第 3章 鉄状態の診断と治療

日本透析医学会雑誌
1748
37巻 9号 2004
第 3章 鉄状態の診断と治療
1) HD 患者は ダイアライザーへの残血と採血検査のため 年間約 2g の鉄を喪失する このため容易に鉄欠
乏に陥り易い 鉄欠乏の診断には トランスフェリン飽和度(TSAT)と血清フェリチン濃度が標準的マー
カーである 鉄過剰に関する欧米のガイドラインは 日本人に対して安易に推奨できない
2) 鉄剤は 透析終了時に透析回路よりゆっくり投与する 毎透析に計 13回 ないしは週 1回 3か月間の投与
を目安として終了する 鉄剤投与禁忌の病態があることに注意する必要がある
1
3) 鉄過剰の診断
鉄状態の診断
鉄過剰の診断は 鉄投与の副作用を予防 軽減する
ために 適切に行われなければならない 欧米のガイ
鉄欠乏の診断基準は トランスフェリン飽和度
(TSAT)20%以下 血清フェリチン濃度 100ng /
mL以下である
ドライン
では TSAT<50%および血清フェリチ
ン濃度<800ng/mL までは鉄剤投与を継続すること
で Hb 11∼12g/dL が維持できることが多いとしてい
る しかし TSAT<50%および血清フェリチン濃
1) 鉄欠乏と鉄過剰の定義
度<800ng/mL ほどの高値まで鉄剤を投与し続ける
体内の鉄欠乏 鉄過剰状態は造血と密接に関連する
しかも 体内の鉄状態は その役割と
布の両面から
ことは
鉄過剰の可能性から安易に勧めることは
できない
評価される必要がある
TSAT および血清フェリチン濃度を鉄過剰の診断
HD 患者は ダイアライザーへの残血と採血検査の
ため 年間約 2g の鉄を喪失する 造血が維持されてい
る患者では 鉄補給を行わない限り いずれ鉄欠乏に
法に利用した場合の感度と特異度は いずれも不良
で
鉄過剰の簡易診断は不可能である(表 3-1)
結果的に 限定された鉄指標の目標範囲を維持する
陥る EPO の効果を充 発揮させるためには 造血が
ように鉄剤を持続的に投与する
最大となるように Hb 合成にみあう鉄供給を維持する
乏状態であれば 鉄剤投与を一時的に行い 欠乏状態
ことが必須である
を脱したら中止するという方法
一方 造血以外にも 鉄欠乏は異味症 爪変形 鉄
過剰はヘモジデローシス 易感染性などを惹起するの
で避けなければならない
のではなく 鉄欠
が より安全な投
与法として推奨される
2
鉄剤の投与
2) 鉄欠乏の診断
鉄欠乏状態を判断する上で汎用されている簡 な診
断マーカーは平
赤血球容積(M CV)である しかし
その感度 特異度とも不十
TSAT が 20%以下
である そこで ①
鉄剤の投与は透析終了時にゆっくり静注する 毎
透析ごとに 13回 ないしは週 1回 3か月間投与す
る
② 血清フェリチン濃度 100ng/
mL 以下 ③ 網赤血球内ヘモグロビン含量 32.2pg 未
満 ④ 4∼5か月間にわたって低下傾向を示す平
1) 鉄剤の選択と投与経路
赤
鉄剤には 経口製剤と静注製剤がある 欧米では皮
血球容積などの指標を利用して鉄欠乏と判断する こ
下注も推奨されているが わが国では承認されていな
れらのうち 網赤血球内ヘモグロビン含量は 保適用
い いずれの製剤も 過量投与で過剰症を招くので
も認められておらず TSAT と血清フェリチン濃度が
厳重な鉄状態の監視が必要である
標準的な鉄欠乏マーカーである
rHuEPO 投与による急激な造血時の鉄需要の増加
に応じるには 血管内投与が必要である 静注用鉄剤
TSAT:トランスフェリン飽和度
として わが国では含糖酸化鉄
〔血清鉄(μg/dL)×/ 鉄結合能
TSAT(%)=
酸 鉄コロイド
(TIBC)(μg/dL)〕
×100
コンドロイチン硫
シデフェロン が入手できる
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37巻 9号 2004
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表 3-1 鉄欠乏と鉄過剰状態のマーカーの感度と特異度
a.
鉄欠乏の指標
Sensitivity/Specificity
保険点数/時間
TSAT(%)20%>
フェリチン(ng/mL)(100ng/mL>)
%HYPO(%)(2.5%<)
(10%<)
CHr(pg)(32.2pg>)
sTfR(mg/mL)(1,200mg/mL<)
対照
84.2%/31.4%
39.1%/35.6%
86.5%/20.6%
76.5%/73.4%
40.5%/33.9%
37点/1時間
150点/1時間
/10
保険未承認/10
保険未承認/assay kit による
鉄過剰の指標
Sensitivity/Specificity
保険点数/時間
TSAT(%)50%<
フェリチン(ng/mL)(800ng/mL<)
%HYPO(%)(10%>)
対照
46.7%/99.4%
0%/90%
sample 中 max 10%以下
61.5%/65%
52.4%/36.2%
37点/
150点/
備
貯蔵鉄の指標
赤血球レベルの指標
赤血球レベルの指標
鉄欠乏および細胞増殖を反映
b.
CHr(pg)(33pg<)
sTfR(mg/mL)(1,000mg/mL>)
2) 鉄剤の一回投与量と頻度
上記の診断基準により鉄欠乏状態にあると判断さ
保険未承認/
保険未承認/
備
貯蔵鉄
赤血球レベルの指標
赤血球レベルの指標
には 投与を中止するか 充 に検討し対応策を講じ
た後に投与する
れ 鉄剤投与の禁忌(下記参照)がない場合 コンド
(1) 鉄剤によるアナフィラキシーの既往
ロイチン硫酸鉄
(2) 鉄過剰症を疑わせる既往歴や症状 大量輸血歴
鉄コロイド 40mg などを毎透析ご
とに 13回 ないしは週 1回 3か月間投与する 透析終
ヘモジデローシス
了時に 透析回路返血側よりゆっくりと投与する 静
症 などのある時
注製剤はいずれも 投与直後に急激なショック症状を
呈することがある
特に 初回は充 な監視下に
希釈した半量をゆっくり投与し 投与後 1時間程度観
ヘモクロマトーシス 鉄骨
(3) 感染症の存在
鉄剤投与により細菌感染症 真菌症などの合併
や増悪が報告されている
察して過敏反応が起きないことを確かめることが勧め
(4) ウイルス性肝炎
られる
鉄欠乏状態では 肝機能異常の改善
投与終了 2週後に前記検査を反復して 鉄欠乏状態
にあると判断されれば 同上の投与を繰り返す
3) 鉄剤投与の禁忌
鉄剤投与の適応があると判断されても 以下の場合
インターフェ
ロンへの反応性改善などが報告されており 鉄剤投与
により逆効果が発生する可能性がある