スポーツ科学研究, 10, 164-172, 2013 年 2010 FIFA WORLD CUP SOUTH AFRICA T M における ボール奪 取 後 の速 攻 に関 する研 究 - ベスト 4 に進 出 したチームに注 目 して A research of the fast break after taking the ball in the FIFA World Cup South Africa TM in 2010 - focusing on the best 4 teams 田村達也 1) ,堀 野 博 幸 2) ,瀧 井 敏 郎 3) ,土 屋 純 4) Tatsuya Tamura 1 ) , Hiroyuki Horino 2 ) , Toshiro Takii 3 ) , Jun Tsuchiya 4 ) 1) 早 稲 田 大 学 スポーツ科 学 研 究 科 2),4) 早 稲 田 大 学 スポーツ科 学 学 術 院 3) 東 京 学 芸 大 学 1) Graduate school of Sport Sciences, Waseda University 2),4) Faculty of Sport Sciences, Waseda University 3) Tokyo Gakugei University キーワード: サッカー,戦 術 ,速 攻 Key words: soccer, tactics, fast break 【抄 録 】 現 代 サッカーにおける攻 撃 は,ボールを奪 った後 の速 い攻 撃 である「速 攻 」と意 図 的 にボールを動 かしていく「ポゼッション」に大 きく分 けることができる.2010 年 FIFA ワールドカップ(以 下 WC と略 記 ) では,意 図 的 にボールを動 かしていくポゼッション攻 撃 が注 目 を集 めた.一 方 で,ボールを奪 った後 の速 い攻 撃 は,得 点 を奪 うための重 要 な手 段 であることに変 わりはない. 本 研 究 では,2010 年 WC でベスト 4 に進 出 したチームについて,ボール奪 取 後 の速 攻 を可 能 に する要 因 と シュートに 至 るまでの 過 程 を 明 ら かにすること を目 的 とし た.まず,チ ームごとに 速 攻 を 抽 出 し,6 つの分 析 項 目 (①ボール奪 取 位 置 ,②ボール奪 取 後 のプレー,③ボールを奪 ってからのパス の方 向 ,④シュートに至 るまでのパス本 数 ,⑤シュートに至 るまでのボールの総 移 動 距 離 ,⑥シュート に至 るまでの攻 撃 の幅 )から速 攻 に関 して検 討 した.その結 果 ,「②ボール奪 取 後 のプレー」,「③ボ ールを奪 ってからのパスの方 向 」に関 して,4 チームに共 通 した特 徴 がみられた.4 チームともボール 奪 取 後 のプレーに関 して,ボールを奪 った選 手 が 1 タッチ目 で直 接 味 方 選 手 へパスした割 合 が最 も 高 いこと,またボールを奪 ってからのパスの方 向 に関 し,前 方 の場 合 に速 攻 が成 功 する割 合 が高 い ことが明 らかになった. 本 研 究 の結 果 より,世 界 トップレベルでは,ボール奪 取 後 の局 面 において可 能 な限 り少 ないタッチ 数 と前 方 向 にパスをつなげることが速 攻 を可 能 にする要 因 であることが考 察 された. スポーツ科 学 研 究 , 10, 164-172, 2013 年 , 受 付 日 :2012 年 10 月 30 日 , 受 理 日 :2013 年 5 月 15 日 連 絡 先 :田 村 達 也 〒202-0021 東 京 都 西 東 京 市 東 伏 見 2-7-5 体 育 教 室 棟 205 早 稲 田 大 学 スポーツ科 学 研 究 科 E-mail: a051627tatsu@fuji.waseda.jp 164 スポーツ科学研究, 10, 164-172, 2013 年 I. 序 論 であるかを判 断 することは非 常 に困 難 である. サッカーにおける戦 略 ・戦 術 は固 定 化 された 2010 年 WC では,優 勝 したスペインに代 表 され ものではなく,常 に課 題 を改 善 し,発 展 し続 ける るよう に, 意 図 的 に ボー ルを動 か し ていくポ ゼッ ものである(日 本 サッカー協 会 ,2006,p6).