社団法人 電子情報通信学会 THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS 信学技報 IEICE Technical Report [依頼講演]月周回衛星かぐや搭載ハイビジョンカメラシステム 太刀野 順一 1 山崎 順一 2 三橋 政次 2 山内 正仁 2 本田 理恵 3 1 E-mail: NHK エンジニアリングサービス 〒157-8540 東京都世田谷区砧 1-10-11 2 日本放送協会 〒150-8001 東京都渋谷区神南 2-2-1 3 高知大学 〒780-8520 高知県高知市曙町 2-5-1 1 tachino@nes.or.jp, 2 {yamazaki.j-gq , mitsuhashi.s-jo, yamauchi.m-gm }@nhk.or.jp 3 honda@is.kochi-u.ac.jp あらまし かぐや(SELENE)搭載ハイビジョンカメラシステム(HDTV)の開発過程と現在までに得られた新し い映像を紹介するとともに、宇宙環境におけるハイビジョンカメラシステムの現状、運用状況について報告する。 また、ハイビジョンカメラの今後の撮影計画および、将来性と課題について報告する。 キーワード かぐや, SELENE, ハイビジョンカメラシステム, HDTV, 宇宙 1. か ぐ や の 概 要 台 は WIDE( 1 0 m m レ ン ズ 装 着 ) と な っ て い る 。 光 月 周 回 衛 星 「 か ぐ や 」 は , 2007 年 9 月 14 日 に 種 子 学系諸元を表2に示す。撮影する時は 2 台のうち 1 台 島宇宙センターから打ち上げられた。衛星の大きさは を 選 択 し て 撮 影 を 行 う 。電 子 装 置 部 は 電 源 部 、I/F( イ 2.1m×2.1m×4.8m で あ り 、 燃 料 込 み の 質 量 が 3t も あ ンタフェース)部、メモリ部、エンコーダ部の構成に る 日 本 で は 最 大 級 の 衛 星 で あ る 。「 か ぐ や 」 に は 14 の な っ て い る 。「 か ぐ や 」の 太 陽 電 池 パ ネ ル で 発 電 さ れ た 科学観測機器が搭載されており,月の進化の謎を解明 電 力 は HDTV シ ス テ ム の 電 源 部 に DC52V を 供 給 す る 。 す る の が 目 的 で あ る 。「 か ぐ や 」 は 月 の 高 度 100km の 電 源 部 で は DC52V を 受 け て 、 + 5V 電 源 、 ±12V 電 源 極 軌 道 を 周 回 し な が ら 、 2007 年 12 月 後 半 か ら 観 測 を を 各 部 に 供 給 し て い る 。 I/F 部 は 衛 星 か ら の HDTV シ 行 っ て い る 。「 か ぐ や 」 は 主 衛 星 (月 周 回 衛 星 )と 、 2 機 ス テ ム 専 用 の コ マ ン ド を 受 信 し た り 、 HDTV シ ス テ ム の 子 衛 星 ( リ レ ー 衛 星 ( お き な )・ VRAD( ブ イ ラ ド ) の健康状態を示すテレメトリを衛星側に送ったりする 衛 星 ( お う な )) か ら 構 成 さ れ て い る 。「 か ぐ や 」 で は 部分である。メモリ部はエンコーダ部からのデータを 月表面の元素分布、鉱物組成・分布、地形、表面付近 メ モ リ す る 。EEPROM を 使 用 し て お り 、容 量 は 1 分 間 の地下構造、磁場分布、重力分布の観測を月全域にわ の 映 像 デ ー タ( 圧 縮 さ れ た も の )が 保 存 可 能 な 1GB を たって行う。これらの観測によって、総合的に月の起 2 系 統 と し て い る 。エ ン コ ー ダ 部 は カ メ ラ と セ ッ ト で 1 源・進化の解明に迫ると期待されている。同時に周回 式ずつの構成である。メモリ部は 2 系統あり冗長性を 衛星に搭載された観測機器で、プラズマ、電磁場、高 持たせている。メモリ部に記録した映像データは,高 エネルギー粒子など月周辺の環境計測を行う。