定年退職者が働く企業「高齢社」

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定年退職者が働く企業「高齢社」 シニアがシニアのために創設した株式会社シニアがシニアのために創設した株式会社
日本の企業、従業員が数百名以上の会社は、そのほとんどが60~65歳定年の退職制度を定めて
いる(約80%は60歳定年)。しかし、平均寿命が伸長して、普遍的長寿社会になり、同時に少
子社会が到来した今日の日本では、気力、体力そして経験力もあるシニアの就労等社会的活動は
不可欠となっている。
既に日本では、定年退職OBがもう暫く働き続けられるように、子会社などを作っている事例も
あるが、それらの企業は自主性に欠ける等、発展的成功例は少ない。また、シニアが仲間を集め
、自らが出資者(株主)となり、経営し、実労働にも従事しているシニア主体の会社はさらに少
ない。ここに紹介する「高齢社」は、定年退職したシニアが、自ら働くために創設した株式会社
である。
「高齢社」は21世紀とともに、東京の都心で立ち上げられた会社で、社員(契約社員)を60歳以
上に限定した職業紹介会社(人材派遣会社)で定年制はない。
「高齢社」創設の中心人物は上田研二さん。上田さんは、東京ガスで働き、関連会社の東京器工
の社長なども務めた人である。その理念は、「気力、体力、知力のあるシニアに働く場と生きが
いを提供して行くこと」で、経営・運営方針は、「働く社員が最高の監査役で、共考、共行で共
栄」。そして企業目的は、「少子高齢化社会における社会貢献で、シニアの自己実現の支援」で
ある。
上田さんと上田さんを支えて活躍している仁木賢(高齢社企画室長)さんによれば、2003年上
田さんが代表取締役になってから、2009年現在までの実績を見ると、2003年売上高3500万円、
社員80人から、2009年では、売上高は3億円強、社員約380人と年々発展している。
社員は、ほとんどが契約社員で、週に2~3日の勤務とする者が多く、中には週に1日というシニ
ア社員もいる。従事する業務は、東京ガスや関連会社の業務から、現在はエレクトロニクス分野
を含めて、品質検査、修理、トレーニングインストラクター、時間外業務の支援、などである。
「高齢社」は毎年、社員のアンケート調査を行っているが、調査によると、社員の働く目的は、
年金+α、生きがい健康づくりが主であり、また、現役時代に出来なかった趣味活動をする、生
活にリズムと生計プランが出来る、などと答えている。
上田さんに言わせれば、契約(登録)社員は時給約1,000円で月額8~10万円が平均収入。社員は
皆、仕事をするための知識や経験を習得しているので、研修教育は不要、派遣先の業務紹介程度
である。社員の年齢は65~74歳が大多数だが、75歳過ぎも増えている。70歳過ぎでも働くこと
は、2~30年前までは全く考えられなかった社会変化である。
2008年、世界経済不況により、これまでの施策で増大してきた契約・派遣社員の解雇(派遣切
り)が大きな社会問題となり、国は契約社員に関する法・施策の改正を労働者保護の立場から進
めることとなった。この改正においては、短期・短時間の就業を基本条件とする「高齢社」(高
齢者の就業可能な就業環境を基に契約・派遣による企業)等は、「高齢者対象」として、別途取
り扱われることが望まれる。
1990年代末、エイジング総合研究センターが国の委託で行った「企業退職者に関する意識調査」
(4000名対象)でも、その「約70%が65歳を過ぎても働きたがった」と答えている。また、国
の労働施策においても、高齢者の雇用安定等に関する法律「高齢者雇用安定法」を2004年に改
正し、「2013年までに定年は65歳以上とする」ことを義務化している。さらに、2007年には「7
0歳まで働ける企業の実現に向けた提言」(座長・清家篤)も内閣総理大臣に提出され、70歳ま
での雇用が国の高齢者雇用安定対策の基本方針に付加されている。
2・3年後には、65歳以上の高齢人口が日本人口の4分の1を超える日本社会。年金、医療、介護の
社会保障制度の在り方、その負担と給付、そして要介護の問題がメディアで報じられない日はな
いが、人類恒久の願望であった普遍的長寿社会を前向きに享受しようとしているシニアの社会的
努力を報じるメディアは極めて少ない。シニアの実情を直視すれば、日本の65歳以上の7・8割は
自立可能な高齢者であり、上田さんも指摘するように、気力も体力も知力もある人々であり、こ
の人々の貯蓄が間接的に我が国の赤字国債を支え、企業への投資にも貢献していることは周知の
とおりである。しかしながら、高齢者シニアの実情(生活行動や意識・ニーズ)についての社会
的関心、特に行政やメディアの関心は実に低い。理由は、「問題がない人々」だからである。し
かし、このほったらかしの人々の自助努力を見据え、このシニアの就労等社会参加活動を助長す
る社会環境づくりが今最も必要かつ重要な施策であろう。
<JARC:吉田成良・記>
向かって左が上田さん、右が仁木さん
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