サッ ション主 体 の攻 撃 が注 目 を集 めた.一 方 で,ボ カーのゲームパフォーマンスに関 する分 析 は,4 ールを奪 った後 の速 い攻 撃 は,得 点 を奪 うため 年 に一 度 の FIFA ワールドカップ(以 下 WC と略 の重 要 な手 段 であることに変 わりはない(日 本 記 ) に 代 表 される 世 界 の 主 要 大 会 が 分 析 対 象 サ ッ カ ー 協 会 技 術 委 員 会 , 2010 ) . ま た , 世 界 となることが多 い(Grant et al., 1999; Hughes の主 要 大 会 を対 象 とし,ボール奪 取 後 の速 攻 et al., 1988; Jones et al., 2004; Stanhope, に焦 点 を当 てた研 究 は少 なく,その攻 撃 を個 2001). 別 に詳 細 に分 析 した研 究 は見 当 たらない. 分 析 内 容 に関 しては,攻 撃 に関 する研 究 が そこで,本 研 究 では,直 近 の WC を分 析 対 数 多 く存 在 し,得 点 あるいはシュートに至 るまで 象 とし,世 界 のトップレベルチームのボール奪 の攻 撃 パターンに着 目 した研 究 が多 い(Ensum 取 後 の速 攻 を可 能 にする要 因 とシュートに至 る et al., 2002; Grant et al., 1999; Hook and までの過 程 を明 らかにすることを目 的 とした. Hughes, 2001; Hughes and Franks,2005 ) . Reep et al.(1968)は「得 点 の 80%はパス 3 本 Ⅱ. 研 究 方 法 以 内 の攻 撃 によって生 まれる」と結 論 付 けた. 1. 対 象 試 合 伊 藤 ら(1999)も「シュートに至 るまでのパス本 数 2010 年 WC 南 アフリカ大 会 において,ベスト を少 なくすることが得 点 につながる効 果 的 な攻 4 に進 出 したスペイン,オランダ,ドイツ,ウルグ 撃 である」と報 告 している.一 方 ,Hughes et al. アイについて,それぞれグループリーグ 3 試 合 , (2004)は,「パス本 数 が多 い方 が 1 回 の攻 撃 に 決 勝 トーナメント 4 試 合 ,合 計 24 試 合 を分 析 対 おける得 点 率 は上 がる」と主 張 した.さらに 象 とした. Hook and Hughes(2001)は,「成 功 したチーム はそうでないチームと比 較 して,より長 い時 間 ボ 2.分 析 対 象 プレーの抽 出 オ ー プ ン プ レ ー 1) 中 に , 相 手 チ ー ム か ら ボ ー ー ル 保 持 し て い る 」 と 結 論 付 け , Jones et al. (2004)も同 様 の結 果 を示 した. ルを奪 取 しシュートに至 った攻 撃 のうち,相 手 このように,現 代 サッカーにおける攻 撃 の傾 選 手 に 阻 止 される こと な くシュー トに至 ったプレ 向 は「 パス 本 数 が 少 な く, 長 い 時 間 ボールを 保 ーを抽 出 した. 持 せず得 点 あるいはシュートに至 る攻 撃 」と「パ TV 映 像 から映 像 を抽 出 するため,全 てのプ ス本 数 が多 く,長 い時 間 ボールを保 持 し得 点 あ レーが記 録 できるものではない.そのため,ボー るいはシュートに至 る攻 撃 」に大 きく分 けること ル奪 取 からシュートに至 るまでの全 過 程 が記 録 ができる. されているものに限 定 した. 日 本 サ ッ カ ー 協 会 ( 2009 ) で は , 現 代 サ ッ カ 全 118 回 のうち全 過 程 が記 録 されていないス ーにおける攻 撃 をボールを奪 った後 の速 い攻 ペインの 2 回 の攻 撃 を分 析 対 象 から除 外 した. 撃 である「速 攻 」と意 図 的 にボールを動 かしてい *1. サッカーでは,フリーキックやコーナーキッ く「ポゼッション」主 体 の攻 撃 に大 きく分 けている. クなどのセットプレーとそれ以 外 のオープン しかし,先 行 研 究 と同 様 ,どちらが有 効 な攻 撃 プレーに大 きく分 けられる.