水滴を利用した記録タイマー

高 校 物 理
水滴を利用した記録タイマー
立花学園高等学校
久 保 田 信 夫*
目 的
物理授業の力学分野では、さまざまな場面で速度の
データを利用した授業展開が求められる。演示実験と
して速度データを記録する方法としては、従来の打点
式記録テープを使用する方法があるが、記録された打
点が 1mm 以下と小さいことから測定結果を生徒全体に
見せることができず演示実験にはならないなど有効な
実験がないのが現状である。そこで、速度のデータを
簡単な道具で短時間にでき、授業の展開に沿ってデー
タの取れる装置とすることや、実験の様子や、結果が
教室の生徒全体に把握できるような装置を開発してい
くことを目的として本実験を考えた。
概 要
本実験は気密性の高い容器に水を入れ、ふたに管を
挿し込むと管の口の部分が 1 気圧となることから容器
に接した補助容器の水位を一定に保ち、等間隔で水滴
を落下する水滴記録タイマーを作製し力学分野での速
度計測の実験を行ない、授業で利用したものである。
記録方法として書道練習用の「水書き書道」やアクリ
ル製のモノサシなどを使って記録結果を分かりやすく
した実験である。
写真 2
水滴記録タイマーの全体
また、落下間隔を調節するためにエアーポンプ切り
替え機を取り付けた(以下調節バルブと呼ぶ)。利
用時には出口にカバーをして水を一時的に止めてお
く(写真 3)。
教材・教具の製作方法
Ⅰ. 水滴記録タイマーの作製
1 .水位を一定に保つために直径 5cm 高さ 13.5cm のア
クリル円筒と 60mℓの薬品ビンの下部横に穴を開けて
両者を内径 2mm の銅製パイプでつなぎ(写真 1)、ア
クリル用接着剤で固定し装置とした(以下水滴記録
タイマーと呼ぶ)(写真 2)。
写真 1 アクリル円筒と薬品ビンを銅管で連結している様子
*
写真 3 水滴の落下間隔を調節するためのエアーポンプ
切り換え機とカバー
くぼた のぶお 立花学園高等学校 教諭 〒 258-0003 神奈川県足柄上郡松田町惣領 307-2
☎(0465)83-1081∼4 E-mail polonium@mvj.biglobe.ne.jp
2.アクリル円筒の蓋に穴を開け内径 7mm のアクリル
管を刺し、フタをしっかりと閉める(写真 4)。
これにより、水中にあるアクリル管の口のみが外
気に接していることになり、この位置が 1 気圧とな
る。薬品用ビンに通じる銅管にはアクリル管の口か
ら連結部の水位による水圧がかかることになり、口
の開いた薬品ビンでも水位がアクリル管の口の高さ
と同じになることで安定することとなる。この水位
が一定になっている様子を写真 5 に示した。
3.水滴を落下させた時の間隔をパソコンで計測して
みると 0.200 ± 0.001 秒となりかなり安定した結果
を得ることができた(図 1)
。
図 1 水滴の落下間隔を計測したグラフ
4.このままの装置では落下する水滴の径が大きいこ
とからエアーポンプ用の連結器(商品名プラツナギ)
を取り付けた。これにより水滴径は約 6mmとなった。
5.水滴の落下間隔を調節するために 555 を利用して
0.2 秒から 0.1 秒間隔でクリック音をだす装置を図 2
のような回路で作製し水滴の落下間隔をクリック音
に合わせていくことで調節することとした。一回合
わせると、補助タンクの水位がアクリル管の口に達
するまで一定の水滴の落下間隔を保つことができる。
写真 4
フタに内径 7mm のアクリル管を取り付けた
図 2 555 による 0.1 秒から 0.2 秒間隔のクリック音を
発生する電子回路図
6.力学台車取り付け装置を使ってセットする(写真 6
・図 3)。
写真 5 薬品ビンの水の高さと管の高さが同じになる
ことが分かる
写真 6 力学台車に取り付けるための装置
図 4 実験テーブルの構造図面
Ⅲ. 記録方法
図 3 取り付け装置の図
Ⅱ. 記録の方法
1. 水書き書道による記録テープ作製
水書き書道とは習字の練習をするための用紙で、水
をつけると黒または赤になる用紙である。この用紙を
幅 3cm ×長さ 1m の紙テープ状態にして、黒板実験テー
ブルの水滴落下位置に置いて使用する。さらに結果を
