WINTER 2013 14 < 海外オフィス 特集号> CONTENTS の制定が待たれる。なお、新外国投資法の施行日については明 P.1 ミャンマーの新外国投資法 シンガポール雇用法の概説 P.3 ~定年退職・再雇用法とともに~ P.6 ブラジル法に関する基礎知識 P.8 TMI月例セミナー紹介 (4) 記されておらず、報道によれば来年前半になる見込みである。施 行規則は新外国投資法の成立後90日以内に国家計画経済開発 省より発布される (新外国投資法第56条 (a) ) 。 以下の表は、主な改正点であり、詳細は本稿の第3以降におい て述べる。 項 目 ミャンマーの新外国投資法 ── 弁護士 行方國雄 ── 弁護士 永田有吾 ── 弁護士 堤 雄史 第1 はじめに  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ (1) ミャンマーの人口は約6,200万人であり、面積は約68万平方 (2) ミャンマーは天然ガス等の豊富な天然資 キロメートルである。 源、豊富な人的資源、 インド及び中国といった大国と隣接する地 する最も重要な法律の一つである外国投資法の改正が2012年 新外国投資法 規定なし(5) 制限または禁止される業種が規定さ れている (第4条。詳細については施 行規則に委ねられている。)。 審査期間 規定なし 最大105日 (第20条) 外資の出資比率 最低35%以上 制約なし (第9条、第10条) (6) MIC(7) が個別に判断を行う (第10条) 最低資本金 規定なし 法人税の減免 措置 一定の場合に3 年間の法人税 一 定の場 合に5 年 間の法 人 税の 免税または減税(第 27 条) の免税または減税 株式の売却 規定なし MICの許可を得れば売却可能(第 17 条、第 18 条) 土地使用権 規定なし(8) 最大50年賃借でき、 10年の延長が2 回まで認められる (第31条、 第32条) 雇用規制 雇用の際はミャンマー国民が優 先し、外国人を雇用する際には MICの許可が必要である旨の 規制のみ ミャンマー国民の雇用率、研修義務 等 が 規 定された(第 24 条、第 25 条、第 26 条) 環境配慮義務 規定なし 投資家が環境を損なわない義務を 負う (第 17 条) 政学的重要性等からアジア最後のフロンティアとして脚光を浴 びている。 そのような中で、 ミャンマーに進出する外国企業に関 現外国投資法 投資業種 (3) 11月2日に成立した (以下「新外国投資法」 という。)。そこで、本 稿において、1988年に公布された外国投資法(以下「現外国投 第3 投資規制 資法」 という。 ) と新外国投資法の主な相違点を紹介する。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 1 投 資業種 ■ 第2 改正の概要 投資業種に関して、現外国投資法においては何ら規定は存  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 在せず、国営企業法(The State-Owned Economic Enterprises 新外国投資法の概要としては、現外国投資法と比して法人税 Law)によって国営企業が独占的に事業を行う業種が規定さ の免除期間が延びる等有利な改正も多い反面、 ミャンマー国民 れており、通達1989年1号(The Union of Myanmar Foreign の雇用率が規定される等投資家に対する新たな義務も規定さ Investment Commission Notification No.1/1989) において外 れている。 国投資法に基づいて投資を行う業種が規定されている。 しかし、 もっとも、投資事業が規制されている分野の詳細等は施行規 新外国投資法は、第4条において投資が禁止または規制される 則に委ねられており、外国投資規制の詳細については施行規則 業種を規定している。 もっとも、 ミャンマー国民(企業) と合弁形 態により事業を行う場合には、施行規則で定められた割合で行う は、外国企業が所有する株式の全部又は一部をミャンマー国民 ことを提案できる (新外国投資法第10条(a) (4))。 また、新外国 (企業) または外国人(企業)のいずれに対しても売却できる旨 投資法と国営企業法との関係については、新外国投資法が優先 規定された (新外国投資法第17条(i) (j) 、第18条(b) ) 。 なお、全 する旨規定されている (新外国投資法第47条) 。 株式を売却する場合には、投資許可書を返還しなければならな 2 審査期間 ■ い (新外国投資法第17条 (i) ) 。 現外国投資法においては、審査期間に関する規定は存在せ 3 土 地使用権 ■ ず、審査期間が長期間にわたることも外国投資の阻害要因の一 既に通達2011年39号 (The Union Government Notification つであった。 しかし、新外国投資法においては、適式な投資申請 No.39/2011) によっても民間からの土地使用権の賃借も認めら を受け取った場合、MICは15日以内に申請を受理するか否かを れていたが、土地賃借期間が30年から50年へと延長された (新 決定しなければならず(新外国投資法第20条(a)) 、投資申請を 外国投資法第31条) 。 また、加えて10年間の延長が2回を限度と 受理した場合、投資許可を与えるか否かを90日以内に決定しな して認められる (新外国投資法第32条) 。 ければならない(同条(b))。 したがって、申請から最長105日以 (9) 内には投資許可の判断がなされることとなった。 3 外資の出資比率 ■ 第5 投資家の義務  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 現外国投資法と同様、外国人が100%出資する形態の投資も 1 雇 用に関する義務 ■ 認められ得る。