2014年11月 第53号 - ヨーロッパ日本語教師会

公益社団法人ヨーロッパ日本語教師会
Newsletter
Association of Japanese Language Teachers in Europe e.V. (AJE)
第 53 号
2014 年 11 月
いつまでも夏の暑さが続いたスペインでも 11 月の声とともに、にわかに秋めいてまいりました。北ヨーロッパでは既に秋も深まっているのではない
でしょうか。53 号は夏のスロベニアのリュブリャナで European Association for Japanese Studies 国際学会の一分科会として開催されたシンポジウム
の報告を中心にお届けします。日本研究者日本語教師がリュブリャナに一堂に集まったあの熱気を、まぶしい夏の日々を、研鑽の収穫を持ち帰
ったあの頃を思い起こしてみてはいかがでしょうか。
dannwa
第18回 日本語教育国際シンポジウム リュブリャナにて EAJS 国際学会の一分科会を終えて
ヨーロッパ日本語教師会会長
岩﨑典子(いわさき のりこ)
加者が各150席の2講堂を賑わし、日頃の成果を共有する機会とな
った。テーマに添う複言語主義、翻訳など仲介者のとしての言語使
今年のヨーロッパ日本語教育シンポジウムは、2011年にならい、
用にかかわる発表のほか、演劇・寸劇を使った活動、ウェブサイト
3年に一度開催されるヨーロッパ日本研究協会(EAJS: European
やソーシャルネットワーキングなどを取り入れた日本語教育や、ウェ
Association for Japanese Studies)の国際大会の分科会として、スロベ
ブデータベースの辞書やハンドブックなども紹介された。大会開催
ニアのリュブリャナにて開催された。テーマは、「日本語教育におけ
前日のリュブリャナ大学との合同のフォーラムでも李在鎬准教授(筑
る言語と文化の仲介」で、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR:
波大学)が遠隔日本語教育についての講演で、筑波大学で開発さ
Common European Framework of Reference for Languages)で欧州評議
れたウェブ教材をご紹介くださった。ウェブを最大限に活かした新し
会が提唱する重要な理念である「複文化主義」や「複言語主義」と直
い形の日本語教育について知るために多くの方々が集い、シンポ
結するものであった。
ジウム前にも関わらず、立ち見席で参加する人もいるほどの大盛況
基調講演も西山教行教授(京都大学)に「複言語主義に見る言語
となった。
教育の目的」というタイトルでお話しいただいた。言語教育の目的と
今回のEAJS国際大会には計900名にものぼる日本研究関係の
は一体何なのかという、日本語のみならず言語教育者すべてにとっ
専門家が集ったということだが、中でもヨーロッパ日本語教育シンポ
ての原点ともいうべき点について意識させてくださり、学習者のニー
ジウムを開催したセクション10は発表数も参加者数も多く、最大規
ズに答えるべく行う教育を越え、市民性や相互理解などの人間養成
模であった。2011年に続き、古典、舞台芸能、文化人類学、メディア
のための言語教育としての日本語教育を考えるよい機会となった。
学、経済学、歴史、宗教学、思想史などの分科会と肩を並べ、日本
ご講演のスライドは、AJEのウェブサイトからご覧いただける。
語教育の分科会としてシンポジウムを行うことで、日本語教育関係
さらに、特別講演にはドイツを基点に多言語での演技をされる劇
者が日本研究の専門家の発表を聞いたり、相互交流したりする機
団らせん舘の演出家の嶋田三朗氏をお迎えした。嶋田氏は、『日常
会でもあり、ヨーロッパにおいて日本語教育推進活動がいかに活発
から演劇へ、演劇から日常へ―近松門左衛門の浄瑠璃、秋浜悟史
かということを日本研究の研究者の皆さんにも知っていただく機会と
作「風に咲く」の関西弁、多和田葉子作「サンチョ・パンサ」の現代日
もなったことだろう。
本語・ドイツ語・スペイン語の演劇を演出して』という題目で、多様な
国際交流基金の助成により、このような盛りだくさんの企画が実
言語の作品を演出する醍醐味について、俳優の市川ケイ氏ととりの
現した。また、EAJS事務局の方々やリュブリャナ大学の方々を中心
かな氏の実演を交えてお話しくださった。様々な言語で演じる市川
とした実行委員会の方々は、ポスター発表のための準備など他の
ケイ氏ととりのかな氏の迫力ある演技に階段教室が大きな舞台に
セクションとはニーズの異なる数々の要望に答え、様々な配慮をし
なったかのようだった。
てくださった。国際交流基金、EAJS事務局、実行委員会の多くの
特別パネル「翻訳学と言語教育―複数のことばたち」では、佐藤
方々のご支援やご協力があってこそ、リュブリャナという美しい街で
=ロスベアグ・ナナ講師(英国イーストアングリア大学)、田辺希久子
大きな成果を収めることができた。心から感謝の意を表したい。
教授(神戸女学院大学)、Jeffrey Angles准教授(ウェスタンミシガン大
シンポジウムの報告書・論集は2015年(4月頃)にAJEのウェブサ
学)のお話を伺った。複数の言語の表現を比べ、翻訳するということ
イトで一般公開することを予定している。ぜひ多くの方々にご利用い
を通して言語の豊かさや、言語に内包されている文化・社会的要素
ただきたい。
が見えてくる非常に興味深いお話であった。
また、120以上の応募のあった中からパネル4本、口頭発表33本、
ポスター発表30本が採択され、計16カ国からの発表者と、多くの参
1
シンポジウム写真ギャラリー 「あの時、あの瞬間」
語学教育が非常に秘術的にとらえられ、機会的に行われるケースも
8月27日から30日 リュブリャナ大学にて
少なくない。無論、日本語教育でも同じことが言える。ただし質のい
い日本研究は言うまでもなく、日本語なしにはあり得ない。と同時に
質のいい日本語教育も、日本研究の様々な分野からのインスピレー
ションなしにはあり得ない。日本研究と日本語教育が分かれているこ
と自体が非常に不自然に思える。
いずれにせよ、この数年来、AJE の日本語教育国際シンポジウム
が EAJS の分科会で行われるようになったことが、しかるべき方向で
あると思われる。
リュブリャナの EAJS 国際大会も例外ではない。日本研究における
様々な分野との接点を意識した発表、例えば、日本文学の要素を日
本語教育に取り入れる試みをテーマとした発表、日本語教師が活動
基盤として必要とする複言語・複文化主義を取り扱った発表などから
みても、日本語教育は決して孤立した専門分野ではないことが当事
