第5章 スポーツ外傷・スポーツ障害を防ぐために p25~32 (PDF517.0KB )

第5章
Ⅰ
スポーツ外傷・スポーツ障害を防ぐために
スポーツ外傷(けが)の予防
「スポーツにけがはつきもの」とよくいわれます。残念ながら、スポーツにおいてけが
を完全に予防することは困難です。
スポーツによるけがの大部分は軽いものですが、軽いけがでもスポーツを行う上で大
きな影響があります。したがって、できるだけけがを少なくするために、予防対策が必
要です。からだと心の準備次第で、予防できるけがも多いのです。
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スポーツ外傷(けが)を防ぐために
(1)けがが一番多く発生しやすい季節は、種々の統計によると、春と秋に集中して
います。春はまだ充分からだができていない、秋は夏の疲れがたまっているなど
の原因によるものといわれています。特に春先には新人が入ってきますので、年
間や月間のスケジュール作成にあたっては、季節の影響を十分考慮する必要があ
ります。
(2)スポーツを種目別にみると、格闘技や接触プレーの多い種目は当然けがの発生率が
高くなるので、発育過程にある子どもたちの体格・体力・能力に応じた指導をするこ
とが大切です。同年齢だからといって、同じ条件で練習させないよう、十分注意して
下さい。
(3)練習中気がゆるんでいるとけがが発生しやすいので、指導者の的確な指示・練習態
度など指導の徹底を図ることも大切です。
(4)1日の練習のやり過ぎが、けがの一番の原因になっています。心とからだに疲労が
たまると、からだのコントロールができなくなったり、集中力不足から、思わぬ衝突
や転倒が起こります。練習の間には適度の休息時間を設け、過労を避けるようにしな
ければなりません。
(5)運動不足の子どもは、運動をするために必要な筋肉の力、瞬発力、敏しょう性と
いった基礎体力や運動能力が育っていません。したがって、急に運動を始めるとけが
をしやすいので気をつけましょう。けがを予防するには、何よりも普段の「からだづ
くり」が大切です。
(6)体力や能力に応じた練習を行いましょう。
(7)十分な睡眠をとり、体調よく、充実した気力でスポーツをしましょう。
(8)運動開始前にからだを十分に温め、筋肉を柔らかくしておくためにストレッチング
などのウォーミングアップを十分に行いましょう。
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(9)スポーツマンシップを大切に、常に競技のルールを守ってプレイしましょう。
(10)気温、湿度と汗のかき具合を見ながら練習量を加減しましょう。
(11)運動器具の整備、グランドの表面や体育館の床などに問題がないか、細心の注意で
点検を行っておくことも大切です。
(12)各種スポーツに必要な用具・防具を点検し、正しく使いましょう。
(13)スポーツに合った靴の使用、自分の足によく合った靴を使用することが大切です。
(14)行うスポーツ種目に合った、適当なスポーツウエアーを着用しましょう。
Ⅱ
スポーツ障害の予防
子どもたちにとって、適度な運動・スポーツ活動は、「心身ともにたくましく・明るく・
思いやりのある人間」に成長していく上で、欠くことができないものです。しかし、やり
方によっては、運動器(骨・関節・筋肉・靭帯・腱など)の障害を起こしてしまうことも
少なくありませんので十分な注意が必要です。
1
子どもの運動器の障害発生の背後
(1) 子どもの心とからだに関する知識不足
(2) 非科学的なスポーツ活動の実施
(3) 勝敗への強いこだわり
(4) 保護者による、指導者・子どもへの背後の圧力などが深くかかわっています。
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スポーツ障害の要因
①個体の要因 ②方法の要因 ③環境の要因 ④指導・管理の要因の 4 つの要因が複
合的に関与して発生すると考えられています。したがって、運動器のスポーツ障害予防
