映像情報メディア学会ワードテンプレート (タイトル)

4K 超高精細リアルタイム CG によるバーチャル美術館
林 正樹£
中嶋 正之£
スティーブン・バチェルダー£
井口 昭彦¢
町田 聡¡
£
ゴットランド大学ゲームデザイン学科 Cramérgatan 3, 621-57 Visby, スウェーデン
¢
アストロデザイン(株) 〒145-0066 東京都大田区南雪谷 1-5-2
¡
アンビエントメディア
東京都目黒区
£
E-mail:
hayashi.masaki@hgo.se
¢
aiguchi@astrodesign.co.jp
¡
msat_machida@yahoo.co.jp
あらまし 4K/8K 超高精細映像を使ったリアルタイム CG によるバーチャル美術館の研究開発を行っている。
今回、
4K 映像出力の CG システムを構築し、この上に浮世絵や屏風を展示するバーチャル美術館を構築した。特に、作品
を超高精細デジタイズし、さらに 3DCG 空間の提示自体も大画面超高精細としたことで、遠目に作品群を眺めること
と、作品の近くに寄って詳細を観察することの、二つの鑑賞行為を同居させ、臨場感と実在感を得ることができた。
システムの開発と実験、そして現在進行中のさまざまなプランについて述べる。
キーワード バーチャル美術館、超高精細画像、CG、4K、ウォークスルー
Virtual Museum on 4K Ultra-high Resolution Real-time CG System
Masaki HAYASHI£
Masayuki NAKAJIMA£
Akihiko IGUCHI¢
£
Steven BACHELDER£
Satoshi MACHIDA¡
Game Design Department, Gotland University Cramérgatan 3, 621-57 Visby, Sweden
¢
Astrodesign Inc. 1-5-2 Minamiyukigaya, Ota-ku, Tokyo, 145-0066, Japan
¡
Ambient Media Meguro-ku, Tokyo, Japan
E-mail:
£
hayashi.masaki@hgo.se
¢
aiguchi@astrodesign.co.jp
¡
msat_machida@yahoo.co.jp
Abstract We have researched and developed a 'Virtual Museum' in an extreme high-definition real-time
computer graphics system with a resolution of 4K and 8K (Super Hi-Vision). We have first developed a
functioning test system, which exhibits Japanese artifacts 'Ukiyoe and pannel' in 4K resolution. In our
system, the artifacts have been digitized in ultra high-resolution then positioned in a high-quality modeled
exhibition space. A user can walkthrough in the exhibition space enabling to view the artifacts in a distance
and also to get closer to observe its detailed surface seamlessly. With this method, we have successfully
enhanced both sense of being there and sense of realness. In this paper, we first survey several virtual
museums in practical use, then explain the detail of our system and introduce experiment results with
discussion in comparison with the existing virtual museums.
Keyword Virtual museum, Ultra high definition image, CG, 4K, Walkthrough
