分生研ニュース 第25号(2004年 1月発行)

1 月号(第 25 号)2004.1
東京大学 分子細胞生物学研究所 広報誌
IMCB
IMCB
Institute of Molecular and Cellular Biosciences
University of Tokyo
University
Tokyo
The of
University
of Tokyo
目
次
新年のご挨拶(宮島 篤)…………………………………………………1
受賞者紹介 …………………………………………………………………15
研究分野紹介(創生研究分野)………………………………………1 〜 3
防災訓練 ……………………………………………………………………16
着任のご挨拶(吉田章子、川崎善博)……………………………………4
動物慰霊祭 …………………………………………………………………16
転出のご挨拶(丸山正巳、森口徹生)……………………………………5
お店探訪(高橋浩子) ……………………………………………………17
第 19 回分生研バイオテクノロジー懇談会 …………………………6 〜 7
平成 15 年度奨学寄附金受入状況 ………………………………………17
国際会議に出席してみて………………………………………………7 〜 8
平成 15 年度受託研究・共同研究一覧 …………………………………17
ドクターへの道(林 光紀)………………………………………………9
知ってネット ………………………………………………………………18
留学生手記(金 經雲) …………………………………………………10
Tea Time-編集後記(梅田正明、三浦義治、田中稔、川崎善博、成田
海外ウオッチング(刀根佳子) …………………………………………11
新一郎、松尾美鶴、山口武志) …………………………………………18
OB の手記(梅原崇史、木村 暁) ………………………………12 〜 13
研究紹介(加藤 健太郎、田中 稔) …………………………………19
研究室名物行事(生体超高分子研究分野) ……………………………14
研究最前線(生体超高分子研究分野、細胞機能研究分野) …………20
新年のご挨拶
分子細胞生物学研究所
所長
宮島
篤
新年おめでとうございます。本年はいよいよ国立大学が法人となる年です。法人化に向けての様々な課題は依然と
して未解決であり、大学の将来に対する大きな不安を抱えたまま新年を迎えることとなりました。分生研においても、
法人化に向けての未解決の課題が山積しておりますが、研究所の改革と併せて鋭意取り組んでいきたいと思っており
ます。
昨年末には私どもの長年の悲願でありました新研究棟の一部(第 1,2 期分)が完成いたしました。この生命科学総
合研究棟の 1,2 階部分は農学部、3,4 階部分が分生研となります。また、地下には広いマウス飼育施設も設けましたので、
マウスを使った研究が今まで以上に発展することが期待されます。1 月中には 6 研究分野が新研究棟に移動しますが、
これで分生研の狭隘問題が解決するわけではありません。狭隘問題の解決は分生研の発展には不可欠であり、生命科学総合研究棟第 3 期の
実現に向けて一層の努力をする所存でおります。
今年は大学にとり激動の年となりますが、激動は発展の機会でもあります。分生研のさらなる発展のために皆様の一層のご理解とご支
援をお願いいたします。
研究分野紹介 創生研究分野
研究テーマ
1.シミュレーションによる生体分子機械の作動原理解明
3.生体分子機械情報の収集と分類
2.実験データ解析による機能情報抽出
創生研究分野は 2003 年 4 月から活動を開始した新しい研究分野で、現在はまだ研究グループのセットアップを行ってい
る段階です。今年度末までには最低限のスペースを確保し研究を支障なく進められる環境を整えたいと思います。
我々の用いる研究の道具は主にコンピュータです。現在コンピュータは、日常生活においても研究活動においても欠か
せない道具となっていますが、我々はコンピュータの中に生命現象の一部分を仮想的に創り出し、それらの振る舞いを再
現・観察することで生命現象の理解を進めています。生命体はミクロなレベルでみるとリボゾーム・チャネル・べん毛な
どといった様々な機能ユニットによって構成され、ユニット間の複雑な相互作用によって生命活動を維持しています。機
能ユニットは蛋白質などの生体高分子やそれらの集合体である生体超分子ですが、巧妙にデザインされた生体分子機械で
2
あるとみなすことができます。しかし、生体分子機械は、通常の
機械とは異なった特徴を持っています。例えば、自己構造形成能、
エネルギー的高効率性、分子間相互作用による機能調節、機能に
関わる非剛体的(ソフト)構造変化などがこれにあたります。生
体分子機械がどのように特徴的な機能を発揮することができるの
かを、主に分子シミュレーションなどの計算科学的手法や情報学
的な手法を用いて、原子レベルで物理化学的な観点から解明する
ことが我々の研究テーマです。
1.シミュレーションによる生体分子機械の作動
原理解明
生命現象をコンピュータ上で再現するためにはよいモデルが必
要です。一般によいモデルには、なるべく現実に近い状態を再現
しうる精密さを持つこと、複雑な自然現象の中からエッセンスを
図1 現在シミュレーションで研究している細菌べん毛繊維と数年前の
シミュレーションの比較。現在は超並列計算機を用いると複数の計算を
同時に行えるので、実際には 10 ナノ秒以上のシミュレーションを行って
いる。
抽出する単純化が求められます。この一見矛盾するかのような要求を双方満たすことは難しいのですが、多くの場合生体分
子機械の性質を表現するためには系を構成する原子 1 つ 1 つを最小単位とした古典力学的相互作用モデルが用いられます。
このようなモデルを用いた方法、分子シミュレーションが我々の主な研究手段です。生体分子系のように複雑なシステムの
場合、安易な単純化はできないので、現在は上にあげた 2 つの要求のうち精密化をより重視した分子シミュレーションを採
用しているわけです。
機能ユニットとしての分子機械を構成している生体超分子系は周りの水分子も含めると数百万原子にも達します。我々の
グループでは、原子レベルでの詳細な構造情報を用いて数百万の原子からなる巨大な生体超分子機械の大規模分子シミュレ
ーションを行い、どのように機能を発揮することができるのか、その作動原理解明を進めています。
我々が取り組んでいる生体分子機械のひとつが細菌べん毛です。細菌べん毛は約 20 種類の蛋白質からなる複雑な機械で、
現在大阪大学大学院生命機能研究科の難波啓一教授を中心に精力的にサヌモレラ菌べん毛の立体構造解析が進められていま
す。スクリューにあたるべん毛繊維は 1 種類の蛋白質 Flagellin が 2 万から 3 万分子重合したもので左巻き超らせん構造を形成
し数本が束になって推進力を発生します。べん毛モータの回転が反転するとべん毛繊維は右巻き超らせんとなって束が解け、
細菌は方向転換します。これまでに難波教授らによって
超らせんを形成しない右巻き直線型のべん毛繊維の立体
構造が決定されています。我々は右巻き直線型立体構造
をベースに分子シミュレーションを用いて野生型の超ら
せん構造をコンピュータ上で構築し、更に超らせん構造
変化のメカニズム解明に取り組んでいます。これまでに
様々なマクロな実験値を再現する野生型の超らせん構造
の構築と回転力による超らせん構造遷移のシミュレーシ
ョンに成功し、現在は構造遷移のメカニズムを解明する
ための詳細な解析を進めています。
実はこのような巨大なシステムの計算が可能になって
きたのはつい最近のことです。5,6 年前には通常シミュ
レーションできるサイズは現在の 100 分の 1 程度でした。
生体分子機械のメカニズムを詳細なモデルを用いてシミ
ュレーションするために、我々は大規模分子シミュレー
ションで精密かつ効率的に実行するためのソフトウエア
図2 日本原子力研究所と共同開発している超並列分子シミュレーションソフト
ウエア PABIOS の並列化効率。スーパーコンピュータでも安価なネットワークを
持つ PC クラスターでも CPU 数にほぼ比例して計算速度が向上することがわか
る。比較した SANDER は広く使われている分子シミュレーション用モジュール
のひとつ。
開発をおこなっています。大規模な計算を行うためには
超並列コンピュータの計算能力を駆使することが重要で
あり、そのために最新の並列化技術を駆使したソフトウ
3
エアを開発しています。
高精度なシミュレーションをおこなうのとは逆に、単純化したモデルを構築することも重要となっていくと思います。シ
ミュレーションはいい加減なモデルでもそれらしい(しかし正しくない)結果を出してしまうため、安易な単純化は危険で
す。今後はこれまでの詳細なモデルで得られた知見を基に、巨大な生体分子機械のメカニズムをより効率的に研究するため
の新たな粗視化モデル・シミュレーション法の開発もおこなっていきます。
2.実験データ解析による機能情報抽出
生体分子機械の機能メカニズムを解明するためには、X 線結晶解析・電子線解析・核磁気共鳴など詳細な立体構造情報が
