特集:起業・創業支援のトレンドを探る 第4章 韓国製衣料のセレクトショップ ―ママンネリネの開業事例 坪川 光弘 福井県中小企業診断士協会 福井県の東部に位置する大野市は,大野城 の下,京都にも似た碁盤目状の城下町として, 以後430年,奥越前の中心として栄えてきた。 そのほかにも,日本百名山の 1 つ「荒島岳」 や名水百選の「御清水」 ,また市街地は歴史 的な風情や街並みから「北陸の小京都」とも 言われている。 その大野の地で,代表・阿部あかね氏によ って,「ママンネリネ」 は誕生した。 「ママ ン」はフランス語で「お母さん」を意味し, 「ネリネ」は「ダイヤモンドリリー:花言葉 ママンネリネ代表の阿部あかね氏 は箱入り娘」を意味する。すなわち, 「私の 大切な箱入り娘」という意味である。 〈企業概要〉 企業名:ママンネリネ 代表者:阿部あかね 所在地:大野市美川町7 8 MAIL :info@mamannerine.chu.jp TEL :0779 64 5241 ママンネリネ ネットショップ http://mamannerine.buyshop.jp/ 1 .創業動機 この大野(奥越)地域に子ども向け衣料販 売の店は何店舗かあるものの,低価格かつデ ザイン性に富んだものは少ない。子どもを持 つ親仲間の間でも,「低価格でかわいい子ど も服の店が近隣にあればいいのに」という声 がしばしば聞こえていた。 そこで阿部氏は,自身の手で,低価格かつ かわいさをコンセプトにした子ども服店を創 業しようと考えた。 2 .取扱商品とサービス 子ども向け衣料や子ども向け雑貨,その他 子ども向け関連商品に加え,レディース,耳 つぼ jewelry などを幅広く取り揃える。 16 企業診断ニュース 2014.9 第 4 章 韓国製衣料のセレクトショップ 6 .市場規模 ⑴ 事業所数・従業者数・年間販売額・ 売場面積 図表 1 福井県商業統計 事業所数 従業者数 年間商品販売額 売場面積 (人) (百万円) (m2) 婦人・子供服小売業 H19年度 613 2,119 29,418 H24年度 442 1,494 26,995 70,243 差異 ▲ 171 ▲ 625 ▲ 2,423 ▲ 9,855 婦人服小売業 H19年度 567 1,972 26,995 73,234 H24年度 407 1,351 17,662 59,754 差異 子供服小売業 H19年度 H24年度 ▲ 160 ▲ 621 ▲ 9,333 ▲ 13,480 46 147 2,422 6,864 35 ▲ 11 143 ▲4 2,015 ▲ 407 10,489 3,625 ママンネリネ店内の様子 3 .セールスポイント 差異 80,098 出所:H19年,H24年福井県商業統計調査 韓国から仕入れることで,低価格かつデザ 図表 1 「福井県商業統計」より,郊外型大 イン性にも富んだ子ども服が揃う。 型ショッピングセンターの出店が増加し,従 来型の中小個店の淘汰が進んでいると思われ 4 .経験 る。 しかし,ショッピングセンターは,オーバ 阿部氏にはそれまで経験や資格はなかった ーストアの傾向にあることと,テナントや品 が,もともとファッションには興味があった。 揃えの同質化を招いていることから,将来的 自身に子どもができてからは,特に子ども服 な成長は不透明である。 に関心があり,県内はもとより県外や海外に 子ども服に関しては,少子化の影響で市場 も足を運び,子ども服や雑貨を見て回った。 は低迷し,今後は苦戦が予想される。 5 .業界動向 ⑵ 需給動向 図表 2 より,H19年と H25年の差異は, 0 ⑴ 婦人・子ども服小売業の業種特性 ~ 9 歳合計で,7,288人の減少となっている。 ・その年によって売れ筋商品が異なる。 男女別では,ほぼ同数の減少となっている。 ・流行や天候に左右されやすい商品 図表 3 は,総務省統計局「家計調査年報」 ・顧客ニーズをとらえた品揃えがポイント より,婦人服や子ども服への 1 世帯あたり年 間支出額を示したものである。H18年と H25 ⑵ 業態 ・製造業者,卸売業者から商品を仕入れて販 売するセレクトショップ ・自社で商品を企画・製造して販売する SPA (製造小売) ※ SPA は,商品企画力,資本力がないと難 しい業態であるため,中小の小売業者ではセ レクトショップとして運営されている店舗が ほとんどである。 図表 2 福井県年齢別人口(推計) (単位:人) 年齢 H19.4.1 男 33,890 17,493 16,397 差異 ▲ 2,665 ▲ 1,337 ▲ 1,328 5~9 40,135 20,483 19,652 35,512 18,212 17,300 差異 ▲ 4,623 ▲ 2,271 ▲ 2,352 H25.4.1 18,830 女 36,555 H25.4.1 H19.4.1 男女計 0~4 17,725 出所:H19年,H25年福井県の年齢別人口(推計)調査 企業診断ニュース 2014.9 17 特集 図表 3 (品目分類)第11表 1 世帯当たりの品 目別支出金額(総世帯) (単位:円,%) 項 目 婦 人 用 洋 服 婦人用洋服計前年比(%) 婦 人 服 婦 人 用 上 着 ス カ ー ト 婦 人 用 ス ラ ッ ク ス 婦 人 用 コ ー ト 女 子 用 学 校 制 服 他 の 婦 人 用 洋 服 子 供 用 洋 服 子供用洋服計前年比(%) 子 供 服 乳 児 服 平成18年 計 2006年 32,471 100.1 7,846 5,008 3,504 5,777 3,117 816 6,403 6,693 106.2 5,663 1,030 平成25年 計 2013年 28,502 104.9 5,982 2,762 1,528 5,568 3,609 777 8,276 5,732 99.5 5,035 697 出所:総務省統計局「家計調査年報 家計収支編(平成25 年) 」より作成 ンターネットで仕入を行っている。 