者の間では常識になりつつあると言える。
とは言っても、日本語研究との関わりがもっとも密接であることは
言うまでもない。例えば日本語学のセクションで行われた様々な日
本語研究の興味深い発表が、日本語教育との深い関連性がゆえに、
セクション 10 で取り上げられることができた。
日本語研究と日本語教育の機能的な融合を図って、ローカルオー
ガナイザーの思惑で本会議のセクション以外でも、最近の日本語の
研究の動向をヨーロッパでも実感してもらうために、幾つかのサテラ
イトイベントを企画した。例えば 8 月 27 日の午前中にリュブリャナ大
学本部の大会議室で行われた『「リュブリャナ大学特別招待講演』に
おいて、最近の日本語における実証的研究の様々なアプローチを
紹介することができた。
また文章・談話研究を代表して早稲田大学の佐久間まゆみ教授が
「日本語の文段・話段の展開的構造」という講演で、長年の研究成
果を紹介された。また会話分析という枠組で長年研究を続けてきた
ミネソタ大学のポリー・ザトラウスキー(Polly Szatrowski) 教授が「Why is
discourse/conversation analysis crucial for understanding the meanings of
Japanese taste adjectives and the use of modality/ evidentiality forms?」と
いう講演で会話における語彙項目の意味(具体的には味覚を表す
形容詞)と文脈との関わりの重要性を指摘した。特別招待講演を締
めくくったのはこの数年来一気に広がり始めたコーパス研究の日本
第 14 回 EAJS 国際大会の
日本語教育
語学習辞書作りへの応用の一例を紹介した、筑波大学の砂川有里
子教授による「コーパスを活用した日本語学習辞書の可能性」という
リュブリャナ大学
講演である。
アンドレイ ベケシュ(Andrej BEKEŠ )
さらに、EAJS 国際大会の前夜祭として、『コミュニケーションと文法
におけるキャラ』という、神戸大の定延利之教授が提唱した談話・コミ
リュブリャナ大学文学部で行われた第 14 回 EAJS 国際大会はさる
ュニケーションを考察するために導入された「キャラ」という概念を中
8 月 30 日に無事に終わった。登録者が 900 人をこえて、史上参加
心としたワークショップが行われた。定延教授の他に友定賢治(元・
者がもっとも大きい EAJS 国際大会となった。その分科会の一つとし
県立広島大学教授)、金田純平(国立民族学博物館研究員)の三人
て、第 18 回 日本語教育国際シンポジウムが、セクション 10 として、
の参加者が「キャラ」の概念を紹介し、それがコミュニケーションや
開催された。あいにく、筆者は、専門が日本語学・日本語教育にも関
言語の考察にどのように役立つのかを、具体的な例を挙げながら
わらず、現地オーガナイザーとして、自分の発表以外は殆ど出席で
分かりやすく説明された。筆者から見て、バハティンなどの考え方と
きなかったのである。
も共通するところがあって、日本語教育の分野でも注目された試み
AJE の日本語教育国際シンポジウムを 3 年おきに EAJS 国際大会
である。
と一緒に主催する意義は大きい。欧州では依然として、人文科学研
日本語教育と関わる興味深いイベントはさらにあった。同じく 8 月
究に於いて語学教育が技術的な分野として軽視される傾向がある。
27 日の午後、「AJE−リュブリャナ大学共催「グローバルな日本語教
2
育のために」の一環として、筑波大学の李在鎬 准教授を招いて特別
本拠点では,以下の 3 本の柱による事業を展開している。
招待講演「遠隔日本語教育」で、筑波大学の最近の遠隔日本語教
1. 自立型 e ラーニングによる共同利用コンテンツの作成と配信
育の成果と課題を紹介していただいた。
2. Web による日本語プレースメントテストの配信
さて、最後であるが、日本語教育と日本研究との関連性とも密接に
3. 自律学習を促進する辞書やコーパスなどのデータベースの構築と
関わっている、くろしお出版から出版されている砂川有里子・他(編)
配信
の「日本研究シリーズ」という斬新な企画も紹介しなければならない。
1として,最新のWeb技術を導入した日本語教材,「筑波日本語e
発端は 1998 年〜2008 年の間、リュブリャナ大学の日本研究を専攻
ラーニング (http://e-nihongo.tsukuba.ac.jp/)」を開発しており,2014年4
とする学部 3、4 年生を対象に客員教授数名が日本語で行った授業
月に一般公開した。本教材は,3つのセクションによって構成されて
である。学生が日本について、早い段階から日本語で学ぶことを試
いる。一つ目は,積み上げ方式で日本語を学習する教材「学ぶ」,
みたこれらの授業の一連の経験から、上述のシリーズの発想が生
二つ目は,参加者間の交流を通して作文力をつける教材「書く」,三
まれたのである。現在は高橋武智著の「日本思想におけるユートピ
つ目は,ウェブ空間上で会話チャットができる教材「話す」である。本
ア」と平野共余子著の「日本の映画史 -10 のテーマ」が既に出版さ
拠点のeラーニングは双方向型の教材として設計されている点で,
れている。同シリーズは 8 月 29 日のワークショップで、編集に携わ
他のeラーニングとは異なっている。多くのeラーニングの場合,画面
った砂川有里子教授などが、その趣旨、そしてその目指そうとしてい
上に流れてくるコンテンツを見ながら,受動的に学習するタイプが多
るところを説明された。
いが,「筑波日本語eラーニング」は,Flashなどのinteractiveなコンテン
今まで開催された中で最大の規模となった EAJS 国際大会を改め
ツを豊富に使用しており,サーバと交信しながら双方向的に学習を
て振り返ると、主催者側のエピソードなどもたくさんあるが、限られた
進めることができるからである。また,SNSの仕組みを取り入れ,ユ
紙面上、これでこの報告を締めくくらせていただくことにする。
ーザ同士が音声や文章を使って交流できる仕組みも実装している。
本教材は,日本語を「学ぶ場」としてはもちろんのことであるが,「使
う場」としての機能も持っている。
2.として,項目応答理論を取り入れたコンピュータ日本語能力テ
特別招待講演「遠隔日本語教育」
ス ト で あ る 「 J-CAT(Japanese Computerized Adaptive Test,
http://www.j-cat.org/)」を配信している(無料で利用可能)。そして,筑
AJE-リュブリャナ大学共催「グローバルな日本語教育のために」
