ISSUE 01 - Siemens

ISSUE
01
創刊のごあいさつ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
シミュレーションの可能性を解き放つ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
Multi-disciplinary Design Exploration(MDX)
流体解析と最適化計算を考える ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
User Interview
第1回:トヨタ自動車株式会社 モータースポーツユニット開発部様
ル・マン表彰台を支えるレーシングカー開発は、時間との闘い ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
̶ CFDがターンアラウンドタイム短縮に貢献 ̶
ライフサイエンス ̶ 心臓病に挑む・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
STAR-CCM+ v9.04 新機能紹介
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「リアリズムの追求とさらなる汎用性の向上」
STAR-CD v4.22 新機能紹介
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「STAR-CD v4.22 筒内燃焼に特化した新機能」
海洋工学 ̶ イルカの謎の解明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
インフォメーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23
JAPAN EDITION
Contents
創刊のごあいさつ
CD-adapcoでは世界トップレベルのエンジニアリング・シミュレーションサービスを
グローバル規模でご提供しています。STAR-CCM+、STAR-CDをはじめとしたCD-adapco
製品により、製品性能の向上やリードタイム削減など、エンジニアリングにおける成功
をお客様が手にされることを私たちは大変嬉しく思っております。特に日本のお客様に
おかれましては非常に高いレベルのソリューションを求めており、それが精工で緻密な
日本のものづくりを支えていると言われるのは皆様ご存知のところです。
この度、弊社では日本のユーザー様に向けて、広報誌「Dynamics Japan Edition」を創刊
する運びとなりました。本誌では日本のユーザー様へのインタビューや、STAR-CCM+、
STAR-CDの最新機能のご紹介、さらに米国CD-adapco発行のグローバルニュース
レター「Dynamics」より海外の先進的事例の翻訳版などをご紹介しています。すぐに
お役立ていただける技術情報や設計・開発のヒントとなる適用事例など、日本のお客
様にご満足いただけるようなバリューのあるコンテンツをお届けしてまいります。
本創刊号では、CD-adapcoが本年よりご提案している
“Multi-Disciplinary Design Exploration
、複合領域最適化を特集テーマとしています。CD-adapcoでは、製品性能に影響
(MDX)”
を与える可能性のあるすべての要素物理を一つのプラットフォーム上で包括的に設計
できることを目指しています。
日々、さらに上の次元を目指して設計に取り組まれている
エンジニアの皆様のご参考となれば幸いです。
では、
「Dynamics Japan Edition」をお楽しみください。
2014年10月
株式会社 CD-adapco
代表取締役
1
dynamics iSSUE 01
羽部 篤
1
Cover Story
Multi-disciplinary Design Exploration
シミュレーションの可能性を解き放つ
Multi-disciplinary Design Exploration(MDX)
スピードと競争力が問われる現代のビジネスで成功するためには、製品性能の改善とリードタイムの短縮が
必要不可欠です。複雑化する顧客ニーズを把握することもさることながら、高性能なコンピュータがより安価
に手に入るようになった現在、
シミュレーション技術
を駆使し、いかに質の高いエンジニアリング判断を
行うことができるかが大きな鍵を握ります。常に
新しいアイデアを志向し、より多様な製品を短期
間で創出することが経営戦略の観点からも求め
られています。シミュレ ーションが 持つポテン
シャルを最大限に引き出し、効率的で柔軟性の
高いMulti-disciplinary Design Exploration
(以下、MDXとします。)の活用なくしてはこれら
を達成することは不可能です。
図1:シミュレーション技術が持つ真の力をMDXが引き出します
MDXとは
歴史的課題
CD-adapcoが提唱するMDXのビジョンは次のようなもの
これまでMDXが製品開発の現場に定着しなかったのには
です。「単一のシミュレーションから完全自動化された最適
多くの理由があります。
化計算まで、複数の技術分野にまたがって行われる設計探査
作業をあらゆる観点からサポートする包括的なバーチャルプ
膨大な計算時間 : エンジニアの業務は、複数の技術領域にま
ロセス」。これは、
「 多様な物理モデル(multi-physics)」、
「高
たがる数多くの設計上の目的と制約とのトレードオフ関係を
精 度 か つ 多 様 なモデル 忠 実 度(multi-fidelity)」、
「プロセス
明らかにすることと言えます。このように、高次元な設計空間
の自動化」などを含む必要なツールを一つのプラットフォー
を持ち膨大なCPU時間を要する問題を解くことは現実的では
ム上で簡単に扱えるようにすることでもあります。
ないと考えられてきました。
技術的な面に加え、柔軟かつ安価なソフトウェアのライセ
ンス 体 系 も 真 のMDXを 実 現 する た め に は 欠 か せ ま せ ん。
数値計算の限界 : 最適化計算の成功には、正確でロバストな
CD-adapcoは独自のパワーライセンスを通じ、エンジニアが
数値解析が欠かせません。数学モデルはパラメータ変更に
必要なときに必要なツールが手に入る環境を提供し、MDXの
対して不安定であり、
「 CADモデル作成からメッシュ生成まで
ビジョンをより身近なものにします。システムレベルのシミュ
の煩雑な作業」、
「 低品質な自動メッシュ機能」、
「プロセス自
レーションをより効率的に行い、デリバリータイムの短縮化を
動化の欠如」なども大きな課題でした。
実 現し、企 業 価 値 を 高 め る、そ ん な 新し い 世 界 へ の 扉 を
CD-adapcoが開きます。
未知なる設計空間 : 設計空間に対する製品の応答の特徴に
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2
Cover Story
1
Multi-disciplinary Design Exploration
応じて最適化のアプローチも使い分ける必要がありますが、
設計を始める段階でこれらの特徴が把握できていることは極
めて稀です。そのため、まずは何らかの試行錯誤を人の手に
よって行い設計空間に対する理解を深めた上で、最適化の手
法を選ぶことが必要となります。手法を選択した後は、アル
ゴリズム等のパラメータのチューニングを行うことになります
が、専門的な知識が必要でかつ多くの時間がかかる作業にな
ります。
CADインターフェースとパラメータ化: 最適化を行うためには、
必要な設計パラメータを絞りこむ、つまり問題を簡略化する必
図2:ガラス成型に使われているSTAR-CCM+のオーバーセットメッシュ機能
要があります。また、最適化計算中には、
これらの値を随時更
新し、新しいCAD形状を生成する必要があります。一昔前の
精度(Accuracy)
:妥当性確認(Validation)
と検証(Verification)
ワークフロー上では、CADグループとのやりとりが介在するた
が十分に行われた信頼性の高いシミュレーション技術を有する
め長い期間をかけて設計サイクルをまわす必要がありました。
こと。これなくしては、複雑かつ多様な物理モデルを内包する
問題を精度高く解くことはできません。
高価なライセンス費 : 設計探査は、膨大なCPUコア数を使い
ながら、数多くのシミュレーションを同時に流す作業でもあり
入手性(Affordability): パラレル計算やコンピュータの拡
ます。製品開発におけるシミュレーションの活用方法が年々
張性などに対して高い自由度を有し、
より速く計算結果を出
進化していくなか、従来のライセンス体系はその進化に対応
すこと。加えて、コンピュータ環境の能力を可能な限り引き出
しきれていません。従来のライセンス体系のまま設計探査を
せるような柔軟性をもったライセンス体系であること。これ
行うと、そのライセンス費用が計り知れないものになります。
らがあって初めて、企業もしくはグループとして所有するコン
ピュータリソースの価値を最大化することができます。
CD-adapcoは最新の技術をもって、
これらの課題の多くを
解決しました。我々とともにMDXでイノベーションの道を歩
設計プロセスにおける全てのステップがスムーズに流れる
みましょう。
よう、CD-adapcoはパートナー企業とともに長年努力をしてきま
した。STAR-CCM+、HEEDS 、パワーライセンスは、CD-adapco
MDX:シミュレーションの持つ力を
全て解き放つ
MDXのプロセスには、シミュレーションの持つ可能性を全
