CEPA I&II:香港発展の機会

CEPA I&II:香 港 発 展 の 機 会
2004 年 10 月 20 日
A 初めに
昨年締結された経済貿易緊密化協定
(CEPA)
が 2004 年1月1日に施行され、香港製品、サービ
スと専門職従事者の本土市場へのアクセスが拡大されました。これに続いて香港および中国
本土政府は 2004年8月27日、CEPAの枠組みに基づく自由化第2段階
(CEPA II)
を発表し、本
土市場へのアクセスをさらに拡大することで合意しました。この結果、従来のゼロ関税適用
対象品目374品目に新たに713品目が追加されることになり、ほぼすべての香港製品をゼロ関
税で本土に輸出できるようになります。またCEPA IIではサービス 8 業種で本土市場が開放
され、CEPA Iで自由化された18業種についても規制緩和の枠が広がります。CEPAは、分野
別の市場アクセス条件をさらに拡大することができる、いわば生きている協定であり、香港
企業には本土での事業開発機会を、また香港住民には本土での就労機会を与えてくれます。
ACEPA - 国際ルールに準じた特別な取り決め
CEPAは、香港と中国本土間で締結された初めての自由貿易協定(FTA)です。CEPAは、
WTOが規定するFTAの条件を完全に満たしています。CEPAは、香港と中国本土間の投資・
貿易障壁を大幅に撤廃するものですが、これによって他の経済地域からのこの2 つの市場に
対する障壁が高くなることはありません。サービス貿易に関する一般協定
(GATS)
の規定に
従い、香港で実質的に事業活動を営む企業は、
「香港企業」
と見なされ、CEPAの恩恵に与る
ことができます。
A 製品貿易の機会
CEPA第2 段階が実施される2005 年1月1日から、1,087品目の香港製品をゼロ関税で中国本土
に輸出できるようになります。今年初めの第1段階実施以来、香港原産と認定された総額6億
6,200万香港ドル相当の製品が中国本土にゼロ関税輸出され、3,600万人民元の関税を納付する
必要がなくなりました。
CEPAⅡによって現在香港で生産されているほぼすべての製品がゼロ関税で本土に輸出でき
るようになるだけでなく、現在は香港で生産されていないが、生産が計画されている製品に
関しても、香港企業が申請すればゼロ関税を適用することを中国政府は約束しています。
実際、第2段階でゼロ関税が適用される713品目のうち184品目は現段階では香港で生産され
ていません。
CEPAが規定する原産地規則の条件を満たせば、製品は
「香港製」
と見なされます。第1 段階
のゼロ関税の適用対象となる374 品目のうち70%については、
「製造工程基準」
に基づく香港
の現行の原産地規則が採用されます。残りの品目に関しては、「関税項目変更」
または「30%
付加価値要件」
が適用されます。この30%という比率は、通常40%から60%の範囲であるこ
とが多い他の自由貿易地域の下限値に比べて有利です。
香港製品がゼロ関税の恩恵を享受できるのに加え、香港企業が製造・輸出入した製品も、別な
方法でCEPAの恩恵に与ることができます。中国のWTO加盟に伴い、中国本土に生産施設を
置く香港の製造業者は、国内市場として中国市場を開発しようとするでしょう。しかし、こ
れまで香港企業の中国市場参入は、本土の未発達な流通制度によって妨げられていました。
CEPAを機に香港企業が中国本土で流通事業に従事できるようになれば、香港企業が直面し
てきた支払に関する問題や知的所有権保護などの中国市場開拓に伴う様々なリスクを低減で
きる可能性があります。
CEPAが製品貿易にもたらすゼロ関税という直接的な恩恵は、中国本土に輸出される香港製
消費財の価格競争力を強めることにもなります。特に、デザイナーブランドの衣類、アクセ
サリー類、医薬品、加工食品などが、その恩恵に与ることになるでしょう。またゼロ関税に
よる長期的な経済効果として、高付加価値製造活動の香港への誘致や、中国本土で増加する
新興中流階級向けブランド製品の開発促進などが挙げられます。
知的所有権の保護、自由な貿易・投資環境、国際色豊かなデザイン開発などの優位性を持つ
香港は、中国本土市場をターゲットにした高度なIP
(知的所有権)
産業を開発できる有利な立
場にあります。
デザイナーブランドのアパレルやアクセサリーなどの高級品や、専有技術を利用する産業
(コ
