目 次 発刊に寄せて (特活)ブリッジ エーシア ジャパン 事務局長 新石正弘 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 JICA 人間開発部高等・ 技術教育/社会保障グループ長 小野修司 ・・・・・・・・・・・・・・ 3 プロジェクト事例分布地図 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 プロジェクト事例 〈 アジア 事例1 〉 イラン・イスラム共和国マシャッド市第五区における IT 技能職業訓練事業 ・・・・・・・・・・ 9 (社)日本国際民間協力会(NICCO) 事例2 インド・カルナータカ州ビジャプール農村改善支援事業 ∼農業トレーニングセンターを中心に∼ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 (社)アジア協会アジア友の会(JAFS) 事例3 インドネシア共和国における「有機農業開発による農民の自立支援」 プロジェクトの実施 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 (特活)地球の友と歩む会/LIFE 事例4 インドネシア国における障害者職業リハビリテーションの実施 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 八木 事例5 功 インドネシアにおける旋盤技術交流プロジェクト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 (特活)APEX 事例6 インドネシア西スマトラ州における「平和と健康を担う人づくり」の実施 ・・・・・・・・・・ 31 (財)PHD協会 事例7 カンボジア王国首都プノンペンにおける障害者支援職業訓練事業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35 (特活)難民を助ける会 事例8 カンボジア王国スバイリエン州スバイチュルン郡持続可能な農業を通じた 女性による農村開発プロジェクト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39 (特活)国際ボランティアセンター山形(IVY) 事例9 カンボジアにおける織物事業の実施 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43 (特活)幼い難民を考える会 事例 10 カンボジアにおける青少年自立支援プロジェクト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47 (特活)国境なき子どもたち 事例 11 スリランカ北東部復興支援に向けた保健分野の人材育成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51 (特活)アムダ(AMDA) i 事例 12 タイ 労災リハビリテーションセンタープロジェクトの実施 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57 秋庭 事例 13 守正 ネパール王国におけるルンビニ・プロジェクトの実施 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 64 (社)日本ユネスコ協会連盟 事例 14 フェアトレードで支援する途上国の生産プロジェクト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69 フェアトレードカンパニー㈱/グローバル・ ヴィレッジ 事例 15 ネパール・ランタン村における水力発電利用プロジェクトの実施 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 72 ランタンプラン 事例 16 バングラデシュにおける女性の農業研修センタープロジェクト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76 (特活)国際エンゼル協会 事例 17 バングラデシュにおける農村貧困住民の意識化と収入向上プロジェクト ・・・・・・・・・・・・ 79 (特活)シャプラニール=市民による海外協力の会 事例 18 東ティモールにおける農業者育成プロジェクト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 82 (財)オイスカ 事例 19 東ティモールマウベシ郡コーヒー生産者協同組合支援事業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 84 (特活)アジア太平洋資料センター 事例 20 フィリピン共和国ケソン市パヤタスごみ処分場周辺コミュニティでの 医療及び収入向上プロジェクト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88 (特活)アジア日本相互交流センター(ICAN) 事例 21 フィリピン共和国における技術指導プロジェクトの実施とフェアトレード ・・・・・・・・・・ 92 (特活)第3世界ショップ基金 事例 22 フィリピン共和国における職業訓練向上計画プロジェクトの実施 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96 久米 事例 23 篤憲 フィリピンにおける手工芸品実務者養成事業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100 (特活)地球ボランティア協会 事例 24 フィリピン西ネグロスにおける養蚕プロジェクト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 103 (財)オイスカ 事例 25 フィリピン共和国マニラ市・トンド地区における小規模職業訓練 プロジェクト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 105 (特活)金光教平和活動センター 事例 26 ベトナム・リプロダクティブ・ヘルス・プロジェクトの人材養成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 108 (財)ジョイセフ ii ⅱ 事例 27 日本・マレーシア技術学院プロジェクト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 114 辻川 事例 28 英高 ミャンマー国における女性を対象とした裁縫技術訓練と識字による 自立支援事業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 118 (特活)ブリッジ エーシア ジャパン(BAJ) 事例 29 ミャンマー・シトウェ市における技術訓練学校運営事業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 124 (特活)ブリッジ エーシア ジャパン(BAJ) 事例 30 ミャンマー・ヤンゴン市における障害者支援事業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 128 (特活)難民を助ける会 事例 31 ヨルダン 職業訓練技術学院プロジェクトの実施 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 131 梅本 事例 32 UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)職業訓練支援の実施 ・・・・・・・・・・・・・ 136 久米 事例 33 篤憲 飢えの問題を自立的に解決するための農村指導者養成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 141 準学校法人 事例 34 清 アジア学院 職業訓練について考える−パレスチナとレバノンでの経験から ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 146 (特活)パレスチナ子どものキャンペーン 〈 アフリカ 事例 35 〉 ウガンダ国における[Ⅰ] ナカワ職業訓練校復興プロジェクト [Ⅱ] 同・フォローアップ技術協力・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 151 宮城 事例 36 健 ギニア共和国における「貧困解消」プロジェクト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 156 (特活)サパ=西アフリカの人達を支援する会 事例 37 ケニア国ガリッサ県における女性の自立のための職業訓練: ミコノ縫製技術訓練所・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 160 国際協力NGO「ミコノの会」 事例 38 ザンビア共和国ルサカ首都圏救急救助隊整備計画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 164 (特活)TICO 事例 39 セネガル共和国における職業訓練センター拡充計画プロジェクトの実施 ・・・・・・・・・・・ 169 船場 事例 40 専 ムトワラ職業訓練センター(タンザニア国)機材整備に関わる 職業訓練機能の向上・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 174 西川 ⅲ iii 義雄 〈 中南米 事例 41 〉 グアテマラにおける職業訓練拡充プロジェクト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 181 水野 事例 42 新 パラグアイ共和国における日本・パラグアイ職業能力促進センター プロジェクトの実施・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 185 高中 事例 43 克明 メキシコ合衆国の電子分野における研究・教育手法の開発に係る 技術指導プロジェクトの実施・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 189 平松 〈 ヨーロッパ 事例 44 重巳 〉 ボスニア・ヘルツェゴビナ国、サラエボにおける平和構築のための 養蜂技術訓練事業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 197 (特活)ジェン(JEN) 参考資料 1. 主な専門用語の解説と関連事例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 203 2. 事例分類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 205 3. 団体連絡先 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 207 iv ⅳ 事例集発刊に寄せて 職業訓練や技術訓練の一般的なイメージは、学校や作業所のような施設、あるいは企業内の研修施設など 屋内で、専門的な内容を座学や実習を組み合わせて行なっている様子を想像します。 しかしながら、現在 NGO が海外の活動現場で取組んでいる職業訓練の実態は、たとえば訓練期間ひとつ をとっても、数日間から数年以上にわたるものまであり、また実施場所も、屋外の木陰から、地域住民の住 居の一部を借りたり、 あるいは施設を建設して設備を整えて実施するものまで極めて多岐にわたっています。 さらにその目的も、技術修得だけではなく、社会的弱者の自立支援、貧困削減のための収入向上、災害や 戦争の被災者の精神的な立ち直り支援や地域振興を目指すもの、平和構築を視野に入れたものまで、多様で す。 日本は、ODA による職業訓練施設の整備や公的部門の人材育成など、多くの取組みを行なってきました。 関係者からは、本分野こそ日本が最も得意とするものであるとの評価も聞かれます。 こうした世界の一位、二位の拠出高を誇る ODA の一方で、資金力の乏しいなかでも様々な工夫を凝らし ながら住民の Capacity Building に取組んできた日本の NGO との経験交流や連携は、本分野では残念なが ら全くと言っていいほどありませんでした。 海外の現場では、ODA であっても NGO であっても「日本」が実施している事業と認識されるのが現実で あり、 「日本」の誰かの成果は全体に好影響を与え、逆に誰かの失態は全体に悪影響を与えてしまいます。 これまでは ODA と NGO がそれぞれで事業を進めてきましたが、日本の ODA の歴史も 50 年を超えた現 在、今後はさまざまな場面でお互いの協力・連携が必要となっています。 この事例集では、本分野の ODA と NGO の事例をできるだけ広範囲に取り上げています。ともすれば、 自らのプロジェクトを進めていくだけで精一杯であり、他の事例に触れる機会の少ない実務者への参考に供 する事ができれば幸いです。また、本研究委員会の NGO 側委員の一人として、これを契機に人と人のつな がりを強化し、文化交流でもあり、さらに顔の見える国際協力ともなる本分野の活動が、ODA、NGO を問 わず、様々な関係者の参加や貢献を通じて、一層効果的に拡充されることを願っています。そして ODA と NGO や、NGO の間での具体的な交流や連携が進展することを願っています。 最後になりましたが、本研究会の開設にご努力された厚生労働省と、実務を担当していただいた海外職業 訓練協会のご協力に感謝いたします。 NGO 側委員を代表して 特定非営利活動法人 ブリッジ エーシア ジャパン 事務局長 新石 正弘 1 事例集発刊に寄せて 1990 年代に世銀、UNDP が「貧困削減」に注目し始めたのは、それまでの開発援助機関が依拠していた開発戦 略が機能しなかったためである。 1950 年代に開発理論の主流であった「トリクルダウン仮説」による国家の経済成長が人々の幸福を約束すると の幻想は、貧困の蔓延という厳しい現実により否定され、開発戦略は見直しを迫られた。また、冷戦の終結による 「平和の配当」の恩恵への期待が大きかった分、地域・国内紛争がなくならない現実を直視する必要があった。 しかしながら、1980 年代以降に東アジアの経済が成長したのは労働集約型工業化をすすめ、それを支える人材 が育ったためであり、人材育成の観点から注目すべき出来事であった。人的資源に精力をつぎ込むことで、経済成 長の配当にあずかることができるという認識がリーダーから人々まで幅広く共有され、結果として所得の向上によ り貧困削減が実感された。 貿易立国日本を支えた原動力となったのは「もの造り」へかける姿勢と技術であった。第 2 次世界大戦後に、輸 出競争力のある産品の製造を、国外からの資源の輸入を抑えつつ推進しなければならず、当時、人材の質を最優先 とし人材育成のための投資が将来の発展への唯一の道であるとの認識が共有されていた。 「教育・訓練」はその強 力な手段であった。 「教育・訓練」が「知識・技能」の伝達の手段であるなら「労働」は自らの能力を活かし自己実現を追及し、自 身の人間としての尊厳を希求する場でもあった。 日本が途上国への援助を開始して 50 年が経過した。 国際協力における日本の技術教育は、1960 年代に無技能者を対象とした職業訓練に始まり、1970 年代には未就 業者に対する養成訓練に、在職者の技能向上を目指した向上訓練が加わり、1980 年代に入ると ASEAN 人造りプ ロジェクトがきっかけとなり職業教育・訓練にたずさわる指導員訓練を目的とした協力にその形態が移行してきた。 技術内容は従来主流であった機械系や電子・電気系から、近年の技術革新に伴い、メカトロニクスなどの高度な 内容を含む品質管理、制御などの技術分野にまで及んでいる。 日本の経験が開発途上国の発展にどのように役立つのか?NGO、政府ともにどのような貢献ができるのか、援助 の現場から学ぶことは多い。国際協力を通じ、途上国の現場で、例えば「もの造り」の醍醐味を肌で感じ、労働に よる喜びを得る人材が多数輩出されることが、将来の幸福につながるに違いない。 おりしも 2015 年までに、世界で極度の貧困を削減させるための MDGs(ミレニアム開発目標)のターゲットの 1つとして「開発途上国と協力し、適切で生産性のある仕事を若者に提供するための戦略を策定・実施する。」が あげられている。 本事例集は、関係者がどのように工夫して、途上国の人々の人材養成・貧困削減・自立支援 等に協力しようとし たか、具体的な記述としてまとめられている。それぞれのプロジェクトの構成内容、地域により必ずしも教訓・提 言は他のプロジェクトの実施に適用、普遍化はできないが、本事例集に盛り込まれた内容は、関係者にさまざまな 視点を提供してくれることは間違いない。 NGO、ODA の垣根を越え、日本の経験が途上国の貧困削減の一助になるためにはどのようにしたら良いかとの 問題意識を常に持ち、文化の違いや多様性を尊重しつつ確実に届く援助を実施することが今、求められている。 JICA 人間開発部 高等・技術教育 /社会保障グループ長 小野 修司 3 世界各国におけるプロジェクト事例 ボスニア・ヘルツェゴビナ1件 ネパール3件 イラン1件 バングラデシュ2件 セネガル1件 ベトナム1件 フィリピン 6件 ヨルダン2件 メキシコ1件 タイ1件 インド1件 グアテマラ 1件 5 ウガンダ1件 カンボジア 4件 スリランカ1件 インドネシア 4件 ケニア1件 ミャンマー3件 パラグアイ 1件 ギニア 1件 マレーシア1件 タンザニア1件 ザンビア1件 アジア諸国2件 東ティモール2件 プロジェクト事 例 〈 ア ジ ア 〉 事例 01 イラン・イスラム共和国マシャッド市第五区における IT 技能職業訓練事業 社団法人 日本国際民間協力会(NICCO) NICCO マシャッド事務所ディレクター 佐藤 智子 1.プロジェクトの概要 (b)実施時期 2003 年 9 月∼2008 年 8 月 (1)プロジェクト実施の背景 (c)実施体制 長期間に渡る内戦及びそれに続くアメリカの爆撃 1)カウンターパートナー により、多数のアフガニスタン人が国外に脱出し、 マシャッド市第 5 区及びイラン内務省外国人移民管 イラン国内にも多くの難民が避難している。ピーク 理局(BAFIA) 時には 300 万人以上にも達していたが、現在はイラ 2)スタッフ ン政府の難民帰還対策により減少しつつある。多く NICCO マシャッド事務所:日本人ディレクター1 名、 の難民はイラン国内でも最低限の生活しか送れず、 プロジェクト・マネジャー1 名 イランの法律による身分の保証も限られている。貧 職業訓練学校:校長 1 名、秘書 1 名、警備員 3 名、 しいがゆえに大学へ進学するものは少なく、正規の 講師 7 名(ICDL コース 4 名、CAD コース 1 名、 就業は基本的に禁じられており、たとえ高学歴であ グラフィックコース 2 名) っても生活の為、低賃金の職に甘んじている。10 年 コンピュータ数:43 台(講習用 40 台、教務用 3 台) ∼20 年以上前に離れた故郷には生活基盤が無く、帰 3)主な事業資金先 還後の生活には大きな不安を抱いている。 ・外務省日本 NGO 支援無償資金協力 イラン北東部の都市マシャッドは、イスラム教シ ・京都府国際協力センター ーア派の聖地であり、アフガニスタン第 2 の都市ヘ ・国際ソロプチミスト京都−たちばな ラートからの難民避難ルート上にあるために、多く ・洛西ロータリークラブ のアフガニスタン難民が長期に渡り居住している。 ・自己資金 そこで当会はマシャッドの最貧困地区であり、アフ (d)活動内容 ガニスタン難民が多く住むマシャッド市第 5 区(人 マシャッド市第 5 区のアフガニスタン難民及びイ 口約 15 万人の内半数がアフガニスタン人)において ラン人貧困層に対して、パソコン基礎操作、グラフ アフガニスタン難民及び貧困層を対象としたコンピ ィックデザイン及び建設・土木・工業製図用ソフト ュータの技能訓練を行い、難民の帰還促進、住民の 操作などの、コンピュータ操作の技能訓練及び就職 生活水準の向上を目指す事業を実施している。単な 支援を行う。 る訓練に留まらず、卒業者への就職支援をも行い、 アフガニスタン帰還後の生活の安定を支援している。 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 (2)プロジェクトの目的と目標 ① ② ③ (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ アフガニスタン難民への職業訓練支援及び帰 訓練内容はコンピュータの基礎的な知識を学ぶ初 還後の就職支援 級として ICDL コースと、 初級コースを終了した者及 イラン人貧困層への職業訓練支援及び就職支 び基本的なコンピュータ知識をすでに取得している 援 者を対象として、就職にも直接つながる可能性が高 アフガニスタン及びイラン両国への情報技術 い CAD 及びグラフィックデザインの技術の取得を目 (IT)と製版・印刷の技術移転による IT 産業の 指す中級コースを設けた。 基盤整備への寄与 コンピュータ初心者にも技術取得が出来るよう初 (3)プロジェクトの実施場所・時期・体制・内容 歩的なコースから始め、本人のやる気次第でその後 (a)実施場所 更に高度な知識の取得が出来るようなプログラムを イラン・イスラム共和国マシャッド市第 5 区 組み立て、就職に直結可能なシステムの構築を目指 9 事例 01 している。 初年度の 2003 年度においてはコンピュー れている。毎回の募集に多数の応募者があり、入学 タの基礎を学ぶ初級コースをまず開講し、ある程度 試験と面接により意欲と能力の高い者を選抜してい 裾野が広がってきた今年度初頭から中級コースをス る。(表 1 参照) タート、順調に修了者を送り出している。今年から <中級> CAD オペレーターコース は更に高度な上級コース(印刷物などを一般から受 (a)コース概要 注し、実践的なデザイン・印刷の技術指導を行う) 1)学習時間 学習時間:80 時間+試験 1 回 を行うことを計画している。 2)内容 表1 応募・入学・修了者数一覧 建設・土木・造園・工業製品等の製図に広く使わ れているソフトAuto CADの操作方法の取得を目指す <初級> ICDL コース。終了時に到達度試験を実施する。 夏季短期 第1期 第2期 第3期 第4期 合計 ICT 3)学習環境 1 クラス受講生 10 名に講師 1 名 (必要があれば男女混合)。 PC は 1 人 1 台を使用する。 応募者数 737 912 323 700 2672 80 入学者数 160 80 80 40 360 80 修了者数 145 77 76 40 298 70 (b)実施状況 中級用の高スペックコンピュータの設置を 2004 年 4 月に完了した後、受講希望者には個人面接の時 <中級> グラフィック 第1期 第2期 間を充分取り、将来 CAD を生かして就業する見込み CAD 合計 第1期 第2期 の充分ある者のみ受け入れた。 合計 CAD コース第一期は 10 名(男子のみ)によって 応募者数 130 100 230 79 40 119 入学者数 30 10 40 10 10 20 試験で不合格となった 1 名を除き 9 名が修了した。 修了者数 26 8 34 9 9 18 CAD 第二期生の選考も、ICDL 修了者からの希望者 2004 年 5 月 15 日から開始、7 月 4 日に終了、到達度 と外部の申込者から書類選考を行い、第一期同様個 <初級> ICDL コース 人面接において将来の展望について充分に確認した (a)コース概要 上で、実技試験(学校校舎見取り図手書き製図)を行 1)学習時間 160 時間+試験 7 回 った。結果 10 名(男子のみ)の受講者を受入れ、7 月 2)内容 31 日にから開始、9 月 8 日に全ての行程を終了、1 ICDL(International Computer Driving License、 名の中退者を除いた 9 名がコースを修了した。 ヨーロッパで開発されたコンピュータの基礎的知識 <中級>グラフィックデザイン DTP 中級コース の認証をするためのテスト。世界 140 カ国以上でテ (主要デザインソフトの基本操作) ストの受験が可能で、現在までに 400 万人以上が受 (a)コース概要 験している)に基づき、コースを実施している。コン 1)学習時間 120 時間+試験 3 回 ピュータの仕組み、Windows の基本概念及び MS 2)内容 Office 各コンポーネントの基本操作の取得を目指 イラン・アフガニスタンにおいて DTP(コンピュー す。コースは全部で 7 つのパートに分かれており、 タ上で行う印刷出版物用デザイン、編集、出力業務) 各パート終了時には到達度試験を実施する。 に使われている主要 3 ソフトである Photoshop、 3)学習環境 男女別 1 クラス受講生 20 名に同 Corel Draw、Free Hand の操作方法の取得を目指す 性の講師 1 名。PC は 2 人で 1 台を使用。 コース。各ソフトの講義終了時に到達度を確認する (b)実施状況 試験を実施する。 ICDL コース第一期は 2003 年 12 月に終了し、145 3)学習環境 1 クラス受講生 10 名に講師 1 名 人が終了した。第二期は 2004 年 4 月 4 日に終了し、 (必要があれば男女混合)。PC は 1 人 1 台使用。 77 人が修了、第三期は 4 月 12 日に 80 名の生徒によ (b)実施状況 り開始し、7 月 14 日に 76 人が修了。第四期は 40 人 ICDL コース一期、二期の修了者の中から、面接と が受講し、10 月 27 日に修了。現在は第 5 期が行わ デザインセンスをみる試験(架空の会社のロゴデザ 10 事例 01 イン)を課し、 さらに個人面接にて将来の展望を詳し 版・印刷の訓練を行うことを決定した。 く聞いた上で最終受講合格者を決定した。 マシャッド市ではヨーロッパの NGO が1団体、ま 第一期生 30 名(男子 1 クラス 10 名、女子 2 クラ た UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)もすでにアフ ス 20 名)を受入れ、2004 年 5 月 15 日に授業が開始 ガニスタン難民に対する職業訓練を実施してはいた された。各ソフトの操作法について到達度試験が行 が、コンピュータについては NGO によって 1 クラス われ、 7 月 14 日にコースは終了、 途中退学した 1 名、 12 名を対象に小規模に行われていたに過ぎなかっ 到達度試験で不合格となった3名を除き26名が修了 た。当会は国際規格のカリキュラムに基づき、一期 した。 120 名の生徒を対象に、 低料金で IT を教えることで、 第二期生の選考も、第一期同様個人面接を重視し 裾野の拡大と才能のある人材の発掘を目指すことと ながら行った。男女共に相当数の希望者があったた した。そしてコンピュータの訓練により意欲と能力 め、今期は男女混合クラスとすることを考えたが、 を持つ者に対して将来のキャリア形成の基礎を提供 多くの生徒から反対意見が寄せられたため、女子ク し、製版・印刷の技能を身に付けた者には、専門性 ラス1つを開講し、男子のクラスは次期に開講する を持った技術者としての道を開くことを意図したも こととなった。 第二期は7月24日に授業が開始され、 のである。 9 月 8 日に終了、 2 名の中退者を除く 8 名がコースを 2002 年度中にマシャッド市第 5 区より新築の建物 修了した。 を無償で借り受けることが決定し、難民の管理に当 <初級> 学生対象の夏季休暇短期 ICT(Information たるイランの外国人移民管理局からの事業許可も取 and Communication Technology)コース 得、2003 年 5 月に外務省からの資金協力を得て訓練 (a)コース概要 機材を設置し、同年 9 月に初級コースを開講した。 1)学習時間 90 時間+試験 3 回 (3)効率的な訓練を行うための取り組み 2)内容 生徒の選抜にあたっては、マシャッド市のアフガ ICDL コースで行っているコンピュータの仕組み、 ニスタン難民及びイラン人の貧困層の若者から、基 Windows の基本概念及び MS Word の操作。3 章に分か 礎英語の学科試験を実施し、その後全員と面接を行 れており、各章終了時には到達度試験を実施する。 って、学習意欲、将来の展望など目的意識のはっき 3)学習環境 男女別 1 クラス受講生 20 名に同 りしているものを家庭環境なども考慮して選考した。 性の講師 1 名。PC は 2 人で 1 台を使用。 初級コースとなる ICDL コースでは、初心者が早く (b)実施状況 コンピュータになれるため、現地では一般的な二人 常設の各コースに加え、これまで多数寄せられた で一台のコンピュータを使用し、ペアの生徒が教え 要望に応えて、夏季休暇中に完了する学生対象の初 合いながら学ぶ方式を導入。中級コースからは生徒 級 IT コースを開講した。 2004 年 7 月 24 日、 80 名(午 ひとりひとりにコンピュータ 1 台を割り当て、効率 前シフト、 午後シフト各男女 1 クラス合計 4 クラス) よく学習できる環境作りを行った。また 1 日 2 シフ の生徒を受入れ授業開始、9 月 5 日の最終試験で 70 ト制(4 クラス/シフト×2 シフト/日=8 クラス/日) 名がコースを終了した。 として、午前と午後に授業が行えるようにし、少し (2)訓練等の計画と準備 でも多くの受講希望者に学習の機会が与えられるよ 2001 年 10 月のアフガニスタンにおけるタリバン うにした。 政権の崩壊後、 翌 11 月にはイランのマシャッド市及 各コース終了ごとに習熟度テストを行い、合格点 び国境を挟んだアフガニスタンのヘラート市におい に達しない者や出席率の足りない者には個別指導を てニーズ調査を実施した。その結果、ヘラート側で 行い、 改善が見られない場合は退学処分を行うなど、 の緊急支援事業に加え、マシャッド側にてアフガニ 厳しい授業内容で高いレベルを維持するように心が スタン難民の帰還支援のため事業の必要性が高いと けている。 判断し、事業開始のための準備を開始した。翌 2002 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 年 2 度に渡って日本から複数分野の専門家を派遣し、 さらなる調査を行った結果、コンピュータ及び製 講師の雇用については、各コースの終了ごとに校 長、秘書、プロジェクト・マネジャーと話し合い、 11 事例 01 また生徒からの評価も考慮して雇用を継続するかど (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 うかを決定している。問題がある場合は契約の更新 コースを修了したものは、11 月 10 日現在で ICDL を行わないなど、高いレベルの講師ややる気のある コース 298 名、CAD コース 18 名、グラフィックデザ 講師を継続して雇用して、クオリティーの高い授業 インコース 34 名を数える。 現在 140 名がコースを履 が行えるように心がけている。またイスラムの慣習 修しており、貧困層に対して職業訓練の機会を提供 に則りクラスを男女別に分け、講師も男子クラスに するという目的は達成されていると考えている。 は男性の講師を、女子クラスには女性の講師が教え 職業訓練学校は最終的に 5 年後の独立運営を目指 るような体制作りを行っている。 しており、現在 2 年目であるが、1 年目初級コース 授業料に関しては、生徒に誇りと責任感を持たせ の実施、2 年目からの中級コースの実施と、今のと ることを目的としてあえて無料とはせず、公式の ころほぼ当初の予定通りに進んでおり、来年から始 ICDL コースの授業料の 5%に当たる 65,000 イラン・ める予定の DTP ワークショップコースの準備も予定 リアル(約 812 円)を入学時に受け取り、コース終了 通り進んでいる。 時に半額を返還する方式を取った。 表 2 NICCO 職業訓練校コース別受講・修了者数一覧 また、2004 年 10 月には自習室と図書室も設け、 2004 年 11 月 10 日現在 自宅にコンピュータを持たない生徒が自習を行う他、 コース アプリケーションソフトの教科書、英文履歴書の書 性別 国籍 修了者 修了試験結果待ち 小計 アフガン 135 17 152 イラン 7 3 10 アフガン 133 16 149 イラン 19 3 22 イラク 4 1 5 298 40 338 アフガン 30 0 30 イラン 5 0 5 アフガン 24 0 24 イラン 11 0 11 70 0 70 アフガン 17 0 17 イラン 1 0 1 18 0 18 アフガン 9 0 9 アフガン 23 0 23 イラン 1 0 1 イラク 1 0 1 34 0 34 420 40 460 男 き方の教本、タイピング練習ソフト等を借りて、自 習室または自宅で自習をすることができる体制も整 ICDL えている。 女 (5)就職支援の取り組み 在校生、及びコース修了者には求職情報の紹介を 計 行っている。アフガニスタン難民の場合は、UNHCR 男 マシャッド支部、在アフガニスタンの人材紹介を行 う NGO、及び NICCO ヘラートオフィス等を通じて求 夏季短期 人情報を収集する他、NICCO マシャッドオフィスも コース 女 アフガニスタンに進出しているイラン企業を回って 計 求人情報を集め、帰還希望者とのマッチングを行っ ている。イラン人の場合も、マシャッド市内での求 男 CAD 人情報を独自に収集し、情報を在校生、卒業生に提 計 供している。 男 また昨年度は日本人スタッフをカブールやバーミ ヤン、ヘラートなど、難民の帰還希望が多い地域に グラッフ 派遣して、現地の雇用状況や求職情報の調査を行っ ィック 女 た。その後、アフガニスタン難民帰還後の就職活動 計 のサポートとして、職業訓練学校において説明会を 合 計 実施し、情報の掲示を行っている。 またすでに帰還した難民の中から信頼のおける者 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 をコンタクト・パーソンとして指定して、 各都市に卒 業生が帰還した際に情報を得ることが可能とする他、 立発展性 本会がこのプロジェクトを始めた事により、マシ 卒業生のその後の動向についても当会が追跡を続け ャッド市有数の貧困地区である第 5 区において、今 ていき、情報の共有を行うことを目指している。 まで IT に接する機会をほとんど持たなかったアフ ガニスタン難民及びイラン人貧困層が、IT の技能を 3.プロジェクトの評価 12 事例 01 身に付けることが可能となった。さらに、同地域に 脳会議)の場においてもデジタル・デバイド、 つまり は以前から難民自身が運営する補修校がありコンピ IT へのアクセスを持つ者と持たざる者の格差が広 ュータも自己流のカリキュラムで教えられていたが、 がることに対する懸念が表明されている。アフガニ 本会の職業訓練校の卒業生がこれらの学校で教える スタンのような最貧国においても、従来の第一次産 ようになり、体系的なカリキュラムと確実な技能に 業、第二次産業に関する職業訓練に加えて、意欲と 基づく授業が行われるようになった。さらに、自宅 能力のある者に IT の技能を身に付けさせることは、 で生徒を取って教える卒業生もおり、本校の教える 膨大な情報の世界へのアクセスを容易にし、その経 技能は確実に 2 次的な広がりを見せている。 済、社会の発展を牽引して速度を速める重要な要素 また、イラン政府はアフガニスタン難民を帰還さ になると考えられる。 せる政策を強く打ち出しており、在留許可の延長は また、職業訓練においては実際に仕事に用いる技 困難になりつつある。 2004 年 11 月現在で 1 日 3,000 能を教えることを中心に据えることはもちろんであ 人以上の難民が帰還している。本会職業訓練校の卒 るが、IT のような技能を用いて就職をすることを想 業生もこれから少しずつ帰還を果たし、本事業で身 定した場合には、就職活動というまた別の技能が必 に付けた技能は、これら卒業生を通じて今後アフガ 要となって来る。日本は求人情報、人材派遣、人材 ニスタン全土において役立てられるはずである。 紹介等、この分野でも多くのノウハウと経験を蓄積 さらに、5 年の事業期間終了後学校を運営するこ して来ており、実際に仕事で使う技能の訓練の他、 とになるイラン人スタッフはプロジェクト当初より 就職活動という技能の訓練においても、大きな貢献 運営に携わっており、学校運営のノウハウを蓄積し を果たす可能性があると考えている。 つつある。難民の帰還に伴いアフガニスタン人の受 講希望者はこの先減る傾向にあると考えられるが、 第 5 区にはイラン人貧困層も多数滞在している他、 イラク難民約 10,000 人も滞在しているため、 将来的 にはこれらの層を対象として訓練は継続される見込 みであり、自立発展性は高いと考えている。 4. 教訓・提言 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 2004 年 10 月には人材派遣業に携わった経験を持 つ日本人スタッフを現地に派遣し、国際機関や NGO への就職ガイダンスを行い、英文履歴書やレターの 書き方の講習を行った。その結果、実践的な文書作 写真 1 学校の風景 成においては生徒達の技能不足が把握された他、履 歴書を送付して応募した後、面接を受け、合格した 場合に採用されるという就職活動のプロセス自体が まったく理解されておらず、またアフガニスタンで の給与相場や労働条件に関しても、現実を知らない 実態が明らかになった。よって今後、より実践的な 文書作成の課程をカリキュラムに取り入れていく他、 就職活動のノウハウを意欲ある生徒に教えていく体 制作りを検討している。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 IT に関する技能は今後世界においてますますその 重要性を増すと考えられ、 国連やサミット(先進国首 写真 2 授業の様子 13 事例 02 インド・カルナータカ州ビジャプール農村改善支援事業 ∼農業トレーニングセンターを中心に∼ 社団法人 アジア協会アジア友の会(JAFS) 長谷川 雅子 1.プロジェクトの概要 (2)プロジェクトの目的と目標 (1)プロジェクト実施の背景 従来、ビジャプール農民組合が行ってきた農業技 インド南部のカルナータカ州は、面積 19 万㎢、人 術の普及および農村リーダーの育成事業をより本格 口 5 千万人余りのカンナダ語を共通言語とする州で 的に展開するために、この地区に農業トレーニング ある。 州都バンガロールは人口 429 万人の大都市で、 センターを建設し、農業生産性を上げ、貧しい農民 現在ではインドの代表的産業となったソフトウエア 達が貧困から脱却することを目指す。ひいてはこの 産業の集積地として知られているが、州内には南北 地区全体の生活レベルが上がり、人間の尊厳が保障 間の経済格差が存在し、州南部に位置する州都バン された自立した地域となることを目指す。また、技 ガロールや第二の都市マイソールなどの経済的中心 術普及に際しては生産性とともに持続可能性という 地から離れている北部、とりわけ北東部は州内の後 観点を重視し、有機農法を積極的に取り入れ、地域 進地域と認識されている。また、北東部は降水量が の環境意識の向上に資することも目標のひとつであ 年平均 703mm と大変少なく(日本の約四分の一)、し る。 ばしば旱魃の被害にみまわれている。 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 本会の現地提携団体「Baharateeya Small and この農業トレーニングセンターは、2001 年ビジャ Village Industries Association(BSVIA:インド農村 プールマダヴァピ村にて着工し、2001 年度∼2003 小規模産業育成会)」は、このような厳しい自然条件 年度の外務省 NGO 事業補助金を受け、2003 年度末に および社会的条件に置かれているカルナータカ州北 完成した。建設されたのは農業トレーニングセンタ 東部ビジャプール地区の、特に農村部に住む貧しい ー(研究棟も含む) 、寄宿舎 3 棟およびコモンホール 農民の生活を改善するために、1980 年活動を開始し である。マダヴァピ村は人口約 6,000 人で、近隣 19 た。1984 年からは本会と提携し、飲料水供給事業を カ村も含め約 61,000 人の人々がこの農業研修の対 中心とした総合的な農村開発支援をしてきた。これ 象になると目されているが、加えて本会がインドに までに井戸 201 基をはじめ、トイレ 922 基、植林、 て提携している農村開発諸団体のネットワークの拠 学校建設、病院建設など小規模なインフラの整備を 点としても利用することで、 農業技術がより普及し、 軸とした取り組みを進めるとともに、1995 年にはビ より多くの貧しい農民が貧困から離陸できればと考 ジャプール農民組合(Bijapur Farmer Association) えている。 を組織し、農業技術の普及等を行うとともに農村の 農業トレーニングは 2002 年 5 月より 30 名の訓練 リーダー育成にも努めてきた。 生で開始された。研修期間は 5 月∼8 月、10 月∼2 ビジャプール地区では人口の約 80 パーセントの 月の計 9 ヶ月で、農繁期にあたる前半は予備研修、 人々が農業で生計を立てていると言われているが、 農閑期の後半が本研修とされている。近くの農業大 降雨量が少なく商業都市と離れた辺境の地であると 学の先生や、ビジャプール農業専門学校の教員に来 いう悪条件に加え、農民達は農業技術に関する知識 てもらっての講義などもあり、高等教育の機会など に乏しく生産性が低いゆえ、貧しさにあえぐ結果と 考えられない貧しい農民にとっては貴重な体験とな なっている。化学肥料や殺虫剤も使用法がよくわか っている。講義と実習の比率は 1 対 3 で、実習重視 らないまま使われているため、土壌への悪影響が心 の内容である。近隣の農村の状況を視察し、問題点 配されるようになっている。 を分析し、その対策に必要な技術を習得することが 教育の柱とされている。 14 事例 02 具体的な研修内容としては、 は、あるいは繰り返し訪れる飢饉になすすべもなく ① 堆肥について:家畜の排泄物を利用した堆肥の作 手をこまねいているだけでは、いつまでたっても地 り方、使い方、その効用等 域全体の生活の向上はありえず、コミュニティの自 ② 水について:雨水の蓄え方、水の有効な使い方等 立にはたどりつけないことであろう。厳しい条件の ③ 整地について:整地の必要性理解、整地作業訓練 中でも努力と工夫でやっていける力をつけること、 ④ 土壌について:EM 菌の利用方法、土壌分析、 飢饉に負けないような対策を検討し講じていくこと 有機農法全般の知識 等、農村開発における農業研修は、農村自立という ⑤ 農作物の病気や害虫について:予防法、対処法等 目的に向かう最後の道標と位置づけることができる ⑥ 地域開発について:農民組合の設立・運営に関す と思われる。 る知識 (2)訓練等の計画と準備 このような農業全般に亘る研修を実施するととも 訓練生の募集は、主としてビジャプール農民組合 に、以前より農民組合が行っていた農業のための小 を通じて行われる。長期で研修を受けられない人の 規模貸付も継続し、不作や家庭の事情等不慮の事態 ために短期の農業セミナーなども開講している。研 にも対応できるよう配慮している。この貸付制度は 修の科目に応じて、スタッフが様々な準備をしてい 少雨旱魃の際に零細農家が非常に大きなダメージを る。 受けることから、彼らに対して作物の種子や肥料の (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 購入費を期間 1 年、年利 4%で貸付けるもので、毎 訓練が効果を発揮するよう、総合的に見てより適 年 60 名ほどの農民が利用している。 無担保で信用の 性の高そうな農民を選ぶようにしている。また、効 みに基く返済システムであるが、返済率はほぼ 果的な教授法を模索し、より良い指導者に来てもら 100%と制度運用としては成功している。また、同様 うよう努めている。 にこの地方の低所得農家の女性を対象に、内職の準 農業技術普及のために、トレーニングセンター周 備や家畜購入のための資金貸し付けも行っており、 辺でも農業技術を応用した様々な試験栽培をしてお 農業貸付と同じく無担保年利 4%、1 年返済で、2 年 り、ピーナッツやきのこの栽培、養蚕のための桑の までは継続融資可能というシステムで運用されてい 栽培などが試行されている。 る。インドでは女性の地位が低く、女性の発言力が (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 弱いゆえに子どもの平均余命が伸びないなど、その 訓練終了後、習得した農業技術を使用した農法を 地域が活性化しない原因ともなっており、この女性 訓練生の農地にて実際に行う機会を設けるとともに、 向けの貸付制度などにより、女性が経済力をつける その場で従来の農法との違いも示し、技術の定着を ことで発言力が増し、地域に活力が出てくることが 促進するよう努めている。 期待されている。 また、4∼5 エーカー程度の土地しかもたない零細 農民には、共同で農作業をするジョイントファーミ 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 ングの方法も指導している。このやり方により灌漑 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ 設備を共同で改善したり、農機具を共有したりして ビジャプールの農業トレーニングセンターは、本 より効率よく作業を行うことができるようになると 会がこれまで 20 年かけて行ってきた井戸等小規模 期待されている。 なインフラ整備の後にたどり着いた農村開発の締め くくりともいえる事業である。生きていくための水 3.プロジェクトの評価 が急務の課題であった人々のためにまず井戸を掘り、 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 そして井戸によって水汲みの重労働から解放された “このトレーニングセンターで、環境を破壊しな 子どもたちには教育を、女性達には職業訓練や内職 い生産性の高い新しい農法を学べば、質の高い作物 のための資金貸付を行い、最低限の生活を保障しよ をたくさん作ることができるようになると期待して うとこれまで活動してきた。しかし、この地域の住 います。この地域の農民は大きな恩恵を受けること 民の主たる収入源である農業の生産性が低いままで になると確信しています。 ” というような近隣住民の 15 事例 02 期待を受け、研修が始まって 3 年。有機肥料を用い た農法によって作物の収量が増え、肥料を購入する 必要もないので経済的にも助かり、環境にもよいと いうことで、多くの農民がこの有機農法を始めてい る。コミュニティ全体に対する効果が現れるのはま だこれからと思われるが、有機農法を始める農民が 増えていることや、短期セミナーにたくさんの農民 が集まること、きのこ栽培や養蚕などの新しい地場 産業の芽生えが出てきることなど、農業トレーニン グセンターが貧困からの離脱や、地域の活性化・自 写真 1 農業トレーニングセンター 立といった目標に向かって歩みを進めていることは 確かと思われる。 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 立発展性 農民の新しい農法への関心や学びたいという意欲 は大変高く、地域に与えたインパクトは大きかった ものと思われる。 トレーニングセンターの運営方法は今後の課題で あるが、修了生から農作物の提供を受けたり、地域 の人々の出資による財団の設立により、5 年後をめ どに自主的運営を目指したい。 写真 2 養蚕のための桑を栽培 4.教訓・提言 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 貧しい農民の中には、経済的な理由から訓練に参 加できないものもあり、そのような場合には事情を 考慮して、スタッフが多少の支援をすることもまま ある。今後、訓練参加に際しての経済的な支援制度 を検討してもよいかと思われる。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 これまでの 20 年あまりの支援の積み重ねの中で、 写真 3 有機農法ワークショップ 本会および現地提携団体である BSVIA が、近隣の村 人達の信用を得ていたとともに、村の有力者や行政 とのつながりも大切にしてきたことが、この農業ト レーニングセンターの円滑な運営につながっている と思われる。 写真 4 環境に優しい殺虫剤の作り方の指導 16 事例3 インドネシア共和国における 「有機農業開発による農民の自立支援」プロジェクトの実施 特定非営利活動法人 地球の友と歩む会/LIFE 東京事務所 武藤 香織 1.プロジェクトの概要 ロジェクト目標の達成を目指す。 (1)プロジェクト実施の背景 ①人材育成・組織強化 1 年以上をかけて、住民と共に PRA(参加型農村開 ②有機農業開発 発調査法)を含むニーズ調査による課題と可能性の ③経済協同組合促進 模索および事業立案を行った。本事業地は標高の高 ④自然環境の保全および自然災害の予防 い丘陵地で、道路が未整備の為、非常に不便な場所 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 にある。村には 4 集落 10 区があり、約 925 世帯 3340 (a)実施場所 人が住んでいる。住民の約 90%は小規模農民・小作 本事業地であるインドネシア共和国西ジャワ州タ 人であり、 数年前までは自分の農地を持っておらず、 シクマラヤ県チガロンタン郡タンジュンカラン村は 小作などの仕事がなければ食べるものにも困る状況 ジャカルタから公共バスで約7時間。 更にバスを降り、 であった。 大通りからバイクタクシーで村の中心地までは約30 1999 年終盤から村の農民組織で土地返還要請を 分かかる。 行い、2001 年以降は松を伐採した後の土地を農地と (b)実施体制 して使用している。しかし、土地の有効利用の為に 2003 年 7 月から日本郵政公社・国際ボランティア は、灌漑・資本・農業知識や技術の不足などが課題 貯金の助成により、事業が本格始動した。1 年目は となっており、現在にいたるまで大多数の村人は穀 自己資金も含めて約 210 万円を投入した。2 年目は 類や豆類を自家用に生産することしかできず、子ど 自己資金を含めて約 360 万円を予算としている。費 もの教育や家族の健康面にあてる十分な現金収入が 用の使途は、農業資材(野菜の種、堆肥、噴霧器な 無い。 ど)・苗木・羊などの購入、 研修費用(資料や教材費、 また、農民組織は存在するが、組織体制が未整備 講師経費)、給水施設建設費(パイプ・ブロック・セ で、会計や活動に透明性がなく、リーダーの知識や メントなど)、現地事務所経費、人件費、スタッフの 能力も不足しており、組織に対する会員からの信頼 派遣費などである。 を失っていた。その他の問題としては、化学肥料の 本会からは東京本部担当者、現地駐在員、プログ 値段が高いこと、農作物を販売する市場へのアクセ ラムオフィサー(現地事務所スタッフ)が本事業 スがないこと、乾季には生活水も不足すること、ネ の管理運営にあたった。主な業務は、①事業実施 ットワークや情報が不足していること、化学肥料の 計画の策定・運営・管理・モニタリング・評価・フ 過剰使用で土壌が劣化していること、土砂崩れなど ォローアップ、②事業チームスタッフの雇用・育成・ の自然災害があること、交通が不便なこと等の問題 監督・業務管理・業務評価、③各種研修指導者の依 が挙げられた。 頼・調整・フォローアップ、④人材育成/組織強化 (2)プロジェクトの目的と目標 研修および会合ファシリテート・住民へのサポート こうした状況を受け「事業地住民が持続発展的に 提供、⑤事業関係者との連絡・調整・報告、⑥事業 自身の社会経済的生活環境の改善を実現していく力 会計の管理、⑦報告書作成、⑧危機管理、⑨事務作 をつけること」を目的とした有機農業開発と組織強 業全般など。 化による農民の自立支援事業を実施している。2003 本事業のために2名のフィールドオフィサーを雇 年7月から2008年6月の5年間の事業期間に、 以下のプ 用し、村に常駐してもらい、日常の住民へのサポー 17 事例3 トを行える体制をとった。 その内の1名は農業技術担 で共同で運営し、フィールドオフィサーがそれを監 当として共同有機農業実習地および住民の畑や家に 督する。 初年度は実習地での農業資材を投入したが、 て有機農業の技術・理論指導、市場への販売促進指 2 期目の栽培からは、収穫物の利益から実習資金が 導、会計処理指導、経済協同組合への運営補助など 捻出され、実習は継続されている。実習地で収穫さ を行う。もう1名は組織強化担当として、農民組織 れた農作物は経済協同組合を通して市場調査及び販 及び経済協同組合の強化の為の住民訪問、住民会合 売され、その収益は実習地での次期の栽培の為の必 促進、組織強化指導、リーダー育成、村内外の組織 要経費を除いてから、グループ・経済協同組合・農 との連携促進などを行う。また、研修の講師やアド 民組織で分配される。実習地での実践をもとに、農 バイザーを現地NGOなどに依頼している。アドバ 民組織メンバー間で有機農業の知識や技術が身につ イザーには、事業戦略や手法・技術的な面での提言 き、有機農業の意義が実感され、普及していく計画 者として、①事業進捗管理、②情報提供、③コンサ である。 ルティング、④研修ファシリテートなどを担っても 乾季には水の確保が困難な実習地への給水施設建 らっている。 