補論:モデルの解説

温室効果ガス排出規制の地域間CGE分析
補論:モデルの解説
白井大地、武田史郎、落合勝昭*
この文書では、「温室効果ガス排出規制の地域間CGE分析」で利用されているモデルの
解説をおこなう。
1.
説明

効 用 関 数 、 生 産 関 数 等 に は 全 て CES 関 数 ( あ る い は 、 そ の 特 殊 ケ ー ス で あ る
Cobb-Douglas関数、レオンチェフ関数)を利用している。

以下のモデルでは、経済主体の最適化行動を仮定している(効用最大化、利潤最大化、
支出最小化、費用最小化等)。生産量、消費量、投入量はこの最適化行動から決定さ
れる。

CES関数(あるいは、そこから導かれる価格指数、費用関数、支出関数)は全てcalibrated
share formで表現している。Calibrated share formについて詳しくは、Rutherford
(1998)を参照。

Calibrated share formによる表現では本来reference priceが現れるが、表現の簡素化
のため以下では省略している。

式の右端の変数は、その式によって定義される変数、あるいはその式によって決定さ
れる変数を表している。

モデルでは本来関税も扱われているが、以下では表現を簡素化するため省略している。

バー付きの変数はベンチマークの値を表す変数である。

以下では、論文のメインのシナリオにおけるモデル、すなわち

一人当たりの額が同額となるように、各地域の家計に排出権収入を還元

排出規制は日本全体に課す(日本全体での排出権市場)