筑波大学
波大学が長年にわたり開発・運用してきた「TTBJ(Tsukuba Test
李在鎬(り じぇほ)
Battery of Japanese, http://ttbj.jpn.org/)」を配信しており,ユーザの用
途に応じたテストの選択ができる。J-CATは,聴解,語彙,文法,読
解の4つのセクションで構成され,汎用的な日本語能力を測定する
筑波大学留学生センターは,2010年9月に文部科学省が創設し
た「教育関係共同利用拠点
用途に適している。TTBJは複数のテストセットによって構成されてお
(http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigakukan/1292089.htm)」の認
り,目的によって選択的に受験できる。日本語の運用力を短時間で
定を受けた。拠点名は「日本語・日本事情遠隔教育拠点」であり,認
評価したい場合は「SPOT」,漢字力を評価したい場合は「漢字
定の有効期限は2010年4月1日から2020年3月31日である。本センタ
SPOT」,漢字力を診断的に評価したい場合は「漢字診断テスト」,文
ーが拠点として認定された背景には,『Situational Functional
法能力を評価したい場合は「文法90」が適している。
Japanese』, 『Basic Kanji Book』などのような先駆的日本語教材および
3.としてマルチメディア素材を使用した日本語辞書「Japanese
それに付随したCALL教材を開発してきたこと,ウェブ基盤言語テス
Learner's Dictionary(http://dictionary.j-cat.org/)」や11億語の大規模コ
トとして「J-CAT(Japanese Computerized Adaptive Test)」, 「TTBJ
ーパスである「筑波ウェブコーパス(http://corpus.tsukuba.ac.jp/)」,さ
(Tsukuba Test Battery of Japanese)」などの運用ができることなどの実
ら に は 筑 波 大 が 開 発 し た 日 本 語 教 材 「 Situational Functional
績が評価されたからである。それに加え,日本の高等教育機関が
Japanese」に準拠した「場面・機能別日本語会話練習データベース
置かれている次のような状況も関係している。文部科学省が策定し
(http://sfj.intersc.tsukuba.ac.jp/)」を公開しており,多様なニーズに対
た「留学生30万人計画」の下,日本の高等教育機関は,留学生数を
応した教育コンテンツを提供している。
増やすことに組織として取り組んでいるところも多い。その一方で,
本拠点事業では,すべてのコンテンツを無償で提供することとウェ
留学生の日本語教育を担当するセクションでは,日本語学習の動
ブを通じた柔軟な配信環境を作ることを目指しており,いわゆる<日
機や目標が多様化している中,教育内容をどう標準化するかという
本語を勉強したいが,日本語クラスに来ることができない学生>にも
問題や留学生数の増加に伴う教員の管理負担増加の問題など,容
日本語学習の機会を提供するものである。さらに,教師の介入を最
易に解決できない課題に直面している。これらの課題に対して,文
小限にし,自律学習を促進することにより,日本語教育の可能性を
部科学省は拠点校にまとまった予算を配分することで集約化を図る
広げることも重要であると考えている。
今後の展開としては,上述の3本の柱を維持しつつ,コンテンツ
と同時に,拠点校の教育設備や教育コンテンツを他機関と共同利
用することを促す制度を創設したのである。これを受け,本拠点とし
の共同利用の促進を図っていく。具体的には日本語教材のコンテン
ては,各大学がそれぞれ行ってきた日本語教育の遠隔教育を効果
ツを継続的に制作していくこと,スムーズなデータ配信を行うための
的に行うための共同体制の整備をはかると同時に,eラーニングに
設備の維持・監視と管理を行うこと,PC以外のデバイスにも対応さ
よる自律学習の導入で課題解決を図ることを目指している。
せていくことなどを予定している。そして,本拠点で作成したコンテン
3
ツを学習者のところに確実に届けるべく,広報活動を展開すると同
プとも関連し、言語イデオロギーを意識させるので、翻訳が中立では
時に,ユーザからのフィードバックに基づき,教材やテストの改善を
ありえないことの良い例になる。これを日本語学習に応用すれば、
図っていく予定である。本パネル発表では、「翻訳」という営みがど
日本語独特の役割語に触れるというだけでなく、翻訳における言語
れだけ豊かなものを内包しているのか、それがどのように複言語主
変種の扱いをとおして複言語への感度を高める効果もあるだろう。
義と関連していけるのか、そして、言語教育に貢献しうるのかという
次に「アルプスの少女ハイジ」だが、日本の大学生はほぼ全員がア
ことを考えていきたい。
ニメをとおしてこの作品を知っている。翻訳家ごとに細かな違いがみ
られるほか、絵本やアニメなどのアダプテーションでは大胆な作り変
えが行われ、本質的メッセージさえ変化する。日本語学習者から見
招待パネル
ても、言葉の勉強を超えて、異文化接触がもたらすダイナミックな相
互作用について知ってもらえると思う。
翻訳学と日本語教育-複数の言葉たち
発表の末尾で紹介した翻訳学習者のアンケートによれば、学習者
神戸女子学院大学
にとって大切なのは「日本語」と「調べる」こと。つまり翻訳は自らの文
田辺希久子(たなべ きくこ)
化・言語を見つめると同時に、異文化であれ自文化であれ、探ったり
発見したりする契機になることがわかる。前号で西山教行先生は、
日本で翻訳というと学校翻訳、つまり文法修得のための逐語訳と
「異言語との邂逅の中で味わう他者性こそが言語学習の根幹を構築する
いうイメージが強い。いわゆる文法訳読法(GTM)である。学習者が
ものであり、自分とは何であるか、何でないのかを発見させる契機となる」
原書を読んで順に訳し、教師が間違いを直す GTM は、幕末の洋学
と書かれていたが、まったく同じことは翻訳教育にも言えるのである。
の勉強法がそうであり、ヨーロッパでは古くからラテン語の学習に使
◆ 参 考 文 献 : Surge, Kate. “Cultural Translaiton” in Routledge
われた。ヨーロッパでは 19 世紀末から衰退したが、日本ではコミュニ
encyclopedia of translation studies, 2nd ed. (ed) M. Baker & G. Saldanha.