設も 2 年目の前半に完了した。実習地から直線で約 (c)活動内容 3km に位置する水源から標高差を利用して、要所に 本事業村の農民組織会員約 540 世帯を直接受益 貯水タンクを建設しながら、パイプで実習地まで水 者としている。この農民組織は村の 3 集落にわたる を通した。長期的には集落までの飲料水の供給を計 44 の農民グループから成り、それを 12 のコーディ 画しているが、こちらは利用者や組織による自助努 ネーターがまとめている。本村の集落間の距離は 2 力や村の予算からの事業化の促進などを含め、中期 ∼6.5 ㎞あり、電気は通っているが電話はない。地 的かつ段階的に行っていく。 域の一体化と農民間のコミュニケーション促進のた 3)経済協同組合促進 めには農民組織の役割は重要であり、これを事業実 村の銀行としての役割や、その他ニーズに合わせ 施における主な受け皿としている。以下の全ての活 た経済活動の拠点となる経済協同組合の設立研修を 動は公式・非公式の会合や協議、対話、研修などを 行い、組合を立ち上げ、規約や運営委員を整備し、 通して行われる。 随時研修(会計指導・運営指導・小規模経営/マーケ 1)人材育成・組織強化 ティング)を行いながら、 活動を少しずつ開始してい 農民の自立に最も重要な意味を持つ活動である。 る。今後の活動としては、農作物の種の貸し付け、 研修(組織強化・リーダー育成・平和構築・ファシリ 村の農産物の購入、農業資材の村での販売、農産物 テーター養成・ジェンダー・女性強化など)や組織強 の加工、小規模融資(会費や実習地利益、経済活動の 化に不可欠な継続的協議と対話の場となる定期会合 利益からの資本の貯蓄と貸し付け)、家畜ローン(実 の促進などを実施している。農民組織会合では、メ 習地用の堆肥作りの材料にもする)などが計画され ンバー間の団結力の強化や活動の進捗状況確認、困 ている。 難や成果の分析と評価、改善策や次の計画の協議な 4)自然環境の保全および自然災害の予防 どを行う。また、各関係者との連携強化の会合や対 緑化計画指導や緑化研修などを行い、土砂崩れ防 話をもち、公共の利益の為に関係者が一致団結して 止および水源涵養のための果樹を中心とした植林も 活動を行っていく、公平で民主的なコミュニティの 行っている。 実現を目指す。 2)有機農業開発 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 研修(有機肥料技術・野菜栽培技術など)の他、約 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ 3ha の共同有機農業実習地にて、農民組織会員で継 住民の自立支援という本事業の目的を達成するた 続的に様々な野菜を栽培し、技術習得や有機農業へ めに、研修という活動は核となっているといえる。 の移行の意識改革も進めながら、共同資本の貯蓄を 本事業においては、 研修は知識や技術の習得以上に、 増やしている。 実習地の土地を 12 のコーディネータ 住民の団結力や自主性の向上などの意識啓発の意図 ーで分割し、それぞれの土地を各グループメンバー をもっている。立場の弱い市民の強化は、組織やグ 18 事例3 ループを作り育てることを通して行われる。その組 も重要で、シミュレーションなどのゲームを用い、 織やグループが、市民にとって、お互いに力を合わ ディスカッションやグループワーク、視覚資料など せて問題の解決にあたる道具となりえるからである。 を駆使し、受講者間の知識や情報、意見を共有する 人材育成・組織強化関連の研修では、民主的で機 ことからの学びを重視している。農業などの技術研 能的な組織作りや、住民から信頼され住民のニーズ 修では講義と実地研修を併せて行ったり、有機農業 に応えられる住民リーダーの育成、住民全体の意識 に取り組んでいる近隣の村を視察してお互いに情報 改革(自信、発言力、協力体制、信頼関係、ジェンダ 交換を行ったりしている。 ー配慮など)を目標としている。 また組織の平和構築 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 能力の向上により、地域の各種規模の衝突を平和的 農業研修により習得された知識や技術は、共同有 に解決でき、各種関係者ともより良い関係を築くこ 機農業実習地を共同で運営することを通して、代表 とができるようになることを目指している。 で研修に参加した受講生から他のメンバーに伝えら 農業研修においても、有機野菜栽培の知識や技術 れていく。人材育成・組織強化面では、研修での学 ということはもとより、化学肥料・農薬に頼り切っ びを活かして、自分たちで会合をファシリテートし ている現状から、長期的に土を良くしていく有機農 たり、グループの活動計画策定をしていくなどの実 法の意義を理解してもらい、実際に実習地で成果を 践を促進している。また、村に常駐しているフィー 出していく中からその有効性と可能性を実感しても ルドオフィサーが、農業技術や組織強化の研修フォ らうという意識改革の部分が大きい。主な材料が現 ローアップでも日常的に住民へサポートを行ってい 場で調達できる有機肥料や自然農薬に移行していく る。 様々な NGO などから講師を呼ぶことによっても、 ことで、農業経営上のコスト削減と環境の保護につ 住民にとってリソースとのつながりができ、その後 なげられることを実感してもらうことが普及につな 必要時に連絡をとることも可能となる。 がっていくと考えているが、それには時間が必要で ある。また、環境保全・土壌保護・自然災害予防に 3.プロジェクトの評価 関する知識や植林技術を学び、長期的環境保全につ (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 なげる。 (a)妥当性 経済関連の研修では、経済協同組合運営・小規模 本事業地の大多数の小規模農民・小作人は、 灌漑・ 経営・家畜ローン・小規模融資などに関する知識や 資本・農業知識や技術の不足などにより、土地の有 能力の向上や市場システムの理解と村の産物の販売 効利用ができない状況であった。また、既存の農民 ルート開拓、会計能力向上などを目指している。 組織も充分に機能していなかった。事業地のニーズ (2)訓練等の計画と準備 と可能性をふまえ、住民全体で協力し合って自分た 村人と共に事業地でのニーズと要望を整理し、計 ちの生活環境改善をしていく力をつけるための有機 画を立てる。そして適した講師をできるだけ事業地 農業開発と組織強化を通した農民の自立支援事業を 付近から探して依頼し、その講師と共に現地の状況 立案した。真の自立の為には、組織強化や人材育成 やニーズ、要望を基にカリキュラムを作る。受講者 は不可欠であり、その点を最も重視した事業として の選出についても住民との会合から適任者を選ぶ(1 いる。 回の研修で15名から30名)。 (b)目標達成度 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 事業開始から1年半後の2004年12月現在、 目標に対 効果的な研修のために、地域の事情も理解してい する達成度は以下のとおりである。啓発的事業はプ る現場付近の講師を招き(住民に近い、NGO関係者に ロセスが長く時間がかかるため、ようやく基盤作り 依頼することが多い)、 村のニーズに合わせてカリキ ができたというところである。 ュラム作りをし、身近な例を用いて、実用的な内容 1)人材育成・組織強化 になるように心がけている。受講者自身が考えたり 組織改革と強化については、住民会合が増加し、 知識やアイデアを共有することを促進し、研修の内 組織の会員自身が組織の課題を認識し、少しずつ改 容が身につくように、参加型で実施するということ 革に向けた取り組みが開始されているがまだ発展途 19 事例3 上にある。また、真のリーダーが育ち始め、住民の なり、本事業地全体の持続発展性のある開発につな 相互扶助や信頼関係が向上し、徐々に自主性も発揮 がる。それに補完して、個人主義的でない経済開発 されつつある。村内外の各種関係者との良い協力関 にも取り組むことで、住民の活動への継続的な参加 係作りの能力はまだ不足しており、2 年目の重点課 のきっかけや動機付けとし、そのプロセスを早める 題となっている。 ことが出来る。また、本事業の成功は他の類似する 2)有機農業開発 地域での農村開発の一つのモデルケースとして活用 有機野菜栽培について知識や技術の向上が見られ、 が可能となる。 村人が自信をつけ始めている。様々な種類の野菜栽 共同有機農業実習地での野菜栽培の収益は実習地 培に挑戦し、試食してみる中から、自分たちでほし での次期の野菜栽培に必要な経費を除いた後、経済 い種を分けたり購入したりして、個人の畑で小規模 協同組合に将来の小規模融資のための資本として貯 に有機農法で実践するということも見られるように 蓄される。つまり、実習地での必要経費も継続して なっている。しかし、まだ広範囲での普及は不足し ねん出され、さらに将来的に各農民の農地において ている。特に、化学農法への崇拝により、有機農業 有機野菜栽培を行っていく為に必要な資本も経済協 への移行にはまだ時間とプロセスが必要である。乾 同組合を通して貯蓄・融資されていく。この組合の 季の水不足対策としての給水施設は、2 年目前半に 運営者も住民の中から選ばれるため、農民の自立に 整備され、活用されている。 つながるサービスを提供し続けることが可能になる。 3)経済協同組合促進 また、現場の技術とリソース(人材、資材など)を活 経済協同組合が設立され、少しずつだが資本も貯 用しており、継続的な発展が望める。 蓄され、活動も開始された。しかし、まだ組織的に も発展途上であり、2 年目以降も経済活動の活性化 4.教訓・提言 のための運営サポートが必要とされている。 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 4)自然環境の保全および自然災害の予防 人材育成・組織強化は成果の見えづらい長いプロ 小規模の植林が開始されたが、まだ広大な土地が セスであるため、住民のモチベーション・意識・自 土砂崩れの危険にさらされている。また、資本家の 信を維持することは大きな課題となっている。 また、 所有する土地では大量の化学肥料の使用による土壌 組織改革には、これまでの弱点を認めて改善してい 汚染も問題となっている。 くことが求められる為に、そこから不利益をこうむ (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 る人も中にはいる。こうした利害関係の絡み合いの 立発展性 ために事業がスムーズに行かないことも多い。こう (a)インパクト した理由もあり、地方政府や資本家などのキーパー まだ事業開始から1年半ということで、 課題も多く ソンとの良い関係の構築は事業の持続性から見ても、 残されているが、これらに取り組んでいくことで、 非常に重要になってくる。 有機農業開発についても、 中長期的には地域に大きなインパクトを与えられる 有機農業への移行という意識的な改革が重要であり、 と考えている。ボトムアップで民主的な組織とリー 時間がかかる。有機農業の成功の為の病虫害予防と ダーのもと、住民自身が課題と自分たちに可能な解 マーケットの確保も肝要である。 決方法を分析し、周囲のリソースへもアクセスがで (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 き、相談ができる相手があれば、解決へ進むことが 市民は、組織を通して自分たちの可能性を最大限 できる。 活用し、少しずつ自立へと進んでいける。また、組 (b)自立発展性 織として一丸となることで、発言力や影響力をもつ 本事業では住民の自立を促進する為に、人材育成 ことも可能になる。 人々の総合的な育成(身体・精神・ と組織強化の視点を最も重視している。住民組織及 物質・道徳・意識など)を目指して、 住民組織を作り育 びリーダーが育ち、真に住民のニーズを引き出して て強化することは簡単なことではなく、意識改革や 活動できるようになれば、事業終了後も、住民自身 啓発を必要とするため、長いプロセスと時間がかか で問題の発見・分析・解決をしていくことが可能に る。しかし、それが住民の真の自立につながること 20 事例3 は明らかであり、あきらめずに少しずつ取り組んで いくことが大切ではないだろうか。 写真 1 共同有機農業実習地で唐辛子栽培を行ってい るグループ (右端は農業技術担当フィールドオフィサー) 写真 2 事業計画策定会合(2004 年 3 月) 21 事例4 インドネシア国における障害者職業リハビリテーションの実施 社団法人全国勤労青少年ホーム協議会事務局長 八木 功 (元 JICA 専門家・チーフアドバイザー 2000 年 12 月∼2002 年 12 月) 1.プロジェクトの概要 12 月)のプロジェクト方式技術協力とハード・ソフ (1)プロジェクト実施の背景 トに亘っての協力を開始させた。 インドネシアにおける障害者対策は、州、県、郡 (2)プロジェクトの目的と目標 レベルで併せて全国約 300 所の授産施設で展開され (a)上位目標 ているが、障害者の職業的自立を目指したものでは 「インドネシアにおいて、職業リハビリテーショ なく、地方政府や家族の保護のもとでの日常生活能 ン・ システムが確立し、 障害者の就業が促進される。 」 力を育成しようとするもので、 「社会リハビリテーシ 即ち、当プロジェクトの目指すものは、インドネ ョン」の域に留まり、全人口の約 3.1% 700 百万人 シアの障害者が、職業訓練施設で労働市場にて通用 を超える障害者の経済的自立への職業能力習得には する職業技術・技能を修得し、職業指導を受け、障 程遠く、障害者の社会・経済的地位は低い状態にあ 害者の就職を促進する「職業リハビリテーション・ った。 システム」を全土に広げ、障害者がもてる労働能力 近年、インドネシア経済の成長は目覚しく、1997 を発揮する機会を確保とともに、障害者の社会・経 年のアジア金融危機で一時的な後退が見られるもの 済的地位の向上を実現する社会を目指すこと。 の経済成長の基調は持続しているところである。こ (b)プロジェクト目標 れに伴い地域の産業環境、特に大都市圏の変化はめ 「インドネシア国立障害者職業リハビリテーション まぐるしく、好調な輸出に支えられて地場産業の成 センター(NVRC)職業リハビリテーション・システム 長、外資系企業の進出により若年労働者の雇用が増 が確立される。 」 加しつつあった。 即ち、NVRC 設置目的に照らして、NVRC はインドネ 障害者もこれら経済環境の変化に直面して、労働 シア職業リハビリテーション・システムの構築を目 への意識・意欲を高め、「国連障害者 10 年」に続く 指し、そのネットワークのセンター・オブ・センタ 「アジア・ 太平洋障害者 10 年」 を契機に障害者自身、 ーの役割が課せられている。従って、当プロジェク 家族及び障害者団体等から、障害者の職業・経済的 トには以下のことが要求されていた。 自立を目指す職業訓練導入の要請は年々高まってい ① NVRC 自体が地方リハビリテーション施設を指導 った。 でき得る中核施設に相応しい高度な職業訓練技 このような背景のなかで、1993 年インドネシア政 術を備えた障害者職業リハビリテーション施設 府は、インドネシアにおける「職業リハビリテーシ となること。 ョン・システム」の構築を目指し、全国リハビリテ ② 訓練生の広域募集・就職斡旋を行い、かつ「障害 ーション施設の中核となる「インドネシア国立障害 者職業リハビリテーション」を普及させるため、 者職業リハビリテーションセンター(NVRC) 」の国際 地方施設への職業訓練等技術移転・ 情報提供を行 協力による建設を日本政府に要請した。 なえる体制をつくること。 この要請を受け、日本政府は、インドネシアでは (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 始めての軽・中度肢体障害者を対象とする職業訓練 (a)実施場所 の導入・普及に向けて、それまでインドネシアの中 首都ジャカルタから 50 ㎞離れた西ジャワ州ボゴ 核施設であったソロ障害者リハビリテーションセン ール県チビノン、周辺には工業団地も多い首都圏内 ターでのパイロット・プロジェクトを経て本格的協 に立地し、3.5 ヘクタールの丘陵地に建てられた白 力に着手し、1995 年から無償資金協力による NVRC 亜の建物(延べ 11,184 ㎡)で、職業訓練 2 棟、評価・ の建設、1997 年から 5 年間(1997 年 12 月∼2002 年 指導 2 棟、管理・調査研究 1 棟、訓練生 6 寮棟、職 22 事例 04 員研修寮 2 棟、多目的ホール、図書館、食堂を備え させる。 た総合施設である。 職業訓練課程に入っても、身体条件をカバーし、 施設費総額約 17 億 1 千万円うち 16 億 5 千万円が かつ障害からくる劣等感を克服できるようメンタル 無償資金協力で、その後追加機材 3 億数千万円を投 に配慮しながら、労働市場で通用する技能・技術の 入しているので、 本プロジェクトは約 20 億円の案件 習得を目指すため、健常者の職業訓練と比較して訓 である。 練指導技術の移転には少し難しい側面がある。 (b)実施体制 障害者訓練生の就職に向けての取り組みは、訓練 NVRC は、社会省直轄の中核施設として、NVRC 自ら 生に劣等感を払拭させ、社会に参加させ、かつ障害 も職業訓練指導技術を高めるとともに、全国 6 箇所 者への偏見を取り除き公正な採用選考をしてもらう の広域リハビリテーション施設(PSBD) に直接技術を よう企業を説得するなどの職業指導が必要となる。 移転して、これら拠点施設から全国約 350 の地域施 このように、障害者の職業訓練には訓練を主体と 設(他 PSBD,LBK)への職業訓練技術の全国普及を目 しつつも、付随する特別の側面がある。この職業評 指す体制をとっている。 価(募集)→職業訓練→職業指導(就職)のプロセスを 現地スタッフの構成は、所長以下、総務部、職業 「障害者職業リハビリテーション」と位置づけてい リハビリテーション部、職員研修部、調査・研究部 る。 の 4 部 12 課体制で 90 名の職員と臨時職員の計 111 (2)訓練等の計画と準備 名で構成され、所長は社会省本省局長処遇となって (a)職業評価(募集) いる。 NVRC は、本格的な唯一の「障害者職業リハビリテ JICA 技術協力チームは、長期専門家はチーフ以下 ーション」施設で、かつ中核施設(センター・オブ・ 4 名、延べ 12 名、短期専門家は 27 名の協力体制を センター)であることから、 訓練生の募集については とってきた。 インドネシア全土からの広域募集を基本としている。 当該プロジェクトの運営は、日常活動は現地幹部 毎年 6 月には次年度の募集要項を作成して、全国 ス タ ッ フ と の 協 議 ・ 意 見 交 換 を 行 う Steering 州社会事務所に応募書類を送付し、募集事務を依頼 Committee(運営委員会)及び基本事項等については する。 JICA 事務所、社会省、労働省等関係省庁、経営者及 州社会事務所を通じて応募してきた応募者を拠点 び 障 害 者 団 体 か ら 広 く 意 見 を 求 め る Joint 6 広域リハビリテーション施設(PSBD)の協力を得て、 Coordinating Committee(合同調整委員会)の二つの 各拠点都市で第 1 次審査・評価を行い、それぞれの 運営委員会に諮り、運営の妥当性の確保に努めた。 結果を NVRC に集めて行なう第 2 次審査・評価で、 各 (c)活動内容 科 20 名の定員 100 名の次年度新入生を決めている。 ① 職業指導・評価:訓練生の広域募集・就職 (b)職業訓練 ② 職業訓練:5 コース[コンピューター、電子、印 職業訓練定数は、金属加工(機械加工、溶接、小型 刷、縫製、金属加工(金属加工、溶接、小型エン エンジン)、印刷、電子、コンピューター、縫製の 5 ジン)] 科目で各科 20 名の計 100 名である。 職業訓練期間は ③ 職員研修:NVRC 職員及び他のリハビリテーショ 2 月から始まり 12 月に終える 10 カ月訓練、訓練時 ン施設職員を対象に研修 間は年間 1,100 時間、うち企業実習は 440 時間で行 ④ 調査研究:職業リハビリテーションの普及にかか なっている。また、訓練施設の位置づけは上位訓練 る調査・研究 施設であって、軽・中度肢体障害者で、 高校卒業者、 地域リハビリテーション施設卒業者を対象としてい 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 る。 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ (c)職業指導(就職) 「障害者職業リハビリテーション」は、障害者の 日頃より 10 月から始まる企業実習に向け、 企業団 障害度、障害の態様を見極めてから、身体条件をチ 体、企業訪問を日常活動として行い、求人が見込め ェックして、訓練生の希望を適える訓練職種を選択 る企業に対しては企業実習を依頼する。 23 事例4 その後、実習生の勤務状況、企業の評価を見なが その一例をあげれば次の通りである。 ら当該企業に実習生の採用を積極的に働きかけると ① 各職業訓練コースに多少の違いはあるものの、 企 ともに、他企業にも同様に働きかけ、12 月の終了時 業ニーズに応えるため、毎年「カリキュラム委員 までに就職ができるよう取り組んでいる。 会」 を開催してカリキュラム改正作業を行なって (d)職員研修 いること。 職員研修は、NVRC 職員のみならず地域リハビリテ ② 各訓練科目で、 改定カリキュラムに合わせて毎年 ーション施設職員を対象として行なっている。 5∼21 種類の職業訓練用教科書を改訂し、職業訓 研修内容は大きく分けて、 「評価・就職専門職コー 練の充実に努めていること。 ス」 、 「職業訓練指導員コース」 、 「管理職コース」の ③ 訓練生の就職の際に訓練生個々の習得技能レベ 3 コースに分け、カリキュラム編成、教材の作成・ ルの評価が求められていることから、習得技能、 改善指導、施設管理の技術移転を行なっている。 知識、 人物等の側面から応募訓練生が適正な評価 (e)調査・研究 が受けられるよう評価表を作成し、 企業に対して インドネシアの障害者リハビリテーション・シス 的確な訓練生の個別評価情報を提供しているこ テムに職業リハビリテーションを共存させて行くに と。 は、時間をかけてインドネシア自身が調査・研究を (c)職業指導(就職) 積み上げて行なうことがベターあることから、この 当初、労働移住省の協力を得て求人開拓を行なう 分野の JICA 技術協力は、長期専門家を派遣せず、短 予定であったが、職業紹介機関である労働事務所で 期専門家のみでサポートするインドネシア主体の取 は、健常者の職業紹介ですら低調で、障害者の職業 組みを側面的に支援する体制をとってきた。 紹介はほとんど行なわれておらず、関心すらもって インドネシア側は、社会省研究機関指導の下に、 いなかったので、NVRC 独自で求人開拓を行なうこと 労働移住省等の協力を得て、障害者の職業訓練・雇 とした。 用等新たな分野での調査・研究を行なっている。 まず、長期専門家が日本人ネットワークをたどっ (3)効果的な訓練等を行うための取り組み て、工場団地への訪問、日系及び現地企業の会合等 (a)職業評価(募集) に出向き障害者雇用への理解を求め、求人開拓を推 1999 年以降、大胆な行政改革に伴う「地方分権化」 し進めた。訓練生の技能レベルの向上とともに、受 により、 地方社会事務所と一部 PSBD が州政府に移管 け入れ企業の評価も高まり、訓練生の就職率も上が され、訓練生募集費用等の負担で折合いがつかず、 り第 1 期 1999 年∼第 4 期 2002 年まで、57%、64%、 一時地方との協力関係が断たれる事態にまで後退し 72%、80%と右上がりに上昇していった。しかもそ た。 の大半が社会保険等を備えた大企業(従業員 100 人 その後、地方との関係修復を念頭において、PSBD 以上)であった。 所在地の州で、州社会事務所と協力を密にして、地 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 元行政、企業、障害者団体等関係団体の参加を得て NVRC は、インドネシアに初めて「障害者職業リハ 「障害者雇用促進セミナー」を開催し、障害者雇用 ビリテーション」を導入し、労働市場で通用するレ に国と州都の障壁を超えた相互の理解を深め、連携 ベルの職業訓練を普及させ、障害者の社会経済的自 体制を固めて行った。 立を促進する「障害者職業リハビリテーション」の (b)職業訓練 中核施設(センター・オブ・センター)を目指す施設 インドネシアではこれまで障害者職業訓練を行っ であることから、訓練生の広域職業評価(募集) ・職 たことは無く、本プロジェクトはそれまで社会リハ 業指導(就職)体制を作り上げること、労働市場で ビリテーション施設で行なわれていた低い技術レベ 通用する職業訓練の指導技術を備え、かつ地域リハ ルの「作業訓練」を「職業訓練」の水準まで引き上 ビリテーション施設にこれらノウハウを技術移転で げ、企業の評価を高めてきたことは、JICA 専門家と きる機能と能力が求められている。このため、技術 NVRC 現地スタッフとの日頃の協力・努力に負うとこ 協力最終年度は、特に技術移転機能の強化に重点を ろが多い。 置いて取り組んだ。即ち、ジャカルタをはじめとす 24 事例 04 る全国主要 7 大都市で、 州社会事務所及び PSBD と共 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 催で「障害者雇用促進セミナー」を開催し、 「障害者 立発展性(プロジェクト最終時評価報告書より) 職業リハビリテーション」の啓発に努め、訓練生の (a)インパクト 広域募集・就職への支援体制を固め、障害者職業訓 ① 障害者の職業リハビリテーションという新しい 練への理解を深めた。 概念が首都圏(JABOTABEK 域:Jakarta を中心と また、地域リハビリテーション施設の職業訓練機 する1千万人口エリア)内の企業や地域社会に 能を強化するため、6PSBD の職業訓練実態調査を行 浸透しつつあること。 い必要な訓練機材リストを作成して、日本大使館の ② NVRC 訓練修了生の就職先での実績や規律正しい 支援を得て、 「草の根無償」でコンピューター、印刷 就業態度が評価され、健常者の同僚の意欲を高 機、旋盤、ミシン、電気機材等総額 50,000,000 円の める結果にもなっていること。 職業訓練機材を購入・供与した。併せて、JICA 専門 ③ 障害者自身が働くことによって自信を持ち始め、 家の指導の下に、NVRC 訓練指導員を 6PSBD に派遣し 障害者の勤労者としての能力が認められつつあ て、 訓練科毎に PSBD 指導員への実地指導を行なうと ること。 ともに、PSBD 指導員を NVRC に呼び、訓練指導技術 (b)自立発展性 移転をより確かなものとするため、実践研修を行な ① インドネシア政府の政策に合致していること、 障 った。 害者の職業リハビリテーションのニーズが高ま この間、3 回に亘り 6PSBD 所長及び同地域州社会 っていることから、政府や関係機関からの継続 事務所長会議を招集し、訓練生の広域募集・就職、 的な支援が得られると思われる。 職業訓練への地域の取組み体制の強化を強く要請し ② インドネシア政府はこれまで予算獲得、 拡充に尽 た。 力してきているが、この施設を維持していくた めには更なる財源の確保が必要である。 3.プロジェクトの評価 ③ インドネシア・ カウンターパートへの技術移転は (1)プロジェクトの妥当性と目標達成 計画通り進展したといえる。今後は職員研修を 本プロジェクトの上位目標及びプロジェクト目標 拡充し、日本人専門家から習得した技術を職員 はインドネシア政府の開発政策に合致し、裨益者で 間で普及させていく努力が必要である。 ある障害者のニーズに合致したといえる。また JICA 国別事業実施計画書においても、社会福祉と労働環 4.教訓と提言 境の整備が社会開発における重点分野の 1 つとされ (1)プロジェクト・訓練の問題点/課題 ていることから、本プロジェクトの上位目標及びプ (a)地域拠点 6PSBD への職業訓練技術の移転 ロジェクト目標はわが国の対インドネシア援助政策 当技術協力要請において、NVRC の役割は、①実践 との整合性があり、計画の妥当性はきわめて高いと 的職業訓練の中核となる。②専門的職業指導員、専 いえる。 門的リハビリ担当職員の育成の中核となる。③他の 本プロジェクトは経済危機に伴う政府所轄機関の センターの中核となる。 と述べられていた。 そこで、 解体、またその後の地方分権化の導入に影響されは 地域 PSBD への技術移転をみると、職業評価・指導に したものの、本評価時においてプロジェクト目標は ついては、広域募集・就職指導の中で充分な技術移 ほぼ達成しているといえる。NVRC 修了生の就職率は 転が行なわれていた。 第 2 期生以降、 いずれも目標の 62%を達成している。 しかし、職業訓練については、PSBD の訓練機材が NVRC は職業リハビリテーション・システムを確立し、 貧弱かつ旧式であることを考慮せず研修を行なった NVRC 訓練修了生の技能は就職先の企業において高 ため、技術移転の効果は殆ど認められなかった。最 く評価されている。 終年度、6PSBD に「草の根無償」で職業訓練機材を 供与し、NVRC 訓練指導員を 6PSBD に派遣して、集中 的に PSBD 指導員への実地指導・研修を行なったが、 短期間であったため、地域への技術移転がどこまで 25 事例4 定着したのか不安が残っている。 の方式により実績を上げている。加えて、戦後 (b)義肢装具設備 60 年のノウハウ蓄積があり、日本の障害者雇用 例年 35%前後の義肢装具を装着した訓練生が入 の基礎となっている。 所しているが、義肢装具の不適合、破損に対する調 従って、発展途上国に対する国際協力は、高コ 整・修理が受けられず、不適合から生じる苦痛を我 ストな「障害者職業リハビリテーション」で無 慢し職業訓練を受けている事例がしばし見られる。 く、職業訓練を主体とした「障害者職業能力開 この状態を改善するため、義肢装具のメンテナン 発校」をモデルとしたプロジェクトを組み立て ス修理サービスを行なうワークショップの増設を てもらいたい。 JICA に要求してきたが、その後どのように処理され ② 障害者職業訓練を行っていない開発途上国では、 ているのか気がかりである。 膨大な数の障害者が悲惨な状態で、広く存在し 本来、肢体障害者訓練施設での義肢装具ワークシ ているのが一般的であり、1 モデル施設で実効を ョップを付設することは、日本でも当然のことであ 上げることは全く考えられない状況にある。 りインドネシアでは義務付けられているので、早急 よって、長期専門家が現地カウンターパート に対処すべきものと考えている。 (C/P)に技術移転を行なう際には、当該プロジェ (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 クト施設から先の対象施設に対して現地 C/P が 発展途上国に係る無償資金協力については、対象 自力で再技術移転が出来るよう技術指導の流れ 国は1人当たりのGDP US$1,000以下であることから、 をつくるとともに、再技術移転先への訓練機材 その殆どは障害者職業訓練を実施していない国と考 等援助の活用も併せて考えることが必要となる。 えてよい。また、発展途上国では、労働力に転換が ③ この事案にかかる国際協力は、現地国民、障害者 容易な残存職業能力のある軽・中度肢体障害者が多 団体から強い注目を浴びる案件であり、障害者 数存在することから、今後、国際協力を行うに当た 訓練は一般職業訓練と比較してより多くの時 っては次の 3 点を基本にして検討してもらいたい。 間・費用・技術を要し、特に重度・知的・視覚 ① 「職業リハビリテーション」は、健常者訓練と同 障害の職業訓練については、先進国においても 様、障害者に労働市場に通用する技能・技術を 効果を上げていないのが現状である。 習得させるのである。ただ障害者であるゆえに 従って、国際協力は一般職業訓練に近く、ニー 障害の度合いに応じて「一定の条件」が付され ズの高い軽・中肢体障害者を対象とする職業訓 た職業訓練である。 練をしっかり仕上げることが必要である。後に 「一定の条件」とは、訓練入口の「職業評価」 、 続く重度・知的・視覚障害の訓練は、中進国以 出口の「職業指導」を指す。特に、知的障害、 上の財政力と技術力、産業界の理解と支援を必 重度障害については、職業評価・指導のウエイ 要とするため、軽・中肢体障害者訓練の応用編 トは高く専門家を必要とするが、軽・中度肢体 として当事国の自力で行なうよう指導すること 障害者を対象とする場合は、職業訓練指導員が が必要である。 職業訓練業務の一部として行なうことで十分目 的を達しているところである。 即ち、 入口で得た訓練生個別の事情を把握して、 求人開拓で企業ニーズを訓練に反映させること ができ、かつ組織を簡素化するため、合理的か つ効率的な職業訓練ができる。また、一般的に 障害者職業訓練では障害者 5 名に指導員 1 名を 配置しており、業務量としてもこれら付随業務 を併せて行なっても何ら支障は生じない。日本 では所沢、吉備障害者職業リハビリテーション 施設を除く、17 の障害者職業能力開発校は、こ 26 事例 04 写真 1 インドネシア国立障害者職業 写真 3 金属加工コース リハビリテーションセンター(NVRC) 写真 2 縫製コース 写真 4 職員研修 27 事例 05 インドネシアにおける旋盤技術交流プロジェクト 特定非営利活動法人 APEX 代表理事 田中 直 1.プロジェクトの概要 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 (1)プロジェクト実施の背景 (a)実施場所 ジャワ州スラカルタ市 ジャワ島のほぼ中央に位置するスラカルタ市(通 (b)実施体制 称ソロ市)は、 ジャワ宮廷文化の面影を色濃く残す古 APEX:当団体スタッフ 3 名,技術専門家 6 名 都として知られ、マタラム・イスラム王国の流れを YPKM:代表1名,訓練・生産スタッフ 6 名、 汲む王宮が今も 2 宮残っている。インドネシアでも 事務スタッフ 2 名 有数のバティック(ジャワ更紗)の産地であり、名曲 (c)実施期間 1991 年度∼1997 年度 ブンガワン・ ソロのゆかりの地としても有名である。 (d)事業資金 このスラカルタ市で、私たちが「旋盤技術交流プ 郵政省国際ボランティア貯金寄附金配分ならび ロジェクト」と呼んでいる職業訓練の事業を開始し に自己資金。事業資金は約 3,400 万円 た頃、インドネシアでは、労働時間が週 34 時間に満 (d)活動内容 たない不完全就業者の比率が、全就業者の 38%にも 旋盤、フライス盤をはじめとする工作機械の導入、 達するといわれており、 この就業状態の不安定さが、 訓練所の建屋の増設、日本の技術専門家と現地スタ 貧困の問題と密接に結びついていた。スラカルタ市 ッフ・訓練生との技術交流、運営に関する意見交換 においても人口 53 万人のうち、 定職をもつ家庭に属 等による職業訓練所の拡張・ 設備増強と技術の向上。 する人口は工場労働者家庭 8 万 5 千人、建設労働者 起業資金貸付等による訓練修了生と地域住民に対す 家庭 6 万 4 千人、公務員家庭 3 万 1 千人など、計 22 る起業支援。 万 4 千人程度にとどまっていた。仕事不足は深刻な 実に 15%に達していた。スラカルタ市には機械工作 (e)経過と技術交流等の内容 (1990年度) 7 月 初めて YPKM を訪問 予備調査 1 月 旋盤導入の相談 技術の職業訓練機関としてはインドネシアでも著名 1991 年度 問題であり、 15 歳∼25 歳の若年労働人口の失業率は な ATMI(Akademi Teknik Mesin Industri SURAKARTA : スラカルタ産業機械技術アカデミー)という専門学 1992 年度 7 月 現地産業基盤等の調査 1 月 技術専門家の第 1 回現地訪問 (旋盤指導、バイト製作、滑車製作) 7 月 技術専門家の第 2 回現地訪問 2 月 技術専門家の第 3 回現地訪問 (焼き入れ、二口ネジ、テーパー削り、 大型旋盤調整、溶接、パイプ曲げ、鋳造 用加熱炉の設計、発電機の給排気に関す るアドバイス) 1993 年度 7 月 技術専門家の第 4 回現地訪問 3 月 技術専門家の第 5 回現地訪問 (旋盤・フライス盤・ディーゼル発電機 等の機械類調整、オートバイ改造、自 動車修理用クレーン設置準備、車椅子 の製作《フレームのためのジグ作り、 キャスターや車軸の加工》) 1994 年度 10 月 技術専門家の第 6 回現地訪問 3 月 技術専門家の第 7 回現地訪問 (アルゴン溶接、車椅子製作、機械類調 校があるが、授業料等の面で貧困家庭の子弟が通う ことは難しい状況であった。 (2)プロジェクトの目的と目標 スラカルタ市の NGO、YPKM (Yayasan Pendidikan Kesejahteraan Masyarakat , 社会教育福祉財団)は、 1984 年の設立以来、低所得層の家庭の子弟ならびに 聴覚・言語障害者などの社会的弱者を対象とした職 業訓練等の活動を行っていた。本プロジェクトは、 この YPKM の職業訓練所の設備の充実と技術の向上 をはかることによって、職の無い青年たちの就業・ 起業の機会を増大させ、ひいてはスラカルタ市とそ の周辺等の地域における低所得層の収入向上と産業 基盤の増強に資することを目的とした。 28 事例 05 整、機械類保守点検方法の指導、歯車製 作、定盤作成、アルゴン溶接) 1995 年度 9 月 技術専門家の第 8 回現地訪問 3 月 技術専門家の第 9 回現地訪問 (旋盤・溶接機等の整備点検指導、車椅 子製作、プログラム化された旋盤・フ ライス盤の講習) 1996 年度 9 月 技術専門家の第 10 回現地訪問 3 月 技術専門家の第 11 回現地訪問 (フライス盤による切削、歯車製作、 電気溶接、アセチレン溶接、バイト製作) 1997 年度 9 月 技術専門家の第 12 回現地訪問 1998 年 7 月 技術専門家の第 13 回現地訪問 (ネジ切り、グラインダー、旋盤、スポ ット溶接機、コンターマシン等機械類 の補修・整備) 研修修了生と地域住民に対する起業資 金貸付開始 (1999 年度) 7 月 技術専門家の第 14 回現地訪問 フォロー (フライス盤,ラジアルボール盤,大型 アップ 旋盤等分解修理、カットオフ油圧ポン プ補修、二重ネジ製作) (以後、起業資金貸付による支援を継続) の工作機械を導入して訓練所の設備の充実と技術の 向上をはかることを APEX から提案し、それに YPKM 側が賛同して事業が始まった。工作機械の導入以前 に、日本の技術専門家による地元の産業基盤の調査 を行い、工作機械技術のニーズが大きいことを確認 した上で事業を開始した。その後、自動車修理の需 要も大きいことがわかったため、訓練所を拡張しつ つ、機械工作、溶接、自動車修理の三部門の訓練コ ースを開設した。 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 工作機械技術は体系をなしており、機械本体とと もに関連する工具や備品が整備されていないと機械 は本来の機能を果たさない。また機械本体の整備が 重要である。このため、工作機械本体の操作技術と ともに、バイト(切削刃)の加工や機械の整備など周 辺的な技術の形成に配慮し、多くの時間をさいた。 また、電気系統の整備、訓練所の床の整備、屋根か らの明かり採りなど訓練所の環境整備に力を入れた。 工作機械としては、まず小型の旋盤とフライス盤 を、その後大型の旋盤と鋸盤を、ついでシェーパー 表 訓練生受け入れ実績 年度 正規研修生 (職業訓練内容) 12 名 (板金、オートバイ修理) 12 名(溶接、機械工作、 1991 オートバイ修理) 12 名(溶接、機械工作、 1992 自動車修理) 1993 18 名( 同上 ) 1994 18 名( 同上 ) 1995 18 名( 同上 ) 1996 20 名( 同上 ) 1997 34 名( 同上 ) (1998) 40 名( 同上 ) (1990) 工業高校 実習生 (短期) やラジアルボール盤を、といったように、現地側が 消化しやすく、また予算にも無理がないように年を 縫製 追って段階的に導入した。 また、訓練所の経済的自立ならびに訓練のモチベ 10 名 ーションと緊張感を高めるために、生産活動も行っ た。生産物として、鉄製の飾り窓枠、機械類のベー 15 名 スフレーム、鉄製可動式扉などの他、義足の蝶番、 24 名 車椅子など、福祉的意義のある製品の生産を重視し た。車椅子の製作に当たっては、日本のメーカーか 40 名 39 名 45 名 30 名 32 名 らの技術支援を得た。訓練期間は 10 ヶ月で、プログ ラムは下記のとおりである。 [職業訓練プログラム] 15 名 28 名 ①第 1∼3 月 基礎的作業の習得。ヤスリがけ、グラ インダー削り、切断等。 ②第 4∼5 月 各受講者が、機械工作・溶接・自動車 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 修理の各部門の作業を循環しながら (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ プロジェクトは職業訓練をその中核的な内容とし、 起業支援のための資金貸付を補完的要素としている。 (2)訓練等の計画と準備 体験し、 各部門の技術を概念的に把握 するとともに以降のコースに備える。 ③第 6∼10 月 第 6 月の初めに受講者を上記三部門 のうちのいずれかに振り分け、 それぞ YPKM は、本プロジェクト実施以前から職業訓練を れより高度な講習を行う。 行なっていたが、設備は不十分で訓練内容も板金加 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 工のみであり、受け入れ人数も少なかった。旋盤等 訓練終了後は、大部分の研修生が就業または起業 29 事例 05 に成功しており、 修得した技術は OJT により定着し、 の研修生がジャカルタ等へ出て大企業に就職するケ さらに向上している。 修了生が YPKM に技術相談に訪 ースも少なくない。また、地域で就業する場合でも れることもあり、対応している。 独立起業できるケースは資金や技術不足のため少数 にとどまっている。すなわち、研修を受けた研修生 3.プロジェクトの評価 自身の福祉の向上には寄与しているが、これらの研 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 修生が、さらにそれぞれの地域の発展に寄与するま (a)妥当性 でには至っていない。そのため、職業訓練により得 訓練所の正規研修生の定員が 30 名であるのに対 られた技術を生かして、それぞれの地域で多くの住 し、毎年 100 名を上回る受講希望者があり、また、 民が参加するような産業が生み出されていくことが 修了生の 85∼100%が就業・起業に成功していること 期待される。 から、プロジェクトは現地のニーズに合い、妥当で このような状況から、1997 年に APEX と YPKM は低 あると考えられる。 所得層の起業支援等を目的とする小産業活性化セン (b)目標達成度 ターを新たに設立した。低所得層の人々は銀行から プロジェクト実施前と比べて YPKM の訓練所の敷 融資を受けることが難しいため、小産業活性化セン 地は 3 倍、訓練設備資産は 100 倍以上になり、板金 ターがマイクロクレジット(資金貸付)や生産手段の のみの訓練であったものが機械加工、自動車修理、 貸出・提供を行なって起業支援を行ない、地元の産 溶接の三部門を兼ね備えた総合的な訓練所となり、 業の発展に寄与しようとするものである。YPKM の研 受け入れ人数も 3∼4 倍に増えた。前述の就業・起業 修修了生や住民を対象に現在も支援を続けている。 率の高さから、技術的にも向上したと考えられる。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 よって、職の無い青年たちの就業・起業機会を増大 職業訓練が成功するためには、その地域の産業基 させる目標は達成されたといえる。 盤と実施しようとしている訓練内容との整合性に留 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 意することが重要と考える。また、日本側が一方的 立発展性 に技術指導するのでなく、現地側の保有する技術を (a)インパクト 尊重した技術交流をしていくことが大事である。さ YPKM では正規研修生ばかりでなく地元の工業高 らに、プロジェクト実施後に現地側が自立的に訓練 校からの短期実習生や、主婦などを対象とする縫製 所の運営を続けるためには、早い時点で現地側にイ 研修者も受け入れており、また地域の小・家内産業 ニシャチブを引き渡すことが必要であろう。 支援を行うマイクロクレジット事業(当団体にて出 資)や低所得家庭の学童に対する奨学金供与にも取 (参考文献) り組んでいる。これらにより、YPKM は地域の低所得 「旋盤ひとつでアジアが見える」(森清著、学陽書房、1993 年) 層の能力向上と収入向上に総合的多角的に取り組む 「日本の歴史」(週間朝日百科 119 号、2004 年) センターとしての機能を果たすようになっている。 「アジア民間交流ぐるーぷ 10 年の歩み」(APEX、1987 年) (b)自立発展性 YPKM の職業訓練所は職業訓練とともに自立のた めの生産活動にも取り組んでおり、当団体からの資 金的支援が終了した後も自立的に活動を続けている。 これまで当団体では車イスなどの製品開発に協力し てきたが、今後は排水処理関連機器の生産などでも 協力していくことを検討している。 4.教訓・提言 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 前述のように、長期の研修生は職業訓練終了後に 写真 YPKMの職業訓練所の訓練生たち ほとんど就職に成功しているが、近年では、これら 30 事例 06 インドネシア・西スマトラ州における「平和と健康を担う人づくり」の実施 財団法人 PHD協会 総主事代行 藤野達也 1.プロジェクトの概要 組んでいるもしくは研修後取り組むことが期待さ (1)プロジェクト実施の背景 れる人が条件となる。来日した研修生は 6 週間の日 PHD 協会は、アジア・南太平洋の村の開発への協 本語研修を受け、その後、農業、漁業、保健衛生と 力として人材育成をひとつの柱に掲げている。 いった村の生活改善につながる研修を兵庫県、西日 活動の提唱者である岩村昇医師は日本からの国 本を中心とする日本各地の家庭・地域に滞在しなが 際協力がまだ珍しい 1960 年代からネパールで民間 ら、実習中心に行っていく。それは単に技術だけで の立場から医療協力にあたってきた。日本に帰国し なく、経営、組織運営や仲間づくり、日本の社会問 た岩村医師は、 「病気になってから治すだけでは十 題とそれへの取り組みなども併せて、内容が組まれ 分ではない。病気にならないようにすることを村人 る。そこでの様々な経験から研修生が出身の地域に 自身で取り組むことが必要である。ところが村の 合う事柄を選び、帰国後、村の人々とともに村の生 人々は教育や情報に触れる機会が乏しく、自分たち 活改善に取り組むことにつないでいく。 の潜在能力を生かすことができない。知識や経験が 帰国後は日本からのフォローアップとして年に あれば村人にできることはたくさんでてくる。村に 4 回の通信と職員、専門指導者を短期派遣し、助言、 住む人々の中に平和で健康な暮らしが実現するた 激励を継続していく。資金、物資の支援とは異なり めに、外部に依存するのではなく、時間がかかって 目に見えにくく、すぐに効果が期待できるものでは も、自分たちの力で行う。その働きを村で軸になっ ない。しかしいろいろな問題への対症療法に終わら て進める人を作ることを問題解決のひとつの方法 ず、根本的な原因解決に取り組むものとして、これ にしたい」という思いを Peace, Health & Human までにネパール、スリランカ、ミャンマー、タイ、 Development の名に託して、草の根の人々を対象に カンボジア、インドネシア、フィリピン、パプア・ した研修事業への協力を 1981 年に呼びかけたので ニューギニア、ソロモン諸島、韓国の 10 カ国、約 ある。 160 人を研修生として招いてきた。 (2)プロジェクトの目的と目標および実施場所・ インドネシアとは 1985 年から研修生を招きはじ 実施体制 めた。これまでに西スマトラ州のパダン市、パシル 具体的には、毎年数名のアジア・南太平洋の村の バルー村、アイルバンギス村の漁業者およびその地 青年を 1 年間日本に招き、自立した村づくりに役立 域の女性を 91 年までに 10 人招いてきた。その後、 つ研修を実施する。それはまず現地調査から始まる。 スマトラからの招聘を一旦休止したが、内陸部ソロ より協力を必要とする地域を選ぶ。そして地域にど 郡タベ村を新たな対象地とし、99 年から研修生招聘 のような問題があるのかを調べるとともに、対象地 を開始した。これまでに 3 人の男性に続き、保健衛 域で活動する団体、個人と接触する。地域の問題に 生を主な研修内容とする女性を 02 年以降毎年 1 人 外部の資金、物資、人だけで表面的に、一時的に解 招いている。 決しようとするのではなく、住む人による根本的な 当会の運営は理事会、評議員会において方針が検 取り組みを重視する PHD の方針を理解してもらえれ 討承認され、それに基づいて事務局が 6 人の職員、 ば、そこをカウンターパートとする。そこから候補 多くのボランティアによって実施している。研修部 者の推薦を受け、現地での面接を行い研修生を選考 門には 2 人の担当者をおき、他の職員との連携のな する。 かで事業をすすめている。 対象者は草の根の人々であり、学歴・職歴よりも 年間の総予算はおよそ 5 千万円であり、うち研修 居住している地域の生活改善に熱意をもって取り 部門は 3 千万円の支出がここ近年の平均額であり、 31 事例 06 渡航費、国内交通費、滞在費、研修資材費等国内で ある。研修生の生活する地域の様子を研修指導者に の研修実施の経費と海外への調査、フォローアップ うまく伝えることにより、研修内容が充実してくる。 費用である。 そのために現地調査を継続的に行い、情報を集めて いく。また、研修生の積極的な姿勢が指導者の熱意 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 を呼ぶため、研修生に対してのオリエンテーション (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ も必要となる。効果的な設定と研修生、指導者の熱 プロジェクトの最終目標は該当地域の生活上の課 意があって、そこにいい研修が生まれる。 題、問題が解決されることにあるが、そこに当会が 農業や漁業の研修の場合、初期に研修指導先候補 どこまで関与するかについては、全面的なものとし の一部に、本研修の趣旨を十分に理解せず、安価な て臨んでいるものではない。あくまでも住民主体で 労働力の供給と考えていたところもみられたが、当 進められるものであり、当会は地域の課題、問題に 研修実施の目的を理解してもらうことにより、質を 取り組む人材を育成することを担当することとし、 維持してきた。 そのために 1 年間という限られた期間の研修と帰国 保健衛生分野に関してはそういった問題は少ない。 後のフォローアップを実施している。 しかし、日本の都会での生活と研修生の出身地域で 今回の報告対象である西スマトラ州タベ村におい の生活環境が大きく異なることや、指導者が若い方 ては、これまでの 3 人の男性農業研修生に続いて、 の場合、日本の整った環境を前提とした指導にとど 複数の女性保健衛生研修生に研修を実施し、現地の まる傾向があり、研修先を決める際に、山間僻地、 生活改善の一助を担おうとするものである。 離島、農村などの地理的条件を考慮している。 (2)訓練等の計画と準備 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 82 年の研修事業開始当初は当会にも経験が足ら 当会の研修の成果が対象地に根付くかどうかは、 ず、研修を引き受けてくださる地域、施設、人も十 研修生本人の姿勢に左右されるところが大きい。研 分とはいえず、試行錯誤の中での実施であった。よ 修生がいわゆるエリート層、権力や資金をもつ側で って、研修生、内容によっては満足のいかない部分 ないこと、また帰国に際し資金や物資での支援をほ もあった。しかし 20 年以上の実績を積むことによっ とんどしないこともあり、帰って早々に、目に見え て、そこはかなり改善されてきている。 る形で結果がでることは稀である。こつこつと実践 研修の実施に先立ち行うことは、招聘者の地域に し、その成果をじわじわと伝えていくことになる。 おける状況、必要性を的確に把握することにある。 その取り組みを支えるために、一地域から連続して そのために現地調査を行う。これは一度で、一人の 研修生を招く方法をとっている。男女混じえ 5 人が 担当者によるもので終わるものではなく、繰り返し、 平均数である。このタベ村においても、その流れの また人を替え、必要に応じて対象分野の専門家を配 中で進められている。 することも実施する。その上で研修生本人の意向、 帰国研修生には 3 ヶ月ごとに発行する当会会報に 地域全体の必要をあわせ、研修項目・内容を実際に 研修生向けのものを用意し、それに職員による一言 研修を引き受けてくださる指導者の方々と相談をし の激励を添えて送っている。 ながら、1 年の大きな流れを準備する。当会プログ さらに日本から職員、滞在家庭の方、指導者が年 ラムの特徴はほとんどが外部の協力者にボランティ に 1∼2 回現地を訪問する。これは次年度の研修生の アとしてお願いをして進めるため、相手方の都合を 選考も兼ねることもあるが、通信だけではなく、実 考慮にいれておかないと、実施は難しい。 