだ。
新聞広告がフランスのメディアでしばしば見かけ
ニコラ・サルコジ前大統領も任務中、LCC 航空
るようになった。2013 年 2 月、
著名な俳優ジェラー
会社 RyanAir から勝手にイメージを利用された。
ル・ドパルデューが富裕層を対象にした高税率の
大統領と歌手のカーラ・ブルーニとの結婚計画が
導入の際、抗議の意を込めて、ベルギーに移住する
発表された後、RyanAir が二人の写真と共に(ロー
ことを発表した。俳優が移住先のベルギー国境の
コストの)「RyanAir 使ったら、家族メンバー全員
近くの村に家を購入したことも当時かなりニュー
が私の結婚式に出席できる」というコピーで新聞
スになった。
そこで数日後に、フランスの中小規模
広告を出した(写真 3)
。これも業界で話題を呼ん
の不動産会社 OptimHome が Libération 紙のトッ
だ。
プページに、フランス人なら一発でわかるドパル
他にも例が数々あって、ユーモラスタッチで
デュー氏の影絵と共にこのコピーを大々的に掲載
ニュースがうまく広告のネタとして使われてい
した(写真 2)
。
「ジェラール氏、
我が社は自信を持っ
る。こういう類いの広告をうまく利用するのに、二
て、あなたに帰国させる気持ちをもたらしたい。
フ
つの原則を守らなければいけない。まずは使われ
ランス国内の不動産関連計画は、ぜひお任せくだ
ているニュース題材(政治家、俳優など)のイメー
さい」。さらに、この同じ不動産会社は数ヶ月後に
ジが名誉毀損に当てはまらないこと。当たり前だ
またニュースの波に乗って、今度はフランスの内
が、広告主が勝手にその人物の肖像を実際に使っ
務大臣のシルエットを利用して、同じ手法を使っ
ている場合、法律上、肖像権侵害に触れない程度に
14
MH March 2014
FEATURE
空気を考える
うまくビジュアルとキャッチコピーを組まなけれ
いずれにしても、この微妙な手法を使えるのは、柔
ばいけない。
分かる人は分かるが、なるべく曖昧な
軟性をアピールしたいマイナーな企業と広告エー
表現やビジュアルを使うことが広告主の慎重な態
ジェンシー。しきたりの多い大手企業の広告代理
度だ。たとえば Opti m Home の広告には俳優や大
店は、空気を読んで、指をくわえているだけの状態
臣の名前が使われているが、名字が一切載ってい
なのであろう・・・。
ない。
もう一つ大事なのは、ユーモラスな表現で読
者の好意感を得ることだ。お堅い政治ニュースに
ると読者の顔に一瞬微笑みが表れるのが狙いだ。
エチエンヌ・バラール (Etienne Barral)
ジャーナリスト。1964 年フランス・パリ生まれ。1986 年に雑誌の特派員とし
て来日。以来東京に在住、日仏の雑誌で日本文化についての多くの連載などを
手がける。
leadership
要視される部分ではないだろうか。
対してちょっぴりエスプリの効いた広告を提案す
空気ひとつで人の成長は大きく変わる
空気をつくれる
リーダーの条件
自分自身の仕事ができるリーダーは多いが、組
織全体の環境つくりをしながら人材を育て、土壌
をつくるリーダーが減少傾向にある。
その背景には、チーム力より個人力という海外
ビジネスの流れが存在しており、自由に楽しく自
分らしく仕事をすることを美徳とするベンチャー
の「氷山の一角」だけを真似た組織が増加したから
かもしれない。
Writer 安澤 輝香
しかし実際はどうなのだろう。プロフェッショ
ナルだけの精鋭集団ならばそれも可能だが、現実
は違う。自ら考え行動し、問題を解決させチームを
組織の成長に欠かせないもの。それはマンパ
引っ張るような社員ばかりではないのだ。では、よ
ワーを成長させ、個々の人材が持つパワーを集結
い人材を集めればよいのだろうか。いや、それも違
させるリーダーの存在だ。
マンパワーの成長、人を
う。よい人材とは育てるものだからだ。他社にとっ
育てるという仕事はリーダーの役割の中で最も重
てよい人材でも自社にとってよい人材とは限らな
MH March 2014
15
sense the atmosphere
い。人は雇用される側と雇用する側が合意した環
つくるには嵐が必要であり嵐を乗り越えたチーム
境の中で育ち、
成長していくものである。
は互いを理解し合い、切磋琢磨できるチームへと
人を育てるには、まず環境が大事と言うが、環境
成長していく。
とは一体どのようなものを言うのだろう。草花に
澱んだ空気も小さな換気で済めば良いが、放置
例えるならば、太陽の光が当たり、雨の恵みである
しておくと呼吸さえも苦しくなるような空気に包
水があり、強い根を張る土があり、空気があること
まれてしまうケースもある。日常の小さな澱みを
が最低限の条件だ。
キャッチする感覚もリーダーには必要となってい
しかし基本となる環境が揃っていても、うまく
る。
育つ花、咲かない花が出てくる。
花が咲いても実ら
リーダーは、それらの空気を素早く感じ取り、そ
ないケースもある。
小さな花、大きな花、同じ環境
の空気を一新できる力が求められている。組織に
でも同じようには育たないものだ。人も同じよう
おいて社員にやる気が無い、覇気が無いという事
に育つ環境の最低限の条件が揃っていても、成長
を言うリーダーがいるが、心得ておきたいことが
のスピードには差があって当然だ。しかし、リー
ある。それは「リーダーがそれらの空気をつくって
ダーが作る空気ひとつで人の成長は大きく変わ
いる」という自覚がなければ変化は起こらないと
る。
いうことだ。
よく「うちでは研修や勉強会など頻繁に実施し
人は鏡だと言うが組織においても、それは同じ
教育にお金をかけているが成長に繋がらない」と
である。リーダーの姿が部下の姿そのものなのだ。
いう相談をされるが、その前に必要なモノが欠け
経営者の日々の行動が組織の社員の姿なのだ。目
ているケースが多い。
それは、リーダーがつくる人
標を達成できないチームは達成することが当たり
が育つ空気だ。
人が育つ組織には「澱まぬ空気」が
前だという、空気が無い証拠である。例えば会社か
存在する。
常に澱まぬ空気が流れ、明るく朗らかな
ら提示された予算に対し「こんな数字、無理だ」と
笑顔と活気に満ちている。
リーダーが思っていれば、その想いは全員に伝わ
澱んだ空気は人の、やる気、モチベーションを降下
り達成しなくても良い環境になる。目標に対する
させるだけではなく、発展的で建設的な思考にな
最後まで諦めない空気をつくるのもリーダーの務
らない状態を作り、ネガティブな言葉や思考が飛
めなのだ。時間を無駄に使いダラダラした空気を
び交い、
チームの士気を下げる原因にも繋がる。
感じるのもリーダー自身がそれらの空気を作りだ
モチベーションに左右されるなどプロでは無い
しているのだ。報告・連絡・相談ができる空気をつ
という意見もあるが本来、人というものは人に認
くる。情報がしっかりと届く空気をつくる。共に切
められ、励まされ共に働く人たちと関わりを持ち
磋琢磨できる空気をつくる。
ながら、自分と言う存在価値を確認し、成長してい
これらをせずに、人が育たないという事はリー
くものである。
つまり、誰もがひとりで仕事をして
ダーとして「私は役割を果たせていません」と宣言
いるわけではなく互いに認め合いながら集団の中
しているも同然だ。部下にできていない、と言うよ
の一員として自分の役割と責任の中で仕事をして
りも、まず自分自身が率先行動で示しているだろ
いる。
うか。そして人が育つ環境つくりに常に尽力して
人が育つ組織には、キリリとした爽やかな空気
いるだろうか。
が存在している。この空気をつくり出すのがリー
環境は会社がつくるものだと思いがちだが環境
ダーの存在だ。
はリーダーがつくるものだ。人が育ち組織が成長
組織は生きている。生き物と同じだ。生きている
する空気。それは意外にも簡単につくることがで