得られる実験が欠かせません。これらの実験結果を解析して立体構造を決定する際には現在でも分子シミュレーションが用
いられ、重要な役割を果たしています。しかし、シミュレーションはあくまでも立体構造構築のために使われているだけで、
実験データに含まれている情報の中にはまだ充分活用されていないものがあります。現在、我々は分子シミュレーションを
用いた新しい解析法によってこれまで捨てられていた実験データから様々な情報を抽出し、機能解明に役立てています。
我々は既に核磁気共鳴や非干渉性中性子散乱によって得られたデータから蛋白質の機能に関係する構造変化の情報を抽出し
てきました。また現在、テラヘルツ分光や干渉性中性子散乱等の新しい実験の解析も積極的に取り入れています。
3.生体分子機械機能情報の収集と分類
これまで述べてきたのは、コンピュータをシミュレーションに用いる研究でしたが、今後は生物情報学的な観点も研究に
取り入れていきたいと考えています。これまで解明されてきた生体分子機械のメカニズムに関する情報を収集し、情報学
的・物理化学的観点から分類し、多様な生体分子機械の作動機構の全容を明らかにすることを目指します。既に研究されて
きた配列情報・立体構造情報に加えて、立体構造変化・分子科学的な反応機構のメカニズムも考慮することで分子機能情報
分類の高度化をおこなっていく予定です。
これらの研究に用いるコンピュータは、研究室の PC クラスター・共同研究している日本原子力研究所のスーパーコンピ
ュータ・世界最速のコンピュータである地球シミュレータなどの並列コンピュータです。現在、研究室内の計算機環境の充
実に努めており、スペースが確保できれば来年度に計算機パワーの大幅な増強をおこないます。また 2004 年 4 月からは助手
も着任することになっていますので、これから研究活動をより活発にしていきたいと考えています。
構成員
助教授
北尾彰朗
4
着任のご挨拶
形態形成研究分野 助手 吉田章子
10 月 15 日付で形態形成分野の助手に着任いたしました。第一線の研究者が集まる分
生研において研究に参加させて頂く機会をいただけましたことを大変光栄に思ってお
ります。私は博士課程までは京都大学の理学部に在籍し、佐藤矩行先生の指導のもと
ホヤの卵をモデルとして用い、卵に局在し、将来の体制を決定する母性 RNA を探索・
単離しその解析を行っておりました。その後、ドイツのハイデルベルグにあるヨーロ
ッパ分子細胞生物学研究所(EMBL)において、アン・エフルッシ博士の下、ポスト
ドクトラルフェローとしてショウジョウバエの卵細胞における前後軸決定機構につい
ての研究を行いました。研究所はオープンな雰囲気で専門のみならず様々な研究方法を学ぶ機会に恵まれ、
また研究所にはヨーロッパ全体から人が集まっていたため異なる国々の文化にふれることのできる貴重な
経験となりました。このたび非常に幸運ながら形態形成分野の助手として採用して頂くこととなり、ショ
ウジョウバエの視覚中枢の形成機構についての研究に取り組むことになりました。視覚刺激が正しく受容、
認識されるには視神経細胞が視覚中枢の適切なターゲットに投射されることが必要であり、この機構をモ
デルとして解析を行うことで、複雑かつ正確な神経ネットワーク形成のメカニズムを明らかにしていくこ
とを目標としています。大変未熟な身でありますが、新しい分野に挑戦するにあたり、自らも多くのこと
を学びながら研究を進めていくことが出来ればと考えております。どうぞよろしくご指導のほどお願い申
し上げます。
分子情報研究分野 助手 川崎善博
平成 15 年 10 月 1 日に分子情報研究分野の助手に着任いたしました川崎善博です。よ
ろしくお願いいたします。修士課程の 1 年生として秋山研究室の門をたたいたのは 7 年
半も前になります。その後、博士課程を修了しさらに日本学術振興会の特別研究員と
してお世話になっておりました。そして来年度からは留学と考えていた矢先に、引き
続き分生研においてさらに深く研究させていただく機会を頂きました。
私は修士課程入学以来、主に結合蛋白質を検索しその複合体形成の意義を手掛かり
とする方法で大腸癌の癌抑制遺伝子である APC の機能解析を行ってまいりました。研
究人生としてはまだ長くないこの期間中に於いてさえも、様々な生物種のゲノム構造解明やクローン羊な
ど驚くべき新たな知見が続々と世界中から報告され、科学の驚異的な進歩を研究人生がまだ短いながらも
体験できていると感じました。今後は、このような時代の早い流れに取り残されないように、今まで学ん
できました培養細胞レベルの研究に加えてノックアウトマウスなどを用いた固体・組織レベルでの様々な
異常を検索することで APC の機能をさらに詳しく解析し、ポリープ形成の議論を分子レベルで明らかにす
ることを目標として研究に励んでいきたいと思っております。末筆ではございますが、まだまだ未熟者ゆ
え、引き続き皆様方のご指導・ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
5
転出のご挨拶
元事務部 用度掛 丸山正巳
平成 14 年 4 月 1 日に用度掛に赴任して以来、平成 15 年 10 月 1 日までの 1 年半に渡っ
て分子細胞生物学研究所でお世話になりました。
今改めて考えてみると過去 4 度の人事異動が全て学外と学内に渡る本格的な異動だ
ったのに対し、今回のは初めて同じ学内での異動、それも同じキャンパス内での異動
という小規模な異動でした。1 年半という中途半端な在職期間での突然の異動命令で
はありましたが、同キャンパス内の異動であったのであまり不安を感じませんでした。
新しい勤務場所は大学院農学生命科学研究科・農学部の総務第 1 事務室(農学部第 1
号館内)です。現在の所属は総務課ですが、来年 4 月 1 日からは学術国際課(教務・学生系)に所属が変わ
ります。というわけで今いる第 1 号館の専攻事務室は半年程の仮の宿では有りますが、採用された当時の気
持ちで毎日をすごしています。
元分子情報研究分野 助手 森口徹生
2003 年 10 月より東京医科歯科大学難治疾患研究所分子細胞生物学分野に COE 拠点
形成特任教官として異動致しました。今回の異動は 8 月に出た話で、すぐに書類提出、
9 月に入ってから面接、10 月には異動と、あわただしく手続きに追われてしまい、在
職中にお世話になった皆様に十分な挨拶をできないまま異動の日を迎えてしまいまし
た。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
分子情報研究分野秋山教授のもとに助手として赴任してから 3 年半、以前に京都で
行っていた研究とは全く異なるテーマに戸惑いつつも秋山教授の暖かいサポートもあ
りコツコツと研究をさせていただいておりました。最近はそれなりに手応えを感じていた矢先の異動の話
であり、かなり迷いもありました。しかし、秋山教授に後押ししていただいたこともあり新天地での研究
を選択いたしました。こちらでもマウスを扱うことになりそうで、これまでの経験を生かして研究を続け
ていきたいと思っております。研究以外の環境面では、東京医科歯科大学のあるお茶の水周辺は本郷と距
離は近くてもかなり異なるにぎやかな町中であり、雰囲気の違いにとまどっております。
分生研は新棟が建ち、新しい飛躍の時を迎えていると思います。その場に自分が立ち会えないことをすこ
しさみしく思っておりますが、皆様のますますのご発展を心よりお祈りいたしております。最後になりま
したが、在職中に大変お世話になりました秋山教授をはじめ研究室の皆様、ならびに研究所の方々に心よ
り感謝申し上げます。
6
平成 15 年度 第 19 回分生研バイオテクノロジー懇談会
分子細胞生物学研究所では、企業との情報交換・交流を
胞を殺滅する薬ではなく、癌細胞の行動を正常化するよう
はかるため、従来より(財)応用微生物学研究奨励会の後援
な薬である。そのような薬には消耗性の副作用がないこと
により「バイオテクノロジー懇談会」を行ってきた。本年
が期待できる。具体的には、癌細胞の遺伝子発現を制御し
は、東京都産業労働局よりバイオテクノロジーに関わる研
てその行動を正常化する核内受容体リガンドや、癌細胞の
究機関と民間企業との橋渡しの場として「バイオシーズ・
生育環境や増悪因子を制御するサリドマイド関連化合物の
マッチング会」(講演会、研究所見学交流会)を開催して
創製である。こうした医薬リードの創製研究を通じて、核
ほしいとの依頼があり、「第 19 回バイオテクノロジー懇談
内受容体の活性制御理論や、ゲノム創薬に相補する創薬手
会」と共催することとした[11 月 25 日(火)13 : 30 より弥
法としてのドラマタイプ創薬を発信している。
生講堂・一条ホール)]。当日は雨にもかかわらずベンチャ
ー、大中小企業、銀行等々から 100 数十名の参加者があり
「幹細胞研究の医療への応用」
(機能形成研究分野教授
活気に溢れた会となった。東京都産業労働局、分生研所長
宮島篤)
の挨拶に続いて、6 人の分生研教授の講演が行われ、さら
生体の高次機能を構成する多種の細胞を生み出す幹細胞
にポスター発表、所内見学、懇親会が行われた。民間企業
の研究は再生医療の根幹をなすものである。代謝の中心で