これら 速データインタフェース回路を経由して衛星本体に転 計測データは、科学的に高い価値を持つと同時に、将 送する。 「 か ぐ や 」衛 星 か ら の デ ー タ は ,長 野 県 佐 久 市 来月の利用の可能性を調査するためにも重要な情報と の臼田宇宙空間観測所で受信し,地上の回線で相模原 なる。 市 の 月 ミ ッ シ ョ ン 運 用 解 析 セ ン タ ー ( SOAC) に 送 ら れる。地上側の設備は,搭載機器の動作状態(温度, 2. HDTV の 概 要 HDTV シ ス テ ム の 外 観 を 図 1 示 す 。 構 成 と し て は カ 電圧,コマンドやパラメータ)を監視するテレメトリ 表示装置(クイックルック)と,送られてきた映像デ メ ラ 部 と 電 子 装 置 部 と か ら な る 。カ メ ラ 部 は 2/3 型 200 ー タ を 復 元 す る 復 調 装 置 か ら 構 成 さ れ て い る ( 図 2 )。 万 画 素 の IT-CCD を 用 い た 3 板 方 式 の カ メ ラ を 2 台 搭 HDTV シ ス テ ム に は 質 量 削 減 の た め 、 雲 台 、 ズ ー ム 機 載 し て お り 、1 台 は TELE( 35mm レ ン ズ 装 着 )、も う 1 能はない。よって、撮影可能な場所は衛星の軌道に依 存 す る 。 ま た 、 HDTV シ ス テ ム は 衛 星 の 下 部 モ ジ ュ ー ルの月面側に取り付けられており,レンズの向きは進 行 方 向 に 対 し て 2 台 を 逆 向 き に し て い る( 図 3 )。衛 星 の 軌 道 高 度 誤 差 ( 100±30km) や 他 の 観 測 機 器 が 画 角 に入らない等の考慮をして,月の地平線と地球が画角 の中にバランスよく収まるように取り付け角度を決定 している。 HDTV シ ス テ ム に は 温 度 変 化 で の 故 障 を 防 ぐ た め に 、 項目 焦 点 距 離 (mm) 視 野 角 (°)H×V,D F値 減光フィルタ 寸 法 (mm)LxΦ 質 量 (g) 取付角度 広 角 (W) 10 50.1×29.5,56.3 F5.6 固 定 ND=1 112.5×60 330 22.5 温度センサをカメラ部、エンコーダ部周辺に 1 個ずつ 表2 望 遠 (T) 35 15.5×8.7,17.8 F5.6 固 定 ND=1/8 81.5×60 260 18.5 光学系諸元 取り付けている。なお,電源,インタフェースおよび センサは,宇宙用高信頼性部品を使用している。 HDTV シ ス テ ム が 衛 星 か ら 地 球 へ 向 け て の デ ー タ 伝 送には,高速と低速の二つのモードがある。高速伝送 は ,7.6Mbps の レ ー ト で 1 分 間 の 動 画 デ ー タ を 約 20 分 で 伝 送 可 能 で あ る 。 低 速 伝 送 は , 100kpbs で 静 止 画 の 伝送予備となる。 カメラの露光調整は電子シャッタで行っており,こ れにはマニュアルとオートの 2 種類がある.そのほか 電気ゲイン,ガンマ,ペデスタル,ホワイトバランス 項 目 ゲ イ ン 調 整 (dB) 露出調整 A: オ ー ト 諸 元 -6,-3,0,+3,+6,+12,+18 電子シャッター ピーク値制御、平均値制御 露 出 補 正 1/63.4~ 1/1983 1/63.4~ 1/16000 Knee(ポ イ ン ト 、 ス ロ ー プ ), ブ ラ ッ ク ガ ン マ 、 PED カ ラ ー バ ー 、 CAL シリアル、パラレル 中心座標、シャッター速度 B: マ ニ ュ ア ル その他の調整 基準信号 コントロール信号 スーパーインポーズ 表3 などの多くの映像調整項目が地上からのコマンド制御 144Mbps 1.5Gbps で行える。また,非常時の原因調査のために地上品と WIDE 同様のテスト信号も組込んでいる。通常はシリアル制 映像調整機能 1.5Gbps TELE エンコーダ A メモリ A エンコーダ B メモリ B TFG 観測装置 御で行うが,重要項目は,パラレル制御も行えるよう にしている。映像調整機能を表3に示す。