1. は じ め に
がある。そこで我々は、昨今のリアルタイム・コンピ
HDTV の 4 倍 の 解 像 度 を 持 つ 、 通 称 「 4K」、 そ の さ ら
ュ ー タ グ ラ フ ィ ク ス (CG)の 目 覚 ま し い 進 歩 を 背 景 と し
に 4 倍 の 解 像 度 を 持 つ ス ー パ ー ハ イ ビ ジ ョ ン( 通 称 8K)
て 、超 高 精 細 な リ ア ル タ イ ム CG を 使 っ て 4K/8K の 新 し
といった映像システムが次世代の映像メディアとして
いコンテンツの形態を開拓するプロジェクト「ウルト
注目されている。一方、これらはどちらかというとハ
ラ CG」 を 提 案 し 、 研 究 開 発 を 進 め て い る [1]。
ード優先で開発が進められたため、そこに載せるコン
ウ ル ト ラ CG の 最 初 の タ ー ゲ ッ ト の 一 つ と し て 、 4K
テンツの開発が非常に遅れており、ユーザーにとって
環 境 を 使 っ た バ ー チ ャ ル 美 術 館 構 築 が あ る 。4K ハ ー ド
はこれ以上の高解像度は不要ではないか、という声も
ウ ェ ア に 3DCG ゲ ー ム エ ン ジ ン の Unity を 載 せ 、こ こ に
聞 く 。 4K/8K を 振 興 す る に は 、 従 来 の 方 法 論 に と ら わ
美術館コンテンツを載せて作成したものである。コン
れないさまざまなコンテンツの可能性を開拓する必要
テ ン ツ に は 、美 術 館 の 空 間 を 3DCG で モ デ リ ン グ し 、そ
こに浮世絵と屏風の作品を高精細にデジタイズした画
用意し、ユーザーはそれら端末で収蔵品を画像で観察
像を用い、額装、キャプション入れなどを加えてバー
したり関連情報を調べたりできるところが多い。これ
チャル上で展示したものである。そもそも、このバー
をさらに一歩進めた展示手法として、クレーヴランド
チ ャ ル 美 術 館 は ウ ル ト ラ CG 振 興 の た め の 試 作 コ ン テ
美 術 館 [4]が 、大 型 タ ッ チ ス ク リ ー ン を 展 示 物 と 同 じ 空
ンツだったが、各所にて展示したところ評判がよく、
間に多数設置し、実物を見ながらモニター上で自在に
これを機にいわゆる「バーチャル美術館」の将来にお
バ ー チ ャ ル 鑑 賞 で き る よ う に し て い る 例 が あ る( 図 1)。
け る 可 能 性 に つ い て 、ウ ル ト ラ CG 的 な 観 点 も 含 め 、ま
以上、実際の展示スペースで来場者にバーチャル体
た違った角度から考える機会になった。
験してもらうことはアミューズメント施設と同じで、
本稿では、このバーチャル美術館に焦点を当てて論
大型のモニターを使い大勢の来場者にいっせいに体験
じる。まず、現在の美術館、博物館で行われているバ
してもらうか、あるいは個別のタッチスクリーン端末
ー チ ャ ル 展 示 に つ い て 概 観 し 、そ こ で の 課 題 を 述 べ る 。
などを設置し、そこでめいめいが操作する、という二
そ の 後 、試 作 し た 浮 世 絵 4K バ ー チ ャ ル 美 術 館 の 技 術 的
本立てになることが多い。
詳細について説明し、いくつかの展示会におけるデモ
2.2. Web サービスによるもの
の 結 果 を 紹 介 し 、特 長 や 問 題 点 な ど に つ い て 議 論 す る 。
世界の美術館、博物館はどこもホームページを持っ
最後に、まとめと共に、現在計画している次バージョ
ており、インターネットを通してさまざまな形で作品
ンのバーチャル美術館について簡単に紹介する。
鑑賞を提供している。世界最大級の美術館であるルー
ブ ル 美 術 館 で は Virtual tour[5]が 用 意 さ れ て お り 、
2. バ ー チ ャ ル 美 術 館 の 現 状
ここでは展示室のフロアプラン上をマウスでクリック
ここでは、現在行われているバーチャル展示を、主
し 、 好 み の 場 所 へ 視 点 を 移 動 し 、 そ こ で の 360 度 パ ノ
に展示におけるユーザー鑑賞の視覚効果の観点からい
ラマを横スクロールで見回し、展示品にクリックする
くつか紹介する。バーチャル展示には、実際の美術館
ことで拡大写真を見ることができる。東京国立博物館
の建物に設置して来場者に提供するものと、インター
で は e-Museum[6]が 用 意 さ れ 、 検 索 し た 展 示 品 を 専 用