スト構造において、労働力やその他のインプットよりも、IPインプットが多くの比率を占め
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CEPA I & II : 香 港 発 展 の 機 会
る産業)
は、今後も香港で生産を続けられるでしょう。ただし高度IP 産業は、知識集約型で
あり、大規模である必然性がないため、香港での雇用創出効果、特に非熟練労働者のそれは
控えめなものとなるでしょう。
A サービス貿易の機会
2003年に中国政府と香港特別行政区政府が締結したCEPAでは、香港企業に対しサービス18
業種での中国市場アクセスが認められています 1。両政府はさらに2004年8月27日、CEPA II
として、法務、会計、医療・歯科、音響・映像
(AV)
、建設、流通、銀行、証券、運輸、貨物
運送代理、個人の店舗保有などの分野で香港のサービス企業への本土市場アクセスを拡大す
ることで合意しました。
またCEPA IIでは、空港サービス、文化・娯楽、情報技術、職業紹介、職業仲介、弁理士、
商標登録サービス、専門職資格試験の8業種のサービス提供者に、本土市場への優先アクセス
を付与することになっています。つまり、中国本土は、CEPA IIとIを合わせて計26業種の
市場を香港のサービスおよびサービス提供者に開放することを約束したわけです。
A CEPA(I & II)の適用対象サービス業
経理
貨物運送代理
医療・歯科
広告
情報技術サービス
弁理士
※
専門職資格試験
空港サービス
個人所有店
音響・映像
(AV)
保険
証券
銀行
職業紹介
倉庫業
建設・不動産・関連サービス
職業仲介
付加価値通信サービス
会議・展覧
法務
観光
文化・娯楽
物流
商標登録サービス
流通
経営コンサルティング
運輸
※「個人所有店」は CEPA I では「流通サービス」に分類されています。
CEPAの恩恵を受けるには、サービス企業は、投資家や株主の国籍にかかわりなく、香港で
実質的な事業活動を行っていなければなりません。実質的事業活動の有無は、次の条件に
よって判断されます。
(1)香港で法人登記している。
(2)香港で法人所得税を納税している。
(3)香港で総従業員数の50%以上を雇用している。
1 サービス18業種は、経営コンサルティング、会議・展覧、広告、経理、建設・不動産、医療・歯科、流通、物流、貨物運送
代理、倉庫業、運輸、観光、音響・映像
(AV)、法務、銀行、証券、保険、付加価値通信サービスです。
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業種によっては、規定期間(通常 3〜 5 年)以上の香港での事業実績を要求する追加基準を満
たさなければなりません。追加基準は業種によって違いますが、基準適合の合否は無差別的
かつ客観的に判断されます。外国企業が合併や買収によって香港企業の過半数株を取得した
場合も、その後 1 年が経過すると「香港企業」と見なされます。
サービス産業の自由化の程度は業種によって異なりますが、中国政府は、香港特有のニッチ
産業にも配慮しており、CEPAにはWTOの公約以上の自由化が盛り込まれています。例え
ば、香港企業に対する音響・映像(AV)や医療サービス業の開放もその表れです。
香港政府は最近、クリエイティブ産業の振興開発を特に重視するようになりました。香港ク
リエイティブ産業の中核である音響・映像
(AV)
産業は、そのダイナミズム、芸術性および創
造性が広く知られています。こうした背景の中で、CEPA締結がエネルギー源となって、
2003年末以降、香港映画産業は急速に回復しつつあります。香港製中国語映画の本土市場へ
の枠無しアクセスや共同制作要件の緩和を規定したCEPA I のおかげで、香港の映画業界人
は再び楽観的な気持ちを抱くようになってきました。
CEPA II は、中国本土の映画・テレビ市場への参加拡大というもうひとつの利益を香港の音
響・映像産業にもたらします。国家広播電影電視総局
(SARFT)
の承認を得れば、中国本土の
試験地域に100%所有の映画配給会社を設立し、本土および本土香港合作映画を配給できる
ようになります。合作映画は、SAFRTの承認を得れば、中国本土外で処理できます。
また本土の監督当局の審査を受ければ、香港と本土の共同制作番組を本土制作番組として放
送および配給できます。さらに、CEPA Iでは香港企業には映画館の最大75%の所有しか許