出資比率の下限については、現外国投資法にお 現外国投資法においては、優先的にミャンマー国民を雇用す いては外国資本が35%以上必要とされていたが(現外国投資 る義務及び外国人を雇用する場合にはMICから許可を得なけ 法第6条) 、新外国投資法においては、下限についての規定は存 ればならない旨が抽象的に規定されていた(現外国投資法第 在しない。 ミャンマー国民(企業) または関連する政府機関、組織 20条) 。 しかし、新外国投資法によって新たな具体的な義務が導 と合弁形態で事業を行う場合には、外国資本金と国民資本金の 入された。すなわち、投資家は、熟練技術を必要とする事業のた 割合は外国人(企業) とミャンマー国民(企業)双方の合意により めにミャンマー国民の熟練工、技術者及び専門職員を雇用する 決定される (新外国投資法第9条(b) 、第10条(a) (2) ) 。 場合、原則として、事業開始から2年で25%以上、次の2年(事業 4 最低資本金 ■ 開始から4年) で50%以上、更に次の2年(事業開始から6年) で 最低資本金について、明文はないものの、従前は製造業の場 75%以上のミャンマー国民の雇用義務を負う (新外国投資法第 合は50万米ドル以上、 サービス業の場合は30万米ドル以上とさ 24条 (a) ) 。 れていた。 しかし、新外国投資法においては、MICが政府の承認 また、一定のミャンマー国民の従業員に対する研修義務、熟練 を得た上で個別に判断する (新外国投資法第10条(a) (3) ) もの を要しない事業におけるミャンマー国民の雇用義務等が規定さ とされた。 れている (新外国投資法第24条 (b) (c) ) 。 以上のとおり、出資比率や最低資本金の制限は撤廃されたた 2 環 境配慮義務 ■ め、外国投資規制が緩和されたと見ることができる。他方、MIC 現外国投資法においては、環境に配慮した規定は存しなかっ の裁量に委ねられている部分が大きく、MICの運用次第では、従 た。 しかし、新外国投資法では、投資家は、環境を損なわない方 前以上に規制が厳しくなる可能性も存するため、今後の運用を 法により投資を行う義務を負うものとされた(新外国投資法第 注視する必要がある。 17条(h))。 また、MICが投資申請を審査する際に環境保護の観 点からも審査が行われる (新外国投資法第12条(a))。 したがっ 第4 投資家の優遇措置 て、今後は、他の先進国における投資と同様に環境に対する配  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 慮も必要となる。 1 減免措置 ■ 以前から報道されていたとおり、新外国投資法においては、製 第6 おわりに 造業またはサービス業の法人税の免除期間が3年から5年に延  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 長された (新外国投資法第27条(a))。 また、MICの裁量によって 前記のとおり、新外国投資法による実務への影響の程度を測 認められ得る免税措置として次の2つの事項が新たに規定され る為には、遅くとも2013年2月初めまでには発布されると考えら た。すなわち、①投資金額の増額または投資事業を拡張する場 れる施行規則を待つ必要がある。 かかる規則において、例えば投 合、拡張される事業のために必要な機器類等に対する関税また 資規制業種の出資比率につきどの程度明確な数値基準が示さ は/及び国内で課される税金の免税または減税(新外国投資法 れるかは、今後のミャンマーに対する外国投資の手続きの透明 第27条( j ))、及び②外国へ輸出される製品に対する商業税の 性に大きく影響を及ぼすものと思われる。 免税または減税(新外国投資法第27条(k)) である。なお、現外 また、新外国投資法の成立により、経済特区法についても、新 国投資法において規定されていた種々の減免措置は新外国投 外国投資法の内容と整合する方向での改正が、速やかに行われ 資法においても引き継がれている。 るものと予想される。 2 株式の売却 ■ 株式の売却に関して、以前は何ら明文の規定が存在しなかっ た。 しかし、新外国投資法では事前にMICの許可を得た場合に 以上 (本稿は、昨年11月、弊事務所より一部クライアント宛メール配信したもの と同一の内容である。なお、弊事務所は現在迄に新外国投資法の和訳を 完成しているので、 ご興味のある方は、行方宛ご連絡をされたい。 ) (1) 2 011年、 IMF推計値 (2) 日本の約1.8倍 (3) 2012年9月に議会で可決された法案においては、 外資参入が禁止または制限されている 分野に送る出資比率の上限が50%となっている等保護主義的な色彩が強かったため、大 統領が見直し要望を添えて議会に差し戻しを行った。 (4) 2012年11月3日付日本経済新聞朝刊 (5) 他の法律及び通達によって規定されている。 (6) 明文はないものの、 製造業の場合は50万米ドル以上、 サービス業の場合は30万米ドル以 上とされていた。 (7) ャンマー投資委員会 ミ (Myanmar Foreign Investment Commission、 以下「MIC」 という。) (8) 通達2011年39号 (The Union Government Notification No.39/2011) によって民間 からの土地使用権の賃借も認められ、土地賃借期間は最大30年とされ、15年の延長が2 回まで認められていた。 (9) もっ とも、上記期間は 「適式な」申請がなされてから起算される。 したがって、 「 適式な」申請 か否かを判断する点にMICの裁量が認められていることから、実務上は当該裁量が行使さ れることにより審査期間が長期化する恐れがあることに留意が必要である。 