記録方式に コントロール部 RUT/PIU は標準モード(1 倍)の他にインターバル記録モード (2 倍,4 倍,8 倍)を用意した. 太陽電池 電源部 (+5V,±12V) HDTV SELENE 10Mbps テレメトリ モニタ 地上局 (臼田) SOAC (相模原) デコーダ DATA CMD/TLM コマンド 図2 システム系統図 パラボラアンテナ 図1 HDTV シ ス テ ム の 外 観 項 目 CCD カラー方式 圧縮部 記録部 伝 送 I/F 寸法 質量 諸 元 2/3 型 IT-CCD 1920×1080 有 効 画 素 ダ イ ク ロ イ ッ ク プ リ ズ ム 3 板 (RGB) DCT 圧 縮 HDCAM 方 式 144Mbps EEPROM メ モ リ 1GB CCSDS パ ケ ッ ト 方 式 7.6Mbps 460(W)mm×280(H)mm×420(D)mm 16.5kg 消費電力 最 大 50.0W 撮影モード 動 画 (×1, ×2, ×4, ×8),静 止 画 表1 システム諸元 下部 モジュール 推進 モジュール 上部 モジュール 進行方向 2008.04-2008.09 広角 図3 HDTVシステム 望遠 衛 星 で の HDTV シ ス テ ム の 取 付 位 置 3. 環 境 試 験 HDTV シ ス テ ム を 宇 宙 に 持 っ て 行 く に は 、 厳 し い 宇 宙での環境を模擬した試験を行い、耐久性があること を実証しなくてはならない。ロケット打上げ時に加わ の観測機器との相互干渉試験を実施し,問題がないこ る振動、ロケット分離や衛星に搭載されている分離機 とを確認した。 構など分離時に加わる衝撃、宇宙環境に入ってからの 真 空 中 環 境 下 で の ±150℃ に も な る 温 度 変 化 、宇 宙 空 間 3.3. 振 動 試 験 を飛び交う宇宙放射線など、これらの地上とは異なっ 振 動 は ,ロ ケ ッ ト が 大 気 圏 を 抜 け る ま で の 80 秒 間 , た環境を模擬した試験を行う。また、宇宙に飛び立っ 衛 星 へ の 取 り 付 け 位 置 で 16G が 加 わ る 。地 上 で の 振 動 てしまうと、修理することができないというのも重要 試験では,レンズがその重心位置に対して片側だけで な項目である。 支えている片持ち構造のために振幅を増幅させ,レン ズエレメントが脱落,フィルタディスクの欠き切り部 3.1. 放 射 線 試 験 分でも、振幅の増加によってフィルタハウジングが破 宇宙放射線の影響としては,ガンマ線による長期劣 損 し た 。 そ の た め , 色 変 換 ( CC) と 濃 度 ( ND) フ ィ 化と,粒子線(重粒子,高エネルギー粒子)による瞬 ルタおよびレンズと絞りは,一体形状にして強度を高 間的なダメージの二つがある.前者ではレンズのガラ め た 。フ ォ ー カ ス は 無 限 遠 と し ,絞 り は F5.6 固 定 と し スが黄色く変色するブラウニング現象が認められたた た。 め,レンズ前面に石英ガラスを配置し,放射線による 劣化のない石英に吸収させる手法をとった。電子装置 3.4. 衝 撃 試 験 部は月軌道 1 年間分のガンマ線照射を行い問題がない 衝撃試験は,衛星をロケットから切り離す際に,ボ ことを確認した。後者の粒子線では,粒子の種類やエ ルトを火薬で一瞬に焼き切る時に生じる衝撃を再現す ネ ル ギ ー に よ っ て 挙 動 は 異 な る が ,CCD 撮 像 素 子 で は るものであるが,重量物が切り離されるため,低周波 白 キ ズ( 画 素 欠 陥 )が 多 数 発 生 す る こ と が 予 想 さ れ た 。 から高周波までの幅広い周波数を含んでいる。この試 対策として地上側の画像処理により映像を補正する新 験は本来であれば、落下法を用いて試験を行うことが た な 装 置 を 開 発 し た 。 ま た , LSI 等 に 論 理 反 転 現 象 が 通常である。しかし、試験設備の関係からハンマー打 生じるため,カメラのメインソフトウェアの二重化と 撃 法 に よ っ て 極 短 時 間 に 1,000G を HDTV シ ス テ ム に バンク切替え,制御データの三重化と多数決判定処理 与えた。