際に現地に出向くことによって、 直接の指導、 助言、 ここに報告するダルミアティスさん(02 年度)の 激励を行い、それはまた地域住民へのアピール、デ 研修はこれまでの研修実施によって培われてきた モンストレーションにもなっている。 研修地、指導者のネットワークのなかで実現したも のである。 (表 1 参照) 3.プロジェクトの評価 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 当会の役割は研修をいかに効果的に設定するかに 人材育成の場合、数値的な評価は難しい。日本で 32 事例 06 の研修終了時に研修の理解度をみて、これまでの研 このような形での支援を継続中であるが、これが 修生との比較からひとつの評価は可能となるが、そ 依存に結びつくものではなく、自立発展性を妨げる こが本プロジェクトの最終地点ではない。研修生が ものではない。 帰国してどれだけのことができていくのかという成 果がもうひとつの評価基準になる。帰国後の抱負、 4.教訓・提言 計画を聞き、それと実際の結果を照らし合わせるこ (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 とによって判断をしていくが、それぞれのおかれた どこまでを我々の関わりとするかの設定が難しい。 立場、掲げる目標が異なるため、課題に取り組む姿 何を、いつまで、どこまで支援するのか。お手伝い 勢や地域を良くしていこうとする体制を作っている という言葉の中にある期待や強制力と自らが決めて 点、地域の人を巻き込もうとしているといった経過 いくことの境をどうするのか。関わる以上は影響力 的なところを重要視する。 がでて欲しいのだが、それが彼らの納得の上での判 結局、研修の成果を生み出すことは彼ら自身の問 断でなければ、適切とはいいがたい。協力する側の 題であり、われわれとしては研修とフォローアップ 思い、判断がいつも正しいとは限らないであろうこ を用意して、そこに至る過程をどれだけ側面支援で とを忘れずに、慎重に進める姿勢と十分な意思の疎 きたかによって研修の妥当性がわかるのである。 通が必要である。 理想的に言えば、日本での研修の効果によって、 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 研修生が地域住民とともにその地域にある様々な課 緊急救援は別にして、その地での取り組みの主体 題、問題に取り組み、解決していくことであろう。 は、その地の住民であり、外部の人間が関わること しかし世界中のどこをみても完全なところはなく、 への限界や程度を知る必要があると思われる。触媒 それぞれに課題、問題を抱えている。その状況に対 的な役割に徹することが、自立性、継続性を生む。 して結果だけの判断ではなく、地域の人々が問題意 即効性や表面的な成果だけに捕らわれすぎると、方 識をもち、それに取り組む姿勢や運動性があること 向を誤ることもでてくる。自己満足的なものでなく、 が必要に思う。 長い目でみた上での評価も求められる。 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 さらに日本からの協力となれば、日本の現状をひ 立発展性 とつの手本としがちであるが、歴史、文化、環境の こういった点からは、タベ村における女性研修生 異なる地において、日本のやり方がそのまま対象地 の帰国後の活動は、なかなか活発であるといえる。 にあてはまるものではないことも多い。それぞれの この村では保健衛生を支える食事の準備、育児保育 地にあった、それぞれの健康づくりがあることを覚 といった点は女性が多くを担っている。帰国研修生 えたい。さらに自立性、継続性、現地での広がりを がそれぞれの家庭において、まず実践することはも 考慮する場合、できるだけ現地のリソースを活用し ちろんであるが、家族の理解を得て、この地域に存 て進められる活動への協力を時間がかかっても大切 在する PKK という婦人会の活動と行政との連携です にする必要があろう。 すめられるポシアンドゥと呼ばれる、母子保健プロ グラムへの積極的な参画がみえる。これは、村内に とどまらず、郡内の別の地域への働きかけも行って おり、行政側からもその存在は評価を受けている。 写真 また、女性研修生以前に招聘した男性研修生も村 村で実施される母 の中で取り組む課題は異なるものの、住民自らの関 子保健のプログラ わりで生活改善を図る方向は同じであり、協働が行 ムにボランティア われている。この地にもここしばらくは年に 1∼2 として役割を担う 回の日本からの訪問を続けており、帰国研修生から 研修生エルリナさ はさらなる研修生の招聘の希望が出され、本年度は ん(左)とダルミ 3 人目となる女性研修生が日本で研修中である。 アティスさん 33 事例 06 表1 研修の詳細 研修テーマ 氏名 2002 年 4 月 5月 6月 7月 8月 9月 10 月 11月 12 月 2002 年 1 月 2月 3月 保健衛生・洋裁 20期 推薦団体 シャリフ・アリ(アンダラス大学教授) ダルミアティス 年齢性別 31 才・女 出身地域 インドネシア 来日。兵庫県 神戸市/神戸 YMCA 日本語/山岡宅滞在 同上 西脇市/研修指導者会 三木市/高橋武子宅 洋裁 八鹿町/太陽保育園 保育、栄養 芦屋市/くらふと・ぎゃらりー多田 洋裁/芦田安紀子宅 洋裁 西宮市/(特活)はらっぱ 保育、栄養 三木市/高橋武子宅 洋裁 和田山町/大森昌也宅 野菜、養鶏、パン作り 芦屋市/芦田安紀子宅 洋裁 篠山市/ささやま保育園 保育、栄養/篠山市役所保健福祉部健康課 保健衛生、栄養、育児 芦屋市/くらふと・ぎゃらりー多田 洋裁 高砂市/高砂市福祉部健康課、兵庫県高砂健康福祉事務所 保健衛生、栄養、育児 神戸市/葛原宅滞在 姫路市/岩佐康子宅 洋裁 芦屋市/くらふと・ぎゃらりー多田 洋裁 島根県宍道町/宍道町健康センター 保健衛生、栄養、育児 東出雲町/保健相談センター 保健衛生、栄養、育児 東日本研修旅行 福井県/美浜北小学校・美浜東小学校・敦賀南小学校・美浜原子力発電所 岐阜県/中濃教会・多治見市民プラザまつり 愛知県/アーユス東海 岐阜県/国際ソロプチミストかかみ野 神奈川県/PHD 鎌倉交流会・湘南白百合学園小学校・清泉女学院中・高等学校・もみの木クラブ交流会・山崎小学 校・谷戸 東京都/ロータリー米山記念奨学会・全日本自動車産業・労働組合総連合会・アーユス=仏教国際協力ネットワー ク・恵泉女学園大学 山梨県/山梨国際交流協会・山梨 YMCA・山梨英和学院中・高等学校・山梨英和大学 長野県/松本教会 岐阜県/国際ソロプチミスト高山・PHD ひだ友の会 愛知県/トヨタ自動車労働組合・人間環境大学・小牧幼稚園 芦屋市/くらふと・ぎゃらりー多田 洋裁 三木市/三木市健康福祉部健康課、兵庫県三木健康福祉事務所 保健衛生、栄養、育児 芦屋市/くらふと・ぎゃらりー多田 洋裁 西日本研修旅行 宮崎県/都城中央ロータリークラブ 鹿児島県/かごしま有機生産組合・西田小学校・だるま保育園 熊本県/水俣病センター相思社・We love children・熊本市国際交流振興事業団・地球緑化の会 大分県/下郷農業協同組合 福岡県/庄内町生活体験学校・福吉伝道所・祝町小学校 山口県/梅光女学院高等学校・梅光学院大学女子短期大学部 福岡県/高槻小学校・アジアを考える会北九州・西南女学院中・高等学校 広島県/ハイヅカ湖畔の森・三良坂小学校・日彰館高等学校・共生庵・平和学習・HOPE・広島東南ロータリークラブ 愛媛県/松山古町教会・松山東雲女子大学・ホワイトハウス・田滝小学校 香川県/上高野文化センター 岡山県/豊田小学校・学芸館高等学校・インターアクトクラブ・岡山 YMCA・産業廃棄物処理場見学・岡山西南ロータ リークラブ 三木市/高橋武子宅 洋裁 高砂市/ステップハウス 身障者のケア 共通研修1 大阪市/旅路の里 釜ヶ崎の歴史と現状 洲本市/淡路島モンキーセンター 農薬の弊害等 明石市/明石協同歯科 口腔衛生 神戸市/兵庫六甲農業協同組合・神戸西営農支援センター・本野一郎 協同組合 共通研修2 兵庫県内研修旅行 八鹿町∼山崎町∼篠山市∼春日町∼社町∼三木市∼高砂市 西脇市/研修指導者会 海外比較研修旅行フィリピン・エバエシーハ州ガバルドン (敬称略) 34 事例 07 カンボジア王国首都プノンペンにおける障害者支援 職業訓練事業 特定非営利活動法人 難民を助ける会 常任理事・事務局長代行 堀江 良彰 海外事業担当 松本 理恵 1.プロジェクトの概要 (b)実施体制 (1)プロジェクト実施の背景 カウンターパート:カンボジア社会福祉省 カンボジアの障害者数に関する信頼に足るデータ 日本人職員:プロジェクトマネージャー は不足しているが、 人口のおよそ 15%を占める約 200 キエンクリエン障害者支援センター 万人の障害者がいると試算されている。(2003 年度 職業訓練センター職員数: World Vision Annual Report より)同国では、埋設 講師・インストラクター7 名 された地雷によっていまだ年間 800 人以上の被害者 調査員 4 名 が出ており、加えて公的交通手段が存在しないため 保健員 1 名 に広く普及したバイクによる事故被害者が多数いる 事務職員 3 名 と報告されている。これらは不十分な保健衛生状態 (経理 1 名・在庫管理 1 名・秘書 1 名) とあいまった病気の後遺症とともに、多くの障害者 補助職員 6 名 を生み出す原因となっている。 (調理師 2 名・運転手 1 名・清掃師 3 名) 本来であれば障害者支援のような社会福祉事業は このほか、当会プノンペン事務所では、事業調整、 国が担うべきものであるが、同国では公的財源が厳 対外折衝を行う日本人駐在員をサポートするため秘 しい状況が続いており、政府支出に占めるこの分野 書兼通訳 1 名、および運転手 2 名を雇用している。 への支出は非常に低い水準となっている。 また、当会東京本部では報告、連絡、会計などの取 (2)プロジェクトの目的と目標 りまとめを行うとともに、専門家派遣調整、資機材 難民を助ける会は、1988 年からタイ・カンボジア 調達等の後方支援を行っている。 国境の「サイトⅡ」難民キャンプで車椅子配布やリ ハビリテーションの一環として職業訓練を行うなど、 表 1 2003 年度における事業資金 フェリシモ 立正佼成会 障害者支援を目的に活動を行ってきた。 スキー 地球の村 一食平和 パリ和平協定後の 1992 年 3 月には、国連難民高 ム名 基金 基金 等弁務官事務所(UNHCR)の国境キャンプ閉鎖計画に 2003 年 10 月 2003 年 4 月 事業 伴い、プノンペン市内に事務所を開設し、翌 1993 ∼ ∼ 期間 2004 年 3 月 2004 年3月 年 2 月に同市内の地雷被害者やポリオの後遺症等に 事業費 140 万円 300 万円 よる下肢障害者のためのリハビリテーション施設 「キエンクリエン障害者支援センター」の運営支援 を開始した。 このセンターには障害者支援職業訓練センター と車椅子工房とが併設されている。このうち職業訓 練センターの目標は、職業訓練で技術を身につける 備 考 ことによって、障害者の経済的・社会的・精神的自 立を促すことである。 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 (a)実施場所 カンボジア王国首都プノンペン市 35 助成期間は 2003 年 10 月 −2004 年 9 月。助成金額 200 万円のう ち、60 万円 は 2004 年度 に活用とし た。資機材費 等に充当。 人件費・消耗 品費等に充 当。 自己資金 2003 年 4 月 ∼ 2004 年 3 月 1400 万円 人件費・事務用 品費・プノンペ ン事務所運営費 等に充当。ただ し当会では本事 業以外に車椅子 工房を運営して いるため、プノ ンペン事務所運 営費の一部を本 プロジェクトに 計上している。 事例 07 (c)活動内容 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 職業訓練センターは毎年 1 月開講の 1 年制として (a)カリキュラム おり、年間約 40 名の障害者を対象に、テレビ・ラジ 1)テレビ・ラジオ等修理コース オ等修理コース(定員 14 名)、バイク修理コース(定 様々な機種の電気製品の故障に対応できる応用力 員 14 名。このコースのみ 2004 年度より 1 年 2 期制 の育成に重点を置いた訓練を進めている。発展の渦 を導入)、縫製コース(定員 12 名)の 3 コースを開設 中にあるカンボジアでは市場ニーズの変化が早く、 している。全員が障害を持つ訓練生であるが、訓練 特に電化製品修理はその影響を受けやすい。当セン 生は首都プノンペン及び 9 州(カンダール、スヴァ ターでは、カラーテレビ・CD・VCD 修理技術をカリ イリエン、プレイヴェン、タケオ、カンポット、コ キュラムに加えるなど、市場のニーズにあったカリ ンポンチャム、コンポントム、コンポンチュナム、 キュラムを提供できるように努めている。今年度か コンポンスプー)より集っている。当センターでは らは新たに携帯電話修理技術を加えている。 訓練生が食住の心配なく技術の習得に励むことがで 2)バイク修理コース きるよう、全寮制としている。 基礎的な修理技術訓練から始まり、交換部品の製 造、応用技術訓練などを通して、生徒がどんな故障 表 2 開校以来の訓練生数(1993 年-2003 年末) に対しても、自信を持って対応できるように指導し コースの種類 人数 備 考 ている。また、小型発電機、農業用機械などの修理 車椅子製造 10 1993 年のみ設定 技術についても指導し、生徒が幅広い応用力を身に 革製品製造 27 1993-1994 年設定 革製品縫製 55 1993-1998 年設定 修を行い、応用修理技術、工場運営、接客について 籐製品製造 20 1993-1994 年設定 学び、将来に役立てていく。 すず細工 16 1994-1995 年設定 ラジオ・テレビ等修理 121 つけることを目指している。技術訓練終了後、生徒 はプノンペン市内のバイク工房にて6週間の実地研 3)縫製コース 基礎技術訓練から始まり、最初は鞄及び衣類製作 1995 年より現在 バイク修理 114 1995 年より現在 養 鶏 17 1995-1996 年設定 縫 製 55 1999 年より現在 合 計 435 を中心に、最終的にはカンボジアシルクを使った小 物類の製作に取り組む。 衣類製作は 99 年度からの新 たなカリキュラムで、これは当校スタッフによる卒 業生追跡調査で、鞄製作よりも衣類製作や修繕の機 会が多く、収入源の拡大のためにも両方の技術を同 時に学ぶことが効果的であることが分かったためで ある。当コースでは流行をも取り入れて生徒らの服 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 飾センスを伸ばしていけるよう指導している。 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ (b)識字・教養学習 障害者の中には、差別や偏見を受け、もしくは貧 障害者への職業訓練は、本プロジェクトの中心を なすものである。 困にあったために学校教育を受ける機会がなかった (2)訓練等の計画と準備 ものも少なくない。読み書きのできない障害者を受 全体計画については、当会プノンペン事務所の日 け入れるため、当センターでは、技術訓練開講の 4 本人駐在員および現地人職員の意見を尊重し、当会 ヵ月前から集中識字教室を開設。入学後も識字教室 東京本部との協議に基づいて決定されている。 を設け、 彼らのフォローアップに努めている。 また、 センターでは技術指導だけではなく、卒業後の生活 技術訓練 3 コースの目標は、訓練生が卒業後自宅 で開業、もしくは都市の工房に就職する際に必要な に必要な教養学習(保健衛生・ 環境問題・家族計画・ 技術を身につけることである。 マーケティング・会計等)を提供している。 36 事例 07 (c)卒業生の再トレーニング 果をもつという性質がある。 経済発展途上にあるカンボジアは市場の変化も著 (b)目標達成度 しい。そのため、当センターでは調査部を設置し、 昨年行った事業評価によると、卒業生の約 72%が 市場調査を定期的に実施している。これまで、縫製 当センターの訓練によって習得した技術で収入を得 では洋服、テレビ・ラジオ修理においてはカラーテ ていることが判明した。しかしその収入額は個人差 レビ・ CD・ VCD・ 携帯電話の修理技術の需要を確認し、 があり、仕事が軌道に乗り自立した生活を送るもの 新たなカリキュラムとして各コースに追加してきた。 がいる一方、同居する家族との収入とあわせて生活 現在、カリキュラム追加前に卒業した卒業生に対し していくことができる程度のものもあった。 て再トレーニングコースを設け、卒業生も市場の著 事業評価の際、卒業生の大部分は、自信回復や人 しい変化に対応できるよう、きめ細やかな支援に力 間関係の改善に関して効果が高かったと述べており、 を入れている。同時に、卒業 15 日後、半年後、1 年 経済的な面だけではなく、社会的・精神的な効果が 後と年約 3 回のモニタリングを行い、卒業生のビジ 認められた。 ネスの動向、問題解決への助言などのケアを行って (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 いる。 立発展性 (d)地域型支援 (a)インパクト より障害者のニーズに適した支援を行うため、従 当センターで訓練生が技術や教養を習得し、社会 来の施設型支援のみならず、新たに地域型支援を試 で働く姿を眼にすることは、カンボジア社会に根強 験的に実施している。具体的には、現在実施してい い差別や偏見の緩和に貢献しているものと期待でき る技術指導 3 コース(テレビ・ラジオ等修理、 バイク る。 修理、縫製)の中で、最も安定的な収入の見込めるバ (b)自立発展性 イク修理コースの卒業生を 3 名選定し、それぞれの 本事業では昨年行った事業評価を受けた 5 ヶ年計 地域に住む障害者を、選定した卒業生のもとで技術 画を策定し、将来的なカンボジア人による運営を目 訓練させるというインターンシップ制度である。 指し、現地人スタッフの能力向上に努めている。具 2004 年 7 月より試験的に開始しており、来年度の本 体的には、マネージメントに関するトレーニング、 格実施に向けてモニタリングを行っている。 ファンドレイジング、マーケティング、PC スキル、 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 英語能力の習得等により、当会の支援によらない運 職業訓練はカンボジア人講師によって実施されて 営ができる水準を目指している。 いる。同様に当センターの運営に関しては、日本人 駐在員の調整のもとでカンボジア人スタッフが行っ 4.教訓・提言 ている。将来的に、当会からの支援によらないカン (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 ボジア人による運営を目指し、日本人駐在員は、カ ① 同国では市場ニーズの変化が激しい。 市場ニーズ ンボジア人スタッフの管理、調整、また彼らの能力 を適確に把握し、カリキュラム策定に生かすこ 向上の促進に努めている。 とが不可欠となっている。 ② 首都プノンペンにセンターを構える施設型支援 3.プロジェクトの評価 では、重度の障害者や首都に出てくることが難 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 しい極度の貧困層の障害者を支援していくのは (a)妥当性 困難である。しかしながら、真に支援を必要と 先述したように、発展途上にあるカンボジアでは、 しているのは上述した障害者であり、彼らに支 社会福祉分野への公的支出がほぼゼロに等しい。発 援を届けるためには、地域型支援とのバランス 展の過程に取り残されがちな障害者を支援する本プ が必要となってくる。 ロジェクトの実施は必要不可欠である。職業訓練の ③ 現在、 当センターの運営資金はほぼ当会に頼って ような支援は、短期的に終る効果ではなく、技術を いる。先述した自立発展のためにもカンボジア 身につけた障害者が自立していくという長期的な効 人スタッフのファンドレイジング等の能力向上 37 事例 07 が必要となっていくが、国民性もあり人材育成 には時間がかかる。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 障害者支援にあたっては、特に職業訓練事業は長 期的な視野が必要であるが、永続的に当会のような 外部からの資金で事業を継続することは難しい。当 該プロジェクトの期間、着地点等を常に念頭におい て事業を進めていくべきであろう。 写真 2 バイク修理コースの様子 (インターンシップ制度) 写真 1 テレビ・ラジオ修理コースの授業風景 写真 2 バイク修理コースの様子 (2004 年) (インターンシップ制度) 38 事例 08 カンボジア王国 スバイリエン州スバイチュルン郡 持続可能な農業を通じた女性による農村開発プロジェクト 特定非営利活動法人 国際ボランティアセンター山形(IVY) 理事・事務局長 安達三千代 1.プロジェクトの概要 いて、女性による相互扶助組合や貯蓄グループの結 (1)プロジェクト実施の背景 成を促し、リーダートレーニング、栄養、家庭菜園、 カンボジアの東南端、ベトナムと国境を接するス 家畜飼育、獣医トレーニング等の機会を提供した。 バイリエン州スバイチュルン郡は、主たる産業は稲 結果、 先行したそれら2村で、 組合加入率がほぼ100% 作だが、森林資源の減少、有機質の不足等で土が痩 となった他、 彼女たち自身が活動を肯定的に評価し、 せている。また、台地上にあり水を蓄えにくいとい また独自の活動を次々と始めている。そこで、03 年 う地理的条件に加え、雨水頼りのため、近年は 1 年 7 月からは「第 2 フェーズ」としてチューティール おきに干ばつに見舞われている。 米の収穫量は10アー 地区内の残り 8 村と新たにドンソー地区の 2 村へと ルあたり 30∼120 ㎏と極めて低く不安定で、借金借 地域展開を行うこととなった。 米、土地を失う農民が年々増加している。男性の出 第 2 フェーズ開始に当たっては、根本的な貧困緩 稼ぎなどによる流出率も高く、旱魃の年には 8 割を 和、農民生活の安定のためには、旱魃に対して強く、 超えている。そのため、普段の村や家庭を守ってい 経済的、生態的に安定した持続可能な農業の実践は るのはほとんどが女性となっている。 避けて通れない。しかし、IVY も住民もその実践に至 しかし、実質的な地域開発の担い手であるはずの るには蓄積が十分ではなかった。 そこで、 「第2フェー 彼女達にこれまで援助の焦点が当てられることはな ズ」では、次のフェーズに至る準備段階として「循 かった。住民の多くが「貧困の悪循環」に陥ってい 環型複合農業のための基盤整備」も活動目標に加え るため自助努力には限界があり、特にポルポト時代 た。 の後遺症でお隣り同士ですら言葉を交わすことのな (2)プロジェクトの目的と目標 い断絶した状況が、地域活動の大きな障害となって ① 村の女性が積極的にグループ活動に取り組む いたことは大きい。 ② 村の女性が地域開発を自分の問題として考える そこで、 国際ボランティアセンター山形(以下IVY) ようになる はこの女性に焦点を当てた。そして彼女たち自身が ③ 村の女性の持続可能な農業に関する知識と技能 主体的に自らの生活改善や相互扶助、地域開発を行 が培われる う形をめざした。IVY はすでにカンボジアで「元ホ ④ 地域に合った持続可能な農業を検討する ームレス母子家族再定住地自立プロジェクト」を経 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 験しており対象者には共通点も多いことからその経 (a)実施場所 験も生かすことができた。 カンボジア スバイリエン州スバイチュルン郡チュー 1999 年 7 月から 2003 年 6 月までの 4 年間「第 1 ティール地区 12 村、 ドンソー地区 2 村の計 14 村(約 フェーズ」は、同郡チューティール地区の 2 か村で、 村の貧困原因の中でも特に指導者不足、協同組織不 2200 世帯) 住民の庭、畑、家の床下、空き地、村の集会場、 足、能力開発機会不足、食糧不足、収入不足という 寺の境内、IVY 試験農場及び学習棟等。 5 つの要因に着目し、 「女性組合」を手段として、人 (b)実施体制 材育成開発、協同組合の組織化による「協力」の精 カウンターパート:カンボジア王国農林水産省、 神土壌の形成、収入、食糧自給率の向上をめざした。 住民参加型手法(PLA)やワークショップの手法を用 スバイリエン州農林水産課、地方開発課 日本人職員:プロジェクトマネージャー、 農業マネー 39 事例 08 ジャー、会計担当(以上スバイリエン事務所駐在) 表 2 主な事業資金 スキー 国際ボランティア ム名 貯金 事業 1999 年 7 月− 期間 2003 年 6 月 4000 万円 事業費 (4 年間総額) 第 1 フェーズ 備 考 約 65%は自己資金 短期専門家(有機農業)、国内担当 現地人職員: コーディネーター1 名、 シニア地域開発ファシリテーター2 名、 地域開発ファシリテーター5 名、獣医 1 名、 補助職員 4 名(運転手、警備員 2 名、清掃員) (c)活動内容と事業資金 JICA 草の根技術協力 2003 年 7 月− 2006 年 6 月 5000 万円 (3 年間総額) 第 2 フェーズ 表 1 プロジェクトの活動内容 【第 1 段階】 1-1 1-2 活動内容 基礎調査 住民説明会 PLA 女性グループ結成ワーク ショップ 第 1、2 回女性グループ集会 グループ月例会 1-3 1-4 1-5 1-6 貯蓄活動 リーダーワークショップ 生活基礎講座 情報交換の機会提供 2-1 2-2 試験農場での実験活動 持続可能な農業ベスト事例の 調査と記録 農業調査 0-1 0-2 0-3 0-4 2-3 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 訓練の回数 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ 住民説明会、PLA、ワークショップ、月例会、リー 1 回×10 村 5ツール×10村 1 回×10 村 ダートレーニング、生活基礎講座、農業学習会、交 流会、スタディーツアー等、「訓練」の呼称は様々 だが、当プロジェクトのほとんどは「訓練」で成り 2 回×10 村 月 1 回×60 グ ループ 立っていると言っても過言ではない。 6 回×10 村 5 回×10 村 1回×60グルー プ ジア人スタッフ、現地に駐在する日本人スタッフと (2)訓練等の計画と準備 「第1フェーズ」開始当初、地元で採用したカンボ もに参加型手法を経験した人材が皆無だった。その ため、ファシリテーターの養成から着手しなくては ならなかった。本部から人材を逐次派遣し、OJT(on the job training)で実施した。 「第1フェーズ」期間中は、すべてのワークショッ プやトレーニングについて、現地サイドがドラフト 【第 2 段階】 1-1 1-2 1-3 1-4 1-5 1-6 2-1 2-2 2-3 3-1 3-2 3-3 3-4 3-5 4-1 4-2 4-3 4-4 女性組合設立の呼びかけ 女性組合リーダー候補者選定 選挙委員会集会 女性組合リーダー選挙 女性組合リーダー集会 リーダーの能力開発 農業学習会 フィールド見学会 知識の共有 女性組合の独自の活動 女性組合への物的援助 女性組合と村の有力者との協 力関係の構築 他の女性組合との交流 組合基金づくり 中間評価 女性組合評価ワークショップ 終了時調査 終了時評価 作成→本部、 専門家チームがチェック、 訂正→リハー 1 回×12 村 サル→本番→評価→報告という方法で実施した。 「第2フェーズ」 では、 カンボジア人のコーディネー 1 回×12 村 ター、シニア地域開発ファシリテーター等が4年の キャリアを経て次世代の育成にも着手できるまでに 1 回×12 村 4 回×12 村 月 2 回×14 村 1 回×14 村 なってきたことから、準備段階の決定は彼らにまか せている。 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み (a)誰もが参加しやすい雰囲気作り 字の読めない住民(約 8 割)が萎縮しないよう、で きるだけ文字を使わず絵を多用。教材にも、住民同 士の意見発表にもできるだけ絵で行う。また、集会 やトレーニングに慣れていない住民に配慮し、終始 楽しい演出を心がけ、始まる前や途中には必ず緊張 感をほぐすアイスブレーキングやおやつの時間を入 れる。話し合いのときは 5 人以内の少人数にして、 話しやすく意見の出やすい環境作りを行う。また、 各グループにファシリテーター補助員を配置して、 40 事例 08 キーとなる問いかけをして活発な話し合いになるよ 接自己啓発等の恩恵を蒙っているのはリーダーや普 う促す等の配慮をしている。 及ボランティア等、一部の層に偏りがちである。ま (b)スタッフは先生でなく、ファシリテーター た、まだ男性の直接参加の機会もほとんどない。そ スタッフも権威者とならず、住民から常に学ぶ、 のため、このデザインが 100%妥当とは言い切れな という姿勢を心がけるよう促している。家畜飼育の い。 技術トレーニング等でも、必ず住民同士が経験や情 (b)第 2 フェーズの指標と達成度 報を交換し合う時間を設けている。また参加者に 指標 1:プロジェクト終了時に村の全世帯数の 70% 「キー」となる問いかけ、投げかけができるよう促 以上の女性が女性組合に組合員として参加してい している。なお、これらのスキルは査定の対象項目 る。→達成度:先行 2 村ではすでに 80%を達成。 にしている。 後発 12 村はプロジェクト途中なのでまだ不明。 (c)視覚化する 指標 2:女性組合員のうち 60%が活動を通して持続 絵に描いたり、カードに落としたり、地図をつくっ 可能な農業技術を導入する。→プロジェクト途中 たり、相関図にしてみたり、表にまとめたり、投票 なのでまだ不明。 してランキングしたり、 カレンダーを作ったりとPLA (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 のツールは非常にたくさんある。ツールに振り回さ 立発展性 れるのは無意味だが、大勢で話し合い、合意形成し (a)インパクト ていく過程ではみんなでわかりやすいように視覚化 村の女性を対象とした農村開発プロジェクトは、 してみて、整理分析する作業も重要である。そこで スバイリエン州では当プロジェクトが初めてだった。 スタッフミーティングの際にも、日常的に自分たち また、参加型手法を取り入れたトレーニングや集会 もツールを活用もしくは新たに開発して、 ディスカッ も珍しかった。クレジット全盛期だったが、お金を ションに広がりや深みができるよう促している。 貸さず、貯蓄を打ち出したプロジェクトも希有の存 (d)農民から農民へ 在だった。 このどれもが 99 年当初効果について疑問 NGO スタッフが教えるより、同じ立場の者同士の 視されたが、先行した 2 村では組合への加入率が 説明ややり方の方がずっと伝わりやすく取り組みや 100%に近いこと、また最近では、他団体、特に地元 すい。耳から聞いた知識より目で見たことのインパ の NGO が取り入れ始めていることから少なからずイ クトも大きい。 そこで、 村内での家庭菜園の見学会、 ンパクトはあったと言える。 別の村の女性組合の交流会への参加等を頻繁に行っ (b)自立発展性 ている。 女性グループは、少人数のためまとまりやすく、 NGO に頼らず自分たちの中で何とかしようという雰 3.プロジェクトの評価 囲気が早い時期に生まれる。しかし、鶏飼育では劇 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 的に生活がよくなるわけではないので、途中で抜け (a)妥当性 る者も出て、長期に自力だけで継続していくのは難 村にはほとんど女性しか残っていなかったことか しいようである。 ら、女性に焦点を当てた。女性たちの声を拾ってみ 一方、女性組合は、規模が村単位で、リーダー(役 ると、交流が生まれ、仲間ができ、刺激を得たり、 員)も女性たちの投票によって選出されるため、村の 様々なことを学び合い、生活に喜びや意欲、希望が 期待も大きく、容易に活動を停止できないという利 生まれ、夫や周囲にも認められ、自分に自信が持て 点を持っていることがわかった。(その分、リーダー るまでになったと参加したほとんどの女性がこの活 等の負担も大きくなるのだが)すでに先行2村も支援 動を評価してくれている。 開始から 3 年後には、組合リーダーを始め、家庭菜 一方で、1 ヶ月 1000 リエル(0.25 ドル)の貯蓄金や 園や家畜飼育の普及ボランティア等が核となり、活 鶏飼育、家庭菜園では劇的に生活がよくなるわけで 動を継続しているとともに、家畜銀行等で活動資金 も、生活の安定につながるわけでもない。また、村 を得たり、 村人から寄付金を募って米蔵を建てたり、 の 1∼2 割を占めている最貧困層の参加率は低く、 直 小学校の建設に乗り出す等、発展している。 41 事例 08 4.教訓・提言 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 ① 住民参加、住民主体を謳うプロジェクトでありな がら、気を抜くと NGO 主導になりがちである。 前者は手間と根気とスキルが必要で、後者の方 が何かと手っ取り早い。活動村数、スタッフ数 が増えるとともに、 後者の傾向が強まっている。 ② 同じ州内において、豊富な資金をバックに「循環 型農業用スタートパック」を貧困農家に提供し ている NGO が出没してきた。当プロジェクトは 自助努力をモットーにしているが、貧困緩和に は、いっそ「循環型農業用スタートパック」等 写真 1 生活基礎講座の第一回栄養講座 を提供してしまうアプローチの方がいいのだろ 食物の絵カードを使って 3 つの栄養素に分類。 うか。 グループごとに結果を発表している住民。 ③ 最貧困層、男性への支援が、今は女性や女性組合 を通じた間接的なものとなっている。両者の参 加が課題。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 援助後発国のカンボジアの場合、この 10 余年、国 際 NGO、現地 NGO、GO を問わず、急激にその数が増 えている。 活動村がバッティングすることもあれば、 ある日突然全く方針の違う団体が近隣もしくは同一 地域で活動を開始するということもよく起きる。一 方でユニークなアプローチやトレーニングが行われ ていたりすることもある。単に対象村と事務所の往 復にとどまらず、 NGOと行政の連絡会等に足を運ぶ、 他地域他団体を訪問する、他団体のスタッフと交流 写真 2 IVY スタッフ対象のファシリテーター する等してマメに情報収集することが大事と思う。 スキルアップ講座 42 事例 09 カンボジアにおける織物事業の実施 特定非営利活動法人 幼い難民を考える会 松井かな子 1. プロジェクトの概要 なくなり、高齢化も進んできている。 (1)プロジェクト実施の背景 (2)プロジェクトの目的と目標 長い内戦が続いたカンボジアでは、現在でもその (a)農村女性の経済的自立 傷跡は大きく、復興に時間がかかっている。国民の 織物は自国の文化として誇りを持って身に付ける 80%が暮らす農村では、ほとんどの人たちは農業に 技術であるとともに、研修修了後に自宅で、家事や 従事しているが、農業では天候に左右され安定した 農作業、育児の合間に織ることができる。織物を製 収入を得ることは難しいため、その合間にお菓子な 作して販売し、貴重な現金収入を得て家計の一助と どを売る小商いをしたり牛を飼ったりしてわずかな なることを目指している。 現金収入を得ている。 (b)伝統文化の保存と復興 カンボジアの女性の平均識字率は 51.2%で、67% 戦争で失われかけた自国の伝統文化を守り伝えて が小学校を修了していない。小学校卒業程度の学歴 いくため、草木染めや絣柄の保存、復興にも力を入 の女性が仕事を持ち、現金収入を得る手段はほとん れる。 どない。首都プノンペン近郊の農村地域では、若い (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 女性がプノンペンの縫製工場などで働く機会を得る (a)実施場所 事はあるが、採用人数が求職者の数に比べ少なく、 ①タケオ州バティ郡トロピエンクラサン地区 時間内に手際よく仕事をこなせる技術のある人など ②タケオ州サムロン郡スラー地区 が優先で、その機会は非常に限られている。 ③カンダール州カンダールスタン郡バンキアン地区 本会は、 農村に住む女性たちの経済的支援のため、 (b)実施体制 カンボジアの伝統織物技術を指導している。1980 年 事業を実施するのは、本会カンボジア事務所職員 の設立当時からタイ国境の難民キャンプで、93 年か (日本人の事務所長 1 名、カンボジア人の事業担当 らはカンボジア国内のカンダール州の農村で、97 年 1 名) 、東京事務局職員。 「織物研修センター」で技 にはプノンペンに 「織物研修センター」 を開設して、 術指導に当たるのは、カンボジア人の織物トレーナ それぞれ女性を対象に指導を続けてきた。そして ー1 名とアシスタント 2 名である。 2003 年 7 月、タケオ州バティ郡トロピエンクラサン 織物研修センターは地域学習センター内にあり、 地区の地域学習センター内に「織物研修センター」 このセンター運営のためにトロピエンクラサン地区 を開設した。最終的に現在の場所としたのは、もと では運営委員会が組織されている。トロピエンクラ もと生徒の応募が多く、織物の技術指導が研修後に サン地区長、副村長、小学校教頭らの 4 名である。 役立ち、製作品を販売できる地域性からである。 委員会は地域行政との連携、タケオ州・バティ郡教 この地区は、首都プノンペンから車で約 1 時間半 育局との協力調整、織物研修を含めたセンターの運 から 2 時間、 人々の 90%が農業で生計を立てている。 営管理、建物・備品の営繕、織物研修生の募集への 織物の盛んなこの地域では、家族ぐるみで織物に従 協力、修了式などの開催協力、地域住民への活動説 事している家族が多く、祖母、母、孫へと織物技術 明・広報などを行う。当面のセンター運営費は、国 が伝えられている。カンボジアの織物技術は、こう 際ボランティア貯金の寄附金などを充当して本会が して子どものときから見て習っていく方法で伝えら 支援しているが、将来は地域で自立して運営される れてきたが、 内戦時代に織物が行われなかったこと、 ことを目指している。 人材が多く失われたことから現在では伝統的な絣 また、本会はカンボジアの教育省と本事業につい (カスリ)柄や草木染めの高度な技術を持つ人材は少 て契約を交わしており、教育省は本会が毎年提出す 43 事例 09 る報告書、計画書、予算・決算書の内容をみて、必 表 研修内容 要な助言を本会と運営委員会に対して行う。 期 間 (c)活動内容 内 容 絹絣スカーフ 1)年間研修 ・ 糸巻き、糸科学染め、整経、千巻き、 研修生の募集は、地域の織物環境、織りの経験の 9-11 月 簡単な模様の括り 2 枚 有無をもとに、家族環境がより厳しい女性を優先し ・ 中程度の模様の括り、糸草木染め 2 枚 て行う。募集にはセンターの運営委員会の協力を得 ・ 細かな模様の括り、糸草木染め 2 枚 年コースを設けている。カリキュラムには、伝統的 な織りや染めの技術だけでなく、 織物の歴史や理論、 製品の経費計算、販売方法等についても学ぶ時間が 絹絣織りコース る。現在は無地織りの 6 ヶ月コースと、絣織りの 1 絹無地生地 ・ 糸巻き、糸化学染め、整経、千巻き 15m ・ 織り 2m 12-7 月 ある。研修生は年間 15 名。 絹絣生地 ・ 簡単な模様の括り 1 種、科学染め、織り 2m 研修期間は毎年 9 月から始まる(無地織りコース ・ 中程度の模様の括り 1 種、草木染め、織り 2m は 3 月から 2 回目が始まる) 。 センターに寄宿し共同 ・ 細かな模様の括り 4 種、草木染め、織り 8m 生活をしながら、週月∼金の 5 日間、1 日約 8 時間 持ちかえり準備 の研修である。 8月 ・ 糸巻き、糸染め、整経、千巻き、括り等 2)修了生のフォローアップ 修了式 昨年タケオ州に織物センターを開設するまで、カ ナイロンスカーフ ンダール州カンダールスタン郡バンキアン地区など 9 月/3 月 で開いた織物教室の修了生ら 30 名(2004 年 9 月現 ・ 整経、千巻き ・ 織り 5 枚 無地織りコース 在)を対象にフォローアップを行っている。 織物研修 修了生たちは現在はそれぞれの自宅に戻り、家事や 農作業の合間に織りを続け製品を販売することで、 農村地域では貴重な現金収入を得て生計の一助とし 10-11 月 /4-5 月 絹無地スカーフ ・ 糸巻き、糸化学・草木染め、整経、千巻き ・ 織り 5 枚 12-2 月中 無地生地 ている。研修修了生の技術的に難しい点、例えば織 旬/6-8 月 ・ 糸巻き、糸化学・草木染め、整経 8m、千巻き り布の幅にあわせた縦糸の数の計算のしかた、草木 中旬 ・ 織り 8m 染め技術、横絣模様の織り込み方等をテーマとした 2 月下旬/ ワークショップを開き、基礎的な技術の熟練、質の 8 月中旬 高い製品を目指す。 持ちかえり準備 ・ 糸巻き、糸染め、整経、千巻き等 修了式 カンダール州カンダールスタン郡バンキアン地区 では、本会が支援するプレイタトウ保育所の敷地内 3)伝統織物の記録と保存 に研修修了生のためのバンキアン織物センターを開 内戦の影響で失われつつある伝統的な織物技術を いており、5 名の研修修了生がこのセンターで織り 記録、保存するため、草木染めの糸見本、絣柄の記 の作業を行う。保育所に通う子どもたちが織物の作 録などに力を入れる。貴重な古布を真似て絵柄を復 業をそばで見て、伝統文化を身近に感じることがで 元することも試していく。また、カンボジアの染め きる。 また、 タケオ州のサムロン郡スラー地区には、 や織りについて、写真を利用して研修用テキストを 研修修了生が数名住む地域があり、上記センターと 作成する。 ともに研修修了生のグループづくりが行われている。 修了生の製作品はカンボジア国内で販売するほか、 2. プロジェクトにおける訓練等の実施 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置付け 本会が買い上げて日本国内でも販売し、収益を事業 織物の技術指導は、目的達成のための中心的な手 に還元している。 段である。 44 事例 09 (2)訓練等の計画と準備 正な販売価格で仲買人との交渉に役立つ知識となる。 研修のカリキュラム作りは、毎年研修内容を指導 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 者と事業担当者が評価し、見直している。織物研修 (a)研修生、修了生のモチベーションを高める で使用する織機、糸車、縦糸整経台、横糸整経枠な カンボジアの農村では、現金収入が限られている どは本会職員や地域住民の手作りである。研修終了 状況の中で、人々が将来の計画や夢を持つことは非 後に自宅に持ちかえる織機のために、研修手当の一 常に難しい。本会は、女性たちが研修で染織技術を 部を積み立てて織機代としている。 身に付けた 6 ヶ月後、1 年後のことを考えて研修に (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 参加し、修了後もその技術によって自立してほしい (a)研修生の募集 と考えている。そのためのモチベーション(やる気) 織物研修を終えた修了生の製作品は本会が買上げ を高めるには、研修の成果が現金収入に結びつくこ ていることが多かったが、最近になって地域の仲買 とを示すことが大切である。 人を通じて織物を販売し始める修了生が増えた。織 研修生は、毎月 5 ドルの研修手当の中から 2 ドル 物製作による現金収入を増やすために仲買人に織物 は本人の生活費へ(センター寄宿の研修であるため、 を販売しようとする場合、絣織りの盛んな地域では 石鹸やおこづかいなど) 、2 ドルは研修終了後の織機 絣織り、無地織りの盛んな地域では無地織りの注文 の積立てへ、そして残り 1 ドルを終了時の技術評価 が入る。また、根気の入る絣織りを続けるには周囲 をもとにして支払うインセンティブとしている。 との助け合いも必要で、絣織りの盛んな地域以外で 一方修了生に対しては、本会が製品を買上げる場 は絣織りの製作を一人で続けることが難しくなって 合、染めの種類、染めの回数、柄の細かさ、織りの しまう傾向もある。織物の盛んな州内でもこのよう 技術など細かく評価して、それに対応する価格一覧 な地域差があるため、修了生が暮らす地域の織物環 をもとにしている。織物指導者が買上げの際に、こ 境が重要である。 の一覧をもとに製品を評価し、必要があれば技術面 このため、研修生の募集時に、無地織りコースは でのアドバイスを与えて、自分の製作品がより多く 無地織りの盛んな地域から初心者を、絣織りコース の収入につながるというやる気が高められるよう、 は絣織りが盛んな地域から織りの経験者を選考して 働きかけを始めたところである。ここでの価格は、 いる。地域を考慮したコース設定とするため、集中 市場での値段とのバランスを考慮している。 した技術研修を行うことができ、無地織りでも絣織 (b)修了生のフォローアップ りでも質の高い織物を製作することができる。 より質の高い織物を早く製作できるようになるた (b)市場調査の実施 め、たて糸の整経、絣糸の染め、絣柄の括りなどを カンボジア事務所の事業担当職員と織物指導者は、 テーマとする修了生のためのワークショップを年間 カンボジアの国内でどんな織物製品が売られている 3 回程度実施している。 かの市場調査を行っている。首都プノンペンの市場 また、修了生の住む地域別にグループを作り、毎 や店舗を回って意見を聞いたり、タケオ州の織物仲 月のミーティングを開いている。それぞれの製作状 買人に話を聞いたりして、技術指導や研修修了後の 況の報告や意見交換などを行い、一人で製作する女 製作の参考としている。 性たちの刺激や励みとなることを期待している。カ また、製品の一部は日本でも販売して収益を事業 ンダール州カンダールスタン郡バンキアン地区では、 に還元しているため、日本国内でボランティアを募 前記のように、本会が運営する保育所敷地内に共同 り、デザインや染織方法のアイデアを現地へ伝えて 作業場を設け、修了生が集まって作業ができるよう いる。 にしている。 (c)織物理論をカリキュラムに含める (c)テキストの作成 染織技術だけでなく織物の歴史や販売経費などの 「織物研修センター」の研修生のために、また自 計算のしかたをカリキュラムに組みこむことは、小 宅で織物を続ける修了生のために染織テキストを作 学校卒業程度の学歴である研修生の貴重な学習機会 成中である。文字の苦手な人もいるため、写真を多 となっている。また、研修修了後、原価の計算や適 用したテキストとする。 45 事例 09 3. プロジェクトの評価 4. 教訓・提言 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 1997 年にプノンペン市内に「織物研修センター」 カンボジア織物の技術の習得には、長い時間が必 を開設して以来、 現在までに合計 55 名が研修に参加 要である。絹絣を 1 枚(約 4m)織るのには、上手な してきた。このうち、現在も織物を続けているのは 人でも 1∼2 ヶ月はかかる。 修了生が根気がいる作業 30 名(2004 年 9 月現在)で、 うち 9 名が製品を自主販 を続けていくために、何をいつまでにどのくらい織 売している。2004 年 8 月に実施した調査では、織物 ったらいくらもらえるかという、契約(約束)が持て による平均収入は 1 年間で一人あたり$74.5 であっ れば励みになるはずである。しかし、実際に地域の た。現金収入の少ない農村では貴重な収入であり、 織物仲買人や店舗に販売していくためには、常に製 自宅の屋根を拡張したり、次の製作の資材に充てた 品の質の高さ(デザインや染めなど)を求められ、市 りしている。 場のニーズも変動する。そのため、製品を販売する 一方、残り 25 名は、結婚などの家庭の事情や転居 マーケティングを含めたネットワーク作りが求めら により織物の製作を辞めるか現在製作を中断してし れている。 まっている。やむを得ない事情があるものの、製品 また、地域の運営委員会とともに、織物販売によ の完成までに時間を要し根気のいる織物を続けてい る「織物研修センター」の自主運営を目指している くことのできる環境作りや意識付け、技術フォロー ものの、まだまだ難しい。研修コストを削減するこ への働きかけが一層必要であることが分かった。 ととともに、現地で運営費を作り出す地域での努力 「織物研修センター」をタケオ州に開設し、地域 も課題となっている。 との結びつきを考慮して活動を始めてからは 1 年し (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 か経過していないので、今後引き続き評価を行う。 成功例があると、事業の目的や成果を受益者や関 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 連機関などに伝えやすい。将来の生活設計を立てに 立発展性 くいカンボジアの農村のような状況では、実際に研 修了生の中には、 地域の織物従事者に綜絖(そうこ 修に参加し、織物製作によってより多くの収入を得 う:経糸を上下させるために必要な織機の一部を準 ている研修生のモデルは、参加者にとっては分かり 備すること)の技術を教え収入を得たり、 もともと分 やすい励みとなる。 業である絹絣の作業工程を近隣の人に指導しながら また、研修参加者が研修終了後、実際に研修で身 振り分けて製作を進めている人もいる。 につけた技術を活かして現金収入を得られ、継続し また、 「織物研修センター」 がタケオ州に開設した て仕事をしていけるようにするには、研修生の選考 ことで自宅からも近くなったため、修了生が度々作 時の地域や家庭環境などの細かな調査と、研修終了 業をするためにセンターを訪れている。センターで 後のフォローアップが重要である。 は後輩の作業を手伝う姿も見られる。さらに、来月 からは 2000 年に研修を修了した女性を新しいアシ スタントとして採用することになった。 伝統文化の保存と復興という点では、現在作成を 進めている染織テキストを地域の織物従事者や政府 などの関連機関に配布したいと考えている。また、 絣織りの盛んな地域では、織物従事者から草木染め の技術研修の要請があり、今年度実施予定である。 センターでの 6 ヶ月または 1 年間の研修に参加する 人だけでなく、地域の多くの人たちへの技術研修も 期待されている。 写真 カンボジアの農村で典型的な高床式住居の 1F 部分に織り機を置き、織物をする研修修了生 46 事例 10 カンボジアにおける青少年自立支援プロジェクト 特定非営利活動法人 国境なき子どもたち(KnK) オペレーションディレクター 大竹綾子 1.プロジェクトの概要 機会を提供することにより、虐待や搾取、人身売買 (1)プロジェクト実施の背景 等の様々な人権侵害の犠牲となってきた彼らが、こ カンボジアでは、長く続いた内戦により社会の構 れまで失われてきた自信や人間としての尊厳を回 造基盤がほとんど破壊され、多くの国外難民や国内 復するようになることを目的に、本事業を開始した。 避難民が生まれた。識字率は 2000 年の統計でも全 さらに本事業は、彼らが精神的および経済的にも自 国平均で 7 割程度、中等教育への総就学率にいたっ 立を果たし、地域社会の一員として復帰する手助け ては 2 割程度にとどまるなど、就学の機会を得られ をするとともに、現地コミュニティの発展にも寄与 ない青少年が数多く存在する。特に、同国の北西部 し得るような社会人として育成することを上位目 に位置するバッタンバン州(Battambang Province) 標としている。 は、タイとの国境まで 130km と近いことから、かつ (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 ての国内避難民やタイからの帰還難民が多数居住 (a)実施場所・体制 している。極度の貧困状態のために家族がやむを得 本事業では、前述したバッタンバン州内の中心部 ず子どもをブローカーに売るなど、子どもを収入源 に位置するバッタンバン市(Battambang District) として利用する場合も多く、身寄りのない多数の若 において 2 軒の「若者の家」を運営し、15∼19 歳の 者や子どもたちが学校に通うことも職に就くこと 青少年男女を主な対象として受け入れてきた。2004 もできないまま、路上での生活を余儀なくされてい 年 10 月現在、男女計 40 名を受け入れる「若者の家・ る。 男子」および「若者の家・女子」はそれぞれ、4∼5 1990 年代の初頭から、数多くの国内および国際団 名用の寝室が数室、教室、図書室、食堂、炊事場お 体が、カンボジアのストリートチルドレンを支援す よびレクリエーションのためのスペースを備える。 る活動を立ち上げてきた。しかし、同国における緊 「若者の家・男子」には、職業訓練用のスペースお 急の課題は、幼少の子どもを路上生活から救出し保 よびプロジェクト事務所が併設されている。 護することであり、15∼16 歳を超えた青少年は大人 プロジェクトを指揮する日本人 2 名(プロジェク とみなされ、各種の援助プログラムの対象から外れ ト・コーディネーターとプロジェクト・アドミニス てしまう。公立の職業訓練センターの多くはその入 トレーター)に加え、 現地スタッフから構成されるチ 学資格を 9 年生修了以上と定めていることもあり、 ームが「若者の家」の運営実施にあたる。