が故、時には澱んだ空気を発することもある。
それ
きる。リーダーが元気な声で皆に声をかけていく。
は決して悪いことではなく、むしろ強いチームを
笑顔で接する。一緒に頑張ろうと共に歩む。最後ま
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MH March 2014
FEATURE
空気を考える
で諦めるなと励ます。
ある姿勢がある。
周りの全てに関心を持てば空気は変わるのだ。
優しいだけでも無く、部下や社員に好かれるだ
無関心では、人は育たない。
人は組織の空気の中で
けのリーダーでは無く、リスペクトされるリー
自分が必要とされていると感じ、自分も更にでき
ダーの存在こそが今の豊か過ぎる社会に必要な
るようになろうと努力をしていくものだ。
リーダーだ。
いま昭和の時代に成長した組織が再注目され
リーダーが変われば空気も一新する。多くの組
ている。それは古き良きリーダーの存在が今の自
織がリーダーの力で変革を遂げている。そこには
由な社会に必要とされているからだろう。
小難しいスキルではなく「想いを伝え続ける」とい
理念やビジョンが無くても、夢が無くても人は育
うシンプルで明確な指針が存在している。できて
つという説もあるが、目指すべき方向性を示し、旗
いないことは多々あるだろう。しかし、できるよう
を掲げるリーダーを私達はいま求めているのであ
になったことも多々、存在するはずだ。それらを褒
る。
め、更に向上するために激励し、目指すべき方向性
何の為に仕事をするのか、仕事の喜びや誇りは
を掲げる行動で空気は変わる。
会社という組織の為に必要なのではなく個人に必
組織は生きている。空気はいつからでも変える
要なものだ。目標や目的、使命などが明確にあり、
ことはできる。まずは「自分から変わる」ことがス
自分がしている仕事が組織で役立ち、社会で役立
タートラインではないだろうか。
つことを知る。それを伝え続けるリーダーの熱い
想いが人の心を動かし行動となる力に変換され
る。クールにカッコよく仕事をするリーダーも良
を共有することができるリーダーは厳しくも愛情
安澤 輝香 (やすざわ てるこ)
組織人材育成 シーエスリレーション 代表
大阪モード学園 講師
日本実務能力開発協会 副理事
trend
返ってみると、当時の東京では「デザイナーズレス
いが、部下や社員と共に笑い、共に涙し、共に想い
肩の力を抜いて飲食を楽しめる空気感
「脱・緊張」という
外食の空気
トラン」が花盛りだった。斬新な内外装を設計する
デザイナーが手掛けたスタイリッシュな飲食店
が、西麻布や恵比寿の外れといった「隠れ家」のよ
うな立地に次々とオープンしていた。料理は創作
系が中心で、間接照明をきかせた店内には、クリエ
イター風の客が溢れていたものだ。要するに当時
は料理の味や接客というよりは、立地や空間が「オ
シャレ」であることを重視する空気が強かったと
Writer 子安 大輔
言えるだろう。
「10 年ひと昔」とはよく言ったもので、そのよう
な空気は気づけばすっかり変わってしまった。も
外食産業の世界に身を置いている者として、世
しも今そんな店を新たに出したら、ほんの数か月
の中の人々が外食に何を求めているのかという
で閉店に追い込まれてしまうに違いない(時折そ
「空気」
を敏感に察知することは欠かせない。
私がこの業界に飛び込んだ約 10 年前を振り
ういう「空気を読めない店」をいまだに見かけるの
は残念な限りだ)。
MH March 2014
17
sense the atmosphere
外食産業記者会が毎年その年に活躍した人物を選
むしろスタンダードなものになりつつある。
出する「外食アワード」というものがあるのだが、
デンマークに「ノマ」というレストランがある。
昨年初頭にそれを受賞したのはブックオフの創業
世界中のレストラン関係者の投票で選ばれる「世
者、坂本孝氏である。
彼の経営する
「俺のフレンチ」
界のベストレストラン 50」という企画において、
や「俺のイタリアン」という店が今という時代を
同店は 2010 年に世界一に輝いて以来、3 年連続
切り取ったものであるならば、デザイナーズレス
でその座をキープし、2013 年も世界 2 位の評価
トランが流行らないのは至極当然と言えるだろう
を獲得している。こう聞くとどんなに大層な店か
(ご存じない方のために簡単に説明すると、
「俺の
と想像するだろうが、実はイメージとは相当異な
~」は、高級食材を惜しげもなく使った派手な料理
るようだ。レストランジャーナリストの犬養裕美
が格安で提供されており、客はそれを立ったまま
子氏は著作「レストランがなくなる日」の中で、ノ
食べるというスタイルの店である。
客からは「コス
マを次のように紹介している。
トパフォーマンスが抜群」という評価を受けてい
・
「ノマ」は、今までの高級レストランとは根本的
る)
。
に違う。
どのような業界にも生活者のニーズの変化はあ
・
「ノマ」がナンバーワンになったのは、単なる偶
るはずだが、特に外食の世界ではこうした移ろい
然ではなく、確実に時代を反映しています。
が激しい。それが具体的な料理や飲み物だけであ
・彼(注:オーナーシェフのこと)自身、高級レス
るならば(例えば、
「ジンギスカン」とか「ハイボー
トランで強いられる緊張感には疑問を持って
ル」のように)
、話はそれほど複雑ではないのだが、
いたから。
「高級レストランの堅苦しい雰囲
それが捉えどころのない「空気」にまで及んでしま
気の中では、食事をリラックスして楽しめな
うのが厄介なところだ。
では、外食産業に流れる今
い。僕たちは自分らしくいられるレストラン
の時代の空気は一体どんなものだろうか。
をつくりたかったんだ」
先ほど例として「俺のフレンチ」を挙げて、コス
・入り口を入ると目の前に厨房があります。
トパフォーマンスが支持されている理由だと述
・サービスマンはいるけれど、厨房で盛りつけを
べたが、厳密に言えば繁盛の要因はそれだけでは
終えるとその皿を持って料理人が客席に運 ない。
同店を訪れると、そこでは「親密で楽しい気
ぶ。そして料理のサーブも、料理人が行う。
分」を味わうことができる。
これまでフレンチレス
世界の最先端を行くレストランが提供している
トランと言えば、記念日に訪れる特別な場所であ
のは、豪華絢爛な食事や荘厳な雰囲気、あるいは緊
り、重厚な内装やともすると慇懃無礼とも思える
張感を強いるような接客ではない。むしろその対
スタッフに囲まれて食事をするというのが一般的
極にある、等身大で心温まる料理やサービス、空間
だった。客はお金を払って、
「非日常の緊張感」を
なのである。そしてそれを体験すべく、世界中から
味わっていたとも表現できるだろう。
大勢の客が訪れているのだ。
しかし、
「俺のフレンチ」はそんな緊張感とは対
ここで改めて日本の飲食店の今を思い返して欲
極にあるものだ。驚くべき価格の安さもさること
しい。この数年、街中で立ち飲みの飲食店を見かけ
ながら、そもそもそのスタイルが「立ち食い」なの
る機会が増えていないだろうか。あるいは着席ス
である。フレンチレストランでのマナーを大切に
タイルだったとしても、テーブルが小さかったり、
するセレブリティからすれば、めまいがするよう
隣の卓との距離がものすごく近かったりする店が
な話に違いない。
「俺のフレンチ」のケースは極端
増えているのを感じないだろうか。ワインバルや
かもしれないが、実はこうした脱・緊張感、よりわ
ビストロなどと呼ばれるそれらの店では、フレン
かりやすく言えば、肩の力を抜いて飲食を楽しめ
ドリーなスタッフに囲まれて、人々が仲良く食事
る空気感を求める向きは、日本中、そして世界中で
やワインを気軽に楽しんでいる。
18
MH March 2014
FEATURE
空気を考える
