背景画像を利用した地図グラフ表現と適用

背景画像を利用した地図グラフ表現と適用
田中
潔1)(岡山商科大学商学部)
1.地図グラフ表現法
地域データなどの表現法としては,地図グラフが代表的である.地図グラフは,領域を色やパタ
ーンで塗りつぶす方法やより小さなグラフを地図上に配置するカルトグラムとして表現される.
塗り分け地図の場合,塗り分け面積が,地図領域に印象が影響される(例:北海道の方が,沖縄
よりも印象が強い)ことが指摘され,塗り分けの代わりに,柱状,矢印,円などを記入する方法も
用いられる.また,世界,日本,都道府県など代表的な地図データは比較的手軽に入手できるもの
の,独自の地域,例えば建物内図などの地図グラフ作成には白地図作成などの困難性をともなう.
我々は,長年にわたり商業環境変化把握のため,都市街区の歩行者通行量の定点調査に参加して
きた(岡山市中心商業地通行量調査,岡山市).この調査報告の上で,多くの通行量を図的に表現
することは,街区通行量理解のための重要な課題であり,より簡便に地図グラフを作成することが
求められた.本報告では,この目的のためグラフ表現法を容易に作成するソフト,mapDを作成
したのでここに報告する.
2.地図作成ソフトについて
塗り分け地図は,Windows パソコンの場合,Office の Microsoft Map が有名である.しかし,塗
り分けが都道府県など限られたエリア別であり,任意自由な領域についてのグラフ作成は難しい.
フリーウェアでは,MAPWIN2)(塗り分け地図作成)が知られている.このソフトは都道府県や市町
村などの塗り分け地図作成に適しており,代表的な地域については地図データが,多くの有志によ
って作成され,ネット上に掲載されている.しかし,塗り分け地図の特性上,閉空間による独自の
地図データを準備する必要がある.
また最近,デジタル地図帳の性能向上も顕著であり,その1つZ[Zi](ジー)3)では,地図上に
種々のグラフを書き込む機能が備わっている.
3.地図グラフ作成システムmapD
Map Graph Drawing System(mapD,マップディー)は,地図グラフ作成のためプログラムで
ある.開発は Windows 上で Visual Basic6.0 を使用して行われた.このためmapD/VBと表記
することもある.mapDの作図原理は図 3‑1 に示されるとおり,背景地図を BMP 画像として読込
み,この地図上にグラフを重ね書きするものである.このグラフ書きのために,作図位置(点)を
示す点データとその点の実現値を示す値データがそれぞれ必要となる.
このため,mapDの使用するファイルは計3種類である.1つは「背景画像ファイル」であり,
BMP 形式の画像データをそのまま使用する.BMP 画像とするメリットは,地図グラフで準備が大変
な背景データを市販のデジタル地図から活用したり,スキャナなどで読み取った独自の地図を活用
できる点にある.
2つめは,この背景上にグラフとして作図する,点情報が格納された「点データファイル」であ
る.点データの追加は,表示地図をクリックすることで可能となる.また,このデータはテキスト
形式であり,メモ帳などのエディタで用意に訂正が可能である.データフォーマットは図 3‑2 のと
おりである.地図上の位置(x,y)をピクセル単位で示し,矢印の向きを示す角度の構成となっ
ている.
1)〒700-8601 岡山市津島京町 2-10-1,℡086-252-0642㈹,Fax086-254-6947,tanaka@po.osu.ac.jp
2)http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/pbhel/www/mura/mura-j.html
3)Professional 版,ゼンリン社,http://www.zenrin.co.jp/
3つめの「値データファイル」は,ある点番号とその点の観測値を1レコードとしたテキストで
あり,そのフォーマットは図 3‑3 に示される.図 3‑4 には,mapDのメイン画面を示す.また,
図 3‑5 には,今回適用された岡山市中心部付近の概観を示す.mapD関連は,研究室の専用サイ
ト4)に掲載されており,随時改良が続けられている.