弁護士 永田有吾 (1974年生) Yugo Nagata 直通/ 03-6438-5413 MAIL/ yunagata@tmi.gr.jp 【主な取扱分野】 一般企業法務 M&A全般 クロスボーダーM&A 国際企業取引 労務全般 就業規則関連助言 労働問題 環境法 排出権取引関連 ベトナム法 ベトナムにおけるM&A 【登録、所属】 第一東京弁護士会(2004) ベトナム外国弁護士資格取得(2011) 弁護士 堤 雄史 弁護士 行方國雄 (1985年生) (1954年生) Yuji Tsutsumi 直通/ 03-6438-5326 MAIL/ ytsutsumi@tmi.gr.jp Kunio Namekata 直通/ 03-6438-5503 MAIL/ knamekata@tmi.gr.jp 【主な取扱分野】 一般企業法務 国際企業取引 企業合併・買収(M&A) ベンチャー関連 金融取引 倒産処理/企業再建 紛争解決 【登録、所属】 第二東京弁護士会(1979) ニューヨーク州(1995) シンガポール雇用法の概説 ~定年退職・再雇用法とともに~ ── シンガポールオフィス 弁護士 関川 裕 【主な取扱分野】 一般企業法務 国際企業取引 労務全般 紛争処理全般 ミャンマー法 【登録、所属】 第二東京弁護士会(2010) 雇用法全体が適用されず(雇用法2条1項)、月給S$4,500超の (2) ワークマン 及び月給S$2,000超のワークマン以外の労働者に は雇用法第4章の規定(休日・労働時間等の規定)が適用され ない。 なお、雇用法を所管する人材省(“Ministry of Manpower Singapore”)によれば、 「管理職・上級職に該当する者」 とは、採 用、懲罰、解雇、賞与査定等について決定権限があるか否か、会 第1 はじめに  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 社の方針策定又は業務執行に関与しているか否かなどを考慮 シンガポールは、国土が東京23区をやや上回る程度、人口は して決定されることになっている。 外国人を含めても500万人強と非常に小さく、特段の資源も持 たない国である。 そのシンガポールが独立からわずか50年弱で 第3 雇用形態 一人当たりGDPで日本やアメリカを抜いて世界12位という経済  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 大国となったのは、国内の資源、資本だけでは産業発展に限界 雇用法では雇用形態については特段定められておらず、期間 があることを独立当初から認識し、外国企業による投資を呼び の定めのある雇用契約でも期間の定めのない雇用契約でも、 法律 込むために、低い法人税率、英語の公用語化、簡易な会社設立 上特段異なる取り扱いを受けることはなく、人材派遣を規制する 手続、統括会社等に対する減税措置、国際的仲裁センターの設 法律も存在しない。 これは、 シンガポールでは正当理由のない解 立等、様々な対策を講じたためである。 その一つが雇用者にとっ 雇が認められており、 いつでも雇用契約を解除できることから、 期 て有利な労働法制の整備である。 シンガポールでは正当理由 間の定めのある雇用契約と期間の定めのない雇用契約の取り扱 のない労働者の解雇が認められる等、雇用者にとって非常に有 いを分ける必要がないためである。 但し、1週間の勤務時間が35 利な労働法制となっており、外国企業がシンガポールに進出す 時間以下の者はパートタイム労働者として一部異なる取り扱いを る一つの要因となっている。 そこで、本稿ではシンガポールの雇 受けることになっている点に注意が必要である (雇用法66A条) 。 用法(“Employment Act”)について概説するとともに、2012年 1月1日に施行された定年退職・再雇用法(“Retirement and Re- 第4 就業規則 employment Act”) についても解説する。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 第2 雇用法の適用範囲 るか否かは雇用者の自由である。 もっとも、就業条件を明確にし、  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 労働者との紛争を防止するために就業規則を作成するのが一般 シンガポールの雇用法の特徴としては、その適用範囲が非 的であり、事実多くの日系企業でも就業規則を作成している。 就業規則についても雇用法には規定がなく、就業規則を定め 常に限定されているということである。①船員、②メイド、③管 (1) 理職・上級職に該当する者 、④その他大臣が指定する者には 第5 給与 がシンガポール国民となり、父親との間で適法な婚姻関  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 係がある場合には、出産前に4週間、出産後に12週間の出 シンガポールには最低賃金を定める法律は存在せず、給与の 産休暇を取ることができ、その全てが有給休暇となる (同 金額は雇用者と労働者の合意によって自由に定めることができ る。給与支払に関しては、給与計算期間は1ヶ月を超えてはなら 法9条1項、9A条1項) 。 ②育児休暇 ず(雇用法20条2項) 、雇用者は給与計算期間の終了後7日以内 また、育児休暇として、勤続3ヶ月以上で7歳未満の子供 。 に給与を支払わなければならない(同法21条1項) がいる労働者(父親も含みます。)は、1年につき2日間の (3) (4) 第6 労働時間・休暇等  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ (1)試用期間 有給休暇が与えられる (雇用法87A条1項) 。育児休暇も出 産休暇と同様に育児共同救済法の要件を満たした場合に は有給休暇日数が最大で6日に拡大される。 ③疾病休暇 雇用法には試用期間に関する定めがなく、雇用者と労働 更に、労働者は疾病休暇として、入院を要しない場合に 者の合意によって試用期間の有無及び期間を自由に定める は最大で14日、入院を要する場合には最大で60日の有給 ことができる。 もっとも、実務上は試用期間を3ヶ月から6ヶ月 休暇を取ることができる (雇用法89条1項)。但し、疾病休 に設定し、試用期間中は雇用者、労働者の両方から自由に雇 暇を取得するためには、労働者は雇用者の費用で雇用者 用契約を終了させることができると定めている企業が多い。 