DANCE エドゥアール・ロック ラ・ラ・ラが 挑 む 『 白 鳥の湖 』 & 『 眠 れる森の美 女 』 12 13 c Édouard Lock ○ 作曲家)には絶大な信頼を寄せている。 「そう言えば、ギャヴィンがこの仕事を依頼してからしばらくして 僕に電話してきて、 『知ってる? チャイコフスキーってすごくいい 作曲家だよ』って。 (笑い) 彼はそれまでまったくチャイコフスキー に男性の名前としても女性の名前としても使われる言葉だという。 こう聞いてくると、ロックの作品の影にはジェンダーの意味合いも 込められているようだ。 「僕はもともと作品のタイトルに、意味性を持たせないんです。 に興味がなかったのだと思うけど、それだけ新たな発見があってこ 作品の内容とタイトルは直接的には関係がない。まず、 『Amjad』 の仕事を楽しんだのだと思う」 という言葉が好きだったことがタイトルにした理由ですね。けれど、 カンパニーにとっても、このモチーフを選ぶことによって新たな 収穫があったのではないだろうか。 「カンパニーにとっては毎回が新たな試みですから。確かにトゥ ジェンダーというのは、確かに認めるところはあります」 ジェンダーを超えたロマンティック・ バレエ! もしかするとそれ は、コンテンポラリー ・ ダンスのひとつの帰結なのかもしれない。 シューズを履くことを選んだように、過去において大きな変化を迎 c Jean-François Bérubé ○ えた時もありますが、チャイコフスキーも以前にやりましたし、男性 ダンサーがポアントで踊るのも初めてではないです」 ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップスの 最 新 作 『Amjad アムジャッド』 。 男女ともトゥシューズ をつけて踊るシーンでは、女性は強く美しく、 男性は繊細ですらある。 「現実社会で、 弱い女性なんて会ったことありま せんから」 と語る振付家エドゥアール・ロックに、 この作品に込めた思いを聞いた。 コフスキーの『白鳥の湖』と『眠れる森の美女』をモチーフに採り 取材・文=鴨澤章子(フリーライター、 ロンドン在住) 話は複雑に絡み合い、イメージが交錯し、ダンサーは人間とも妖精 有名すぎる 2 作品なだけに、誰をもが持っている“記憶”を逆手 ともつかない、あるいは男とも女ともわからない変化を遂げ、妖しい に取り、そこに彼独自の世界が展開される。昔々、お姫様はか弱く、 「彩の国さいたま芸術劇場に行くのを今から楽しみにしています。 までに美しい世界へ観客を誘う。音楽ももちろん、チャイコフスキー 王子様は力強く……ではなく、ロックの他の作品同様、女性は強く とにかく劇場自体が素晴らしいですから。 (舞台が)黒塗りなので、 をベースにしているものの、時にはジャズ・アンサンブル風に、時に 美しく、男性は繊細ですらあるのがある種、現代社会を反映して ライティングが完璧にできるし、何よりスタッフがいい。どんな要 はノイズを入れた電子音楽にアレンジされ、その旋律に聞き覚えは 求にもすぐに誠実に応えてくれたのには本当に驚きました」 あっても鮮烈さが圧倒的だ。 上げたことで、ダンス・ファンを騒然とさせた作品だ。 「チャイコフスキー自体は初めてではないんです。1988 年にオラ ンダ国立バレエの依頼で別の楽曲を振付けましたから。チャイコ 言葉少なに話すロックだが、 『Amjad アムジャッド』はロマン ティック・エラ(ロマン主義期)のバレエに対する、彼なりのオマー ジュとも言えるだろう。 「確かに、この 2 作品に関しては自分なりの記憶がありますし、 フスキーは当時まだレベルが低いとされていたバレエ音楽にシリア ありとあらゆるバージョンのものを観て来ました。この時代にバレ スに取り組んで、芸術の高みへと引き上げた最初の人物だし、物 エはひとつのスタンダードとしての形を成しましたし、非常に意義 語も人間めいた動物が出てきたりと奇妙なおとぎ話のようで、と のある時代だと思います。ただ、もちろん、昔のことでなにひとつ ても面白いと思いました」 映像は残っていないわけですから、本当はどう踊られていたかなん とは言ってもロックのこと。普通に話をなぞるわけはない。二つの いて爽快だ。 「だって、現実社会で、弱い女性なんて会ったことありませんから」 「音楽も舞台美術も最初に説明をするだけで、あとは一切、僕は スを率いる振付家、エドゥアール ・ ロックが懐かしげに言うのも無 口を出さない。音楽は 3 人の作曲家に頼んでいるんだけど、その 3 けれど、ハイスピードで宙に舞いながら踊るシーンのどれもがモノ 理はない。同劇場では『ソルト』を世界初演するなど過去 3 回公 人の間でも打ち合わせはなしですから。それで出てきたときに、ど トーンで描かれた絵のように美しく、そこにはロマンティック・エラに 演を行ない、それだけに馴染み深いものがあるようだ。