て引き出すための4つの重要な要素があります。
のMDXのビジョンの心臓部分となるコア技術です。
STAR-CCM+:多様な物理モデルを搭載した
シミュレーションツール
CD-adapcoの旗艦製品であるSTAR-CCM+は、
多様な物理モ
ロバストな柔軟性(Robust flexibility): シンプルな問題か
デルを搭載し、
また前述した課題を解決するための多くの機能を
ら複雑なシステムまで幅広い問題を解く能力を有すること。
有し、
製品設計の品質・信頼性の向上を強力にサポートします。
そのためには、モデル忠実度の選択、複数の技術領域の連成
方法、形状モデルの複雑さ、設計探査のタイプ、独自のソフト
最 新 のCADインタ ーフェース : STAR-CCM+に は3次 元 の
を使うのか商用のソフトを使うのか、などの選択が自由に行
CADモデラーが組み込まれています。そのため、外部のCAD
えることが必要不可欠です。
ツールに依存することなくイノベーティブな設計を志向する
ことができます。更に、CADクライアントと呼ばれる機能を用
自動化(Automation): シミュレーションの全てのステップ
いることで、STAR-CCM+上で変更された設計パラメータを外
を自動化し、人が介在する作業を最小限に抑え、高品質な結
部のCADツールに戻すことも可能です。
果を出すこと。設定作業からシミュレーションの実行まで、直
感的で分かりやすいユーザーインタフェースと、ロバストで自
JAVAとプラグインによるプロセスの自動化: JAVAスクリプト機
動化されたアプローチが肝要です。
能を使うことで、STAR-CCM+を直接設計プロセスに組みこむ
3
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ことが可能です。CADデータのインポート、形状変更、メッシュ
変数の数に比例します。STAR-CCM+は離散式のアジョイン
生成、計算までをマクロで記録し、外部の最適化ツールにも
ト法を搭載しており、1回の流れ計算に相当する時間で感度情
プラグインすることができます。
報を得ることができます。アジョイント法で得られた感度情
報は最適化を行う際の情報としても使うことができます。
完全自動化されたメッシュ機能 : CADデータは、小さな部品
や 隙 間 などによって不 必 要 に 複 雑 な 場 合 が 多く、高 品 質 な
HEEDS MDO:CAEツールのパワーを引き出す
メッシュを作成するためのCADモデルの修正作業は大変な
労力を要します。また、人の手を介する作業が必要となると、
Red Cedar Technology社が開発を担当しているHEEDS MDO
最適化計算への適用は困難です。STAR-CCM+のサーフェス
はMDXに必要な要素を全て統合する部分です。必要な解析
ラッピング機能は、高品質な三角形メッシュで形状をラップ
ツールを自動化された最適化プロセスとして統合します。
することでCADモデルについての多くの問題を解決します。
また、オーバーセットメッシュ機能は、複数の部品がそれぞれ
シームレスな統合環境 : HEEDS MDOは必要なCAEツールを
相対的な動きを持つような場合に有効です。オーバーセット
シームレスに統合するとともに、設計プロセスを自動化し、設
メッシュ機能を用いることで、それぞれの部品に対して一度
計のワークフローを加速します。
メッシュを生成するだけで、
リメッシュや境界条件を変更する
ことなく計算を行うことができます。
強力で汎用的なインターフェース:HEEDS MDOは商用のソフト
ウェアから独自に開発されたソフトウェアまで、全てのソフトウェ
Optimate+によるシームレスな最適化計算 : Optimate+は
アに対応したインターフェースを有しており、
プリ・ポスト処理か
STAR-CCM+のアドオンモジュールで、スクリプトを全く書く
らシミュレーション実行、最適化計算までを全て自動で行います。
必要がなく設計探査を行っていただくことができます。設定、
実行、パラメトリックスタディや、実験計画法などのポスト処
簡単な操作 : HEEDS MDOの操作の習得は非常に簡単です。
理にいたる全ての作業をSTAR-CCM+の環境上で行えます。
最適化の経験がない方でも、手作業で試行錯誤する時間に
ま た、Optimate+はRed Cedar Technology社 が 開 発 し た
比べて、ほんのわずかな時間でより良い設計解を見つけ出す
探 査 アル ゴリズ ムSHERPA(シェル パ)を 搭 載して い ま す。
ことが可能です。
SHERPAは、広域探査・局所探査の複数のアルゴリズムの良い
ところを同時に組み合わせ、複雑な設計空間を効率良く探査
自動 化された設 計 探 査 : HEEDS MDOで は 最 適 化 計 算を始
します。SHERPAは、設計空間を学習し、探査の方法(アルゴ
め、実験計画法、感度解析、ロバスト性・信頼性評価などの多
リズムの組み合わせ方、それぞれのアルゴリズムのチューニ
様な設計探査をサポートしています。
ングなど)を常に適切な形で自らアップデートしていきます。
革新的な探査方式: HEEDS MDOは、新しい設計コンセプトの
アジョイント法を使った効率的な感度解析 : 勾配情報をもとに
発見、製品改善、開発コスト削減などを可能とする革新的な探
した最適化では、感度解析を行うために必要な計算数が設計
査アルゴリズムSHERPAを搭載しております。これまでの最適
化ツールでは避けて通れなかった「探査アルゴリ
ズ ム の 試 行・選 択」や「探 査アルゴリズ ム の パラ
メータチューニング」などの煩雑な作業は一切あり
ません。それぞれの問題に応じて、SHERPA自らが
アルゴリズムの選択やチューニングを行い、一度
の探査でより良い設計解をより速く発見します。
パワーライセンス:
コンピュータリソースの
価値を最大化する
従来のライセンス体系は柔軟性がなく、特に設
図3:アジョイント法を使ったレースカーのフロントウィングの感度計算
計探査のように多くのジョブ数を必要とする作業
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Cover Story
Multi-disciplinary Design Exploration
に向いていません。また、
よく使用される機能や全く使われ
を基に数多くの変更をシミュレーションする際のコストを大
ない機能もあり、ライセンスの偏りが起こります。コンピュー
幅に低減することを意図しています。
タがより身近に手に入るようになり、使われるシミュレーショ
ンモデルが大きくなっていくなかで、古いライセンス体系のま
まではライセンスコストが計り知れないものになります。
まとめ
CD-adapcoは、エンジニアがシミュレーションの価値を最
パワーセッション: 固定料金でコア数無制限でコンピュータ
大限に引き出していただくために、ロバスト、自動化、高性能
リソースを 使 用 い た だ けますので、複 雑で 大 規 模 なシミュ
なシミュレーションなどの技術に裏打ちされた真のMDXをご
レーションモデルに向いています。
提供するための努力をパートナー企業とともに日々行ってお
ります。MDXを製品開発のライフサイクルに定着させるため
パワーオンデマンド: 時間単位で課金されるクラウド型ライ
の鍵は、人の手を介し多くの時間を要する作業を、その正確
センスで、CPUのコア数やセッション数に制限はありません。
性 と自 由 度 を 損 な わ な い 形 で 取り除 い て い くことで す。
ユーザーは必要なときに必要なリソースを確保することがで
STAR-CCM+、HEEDS、パワーライセンスは、CD-adapcoが提
きるため、ソフトウェア・ハードウェアが同時に許容範囲を超
唱するMDXのまさに心臓となるコアなる部分であり、高い投
えるピーク時などの対応に有効です。
資効果と設計サイクルの短縮化を実現することで、お客様の
企業価値の向上をお手伝いいたします。
パワートークン: コンピュータの使用環境に応じてライセン
スのリソースをマッチさせる方式です。所有するトークンを
複数のジョブに振り分けることもできますし、一つのジョブに
対して複数のCPUコアを割り当てるために利用することもで
きます。パワートークンは、設計探査のようなベースデザイン
※本記事はCD-adapcoのグローバルニュースレター
『Dynamics issue36』
からの抜粋です。
【原文:CD-adapco テクニカルマーケティング Sabine Goodwin】
【訳:CD-adapco プリセールス 松村 泰起】
図4:Optimate+を使ったNASCARの設計最適化:ダウンフォースを維持しつつ空力抵抗を最小化
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New Technology
HEEDS、STAR-CCM+ Optimate+
流体解析と最適化計算を考える
「流体解析は時間がかかるので最適化計算には使えない。」
本当にそうでしょうか? ハイブリッドで自己学習型の探査アルゴリズムSHERPA(シェルパ)が、
これまでの最適化
計算の概念を大きく変える新しいプロセスを提案します。
「流体解析は時間がかかるので最適化計算には向いてい
ない」、そういった声をよく聞きます。おそらく、その背景にあ
るのは以下のような認識ではないでしょうか?
① 最適な答えを出すためには何百、何千回と多くの計算が
必要
② 流体解析の計算は何時間、何日とかかるため何百、何千
回と繰り返すのは非現実的
もし、①の前提が変わったら、もちろん②の結論も違ったも
0.7
正規化 さ れ た 最 適 解 の 値
流体解析は最適化に向いていない?