と分生研との橋渡しの場となる有意義な会となった。当日
ある肝臓の幹細胞についての情報は極めて限られているの
行われた講演の要旨は以下の通りである。
で、我々は肝臓幹細胞の性状を明らかにしたいと考えてい
る。まず、胎児肝臓に発現する細胞膜タンパク質の検索を
行い、肝臓幹細胞に発現する抗原を同定した。さらに、そ
「膜蛋白質構造研究の最先端」
(生体超高分子研究分野教授
豊島
近)
れに対する抗体を使って肝幹細胞の分離に成功しており、
豊島は、筋小胞体カルシウムポンプの構造研究の現状に
この幹細胞の増殖・分化機構を明らかにするとともに肝臓
関し講演した。筋小胞体カルシウムポンプは細胞内外のイ
の再生医療に利用可能な細胞の調製法の開発を目指してい
オンの濃度勾配を維持する P 型 ATPase でもっとも研究の進
る。また、肝癌の初期には幹細胞様の細胞が出現すること
んだイオンポンプであり、豊島らによってカルシウム結合
があるが、これは胎児肝臓幹細胞との類似性が指摘されて
時、非結合時の原子構造が決定されている。講演では、さ
おり、胎児肝臓幹細胞における遺伝子発現解析等の研究は
らに 3 つの状態の構造が決定できており、イオン輸送の本
肝癌の初期発生過程の解析にも有用な情報を与えることが
質的な部分は理解できたこと、さらに深い理解のために分
期待される。一方、胎児の肝臓は血液細胞が活発に増殖す
子動力学計算を行っており、シュミレーションできる時間
る造血組織である。我々は胎児肝臓細胞培養系を使って in
は数ナノ秒と短いものの、既に、部位特異的変異を説明す
vitro で造血幹細胞を増幅することにも成功しており、この
る重要な結果が得られていることの紹介があった。また、
増幅機構の解析から造血幹細胞の増幅因子の同定も目指し
原子構造に基づいた膜ペプチドのモデリングと膜貫通へリ
ている。
ックスに結合する強力阻害剤 thapsigargin の結合様式とそ
れらの応用について簡単な説明があった。イオン輸送過程
全体での構造変化のムービーが示されたが、蛋白質は分子
機械であることを強く印象付けるものであった。
「細胞核内の情報伝達による遺伝子発現制御機構」
(核内情報研究分野教授
加藤茂明)
核内レセプター群は、ステロイドホルモン、脂溶性ビタ
ミン等の低分子脂溶性生理活性物質をリガンドとし、リガ
「レチノイドとサリドマイドをリードにした創薬研究」
(生体有機化学分野教授
橋本祐一)
ンド結合依存的にその機能が調節される転写制御因子であ
る。これらリガンドの生理作用はその標的遺伝子群の転写
今日我々は長寿社会に生きており、抗生物質時代の到来
制御により発揮される。この核内レセプター系は種を超え
によってもたらされた疾病構造の変革に直面している。こ
て高度に保存され個体発生や器官形成、代謝制御など根本
の変革に対応するためには、選択毒性に基づかない創薬姿
的な生命現象に深く関わるため、リガンド欠乏やレセプタ
勢が有効であると考え、生物応答調節剤の創製研究を展開
ー機能不全によるこの系の破綻は数多くの疾患を引き起こ
している。例えば癌に対しては、現在汎用されている癌細
す。特に最近では性ステロイドホルモン依存的である乳癌、
7
前立腺癌増加や閉経期後の女性ホルモン欠乏による骨粗鬆
「分子標的薬剤のトランスレーショナルリサーチ」
(細胞増殖研究分野教授
症等、高齢化が避けられない先進諸国に顕在化しており、
鶴尾
隆)
その治療法として組織特異的な作用を示す選択的エストロ
分子生物学の急速な進歩により、がん細胞の増殖或いは
ゲン受容体モジュレーター(SERM)等の作用機構が注目さ
悪性化の分子機構が明らかにされつつある。そしてそれら
れている。そこで本研究室では(1)核内レセプターに結合す
の機構に関与する分子標的とその機能の解明を通じて、機
る複合体の解明、(2)核内レセプターと他種シグナルのクロ
能を制御することによって治療に結びつけようとする研究
ストーク、(3)生体内における高次機能に着目した研究を行
動向が国際的にも盛んになりつつある。一方ゲノム研究の
うために三つのグループを設定し、異なるアプローチによ
進展にともなって、ゲノム全体を対象として解析するよう
り研究を展開している。
な新しい技術が開発され、個々の遺伝子ではなく、がん細
胞中の多数の遺伝子の変化を一度に解析することが可能に
なりつつある。その結果がんの個性診断や分子標的治療と
「癌化のシグナル伝達と分子標的治療」
(分子情報研究分野教授
秋山
徹)
いう新しいコンセプトによる研究が始まり、グリベック、
癌は癌遺伝子、癌抑制遺伝子、修復遺伝子などに変異が
イレッサなどの新しい分子標的薬剤の成功が報告されてい
生じて発症する。過去 10 数年間の研究により、癌遺伝子の
る。これら分子標的研究とゲノム研究はテーラーメード治
産物の多くは細胞表面の増殖因子受容体から核に至る細胞
療を目指した研究であり、治療上の利益が得られることが
増殖シグナル伝達経路の構成要素として機能することが明
期待される。患者の個々の生体情報に合わせて薬を選ぶ、
らかになってきた。このような基礎研究の成果を生かした
あるいは薬の副作用をさけることも可能となり、近い将来
分子標的治療が進歩し、チロシンキナーゼをターゲットに
テーラーメード治療が論理的に成り立つ時代がくると思わ
したグリーベックやイレッサ、ErbB2/Her2 に対するモノ
れる。これらの研究には多くのバイオシーズが存在し研究
クローナル抗体ハーセプチン、CD20 に対するモノクロー
の成功にはトランスレーショナルリサーチ(TR)が重要な
ナル抗体リツキサンが既に臨床で使用され注目を集めてい
役割を担う。TR は、研究成果の社会への還元や産業的基盤
ることは周知の通りである。分子情報研究分野では、癌抑
に重要な役割を果たすだけでなく、研究全体の推進にも通
制遺伝子の機能解析を通して細胞癌化の分子機構を解明す
ずる。TR に関係する、我々の多剤耐性細胞のP-糖タンパ
ることを目的として研究を進め、APC、Wnt シグナルなど
ク質の研究や、抗がん剤が誘導するアポトーシスに対して
が次世代の分子標的治療薬の標的として有用である可能性
耐性を示す細胞株が分子標的グリオキサラーゼ I (GLO1)を
を示唆する結果を得ている。
過剰発現していることの研究、さらに分子標的治療薬の遺
伝子診断と治療研究について述べ、TR が関わる諸問題と対
応について考察した。
−国際会議に出席してみて−
分生研では、財団法人応用微生物学研究奨励会のご支援
により、毎年十数名の若手職員や大学院生に海外の学会発
表の機会を提供しています。価値ある研究成果を海外で発
表すると同時に、若い時期に世界の研究環境を知り、海外の
研究者と交流する良い機会です。どしどし応募して下さい。
<分子遺伝研究分野
博士課程 3 年
蓑田
会議名称:Plant Biology 2003 (2003 年度
生理学会
歩>
アメリカ植物
ハワイ大会)
より感謝いたします。
本学会は、アメリカの植物生理学会が日本を含めた環太
平洋の関係学会を招待して開催されたものでした。
ポスター発表では多くの貴重な意見を聞くことができ、
現在の研究に直接役に立つ知見を得ることができただけで
なく、自分の仕事の位置づけを再認識することができ、こ
れから博士論文をまとめるにあたって非常に有意義な経験
でした。また、新たに何人かの先生や学生と仕事について
の議論を通して知り合いになることができ、学会に参加す
開 催 地:アメリカ、ハワイ、ホノルル
る楽しさを久しぶりに感じることができました。それと同
会
時に、自分の語学力の至らなさを残念に思うことも多々あ
期:平成 15 年 7 月 26 日− 7 月 30 日
発表演題:Transcription regulation of RuBiSco operon in
Cyanidioschyzon merolae
この度、Plant Biology 2003 に出席するにあたり、財団法
人応用微生物学研究奨励会からの格別のご援助を賜り、心
りました。今後更なる研究の発展を目指すとともに、豊か
な表現力を身につけられるようがんばろうと思います。改
めてこの機会を与えてくださった奨励会の方々に深く感謝
致します。
8
<細胞機能研究分野 外国人特別研究員 Katerina Bisova >
会議名称:7th International Congress of Plant Molecular
kinases (CDKs) which is necessary for the precise timing of
mitosis. Moreover, my results indicate that this kinase is also
inhibiting the activity of specific kinases from the CDK fami-
Biology (ISPMB 2003)
ly, so called CDK activating kinases, CAKs. These data pre-
開 催 地:スペイン、バルセロナ
sume AtWee1 to be a key protein regulating the activity of
会
CDKs at two different levels.