現地スタ 彼らは適切な教育を受けることもなく、職業技術も ッフの選定に関しては、 主に教育や社会福祉(ソーシ 身につけないまま施設を出て行かざるを得ず、その ャルワーク)分野、 あるいは NGO 活動における職歴や 多くは路上での靴磨きやゴミ拾い、荷物の運搬など 経験等を重視し、青少年が抱える問題に対する理解 の安易な労働に従事したり、雇用主からの虐待や搾 や彼らの自立支援への熱意を総合的に判断し、雇用 取等の被害に遭ったり、窃盗や売春あるいは人身売 する方針としている。 買に巻き込まれたりするなどの危険にさらされて 現地スタッフのチーム構成(計 15 名)は以下に示 いる。 される。 (2)プロジェクトの目的と目標 ① ハウスマネージャー 2 名 2000 年 9 月、国境なき子どもたち(KnK)はカンボ 施設の統括的運営、施設における活動の立案およ ジアの恵まれない青少年男女を対象に、安定した衣 び実施、各青少年の教育プログラムおよび社会復帰 食住や精神面でのサポート、教育および職業訓練の の計画と実施、卒業生のフォローアップ、関係団体 47 事例 10 との連携促進等 で必要となる自己管理技術の習得を目指し訓練 ② ソーシャルワーカー 2 名 を行う。心理的なケアとともに、ドラッグの危 険性や HIV/AIDS の問題、性教育等に関する講義 青少年に対する心理面でのサポートとカウンセリ をあわせて行う。 ングの実施、職業訓練先の選定と訓練実施のフォロ c 各自の職業技術習得の手助けをする。 適切な訓練 ○ ーアップ、家族との関係修復支援、就職斡旋または 先を調査し、一人ひとりの希望や適性に基づき 開業の支援等 選定した後、訓練を開始する。 ③ エデュケーター 2 名 d ○ 基礎教育や日常生活管理の指導、健康管理、学業 将来、 青少年たちが彼らの故郷や家族の元へ戻り 面でのサポート、課外活動の計画および実施等 生活していくことができるよう、家族を対象と ④ 教師 3 名 したカウンセリングや帰還の是非の判断を下す ための調査および評定を行う。 施設における識字教育や補習授業の計画と実施、 e 労働市場や雇用の機会を調査し、 就職の斡旋およ ○ 各青少年の学力の評価およびサポート等 び開業支援を行う。 ⑤ セキュリティ担当者 4 名 f 卒業後、既に自立を果たした若者のフォローア ○ 施設を出入りする訪問者および青少年の監督、施 設内の安全確保、設備のメンテナンス等 ップを行い、彼らの生活状況および卒業時に設 ⑥ ハウスキーパー 2 名 定した目標達成度を確認する。また、卒業生が 一同に会し、卒業後もコンタクトを保ちつつ必 各青少年のための炊事や生活習慣の指導、施設内 の衛生環境の管理等 要に応じて各種支援を追加するためのシステム (b)活動内容 を構築するとともに、本事業の効果を評価する。 本事業の主な対象となるのは 15∼19 歳のカンボ ジア人男女であり、 以下の基準のもとに選定される。 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 ① 現地の保護施設や更正施設等の出身で、 かつて路 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ 個々の青少年が将来自立し、安定した社会生活を 上で暮らしていた者や人身売買の被害にあった 送っていくために、職業技術を身につけることは必 者 須であり、その訓練はプロジェクトにおける教育プ ② 家庭における強制的労働や虐待、 搾取などの理由 ログラムの中核となる。本事業では具体的に、他の で家出をした者 ③ 路上で生活をしている者 支援団体等が実施する各種トレーニングコースや地 ④ ギャングとの関わり、薬物中毒、犯罪等の問題に 域の職人の下での徒弟制度等に若者たちが参加する 機会を主に提供するが、これには、彼らが実際に収 より社会から疎外されている者 入を得るための技能の習得のみに限らず、「学ぶ」 上記のような青少年たちの現在の生活環境を改善 し、将来の社会復帰に備えるべく教育および職業訓 プロセスを通じ自らの能力を向上させることにより、 練の機会を提供するため、本事業では「若者の家」 一人ひとりが自信や尊厳を回復し、地域社会の一員 において以下の活動を実施している。滞在期間は各 としての自覚が同時に育成されるといった意義が挙 自の年齢、適正、要望等にもよるが、基本的には 1 げられる。 ∼3 年間とする。 (2)訓練等の計画と準備 a カンボジア社会福祉省(MoSALVY)や国際移住機 ○ 職業訓練の実施にあたっては、個々の青少年を対 関(International Organization for Migration)、 象に、ソーシャルワーカーが綿密なカウンセリング および Homeland、Komar Rik Reay 等の現地 NGO および当該地域における職業一般に関するオリエン を含むパートナー機関との協議の上、 対象となる テーションを実施するとともに、職業訓練の選択に 青少年を選定する。受け入れ後、一人ひとりに対 関してガイダンスを行っている。同時に、青少年ら してカウンセリングや学力のレベルチェック、 メ が職を希望する地域の状況等を調査し、一人ひとり ディカルチェック等を実施する。 に適した職業訓練分野を選択している。なお、以下 b 識字などの基礎教育に加えて、 日常生活を送る上 ○ の表は、現在「若者の家」に受け入れている計 40 48 事例 10 名のうち、職業訓練分野と各人数を示している。 ウハウに関する授業を適宜実施している。また、将 来の就業のための計画およびネットワーク作りを早 表 職業訓練分野と人数(2004 年 10 月現在) い段階から始め、習得した技術が訓練後の就職に直 (受入者計 40 名のうち、職業訓練中の者 29 名) 結するよう便宜を図っている。若者たちが就業ある 男 分野 オートバイ修理 溶接 車修理 大工 車塗装 計 縫製 美容師 絵画 子 女 子 コンピュータグラフィックス 調理 サービス 計 人数 3 1 3 1 5 13 5 6 1 1 2 1 16 いは開業した後には一人ひとりのフォローアップを 行い、必要に応じて補完研修等を実施している。 3.プロジェクトの評価 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 近年の国際社会においては、ストリートチルドレ ンの問題に対する関心と支援の必要性についての認 識がますます高まっている。本事業は、カンボジア での同分野における支援の一翼を担うものとなって おり、MoSALVY からも高い評価を得ていることから、 本事業の妥当性は極めて高い。年齢の高いストリー トチルドレンは、上述したように現地の各種支援プ ログラムの対象外となるか、または関係当局によっ て町から一掃されたり隔離される場合が少なくない。 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 職業訓練を効果的なものとするため、訓練の受け しかしながら、本事業のように現地の青少年が直面 入れ先およびその選定に関しては、将来における雇 する問題に対して異なる方針やアプローチをもって 用の可能性を考慮に入れた上で、職場や商店主など 取り組み、かつ継続的な支援を行うことにより、こ を決定している。訓練の内容に関しては、カンボジ れまで支援の手が差し伸べられてこなかった青少年 アではオン・ザ・ジョブ・ トレーニング(OJT)を通じ らが社会で生活していく術を身につけることが可能 て指導員の経験のみに頼り訓練が進められる形式が となっている。特に、職業訓練のみに限らず、生活 一般的であるが、実習に偏らず、理論面も含めた指 習慣の改善や心理面でのカウンセリングをあわせて 導が行われている受け入れ先をできる限り探すよう 実施することにより、支援の対象となる青少年らに 努めている。 は例外なく行動や意識の面で多くの変化が観察され、 なお 2002 年には、バッタンバン市内にあるカンボ 各自が自信や尊厳、若者らしさを確実に取り戻して ジア教育省管轄の職業訓練センターの協力を得て、 おり、本事業における目的はこれまである一定の達 オートバイ修理の技術訓練ワークショップを 2 期に 成をみてきた。 渡って KnK の施設内で試行的に開催した。同ワーク さらに、本事業ではこれまで延べ 70 名程度の青少 ショップでは、理論学習を含めた体系的なカリキュ 年たちをその支援の対象とし、彼らの個々の能力の ラムを用いることにより、参加した者が職業技術を 開発を図るとともに、彼らが社会復帰への準備をし、 より効果的に身につけることができた等、理論学習 真の自立へと向かうべく、上述したような活動を実 を重視するという方法論を実践したという点におい 施してきた。本事業の開始時から現在までに男女計 ても同ワークショップは意義深く、また効果的であ 23 名の若者が「若者の家」を卒業し、そのうち 17 った。 名が経済的な自立を果たしているなど、草の根事業 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み として着実に実績をあげてきたことから、本事業の 目標達成度は高いといえる。 訓練中は、ソーシャルワーカーが訓練先の指導員 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 と連携して訓練の進捗度をモニタリング・評価し、 立発展性 フォローにあたることで訓練の定着を図っている。 本事業では、個々の青少年の社会復帰を支援する 他にも、施設内において小規模ビジネスや開業のノ とともに、地域コミュニティにおいても彼らが再び 49 事例 10 受け入れられる環境作りを促進してきた。特に、こ えたコンピュータ関連業種やサービス・観光業等、 れまで周囲から厄介者として常に偏見の目で見られ 新しい職種の可能性を探ると同時に、能力と意欲の ていた若者たちが、職業技術を習得し職を得て自立 ある者に対してはより高度な専門技術を学ぶ機会を 更正を果たすことにより、当該地域の貧困、あるい いかに提供していくことができるか、大学や他の技 は犯罪や暴力の軽減にもある一定の貢献をしてきた 術習得あるいは人材養成機関、関係団体との連携等 のみならず、こうした青少年が抱える問題に対する を含め、検討していくことが今後の課題である。 認識を地域社会において高めるなどの中長期的効果 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 をあげてきた。また 2003 年、地域の青少年が直面す 青少年の自立更正ないし社会復帰に関する解決 る問題に関して、関係団体や政府関係者との間で情 策として政策提言を行い、カンボジア国内で社会問 報交換を行うことを目的としたワークショップをバ 題化している若者たちの雇用対策を、現地の政府当 ッタンバン市内で開催した際には、州政府高官が積 局がより積極的に取り組んでいくよう促すことが 極的な関心を示し、具体的政策を打ち出して同問題 必要である。地域の若者たちを継続的に支援すべき に取り組んでいく姿勢を見せるなど、本事業は青少 地方自治体や関連団体、さらに民間企業等の協力を 年の問題に対処した数少ない実例として、州政府に 得るなどして、包括的な支援体制の構築を図ってい おける政策立案の判断材料にもなっており、当該地 くことが求められている。また、ストリートチルド 域において少なからずインパクトを与えてきた。 レンであったことに対する偏見が若者たちの雇用 他にも、 本事業の実施運営に参画することにより、 の幅を狭めている場合も多く、そうした一般社会の 現地スタッフが OJT を通じて同分野での事業実施に 認識を変革するための啓発活動を実施していくこ 必要な専門スキルを身に付けるなど、本事業が現地 とが今後は重要である の人材育成といった副次的効果をあげてきたことも 指摘される。 さらに本事業では、上述したように、事業実施中 から支援の対象となる青少年らの間で職業訓練の定 着を図るのみならず、彼らが就業あるいは開業した 後も一人ひとりのフォローアップを行い、必要に応 じて補完研修等を実施している。加えて、 「若者の 家」からの卒業後にも必要に応じて各種支援を行う ためのシステム構築および向上にも取り組んでいる ことから、本事業の自立発展性は高いといえる。 写真 1 縫製訓練 4.教訓・提言 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 支援対象となる青少年たちが職業訓練コースを 修了できたとしても、就業機会の極めて限られたカ ンボジアにおいては、習得した技術を利用すべく就 職あるいは開業し安定した収入を維持させていくこ とは、実際のところそれほど容易でない。今後は、 単に個々人の技術レベルを上げていくのみでなく、 就職に関連する情報を広く収集し、ある特定地域の 労働市場や雇用の可能性についても詳細に調査する など、青少年らの卒業時におけるきめ細かな対応が より重視されるべきであると考える。将来性を見据 写真 2 自動車修理訓練 50 事例 11 スリランカ北東部復興支援に向けた保健分野の人材育成 特定非営利活動法人 アムダ(AMDA) 鈴木 俊介 1. プロジェクトの概要 もたらすシナリオである。さらに、本事業の成果が (1)プロジェクト実施の背景 地域住民にとっていわゆる「平和の配当」として認 スリランカ北東部は、シンハラ・タミル両陣営に 識されるようになれば、 (活動対象地域が両陣営の支 よる約 20 年にわたる紛争の結果、100 万人近い難民 配地域にまたがっているが故に)平和の維持と地域 及び国内避難民を生み出してきたが、ノルウェーに の発展を求める静かな政治的メッセージを住民から よる仲介が効を奏し、スリランカ政府とタミル・イ 双方の指導者達に伝えることができるのではないか ーラム解放の虎(以下 LTTE)の間で、2002 年 2 月に と考えている。 停戦合意が結ばれた。こうした流れの中で国内外の これらは「平和の定着への貢献」を ODA の新機軸 避難民は自主帰還を進めたため、彼等の定住促進と として打ち出した日本政府の政策とも一致し、又新 教育・保健医療などの公共サービスの提供が急務と 生 JICA が目指す紛争後の難民帰還・ 定住支援やコミ なった。しかし紛争により荒廃した北東部では、圧 ュニティー復興支援等の流れとも一致するものであ 倒的な人材不足に加え、和平合意後の統治に関する る。 協議が停滞したことも影響し、行政機能が回復する (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 までにはまだ長い道のりを経なければならない。 本事業の人材育成部門は、北東部の一角を構成す るヴァヴニア県(約 2 千㎞ 2、人口 14.4 万人)全域の 各種事業の実施母体である国内外の NGO には、国 連機関や各国政府などの援助機関とともに、地元政 地域助産師(フィールド・ミッドワイフ)と、村落で 府機関が公共サービスの提供を速やかに回復し得 無償奉仕を行う保健ボランティアを裨益対象として るよう、協力体制の早急な確立と政府組織の能力向 いる。ただし、同県の北側半分は LTTE 支配地域にな 上を支援することが強く期待されている。 っているため、事業実施上、スリランカ政府保健省 (2)プロジェクトの目的と目標 管轄下の県保健局との連携・協力に加え、LTTE 当局 への配慮も大切となり、通行許可の取得、活動内容 本事業は、保健医療分野、特に事業対象地区にお の通知などを怠りなく行なう必要がある。 ける母子保健に関わる基礎的サービスが効果的、効 率的に提供されるよう、現地保健局と連携し、県内 事業運営自体は、 「JICA 草の根技術協力(パートナ の一定区域を担当する地域助産師及び保健ボランテ ー型)」スキームを活用している。実施期間は 2 年、 ィアの人材育成と、インフラ整備を効果的に組み合 事業の大きな流れはそのスキームに沿った内容とな わせながら、基礎保健システムの復興を支援するこ っている。関係者を含めた事業実施体制を別途図式 とを目的としている。その結果、 「周産期の女性と乳 化したのでご覧頂きたい。(文末・図 1) 次に活動内容について述べるが、その大きな特徴 幼児が、適正レベルの医療保健サービスを受ける機 として、本事業が保健行政システムの早期回復を支 会が拡充されること」を目標に据えている。 そして副次的な目的として、こうした医療保健サ 援している点、そのシステムを構成する政府職員の ービスの拡充が、シンハラ、タミル両陣営が模索し 人材育成を通じた村落レベルにおける人材(保健ボ ている和平プロセスが成就されることへの一助とな ランティア)の育成を念頭に置いている点、 そして何 ることを念頭に置いている。 これは AMDA が提唱する よりも、本事業が「官・民」協力の上に成り立って 医療和平コンセプトの一環を成すものであるが、敵 いる点を挙げることができる。民間団体がそのノウ 対する陣営へ目に見える医療支援を実施することに ハウを活用して政府機関や自治体を支援する例は、 よって、双方において和平への気運が高まる作用を 途上国支援の分野で多く見られる。AMDA も近年、支 51 事例 11 援規模に大小はあるものの、カンボジア、ミャンマ 析/効果的なカウンセリング法/保健教育の中 ー、ネパール、ザンビア、ジブチなどで保健行政機 における家族計画の意義と実践) 関の能力向上プログラムに直接携わってきた。 上記内容を伴ったリフレッシャー研修(在職者向 スリランカにおける本事業の活動内容は、県保健 け再講習)は、週一回、10 週間にわたり講義と参加 局が策定した復興計画の一端を担い、現在の不均衡 型ワークショップによって実施され、実際の日常業 な医療保健システムの是正に寄与することを念頭に 務の中で反芻され理解を深めてもらうかたちを採用 置きつつ、妊産婦及び乳幼児に対して医療保健サー した。すでにこのプログラムは終了し、次のステッ ビスの機会が十分提供されるべく、事業対象地区に プとして今年一月からは、本研修を受講した助産師 おける保健医療施設の基盤整備と、草の根レベルに が、村の中で日頃最も身近に妊産婦と接している保 おける保健システムの回復に関して最も重要な役割 健ボランティアに対し「エコー研修」を実施してい を担う地域助産師と保健ボランティアの人材育成及 る。これは、助産師が自ら研修リーダーを務め、各々 び相互の協力体制の確立、強化を支援する活動に重 が保健ボランティアに対し研修内容をより分り易く きを置いている。具体的には、①プーヴァラサンク 還元し、村レベルに広めていくことである。この過 ラム地区に位置する既存の診療所へのモデル産科棟 程を経て、助産師へのリフレッシャー研修は効果を の増設、②適切な医療機材の配置、③地域助産師、 生み出すことになる。 保健ボランティア、その他の保健医療従事者を対象 とした研修、④地域助産師と各産科施設との連携強 2. プロジェクトにおける訓練等の実施 化によるリファラルシステム(医療機関間の紹介・ (1)プロジェクトにおける訓練等の位置付け 転送体制) の再構築を支援するといった活動である。 特に③については、現職の地域助産師に対して実 行政サービスが回復された状態へ至る道のりは、 和平プロセスの進展によって大きな影響を受けるこ 施された研修カリキュラムの内容を以下簡単に記す。 とになるが、その過程において人材育成部門の強化 a 研修の意義とコミュニティーにおける地域助産 ○ が大きな鍵を握ることも間違いない。紛争によって 師の役割(研修概要・研修の目的とねらい/地域 失われた人的資源を早急に取り戻すための取組みが 助産師が果たす役割と保健サービスの効果/コ 重要である。保健医療分野に関して述べると、現在 ミュニティーにおける保健ニーズの理解と対応) 核となる医療従事者はかろうじて、又は一時的措置 b 周産期ケア重点項目の確認と理解(リスク・複雑 ○ によって確保されてはいるものの、適正レベルのサ さを伴った妊娠・ その早期発見と対応策/リスク ービスが県内の各地域に滞りなく提供されるために を伴った妊娠に対するコミュニティーにおける 必要な人材は、前述したように、極端に少なくなっ ケアの実践/妊娠の進行と妊婦に対する適正ケ ている。 アと日々の運動、健康法、性交等を含む生活習慣 事業対象地域であるヴァヴニア県は、保健行政上 の理解/妊娠中や授乳中の栄養摂取に関する理 41 の区域に分割されており、各区域に少なくとも一 解/妊産婦に対する保健衛生教育の実施法の習 人の地域助産師が常駐することになっている。しか 得と実践) し現在は定員の半分しか配置されておらず、一人の c 産後ケアと新生児に関する確認と理解(分娩後の ○ 助産師が 2 つ以上の区域を担当するなど、サービス 異常と対応策/新生児の評価方法/新生児ケア) の拡充を推進する上で困難な状況は続いている。又 d 新生児・乳幼児ケアに関する確認と理解(新生児 ○ 一人一人の助産師の技能は(他のアジア諸国のフィ 異常の発見と対応策/乳児の栄養と摂取方法/ ールド助産師と比較した場合、若干優位であると思 微量栄養素不足に関わる問題と対応策) われるものの)臨床技能に加え保健ボランティアへ e 妊産婦の精神衛生に関する確認と理解(周産期の ○ の指導・監督技能が問われた場合、一部のベテラン 女性に関わる精神衛生面の諸問題とケア) 助産師を除くと改善の余地が大いにあると判断され f 家族計画に関する確認と理解(既存の避妊法に関 ○ た。 する検証と副作用への対処法/家族計画のニー 従って、訓練による人材の強化は行政システムの ズと選択/家族計画の実践者と新規実践者の分 いち早い回復に不可欠のものであると同時に、 (助産 52 事例 11 師が「参加型」という研修の方法論を採用すること 訳を 2 名配置し彼女等の理解促進を図った。 によって、効果的な知識や技術の伝達が実践されれ (4)訓練等の定着・継続に向けた取組み ば)村落において母子保健に深く関わるボランティ 多くのドナー機関が実施しているフォーマルな アの育成にもつながると考えている。 研修は、穿った見方をすれば「予算消化」や「実績 (2)訓練等の計画と準備 誇示」の色合いが強い。研修がコロンボで実施され 研修前に入念な現状分析が行なわれた。これを通 たり、使用言語が英語であったり、或いは講師が現 常「ベースライン・サーベイ」と呼ぶが、助産師の 在の北東部の現状に疎かったりと、研修を受ける側 業務内容と職務遂行状況を彼女等の知識・技術と仕 のニーズや都合、能力、又は勤務地の特殊性などが 事環境とに照らしながら、 それぞれに齟齬はないか、 親身に考慮されているとは思えない場合が多い。洋 現実的、実践的、効率的なものとなっているか、な 服でいえば既製品である。一方本事業の研修プログ どの観点から計測・分析することである。また、過 ラムは、顧客(研修生)の要望・嗜好(研修ニーズ)を 去に行なわれた、あるいは実施中(既存)の研修プロ 諮り、寸法(能力や勤務状況)を測り、下地(プログラ グラム内容と成果について検証を加えることも重要 ム)を作るところから始めている、 いわゆるテーラー .. メイドの研修である。事実、保健局長からも「通常 ... の研修と違って、とても好評だよ。人手が足りなく である。そうすることによって、研修内容の不必要 な重複を避けることや、効果が現われにくかった内 容を掘り下げ補強することができるからである。さ なると、研修生の(地域)助産師にも持ち回りで病院 らに、研修方針、実施内容、実施体制などについて、 勤務してもらうことになっているけれど、 『研修のあ 保健行政当局や研修の講師役となる総合病院の医師 る日にだけは絶対に勤務を入れないでくれ』と懇願 や看護師との事前協議も何度か行なわれ、情報の共 されてまいっているんだよ。 」と苦笑いされている。 有が図られた。さらに、事業の最終裨益者である母 もう一つ重要な点は、研修生と当該研修プログラ 親達に対する意識調査を行い、母子保健サービスの ムの中で講師を務める専門医との関係強化が意図的 向上に関しあるべき姿と事業が進むべき方向性の一 に組み込まれていることである。専門医は地元ヴァ 致を再確認した。 ヴニア市の総合病院や保健局に勤務している。内戦 (3)効果的な訓練等を行なうための取組み によって破壊されたリファラルシステムの再構築を 本研修実施上の大前提として、まず受講者が保健 支援するためには、一次診療機関のスタッフと、上 行政分野の現職者であるということが挙げられる。 位機関のスタッフとが相互理解を深め、互いの強み 人員が逼迫する中、彼女達は日常の業務に携わって や技術的な弱点、業務上の制約等について知ること おり、限られた時間の中で研修が行なわれなければ が大切である。実際に助産師が患者を病院にリファ ならない。一方で、単発の研修を実施しただけでは ー(紹介・転送)する場合にも、あるいは簡単なアド 得るものは多くない。そこで本事業では、一週間に バイスを得る場合にも、こうした相互理解の場が両 一度ずつ、10 週間にわたり研修を実施した。前述し 者の結びつきを強める役割を果たしていると考える。 たように、研修内容が日常業務の中で反芻されるよ さらに今後の研修の展開として、これまでに研修 う週ごとに課題や宿題を課した。 を受けた地域助産師がその成果を、今度は保健ボラ さらにこの研修では、午前中は総合病院などから ンティアを対象とした「エコー研修」の中で還元し 専門医を招き、室内における講義形式の授業を行な ていくことになっている。 これは、 研修の成果(果実) う傍ら、午後はワークショップ形式の授業やフィー から滴り落ちる果汁が保健ボランティアの渇きを潤 ルドにおける実践的なプログラムを盛り込んだ。特 していくかのような効果を生み、毎日の活動の中で にワークショップでは、助産師一人一人が考える時 も反復されていくことを期待したい。 間と意見を述べる機会が与えられ、普段バラバラに 孤立していた業務上の問題点やその解決策を相互に 3. プロジェクトの評価 噛み砕くことができるよう配慮した。また、シンハ (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 ラ語しか理解できない助産師、逆にタミル語を母語 総合的に判断して、事業の妥当性は非常に高いと とする助産師がいることを考慮し、両言語可能な通 53 事例 11 考えられる。その理由はまず、本事業が戦後復興支 もたらすことができ、また、人材育成の方法論に参 援の一部を成すものであるからである。正確に言う 加型手法を取り入れることによって、当事者の問題 と、停戦協定は結ばれてはいるもののまだ和平合意 解決能力を高める工夫もなされている。だが、自立 には至っておらず、 「戦後」という言葉は語弊がある 発展性の確保は、行政当局の努力と政策の方向性に かもしれない。しかし、復興支援の果実(=平和の配 も大きく関係しており、特に保健局との対話の重要 当)をスリランカ国民が収穫することによって「戦 性もここで指摘しておかなければならない。 後」をより早く迎えることができるのではないかと 考える。 4. 教訓・提言 次に、戦争で失った(公共サービスを担う)人材の (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 育成に大きく貢献していることである。特にフィー 第一に、停戦合意が結ばれたとは言え、和平協定 ルドに勤務する保健医療従事者の数は圧倒的に不足 が締結されたわけではない。戦時下ではないが、停 している。医療システムの構造上、或いはドナーの 戦下であることによる事業運営上の障害はある。そ 好みの観点から、支援は「医療施設・医療機材」に の一つが移動に関する制約である。対立する一方の 集まりがちである。フィールドにおけるソフト部門 側からもう一方の地域へ移動するための移動許可証、 の強化が後手に回ってしまった結果、本来一次医療 移動時に検問所を通過する際、書類上、物理上の検 で対応すべき基礎保健の問題や(リスクを伴わない) 査を受けなくてはならない。国際スタッフは、その 分娩などのケースが県内に一つしかない総合病院に 中立性からまだましであるが、 どの機関であっても、 集中することになる。そのために、例えば重いお腹 現地スタッフの移動については両勢力ともかなり気 を抱えて総合病院に辿り着いた妊婦が、満床のため を配っている。また、幹線から奥へ入ると地雷の存 入院できない、又は、外来などにおいて、(あまりに 在も気になる。 患者数が多いので)本来時間をかけた診察が必要な 第二に、この地域にはドナー各国、国際機関、NGO 患者に対し、十分な時間を割くことができない、と 等、様々な団体が「復興支援」を掲げて活動を行な いう皮肉な結果を生み出している。こうした医療の っている。投入された貴重な資源が効率的に活用さ 不均衡を是正するためには、フィールドにおける人 れるよう、行政当局との連携に加え、そうした団体 材を養成し、適切な診療が適性レベルの保健医療施 との調整・協力の促進も課題の一つである。 設で行なわれなければならない。 第三に、同国の医療制度の問題が挙げられる。社 そして最後に、この事業が、最終的にはヴァヴニ 会主義的福祉政策に基づき公的医療機関の診療代は ア県全域におけるリファラルシステムの再構築につ 無料である。無料診療が実施されているアジアの ながることを期待して実施されているという点が重 国々の中で、同国ほど医療サービスが充実し、かつ 要である。そういう意味では、妥当性とともに、効 従事者の士気が高い国はお目にかかったことはない。 率性の点でも評価に値する事業である。 しかし、それでも数々の弊害は生じている。その詳 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 細について、ここでは割愛させて頂くが、資源の適 立発展性 正な配分と活用という点で、改善の余地があること 本事業はまだ継続中であり、本項目に関して評価 は間違いない。 を加えることは若干時期尚早であると考えられる。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 しかし、対立する政治勢力の真っ只中で、人材育成 本事業は、特殊な環境下において、現地行政との を通じた基礎保健サービスの改善とシステムの再構 連携を軸に、人材育成とインフラ整備を含めたリフ 築支援に取り組む試みは、地域に与えるインパクト ァラルシステムの再構築支援を目的としている。同 が大きいものとして評価されるべきであろう。事業 様のニーズを抱えている国は多く、本邦 NGO の活躍 対象地域のヴァヴニア県は、南北でスリランカ政府 が期待されている。しかしながら、こうした事業を 管轄地域と LTTE 支配地域に分かれている。 本事業で 運営するための能力と技術を備えた人材の絶対数は は、直接受益者を地域助産師に設定したことで、ヴ 限られており、また十分な活動資金が NGO に配分さ ァヴニア県全域に、等しく双方の地域に波及効果を れていないのが現状である。 それを打破するために、 54 事例 11 事業の意義や成果を国内外に訴えていくことも重要 である。 その意味では、 今回執筆の機会を頂いた(財) 海外職業訓練協会には、 改めて感謝の意を表したい。 写真 1 研修開始前に実施された AMDA 職員による調査 写真 3 講師(総合病院専門医)による講義形式の研修 写真 2 ワークショップ形式の研修風景 写真 4 地域助産師による村々での予防接種の実践 55 事例 11 日本国政府 国際協力機構 日本国外務省 (JICA) (現地大使館) 平和の定着 国別援助政策 業務委託 草の根技術協力(パートナー型) 援助協調 プロジェクト 特定非営利活動 連携・協力 ヴァヴニア県 行政管轄 LTTE(どちらも保健 担当省庁) 保健局 法人 AMDA プロジェクト運営に関わる両事業主体のアジェンダ ・団体理念と事業との整合性 ・ス国保健総合政策との整合性 ・ODA 政策と事業内容との整合性 ・地域保健ニーズとの整合性 ・事業実施能力及び体制の確認 ・各 NGO 活動との連携・協調 スリランカ政府及び 直接裨益者 地域看護師 (FMWs) ・事業規模・効率性などの検討 ・長期的・短期的政策の優先順位 ・治安状況・政治的緊張への配慮 ・活動実施環境の整備 人材育成 (研修) 保健ボランティア (CHVs) ・分野別専門性の取捨選択検討 ・実質的成果の創出と浸透 ・自立発展性への配慮と貢献 ・自助努力への取組み強化 事業成果 その他の活動: 地域保健施設の復旧、機材の供給、政策提言 事業効果 最終受益者 医療和平 図1 ヴァヴニア県 地域住民 (特に母子) プ ロ ジ ェ ク ト 実 施 体 制 構 図 56 事例 12 タイ 労災リハビリテーションセンタープロジェクトの実施 独立行政法人雇用・能力開発機構 関東職業能力開発職業能力開発大学校 附属千葉職業能力開発短期大学校成田校 学務援助課長 秋庭 守正 (元 JICA 専門家・労災リハビリテーション) 1.プロジェクトの概要 (b)実施体制 (1)プロジェクト実施の背景 1)タイ側要員の配置 タイ王国では、かねてより国家経済社会開発 5 ヵ 発足当初の配置を以下に示す。1985 年 2 月の時点 年計画を推進し、同国の工業化に努めてきた。その では IRC 総職員数 14 名で最終予定者数を約 70 名と 結果、同国はアジア地域屈指の準工業国の地位を占 見込んでいた。 めるまでになったが、一方、工業化の進展に伴い製 ・ センター所長 造業を中心に労働災害も増加の一途をたどるよう ・ 職業リハビリテーション部門(職業評価・ガイダ になった。このため、内務省労働局は被災労働者対 ンス課長、ソーシャルワーカー、職業紹介担当 策として、1974 年、労災保障基金制度を創設、さら 課長、職業訓練課長、職業訓練指導員) に被災労働者の職場復帰を促進させるため、これら ・ 医学的リハビリテーション部門(課長、 非常勤医 被災労働者に対する職業リハビリテーションの提 師、理学療法士、作業療法士、看護師、看護助 供を主な目的とする労災リハビリテーションセン 手、義肢装具技師) ター(IRC)の設立を計画した。同国は、労災リハビ ・ 調査研究企画部門(課長、調査企画担当官、視聴 リテーションセンター設立を具体化するため、1982 覚担当官、統計担当官) 年 10 月、日本国政府に対し、同センター設立にか ・ 管理部門(課長、経理担当官、事務担当官、庶務 かわる無償資金協力およびプロジェクト方式技術 担当官、警備員、運転手) 協力を要請してきた。 所 (2)プロジェクトの目的と目標 長 ルーアルロング ディーパダン タイ王国における被災労働者に早期職場復帰を 所長 以下96名 目指すリハビリテーションの場を提供することを (内正規職員41名) 目的とし、ASEAN 諸国の中でも遅れているタイの労 総務課 働・社会保障制度の整備を促進する契機となり、タ 職業評価&ガイダンス課 イ国の経済社会の安定に寄与することを目標とし パイロア ムングカルゥング ている。さらに、タイにおける労働災害は同国に進 課長 出している日系企業も相当数占めており、このプロ 以下25名 以下 11名 企画&調査課 医療リハビリ課 カンチャナ ノイプラセエン課長 ニタヤポン リムパパン課長 以下 10 名 以下22名 オラピン マラキット課長 ジェクトに対する協力は日本に対する相手国民の イメージ改善に寄与することも大いに期待された。 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 (a)実施場所 本プロジェクトはバンプーンに設置され、面積約 45,600 ㎡、バンコク市の中心より北方約 30km の所 職業リハビリ課 に位置している。敷地周辺は徐々に市街化されてき ビラチャイ ウオングスパタイ 課長 ているし、前面道路の国道 306 号線はバンコク市に 以下28名 通ずるバス路線となっており、敷地より約 2km 離れ グループ1 14名 た所には商店街、住宅団地、職業紹介所がある。 グループ2 13名 図 労災リハビリテーションセンター(IRC)組織 (2001 年8月現在) 57 事例 12 2)日本人専門家の派遣 2)医療的リハビリテーション部門 ・ チーフアドバイザー、コーディネイタ 入所者の健康状態、障害の状況、治療継続の要否、 ・ 専門家(職業評価、作業療法、職業準備、 医学的リハビリの要否およびその程度、医学的リハ 職業訓練、職業指導) ビリの処方、補装具義肢の処方、各種医学的リハビ (c)活動内容 リの実施、ADL(日常生活動作)及び障害機能の評価、 無償資金協力による本センターの建設が完了し、 医学的リハビリ終了決定など。 1985 年 4 月、入所生の受入が開始された。同年 7 月 センターの開所を記念するオープニングセレモニ 2000 年までの 16 年間で 2,639 名の入所者があり、 ーがシリントーン王女臨席のもとに行われた。セン その就職率は 88%と大変高い。内訳としては、入所 ターの主要な活動としては、入所後労災被災者の入 者の 52%が元の職場に復職しており、新規職場への 所相談と選別、医学的リハビリテーション、職業評 就職者は 12%、自営業は 24%となっている。1994 価、職業適応指導、職業訓練、就職指導、フォロー 年に施行された障害者法定雇用制度は従業員 200 名 アップなどであり各部門別活動業務は次のとおり。 以上の企業に対して 200 名につき 1 名の障害者雇用 1)職業リハビリテーション部門 が義務付けられたものだが、当該企業のおよそ 8% ・ 職業評価・ガイダンス課においては、入所生募 しか障害者を雇用せず,約 30%の企業は補償金を障 集業務、入所選考時や入所後における職業能力 害者リハビリテーション基金に納付することで雇 評価、入所時相談、職業相談、生活相談、入所 用を逃れ,その他過半数の企業は法律を遵守してい 決定、入所オリエンテーション、訓練コース決 ないという障害者雇用の現状からすれば、驚異的な 定、各種情報の収集、入所生に関する記録の作 就職率実績を残している。(表 1) 成と保管。 ・ 職業訓練課においては、①主に復職を目的とし 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 た労災被災者のための職業準備コース(主とし (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ てワークショップにおける生産物・現実的な各 入所者のうち、機能維持・回復訓練が必要と判断 種の作業場面を設定し、その作業を通じて職業 された者には、医学的リハビリテーションサービス 適応能力の向上を図るための訓練コースで標準 (理学療法および作業療法)を提供する。医学的治療 訓練期間は 4 ヶ月。)と、②自営や新規就職を目 は終わったとして認められた者だけが入所者とな 指す入所生のための職業訓練コース(原則とし りうることができるとする建前からすれば、IRC に て中卒以上の教育を受けたものを対象にして自 とって医学的リハビリテーションサービスはあま 営開業による職業的自立を図るための訓練コー り必要がないはずであった。つまり、IRC における スで標準訓練期間 12 ヶ月。)がある。 障害者に対するサービスは、あくまで職業リハビリ テーションを中心としつつ、付加的に医学的リハビ 表1 労災リハビリテーションセンターの実績 (1985∼2000 年) 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 合計 入所者数(人) 53 83 120 192 159 179 192 198 207 196 170 185 183 180 155 187 2,639 ・医療リハビリ 48 82 118 189 158 175 186 184 202 188 170 185 183 180 155 187 2,590 ・職業準備訓練 34 47 68 202 155 191 196 179 183 173 158 169 171 149 134 163 2,372 ・職業訓練 21 23 36 59 45 37 52 39 36 70 53 59 56 66 82 69 803 就職者数(人) 13 62 108 132 157 186 153 155 172 163 126 218 196 159 157 176 2,333 ・前職場復帰 10 33 70 83 91 127 100 105 109 85 58 120 105 92 103 93 1,384 ・新職場就職 2 18 10 7 24 33 32 24 24 38 23 36 22 8 9 12 322 ・自営 1 11 28 42 42 26 21 26 39 40 45 62 69 59 45 71 627 58 事例 12 リテーションを行うということであった。しかし、 (2)訓練等の計画と準備 現実はその予想とは大きく異なり、入所者の実に 1985 年開所時の職業準備コースとして機械、金工 98%が医学的リハビリを必要とした結果となって および木工作業が選ばれたのは、これらがタイにお いる。当初の計画を変更し、医療スタッフの強化、 ける労災事故多発業種に関連するもので、入所者の 入所者の医療履歴情報入手、義肢装具スタッフの強 現職復帰を促進するには、こうした作業を通してそ 化を促すこととなった。これは一般の国民が受けら の職業適応能力の向上をはかる必要があるからで れる医療制度・レベルの低さに大きく起因している あった。また、職業訓練コースとして家庭用電気製 といえる。 品の修理および洋裁が選定されたのは、公共福祉局 いずれにしても、IRC の設立目的は労災被災者の が設置した既存の職業リハビリテーションセンタ 職業的自立を図ることであり、そのために障害者の ー等における訓練職種として、男子では前者が、女 ための効果的な職業訓練を維持・運営することは 子では後者が最も人気のある職種であり、かつ、こ IRC にとって重要かつ不可欠な課題であることにか れらの職種での自営開業が現実的にも十分可能で わりはない。 あること等の理由によるものであった。(表 2) 2000 年 5 月に私が IRC に赴任した当時の職業訓練 コースとしては、開所以来から実施の家電修理およ 表 2 開所当初の訓練計画(1985 年) 職業準備コース コース名 び洋裁に加えて 13 コース増加した結果となってい 職業訓練コース 訓練期間(月) コース名 た。(表 3) 訓練期間(月) 1.機械加工 4 1.家電修理 12 その増加分の内 11 コースは、1988 年ごろに追加 2.金工 4 2.洋裁 12 されたもので自営開業しやすい訓練職種として再 3.木工 4 編された。 4.組立 4 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 5.事務 4 1984 年から 1989 年に医学的リハビリテーション 6.手工芸 4 部門 7 名、職業リハビリテーション指導員 10 名の 本邦研修受入、長期派遣専門家 14 名、短期派遣専 表 3 最近の訓練計画(2000 年) 職業準備コース コース名 門家 13 名の派遣による技術移転が行われ、その後 職業訓練コース 訓練期間(月) コース名 訓練期間(月) も 1992 年まで小エンジンコースや冷凍空調コース 1.機械加工 4 1.機械加工 10 及び義肢装具分野の技術移転が進んだ。その後 7 年 2.金工 4 2.板金塗装 5 間のブランクを経て 2000 年 5 月から 2 年間、訓練 3.木工 4 3.ガス溶接 6 カリキュラムの見直しと、地域労災リハビリテーシ 4.組立 4 4.MIG 溶接 1.5 ョンセンターの設立に係る技術的コンサルテーシ 5.事務 4 5.木工家具 9 ョンの目的で長期派遣専門家として私が派遣され 6.手工芸 4 6.木製工芸 6 た。 7.単車修理 4 7.小エンジン 4 (a)カリキュラムの見直し 8.事務 4 職業リハビリテーション部門の職業訓練指導員 9.タイピング 3 に対してカリキュラム開発の手法に係る指導を行 10.軽印刷 3 い、人材ニーズ及び訓練生の希望・能力等にバラン 11.電子機器修理 12 スのとれた効果的職業リハビリテーションの実現 12.家電修理 6 を図ることとし、下記分野の訓練カリキュラム開発 13.冷凍空調 6 手法を指導した。 14.洋裁 12 ・ 職業準備 15.縫製 3 ・ 職業訓練 ・ 修了生技能向上訓練 ・ 地域センター指導員技能向上訓練 59 事例 12 また、教材開発方法を本センター指導員に指導し このようなことから、タイ国労働社会福祉省社会 ながら、かつ必要性のある分野に係る教材開発を下 保険局(SSO)が今般計画した 4 地域センター設置 5 記の手順に従って指導した。 ヵ年計画であり、地方へのリハビリテーションサー ・ 視聴覚教材の作成が必要な課題の洗い出し ビスの拡張は必然性と緊急性が非常に高いと言え ・ 選定した課題に係る視聴覚教材の作成計画の策定 る。ただし、IRC が現在まで培ってきた自らの施設 ・ 作成計画に基づいた視聴覚教材の作成 の運営管理のみならず、その中央機関としての機能 元の職場に復帰する場合、新規職場に就職する場 (職員研修、新規事業の企画立案、地方性を生かし 合、自営開業する場合いずれにおいてもタイ国で大 たリハビリテーション手法の開拓、教材開発等)を 変役に立つタイ国の国家技能検定の資格取得に各 充実したものにしていかなければ、この計画が絵に 訓練の訓練目標レベルを合わせ、それに応じた訓練 描いた餅に成りかねない。そこで、次に示す行動計 内容にするためカリキュラム変更を検討した。また、 画を立案し、調査研究企画部門調査企画担当官や統 IRC 卒業生が復帰した職場で安全衛生指導員として 計担当官と共に実施することとした。 の役割も期待されるので、各訓練コースにおける安 ①カリキュラム開発(中央地区:ラヨンセンター用) 全衛生の確保のための作業方法について訓練内容 a.職業準備 に盛り込むことを指導した。具体的には、電子機器 b.職業訓練 修理コースのカリキュラムにおけるラジオ・テレビ ②新任職員研修計画 修理士 3 級レベル内容の追加、事務コースのカリキ ③機材等の設置・調整 ュラムにおけるパソコンビジネスアプリケーショ ④地域企業回り(周知活動) ン利用技術(Word, Excel, Access, Power Point)分 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 野の充実、小エンジンコースでの安全作業の追加な タイ国からの協力要請から約 10 年後の 1992 年に どである。 は IRC としての組織と運営は基本的に確立した。そ (b)地域版 IRC センター(ラヨン)運営準備 の後、IRC はその組織を 2001 年現在で職員 96 人に 労災に被災しても、家族の生活維持のため一日も まで成長し、今後は地域に地方版 IRC の設立を計画 早く仕事に復帰を余儀なくされている人が多い。こ するに至っている。ただし、IRC はリハビリテーシ とさら、地方から IRC のリハビリテーションサービ ョンサービスを提供する組織として立派に維持・運 スを受けに来るための旅費は彼らにとって大きな 営されてきたが、今後とも、タイ国において地方版 経済的負担となる。入所者の中には、リハビリテー IRC を技術的に支え、デモンストレーションセンタ ションサービスとして義肢義足の装具を作っても ー的役割を担う機能が要求されている。 らうだけで早期の帰郷を望む者も多い。また離婚率 IRC がいわゆる中央版 IRC に生まれ変わりその訓 が高い。 表4 練等の定着や継続を支援することを目的に 2000 年 5 1999年 地 月に私が長期専門家として派遣された。派遣期間の 地区別労災被災者数と IRC入所率 域 中で一番時間を要したが、現行の訓練内容を把握す 2000年 永久一部 るため各訓練の担当指導員にインタビュー形式で 永久一部 入所 入所 者数 率 障害被災 入所 入所 者数 率 聴取したことである。全ての職業訓練指導員がタイ 障害被災 者数 語しか通じないので英語がわかる調査研究企画部 者数 門調査企画担当官の通訳が必要で、英語による技術 バンコク 2,239 108 5% 2,290 130 6% 中央地区 677 12 2% 739 16 2% 大変な時間を要する結果となった。ただし、その活 北方地区 150 2 1% 162 8 5% 動の中で、技能検定の資格基準内容を確認し、どの 北東地区 149 16 11% 149 20 13% 様にカリキュラム変更を行うか、また、安全作業を 南地区 181 3 2% 167 3 2% どの様に盛り込むかについて各担当指導員一人一 3,396 141 4% 3,507 177 5% 人に理解してもらうことができたと思う。また、カ 的専門用語を説明しながら内容確認を行ったため 首都圏 合 計 リキュラムの変更が実際の訓練に反映することを 60 事例 12 確認管理し、しいては改編カリキュラムの定着と訓 就職率も 88%と非常に高く維持されている。つまり、 練改善の継続に資するためにも、訓練課長及び調査 このプロジェクトの稼働率は 100%近くで運営され 研究企画部門調査企画担当官には訓練管理手法と てきているといえる。また、全国のリハビリテーシ しての訓練管理サイクル(計画、実行、評価、対策) ョンサービスを必要とする労災被災者に応えるた の考え方を確認し、訓練日誌の重要性(教材・機材 め、タイ国政府(SSO)は自費でこのプロジェクトの の管理、受講生の出欠・理解管理、指導員・指導方 拡張計画実施(2000 年から地方版 IRC センター建設 法・指導案の項目内容等管理のため)を理解しても 5 ヵ年計画)に動き始めている。これは、技術移転さ らいその導入と提出・保管方法をフィリピンの れた手法が本来の意味で現地に定着・発展し始めた NITVET(国家技術職業教育研究所)プロジェクトで開 と評価できる。 発された TMC(Training Management Cycle)手法の一 (b)分野別評価の概要 部を利用して提案した。 1)職業リハビリテーション部門 また、タイ国中央地区の地域版 IRC センター(ラ 職業評価、職業コンサルテーション分野について ヨン)設置準備のための諸業務計画は、IRC 調査研究 の基本的技術は移転完了し定着している。職業準備、 企画部門の調査企画担当官及び統計担当官などの 職業訓練分野では、職業訓練指導員の指導能力は十 職員と企画し、用地選定、周りの病院・職業訓練所・ 分習得されている。ただし、カリキュラム開発およ 企業等の調査、訓練計画立案、訓練機材リストアッ び訓練管理については、その手法の定着はこれから プ等を実施した。所長には今後同部門の拡張の必要 であり、地域版 IRC の訓練企画と新規採用指導員の 性を理解していただき、また、他の地域センターの 新任教育などの機能を担うためにも今後も断続的 設立準備作業に備えることとした。また、地域版 IRC な短期の技術協力が必要である。 センター自身がリハビリテーション業務の進捗状 2)医療リハビリテーション部門 況を把握するための手法例として「身体障害者の就 理学療法士や作業療法士については職員が修士 業レディネスに関する調査票」(障害者職業総合セ 号取得を目標としてがんばっている。基本的技術移 ンター[NIVR]開発)を紹介し、中央版 IRC が行う地 転は完了している。また、義肢装具士については技 域版 IRC センターへの業務支援の一つとして位置づ 術的に外部から大変評価を得ており、日本的技術の け、IRC 版の入所者の就業レディネスチェックリス 移転は完了している。ただし、今後は地域版 IRC の ト作成とそのリスト内容の更新改善のための信憑 新規採用職員の新任訓練機能を担う準備が必要と 性検査法(NIVR 開発)の検討を提案した。 なる。 調査企画担当官、視聴覚担当官、事務コースのパ 3)調査研究企画部門 ソコン担当指導員等と、インターネット上の IRC 紹 中央版 IRC の機能はこの部門が統括する必要があ 介ホームページ(http://www.irc.sso.go.th/info/ るが継続的な技術協力が必要である。 internationaltrainingcourse.htm)および IRC 紹介 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 用パンフレットを作成するプロジェクトを企画し、 立発展性 作成した。これは、地域の社会保障事務所などで働 (a)国内外からの医療リハビリテーション実習生受入 く職員が IRC で行っている業務が具体的にどんなも IRC は、タイ国内の多くの障害者支援関係団体 のであり、そのサービスが必要な労災被災者に的確 (NGO、学校、公的機関等)の設立や運営に際し、 に紹介してもらうことを期待したものである。 その障害者支援分野の先駆者として関係情報を提 供してきた経緯があり、現在も複数の大学から作業 3.プロジェクトの評価 療法士やソーシャルワーカーの実習生受入の実績 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成 がある。また、日本の専門学校からも毎年 1 人∼2 (a)センター入所状況と就業状況 人のペースで理学・介護療法士研修生を実習生とし て受け入れている。 IRC の入所者宿泊施設は 200 人が最大収容能力で (b)義肢装具共同開発プロジェクトへの参加 ありその能力ぎりぎりのところで現在まで入所生 ラチャモンコン工業大学との共同で障害者向け が収容されている。(表 1 実績参照)また、その平均 61 事例 12 義肢装具の研究開発が 1999 年 3 月から進められて Fund)と労働者補償基金(Workmen’s Compensation いる。具体的には義肢ジョイント作成・車椅子開 Fund)でその中身は、労災保険(療養費、休業補償給 発・車椅子の自動車への搭載装置開発・歩行補助具 付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、無料リ 開発等などがあげられる。 ハビリテーションサービス付与)、健康保険(本人の (c)地域版 IRC センターの設立 みが医療費補償給付の対象。妻や子供は被保険者に IRC の年間運営予算(人件費含む)は、約 22,000 バ なれない)、出産費補償、幼児扶養手当補償(本人の ーツ(約 6,600 万円)でその予算源は政府予算(一般 子供で 6 歳、2 人までが対象)、年金補償、死亡補償 会計)、労災補償基金、労働者社会保障基金などか などから成り立っている。公共保健省が実施してい ら成っている。