が指定した医師等の検査を受けなければならない。 (2)労働時間 原則として、 労働時間は1日8時間、 1週間44時間までと定め 第7 解雇 られており、連続労働時間は6時間を超えてはならない (雇用  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 法38条1項) 。 雇用者は基本賃金の1.5倍の賃金を支払うこと (1) 通常解雇 により時間外労働を求めることができるが、 1ヶ月72時間を超 解雇の規定は、 シンガポールの雇用法の大きな特徴の一 えて時間外労働に従事させることはできない (同条4項、 5項) 。 つであり、解雇のための正当理由を求めておらず、事前の解 雇通知又はこれに代わる解雇手当の支払いを行えば通常解 (3)休日 シンガポールでは週休1日が原則となっており (雇用法36 雇が認められている (雇用法10条1項、11条)。 そのため、雇 条1項)、雇用者の要請により休日出勤を行わせた場合には 用者は、事前通知又は解雇手当の支払いを行えば何らの理 (5) 基本賃金の倍の賃金を支払わなければならない(同法37条 由なくして労働者を解雇することができるようになっており、 3項)。多くの日系企業は、土日を休日とする週休2日制を採 この規定はシンガポールに進出する外国企業にとって非常 用しているが、就業規則上は日曜日を法定休日 (“Rest Day”) に有益な規定となっている。 事前解雇通知の予告期間は雇用 とし、土曜日は“Off Day”としている。 これは、Rest Dayに出勤 契約によって定めることができるが、雇用契約に定めがない を命じた場合には上記のとおり基本給の倍の賃金を支払わ 場合には雇用法によって勤続日数に応じて1日から1ヶ月まで なければならない一方、Off Dayに出勤を命じた場合には(1) の期間が定められている (同法10条2項、3項) 。実務上は、雇 の時間外労働として扱われ基本給の1.5倍の賃金を支払え 用契約において予告期間を1ヶ月と定めている場合が多い。 ば足りるためである。土日両日をRest Dayと定めて土曜日に 雇用法上は事前解雇通知を行えば解雇手当を支払う必要 出勤を命じた場合には、基本給の倍の賃金を支払わなけれ はないが、実務上は解雇手当を支払うのが一般的であり、解 ばならなくなるため注意が必要である。 雇理由、労働者の帰責性等を考慮した上で金額を決定して (4)年次有給休暇 原則として勤続1年目に7日の年次有給休暇が与えられ、 それ以降は14日を上限として勤続年数1年ごとに1日が加 いる。 また、通常解雇を行った場合には解雇日に未払いの給 与全額を支払う必要がある (同法22条) 。 (2) 整理解雇 算される (雇用法43条1項)。年次有給休暇は、対象となる年 整理解雇も通常解雇と同様に正当理由なく事前の通知を の終了後12ヶ月以内に使用されなければ喪失する (同条6 行えば実施することができるのが原則である。但し、整理解 項)。なお、雇用者側の事情で労働者を解雇した場合には、 雇を実施した場合には人材省等の関係省庁への届出を行う 雇用者に当該労働者の未消化年次有給休暇の買取義務が ことがガイドラインにおいて推奨されている。 発生する (同条7項) 。 (5) その他の法定休暇 ①出産休暇 (6) 整理解雇の場合には勤続年数にかかわらず整理解雇手当 を支払うのが一般的であるが、雇用法では勤続年数3年未満 の労働者は整理解雇手当を要求する権利がないとのみ規定 出産前90日以上勤続している女性は、出産前に4週間、 されており (同法45条) 、勤続年数3年以上の労働者に対して 出産後に8週間の出産休暇を第2子の出産まで取ることが 整理解雇手当を支払うべきか否かについて何らの規定もお でき、その内8週間が有給休暇となる (雇用法76条1項)。 かれていない。 そのため、雇用法上は整理解雇手当を支払う なお、出産休暇については雇用法の他に育児共同救済法 義務は課されていないと考えられるが、人材省は上記ガイド (“Child Development Co-Saving Act”) という法律があ ラインにおいて勤続年数3年以上の労働者に対しては整理解 り、同法により出産前90日以上勤続している女性で、子供 雇手当を支払うべきとの解釈を示しているため、 少なくとも勤 続年数3年以上の労働者に対しては整理解雇手当を支払う 給額がS$3,000以上であること、 (ii)職務経験者の場合には職 必要がある。 また、整理解雇手当の金額についても雇用法に 務経験や能力に応じてS$3,000よりも高い給与を得ることが条 は定めがないが、上記ガイドラインでは勤続年数1年につき2 件となっている。一方、S Passは( i ) 月給額がS$2,000以上、 (ii) 週間から1ヶ月分の給与相当額という基準が示されている。 (3)懲戒解雇 大学又は短大若しくは資格ある技術者又は専門家になるため の(1年以上の教養課程を含む)専門学校を卒業していること、 上記のほか、労働者が違法行為を行っている場合には、 (iii)専門職又は技術職に就くこと、 (iv)当該職種について数年 雇用者は十分な調査を尽くした上で、事前の解雇通知なし の経験があることが条件となっている。 に懲戒解雇することができる (雇用法14条) 。 シンガポールでは現地労働者を優先して雇用する等の義務 は定められていないが、S Passを取得する労働者を雇用する雇 第8 年少者・高齢者の雇用 用者は、現地労働者に対するS Pass保有者の割合を20%以下に  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ しなければならない。つまり、労働者1名にS Passを取得させる (1)年少者 場合には、最低でも現地労働者を4名雇用しなければならない シンガポールでは15歳以下の者を雇用してはならない (雇用法68条1項) 。 ということになる。 また、Work Permitを取得する労働者を雇用 する雇用者は、現地労働者に対するWork Permit保有者の割合 (2)高齢者 を業種に応じて45%から60%以下にしなければならない。 