ネ ッ ト を 通 じ て Web 上 の サ ー ビ ス で 提 供 す る も の が あ
のインターフェースを使って鑑賞できる。二次元写真
るので、各々について以下に概観する。
2.1. 展 示 スペースに設 置 するタイプ
凸 版 印 刷 で は 「 ト ッ パ ン VR」 [2]と 呼 ば れ る 技 術 に
よ り 、美 術 品 な ど を 3DCG と し て 取 り 込 み 、そ れ を バ ー
チャル展示するバーチャル美術展示を行っている。独
自のデジタルアーカイブ技術により彫像や絵画、それ
らが納められていた建物などを、高精細かつ正確な色
彩 に よ り 三 次 元 CG モ デ ル と し て デ ジ タ ル 化 す る 。こ れ
を 、3 面 の カ ー ブ し た 大 ス ク リ ー ン 、4K 大 型 モ ニ タ ー 、
会 場 に 置 か れ た PC な ど で 三 次 元 的 に 自 在 に 鑑 賞 す る
ことができる。また、大日本印刷では、ルーブル美術
図 2-a
Google Art Project の ウ ォ ー ク ス ル ー モ ー ド
(オルセー美術館)
館と共同で、ルーブルの持つ美術品をデジタイズし、
こ れ を モ ニ タ ー 展 示 、AR 展 示 な ど を 含 め た さ ま ざ ま な
マルチメディア展示手法を使って自社ビルの展示会場
で 来 場 者 に 対 し て 提 示 す る 試 み を 行 っ て い る [3]。
一方、実物の美術品を展示している美術館などでは、
来 場 者 に 対 し PC を 並 べ た マ ル チ メ デ ィ ア コ ー ナ ー を
図 1
ク レ ー ブ ラ ン ド 美 術 館 の Collection Wall。超 大 型
のマルチタッチスクリーン
図 2-b
Google Art Project の 個 別 作 品 鑑 賞 モ ー ド
( Gigapixel で デ ジ タ イ ズ し た ゴ ッ ホ の 作 品 )
をマウスにより拡大縮小スクロールなどが可能である。
美術館によっては以上の例のようなバーチャル鑑賞を
用意してないところも多く、その場合、所蔵品を写真
つきでリストアップし、それを検索できるようにして
いるところが多い。
臨場感に欠ける。
b) 個 別 鑑 賞 に 移 行 し た と た ん に 作 品 の 実 寸 感 覚 が
混乱してしまう。
c) 個 別 鑑 賞 が 完 全 二 次 元 な た め 、た と え 絵 画 で あ っ
ても斜めから見るなどの見方はできない。
お そ ら く 、 美 術 品 の Web 展 示 と い う こ と で 世 界 最 大
これらの問題点は、美術館内を作品も含めて完全に三
の 規 模 を 持 つ サ ー ビ ス は Google が 提 供 し て い る
次 元 的 に 高 精 細 に デ ジ タ イ ズ し て 3DCG に 置 き 換 え て
Google Art Project[7]で あ ろ う ( 図 2)。 Google は 世
しまえばほぼ解決する。ただし、それを行った場合で
界中の美術館と提携し、所蔵品の情報の提供を受けサ
も、その代わりに以下の問題点が浮上するであろう。
イ ト 上 で バ ー チ ャ ル 展 示 を 行 っ て い る 。 図 2-a に 示 す
a) 館 内 で 歩 き 回 っ て 、作 品 の 前 に 立 ち 止 ま っ て 、近
よ う に 、 Google Street View と 同 様 の 技 術 で 美 術 館 内
寄って鑑賞する、という動作の自由度が多過ぎ、
を パ ノ ラ マ 撮 影 し 、 Street View と 同 様 の ユ ー ザ ー イ
適切なユーザーインターフェースをバーチャル
ンターフェースで展示室内をウォークスルーして天井
で設計することが難しい。
も 含 め た 360 度 を 自 由 に 見 回 せ る よ う に な っ て い る 。
b) 美 術 館 で の 鑑 賞 は 非 常 に リ ラ ッ ク ス し た 状 態 で
ウォークスルーして見たい展示品を決めたらクリック
あるべきで機械操作を感じさせないウォークス
してモードを替え、デジタイズされた2次元画像をマ
ウスで自在に拡大縮小スクロールして見る。特に、い
く つ か の 作 品 で は Gigapixel 級 の 非 常 な 高 解 像 度 で 作
ルー用デバイスを提供する必要がある。
c) 一 般 に デ ー タ 量 や 処 理 量 が 増 え 、 重 く な り 、 Web
でサービスを提供するのが難しくなる。
品をデジタイズしており、表面の細部に渡って観察で