イ.韓国の洋服はインターネットで購入でき るが,日本のようにサイズの統一規定がな い。そのため,同じサイズでも,メーカー によって大きさがまちまちである。ママン ネリネでは,お気に入りの韓国の洋服を手 に取り,試着して購入できる。 ②大野エリアには子ども服の専門店が少なく, また低価格かつデザイン性に富んだものを 取り扱う店はほとんどない。 ⑵ 弱み 前職は飲食店勤務のため,業界経験がない。 ⑶ 機会 少子化ではあるが,その分,子ども 1 人に 年の差異では,婦人服は1,864円の減少とな かけるお金は高額になっている傾向がある。 っているが,子ども服は628円と減少幅が小 さくなっている。少子化により, 1 人あたり ⑷ 脅威 の洋服支出金額は上昇していると考えられる。 ①少子化のますますの進行 ②大規模な低価格量販店の出店 7 .具体的な取組み 9 .まとめ ⑴ 想定顧客(ターゲット) 子どもを持つ親,孫を持つ祖父母など,低 ⑴ 課題と展望 価格かつデザイン性にも富んだ子ども服を希 顧客が購買の判断基準としているのは,デ 望する顧客。 ザイン,色,サイズ,価格,着やすさである ことから,小売業では顧客ニーズを満足させ ⑵ 販売方法 る品揃えができるかがポイントとなる。店頭, 店舗での小売。HP,Facebook,LINE,ブ ソーシャルメディアなどで売れ筋情報をキャ ログの活用。販促は,上記ソーシャルメディ アのほか,会員向け DM(お誕生日) ,地元 ッチし,いかに早く店頭に陳列できるかが重 要である。 情報誌掲載,新聞折り込みなど。 8 .SWOT 分析 ⑴ 強み ①仕入を韓国の卸業者から行うことで,低価 格かつデザイン性に富んだ商品を仕入れる ことができる。 ア.開業当初は,韓国に出向いて商品の交渉 などをしていたが,現在は10社以上からイ 18 ママンネリネでは,次回商品入荷情報を Facebook,LINE, ブログを活用して周知するとともに,店頭で表示している。 企業診断ニュース 2014.9 第 4 章 韓国製衣料のセレクトショップ ⑵ 顧客の囲い込み いる。 少子高齢化で人口が減少し,ターゲット顧 ②資金繰り・資金調達 客が増加しない現状では,一度来店した顧客 同店に対しては,創業計画時点から金融機 にリピートしてもらうことが生き残りのうえ 関が創業支援を行い,事業計画の作成支援, で重要なことである。 資金調達面では,日本政策金融公庫からの資 新規顧客を開拓することも大切であるが, 金調達をアドバイスした。 このコストは,既存顧客を維持していくコス ③財務・税務・法務に関する知識の不足 トの 5 倍程度かかると言われており,自店の 同店では,知人に専門家がおり,相談アド お得意様として囲い込んでいく戦略のほうが バイスを受けている。 得策である。 図表 4 開業後に苦労したこと( 3 つまでの複 数回答,開業者の性別) ママンネリネでは,ソーシャルメディアを 活用することで既存顧客の囲い込みを図ると ともに,メンバーズカード発行(現在700名) によって誕生日プレゼント DM などでの囲い 込みを行っている。 ⑶ Web マーケティング Web マーケティングの 3 つの基本は以下 のとおりである。 ① SEO 対策(検索エンジン最適化) 出所:日本政策金融公庫総合研究所「2013年度新規開業実態調査」 ②ソーシャルメディアの活用 ⑸ 開業時にあったらよかったと思う支援策 (Facebook,LINE,ブログなど) 日本政策金融公庫総合研究所「2013年度新 ③低コストのネット広告 上記,Web サイトの運営の PDCA サイクル 規開業実態調査」によれば,女性起業家が開 で考える。Web サイトやブログを更新した場 合,更新情報を Facebook へ投稿して連携させ, 下のとおりである。 これらのソーシャルメディアへも並行して投 ②金融機関による経営指導,事業計画策定支援 稿する。どの投稿が効果があったのかをチェ ③同じような立場の経営者との交流の場 ックする。 ④先輩企業家や専門家による助言・指導 業時にあったらよかったと思う支援策は,以 ①低金利融資制度や税制面の優遇措置 ⑷ 開業後に苦労したこと 日本政策金融公庫総合研究所「2013年度新 規開業実態調査」によれば,女性起業家が開 業後に苦労したことは以下のとおりである。 ①顧客・販路の開拓 同店でも同様に,集客,イベント,見せ方 の工夫で苦労しており,アドバイスを求めて 坪川 光弘 (つぼかわ みつひろ) 大学卒業後,金融機関に勤務。融資部経 営支援 G 所属。2005年中小企業診断士 登録。現在は企業の経営改善支援に携わ り,経営改善計画策定支援,モニタリン グを行っている。 企業診断ニュース 2014.9 19
© Copyright 2024 Paperzz