(日 本 サッカー 165 スポーツ科学研究, 10, 164-172, 2013 年 協 会 技 術 委 員 会 ,2006) パス):(以 下 T1 と略 記 ) ② ボールを奪 った選 手 が 2 タッチ目 で味 方 選 3. 分 析 対 象 プレー数 手 へパスしたプレー:(以 下 T2 と略 記 ) 対 象 となるプレーはスペインの 29 プレー,オ ③ ボールを奪 った選 手 が 3 タッチ目 以 上 で味 ランダの 26 プレー,ドイツの 36 プレー,ウルグア 方 選 手 へパスしたプレー:(以 下 T3 と略 記 ) イの 27 プレーであった. ゴールキーパー(以 下 GK と略 記 )が手 を使 用 しボールを奪 取 した事 例 の場 合 ,①~③に 4. 分 析 項 目 分 類 できないことから,GK が手 を使 用 しボール 1) ボール奪 取 位 置 奪 取 をしたプレーとボール奪 取 し味 方 選 手 にパ 瀧 井 ら(1995)の研 究 を参 考 に,図 1 に示 す スをすることなくシュートに至 ったプレーは分 析 フィールドを 3 分 割 し,攻 撃 方 向 の前 方 からア 対 象 から除 外 した. タッキング・サード,ミドル・サード,ディフェンディ ボール奪 取 後 のプレーを上 記 の 3 つに分 類 ング・サードと設 定 した(日 本 サッカー協 会 , し,その後 チーム間 の比 較 をした.さらに,4 チ 2007). ーム合 わせたボール奪 取 後 のプレーの偏 りに 関 しても比 較 をした. 3) ボールを奪 ってからのパスの方 向 ボールを奪 ってからのパスの方 向 に関 して, 前 方 群 ( 相 手 ゴール方 向 を前 方 と して,ボール を奪 った選 手 の位 置 を含 めた,ゴールラインと 平 行 に引 かれた仮 想 のライン上 より前 方 )と後 方 群 ( 前 方 群 と は 逆 方 向 ) に 分 類 し ,チ ー ム 間 の比 較 をした.それに加 えて,4 チーム合 わせた ボールを奪 ってからのパスの方 向 に関 して,前 方 群 と後 方 群 の偏 りに関 しても比 較 を行 った. 図 1 サード・オブ・ザ・ピッチ ボール奪 取 位 置 を上 記 3 エリアに分 類 し,チ ーム間 の比 較 を行 った. 2)ボール奪 取 後 のプレー ボール奪 取 後 のプレーを以 下 の 3 つに分 類 した. ① ボールを奪 った選 手 が 1 タッチ目 で味 方 選 手 へパスしたプレー(相 手 選 手 から奪 った 図 2 ボールを奪 ってからのパスの方 向 ボールを最 初 のタッチで直 接 味 方 選 手 に 166 スポーツ科学研究, 10, 164-172, 2013 年 4) シュートに至 るまでのパス本 数 り算 出 をした. ボールを奪 ってからシュートに至 るまでのパス 本 数 を記 録 し,チーム間 の比 較 を行 った. 5) シュートに至 るまでのボールの総 移 動 距 離 ボールを奪 ってからシュートに至 るまでのボー ルの軌 跡 を視 察 により記 写 した(樋 口 ら,2012). 分 析 に関 しては,2 次 元 ビデオ動 作 解 析 システ ムであるフレームディアス 4 システム(DKH Inc.) にボールの軌 跡 を入 力 し,各 々の事 例 における ボールを奪 ってからシュートに至 るまでの総 移 動 距 離 を算 出 した. 具 体 的 には,フィールドを横 に 8 等 分 ,縦 に 4 等 分 し,32 分 割 したシートを利 用 し,ビデオ映 図 3 攻 撃 の幅 像 の芝 の目 やフィールドに引 かれている線 を手 5)と同 様 の比 較 を行 った. が かり にし て ,「 ボール 奪 取 位 置 」 か ら「 シュ ー ト が放 たれた位 置 」 まで のパス・ ドリブルの過 程 を 5. 統 計 方 法 プロットした.プロット単 位 は 10 分 1 秒 単 位 であ ボール奪 取 位 置 ,ボール奪 取 後 のプレー, る. ボールを奪 ってからのパス の方 向 に関 しては チ ボール奪 取 位 置 の観 点 からアタッキング・サ ードでボールを奪 取 しシュートに至 ったプレー ームの 4 水 準 の比 較 を行 い,χ 2 検 定 を用 いた. (以 下 Att と略 記 ),ミドル・サードでボールを奪 さらに,ボール奪 取 後 のプレー,ボールを奪 っ 取 しシュートに至 ったプレー(以 下 Mid と略 記 ), てからのパスの方 向 に関 しては適 合 度 の検 定 ディフェンディング・サードでボールを奪 取 しシュ を用 いた.