ケーション志向の英語が台頭する 1970 年代まで中高の英語教育の
London: Routledge. 2009
主流であり、受験英語は今も GTM を引き継いでいる。このため日本
で「翻訳」というと GTM の逐語訳を連想する人が多く、大学での翻訳
学習はそうした思い込みを脱却してもらうところから始まる。
パネルディスカッション
市民性形成をめざす言語教育とは何か
本パネルのまとめ役・佐藤=ロスベアグ・ナナ氏の発表にあったよ
うに、トランスレーション・スタディーズ(TS)では翻訳を広い意味でと
らえる。翻訳とは国と国、民族と民族といった統一体間の言語転移
早稲田大学・言語文化教育研究所八ヶ岳アカデメイア
に限らず、人の移動などをともなって互いに混ざり合う相互混成のプ
細川英雄 (ほそかわ ひでお)
ロセスでもある。そうなると、もはや「原文」も「訳文」もなく、翻訳はそ
れを越える「第三の空間」に位置する(Surge 2011)。翻訳に言語的側
「市民性形成」は、きわめて重要な教育概念であるにもかかわらず、
面があることも確かだが、現代の TS では広い捉え方が常識であり、
これまで言語教育の分野ではほとんど議論されてこなかった。本パ
今回のパネルでは既存の概念を覆す実例を示し、ひいては教育に
ネルディスカッションでは、この「市民性形成をめざす言語教育」の課
およぼす影響を紹介することを目指した。
題について、いくつかの観点からのアプローチを行った。まず、細川
パネルでは実例として、佐藤=ロスベアグ氏から知里真志保による
より、市民性形成をめざす教育は、地球上の、さまざまな人々ととも
アイヌ語から日本語への翻訳、アングルス・ジェフリー氏から大森武
に生きていくための社会構築をめざした、ことばによる基盤的な活動
男や詩人の伊藤比呂美による Dr. Seuss の絵本の翻訳が紹介され
の場の形成だとする理論的枠組みについて説明を行い、たとえば、
た。前者は翻訳の根底によこたわる文化的差異を、後者は時代状
個人一人ひとりが、自分の興味・関心から問題意識へという方向性
況やフェミニズム翻訳者の主体的介入をとおし、翻訳が単なる言語
を持ち、ことばによる活動を軸に、他者を受け止め、テーマのある議
的転移でありえないことを示した。聴衆の中には「それで翻訳と言え
論を展開できるような場こそが、市民性形成をめざすものだという提
るのか」と思われた方もあったようだが、上記の説明を踏まえて頂け
案を行った。
れば私たちの意図がわかっていただけるかと思う。
これを受けて、マリオッティは、「自己表現と他者理解のための言
私・田辺がご紹介したのは、大学生に思い込みを脱却してもらうよ
語文化活動:イタリアにおける日本語教育をケーススタディとして」と
うデザインした教材で、ひとつは「役割語」、もうひとつは「アルプスの
いう題で、イタリアでの活動の実際を紹介し、この活動がステレオタ
少女ハイジ」である。「役割語」とは特定の人物像(年齢・性別・職業
イプの見直しや自己アイデンティティの課題と深くかかわっていること
など)を想起させる特定の言葉遣いのことである。例えば博士であれ
を指摘し、チャンは、「学習者の活動プロセスをどう評価するか:対話
ば「~じゃ」、お嬢様であれば「失礼してよくって」など、実在しないに
による推敲プロセスを通して」という題で、自己表現としての活動と対
もかかわらず、強烈に話者を同定させる独特の言葉づかいを指す。
話による協働の重要性、そしてその活動自体の評価としての意味に
学生は役割語に無自覚なので、小説やドラマだけでなく、翻訳の過
ついて具体例を挙げて説明した。
程で役割語が付与されること、自分自身も役割語を使って訳してい
市民性形成をめざす言語教育の特徴としては、コミュニケーション
たりすることを知って驚愕する。役割語は黒人の語りを東北弁、中国
能力育成を当面の目的としないこと、充実した言語活動を行う行為
人やアメリカ原住民の語りを独特なピジンで訳すなど、ステレオタイ
主体 acteur となること、それはすなわち、ことばの活動によって市民
4
的態度を持つにつながることになること、そして、そのことはまた、母
育、地理教育とナショナリズムです。現在でも日本は歴史と地理を通
語話者・非母語話者という区別を超える―ホリスティックな統合的学
して文化的アイデンティティを強調しています。国語の概念は一つの
習/教育活動へと連続している。
言語、一つの歴史、一つの民族など、唯一と統一を強調しながら、多
こうした発表に関して、さまざまな質問がなされたが、その中の
様性を無視、排除しています。学校では日本語が教えられる一方、
代表的なものは、「初級でできますか」/「決められた固い制度のな
沖縄の言葉、アイヌ語などは一切教えられません。
かでどのようにしたらいいですか」の二つに集約することができる。こ
このような状況においては外国語教育の役割は非常に大切になり
こでの問題点は、活動型アプローチが、理念を問う活動であるにも
ます。外国語教育を通じて多様性、他者性、異質性を認めることを、
かかわらず、方法の問題として理解されがちだという点である。
教えられるからです。
この背景には、効率的な言語取得あるいは教授法の存在への強
西山先生の講演の中で大きな問題として挙げられたのは言語教
い依存があるように思われる。
育の目的でした。この目的はマクロレベル (国、県のレベル)、メソレ
言語教育と市民性教育に関する、数少ない先行研究のなかで、
ベル (どんな人間を育てるか)、ミクロレベル (教育の中身)、ナノレベ
M.Byram (2008)は、市民性教育とはインターカルチャー(相互文化性)
ル (生徒の二―ズ)で考えることができます。
教育であると主張する。個人から地球規模までの諸文脈における、