SHERPA
GA
:遺伝的アルゴリズム
SA
:焼きなまし法
NLSQP:逐次2次計画法
PSM :応答曲面法を使った最適化
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
50
75
100
150
250
500
最適化の計算回数
図1:SHERPAと他のアルゴリズムとの比較
のになるでしょう。
ここで、①にある「最適な答え」について考えてみたいと思
います。一般的に最適化の探査アルゴリズムは、設計空間の
中で“一番良い答え”を効率的に見つけることを目的としてい
ます。“一番良い答え”を探すためには設計空間を広く、
くま
なく探査する必要があるため、必然的に計算回数が多くなり
ます。しかし、実際の設計開発は要求事項、予算、スケジュー
図2:SHERPAの入力パラメータはたった一つ − 計算回数
ルなど多くの制約の中で行われるものです。求められるもの
は、必 ずしも「お 金も時 間も自由に使って“一 番 良 い 答え”を
に必要だった煩雑な作業が一切ありません。必要な入力パ
見つけること」ではなく、
「 限られた予算、スケジュールの中で
ラメータは、
「 計算回数」だけです(図2)。
要求事項を満たす“より良い答え”を見つけること」です。
もし、与えられた計算回数の中で、
“より良い答え”をより効
率的に探すような探査アルゴリズムがあれば、流体解析のよ
うに計算時間が長くかかるものであっても、最適化計算の効
果を得られる場面が格段に多くなります。 STAR-CCM+:多様な物理モデルを搭載した
シミュレーションツール
HEEDSは様々なCAEツールとの連成が可能な汎用の最適
化ツールです。SHERPAを使った最適化計算を始め、実験計
探査アルゴリズムSHERPA(シェルパ)
画法、応答曲面法、ロバスト/信頼性評価などの多くの設計
探査作業をサポートしています。HEEDSならびにSHERPAは、
SHERPAは、米 国 ミシ ガ ン 州 のRed Cedar Technology社
これまで10年近くに渡り北米、欧州を中心に様々な分野で多
が開発したハイブリッドで自己学習型の探査アルゴリズムで
くのお客様にお使いいただいております。また、Optimate+
す。SHERPAは大域探査と局所探査の複数のアルゴリズムの
は 流 体 解 析 ツ ー ルSTAR-CCM+の アド オン モ ジュー ル で、
良いところを組み合わせ(ハイブリッド)、アルゴリズムの選択
STAR-CCM+のGUIを介した簡単な設定でHEEDSと同等の設
とチューニングを探査結果に応じて自ら随時更新していきま
計探査作業を行っていただくことができます。
す(自己学習型)。更に、SHERPAは与えられた計算回数に応
CD-adapcoでは、HEEDS、Optimate+の無料体験セミナー
じて探査戦略を変え、最も効率的に“より良い答え”を探すよ
を定期的に開催しております。探査アルゴリズムSHERPAが
うプログラムされています(図1)。
切り開く新しい世界をぜひお試しください。 また、SHERPAは自己学習を行うため「アルゴリズムの選択」
や「アルゴリズムのチューニング」
といった従来の最適化計算
【文責:CD-adapco プリセールス 松村 泰起】
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User Interview File:01
第1回
トヨタ自動車株式会社
モータースポーツユニット開発部様
ル・マン表彰台を支える
レーシングカー開発は、時間との闘い ̶
CFDがターンアラウンドタイム短縮に貢献
本誌創刊号のユーザーインタビューの記念すべき第1回目は、STAR-CD、STAR-CCM+を長年ご利用頂いて
いる、
トヨタ自動車株式会社 モータースポーツユニット開発部様にご協力頂きました。富士山麓の恵まれた地形
を利用し作られたテストコース場を備える同社の東富士研究所にて、日々レーシングカーの研究開発に取り組ま
れるエンジン担当の加藤様、空力担当の
北條様に開発秘話などを伺いました。
2014年ル・マン24時間レースにて、
トヨタ・レーシングチームが3位表彰台を獲得
本日はトヨタ自動車株式会社のモータースポーツユニット
これらのスローガンを元に、
レース用車両やエンジンに対し
開発部様へお邪魔させていただきました。モータースポーツ
CAE / CFDを適用し、お客さまに「速いよね」や「かっこいい
ユニット開発部様では、ル・マン24時間レースで有名なWEC
よね」と思ってもらえるような車両を開発することです。
世 界 耐 久 選 手 権 用 の 車 両 開 発、国 内 向 けSuper-Formula、
Super-GT用エンジン、車両の研究/開発を行っています。
編 集 部 : 本日は お 忙しい 中、お 時 間を頂 戴 い たしまして、誠
グループ長
にありがとうございます。国内外でトヨタ自動車様を知らな
北條 哲平
様
い方はいないと思いますので、まず、
ご部署(モータースポー
ツユニット開発部様)の社内的な位置付けやご担当業務に関
してお聞かせください。
加藤氏 : モータースポーツユニット開発部のスローガンとし
グループ長
て、以下の3点が挙げられています。
加藤 裕一郎
1. 競争の中で技術開発を促進し、自動車の進歩に寄与する
こと。2. 未知で困難な領域に挑戦することで、
レースファンの
共感を呼び起こす。3. 自動車が本来持つ『夢』や『操る楽しさ』
に接して頂く機会をお客様に提供し、車ファンを広げること。
7
dynamics iSSUE 01
トヨタ自動車株式会社 モータースポーツユニット開発部
様
編集部 : ご部署での主な解析テーマを教えてください。
を果たしています。ターンアラウンドタイムに対してだけで
加藤氏 : パワートレーン開発へのCAE/CFD活用や、新規解析
は なく、実 際 の 開 発プロセスの 中で 重 要 な 役 割を担ってい
技術開発です。
ます。
北條氏 : 私のグループはCFDを活用した車両空力開発が主
加藤氏 :レーシング車両は量産車が数年かけて熟成してくる
なテーマです。
のとは違い、姿や形が前年度と同じように見えても中身は基
編集部 : お二人のそれぞれのご業務をお聞かせください。
本的に全て違っており、
「 1年間で毎年新車を開発している」の
加藤氏: 私の方は、エンジン、ハイブリッドコンポーネントの
と同じことになります。その際、高いレベルの初期性能が求
性能や信頼性といった領域を担当しております。
められるため、車両完成前に「空力」や「エンジン」などの信頼
北條氏 : 私のグループが車両空力を主に担当しております。
性や性能を確保する必要があります。従来は、モノを製作し、
編集部 :どういった体制でCFDを行われているのでしょうか?
評価するというプロセスを繰り返すスタイルだったのですが、
加藤氏: 全体で約15名です。空力とエンジンで半々ですね。
現在は、製作前の解析的な評価を徹底的に実施するスタイル
限られた時間とリソーセスの中で、
レースという厳しい世界で
に変わってきました。
戦 い 抜くに は、解 析 業 務 の 優 先 順 位 付 け、後 工 程(設 計、実
北條氏 :レース間での車両調整に対しても風洞にかける時
験、風洞)
とのスケジュール調整、個人差が出ないような技術
間がなく、走行テストの機会も限られているため、CFDからい
の標準化が重要になります。
きなり実車へというプロセスも生まれてきており、
よりCFDの
アウトプットへ重要度が増しています。試作の1回目で決める
車両開発はターンアラウンドタイムとの戦い
̶ CFDの貢献
必要性が増しています。シェイクダウン車性能がそのシーズ
ンの競争力を決めます。
加藤氏 :このため、車両性能およびコンポーネント性能をモ
編集部 :レーシングカーは、次年度に向けた開発や次のレー
ノが無い段階で高める技術、すなわちCAE /シミュレーショ
スに向けたセッティング、そして頻繁なレギュレーション変更
ン技術の活用が必須となっています。
への対応といったご業務があると思いますが、その中で、開発
編 集 部 : 非 常 に 厳し い 開 発 スケ ジュール/プ ロ セ ス に 対
ターンアラウンドタイムといったCFDの貢献に関してお聞か
し、CFDが非常に重要な役割を担っていることがわかりまし
せください。
た。弊 社 開 発 /サポートもよりお 役に立てるよう努力いた
北 條 氏: ル・マン車 両 の 空 力 はドイツ に 拠 点 のあるToyota
します。
Motorsport GmbH(ドイツ:トヨタ・モータースポーツ有限会
社。以下、TMG)
と共に開発しています。以前のF1の時代は
風洞での開発が中心でCFDは補助的だったのですが、CFDは
レーシングカーの技術を一般車両へ
今やコンセプト検討に欠かせないものであり、流れを可視化
編集部 : 次にレーシングカーの開発で得たノウハウの社内
しコンセプトを決めていくという意味では非常に重要な役割
展開・情報共有や一般車両開発への転用などに関してお聞か
せください。
加藤氏 : 部のミッションとして「レース活動を通じた技術開発
とその量産車適用」が掲げられており、継続的に解析技術や
実際のモノや空力の考え方などを展開しています。
北條氏 : 社内で量産部署と定期的に集まってお互いのノウハ
ウの共有を話し合う場を設けています。解析技術だけではな
く流れの制御方法など空力技術についても共有しています。
編集部 : 実際にご部署でCFDをされていて、メッシングや設
定、スケーラビリティ、結果精度といった部分でお困りの点や
課題といった部分はございますか?