これらの相反する問題をすべて一気に解決することは
き る ( 図 2-b)。 美 術 館 に よ っ て は ホ ー ム ペ ー ジ か ら
容易ではない。しかし、この現状の分析により、真に
Google Art Project へ リ ン ク を 張 り 、 そ こ で 鑑 賞 で き
快適なバーチャル美術館の構築にはまだまだチャレン
る よ う に し て い る と こ ろ も あ る( 国 立 西 洋 美 術 館 な ど )。
ジすべき課題がたくさん残っていることも分かる。
一方、それほど大規模でないギャラリーなどにおい
て 3DCG を 使 っ た バ ー チ ャ ル 美 術 館 が す で に 商 用 と し
3. 浮 世 絵 4K バ ー チ ャ ル 美 術 館
て利用されている例も見受けられる。ストックホルム
3.1. 設 計 指 針
の BEL’ ART[8]で は GRAPHTWERK[9]と い う ド イ ツ の 会
こ こ で 、我 々 が 構 築 し た 浮 世 絵 4K バ ー チ ャ ル 美 術 館
社 の 提 供 す る 商 用 の 「 Web 3D-Gallery」 ツ ー ル を 使 っ
についての詳細を述べる。そもそも本システムは、前
てバーチャル展示を行っている。マウスで三次元空間
章であげた問題点を解決すべく構築したものではない。
をウォークスルーでき、作品を選びボタンを押すこと
むしろ、美術の一愛好家として、自分が思い描いてい
で二次元作品画像の鑑賞に移行し、拡大縮小スクロー
るバーチャル鑑賞になるべく近づけようという意図の
ルして見られる。アプリケーションにはゲームエンジ
もとに設計製作したと言った方が実態に合っている。
ン Unity を 使 用 し て い る 。
以 降 で 説 明 す る 浮 世 絵 4K バ ー チ ャ ル 美 術 館 の ね ら い
2.3. まとめと問 題 点
をいくつか下記に整理しておく。
以上で概観した現状のバーチャル鑑賞については
以下の2つの機能を切り替え式で提供することが多い。
a) 展 示 ス ペ ー ス の 作 品 を 見 て 回 る と き:
インター
フ ェ ー ス と し て は 、作 品 リ ス ト の ブ ラ ウ ズ / 検 索 、
フロアプランのクリック/パノラマ画像提示、
Street View に よ る 館 内 の ウ ォ ー ク ス ル ー と 見 回
し 、 完 全 3DCG 空 間 に お け る 三 次 元 ウ ォ ー ク ス ル
ーと見回し。
b) 個 別 の 作 品 を 鑑 賞 す る と き:
a) 4K 大 型 モ ニ タ ー で の 展 示 と す る 。
b) 美 術 館 ス ペ ー ス と 作 品 を 3DCG で 構 築 し ウ ォ ー ク ス
ル ー に よ り 鑑 賞 す る が 、美 術 館 で の 鑑 賞 行 為 に な る
べく近くなるように留意する。
c) 展 示 ス ペ ー ス 内 移 動 と 作 品 個 別 鑑 賞 の モ ー ド 切 替
はせずシームレスとする。
d) 専 用 シ ス テ ム と は せ ず 、 実 際 の 4K モ ニ タ ー に よ る
来 場 者 の 鑑 賞 と 、イ ン タ ー ネ ッ ト に よ る Web 鑑 賞 の
インターフェース
と し て は 、マ ウ ス と ア イ コ ン ボ タ ン に よ る 、拡 大
縮 小 ス ク ロ ー ル 、彫 刻 な ど の 立 体 物 に つ い て は 上
述に加えボタンによる視点変更。
以 上 の 現 状 に 対 し 、以 下 の よ う な 問 題 点 が あ げ ら れ る 。
両者をカバーできるようにする。
3.2. システムの詳 細
以下に項目に分けて詳細を述べる。
(1) 美 術 品 素 材
作品として今回は、浮世絵を7点、屏風を1点用い
a) 館 内 ウ ォ ー ク ス ル ー か ら 個 別 作 品 の 鑑 賞 に シ ー
た。浮世絵については高解像度のデジタルカメラでデ
ム レ ス に 移 動 で き な い た め 、鑑 賞 行 為 に つ い て の
ジ タ イ ズ し 、 最 終 的 に 一 枚 を 4096×4096 画 素 の JPEG
ハードウェア
DisplayPort 出 力 の 4 本 を 4 本 の DVI に 変 換 し 、 ア ス
4K モ ニ タ
ト ロ デ ザ イ ン 社 製 の 56 イ ン チ 業 務 用 4K モ ニ タ に 接 続
して表示した。
PC
Q uadCore
W indows 7
(4) ソ フ ト ウ ェ ア