また、中央地区(ラヨン)地域版 IRC る簡易健康保険制度があるが簡単な治療のみが対 センター建設費は 47,489,340 バーツ(約 1 億 4 千万 象で手術・入院等の多額な費用は対象とならないの 円)と発表された。現在、北東地区(コンケン)にお が現状である。 いて地域版 IRC センターが建設されている。さらに (c)リハビリテーションの長期化 今後、北方地区のチェンマイと南地区のソンクラに 入所者のリハビリテーション長期化傾向が問題 それぞれ地域版 IRC センターの着工が予定されてい となっている。これは、労災治療費の限度額が 3 万 る。タイ国政府にとって大きなプロジェクトとなっ バーツ(約 9 万円)で、多くの例が限度額以内では十 ているがこの計画が機能するための技術的サポー 分な医療が受けられないことに起因している。その ト役を IRC は任っている。 しわ寄せが IRC の医療リハビリテーションに集中し てきおり、そのため、治療時期が遅れて悪化してし 4.教訓・提言 まった例やリハビリテーション期間が長期化する (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 結果になることがあるからだ。さらに、地方の医療 (a)労災災害死傷者数 水準が低く今後の地方版 IRC センターの運営には中 タイ国の労働人口は約 3,300 万人で、その内 568 央版 IRC センターの医療リームとその地域の関係医 万人,10 万事業所が労働者補償基金(WCF)に加入し 療機関をつなぎ、医療(特に外科手術分野)にかかる ている。1999 年の年間労働災害死傷者数は約 17.2 医師間の治療処置相談が随時可能な方法を確立し、 万人(全体加入者の 3.2%)と非常に多く、過去の統 医療のレベルをある程度確保することを検討して 計をみても毎年高く推移して来ている。ちなみに日 いく必要がある。 本の労働災害死傷者数は平成 10 年度 14.8 万人(全 (d)インドシナにおけるタイの役割 体加入者の 0.3%)であり、いかにタイ国における労 タイ国は社会・経済的にインドシナの中心国とみ 災発生が多数にのぼるかが伺える。この労働災害の なすことができ、実際に周辺諸国に対して大きな影 発生を抑制するための職場における安全衛生確保 響力をもっており、障害者支援分野でも周辺諸国よ のための政策施行が必要である。 り先んじていると言われている。このため、タイ国 (b)労災被災者への保障 が中核となり、周辺国からの同分野に係る指導者を 職業リハビリ等のため職場を数ヵ月離れると、そ 研修生として受入を図るなど、障害者支援の広がり こに戻れなくなる可能性があると思い込んでしま がインドシナに期待されるところである。2001 年 7 う、労災被災者の側の雇用継続への不安および経済 月、タイ国政府が日本の協力を得て設立に着手し始 的事情(訓練を受けやすくするような訓練手当制度 めたアジア太平洋障害者センターとの連携を図り がない等の理由によりリハビリや訓練中の家族の つつ、インドシナにおける途上国間技術協力をタイ 生活費に困る)など基本的な課題は、国民一般を対 社会に根付いたものとし、相乗効果あるものとして 象とした社会保障制度(所得および医療保障制度 いくことも重要となる。 等)の整備、ならびに都市部と農村部の所得や医療 (e)医療リハビリテーションの重要性 レベルの格差などの是正もからめて解決して行く タイ国人事院は公共保健省下の施設で実施して 必要がある。タイ国では雇用保険制度はまだ存在し いる医療リハビリテーションと労働福祉省下の本 ていない。あるのは社会保障基金(Social Security IRC で実施している医療リハビリの間に違いがある 62 事例 12 のか否かについての検討に入っているという。同じ ムとなっており、プロジェクトの成功を左右するほ 業務であるなら本センターの医療リハビリ部門は どの重要なファクターに位置づけられる。このよう 公共保健省下の施設に再編するというもの。医療リ なプログラムを作り育てていくのは、プロジェクト ハビリは IRC が最終目標とする職業活動につなげる に対する現地職員の継続的熱意と力に他ならない。 ことができる身体機能補助器具の作製付与とその そして、この現地職員の継続的熱意と力を生み出す 利用方法習得および基本的作業療法に中心を置い ものは、プロジェクトの社会的意義・現状・将来展 ており、職業リハビリと併せて同施設内で同時に提 望に係る現地職員の理解度と仕事の達成感および 供することにより入所生の社会復帰目標の設定が 生活保障ではないだろうか。 入所後の早い段階から可能となり、医療リハビリ中 現地での関係機関にプロジェクトが根付くこと でも目標を持ったリハビリ意欲促進につながるも が大事であり、組織的立場を固めていくこともプロ のである。この点で、公共保健省下施設が基本的日 ジェクトの社会的定着につながるといえる。そのた 常生活行動に医療リハビリの目標を限定している めには、関係機関内現地職員の人事交流が欠かせな 点と大いに異なる。 い。特にプロジェクトの現地管理職等は、一定期間 (f)職業リハビリテーション 後に移動することを前提として明確に設定し、その IRC の職業リハビリテーション部門においては地 ための補佐役(継承予定)的ポストの配慮が必要で 方版 IRC の訓練企画と新規採用指導員の新任教育の はないだろうか。 機能を充実するため、職業訓練指導員に対してカリ キュラム開発や訓練管理手法について継続的に訓 練を受講させそれらの指導技法の定着を図ること が必要である。 (g)調査研究企画部門 IRC の調査研究企画部門においてはその中央機能 はこの部門が統括する必要がある。地方の医療体 制・職業訓練・企業等の調査、センター運営体制立 案、訓練分野の選定立案、訓練機材リストアップ等 に係る各種調査企画手法について継続的な技術協 力が必要である。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 IRC はリハビリ修了者が元の事業所に戻ることを 第一義として、事故を起こした雇用主と雇用継続補 写真 1 労災リハビリテーションセンター(IRC) 償及びその職場における仕事変更条件などを入所 労災被災者に代って根気よく交渉する仕事に加え て、何かと落ち込みがちな入所者に、再び職場に復 帰する意欲を持ってもらうためのイベントや各種 サークル活動を一緒になってサポートする仕事に 大きな比重を置いている。頻繁なイベント(催し 物・スポーツ大会・祭事)の開催、野菜作り・各種 スポーツ・音楽演奏などのサークル活動、さらには 毎朝の瞑想会(仏教への帰依によるもの)などのプ ログラムを職員一同でサポートしているのである。 労災被災者の中には労災により職場を失い、離婚・ 一家離散のケースも多く、野放しのドラッグや麻薬 などに走りやすい環境下では不可欠の IRC プログラ 写真 2 テレビ修理訓練 63 事例 13 ネパール王国におけるルンビニ・プロジェクトの実施 社団法人 日本ユネスコ協会連盟 教育文化事業部 ファイン荒井千香子 1.プロジェクトの概要 ォーマル教育2の施設として、コミュニティ学習セン (1)ユネスコ・世界寺子屋運動 ター(Community Learning Center、略称 CLC)の普及 に力を注いでいる。 日本ユネスコ協会連盟(日ユ協連)は、 ユネスコ(国 1989 年から 2004 年までに 43 カ国 1 地域で 409 プ 連教育科学文化機関)が中心になって推し進めてい 1 る「万人のための教育(Education for All:EFA) 」 ロジェクトを支援し、 約 74 万人が寺子屋で学習する に呼応し、1989 年から独自の国際協力活動「ユネス 機会を得ることができた。 現在はアジア 7 カ国(アフ コ・世界寺子屋運動」を行っている。この運動は教 ガニスタン、インド、カンボジア、ネパール、バン 育を受けられなかった成人や学校に行けない子供た グラデシュ、パキスタン、ベトナム)の僻地や農村に ちに 「学びの場=寺子屋」 での教育の機会を提供し、 寺子屋を設置し、ノンフォーマル教育(識字教育、職 地域の発展を支える人材育成を支援していくことを 業訓練など)を行い、 寺子屋がその国の教育政策に導 目的にしている。また、国内では相互の社会や文化 入され、実行に移されるように働きかけている。 について学ぶ喜びを分かち合い、ともに生きる国際 (2)プロジェクト実施の背景 社会を実現していくための、パートナーシップを醸 日本ユネスコ協会連盟は、1990 年からネパールの 成し、国際理解教育を推進している。 NGO が実施する識字教育を中心とした 37 のプロジェ 運動の名称は、江戸時代に庶民の学習の場として クトに対して支援を行ってきた。これらの支援によ 「寺子屋」が発達し、全国に識字能力を身につけた ってネパールでは約 13,300 人が教育の機会を得る 人びとが多数いたことが、後の日本の近代化の重要 ことができた。しかし、プロジェクトが単年度計画 な推進力になったと言われていることにちなみ、地 に基づき、限定された地域で NGO が実施する識字教 域社会に基盤を置いた草の根の学び舎「寺子屋」を 育に活動が限定されていたため、教育がコミュニテ 普及することをめざして名づけられた。 ィに与えるインパクトが小さかった。そのため村の 活動の対象としているのは教育の機会から遠ざけ 人々から寄せられる様々なニーズ(継続教育、 農業研 られている、都市部のスラムや遠隔地の住民、戦争 修、 共同貯金など)に継続的に応えることができなか や紛争などが原因で特に困難な状況におかれている った。 人びとである。 なかでも成人女性や就学年齢の女子、 1995 年にネパールで世界寺子屋運動支援を受け あるいは民族的、言語的、文化的マイノリティの人 ていた NGO がネパール寺子屋運動委員会というネッ びとを対象としている。 トワークを設立した。ネパール国内でコミュニティ また近年では、基礎的な読み書き計算の学習とい 学習センターとノンフォーマル教育の充実と普及を う意味での「識字教育」に留まらず、習得した識字 目的に、識字教材開発や識字教員の研修を共同で行 能力が生活改善に役立つよう、ひいては住民自身の い、成功例やノウハウを学び合い、それぞれの活動 力による地域の発展へとつながるよう、職業研修や の効率を高めるために意見の交換などを行っている。 生活向上のプログラムを導入している。そして、地 世界寺子屋運動の支援プロジェクトが実施されてい 域の住民が集い、学ぶことのできる多目的なノンフ る国で、このような寺子屋委員会のネットワークを 2 フォーマル教育とは正規の教育制度の中に位置づけられた学校教育 を意味し、ノンフォーマル教育とは正規の学校教育外において組織され る教育活動を意味する。通常、識字教育はノンフォーマル教育に含まれ るが、最近、フォーマル教育とリンクした識字教育も実施されることが多 い。(出典:「なぜ識字か:発展途上国の現状」国際基督教大学リタラシー 研究会) 1 万人のための教育(Education for All:EFA) 国連は 1990 年を「国際識字年」と定め、この年を契機に国連機関、 各国政府、NGO など関係団体が連携をとりながら 2000 年までに EFA を達成することを宣言し、国際社会における重点課題として定着する ようになった。 64 事例 13 組織したのは唯一ネパールだけである。 向にあり、ネパール語を話さない小数民族が多く住 2000 年から日ユ協連は、ネパール寺子屋運動委員 む村では識字率が低いという実態が明らかになった。 会とコミュニティ学習センターの普及とノンフォー また、就学児童年齢の約半数以下が学校に通わず、 マル教育の充実を目的としたプロジェクトの立案に 家事労働に従事していた。ルンビニ周辺にはイスラ 入り、ルパンデヒ郡と隣接するカピルバストゥ郡で ム教徒が多く、少女を学校に通わせない習慣の残る 2002 年 4 月から「ネパール・ルンビニ・プロジェク 村も多く存在した。 学校が遠い、 先生が来ないなど、 ト」を開始した。 村の子どもたちが学校に通うための環境は整ってい プロジェクト地のルパンデヒ郡とカピルバストゥ ないのである。 郡は、ネパールの首都カトマンズから西南 320 キロ (3)プロジェクトの目的と目標 に位置する。ルパンデヒ郡のルンビニはゴータマ・ ネパール・ルンビニ・プロジェクトは、2002 年 4 シッダールタ(釈尊)が生まれた聖地として、ユネス 月から 2005 年 5 月までの 3 年間実施される。 プロジ コ世界遺産にも登録されている。聖地ルンビニには ェクトの活動の柱は以下の通りである。 世界中から仏教の聖地を巡礼する人たちが多く訪れ ① 成人非識字者対象の NFE(識字教育、職業研修な る。しかし、ルンビニから 5 キロも離れていない村 ど)を通じた生活改善と収入向上 に住む人々は、広大な農地を持ちながら貧困ライン ② 非 就 学 児 童 対 象 の Out of School Children ぎりぎりの生活を送り、ルンビニが世界遺産である Program (OSP) 学校に行けない子供たちの識字 ことも、世界遺産が何かも知らずに生活していると 教育と小学校への復学促進 いう現実がある。 ③ CLC を管理・運営する村人の研修 ネパールの成人識字率(15 ‐35 才) は全体で ④ 識字教員(ファシリテーター)の研修 53.7 %である。(表 1)地域別でみると、首都カトマ ⑤ 地域住民による CLC の建設と運営 ンズやポカラなど都市が集中している盆地では ⑥ 地域の特性を生かした教材の開発 46%だが、ルンビニのある平野部では識字率は 33% ⑦ ネパール国内での CLC 活動を振興させるために にまで低下する。また、女性の識字率は男性に比べ NFE センター(教育省内)、ユネスコ・カトマンズ ると半分以下の 31%(盆地)から 20%(平野)に落ち 事務所との連携を密にし、実例を蓄積する 込む。(表 2) (4)プロジェクトの実施体制・活動内容 プロジェクトが開始された 2002 年の 4 月から 6 表 1 ネパールの識字率(6 才以上) 男 性 65.1% 月にかけて、ルンビニにプロジェクト事務所を設置 女 性 42.5% し、スタッフを公募し、雇用を決めた。並行して世 全 体 53.7% 帯調査、地域調査などのプロジェクト地域の事前調 査を行い、プロジェクト地域の現状と問題点を把握 表 2 ネパールの地域別 識字率 地 域 男 性 女 性 全 体 して、 各村のプロファイルを作成した。 調査の結果、 山 岳 43% 13% 28% 50 余りの VDC の中で識字率が最も低く、寺子屋建設 盆 地 62% 31% 46% 用地の提供者がいて、VDC からの協力体制が整って 平 野 45% 20% 33% いる 6 つの VDC を今回のプロジェクト対象地に選ん だ。対象地では実際に活動の中心となる CLC 運営委 出典:Educational Statistic of Nepal 2001 員会が設立され、村の代表や教員、農民、主婦など の男性 3 名と女性 3 名の委員が選任された。 ルンビニはインド国境の平野に位置し、ネパール 語を話さない小数民族が多く暮らす地域である。事 どうやって非識字の村人たちを勉強する気にさせ 前調査では識字率は一番高い Village Development るか。 これは識字教育の現場で直面する問題である。 Committee(略して VDC;農村開発委員会といい、最 動機を作るためには、まず女性や子どもたちのお腹 小行政単位)で 50%、一番低い村で 5%だった。ネパ を満たし、生活を豊かにすることを考えなければな ール語を話す民族が多く住む村では識字率が高い傾 らない。そのために寺子屋に通う人たちの現状と要 望に合った農業研修や共同貯金、小口融資などの収 65 事例 13 入向上につながるプログラムを同時に提供した。そ 計画を書く研修を受け、終了後に各村に帰った参加 して、文字(ネパール語)を学ぶことが必要だと自分 者は実際に村のニーズを探り、 活動計画(3 年と 1 年) たちで感じた村人たちは、勉強するようになるので を立案し、事務所に提出した。 ある。 (2)CLC 活動の宣伝 実施されるプログラムは現地の人々のニーズに応 これらの研修期間を経て、2002 年 9 月から本格的 えるような内容で構成された。また、既存の政府の にプロジェクトが実働を始めた。最初に村で実施さ 識字教科書とカリキュラムを各地域の抱える問題に れたのは、プロジェクトを村人たちに宣伝するため 応じた学習カリキュラムへ調整して授業を行ってい のプログラムだ。 る。なぜならば、政府の教科書は山岳地域の生活を 9 月 5 日、パタリヤ CLC では「ティージ」と呼ばれ 基準に構成されているために、平野部の生活にはそ るネパールの女性のお祭りで音楽祭を開催し、これ ぐわない内容や言葉が含まれているからである。ま から始まる CLC での活動について村人に知らせた。 た、それぞれのプログラムには、事前にスタッフの 多くの参加者たちが健康や識字をテーマとした歌を 訓練と入念な準備が行われ、日ユ協連による指導、 歌い、優秀者には賞が贈られた。またプロジェクト 評価、チェックもされている。 事務所が購入した苗木を小学校の校庭や役場の前庭 プロジェクト予算は 3 年間で約 7000 万円。2002 に CLC 運営委員が植林した。 年 度 の 事 業 費 は 24,779,000 円 、 2003 年 度 は 9 月 8 日の国際識字デーにはマドバニ CLC で告知 22,343,000 円である。 イベントを実施。「識字教育、それは所得向上のた めの第1歩」というスローガンを多くの村人に紹介 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 した。CLC 運営委員をはじめ、農民、教員、学生な (1)プロジェクト・スタッフの育成 ど多くの村人がイベントに参加し、イベントの様子 2002 年 7 月、8 月に事務所に勤務するプロジェク は地元の新聞にも掲載された。同日、ルンビニ FM ト・スタッフに対する 10 日間の研修を 2 回行った。 ラジオ放送でプロジェクトを紹介する1時間番組が 目的は、プロジェクトの目的と活動内容を共有し、 放送された。放送では事前調査の結果やこれからの CLC の概念を学ぶことである。また、研修を実施す 活動内容と活動地域を紹介し、多くの人の参加を呼 る際の方法論、活動のモニタリング、評価の方法と びかけた。 注意点、村人とのグループ・ディスカッションの方 フリカ CLC では CLC の紹介をかねて、フリカ健康 法と注意点、報告書の書き方などが主な研修内容で センターの協力を得てポリオ根絶運動を展開し、2 あった。 日間で約 200 人の 5 歳未満児がポリオワクチンを受 8 月には CLC 運営委員と CLC の運営に携わる村人 けた。 を対象にプロジェクトの目的説明を兼ねた研修が行 このように、村祭りや既に実施されている活動と われ、6 つのセンターから計 124 名が参加した。こ 協同して、新しい CLC 活動を広く多くの人に知って の研修の主な内容は、 CLC の概念、 CLC の運営・ 管理、 もらい、参加を呼びかけたことが CLC 活動の定着と ニーズの探り方、地元のニーズに基づいた活動計画 村の認知を得る結果となった。 の立て方、地元リソースの活用方法、プログラムの (3)職業グループ作りと研修 実施方法、業務文書・プロポーザル・報告書などの 2002 年 10 月からは各 CLC のニーズに基づいて 38 書き方、地域の教育局・農業局・NGO などとの協力 の職業別のグループが作られ、606 名が参加してい 体制とネットワーク作りである。研修には地域の教 る。野菜栽培、マッシュルーム栽培、養鶏、水牛飼 育局・農業局・NGO の職員が講師として参加し、提 育、魚の養殖、養蜂、貯金とローンが主なグループ 供できるサービスや人材について説明を行なった。 の活動である。各 VDC でグループに参加したい農民 また研修では、 事前調査の結果を参加者と共有し、 を募り、1 グループ約 20 名の農民が登録している。 村が抱えている問題を認識し、問題に優先順位を付 これらのグループを対象に職業別の研修が行われた。 け、解決策について話し合った。そして、自分たち ルンビニ周辺に住む農民は雨期を利用した稲作、 の村で実施する 3 年間の中期活動計画と 1 年の活動 麦作と野菜栽培で生計を立てている。多くの村には 66 事例 13 近代的な灌漑施設がなく、農民は水牛や人力で畑を 点と有益だった点、実践している研修内容、さらに 耕し、肥料や種に関する知識が乏しかった。不安定 必要な研修内容について意見が交換された。 な農作物の生産は家計を直撃していた。それゆえに 習得した知識と技術をさらに高め、活用するため 職業研修は、成人向けプログラムの中で識字教育と に、 グループは地域の農業局や野菜集積所を訪問し、 同じ重点を置いて実践された。主たる収入源である 協同組合を組織する準備を始めている。また、お互 農業からの収入が安定することは、村の人々にとっ いの畑を訪問して成功例や失敗例を学びあうことも て一番プロジェクトの成果を実感できることでもあ 新しい取り組みである。今まで他の畑でどのような った。 農作をしているかを知らなかった農民にとってこの 次に、職業グループの中でも一番メンバーが多い 相互訪問研修は大変参考になるという意見を聞いた。 野菜栽培グループの農業研修について紹介する。 農業研修は 2 ヶ月に 1 回の割合で実施されており、 (a)職業研修:農業研修(野菜栽培グループ) 2004 年 9 月現在で、のべ 896 名が研修を受けた。 2002 年 12 月から 2003 年 1 月にかけて、野菜栽培 研修を行っている農業局の職員も野菜栽培グルー グループのメンバー123 名を対象に 3 日から 5 日間 プが村にできたことを歓迎している。以前は研修を の研修を実施した。講師は農業局や地元で活動する 行っても個人対象だったため成果が見えず、効果が 農業関連 NGO の IDE (International Development 表れにくかった。しかしグループ結成後は、目的意 Enterprises) Nepal から招いた。研修では季節外野 識をもった農民に継続して研修を行い、グループの 菜の栽培、よい種の選び方と種まきの時期、有機肥 ニーズや問題に則した対応ができるようになった。 料の作り方、苗床の作り方、価格設定方法などを学 (b)事例:ラジャプールの Mr. and Mrs.グループ び、メンバーの畑で実地研修が行われた。また研修 ラジャプール VDC の CLC 運営委員会の委員が村を では低コスト(4000 ネパールルピー、約 6000 円)で 訪れ、これから始まる CLC での活動と識字教室につ 簡単に畑に設置できる足踏み式の灌漑ポンプ(写真 いて村人たちに話して回った。しかし、村人を集め 3)が紹介された。地元で「ティキポンプ」と呼ばれ ても来るのは男性ばかりで、女性はほとんど来なか る足踏み式の灌漑ポンプはルンビニの村で大流行し、 った。そこで運営委員会は別の方法を試した。村の 農業研修に参加したメンバーのほとんどがローンを 男性に夫婦のみが会員になれる Mr. and Mrs.グルー 使ってティキポンプを自分の畑に作り、自由に畑に プを作らないかと話を持ちかけた。男性は家に戻っ 水を引けるようになった。 て妻に CLC やグループ、識字教室のことを話した。 今まで我流に近かった野菜栽培は、短期間の研修 妻たちもグループ会員になることを承知し、夫婦 10 と灌漑ポンプの設置で飛躍的な成長を遂げている。 組が参加して Mr. and Mrs.グループが結成された。 ティキポンプのある畑は野菜の育ちが良く、青々と グループメンバーは活動の目的や受けたい研修に した畑に変わった。道路には「ティキポンプを使お ついて話し合い、野菜栽培の研修を受けることに決 う。 簡単に作れるティキポンプ!」 の看板が作られ、 めた。農業研修後、自分たちの畑で習得した知識や 村をあげて広報活動が活発になった。現在 172 基が 技術を活用して野菜の栽培を始め、灌漑用足踏みポ 6 つの VDC に設置されている。また、研修を受けた ンプも畑に設置した。 農家では収穫高が1シーズン、313 平方メートルで 非識字者だった妻たちは、研修を受けても読み書 2000∼3000 ネパールルピー(約 3000∼4500 円)か きができないために内容がよく理解できないという ら 7000∼8000 ネパールルピー (約 10500∼12000 円) 問題を抱えていた。そこで妻たちは村の識字教室に に増加している。 通い始めた。9 ヶ月間識字教室でネパール語を学習 さらに、職業グループのメンバー(職業訓練を受 し、生活、社会、保健衛生、農業などについて知識 けた村人たち)を対象として、2003 年 3 月に収入の を吸収した女性たちは大きく変わった。畑仕事を手 向上と安定のための貯金とローンの研修を 3 日間行 伝って当たり前だった妻の立場も一変した。妻たち った。この研修では、収入の一部をグループで毎週 は話合いでは自分の意見を述べ、収穫の管理や貯金 定額貯金し、必要に応じてメンバーにローンする仕 の計算を行い、市場に出かけて野菜を売り、グルー 組みについて学んだ。また、研修を受けた際の問題 プメンバーの一員として責任を持って家族(夫)と一 67 事例 13 緒に畑で働くようになったのである。夫も妻の役割 たちで立ち上がる力を与えてくれる。そしてまた と責任を認識するようになった。メンバーの農業収 CLC は、生活を向上させるための知識と理解を与え 入は3ヶ月間で平均8000∼10000ネパールルピー(約 てくれる。世界寺子屋運動の精神がネパールの平和 12000∼15000 円)に上昇した。グループは共同口座 と繁栄のために各地で根づいてくれることを心から を銀行に開き、収入の一部を毎月貯金している。メ 願う。 ンバーはグループを地域の農業局に登録し、農業サ ービスや技術的サポートが簡単に受けられるように なった。研修の時には無料で野菜の種や EM(有用微 生物群)をもらえる。そして、最も重要な変化は、妻 たちが教育の必要性を実感し、子供たちを識字教室 に通わせるようなったことだ。経済的に余裕のある 家は小学校に通わせるようにもなった。 3.終わりに CLC が村にやってきてから多くの変化が起きてい る。村人たちは自分たちが識字教育によってエンパ ワー(力をつけること)されたことを実感している。 2 年前に「識字なんて必要ない」と言っていた親のほ とんどが、今は子供を教室に通わせている。学びた 写真 1 識字教室で学ぶ女性たち いという意欲は村中にあふれている。識字者になる ことは誇りでもあるのだ。職業訓練プログラムを通 じて、村人たちは学ぶことの大切さを実感した。自 我流の農作から脱却し、正しい知識と技術に基づく 計画された農業を実践できるようになったのである。 グループで一緒に働く喜び、そして何より収入が増 える喜びを村人たちは心から喜んでいる。 ネパールでは、2002 年 5 月にネパール議会が解散 して以来、議会不在の状態が続き、政治の混乱も解 決していない。2003 年 8 月にマオイスト(立憲君主 制の廃止、 共和制の確立を標榜する反政府組織)が停 戦合意を一方的に破棄して以降、反政府活動が活発 写真 2 農業研修で有機肥料の作り方を学んでいる 化し、武装闘争が散発的に起こり、約 1 万人が死亡 している。バンダと称するゼネストによって交通網 が麻痺し、 国内の物流にも影響が出ている。 しかし、 ルンビニのプロジェクト地の村人たちは政府側にも マオイスト側にもつかず、コミュニティ全体の利益 のために CLC での活動を続けている。マオイストも CLC での活動には干渉してこない。村人たちはコミ ュニティの活動と財産を守り、マオイストを追い払 っていると頼もしく語ってくれる。 CLC は、草の根の人々に教育の機会を提供し、そ こで学ぶ人々の結束する力を培い、地域社会の成長 と発展の基礎になる施設である。CLC は人々に自分 写真 3 足踏み灌漑用ポンプ(ティキポンプ) 68 事例 14 フェアトレードで支援する途上国の生産プロジェクト フェアトレードカンパニー株式会社/グローバル・ヴィレッジ 広報ディレクター 1.はじめに たねもり 胤森 なお子 ストによって決められ、貧しい人々はなかなか貧困 フェアトレードカンパニー株式会社(FTCo)は、途 から抜け出すことができない。 上国支援と環境保護の NGO「グローバル・ヴィレッ カドゥギ氏はまず、 アメリカの財団の助成を受け、 ジ」 のフェアトレード事業部門として 1995 年に設立 最下層カーストの「ポデ」の人々のために、子ども された会社組織である。アジア、アフリカ、南米 20 たちを寺院に集めて食糧や衣料品を配布しながら衛 ヶ国の 70 団体とパートナーシップを組み、 現地で採 生などの知識を広めるプログラムを開始した。しか れる原料や伝統技術を活かした衣料品や雑貨を開発 し、子どもたちが知識をつけることに親が理解を示 し、日本に輸入、販売している。 さず、プログラムは難航した。そこで、貧困の根を FTCo の生産者パートナーは、現地で地域開発のプ 絶つにはまず親たちの教育が必要であると、大人向 ロジェクトを行う NGO や小規模農民の共同組合、手 けの識字プログラムも開始した。 工芸職人の収入向上を目的に活動するマーケティン ここでも、識字教室の会場となった寺に被差別カ グ組織などである。フェアトレードの生産者パート ーストの人々が出入りすることに対し、地元の警察 ナーは、 収入の手段を持っていない人々(例えば農村 や行政から嫌がらせを受けるなど様々な困難に直面 の女性や少数民族、被差別カースト、体の不自由な したものの、活動に理解を示したノルウェーの慈善 人など)が仕事ができるように技術研修を行うばか 団体からの新たな資金援助やスタッフの努力により、 りでなく、医療・衛生プログラムや学校を運営する 次第に社会福祉、教育、職業・技術訓練の 3 つの活 など、収入向上のみならず地域全体の生活改善に貢 動の基盤が築かれていった。 献している。こういったパートナー団体と共に、そ (2)学校運営と職業訓練 の地域で持続的に調達できる原料と生産者の人々が 現在、KTS は地域の子ども達のための保育所と小 持つ技術や地域の伝統を用いて、日本の消費者が求 学校、そして孤児を養護する寮を運営している。学 める高品質でデザイン性、実用性に優れた製品を作 校には、2 歳から 12 歳までの子ども達が、カースト ることができるよう橋渡しをするのが、FTCo のよう を問わず無料で通っている。10 人の常勤教師のもと なフェアトレード団体の役割である。 で、 8 つの教室に別れて学ぶ生徒は 250 人、 その 55% 本稿では、途上国の職業訓練の事例として、FTCo 以上が女児である。また寮では、24 人の子ども達が の生産者パートナーのひとつ、ネパールの「クムベ 暮らしを共にしながら、KTS の小学校に通ったり、 シュワール職業学校」 (以下、 KTS)の活動を紹介する。 資金援助を受けて地元の高校で学んでいる。KTS の 活動が地域の信頼を得るにつれ、警官や福祉団体の 2.プロジェクトの概要 職員などが、路上や廃屋で暮らす孤児達を保護して (1)活動の始まりと発展 ここに連れてくるようになった。 カトマンズ渓谷の主要都市パタンにある KTS は、 さらに、KTS の職業訓練学校では、貧しさのため 1983 年、地元出身の元州議員であるシディ・バハト 十分な教育を受けられず仕事に就けない人や、一人 ゥール・カドゥギ氏により設立された。シヴァ神を で子どもを育てたり夫を亡くして経済的な支えを失 祭る有名なクムベシュワール寺院を中心としたこの った女性達が学んでいる。 「木工」 「カーペット織り」 、 、 地区は、先住民族である低層カーストの人々が、清 「手編み」の 3 分野で実践的な訓練が行われ、毎年 掃夫や屠殺業者、小規模農家、あるいは日雇い労働 50 名が巣立っている。卒業後は、町の作業所や KTS や金持ちの運転手などの仕事で生計を立てている貧 で仕事を見つけたり、あるいは自ら事業を起こすな しい地域である。古い因習のもとでは、職業がカー ど、ほとんどの卒業生が仕事に就いている。 69 事例 14 (3)KTS の生産部門とフェアトレード ナ・ブジュラチャルヤ氏を日本に招いた。日本のブ KTS は、学校や福祉プログラムを援助のみに頼ら ティックや百貨店を見学したり、フェアトレード商 ず自主運営することを目指し、職業訓練学校で教え 品を販売する小売店のバイヤーと意見交換すること ている 3 分野の生産部門を発足させた。木工製品は で、日本の消費者が求める製品のアイディアを得た ネパール国内のみの販売であるが、カーペットとニ り品質の大切さを認識してもらうことが目的である。 ット製品については海外に輸出している。輸出相手 また同時に、両氏をスピーカーとしてセミナーを行 の大半は日本や欧米のフェアトレード団体であるが、 い、フェアトレード製品を買うことが KTS のような 2000 年に FTCo との取引が始まるまでは欧米の団体 プロジェクトを支えることにつながっていると、多 からの発注に頼っていた。欧米の団体はデザインや くの消費者に伝えた。このように密接なパートナー 品質についての要求を一切せず、市場に合わせた商 シップを築き、商品開発と消費者への啓発を同時に 品開発をほとんどしなかったため需要を伸ばすこと 進めることで、日本でのフェアトレードの認知度は ができず、発注がだんだん先細りになり KTS は財政 着実に高まっている。 的な危機に陥った。 FTCo は、フェアトレードの国際的なネットワーク 4.今後の課題 である IFAT(国際フェアトレード連盟)を通じて KTS フェアトレードは、生産者に収入の機会を提供す からニット製品の取引について引き合いを受けた。 ることを目的としているが、そのためにはフェアト しかしながら、フェアトレードやチャリティが比較 レード製品の市場を広げなければならない。貧困に 的広く社会に受け入れられている欧米と比べ、フェ 苦しみフェアトレードを必要としている生産者の需 アトレードに対する認知度が低い日本では、まずは 要に対し、フェアトレード製品を購入したいという デザインや品質を向上させなければ消費者の支持を 消費者の需要はまだ不十分である。KTS に限らず、 受けることができない。そこで FTCo は、原料の毛糸 生産者団体はいずれも「年間を通じて安定した仕事 の厳選や技術の向上、品質管理の徹底などを KTS に の供給を」と望んでいる。日本の消費者に受け入れ 求めた。当初はあまりにも高い水準を求める FTCo られる製品を作るためには、前述のとおりデザイン に対して KTS の生産者たちの理解がなかなか得られ や品質の高さが必須であるが、途上国の貧困地域や なかったが、品質やデザインの向上につれて FTCo 農村など、限られた原料と技術でそれを達成するこ からの発注量が増えると、KTS の生産者たちも次第 とは容易ではない。 に協力的になっていった。FTCo は現在、KTS にとっ また、フェアトレードでは、生産者団体が原料調 て売上の 42%を発注する最大顧客となっている。 達の資金を持たない場合、発注と同時に代金の半額 を前払いするが、その資金調達のリスクはすべてフ 3.プロジェクトの評価 ェアトレード団体が負うことになる。FTCo は、2000 KTS は、 今や活動運営費の 90%以上を製品の売上に 年から 3 年連続でわずかながら黒字を達成してはい よってまかなっている。ニット製品作りの仕事を担 るものの、キャッシュフローは常に厳しい。 うのは、約 700 名の女性たちであり、FTCo の注文に 一方で、国際協力活動に対する助成金制度は、そ よって年間の半分は収入が確保できるようになった。 のほとんどが現地プロジェクトを直接支援すること FTCo は KTS に対して継続的な発注を約束し、毎年新 を前提としており、FTCo が生産者支援のために投入 たな商品を開発している。また、FTCo の商品開発ス しているスタッフの人件費などは対象とならない。 タッフが年 1 回現地を訪れ、不良品が発生した場合 フェアトレードが、利潤のみを目的とした商業活動 には、なぜそれが日本の市場で受け入れられないか ではなく社会的なプロジェクトであることがもっと を直に説明して品質改善を求めたり、新たな商品の 認知され、資金面、活動面でサポートするような機 アイディアとなるトレンドや市場の情報を提供して 関の設立や制度の整備が求められる。 いる。 2004 年 9 月には、KTS のディレクターであるキラ ン・カドゥギ氏と、ニット・コーディネーターのリ 70 事例 14 写真 1 KTS が運営する小学校の授業風景 写真 3 KTS で生活の基盤を築いた家族 ジャヤンティ・ラマさん(右)は、KTS で 2 年間 カーペット織りの仕事をし、無利息の融資を受 けて 8 年前に家を建てた。夫のニマ・ナルマさ ん(左)はKTSで5年間家具作りの経験を積んだ 後、自分で事業を始めた。二人の娘エリンシャ (中央)は KTS 小学校に通う。 写真 2 編み手のひとり、ラクシュミさん 父を亡くし、家族を支えるためにこの仕事を始 めた。KTS を通じて製品の注文を受け、自宅で 仕事をする。 71 事例 15 ネパール・ランタン村における水力発電利用プロジェクトの実施 ランタンプラン 代表 貞兼綾子 1.プロジェクトの概要 は猛反対し、大パニックに陥った。ランタン村村長 (1)プロジェクト実施の背景 が私たち日本の研究者たちに協力を求めてきたのは プロジェクトの実施場所であるランタン村は、ネ この時である。私たちは、1985∼86 年の 1 年間、ラ パールの首都カトマンドゥのほぼ真北、ネパール= ンタン谷の氷河・水文・気象などの自然科学の観測 ヒマラヤの褶曲した谷の一つ、ランタン谷に所在す 調査を目的にランタン谷上方に滞在していた。 る。首都から車と歩きで三日半の距離にある。全長 観光開発と環境保全というヒマラヤが抱えるジレ 40km、南北 5km の細長い谷は周縁を 5∼7000mの雪 ンマに対し、当時のネパール社会にはそれをどのよ と岩に囲まれ、住民の生活基盤は平均高度 3500mと うに調整するかという議論も施策もなく、私たちは いう厳しい自然条件におかれている。戸数約 100(人 住民の要請を「私達でできる範囲で代替エネルギー 口 520 人)の小さな共同体は 3∼400 年にわたり半農 の導入に協力する」というスタンスで、調査終了時 半牧、伝統的な高地適応型の経済社会生活を営んで の 1986 年、調査に参加した研究者を中心に「ランタ きた。 ンプラン」の立ち上げに到った。 ランタン谷は 1975 年以来、 ネパール政府の観光政 (2)プロジェクトの目的と目標 策に組み込まれ、1978 年には国立公園に指定された。 住民の多くは、薪に代わるエネルギー源として電 このことが、彼等の社会経済の形態に大きく影響を 気の導入を想定していたようであった。しかし、住 与え、とりわけ 1980 年代半ば、日本をはじめとする 民のなかには生まれて一度も電気を見たことのない アジア地域のバブル経済はこのヒマラヤ地方にも及 ものも多く、ネパールの実状からも、私たちの能力 び、空前の観光ブームを巻き起こす結果となった。 からも実現不可能であると判断していた。 ランタン谷へのトレッカーや登山隊など外部から また、可能性の一つとして水力発電を導入すると の人数は、1985 年∼90 年の間、ピーク時には 1 日に しても、中長期の時間が必要であると認識し、①性 村の総人口の 60 倍にも達した。村びとのなかには、 急な導入は避けること、②導入する技術は村びと自 このころ既に、伝統的な移動牧畜(高度 3000∼5000 身が修得できるためにもネパール製であること、③ mの間を季節移動)を放棄し、 トレッカーや登山隊相 環境保全の必要性を学ぶ場を設けること、④村びと 手の宿屋経営やサービス業に転換する者の増加傾向 の健康と文化に配慮したものであること、⑤導入さ を示していた。 れたものが、このランタン谷の外にも拡大発展でき 急激な外からの観光客の流入は、森林限界付近で る規模のものであること等を村びととの対話を重ね 暮らす村びとや森林域そのものへの直接的な圧力と ながら、プロジェクトを進めた。 なって、観光化を進める政府と環境保全を謳う国立 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 公園管理局との狭間で住民達は微妙な立場に立たさ 1987 年より現在にいたるプロジェクトの経過は、 れていた。薪と牛糞を熱エネルギー源とする村びと 発展段階的に次の三期に分けられる。 たちは、これまでは自然環境との共生をはかりなが 第 1 期:1987∼91 年 水力発電試験期間/その他の らバランスをとってきた。しかし、この観光ブーム 代替エネルギーの可能性の調査 は彼等の制御能力をはるかに超えていたのである。 ランタン村は 4 つの集落からなるが、トライアル 1980 年代半ば、国立公園管理局は森林域への人為 の場所として、夏の放牧地の起点である高度 3800m 的な圧力、つまり環境の悪化を理由に、ランタン村 上のキャンチェンを選定し、氷河の融水を利用した の住民に対し代替地を示し強制移住を通達してきた。 発電設備を設置した。 ここには宿屋と気象観測小屋、 これに対し、低地に住んだことのない高地住民たち お寺などが集中しており、電気の効用を村びとに理 72 事例 15 解してもらう為のデモンストレーション及び、水力 しての環境整備とその認識をもたせることにある一 発電機の適正規模とモデルの試験、村びとには発電 定の効果が得られたが、90 年代半ばにはホテルや宿 システムのメンテナンスを任せた。日本からは毎年 屋、キャンプサイトのサービスを専門にする者たち 1、2 名のスタッフを派遣し、設置したサイトの水量、 の間で過当競争が激しくなり、彼等の間でとりきめ 水流の測定、モデルの試験とメンテナンススタッフ た観光組合規則も有名無実のものとなった。 の指導にあたった。 発電システムの送電作業とメンテナンスは、設置 また、村びとが利用しているゴトク式の竈を熱効 時にネパールの技師から訓練を受けた。機械がネパ 率の良い改良型に変更する試みや調査を行ったが、 ール製であるため、トラブルが多く、その都度カト これは彼等の生活習慣を大幅に変えることになり、 マンドゥまで部品の調達や大型部品の持ち込み修理 実現にいたらなかった。 等に多くの労力と経費を必要とした。しかし、この 第 2 期:1994∼97 年 多目的水利利用発電(MPPU) 頻発するトラブルの為にかなり機械に習熟できたよ 設置 うである。 キャンチェンでのトライアルを通じて、本村への 第 3 期:1998∼ MPPU 拡大プロジェクト 電気の導入もソフトランディングが可能であるとい 2 年間の試験期間を経て、電気系統の熟達度と公 う感触を得て、ネパール技術による多目的水利利用 民館運営の状況から、MPPU 拡大プロジェクトを決定 発電システムの設置を決定した。但し、村の全戸に した。 これまでのシステムを最大出力 6∼8kw にする 送電する前に、電気系統の技術とメンテナンスが行 ために、落差を利用した導水管を 70mに延長し、各 えるかどうかの試験期間を 2 年間置くことにした。 家庭への送電と新たに昼間の電気を利用した地場産 この期間のプロジェクトは、パワーハウスの側に 業の育成のためのワークショップの建設計画を開始 2 つの教室と台所をもつ公民館(Community House)を した。この設置の目的は、全戸への送電から得られ 建設し、環境について学ぶ場と教育を受けられなか る収入とワークショップの経営により、LTBS の自立 った若者や主婦への夜間成人学級の開講など、教育 運営を促す点にある。 の発信基地として機能させることを目指した。若者 MPPU 拡大プロジェクトには日本から技術者と専 を 中 心 に ラ ン タ ン 公 民 館 開 発 委 員 会 (Langtang 門家の協力を得て進めた。各家庭への送電に関して Tshokhang Bikhas Sammitti、略称;LTBS)を発足さ は、電柱の位置など景観に配慮した設計、また作業 せた。MPPU プロジェクトの始動時期に、郡内の高校 の能率を考えたワークショップの建物の設計をお願 に通っていた若者たちが教育課程を終えて村に戻っ いした。地場産業の育成の為、2 名の専門家に指導 てきた時期と一致し、 彼等に公民館の運営を託した。 をお願いした。 設置した MPPU の出力は最大 6∼8kw であるが、試 設備工事は村周辺に家畜群が下降してくる時期に 験期間中は 2kw のみとし、 昼間は MPPU の水車を利用 開設できるよう着工したが、雨期の期間でもあり機 した粉引きのサービスを行い、夜間は公民館のみに 材の運搬/輸送や導水管の設置に困難をきわめ、研 送電し、夜間成人学級でネパール語、英語、算数、 修の期間を含めて 3 ヶ月を要した。ワークショップ 公衆衛生、環境学習などの授業を行った。これまで は村を望む場所に設置した。ワークショップはチー 一度も鉛筆を握ったことのない若い女性や男性を初 ズ工房(保管場所、作業所、台所)とパン工房(作業所 級、また就学中の小学生は上級のクラスに編成し、 と原料保管所)及び事務所兼の販売窓口の 6 つの部 能力に応じた授業を行った。公衆衛生や環境学習は 屋から成り、外にトイレと前庭を付設し、トレッカ 一つの教室で行われた。 ーたちがヒマラヤを眺めながら休憩できるようにデ 90 年代に入って、諸外国からも地域の女性の向上 ザインした。地場産業の一つに電気を利用したチー を支援するグループやエコツーリズムの導入を進め ズ製造を導入した理由は、従来のチーズ製造は莫大 る NGO の活動が活発になり、LTBS は彼等との共同作 な薪を消費するため、警鐘の意味と新しい手法の可 業も推進した。公民館を利用してホテルや宿屋経営 能性を喚起する目的もこめた。これまでランタン村 者、サービス業者に対してエコツーリズムの研修な の経済は 6、7 割を牧畜に依存してきた。1950 年代 どを行った。当初、これらの NGO の指導も観光地と にスイスの援助で建設されたキャンチェン・チーズ 73 事例 15 工場へのミルクの売却によって収入源を確保してき 給が間に合わず、村びと自身で別のサイトにこれま た。しかし、このチーズ製造工程は本国スイスでも での倍の能力をもつシステムの設置を決めたとの報 中止しているものである。 告を受けている。 ワークショップでは電気を使った新しいタイプの チーズ製造の導入を試みた。マーケットとして、秋 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 から初冬にかけてのトレッカーのシーズンのみの販 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置付け 売とし、天然酵母のパンやチーズ製造の過程で得ら ハードの導入以前のソフト面への配慮を優先した。 れる乳製品を使ったクッキーなども製造販売した。 公民館経営の指導者であり運営者として学校を出た このチーズとパンの製造指導のために日本から二人 ばかりの 17∼21 才の若者達を採用した。 彼等へこの の専門家の協力を得た。高地での短期研修のため、 プロジェクト設置の目的について充分な認識とその 体力と技術に加え効果的な指導が望まれたが、研修 後彼等自身で押し進める創造性などを引き出せるよ に集まった男女十数名の村びとは、1 週間の期間内 う対話を重ねてきた。そこに根付くものは彼等自身 にほぼ技術を修得することができた。これは、チー が納得し選択し広げてゆくものである。プロジェク ズについては既にミルクの取扱いに慣れていること トの鍵は人材の育成にかかっていると考える。 と、小麦粉をつかったバラエティに富んだ調理法を 知っていたことも成果の一因であると思われる。た 3.プロジェクトの評価 だ、高地であるために発酵温度が得られず、パンの (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 製造には時間がかかるという課題も残された。 日本人が代替エネルギーの導入に協力するらしい チーズ製造に関わる器具は専門家が特別に考案し という噂が先行し、強制移住の話が立ち消えになっ た日本製のものを導入した。 またパン焼き釜(大型オ たことは、村人にとっても協力者の私たちにとって ーブン)はネパール製のものをイギリスの技術援助 も幸運なことではあったが、このプロジェクトにか 団体から無償で供与されたものを設置した。 ける村びとの期待は私たちの予想をはるかにうわま 公民館、ワークショップ、電気の送電管理を LTBS わるものであった。新しい技術に対し、村びとの習 を中心に運営するために、組織を「社会福祉団体」 熟度などをはかりながらの推進は、村びとの思惑と として郡に登録させた。また、電気のトラブルや電 は異なり、多くの時間を要してしまった。しかしそ 気代の徴収に関わる問題を検討するために LTBS と の期間中に、この村から高校卒業資格を得た最初の 電気の受給者との間で話し合う電気委員会を発足さ 若者グループが育ち、彼等を通じて環境保全と観光 せた。 開発との調整という役割を託すことに一定の目的を 達したのではないかと考える。 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 表 プロジェクトの事業費 立発展性 草の根無償援助 ランタンプラン 事業 期間 1995 年∼1998 年 1987 年∼2000 年 へ続けという意識が生まれ、他の共同体でも小型発 事業費 400 万円 年間 30 万円∼200 万円 電システムの導入や低地では既存の大型ダムからの 建設・設備費 スタッフ/専門家派遣、 LTBS 運営維持支援 ・設備費 備考 ランタン村が所在するラスワ郡では、ランタン村 送電を可能にしている。ただ、電気の活用という観 点ではなく、ロウソクやオイルランプに代わる明り という認識である。 電気は彼等にとって一つの文化、 社会の発展のシンボルのようである。 本プロジェクトは、1998/99 年の設備の設置後も 定期的に報告書を提出させ、必要な場合は現地にス 4.教訓・提言 タッフを派遣するなど、自立の方向性をみてきた。 (1)プロジェクト・問題点・課題 ワークショップの完全な自立経営には到っていない 高度 3500mという立地に加え、国立公園内に所在 が、2004 年春には既に現発電システムの能力では供 するために多くの制限や規制があり、また物資/機 74 事例 15 材の輸送手段の問題、観光地であることのメリット とデメリットなど、平地では考えられない時間と労 力を必要とした。また村びとの生活環境は自然に左 右されることが多く、とりわけ観光化の過程で生じ た観光業の専業者と農牧畜の専業者との経済格差が 大きくなり、後者への支援を目標においたが、現在 ネパールの政情不安のために観光客は激減し、チー ズやパンのマーケットが求められないというジレン マを抱えている。新たな、同様の立地にある地域へ も波及効果が得られる地場産業の育成が急務である。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 写真 2 夜間識字学級に集まった若者たち 異なる文化や習慣をもつ社会へのアプローチは充 分な時間と対話が必要である。彼等の環境に適応し た生活の知恵にも学ぶものも多く、それらを活かし ながら、また持っている技術を引き上げるような訓 練であることが望まれる。 写真 3 パン工房にて 写真 4 チーズ造りの指導 写真 1 プロジェクトサイト全景 赤い屋根の公民館(上)とワークショップ(下) 。 上方にパワーハウスと全長70m の導水管。 75 事例 16 バングラデシュにおける女性の農業研修センタープロジェクト 特定非営利活動法人 国際エンゼル協会 前田 泰宏 1.プロジェクトの概要 タッフ 8 名の常勤スタッフと穀物・園芸・養鶏・酪 (1)プロジェクト実施の背景 農セクションの外部専門講師を招いて行われる非常 毎年洪水被害の多いバングラデシュにおいてガ 勤スタッフによって研修が行われます。 ジプール県は土地が他の地域に比べてわずかに高く、 研 修 の 対 象 者 は SSC(Secondary School 洪水被害も少ないところに位置しています。 そして、 Certificate:全国中学校卒業試験)合格者以上の学 灌漑設備さえしっかりしていれば非常に農業に適し 歴があり、研修終了後に実際に農業を行うことがで ている地域とも言えます。また、バングラデシュの きる土地が 3 エーカー以上ある女性にしました。 農村女性が街へ働きに出ることは社会的に難しく、 研修生は 1 クラス 30 名を限度にして、1 年もしく 女性が経済的に自立して生活できる環境にありませ は半年の研修を全寮制で行います。また、同センタ ん。そのことは女性がなかなか社会的地位を上げら ー内で行われる授業だけでなく、課外授業も取り入 れない原因になっています。そのため、離婚や夫と れて、政府による農業関係研究所や大規模な養鶏・ の死別で母と子が残された場合、経済的理由で多く 養殖を行っている施設を訪問し、最新の農業技術を の子どもは児童養護施設に預けられています。その 研修してもらいます。また、予め日時を決めて村々 ような子供たちを国際エンゼル協会は 1985 年に児 を訪問し、各農家で飼われている鶏・アヒル・牛・ 童養護施設(エンゼルホーム)を設立して預かり、バ ヤギなどの家畜の予防接種を政府の家畜事務所に勤 ングラデシュの発展に役に立つ人材の育成を目指し 務している獣医と研修生が協力して行うなど、研修 て運営に当たっています。そして、お母さんと子供 のより一層の充実を図っています。この取り組みに が一緒に生活できるようにするためには女性が経済 よって外部機関との連携が強化され、たとえ研修を 的自立への道を開かなければならないとして 1994 終えても研修生はいつでも必要なアドバイスがもら 年に女性のための農業研修センターを始めました。 えるようになっています。 (2)プロジェクトの目的と目標 また、本研修センターは全寮制ということもあっ 本研修センターを始めた目的の一つとしてバン て、バングラデシュ全土から研修生を受け入れるこ グラデシュの農村女性が農業技術を習得した後、農 とを可能にするだけでなく、各地域の情報交換も可 村に帰り実際に習得した技術を活かし、農産物から 能にし、さらに団体生活をする上で必要な整理整頓 の収入を得ることによって、女性の経済的、社会的 やしつけを指導して、社会に出ても困らない協調性 地位が向上することを目指しています。