また,シュートに至 るまでのパスの本 ートに至 ったプレー(以 下 Def と略 記 )の 3 つに 数 に関 してはチームの 4 水 準 の一 元 配 置 分 散 分 類 した. 分 析 を用 いた.シュートに至 るまでのボールの 対 象 となるプレーに関 して,ボール奪 取 位 置 総 移 動 距 離 ,シュートに至 るまでの攻 撃 の幅 に の 3 水 準 (アタッキング・サード,ミドル・サード, 関 してはチームの 4 水 準 とボール奪 取 位 置 の 3 ディフェンディング・サード)とチームの 4 水 準 (ス 水 準 の二 元 配 置 分 散 分 析 を用 いた.統 計 的 ペイン,オランダ,ドイツ,ウルグアイ)を要 因 とす 処 理 に は , SPSS 15.0J for Windows(SPSS る比 較 を行 った. Japan Inc.)を使 用 し,有 意 水 準 は 5%未 満 とし た. 6) シュートに至 るまでの攻 撃 の幅 Ⅲ. 結 果 両 ゴール中 央 を結 ぶ線 からどのくらい離 れて いるところをボールが移 動 しているのかの最 大 1. 分 析 項 目 の結 果 幅 を記 録 し,2 次 元 ビデオ動 作 解 析 システムで 1) ボール奪 取 位 置 チーム間 において,3 つのボール奪 取 位 置 に あるフレームディアス 4 システム(DKH Inc.)によ 167 スポーツ科学研究, 10, 164-172, 2013 年 有 意 差 (χ 2 =2.882,df=6)は認 められなかった. 方 選 手 へパス(T1),ボールを奪 った選 手 が 2 タ ッ チ 目 で 味 方 選 手 へ パ ス ( T2 ) , ボ ー ル を 奪 っ 2) ボール奪 取 後 のプレー た選 手 が 3 タッチ目 以 上 で味 方 選 手 へパス(T3) ボールを奪 った選 手 が 1 タッチ目 で直 接 味 の 3 つに分 類 した結 果 を表 3 に示 した. 表 3 ボール奪 取 後 のプレー スペイン オランダ ドイツ ウルグアイ T1 T2 T3 14 5 8 -0.3 -0.7 1.0 14 5 7 -0.1 -0.5 0.6 18 10 6 -0.2 1.0 -0.8 15 6 4 0.6 0.1 -0.9 有意差 ns ns ns ns (上 段 :プレー数 , 下 段 :残 差 ) 3) ボールを奪 ってからのパスの方 向 チーム間 において,ボール奪 取 後 のプレーに ボールを奪 ってからのパスの方 向 を前 方 群 と 有 意 差 は認 められなかった. 後 方 群 に分 類 した結 果 を表 4 に示 した. 4 チーム合 わせたボール奪 取 後 のプレーに おいて,有 意 差 (χ 2 =22.52,df=2,p<.01)が認 め られた.T1 の回 数 は,T2,T3 と比 較 し,有 意 に 表 4 ボールを奪 ってからのパスの方 向 (前 方 群 ・後 方 群 ) 多 かった. 前方群 後方群 スペイン 23 4 オランダ 23 3 ドイツ 28 6 ウルグアイ 21 4 チーム間 において,ボールを奪 ってからのパ スの方 向 に有 意 差 は認 められなかった. 4 チーム合 わせたボールを奪 ってからのパス **:p<.01 の 方 向 に お い て , 有 意 差 ( χ 図 4 ボール奪 取 後 のプレー(適 合 度 の検 定 ) 2 =34.32,df=1,p<.01)が認 められた.前 方 群 と後 方 群 に有 意 な差 があることが明 らかになった. 168 スポーツ科学研究, 10, 164-172, 2013 年 6 5 4 3 2 1 0 **:p<.01 図 6 シュートに至 るまでのパス本 数 図 5 ボールを奪 ってからのパスの方 向 (分 析 対 象 プレーの平 均 パス本 数 ) (適 合 度 の検 定 ) 4) シュートに至 るまでのパス本 数 チーム間 において,シュートに至 るまでのパス 対 象 となるプレーのシュートに至 るまでのパス 本 数 に有 意 差 は認 められなかった. 