のためには、個々の発生要因を軽減する努力・工夫を継続的に行うとともに、要因に対
して迅速・適切な具体的対応を行うことが必要です。
3
スポーツ障害を防ぐために
(1)十分な休息をとり入れた、年間を通しての綿密な練習計画を立てることが大切です。
冬の間のオフ・シーズン、春先のシーズン初期、夏の暑い時期、秋に入っての疲労が
蓄積される時期、それぞれに応じた練習が、スポーツ障害の防止にとって必要です。
(2)スポーツ医科学を取り入れた合理的な練習方法(科学的トレーニング)を心がける
ことが大切です。
筋力の不足、特定の筋群における筋力のアンバランスはスポーツ障害をもたらします。
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トレーニングは基礎体力の養成と技術練習を並行して行わせ、基礎体力トレーニング
の中では、筋力強化に重点を置くことも必要です。
スポーツ障害の発生要因
Ⅰ
Ⅱ
身体的要因
内的要因
(武藤、1991)
個々の要因(例)
Ⅲ
個体の要因
性
疾病・障害の有無、既往
年齢
疲労度
体格
栄養状態
身体組成(筋量・脂肪量)
関節可動域
体力(筋力、屈筋・伸筋の筋力比) 柔軟性
下肢骨格の不整配列など
心理的要因
不安
性格
緊張
競争心
など
興奮
質の要因
方法の要因
量の要因
外的要因
自然環境
環境の要因
人工環境
スポーツの種類
スポーツのレベル
スポーツの強度
スポーツの時間
スポーツの頻度
季節
気候
1日の内の時間
用具・設備
服装
シューズ
防具
天候(気温・湿度・風など)
高度
など
周辺環境
スポーツ・サーフェイス
など
(3)スポーツの正しい技術の習得と、正しい技術で行うために必要な筋力の強化や筋力
バランスづくり・筋肉の柔軟性の獲得が重要です。
(4)発育期の子どもには、特定のスポーツのみをさせるのではなく、いろいろなスポー
ツを行わせることが大切です。
(5)子どもの発育段階、体力、技術レベルに応じた練習量と練習内容を十分考えて行う
ことが、スポーツ障害の予防に必要なことです。
小学生のスポーツ外傷・障害発生率と練習時間の関係
◎
どの程度・どのような内容の練習をするのが
よいのでしょうか。
●
過去の外傷・障害
小学生: 週3日以内 1 回2時間以内
○
現在の外傷・障害
低学年: そのスポーツの要素をとり入れた遊
び子どものレベルの技術でできる、そ
のスポーツの本物に近い形でのゲーム
高学年: 基礎的な技術や戦術はその要素をと
り出して練習し、さまざまな動きの基
本を身につけさせる
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中学生: 週5日以内 1 回2時間程度
何を狙いとして、どこに気をつけて練習すればいいのか、結果をどうフィードバック
して次の練習をすればいいのかを十分に知って練習をします。
競技力の向上は長時間の練習にあるのではなく、科学的な考えにもとづいた技術を高
めるための“練習”と体力を高めるための“トレーニング”にあるということです。
小・中学生時代には、いろいろなスポーツを楽しくやらせて多くの筋肉や関節を動か
し、いろいろなスポーツ技術を習得することが、将来の競技力向上のために大切です。
少なくとも、小学生に疲労が残るまで練習をさせることは避けなければなりません。
練習やトレーニングの効果をあげるためには、疲れたら休養をとるという繰り返しが大
切なのです。
どんなに練習をしても、必ず勝てるとは限りません。
スポーツ障害を起こさせないことが、最終的には「試合に勝つ」近道です。
(6)選手個人のその時、その時のコンディション(体調)に応じて、練習の内容、程度
を変えるような指導者の配慮が必要です。
(7)発育期の子どもたちは、筋力の発育がアンバランス(不均等)なことが多いのです。
また、骨の長径成長を司る骨端線(成長軟骨)が残っているため、この部位に損傷を
きたすことがあります。したがって、一ヶ所のみに強く負担のかかる練習はやり過ぎ
ないように十分注意すべきです。
(8)スポーツ障害前駆症状(痛み・押して痛い部分はないか)