定年年齢は原則として62歳と定められているが(定年退 職・再雇用法4条1項) 、62歳到達時において勤続年数が3年 第10 労働組合・労使紛争 (7) 以上で、かつ、勤務成績及び健康上の問題がない労働者は  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 65歳まで再雇用を受ける権利を有している (同法7条1項及 労働者は自由に労働組合を組成することが認められており、 この再雇用義務は、2012年1 び再雇用ガイドライン28条)。 雇用者は労働者が労働組合に参加することや労働組合活動を (8) 月1日に施行された定年退職・再雇用法によって定められた 行うことを制約してはならない(雇用法17条)。労働組合を組成 義務であるが、 シンガポール政府が少子高齢化を背景に高 するためには7名以上の労働者による合意が必要であり (労働 齢者の雇用を促進するために作成した法律である。 組合法 (“Trade Union Act”) 9条1項) 、労働組合を組成した場合 同法に基づき、雇用者は、上記要件を満たす労働者に対 には労働者は1ヶ月以内に労働組合登録官への登録を行わな しては、定年を迎える3ヶ月前までに、65歳までの3年間又は ければならない (同法8条1項) 。 65歳までの延長を前提とした最低1年間の再雇用契約の申 労働組合の役員は組合員を代表して雇用者との間で労働協 し出を行わなければならない(同法7A条1項、6項、同ガイド 定の交渉及び合意を行うことができ、合意に至った場合には1 ライン11条、14条)。再雇用契約は必ずしも定年前と同内容 週間以内に合意した労働協定を労働仲裁裁判所へ提出し、認 である必要はなく (同法7A条4項)、労働者との合意の上で 証を受けなければならない(労使関係法(“Industrial Relations 合理的な範囲内で条件(勤務地、勤務内容、給与等) を変更 Act”)25条)。 また、労働組合は組合員の過半数の同意を得た場 することができる (同条5項)。雇用者が合理的な努力を行っ 合にはストライキやその他の労働争議を行うことができる (労働 たにもかかわらず、経営上再雇用を行うことができない場 組合法27条1項) 。労使紛争はまず労使関係局長による調停、 そ 合には、雇用助成金を支払った上で退職してもらうことがで の後に労使仲裁裁判所による仲裁によって解決が図られること きるが(同法7C条1項)、同要件は非常に厳格に運用されて になっている。 おり、簡単には認められない点に留意されたい。雇用助成金 は、賃金の3か月分を目安としてS$4,500からS$10,000の 第11 まとめ 範囲で定めることとされている (同ガイドライン25条) 。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 一方、雇用者は、上記要件を満たさない労働者に対して 以上がシンガポールの労働法制の概要であり、 これをまとめた表 は、定年を迎える3ヶ月前までにその旨通知した上で定年退 を以下に記載する。 シンガポール労働法制は基本的に雇用者に有 (9) 、 こ 職させることができ (同法7A条8項、同ガイドライン12条) 利に設計されており、 解雇等を自由に行うことができるのが原則で のような労働者に対しては雇用助成金を支払う必要はない。 あるが、 あまりに労働者に不利な契約や解雇を行っていると人材省 による勧告や指導があるため実務の動向にも充分に留意されたい。 第9 外国人の雇用・現地労働者の雇用義務  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ シンガポールで就労しようとする外国人は外国人労働者雇用 法(“Employment of Foreign Manpower Act”) に基づいて就労 ビザを取得しなければならない。就労ビザは業務内容や給与額 によって①Employment Pass(“EP”) 、②S Pass、③Work Permit (10) 日本人労働者はWork Permitを取 の3種類に分けられている。 得することができないため、EPかS Passを取得することになる が、EPは( i )新卒者の場合には、高度な教育機関を卒業し、月 (シンガポール雇用法制のまとめ) 雇用形態 特に定めなし 就業規則 特に定めなし 最低賃金 特に定めなし 給与支払方法 給与計算期間は最大で1 ヶ月 給与計算期間終了後7日以内に給与支払 試用期間 特に定めなし 労働時間 1日8時間・週44時間まで 時間外労働 時間外労働手当 休日 月72 時間まで Tel: +65-6408-0696 (代表) 基本賃金の1.5 倍 Fax: +65-6408-0601 週給 1日 Email: kshimono@tmi.gr.jp ysekikawa@tmi.gr.jp 年 7日 (14日を上限として勤続年数 1 年ごとに1日が加算) 有給休暇 出産前に4 週間 出産後に8 週間 出産休暇 休日休暇 労働手当 正当理由のない解雇 (リストラ) 解雇の場合の 事前通知期間 解雇手当 (通常解雇) 解雇手当 (整理解雇) (1) 理職・上級職に該当する者でも月給がS$4,500以下の者には、 管 給与支払に関する 規定 (雇用法20条~23条) 等、雇用法の一部の規定が適用される (同法2条2項) 。 基本賃金の1.5 倍 (2) 人等の肉体労働者、 職 電車等の運転手、清掃員、建設作業員等を指す。 可 (3) し、 但 時間外労働に対する賃金は給与計算期間の終了後14日以内に支払えば足りる (雇 用法21条2項) 。 