金属性のハンマーでは低周波成分が不足し、 とした。メモリ部に関しては論理反転が起こったとし 柔らかいハンマーでは高周波成分が不足することから, ても、映像は 1 フレーム分の欠損で済むので、対策は 大型の木製ハンマー(掛谷)を用いて試験を実施し耐 講じていない。 性を確認した。 3.2. 熱 真 空 試 験 熱真空試験では,真空チャンバーの中で,深宇宙を 見 立 て た 液 体 窒 素 の 円 筒 状 シ ュ ラ ウ ド( 隔 壁 )に よ り , 衛星の周回に相当する 2 時間周期で加熱と冷却を繰り 返 し て 動 作 試 験 を 実 施 し た 。 HDTV シ ス テ ム は デ ー タ 量が多く,一方で衛星の伝送レートは低いため,連続 撮影はできない。撮影時間はメモリー容量(1 分間の 映 像 デ ー タ 分 )に よ っ て 決 ま り ,全 体 と し て は OFF の 時間の方が長く,内部の温度はヒーターがなければマ イ ナ ス 側 で 平 衡 す る た め 、 HDTV カ メ ラ は 2 系 統 の ヒ ータを持っている。一つは衛星システムで制御するヒ 図4 打撃法による衝撃試験 ー タ( サ バ イ バ ル ヒ ー タ )で あ る 。こ れ は HDTV シ ス テ ム が OFF の 状 態 で も 温 度 を 極 端 に 低 温 に し な い よ 4. 撮 影 ま で の 計 画 立 案 う に 保 持 す る た め 、- 4℃ で ON,+1℃ で OFF と し て い HDTV シ ス テ ム で の 撮 影 に 際 し て は 、 コ マ ン ド シ ー る 。も う 一 つ は HDTV 側 で 持 つ 機 器 ヒ ー タ で あ り 、こ ケンスを立案しなくてはならない。具体的には何時何 のヒータはサバイバルヒータのバックアップ的な意味 分 何 秒 に 、こ の コ マ ン ド を 衛 星 か ら HDTV に 発 行 し な 合 い が 強 い 。 HDTV シ ス テ ム の 外 側 が 黒 色 な の は , チ さいという命令群である。この命令群なくしては ャージアップを防止するカーボンコーティングがなさ HDTV は 動 作 し な い 。 立 案 の 方 法 は 、 ま ず 、 撮 影 し た れているためである。完成した搭載機(フライトモデ い 日 時 の 直 近 の 軌 道 デ ー タ( 衛 星 が 通 る 軌 道 の デ ー タ )、 ル)は衛星と組合せた状態で,さらに各種の試験と他 太陽方向情報ファイル(太陽の位置が示してあるデー タ )、イ ベ ン ト 時 刻 対 応 表( 可 視 時 刻 な ど の 衛 星 の イ ベ ーム番号、パケット番号が付加されている。 ントが記述されているファイル)をシミュレータに読 1分間の動画データ=1800フレーム み込ませ、撮影したい場所を決定する。次に撮影場所 で の カ メ ラ の 設 定 な ど の HDTV シ ス テ ム 内 で の 設 定 を 1フレーム=588パケット 撮影開始時刻などを考慮しながら、コマンドシーケン スとして立案する。立案が完了したらシステム運用者 にデータを渡し問題がないことを確認する。立案は衛 星の昇交点通過時刻からの相対時間で記述をする。こ 1パケット=1Kバイト フレームカウンタ れは衛星の昇交点通過時刻がずれたとしても、衛星内 パケットカウンタ 図7 動画データ HDTVのデータ構成 で修正してくれるという利点がある。これに対して、 絶対時刻で記述した場合は衛星の昇交点通過時刻がず 6. 打 ち 上 げ 後 の HDTV の 撮 影 ポ イ ン ト れ て も 、 コ マ ン ド 発 行 の 時 刻 は 修 正 さ れ な い 。 HDTV 「 か ぐ や 」は ,2007 年 9 月 14 日 に ,種 子 島 か ら ,H の場合、数十秒の誤差により、撮影したい場所をはず Ⅱ A ロ ケ ッ ト に よ り 打 ち 上 げ ら れ た 。