朝日先生寄稿その2 最近のドーピング事情

アンチ・ドーピング委員会コラム② ※注
最新のドーピング事情 血液検査2012年のロンドンオリンピックでは、日本は 38 個(うち金7個)の史上最多のメダルを獲
得したが、その陰では競技期間中に尿とともに血液も検査対象とされ、5132件のドーピング検査
が行われた。
なぜ血液検査が必要か。 これまで、筋肉増強剤や興奮剤などの禁止物質は尿中に使用の痕跡を認めることによって判定し
てきたが、ある特定の競技では、選手の一部がエリスロポエチンという、赤血球増加ホルモンにより
競技能力を意図的に高めていた(血液ドーピング)。またヒト成長ホルモンも競技力向上に役立つ
ことが知られ、これらの物質は尿検査では検出できず、生理的に体内に存在することから、1回の
検査で高値を示しても、即座にドーピング規定違反とは判定できない。そのため、血液ドーピング
の恐れのある国際競技連盟(自転車、陸上競技、ボート、スケート、スキー)では、定期的にトップ
クラスの競技者の血液検査を実施し、その中で禁止物質使用による生物学的指標(マーカー)の
変化を観察して禁止物質の乱用を間接的に検出する方法、すなわち「競技者生物学的パスポー
ト」という手法を導入した。実際、国際陸上競技連盟では、この手法により、6カ国9名の違反者の
うち6名の血液ドーピング違反が確認された。 今後は、オリンピックや世界選手権大会などでは
尿検査とともに1回 18ml の採血が行われる。また、違反選手への罰則規定の強化も検討され、2
015年からは資格停止が2年から4年に延長される見込みだ。
日本におけるドーピング違反件数は平成 19~23 年度に約25000例の検査を実施し 38 例の違
反を認めた(剣道はゼロ)。注目すべきは、そのうちの 12 例が医師処方の内服薬が原因である。
特に、ARB(アンギオテンシンⅡ受容体拮抗剤)といわれる降圧剤の一部には、禁止物質である
利尿剤のヒドロクロロサイアザイドが配合されているものがあり(商品名、プレミネント、コディオ、ミコ
ンビなど)注意を要する。
また、輸入サプリメントの中には、禁止物質の興奮薬、蛋白同化薬を含むものがあり、重量挙げ競
技で違反者が出た。これに関する情報は、国立健康・栄養研究所の「健康食品の安全性、有効性
情報」(https://hfnet.nih.go.jp/)が詳しい。また、昨今の『剣士のためのアンチドーピングマニュア
ル』も参考にしていただきたい。(アンチ・ドーピング委員会委員 朝日 茂樹)
※注 本記事は、朝日先生が『剣窓』8 月号(26 ページ)に寄稿、掲載されたものです。