「マイクロ波ロケットの高推力化に成功」 1.発表概要: 地上から遠隔的に供給されるマイクロ波ビームをエネルギー源としたロケットの打 ち上げ試験を行い、繰り返しパルスビームを利用することによって 126 グラムの金属 製モデルロケットを打ち上げることに成功した。 2.発表内容: 東京大学大学院新領域創成科学研究科の小紫公也教授のグループと日本原子 力研究開発機構の共同研究チーム(原子力機構施設利用型共同研究)は、高出力マ イクロ波発振器「ジャイロトロン」(発振周波数170ギガヘルツ、出力1メガワット)をマ イクロ波源として利用し、地上から遠隔的に供給されるマイクロ波ビームを用いてロケ ットの打ち上げ実験を行い、重量のある金属製機体の打ち上げに成功した。 H-IIA ロケットなど従来のロケットは、搭載した推進剤(液体水素などの燃料と液体 酸素などの酸化剤)を燃焼させて推進しているが、推進剤の重量が打ち上げ時の重 量の 9 割を超え、ロケットが大型化し、コスト低減を阻む要因となっている。一方、マイ クロ波ロケットは燃焼反応を利用せず、推進剤を積む必要が無いため、小型軽量化 が可能である。打ち上げコストを従来のロケットの 100 分の 1 以下にできる可能性が あり、宇宙太陽発電衛星システムや月面基地など、大型宇宙構造物の建造に必要な 資材を低コストで運ぶことができる新しい輸送システムとして期待されている。 地上から照射されるマイクロ波のパルスビームを機体側で集光し、大気中で温度 約 1 万度のプラズマを発生させ、付近の空気を爆発的に膨張させて推進力を得る仕 組みで、雷による大音響(圧力波)の発生とよく似た現象を利用している。パルスビー ムを繰り返して照射することで定常的な推進力を出すことが出来る。 今回の実験は、日本原子力研究開発機構那珂核融合研究所において、国際熱核 融合実験炉(ITER)のプラズマ加熱用に開発が進むジャイロトロンが、安定に繰り返し パルス作動できるよう改良されたのに合わせて行われた。 2003 年に実施された実験では、930 キロワット,0.4 ミリ秒のマイクロ波パルスビー ムを単発で照射することにより、9.5 グラムのプラスチック製ロケットを約2メートルの 高度まで打ち上げたが、今回の実験では、600 キロワット,1ミリ秒のパルスビームを 100 ヘルツで繰り返し照射することにより、1.2 メートルの高度まで持続的に推進力を 発生させ、前回の実験よりも一桁重い 126 グラムの金属製ロケットを持ち上げること に成功した。 今後は、マイクロ波の高出力化、ビーム伝送系の改良、空気吸い込み機構の追加 などによって、より重い機体をより高い高度まで打ち上げる試験を行い、最終的には 100 キログラム程度の物資を軌道に投入することが目標である。 今回の実験では、かねてよりの課題であったマイクロ波ビームの長距離空間伝送 技術の実証も行われた。長距離伝送にはマイクロ波のビーム径を拡大する必要があ るが、送電側でパラボラミラーを用いてビーム径を広げ、受電側で同じくミラー系を用 いて元の径に戻してから推進力を得る実験を行い、5メートル以上離れた場所でも十 分な推進力を発生し続けることができた。本技術は、将来の大電力無線エネルギー 伝送の可能性を示唆するものでもある。 3.発表予定: 宇宙輸送シンポジウム http://www.isas.jaxa.jp/j/researchers/symp/2010/0114_yusou.shtml (相模原市 JAXA 宇宙科学研究本部、平成 22 年 1 月 14、15 日。発表は 15 日(金) 午前中の予定) 4.注意事項: プレスリリース解禁時間:1月15日(金) 0時 5. 問い合わせ先: 東京大学新領域創成科学研究科 教授 小紫公也 電話/FAX 共通番号:03-5841-6607(本郷キャンパス)、04-7136-3829(柏キャンパ ス) メールアドレス:komurasaki@k.u-tokyo.ac.jp 6. 用語解説: 「マイクロ波」 電子レンジや携帯電話で使われる電磁波。 「打ち上げコスト」 荷物を地球周回軌道などに投入する費用。H-IIA ロケットの低軌道への投入費用 は荷物 1 キログラム当たり約 80 万円。 「宇宙太陽発電衛星」 宇宙空間で太陽光を電気エネルギーに変換し、地上に送る計画。数キロメートル 四方の衛星で、1機あたりギガワットの発電能力が想定されている。 「無線エネルギー伝送」 電力を、電線を用いずに電磁誘導や電磁放射、レーザーなどを用いて伝送する 技術。 7. 添付資料: 写真、ビデオ素材、補足資料等は下記のホームページからダウンロード可能です。 URL: http://www.kml.k.u-tokyo.ac.jp/press/pr1001.htm 図1:マイクロ波ロケット垂直打ち上げの様子。高速度ビデオカメラ画像の1コマ。
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