レジュメ本文

2005/04/18 (月)16:30∼18:00
フェリス女学院大学 授業「滞日・在日女性と平和」向けレジメ
「フィリピン・日本国際結婚の世界:異文化交流と可能性」
佐竹 眞明(名古屋学院大学)msatake@ngu.ac.jp
はじめに
国際結婚はダイアスポラにおいて、もっとも興味深くて、ダイナミックな側面を持つテーマ。日
本における結婚、離婚は日本人の独占でなくなった。1992∼96 年にかけて、日本の国際結婚で、
最も多かったのが、
日本人男性とフィリピン女性とのカップル。
この講義では、
日比結婚の現状、
フィリピン女性・日本人男性の横顔を紹介する。その上で、フィリピン女性の活動や日比結婚が
どのようなインパクトを日本社会に与えているか、検討してみる。女性たちを取り巻く状況には
ネガティブな側面もあるが、女性たちの行動・活動や結婚が差別・抑圧を軽減する「積極的平和」
の実現につながりうる点も指摘したい。
Ⅰ.
日比結婚の現状
1.日本の「多文化社会」化
滞日・在日外国人増加(表1)に伴い、日本での結婚は日本人の独占でなくなった。
2002 年について、国籍別の男女内訳、年齢構成を検討すると、フィリピン人では、女性の割合が
高い(男 27,802、女 141,557)
。特に若い年齢(20∼39 歳)で割合が高く、フィリピン女性
全体の 81.1%を占めている。なぜ?
2.国際結婚
フィリピンからの出稼ぎ女性と日本・フィリピンの国際結婚が増えたことが主な理由である。
出稼ぎ−03 年:
「興行」入国は 13 万 3,103 人で,国籍(出身地)別では,フィリピンが8万 48 人で最も多
く,
「興行」全体の 60.1 パーセントを占める。次いで,アメリカ,中国,ロシアの順。
(フィリピンから出国した OPA73,685 人中、73,246 人(99.4%)が日本へ。そのうち、女性は
69,986 人で、95.5%。バリエスカス 1993:130「男性を楽しませるために外国人を輸入してい
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る唯一の国というイメージに日本人は満足しているのだろうか」
;05 年 3 月より入国厳格化
国際結婚
表2 2002 年、日本全体の婚姻 757,331 件、うち、国際結婚は 35,879 件、全体の 4.74%。20
件に一件が「異文化間結婚」。日本人男性と外国人女性が 27,957(77.9%)
、日本人女性と外国
人男性の 7,922(22.1%)を上回る。日本人男性+中国女性 10,750 組、+フィリピン女性 7,630
組、+韓国・
「朝鮮」5,353 組、+タイ 1,536 組など。92∼96 年は日本男性+フィリピン女性婚
姻がトップ。
離婚率 表3 国際結婚の離婚率は全体の 5.26%。20 件離婚があれば、1 組は国際結婚夫婦。日
本人同士は 38.05%、国際結婚における離婚率は 42.51%。
+中国女性:43.06%;+フィリピン女性 41.06%;+韓国・
「朝鮮」51.28%。 日比結婚の離婚
率は日本人同士と比べて、顕著に高くない。ブラジル 32.4%、ペルー35.7%は日本人同士より低
い。
3.増えた理由
① 日本における「需要」
男性の結婚難(30∼34 歳の独身率:女性 26.6%、男性 42.9%−2000 年)←女性の晩婚化(平
均初婚 28.6 歳;男性 30.8 歳−02 年)、人生観の変化、遅れがちな男性の意識、家制度、
結婚業者の役割−中国女性;中国女性への期待、韓国、フィリピン、ベトナム、ロシアなど
行政機関も仲介−農村花嫁さん(1985∼) 過疎化対策、村の活性化、嫁不足
②日本への女性による移民労働
フィリピン女性:日本への出稼ぎ エンターテイナー 前述 ただし、
日本の入管政策として、
興行ビザを発給:労働力不足に対応(Ballescas, 1992: 7)
。出会う場所の増加;日本人客は日
本女性が失った?ものを求める?
③日本との経済格差
結婚リクルート、移民労働自体、南北問題にみられる経済格差が根底にある。フィリピンからの移
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民労働、移住には国内的貧困・低開発もからむ。国策として、移住労働も奨励されている。
それが出会う機会の増加につながった。さらに、結婚で出国するフィリピン人の約91%は女性
である。相手男性の国籍はアメリカ、日本、オーストラリア、ドイツ、カナダなど。フィリピンは国
際的に女性を、結婚パートナーとして、「先進国」の男性に「供給」してきた。
観光やビジネスを通じての出会いも煎じ詰めると、工業国の経済力が背景にある。
④アジア女性へのイメージ 結婚業者は「男性に尽くす、従順なアジアの女性」をうたい文句
にしている それをそのまま受け入れる日本男性たち(米国、豪州、ドイツなども同様)
パブでの労働サービスを勘違いする日本男性たち−オリエンタリズム的要素
Ⅱ.日比結婚カップルのプロファイル
1. 女性のプロファイル
60 例中 36 人が興行に従事し、OPA(Overseas Performing Artist)として、就業していた。
行政・業者仲介では無職6、コンピュータオペ1、マニキュリスト1など。フィリピンで知り合
った例では、大学院生2、NGO1、企業、デパート、ウェイトレス、家事労働者、バーなど各1.友
人・知人の紹介では、小学校教師、農地改革省、日本で通訳など。
出身地はマニラ首都圏、ルソン、ビサヤ、ミンダナオなど。出会う場所は日本か、マニラが多い。
結婚年齢は 20 代前半∼半ばが多い。
2. 男性のプロファイル
60 例中、結婚生活中 52、離婚7、死去1.