本 数 の平 均 値 を図 6 に示 した. 5) シュートに至 るまでのボールの総 移 動 距 離 表 5 ボール奪 取 位 置 における二 要 因 分 散 分 析 の結 果 (シュートに至 るまでのボールの総 移 動 距 離 ) ボール奪 取 位 置 (M±SD) Att Mid Def 57.50 100.69 127.73 ±50.21 ±64.52 ±101.74 20.50 116.00 116.73 ±26.16 ±56.41 ±82.97 F チーム ボール 交互作用 奪取位置 スペイン オランダ チーム ドイツ ウルグアイ 121.00 94.12 129.56 ±42.86 ±56.59 19.67 70.27 125.85 ±22.81 ±29.17 ±59.86 0.98 N=118 5.49* 0.74 *p<.05 チーム間 において,シュートに至 るまでのボ 対 象 となるプレーをチーム間 とボール奪 取 位 ールの総 移 動 距 離 に有 意 差 は 認 められなかっ 置 によって,シュートに至 るまでの攻 撃 の幅 の た.一 方 で,ボール奪 取 位 置 間 においては有 違 いを比 較 した. 意 差 (F(2,106)=5.49,p<.05)が改 めて確 認 され チーム間 (F(2,106)=2.26),ボール奪 取 位 置 た.Def は Att と Mid と比 較 して,シュートに至 る (F(2,106)=1.10 ) に関 して有 意 差 は 認 められな までのボールの総 移 動 距 離 が有 意 に長 かっ かった. た. Ⅳ.考 察 6) シュートに至 るまでの攻 撃 の幅 本 研 究 結 果 より,全 ての分 析 項 目 において 169 スポーツ科学研究, 10, 164-172, 2013 年 チーム間 に有 意 差 は認 められなかった.日 本 サ ボール奪 取 後 にゴールへ向 かっていた」という ッ カ ー 協 会 (2006 )は 「 現 代 サ ッ カ ー に お い て , 報 告 を支 持 する結 果 となった.さらに,田 中 ・秋 勝 敗 を決 するゴールは一 瞬 の隙 の中 にしか生 田 ( 1984 ) の 「 速 攻 に お い て , で き る 限 り 横 パ ス ま れ な い 」 ( 日 本 サ ッ カ ー 協 会 , 2006 , p.41 ) と を削 除 し,敵 ゴールラインに向 かってパスを出 述 べている.これは実 力 が拮 抗 したチーム同 士 すべきで あ る」という 報 告 も 支 持 す る結 果 と な っ の勝 敗 を左 右 するのはごくわずかな差 であると た. 考 えられる.本 研 究 の分 析 対 象 は WC でベスト シュートに至 るまでのボールの総 移 動 距 離 に 4 に進 出 したチームであり,実 力 は拮 抗 している. 関 して,ボール奪 取 位 置 に有 意 差 が認 められ このことが全 分 析 項 目 において有 意 差 が認 めら た.ボール奪 取 位 置 が自 陣 ゴールに最 も近 い れなかった理 由 であると考 えられる. ディフェンディング・サードであった時 には,ミド 一 方 で,ベスト 4 に進 出 したチームを合 わせ ル・サード,アタッキング・サードでボール奪 取 し た分 析 には有 意 差 が認 められた.ボール奪 取 た時 と比 較 してシュートに至 るまでのボールの 後 のプレーに関 して,「ボールを奪 った選 手 が 1 総 移 動 距 離 が 有 意 に 長 か っ た . Worthington タッチ目 で直 接 味 方 選 手 へパス」の割 合 が 4 チ (1974)は「ほとんどのゴールはバイタルエリア ームとも 50%を超 えていた.さらに「ボールを奪 と呼 ばれる地 域 からうまれている」と述 べている. った選 手 が 2 タッチ目 で味 方 選 手 へパス」の項 ま た , 竹 内 ら ( 2001 ) は 「 現 代 サ ッ カ ー に お け る 目 も 合 わせ ると , 全 チ ー ムと も 70% を 超 えて い 得 点 の多 くはペナルティエリア内 のシュートから た.また,4 チーム合 わせたボール奪 取 後 のプ う ま れ て い る 」と 述 べ て い る . こ の こ と は , 自 陣 ゴ レーにおいて,T1 の回 数 が T2,T3 と比 較 して, ールに近 い エリアでボール奪 取 し た場 合 には, 有 意 に多 かった.