DisplayPort
×4
3DCG ゲ ー ム エ ン ジ ン Unity の フ リ ー 版 を 使 用 し た 。
GPU
前述の美術館スペース、椅子、額、キャプションのモ
V7900 (AMD)
デ リ ン グ デ ー タ を Unity Editor に イ ン ポ ー ト し て 配 置
ソフトウェア
Unity
図 3
し 、 点 光 源 を そ れ ぞ れ の 作 品 の 前 な ど も 含 め 合 計 15
マウス
個配置した。
浮 世 絵 4K バ ー チ ャ ル 美 術 館 の シ ス テ ム 構 成
(5) ウ ォ ー ク ス ル ー
Unity 上 で マ ウ ス に よ る ウ ォ ー ク ス ル ー を 行 う プ ロ
画像として蓄積した。屏風については借用したデータ
グラムを作成した。図 4 に示すように、作品の順路に
が 9270×3938 画 素 で 、 こ れ を 左 右 に 4096×4096 の 2
沿って一次元的に水平移動する経路を設定し、マウス
枚に分割して蓄積した。
の横スクロールによってこの順路を歩いて順に見てゆ
(2) 美 術 館 空 間
く よ う な 動 き を す る( x 軸 移 動 )。視 線 方 向 は 壁 と 垂 直
デ ザ イ ナ ー に よ る モ デ リ ン グ ( 3ds 使 用 ) で あ る 。
を保って動く。加えてマウスの縦スクロールで垂直方
影や天井ライトの投影などについてはテクスチャー焼
向(y軸移動)の移動をする。また、マウスのホイー
き込みで表現し、リアリティを重視した。中央の椅子
ルを操作することで作品に近寄ったり、離れたりする
はフリー素材の形状にテクスチャーを貼って作成。作
( z 軸 移 動 )。 焦 点 距 離 は 固 定 で 垂 直 画 角 は 40 度 に 設
品のキャプションについても紙のテクスチャーを生か
定した。また視線方向については、マウスの左ボタン
し 、そ れ ぞ れ 2048×1024 画 素 で 作 成 し て い る 。作 品 も
を 押 し な が ら 操 作 す る こ と で 縦 横 方 向 に 見 回 せ る( x,y
合 わ せ て 全 体 の テ ク ス チ ャ ー 画 像 は 4096×4096 が 20
軸 回 転 )。た だ し 、視 線 移 動 し て し ま う と 作 品 と 正 対 す
数枚程度の量になった。なお、作品は実寸に近いサイ
る状態に戻しにくくなるため、マウスホイールを押す
ズで展示室内に配置している。
ことで回転軸を 0 度にリセットして作品正対に戻るよ
(3) ハ ー ド ウ ェ ア
う に な っ て い る 。な お 、3D 空 間 内 カ メ ラ の 動 き は マ ウ
システム構成を図 3 に示す。ハードウェアは、
スデータにサーボロックして滑らかに動くようになっ
Windows7 を 搭 載 し た QuadCORE の 汎 用 PC に 、 AMD 社 製
ている(昨今のタッチパネルによるスクロール操作と
の グ ラ フ ィ ッ ク カ ー ド V7900 を 挿 し 、 ボ ー ド か ら の
同 様 )。
図 4
ウォークスルーの設計
図 5
浮 世 絵 4K バ ー チ ャ ル 美 術 館 の 出 力 例
(6) 自 動 運 転
3.3. 実 験 結 果
Unity 上 の プ ロ グ ラ ム で 、 マ ウ ス の 動 き を 記 録 し モ
図 5 に試作したバーチャル美術館の出力を示す。美
ーションデータとしてテキストファイルに蓄積し、こ
術 館 と い う 性 質 上 、ポ リ ゴ ン 数 は 少 な く 5000 ポ リ ゴ ン
れを再生できる機能を組み込んだ。自分でマウスを操
ていどだが、前述したように大量のテクスチャーを使
作して鑑賞するときはあまり気にならないが、第三者
用 し て い る 。出 力 解 像 度 は 3840×2160 で 、ア プ リ ケ ー
から見るとマウスの動きが唐突で見づらい絵になるこ
シ ョ ン 起 動 の 際 は レ ン ダ リ ン グ 品 質 に 最 高( fantastic)
とが多い。自動運転時は、ちょうどテレビの美術番組
を 選 択 し て 動 か し て い る が 、 60fps は 余 裕 で 得 ら れ て
でプロのカメラマンが撮影するときのような滑らかさ
おりウォークスルーは非常に滑らかである。一枚の絵
が好ましい。そこで、今回はマウスデータの再生時に
の 解 像 度 が 4K×4K サ イ ズ を 持 っ て い る た め 、特 に 浮 世