9 月 29 日 に は 月 す恐れもあることから、相対時間による記述は有効で 軌 道 に 向 か う 途 中 ,地 球 か ら 11 万 km の 距 離 か ら 上 弦 ある。 の 地 球 を 撮 影 す る こ と に 成 功 し た 。 そ の 後 衛 星 は 10 月 1 日 に 高 度 約 100km の 月 周 回 観 測 軌 道 に 投 入 さ れ た 。 HDTV カ メ ラ は ,2007 年 11 月 7 日 に ,「 地 球 」が 月 の 地平線の向こうからゆっくり昇ってくる様子をとらえ ることに成功した。月面の撮影では,短い時間の中で 多くの地形を撮影したいという理由から,8 倍のイン タバル記録モードを使い広角レンズで撮影している。 こ の 場 合 1 回 の 撮 影 で 緯 度 に し て 約 24 ゚の 広 い 領 域 を 移動した映像が得られる。月面を撮影する上では、太 陽高度が非常に重要になってくる。太陽高度が高けれ ば、影のほとんどない映像になる。太陽高度が低けれ 図5 実際の計画立案画面(月面撮影時) ば 、 陰 影 の つ い た 映 像 に な る 。 2008 年 4 月 6 日 に は , 太陽,衛星,月,地球が一直線上に並んだ。この現象 は 1 年 間 に 2 回 し か な い チ ャ ン ス で , 「満 地 球 の 出 」の 撮影にも成功した。この時はゆっくり昇る地球を撮影 するために標準の 1 倍モードにより望遠レンズで撮影 し た 。2008 年 7 月 4 日 に は 、他 の 観 測 機 器 の 校 正 運 用 に 相 乗 り し た 形 で 撮 影 を 行 っ た 。「 か ぐ や 」は 通 常 、月 心 指 向 で 姿 勢 を 保 っ て い る た め 。 HDTV シ ス テ ム は い つ も 月 の 地 平 線 を 撮 影 す る こ と が 可 能 で あ る 。し か し 、 こ の 時 は 慣 性 指 向 で の 運 用 と な る 。し た が っ て 、HDTV システムから見ると、画角全体が月面になるなど通常 図6 実際の計画立案画面(地球撮影時) では得られない映像を取得することができた。 5. HDTV シ ス テ ム の デ ー タ 構 造 HDTV シ ス テ ム の デ ー タ は 、 1 フ レ ー ム 588 パ ケ ッ ト 、 1 パ ケ ッ ト の デ ー タ 長 は 1k バ イ ト で あ る 。 1 分 間 分 の 動 画 デ ー タ は 30 フ レ ー ム ×60 秒 =1,800 フ レ ー ム 分 な の で 、 588×1,800×1,000=1,058,400,000 バ イ ト で あ る 。 HDTV は こ の デ ー タ 量 を 保 存 で き る だ け の 不 揮 発 性 メ モ リ ( EEPROM) を 搭 載 し て い る 。 こ の デ ー タ を 衛 星 に 送 信 し 、7.6Mbps で 約 20 分 か け て 地 球 に 送 ら れることとなる。データの中には地上でどのパケット が抜けたかが判別できるように、各パケットにはフレ 図9 2007 年 9 月 29 日 に 撮 影 し た 上 弦 の 地 球 かぐや 撮影範囲 Moon 図13 図8 2008 年 7 月 4 日 に 撮 影 し た 特 殊 運 用 時 の 画 像 「かぐや」の定常運用での飛行状態 7. HDTV の 現 状 ( 白 傷 評 価 ) HDTV シ ス テ ム の 構 成 部 品 に お い て 、 劣 化 が 懸 念 さ れ る も の に カ メ ラ の 撮 像 素 子 で あ る CCD が あ る 。劣 化 要 因 と し て は 、太 陽 風 に よ り プ ロ ト ン が CCD に 衝 突 す ることによりフォトダイオードに結晶欠陥が発生し、 画 像 モ ニ タ に 白 傷 と し て 現 れ る 。 そ こ で 、 HDTV シ ス テ ム と し て は 、「 か ぐ や 」の 放 射 線 環 境 を 考 慮 し 、事 前 に CCD 等 の 放 射 線 試 験 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 20,000 ©JAXA/NHK 個 /年 の 発 生 と い う 非 常 に 多 い も の で あ っ た 。