可されていませんでしたが、CEPA IIでは香港企業は映画館を建設または改装して、100%
所有できるようになりました。
香港企業は、上演会場、画廊、芸術展示センターを設立し、100%所有できるようになりまし
た。芸能代理店も合弁事業で設立できます。以上の業種はWTO合意枠組みの対象外のため、
中国本土のWTOに対する公約以上の自由化を香港に与えることになります。
医療分野に関しては、香港で医療に従事する法的資格を持ち、5年以上の実務経験がある香港
永住者は、本土の資格試験で営業免許を取得すれば、CEPA II に基づいて本土にクリニック
を開院することができます。
CEPAの枠組みは、所有者の国籍に関わりなく、香港の中小企業を支援できるように設計さ
れています。WTOの規定による中国本土サービス市場参入のための最低資本額は、香港の
サービス企業の大半には高すぎます。CEPAでは香港企業を対象に中国参入のための最低資
本額が引下げられるため、こうした中小企業にも中国本土への有効な市場アクセスが与えら
れます。
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CEPA I & II : 香 港 発 展 の 機 会
CEPAの恩恵に与れるのは、香港製品や香港企業だけではありません。香港の専門職従事者
や住民もCEPAの恩恵を享受することができます。例えばCEPA Iでは香港の法務および医療
サービス従事者が中国本土の資格試験を受験することが認められていましたが、CEPA IIで
は、香港住民がエンジニアリングや経理分野を中心に計30業種の専門および技術資格試験を
受験できるようになります。
CEPAの導入を受けて、さらに多くの香港住民が中国本土で雇用やビジネス機会を見出すよう
になるでしょう。香港の弁護士の場合、香港法律顧問許可の適用対象にならないため、本土
法律事務所の個々のケースに関して専門的支援サービスを提供することで、さらなるビジネ
ス機会が得られます。
CEPA I では、中国の市民権を持つ香港永住者が広東省で小売活動に従事することが正式に
許可されました。CEPA IIではこの地理的制限が本土全体に拡大されます。また個人所有店
の業務範囲も、小売から飲食などの外食サービス、理容・美容、その他の特定サービスに拡
大されます。
A 香港に対する全般的影響
中国・香港間の初のFTAであるCEPAは、
「一国二制度」に基づき、香港の制度的強みと中国
本土の巨大な市場としての可能性の双方を活用するものです。CEPAは、香港経済を再活性
化させるだけでなく、中国本土の経済近代化を加速させるものと期待されています。
CEPA導入にともなって、香港と珠江デルタ地域
(PRD)
の統合も推進されるでしょう。香港
は、金融、輸送、専門職、調達、その他貿易関連サービスの提供に競争優位があります。
一方、PRDは、ダイナミックな世界の製造拠点へと進化しつつあります。CEPA締結に伴い、
これら2地域間の経済的相乗効果が香港をビジネス拠点として利用する企業に大きな利益を
もたらすようになるでしょう。
CEPAは、実際に、香港製品、香港企業
(特に中規模企業)
、香港の専門職従事者および住民
が中国本土市場に
「効果的」
にアクセスするための
「環境」
を創り出しますが、中国本土市場で
排他的権利を享受する
「特権」
を与えるものではありません。香港製品、企業および住民は、
この巨大市場で国内のサプライヤーや多国籍企業との競争に直面しなければなりません。
WTOの公約に則って中国市場が今後さらに開放されるに従い、香港企業の先行者としての
優位性は次第に失われていく分野もあるでしょう。にもかかわらず、CEPAは、分野別自由
化の継続的推進を可能にするメカニズムが組み込まれた継続的プロセスです。実際、CEPA
は、香港と中央政府の協議に基づいて市場アクセス範囲を段階的に拡大できる柔軟性のある
協定です。2004年1月のCEPA施行後の2004年8月末にCEPA IIが締結されたことは、その証
といえるでしょう。
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例えばCEPAの漸進的性質を反映して、CEPA I で自由化されたサービス18 業種に加え、
CEPA II では 8 業種が自由化されます。さらにCEPA Iで自由化が認められたサービス分野