北條氏 : 空力の開発ループは非常に短く、1つのCFDでの開発
部位の開発ループが約2週間という短い単位です。その間に
いかに多くの計算を行い良いアイテムを見つけるかが鍵となる
ため、定常計算を中心に計算をしています。しかし、実際の車
図1:STAR-CCM+によるル・マン車両の外部空力の流線図
両空力現象は非定常現象です。流れは明らかに複雑なため、
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User Interview File:01
第1回:トヨタ自動車株式会社 モータースポーツユニット開発部様
安定性や収束性を重視して計算精度はある程度妥協しつつ、
解 析ケース数を増やして開発を行っており、精度と計算速 度
開発チームもグローバル
のバランスが重要になっています。
編集部 : WEC(世界耐久選手権)の世界は極めてグローバル
この計算精度 vs ターンアラウンドタイムの短縮という、背反
での戦いですが、
グローバルで仕事をする上で気を付けてい
する事象に対しての両立及びバランスが難しいです。
ることなどあれば、教えてください。
我々は非常に厳しいところで戦い続けているので、
この辺り
北條氏 : 空力開発に関してはドイツTMGと協業しています。
が難しいところです。我々としては2週間の開発スケジュール
距離や異なる言葉/文化で価値観が全然違う中で、一緒に仕
に非定常が使えるようになると解決するのですが。
事をしていくというのは簡単ではないです。このためコミュ
編集部 : 非定常計算の速度向上と更なるスケーラビリティが
ニケーションを大 変 重 視しています。各自が 担 当 業 務 だ け
向上するよう、CD-adapcoも常に取り組んでおります。
しっかりやって結果を出せばそれで良いというのではなく、み
加藤氏 : エンジン側では以前は精度的なところで、厳しいと
んなで作り上げていくようにしています。また、コミュニケー
ころがありました。しかし、改善により管路内の流れなどは実
ションは主に電話やテレビ会議ですが必要に応じてドイツに
験との相関がきれいに取れるようになってきており、自分達
出張します。面着で話せば、遠隔では1日かかることも5分で
が提案したものがほぼ実機でも効果が出るようになっていま
済むことも多く効率的です。ただ常に出張するわけにもいか
す。今はSTAR-CCM+を使って非常に満足しています。また、
ないので出張せずとも困らない関係をコミュニケーションを
更なる効率化を進め、最適化と組み合わせた自動化等もやっ
取り続けることで築いています。双方が納得するまで議論を
ていけたらと考えております。
続け、相互理解を図っています。車を速くしたいという強い
思いは同じであり、プロフェッショナル同士として尊重しあい
リアルとバーチャル間の検証
ながら目標に向けて開発を継続しています。
加藤氏 : エンジングループは、国内での業務がメインのため
編集部 : 読者の方が一番聞きたいところだと思うのですが、
あまりないのですが、自分の経験から言うと、日本のやり方を
風洞試験とCFD間のコリレーションはどのように行っている
押し付けてもそれは絶対うまくいきません。向こうのやり方
のでしょうか?
を尊重しつつ譲れない部分は一つずつ丁寧に主張していく
北條氏 : 空力側は一般的なことを地道にやっています。形
必要があります。実際にドイツでサポート業務に携わってい
状ごとに風洞実験とCFDの両方で評価を行い、空力値や表面
るエンジニア達は空力と同じ困難を抱えてやっている状態だ
圧力分布、風洞実験を可視化するPIVを用いて比較・評価を毎
と思います。
回実施しています。風洞は実現象に近いため、
これを正とし
北條氏 : ただ、彼らは日本の大和魂的な、
『 死ぬまで働け』的
て解析のメッシュ解像度や計算設定の見直しを行い、合わせ
なものはなく、
ドライに仕事を切り上げて帰るところは帰りま
込んでいます。このため、評価する計算ケース数は、非常に
すが、決めるところは決める、本番に非常に強いです。彼らは
たくさんあります。また、空 力で は 実 車 の 評 価も行 います。
アウトプット重視で、そういう意味ではしっかり仕事をしてい
ダウンフォースなどの空力値はその場(実走行時)で計測でき
て、文化の違いを大きく感じますね。
るため、風洞やCFDとの比較評価を行い、合わなかった場合
編集部 : 弊社CD-adapcoも規模は御社よりは小さいですが
は風洞やCFD各々での改善検討を行います。このため、CFD
グローバル企業で、海外オフィスと考え方や働き方の違いに
の精度向上も超短期間で実施する必要がある場合と、中長期
的な改善の部分があり、次のレースまでの期間ではまず短期
的な改善を実施します。
加藤氏 : エンジングループでは、実車に搭載する前にしっか
り評価をし、効果が出たものを搭載している状態のため、
レー
ス中の評価というよりは、イレギュラーなトラブルに対し、即
対応が必要か中期的に改善する問題かを、非常に短時間で
判断する必要があります。
北條氏 : ル・マンではF1と違い、風洞試験の時間制限といっ
たレギュレーションがありません。しかし限られたコスト・期
間の中で効率的に開発をすべく、最終的な判断はもちろん風
洞でしますが、CFDでの開発は不可欠です。
9
dynamics iSSUE 01
図2:実戦を見守るチームメンバー(列右に北條氏)
戸惑うことも多いのですが、取り入れるべき参考になる部分
も多く、
グローバルという意味では同様ですね。
最後に
編集部 : CD-adapco日本オフィスからのマガジンは本号が創
全てスクリプトで記述し使いやすく
刊号となります。この記念すべき号に日本を代表する企業で
あるトヨタ自動車様のル・マン車両開発に対するCD-adapco
編集部 : では最後に、CD-adapco製品やサービス、
ご要望な
製品へのお話をお伺いできるという極めて貴重なお時間を頂
どお聞かせください。
戴することができました。また、本インタビューはル・マン24
加藤氏 : 今までに、いくつかの流体ソフトを使って来た経験
時間レースで3位ご入賞の直後であり、加藤様、北條様の来年
から言うと、STAR-CCM+やSTAR-CDは全てスクリプトで表現
こそは優勝という熱意に打たれました。
できるためGUIを開く必要がなく、バッチで実行できるため、
2015年 はCD-adapcoも弊 社 製 品 の 国 内 独占 販 売 に 移 行
最適化や他のソフトとの連携が非常に実行しやすくなってい
する記念すべき年でもあり、ぜひ来年のル・マン24時間レース
ます。現在は、もう流体単体での計算だけではすまなくなっ
はトヨタ様が優勝できるよう、
できる限りのお手伝いをさせて
ており、上流/下流側の様々なソフトと組み合わせる際に非常
いただきます。
に使いやすいですね。また、
スクリプトが理解しやすい記述
なのが良いですね。
北條氏 : 空力側も解析モデル作成などが全部スクリプト化し
ており、慣れると非常に使い易いです。STAR-CDの時代から
完 全 にマクロで自動 化されており、現 在 のSTAR-CCM+も既
に全て自動化しています。解析において、個人差が出ないよ
うに標準化を実施しています。
編集部 :グループに新しい方が入られても、解析結果に差が
出ないようにされているということですね。
北條氏 : 空力はすべてスクリプトで完全自動なのですが、新
しい人が来た際、自分達が教育して、必ずスクリプト内の内容
を理解してもらうように努めています。スクリプトもブラック
ボックス化はせず、
「このスクリプトを書けるレベル」
という感
じで、底上げはしようとしています。
編集部 : 機能に関するご要望などはございませんか?
加藤氏:1点、
最適化時の話になりますが、
モーフィングなどで
サーフェスメッシュの形状を変更した際のデータをCADに戻せる
ような機能を作って欲しいです。
これは、
開発時、
形状をデザイナー
にフィードバックする際に、
CADデータが必要になるためです。
編集部 : サーフェスメッシュのデータをCADデータ化する機
能ですね。開発チームに要望いたします。
編集部 : サポートなどの対応はいかがでしょうか?