次の 1 次のリカーシブデジタルローパスフィルタをき
絵の方は図 5 に示すように拡大しても鮮明であり、紙
つめにかけ、動きをスムージングした。
の表面の質感や汚れまでもきれいに観察できる。
H(z) = (1 - k)/(1 - kz - 1 )
われわれは本システムを展示会で数回に渡ってデ
カットオフ周波数はカットアンドトライで決定し、現
モ し た が 、コ ン テ ン ツ 不 足 な 4K の 有 望 な 使 い 方 と し て
在 k=0.98 で あ る 。ス ペ ー ス キ ー を 押 す こ と で 自 動 運 転
好評であった。以下に実験によって分かった長所と問
し、マウスに触るとその時点で手動に切り替わる。
題点をあげる。
(7) Web で の 提 供
本 バ ー チ ャ ル 美 術 館 は Unity 上 に 構 築 さ れ て い る た
a) 浮 世 絵 は 通 常 、退 色 を 避 け る た め 薄 暗 い と こ ろ で
し か 鑑 賞 で き ず 、し か も そ の も の が 小 さ い た め 細
め 、 Unity が サ ポ ー ト す る す べ て の プ ラ ッ ト フ ォ ー ム
部 に 渡 っ て 観 察 す る こ と も ま ま な ら な い 。そ れ が 、
上 ( Windows, Mac, Linux, iOS, Android, Xbox な ど
こ の バ ー チ ャ ル 美 術 館 で は 、明 る く 自 在 に 照 明 を
各 種 ゲ ー ム マ シ ン ) で 稼 動 す る 。 Unity は Web Player
当て、近寄って細部をたっぷり鑑賞できる。
もサポートし、ビルドファイルをサーバー上に置くこ
b) 屏 風 絵 は 本 用 途 で は 9270×3938 画 素 の 元 解 像 度
と で 、 そ の ま ま Web ブ ラ ウ ザ ー で 起 動 す る こ と が で き
で は 不 足 し て お り 近 く に 寄 る と 画 質 が 荒 れ る 。浮
る。現在、大量のテクスチャーのためのデータ量だけ
世絵と同等の解像度を確保するには単純計算で
が問題で、動的ロードなどの手法が必要である。
も 50 倍 以 上 の 解 像 度 が 必 要 に な る 。
c) 今 回 の 横 方 向 の 順 路 移 動 方 式 に 縦 と 奥 行 き の 移
動を組み合わせた方法は完全ではないが比較的
快適である。
動 キ ャ プ シ ョ ン 生 成 、自 動 配 置 機 能 、正 確 な ラ イ
フサイズ展示。
e) 絵 画 に 加 え 彫 刻 な ど の 立 体 物 の 展 示 。
d) 一 つ の マ ウ ス だ け で ウ ォ ー ク ス ル ー と 見 回 し の
f) 一 方 的 展 示 の み で は な く 、合 成 音 に よ る 自 動 説 明
す べ て を カ バ ー す る の は 難 し い 。そ も そ も 、大 き
読 み 上 げ 、動 画 説 明 ビ デ オ の 埋 め 込 み 、光 を 当 て
な 4K 画 面 を マ ウ ス と い う 小 さ な デ バ イ ス 一 つ で
コントロールすることに違和感がある。
e) 56 イ ン チ 4K の モ ニ タ ー は 79ppi で Retina デ ィ ス
プ レ イ( 200ppi 以 上 )に は 及 ば な い が 、モ ニ タ ー
面 の 至 近 距 離 で も ピ ク セ ル は 見 え に く く 、3H 程 度
で 全 体 を 鑑 賞 す る 行 為 と 、 モ ニ タ ー 面 に 1H 以 下
たり、触ったりできるインタラクションの提供。
g) バ ー チ ャ ル 説 明 員 、バ ー チ ャ ル 専 門 家 、バ ー チ ャ
ル 鑑 賞 客( バ ー チ ャ ル ク ラ ウ ド )な ど の キ ャ ラ 的
演出の付与。
h) バ ー チ ャ ル 美 術 館 を 使 っ た バ ー チ ャ ル 美 術 番 組
の自動生成。
に 近 寄 っ て 鑑 賞 す る 行 為 の 両 者 が 、自 然 に シ ー ム
レスに行えた。
鑑賞者に対してさまざまな新しい鑑賞方法を提供
f) 今 回 屏 風 を 額 装 し て 壁 に 掛 け て し ま っ た が 、こ れ
することはバーチャル美術館の一つの方向性だが、
は 実 際 に は あ り 得 ず 、屏 風 は 自 立 さ せ て 鑑 賞 す る
我 々 は 、ま ず「 美 術 館 ス ペ ー ス を 歩 い て 、作 品 を 見 て 、
ものである。美術品に対する配慮が欠けていた。