ようになった。夏のシンボルとも言えるビアガー
デンが、実質半年も成立できているというわけだ。
ビアガーデン以外に、屋外でビールを楽しめる「ビ
アフェス」も季節を問わず開催されている。こうし
たビールを楽しむ気分、野外でワイワイと騒ぐ気
分、そして稲本氏が言うような「夏の気分」は、先ほ
ど挙げた「リラックス」や「居心地」という価値観と
見事にマッチしている。
繰り返すが、重要なのは単に「安いこと」ではな
い。むしろ牛丼業界の構造的な不調、あるいは数年
前に一世を風靡した「低価格均一居酒屋」の衰退
こうした状況の背景にはもちろん、
「低価格」や
を見れば、安さというスペックそれ自体は想像す
「コストパフォーマンスの良さ」という大きな要素
るほど求められていないはずだ。むしろ、妙な背伸
があるのは間違いない。
しかし、客はそれだけで集
びを嫌う現在の人々の価値観や生活に対して、う
まっているのではないはずだ。
むしろ「リラックス
まくフィットすることができるかどうかが問われ
して楽しめること」や「居心地が良いこと」に大き
ているのである。その際に、「脱・緊張感」は大切な
な価値を見出しているように思われる。そうした
キーワードとなるだろう。
空気が現在の飲食業界を広く覆っており、そこで
は「かっこいいこと」や「非日常を感じること」は、
なかなか入り込む隙を見いだせないでいる。
以前、外食大手の株式会社ゼットンの稲本健一
氏が興味深い発言をしていた。
「昔と違って今は
ビアガーデンが一年の半分を営業できるように
子安 大輔 (こやす だいすけ)
株式会社カゲン 取締役
東京大学経済学部卒業後、㈱博報堂入社、マーケティングセクションにて食
品、飲料、金融などの戦略立案に従事。 2003 年博報堂を退社し、飲食業界
に転身。著作に
「『お通し』
はなぜ必ず出るのか」(新潮社)
など。
なりました。
人々は『夏』を求めているんです」
。
指
摘の通り、かつてビアガ-デンと言えば、7 月と
8 月しか成立しないものだった。
しかし、最近では
ゴールデンウィークあたりから開業し、9 月や 10
月の秋口まで営業しているところを多く見かける
MH March 2014
19
sense the atmosphere
generation
世代の違いによる「空気」の捉え方
らない。
「そもそも国の予算配分は適切なのか?」、「低
所得者層への対応をしっかり織り込むべきではな
「さとり」と「悟り」
いか?」、「この機会に税金の使い道をもっと知る
消費増税からの一考
た頃には、考えもしなかったようなこれらの回答
べきだと思った」など、バブル世代の私が学生だっ
が、そのことを象徴している。実はこれらの冷静な
分析による回答は全て、ものわかりのよい回答を
Writer 見山 謙一郎
した学生から得られたものである。今の学生は周
りの空気を読みながら行動する「ゆとり世代」でも
いよいよ 4 月から消費税が 8%に上がる。1989
あり、SNS などの情報ツールを駆使し、様々な情
報を処理しながら現実の理不尽でネガティブな状
年 4 月に 3%の消費税が導入され、1997 年 4 月に
況と向き合い、その状況と折り合いをつけること
5%へと増税されて以来、久方ぶりの消費増税であ
に長けた「さとり世代」でもあるのだ。空気を読む
る。1997 年当時、今の学生の多くが小学生未満で
ことに長けた学生に対し、私たち大人は空気に流
あったことを考えると、当時の彼らが消費増税を
されてはいないだろうか?「○○年ぶりのベア」
意識する訳もなく、物心がついてから初めての
(身
といった安部内閣が演出するポジティブなニュー
近な増税という)出来事であるはずだ。失われた
スがメディアを賑わすことで、
「3%程度の増税で
20 年、デフレスパイラルの中で成長してきた今の
大騒ぎはしない」といった空気感が。世の大人たち
学生は、
「今回の消費増税をどのように受け止め
の間に漂っているような気がする。
ているのだろうか?」
、
「そもそも、デフレスパイ
過去と比べて、増税前の駆け込み需要が今一つ
ラルの中、
(消費増税という形ながら)モノの値段
盛り上がりに欠けるように感じるのは、気のせい
が上がること自体、彼らは経験したことはあるの
だろうか?右肩上がりの高度経済成長期に育った
だろうか?」
そんな興味から、複数の学生の意見を
我々大人たちは、今の学生とは間逆で、年々生活が
聞いてみた。
改善して行くポジティブな環境の中で成長してき
結論から先に述べると、今の学生はとても現実
た。ポジティブな環境下では、世の中を支配する空
的かつ冷静なものの見方をしているということ
気に従ってさえいればよかったので、敢えて空気
だ。「少子高齢化が進む中、福祉や医療にお金をか
を読む必要はなかった。ポジティブな生活環境(空
ける必要があるにも関わらず国の財政状況が厳し
気)の中では、冷静な分析は必要ではなく、思考停
いのであるから仕方がない」
、
「ヨーロッパ諸国と
止のまま世の中の動向(空気)に身を任せていれば
比べると日本はまだ消費税が低いことを考えると
よかった。
仕方がない」更には、
「国民の義務として払える人
しかし一転、失われた 20 年の中では、過去の成
が税金を払うことは当然のことである」といった
功体験を信じてポジティブに考えようにも、な
ものわかりのよい回答が今の学生の現実的なもの
かなか思うに任せず、次第にあきらめの境地へと
の見方を象徴している。
しかし、こうした意見の一
入って行く。あきらめの境地へと入ると、無理にも
端をつまんで、日本の置かれている現実的状況
(空
がく必要もなくなるし、思考停止のままでよい。世
気)を読み、消費増税やむなしと考えるのが、いわ
の大人たちにとっては、あきらめの境地こそが、
ゆる「ゆとり世代」の思考である、と簡単に片づけ
「悟り」の境地なのである。一方、「さとり世代」と
られるほど単純なものではない。
今の学生は、消費
も言われる今の学生にとって、「さとる」とは思考
増税に一定の理解を示しつつも、冷静な分析も怠
停止のあきらめの境地ではなく、現実の理不尽で
20
MH March 2014
FEATURE
空気を考える
ネガティブな状況(空気)と向き合い、その状況と
向き合い、なぜ増税が必要なのかという本質を知
折り合いをつけることであり、思考停止に陥って
ろうとすることで、ネガティブな状況との折り合
いる訳でも、あきらめている訳でもない。
理不尽で
いをつけようとしているのだ。
ネガティブな現実と向き合う術は、実は、大人たち
失われた 20 年の間にすっかり自信をなくして
よりも次世代を担う学生の方が持ち合わせている
しまった、我々大人たちが醸し出す「あきらめ」と
のだ。
いう悟りの空気感を、今の学生はしっかりと読ん
経済成長というポジティブな空気の中で成長し
でいる。未来に希望を持てない学生が多いと嘆く
た我々の世代は、ポジティブな空気の中では空気
前に、学生が希望を持てなくなっている責任は大
に流される仕様になっているのかも知れない。だ
人たちにある、という自覚を我々は、しっかり持つ
からこそ、消費増税よりも、ベアというニンジン
必要がある。
に釣られてポジティブな空気感が演出されること
で、思考が停止しているのだろう。
一方、失われた
20 年というネガティブな空気感の中で成長して
きた学生は、消費増税というネガティブな現実と
見山 謙一郎 (みやま けんいちろう)
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任准教授、
次世代人材塾・適十塾塾長、
株式会社フィールド・デザイン・ネットワークス代表取締役
余りで様相はだいぶ変わってきた。ダイエーなど
trend
の GMS(総合スーパー)に変わり、SPA(製造
消費者の心に浸透する空気
小売り)を標榜するユニクロ(ファーストリテイ