のチェックを毎日行いましょう。
(9)運動器(筋・腱・靭帯など)のコンディションの点検
ウォーミングアップやストレッチングを行う中で本人の感覚で判断します。
競技に必要な動作を軽く行ってみて、痛みや不安があるようなら、練習を止める勇気
が必要です。また、テーピングで補強するか、不安のない動作だけに留めるなど運動
内容の修正が必要です。
(10)障害を完全に治してからスポーツを再開することが大切です。
スポーツ障害の完全な治ゆを待たずに再びスポーツを始めると、けががけがを呼び、
症状の悪化、あるいは別の部位に、しかもより重症な障害を起こす可能性もあります。
(11)ウォーミングアップを十分に行って、前もって運動に関連する諸機能(心肺機能、
筋肉機能)を高めて準備しておくことがスポーツ障害の予防になります。
(12)練習前後だけでなく、練習のない日でも毎日ストレッチングを行うことが必要です。
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(13)練習後、そのスポーツで一番使った部位や痛みを感じる部位は、必ず氷で冷やす
(アイシング)ことが大切です。
(14)競技特有のフォームが適切かのチェックを日頃より行い、正しいフォームを身につ
けさせましょう。
(15)シューズ・スパイクやラケットなどは各自で点検できる
ように指導することが大切です。
(16)定期的な専門医の検診が必要です。
①
メディカルチェック
整形外科的メディカルチェックにより、運動器(骨・関節・筋肉・靭帯・腱など)
の状態を医学的に検査してスポーツ障害の危険因子を探ります。
②
体力測定
形態計測、身体組成、有酸素パワー、無酸素パワーなどを測定します。
これにより、各人の体力特性を知り、競技力の向上とともに、スポーツ障害の予防
を図ることができます。
(17)指導者とスポーツ医の連携
選手が運動中・運動後、からだのある部位にスポーツにともなう痛みを訴えること
があれば、スポーツ障害の初期症状であると考えて、早い時期に専門医を受診するこ
とが大切です。
この症状を無視してスポーツを続けることは、将来取り返しのつかないことになる
可能性が高いことを理解しておくべきです。発育期のスポーツ障害は主に関節を中心
に発生します。スポーツ障害の予防は、子どもが痛みなどのからだの不調を素直に訴
えやすい環境づくりと、訴えがあった時に真面目にこれを受けとめる指導者の態度に
かかっています。
(18)スポーツを指導する時には、以下のような知識が必要になります。
①
スポーツのルールや必要な技術などスポーツそのものに関する知識
②
スポーツをする環境に対する知識
③
子どもの心とからだの発達に関する知識
④
スポーツによるけがや障害の知識
⑤
子どもの個性に合った練習方法に関する知識
子どもたちが、これからもスポーツを楽しんでいけるように、指導者は勉強し、けがや
障害を未然に防げるよう気を配ってあげることが大切です。
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これからの未来を背負う子どもたちを、スポーツを通じて“たくましく・明るく・思い
やりのある人間”に育てていくために、からだを動かすことは“楽しい・嬉しい・おもし
ろい”ということを体験させることが大切です。
スポーツ障害を予防し、楽しいスポーツ活動を行うための「理想的なスポーツ指導」は、
目先の試合の成績や結果にとらわれず、子どもの長い人生のなかで「今、子どもの将来の
ために何をしておかなければならないのか」という視点に立ってスポーツ指導をすること
です。
“余裕のある・心豊かな指導者”の出現が望まれます。
Ⅲ
環境(運動場・体育館)による予防
スポーツ活動に適した環境整備により、スポーツ障害を防ぐことの一助にもなります。
日ごろから施設の安全管理意識を持つことと、定期的な施設・用具等の点検活動を実施す
ることが必要不可欠です。
施設面での安全管理は次の事項に配慮します
配
慮
事
項
体 育 館
・ 床面の確認(清潔ですべらない)
・ 周囲の危険物を排除