感じる」という美術鑑賞の一番の基本を常に第一に考
えてサービス設計とシステム構築をして行きたい。そ
4. 今 後 の 開 発 方 向 と ま と め
本 稿 で は 、4K 映 像 シ ス テ ム に よ る 浮 世 絵 を 中 心 に 展
示したバーチャル美術館について紹介し、これを現在
う い う 意 味 で は 、 語 義 の 上 で 正 し く Virtual な 経 験 が
できるバーチャル美術館の構築を目指して行くつもり
である。
の世の中のバーチャル美術展示と比較し、その長所や
短所について議論した。本システムでは、超高精細で
謝
辞
デ ジ タ イ ズ し た 作 品 を 高 精 細 な CG 展 示 ス ペ ー ス に 配
置 し 、こ れ を 丸 ご と 3DCG と し て ユ ー ザ ー に 提 供 し て い
今回、ご所蔵の浮世絵を快くお貸し頂いた新藤茂先
る。実際の美術館スペースで展示作品群を眺める行動
生、吉野花見図屏風の撮影データをお貸し頂いた
と、個別作品を詳しく鑑賞する行動は、それぞれ臨場
Artefactory 社 、 細 見 美 術 館 に 感 謝 致 し ま す 。
感と実在感を担っているとも考えられる。本システム
で は 、こ れ ら シ ー ム レ ス に つ な ぎ 、さ ら に 大 型 4K モ ニ
タ ー で 提 示 す る 方 法 で 、臨 場 感 と 実 在 感 を 同 時 に 与 え 、
美術館における美術品の鑑賞という行為に比較的近い
効果を得ることができた。一方、三次元空間のウォー
クスルーをユーザー操作に任せているところにネック
がある。順路設定による移動アルゴリズムを取り入れ
ることで違和感は緩和されているが、ユーザーインタ
ーフェースデバイスが小さなマウス一つで弱く、その
点ではストレスを与える結果になった。
今回の構築は第 1 バージョンであり、今後、本稿で
行った議論を元にさまざまな方向に研究開発を進めて
行きたい。現時点で以下のような課題を考えている。
a) ウ ォ ー ク ス ル ー ア ル ゴ リ ズ ム の 改 善 。 順 路 移 動 、
見 回 し 、近 寄 り 、ぶ ら ぶ ら 歩 き 、な ど を ユ ー ザ ー
がストレスなく行えるようなウォークスルーア
ルゴリズムとインターフェースの研究開発。
b) 自 動 再 生 モ ー ド に お け る 優 雅 で 人 間 ら し い カ メ
ラ移動の自動生成。
c) 一 つ 以 上 の 展 示 室 に 対 応 。
d) 絵 画 デ ー タ ベ ー ス を 用 意 し 、そ こ か ら ユ ー ザ ー が
絵 を 選 び 自 在 に 並 べ ら れ る 仕 組 み 。自 動 額 装 、自
文
献
[1] M. Hayashi, M. Nakajima, S. Bachelder, A. Iguchi, S.
Machida: “Ultra High Resolution 4K/8K Real-time
CG System and Its Application”, Proceedings of
IWAIT2013, Jan. 7-9, (2013)
[2] ト ッ パ ン VR・ デ ジ タ ル ア ー カ イ ブ :
http://www.toppan-vr.jp/bunka/ (May. 2013 visited)
[3] LOUVRE-DNP Museum Lab:
http://www.museumlab.jp/ (May. 2013 visited)
[4] The Cleveland Museum of Art:
http://www.clevelandart.org/ (May. 2013 visited)
[5] ル ー ブ ル 美 術 館 バ ー チ ャ ル ツ ア ー :
http://www.louvre.fr/jp/visites-en-ligne (May. 2013
visited)
[6] 東 京 国 立 博 物 館 e-Museum:
http://www.emuseum.jp/ (May. 2013 visited)
[7] Google Art Project:
http://www.googleartproject.com/ (May. 2013
visited)
[8] Galerie Bel'Art - Stockholm:
http://www.belart.se/home/ (May. 2013 visited)
[9] 3D-GALLERY, GRAPHTWERK:
http://3dstellwerk.com/en/ (May. 2013 visited)