期:平成 15 年 6 月 23 日− 6 月 28 日
発表演題: Wee1 kinase homologue from Arabidopsis
thaliana phosphorylates both CDKs and CAKs
The attendance at the congress provided me a lot of a new
information not only in my object of study but also in related
The 7th International Congress of Plant Molecular Biology
fields. Except huge amount of information congresses like
was held from June 23 to 26 in Barcelona, Spain. The con-
this one provide also nice opportunity to make new contacts
gress covered broad range of topics in the plant molecular
both within and without one's field. I would like to highly
biology and was attended by more than 2000 people from all
appreciate the chance I was given by attending this congress.
around the world.
Although most of the participants were interested in lectures dealing with new problems in transcriptional and post-
<細胞機能研究分野
非常勤職員
会議名称:7th International Congress of Plant Molecular
transcriptional regulation of gene expression, gene silencing
Biology (ISPMB 2003)
and hormone signaling, the lectures discussed also organel-
開 催 地:スペイン、バルセロナ
lar molecular biology or symbiotic interactions.
会
David Cove from University of Leeds, UK presented in the
section "Emerging model species in plant molecular biology"
下遠野明恵>
期:平成 15 年 6 月 23 日− 6 月 28 日
発表演題: A CDK phosphorylation cascade mediated by
CDK-activating kinases in Arabidopsis
an inspiring lecture on Physcomitrella patens, the moss
この度私は、財団法人応用微生物学研究奨励会の援助を
model system for the study of gene function in metabolism
頂き、6月 23日−6月 28日の 6 日間にかけてバルセロナで開
and development. The moss life cycle involves alternation of
催された国際植物分子生物学会(ISPMB)に参加する機会を
the more dominant, haploid gametophyte generation with the
得ることができました。心より御礼申し上げます。ISPMB
diploid sporophyte generation. The gametophyte generation,
は大規模な学会で、世界各地より集った、延べ 2000 人を超
being haploid, allows direct detection of mutant phenotypes.
える研究者らによって植物分子細胞生物学の分野における
Both spore germination and tissue regeneration give rise to
最新の研究報告がなされ、活発な討論が行なわれました。
the protonemal stage of gametophyte development, which is
学会では、博士課程在籍中に行なった研究である、細胞
composed of one cell layered cell filaments. These allow the
周期のエンジンに例えられるサイクリン依存性キナーゼ
detailed study of cell polarity, tip growth and pattern determi-
(CDK)の活性化と基本転写の両方を制御する CDK 活性化
nation. Gametophores provide material for studying three
キナーゼ(CAK)という酵素がシロイヌナズナに複数個存
dimensional aspects of development as well as the role of cell
在し、それらがリン酸化を介した分子ネットワークを形成
lineage in development. Auxin and cytokinin are involved in
していることを発表しました。このリン酸化カスケードの
the regulation of key steps in gametophyte development.
存在は動物では全く知られていないことから、植物独自の
Classical genetic analysis can be carried out by crossing, and
シグナルを介して制御されているのではないかと考えてい
the selection of somatic hybrids, following PEG-induced pro-
るのですが、植物のもつ器官形成の柔軟性を制御する分子
toplast fusion, allows a quick test for complementation.
機構を解く鍵になるのではということで、多くの研究者が
Axenic culture on solid or in liquid media is routine, and
興味を示していました。私はポスターセッションでの発表
growth is rapid on media containing only inorganic salts,
形式でしたが、一対一で話をすることで自分の研究成果に
facilitating metabolic studies. Techniques for the molecular
ついて広く知って貰うと共に、外国の研究者らと研究内容
analysis of gene expression include transformation, using
に関する討論を自由に行なうことができたという点におい
either PEG-mediated uptake of DNA by protoplasts or biolis-
て非常に有意義であったと思います。また、シンポジウム
tic delivery into protonemal tissue. Transforming DNA con-
では、自分の研究分野に限らず他の演題でも興味深いもの
taining sequences homologous to genomic sequences induce
が多く、
今後の研究の進め方にとって参考となるものでした。
a high frequency of homologous recombination, providing a
初めての国際学会への参加でしたが、会期中は最先端の
way not only for the directed inactivation of genes, but also
研究報告に関する知見を得ただけでなく、普段接すること
for precise allele replacement.
のできない外国の研究者らの研究に対する熱意や積極性を
During the poster session in the section "Cell cycle and
肌で感じることができ、自身を再考する上でも非常に貴重
cell division" I presented results I obtained during the study
な経験を得ることができました。日本では得難い数多くの
of Arabidopsis thaliana homologue of Wee1 kinase. Wee1
ことを学べたことに、またこのような機会を与えて下さっ
kinase is known inhibitor of the activity of cyclin-dependent
た奨励会の方々に感謝申し上げます。
9
ドクターへの道
細胞機能研究分野
博士課程 2 年
林 光紀
分生研に来て早くも 2 年目、学位取得という足音がひた
ひたと忍び寄ってくるこの時期にこのように「ドクターへ
の道」を書くという機会を与えられたことは何か不思議な
気がしています。そもそも私の経歴はかなり奇妙であり、
学部で生物無機化学、修士で神経化学、そして現在、博士
で分生研に来て植物生理学と転々としています。高校時代
に化学か生物かで道を迷っていた自分を象徴しているよう
な研究生活を送っているわけです。このような奇異な経歴
の持ち主の言うことが役に立つかどうかわかりませんが、
こういう意見もあるのだなという程度に読んでいただける
と幸いです。
私自身博士課程まで進みたいという気持ちは前々からあ
ったので、今の「博士への道」にいることになんら違和感
が)。ドクターへの道を目指すかどうかは個人の意志です
はありません。さらに、研究分野にしても元々 1 つに絞っ
し、どのような形で目指すかも前に述べた通りどれがいい
て博士までとは考えていなかったため、中途半端になると
とも言えません。
いう不安はありながらも興味の持った分野について自分の
ただ、昔から望んでいたこの道を実際に今進んでいる中
バックグラウンドを生かしつつ、よりステップアップでき
ではっきりと言えることは、期待を裏切らない私にとって
ると感じられる研究をと思っていました。つまり周りから
はかけがえの無い道であるということです。研究というも
見ると明らかに不思議であろう道も、本人としては常々思
のは博士課程に限らず意欲があればどのような形でも挑戦
い描いている化学と生物両方を生かせる研究をしたいとい
できるのが良いところであり、結果が出ない中で苦しんで
う道からは外れてはいないつもりです。
苦しんで、結果が出たときの喜びは何ものにも変え難いも
研究に対する考え方は人それぞれ全く違うと思いますの
のがあります。その喜び、充実感を一度味わってみること
であくまで私見ですが、少なくとも研究者のひよこである
は決して無駄なことではないと思います。是非とも自分に
現段階では複数の領域を修めていくことは、今後研究テー
とって悔いの残らない道を目指してみてください。
マを絞り、突き詰めて行くための礎となり、これからの研
究活動にとっても必ず役に立つと思っています。また、研
究室がかわることも人間関係を広げ、自分を人間的に高め