電力価格は地域毎に異なる
という仮定を前提としてモデルを表現している。
2.
記号
まず、モデルの表現に利用されている記号を定義しておく。
*
白井: キヤノングローバル戦略研究所, shirai.daichi@canon-igs.org, 〒100-6511 東京都千代田区丸の内
1-5-1 新丸ビル11F. 武田: 京都産業大学経済学部, shiro.takeda@gmail.com, 落合: 日本経済研究センター
1
インデックスの定義
記号
説明
財のインデックス
部門のインデックス
国内の地域のインデックス
農林水産部門のインデックス
化石燃料のインデックス。「石炭・原油・天然ガス」,「石油・石炭製品」,
「ガス」の3つの財
電力のインデックス
エネルギー財のインデックス(
)
アクティビティー変数
記号
説明
地域rの部門jの生産量
地域rの財iのArmington統合
地域rの財iの輸入
地域rの財iの輸出
地域rの消費
地域rの効用水準
地域rの投資財生産
地域rの政府支出
単位費用と価格指数
記号
説明
地域rにおける部門jの生産の単位費用
Armington統合の単位費用
国内財投号の単位費用
消費の単位費用
効用の単位費用
投資の単位費用
政府支出の単位費用
地域rにおける部門jの生産物の価格指数
部門jが直面する化石燃料iの価格(
)
家計が直面する化石燃料iの価格(
)
部門jにおける合成化石燃料(統合された化石燃料)の価格指数
2
部門jにおける合成エネルギー財の価格指数
部門jにおけるエネルギーと生産要素(労働以外)の価格指数
部門jにおける合成エネルギー・生産要素の価格指数
地域rにおける部門jの生産の単位費用
統合された国内財iの価格指数
財iのArmington統合の単位費用
地域rの消費における合成エネルギー財の価格指数
地域rの消費における合成非エネルギー財の価格指数
地域rの消費の単位費用
地域rの効用の単位費用
地域rの投資の単位費用
地域rの政府支出の単位費用
国内財(国内市場向けの財)の価格
輸出財(輸出向けの財の価格
Armington財iの価格指数
輸入財iの価格
地域rの労働の価格
地域rの資本のレンタルプライス
地域rの部門jにおける土地のレンタルプライス(
)
地域rの部門jにおける特殊要素のレンタルプライス
為替レート(外国為替の価格)
地域rの消費の価格指数
地域rの効用の価格指数
地域rの投資財の価格指数
地域rの政府支出の価格指数
地域rの排出権価格
日本全体での排出権価格
シェアパラメータ(外生変数)
シェアパラメータとはベンチマークデータにおけるシェアを表すパラメータ。 Calibrated
share formによるCES関数の表現に必要となる。
記号
説明
部門jの総供給に占める輸出のシェア
部門jの化石燃料投入における化石燃料iのシェア(
部門jのエネルギー投入における電力のシェア
3
)
部門jにおける資本の投入シェア
部門jにおける土地の投入シェア
部門jにおける特殊要素の投入シェア
部門jにおけるエネルギーの投入シェア
部門jにおける労働の投入シェア
部門jにおける非エネルギー中間財iの投入シェア(
)
部門jにおける合成エネルギー・生産要素の投入シェア
電力部門における火力発電のシェア(
)
地域rの国内財iの統合における地域sの財のシェア
地域rの財iのArmington統合における輸入財のシェア
エネルギー消費における各財のシェア
非エネルギー消費における各財のシェア
消費におけるエネルギー消費のシェア
家計の支出に占める貯蓄のシェア(貯蓄率)
投資における各財のシェア
政府支出における各財のシェア
ベンチマークにおける地域rへのトランスファーのシェア
代替の弾力性(外生変数)
記号
説明
値
生産における化石燃料間の代替の弾力性
0.3
生産における化石燃料と電力の間の代替の弾力性
0.1
生産におけるエネルギーと生産要素間(労働を除く)の代替の弾力
0.3
性
0.3
生産における労働とエネルギー・生産要素間の代替の弾力性
1
電力部門における火力発電とその他の発電の代替の弾力性
国内財間の代替の弾力性
略
Armington弾力性(国内財と輸入財の間の弾力性)
略
0.5
エネルギー消費における各財の代替の弾力性
1
非エネルギー消費における各財の代替の弾力性
0.3
エネルギー消費と非エネルギー消費の間の代替の弾力性
国内供給と輸出供給の間の変形の弾力性
税率を表す変数(外生変数)
記号
説明
資本所得への税率
4
略
労働所得への税率
生産税率
その他の変数
記号
説明
地域rの家計の可処分所得
(中央)政府の収入
地域rの労働の賦存量(外生変数)
地域rの資本の賦存量(外生変数)
地域rの部門j用の土地の賦存量(外生変数)(
)
地域rの部門j用の特殊要素の賦存量(外生変数)
地域rの政府支出水準(外生変数)
地域rの部門j用の特殊要素の賦存量(外生変数)
中央政府から地域rへのトランスファー
地域rの貿易黒字(外生変数)
排出規制に関する変数
記号
説明
排出権の供給量
地域rの排出権需要
地域rの部門jにおける化石燃料iのCO2排出係数(外生変数)(
)