買いたい価格と
プレミアム感
リング)やニトリホールディングスなどの専門店
チェーンが台頭。日常生活に必要な商品の「値ごろ
感」は大きく低下し、外食も牛丼チェーンやファミ
リーレストラン、居酒屋で低価格化が進んだ。
ラグジュアリーブランドなどの高額品を除い
た議論として、実際の店頭価格と、消費者の「買い
Writer 白鳥 和生
たい価格」との開きは以前よりも縮まったのかも
しれない。その背景には前述のような SPA の台
頭と、スーパーをはじめとした多くの小売業が力
「流通産業の使命は、生活者が買いたい商品を、
を入れるプライベートブランド(PB =自主企画)
買いたい価格で提供することだ」
。ダイエーの創
商品の拡大がある。サービス業についても、例えば
業者、中内功氏が生前、ことあるごとに語ってい
「QB ハウス」のように人件費やサービス内容をう
た言葉だ。
この「買いたい価格」とは価格決定権を
まくコントロールして低価格を実現する企業が出
メーカーから小売業が奪い、中内氏と共に日本に
てきた。
チェーンストアを導入する役割を果たした渥美俊
日経産業地域研究所が昨年実施した調査による
一氏(ペガサスクラブ主宰の流通コンサルタント)
と、大手スーパーやコンビニエンスストアで週1
が 20 世紀半ばに掲げた「日本の物価を 2 分の 1 に
回以上、食品を購入する消費者に PB の購入頻度
する」
という水準だった。
を聞くと「よく買う」(30.3%)、「ときどき買う」
国際的にみて「高い」と言われてきた日本の商品
(61.7%)が計 92.0%に上った。1年前に比べ購入が
やサービスの価格だが、バブル崩壊後のこの 20 年
「増えた」(17・5%)、「やや増えた」(42.5%)は計
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21
sense the atmosphere
60.0%。
「減った」はゼロで「やや減った」は 1.3%に
ディティー化したカテゴリーでは製品の差異化は
過ぎなかった。購入を増やした人に理由を聞くと、
難しくプレミアム感を消費者の心に浸透させづ
首位の
「商品分野・種類の拡大」
(72.3%)
、
3 位の
「品
らい。これは「量」を追求しなければならない NB
質・味の向上」
(47.1%)
が 2009 年調査より 10 ポイ
メーカーのジレンマのようなものだ。
ント以上上昇した。
「ナショナルブランド(NB)に
プレミアムブームは大手・有力企業の NB 商品
比べた割安感」
は 61.7%と高水準だが、トップだっ
やサービスが主要なプレーヤーであることは確か
た 2009 年調査より 17.2 ポイント低下した。割安
だが、中小や地場企業が担っている部分も無視で
感だけでなく品数拡大と品質向上が購入の動機と
きない。例えば食品分野。PB が幅を利かせ、NB
なっている。
の種類も少なくなれば、売り場に面白味がなくな
日常の生活必需品は機能や品質が同じならば安
り、品ぞろえに物足りなさを感じる消費者も増え
いものが選ばれるという「コモディティー化」の道
てくる。成城石井や北野エース、阪急オアシスと
は避けられない。大手スーパーの PB は市場創造
いった高質スーパーが元気なのは大手スーパーに
型の商品もなくはないが、基本的にはカテゴリー
比べると品ぞろえのバラエティーが広く、消費者
キャプテンである NB メーカーをベンチマークし
にとって選択肢が多く提供されているからだ。そ
たものが大半であり、粗利益率が高い PB を拡販
の品ぞろえは、製法や原料へのこだわり、安心・安
したい小売業にとっては陳列スペースの多くを
全、生産量限定などをうたった商品が多く、はや耳
PB に割こうとする。結果、NB 商品を置くスペー
のバイヤーが産地を訪ねて発掘したことをアピー
スが追いやられ、下位のメーカーの商品は棚から
ルしたものも目立つ。こうした商品は食が細く
はじかれ始めている。
なってきた高齢者や、ちょっとしたハレの日のご
最近、NB メーカーが「プレミアム」をうたった
ちそうにしたいという「メリハリ消費」の受け皿に
り、サービス企業が「ワンランク上」をアピールし
なっている。
たりするのが目立つのは、こうした PB などの拡
巨大なショッピングモールや複合商業施設の開
大に対する危機感があるのは確かだ。プレミアム
業が相次ぎ、インターネットの普及で買い物環境
ブームが 2008 年ごろから始まったのをみても、原
は大きく改善した。それによる日常における商品・
材料価格の高騰を受けて PB が勢いを増し始めた
サービスに対する消費者の充足感は高まる一方、
時期と軌を一にする。団塊の世代が退職時期を迎
商品・サービスの差異化はますます難しくなって
えようとしてきた時期でもあり、
大手・有力企業が
いる。価値と価格のバランスが取れているのは当
こぞって差異化の道具として「上質」や「非日常」
たり前であり、ニトリのキャッチフレーズではな
「こだわり」
「訳知り」といったイメージを競い合
いが、企業にとっては「お値段以上」の価値を提供
い始めた結果、
プレミアムブームが発生した。
し続けることが求められる大変な時代だ。
消費マインドもリーマン・ショックや政治の混
良い意味で顧客の期待を上回るようなプレミア
迷などもあって堅実さを強め、限定された中で
「幸
ム感を出していくためには製品・サービスだけで
福感」や「満足感」を得ようとしていた時代。
その
は不十分かもしれない。様々な分野でカスタマー
後のアベノミクスによる先行き期待もプレミアム
エクスペリエンス(顧客経験価値)の重要性が指摘
ブームを後押ししている。
されるように、店頭や接客などでの現場や CM な
しかし、プレミアム戦略は一筋縄にはいかない。
どのプロモーションにおける「顧客接点」をより重
最近のブームは「プチ贅沢」
「手に届く非日常」を
視する必要もあるだろう。
感じてもらう戦略が中心だが、その「さじ加減」が
成否のカギを握る。嗜好品の分野ではサントリー
の「プレミムモルツ」の成功があるとはいえ、コモ
22
MH March 2014
白鳥 和生 (しろとり かずお)
日本経済新聞社 編集局 調査部
FEATURE
空気を考える
そもそも戦略 PR とは、2009 年に刊行した拙
public relations
著にて「商品そのものにフォーカスした PR 活動
情報という空気の喚起も必要
戦略 PR
それは空気づくりである
ではなく、世の中の時流と商品をつなぐテーマを
開発。そこから話題提起し世論をつくりだす「空気
づくり」を行い、その盛り上がりを商品の販売に落
とし込む手法」と定義した。世の中の関心事や潮流
と、商品の便益を結びつけることで、より効果的効
率的なコミュニケーションを実現することが戦略
PR の狙いだ。
Interview 本田 哲也
空気づくりのポイント
空気づくりには大きく2つある。まず、プロダク
戦略 PR における空気づくり
トそのものにひもづいたり関連してできあがる空
日本において戦略 PR に対する関心が高まって
気、例えばハイボールのブームのようにある商品
きたのは、わずかここ数年のことである。
日本の広
カテゴリーが最近流行っているなというのを意
告業界やマーケティング業界では、単なるパブリ
識してつくり、一般の生活者も商品と空気のアソ
シティ活動という狭義の理解や広報という日本独
シエーション(つながり)が強く感じられるもので
自領域の認識など、PR に対して誤解も根強く、日
ある。もうひとつは、商品と直接つながらないやり
本という国自体がそもそも戦略的な PR 戦略に乏
方で、こちらの方がわりと多くの人がなるほどと
しく、本質的に理解しそれをダイナミックに導入
思う戦略に近い。分かりやすい例をあげると、ある
してきた企業はほぼ皆無にひとしい。戦略 PR 大