しかし、教育の本当の目的は学習者のニーズや要望に応えること
複数のアイデンティティを含有する、他者との相互関係性そのものが
でしょうか。欧州では 19 世紀から言語教育はサービス業になりまし
インターカルチャーであり、ならば、このような市民性をめざした言語
た。知識は道具になりました。しかし教育の価値はマクロレベルでも
教育のためには、そうした理念が現行の教育評価および教師養成・
考えなければなりません。
研修の制度とどのようにかかわるのだろうか。この実践研究こそ言
その意味での一つの例として CEFR があります。これは欧州全体
語教育が今、全力を挙げて取り組むべき課題だろう。
で相互理解と豊かさを尊重し、欧州会議 (European Council) によって
◆参考文献:Byram, M.S. (2008). From Foreign Language Education to
整備された文化を背景にできたものです。
Education for Intercultural Citizenship. Multilingual Matters.
欧州での教育の目的は三つに分かれます- 実用目的(意見交換)、
異文化理解目的 (差別を除く)、社会政策的目的 (お互いの豊かさを
意識する)。 欧州の現実である多言語にも意味が三つあります。そ
れは多言語状態、多言語主義、多言語教育です。三つ目の多言語
基調講演 「複言語主義に見る
言語教育の目的」を伺って
教育は言語教育と深い関係にあり経済面、教育面、政治面というそ
れぞれの側面を持っています。
ブカレスト大学
CEFR の分かりにくい点の一つは多言語と複言語の違いです。複
アンカ フォクシェネアヌ (Anca FOCSENEANU)
言語主義 (plurilingualism) はフランスで作成された概念で「多」では
なく、「複」を強調しています。複数言語教育も、複数言語主義も欧州
今回のシンポジウムでは京都大学の西山教行教授に『複言語主
で生まれたものです。その背景には欧州が一つの国家、民族、言語
義に見る言語教育の目的』と題して基調講演をしていただきました。
から成り立っていないからです。もちろん欧州語もありません。だか
このテーマはまず CEFR と JFS において最も大事な問題と考えるの
らこそ複言語は欧州の市民を形成していくというわけです。
で非常に興味深く拝聴し、また西山先生の分かりやすい構成と魅力
言語学習は言語そのものを習うだけでなく、学習自体について習
のある説明のし方に非常に感動させられました。この基調講演は日
うものです。そこで多元的アプローチが必要となります。それには言
本語教育の観点からでなく、言語教育全体の観点から考えられたも
語への目覚めによって活動力を活発にし、隣接言語との総合理解を
ので、われわれ日本語教師にとっては新鮮な切り口、ヒントなど多く
深め、統合型言語教育と異文化間教育を発展させるということが考
の示唆を与えてくれました。また世界の言語教育に大きな影響を与
えられます。
えた言語が数多く存在する欧州での言語教育の発展と概念は日本
最後に日本語教育は欧州におけるこの言語教育の過程から何を
語教育にも様々な示唆、貢献ができると述べられました。
得られるかという点について述べられました。日本語教育が異文化
西山先生の講演は欧州で生まれた言語教育の定義と歴史的な背
間教育に役立つことができるか、という議論は非常に興味深かった
景から始まりました。現在の外国語教育における主なキーワード -
です。日本語教育はただサービス業になるのではなく、日本語が他
多言語、多様性、複言語主義、相互理解- などを次々と出され、分
の言語と比較され、関連づけられようになるためには、多くはわれわ
かり易く説明されました。日本における言語教育の例もあり、国民国
れ教師の意識と努力によるものだと改めて認識させられました。
家を支える「母語」の教育と多様性を尊重する「外国語」教育を比べ
ながら進められました。
第 14 回 EAJS 国際大会に参加して
て
国民国家における言語教育というのはまず国民にある一つの言
語 (母語) を教えることに基づいています。現在母語の文字は学校
東京女子大学
が始まる前、幼稚園で教えられています。多言語が使われる国でも、
田中美保子 (たなか みほこ)
その多言語の中から一つは母語として選ばれます。これは支配者
の言語であり、学校で教えられる言語となります。
2013 年末、佐藤=ロスベアグ・ナナ先生が翻訳研究の ML にこの
国民国家における言語教育と深い関係を持っているのは歴史教
学会のことを配信されて以来、参加を楽しみにしてきた。Translation
5
劇団らせん舘
特別招待講演 感想
Studies(以下 TS)の国際大会が珍しいこととともに、日本語教育の文
脈で TS を考えることにも関心を抱いたからだ。開催地のスロベニア
も魅力だった。現代文学の方も覗いてみたところ、発表方法、発表者
の雰囲気などが日本語教育と対照的で、このことも興味深かった。
『日常から演劇へ、演劇から日常へ―近松門左衛門の浄瑠璃、秋
両者の違いを敢えて言葉にすると、日本語という「言葉」を研究する
浜悟史作「風に咲く」の関西弁、多和田葉子作「サンチョ・パンサ」の
点では共通しているのに、文学研究ではあくまでもテクストの文脈や
現代日本語・ドイツ語・スペイン語の演劇を演出して』 嶋田三朗(劇
テーマとからめた分析となるのに対し、日本語教育では個々の事象
団らせん舘)を伺って
や事例に基づく分析が中心となる。また、文学の方にそこはかとなく
感想文 1
漂う情緒性に対し日本語教育の方に漂うさっぱり感という違いもある
気がする。(ただし、こう感じたのは、日ごろ私が抱いている偏見ゆえ
PRIEUR 北井千鶴(きたい ちづる)