る上でも色々な意見が得られるということではかなりプラ
スになっていると思っています。もちろん研究が途切れ途
切れになることは実験データの蓄積ができないわけで、連
続的に研究を進めている人に比べて明らかに結果が少ない
というリスクがあるのも事実です。どれも一長一短であり
正しい選択という事がない分、自分の選択にいかに自信を
持ってどんなにつらくても最後までやり通せるかがポイン
トだと思います(実際に今思っていることでもあるのです
10
留学生手記
金
(機能形成研究分野
經雲
博士課程3年)
留学生手記の依頼をされてから、しばらくの間、ずっと
人さんからも自分の息子のような配
「何を書けばいいのだろう。」と悩んでいましたが、それは
慮がありました。(見た目より体の
締め切りが迫った今も続いています。(何の話から始める
具合が悪かったかも。そこでも何回
か?私が留学を決めた瞬間から?)私が日本に来たのが
か起きられない時とか何も食べられ
2000 年 10 月。もう 3 年になりました。これを機会にこの 3
ない時がありました。その時、私が
年を振り返ってみながら自分の留学生活の経験を話したい
早く治るように夜にもかかわらず面
と思います。3 年、自分では昨日の出来事らしく思います
倒を見ながら、特別な「うどん」を作ってくださいました。
けれども、長いと言えば長いし、短いと言えば短い時間で
韓国では「お粥」ですが、日本では「うどん」。食文化の
す。
違いを感じましたけど。)今も、その人々には感謝の気持
昔、父の友人の中に外国人(家の宗教がカトリックのた
ちでいっぱいです。
め外国の修道士たち)が何人かいたので外国人と会う機会
今は結婚して妻と暮らしていますが、時々、あの時の話
は小さい頃から多かったのですが、初め、外国(日本)に
をしながら共に早く日本の生活に慣れるようにがんばって
行くことを決心した時には言葉の壁、今までの生活との違
います。以上、この 3 年間、経験した私の留学生活でした。
い、不安感が頭の中に浮かび上がりました。でも、これが
ここまで、勝手に書きましたけど、読んでくださった皆さ
自分を成長させることができる機会なら、それらを乗り越
んに感謝します。分生研には自分より留学の経験が多い
えてやるしかないと思って留学への道を選びました。成田
人々がたくさんいらっしゃると思いますが、留学生の皆さ
に降りて、電車の窓から外国の風景を写真ではなく自分の
んはどう思っていらっしゃるのですか。外国の生活は辛い
目で初めて見た瞬間は今も忘れません。(今もドキドキし
ですか、幸せですか。(答えは自分の心の中に。
)
ます。)それから始まった私の留学生活。いろいろな苦労
今まで色々ありましたけど、最後に今まで暖かい指導を
を重ねつつ暮らしの始まりでしたけど、今は辛い思いより
くださった宮島先生やいつもお世話になっている機能形成
も暖かい思いの方がたくさん心に残っています。
研究室の皆さんにこの紙面を借りて心から深い感謝を致し
苦労といえば、始めから持っていた心配、言葉の壁、今
ます。初めにはあいさつさえできなかった私、皆さんのお
までの安定な生活と離れて一から自分の力で生活をする事
陰で言葉や生活の壁を乗り越えることができたし、研究の
でした。その中で、言葉の問題はボランティアたちや学校
面も成長できたと思っています。いつもありがとうござい
の方からの配慮がありまして何とかなりましたが、日本の
ます。また、今後も宜しくお願いします。
日常生活に慣れるのがなかなかできなくて一番時間がかか
りました。ボランティアたちや実験室の人々と話したり、
本を読んだりしながら早く慣れるように自分での努力はし
ましたが、慣れなくて時間だけが過ぎていくような気がし
ました。それで、日本人と共に生活ができれば早く慣れる
のじゃないかと思い、一般会社の社員寮にも入って過ごし
ましたが、今も「何で、なに、あれっ」と思うことが時々
あります。
でも、それより心に残る暖かい思いの方は私の周りの
人々が自分より他人を思ってくれる深い温情です。ここに
来てすぐ、風邪にかかって起きられない時に部屋の大家さ
んから「懐郷病」と言われて韓国のおみやげを頂いて心の
病気を治しました (病院では留学生なら誰でも一回はかか
る普通の風邪だと言われましたが。)寮生活の時には管理
11
海外ウオッチング
Department of Cell Biology
Harvard Medical School
4 月からアメリカ合衆国のマサチュセッツ州のボストン
研究環境としては
にあるハーバード大学に留学しています。ボストンは東海
それぞれの研究室で
岸の都市の中でかなり北に位置しており、緯度的には北海
所持している機械を
道に相当する場所にあります。ボストンへの日本からの直
シェアし、お互いに
行便はなく、NY、Washington, Chicago が主要な乗り換え
行き来をしているの
空港で、東京から 18 時間程度かかります。
が特徴的です。来た
ボストンは地方都市といった雰囲気で、中心部は徒歩で
刀根 佳子
当初は小型冷却遠心
回れます。気候は冬の通常の気温は-4 ℃ですが、たまに冷
機が室内になく、低温室に配置されていたのには驚きまし
え込むと-20 ℃まで達するらしく、11 月上旬にて東京の 1 月
た。シークエンスは建物内に DNA とプライマーを持参すれ
の気温といったところです。夏は非常に涼しく、ほとんど
ばメールにデータが添付されて返ってきますし、ボトルな
の家にはクーラーはありません。また急激に季節が変化す
ども洗って滅菌した形で返ってくるので、非常に便利です。
るためか 5 月は一斉に花が咲き、また秋は紅葉と季節の移
また、ボストン市内の生物系のセミナーはメーリングリス
り変わりは非常に美しいです。治安はほとんどの地域は総
トにて毎週送信され、様々な分野の研究者のセミナーを聞
じてそれほど悪くなく、盗難があるといった程度です。家
けるといった環境も気に入っています。
賃は非常に高く、多くのポスドグの悩み所になっています。
私は細胞内主要蛋白質分解経路であるユビキチン・プロ
日本食材店がボスト
テアソームを研究している Daniel Finley 博士の研究室に所
ン周辺に数件あるの
属しています。プロテアソームの全構成成分は私が留学し
で、生活はしやすい
ている Finley 研究室によって明らかにされ、プロテアソー
ところであると思い
ム研究が一気に進展し、次々と新しい結果が出て、非常に
ます。ボストンは夏
活気のある研究室です。ラボは Dan と 6 人のポスドグと 2
は野球、冬はアメフ
名の学生から構成されています。ひとりひとりまかされて
トやホッケーで盛り
いるプロジェクトが違いますが、共有できるものは共有し
上がります。ボストンの球場は Medical Area から歩いて 20
て、効率良く実験をすすめています。ハーバード内での共
分の Fenway に位置し、フィールドと観客席の間にフェン
同研究も盛んで、各々の研究室の特色をうまくいかしてい
スがないため、選手との一体感がうまれます *1。こちらの
ます。
野球観戦の反応は非常にシビアでミスをしたときはやじが
アメリカは日本と違う面もたくさんあり、例えば、製氷
飛びますし、今年のリーグは最終戦にてヤンキースに破れ
機が直るまで 1 ヵ月かかったり(他の場所から手に入るの
たのですが、監督の采配ミスもあり、監督が解雇になると
でそれほど困りませんが)、機械が壊れたら、そっくり新
いった事態になり、ボストンの観客は厳しい様です(経験
品と交換されたりと、日本の感覚では時間的尺度は違いま
の差ではないかと意見もあるのですが)
。
すが、それぞれ一長一短かなと感じています。またアメリ
ハーバード大学医学部 *2 キャンパスは本部キャンパスと
カンフードはおいしいとはいえませんが、中華などは安く
河をはさんで南側のボストン市内に位置しています。本部
食べられますし、NY までバスで 5 時間(往復 20 ドル!)
キャンパスは赤煉瓦のシックな建物が主流ですが、
でいけますので、ちょっと思い立ったら、NY に遊びに行
Medical Area は近代的な大理石の建物から構成されていま
ったりと非常に楽しく留学しています。あまり研究の話を
す。こちらに来て、Medical School 所属だといいますと大
しなかったですが、お聞きになりたいことがありましたら、
概の人に MD であるか聞かれるのですが、Pathology といっ
メール(yoshiko _ tone@hms.harvard.edu)をくだされば
た病気に近い分野ではお医者さんが多数いらっしゃる様な
と思います。
のですが、私の所属する Cell Biology などの基礎系の研究
室は基本的に Ph. D 主体です。研究室は基本的に 10 人前後
*1 Fenway Park はアメリカ内でも小さい球場だそうです
のところが多く、PI とテクニシャンとポスドグから構成さ
*2 正しくは Harvard University はカレッジの集合体だそ
れています。
うで、Medical School もカレッジだそうです。
12
OB の手記
理化学研究所 ゲノム科学総合研究センター
タンパク質構造・機能研究グループ
梅原崇史
分生研 207 号室の思い出
私は平成 5 年に改組直後の分子細胞生物学研究所・発生
分化構造研究室の堀越正美先生の研究室に学部 4 年生とし
て配属し、その後平成 12 年度末まで分生研でお世話になり
ました。研究室に参加した当初は、堀越先生が米国ロック
フェラー大学から戻られてまさに研究室を立ち上げられて
いた最中で、当時助手として研究室に参加された山本さん
等スタッフ数名とともに部屋の片づけや機器搬入の日々を
送ったことが今では懐かしく思い出されます。
研究室在籍時の思い出といえば、やはり毎週数時間に及
ぶ実験報告セミナーや日々 207 号室で繰り広げられた厳し
いディスカッションのことです。この毎日のディスカッシ
ョンで鍛えられたおかげで、おそらくどこの研究室に行っ
ても通用するだけの実験計画の立案能力や研究遂行の論理
力を身につけることができたのではないかと研究室を卒業
した現在、ありがたく感じております。私は堀越先生が望
まれているような一番弟子(?)像からはほど遠いダメ弟子で
したので、分生研に在籍していた当時は先生から数え切れ
ないほどの励ましやお叱りを受けましたが、研究室を離れ
た現在、これが今の私の心の糧になっていると痛感してい
ます。研究室は幸いなことに数多くの優秀な後輩達に恵ま
れ、現在も益々研究が発展されていることを大変心強く、
また嬉しく思います。
私は現在、理化学研究所・ゲノム科学総合研究センター
のタンパク質構造・機能研究グループに参加し、創薬に関
わるタンパク質の構造・機能の解析とその相互作用因子・
化合物スクリーニングを目指して研究を進めております。
これまで馴染みの薄かった X 線結晶構造解析やバイオイン
フォマティクスの分野での仕事も多く毎日悪戦苦闘してお
りますが、分生研での経験を活かして今後も頑張りたいと
考えております。みなさま今後ともどうぞよろしくお願い
致します。
13
OB の手記
慶応義塾大学大学院理工学研究科
木村
分生研での 5 年間
私が初めて分生研を訪れたのは、ちょうど 20 歳のときで
した。理学部生物化学科の 3 年生だった私は学科の懇親会
の後に、同級生数名とともに後に指導教官となる堀越正美
先生に連れられ、分生研を見学させていただきました。そ
の後、大学院在籍の 5 年間、毎日のように分生研に通い続
けることになりました。
分生研ニュースにも過去 4 回ほど登場させていただきま
した。インターネットで公開されているバックナンバーで
自分が書いた原稿を読み返すと青春のあまずっぱい記憶(!?)