教室全体に見せる方法として長さ 120cm ・幅 4cm の薄
い板とフィルミラーシートを利用して図 5 のような反
射板を作製し実験テーブル上に置くことで全生徒に結
果を見せるようにした(写真 8)
。
黒板実験テーブルとして横 38cm、縦 180cm、厚さ
1cm の木の板に黒板に掛ける木製フックを組み合わせ
て使用した(写真 7、図 4)。なお、テーブルの前面に
鉄製のメジャーを張ることで水滴の位置にマグネット
を置き長さを測定する際に利用することにした。
図 5 反射板の図面
写真 7 黒板に掛けて実験を行なうようにセットした
写真 8 実験の結果を反射板によって見せている
2. アクリル製の 1m モノサシを利用した記録方法
1 の記録方法では複数の測定結果を同時に記録する
ことができないので 1m の透明のアクリルモノサシに
替え、水滴を記録する。位置を変えることで複数のデ
ータが取れる。このモノサシを OHP で投射して、打点
距離を記録する。または生徒たちにグループを組ませ
て各班ごとに計測結果の分析をさせるなどに取り組ん
だ(写真 9)。
2. 斜面を利用した等加速直線運動と加速度について
斜面を下る運動を解析して速度の単位時間あたりの
変化が加速度であることを求める実験を 1 と同様に行
ない、データから瞬間の速度を求め V-T グラフを書か
せどのような運動なのかを考えながら単位時間当たり
の速度変化が加速度であることを教える教材とした。
写真 9 アクリルモノサシで測定した結果
3. 繰り返し使用可能で手軽な記録方法とし、生徒実
験用に実験テーブルに布製ガムテープを張り、記録用
紙とした。記録された水滴は雑巾でふき取ることで何
度でも記録を取ることができる。
学習指導における実績
1. 等速直線運動の解析と速度について
物理の授業の始めに等速直線運動が取り上げられて
いる。ここでは運動の解析方法を教えることを目的と
して、水滴記録タイマーを導入した。黒板用実験テー
ブルに水滴記録タイマーを乗せた台車をセットして実
験を行なった。
①A 水滴の落下が一定間隔であることは 555 を使った
発信機の音から理解させた。
②B 水滴記録タイマーを稼動状態にして、台車を軽く突
き動かして記録を取る。授業での記録を図 6 に示す。
③C この記録から単位時間あたりの移動距離を速度と
決めることを教え、速度を計算し V-T グラフを書か
せてこの運動がどのようになっているのかを考えさ
せていく。瞬間の速さや平均の速さなどを教えるた
めの教材として利用した。
図 6 授業で行なった等速直線運動のデータと
解析表ならびに V-T グラフ
図7
斜面の運動の記録と V-T グラフ
3. その他として下記のような実験を取り入れた。
① A運動の法則(F=ma の関係を求める)
② B運動量保存の法則(衝突実験)
③ C運動エネルギー
④ Dその他
実践効果
①A 実験の実践例に取り上げたように、大変手軽な実
験でありながら正確なデータを求めることができる
ことから授業中の演示実験として取り入れ、単元の
目的に合った授業に利用していくことが可能となる。
②B 本実験装置で得られるデータは、精度の高い単位
時間あたりの移動距離であることから、力学の授業
のなかでもっとも基本となるデータであり、さまざ
まな単元での利用が可能となった。
③C 電源や他の付属道具を必要としない実験であり、
過去の速度測定実験方法と比べて、手軽であり、単
純な計測方法であることから気軽に授業に取り入れ
ることができた。
④D 原理が簡単であり、従来の記録タイマーと同じよ
うにデータ計算ができることから、わかりやすいと
の声が生徒より出た。
⑤E 本実験を演示実験として取り入れることで、力学
分野への生徒の理解度が高まったものと考える。
⑥F 操作が簡単であり、一度セットしてしまえば誰も
が利用できることから生徒実験をおこなっても問題
なくおこなうことが可能であった。
⑦G 反射板を利用して測定結果を全体に見せること
で、実験結果やどのような数値を求めているのか、
データを整理する様子や解析の仕方などを見せなが
ら解説することができたことで、理解度の向上に役
立ったものと思われる。