かもしれない。)それはともかく、総じて、「初めて」をいくつも体験でき
8 月 29 日朝。会場に足を運ぶとそこはいつものセッションとは違う
たのは、とりわけありがたかった。 AJE、EAJS どちらの会員でもな
様子。教壇の辺りには物干しを思い起こさせるようなヒモが張られ、
い私が今回寄稿することになったのは、たまたま隣に座った NL 編
教卓の上には何やら遊具がいろいろ置かれている。この光景に、な
集担当の方に、領域を横断してプログラムにマークしているのを見ら
ぜか喜多村信節の随筆『喜遊笑覧』を断片的に彷彿させられた。
れてしまったためだ。非会員ならではの気楽な感想でよいからという
日本にいなくても日本の言葉と文化を合わせて学ぶことのできる学
言葉に、つい安請け負いしてしまった。以下、門外漢の恐いもの知ら
習環境作り、そして学習者が言語を媒介として異文化理解できるよう
ずの雑感でおゆるしいただきたい。
になるための学習プロセス作りをモットーに、日々、日本語教育に従
まず、私の「初めて」尽くしは主催地リュブリャナの地理の確認と
事しているが、文化伝達のために生け花や茶の湯のデモンストレー
地名の綴りを覚えることから始まった。(今では宙で言えるようになっ
ションにも大いに携わっている。時にはアトリエでの体験学習を通し
た! 飛行機や宿の手配をしている内に自然に習得したらしい。)次
て実際に異文化に触れてもらい、学習者が相互理解能力を高めつ
の「初めて」は、海外で「日本語が公用語」の場に居合わせたことだ。
つ、言語の習得もできるよう取り組んでいる。視覚・聴覚上の効果を
建物のあちこちで、参加者 700 名の折り目正しい流暢な日本語が飛
伴う演劇は総合芸術であり、言語習得に大きな役割を果たしている。
び交っていて日本にいるような気がするのだが、話者の顔を見ると
例えば日本語の授業で寸劇は不可欠要素となっている。ゼスチュア
青い眼や金髪だったり。西洋人と見ると無意識に英語で話しかけて
ほど感情や意志を伝えられる便利なものはない。寸劇のおかげで各
達者な日本語の返答に戸惑う私―時代錯誤の島国根性をつくづく
国の文化の相違を発見することもある。演劇を媒介に文化について
恥じた。もう一つの「初めて」は、今回の AJE のテーマ「複言語主義」
の認識を深めながら、同時に言語学習のために必要な五感を研磨
という視点だ。基調講演・招待パネルでも触れられていたが、これは
することもできるのだ。
TS を考える上でも非常に大切な視点であることを知った。常々、「翻
今回のシンポジウムのプログラムを見た時から、一番関心あるも
訳」という行為は、自ら培ってきた母語を振り返り複数の言語文化を
のの一つであったこの特別公演は、期待通りの内容だった。時間が
体験的に考える機会を与えると考えてきた。必ずしもプロの翻訳者
あっと言う間に過ぎるなか、気が付いたら自分が劇の登場人物と一
を目指しているわけではない学習者たちにとって、技術習得以上に
体化して歌を口ずさんでいた。1 時間半の間に社会万般を見た気分
たいせつなのは、言語の特性の異同や言語文化・風物・世界観の違
になった。勿論文化も言語もそこにあった。だから『喜遊笑覧』という
いにより生じる「翻訳不可能性」を思い知ることにより、自らの中にあ
訳だ、と納得した次第である。劇団らせん舘に魅了された私は、また
るあらゆる思い込みを剥ぐことにある、と。前述のように、私自身が
いつの日かフランスで公演される際には是非演劇に参加させていた
払拭できていない、言語=国語、日本語=日本人という固定観念を
だきたい、と申し出てお別れした。30 日に予定されていた「夕陽の昇
崩すことはそのために必須である。自他ともに、「人間」の中にある
る時」が取り止めになったことが惜しまれてならない、と最後に述べ
「複数の文化」への理解と異質なものへの共感能力の醸成という点
ながら感想を締めくくりたい。
で、TS と日本語教育には接点が多い―これを確認できたのも嬉し
感想文 2
い収穫だった。
リュブリャナは、スロベニア語と英語に加え、イタリア語/ハンガ
ミュンヘン大学日本センター
リー語/セルビア・クロアチア語という多言語が浸透・機能している。
村田裕美子 (むらた ゆみこ)
そういう街で、上記のようなことを考えることができたのも、本当に意
今回のシンポジウムでは、演劇活動が語学習得に効果的であると
義深いことだと実感した。たった一つ残念だったのは、最後のらせん
いう実践報告がいくつかあり、各大学の、そして日本語教師の皆さま
舘の公演が中止されてしまったことだ。公演やいろいろな方に挨拶
の取り組みと学習者の反応など拝聴させていただきました。さらに印
するのに間に合うよう、遠出から急いで戻ったのだが……。
象に残っているのは、実際の劇団をお招きした実演を交えながらの
EAJS の大会ほど大規模・多種多様で学際的な場は寡聞にして
ご講演です。初めはどのような講演になるのかあまり想像できませ
知らない。すっかり味をしめたので、次回リスボン大会にも参加した
んでしたが、劇団らせん舘代表の嶋田三郎氏の考え方とそれに基
いと思っている。その時には、TS の視点からの発表や TS と日本語
づき作られた演劇が、今回の学会のテー マ「複言語・複文化主義」と
教育とコラボのパネルなどがもっと増えていることを心から期待した
多いに重なるところがあり、新しい発見も多く、非常に貴重なご講演
い。
だったように思います。特に、各国現地の俳優を参加させ、一つの劇
6
に多言語・多文化の要素を取り入れることで、役者それぞれの個性
21 日と 22 日、「新時代に向けた日本語教育」と「高校における日本
が引き出され、表現の自由度が広がり、そして劇が豊かになるという
語教育」と「中上級日本語教育」を中心テーマに、ローマ「ラ・サピエ