この結 果 は,ボールを奪 う局 より相 手 ゴールに近 いエリアでボール奪 取 した 面 において,できるだけ少 ないタッチ数 で味 方 場 合 と比 較 して,シュートに至 るまでの物 理 的 選 手 にパスをつなげることが効 果 的 な速 攻 を可 な距 離 が長 いと言 える.また,シュートに至 るま 能 にすると示 唆 される.これは田 中 ・秋 田 (1984) での攻 撃 の幅 に関 して,ボール奪 取 位 置 に有 の「速 攻 において,ダイレクトパスを多 用 すること 意 差 が 認 め ら れ な か っ た . こ の こ と は , ピッ チ 上 はボールタッチに費 やす時 間 を省 略 し,攻 撃 を の ど の エ リ ア で ボ ー ルを 奪 取 し た 場 合 に お い て スピード化 する」という報 告 を 支 持 する結 果 と な も攻 撃 の 幅 の使 い 方 に 差 がない と 言 える .つま った. り,相 手 ゴールに近 いエリアでボール奪 取 しシュ 2) また,ボールを奪 ってからのパスの方 向 に関 ートに至 る場 合 と自 陣 ゴールに近 いエリアでボ して,4 チームとも前 方 群 が 80%を超 えていた. ール 奪 取 し シュート に 至 る 場 合 で は, 相 手 ゴ ー さらに,4 チームを合 算 したボールを奪 ってから ルに近 いエリアでボールを奪 取 した場 合 の方 が のパスの方 向 おいて,前 方 群 と後 方 群 に有 意 シュートに至 るまでのボールの総 移 動 距 離 が短 な差 があった.この結 果 は,4 チームともボール いのは当 然 の結 果 であると言 える. を奪 った直 後 に,一 度 ボールを自 陣 方 向 へ下 しかし,アタッキング・サードでボール奪 取 し げることなく,前 方 にボールをつなぐことが有 効 た時 とミドル・サードでボール奪 取 した時 を比 較 な速 攻 を可 能 にする大 きな要 因 となっていると した場 合 には,シュートに至 るまでのボールの総 示 唆 し て い る . こ れ は Hughes et al ( 1988 ) の 移 動 距 離 に有 意 な差 が認 められなかった.この 「成 功 したチームはそうでないチームと比 較 して ことは先 に述 べた物 理 的 な距 離 の問 題 と矛 盾 170 スポーツ科学研究, 10, 164-172, 2013 年 する.そこで,アタッキング・サードでボールを奪 european top level soccer teams. Science 取 しシュートに至 ったプレー(8 プレー)を個 別 に and Football ll, London, E&FN SPON, 分 析 した.8 プレーの中 で,ボール奪 取 後 のプ 246-250 レーにおいて,Cp 以 外 のプレーが半 数 を占 め, ・ Grant, A.G., Williams, A.M. and Reilly, さらに,ボールを奪 ってからのパスの方 向 におい T.(1999) Analysis of goals scored in the ても,斜 めを含 む前 方 以 外 のプレーが 3 プレー 1998 を占 めた.このことはアタッキング・サードでボー Sciences 17, 826-827 World Cup. Journal of Sports ルを奪 取 したとしても,相 手 ディフェンダーの状 ・ Hook, C. and Hughes, M.D.(2001) Patterns 況 に よ り , 最 短 距 離 でシ ュートにつな げることが of play leading to shots in Euro 2000. In: できなかったと推 察 できる.このことがアタッキン Pass.com. Ed: グ・サードでボール奪 取 した時 とミドル・サードで Performance Analysis). Cardiff: UWIC, ボール奪 取 した時 を比 較 した場 合 に有 意 差 が pp.295-302 ・ Hughes, 認 められなかった理 由 と考 察 される. M.D. and CPA(Center Franks, I. for (2005) Analysis of passing sequences shots and * 2. 