おむつメーカーの取り組みだ。従来よりもスリム
国である米国は、それを 100 年以上も前から体系
で吸収力を向上させた自信作の新商品の発売を控
的に実行してきており、現代の PR 市場は日本の
え、それをどう購買層であるママたちに伝えるか。
およそ 10 倍以上、世界の PR 会社トップ 10 のう
そこで注目したのが日本の赤ちゃんの睡眠環境が
ち 7 社は米国系企業である。国内重視広告主導と
いかに問題であるかということ。調査結果を発表
いう独自路線を歩んだ日本は、世界を相手に巨大
したところ、マスコミが取り上げ話題になり、おむ
な市場を形成してきた米国に大きく水をあけられ
つそのものの空気ではなく「赤ちゃんの睡眠が問
ている。
題」という空気がつくられていった。この時点で
JMA セミナーのご案内
CMO 研究プロジェクト」セミナーシリーズ
第一回 「マーケティング / デジタル / マネジメントの融合と求められる CMO 機能」
日 時 : 2014 年 4 月 25 日
(金)13:30 ~ 17:30 会 場 : 公益社団法人 日本マーケティング協会 アカデミーホール
〒 106-0032 東京都港区六本木 3-5-27 六本木山田ビル 9F
この
「CMO 研究プロジェクト」
では、
経営に直結するマーケティング活動全体を機能させるために、
CMO の機能をどのように構築、
育成させていくべきか、実際の企業の CMO や実務に携わる方々に
ご参加頂き、
セミナーを通して、
解き明かしていきます。
詳細は日本マーケティング協会 WEB http://www.jma2-jp.org/ をご覧ください。
MH March 2014
23
sense the atmosphere
は一切ブランドとはひもづいていない。だがその
があればあるほどそれが見えなくなり、特に日本
空気をつくった後おむつのプロモーションを「赤
の企業や開発者がそれに陥りやすいケースが多
ちゃんの睡眠を考えたおむつ」として打ち出して
い。良いものは売れる。それは真実でもあるのだ
いく時点で初めて商品とひもづき、結果的にそれ
が、いま非常に重要なのはトライアルの問題であ
が必要とされるような空気づくりをしたのであ
り、良いものだから売れるんだという自信とは、1
る。
回でも商品を手に取ってもらった時に初めて成立
よくインサイトという言葉が使われるが、おむ
するものである。物も情報も多い今の時代はこの
つの例で言えば機能がすごい吸収力がすごいとい
1 回がなかなか起こらない。この 1 回を起こすた
うことをメーカーや開発者としては言いたいとこ
めのコミュニケーションを考えること、パラダイ
ろだが、洞察すべきは購買層のお母さんが何を考
ムが変わってきているということに気付けるか気
えているのかである。潜在的に思っていたり関心
付けないかということが非常に重要なのである。
を持ちつつあることが何なのかを見つけ出し、そ
空気をつくる場合の注意点として、第 3 者発信、
れらの関心事のなかでさらに洞察を深めたうえで
主語が誰かということである。主語が開発した
どうつながっていくかがポイントとなる。
メーカーや「売れる売れない」という狭い利害で利
を取る人たちだけになってはだめで、どれだけた
商品の見え方を変える
くさんの多様な第三者発信視点を確保するか。さ
ここでもうひとつ、昔からある物のポジション
らにそれが同時多発であるという観点が大切に
を変えるということが重要なのだが、
「食洗機」の
なってくる。
事例をあげてみたい。実はもう 50 年も前から発売
されていた食洗機、2010 年における普及率は約
日々多くのご相談を受けるなかで、普段生活し
25%と低い水準だ。そもそも日本のキッチンは狭
ている人が触れている情報や知っていることと、
く置き場がないうえ価格が高いという認識が根強
本当の世の中にあることとのギャップがやはり大
い理由のひとつなのだが、いくら節水節電低価格
きいと実感する。これが知らなくてもいいことや
など性能をうたってもいまの消費者は動かない。
役に立たないものの集団であるならいいのだが、
そこでこの食洗機というものがどう見られている
良いものもある。要らない情報は世の中から出し
のか、ターゲットを DINKS の 20 ~ 30 代の夫婦
た方がいいが、それを押し出す唯一の方法は、「よ
とし、違う角度から光をあてた。
注目したのは「夫
り有益な情報」を入れてあげること。つまり空気の
婦仲や家族の幸せ」と「食洗機」の関係だ。
夫婦の関
入れ替え、情報の「換気」をしなければいけないの
心事は夫婦関係や夫婦喧嘩、調べてみるとけんか
である。
の原因は皿洗いなど家事であることが多く、夫婦
仲を保っていくための道具として食洗機はあると
いう空気づくりをはじめ、
「幸せ家電」として PR
を開始、
共感を得ながら需要拡大につながった。
空気づくりの成果は、商品が売れるというのも
あるが消費者の意識が変わっていくところに貢献
することで、以前からあるような商品のブランド
や見え方を違う文脈で世の中に問うていく。その
ためには広告だけではなく、戦略 PR で空気をつ
くる必要がある。 ただ皮肉なことに、一生懸命開発して思い入れ
24
MH March 2014
本田 哲也 (ほんだ てつや)
ブルーカレント・ジャパン株式会社 代表取締役社長 戦略 PR プランナー
米フライシュマン・ヒラード 上級副社長 兼 パートナー
セガを経て、1999 年、世界最大規模の PR 会社フライシュマン・ヒラード日本
法人に入社。
2006 年にブルーカレントを設立、代表に就任。国内外の大手メーカーを中心
に、
戦略 PR の実績多数。
G NEWS
MARKETIN
★ TOPICS
★
アメリカマーケティング協会(AMA)の機関誌マーケテ
業部を強化し、宣伝やコミュニケーションを促進するため
ィングニューズ誌の2013年12月号は巻頭記事でアメリカ
で、その後ブランドマネジメントをはじめとしていろいろなマ
の代表的なデパート、メイシーが健闘している状況をレポ
ーケティング職能が付加された。1990年代になりCMOと
ート。マーケティングのベーシックに関係する記事論文も多
呼ばれる職が誕生し、会社の成長に寄与する新製品開
数登場。いつものように筆者の独断と偏見で日本のマーケ
発に必要な顧客情報の取得など6種類の職務を課され
ターに関心のありそうな記事、論文を選んで紹介する。
た。最近になるとマーケティングの職能の一部がアウトソー
巻頭記事 アメリカのデパートの小売業に占めるシェア
スされることも起きだした。
IMDの学長は
“CMOは死んだ”
は過去10年間で半減。平均成長率も半減、
日本でもおな
と発言。CMOはCCO
(チーフ・カスタマー・オフィサー)と
じみのJCペニーやシアーズなどの大手デパートも青息吐
呼ばれるべきだと主張も登場。このような背景の中でコトラ
息で生き残りをかけてもがいている。
ー博士は上述の疑問を投げかけたのだが、マーケティン
シンシナティーに本拠を置くメイシーは2013年の前期だ
グセクションもCMOも必要だ。CMOはマーケティングの4
けでみると1.5%の売り上げ増をもたらした。メイシーが好
Pを統合する上で強い影響力を発揮するべきだと強調し
業績を上げ始めるに至った戦略はあれやこれやのメディ
ている。
アを多角的、多面的に駆使してオンライン志向の若年層
関心記事 アメリカのマーケターが注目しているヤング
の消費者をデパートに引き付けたことにある。若年層の買
層に1990年から2010年の間に生まれたZ世代と呼ばれ
い物客をターゲットにデジタル、
ソーシャルメディアを駆使す
る層がある。
この層は生まれながらにしてデジタル人間で、
るマーケティングを2012年には大々的に展開。これにより
1週間当たり3.