図 3‑1
mapDの基本概念
総件数n
1つめのx座標,y座標,角度
2つめ
:
:
:
:
:
:
:
n番目 x座標,y座標,角度
(単位:ピクセル)
図 3‑2 点データフォーマット
(座標軸は VB 上の表記に従い,
y軸(+)は画像下方向となる.
)
点番号1,点1の表示値
点番号2,点2の表示値
:
:
点番号m,点mの表示値
(点番号の順序は任意)
図 3‑3
図 3‑4 mapDのメイン画面
値データフォーマット
図 3‑5
調査地点の全体(岡山市)
4.使用した背景地図データ
デジタル地図データは各社から発売されている.適用事例には,Z[Zi](ゼンリン社)を使用し
4)http://www.osu.ac.jp/~tanaka/mapd/index.html
た.この地図は,1/10m までの縮尺がほぼ連続的に変化でき(都市部),640×480 ビクセルまでの
部分地図の使用が認められている(画像下に著作権表示が入る).必要な地点名などは,事前に地
図上に書き込むことが可能である.また Professional 版には,地図上へのグラフ書き込み機能が
追加された.この地図帳に掲載されていない地下街図などは,スキャナにより画像を読み取り,BMP
画像を作成した.
5.作成マップ保存機能と動画への応用
mapDには,完成した地図グラフを BMP ファイルとして保存する機能を備えている.この機能
を使用して,同一背景で連続的に描き(画像と点データファイルは同じものを使用し,値データフ
ァイルを変化させる),時刻変化グラフとして保存すれば,動的変化を示す地図グラフ(コマ)が
得られる.そしてこの画像を,アニメーション GIF ファイルに変換すれば,「動きのある」地図グ
ラフが得られる.
なお,時系列変化を示すデータは,行側に地点(n),列側に時刻(p)を取ればn×p行列デ
ータと見なすことができる.
{xij}(i=1,2,…,n, j=1,2,…,p)
mapDのユーティリティとして,このような行列データから複数のp組の値データファイル(ベ
クトル)を作成し,連続作図をより簡便に行えるように配慮されている.
6.適用事例
mapDを適応した例を紹介する.岡山市では「岡山市中心商店街通行量調査」を 1966 年から
隔年実施してきた.この調査の目的は,岡山市の中心3街区における歩行者数を定点観測し,市商
業施策に反映させようとするものである.2002 年春の実施要領を表 6‑1 に示す.
表 6‑1 通行量調査実施要領
実施日
計測時間
地点
2002 年 3 月 2日間
3 月 17 日(休日)
・ 18 日(平日)
午前 9 時〜午後 6 時
のべ 9 時間
74 地点のべ 148 方向
(I=1,2,…,148,j=1,2,…,9)の行列データが平日・休日で計2組
この調査実施により,{xij}
計測された.
【結果例】図 6‑2 には休日における街区変化を円の大きさで示した.左上 9 時,左下 11 時,右上 14
時,右下 18 時の様子である.朝には通行量が少なかったが,次第に歩行者が増加し,昼ごろ中心
部(アリスの広場付近)に最大通行量を示す.その後,帰宅者が増え,街区北部付近の通行量がや
や増加している.この様子を 14 時と 16 時について矢印グラフにしたものが図 6‑2 である.
14 時では中心部(地点A)の通行量が上下を中心として多い.これが夕方 18 時になると,地点
Aの通行量は減少し,代わりに地点B,特に上方向(北行)の通行量が増加する.これは帰宅によ
る変化と考えられる.なお,図は印刷のため矢印などがやや見づらいが,実際の画像は色により区
別しやすい.
7.おわりに
mapDの開発は,煩雑な地図グラフ作成の労力を著しく軽減し,市街地の通行量変化を視覚的
に把握するために極めて有益であった.また,アニメーション表示は,膨大な通行量データを経時
縦断的にブラウズするための方法として有効であり,Webなどへの掲載などへの応用範囲を広げ
ることが可能になった.
図 6‑1
アニメ GIF データとしてブラウザに表示した動画例
図 6‑2 14 時と 16 時の矢印グラフ