地域rの家計に対する化石燃料iのCO2排出係数(外生変数)(
)
国全体での排出権収入
地域rに配分された排出権収入
3.
3.1.
モデル
単位費用と価格指数
生産物の価格指数:各部門の生産物は輸出向けと国内向けにCET(constant elasticity of
transformation)関数を通じて配分される。配分は収入を最大化するようにおこなわれる
ので、生産物の価格指数は次式で与えられる:
5
排出規制の下では、生産者が直面する化石燃料価格は元の価格+排出権購入価格となる。
同様に、家計が直面する化石燃料価格は次式で与えられる。
生産における化石燃料の価格指数。化石燃料はCES関数を通じて統合されるので価格指数は
次式のような形になる。
生産におけるエネルギー投入物の価格指数。化石燃料が統合された後に、さらにCES関数を
通じて電力と統合される。
生産におけるエネルギーと生産要素(労働以外)の価格指数。統合されたエネルギーは資
本、土地、特殊要素と統合される。
生産におけるエネルギーと生産要素の価格指数。労働と労働以外の生産要素・エネルギー
がCES関数で統合される。
生産の単位費用(電力部門以外)。最後に中間財とともにレオンチェフ型で投入されて生
産がおこなわれる。
電力生産の単位費用。電力については、火力による電力(ELEF)と非火力による電力(ELEN)
がCES関数によって統合されて電力という財になる。
6
国内財の価格指数。国内の各地域から供給される財はCES関数によって統合される。
Armington統合の単位費用。統合された国内財はさらに輸入財とCES関数によって統合され
る。
消費におけるエネルギー財の価格指数。消費におけるエネルギー財はCES関数で統合され
る。
消費における非エネルギー財の価格指数。消費における非エネルギー財もCES関数で統合
される。
消費の単位費用。エネルギー消費と非エネルギー消費がCES関数を通じて統合される。
効用の単位費用。効用は消費と貯蓄のCobb-Douglas関数と仮定している。
投資の単位費用。投資には各財がレオンチェフ型で投入される。
7
政府支出の単位費用。政府支出には各財がCobb-Douglas型で投入される。
3.2.
ゼロ利潤条件
以下で、ゼロ利潤条件を提示する。この各アクティビティーの水準は、そのアクティビ
ティーが対応するゼロ利潤条件によって決定される。どの式も左辺が単位費用、右辺が価
格(単位収入)を表している。
部門jのゼロ利潤条件。生産には税率
の税がかかっている。
Armington統合のゼロ利潤条件。
輸入活動のゼロ利潤条件。
輸出活動のゼロ利潤条件。
消費統合のゼロ利潤条件。
効用のゼロ利潤条件。
投資財生産のゼロ利潤条件。
政府支出のゼロ利潤条件。
8
3.3.
市場均衡条件
以下で、市場均衡条件を提示する。市場均衡条件によって価格が決定される。各式とも、
左辺は供給量、右辺は需要量を表している。
シェパードの補題より、単位費用関数を投入物の価格で微分したものが、その投入物へ
の単位需要となる。以下では、その関係を利用して表現している。例えば、
は、地域rの財iに対する地域sの需要を表すことになる。
国内財の市場均衡条件。地域rが生産した国内向けの財は国内の各地域に需要される。価格
指数
を国内財の価格で偏微分したものは、国内財の単位供給を表す。
輸出財の市場均衡条件。
Armington財の市場均衡条件。Armington財は消費、投資、政府支出、中間投入に利用さ
れる。
輸入財の市場均衡条件。
労働市場。生産要素の供給量は外生的である。
資本市場。
土地の市場。土地は農林水産部門(j=AGR)にのみ利用される特殊要素。
9
土地以外の特殊要素の市場。
外国為替の市場。
消費の市場。
投資財の市場。
政府支出の市場。各地域の政府支出への需要は外生的に一定。
効用への需要。家計の所得を効用の価格で割ったものが効用への需要となる。
排出権市場。
3.4.
その他の条件式
各地域の排出権の価格。国全体での排出権取引を想定するケースでは、価格は全ての地域
で均等化。
10
地域rの排出権に対する需要。
国全体での排出権収入。排出権は全てオークション方式で配分し、売却額が政府の収入と
なる。
地域rへの排出権収入の配分。デフォールトのケースでは、 は各地域の受け取る1人当たり
排出権収入が等しくなるように決定される。
地域rの家計の可処分所得。可処分所得=要素所得-海外への貯蓄+政府からのトランスフ
ァー-政府支出+排出権収入。
(中央)政府の収入。税収。
各地域へのトランスファーの額。ベンチマークのシェアが一定になるようにトランスファ
ーは決まる。
参考文献
Rutherford, T. F., 1998, “CES Preferences and Technology: A Practical Introduction.” in
“Economic Equilibrium Modeling with GAMS: An Introduction to GAMS/MCP and
GAMS/MPSGE (GAMS/MPSGE Solver Manual)”, 89-115.
11