両 ゴ ー ル ポ ス ト と ペ ナ ル テ ィ エ リ ア の 両 角 goals in soccer. Journal of Sports Sciences を結 んだ扇 状 のエリア 23(5), 509-514 ・ Hughes, M., Robertson, K. and Nicholson, Ⅴ.まとめ 本 研 究 の目 的 は,世 界 トップレベルのチーム A. (1988) Comparison of patterns of play of のボール奪 取 後 の速 攻 を可 能 にする要 因 とシ successful and unsuccessful teams in the ュートに至 るまでの 過 程 を明 らかにすることであ 1986 World Cup for soccer. In: science and った.その結 果 ,ベスト 4 に進 出 したチームの共 Football. Eds: 通 の特 徴 が示 唆 された. K. and Murphy, W.J. London: E. and F.N. ・ Spon. 363-367 ボールを奪 う局 面 において,可 能 な限 り少 ・ 伊 藤 耕 作 ・ 伊 藤 雅 充 ・ 浅 見 俊 雄 ( 1999)サッ ないタッチ数 で味 方 選 手 にパスを送 る ・ Reilly, T., Lees, A., Davis, ボールを奪 った直 後 に,前 方 にパスを送 る カー競 技 のシュートに至 ったパスの距 離 ・速 本 研 究 の成 果 は,日 本 サッカーにおいても 度 ・ 角 度 , サ ッ カ ー 医 ・ 科 学 研 究 , 19,pp.24-26 重 要 なものであると考 えられる.今 後 ,日 本 代 表 や J リーグチームを対 象 に,同 様 の研 究 を行 ・ 樋 口 智 洋 ・衣 笠 竜 太 ・藤 田 善 也 ・堀 野 博 うことにより,日 本 サッカーの現 状 と 課 題 につい 幸 ・土 屋 純 (2012)散 布 した点 の代 表 値 を示 ても明 らかにする必 要 があるだろう. す尺 度 「プレー重 心 」の提 案 と精 度 の検 討 , スポーツ科 学 研 究 ,9,pp.338-349 ・ Jones, P., James, N. and Mellalieu, S.D. Ⅵ. 引 用 文 献 ・ Ensum, j. , Taylor, S. and Williams, M. (2004) Possession as a Performance (2002) A quantitative analysis of attacking Indicator in Soccer. International Journal set plays. Insight 4(5), 68-72 of Performance Analysis in Sport 4(1), ・ Garganta, j., Maia, j., Basto, F. ( 1997 ) Analysis of goal-scoring patterns 98-102 in ・ 日 本 サ ッ カ ー 協 会 技 術 委 員 会 ( 2006 ) 171 スポーツ科学研究, 10, 164-172, 2013 年 2006FIFA ワールドカップドイツ JFA テクニカ A(General), Vol. 131, No. 4, 581-585 ルレポート,日 本 サッカー協 会 監 修 ,エルグ ・ Stanhope, J. (2001) An investigation into ランツ:東 京 ,p.6,p62 possession with respect to time, in the ・ 日 本 サッカー協 会 技 術 委 員 会 (2006) soccer world cup 1994. In: Notational ・ 2002FIFA ワールドカップ Korea/Japan T M JFA Analysis テクニカルレポート,日 本 サッカー協 会 監 修 , of Sport III. 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