職業は、公務員、教員、サラリーマンなどホワイトカラー系は 23、現業的仕事(道路建設、農業、
運転手、美装、塗装、うどん製造、造船)が21.その他自衛隊、フィリピン・パブ経営、レストラン
経営、ホテル・マネジャー、ミュージシャンなど。
年齢は 30 代から 50 代が多数。
3.離婚歴(男性6人が再婚、相手の女性4人も再婚) 年齢差(10 歳以上男性が上のケースが
21 例)
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Ⅲ.フィリピン女性にとって、日本人との結婚とは
1. 新しい環境への適応
言葉 宗教 慣習、気候、家族・親戚・近所の人々と離れる;拡大家族と核家族との違い
フィリピン人、女性に対するイメージ−民族的差別・性的差別(例えば DV)もある
2.全般的に所得上昇、フィリピンにおける「社会的地位」上昇−仕送り、家を建てるなど だ
が、パート労働従事が多い(食品・衣料工場、病院の清掃、豆腐屋など 22 人)
老人介護施設勤務、フィリピン・グッズ販売、化粧品のセールスレディ。パブ労働は 5 人と少数
派(家族生活優先、夫の反対など)。ホワイトカラー系は通訳2、大学教員1、小学校の契約英語
教員1など少数。
:パートの多さ→研修生、日系人と並んで外国籍者が日本の現業を支える;
フィリピン女性の学歴、経歴が生かされず(語学教育・職業訓練の提供、就業機会の平等化が求め
られる)
3.フィリピンの家族との関係
仕送り、親・兄弟姉妹を支える 国境を越える絆 親族の日本滞在(出産時など)
里帰り
Ⅳ.
「積極的平和」の創出
1.ジェンダー関係 夫との関係
家族志向(Tancangco 1996:184; Aguilar 1998: 131)、男女平等志向女性の強い女性たち
(社会的地位が日本より高い社会から、移住してきた事実(the Gender Empowerment
Measurement in UNDP Human Development Report 2001);
(家の柱 haligi ng tahanan、家の光 ilaw ng tahanan という概念)
→男性支配的文化・社会への抵抗:日常的な闘い Everyday politics
vs 日本男性 :働きバチ、女性差別的な男性は対応できず、時に離婚へ。ただし、自分
の行き方を見直す人たちもいる。
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2.子ども ダブル・キッズ:2 つの文化を受け継ぐ
bicultural, bilingual
3.異文化交流・教育:保育所、小学校―異文化理解教育、英語教育に参加
自治体の「国際交流」行事に参加
4.外国人へのサポート:マイノリティの人権
他のフィリピン人(女性、男性研修生、日系人)への支援
結論
国際的な経済格差、出来上がった国際労働移動ルート、フィリピンの海外労働奨励政策、日本の
入管政策が日比結婚の増加につながった。また、日本の結婚業者や自治体の働きかけ、日本にお
ける男性の結婚難なども背景にある。フィリピン女性たちに対しては、民族的な差別、性差別も
ある。また、学歴やキャリアが十分に生かされていないケースもある。
しかし、ポジティブな側面もある。夫に働きかけて、ジェンダーフェアな関係を築く。2 つの
文化を受け継ぐ「ダブル」の子どもを育てる、地域で異文化理解教育や交流に加わる、そして、
他のフィリピン人を支援することにより、マイノリティの人権を守るなどである。より平等的な
ジェンダー関係、豊かな異文化交流・理解、人権の保障という面で評価しうる。ネガティブな側
面に対しては対応策(ex.シェルター)やいっそうの異文化交流・理解の機会をさまざまなレベ
ルで提供する(ex.自治体、教育機関)
。また、ポジティブな側面に関しては、いっそう、それを
促進する対応策を諸レベルで展開する。そうして、
「積極的平和」のいっそうの拡大をめざした
い。
参照文献
Aguilar, Delia D.
1998 Toward a Nationalist Feminism, Giraffe Books, Quezon City.
Ballescas, Ma. Rosario P.
1992 Filipino Entertainers in Japan, An Introduction, the Foundation for Nationalist
Studies, Quezon City
(津田守監訳『フィリピン女性エンターテイナーの世界』、明石書店).
Tancangco, Luzviminda G.
5
1996 “Women and Politics in Contemporary Philippines,” University Center for Women’s
Studies, University of the Philippines, Women’s Role in Philippine History: Selected
Essays, Second Edition, UCWS, UP, Diliman, Quezon City.
佐竹眞明
「瀬戸内地域のフィリピン人−出稼ぎから定住へ」会沢勲編『アジアの交差点 在日外国人と地
域社会(増補改訂版)
』社会評論社、2000
メアリー・アンジェリン・ダアノイ「民族・性差別の国、日本でのフィリピン人少数者が力をつ
けるために」会沢勲編、同上書。
佐竹眞明・メアリー・アンジェリン・ダアノイ『ビア・レチョン・バンブーダンス−日比国際結
婚と異文化交流』
(仮題)
、めこん社、2005 年 7 月刊行予定
質問
Q1.
Q2.
日比結婚と「平和」との関連を考えてみてください。
質問・感想など何でも。
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