のうち多くの業種のさらなる自由化が約束されています。また、CEPA I でゼロ関税が適用
された374 品目にCEPAの713品目が加わり、ほぼすべての香港製品がゼロ関税で本土に輸出
できるようになります。CEPAは明確に未来志向型の協定です。その証拠に、CEPAのゼロ関
税適用品目には、現在はまだ香港で生産されておらず、今後生産される予定の品目も含まれ
ています。
CEPAは、中国本土市場進出に対する香港の優位性を明らかに強化することになるでしょ
う。中国市場に容易にアクセスでき、厳重な知的所有権の保護制度を持つ香港は、「高付加
価値・知的所有権を有する」
製品やサービスを本土市場に供給する企業にとって最適の立地先
といえるでしょう。実際、創造性は香港企業および住民が本土市場で成功するための重要な
決定要因になるでしょう。
あらゆるビジネスおよび専門職分野の有能な人材を取りそろえたアジアのビジネスハブであ
る香港は、香港を本土市場に進出するための事業拠点として利用する企業のために、どんな
厳しいサービス要求も満たすことができます。専門職資格の相互認定や香港の専門職従事者
による本土の資格認定試験受験を認めたCEPAは、知識集約経済の拠点としての香港の優位
性も強化することでしょう。CEPAは、香港・本土間の人材や人的資源の交流を促進し、それ
が長期的には香港の「知識集約型」サービスハブとしての発展を促すことになるでしょう。
香港はオープンな自由経済地域として、またアジア・太平洋地域で最も有利な事業拠点とし
て国際的に知られています。香港には、地域内の他のいかなる都市よりも多くの多国籍企業
が地域本社や事務所を設置しています。また香港は、中国本土市場への迅速かつ優秀なアク
セスに恵まれた、比類のないビジネス環境を提供します。CEPAは、この市場アクセスをさ
らに大幅に強化しました。
香港に所在する外国企業は、他の香港企業と同じように、香港を中国・アジア事業の拠点と
して利用することですでに巨大な利益を得ています。CEPAによって香港の優位性がさらに
強化されれば、香港を拠点とする外国企業や香港を通じて中国本土事業戦略を構築したいと
考えている外国企業は、さらに大きな利益をCEPAの恩恵を享受する香港から引き出すこと
ができるでしょう。
CEPAの規定によれば、高付加価値製品の販売先として本土市場を狙っている外国企業は、
CEPAの原産地規則に基づき
「香港製」
の認定を受ければ、香港の優れた知的所有権保護、製品
デザインおよびゼロ関税特典を利用できます。また、香港とPRDの組み合わせが提供する経
済的相乗効果を利用して、香港メーカーと提携したり、香港企業へアウトソーシングすること
もできます。
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CEPA I & II : 香 港 発 展 の 機 会
さらには、急成長中の本土市場への参入を計画している外国のサービス企業は、CEPA適格
の香港サービス企業と提携するか、そうした企業に投資することで、本土市場情報や経験を
得ることができます。
CEPAは施行後 8か月で、製造業分野で香港の雇用創出にある程度貢献しました。これまで
の雇用創出効果は控え目なものでしたが、今後は、サービス業分野で国境を越えた雇用創出
効果が見られるようになるでしょう。現在、中国のGDPに占めるサービス業の比率が34%に
過ぎないことが、中国の経済発展の足かせになっています。それに対して香港ではサービス
業が発展しています。GDPの 87%を占める香港のサービス業は、CEPAの下、中国の近代化
に多大なる貢献をするでしょう。CEPAが製造業よりもサービス業に遥かに大きな影響を及
ぼすのは、そのためです。また長期的には、一般的総雇用数にCEPAは重大な影響を及ぼす
でしょう。
当面の貿易拡大や雇用創出効果は当然、香港にとって重要ですが、CEPAはそれよりも遥か
に有益な長期的影響を及ぼすでしょう。実際、香港の経済再編とPRDとの統合はCEPAに
よって迅速化されるでしょう。またCEPAは次第に大きな影響を及ぼすようになりますが、
それは香港のGDPよりもGNPにより顕著に反映されるでしょう。CEPAから生じる機会は、
香港特別行政区の内部の活動に限定されたものではなく、中国本土の奥深くへと及んでいき
ます。
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