また、もう を身に付けてもらえます。 一つは、卒業した研修生たちが地域のリーダーとな って、ここで学んだことを地元に戻り実践し、収入 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 をあげて、その技術を隣人に伝え、その地域の農業 (1)訓練等の位置づけ が活性化することを目指しています。 従来、バングラデシュの農業は実践の積み重ねに (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 よる経験が重要視されており、化学肥料に頼った農 バングラデシュ首都ダッカから北西部に 30 ㎞に 業を営んでいました。しかし、化学肥料を使うこと あるガジプール県コナバリ村で 1994 年、 女性を対象 で土地が痩せていき、長い目で見ると弊害の方が大 とした農業研修センターを設立しました。同施設に きいことに気づきました。一方バイオテクノロジー は事務所のほか、2 教室、1 研究室、養鶏棟 5 棟、倉 の進歩とともに最新技術導入の必要性が高まること 庫、飼料庫、給水施設があります。ここでは調整員 で理論的な理解度も必要であると考えます。しかし 1 名・農業専門講師 1 名・会計 1 名・フィールドス ながら、実践無くして農業の発展はありません。そ 76 事例 16 こで本協会の研修センターでは講義と実習の時間的 係で自宅での農業従事者が増えています。しかし、 比率を 1:2 としてカリキュラムを作成しています。 農村女性も少し豊かになってきたのか 1 年間親元を (2)訓練等の計画と準備 離れての研修に耐えられず、途中で辞めていく研修 バングラデシュの農業従事者人口が全体の 85% 生が増えました。また、この頃から他の NGO が女性 と言われているにも関わらず、女性の農業への積極 を対象とした農業研修センターを始めるようになり、 的参加はほとんど皆無に近い状態でした。また本協 そちらは実習重視より講義を重視(農業を実践で研 会が運営している児童養護施設の多くの子どもたち 修するだけの土地の確保が難しいため)する傾向が は父親を亡くしたり、失踪した家庭で育っていまし あり、研修生にとっては比較的容易に研修を受けや たが、お母さんだけでは子どもを抱えて経済的に生 すい内容となっているため、そちらの方に移行する 活が出来ません。そこで、本協会は将来のためには 研修生も増えました。それでも、実践的な本協会農 女性も何らかの技術を習得し社会に進出することが 業研修センターの研修は、就職率から見ても非常に 必要と考え、政府の農業開発公社の職員の方たちの 効果的で実践的であるという高い評価を各団体から 協力を得て女性の農業参加意識を調査しました。多 受けています。 くの若い女性たちは非常に興味を抱いており、農業 表 1 農業研修センターの入学・就職者数 の研修を受けたいとのことでした。この調査結果を 期 もとに国際ボランティア貯金の資金援助を受けて、 生 1994 年 1 月農業研修センターを開校しました。 1 94 年 1 月∼12 月 20 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 2 95 年 1 月∼12 月 卒業すると同時に即戦力として農業に従事でき 3 るように、実践的に必要とする授業や人脈作りに取 り組んでいます。まず、課外研修として農村に家畜 進 自家 落 学 農家 第 11 7 2 20 12 5 3 95 年 7 月∼96 年 6 月 20 7 4 9 4 96 年 1 月∼12 月 20 10 5 5 5 96 年 7 月∼97 年 6 月 20 12 4 4 の予防接種に出かけます。これは家畜を飼っている 6 97 年 7 月∼98 年 6 月 30 21 5 4 人たちの日常の悩みや問題点を聞けること、獣医に 7 98 年 7 月∼99 年 6 月 30 23 4 3 も参加していただいているので実際に病気や怪我に 8 99 年 7 月∼00 年 6 月 30 24 3 3 対する必要な処置を実際に見て学ぶことができます。 9 00 年 7 月∼01 年 6 月 30 23 6 1 10 01 年 1 月∼12 月 30 28 0 2 11 01 年 1 月∼6 月 30 28 0 2 12 01 年 8 月∼12 月 30 30 0 0 13 02 年 1 月∼12 月 30 5 20 5 14 02 年 7 月∼03 年 6 月 29 6 6 15 15 03 年 1 月∼12 月 20 4 5 11 16 03 年 7 月∼04 年 6 月 21 7 3 5 6 17 04 年 1 月∼6 月 31 5 7 15 4 18 04 年 7 月∼12 月 39 256 12 94 79 期 間 また、農業研究所に行くことで本研修センターだけ では学べない新しい技術を知ることができます。そ のほか、外部講師を招聘して授業を行ってもらうこ とで人脈を作り、卒業後も親身になってアドバイス を受けることができます。 3.プロジェクトの評価 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 本研修センターの卒業生は表 1 が示すように 94 年から 96 年にかけては就職する人と自宅で農業を 計 行う人の割合は大体 2:1 でしたが、97 年頃からは バングラデシュの産業が縫製工場を中心に伸びてき 入学 480 就職 2 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 ており、それとともに女性の外で働く人口も急進的 立発展性 に伸びてきました。それに従うように、2001 年にか 本研修センターによる充実した研修を受けたサ けての卒業生ではまず就職して資金を作ってから、 ルマさんが、農村に戻り自宅で養鶏を始め、多大な 自宅で養鶏や農業をして生計を立てる人が増えてき 利益を得たことで近所の人たちが養鶏の研修を希望 ました。また、13 期生からは他の NGO が農村女性を しました。 本研修センターに派遣して、農業技術を学ばせた関 77 事例 16 このため、本協会はサルマさんの近隣に住む他の るためだと言えるのではないでしょうか。 卒業研修生 8 名の協力や外部講師の協力を得て、 また、プロジェクトを進める際は現地スタッフと 2000 名の農家の女性に養鶏のための 10 日間の研修 のコミュニケーションを十分に行い、綿密に進めて を行い、その結果、約 80%の研修生が実際に養鶏を いくことが非常に重要であります。 始めて家計に利益をもたらす結果を得ました。 このように、地域の人たちに農業の技術を取得す ることの重要性を認知してもらえるようになっただ けでなく、 本研修センターに入学できない人たちも、 卒業生の指導の下で地域密着型の実地研修を行うこ とが出来るようになりました。したがって、本研修 センターの当初の目的である卒業生たちの経済的・ 社会的な自立、また、農村でのリーダー的役割によ る村の活性化への貢献に満足と言える結果が出てい ます。 写真 1 講義を受けている研修生 4.教訓・提言 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 本協会の農業研修センターが良い成果を上げた ことで、最近では外国の援助を受けた他団体による 農業研修センターが増え、非常によい傾向と言える 反面、実際には十分な研修がされず、研修を終えて もまた他の研修センターに入学する研修生が増えて います。その原因は、研修が最大 3 ヵ月と短期コー スで実践より講義重視の傾向であるうえに、奨学 写真 2 野菜の苗付けをしている研修生 金・食事付きのため、若者が研修センターを渡り歩 くことで家族の負担が減るというシステムにありま す。その影響を受けて、本研修センターでは 1 年間 の実習と講義を続けていく研修生が減っています。 したがって、いかに研修の内容を落さず、研修生の モチベーションを保ちながら 1 年間の研修を行える かが課題と言えます。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 研修と言うからには、修了後の研修生たちが修得 写真 3 村で獣医と協力して予防接種をする研修生 した技術の成果を実践できているかが非常に重要で す。そのために、開校当時は積極的に就職の斡旋を 行ったり、自宅で養鶏を始めた研修生のフォローを 行ったりして、研修後の充実を図りました。その結 果、現在は様々な所から求人の問い合わせが来るま でになりました。本研修センターには現地スタッフ の掲げた「研修生の資格は SSC 試験合格者で、耕作 地が十分にあること」という入学条件があります。 研修後の自営が地域にインパクトを与え、反響が大 きいのは、この入学条件が非常に効果的に働いてい 写真 4 サルマさんの成功から行われた短期養鶏研修 78 事例 17 バングラデシュにおける農村貧困住民の意識化と収入向上プロジェクト 特定非営利活動法人 シャプラニール=市民による海外協力の会 筒井 哲朗 1.プロジェクトの概要 目標:従来行ってきた収入向上プログラムよりも高 (1)プロジェクト実施の背景 い利益率を達成することができる。 シャプラニール=市民による海外協力の会(以下 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 シャプラニール)は 1972 年独立直後のバングラデシ プロジェクトはバングラデシュのマイメンシン県 ュにおいて活動を開始した。以来、 「ショミティ」と イショルゴンジ郡、ノルシンディ県ライプーラ郡と 呼ばれる対象農村民の相互扶助グループを通じた総 ベラボ郡、マニクゴンジ県ギオール郡の 3 県 4 郡に 合的な農村開発活動を中心に様々なプロジェクトに ある 5 つのシャプラニールの地域活動センターによ 取り組んできた。 って実施された。 われわれの活動方針はこうした住民組織が自分 地域活動センターでは、 所長をはじめ約 60 名のフ たちでグループを運営し、その活動を継続させてい ィールドワーカーが毎週行われるショミティ(相互 くことができるように、人材を育成していくことを 扶助グループ)のミーティングに参加し、 グループ活 主眼に置きながら、住民たちの自発性を引き出そう 動に必要な技術や知識について適切な助言を行う。 とするところにある。2004 年 3 月末時点でこのプロ 収入向上活動については毎週定期的に積み立てた貯 ジェクトは、3 つの県で 812 グループ 13,078 人が参 金を元手に収入向上のための事業を展開しているが、 加しており、成人識字教育、保健衛生、収入向上、 事業の管理が適切に運用できているショミティに対 農業や各種技術研修と言った様々な分野の活動を通 しては、小規模なローンを提供しており、それと共 じて、最貧困層住民の生活向上と自立を目指した住 に技術研修を行い収入向上活動のためのリスクの軽 民参加型の開発プロジェクトを実施している。 減と収益率の向上を図ってきた。特に 98 年からは これまでの活動はシャプラニールが直接運営に関 FAO(国際連合食料農業機関)との協働により、農業・ わってきたが、1999 年から地域の活動センターをロ 畜産業の生産を上げるための取り組みから、ローン ーカル NGO として独立させるとともに、地域行政と 提供額を増大させることに伴って、技術研修を積極 の協働など、 より住民に近い視点で活動が実施され、 的に展開した。 住民自らが開発の担い手になることをめざした活動 へと変化してきている。 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 近年、バングラデシュではマイクロクレジット (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ (無担保小規模資金融資事業)を活動の中心に据え、 プロジェクトでは、収入向上に取り組みやすい牛 経済開発の視点から農村開発を行う活動を行う NGO の肥育・養鶏・野菜栽培・ジャガイモ栽培をする予 が多く、 開発の分野では世界的に脚光を浴びている。 定のある農民たちを選定し、研修を受けてもらう。 当会も 80 年代中盤から小規模な資金融資を村人の そして、研修を受けた農民には優先的にローンを融 グループ(ショミティ)に対して行ってきた。 資するほか、スタッフであるフィールドワーカーが 今回紹介するプロジェクトは 1998 年から 2000 年 定期的に巡回指導に当たった。 に行われた、農村での収入向上のための技術研修に (2)研修の計画と準備 関しての報告である。 農民に対しての技術研修は、以前より地域事務所 (2)プロジェクトの目的と目標 が地域行政機関の職員を講師として招き定期的に開 目的:農村に住む貧困世帯住民の経済的な向上のた 催してきた。また、事前に農民が取り組む収入向上 め、小規模のローン融資を行うと共に収入向 活動についてリストを作り、どんな研修にどれくら 上活動に伴う適切なアドバイスや研修を行う。 いの人数が参加するか集計し、適切な研修機会とロ 79 事例 17 ーン提供ができるよう努めた。 比較した。結果、研修を受けた 180 の事例では事業 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み に費やした費用に対し 80.2%の利益を 1 年間に上げ 農民たちへの訓練を行う前に、スタッフ(フィール ていたのに対し、受けなかった 302 の事例では ドワーカー)への研修を行った。 これらスタッフに対 24.2%しか利益を上げられておらず、両者の間には しての研修は、政府の畜産研修施設を借りた 7 日間 かなり大きな差が見られた。このことから本プロジ の研修以外に、 特に技術の必要な牛の肥育について、 ェクトはかなり有効に機能し、当初の目標を達した フィールドでの実地研修を 3 日間通して行った。前 といえる。 者では 20 名、後者は 15 名のスタッフが参加した。 表 2 収入向上活動に関する研修を受けた人と また、野菜栽培とジャガイモ栽培に関しては、FAO 受けなかった人による活動ごとの利益率(%) の協力を得て、品種の選び方や土壌と品種の関係な 取り組んだ どを 28 名のスタッフが 1 日研修を受けた。 これらス 収入向上活動 研修を受けた 人数 研修を受けない Profit% 人数 Profit% タッフ研修の後は、農民に対してスタッフが直接指 肉牛肥育 15 103.8 28 37.2 導にあたることになるため皆真剣に取り組んだ。 牛養成 86 58.7 119 19.9 乳牛肥育 16 58.9 19 28.5 その後の 2 年間では上述の研修を受けたスタッフ が指導の中心になり、牛の肥育 91 人、乳牛飼育 83 養鶏 4 73.9 1 80.3 人、養鶏家禽 49 人、野菜栽培 92 人、ジャガイモ栽 養アヒル 1 77.9 2 51.2 培 186 人の農民が研修を受けた。 ジャガイモ栽培 58 146.5 133 12.6 Total: 180 80.2 302 24.2 表 1 シャプラニールのスキルトレーニング参加者 1996 1997 1998 1999 2000 肉牛肥育 38 29 51 40 85 乳牛肥育 6 20 35 48 98 養鶏 7 10 19 20 38 養アヒル 15 10 10 淡水魚養殖 25 10 10 13 あり、それを元にその生産者に技術を問いにくる村 野菜栽培 60 21 71 5 人が続出した。ある地区では今まで牛を売る時には 145 41 57 近くの市場まで持って行っていたものが、仲買人が その村まで買いに来るようになった事例が報告され 10 ジャガイモ栽培 その他 計 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 立発展性 今回行われた収入向上活動のうち、複数の地区で 牛の肥育と乳牛飼育に関して特筆すべき成功事例が 34 25 26 15 23 185 104 317 245 319 ている。 また、このような住民のニーズを元とした技術研 修を行った結果、 98%という高いローンの返済率を達 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 訓練終了後もスタッフによるフォローアップやア 成しており、返済された資金はまた次のローン原資 フターケアを行った。また、プロジェクト終了後は として回すなど、継続した取り組みが可能となって 実際にどのくらい利益が上がったか聞き取り調査を いる。 し、ダッカ事務所からは定期的にモニタリングを行 4.教訓・提言 い、研修の効果測定を行った。 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 プロジェクトを成功に導くために最も苦労したの 3.プロジェクト評価 は、政府の協力である。協力を得るために、FAO の (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 5 つのプロジェクト地において当該期間中収入向 力も借りながらようやく行政を巻き込んだ事業が出 上活動を行った 482 件の事例を分析した結果、収入 来た。今回は村人が通常から取り組んでいるプログ 向上事業を行う前に研修を受けた人と受けなかった ラムを中心に行ってきたが、より収益率の高いプロ 人の事業にどれくらいの収益があったかを収益率で グラムの開発やそのための研修への取り組みが、今 80 事例 17 後の課題となっている。また、住民の参加に関して は年々高まってきているとはいえ、住民が自ら発 案・企画する段階には達しておらず、今後住民の参 加度をより引き上げるにはどうすれば良いか考えて いく必要がある。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 バングラデシュの農村域における住民の経済発展 にマイクロクレジットが脚光を浴びるようになって 久しいが、このように研修とセットになって取り組 まれている事例は意外と少ない。また、マイクロク レジットによって住民がどれくらい利益を得ている 写真 1 肥育牛屋内研修 かを追跡調査している事例も少ない。今回研修とマ イクロクレジットをセットにすることで確実に収入 向上を果たすことになったことは当然ではあるのだ が、これまで「マイクロクレジットを提供する」こと が目的となっている事業が多く、またその追跡調査 もされてこなかったのが現状である。 マイクロクレジットの成否を判断する数値として、 「返済率」の多少をもって論じられることが一般的 であるが、借り受けた資金がどのように使われ、そ れで事業がどのくらいの収益を得たかについても、 よく見極め、相対としての事業評価が必要でないか と思われる。 写真 2 肥育牛屋外研修 写真 3 野菜栽培 81 事例 18 東ティモールにおける農業者育成プロジェクト 財団法人 オイスカ 事務局次長 木附 文化 1.プロジェクトの概要 2003年7月から、 3ヶ月弱の研修コースを4回行った。 (1)プロジェクト実施の背景 1回平均15名の研修生で、 約60名の研修修了生が卒業 2002年、長い独立戦争の末独立した東ティモール している。 は、青少年時代から独立戦争に従事し、学校教育す ら受ける機会のなかった若者が数万人おり、このよ 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 うな人々に生計を立てる道を指導することは急務で (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ ある。何よりも食べることが重要であり、自ら汗を 農業は、実際に身体を動かし、土を作り作物を作 流し、田畑を耕して生活の糧を得る基本を作ること る活動に従事しなければ身につかない。 したがって、 が国づくりの最も重要な一歩である。幸い、まだ土 野外の農場現場での訓練は最も重要な要素である。 が豊かで個人所有の土地があり、それを田畑に転換 それは、3ヶ月という短い期間ではあるが、若者が農 できることなど農業を振興するための有利な条件が 業実践に必要な 「熟練技術」 を身につける場であり、 ある。また、軍隊的生活の中で鍛えられた上意下達 常に作物に触れ、作物の面倒を見ながら、必要な作 の行動のあり方に理解が早いことから、コミュニテ 業を遅滞無く行うことを学ぶ場である。ただ、研修 ィの中核になる意欲ある若者が効果的な研修を受け 終了後そのような現場の活動を自ら考え行うため、 ることにより、研修修了生が中心となり、他の若者 その作業の意味、意義、基本的な理論をあらかじめ を建設的活動に巻き込むことができる環境がある。 研修生に伝える時間は多くとった。 (2)プロジェクトの目的と目標 (2)訓練等の計画と準備 農業技術研修を行い、研修受講者がその終了後、 このバウカウの研修センターは日本政府の資金援 自分の土地を耕し、 そこで農業生産を効果的に行い、 助で建設したが、建設を始めたのが2002年であり、 生計を立てることができるようになること。 その時点では農場用地は石だらけのジャングルだっ また、その研修受講者が他のコミュニティ構成員 たので、農場用地の木を切り、石を取り出す作業を に好ましい影響を与えること。 オイスカ派遣員が先頭に立って行った。近隣の農夫 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 を雇って若干のお金を落とすことにもなったので、 東ティモールの首都ディリから車で約1時間走っ 近隣の村人の理解・支援が得られるようになった。 たところにある、バウカウの国道沿いに建設した農 訓練等の計画は、オイスカが長年行ってきた経験 業開発研修センターで実施。ここは農場、研修生宿 をもとに作成した。 舎、食堂、炊事場、事務所、講堂、指導員宿舎など (3)効果的な訓練等を行うための取り組み が整えてあり、一回15人ぐらいの研修生、約15人の 野外における訓練および教室での勉強と同時に、 管理責任者、スタッフ、指導員が寝泊りし、活動を 他の人々との協力、農業の意義、苦労、苦心して目 行うことができる。日本から、研修所所長1名、イン 的を達成することの重要さ、意義、手っ取り早い儲 ドネシア語英語通訳1名、日本人ボランティア1名、 けに走らないということの大切さなど、いろいろな インドネシア人技術指導員1名、 東ティモール人指導 基本的な考え方についても指導した。 員兼コーディネータ1名、スタッフ9名が活動(2004 さらに、 企業などで実践されている5S(整理、 整頓、 年5月現在)。 スタッフは最初から9名いたのではなく、 清潔、清掃、しつけ)を徹底し、作業の無駄を省いて 初期の研修を終了した者からさらに技術を深化させ 手際よく効率よく行うことを指導した。 たいという意欲のある若者が、自発的にセンターに また、技術研修以外の生活に関するさまざまな問 残ってセンター業務を手伝ってきた。 題については、必要に応じて所長自ら、もしくは指 82 事例 18 導責任者、あるいはスタッフ長などがコミュニケー に管理職にあたるものがきちんと説明責任を全うで ションを図り、 誤解や不満が生じないように努めた。 きるかどうかも問題である。管理職がまったく農業 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み を知らないのではなく、ある程度現場に対する広い 卒業生が農業を実践するために、卒業生に対する 経験や知識をもち、かつ渉外活動もできる人材を育 鍬、スコップの提供(一人各一丁ずつ)、50ドルの資 成することが急務である。 金提供、穀物、野菜などの種の提供、卒業生の農業 また、学校のように、毎年、毎回同じ研修を繰り 現場の巡回指導などを行った。 返す資金の手当てができればよいが、それが充分で また、日本人がいなくなっても研修が継続できる きない場合、やはり、農場からの生産、売り上げを ように、スタッフの能力強化を日々行っている。 伸ばす努力も必要である。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 3.プロジェクトの評価 オイスカの場合、他の国でも研修活動を続けてき (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 ているが、この東ティモールの研修の成功は、ひと 70%の卒業生が積極的に農業に取り組み、その多 つには、 管理指導を行った新屋敷均 元オイスカ事務 くが一人ではなくグループを作り、他の農民を巻き 局長の技量によるものである。技術のある人材を活 込んで新しい野菜などを作り始めている。今まで草 用する、5S の徹底、研修を行う者受ける者のコミュ 地だったところを耕し、また、ごく限られた種類の ニケーションの徹底、渉外活動の充実はこの指導者 野菜などしか作っていなかったところに、新しい野 の技量・特徴が生きた結果である。このような研修 菜栽培を導入している。独立後間もない国であり、 が長期的に生かされ、さらに大きなインパクトを与 食べることが最も優先する国の状況からこのプロジ えるためには、このような方法論を踏襲できる現地 ェクトはきわめて有益な活動であったといえる。 の管理指導者をいかに育成するかが課題である。 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 立発展性 研修生が技術だけでなく他の人々と協力すること の重要性を学び、そのことを納得して実践する研修 卒業生が多かったことから、きわめて大きなインパ クトを与えつつある。農業を欲する環境、農業ので きる環境がもともと存在したこともインパクトが大 きかった理由である。この研修の技術指導は、イン ドネシアのオイスカ研修卒業生があたった。長年現 場での農業を実践してきた優秀な指導員であり、何 よりも東ティモールの状況を知っている指導員であ ったため、今後このような人材に対し適切な場を与 えれば、自立的発展の大きな要素となることがわか った。東ティモールにも同じような指導者が育つ可 写真 研修修了生が新しい農業技術を活用して野菜 能性が大きい。 作りに取り組んでいる 4.教訓・提言 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 技術だけなら、上記のようにインドネシアなどの 指導員が活躍できるし、今後東ティモールの人材も 育っていくだろう。しかし、これから自立発展を目 指すためには、いかに優秀な管理職を得るかが問題 である。それと同時に、継続した活動を続けるため 83 事例 19 東ティモールマウベシ郡コーヒー生産者協同組合支援事業 特定非営利活動法人 アジア太平洋資料センター 代表理事 井上 礼子 1.プロジェクトの概要 活は年々脅かされている。 米の購入すらままならず、 (1)プロジェクト実施の背景 トウモロコシ、タロイモを主食とする生活を送って 東ティモールは、2002 年 5 月に念願の独立を果た いるが、乾季にはそうした食糧さえ事欠き、三回の したばかりで世界で最も新しく、面積は四国程度の 食事もままならないことも多い。従来この地域の農 小さな国である。ポルトガルの植民地として約 500 民は、米国の NCBA(National Cooperative Business 年、 その後はインドネシアの軍事支配の下で 25 年間。 Association;アメリカ全国協同組合事業協会)のも 1999 年 9 月、住民投票で独立を求めた東ティモール とに組織されている CCT(Cooperative Cafe Timor; の人々は、さらなる暴虐の下に置かれた。アジア太 ティモール・ コーヒー協同組合)にコーヒーをチェリ 平洋資料センターは、 暴動直後の 10 月に日本の他の ー(赤い果肉つきの実)のまま売るか、あるいは石や NGO とともに市民平和プロジェクトを立ち上げて緊 木臼を使った原始的な方法で果肉を除去したパーチ 急救援にかけつけた。当センターはその後の国連統 メント(皮付き種子)を仲買人に販売していた。 治時代を通じて、東ティモール・リキサ県で学校再 当センターは ATJ と協力して、この農民たちが自 建、学校への机椅子の提供と農村青年を対象とした 分たちでコーヒーを加工し、輸出までを担うことで 木工技術の研修を行った。 その生活を改善すると共に、国づくりに向けた意欲 政治的な主権を回復した後も東ティモールは深刻 をもってもらおうと考えてプロジェクトを開始した。 な貧困問題に直面した。経済分野での自立と貧困問 (2)プロジェクトの目的と目標 題の解決が緊要となり、国際社会の支援が引き続き 本プロジェクトは、独立直後の東ティモールで、 必要とされていた。農業生産量を引き上げ、国内産 コーヒー農民が生産者協同組合を組織して、コーヒ の米や食品の流通を円滑化し、基本食料の収量を増 ーの実を果肉除去し、 すぐれた品質のグリーン豆(生 やすことで食糧自給を実現すると同時に、外貨取得 豆)に加工し、 輸出することによって生活を改善する の数少ない手段のひとつであるコーヒー豆の品質改 ことである。同時にコーヒーの収入で野菜・果樹な 善と収量の引き上げは、新生東ティモールの経済に どの栽培を行って、コーヒーだけに依存せずに生活 とって重要な課題であった。 できるようになり、東ティモールの農村発展のひと 当センターはそのような認識のもとで、2002 年初 つのモデルとして提示することを目的とした。 めから日本のフェアトレード団体である ATJ(オル 具体的な目標は以下のとおりである。 タ・トレード・ジャパン)と東ティモールの全国的な ① アイナロ県マウベシ郡のコーヒー生産者約 NGO であるヤヤサンハクの協力により、アイナロ県 200-400 世帯を集落ごとにコーヒー生産者協同 マウベシ郡でコーヒー生産農民の支援を決定した。 組合へと組織し、各組合が自分たちでコーヒー マウベシ郡は標高 1300∼1700 メートルの山間地 の加工作業を行い、加工場を運営できるように に位置し、寒暖の温度差が激しいため質の高いコー 指導すること。 ヒーを生産することができる。1 万 7000 人の人口の ② 各生産者協同組合が連合を形成し、 互いに協力し 大半はコーヒー生産農家である。地域の農家は市場 合って、日本への輸出に耐える品質のコーヒー へのアクセスもないため、年に 1 回しか収穫のない を生産し、輸出までの工程を担えるようになる コーヒーに年間収入の大半を依存しており、稲作に こと。 適さない高地のため、コーヒー収入は主食である米 ③ 生産者協同組合として地域に見合った有機農業 の購入にも欠かせない。しかし低迷するコーヒー国 を発展させること。 際市場価格のあおりを受け、コーヒー生産農家の生 84 事例 19 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 よって異なるので一律ではない)。これは、通常、農 (a)実施場所 アイナロ県マウベシ郡 家が同量のコーヒーをマウベシの市場で仲買人に販 (b)実施体制 売する場合の収入約88ドルに比べると約4倍の収入 現在、首都ディリとマウベシに事務所を置き、日 となった。 本人スタッフ 2 名がそれぞれに常駐。他に東ティモ ール人スタッフ 3 名を雇用。日本人スタッフ 1 名と 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 東ティモール人スタッフ 1 名の計 2 名が常時、生産 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ 者協同組合の活動に直接共同する体制をとっており、 この技術訓練は、農民が自らを生産者協同組合に 他の 1 名が講師の派遣、研修プログラムの準備など 組織し、自分たちの畑で収穫したコーヒーを自分た を行う。他の 1 名(東ティモール人、女性)は生産者 ちで加工し、 自分たちで販売できるようになること、 の女性のためのプログラムを準備、他の 1 名が資材 そのプロセスを自ら管理できるようになるという目 調達・会計業務などに当たっている。夏季の加工作 的のための手段である。 業シーズンには ATJ スタッフが加工作業の指導のた (2)訓練等の計画と準備 めに参加し、その下で指導員を 5-6 名雇用。 まず、コーヒー豆の加工場の設計・建設の指導を (c)財政規模 した。加工場へは水場から竹やパイプを使って水を 2003-4 年の各年間実施予算は約 1800 万円で、そ 引き、コーヒー洗浄のための水槽を作った。また、 のうち約 200 万円が自己資金、約 1600 万円が JICA 倉庫の建設には地元の資材を活用した。 技術協力草の根パートナー型による支援に拠ってい コーヒーの加工に関する技術訓練としては、①メ る。予算の使途は加工場の機材費、車両などの購入 ンバーが持ち込んだコーヒー豆を秤で計量する方法、 費、現地事務所の維持費、交通費、専門家派遣、ワ ②その量を記帳する方法、③計算機を使っての合計 ークショップなどの開催費用である。ただし、コー の出し方や検算の方法、④加工作業(洗浄、機械を使 ヒーの生産と輸出に直接関わる経費(コーヒー豆の って果肉除去、ファーメンテーション(発酵)、虫食 輸送、加工場における灯油代、文具など)ならびに い豆や割れ豆の選別除去作業、天日の下での均一な ATJ スタッフの旅費等はコーヒーの売上に含み、予 乾燥など)である 算には含まない。 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み (d)活動内容 コーヒーの収穫期が 6 月から始まるため、4−5 月 東ティモール・アイナロ県マウベシ郡で 2002 年 6 に集中的にワークショップを開催し、実際の道具を 月 34 家族を対象にしてコーヒー加工場を設置し、 使ったり、内容を絵で書いて加工場に張り出して指 ATJ スタッフが日本市場で通用するコーヒー豆をう 導した。また、加工作業中もスタッフが巡回指導し るための加工技術を教えることを実験的に開始し、 6 た。そのほか、現在計画中のことではあるが、東テ トンのコーヒー豆の日本への出荷に成功した。今後 ィモール内の他の産地を訪問したり、他国のコーヒ プロジェクトとして実施可能と判断し、2003 年 3 月 ー産地を見学することで視野を広げ、意欲を引き出 末 JICA の草の根パートナー型技術協力事業に決定。 し、一層の技術改善に結びつけたいと考えている。 2003 年 4 月より事業を 6 つの集落(ルスラウ A、 さらに、農業の多角化のため、コーヒーシーズン ルスラウ B,リタ、クロロ、ハトゥブティ、レボテロ) 終了後の雨季が始まる 10-11 月から農業プログラム に拡大した。集落単位ごとに生産者グループを組織 を開始した。これは各グループがコーヒーの売上の し、コーヒー果肉除去施設を設置した。6 月より 9 一部を積み立て、プロジェクト事業費あわせて種子 月まで ATJ のスタッフが加工作業を指導し、 同年秋、 や農機具を購入し、グループで野菜の栽培を行うプ 約 36 トンのコーヒー生豆を ATJ 社が買い取り、 日本 ログラムである。コーヒー加工で排出される果肉を に輸入することができた(Cafe Rai Timor の名称で 堆肥として使用し、空いた土地を使って豆や野菜の 販売) 。フェアトレード価格での買い取りの結果、コ 栽培を行い、コーヒーの単一栽培からの脱却を目指 ーヒー農家 1 世帯あたりの売上は平均約 359 ドルに している。堆肥作りなどの研修もグループ単位で行 なった(実際には所有するコーヒーの木の収穫量に った。 85 事例 19 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 発展、③組織運営の発展が課題である。 2004 年、簡単な規約を定めて前年のグループを生 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 産者協同組合へと組織し、6 グループで生産者協同 立発展性 組合連合とした。規約の中で生産者協同組合連合は 地域では、現在、生産者共同組合に参加していな 以下を目的として活動することを定めた。 い農民たちからも注目されており、他の集落にも同 ① マウベシ地域の農民の生活改善と自立的な発展 様の支援を行って欲しいと言う声が多い。しかし、 ② 地域の農民が作った有機コーヒーを自分たちで 日本におけるフェアトレード・コーヒーの市場が未 加工し、コーヒー農園を改善して東ティモール だ充分に育っていないため、プロジェクト対象地域 のコーヒーが世界の消費者の間で高い評価を得 を拡大した場合に生産されたコーヒーを販売しきれ られるようにすること るかどうか、すなわちマーケットの確保が、支援の ③ 地域における多角的な有機農業の発展 ための資金手当と同時に地域内で拡大するための課 この規約に基づいて、各グループごとに代表・副 題となっている。 代表・会計を選出し、各グループの三役が集まる代 表者会議を定期的に開き、そこで基本的なことを決 4.教訓・提言 定するという仕組みをつくった。この代表者会議で まず第一に、このプロジェクトは技術研修それ自 専任されたコーディネータが各グループ間、あるい 体を目的としたものではなく、コミュニティー開発 はグループ内の問題の解決に当たることとした。現 の一環として、地域の中にあった産業を育成発展さ 在メンバーは約 200 世帯である。生産者協同組合が せるために技術研修を行っていることが特徴であり 6 つあり、それぞれにコーヒー加工場もあるため、 重要な点であると考える。例えば、各加工場には計 互いの加工場を見学しあったり、代表者会議で失敗 量担当者、記帳担当者を任命し、その担当者を対象 の原因を報告しあったりすることが互いの刺激とな として計算機の使い方、帳簿の記帳の仕方を指導し って良い効果をもたらしている。 た。そうした活動がそれぞれの農民の生業に直接結 びついていることから、学ぶ農民側も真剣で習得は 3.プロジェクトの評価 非常に早く、コーヒー収穫期の 3 ヶ月が終わる頃に (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 は担当者が自ら計算機を使って、各メンバーのコー 本プロジェクトは 3 年目を迎えており、生産者協 ヒー豆の量や収入をただちに計算して伝えるくらい 同組合も組織され、加工作業に関しては中心メンバ になっている。加工作業に関しても同様であり、こ ーが熟達し、かなり自立的に行えるようになり、2 ちらがびっくりするほどよく覚え、しっかりと作業 年続けて良質のコーヒー豆を 30 トン以上日本に輸 を行う。 出することができた。東ティモールの経済にもささ 技術研修を行っても、その技術を生かして就労す やかながら寄与することができ、同国農業省などか る道が準備されていなければ、研修は生きたものに ら高い評価を受けている。 ならないし、援助がある期間しか継続しないという しかし、土地がやせていること、異常気候(雨季の ケースが多い。そのため、継続性のある産業活動の 開始が大幅に遅れ、一度雨が降ってから再び晴天が なかに位置づけられた技術研修であるということが 続くなど)のため、 農業プロジェクトは未だ収入増に 重要である。 結びつく段階には至っていない。さらに、民主的な 第二に、プロジェクトのオーナーシップは基本的 決定、グループ資金の使い方に関する予算づくりや に農民の側にあり、こちらはそれを助けると言う点 会計報告など、組織運営に関してはまだ成果をあげ が重要であると考える。ただし、当該プロジェクト てはいない。代表者会議や各生産者協同組合の会議 地域のように、長く軍事的支配下に置かれ識字率も に当センターのスタッフが参加して、問題点や改善 低い地域では、民主的な決定やグループ資金の運用 点を指摘することで、かろうじて民主的に規約に則 などを初めとする運営能力の育成は、技術の研修よ った運営が保障されている現状にある。今後は、① りも難しく、かつ重要である。その点で現地 NGO(当 コーヒー畑の改善、②環境に適した多角的な農業の プロジェクトの場合、 ヤヤサンハク)の協力は有効で 86 事例 19 ある。 第三に、とくに東ティモールのように人材も限ら れる小さな国では、同様のプロジェクトを行ってい る他の国の援助機関や NGO、あるいは行政機関との 協力のもとで人的資源を有効に生かすように技術協 力に取り組むことが必要である。例えば、コーヒー 畑の改善に関しては日本から専門家を派遣するより も現地でコーヒー関連のプロジェクトを行っている ポルトガル政府のミッションの協力を得て行う計画 である。 写真 1 大工の指導を受けて倉庫を建設 写真 2 コーヒーの加工に関するワークショップ 写真 3 加工作業の様子 87 事例 20 フィリピン共和国ケソン市、パヤタスごみ処分場周辺コミュニティでの医療及び収入向上プロジェクト 特定非営利活動法人 アジア日本相互交流センター ICAN 代表理事 龍田 成人 プロジェクトマネージャー 伊藤 洋子 1.プロジェクトの概要 のニーズにこたえるために、ハンディクラフトなど (1)プロジェクト実施の背景 の手工芸品や服飾を教える職業訓練を開始すること フィリピン共和国マニラ首都圏ケソン市にあるパ にした。最初は、とにかく、ゴミに依存しなくても ヤタス地区にはケソン市のゴミが集積されるゴミ集 食費が得られるように、家計が厳しい家庭の女性た 積場があり、毎日数千トンのゴミがそこに運び込ま ちに少しでも収入の足しになる技術を取得させるこ れている。そのゴミ捨て場の周辺には約 1 万人の低 とを目的に始めたが、2001 年に職業訓練履修者の中 所得者層が居住しており、 住民の 2∼3 割の人々はゴ からグループを作って組織化する者たちが現れた。 ミ捨て場で拾ったリサイクルできるゴミを換金する これを機に、新たにこのグループを核として、共同 ことで生計を立てている。ゴミ拾い以外の職を持つ 作業所を開設して安定した収入を得られるようにす 住民の多くも一時雇用や非専従労働であり、安定し ることと、将来、そのグループがパヤタス地域の住 た収入を得られていない。地域住民の多くは学歴が 民に対して、技術指導や医療支援の面で社会貢献で 低く、特別な技術を持たないので、都市部で安定し きるように機能させることが上位の目標になった。 た仕事を見つけることは困難である。 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 地域住民の生活環境は劣悪で、栄養状態も悪いた (a)実施場所 フィリピン共和国マニラ首都圏 めに様々な病気に苦しんでいる。ゴミ捨て場は腐敗 ケソン市パヤタス地区 により発生したメタンガスが発火していつも煙って (b)実施体制 おり、この煙による大気汚染がひどいため、気管支 日本人職員:プロジェクトマネージャー(2000 年∼) を患って命を落とす大人も多い。また、非常に衛生 インターン 状態が悪いために子供も慢性的な下痢や高熱などで 2∼4 名(2000 年∼) フィリピン人職員: 死亡するケースもある。乳幼児の栄養不良率も 25% 調整員(組織作り) 1 名(2002 年∼) 以上と深刻である。 看護師 1 名(2003 年∼) 非常勤医師 2名 (2003 年∼) 当法人は 1997 年より現地 NGO(SALT foundation) と協力して、パヤタス地区のうち最もゴミ捨て場に カウンターパート:自助グループ 15 名(2001 年∼) 近い第 2 地区の地域住民(約 4000 名)に対して、週 1 ケソン市保健局 度の医師による無料診療、乳幼児の栄養補給食の提 (2003 年∼) (c)活動内容 供などの医療支援を行い、2000 年までにこれらの医 第一期 緊急支援に伴う訓練とグループ形成期 療サービスは第 2 地区の住民に浸透するようになっ (2000 年 8∼12 月) ていた。 崩落事故から 1 ヶ月過ぎた 2000 年 8 月。 何でも収 2000 年 7 月、パヤタスのゴミ山が崩落し、200 名 入が得られる技術を習得したいという女性たちの切 以上の住民が犠牲になるという痛ましい災害が起き 羽詰ったニーズにこたえるために、日本人職員およ た。この災害をきっかけとして、周辺住民の女性た びインターンがハンディクラフト、ぬいぐるみなど ちを中心にゴミ拾い以外で収入を得るためのハンデ のワークショップを開催した。 毎週1回(計13回) 実 ィクラフトや服飾などの製作技術を覚えたいという 施し、延べ 47 名の女性たちが受講した。受講に当た ニーズが当法人に寄せられるようになった。 っては、最も厳しい環境にある無職の家庭、母子家 (2)プロジェクトの目的と目標 庭、全員がゴミ拾いの家庭などの女性を優先した。 崩落事故から 1 ヶ月過ぎた 2000 年 8 月、 女性たち 職業訓練履修者の中から 15 名ほどが自助グループ 88 事例 20 を形成していった。 第二期 グループの成長期 (2001 年∼2002 年) 2001 年には自助グループが作業所を開き、習得し 2004 年 9 月現在、これらの研修を受けた者のうち た技術を使って製作した商品を販売することで収入 5 名が、常時コミュニティヘルスワーカーとして以 が得られるようになった。自助グループ内で選挙が 下の医療支援を支えている。 行われるなどの組織化も進んだ。この頃になると、 a 無料診療 週 2 日 40 名/日ほどの受診者 ○ 自助グループメンバーが周辺住民への職業訓練の講 b 保健指導 週 1 回 ○ 師を務めるようになった。2001 年から現在に至るま c 栄養不良児のための給食 週 5 日 20 名 ○ で月に 2 回程度、周辺住民のニーズに応えて、ぬい d 家庭訪問 ○ ぐるみ、服飾、ビーズアクセサリー、山岳民族の手 e ケアセンターの管理 ○ 地域地図作り、人口データの入手法、 モニターの仕方、上手な話し方 看護師などとともに巡回 織布を使ったハンディクラフトなど個別のコースを 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 実施した。平均 10 名程度の受講者がある。 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ 2002 年からはグループの組織化に秀でた調整員 本プロジェクトには、3 つの訓練が含まれている。 を雇用し、自助グループのメンバーを対象に労働倫 ① 収入向上のための技術を身につけるための訓 理・価値・規律、チーム作り、自己評価法、計画立 練 案法などの研修を行い、グループの運営能力向上を ② 自助グループの運営能力と技術指導力の向上の 図った。また、毎週水曜日には ICAN の職員とのグル ための訓練 ープミーティングが定着した。 第三期 地域へ貢献するグループへの発展期 (2003 年∼2004 年) 2003 年になると、自助グループから作業所の自主 ③ コミュニティヘルスワーカーとしての技術を身 につける訓練 これらの訓練は、パヤタス地区でも弱い立場にある 運営や医療援助活動への参加などに意欲的な意見が 人々が技術を身につけ、自助グループに加わり、自 出されるようになった。これまでの活動を続けると 立して、今度は自分が弱い立場の人々を支える側に ともに、8 月に ICAN が地域の医療ネットワークの一 回るという「受益の循環(サイクル)」の重要な位置 翼を担うコミュニティケアセンターを同地区(住民 を占めている。 4000 名)に開設したのを機に、グループのメンバー を中心として 18 名の住民が、2003 年 10 月∼2004 (a) 自助グループの位置づけ 年6月の間に合計33回のヘルスケアのトレーニング を実施した。これによって、メンバーの多くはコミ 自助グループ ュニティヘルスワーカーとして必要な基本的なヘル (作業所) ヘルス ワーカー スケアの知識や技術を身につけた。講習内容は以下 の通り。 自活 ① 感染症等 売上げ コレラ、腸チフス、結核、はしか、デング熱、 技術 指導 ケア センター 無料診療 保健指導 栄養改善 周 辺 住 民 肺炎、エイズ、寄生虫、高熱、下痢と脱水症状 (b) 受益の循環 ② 処置方法 蒸気吸入、予防接種、包帯の巻き方、 グループ 技術 訓練 産前産後のケア、傷の消毒法、 皮膚から異物を取り除く方法 社会的 ③ ヘルスケアの知識 弱者 栄養学、安全な水を得る方法、トイレの大切さ、 経口補水液の作り方、家族計画 指導者訓練 メンバー 医療、技術支援 ヘルスワーカー 技術指導員 図1 自助グループの位置づけと受益の循環 ④ その他の知識 89 事例 20 (2)訓練等の計画と準備 ケアセンターの活動は地域で評価されつつあり、受 本プロジェクトはゴミ山の崩落災害を機に緊急に 診者も増加し、 公的診療所とも連携が進みつつある。 始まったため、準備期間がほとんど無かった。2001 また、地域内での NGO や住民組織との間に協力関係 年に自助グループが形成した後は、この自助グルー を築いたことで、より効果的な活動ができるように プの成長にあわせて毎年事業目標と計画を見直した。 なった。設定した目標は達成されつつある。 2003 年からは自助グループも計画作成段階から評 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 価まで関わり、住民参加型の手法で実施した。 立発展性 なお、 2000 年 7 月∼2003 年 6 月までは国際ボラン 地域で必ずしも高い評価を得ていなかった女性た ティア貯金から、2003 年 11 月∼現在までは JICA 草 ちが自助グループを作り、そのグループが地域社会 の根技術支援から資金的な支援を受けた。 に貢献する姿は、地域に少なからずインパクトを与 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み えた。作業所で、ケアセンターで、自助グループの 周辺住民への効果的な訓練の実施には、住民の組 メンバーの自信に満ちた姿が見られた。 織化や積極的な参加が欠かせない。重点地区の住民 医療支援を受けた患者が回復し、 職業訓練を経て、 とミーティングを開き、住民に必要な技術や収入向 自助グループのメンバーになり、さらに、技術訓練 上につながる技術などを話し合った。また、パヤタ の指導者やコミュニティヘルスワーカーとして、コ ス地区の NGO や住民組織との間でインターエージェ ミュニティに貢献する事例も現れ始めている。 ンシーミーティングを開き、お互いの情報交換を行 また、自助グループは作業所の製作品の販売によ うようにした。これを機にフランスの NGO である り一定の収入を確保しており、2005 年からは作業所 VIRLANIE などとの連携が進み、他の NGO が組織化し を組合として法人登記する見込みである。持続的に た地域での住民への指導も可能になった。 地域への貢献プログラムに参加できる仕組みができ (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み つつある。 周辺住民への技術訓練では、単に技術を学ぶだけ ではなく、仕入れと売上げの関係、経理方法、マー 4.教訓・提言 ケティングなども学習した。 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 ヘルスワーカーのトレーニングでは、学んだ病気 資金や人材が限られた中でのプロジェクトである の知識や看護の仕方などを受講者がケアセンター患 ため、 大人数に対する技術訓練ができていなかった。 者に対して説明する機会を設けて、受講者のやる気 習得した技術で作製できる商品の販路に限界があり、 や自尊心の向上を図った。 訓練への参加人数が想定よりも低かった。 また、自助グループへのリーダーシップ研修等を (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 通じて、計画立案、事後評価、作業所運営等につい 今回のプロジェクトでは、他の住民から評価され て学び、グループへの帰属意識や団結力を高めた。 ていなかった女性たちがグループを作り、チームと その結果、自分たちの活動であるという意識が現わ して一つ一つ課題を解決していった。その過程で、 れ、メンバーのほとんど(15 人中 13 人)が、コミュ 女性たちは自信をつけ、地域社会に貢献するまでに ニティヘルスワーカーや技術訓練指導員として地域 成長した。深刻な貧困状態に立たされた人々は経済 への貢献活動に積極的に参加している。 的だけでなく精神的にも抑圧されており、自分自身 の尊厳を見失っている場合が多い。本当に必要なの 3.プロジェクトの評価 は、時間がかかっても、人々が自信や尊厳を取り戻 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 し、自分本来の姿を回復することのように思う。 限られた資金や人材の中、緊急支援の訓練から形 成した自助グループのメンバー15 名を軸に事業を 最後に、本プロジェクトは、以下のスタッフの努 展開した。メンバーの積極性を引き出すことで、専 力の賜物である。深く感謝する。 門家の協力も得て、4000 名の居住する地域の医療支 プロジェクトマネージャー 援と技術指導のシステムが構築されつつある。 特に、 インターン 佐藤未希、園原ゆりえ、棚橋大介、竹内弥生、 90 伊藤 洋子 事例 20 田村陽子、渡辺奈美子、礒谷在帰子、仲間陽子、宮地厚 調整員 Marites D. E.Cangao、Noel D. G. Felicaiano 看護師 Mariditha C.Corpuz 写真 1 医療支援を受ける女性とその子ども 写真 2 結核から癒えた女性は職業訓練を経て自助グ ループのメンバーに加わった。 91 事例 21 フィリピン共和国における技術指導プロジェクトの実施とフェアトレード 特定非営利活動法人 第3世界ショップ基金 河村 恭至 1.プロジェクトの概要 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 (1)プロジェクト実施の背景 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ フィリピン共和国ミンダナオ島で、看護婦として フィリピン国内における草紙製品の市場はあまり 医師であるご主人の仕事を手伝っていたロレッタ・ 大きくないため、日本などの外国の市場で通用する ラフィスーラ氏は、産業がなく、島を離れる若者た 商品開発を念頭においてスタートした。