・ 照明・通風・喚起の確保
・ 付属設備の点検
・ 危険物(石・金属片・ガラス等)等の排除
運 動 場
・ 雨あがりの排水の配慮
・ 砂場・ラインロープ等の設置場所の配慮
・ 活動種目の使用区分を明確化
・ 移動式器具の転倒防止策
固定
・ 毎月の定期検査と年数回の厳密な検査
施設
・ 動く施設・設備の周囲の安全策
用具
・ 破損・欠損の確認
・ 利用しやすい収納や保管場所の工夫
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Ⅳ
1
ウォーミングアップとクーリングダウン
ウォーミングアップ
スポーツの練習を始める前には、ウォーミングアップが必要です。
ウォーミングアップは、主運動の前に運動で使う部位を含めてからだ全体を温め、運動
しやすい状態に準備することです。
(1)ウォーミングアップが不足すると、けがや障害を招きます。
ただなんとなく行うのではなく、これから始める練習の準備という意識をもって、真
剣に取り組むことが大切です。
(2)ラジオ体操と柔軟体操、軽いランニング程度でよいでしょう。
(3) ウォーミングアップをしている時には、痛みのあるところや硬いところなどがわか
り、からだの状態をチェックすることにもなります。
(4)ウォーミングアップのあとに、腰、太もも、ひざ、ふくらはぎなど特に痛めやすい
部分は、ストレッチングを行って筋肉をよく伸ばしておきます。
(5)ストレッチングは、筋肉を柔らかくリラックスさせる効果があります。からだの動
きをなめらかにし、関節などにも負担がかかりにくくなって、けがや障害が起こりに
くくなります。また、ジャンプ力や瞬発力などの運動能力もアップさせてくれます。
気持ちよく筋肉を伸ばすことで、精神的にもリラックスできます。決して無理せず、
気持ちのいい程度で筋肉を伸ばしながら、からだの健康状態をチェックするようにし
ましょう。
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2
ストレッチングを行う時の10のポイント
(1)まず、からだも気持ちもリラックスしてから行います。
(2)反動をつけず、ゆるやかにゆっくりと筋肉を伸ばします。
(3)緊張感は感じるが、痛みを感じない程度に筋肉を伸ばします。気持ちのいいところ
まで伸ばしたら、からだの硬い子どもは15~30秒、柔らかい子どもは30~60
秒伸ばし続けます。
(4)まず楽なストレッチングを30秒間行い、さらに少し強めのストレッチングを30
秒間行います。一度に伸ばすよりもよく伸ばせます。
(5)ストレッチをしている時には、呼吸は止めずにゆっくりと続けます。
(6)けがを防ぐのが目的ですので、他人とからだの柔らかさを競っても意味がありませ
ん。自分のペースで行いましょう。
(7)毎日行うことが大切です。
1日に2回行うと効果がアップします。
(8)まず全身の主要な筋肉をストレッチし、次にそのスポーツ
種目でよく使い、痛んだ筋肉を重点的にストレッチします。
(9)ストレッチする筋肉を常に意識して行いましょう。
(10)ストレッチングには種類がたくさんあります。簡単なものから、むずかしいものへ
と段階的に行います。
3 クーリングダウン
スポーツ活動後に、体温、心拍数、呼吸を日常レベルまで下げるために行う運動で、
スポーツ障害予防のためには、ウォーミングアップよりも重要であるとも言われていま
す。典型的なクーリングダウンは、軽いジョギングとウォーキングで、心拍数が安静時
の 20 拍増しのレベルに減るまで、あるいは呼吸が安静時の状態に戻るまでとされてい
ます。その後、ストレッチングをして手入れを行うというのが通常です。
運動後のストレッチングは疲労した部位の疲労の程度を確認でき、また筋肉の強い張
り等を軽くします。
クーリングダウンは、運動後の筋肉痛などの障害発生を予防するとともに、競技によ
る精神的ストレスを減らし、筋肉の緊張を柔らげる効果がありますので、必ず行うよう
にしましょう。
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