が甦ってきます。
学位取得後は、半年間堀越先生の下で研究を続けさせて
いただいた後、2002 年 10 月より、慶應義塾大学の大浪修一
先生の下で、線虫の初期胚発生のシミュレーション解析に
取り組んでいます。コンピュータ・シミュレーションも線
虫の取り扱いも全くの素人でしたので、0 からのスタート
となっています。
私が分生研で学んだ最も大事なことは「挑戦する喜び」
といったものになると思います。大学院での所属研究室に
学部時代の研究室を選ぶことが主流である中で、分生研
(堀越研究室)を選んだことも最初の挑戦でした。研究室
では、研究計画の立案や論文の執筆、海外学会での発表な
ど、多くの挑戦の機会を堀越先生に提供していただきまし
た。自分の実力を遥かに超えると思われるような課題を前
に尻込みすることもありましたが、「挑戦する」ことを覚
えました。当然、失敗して多くの方に迷惑をかけることも
何度もありましたが、自分自身を使って挑戦し、自分の目
で見て、自分の頭で考え、自分の体を張って頑張ったこと
は貴重な財産となっています。今後も「挑戦する」気持ち
を忘れず、いずれはみなさんをワクワクさせるような研究
ができればと思っております。
最後に、多くの挑戦の機会を提供してくださり、失敗も
暖かく見守ってくださった大学院指導教官の堀越正美先生
に感謝致します。
暁
14
研究室名物行事
生体超高分子研究分野
当研究分野は、豊島研と前田研の 2 つの研究室から成り、
前回の名物行事の記事は前田研にお願いしたのですが、今
回はとうとう豊島研の名物行事を書くことになり、これま
で秘密にされていた豊島研の実態(?)が暴かれることになっ
てしまいました。普段の豊島研の名物行事といえば、職員
の人達はほぼ全員一日おきにフォーレスト本郷の 1 階にあ
るフレンチレストラン「ルヴェソンヴェール本郷」にラン
チを食べに行っており(M さんはナイフとフォークを使う
ためカチャカチャの日と呼んでいます)、それが日課とな
っております。しかし、学生も含めた研究室行事ともなる
と、研究室旅行や花見などの花形行事が全く無く、「うー
ん、困った」と思っておりましたところ、幸運な事になん
た。後で聞いたところによると、フランスではデジカメは
とか研究室行事を行う機会がやってきました。10 月 20 日か
去年辺りから出回りだし、まだ値段も高いとの事で、日本
らの一週間、海外からのお客様がやってきたのです。
の家電製品の強さに感心したりしました。まあ、そんなこ
当研究室は海外との共同研究が盛んで、海外からのお客
んなで、ライチ酒を飲みながらの「お食事会」は進み、み
様が頻繁にやって来ます。海外からのお客様がやってきて
んなはおいしい料理に舌鼓を打ちながら、マッキントッシ
どうして研究室行事と結びつくのだろうと思われる方もい
ュさんのジョークに笑い、それを豊島先生が日本語で解説
らっしゃるかもしれませんが、学生も含めた豊島研の唯一
して、そこで二度目の笑いがおこり、学生さんも積極的に
の行事が「お食事会」で、海外からのお客様がやってきた
英語を話して英語の勉強になりました。私は英語が話せな
際には、そのうちの1日は研究室のみんなで食事に行くの
いジレンマと闘いながらも「お食事会」は和やかな雰囲気
が恒例となっているからです。「お食事会」は海外からの
で進み、みんながお腹いっぱいになり、研究室行事は無事
お客様がやってきた時以外にも研究室の論文が出た時など
に終了しました。
お祝い事があった際に年に数回行われます。「お食事会」
今回行った「台湾海鮮」は、お店の雰囲気も良く、料理
はいわゆる宴会とは異なり、飲むことより食べることがメ
は台湾小皿料理と飲茶点心が味わえ、単品でも注文出来る
インとなり、これまでイタリアンやタイ料理、スペイン料
のですが、コースの方が断然お得で、台湾料理コースは
理等おしゃれでおいしいお店にいろいろ行きました。今回
5000 円〜、飲茶セットは 2500 円〜です。今回は飲茶セット
は海外からのお客様ということで、和食も考えたのですが、
の中のフカヒレショーロンポウセットを注文しましたが、
和食は値段が高いので却下になり、東銀座にある「台湾海
このコースは点心が 9 種類とデザートが 2 種類付き、デザ
鮮」という台湾料理のお店に行くことになりました。
ートにたどり着くころにはみんなお腹いっぱいになってお
「お食事会」は 10 月 23 日の PM6:00 からスタートとなり
り、このボリュームで 3500 円です。このお店は食通の豊島
ました。今回の海外からのお客様は南アフリカのマッキン
先生から教えて頂いたのですが、実は研究室で行くのはこ
トッシュさんとフランスのマルタンくんの 2 人で、お二人
れが2回目で、前回も海外のお客様を連れて行き「ソフィ
は日本に来て
スティケイト」な味とお墨付きを頂きました。
研究の合間に
ちょっとお店探訪っぽくなってしまいましたが、みなさ
秋葉原に行き
んの研究室でも良かったら一度「台湾海鮮」に行ってみて
デジカメを購
下さい。雰囲気、味ともに満足されることと思います。
入 し 、「 お 食
事会」は買っ
たばかりのデ
ジカメの品評
会と化しまし
「台湾海鮮」 ADK 松竹スクエア 2 階
(東銀座駅
5 番出口 1 分)
03-3544-1717
15
受賞者紹介
< 日本遺伝学会 Best Paper 賞 >
本賞は日本遺伝学会大会において、優れた講演に対して
贈られる賞です。先日仙台で行われた第 75 回大会での全
219 講演中、投票によって著者のものを含む 12 講演が選出
されました。
< 講演内容 >
イネ DNA 型トランスポゾン Tnr1/Osmar はバクテリアに
おいて転移活性を持つ
○園田 陽, 浦崎 明宏, 土本 卓, 大坪 栄一, 大坪 久子
(東大
分生研
染色体動態研究分野)
Tnr1/Osmar は、イネの DNA 型トランスポゾンであり、
IS630/Tc1/mariner スーパーファミリーに属すると考えら
れている。このファミリーの特徴として、ゲノム中の 5'TA-3'を標的として転移すること、転移に宿主特異的因子を
必要としないことなどが挙げられる。我々は、イネゲノム
中に 6 つのグループからなる Tnr1/Osmar のメンバーが存
在すること、またその内の一つのグループのメンバーがイ
ネ培養細胞で強く発現していることを見いだした。そこで
転写産物を cDNA としてクローニングし、それにコードさ
れるトランスポゼース遺伝子を発現させた場合に、miniTnr1/Osmar(約 70 bp の IR の間にマーカー遺伝子を挿入し
た)が転移するかどうか調べたところ、トランスポゼースに
依存して標的プラスミド上の AT-rich な領域にある 5'-TA-3'
配列に転移し、また転移の際に挿入のホットスポットが存
在することが分かった。この結果は Tnr1/Osmar が
IS630/Tc1/mariner スーパーファミリーに属する他の因子
と同様 5'-TA-3'を標的として転移すること、転移の標的配列
を決定する際には、5'-TA-3'以外の要因も起因していること
を示唆している。またこの結果は、植物の DNA 型トランス
ポゾンがバクテリアで転移出来ることを示した最初の例で
あるが、同時に Tnr1/Osmar が、同じスーパーファミリー
に属する他の因子と同様、転移の際に宿主特異的因子を必
要としないことを示している。
写真:下段右側が著者
16
防火訓練
10 月 29 日(水)13 時 30 分より分生研 2 階からの出火を想定し、出火場
所の確認・所内放送・消防署通報・避難誘導といった一連の訓練が本郷
消防署指導のもと 100 名余が参加し実施されました。引き続き、本郷消
防署員の指導による屋内消火栓及び、消火器の取扱訓練が行われ、普段
では器具に触れることのない参加者が積極的に器具の操作に取り組むな
ど実効が見られた。
災害はいつ起こるか分からないが「未然に防ぐこと」「起こってしまっ
た災害は最小限に」を目標に、今後も防災の意識を常に備えていきたい
ものである。
分子細胞生物学研究所「動物慰霊祭」
高次機能研究分野 内藤幹彦
第 6 回「東京大学分子細胞生物学研究所動物慰霊祭」は当
初平成 15 年 10 月 28 日(火)午前 11 時に予定されていたが、
あいにくの雨のため1日順延となり翌 29 日(水)午前 11 時
より、農学部附属家畜病院奥の動物慰霊碑前において執り行
われた。当日は秋晴れの空の下で 97 名の参列者があり、宮
島所長の挨拶、内藤動物実験委員長からの一年間の動物実験
概要の報告、引き続いて教職員・学生等参列者による焼香が