お話はこれからの実社会を反映し、今後の語学教育にも取り入れら
ンツァ」大学で研修会が行われました。2015 年の研修会は 3 月 20
れるヒントが含まれていたように感じます。
日と 21 日で、同じくローマ「ラ・サピエンツァ」大学で行われることが
「演劇は専門ですが、このようなテーマはまだまだ勉強していない
予定されています。ゲストスピーカーは迫田 久美子氏(国立国語研
ので、みなさんと一緒に勉強させてください」という嶋田氏の最後の
究所、日本語教育研究・情報センター長)と小林ミナ氏( 早稲田大学
言葉がとても印象的であり、私自身も、様々な分野の専門家の話に
大学院 日本語教育研究科、日本語教育学会副会長)です。
耳を傾け、視野を広げていきたいと思いました。
イタリアにおける日本語教育の問題点
1. 協会への少人数参加 CEL
語学教育の学会に劇団をお招きするという貴重な機会を設けてく
ださった役員の皆さま、実行委員の皆さまにも感謝いたします。
教授、助教授、講師とともに大学制度によって、母語話者
Collaboratore ed Esperto Linguistico (CEL、言語専門協力者) も日本語
教育にかかわっています。ただし、後者は特別な契約で、日本語教
育の中心的存在にもかかわらず、給料は安く、研究費などもなく、学
イタリア日本語教師会(AIDLG)
AIDLG の紹介
会や研修会に少人数でしか参加できないのが現状です。
2. 日本語教育学の専門家
ヴェネツィア「カ・フォスカリ」大学
現在、大学で日本語を教えている教師は主に日本文学専門家で、
マルチェッラ マリオッティ (Marcella MARIOTTI)
言語学者や言語教育学者は少人数にすぎません。ただし、最近日
本語社会言語学や教育学に興味を持つ院生が増え、将来的に専門
イタリア日本語教育協会(AIDLG)の紹介
家として日本語教育にかかわってくると期待されています。
正式名を Associazione Italiana Didattica Lingua Giapponese、略称
3. 教材作成
AIDLG、日本語名は「イタリア日本語教育協会」です。会長 は(2014
大学別に様々な教材は作成されていますが、将来的な大学での
年 3 月から) Paolo CALVETTI (パオロ・カルヴェッティ)が務めていま
ポジションにおいては重要な業績にならないため、また助成金も少な
す。ウェッブサイトは http://www.aidlg.it/ですのでご覧ください。
いため、イタリア語母語話者向けの教材はまだわずかな数にとどま
イタリア日本語教育協会(AIDLG)は 1988 年に発足し、現在約 97 人
っています。
の会員からなっています。会員は、国籍に関係なく日本語教育に携
等教育にも関わっている教師、私立機関や私立外国語学校で日本
これからの課題
日本語教育機関についての最もアップデートされた情報を収集し、
語を教えている教師、日本語教育研究を専攻にしている大学院生も
CEL が最もアクティブに活動できるシステムを検討したいと思ってい
属しています。
ます。また、高等教育機関間でのコラボレーションによる教材作成や、
わる日本語母語話者と非母語話者の教師です。大学の講師、中・高
共同研究が行われるような環境を作り出すことが必要だと考えられ
2014 年 11 月現在、イタリアでは 20 以上の大学と、市民大学 2 校
ています。
と、5 校以上におよぶ高等学校と、様々な私立学校で日本語が教え
られています。国際交流基金の調査によると 2012 年にほぼ 7400 人
の日本語学習者がいて、6069 人(81.8%)は高等教育の学習者です。
第18 回 AJE シンポジウム
アンケート結果報告
したがって当協会の会員はほとんど大学講師です。
(http://www.jpf.go.jp/j/japanese/survey/country/2013/italy.html)
AIDLG の主な目的はイ タリアにおいて日本語教育を普及させるた
め、日本語教師を支援しています。例えば日本語が教えられている
機関についての情報を収集したり、教師間の ネットワークを発展さ
回答者 63 人
内訳: 非会員 7 人、EAJS会員 5 人、AJE会員
せたり、日本語教育に関連する研究の成果を発表する場を設けたり、
(またはAJEとEAJS会員) 50 人
全体的に
その成果を論文集という形で公開したりすることです。
毎年 3 月に国際交流基金(ローマ日本文化会館)の助成によって
とても
良かった
良かった
あまり良くな
かった
良くなかった
回答なし
二日間の日本語教育研修を開催し、3 年(ほぼ)ごとに国際学会を
開催します。1996 年にパヴィア大学で AIDLG の第 1 回日本語・日本
語教育学会が開かれて以来 2002 年にはナポリ東洋大学、2005 年
にはローマ「ラ・ サピエンツァ」大学・ローマ日本文化会館で国際学
会が行われています。また、2010 年にはローマ「ラ・サピエンツァ」大
28 人
発表について
(口頭発表、ポスタ、パネル発表)
16 人
29 人
0人
40 人
0人
0人
6人
0人
7人
過半数はEAJSの大会のセッションとしてのシンポジウム開催は良
学でシンポジウムも開かれました。2013 年 3 月 22 日に「4th
かったと思っている。
Japanese Linguistics and Language Teaching 4AIDLG」ナポリ「東洋」大
学で第 4 回の国際学会が開催されました。また、2010 年にはローマ
コメント 主に以下の点:
「ラ・サピエンツァ」大学でシンポジウムも開かれまし た。2014 年 3 月
全体的として興味深く、刺激のある発表が多かったです。