加藤氏 : サポートはレスポンスも早く対応してもらっていま
す。外資系だと日本のオフィスは単なる中継地点みたいな感
じで、内容も未消化のまま訳されたものが送られてくることも
WEC 2014 レースカレンダー
・04.18 ‒ 20
第1戦 シルバーストーン6時間レース
・05.02 ‒ 03
第2戦 スパ・フランコルシャン6時間レース
・06.11 ‒ 15
第3戦 ル・マン24時間レース
・09.18 ‒ 20
第4戦 サーキット・オブ・ジ・アメリカズ
6時間レース
・10.10 ‒ 12
第5戦 富士6時間レース
・10.31 ‒ 11.02 第6戦 上海6時間レース
・11.13 ‒ 15
第7戦 バーレーン6時間レース
・11.28 ‒ 30
第8戦 サンパウロ6時間レース
【文責 : CD-adapco マーケティング 髙橋由香、舛重国規】
ありますが、国内のベンダーさんと遜色ないレベルで対応し
てもらっています。
【会社概要】トヨタ自動車株式会社
北條氏 : 解析手法が完全に確立してしまっているのですが、
創立:1937年(昭和12年)
8月28日
今後より開発ループを速くするための技術開発などを一緒に
本社所在地:愛知県豊田市トヨタ町1番地
していただければ。
資本金:3,970億5千万円(2014年5月現在)
編集部 : ぜ ひ、協力させてください。弊社でもル・マンでの
従業員数
(連結)
:338,875人
(2014年3月末現在)
優勝のお手伝いをぜひさせてください。
dynamics iSSUE 01
10
4
Overseas User Cases 1
ライフサイエンス ̶ 心臓病に挑む
心臓病に挑む
̶ 命を救うシミュレーション
ALAIN KASSAB、ANDRES CEBALOS、RUBEN OSORIO、EDUARDO DIVO
セントラルフロリダ大学
RICARDO ARGUETA -MORALES
アーノルド・パーマー小児病院
WILIAM DECAMPLI
セントラルフロリダ大学医学部/アーノルド・パーマー小児病院
PRASHANTH S. SHANKARA
CD-adapco
セントラルフロリダ大学機械・航空宇宙
工学科のグループは、アメリカ心臓協会
(AHA)の支援によるアーノルド・パーマー
小児病院との共同研究で、Alain Kassab
博士およびWilliam DeCampli医師の指導
の 下 、数 値シミュレ ーションの 限 界を押し
広げ、小 児 の 先 天 性 心 疾 患 の 理 解と手 術 の
改良に新たな光を投じました。
11
dynamics iSSUE 01
はじめに
先天性心疾患(CHD)は最も一般的な
先天異常で、米国で毎年4万人近くの乳
幼 児 に 見 つ かっています。CHDで は、
心臓に何らかの欠陥があり、症状によっ
ては投薬や手術が必要になりますが、
こ
の病気が引き起こす現象をよく理解 す
ることが重要です。
左 心 低 形 成 症 候 群(HLHS)はCHDの
一 種で、症 状 は 深 刻で す。左 心 系 が 十
分 な 大きさに 形 成され ず、機 能 不 全 に
陥って右 心 系 に負荷 が か かります。負
荷が限界に達すると右心系も機能不全
に陥り、死に至ります。この疾患の場合、
外 科 治 療 はノーウッド手 術、その6カ月
後 のグレン 手 術、そしてそ の2∼3年 後
のフォンタン手術という3段階の緩和手
図1
術によって行われます。
正常な心臓と左心低形成症候群の心臓の比較
(出典:www. en.wikipedia.org)
ノーウッド手術は新生児期に行われ
るため、3つのうちで最も難易度の高い
研究で、HN手術後の複雑な全身および
・ 血 管リモデリング や 血 栓 形 成を引き
手 術で す。肺 動 脈を切り離して肺 側 の
局所血行動態の解明に取り組んできま
起こす可能性のある変則的な血流パ
端を閉じ、心 臓 側 の 端を大 動 脈 に つ な
した。ここでは、手術の安全性向上を目
ターン(再循環領域や衝突領域など)
いで新しい大動脈を作ります。続いて、
指し、RBTSの効果とシャント留置後の変
BT( Blalock-Taussig)シャントと呼 ば れ
則的な血流パターンに対する理解を深
この 研 究 で は、マ ル チスケー ルアプ
る人工血管を埋め込んで肺動脈枝の1つ
める た め に 用 いられ た 最 新 の 数 値 シ
ロ ー チとして、末 梢 循 環 の 一 次 元 集 中
を腕頭動脈につなぎます。手術は侵襲
ミュレーション手法について説明します。
的で死亡リスクが高いため、最近ではハ
イブリッドノーウッド(HN)治療法などの
新しい治療法の提案がされています。
HN手 術 で は、胸 部 を 限 定 的 に 切 開
し、動 脈 管 にステントを 留 置して、バ ン
パラメータモデ ル(LPM)
と、RBTSを 用
いたHN手術時の心臓構造の 局 所 剛 体
HLHSの段階的血行再建に
最適なアプローチを
シミュレーションで調査
3次 元CFDモ デ ル を 連 成 さ せ まし た。
さまざまな狭窄形態の影響を通常の処
置と比 較 する た め に、以 下 の 全6種 類
の解剖モデルを分析しました。
ディング 術 によって左 右 の 肺 動 脈をそ
この共同研究の目的は、マルチスケー
・ 大 動 脈 峡 部 の"一 般 的 な"形 成 不 全を
れぞれ縛ります。また、心房中隔切開術
ルCFDモデルによって、HLHS治療の第1段
再現したRBTSあり/なしの2つの標準
を行います。主肺動脈と腕頭動脈を結
階に行われるHN手術後の複雑な血行動
ぶリバ ースBTシャント
(RBTS)により大
態をより深く理解すること、
特に大動脈峡
・ 管腔の狭窄が緩やか(70%)/きつい
動脈峡部の狭窄による心筋虚血と脳虚
部の狭窄とRBTSのサイズの影響を確認す
(90%)、RBTSあり/なしの4つの狭窄
血を防ぐこともありますが、血行動態が
ることです。そこで、
RBTSを用いたHN手
モデル
モデル
非 常 に 複 雑 に なり、血 流を再 度 阻 害 す
術後の血行動態の代表的な解剖モデルを
る可能性があります。
シミュレートして以下の点を調べました。
RBTSの直径はすべて4mmとし、循環系
セントラルフロリダ大学(UCF)は、
アー
・ 大動脈峡部の狭窄とRBTSの留置によ
のLPMに基づいてCFDモデルの境界条件
ノルド・パーマー小児病院心臓センター
る冠状動脈、肺動脈、頸動脈の血流へ
を 計 算して から、STAR-CCM+でHNモ デ
およびアメリカ心臓協会(AHA)
との共同
の影響
ルを使って血流をシミュレートしました。
dynamics iSSUE 01
12
Overseas User Cases 1
4
ライフサイエンス ̶ 心臓病に挑む
図2
RBTSを用いたハイブリッドノーウッド手術時の
3次元モデル
図3
計算解剖モデル: 標準(左上)、標準+RBTS(右上)
、
狭窄90%(左下)、狭窄90%+RBTS(右下)
図4
CFDシミュレーションに使用したボリュームメッシュ
図5
集中パラメータモデル(LPM)
とCFDモデルの
マルチスケール連成
CADモデルからインポートしたジオメト
最後に、
マルチスケールアプローチとし
であることが分かりました。流速を見る
リの欠陥をサーフェスラッパーでクリー
て、
LPMを使って初期循環を調整し、
目標
と、大 動 脈 峡 部で の 血 流 阻 害 時 には 大
ンアップし、その後のサーフェスをサー
とする流れの分岐および圧力変動と一致
動脈弓内に再循環領域と停滞領域が生
フェスメッシャーで再メッシュ化して三
する流れおよび圧力の波形を生成して、
じています。RBTSを留 置 するとこの 領
角形分割を最適化します。次に、6面体
CFDモデ ル に 適 用します。STAR-CCM+
域がなくなり、
より正常に近い流れが形
要 素で 構 成されるトリムメッシュと、境
による非定常シミュレーションによって
成 され ま す。つ まり、RBTSは 血 流 異 常
界 層 を 解 像 するプリズ ムレ イ ヤ ー を
流れ場と圧力波形を生成し、CFDの圧力
による大動脈弓の閉塞や血栓塞栓症の
使って体 積を離 散 化します。最 終 的 な
波形の1サイクル平均値と一致するよう
リスク解 消 に 有 効で あると考えられま
メッシュの要素数は100万∼120万の範
にLPMの 抵 抗を修 正します。LPMの 循
す。また、心 周 期 の 間 に 異 なる二 次 流
囲となり、総メッシュ数をいくつ か 変 更
環から求めた新しい流れの分岐をCFD
れの構造も見られます。
したメッシュスタディを行 い、解 がメッ
モデルに入力して、最終解となる収束が
シュに依存しないことを確認しました。
得られるまで反復しました。
管 壁 に お ける圧 力 の 分 析 からは、肺
根に高い圧力がかかると肺根が拡張す