しめやかにおこなわれた。
分生研では玄関前にある 2 階建ての新動物舎と研究所地下
にある SPF マウス実験施設及びウサギ飼育室を利用して、多
くの教官・学生等がノックアウトマウスの作製及びその解
析、抗がん剤の評価、神経系や造血系の初代培養細胞の分離、抗体の作製などの目的で実験動物を使用している。その数は
過去一年間にマウス約 12500 匹、ラット 74 匹、ウサギ 30 羽にも上り、これらの動物実験で得られた新しい知見は、既に学会
や学術論文に発表され、それぞれの専門分野において高く評価されている。
ここに分生研の研究活動のために尊い命を捧げてくれた動物たちの御霊に感謝と追悼の意を表します。
今年度中には新棟地下に新しい動物飼育施設が完成する予定であり、分生研における動物実験は今後ますます盛んに行わ
れるようになるものと思われますが、「動物の愛護及び管理に関する法律」(昭和 48 年)、「実験動物の飼養及び保管等に関す
る基準」(昭和 55 年)を遵守し、東京大学動物実験実施マニュアル並びに本研究所の動物実験規則に基づいて、必要最小限
の動物を用いて最大限の研究成果が挙げられるよう関係する皆様方のなお一層の努力をお願いしたいと思います。
17
お店探訪
アトリエ・ド・マヌビッシュ
細胞増殖研究分野 高橋浩子
たとえば晴れ
た日の午後。美
り、ハムやチーズも味付けがしっかりして、何度でも食べ
たくなってしまう。いわゆる、
「クセ」になる味なのだ。
味しいパンと洒
そしてパンの他に、レジ前のショーケースには、目にも
落たおかずをテ
おいしそうな洋風のお総菜が陳列され、百グラム 350 円く
イクアウトして
らいから計り売りしてくれる。エビとキノコのマリネ、豚
ピクニックにで
足とクルミのサラダ、オリジナル生ベーコン、テリーヌ…
かけたい。そん
と種類も豊富。実はこのお店は、根津駅そばのフランス料
な気分にぴった
理店「マヌビッシュ」の姉妹店で、そこで出される料理と
同じものをテイクアウト出来るのだ。ちょっと贅沢なフレ
りなのが、
「アトリエ・ド・マヌビッシュ」だ。
明るいガラス張りの店内に入り、まず目に飛びこんでく
るのが、レジの後ろの木棚にずらっと並んだ、沢山の食パ
ン。一斤 290 円のパン・ド・ミは、一日二百本作ってもほ
ンチの味を食べたかったらぜひ、一品からでも気軽に試し
てみたらいかがだろうか。
場所は本郷通りを本郷 3 丁目方面に向かい、慈愛病院の
ぼ毎日完売してしまうほどの人気。「ごく普通の食パンな
ある言問通りの坂を
のだけど、美味しい」そうだ。
下った角の交差点、
それ以外にもフランスパンやクロワッサン、デニッシュ
アップルパイの美味
から、甘いタルト、おかずになるキッシュまで、幅広い種
しい店「マミーズ」
類のパンがある。ランチタイムにおすすめなのは、チキン、
のちょうどお隣。少
自家製ロースハムとグリエールチーズ、カマンベールチー
し足を延ばしても、
ズと 3 種類揃ったパリジャンサンド。380 円程度と手頃で、
行きたくなるお店だ。
女性ならそれだけでも十分お腹いっぱいになる。それに何
より、美味しい。パン生地はパリパリして噛みごたえがあ
平成 15 年度奨学寄附金受入状況(平成 15 年 11 月末現在)
総件数
36 件
◆生体超高分子・豊島
総
90,165.8 千円
アサイエンスプログラム機構
額
近・教授
ヒューマンフロンティ
11,965.8 千円
内 500 万円を超すもの
◆核内情報・加藤茂明・教授
業部
エーザイ株式会社
医薬事
10,000 千円
平成 15 年度受託研究研究一覧(平成 15 年 9 月以降追加分)
◆核内情報・加藤茂明・教授
◆核内情報・加藤茂明・教授
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構生物系特
中外製薬株式会社
定産業技術研究支援センター
活性型ビタミン D 誘導体の骨形成作用メカニズムの解明
核内受容体を利用した骨増強食品素材評価系の構築に関す
る研究
13,500 千円
4,000 千円
18
平成 16 年度分生研シンポジウム開催予定
掲示板
〈知ってネット〉
以下のとおり異動がありましたのでお知らせします。
○平成 15 年 9 月 30 日
助手(分子情報研究分野):東京医科歯科大学へ
○平成 15 年 10 月 1 日
研究助成等公募(2003.11.21 現在)
・ 03-5841-7803 / E-mail:imcbras@iam.u-tokyo.ac.jp
最新の情報は、ホームページで公開しております。
http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/office/keijiban.html
〈採用〉
助手(分子情報研究分野)
教官公募(2003.11.21 現在)
○平成 15 年 10 月 16 日
詳細は分生研研究助成掛へお問い合わせ下さい。
〈採用〉
吉田章子
詳細につきましてはホームページ等によりお知らせいたし
詳細は分生研研究助成掛へお問い合わせ下さい。
〈辞職〉
川崎善博
に開催される予定です。
ます。
職員の異動について
森口徹生
平成 16 年度分生研シンポジウムは平成 16 年 5 月 13 日(木)
・ 03-5841-7803 / E-mail:imcbras@iam.u-tokyo.ac.jp
助手(形態形成研究分野)
最新の情報は、ホームページで公開しております。
Tea Time−編集後記
本号から編集委員長を仰せつかりました梅田です。分生
になりまして初めての仕事が分生研ニュースの編集委員会
研ニュースは日頃アクティブに研究している職員の方々が
議でした。今までは読む立場でしたので新聞を読むのと同
実際の編集に携わって出来上がっています。したがって、
じ感覚だったのですが、作る立場だと編集委員会議に出席
なるべく編集委員の方々の負担を軽くしつつ内容のある紙
することで様々な舞台裏を体験できた気分になりました。
面を提供していくことが、私の使命だと考えています。ど
どうぞよろしくお願い致します。
(分子情報研究分野
のようなアイデアでも結構ですので、記事として採用でき
川崎善博)
そうなものがありましたら是非私または最寄りの編集委員
にお知らせ下さい。今後とも分生研ニュースをよろしくお
願いいたします。
(細胞機能研究分野
梅田正明)
新編集委員会のメンバーに指名していただき、この号か
ら分生研ニュースの編集に携わっています。執筆をお願い
する方々にはご苦労をおかけしますが、編集委員としても
長澤前編集委員長から丁寧な引継を受け、編集に携わっ
てこられた方々のこれまでのご尽力に敬服の念あらたにし
硬軟織り交ぜた、読んで楽しいニュースになるよう少しで
も貢献したいと思っています。
(細胞形成研究分野
ました。親子ほど年の離れた優秀なメンバーと、所の様々
成田新一郎)
な行事や活発な研究成果を発信するニュース作りを一緒に
やらせていただくことになり大変恐縮しております。みな
ゴルフのしすぎで左腕が上腕骨外状顆炎になってしまっ
さまの助けをお借りしてより良いニュース作りに少しでも
た。いわゆるテニス肘のようなもので、中年女性も罹りや
貢献出来ればと思っています。
すいらしい。医者に言わせると「安静が一番。でもそんな
(バイオリソーシス研究分野
三浦義治)
人に限ってやりたがる」。どなたかゴルフを続けながら治
す方法をご存じない?正しいゴルフスウィングを身に付け
この号より編集委員として分生研ニュースの作成に携わ
るのが近道か…。
(研究助成掛
松尾美鶴)
ることとなりました。先日、分生研ニュース初代編集委員
長であり、私の師匠でもある原 孝彦先生(現東京都臨床医
最近、姉に子供が生まれました。赤ちゃんのちょっとし
学総合研究所・腫瘍生化学研究部門 室長)にお会いする機
た動作を見ていると、何とも言いようの無い気持ちになり
会があり、そのことを話すと、
「既存の形式にとらわれずに
ますね。ところで記憶っていうのは不思議ですよね。何歳
時代のニーズにあったものにしていって下さい。」との激
くらいから覚えてくるんでしょう?自分の場合、記憶があ
励の御言葉をいただきました。どうなるかは分かりません
るのが幼稚園くらいからですが、あまり記憶の数は多くあ
が、頑張っていく所存ですので、よろしく御願い致します。
りません。地元の連中と飲んでるときに、中学生時代の話
(機能形成研究分野
田中稔)
がたまに出てきますが、他人事のように聞いてます。周り
には「昔話に花が咲かない奴」とよく言われています。本
明けましておめでとうございます。去年 10 月付けで助手