今年の公 れだけ僕を驚かせてくれるかがポイントだと思っています」 完璧主義者として知られるロックは、作品に関わる全てを陣頭 都オタワで初演された『Amjad アムジャッド』 。作品にストーリーを 指揮するかのように思われがちだが、相手をクリエーターとして認 振付家、 ダンサー、映像作家であるエドゥアール・ロックは、 1954 年モロッコのカサブランカに生まれ、 カナダ・モントリオールで育つ。 大学で中世英文学を学ぶかたわら、 19 歳でダンスを始め、 レ・グラン・バ レエ・カナディアン、 グループ・ヌーヴェル・エール等に参加。 1980 年にラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップ スの前身となったロック・ダンサーズを結成。 モントリオールを拠点に、 これまでになく自由で大胆な作 品を次々と発表する。 1986 年、 『ヒューマン・セックス』 (1985) でベッシー賞を受賞。 その鋭い感覚と爆 発的エネルギーで世界のダンス・シーンに衝撃を与えた。 『ニュー・デーモンズ』 (1987) 『アンファント』 、 (1991) 『 、2(1995) 』 『アメリア』 、 (2002) では大規模な世界ツアーを敢行、 大きな話題を呼んだ。 初来日 は1996 年、 彩の国さいたま芸術劇場で『 2 』 を上演。2 年後の1998 年には埼玉県芸術文化振興財団 との共同製作により、 同劇場にて『ソルト』 を世界初演。 『ソルト』 はワールド・ツアーを経て1999 年に国 内5 都市で凱旋公演が行われ、 絶賛を博した。 ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップスとしての活動に加え、 パリ・オペラ座バレエ団、 ネザーランド・ダンス・シアター、 オランダ国立バレエ団への振り付け、 デヴィッ ド・ボウイ、 フランク・ザッパのコンサートの演出等、 その活動は幅広い。 て誰も知らないわけです」 カナダのダンス・ カンパニー、ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップ 演は『アメリア』以来 4 年ぶりのこと。作品は昨年、カナダの首 profile エドゥアール・ロック/ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップス (笑い) 通じる情感が溢れている。男性ダンサーがポアントで踊るパ・ド・ドゥ では、女性も男性も自立していて、ゆらゆらと決して交わらないのが 悲しい現代の恋愛を見ているようだ。 持ち込まず、激しく掻き鳴らされるロックミュージックとともに過激 めているからこそ、こうした作品づくりができるのだろう。特に音楽 実は『Amjad アムジャッド』というタイトルは、ロックの出生地 とも言えるダンスを繰り広げてきたロックが、こともあろうにチャイ を担当した一人、ギャヴィン・ブライヤーズ(著名なイギリスの現代 であるモロッコの言葉で、 「すばらしい」という意味を持つ。その他 ●●●●● DANCE ●●●●● ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップス 『Amjad アムジャッド』 7 月 4 日(金) 6 日(日) 【日時】 開演 開演 19 : 30 16 : 00 5 日(土) 開演 18 : 00 ※4日の公演終了後、 エドゥアール・ロックによるポスト・パフォーマンス・トークを行います。 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール 【会場】 【演目】『Amjad アムジャッド』 ( 2007 年初演)【振付】エドゥアール・ロック デヴィッド・ラング ブレイク・ハルグリーヴズ 【出演】ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップス ダンサー9名 ミュージシャン4 名 【チケット (税込)】 好評発売中 一般:S 席 7,000 円/A 席 5,000 円/学生 A 席 3,000 円 メンバーズ:S 席 6,300 円/A 席 4,500 円 【音楽】ギャヴィン・ブライヤーズ ●●●●● EXHIBITION ●●●●● ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップス 写真展 【日時】4 月 22 日 (火)〜 7 月 6 日 (日) 9 : 00 〜 22 : 00(休館日を除く) 【会場】彩の国さいたま芸術劇場 ガレリア 入場無料
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