次に、質量と運動量の保存則を表すナ
ビエ・ストークス方 程 式を解いて3次 元
流れ場を解きます。血液は、密度1,060
3
シミュレーションによって
RBTS留置の効果を解明
るおそれがありますが、RBTSありのモデ
ルでは緩和されています。体積流量を
比 較 すると、狭 窄90%のRBTSモ デ ル で
kg/m 、粘性0.004 Pa-sの非圧縮性ニュー
す べ ての モ デ ル に つ いて、マ ル チス
血 流 が 最も確 保され、正 常 な 状 態 に近
トン流体とし、陰解法による非定常問題と
ケールアプローチで生成した流れ場を詳
づいています。
してタイムステップを4.62msに設定してシ
細に分析した結果、流量と圧力値を標準
ミュレーションを実行し、心拍数130bpm
に近いレベルまで回復するには、狭窄を
標準のRBTSモデルを分析して、大動脈
の 時 間 に依 存し な い 解 を求 めました。
施してRBTSを留置することが有効な処置
峡部の血流阻害が深刻化する前の予防的
13
dynamics iSSUE 01
図6
狭窄90%+RBTSモデルにおける心臓拡張期ピーク、初期、中期、
後期での流れ場の流速ベクトル
図7
標準+RBTSモデルにおける心臓拡張期ピーク、初期、中期、後期での
流れ場の流速ベクトル
なRBTS留 置 もシミュレ ートしまし た。
を示す良い例です。古くは航空宇宙・自
その 結 果、RBTSによって全 体 的 な 血 行
動車産業にほぼ限定されていた数値シ
動態が大きく変わることはないものの、
ミュレーションの分野も、現在さまざま
せん断応力の減少によって腕頭動脈内
な領域に活躍の場を広げており、ライフ
と大動脈弓の一部に再循環領域が形成
サイエンスの分野でもますますCAEテク
され、
グラフト内に不規則な流れが形成
ノロジーが活用されています。
されることが 分 かりました。つまり、予
防的なRBTS留置は血栓症や閉塞のリス
この記事は、
アメリカ心臓協会(AHA)
クを高める可能性があるといえます。
の資金援助(11GRNT7940011)を
受けた、セントラルフロリダ大学工
まとめ
高 度 な シミュレ ーション 手 法 によっ
て、HLHSに 対 するHN手 術 時 の 複 雑 な
学 技 術 部 機 械・航 空 宇 宙 工 学 科と
アーノルド・パーマー小児病院心臓
センターの共同プロジェクトを基に
しています。
血 行 動 態 をより深く理 解 で きました。
現 在 で はCFDに 加 えて、STAR-CCM+と
Abaqusの 双 方 向 連 成 によるモデ ル の
流 体-構 造 連 成(FSI)解 析も行っていま
標準/狭窄90%間およびRBTSあり 図8
/なし間の流れ場の比較
(A: 標準、B: 標準+RBTS、
C: 狭窄90%、D: 狭窄90%+RBTS)
す。この 研 究 は、情 報 の 少 な い 外 科 手
術を深く理解するために数値シミュレー
※本記事はCD-adapcoのグローバルニュースレター
『Dynamics issue35』
からの抜粋です。
ションを導 入 する利 点とその 応 用 方 法
【訳:CD-adapco プリセールス 久保 謙治】
dynamics iSSUE 01
14
5
Technical Lecture 1
STAR-CCM+ v9.04 新機能紹介
リアリズムの追求とさらなる汎用性の向上
STAR-CCM+ v9.04ではリアリズムの追求とさらなる汎用性の向上のため、
新機能の追加、
機能強化がなされました。
本項では、特に注目すべき機能をご紹介致します。
フィールド関数エディタ
三角関数やベクトル関数、補間関数のリストも用意されて
いますので、
どんな関数が利用可能であるかの確認や複雑な
フィールド関数はSTAR-CCM+の中でも最も多用される機
関数の定義が簡潔にできるようになります。
能で、境界条件の分布や時間変化、または物性値の依存性、
さらにv9.04からフィールド関数を削除する場合に、図3の
工学データの抽出やポスト処理といったCFDに欠かせない処
ように依存関係を確認できるため、関数の管理も含めて利便
理を提供します。単純に既存の関数の組み合わせだけでな
性が向上しています。
(この機能はフィールド関数だけでなく、
く、ベクトル演算やテーブル補間からの関数作成といった 応
モニタやプロットの関係にも適用されます。)
用的 機能も豊富に持ち合わせており、応用的になればなる
ほどマニュアルとの突き合わせや確認しながらの記述が必要
でした。
図1はSTAR-CCM+ v9.04でフィールド関数を定義するとき
のウィンドウです。
図3:フィールド関数の依存関係表示
新しい剛体連結タイプ ̶ 接触
この 機 能 は、剛 体 の 壁 面 接 触 による反 発をモデ ル 化 する
機能であり、剛体運動を解くときに定義できる外力モデルの
一つとして実装されました。
これまでは、剛体壁面での反発をモデル化する際には、複
図1:フィールド関数エディタ
雑なフィールド関数またはJavaマクロにより、壁面への接近
と接近に伴う反発力を定義する必要がありました。しかし、
こ
の接触回避力により、設定が大きく簡略化されます。
STAR-CCM+ v9.04ではフィールド関数エディタが用意さ
れ、利用できるフィールド関数のリストから選択することで簡
単に関数を記述することができます。関数の記述が間違って
いる場合には、図2のように赤文字や強調表示により定義に
誤りがあることが示唆されます。
図2:フィールド関数エディタによるエラー表示
15
dynamics iSSUE 01
図4:接岸しているボートの壁面接触
設定項目は図5のように弾性係数および減衰係数で、壁面と
を設定する以外に、投入される粒子の流量から動的に粒子数
剛体の距離によって、その設定が有効になるかが決まります。
を決定する方法があります。
図6:粗視化モデルを使用した流動床の計算
粗視化はあくまで簡略化の一つの手段であるため、粗視化
粒子に含まれる粒子数は細かい粒子本来の挙動を損なわな
図5:接触回避力の設定方法
い程度で行われるべきです。本機能の利用においては粗視
化した場合と、
しない場合の流動の特性を比較しておく必要
しかし、この機能は 接触をさせない ようにするモデルであ
があります。
るため、壁面と剛体のギャップを0にすることはできません。
オー バ ーセットメッシュを用 いる場 合 は、従 来どおり壁 面と
オーバーセット境界の間に4層以上のメッシュが必要となります。
その他の機能
さらなる近 接 化、4層 未 満 の 空 間で もオー バ ーセットメッ
パフォーマンスの面では多数のパーツを含む場合のメッシ
シュが可能になるような機能は今後開発が進められます。
ングオプションとして 同時メッシュ が追加されています。一
つのパーツのメッシングを並列化するのではなく、CPUごと
DEM粒子の粗視化モデル
にメッシングするパーツを分担することでメッシング時間を
高速化します。
DEM(離散要素法)は個々の固体粒子の接触を含む運動を
STAR-CCM+ v9.04で は、
ここまで 紹 介した 機 能 以 外 にも
計算することで、粉体輸送等の化学プロセスの計算に利用さ
様々な機能やチュートリアル、機能検証が追加されています。
れています。流動床のような大/小のスケールの粒子が混
詳細は弊社カスタマーポータル ‒ The Steve Portalのドキュ
在する体系では、粒子間や粒子 ‒ 壁面間の接触判定が多くな
メントページをご参照いただくか、弊社サポートラインへお
り、計算時間が膨大となります。DEM粒子の粗視化モデルは
問い合わせください。
多数の小さなDEM粒子をひとまとめにして、大きなスケール
の1粒 子(粗 粒 子)に置き換えます。流 体 ‒ 粒 子 間 の 相 互 作
【文責: CD-adapco ポストセールス 佐藤 誠】
用は各DEM粒子で計算し、粒子間の接触計算は、粗粒子に対
して実施することで計算時間を短縮します。
粗視化粒子に含まれる粒子数は、インジェクタの定義の中
で行います。ユーザーが任意で粗視化粒子に含まれる粒子数
dynamics iSSUE 01
16
6
Technical Lecture 2
STAR-CD v4.22 新機能紹介
STAR-CD v4.22 筒内燃焼に特化した新機能
2014年6月2日にSTAR-CD v4.22がリリースされました。v4.20から、使いやすさや精度がさらに向上しています。
ここでは、最新バージョンでの主な新機能の中から4つについて紹介致します。
es-ice : 3D Automation機能
es-iceによるメッシュ作成機能が拡張されました。STAR-CD
v4.20ま で は、2Dセ クション メッシュを 自 動 的 に 作 成 する
Automatic 2D 機能が搭載されていましたが、Trimパネルの