9時間オンラインでTVを見る。この層の3
若年層の買い物客との接点が生まれたが、その狙いは若
分の一の人がタブレットを普通に使用する。多種類のデジ
年層は重要な購買力を持つ顧客であり、一度顧客になれ
タルメディアの間を一時間に27回も行き来する。87%の人
ば生涯顧客としてとどまってくれる傾向があることに着目。
がTVを見ながらいろいろなことをする。この層の人たちは
若年層との良好な関係つくりに何が必要か調査、その結
ブランドが本物かどうかをすぐ見抜く手段を有している。こ
果ポップカルチャー、そのメディアは雑誌でフアッションが浮
のデジタル人間にマーケターはどう対応するのか。オンラ
上したという。若年層は雑誌を見捨てたわけではない。デ
インとオフラインを活用してシナジー効果を生むようなブラン
ジタルでみているのだと。メイシーでは多角的チャンネル
ド、
コンテントの開発、展開が必要なようだ。
担当経営者を任命。いろいろなメディアを利用する消費
注目の見出し 本号にはアメリカのマーケターが関心を
者に対応することとなった。消費者はどんどん変化してい
持っている問題を示唆する記事、論文が目を引く。紙面の
る。この変化に後れを取らない努力が重要だと述べてい
都合でその見出しだけでも紹介すると、①ロンドンとニュー
る。
“小売業者は自分の評判を所有せず、評判はソーシ
ヨークの両市が観光マーケティングで連携。②BtoBのマ
ャルメディア上で作り出され、ソーシャルメディアでのおしゃ
ーケティングでブログ活用を推進する方法。③男性向け
べりをリードする必要がある”
というコメントも登場。2012年
化粧品のマーケティンでブランド認知を高めるための新型
メイシーのオンラインによる売り上げは31億ドル、総売上高
アプローチ。④デジタル時代の消費者は流動的。⑤消費
の11%だった。
者は本当にブランドと深い愛情関係にあるのか? ⑥本号
注目記事 かの著名なコトラー教授がペンシルバニア
には商品及びサービス関連のマーケティング企業のディレ
大学のDレイブスタイン教授が
“マーケティングセクション
クトリーが付録としてついている。
は本当に必要なのか”
と疑問を呈している。マーケティング
セクション誕生の歴史はつい最近、P&G社やGE社が営
(大坪 檀 静岡産業大学総合研究所教授・所長)
MH March 2014
25
サーベイサンプリングジャパン(SSI ジャパン)は、
国内外のインターネット調査、電話調査を
より効率よくスピーディーに実現する
大手グローバルカンパニーです。
サーベイサンプリングジャパン合同会社
── サーベイサンプリングジャパン合同会社
(以下、SSI ジャパン)が、2013 年 12 月に当協会に入会
されました。
まだご存知ない企業様もたくさんいらっしゃいますので、このたび、ご紹介をさせていただき
ます。
Interview クリス・ファニング氏 サーベイサンプリングインターナショナル(SSI)代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)
小松﨑サトシ氏 サーベイサンプリングジャパン合同会社 代表取締役社長
JMA サーベイサンプリングジャパンという会社
SSI は世界 18 ヵ国に 25 のオフィスがあり、グ
はどのような会社ですか?
ローバル全体のスタッフ数は約 3,300 名です。弊社
クリス・ファニング 弊社は米国コネチカット州
も日本のお客様とのビジネスを大変重要視してお
シェルトンに本社を構えるサーベイサンプリング
り、弊社の重要な拠点と位置づけております。その
インターナショナル(SSI)の日本法人で、2007 年
ため、日本オフィスには営業、リサーチャー、プロ
に設立しました。SSI 本体は 1977 年に米国で設
グラマー、プロジェクトマネージャーなどを含め、
立されました。
合計 18 名が働いており、業界としては国内最大規
当時は米国内最大級の電話調査事業を手掛け、
模です。
その後、インターネットの急速な普及に伴い、イン
今日、弊社は常に IT 技術を駆使し、モバイルパ
ターネット調査事業に参入しました。それ以降は
ネルの構築や品質を担保するための技術開発やナ
インターネット調査の調査パネル(被験者グルー
レッジの蓄積にも力を入れております。それらを
プ)事業をグローバルに成長させる戦略をとり、
通じて、世界中のお客様に最適な調査対象者によ
市場を米国に加え、欧州、中南米、アジアへと拡げ、
る回答結果をタイムリーにお届けし、お客様のビ
ビジネスを急拡大させていきました。
現在、弊社は
ジネスのサポートをさせていただいております。
86 カ国において約 1,050 万人の調査対象者と繋
がっており、世界のインターネット調査サービス
JMA SSI ジャパンはどのようなサービスを提供
を提供するグローバル企業で、最大手の一角とし
していますか?
て、世界各国の 3,000 以上ものお客さまと取り引き
小松﨑サトシ 日本オフィスの主なサービス内容
させていただいております。
また、弊社はパネルを
は以下のとおりです。
保有するのみならず、オンライン調査、モバイル調
・調査設計
査、電話調査、面接調査、郵送調査と様々な調査手
・調査票作成およびアドバイス
法に対応しております。
・プログラミング&ホスティング
・インターネット調査の実査
(PC やモバイル機
③現地ネットワーク
器を通じた実査)
SSI は自社オフィスがある場合のみならず、多
・電話調査の実査
(主に英語圏)
くの提携会社とパートナーシップを結びデータ連
・集計
携およびビジネスを行っている関係上、現地と緊
・分析・レポーティング
密な関係を構築できております。そのため、現地の
最近では調査会社様のみならず、メーカー様や
ネットワークを駆使し、現地の情報収集に日々努
コンサルティング会社、シンクタンクの皆様から
めております。
もご依頼を受けることが多く、調査票についての
④日本語で対応可能なプログラマーが常駐
アドバイスやレポートまでご提供するケースもご
日本語で対応できるプログラマーが日本に常駐
ざいます。弊社では事業会社やグローバル調査会
しており、突発的な画面の修正依頼など、日本語で
社を経験したスタッフも続々と入社しており、そ
お客様にタイムリーに対応することが可能です。
のようなニーズにお応えできるようサービス改善
に日々努めております。
JMA 2014 年の経営戦略や力を入れてゆく製品
やサービス、重点エリアはございますか?
JMA SSI ジャパンの強みはどのようなところで
クリス・ファニング いくつかございます。
しょうか?
①タブレットやスマホでの調査能力も拡充中
小松﨑サトシ 弊社の強みは主に以下の点です。
弊社は皆様のビジネスの成長の一助となればと
① 86 カ国 / 地域という規模でインターネット調
思い、常にお仕事をさせていただいております。そ
査が可能
のため、最新の IT 技術を用いて、新しいサービス
弊社は現地パートナーと緊密に ID 連携をさせ
を積極的に導入しております。最近ではタブレッ
ていただいており、データの重複なくかつスムー
ト や ス マ ホ で の 調 査 能 力 の 拡 充 で す。iPhone,
ズに 86 カ国 / 地域での調査を可能にしておりま
iPad, Android のタブレットやスマホの 4 つのプ
す。(図1参照)
ラットフォーム全てに対応したモバイルパネルの
弊社が独自に所有するパネルの国と地域は 34
調査アプリ QuickThoughts™ をご用意いたしま
になります。(図2参照。図2内の最大アクセス数
した。
とは、1 カ月に平均して対象者にアクセスできる
最大数という意味です)
②業界随一の信頼性の高い調査サンプルを提供
弊社は常に IT 技術への投資を積極的に行っ
ており、デジタル指紋認証システム等、数十もの
チェック項目を用意し、粗悪なサンプルデータを
排除する仕組みを独自に構築しております。また、
弊社はパートナーシップを結ぶ現地パネルも活用
しておりますが、ID 連携により事前にデータを
整合させており、データのダブりなどは事前に防
ぐことができ、お客様に安心してご利用いただい
ております。
{
図 1 86 カ国 / 地域での調査が可能
オンライン
調査対応
可能国
アイスランド
アイルランド
アメリカ合衆国
アラブ首長国連邦
アルジェリア
アルゼンチン
イギリス
イスラエル
イタリア
インドネシア
インド
ウクライナ
エクアドル
エジプト
エストニア
エルサルバドル
オーストラリア
オーストリア
オマーン
オランダ
ガーナ
カザフスタン
カタール
カナダ
韓国
キプロス
ギリシャ
グアテマラ
クウェート
クロアチア
ケニア
コスタリカ
コロンビア
サウジアラビア
シンガポール
スイス
スウェーデン
スペイン
スロバキア
スロベニア
セルビア
タイ
台湾
チェコ
中国
チリ
デンマーク
ドイツ
ドミニカ
トルコ
ナイジェリア
日本
ニュージーランド
ノルウェー
バーレーン
パキスタン
パナマ
ハンガリー
バングラディッシュ
フィリピン
フィンランド
プエルトリコ
ブラジル
フランス
ブルガリア
ベトナム
ベネズエラ
ベラルーシ
ペルー
ベルギー
ポーランド
ボリビア
ポルトガル
香港
マルタ
マレーシア
南アフリカ
メキシコ
モロッコ
ラトビア
リトアニア
ルーマニア
ルクセンブルク
レバノン
ロシア
ヨルダン
=SSIサンプルがカバーする領域
図 2 SSI が独自に所有する 34 のパネルの国と地域
国名
パネル
最大アクセス数
アジアパシフィック
国名
パネル
最大アクセス数
南北アメリカ
国名
パネル
最大アクセス数
ヨーロッパ
オーストラリア
229,852
アルゼンチン
162,252
アイルランド
中国
981,348
ブラジル
383,733
イタリア
202,488
香港
106,834
カナダ
295,983
オランダ
231,768
インド
237,561
メキシコ
158,219
ノルウェー
42,139
日本
217,074
アメリカ合衆国
4,282,440
ポーランド
120,682
韓国
136,358