1日∼ 1 ヶ月前 (4) 記のとおり、 上 これらの規定は月給S$4,500超のワークマン及び月給S$2,000超のワー なし クマン以外の労働者には適用されない点に留意されたい 勤続年数 1 年につき2 週間∼ 1 ヶ月分の賃金相当額 年少者 15 歳以下の者の雇用不可 高齢者 定年は62 歳 但し、原則として65 歳までの再雇用義務あり 外国人雇用制限 以上 特に定めなし ※本稿は、 2012年12月における一般的な情報を提供する目的で作 成されたものにすぎず、 専門家としての法的助言は含まれていな (5) 勤時間が半日未満の場合には1日分の賃金、 出 半日以上1日未満の場合には2日分の賃 金、1日以上の場合には2日分の賃金及び基本給の時間単価の1.5倍の賃金を支払わな ければならない。 (6) ripartite Guidelines on managing Excess Manpower T (7) ンガポール国民及び永住権者に限られる。 シ (8) ripartite Guidelines on The Re-employment of Older Employees T (9) 様にこちらの要件も非常に厳格に運用されており、 同 簡単には認められない。 (10) その他 、一 定 額 以 上の給 与を得ているE P 保 有 者に発 行されるP e r s o n a l i z e d Employment Passや起業家向けのEntre Pass等がある。 い点に留意されたい。 弁護士 先日ホームページ等でご報告させて頂きましたとおり、 当事務所は 関川 裕 (1981年生) 2012年9月にシンガポール司法当局より正式に許可を受け、 同年 Yutaka Sekikawa 10月にTMI総合法律事務所シンガポールオフィスを開設し、 業務を 直通/ 03-6438-5487 MAIL/ ysekikawa@tmi.gr.jp 開始しております。 シンガポールを含む東南アジア関連でご相談が ございましたらお気軽にお問い合わせください。 (お問い合わせ先) TMI Associates (Singapore) LLP 【主な取扱分野】 一般企業法務 クロスボーダーM&A 資本業務提携 ジョイントベンチャー ベンチャービジネス クロスボーダー紛争 国際企業取引 東南アジア業務 【登録、所属】 第二東京弁護士会 (2005-2010、2012) 1 Raffles Place, #24-00 One Raffles Place Tower 1 Singapore 048616 ブラジル法に関する基礎知識 ── 弁護士 柏 健吾 (ブラジルのTozzini Freire法律事務所出向中) い。判決までには長期間かかることも多いため、和解により 終結することも少なくない。米国のディスカバリのような制度 はなく、証拠の提出の要否は原則として当事者が選択でき 第1 はじめに る。 また、裁判において、米国のように懲罰的な損害賠償が  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 課せられることはなく、損害賠償額は実際に生じた損害を基 近年著しい経済発展を遂げてきたブラジルは、2014年の 礎として算定される。 ワールドカップ開催、2016年のオリンピック開催を控え今後更 (3) 私的自治の原則 なる経済発展が期待され、日本企業のブラジル進出もますます 私人間の取引については私的自治の原則が適用され、強行 増えてくると思われる。 そこで、本稿では、 ブラジルの法制度につ 法規に反しない限り、当事者により合意された内容が有効と いて基本的な事柄を交えながら概説する。 なる。 第2 ブラジルの法制度及び法実務の概観  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ (1) ブラジルの法体系 第3 ブラジル進出企業が直面する主な法律問題  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ (1) 外国資本に対する規制 日本と同様に大陸法系であるため制定法がベースとなる 外国資本に対する規制は原則としては存在せず、手続き的 が、制 定 法の解 釈にあたり過 去の裁 判 例も斟 酌される。 な規制(ブラジル中央銀行への登録など) を除けば、外国資 ブラジルは、連邦国家であるものの、会社法、民法、労働 本と内国資本は同様に扱われる。ただし、核エネルギー事 法などの主要な法律は統一法(連邦法)により規律され 業、 マスメディア事業など一部の事業については外国資本に ている。 対する規制がある。 (2)裁判実務 訴訟の数は多く、中でも租税訴訟及び労務訴訟は非常に多 (2) 会社の形態 法 律 上 数 種 類の会 社 形 態 が 定められているが、実 務 上 最もよく用いられている形態はSociedade Limitada(以 会社分割など日本における買収方法と大きく異ならない。企 下「Limitada」) とSociedade Anônima(以下「S.A.」)で 業買収に際しては、特に租税債務及び労働債務については ある。Limitadaは日本の有限会社に近く、S.A.は株式会 留意が必要である。租税債務及び労働債務については、買 社に近い。その他の会社形態もあるが、持分権者が無限 収に係る契約上で同債務を承継しないと定めたとしても一 責 任を負うため、事 実 上 ほとんど用 いられてい な い 。ま 定の条件を満たせば買主に承継される可能性があるからで た、2 0 1 2 年 1月9日に施 行された法 令 第 1 2 4 4 1 号によ ある。 り、持 分 権 者 が 1 名のみで足りるE m p r e s a I n d i v i d u a l (5) 独占禁止法 de Responsabilidade Limitada と呼ばれる新しい会社 独 占 禁 止 法 は、2 0 1 2 年 5 月2 9日に施 行された法 令 第 形 態 が 認められたが、か かる形 態 は自然 人しか 株 主 に 12529号により大幅に改正された。具体的には、(i)一方 なれない。LimitadaとS.A.の概要は以下の表のとおりで 当 事 者の帰 属するグループ 会 社 全 体の総売上高が7 億 ある。 5000万レアルを超えており、かつ、(ii)他方当事者のグ Limitada S.A. 