た だ 、こ の条件としては、太陽活動がもっとも活発な時期を設 図10 2008 年 4 月 6 日 に 撮 影 し た 満 地 球 定し、もっとも厳しい条件での予想結果である。 現 在 、 HDTV シ ス テ ム は 、 2008 年 2 月 か ら 1 回 ~ 2 回 /月 に 白 傷 の 評 価 画 像 の 撮 影 を 暗 所( 月 面 が 日 陰 )で 行っている。白傷評価の画像取得時の設定は、 Gain=+12dB, ShutterSpeed=1/63.3 固 定 で あ る 。 図 1 4 は HDTV シ ス テ ム の TELE 側 の カ メ ラ で 白 傷 評価画像を撮影したものを使用して、映像レベルの 43%( 画 像 の ブ ラ ッ ク ノ イ ズ の 標 準 偏 差 の 3 倍 ) 以 上 のレベルの画素を白傷とした場合の撮影時の温度と白 傷の個数を示したものである。これを見ると、打上げ 前に解析した値と比べて、観測を開始してから約半年 図11 月面撮影の画像(アリスタルコスクレータ) 間、飛躍的に白傷の個数が増加している傾向はない。 理由としては、解析条件がもっとも厳しい条件であっ かぐや 撮影範囲 た た め 、現 状 の 環 境( 太 陽 活 動 が 最 も 静 か な 時 期 な ど ) とはかなり異なっている結果と考えられる。 また、図15は温度と白傷の相関関係を示している。 これは温度が高ければ、白傷の個数が多く見えるとい う相関関係を示している。 Moon 図12 「かぐや」の特殊運用での飛行状態 試験、運用を行えば,厳しい宇宙環境に耐えられるこ 画素数と温度の時間推移 (TELE,Gain +12dB, シャッター時間1/63.3sec) とを実証できた。このことは,今後の月着陸船などの 120 宇宙搭載機器として技術的な可能性があることを示し 画素数、温度(℃) 100 blue 80 red 化が挙げられる。 60 green 40 T 20 0 2008/1/3 2008/2/22 図14 2008/4/12 2008/6/1 取得日 2008/7/21 2008/9/9 画素数と温度の時間推移 画素数の温度依存性 (TELE,Gain +12dB,シャッター時間1/63.3sec) 120 blue 100 画素数 ていると同時に次の技術的なステップとして、カメラ 雲台・レンズズーム機構の実装、また、更なる高画質 80 red 60 green 40 20 0 0 5 図15 10 cam_T(℃ ℃) cam 15 20 画素数の温度依存性 8. HDTV の 今 後 の 撮 影 計 画 HDTV シ ス テ ム の 今 後 の 撮 影 計 画 と し て は 、 9 月 30 日に予定されている 1 年に 2 回のみの撮影チャンスで ある「満地球の出」を撮影することにある。4 月 6 日 に撮影した前回は、南半球からの出であったが、今回 は北半球からの出になる。また、今までに地球を撮影 した動画の中に日本列島を確認することはできていな い 。9 月 30 日 の 撮 影 で は 日 本 列 島 も 視 野 に 入 れ た 撮 影 を 行 う こ と が 期 待 さ れ て い る 。 HDTV シ ス テ ム で は 、 他の観測機器に迷惑をかけないという制約条件の下、 地球への伝送が限られているため、月面の全球マップ を 作 成 す る こ と は で き な い が 、12 月 か ら 1 月 に か け て は、太陽高度が低く、月面を撮影するには陰影がはっ きりした魅力的な映像を可能な限り取得する予定であ る。 9. ま と め 今 回 、ハ イ ビ ジ ョ ン カ メ ラ が 38 万 km 離 れ た 宇 宙 に 飛び出したのは世界で初めてのことであり,アポロ計 画以来の月から見た地球の映像は日本のみならず,世 界中から大きな反響があった。今回の衛星搭載によっ て,地上用のハイビジョン機材でも適切な改修と環境
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