設定 などの3Dメッシュ生 成 に関わるパラメータの 入 力 が自
動 的 に 行 わ れる様 に なり、作 業 者 の 入 力 項目は 限られます
図2:自動処理で作成された筒内メッシュ
(図1:Automate 3D パ ネ ル の 上 部 参 照)。これらの 入 力 後
に、自動 化させ た いプ ロセスを 選 択します(図1:Automate
3Dパネルの左下部参照)。また、各プロセスの終了毎にモデ
噴霧の初期条件定義
ルファイルを保存することが可能です。最後にRunを実行す
Rosin-Rammlerや 正 規 分 布 に 加え、ユ ー ザ ー 定 義 のPDF
るとメッシュ作成が開始します。幾つかのメッシュ作成プロ
(または、CDF)を指定することができます。これにより、ユー
セスが 終了している場 合 には、Continueを使 用 することで、
ザーサブルーチンdroico.fを使用せずに独自の粒径分布によ
その次のプロセスからの自動処理が可能です。メッシュ作成
る噴霧初期条件を定義することが可能となりました。詳しく
が終了すると、図2に示すような筒内メッシュが表示されます。
は、SUPPLEMENTARY NOTESの21章をご覧ください。
尚、本 機 能 の 詳 細 はSTAR-CD v4.22のes-iceチュートリアル
のChapter 11、3D Automationでご確認頂けます。
入力項目:セルサイズ、ボア径、
ストローク長、
コンロッド長、
ピンオフセット、エンジン回転
数、計算開始角、
計算期間
Tableを選択することで、粒径
分布を指定することができます
自動化プロセスの選択
ファイルを保存するタイミング
の 選 択(Trim TemplateやStar
setupの終了後にモデルファイ
図3:Injection Definitionパネル(pro-STAR Model Guide)
ルを保存すると便利です)
1DCHT(1次元非定常固体熱連成機能)
ある作業の続きから実施する
この機能では、一次元非定常熱伝導を仮定しており、固体
場合にはチェックした後、対象
メッシュを作成すること無く、熱連成計算が可能です(図4参
とする自動化処理項目を選択
照)。このモデルの仮定は、エンジンの1サイクル中に熱が浸
透する深さが1mm程度で、その領域で急激な温度変化が生
図1:Automate 3Dパネル
17
dynamics iSSUE 01
じている(図5参照)
ことが基となっています。
計 算 設 定 は、Extended Dataで 実 施 し、BEGIN 1D-CHTと
END 1D-CHTの 間 に、対 象とする 境 界 番 号、固 体 の 数、厚 さ
[m]、1D方向の離散点数、密度[kg/m3]、熱伝導率[W/mK]、比熱
固有直交分解
(POD:Proper Orthogonal Decomposition)
[J/kgK]、接触熱抵抗[m 2K/W]をフォーマットにしたがって入力
巨大自由度の乱流場において、得られた状態量から低次元
します(図6参照。詳しくは、SUPPLEMENTARY NOTESの20章
の情報を取り出して観察することがしばしばあります。POD
をご覧ください)。
はその手法の1つで、Lumleyによって初めて乱流場に導入さ
れましたが、それ以来、数値計算や実測値の解析に適用され、
現在では、
レシプロエンジンのサイクル間変動の解析にも使
固体メッシュを
作成する代わり
用されています。
STAR-CDで は、snapshot法 に 基 づくPODによる解 析 が 可
に、
固 体 物 性、
能です。この解析では、非定常計算で得られたccmtファイル
離 散 点 数 など
を使用してPODの結果ファイルを作成します。計算ディレク
を指定します
トリー内でccmpodを実行すると、対話モードとなり、以下の
内容を入力します(詳しくは、STAR-CDユーザーガイド19章を
図4:1DCHTモデルの概要
ご参照ください)。
1. TIME、CRANK_ANGLE、ITERATIONから単位を選択
2. 1サイクルの期間を指定した単位で入力
1200rpmの計算で
10ms(72degCA)
で
は、熱の浸透する距
離は1mm程度です
3. 観察する時刻(主値)を指定した単位で入力
4. POD解析の対象となるccmtファイルの個数を入力
5. ccmtファイル名を順に入力
その後、
POD_XXXX.YYYYY.ccmtが作成されます。このファイ
ルは非定常結果ファイルと同様にpro-STARで使用します。モー
ド1のu方 向 成 分 速 度 は、getc su-m001( v、w、はsv-m001、
図5:温度の時間変化(理論値)
sw-m001)で取得することが可能です。また、getc su-m00n
で取得される流速は、PODモード1からnによって再構築され
た流速です(図8参照)。それゆえ、各モードの流れ場を観察
する場合には、例えば、モード2の流れ場の場合、su-m002から
su-m001の結果をoperコマンドで差し引いてください。
図6:1DCHTモデルの設定(Extended Data)
動作検証結果を図7に示します。BASELINEは一定温度指定、
CHTは固体メッシュを作成した熱連成計算、1DCHTは本モデル
の結果です。壁面に燃料を衝突させた後の壁面温度は、CHT
と1DCHTとで良い一致が確認され、1DCHTの妥当性が確認さ
れます。また、本モデル使用による計算時間の増加は4%程度
(a)平均
(b)モード1
(c)モード1-9
図8-1:平均速度とPODモードの流れ場(円柱)
ですが、液膜などを含む全てのSTAR-CDの機能と併用すること
が可能であり、既存の計算メッシュにすぐに適用頂けます。
(a)モード2
(b)モード3
(c)モード4
図8-2:PODモードの流れ場(円柱)
図7:1DCHTモデルの検証(噴霧衝突後の壁面温度)
【文責 : CD-adapco ICEチーム 菅 裕二】
dynamics iSSUE 01
18
7
Overseas User Cases 2
海洋工学 - イルカの謎の解明
STAR-CCM+によるイルカの謎の解明
̶ 一般的なイルカの境界層遷移の
数値シミュレーション
DONALD RIEDEBERGER
シュトゥットガルト大学
DR. DEBORAH EPPEL
CD-adapco
海洋生物、特にイルカは、自然を観察してそのメカニズムを技術知見として活用しよう
と多くの時間を費やすエンジニアにとってすばらしいインスピレーションの源です。
1936年に英国の動物学者Sir James Gray氏は、イルカがこれほど高速、高加速度で泳ぐ
には筋肉量が少なすぎることを発見し、イルカの皮膚が特殊な反抗力特性を備えている
のではないかという仮説を立て、
これがよく知られるようになりました。
この問題は「グレイ
のパラドックス」
と呼ばれ、
これまで数々の科学者がこの難問に挑んできました。
19
dynamics iSSUE 01
図1
Vadim Pavlov氏が作成した一般的なイルカのジオメトリ
(側面図、上面図)
2011年、シュトゥットガルト大 学 に在
乱流モデルを連成させることで複雑なジ
ドイツ・ハノーファー大学ITAWのVadim
学 し て い たDonald Riedeberger氏 は
オメトリのシミュレーションが可能です。
Pavlov氏によって精密なCADモデルが
卒業研究の中で、高度な数値シミュレー
さらに、相関関係に基づく遷移モデルγ
作 成 さ れ まし た。こ のCADモ デ ル を
ションツー ルを使って一 般 的 なイルカ
-ReΘモ デ ル によって境 界 層 遷 移 の 予
STAR-CCM+にインポ ートし、高 度 な 曲
の 境 界 層 遷 移を分 析し、イルカの 謎 の
測 が で きます。商 用・内 製 を 含 め て数
線で 構 成され た 複 雑 なジオメトリを多
解 明 に 一 歩 近 づく成 果をもたらしまし
あるCFDコードの中でシュトゥットガル
面体メッシュによって正確に抽出し、
プ
た。彼はこの研究によってCD-adapco
ト大学空気力学・気体力学協会(IAG)が
リズ ム による壁 面 調 整 を 行 いました。
の2012年 度アカデミックCFDイメージ
STAR-CCM+を選んだのはまさに、
この
壁 面 調 整 を 行った の は、層 流 モデ ルと
コンテストと2013年 度カレンダーコン
モデルが搭載されていること、さらにい
遷移モデルのどちらでも壁関数を使用
テストで1位を受賞しています。この記
えば そ の 基 礎とな る 相 関 関 係 を ユ ー
せずに壁面近傍の速度勾配を解像する
事で は、イルカ独 特 の 流 体 力 学 的 特 性
ザー定義関数で簡単に変更できること
た めで す。イルカの 体 はブロック状 の
に 関 するDonald氏 のシミュレ ーション