備 考 持分権者 2 名以上 2 名以上 持分はQuota(クオー タ) と呼ばれる いずれの場合も自然人 か否か、 ブラジル居住 者か否かは問われない 最低資本金 なし ただし、 ビザを取得す るためには一定額以 上が要求される 支配要件 4 分の3 (いわゆる特 別 決議) 機関 発行済み株式総数の 過半数 ただし、定款変更のた めの株主総会を開催 するためには3 分の2 以上の株主の出席が 必要 ・業務執行者1名以上 ・取 締 役 会(非 上 場 ・S.A.において取締役 ・財務委員会設置可能 会社の場合は任意) 会を設置する場合に は取 締 役3名 以 上 ・業務執行者2名以上 ・財務委員会設置可能 (ブラジル非居住者も 取締役に就任できる) ・いずれの場合も業務 執行者はブラジル居 住者である必要がある ・いずれの場合も財務 委員会を設置する場 合には委員3名以上 (ブラジル居住者のみ) 財務書類の公告 不要 資金調達 なし 必 要(官 報 等 による 公告) ※一 定 規 模 以 下 の S.A.は免除される ・公募増資、 上場可能 ・公募増資不可 ・種類株式の発行不可 ・種類株式の発行な ど多くの 資 金 調 達 の方法が認められる ループ会社全体の総売上高が7500万レアルを超えてい る場合には、競争当局であるConselho Administrativo de Defesa Econômica( CADE)の事前承認が必要とな る。かかる規制は、上記基準を満たす限り、合併、株式買 収、提携(合弁事業を含む)等のあらゆる企業買収に適用 される。ブラジル国内市場への影響がなければ適用され ないが、CADEは市場への影響を非常に広く解釈する傾 向にある。 (6) 労働法 ①概要 ブラジルの労働法制は労働者保護の色彩が非常に強 く、裁判実務上も、労働者に有利な形での運用や判断 がなされることが一般的である。ブラジルの労働法を 検討するに際しては、以下の事項を念頭に置く必要が ある。 a.実態が重視されること 労働問題に関しては、実態がどうであったかが重視さ れる。 しかも、多くの場合、 この「実態」 を立証する責任 は被告である会社が負う。 b.労働条件を悪化させることはできない 食事補助などの各種手当を含めて、一度労働者に 付与した労働条件は引き下げることができない。た 管理コスト (財務書類の公告など)や法的柔軟性の観点(S.A とえ会社の業績が悪化した場合でも同じであり、引 は事業運営等に関する多くの会社法上の規定の適用を受け き下げを行うためには労働者側組合との合意が必 る)からLimitadaが選択されることが多い。なお、税務上は、 要となる。 両者は同一の扱いを受ける。 (3)販売代理店に関する規制 販売代理店には、①代理店が仲介業務のみを行うものと、 c.グループ企業の労務債務を負担しなければならないこと 同じ経済的グループに属するすべての会社は、相 互に他の会社の労務債務を負担しなければならな ②代理店がメーカーから商品を自ら購入し、それを第三者 い。これは過去の裁判例に基づき労働者の権利と に転売するものが存在するが、前者については民法のほ して認められるようになったものであるため、 どの か特別の法律(1965年12月9日付法令第4886号)が適 ような場合にほかの会社の労務債務を負担するか 用され、契約の解除時の補償金に関する定めが別途設け は条文上明らかではないが、一般的には、支配関 られているなど代理人保護が図られている。なお、いずれ 係があれば同じ経済的グループにあると考えられ の形態であっても、販売代理店の従業員が委託者の恒常 ている。 的な指揮命令下で活動を行っているような場合には、裁判 上、委託者と販売代理店の当該従業員との間に雇用関係 ②労働条件 一般的な労働条件は以下のとおりである。以下のうち交 があったと判断とされる可能性があるので注意が必要で 通費以外の手当、昇給率及び利益配当は法定されてい ある。 るものではないが、労使協定で定められることが一般的 (4)企業買収 企業買収の方法としては、株式の買取り、事業譲受け、合併、 である。 労働時間 ・法定労働時間は1日8 時間、週に44 時間まで ・時間外手当は50% (休日労働は100%) 給与・手当 ・通常の給与のほか各種手当(交通費、食事補助など) が支給されるこ とが多い。 ・通常の給与のほか、毎年年末に、給与の1カ月分に相当する額の ボーナス (通称クリスマスボーナス) が支給される。 ・賃金の昇給については産業別組合の決めた昇給率を事実上遵守す る必要がある。 利益分配 ⑤アウトソーシング 裁判実務上、事業の根幹に関する部分についてはアウト ソースすることは認められていない。 (7) その他の法律 以上の他に、日本企業のブラジル進出に際して考慮すべき 組合又は従業員を代表する委員会との合意により定められた内容に基 づき、従業員が会社の収益から配分を受けられる。 なお、利益分配は会 社の義務ではないが、 かかる制度に基づき従業員に支払われた額は、 会社が負担する社会保障費を算定する際の基準額には組み込まれな いため、多くの企業でかかる制度が利用されている。 有給休暇 ・12か月勤務するごとに30日間付与される。 ・有給休暇を行使させることは会社の義務である。 (未行使分を買い取 ることも可能) ・有給休暇期間中は、通常の給与に加え月額給与の3分の1に相当 する額が支給される。 社会保険等 ・会社が負担する社会保険料は平均して給与の27%である。従業員も 給与の10%前後の社会保険料を負担するがこれは源泉徴収される。 ・会社は社会保険料のほか、従業員の退職金や不動産購入資金の原 資に用いられる基金として、給与の8%を専用の口座に積み立てる必 要がある。 法律として、知的財産権法、個人情報保護法、環境法がある。 これらについて概略をまとめると、以下の表のとおりである。 知的財産権法 知的財産に関する法律としては、産業財産権法、著作権法、 ソフトウェ ア保護法などがあり法制度としては国際水準にある。知的財産のライセ ンス契約については、特許を受けていない知的財産(ノウハウや技術な ど) は外国企業からブラジル企業に対して永続的なライセンスを行うこと が事実上できないことや、 グループ会社間のライセンス料の上限が規定 されているなど、留意点が多い。 