日本の専門 ちが多いこの島を若い人たちが希望を持てる島にし 家から技術や知識を学び技術水準を高めること、現 たいと考え、1989 年 SHAPII を設立した。 地の人々の技術水準をできるだけ発揮しやすい製造 ラフィスーラ氏の住む町は、人口約 2 万人の農業 設備を整える工夫を一緒に考えること、日本市場で と漁業を主要産業とする中規模の町である。当基金 求められる品質の水準を学んでもらい、一緒に商品 が本プロジェクトを始めた 1991 年当時、フィリピ 開発すること、を念頭においてプロジェクトを実施 ン共和国政府による 6 段階のランクで 5+と最下位 した。 近くにランクされていた。上下水道、電気、公共交 (2)訓練等の計画と準備 通機関など全てが必要十分の 10%程度にすぎず、 現地のリーダーと日本の専門家、当基金の三者で 栄養状態も十分でないこの町では、当時は出稼ぎに 協議して、短期的に解決可能な課題を見つけ、その 出る以外に現金収入を得る道はなかった。 解決のための計画を立案し、その計画が実施された ラフィスーラ氏が始めたのは、「農民の敵」と言 後、次の計画を立案、実施する、という持ち寄り型 われた現地の雑草、コゴン草を使って紙作りを行う かつヒューリスティックス1な進め方を採用した。 事業である。翌 1990 年の当基金とラフィスーラ氏 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 現地の人々との関係を、単に紙の生産技術の移転 との出会いから、その後現在まで 15 年に及ぶ協働 が始まった。 という単機能の関係にとどめることなく、また、単 (2)プロジェクトの目的と目標 にフィリピンの貧困地域に対して仕事づくり支援を 当基金の最大の特徴は、1986 年から日本国内で するという一方的な関係にとどめることのない、双 フェアトレード事業を実践している第 3 世界ショッ 方向的かつ多様な関係にすることが、関わる人々の プのプロジェクト部門として始まった点にある。技 モチベーションを持続させ、訓練後も自発的に事業 術移転プロジェクトは、第 3 世界ショップが持つ日 が継続発展すると考え、実践している。 本市場を活用した商品開発や、その後の製造輸出事 例えば本プロジェクトに関しては、プロジェクト 業に直結する可能性を有している。本プロジェクト 開始から 4 年が経った 1995 年に SHAPII がコーディ の目標も、日本をはじめとした市場に製品が流通し、 ネーター役を担い、無医村地域への医療プログラム 持続的に現地に雇用を創出し続ける事業にすること を行った。当基金は日本人医師を派遣するなどして としてスタートした。 協力した。また、1999 年、2000 年と協力していた (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 だいた日本の専門家は和紙作りの専門家であるが、 フィリピン共和国ミンダナオ島にある SHAPII の この和紙作りという日本の伝統産業文化は、現在、 工場で実施。草紙の製造技術の訓練と製造設備の供 担い手不足という危機を迎えている。本プロジェク 与を中心に、活動内容は地域の問題解決全般に広が トの未来には、国内だけでは担い手が足りない日本 った。 1 ヒューリスティックス Heuristics 問題解決法のひとつ。経験に基づいて適切だと考えられる方法につい て試行錯誤を繰り返しながら、問題の解決法を導く。 92 事例 21 の伝統産業を、広く世界をフィールドとして後世に ジェクト前にはわずか 10 人足らずしかいなかった 継承する新たなモデルとなる可能性が秘められてい ワーカーが、数年後には 150 人を超えるまでに成長 るという夢を、協力していただいている日本の専門 した。 家も、それを学ぶフィリピンの職人たちも共有し、 1990 年代後半には、その活動がフィリピン国内 その夢の実現に向かって協働している。2000 年か でも高く評価され、地元住民からも大きな期待を受 らは、地元で学費がなくて学べない子供達のための けるようになっていた。その結果、SHAPII には地 奨学金プロジェクトを SHAPII がはじめたため、当 元住民が現金収入を求めて殺到する状況となった。 基金でもカンパを日本国内で募り、協力している。 収入に比べてワーカーが多すぎるため、1 人 1 人に このように、プロジェクトに関わる人どうしが夢 はフィリピン政府が定めている最低賃金程度しか支 や志を共有して相互の地域の問題解決に協力し合う 払うことができなかったが、他に期待できる職場の 関係をマッチングしていく工夫をしていくことは、 ない地元住民の SHAPII への期待はとどまらず、そ こうしたプロジェクトを成功させる上で大変効果的 の期待に応えるだけの雇用と収入を作り出すことが、 だと考えている。 SHAPII の課題となった。2000 年には、SHAPII で仕 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 事を得る人の数は 300 人を超え、当時のラフィスー 短期間である程度の成果が出るプロジェクトを実 ラ氏はこう語っていた。 施し、その成果を実感することで関わる人々のモチ 「現時点のわたしの願いは、すべてのワーカーに、 ベーションは持続し高まる。また、そうした小さな 生活するのに十分な給料を出すことです」 成功事例の積み重ねや関わる人々の活力が、新たに そして、ラフィスーラ氏と当基金とで話し合った 人が集まってくる求心力になる。 結果、生産物である紙そのものの品質のさらなる向 ものの作り手が最も成果を実感できるのは、作っ 上と生産効率の向上が経済性の向上に結びつくと考 たものが売れることであるため、第 3 世界ショップ え、1999 年より、次なる技術移転プロジェクトに では、SHAPII の製品を輸入することにより、 取り組むこととなった。 SHAPII の活動を経済面と精神面の両方で支援して 2004 年現在、SHAPII で仕事を得る人の数は 400 いる。自分たちが生まれ育った町で、自分たちのま 人を超えている。ほんの 15 年前まではほとんど産 わりにある草花を使って作った製品が、海を越えて 業と呼べる産業がなかった小さな町で、一人の女性 日本の人たちに評価され、売れ続けていることは、 が、自分の生まれ育った町で仕事と希望を得られる 現地の作り手たちの何よりの励みになっている。 地域にしたいと願った夢は、確実に広がっている。 ラフィスーラ氏は、さらに求心力を高めるため、 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 事業によって生まれた余剰の使い方についても面白 立発展性 い取り組みをしている。それは、余剰を三分割し、 上述のとおり、本プロジェクトにより当基金とと 3 分の 1 は SHAPII の内部留保とし、3 分の 1 はワー もに成長してきた SHAPII は、地元住民では知らな カーの貢献度に応じて分配し、3 分の 1 は地域の問 い人がいないほどのインパクトを地域に与えている。 題解決のために使う、という試みである。これは第 単に現金収入を得られるというだけでなく、医療や 3 世界ショップが日本において実践している経営方 教育など、地域の人々の生活水準の向上に多様な貢 針をラフィスーラ氏が聞いて真似たものであるが、 献をしている。 これがワーカーたちのモチベーションをあげるとと 表題について説明をする代わりに、ラフィスーラ もに、地域の中で SHAPII の名を知らしめ、SHAPII 氏が当基金にあてたメッセージを以下に紹介する。 が地域で求心力を持つ結果につながっている。 「私は、それぞれのフィリピン人たちが、自分の国 と、自分たちがフィリピン人であることに誇りを持 3.プロジェクトの評価 ってほしいと思っています。そして威厳を持って、 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 自分たちを国際社会の輪の中の一つに数えてほしい 1991 年、当基金が機材提供と技術協力を行った と思います。私たちの国に満足のいく給料の仕事が ことにより SHAPII の事業化は劇的に進んだ。プロ ないということで、他の国で生活しようとしている 93 事例 21 フィリピン人たちが搾取され、傷つけられていると していくことにより、生産量だけでなく紙の品質も いうことを聞きたくないのです。フィリピンの人々 高めることである。例えば、紙の品質を測るいくつ の発展というのが、私が紙作りを始めた本当の動機 かの基本的要素の 1 つとしてインクのにじみ止めが です。でも今では、私は手漉き紙の魅力にすっかり あげられる。現時点では簡単な挨拶状程度にしか対 とりつかれてしまいました。最近では、この仕事は 応できないため、主に非日用品の商品開発が行われ 私たちの生活そのものになっています。私たちを知 ているが、細かい文字を細いボールペン等で書ける ることで、人間はすばらしいものを作り出すことが 程度の品質の紙をある程度の量を作ることができれ できるのだとみなさんを驚かせたいと考えていま ば、用途が広がることによるマーケットの拡大がで す。」 きる。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 4.教訓・提言 本プロジェクトのように、関わる人たちの多くが (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 ボランティアで協力する場合、注意すべきなのは 本プロジェクトの中心にあるのが、草紙の製造、 「自己実現」という言葉を誤解した関わり方だと考 及び草紙から作られた商品の生産である。草紙の製 える。「自己実現」を「自己満足」と誤解して、一 造工程は、原料の刈り取り−>乾燥−>切断−>化 方的な訓練に終わっても訓練をした側だけが自己満 学処理 (蒸解) −>叩解−>漉き上げ−>乾燥、で、 足してしまうことがある。しかしそれではプロジェ 最も重要な工程と言われているのが「叩解」と言わ クトは成功しない。言い換えると、自己実現とは自 れている。この工程で草の繊維が柔らかくなり、繊 分が貢献することができる自分以外の存在を意識す 維同士が絡みやすくなるが、逆にこの工程が不十分 るところから始まり、自分以外の存在から役に立っ だと紙はバサバサで弱いものになるため、品質に大 たときちんと評価されるまでやり続けることで達成 きく影響する。そして、この叩解には機械が使われ されるものと考える。 ているが、機械の性能だけでなく、その機械を扱う そのような自己実現を達成するためには、やって 職人の技術が大きくその出来を左右する。 あげる、という一方的な姿勢では難しい。一緒に仕 1999 年、生産能力と品質向上を目的として、当 事をすることを通じて、お互いが自己責任に基づい 基金はこの叩解に使用する機械(ビーター)を供与 て自立度を高めながら、一方でお互いを必要とし、 した。そして 2000 年には、山梨県在住の和紙づく 磨き合う関係を作ることが、自己実現にもプロジェ りの専門家、笠井伸二氏を派遣し、ビーターの使用 クトの成功にも必要と考える。第 3 世界ショップと 方法の基礎を教えた。 SHAPII との関係はその好例と言える。 笠井氏が指摘した問題点は次のとおり。 上述のような関係を育てるためには、プロジェク ・ 原料の煮熟方法 トの実践にあたってお互いに獲得できるもの、獲得 ・ 原料の水洗い不足 したいもの、を明確にしておき、随時検証していく ・ ビーターに入れる原料の濃度と水量 プロセスが必要である。プロジェクトに関わる人は ・ フライバーロールの下げ方不足 みな、自分は何を獲得したら成功と言えるのかを自 ・ 晒しの方法 分自身で明確にしておき、期間を区切って検証をし これらはメモにして生産者に渡したが、実際に ていくとよい。一緒に働くことで相互に獲得したい やって見せなければ通じないなど、まだまだこれら ものをきちんと獲得し合える関係が、多様な交換が の問題点は改善されていない。生産者からも、この 成立する関係であり、そのような関係のもとに行う ビーターを導入することにより生産量は上がったが、 プロジェクトは持続し、発展していくことが期待で 品質の幅には効果が表れていない、という自己評価 きる。 が寄せられており、まだビーターの性能を十分生か このように、関係づくりを意識することが開発プ しきれていない、と笠井氏は指摘する。 ロジェクトの成功には必要であり、逆に言えば、そ 従って、本プロジェクトの現時点における課題は、 ういう関係を世界の様々な地域の人々と日本の人々 1999 年に供与したビーターの使い方をさらに訓練 との間に作り、育てていくことが、このようなプロ 94 事例 21 ジェクトを実践する意義であると、私たちは考えて いる。 写真 1 ラフィスーラ氏 写真 4 カード 写真 2 医療プログラム 写真 5 カレンダー 写真 3 押し花つけ 95 事例 22 フィリピン共和国における職業訓練向上計画プロジェクトの実施 千葉職業能力開発促進センター 久米 篤憲 (元 JICA 専門家 カリキュラム・教材開発) 1.プロジェクトの概要 介する PDM を参照願いたい。 (1)プロジェクト実施の背景 本プロジェクトの協力要請が日本政府に対して行 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 われたのはアキノ政権の末期であり、事前調査に入 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ ったのはラモス政権発足後 6 ヶ月後の 1992 年 12 月 要請内容は TESDA の職業訓練実施・研究開発部門 のことである。 である国家技術職業教育訓練機関(NITVET)において、 ラモス大統領は一定の経済成長を維持するととも 以下の分野にかかる技術移転によりフィリピンの職 に、国際競争力を持つための中期フィリピン開発計 業訓練を向上させることにあった。 画(1993-1998)の 3 つの大きな柱の1つが人材開発 ① 訓練施設管理者の教育訓練(教材・機材管理、 のための効果的な戦略の開発であるとし、大きくマ 訓練生管理、指導員訓練の企画・運営等) ンパワーの育成の必要性を述べている。その実現に ② 訓練施設の指導員を対象とした指導員向上訓練 あたってはこれまでの殻に閉じこもることなく構造 (新技術訓練、教材開発、指導技法訓練) 改革も視野にいれたスケールの大きなものとなって ③ 訓練施設管理者および指導員を対象とした いる。その具体的なものの1つに TESDA(技術教育技 情報処理(各種データ処理及び分析) 能開発庁)の誕生がある。 「職業訓練向上」の名称を冠したプロジェクトで TESDA は貿易の自由化と国際競争への挑戦に見合 あることから、従来の職業訓練プロジェクトと異な う労働力を形成する国の指導的基幹として、また、 り、職業訓練のハードからソフトの技術移転を重要 職業訓練の実施機関として 1994 年 8 月 25 日付けで 視した点が特徴である。具体的には、機械技術や電 法律により規定され、これまでの職業訓練を中心と 気技術といったスキルや知識(ハード面)の技術移転 して実施してきた NMYC(全国労働力青年評議会)、教 から職業訓練のニーズ把握からカリキュラム開発、 育・文化・スポーツ省の専門職業教育、そして労働 実施の指導法、訓練の評価の手法(ソフト面)を技術 雇用省の養成工プログラムの機能を総合して発足し 移転の主体に据えたことである。これらの手法を た。このことにより、これまであった正規技術教育 TMC(Training Management Cycle)というシステムと と非正規技術教育との壁を緩和することにもなった。 して体系化した。図 1 は TMC のコンセプトを表した (2)プロジェクトの目的と目標 もので、訓練の実施評価(訓練受講者の目標達成度) フィリピン政府の要請を受けて具体的な目標や目 を受けて、 「実施したコースはニーズを満たしたか」 、 的を PCM(プロジェクトサイクルマネージメント)手 満たしていない場合は「用いた教材の問題なのか」 、 法を用いて PDM(プロジェクト デザイン マトリッ 「指導時間(カリキュラム)に過不足があったのか」 、 クス)として構築した。末尾に PDM を紹介する。 「指導した方法(講義や実習)に問題があったのか」 (ちなみに、本プロジェクトは JICA が PCM 手法を始 などを検証して次回の訓練にフィードバックするこ めて導入して構築した経緯がある。 ) とを前提にしている。 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 プロジェクトでは、訓練管理、カリキュラムと教 プロジェクトはフィリピンの首都マニラにある 材開発、機械、金属、制御の 5 分野に派遣された専 TESDA の職業訓練実施・研究開発部門である国家技 門家の指導のもとで、C/P(カウンターパート)が TMC 術職業教育訓練機関(NITVET)に新築された家屋にて の流れで訓練コースを開発し、試行訓練(Trial 実施された。 Training)に施設管理者や指導員を参加させて実施 実施体制や活動内容については、同じく末尾に紹 し、TMC の普及を図った。 96 事例 22 な目標達成率は 90%である。 平成 10 年 10 月に行われた終了時評価ミッション 訓練ニーズの把握 は、 「当初計画されたプロジェクトの目標は達成され、 さらに、上位目標に向かっている現状からプロジェ クトは成功したと判断できる。その上で、今後とも 訓練コースの設定 継続して上位目標に向けて、フィリピン側の努力を 望みたい。 」と提言している。 プロジェクト成功の原動力になったのは言うま カリキュラムと教材作成 でもなく、優秀な人材(カウンターパート、専門家) が揃っていたと言うことであるが、それにもまして、 訓練の実施 フィリピン側に職業訓練を根底から見直そうとす る体制と日本からの技術を吸収しようとする姿勢 があったからだと思える。 訓練の評価 JICA における長い職業訓練分野での技術協力の 図1.TMC コンセプト 歴史の中で、ソフトの技術移転を中心としたプロジ ェクトは今回が始めてでもあり、専門家集団にもか (2)訓練等の計画と準備 なりの戸惑いがあったことも事実である。このたび プロジェクトの期間を大別すると、創世記と発展 の経験により、これからの職業訓練分野での技術協 期とに分けることができよう。 力に新たな方向性を示すことができた点で日本側 創世記の 3 年間は TMC のコンセプトをカウンター にとっても貴重な体験ができたと思われる。 パート全員にとにかく理解させることに全力が注が (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 れ、この期間に派遣された長期専門家とカウンター 立発展性 パートが共に訓練センターや企業を訪問し、具体的 開発途上国に限らず、本邦における職業訓練に関 な技術移転項目を洗い出すベンチマークサーベイや しても、国の経済発展を支援する人材育成の計画や 技術移転の教材整備等準備に費やされた。 実施に関しては、官庁や中央組織のリーダーシップ (3)効果的な訓練等を行うための取り組み が重要な要素となる。しかし、中央による掛け声や プロジェクトの発展期には、全国の訓練センター 指示は、時としてトップダウンの体制を醸成してマ から多くの指導員や管理職を招集して、TMC セミナ ンネリ化を促し、訓練現場に勤務する指導員の自発 ーに参加させ、プロジェクトで製作したビデオで 的な活動を阻害する。この点、TMC による訓練の準 TMC のコンセプトを紹介し、試行訓練にて体験させ、 備・実施・評価などは指導員が先頭に立つこと(ボ TMC マニュアルを利用して現場で応用させるという トムアップ)を示唆しているために、指導員に対し 流れを構築する取り組みがなされた。 て大きなインパクトを与えたものと判断している。 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み また、技術協力の最終課題はプロジェクト終了後 プロジェクト期間の修了を控えた時期に、実際に の自立性(Sustainability)である。 試行訓練に参加し受講した指導員や管理職が勤務 この命題を解く鍵は、このフィリピンにおいては する訓練センターを訪問し、フォローアップ訓練を 施設管理者をはじめ TESDA の指導者の TMC に対する 実施した。 認識とそれを支える努力いかんにかかっている。 そのため、プロジェクトの最終段階において、ロ 3.プロジェクトの評価 ーカルの訓練施設長に対して、TMC のコンセプトと (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 その仕組みを理解するためのセミナーを実施した。 プロジェクト期間中の試行訓練受講者目標の 少なくともこのセミナーを継続して行い、一人でも 1145 名に対して、 実際には延べ 1029 名が受講した。 多くの施設長が TMC を理解し、その推進力になって 受講者の中には数回受講した者が存在するが、単純 もらいたいと願っている。また、協力対象となった 97 事例 22 機械、金属加工、制御分野の関係指導員だけでなく、 広く全職種の指導員を対象とした TMC 訓練を継続し に留まることができなかった。 まず、指導員に求められる能力・資質として①十 て実施し、普及に努めてもらいたい。 分な専門的技量を有していること ②効果的な指導 ができること ③訓練受講者に対して公平であり向 4.教訓・提言 上心を持たせるような姿勢であること が挙げられ (1)プロジェクトおよび訓練実施上の問題点・課題 る。 議論はこの①と②の優先度にあった。 図1の 「TMC TESDA の発足に伴い、フィリピンにおける職業訓 コンセプト」を借りれば、第 3 ステップの訓練の実 練の包括的な実施体制が出来上がりつつあるが、公 施に対する技術(スキル) 移転と第 1 ステップから第 共職業訓練施設にみられるような施設設備、機材の 5 ステップ全体の技術移転のどちらを優先させるか 老朽化に対しどのように対応していけるのか、マン と言い換えることができるだろう。具体的には「指 パワーの育成の鍵を握る職業訓練指導者の養成を 導員として十分な専門的技量を有していない者に対 どうするのか、職業訓練の最終目標である卒業生の して指導法を優先しても指導内容が向上するとも思 就職率の向上は可能なのか等多くの課題を抱えて えない」という生の意見がある一方、「ニーズ調査の いる。 把握からコース設定、 カリキュラム編成と教材開発、 また、TESDA は、情報発信基地としての役割上か 訓練の実施、そして評価の方法までを体系的に指導 ら情報システムの改善とコンピューター化が急務 しなければ、プロジェクトの主旨やフィリピン側か とされている。 らの要請に応えられない」 という論点の相違である。 長期的にはフィリピンの労働法典にうたわれて いずれにしても同時進行で技術移転が行われて、そ いるように、教育制度も国が文化的、経済的な発展 れなりの成果を見たと信じている。 をしていくためには、最適な労働力の配置、開発、 フィリピンの生産現場に根ざした技術に関するス 利用という見地から計画されるべきものであるし、 キルアップは現地の指導員の自己啓発に期待する部 専門的な職業に就く人々の養成機関である大学を 分が大きいし、現地指導員の自負と責任でもある。 含めその総合的な労働力開発計画を策定する機関 それより、どの職業訓練コースが重要なのか、国の として TESDA が位置づけられているからには、 TESDA 経済発展戦略や地域の地場産業などのニーズに着眼 本庁の指導体制そのものの強化が最も重要な課題 したコース開発やそのカリキュラム編成を指導員が であると思われる。 できるようになることはスキルアップと同様に重要 また、指導員は訓練施設や企業において人づくり である。でなければ、訓練コース実施による目的達 を担う人材であり、能力開発のリーダーとしての役 成評価や改善がなされないからである。この議論は 割を演じることとなる。 今後もいたるところで展開されるだろう。 工業立国を目指すフィリピンにおいて、いま望ま プロジェクトが終了して 5 年が経過したが、その れるのは単なる生産現場の労働力となる技能工の 後の評価が行われていない。その後 TMC は、JICA の 養成ではなく、能力開発のリーダーを養成すること、 集団研修コース「職業訓練向上セミナー」として、 人材育成の中核となる指導員を養成することであ その成果を世界各国の多くの途上国指導員に紹介し る。 てきた。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 また、私個人としても、JICA 専門家として 3 年に 本 プ ロ ジ ェ ク ト の 特 徴 で あ る TMC(Training 渡って UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)教 Management Cycle)の普及については派遣された専 育局本部で TMC を紹介し、実際に看護師養成コース 門家間でも大きな議論が続いた。 案件を立ち上げた経緯がある。 その背景には、職業訓練指導員の役割の捉え方に この TMC のコンセプトやそこに用いられている幾 それぞれ個人差があったからだと思える。 つかの手法などが、他の職業訓練分野をはじめとし 「指導員が日常業務で最も費やす時間は、訓練の準 た技術協力に応用、 実践されることを期待している。 備と実施、そして評価(テスト等)である」という共 通した認識はあったが、このプロジェクトではそれ 98 事例 22 表 PDM(プロジェクト デザイン マトリックス) プロジェクトの要約 目標・成果の指標 上位目標: フィリピンにおける職業訓 練管理者および指導員の訓練 実施能力の向上に貢献する。 1.カリキュラムおよびソフト ウエアの開発に関する能力 指標データ入手手段 外部条件 NITVET-TESDA 1.TMU の定例化 の年次報告 (TMU:TMC 管理ユニット) 1)TMC の活動計画 2)TSC の報告書 1.試行訓練 (TSC:TMC 運営委員会) 2.試行訓練実施 の向上 2.管理者および指導員の資 質の向上 2.機械器具の 整備 3.訓練に必要な 十分な予算 プロジェクト目標: TMC を基に、現状の職業訓 練コースのカリキュラム、教 材開発などを行い、 NITVET-TESDAの管理者および 指導員に対して職業訓練を実 施するために必要な能力の向 上に寄与する。 1.C/P が企画した試行訓練 成果: 1.TMC に基づき管理者訓 練・指導員訓練を実施す ることが可能な C/P を育 成する。 2. TMC に基づき管理者訓 練、金属加工、機械、制 御の各分野の訓練コース を開発する能力が向上す る。 1.C/P により開発された試行 活動: TMC に基づく管理者訓練の 調査・企画・開発・実施・評 価のための以下の項目にかか る技術移転 ①TMC 委員会の運営 ②基礎調査の実施 ③ニーズ調査の実施 ④訓練の企画 ⑤カリキュラム・教材 の開発 ⑥試行訓練の実施 ⑦評価 投入: 前提条件 (日本側) 1.TMU とスタッフの の実施。 2.プロジェクト修了時までに C/P が TMC を熟知し、自ら カリキュラム、教材開発を 行える。 3)モニタリングシート 4)プロジェクトの 実施報告書 5)年次計画書 6)基礎調査 7)基礎調査報告書 8)プロジェクトの 実績報告書 1)TMC 活動計画 訓練コースおよびそれに伴 2)TSC 報告書 う教材教具 3)モニタリング報告書 2.TMC 等の十分な技術移転 3.教材の管理、活用状況 1.長期専門家 4)プロジェクトの 7 名/年 × 5 年 4 名/年 × 1 月 3.研修員の受入 3 名/年 × 2.5 月 4.供与機材 のための予算 の確保 1.C/P の転職 防止 2.十分な予算の確 保 実績報告書 (リーダー、調整員、専門家) 2.短期専門家 への参加 配置 2.十分なバックグ ランドを持った C/P 3.試行訓練に必要 なスペース (フィリピン側) 4.TESDA の設立が 1.カウンターパート 30 名 プロジェクトに 2.予算(ローカルコスト) 影響を与えない 3.土地及び建物 こと 十分なスペースと快適環境 99 事例 23 フィリピンにおける手工芸品実務者育成事業 特定非営利活動法人 地球ボランティア協会 専務理事 稲畑 誠三 1.プロジェクトの概要 金協力の援助を受けた。 (1)プロジェクトの実施背景 「一日も早く収入を増やし雇用をもたらす措置を 表 1 プロジェクト概要 強く望む」――これはフィリピン国バタンガス州タ ナワン市住民の声だ。現地のカウンターパートが同 期 間 2004 年 4 月∼2005 年 3 月(1 年間) 市で行なった調査結果で判明したことである。 タナワン市は最近になり、州の産業中心地となっ た新興工業地区である。 しかし、 不安定な経済情勢、 実施場所 フィリピン国バタンガス州タナウワン市 費用総額 1200 万円 直接裨益者 58 名 雇用のミスマッチにより、地域住民の雇用・収入は 不安定な状況にある。常勤の工場労働者の平均収入 は月 5000 ペソ、農家の平均収入は月 3000 ペソ(1 ペ 現地カウンターパートと共同実施 ソ=約 2.5 円)。同市では家族は平均して 6 人。5 人 実施体制 ※詳細は表 2 参照 家族における貧困ラインが月 7000 ペソであり、 それ を大きく下回っている。住民は安定した雇用と収入 1. を強く望んでいるのである。 (1 期生の募集及びトレーニング、センター設備 上記の問題をどう解決するのか。市場のニーズに 手工芸品実務者育成センターの設立・稼動 の配置、スタッフの選考・配置、センターシス 応え、地域住民の雇用を促進する斬新なプログラム テム、方針・手順の制定、 システム導入・審査) を実施することが、上記の問題に対する正しい解答 2. のひとつであろう。 (市場評価の実施、製品開発、量産開始) (2)プロジェクトの目的と目標 3. 目的(上位目標):対象地域の住民の所得向上が達 活 成される。 目標(プロジェクト目標):1 年後にタナワンのコ 動 ミュニティにおいて、手工芸品生産のための能力開 内 発が軌道に乗り、実務者が育成される。 容 製品のマーケティング (マーケティング、販路開拓) 4. 1 期生 58 名の輩出 (次期訓練生の募集及びトレーニング、卒業生に よる訓練生の指導) 5. 今回、プロジェクト内容を「手工芸品実務者育成」 とした理由は、以下の通り。 製品ラインを設置 センターの活動と連携した協同組合の設 立・登録 (情報提供、コミュニティ会議、中心グループの ① 市場のニーズに答え、 地域住民の雇用を促進でき 形成、2 つの協同組合設立・登録) る。 6. ② 地域の資源(人・もの・ネットワーク)を活用でき バランガイ(最小規模の行政単位。日本の 町村程度の大きさ)へのプロジェクト・起 る。 業家精神の浸透 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 (情報提供・教育キャンペーン、 バランガイ行政 プロジェクトの実施場所、活動については表 1、 機関にプロジェクトの支援を要請) 実施体制については表 2 にそれぞれ詳細が示してあ る。フィリピンの現地 NGO、KHFI(Kabalikat sa Hanapbuhay Foundation)が当協会のカウンターパー トである。この事業は外務省の日本 NGO 支援無償資 100 事例 23 表 2 実施体制 KHFI(現地カウンターパート) 地球ボランティア協会(GVS) 両団体のミッション・長期計画に沿った優先プロジェクトの協議 計画段階 プロジェクトサイトの候補地リストアップ プロジェクトサイトのスクリーニング プロジェクトサイトでの個別インタビュー ワークショップへの人員の派遣 ワークショップ(参加者・問題・目的分析等) プロジェクトの要約検討 質的・量的情報入手のための調査 プロジェクトの要約をもとにした投入計画・ プロジェクトの要約作成 資金計画・技術サポート等を検討 資金開拓 プロジェクトの内容に関する協議、活動計画表の作成 活動計画に沿った運営管理 実施段階 現地人スタッフによる通常モニタリング (毎週) 評価段階 中間・終了時・事後評価の実施 日本人専門家・ボランティアの派遣 日本人スタッフによる定期モニタリング 評価への人員の派遣 (2)訓練等の計画と準備 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 手工芸品実務者センターを新たに建設し、織物・ (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ このプロジェクトにおいて職業訓練はもっとも重 木工製品作成に必要な機器を導入した。訓練の計画 要な位置づけにある。手工芸品の実務者を育成する は現地カウンターパート KHFI を中心に、 地球ボラン ことがこのプロジェクトの一番の目的であり、その ティア協会(英語名 Global Voluntary Service;略 成功を裏付けるためにマーケティングや実務者育成 称 GVS)も参加し決定した。実際の訓練コースの概要 センターの設立を並行して進めている。 は表 3 のとおりである。これらの実務的訓練に平行 して、働くことに対する前向きな価値観を身につけ るための時間も提供されている。 表 3 訓練コース概要 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み コース名 (a)専門家の派遣 コース目標 訓練内容の質の向上を目的に、日本から専門家を 基本的な手織り工芸 発展的な手織り工芸 手織りの基本動作・基本的デザイン 派遣し、手工芸品製作の指導にあたっている。専門 の習得など 家は日本シルバーボランティア協会の協力で紹介を 機織りのデザイン習得・デザイン分 受けた京都の木工製品専門家を本協会が選定し、技 析など 術、知識・ノウハウの向上に努めた。 (b)マーケティング手法の導入 セルロース系繊維の 染色 地域原産繊維(アバカ) の染色 家具、戸棚の製作 製作された手工芸製品を市場に送り出すことで、 原材料への前処理・染色の習得など 常に市場・顧客からのフィードバックを受けること ができる。このフィードバックを次の訓練の計画に 反映させている。 原材料への前処理・染色の習得など (c)協同組合の設立 プロジェクト対象住民の間で協同組合を設立する 製図・製作のための技術・安全な ことにより、住民同士の横のつながりを構築し、プ 作業の実施など ロジェクトへの参加意識の向上を達成する。これに 手工芸品の製作 品質の高い手工芸品製作の技術習得 101 より心理的な面で、効果的な訓練が可能になると考 事例 23 える。また、協同組合の設立は下記に述べるように 品の加工に利用できるテーブルソーが単に固定丸の プロジェクトの継続性も考慮している。 こぎりとして使われていたこと。工具の電源コード (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み のソケット部が壊れたまま使用されていたことなど (a)協同組合の設立 である。工具の寿命・使用上の安全管理の面から問 プロジェクトが軌道に乗り始めると、われわれ 題があった。これらの問題に対応するために機械工 GVS やカウンターパートである KHFI の手を離れ、参 具の整備、作業場の清掃、参加者向けの研修日の設 加者が主体的に運営をしていけるようになるために、 定などを行う予定である。 協同組合を設立している。 また、更なる研修の充実を目的に、機械工具の追 (b)訓練生のサイクル確立 加や、施設の改善も検討中である。 実務者育成センターを卒業した参加者が次の訓練 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 生の指導にあたることにより、継続的なプロジェク 当協会がこのプロジェクトを実施してから得られ トの発展を可能にしている。 た教訓は二つある。 まず一つ目に、プロジェクト参加者が研修日誌と 3.プロジェクトの評価 もいうべき記録をつけることの効果である。日誌に (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 その日行った作業や習得した技術、 感想などを記し、 このプロジェクトの妥当性に関しては、このプロ 指導員がコメントを書き加えて返却する。これによ ジェクトが現在も進行中(執筆時点)であるため現段 り書きためた日誌が本人にとってテキストになる上 階での評価は難しいが、現時点でもこのプロジェク に、 指導員との密なコミュニケーションも成り立ち、 トは地域において優先度が高く、意味のあるものと 指導が継続的に生かされていく。 して継続している。 二つ目の教訓は参加者が自分の基本工具セットを また、目標達成度は現時点ではほぼ達成されてい コース修了時に所有できることによるインセンティ ると見ている。プロジェクト目標である実務者の育 ブ向上の効果である。プロジェクトの研修コース開 成は計画通り軌道に乗り始めており、第一期生 18 始時に基本工具セット(鋸、鉋、のみ、金槌、きり、 名がすでに研修コースを終えていて、2004 年度中に スコヤ、スケール、小刀、釘抜きの 9 点セット)をそ 58 名の実務者が育成される予定で進んでいる。活動 れぞれ与え、各々の責任において管理・整備を行い 計画の成果も問題なく進行している。 ながら使用していく。これにより道具に対する維 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 持・管理意識が生まれることはもちろん、技術の成 立発展性 長への向上心も生まれる。またこの基本セットさえ 現在までにこのプロジェクトが地域に与えたイン 持っていれば基礎的な作業はできることから、研修 パクトとしては、住民の意識向上が挙げられる。地 コース修了者の自立発展にも寄与することができる 域に手工芸品センターが設立されたことや、高価な のである。 機械工具が何台も導入されたことにより、個々の研 修生のプロジェクトへの参画意識が醸成され、彼ら の間の連帯感も強まっている。 自立発展性に関しても、プロジェクトが進行中の 現時点では評価は難しいが、プロジェクト参加者に よって設立された協同組合が今後主体的にこの事業 を先導してくれることを期待している。 4.教訓・提言 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 知識と良い習慣の不足から不適切な工具の使い方 写真 木工製品製作の作業風景 を一定期間続けていた例があった。例えば、木工製 102 事例 24 フィリピン西ネグロスにおける養蚕プロジェクト 財団法人 オイスカ 事務局次長 木附 文化 1.プロジェクトの概要 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 (1)プロジェクト実施の背景 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ サトウキビの島といわれたフィリピンネグロスは、 特にスタッフ養成のための研修を最重点項目とし 砂糖の国際価格の下落が、サトウキビプランテーシ た。養蚕は生き物が相手であり、約一ヶ月の間、蚕 ョンで働く人々の生活に甚大な影響を与えた。農業 の管理、育成に集中しなければならない。病気にか 労働者としてしか働くことを知らない多くの農民は、 からないように気を張って、場合によっては夜を徹 現金収入が途絶えることによって、生活が困窮し、 して仕事をしなければならない。熟練技術と同時に 日々の食料の確保にも難儀するようになった。その そのような気持ちのこめ方、献身、気配りの大切さ ため、オイスカでは1981年4月、食糧自給のための農 を研修において伝えた。たとえば、農家を巡回し言 業を促進するため、 農民の現場研修を行うとともに、 葉で技術や知識を伝えるだけでなく、場合によって 現金収入を得ることができるように地場産業を振興 は鍋釜もって泊り込みでも指導するという意気込み することを検討した。 が重要であるということを本研修の要諦とした。 (2)プロジェクトの目的と目標 さらに、蚕を買い上げ、それを糸にして販売する 地域住民が、地道に働くことを学び、蚕を飼い繭 ところまで、プロジェクト内活動としているが、ス を作り販売する技術を学び、養蚕事業に参加し、実 タッフの中から研修生を選んで、製糸機械運転など 際に現金収入を得ることができるようにする。農民 の研修も行った。 から買い上げた繭を糸にして販売し、最終的に地場 (2)訓練等の計画と準備 産業として定着させる。近隣の住民は、貧困故に森 養蚕技術および普及について学ぶ研修員は、まず 林を伐採し、まきや生活資材に活用するが再植林の バゴ研修センターでの総合農業研修受講生から選ば 習慣がない。そのような近辺の山々に桑を植え、緑 れた。農業は実際に身体を動かし、土を作り作物を で覆って、その効用を得ることなどを目標とした。 管理し育てる活動に自ら従事しなければ身につかな (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 い。したがって、野外の農場現場での訓練は最も重 フィリピン西ネグロス州バゴ市タブナンに1981 要な要素である。汗をかき、熟練技術を身につける 年オイスカ農業研修センターを設立。この地域の飢 ことをいとわない人間を育成することを目的とする。 餓から農民を救うために、総合農業、特に食糧生産 養蚕プロジェクト参加農家は、養蚕だけでなく日 のための研修を行う基盤を築いた。センター所長渡 ごろは農業も行っているので、そのような農家に対 辺重美が中心となりプロジェクト活動を開始。日本 する指導力充実を目指して総合農業(稲作、蔬菜、畜 から養蚕の専門家を短期的に繰り返し派遣し、この 産など)も一通り学ぶことを前提とし、 その卒業生の センター施設と、すでに農業研修を受けた研修生の 中から養蚕研修員を選び、バゴにおける養蚕実践を 中からさらに養蚕技術研修生を選考し養蚕研修を実 通じた現場研修を継続的に行った。その中から、日 施。卒業生をスタッフ(管理部員、普及員、巡回指導 本の養蚕農家に1年間派遣し、 さらに技術を高める研 員)として雇い、プロジェクトを推進した。養蚕プロ 修機会を与えた。多くの場合、日本にある技術はそ ジェクトは、最初数軒の参加農家を募り、1990年開 のままフィリピンなどの地域に移転できないが、養 始したが、次第に農家数を増やしてきた。2003年度 蚕に関しては応用や修正は極小ですみ、ほぼそのま は27名のスタッフが、約200戸の農家を巡回し、また まネグロスで実践できる。したがって日本の養蚕篤 定期的なワークショップを実施して、 桑の植え付け、 農家のもとでの研修が、研修生のしっかりした動機 蚕を飼う方法を指導し、繭の生産を行っている。 付けを前提として行われた。 103 事例 24 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み ロスの地域にも及んでいる。このプロジェクトで生 研修が、技能の習得だけでないことを強調した。 産する生糸はフィリピン全体の生産量の90%近くに 特に日本の養蚕農家は、長年養蚕を続け、高い技術 及んでいること、また高い潜在需要が見込まれるこ を持っている農家であると同時に、 基本的な考え方、 とから、西ネグロス州政府はもとより、中央政府も 信念を持っている。たとえば蚕は生き物であり、養 このプロジェクトに注目し、生糸を使ったシャツ、 蚕を成功させるためには真の「愛情」 を蚕に注ぐこと 民族服の生産を奨励している。 が重要だとか、「蚕」と会話する気持ちでいろいろな 今後の重要課題は、自立発展のためのフィリピン 作業に専念せよとか、常に経営者として考えながら の人材育成を強化することである。プランテーショ 作業を行えとか、3歩ですむところを5歩歩いて作業 ンの農業労働者のメンタリティ、生き物を一定期間 するようではだめでそれぐらいの合理化を考えよ、 集中的に管理し、育てるという考えなどの基本を身 などといった考え方である。養蚕農家によって使う に着けた農家が生まれてきたことから、もうしばら 言葉は少しずつ異なるが基本は同じである。そのよ くは技術指導、舵取りを手伝いながら自立発展して うないろいろな養蚕農家で研修を受け、心構え、経 いくことを期待している。 営、技能、知識を学ぶことを強調した。 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 4.教訓・提言 研修を受けてプロジェクトに従事しているスタッ (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 フの能力強化を行い、スタッフがこの養蚕プロジェ 1980年代から農業研修を行い、農民の自立、食糧 クトを成功させるために、お互いに話し合うことを 自給達成を目指して研修活動を続けてきた。そのよ 習慣づけ、いかに協力しあうかなど、継続的に努力 うな地道な活動が実を結んだといえるが、これだけ している。 プロジェクト活動そのものが研修であり、 の時間と資金、エネルギーがかかったということも 勉強の機会であることを強調する。つまり、一定の 事実である。人が技術を身につけ、新しい考え方を 研修コースを終えて、スタッフとなっても、プロジ 知り、自分の生活を変え、それが次第にコミュニテ ェクトを推進する中でさらに上級の技術や心構え、 ィに広がっていく。 そして、 そのような流れの中で、 考え方、管理、運営能力、お互いの協力の効率化を 養蚕業というプロジェクトが導入され、その中で研 達成することを要諦とする。日本人指導員がいなく 修活動を続けた。このような研修を意義有らしめる なっても研修が継続できるように力を入れている。 ために、ベクトルを同じ方向に向け、力と時間をか け、全体を変えていく必要がある。 3.プロジェクトの評価 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 人材育成、地場産業の成功のためには、十分な時 現金収入の道が少なかったサトウキビの島に新し 間をかけ、時間がかかっても地道に情熱の火を絶や い地場産業を導入し、生産物(生糸)が国外市場では さずに続けていくことのできる指導者、そのような なく、国内でも高い需要があることから、このプロ 時間がかかることを容認できる体制が必要である。 ジェクトはきわめて妥当なプロジェクトであった。 このプロジェクトが今日までほぼ成功しているのは、 社会的に大きなインパクトを与え、 約200戸の養蚕プ 上記したように、時間をかけてきたせいでもある。 ロジェクト参加農家の収入は向上した。ただ、現在 また、 研修と同時に多くの農家に桑を植えてもらい、 のところ、日本人指導者の経費は外から投入を継続 養蚕のシステムを構築してきたため、もし、今まで し、かつ研修センタースタッフの経費も全額プロジ の道程で頓挫するようなことがあれば、再び多くの ェクトによる収入でまかなうところまで到達してい 農家が路頭に迷い、単に経済的な問題だけでなく地 ない。後数年努力することによってプロジェクトの 域において大きな社会問題も引き起こす可能性・リ 完全自立が得られることを期待している。 スクもあった。研修を行えば、それだけで必ず何ら (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 かのプラスがあるだろう、失敗しても人材は残るか 立発展性 ら必ずプラスが残るであろう、というだけですまな 西ネグロスの養蚕プロジェクトの成功が、東ネグ いこともある。 104 事例 25 フィリピン共和国マニラ市・トンド地区における小規模職業訓練プロジェクト 特定非営利活動法人 金光教平和活動センター 事務局長 西村 美智雄 1.プロジェクトの概要 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 (1)プロジェクト実施の背景 (a)実施場所 マニラ市トンド・バルート地区 マニラ市トンド・バルート地区のパラダイス・ハ (b)実施体制 イトは、かつてマニラ首都圏が排出する総ゴミの カウンターパート:SRD コンコウキョウセンター 1/3 が廃棄される巨大なゴミ集積地”スモーキー・ スタッフ:ソーシャルワーカー1人(事業監督) マウンテン”と呼ばれた地区である。当時この周辺 縫製トレーナー1人 では地方から流入してくる人々がスラムを形成し、 日本人職員:KPAC 事務局職員 ゴミの中から廃品を回収して生計を立てていた。 プロジェクトのアウトライン、具体的な訓練項目 1995 年の強制撤去に際して 3000 世帯が退去させ 及び組み立て、必要な資機材、経費についてをソー られ、その後の再開発事業に伴って、跡地には 5 階 シャルワーカー、SRD スタッフ及び日本人職員と共 建の公営アパート 28 棟が建てられた。 現在では当時 に協議した。ソーシャルワーカーは縫製トレーナー 居住していた人々や新たに流入してきた人々で約 と共に全体企画に従って受講者の選定基準、訓練項 4000 世帯、2 万 4 千人のコミュニティが形成されて 目及び日程、さらに訓練終了後のフォロー、市場開 いる。政府は当初、新設のアパートに住民を入居さ 拓に関する研究を行った。 せる計画だったが、もとより賃借料を支払える人々 日本人職員は、資金及び資機材の調達に関する事 は皆無に近く、住民は依然ゴミの収集、港湾労働な 務を担当し、縫製トレーナーは主に現地人の専門家 ど不定期就労の機会を待つしかない。一定の収入を を委嘱し、受講者の指導を行った。また、折々に訪 得る機会を持っている者は地域全体の約 1/3 程度で、 問する日本人ボランティアがその都度指導に当た 平均的な月収は 5500 ペソである。 ることになった。 金光教平和活動センター(略称/KPAC) は 1989 年、 (c)活動内容 主に就学前教育施設として SRD コンコウキョウセン 表 1 訓練工程及び訓練内容 工 程 タ ー (Self Reliance and Development Konkokyo Center, Inc./略称 SRD)を設立し、以来毎年 200 人 前後の幼児教育、奨学金給付事業などを実施する傍 ら、地域住民の生計向上のための取り組みを進めて いる。 本プロジェクトは 1996 年 12 月から開始し、受講 生の受け入れは 1997 年度から行った。 (2)プロジェクトの目的と目標 コミュニティの主婦の多くは家庭にあって家事に 従事しており、夫や家族のわずかな収入で生計を立 てている。このプロジェクトは、彼らに新たな収入 の道をつけると共に、女性たちが生き甲斐と自立心 を培うものであり、段階的に技術を習得させ、縫製 技術者の組合の組織化及び組合における受注・ 製造、 指導者養成、または就職の斡旋を目指す。 105 訓練内容 オリエンテーション、規則、安全保護 オリエンテーション のための説明 ミシンの使用部分の各名称を教え、機械の維持説明 ボビン、ミシン針の扱い方、糸の通し方の指導 紙を使用して直線縫いの練習、ミシン針なしで布を縫 う直線縫いの練習 ミシン針を付けて紙と布上を直線縫いする練習 体の測定法の指導 型紙の作り方、カットの仕方、縫い方の指導 訓 練 縫製作品の種類 項 ・パジャマ作成 目 ・袖付き丸首ブラウス作成 ・襟付きスポーツブラウス作成 ・鉛筆書きでのスカート作成 ・プリーツ・スカート作成 ・ドレス(四角襟付き、カーブ襟、ベビー・カラー、 チャイニーズ・カラー、長袖)作成 ・シャツ作成 ・パンツ作成 訓練の評価 縫製プロジェクトにおける記述試験 事例 25 訓練は、原則 1 クラス 10 人編成で、年間 2 コース また、訓練を修了してもミシンを使用できること を実施、1 コースは 3 か月である。 など、会場を開放することでいつでも学習できる環 境を提供している。 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ 一定の訓練を修了した者には、近隣の保育園や学 SRD が就学前教育、奨学金給付など、直接子ども 校から受注する制服などの製造スタッフに就くこ に対する援助を根幹にした活動を進めていく上で、 と、縫製トレーナーのアシスタントから正規のトレ 母親らが自ら技術を習得することによって、教育の ーナーとして活動する道を開き、幾人かは自分でミ 重要さを認識し、共同体に参画することの意識向上 シンを購入して自宅で縫製の仕事を行っている。 を促すことを可能とする。また技術の向上によって 独自に収入の道を開いたケースについては追跡 収入を拡大することで、わずかではあるが、SRD の 的に調査してそのノウハウを反映させるなど、持続 他の事業を経済的に補完することが可能となる。 的な事業の推進を図っている。 (2)訓練等の計画と準備 また、外部の縫製工場や素材を扱う業者などから 事業資金は、1996 年度の国際ボランティア貯金寄 資機材の提供や指導を受けるための交渉を行い、ミ 付金配分金から 99 万 9 千円の交付を受けて訓練用 シン、はさみ、布地などの無償提供や市場開拓の方 ミシンを調達し、人件費、教材、その他の資機材、 法、その可能性などについても助言を得ている。 諸費は自己資金を充てた。 全体の計画は、上述したように、SRD スタッフ、 3.プロジェクトの評価 ソーシャルワーカー、そして日本人職員による協議 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 によって決定し、ソーシャルワーカーが中心となっ プロジェクト開始から 2003 年度までに 169 人が て受講者の選定及び適性調査を行った。 受講、124 人が修了した。修了率は 73.4%である。 受講者は、地域周辺の 129 のバランガイ(最小の 行政区)から 15 歳以上の読み書きができる女性を選 表 2 修了者数及び独自に収入を得ている者の割合 定することとした。 年度 訓練用ミシンは 11 台を現地調達し、SRD センター の 2 階 35 ㎡の部屋を会場に充てた。プロジェクト を開始した当初は、供給電力の容量制限もあって、 初級段階の訓練として足踏み式のミシンを使用し たが、次第に訓練の進捗度に合わなくなり、順次電 動ミシンに切り替え、現在はすべて電動ミシンを使 用している。 