が理由です。また、ジオメトリのインポー
解 析 領 域 に埋 め 込 み、その 境 界 面 がイ
についてご紹介します。
トからポスト処理までのワークフローが
ル カ の 表 面 から少 なくとも体 長(長 さ
直感的でわかりやすいことは、卒業研究
1.94 m)の2.5倍以上離れた位置となる
のような短期プロジェクトに最適でした。
大 きさとしました。非 構 造 格 子 のメッ
STAR-CCM+が選ばれた理由
シュ分 割 により、全 体 のグリッドサイズ
表面摩擦に対する層流と乱流の特性
このプロジェクトで はSTAR-CCM+が
を考えると、イルカの高速移動を説明で
以下の目的に使用されました。
きないという矛盾は1世紀近くにわたっ
・さまざまなレイノルズ 数で の 境 界 層
て議論されてきました。
グレイのパラドッ
クスが提唱されて以来、イルカは層流域
を拡大する何らかの特性を秘めており、
そのために体が受ける流体抵抗が減る
のではないかと考えられてきました。
遷移の挙動分析
・ 遷移開始時における主流の乱流レベ
ルの影響評価
・ イルカの皮膚における能動的な層流
化の潜在性予測
は約3,000万セルになりました。
シミュレーションと
パフォーマンス
予備段階として、乱流強度の範囲とイ
ルカのシミュレーションに最適な境界条
件 および 初 期 条 件を調 べるた め に、遷
移モデルを使って平板と軸対称物体で
CD-adapcoが 誇るCFDシミュレ ーショ
ンソフトウェアSTAR-CCM+で は、
レイノ
ルズ平均モデル(RANS)
と2方程式渦粘性
ジオメトリとメッシュ
一般的なイルカの計測結果に基づき、
シミュレーションを行いました。分離型
流体ソルバーを使用し、SST-k-ωモデル
でRANS方程式を解きました。
dynamics iSSUE 01
20
7
Overseas User Cases 2
海洋工学 - イルカの謎の解明
シミュレーションは、
ドイツ・シュトゥットガルト大学
IAGのD. Riedeberger氏とU. Rist氏によって実施さ
れました。
この記事は、論文『Numerical simulation
乱流運動エネルギー(j/kg)
0.0
6.7e-07
1.3e-06
2.0e-06
3.3e-06
4.0e-06
of laminar-turbulent transition on a dolphin
using the γ-ReΘ model』
(D. Riedeberger、U.
Rist共著)、シュトゥットガルト・ハイパフォーマンス
コンピューティングセンター(H L R S)報 告 書『H i g h
Performance Computing in Science and Engi-
圧力係数
-0.80
-0.50
-0.20
0.10
0.40
0.70
neering 11』
(W. E. Nagel、D. B. Kroener、M. M.
Resch編集、2011年)に基づいています。
図2
21
主流速度1m/s、乱流強度1%での一般的なイルカの境界層遷移の数値シミュレーション。乱流運動エネルギーのコンターは
遷移領域を示します。重ね合わせた圧力コンターは順圧力勾配の領域を示します。流線によって、
くちばし周りに複雑な3次元
流れが形成されていることがわかります。
dynamics iSSUE 01
1.0
図3
主流乱流強度Tu = 1%、主流速度u∞ = 0.25 m/s(上)、
1.0 m/s(中)、2.5 m/s(下)
での
乱流運動エネルギーkの分布
計算時間が補助金の対象になったた
め、シュトゥットガルト・ハイパフォーマン
スコンピューティング センター(HLRS)
のNEC Nehalemク ラ ス タ を 借 り て シ
ミュレーションを実行することができま
した。フルメッシュのほかに、計算コス
図4
主流乱流強度Tu = 1%、主流速度u∞ = 1.0 m/sでの
圧力係数Cpの分布(側面、上面)
S TAR- CCM+は乱流モデルと遷移モデルの
両方でR ANSシミュレーションを実行する
能力を備えているため 、実物に近い形 状で
複 雑な自然現 象を分析できます 。
トを低減するためにフィンを取り除いた
簡易版を使用してイルカのパラメトリッ
クスタディを実施しました。ほとんどの
するセ ル の 乱 流 運 動 エ ネ ル ギ ー 分 布
パラメトリックスタディで、負 荷 分 担と
(図3)から、境界層遷移が生じていること
形状で複雑な自然現象を分析できます。
通信のバランスをとるために各12GBの
は明らかです。自由流のレイノルズ数が
この研究では、γ-ReΘ遷移モデルと渦
8ノード上で48プロセスを使用し、1コア
大きくなるほど遷移の位置が上流に移動
粘 性SST k-ω乱 流 モデ ル の 連 成 によっ
あたり65万セルの並列計算を行いまし
しているのがわかります。速度が遅いと
て、イルカのフィンを含 む 鏡 面 対 称3次
た。運動量方程式と連続方程式の全体
きはイルカの目が乱流の発生源になり、
元ジオメトリを用いてその周囲の流れを
的 な 収 束 は わ ず か42時 間、4,000回 の
胴体部分では乱流はほとんど発生してい
調べました。その結果、イルカが通常の
反復で完了しました。
ません。速度が速くなると、
イルカの前
泳行速度の約3m/s、乱流強度1%の条件
頭部のわずかな領域に層流が見られる以
で泳ぐ場合、イルカの周囲の大部分で乱
外、大 部 分 で 乱 流 が 発 生して い ま す。
流が発生し、層流になるのは前頭部の領
結 果
する能力を備えているため、実物に近い
域だけであることがわかりました。主流
6
レイノルズ数ReL=0.54 x10 ∼5.4 x10
6
の範囲、すなわち主流速度u∞=0.25m/s
まとめ
の乱流強度の値が低くなる位置まで境
界層遷移の開始を遅らせる層流化の仕
∼2.5m/sの範囲について、
イルカの周囲
STAR-CCM+は乱流モデルと遷移モデ
組 み が 存 在 するならば、抵 抗 低 減 は 概
での水の流れを分析しました。壁に隣接
ルの両方でRANSシミュレーションを実行
算で約20%になると考えられます。
IAGについて
シュトゥットガルト大学空気力学・気体力学協会(IAG)では、流体力学の理論、数値、実証研究を行っています。約70名の会員が
航空宇宙、自動車、風力エネルギーおよび環境産業との共同基礎研究プロジェクトに従事し、航空宇宙工学の学士課程と修士課程
で教鞭を執る責務を負っています。数値シミュレーションに関しては、構内の計算クラスタだけでなく、シュトゥットガルト・ハイパ
フォーマンスコンピューティングセンター(HLRS)も利用されています。このインフラ内で、内製コード、研究用コード、商用コード
を使用して流体力学のさまざまな問題に取り組んでいます。
※本記事は CD-adapco のグローバルニュースレター『Dynamics issue35』からの抜粋です。【訳:CD-adapco プリセールス 久保 謙治】
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STAR Japanese Conference
CD-adapco では日本のユーザー様へ向けたユーザー会「STAR Japanese Conference」を
年 1 回の予定で開催しています。皆様のご参加を心よりお待ちしております。
【 STAR Japanese Conference 2015 開催概要 】
日程
火
2015年 6月 2日 3日 水
・ 会 場:横浜ロイヤルパークホテル
・ 参加費:無料(事前登録制)
STAR Japanese Conference 2013の会場風景
CD-adapco は、様々な流れ・熱・応力解析などのエンジニアリングシミュレーションを提供するグローバルリーディングプロバイダーです。
株式会社 CD-adapco
横浜オフィス 〒222-0033 横浜市港北区新横浜2-3-12 新横浜スクエアビル16F
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E-mail:info-jp@cd-adapco.com
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Tel:06-4807-7840 Fax:06-4807-7845
http://www.cd-adapco.com/ja
Dynamics Japan Edition ISSUE01
発 行 元 :株式会社 CD-adapco
※本誌に掲載されたすべての内容は、株式会社CD-adapcoの許可なく転載・複写することはできません。
2014 年 10 月発行
デザイン :Santana Art Works
※本誌記載の製品名は各社の商標または登録商標です。
©2014 CD-adapco