マレーシア
68,043
ポルトガル
ヨーロッパ
オーストリア
25,731
10,598
74,043
ロシア
326,121
スペイン
209,678
ニュージーランド
153,298
ベルギー
177,452
シンガポール
106,012
デンマーク
61,541
スウェーデン
95,510
台湾
134,210
フィンランド
31,604
スイス
40,640
タイ
76,782
フランス
400,311
トルコ
ドイツ
218,045
イギリス
97,879
470,355
調査対象者はこのアプリをタッチすればす
クリス・ファニング このたび、御協会に入会で
ぐに調査に参加することができます。米国では
きましたこと大変嬉しく思っております。日本に
Top25 のアプリにランキングされました。
時々参りますので、皆様にお目に掛かれるのを楽
現在、日本および他の 16 の国々で既に導入済み
しみにしております。
で、米国では既に 10 万人規模で利用が可能であ
小松﨑サトシ 今後はサービスの質・量をともに
り、他の国々でもパネル規模の拡充を行っており
さらに充実していく所存です。今後とも SSI およ
ます。
び SSI ジャパンをよろしくお願いいたします。
日本、中国、韓国、オーストラリア、英国、フラン
ス、ドイツ、イタリア、スペイン、オランダ、ベル
ギー、スイス、オーストリア、ノルウェー、スウェー
デン、
カナダ、
ブラジルの各国です。
タブレットはインターネット調査とも非常に相
性が良く、常に家の PC からということではなく、
いつでもどこでも空いた時間に回答していただけ
クリス・ファニング
サーベイサンプリングインター
ナショナル(SSI)
代表取締役社長兼最高経営責任者
(CEO)
るのが最大のメリットです。
長年 IT 業界で経営幹部として戦略立案・実行に
スマートフォンユーザーも取り込む場合は調査
携わる。ボストン・コンサルティング・グループで
票を小さな画面に合うように最適化しなければな
は 6 年間、IT 業界のみならず様々な業界に携わ
りませんが、弊社はこの点ももちろん対応いたし
る。前職では Lattice Semiconductor 社の CEO を
ております。
務 め、2012 年 よ り 現 職。Worcester Polytechnic
②日本を含むアジアンパネルの拡充
Institute にてコンピューターサイエンス修士、シ
弊社の調査パネルは協力率が高く、高品質を
カゴ大学大学院 MBA 修了。
保っておりますが、弊社は各国におけるパネル規
模の拡大を目指すため、独自のシステム開発を行
い、現在では各国のパネル各社とサンプルの重複
を一切なくすための ID 連携による独自の協力
体制を敷いております。この成功が近年の各国に
おけるパネル規模の拡大にも寄与しております。
小松﨑サトシ
サーベイサンプリングジャパン
合同会社
代表取締役社長
2014 年は日本を含めたアジア諸国において、パネ
ルの更なる拡充を目指します。
日本貿易振興機構(JETRO)で勤務後、マーケティ
③プログラマーやプロジェクトマネージャーの拡充
ングリサーチ業界へ。日本の調査会社および大手
プログラマーやプロジェクトマネージャーなど
グローバル調査会社にてリサーチ経験を積み、現
人材への投資を 2013 年も行ってまいりましたが、
職。米国タンパ大学大学院 MBA 修了。
ビジネスの拡大に伴い、弊社のサービスを引き続
き、維持、向上できるように今年も継続してゆく予
定です。
【お問い合わせ先】
サーベイサンプリングジャパン合同会社
代表取締役社長 小松﨑サトシ
〒 104-0033 東京都中央区新川 1-8-5 KK ビル 3F
会社代表:03-3552-1761
E-mail:satoshi.komatsuzaki@surveysampling.com
URL:www.surveysampling.com
MARKETING
EYES
女性マーケター
の眼
熱い想い
いるかもしれない杉下右京
荒瀬景子
伊東 仁
GMOリサーチ㈱
最近ふと気になって購入した化粧品がある。なぜ気
になったのか。友人の口コミと商品の効能を伝えるキャ
ッチーコピーに引かれたのが、最初のきっかけである。
テレビ朝日
“杉下右京”
は、いそうでいない。
ドラマ「相棒」で水谷豊さん演じる刑事である。
出していきたい。
僕が小さいころ見ていたドラマは刑事モノであれ、恋
愛モノであれ、現実離れした憧れの対象が多かった。そ
の時代はそれでよかったが、今はそうではなく
「どこかに
いるかも」と思えるほうがより身近でわかりやすい。かと
いって右京が視聴者に寄り添っているかというとそうで
もない。慇懃無礼でイヤな人物である。そんな人はいな
いだろうと思いつつ、それでも手の届きそうなところにい
ると思えるのはなぜだろう。
“リアリティ”
とはちょっと違った
“いるかも”
現象。
右京が実際にいたら上司にはしたくないが、事件解
決という点では非常に頼もしい。おまけに組織の腐敗ま
で暴いてくれる。かといって彼はスーパーマンではない。
丹念に事件現場や人を観察し、解決へと結びつける。
その間には右京ならではのロジカルな推理があり、誰も
が謎解きをできるようにはしていない。
そもそも杉下右京は
“変人”
という設定である。最近
では名推理の部分が際立っているが、よく考えたら元々
右京は変人ではないのかもしれない。
誰もが普段疑問に感じている社会のしがらみにも入
り込み、やり玉に挙げる。今シーズン第5話の就活話
では全員がリクルートスーツということに右京なりの疑問
を投げかけていた。右京が代弁することにより、そこに
はちょっとした爽快感が生まれる。かといって説教臭くも
ない。右京だからこそ許される。正義を貫き、権力や組
織の反対があっても押し通す。協調性や情はない。そ
れが右京で、だからこそ変人呼ばわりされるのだろう。
ここまで視聴者のみなさんに育ててもらえたのは、杉
下右京という人物がどこかにいてほしいと思ってもらえた
からではないだろうか。「いるかも」と思うのは「いてほし
い」という願望なのかもと都合よく考えてしまう。
いずれにせよそれが異例のロングシリーズを牽引して
くれたことは間違いない。感謝の一言に尽きる。
あらせ・けいこ
GMOリサーチ株式会社
JMI事業本部 クライアントサービス第2部
シニアコンサルタント
いとう・ひとし
97年テレビ朝日入社
編成制作局 制作2部
「相棒」プロデューサー
ただ、その時点で購入するとは思っていなかった。
数日後、
“購入”
ボタンをクリックすることになるのだが、
そうさせたのは創業者の商品開発への「熱い想い」で
あった。創業者自身に肌の悩みがあり、その悩みを解
決するため肌への
“実感”
をとことん追求した結果、よう
やく完成した製品であることが分かった。彼女のメッセ
ージからは、開発には一切妥協せず、相当の時間と労
力をかけてきた事も伝わってきた。
創業者のこの想いに感動して商品を購入した女性
が多いのか(?)、販売数もうなぎのぼりのこの会社。ま
すますこの会社と創業者に魅了され、この会社につい
て調べてみた。
創業者の一言が心に突き刺さった。
「商品開発にマ
ーケティングは必要ない」
「マーケティングの結果から特
定のセグメントに対してうける製品を作りたいのではない」
「消したい悩みにアプローチできる、作る必要性がある
ものだけが商品化の資格を有する」とのこと。
マーケティングリサーチャーの仕事には、ターゲティン
グ、セグメンテーションは欠かせない。比較、分析をして
いくのが仕事だからだ。日常的にどっぷりと漬かってい
る世界観の根底をくつがえされた様で、衝撃を受けた。
と同時に、一生活者としての視点を常に忘れてはいけ
ないということを再認識させられた。なぜなら、それが最
終的に消費者に支持される商品であるからだ。インサイ
ト発掘においても「生活者からみた視点」
「そこから得
られる気持ち」を理解することにつきる。これからも、一
生活者としての感性/視点を忘れることなく、
クライアン
トやその先にいる消費者満足につながるアウトプットを
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クリエーター
の眼
MH March 2014
BOOKS
Editor's
Choice
Professor's
Choice
『空気の研究』
山本七平 著、文春文庫
『日本の消費者はなぜタフなのか』
三浦俊彦 著、有斐閣
1977年初版で既に、33刷を数える、神田山本書店
店主であり、
「日本人とユダヤ人」を書いたイザヤベンダ
サンはペンネームであると言われている山本七平氏の著
作である。
日本人(特に明治以降の日本人)の特質と不合理性を
鋭く指摘した名著であると言える。
組織を率いるリーダー、
また世論を作り出すジャーナリスト、
トレンドを作り出すマーケッターにとっての欠くべからざる
書として、今なお光り続ける書である。3部構成となって
おり、
「空気の研究」
「 水=通常性の研究」
「日本的根
本主義
(ファンダメンタリズム)
」
の3部構成となっている。
この著作に一貫して流れるのは、日本人の特質を踏まえ
ながら、
「空気という型の無い臨在感的な存在感」によ
って意思決定を行う危うさというものである。一例として、
第二次世界大戦末期の戦艦大和の沖縄特攻出撃を始
めとして様々な事例が著されている。
様々な分析から、全く成功の確率が無い中での、出撃の
決定が「会議の中の空気、時代の空気」の中でなされ、
3000名強の尊い人命が失われた事。また、様々な企
業の不祥事の中での「カバイ合いの中での責任の所在
の不明確化と責任のスリ替え」
。「公害問題における原
因の本質のスリ替えによる世論のミスリード」
1945年以前の「天皇皇后両陛下の御真影」に対する
崇拝等である。そして、空気というものの呪縛から逃れ、
本質を鋭く把握する手段の一つとして「水」の存在を述
べている。
一般的に言い方をすれば「水を差す」
ということである。
一つの神輿の上に乗るのは大変気持ちが良いものであ
る。
しかし、神輿が向かう方向が果たして正しい方向なのか?