当に記憶って不思議ですね。
(庶務掛
山口武志)
19
研究紹介
ショウジョウバエ成虫脳におけるグリア細胞
の増殖
ところがプロ
グラム細胞死
を抑制したハ
高次構造研究分野
加藤
健太郎
エの触角を切
除し神経変性
一部の脊椎動物や昆虫の成体の脳には増殖
を誘導したところ、脳の触角神経索周辺にグリア細胞の増殖が
細胞が存在する。このような成体脳の細胞増
観察された。また、針で脳に損傷を与えた場合でも、その近傍
殖は脳の恒常性に関わると考えられる。私は
にグリア細胞の増殖が観察された。
成体脳の細胞増殖がどのように制御されてい
これらの結果から、成虫脳では発生の一過程であるプログラ
るのかに興味を持って、遺伝学的な解析法に
ム細胞死によってグリア細胞の増殖が引き起こされているが、
長けたショウジョウバエを実験動物に選んで解析を進めている。
実はグリア細胞の増殖は壊死や神経変性も含めた脳の障害によ
これまでショウジョウバエ成虫脳における細胞増殖の有無は
って引き起こされ、脳の恒常性の維持の一端を担っていると考
明らかではなかった。そこで成虫の寿命である 60 日間にわたっ
察できる。神経変性や損傷に応じてグリア細胞が増殖する現象
て調べた結果、羽化後しばらくの脳の触角神経索周辺に増殖細
はグリオーシスと呼ばれ、ほ乳類ではよく知られているが、発
胞があることを見いだした。また、この増殖細胞はグリア細胞
生過程におけるプログラム細胞死によってグリオーシスが引き
であり、新たに産み出される細胞は少なくともグリア細胞と、
起こされるという報告はない。しかし損傷によってグリア細胞
いまのところ未同定の神経でもグリアでもない細胞の 2 種類が
の増殖が起きるという点で、我々の見いだした現象はグリオー
あることが示唆された。
シスとよく似ており、グリオーシスの一つのモデル系になるの
さらに解析を進めた結果、羽化後しばらくの間、脳では神経
細胞のプログラム細胞死が起きていることがわかった。このプ
ではないかと期待している。現在はこの現象の分子基盤を明ら
かにすべくさらに解析を進めている。
ログラム細胞死を抑制するとグリア細胞の増殖も抑制された。
オンコスタチンM受容体欠損マウスの造血・
肝臓における異常
機能形成研究分野
田中
稔
肝臓は成体では主要な代謝器官であると共に、血清タンパク
質や胆汁の産生、免疫、解毒等、生命を維持する
上で欠くことのできない機能を担っている。その
一方で、胎児期には一時的に造血器官として働く
境に異常があると考えられた。一方、肝発生においては明らか
など実にユニークな臓器である。我々はこれまで
な異常は認められなかったが、成体肝臓において異常が見られ
に IL-6 ファミリーサイトカインの一つであるオン
ている。肝臓は再生能に富んだ臓器であり、四塩化炭素投与に
コスタチンM(OSM)を中心として、 造血と肝臓に対するその
よって肝傷害を与えても数日間で再生し治癒してしまう。しか
作用について研究を進めてきた。これまでに、成体型造血発生
しながら、KO マウスでは明らかな治癒の遅延が見られた。さら
の場とされる AGM(Aorta-Gonad-Mesonephros)の初代培養系に
に詳しく解析した結果、KO マウスでは Cyclin などの細胞周期に
おいて、OSM が血球産生を誘導することを示してきた。また、
関わる遺伝子群の発現が低下しており、STAT3 の活性化も顕著
胎仔肝初代培養系においては OSM が肝細胞分化を誘導し、代謝
に低下していた。また、OSM 誘導性遺伝子の一つである TIMP-
酵素の発現などの機能的分化には OSM シグナル下の STAT3 が、
1 の発現低下が持続的な MMP-9 の活性化を引き起こしているこ
Adherens junction などの形態的分化には K-Ras pathway が重要で
とも、肝再生を阻害する要因と考えられた。現在はこの KO マ
あることを示してきた。そこで、生体内での OSM の機能を明ら
ウスを用いて、肝臓での脂質代謝や免疫応答について調べてい
かにするため、OSM 受容体ノックアウトマウスの作製を行なっ
る。これらの研究が肝疾患治療につながることを期待している。
た。KO マウスの血液分析を行なった結果、末梢血中の赤血球、
参考文献
血小板数の減少が見られた。この結果と一致して、骨髄中にお
Tanaka et al., Blood.102(9) 3154-62 (2003)
けるこれら血球前駆細胞数も減少していた。野生型の造血幹細
Tanaka et al., Rev Physiol Biochem Pharmacol.149 39-52 (2003)
胞を KO マウスに骨髄移植しても、これらのフェノタイプはレ
Tanaka et al., Blood. 93(3) 804-15 (1999)
スキューされなかったことから、KO マウスでは骨髄中の造血環
20
研究
究最
最前
前線
線
研
ユビキチン・プロテアソームタンパク質分解
系による His-Asp リン酸基転移系の制御機構
(レスポンスレギュレーター)により構成されるリン酸基
転移系が浸透圧センサー機能を担っている。このリン酸基
転移系は浸透圧ストレスにより不活性化され、これにより
佐藤直人、川原裕之、東江昭夫、前田達哉(生体超高
下流の HOG MAP キナーゼカスケードが活性化されて浸透
分子研究分野) Mol. Cell. Biol. 23, 6662-6671 (2003).
圧応答が引き起こされる。我々は、Ssk1p がリン酸基転移
機構だけでなく、ユビキチン・プロテアソームタンパク質
His-Asp リン酸基転移系は、細菌、真菌、植物に広く保
分解系によっても制御されていることを見出した。分解の
存された環境受容機構である。酵母 S.cerevisiae においては、
標的となる Ssk1p は非リン酸化型、即ち HOG 経路を活性化
Sln1p(ヒスチジンキナーゼ)、Ypd1p(転移因子)、Ssk1p
することができる状態のものである。タンパク質のユビキ
チン反応には E1,E2,E3 の 3 種類の酵素が必要であるが、
Ssk1p の E2 としては、小胞体表面において機能する Ubc7p
が主要な役割を担っていることも明らかにした。Ubc7p を
欠損した細胞においては、浸透圧刺激後の HOG 経路の活
性が高く維持されたことから、上記の分解メカニズムは浸
透圧応答終了後に下流経路を不活性化していると考えられ
る。タンパク質分解系によるレスポンスレギュレーターの
制御というこの機構は、真核生物の His-Asp リン酸基転移
系に広く保存されている可能性が考えられる。植物におい
ては、His-Asp リン酸基転移系がサイトカイニンの受容を
担っているが、プロテアソームの変異株がサイトカイニン
応答に異常をきたすことが実際に報告されている。
CDK 活性による植物の細胞分化の決定機構
して、CAK の一過的発現とロスコビチン(CDK の特異的
阻害剤)処理を組み合わせて解析したところ、培養初期段
山口雅利、加藤尚志、吉田茂男、山村三郎、内宮博文、
階(7 日間)で CDK 活性が上昇すると根の再分化がカルス
梅田正明(細胞機能研究分野)
形成に変換されることが明らかになった。8 日目以降に
Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 8019-8023 (2003).
CDK 活性を上げても発根が誘導されたことから、特定のス
テージ(下図では第 2 段階)での CDK 活性が分化の方向性
植物の組織培養系では、オーキシンやサイトカイニンと
いった植物ホルモンが器官形成を大きく左右する。例えば
オーキシン濃度が高いと発根が誘導され、逆にサイトカイ
ニン濃度が高い条件ではシュート形成が起こる。我々は、
このような組織培養系における CDK 活性の役割について解
析するために、誘導的に CDK 活性を上昇させるシステムを
構築した。すなわち、タバコ葉切片でグルココルチコイド
(DEX)依存的に CDK 活性化キナーゼ(CAK)を発現させ、
CDK を活性化させるシステムである。その結果、サイトカ
イニンを含まない培地上では、低濃度のオーキシン
(0.2g/ml NAA)存在下で根の再分化が阻害され、高濃度の
オーキシン(2.0g/ml NAA)存在下でカルス形成が起こるこ
とが明らかになった。この現象は DEX 濃度依存的で、CAK
の制御サブユニットであるサイクリン H を共発現させると
カルス形成がさらに促進された。この実験系の利点を生か
を規定する上で重要な役割をもつことが示された。