個人情報保護法 個人情報の取扱いのみを規定する法律は存在せず、個別の法律にお いて個人情報の保護が図られている。 たとえば、消費者保護法におい て、個人情報の収集には本人の同意または事前通知が必要となる旨規 定されている。 環境法 ③解雇 解雇は比較的自由に認められる。具体的には、期間の定め 環境に関する規制は環境政策法および環境犯罪法に規定されている。 環境汚染を引き起こす可能性のあるビジネスまたは自然資源を利用す るビジネスは環境政策法に基づき許可を取得する必要がある。 のない雇用契約については、それまでの未消化の有給休 以上 暇等を精算し、かつ、退職金(上述の基金の積立額)に一 定額を上乗せすることで、30日前の事前通知をもって正 弁護士 柏 健吾 当な理由がなくてもいつでも解雇できる。 (1977年生) ④組合 Kengo Kashiwa ブラジルでは、組合は地域別、産業別に存在し、かつ、雇用 直通/ 03-6438-5647 MAIL/ kkashiwa@tmi.gr.jp 主側、従業員側いずれにも組合がある。雇用主側が組合 に加入することは義務付けられていないが、会社は組合 への加入の有無にかかわらず、自己が所在する地域及び 自己の産業に係る組合間の労使協定を遵守しなければな らない。 【主な取扱分野】 一般企業法務 紛争解決 企業合併/買収(M&A) 労働関係 メディア/エンタテインメント/スポーツ ブラジル法 【登録、所属】 第二東京弁護士会(2003) T M I 月 例 セミナ ー 紹 介 TMIでは、皆様への情報提供の場として、毎月無料にてセミナーを開催して おります。2012年10月から12月までに開催しましたセミナーの概要は以下 のとおりです。今後のセミナーのご案内等につきましては、セミナー開催日の 1ヶ月前を目処にTMIのHPの「Topics」 (http://www.tmi.gr.jp/information/ topic/)に掲載いたしますので、 こちらをご参照いただき奮ってご参加いただ ければ幸いです。 過去に開催されたセミナーについてご興味のある方は、広報担当:蜂谷まで お問い合わせ下さい。 【電話】 (03)6438-5511(代表) 【email】monthlyseminar@tmi.gr.jp 1 第52回セミナー (平成24年10月19日) テーマ: 「公正取引委員会ってどんなところ? 〜最近の立件傾向とともに〜」 講 師:弁護士 樋口陽介 近年、独占禁止法違反については、排除措置命令だけではなく、高額の課徴金が課さ れる事例が増えており、 また、下請法違反事件についても、盛んに摘発され、勧告が出さ れる事例が増えております。 しかし、多くの企業にとって、公正取引委員会という官庁は 馴染みがありません。漠然とした不安を持たれている担当者もいらっしゃると思われます。 どのような組織があり、 どの部署がどのような事案を担当しているのか、 どのように独占 禁止法違反事件や下請法違反事件の調査・検査が行われ、最終的な措置がなされて いるのかについて、何となく知ってはいるものの、具体的に対応するとなると分からない、 というようなことが起こりがちです。本セミナーでは、公取委に任期付き公務員として勤務 した弁護士が、 自らの経験を基に、公取委の組織、独占禁止法違反事件及び下請法 違反事件の調査・検査の手続、疑われた場合の具体的な対応方法、最近の立件傾向 等について、具体的な事例や公取委の感覚を交えながらご説明させていただきました。 2 第53回セミナー (平成24年11月9日) テーマ: 「企業の税務・法務担当者がおさえておきたい税務調査・税務争訟における留 意事項と組織再編の否認事例、 タックス・ヘイブン対策税制の最新動向」 講 師:弁護士 内海英博、同 岩品信明 契約書の作成・解釈の仕方、法律用語の解釈方法等、税務調査においては、法律的な 視点が役に立つことが多いといえます。 また、税務意見書の作成には法律的な思考方 法が必要となります。 さらに、税務争訟については、 どのように争うかにより、結論が大きく 異なり得ます。本セミナーでは、各講師の豊富な実務経験を基に、税務調査・税務争訟 の実情を踏まえた企業担当者の採るべき対応に加えて、法律的な視点から、思わぬ落と し穴を避けるために必要なノウハウについて、具体例を挙げながら実践的・実務的な解 説をしました。 また、近時、組織再編、 タックス・ヘイブン対策税制に対して巨額の課税処 分がなされているため、否認事例の分析と課税処分を回避する方策をご説明しました。 3 第54回セミナー (平成24年12月14日・12月19日) テーマ: 「金融商品取引法初学者のための基礎研修 〜金融商品取引法上のディスクロージャー規制〜」 講 師:弁護士 池田賢生 金融商品取引法、特に開示規制の分野については、近時、上場会社の粉飾事案等を 踏まえ、開示規制の強化や課徴金制度の拡充等の対応がなされたり、不公正ファイナ ンスの増加等を踏まえ、第三者割当てに対する発行開示規制の強化が図られるなど、 行政当局としても規制を強化しているところであり、以前にも増してその対応に留意が必 要となってきております。本セミナーでは、金融庁総務企画局企業開示課に任期付職員 として勤務した池田賢生弁護士が初学者が陥りやすい開示規制の解釈の誤りから近 時注目を集めるライツ・オファリングに伴う開示規制を含め、実用的な解説をしました。 本ニューズレターで採り上げて欲しいテーマなど、是非、皆様の忌憚ないご意見・ご要望を下記までお寄せください。 また、今後Eメールでの配信をご希望の方や送付 先が変更となる方も、下記までご連絡ください。 (連絡先)編集部:TMI-newsletter@tmi.gr.jp 編集長:tnakada@tmi.gr.jp 03-6438-5534(直通)/TMIニューズレター編集部 編集長 弁護士 中田 俊明
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