常に、複数の対立概念軸を持つ中で、冷静に考える事
の必要性を教えてくれる名著である。
(株式会社明治 中島 聡)
本書は、日本の消費者の特性を国際比較と歴史分
析という2つの視覚から解き明かした労作である。冒
頭で「日本の消費者はタフ
(満足させるのが大変)
であ
る」ことを示すいくつかの事例と「日本の消費者はイー
ジー(簡単に満足させられる)である」ことを示す事例
が並べられ、果たしてどちらなのかと問いかけられるとこ
ろから、一気に読者は本書の世界に引き込まれる。そ
こからは夢中でページをめくっていくうちに、終わりまで
を一息に読まされてしまう。
第Ⅰ部の結論を要約すると、
(1)日本の消費者は①
選択肢の多様性、②選択基準の厳しさ、③選択結果
の集団的変動性、という3つのタフな特性をもってい
ること、および(2)それらをもたらしているのは、日本の
消費者の①規範意識の弱さ
(コンテクストの重視)
、
②清浄志向と他者評価の重視、甘え志向、③感情型
属性志向という3つの要因である、ということである。
第Ⅰ部では、このような日本の消費者の特徴が国際比
較を通じて明らかにされた上で、特に第4章では、その
ような特徴をもたらしている文化的起源について、縄
文時代まで遡って議論が展開される。そこでは、本地
垂迹説や延喜式から初音ミクまで、あるいはヘレニズ
ム的自然観からローマクラブまで、古今東西のあらゆ
る関連研究が縦横無尽に検討され、日本の消費者の
特徴が明らかにされていく。このあたりの議論の幅広
さ、柔軟さが本書の真骨頂である。
第Ⅱ部では、現代の日本の消費者の特徴として、①
情報非対称性の低下、②消費の二極化、③ユビキタ
ス消費、④Unsatisfactionという4つの特性がとりあ
げられ、続けて第Ⅲ部では、このような特徴をもつ日本
の消費者へのマーケティング対応方法が提示される。
筆者自身も述べるように、第Ⅱ部で提示される現代的
特徴は、日本の消費者のみに当てはまるものではな
い。しかし本書では、あくまでも第Ⅰ部の議論を踏まえ
た上で、その延長線上でこれらを考察する。またすべ
ての章において、定量データの分析を通じて主張の
妥当性が検証されている点も、本書の価値を増してい
る。
本書は、グローバルな事業展開が不可欠となった
今日において、日本の消費者・市場の特性を理解す
るための必読書として、長く読まれ続ける名著となるで
あろう。また構想から10年の歳月を費やして、このよう
な大著をまとめあげた著者の幅広い学識と大きな努力
に心から敬意を表する。
(東北大学大学院 経済学研究科 教授 澁谷 覚)
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31
広告掲載会社
「マーケティングホライズン」編集委員
GMOリサーチ㈱ 表4
表2
㈱日経BP ㈱日経BP 表3
9
㈱インテージ
13
㈱電通
17
㈱朝日広告社 サーベイサンプリングジャパン合同会社 26
編集委員長
片平秀貴丸の内ブランドフォーラム
編集委員(五十音順)
子安大輔㈱カゲン
松風里栄子㈱博報堂コンサルティング
ツノダフミコ㈱ウエーブプラネット
中島聡㈱明治
中塚千恵東京ガス㈱
本荘修二本荘事務所
見山謙一郎立教大学大学院ビジネスデザイン研究科
吉田けえな㈱RBK
吉田就彦㈱ヒットコンテンツ研究所
編集後記
今回は様々なマーケ
変えて「マイナス」と捉えない心の余裕、ユーモア
ティングの空気に関し
を解する高い精神性、まだまだ学ぶことは沢山あ
て取り上げた。
ろうが、着実に、成熟社会への対応の空気は醸成さ
そうした中において、
れているようである。大いに語り、夢を語り、共感
現代の私達が考えなけ
を分かち合うことで新しい空気が生まれるであろ
ればならない事は、世間
う。
では、
「失われた 20 年」
今回の号が発刊される時はまさに、様々なス
と自虐的に言うバブル
前後からの時の推移が決して「失われた無為の時」
テージでのフレッシャーズが羽ばたきを始める時
ではなかったという事ではなかろうか。若い世代
であろうし、何よりも、一定の固定概念に縛られて
の消費税に対する折り合いをつけたしなやかな冷
いないことが必要である。コンパッションと言う
静な反応、リーダーに求められる空気などは最た
言葉は「共感」と訳されるが、本来は、共に苦しみ悩
ることと言えよう。
また、外食産業の空気の中にお
み分かち合うという事のようである。
いては、価値の本質を、多層的に捉える世代が増加
新たな空気を作り出すには、本音で語り合い、共
していることも窺えた。
に苦楽を共にする事から始める必要があろう。そ
「自虐」ではなく、これからの将来に明るい希望
のことから、自己の身の丈を図り、立ち位置が明ら
が持てると言ってよいであろう。なんとなく自信
かになるのであろう。成熟社会とは、そのような社
を無くしたようにも思はれる現代、果たして本当
会なのかもしれない。
に自信を無くす状況なのか。
「マイナス」を視点を
である。新たな空気を作るには、新たな考えが必要
(中島 聡)
マーケティングホライズン 3号/ NO.668
2014年4月1日発行©
発行者:都丸幸弘 発行所:公益社団法人日本マーケティング協会 〒106 -0032東京都港区六本木3 -5 -27六本木YAMADAビル 9 F
TEL.03 -5575 -2101 FAX.03 -5575 -0626 http://www.jma-jp.org
定価:1部200円(送料別)
(購読料は会員費に含まれています) 印刷所:大日本印刷㈱
表紙ロゴ/柳沢光二 表紙デザイン・本文編集/松熊慎一郎
無断複写・転載を禁ず。
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