7
とても有意義な時間が過ごせました。
な会計に育っていけたらと思っていますので、どうぞよろしくお願いし
オーガナイズが大変スムーズだった。
ます。”
欧州の教育に関する発表が多いほうがいい。
各発表後に少し時間があったほうが移動しやすかったと思う。
会員管理
三輪聖(みわ せい)
個々の発表のレベルは高く、満足しました。
ドイツ在住。2006 年より日本語を教え始め、2009 年よ
ポスター発表の場所は不便でした。
りベルリン自由大学、ボーフム・ルール大学等の専任
講師を経て、現在はハンブルク大学の専任講師として
勤務。
新役員紹介
“この度引き続き会員管理の役職で新役員の皆様とご一緒させてい
ただくことになりました。会員の皆様にとって活動しやすい場となるよ
会長
マルチェッラ マリオッティ ( Marcella MARIOTTI )
うサポートしていくことができればと思っております。どうぞよろしくお
フェッラーラ(イタリア)生まれる。ヴェネツィア大学で
願い致します。”
2001 年から日本語を教えはじめる。2008 年から 2010
年に日本学術振興会外国人特別研究員として国際キ
ニュースレター編集
リスト教大学で「日本語ハイパーメディア文法辞典」を
フックス-清水美千代 (しみず みちよ)
スイス、バーゼル市郊外在住。日本語教師歴 39 年。
開発する。同時に GSJAL 日研-早稲田大学大学院日本語教育研究
現職: バーゼル日本語学校(継承日本語教育機関)、
科で細川ゼミに参加し、そのアプローチの「海外版」の実践研究をし
NSH バーゼル教育センター(語学部門:成人教育機
はじめる。
関)にて日本語教師。スイス継承日本語教育機関連
“2010 年からアジア・北アフリカ研究学科で専任講師につとめ、2012
絡会議実行委員代表。継承日本語教育機関であるバーゼル日本語
年からイタリア日本語教育協会役員です。今回 AJE の皆様から信
学校を有志とともに約 30 年前(1985 年)に創設し、現在も継承日本
任をいただき、誠に光栄です。AJE で初めての非母語話者会長で不
語教育に力を入れている。
安が多いですが、役員一同、一丸となって頑張って参りますので、ど
“今後のますますの AJE の発展のため、日々変化を続ける日本語
うぞよろしくお願いいたします。”
教育に関する情報提供とともに会員皆様の情報交換の場としてのニ
ュースレターの発行に努力していきたいと思っております。よろしくお
副会長
岩﨑典子(いわさき のりこ)
願いいたします。”
1987 年に京都日本語学校で日本語を教え始め、2008 年までワシン
トン大学やカリフォルニア大学(デービス)など、主に米
国の大学で日本語教育に携わった。2008 年からはロ
役員会からのお知らせ
ンドン大学 SOAS で言語教育や第二言語習得の講座
を担当し、主に大学院生の指導をしている。
(1)日本語教育グローバル・ネットワーク(GN)のロゴ募集!
“2011 年から 2014 年までヨーロッパ日本語教師会の会長を務めまし
ML でもご連絡しましたが、GN のロゴを公募しています。世界に広が
た。力不足の点も多々ありましたが、前役員の方々を始め、会員の
る日本語教育をイメージするロゴをぜひデザインくださり、奮ってご応
方々の協力を得て、なんとか 3 年間の任期を終えることができ、皆さ
募ください!
んに心から感謝しております。この度は、3 年間の経験を踏まえ副会
(2)2015 年度第 19 回ヨーロッパ日本語教育シンポジウムはフランス
長として、微力ながらマリオッティ新会長を支え、活動したいと思いま
日本語教師会と共催で、8 月 27 日〜29 日にフランスのボルドーで
す。どうぞよろしくお願いいたします。”
開催の予定です。2012 年のワークショップを含めると、ヨーロッパ日
本語教師会第 20 回目の記念すべき大会となります。ぜひご参加く
会計
濵田朱美 (はまだ あけみ)
ださい!
ドイツ、テュービンゲン市在住。日本語教師歴 14 年。2001 年から 2
年、ドイツ NRW 州立言語研究所ヤポニクム(現ボ
編集部より:「私からの発信」はお休みさせて頂きました。
ーフム・ルール大学)にて客員講師として勤務。そ
編集責任者:shiraishi@eaje.eu
の後ベルリンのギムナジウム、NRW 州ルール地方
ニュースレター第53号
のいくつかの市民大学で日本語を教えた後 2006
発行:2014年11月
編集部:白石実
発行人・発行所:ヨーロッパ日本語教師会
c/o Noriko Iwasaki
Department of Linguistics、
School of Oriental and African Studies (SOAS)
University of London
Thornhaugh Street Russell Square London、 WC1H 0XG
United Kingdom
Fax: +44 (0) 20 7898 4399 E-mail: ni3@soas.ac.uk
ホームページ http://www.eaje.eu/
年よりテュービンゲン大学日本学科に専任講師として勤務する。
“会員になって 10 年です。 この度、ヨーロッパ日本語教師会の会計
を担当することになりました。過去 3 年間、会計監査として会計のお
仕事をほんの少しだけ拝見しただけでも大変そうだと思っていたの
ですが、その素晴らしく仕事をこなしていらっしゃった土肥さんにご指
導していただける今だからこそ私にも務まるかと思い、お手伝いさせ
ていただこうと意を決しました。会員の皆様のご協力を得ながら立派
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