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 多くの受講生が初等教育以上の教育を受けてお 修了者数 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 合 計 21 16 7 28 24 21 7 124 収入を得ている 者の割合 42.8% 75.0% 85.7% 0% 0% 14.3% 0% 31.1% 表 2 に見られるように、約 7 割の受講生が訓練を らず、理論的な理解が及びにくいため、それぞれの 終えても独自の収入を得ていないのが現状である。 受講生が耐えられる程度の内容であるかを検証し とくに 2000 年度からは、現地通貨の下落傾向によ ながら個別指導に当たることが必要となった。縫製 って仕事を得ることが困難になっている。しかし、 作業は各人の「器用さ」などの能力によって進歩の 2001 年からは近隣の保育園、学校などから受注した 度合いが異なり、一人ひとりの個性・能力に合った 制服等の製造で 300∼500 着程度を出荷できるよう 指導法を工夫しつつ進めた。 になった。毎年複数の施設からの受注、問い合わせ 受講生の中には、家庭の事情等によって欠講せざ 等があり、製造作業にはその都度修了者を臨時に雇 るを得ない者があり、こうした受講生には家庭訪問 用して対応している。 や個別の相談を行い、なるべく修了まで訓練を受け このように、本プロジェクトは現地のスタッフ及 られるよう側面的な援助を行っている。 106 事例 25 び受益者による主体的な取り組みを前提に、試行錯 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 誤を繰り返しながら自らの開発と発展を目指して SRD が所在するトンド・バルート地区は、そもそ 取り組むことを基本姿勢としており、当初掲げた技 も外部からの流入者によって形成された都市型スラ 術の習得、組合の組織化及び受注・製造に関しては ムの典型的なモデルである。本プロジェクトをはじ 一定の成果を挙げたものと考えられる。 め、SRD のすべての事業は地元住民の現状から出発 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 した地域開発の取り組みであり、規模はごく小さな 立発展性 ものであって、その基盤は盤石ではないが、こうし 元来、学習、訓練というものを経験していない家 た市民レベルの地道な自己開発がやがて地域全体の 庭の主婦を対象にした本プロジェクトは、当初は受 向上に繋がっていくことを期待するものである。 講者の欠講やモチベーションが低く、なかなか進捗 今後は、当該地で活動している国内外の大小様々 しなかったが、スタッフが根気よく接し、子どもの な NGO との相互の情報交換など、連携強化と協働の 教育のことや家庭での諸問題などについて相談・助 道を開いていくことが必要であろう。 言することで次第に出席率が向上していった。 地道に努力して技術を習得することが、各人の生 きる張り合いとなり、子どもや家庭によい影響を与 えることに繋がっており、地域住民にもあきらめず 努力することで発展の可能性があることを徐々に示 すものとなっている。 しかし、事業規模が小さく、広く地域一般を対象 にし、公益性が低いため、地域全体の経済効果や社 会的モラルの向上といった大きな影響力にはなり得 ているとは言い難い。行政の手の届きにくい貧困地 区にあっては、自分たちで立ち上げ、少しずつ積み 上げ、小さな成果でも、それを獲得していく喜びを 活力としてステップアップしていかなければ、自立 発展性を望むことはできない。 写真 SRD コンコウキョウセンター2 階の縫製教室 4.教訓・提言 (1)プロジェクト及び訓練実施上の問題点・課題 受講生のほとんどは、ミシンは無論、はさみや生 地を購入する経済的余裕がない。SRD でははさみを 貸与し、古着を使って日常の練習を行うことを奨励 しているが、絶対数が不足しているために思うに任 せないのが問題である。それがために、受講生のモ チベーションの低下や途中離脱という結果を招いて いる。 プロジェクトを運営していく能力に関しては、ス タッフのこれまでの経験と学習によって培われた基 盤があり、本プロジェクト程度の規模であれば継続 していくことは可能である。今後、資機材の充実と より洗練された指導者の養成及び確保が求められる。 107 事例 26 ベトナム リプロダクティブ・ヘルス・プロジェクトの人材養成 財団法人ジョイセフ 事務局長 石井 澄江 ベトナムプロジェクト支援室 浜野 けい子 1.プロジェクトの概要 て多いが、その多くがベトナム戦争時に暫定的に行 ・プロジェクト対象地区:ベトナム北中部ゲアン省 われた医療教育しか受けていない為、コミューン (村)での医療従事者の技術レベルの低さが以前から 全域 19 郡 469 コミューン(村) 問題とされてきた。 ・対象人口:285 万人(1999 年フェーズⅡ開始直前) 政府はコミューンでの安全なお産を推進するため ・プロジェクト裨益者:ゲアン省の出産可能年齢女性 に、施設分娩率を 2010 年までに 85%まで引き上げ ・プロジェクト実施期間: フェーズ I 1997 年6 月∼2000 年5 月(3 年間) る目標を設定しており、一方で、農村での施設分娩 フェーズⅡ 2000 年 9 月∼2005 年 8 月(5 年間) の多くが実施されるコミューン・ヘルス・センター (CHC)の助産スタッフの技術レベルが低いため、 同じ ・プロジェクトの目的: く 2010 年までに産科専門教育を受けた準医師ある 上位目標 ゲアン省の出産可能年齢女性のリプロ 1 (Reproductive いは、3 年以上の助産教育を高校卒業後受けた中等 health:略称 RH、性と生殖に関する健康) 助産師をすべての CHC に配置することを目標にして が改善される いる。 ダクティブ・ヘルス プロジェクト目標 ゲアン省でのリプロダクティ ゲアン省は、人口に対する助産師数は平均であっ ブ・ヘルス・サービスが改善される たが、 短期(4 ヶ月∼1 年以下)の助産教育を受けただ けの速成コースで資格をとった初級助産師が多く、 (1)プロジェクト実施の背景 再教育の必要性が高い状況であった。また CHC の施 ベトナム社会主義共和国(以下 「ベトナム」 に省略) 設は 1980 年代政府の指導のもとに、 地元住民の労働、 は低所得国であるにも関わらず、低予算で効率的に 資材で建てられたもので、老朽化が進み、雨漏りや 全国に保健サービスを提供してきた。一人あたり カビ、機材の欠損など状況は劣悪であった。施設分 GDP は US$331(1998)で低所得国に属するが、乳児死 娩の拠点となる CHC の状況を改善することが、政府 亡率は 31 (1998)、妊産婦死亡率は 160 (1998)と母 の目標を達成する前提条件として急務であった。 子保健指標はマクロ経済指標が同等の他国と比べて (2)プロジェクトの目的と目標 2 良い状況にある 。医療従事者の数も近隣諸国と比べ こうした背景を踏まえ、 1997 年 6 月から 2000 年 5 月まで JICA リプロダクティブ・ヘルス・プロジェク 1 リプロダクティブ・ヘルスとは、妊娠・出産のシステムおよびその 機能とプロセスにかかわるすべての事象において、単に病気がないあ るいは病的状態にないということではなく、身体的、精神的、社会的 に良好な状態(well-being)にあることをいいます。 (WHO) リプロダクティブ・ヘルスには以下のことが含まれます。 ・人々が安全で満足のいく性生活をもてること ・子どもを産む可能性をもつこと ・子どもを持つか、持たないか、子どもを持つならいつ、何人産むか を決める自由を持つこと ・男女ともが、自分の選んだ、安全かつ効果的、また安価で利用しや すい出生調節法についての情報を得、またその方法を入手すること ができること ・すべての女性が安全な妊娠・出産を享受でき、カップルが健康な乳 児をもつための、適切なヘルス・ケア・サービスを入手できること。 (http://joicfp.or.jp/jpn/whats_joicfp/katsu_kihon_3.shtml より抜粋) ト(フェーズ I)が日本政府の協力のもとに開始され た。フェーズ I では、ゲアン省 19 郡中 8 郡 244 コミ ューンを対象に、コミューン・レベルでの出産環境 の改善を目指して、CHC の助産師・準医師の再教育 (一ヶ月)、CHC への機材供与・施設改善をパッケー ジとした技術協力が行われた。 フェーズ I における短期間での成果が評価され、 2000 年 9 月からゲアン省全 19 郡 466(2004 年現在 469)コミューンを活動対象として新たにフェーズⅡ が開始した。 「ゲアン省でのリプロダクティブ・ヘル 2 UNDP(国連開発計画)「人間開発報告書 2000」p.200-228、一人あた り GDP が同程度のケニア(US$334)やトーゴ (US$333)では、乳児死亡 率・妊産婦死亡率はそれぞれケニア 75, 590、トーゴ 81, 480 である。 ス・サービスが改善される」ことをプロジェクト目 標とし、PDM が作成され 7 つの成果(目標)に絞られ 108 事例 26 た(PDM 成果 0−6)。 年以上の途上国援助経験を有す NGO のジョイセフが ① ゲアン省の母子保健・ 家族計画(MCH/FP)センター 全面的に協力している。ジョイセフ内には、ベトナ 及び郡保健センター(DHC)の運営管理・ガイダン ムプロジェクト支援室が設置され、層の厚い専門家 ス・モニタリング能力が向上する(PDM 成果 0 お ネットワークを活かした専門家の人選・派遣支援、 よび 2) 日本でのカウンターパート研修実施など、人材養成 ② コミューン・ レベルでの安全で清潔なお産が推進 支援をはじめ、情報収集、データ分析、広報資料制 される(PDM 成果 1) 作など、 プロジェクトへの幅広い支援を行っている。 ③ 人工妊娠中絶件数減少のため、MCH/FP センタ (e)活動内容 ー・スタッフのガイダンス・モニタリング能力 現地関係者と日本人専門家が共同して作成した詳 が向上する(PDM 成果 3) 細な PDM に従って 7 つの成果に絞られ、それぞれの ④ 女性連合を中心とした地域保健活動による 活動が計画された。主な活動は、助産師の再教育を IEC(Information Education and Communication 中心とした多様な人材養成、MCH/FP センター及び郡 :広報啓発活動)の強化(PDM 成果 4) の各種専門技術および運営管理能力の強化、機材の ⑤ MCH/FP センター及びいくつかの郡保健センター 供与、CHC 施設の改善、住民による地域保健活動の (DHC)における生殖器感染症(RTI)減少に向けて 推進である。 の能力が向上する(PDM 成果 5) ⑥ 保健情報管理システム(HMIS)の向上(PDM 成果 6) 2.プロジェクトにおける人材養成の実施 (3)プロジェクトの実施体制・活動内容 (1)プロジェクトにおける人材養成の位置づけ (a)プロジェクト実施体制 プロジェクト当初より、人材養成はプロジェクト 最高意思決定機関として省合同委員会を組織し、 の最重要課題であった。国や省政府が定めた保健体 省、郡、コミューンの各行政レベルに関係セクター 制の枠組みの中で、国家の保健目標との整合性を重 (行政、保健セクター、人口・家族計画セクター、住 視し、 ゲアン省の女性の RH が最大限に推進できる方 民組織)からなる運営委員会を組織した。総数 1967 法を目指す。どのようにしたら全ての住民に国の目 名が運営にかかわっている。 標とする RH サービスを届けることができるか。 また、 (b)カウンターパート その質を最大限に高めるにはどのようにしたらよい ゲアン省:プロジェクトの最高意思決定機関は、 か。国や地方行政が定めた「本来業務」を実現する 年度初頭の定期開催と必要に応じて開催する省行政 ための普及及び運用に関する技術協力がプロジェク (人民委員会)および上記関係セクター代表からなる トの核となる活動である。したがって、本来地方行 プロジェクト合同委員会であるが、日常のプロジェ 政府がしなければならない「本来業務」を効果的に クト運営管理業務は MCH/FP センター所長およびセ 実現していくために、人材養成を行う。それによっ ンタースタッフで構成される省運営委員会(PSC)が て、継続性・自立発展性の高いプロジェクトを目指 担当する。したがって、日常的活動はゲアン省 している。 MCH/FP センターがカウンターパート(C/P)としての (2)人材養成の計画と準備 責任を担っている。 村レベルの施設分娩の質の向上からプロジェクト (c)現地プロジェクト事務所 を開始したが、 最終的には対象地域全体の RH の推進 2004 年 10 月現在、5 名の日本人長期専門家(チー を MCH/FP センターが中心となって行えるよう、省・ フアドバイザー、調整員、保健師、助産師、保健医 郡・コミューンの各行政レベルでプロジェクトの自 療統計システム専門家)と 5 名のローカルスタッフ 立・ 継続を視野にいれた人材養成を多角的に行った。 が常勤。PSC およびセンタースタッフと協力して日 ① CHC 助産師(または産科準医師)の再教育による 常の業務にあたっている。 CHC での分娩介助技術の向上 (d)日本国内の支援体制 ② 地域の RH 推進拠点としての MCH/FP センターの 本プロジェクトは、JICA と NGO との連携で実施さ 技術および運営管理能力の強化 れており、人口、リプロダクティブ・ヘルスで 30 ③ CHC および MCH/FP センターの間で、CHC の日常 109 事例 26 業務を指導する立場にある DHC の指導能力強化 践につなげられるよう具体的に検討してもらうよう ④ サービスの利用者である女性および地域住民に にしている。さらに、同じ研修目的であれば、でき 対する IEC 推進に関する人材養成・組織作り るだけ共通の場所を視察するように工夫することで、 フェーズ I では、住民への裨益を優先するかたち 帰国後研修員同士が同じ目的のための行動を起こし で、 ①の CHC スタッフ再教育を中心に行った。 また、 やすい環境を作るよう配慮した。 コミューン・レベルでの女性連合を対象とした IEC (b)参加型の重視 セミナーも実施。フェーズⅡでは、対象地域を拡大 研修は参加型を取り入れ、経験・体験をとおした したことから、新規参入郡に対する CHC スタッフ再 学習の多用で、学びから実践へ移行しやすいように 教育を実施する一方で、プロジェクトの自立・継続 工夫。計画立案に関しては、参加型を取り入れるこ を視野にいれた省・郡レベルの運営管理能力強化に とでオーナーシップを高め、プロジェクトに対する 力点をおき、また、 「安全で清潔なお産」ばかりでな 主体的な取り組みが促されるようを開始時より配慮 く、 ゲアン省が抱える RH 課題への幅広い取り組みに している。 関連した技術指導・人材養成を実施するよう計画さ (4)プロジェクトで実施した人材養成プログラム れた。 先述の(2)で述べた人材養成の種類にしたがっ 計画の立案は、長期派遣専門家チームとプロジェ て実施したワークショップ・セミナー、研修は、フ クトの実質的運営主体である省運営委員会(MCH/FP ェーズ I では 2 年半に延べ 144 コース 7,204 名、フ センター所長以下で構成されている)が協議して計 ェーズⅡでは 2004 年 3 月 31 日までの約 3 年半で延 画・立案し、省合同委員会の承認を得て実施してい べ 247 コース 17,556 名に対して実施した。 (文末の る。 表参照、フェーズⅡのみ) (3)効果的な人材養成を行うための取り組み (5)人材養成の定着・継続に向けた取り組み (a)専門家指導・C/P 研修の有機的連携 (a)C/P・長期専門家・短期専門家共同による実 1)短期派遣専門家による指導 施マニュアルの作成 短期専門家には、各専門分野に関するプロジェク 人材養成の最重点となった CHC 助産スタッフの再 トの計画立案に際して、専門家の立場からの助言を 教育では、 UNFPA(国際人口基金)が作成したカリキュ 求めるとともに、長期派遣専門家と協力して、プロ ラムの改定とともに、 コースの準備段階(講師の手配、 ジェクトが計画した研修・ワークショップにおいて 移動手段・宿泊場所・会場などの準備、評価方法な 専門家としての指導を依頼した。同一の短期専門家 ど)に関する実施マニュアルを作成した。また、IEC が継続的に指導することで、専門家のプロジェクト に関しても、実際の試行のプロセスをドキュメント の理解が深まり、C/P との関係も強化され、適切な するとともに、実施のためのマニュアルが作成され 提言・フォローアップを可能とした。また、いくつ つつある。さらに、さまざまな形で現地スタッフが かの分野では、経験の蓄積・移転のためのマニュア 終了後利用できるドキュメントを作成した。 (例/CHC ル作成も依頼した。指導内容の積み重ねの効果が得 スタッフ再教育カリキュラム、CHC モニタリングチ られている。(平均 10 名の短期専門家を毎年派遣) ェックリスト、RH 講義用エプロン式教材活用マニュ 2)カウンターパート研修 アル、RH シナリオ集、その他各種アクションプラン 日本でのカウンターパート研修に関しては、4 週 など) 間から 6 週間の視察型研修、あるいは、滞在型の技 (b)指導員の養成研修 術研修を組み合わせて実施。プロジェクトが伝えた ルーティンでの活用を促し、さらに、研修を継続 い日本の経験を中心に、研修員の専門分野に応じた できるように、特にフェーズⅡでは省・郡レベルの きめの細かなプログラムを作成している。特に、現 スタッフの TOT(Training of Trainers:指導員養成 地を訪問した短期専門家から受け入れ協力を得るこ 研修)に力を入れた。MCH/FP センタースタッフおよ とで、ゲアンの実情にあった視察・研修プログラム び DHC スタッフのキャパビル(Capacity Building: を実現している。帰国前には、研修員に「行動計画」 能力向上)をプロジェクトの重点活動項目のひとつ を作成してもらい、日本で学んだことを帰国後の実 とした。 110 事例 26 3.プロジェクトの評価 4.教訓・提言 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 (1)プロジェクトの人材養成の問題点・課題 プロジェクトの終了は、 2005 年 8 月 31 日である。 ① 学んだ内容を学習者が実践に移すためには周り 2003 年 8 月に実施された中間評価調査団の評価では、 の理解・サポートが必要となる。研修を受けた プロジェクトの進捗は順調であり、妥当性、目標達 ものが、他のスタッフと内容を共有することが 成度も高く評価された。妥当性に関しては「相手国 重要である。モニタリングなどをとおした継続 および受益者ニーズの視点」と「プロジェクト計画」 的なフォローが重要。センタースタッフ、DHC ス の両方の視点で妥当であるとされた。また、目標達 タッフの役割が大きい。 成度に関しても、ゲアン省は、国家 RH10 ヵ年戦略で ② プロジェクトがモデル郡で蓄積した経験をもと 目標とされている指標のほとんどをすでに達成して に、ゲアン省全体に活動を広げるためには、行 いることに加えて、プロジェクトの成果指標に関し 政のコミットメントと同時に、すでに研修を受 ても、中間評価の段階で終了時には概ね達成と予 けた人材が中心となって、今後も継続的に人材 測・評価された。 の養成を実施していくことが必要である。 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 ③ 学んだ内容がルーティンの中に位置づけられて 立発展性 いないと、継続が難しい。特に IEC に関しては、 (a)インパクト 予算、人員の配置など、その重要性に関する認 ① 国家RH 10 ヵ年戦略への実践モデルとしての提言。 識をより一層高める必要がある。女性連合が今 同戦略策定に際して、プロジェクトの経験が取 後中心的な役割を担うとしても、医療セクター り入れられた。 からの専門的な協力が不可欠である。IEC は、国 ② 国家 RH 10 ヵ年戦略の中間評価(2005 年) 時には、 のガイドラインにも MCH/FP センター、 DHC や CHC プロジェクトの経験を再度提供することが政府 の TOR(Terms of Reference: 業務実施内容)とし から期待されている。 て明記されているので、医療セクターの自覚を ③ ゲアン省の経験は、他省からの関心も高く、プロ 促していく必要がある。 ジェクトは、積極的に他省やマスメディア、他 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 の援助機関に紹介する活動を行っている。(北部 JICA のベトナム・リプロダクティブ・ヘルス・プ 30 省を対象とする RH 経験交流セミナー、HMIS ロジェクトの特徴としていくつかの点が指摘できる。 ゲアン省改良集計ソフト普及経験交流セミナー、 その中に広域な地方展開型であることと、 「本来業 中絶軽減に関するメディアセミナーなど) 務」に的を絞ったサービスの向上を図る「普及型」 (b)自立発展性 プロジェクトであることが人材養成と大きく関連し ① 省人民委員会の RH 推進に関する強いコミットメ ているので、その点に関する教訓・提言を述べる。 ント(人員および予算的な裏づけ)があり、プロ ベトナムにおいても人口の多いゲアン省全体 ジェクトの実施主体を地方行政へ移管するため (2003 年現在 469 コミューン 298 万人)をカバーする の条件が整いつつある。 プロジェクトであることと、その全てのコミューン ② MCH/FP センター主導で、RH 推進活動を実現する に JICA の協力が直接提供されている点である。 この ための人材が育つとともに、今後、ベトナム側が 広域な地方展開型プロジェクトを可能にし、プロジ 主体に人材養成を行っていく基礎ができつつあ ェクト終了後の継続性を確保しているのはプロジェ る。 クトの内容が「本来業務」に的を絞っているからで ③ 保健省もゲアン省 MCH/FP センターの実績を高く ある。 評価。3 年続けて表彰された。 多くの途上国において、中央レベルの国家開発計 画・戦略・政策そして実施に向けての基準などは国 際機関やドナーの協力で美しいものが出来上がって いる場合が多い。問題はこれらの中央レベルでの決 定が住民に届いていないところにある。人材養成に 111 事例 26 あたり、プロジェクトで心がけていることは、中央 レベルにおける人材養成に関わる「政策」であり、 地方行政府として義務付けられている「基準」であ る。これらをどのようにして地方レベルで達成する かが問題であり、それがプロジェクトをして「普及 型」と言わしめている点である。 中央政府の政策を地方レベルで実施しながらその 経験を基本に中央政府に対し、実践的な提言とフィ ードバックを行っている。その結果が中央政府の政 策に反映されるというプロセスである。 人材養成も本来地方行政府がしなければならない 写真 1 参加型ワークショップ 「本来業務」であれば、地方行政府にとっては負担 が軽いし、継続の可能性も高い。プロジェクトを通 して、最大の効果を生み、住民にまで届く質の良い サービスを可能にする人材養成の手法について、プ ロジェクトから多くの貢献が可能となる。 写真 2 骨盤モデルを使った指導 写真 3 長期専門家による HMIS 研修 112 事例 26 表 人材育成リスト フェーズⅡ 実施年 研修の種類 2000 郡運営委員会(DSC)メンバー対象オリエンテーション・ワークショップ 2000 コミューン運営委員会(CSC)メンバー対象オリエンテーション・ワークショップ コース数 参加者数 1 63 US$計 608 19 1,178 11,376 2001 新規郡11郡 DSC メンバーによる継続8郡プロジェクト地区視察(国内移動セミナー) 1 61 1,333 2001 TOT。5 郡 DHC 及び MCH/FP センタースタッフ対象 IEC 研修(マギーエプロン) 2 15 2,584 2001 MCH/FP センター及び DHC スタッフ対象人工妊娠中絶調査研修(中絶データの入力・分析) 4 10 5,891 2001 CHC スタッフ再教育 (第1回∼6回まで) 6 145 34,517 2001 11 郡 DSC と MCH/FP センターPCM ワークショップ 2 40 1,895 2001 モデル 4 郡他対象モニタリング手法研修(計画立案・実施およびマニュアル作成) 2 41 2001 愛育班モデル郡モデルコミューンオリエンテーション 4 200 2001 19 郡 DSC 対象、愛育班活動紹介オリエンテーションセミナー 1 56 2001 MCH/FP センター及び 9 郡 DHC 医師対象、コルポスコープによる RTI 診断技術研修 1 13 774 C/P予算 898 C/P予算 2001 HBMR 活用推進モデル 2 郡 DHC・CHC オリエンテーション・ミーティング 1 13 36 2001 6 郡コミューン、ハムレット女性連合メンバー対象 IEC ワークショップ 7 1,936 17,727 2001 選出ボランティア対象、愛育班モデル郡モデルコミューンオリエンテーション 3 245 2002 省・郡愛育班推進関係者対象、TOT ワークショップ 1 10 2002 両親学級モデル 2 郡対象ワークショップ(両親学級既存プログラムの見直し) 1 11 42 2002 モデル 2 郡及び MCH/FP センター対象中絶調査及びアクションプラン作成研修 1 20 1,721 C/P予算 625 2002 TOT。5 郡DHCおよびMCH/FPセンタースタッフ対象、IEC 技術研修 1 14 266 2002 タイ国コンケーン県 JICA 母子保健事業視察(MCH/FP センター及び 4 郡 DHC) 1 8 11,844 13,245 2002 新規 11 郡 DSC メンバーによる南部ベトナム視察研修。(トラベリングセミナー) 2 41 2002 モデル郡モデル3コミューン女性連合メンバー対象、愛育班員研修 1 42 568 2002 CHC スタッフ再教育(第7回∼10回まで) 4 96 13,848 2002 MCH/FP センタースタッフおよび3郡 DHC スタッフ対象人工妊娠中絶カウンセリングワークショップ 1 12 929 2002 モデル 6 郡・MCH/FP センター対象、HMIS整備に向けたコンピュータ操作・維持管理技術研修 2 18 1,609 2002 コミューン・ハムレット女性連合メンバー対象 IEC ワークショップ 18 6,630 19,522 2002 新規 11 郡 DHC および継続6郡、省病院の医師対象。コルポスコープによる RTI 診断技術研修 1 18 1,226 2002 継続 8 郡 CHC 再教育受講生対象リフレッシャー研修 13 419 7,319 2002 PSC、DSC、MCH/FP センター、女性連合他対象地域保健推進セミナー(医療セクターと地域住民の連携) 1 100 1,519 2002 活動別年次アセスメントミーティング(各モデル郡 2002 年まとめ及び 2003 年活動計画策定協議) 5 8 227 2002 省レベル RH 啓蒙活動(RHコンテスト:歌・寸劇・クイズ) 1 190 6,336 2002 MCH/FP センター、省病院、予防医学センター他対象 RTI 調査事前研修(調査・診断・検査技術) 3 20 5,076 2003 PSC、DSC、他省プロジェクト関係者対象セミナー:クライアント・フレンドリー・サービス理解促進 1 110 829 2003 愛育班モデルコミューン対象ワークショップ:問題把握と解決へ向けて 1 43 530 2003 愛育班モデルコミューン指導者対象ワークショップ(行政の役割) 1 8 126 2003 TOT.19郡 DHC 及び MCH/FP センタースタッフ対象産後ケア研修(ガイドライン作成) 1 40 1,524 2003 TOT。省女性連合、5 郡女性連合 IEC 担当対象 IEC 技術研修 1 18 960 2003 モデル 3 郡及び MCH/FP センター対象のリナックス OS とネットワーク入門研修。 1 8 1,102 2003 14 郡 DHC 統計担当者対象、HMIS 推進 PC 研修(Windows の基本操作と PC による統計集計) 3 27 2003 MCH/FP センター及び DHC スタッフ対象モニタリング手法研修(継続的フォローアップ活動の意義と技能) 3 45 1,041 2003 山岳 10 郡 DHC 対象のハムレットヘルスワーカー(自宅分娩介助者)教育のための TOT 1 20 453 2003 19 郡機材管理担当者対象、機材維持管理研修 1 37 561 2003 コミューン運営委員会(CSC)対象 FP との連携強化ワークショップ 19 1,528 4,557 保健局予算 2003 TOT。14 郡女性連合対象マギーエプロン活用法研修(活用ガイドブック作成) 2 24 747 2003 19 郡 DHC 統計業務担当者対象、HMIS 推進ソフトウェア紹介・活用研修 4 40 300 2003 MCH/FP センタースタッフ対象クライアント・フレンドリー・サービスワークショップ 1 25 141 2003 TOT。CHC 助産スタッフ再教育受講生リフレッシャーコース教育案策定研修 1 25 551 2003 コミューン対象マギーエプロン活用普及のための IEC ワークショップ 44 1,407 9,370 2003 モデル 6 郡他統計担当者対象。HMIS フォローアップ研修(報告書データの品質改善) 1 16 82 2003 HMIS ネットワーク研修(HMIS 病院管理システム導入予定 DHC 対象。概要紹介) 2 16 267 2003 モデル6郡 DHC および MCH/FP センタースタッフ対象コンピュータ管理研修(WindowsXP と HMIS ソフト) 1 7 C/P予算 2003 CHC スタッフ再教育 (第 11 回) 1 26 C/P予算 2003 8 郡 DSC メンバー他省運営関係者対象 PCM ワークショップ(モニタリング・評価手法) 2 37 2003 活動別年次アセスメントミーティング(各モデル郡 2003 年まとめ及び 2004 年活動計画策定協議) 5 8 2003 DHC 主催 CHC 助産スタッフリフレッシャーコース 15 240 2003 18 郡 DHC 集計担当者対象ソフトウェア再教育研修 4 34 547 2004 山岳地域 6 郡女性連合メンバー対象 IEC ワークショップ(中絶と避妊) 9 1,500 15,554 2004 19郡 DHC の MCH/FP データ集計担当者対象保健統計分析研修:MCH/FP ソフトウェアの使い方 4 57 547 2004 TOT。省・郡女性連合と MCH/FP センタースタッフ対象 IEC 教材の発展的法研修 1 22 524 2004 IEC 教材制作:村レベルで活用できる RH シナリオ集作成(公募) 1 489 19,064 2000 C/P 研修(MCH/FP センター副所長 2 名:産科技術、病院管理、地域保健、他) 1 2 2001 C/P 研修(保健省、ゲアン省プロジェクト関係者:地域保健推進法および保健統計視察) 1 5 2002 C/P 研修(MCH/FP センター助産師:助産技術、看護、クライアント・フレンドリー・サービス) 1 1 2002 C/P 研修(MCH/FP センタースタッフ他:地域保健推進法および保健統計視察) 2003 C/P 研修(MCH/FP センター産科スタッフ4名:産科技術研修) 1 4 2004 C/P 研修(MCH/FP センタースタッフ、保健省スタッフ他:地域保健推進法、中絶予防、他) 1 10 247 17,556 合計 5,208 C/P予算 8,658 4 236,804 事例 27 日本・マレーシア技術学院プロジェクト 宮城労働局職業安定部長 辻川 英高 (元JICA専門家・チーフアドバイザー) 1.プロジェクトの概要 (b)実施体制 (1)プロジェクト実施の背景 プロジェクト実施主体は人的資源省労働力局と国 1980 年代後半以降マレーシア経済は、外国資本の 際協力事業団(JICA)である。 導入策もあり、1997 年のアジア金融危機に至るまで ・JMTI の訓練指導員等スタッフ:104 人(職業訓練指 急速に成長を続けた。 この間労働力が逼迫し、 また、 導員 74 人、技術相談部門 8 人、管理部門 22 人) 外国人労働力への依存度が高まったことにより、 ・プロジェクト技術協力専門家:7 名(チーフアドバ 1990 年代初頭に、ハイテク分野の開発と省力化を志 イザー、業務調整員、訓練計画、電子、コンピュー 向する経済に政策転換することとなった。第 7 次マ タ、 生産、 メカトロニクス)(以上は 2003 年 1 月現在) レーシア計画(1996-2000 年)では、ハイテク分野に そのほかに、シニアボランティアとして日本語教 外資を積極的に導入し、併せて、労働者の技能レベ 育(2001 年 1 月まで)と個別専門家派遣として技術相 ルを向上することにより、製造工業分野を再構築す 談(ECS)(2002 年 2 月以降)がある。各技術専門家の ることに重点が置かれた。人的資源省労働力局は、 カウンターパートは常時 15 人から 20 人に及ぶ。 人的資源開発計画の目標を達成するために、高度技 (c)活動内容 能訓練センター(ADTEC)を設置することとし、 その一 JMTI は、高卒者を対象に 3 年間の全日制訓練(デ 施設として日本・マレーシア技術学院(JMTI:Japan- ィプロマコース)を提供するほか、 技術相談部門があ Malaysia Technical Institute)を設置することとし り事業所在職者等を対象に短期訓練を実施している。 た。1998 年 1 月に 5 年間の政府間プロジェクトとし 技術協力の内容は、職業訓練を専門とする日本人技 て技術協力が開始された(1998 年 1 月∼2003 年 1 月)。 術専門家による技術移転、マレーシア人訓練指導員 また、5 年間の技術協力終了後、1 年間のフォローア の日本における訓練、日本政府供与による訓練用ハ ップ協力が行われた(2003 年 1 月∼2004 年 1 月)。 イテク機材の活用である。ディプロマコースの訓練 (2)プロジェクトの目的と目標 生には日本語クラスが必修となっており、また、3 JMTI の目標は、電子、コンピュータ、生産及びメ 年次修了前の事業所実習(10 週間)は日系企業の協 カトロニクスの先進技術分野における高度技能者の 力を得ることにより、日本的な労働倫理観と規律に 養成である。また、地域の産業、特に中小企業の発 関する意識の醸成が試みられている。 展を支援することも目的としており、在職者に対し プロジェクト目標を実現するために、下記の活動 て監督者訓練や技能向上訓練を提供し、また、管理・ が行われた。 監督者に対して個別に技術相談サービスを提供する。 ① JMTI において体系だった職業訓練を計画する。 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 ② 有能な訓練生が入校できる方策を確立する。 (a)実施場所 ③ 電子、コンピュータ、生産及びメカトロニクスの 当初は CIAST(首都クアラルンプール近郊にある 各分野における有能な指導員を必要数育成する。 職業訓練指導員・ 上級技能訓練センター)の仮キャン ④ 各分野における必要な訓練コースを確定し、 準備 パスで発足したが、計画より 1 年遅れて 2000 年 1 し、実施する。 月に現在地に移転した。マレーシアにおける電子産 ⑤ 訓練のための適切な施設、機材、設備を設置し、 業の中核地域であるペナン州のブキット・ミニャッ 活用する。 ク工業団地にある。敷地は 6.5 ヘクタールあり、ペ ⑥ 組織、職員、予算の観点から、JMTI が良好に運 ナン州開発事業団(PDC)を通じてペナン州政府から 営される。 贈与された。 114 事例 27 表 JMTI の入校・修了状況 入校者数(人) 修了者数(人) 電子科 コンピュータ科 メカトロニクス科 生産科 合計 1998 年 7 月 58 2001 年 6 月 21 15 ― ― 36 1999 年 1 月 31 2000 年 12 月 17 11 ― ― 28 1999 年 7 月 64 2002 年 6 月 14 20 10 12 56 2000 年 7 月 131 2003 年 6 月 37 44 17 21 119 2001 年 7 月 142 2002 年 7 月 196 2003 年 7 月 196 合計 89 90 27 33 239 合計 818 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 (NOSS)に従って計画される必要があるが、4 分野の (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ 一部で NOSS が未整備であったことから、 労働力局の <高卒3年制ディプロマコース> NOSS 委員会に技術専門家が参画して新たに策定さ 4学科(各学科各学年の定員50名、全校で600人) れた。企業訪問は、主として訓練計画専門家がスタ ・電子技術工学科(工業電子技術専攻、通信技術専攻) ッフを同行しつつ行い、JMTI の広報、企業ニーズの ・情報技術工学科(コンピュータ技術専攻、情報処理 把握、訓練生の事業所実習への協力依頼を行った。 技術専攻) 現地日系企業の協議会を通じて、同様の活動を行っ ・生産技術工学科(高度生産技術専攻、高度材料処理 た。また、技術諮問委員会を有効に活用している。 技術専攻) (b)JMTI 入学志望者の応募資格を規定した上で、 ・メカトロニクス技術工学科(自動ロボット技術専 広報宣伝活動を行い、応募者の選考を行う 攻、高度メンテナンス技術専攻) 資質ある入校生を確保するために、5 教科の成績 訓練期間:高校卒業者等を対象に3年間の訓練(1年 について高卒良レベル以上に設定された。応募はイ 1400時間、3年合計4200時間)を実施する。ただし、 ンターネットを通じて行うことができる。JMTI の知 短大、高専卒業者については2年。 名度を高めるために、各州の高校の進路指導担当教 取得可能資格:人的資源省労働力局より産業工学デ 諭を対象に、現地で入校促進セミナーを開催した。 ィプロマが授与される。この資格は NVTC(国家職業 また、新聞とラジオによる広報も行っている。2002 訓練審議会の技能検定、最高度は Level5)の Level4 年に目標定員が達成された。 及び人事院の技能者資格に相当するものと認められ (c)訓練指導員を対象にカリキュラム開発、専門 る。 技術、教材開発、教授方法、授業準備方法、 (2)訓練等の計画と準備 コース管理方法、訓練評価方法に関する技術 JMTI は、施設、設備、機材等のハード面と訓練指 移転を行う 導員の資質・能力等のソフト面とによる総合的なプ コンピュータ科においては、地域住民対象のコン ロジェクトであり、2 カ国が役割を分担して行うも ピュータリテラシー講座である ICT(Information & のと、一体的に協力して行う活動とがある。日本側 Communication Technology)セミナー、また、第三国 は訓練指導員への技術移転を内容とするソフト面が 研修を実施する水準に達している。 中心であり、 ハード面での協力は機材供与があるが、 (d)訓練コースのカリキュラムを開発し、実施し 結果として機材全体の 4 分の 3 はマレーシア側が負 必要に応じて改訂する。 担し、施設はマレーシアが全額負担している。 サービスの内容を変化する企業ニーズに合わせ、 (a)国内産業の現状と産業界のニーズを把握し、 訓練内容を策定する 訓練内容を迅速に改訂するために、技術諮問委員会 が設置されている。同委員会は学識経験者と企業か 上記 Level4 を保証する訓練内容は、 職業訓練標準 らの代表により構成されている。 115 事例 27 (3)効果的な訓練等を行うための取組み ロマを授与する施設として相応しくあるためには、 (a)提案した技術基準等 修士以上の学位を取得した指導員がある程度必要で 当初の 5 年間という協力期間の中で、技術移転の ある。 活動は前半と後半とで、その内容を区別することが 3)日系企業との連携 できる。前半は、訓練計画の策定、訓練生の募集要 企業との連携の重要性に鑑み、ペナンの日系企業 件の設定、 訓練機材の調達計画が主たる活動であり、 の会合に出席して協力を求めた。また、技術諮問委 後半は、広報活動、指導員の専門性の向上、訓練コ 員会にオブザーバー委員としてマレーシア日本人商 ースの運営、訓練機材の管理と保全が主たる活動で 工会議所(JACTIM)から出席を得た。企業ニーズに対 ある。指導員の主体性を引き出すことを重視し、そ 応する訓練内容、事業所実習のあり方、採用を可能 のために助言することを心がけたが、多くの場合助 にする方策等に関し意見を交換し、 助言を得ている。 言にとどまらず、実際にやって見せるという方法で (4)訓練等の定着・継続に向けた取組み 効果を得る努力が行われた。 修了生の就職を確保するために、企業のニーズを 各専門家が提案した技術基準と呼べるものは、文 把握し、 これに応える職業訓練を行う必要があるが、 書化されたものであり、専門家が単独で作成する場 これに加えて、直接的な営業活動が重要である。企 合、または、指導員と共同して作成する場合とがあ 業に対する営業活動の観点からは Job Fair(就職面 る。主に次のものがある。①カリキュラム、シラバ 接会)、また、企業からの技術的評価の獲得の観点か ス、②訓練教材、③NOSS(National Occupational らは ABU ロボコン初参加を重点的に取り組んだ。ロ Skill Standard)。 ボコンの取組みは、指導員と学生双方の物作りに対 チーフアドバイザーである専門家からは、訓練修 する動機付けを高める効果を意図したものでもある。 了者の就職システムに関する助言が行われた。 (a)Job Fair(就職面接会) (b)他の援助機関等との連携 企業と 3 年生が一堂に会する就職面接会が 2002 1)英文参考書の供与 年以降行われている。企業は、地域の企業(日系企業 職業訓練用英文参考書が海外職業訓練協会(OVTA) を含む)を中心にクアラルンプールからの参加もあ より供与された。内容は、生産分野、電子分野、メ る。訓練生は JMTI に加えて、マレーシア北部の複数 カトロニクス分野に係る参考書(技術、理論)、作業 の訓練校からの参加がある。課題は、毎年これを継 分解表、実習課題シート及びワークショップ・マニ 続して実施することである。 ュアルである。国内で調達できるマレー語のテキス (b)ロボコン参加 ト、 参考書は、 質的にも量的にも不十分であるので、 JMTI の訓練生と指導員とを問わず、3 つの基本方 英文のテキスト、 参考書の調達に努める必要がある。 針、①理論に偏らず技能をもってアピールする 各専門家は国立図書館で検索し、また、インターネ (Employability)、②課題探索から問題解決の努力 ット上で外国文献を検索し、購入に努めているが制 (チャレンジ精神)、③整理整頓から正常な運転、運 約がある。このような状況の中で、海外職業訓練協 営の確保まで(メンテナンス精神)をより分かりやす 会から JMTI に供与された英文参考書は、 図書室に配 いものとする意味もあり、2002 年来ロボットコンテ 置され、適切な管理のもとで、指導員と訓練生双方 ストへの挑戦を働きかけてきた。 「ものづくり」が好 に活用されている。 きで、失敗を恐れず、試行錯誤のできる JMTI の訓練 2)カウンターパートの修士号取得を目的とした留学 生であって欲しいと思う。ポリテクニック、大学に 職業能力開発総合大学校(研究課程)と大分大学 遅れをとらない JMTI であって欲しいという願いが (修士課程)に 5 名が留学した。JMTI は、高度技能者 ある。2003 年の国内予選に初参加した。 を養成する職業訓練センターであり、当施設を修了 すると産業工学ディプロマ(準工学士相当) の称号が 3.プロジェクトの評価 付与されるが、訓練を担当する指導員はほとんど全 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 員が大卒(学士)以下である。産業界のニーズに即応 (a)妥当性 した高度で効果的な訓練を実施でき、かつ、ディプ JMTI で育成される高度技能者は、電子とコンピュ 116 事例 27 ータ分野では 2001 年に、また、他の 2 分野では 2002 術の移転が後から行われる事態になり、高度技術の 年に最初の修了生を送り出したところであり、産業 移転が当初計画通りにはできなかった。また、カウ 界での評価が定着するまでには至っていないが、 ンターパートの予期しえない異動が多かったことが Level4 を取得した高度技能者が 2003 年 6 月までに あり、電子、メカトロニクス、生産の各分野の技術 239 名養成されている。 移転期間が圧縮された。さらに、マレーシア側のカ (b)目標達成度 ウンターパート配置では、 指導員数が計画に満たず、 訓練機材の整備の遅れについては、近隣の職業訓 なかでも十分な技術経験を期待される J4 グレード 練校での派遣研修や、運営予算により少数の機材を (短大卒、10 年以上の経験)の指導員配置が少なかっ 別途購入することなどで対処されたが、限界があっ たことは、技術移転の阻害要因となった。 た。人事異動については、対象指導員数が多いこと (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 もあって、ある程度は仕方のないことであるが、留 (a)教訓 学のほか、予期せぬ突然の異動があり、技術移転を ① 効果的なプロジェクト運営のため、 技術諮問委員 中断せざるを得なかった例がある。コンピュータ科 会は有効である。 以外の3分野については、 技術移転のスケジュールが ② 技術諮問委員会分科会は、 各分野に対するヴィジ 圧縮されたことにより、専門技術の一部で技術移転 ョンと経験をもつ委員が、産業界のニーズ、カ が遅れた。そのため、相手国側から協力期間の延長 リキュラム、シラバスに対しアドバイスを行う の要望があり、産業界の新たなニーズを採り入れた ことを通じて、プロジェクトに貢献した。 上で1年間、専門家の人数を半分にしてフォローア ③ 施設建設の遅れは、 プロジェクトの円滑な遂行に ップ協力が行われた。フォローアップのテーマは、 大きな影響があることから、遅れのないよう充 機械保全技術(メカトロニクス工学)、熱処理、材料 分留意して計画、調整し、工事進捗状況のモニ 試験、FMS保守技術(生産工学)、電子制御ロボット製 タリングをきちんと実施すべきである。 作技術(電子工学)である。 ④ 訓練機材の調達は技術移転に影響しないよう十 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 分留意して計画、発注されるべきであり、発注 立発展性 後の搬送についてもよく監視すべきである。 (a)インパクト (b)提言 JMTI には技術相談部門があり、事業所を対象に短 ① JMTI は新しい技術の動向に留意すること 期訓練を実施しており、 これが JMTI に対する産業界 ② マレーシア側は鍵となるカウンターパートの人 の評価に寄与することが期待される。JMTI の活動に 事異動は計画的に実施すること 関して、労働力局傘下の ADTEC 等の職業訓練機関が ③ 人的資源省、公共サービス局は、JMTI 指導員の JMTI の成果を吸収して活用することにより、制度的、 更なる教育に配慮すること 技術的に向上し、マレーシア全体としてより多くの 高度技能者を輩出することが期待される。 (b)自立発展性 マレーシア政府の政策に合致しており、制度的支 援、 予算的支援は引き続き確保される見込みである。 但し、供与されたハイテク機材の保守管理費用につ いて、有償修理が迅速に実施できるよう、マレーシ ア側で制度化が必要である。 4.教訓・提言 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 マレーシア側の施設建設や、訓練機材調達と配置 写真 ペナン州住民対象のコンピュータ・ が遅れた。この結果、高度技術の基盤になる汎用技 リテラシー・セミナー(JMTI・ICT セミナー) 117 事例 28 ミャンマー国における女性を対象とした裁縫技術訓練と識字による自立支援事業 特定非営利活動法人 ブリッジ エーシア ジャパン 理事・事務局長 新石 正弘 海外事業担当 山内 千里 1.プロジェクトの概要 ②識字教育や技術訓練、地域にとっての新しい適正 (1)プロジェクト実施の背景 技術の紹介など、地域の女性がより多くの情報に 1991 年末から 92 年にかけてミャンマー連邦国ラ 接することで、学ぶ意欲や自信を高める。 カイン州北部から約 25 万人のイスラム系住民がバ ③技術修得、収入向上の機会を提供して、生活に困 ングラデシュに難民として流出した。その後、両国 窮する女性の自立を支援する。 政府と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が協力し ④技術訓練・識字クラスへの参加を通じて、異なる て難民帰還・再定住促進事業が開始され、2001 年ま 民族の女性がともに学ぶ機会を持ち、各民族の融 でに約 23 万人が帰還・再定住した。しかし、帰還地 和を促進し、共生を目指す。 は厳しい自然条件とインフラも未整備の辺境地域で、 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 雇用機会も乏しく生活は厳しい。再び難民が流出し (a)実施場所 ないためにも、 地域人口 80 万人の 8 割を占めるイス ラカイン州マウンドー地区にある BAJ 技術センタ ラム系住民と仏教徒のラカイン人など様々な民族間 ー内の裁縫訓練コース用研修棟及び同地区内の各村 での融和を進め、地域住民の生活向上のための支援 で訓練コースのために提供されたスペース。 が必要である。 (b)実施体制 ブリッジ エーシア ジャパン(BAJ)は、1995 年 1 1)事業運営費 月より UNHCR の事業実施団体として、車両等機械類 事業運営費は表 1 の通り。2000 年後半から 2001 の修理・整備、機械技術に関する地域青年への技術 年は BAJ 自己資金のみでの運営であった。 研修、学校や小規模橋梁の建設、また所得向上と地 2)資機材の調達 域経済の活性化を目指した農機具等の貸出しなど多 事業運営費での購入のほか、文化服装学院より中 岐に渡る事業を展開してきた。 古業務用足踏みミシン 20 台、 新聞に掲載された呼び この地域の多くの女性は、宗教的・文化的理由か かけに応えた一般家庭と企業より裁縫セット 1950 ら社会的に弱い立場にあり、幼少より水汲み、薪集 箱、BAJ 裁縫ボランティアなどから布・ボタンの寄 め、食事、掃除、洗濯、育児など家事一切を引き受 附をいただいた。 け、 教育や技術修得の機会に恵まれていない。 また、 3)スタッフ・派遣専門家・現地スタッフ 雇用は家事手伝いや日雇い仕事などに限られており、 本事業のための長期専門家及び現地調整員は 4 名、 更に多数を占めるイスラム教徒の女性は自由な外出 短期専門家は 6 名である。 も困難である。BAJ は、1998 年から地域の女性の自 現地スタッフは、当初の 1 名から徐々に増えて現 立支援を目的として裁縫技術の研修を開始し、これ 在は、プロジェクトコーディネーター1 名、技術訓 までに延べ約 500 名以上の研修を実施した。同時に 練部門 6 名、収入向上部門 4 名に、フィールドコー 受講女性の収入向上のための様々な取り組みを行っ ディネーター1 名の計 12 名で、すべて地元の出身者 てきている。 である。 (2)プロジェクトの目的と目標 4)運営体制 本事業は「女性の自立支援」を目的として、以下 マウンドー事務所が事業実施し、シトウェ及びヤ を目標としている。 ンゴン事務所が後方支援、東京本部は物資調達、資 ①対象地域の女性に裁縫の基本的な知識と技術を広 金調達、専門家や裁縫サポーター(ボランティア)と める。 の連絡調整を行う。2003 年 3 月以降は、本事業のた 118 事例 28 めの日本人現地常駐スタッフはいない。現地スタッ 2)対象地域 フ、マウンドー技術センターのプログラムマネージ 当初は BAJ 技術センターのみで行っていたため、 ャーが運営管理を担う体制を取っている。 また、 2003 マウンドー町在住者だけが対象であったが、次第に 年 8 月からは、フィールドコーディネーターが識字 周辺村落にも呼びかけて行った。また、2002 年末か や簡単な計算の指導、個人で開業するための基礎知 らは南部のインディン村など、遠方で支援の行き届 識、ファッションや保健衛生についての情報提供を いていない村落でも技術研修を実施している。 行っている。 3)裁縫技術訓練 (c)活動内容 手縫いの基礎、裁縫道具の使い方、刺繍、子供服・ 1999 年に日本人専門家によるトレーナー養成を 婦人服。小物の製作、ミシンの保守管理、使用・調 兼ねた 1 年間の長期コースを実施した。研修修了者 整法、ミシン縫い、子供服・婦人服の作成の他に、 の中から 4 名のアシスタントを採用し、2001 年から 品質管理、帳簿のつけ方などを指導。 特に経済的に困難な状況にある女性を対象に裁縫技 4)菓子作り技術訓練 術訓練を行い、識字クラスも開始した。2002 年末か 仕立ての仕事が無い時やすぐに現金が必要な時に、 らは、イスラム系村落で手縫い技術訓練コースを開 少ない元手で収入を得る方法として、保存が可能な 講し、2003 年からはお菓子作り訓練も開始した。ま 菓子作りを教えている。仕入れ、調理、販売のそれ た、コース修了者が修得技術を生かして収入を得ら ぞれと、衛生教育、帳簿つけ、接客方法なども指導。 れるよう、様々な支援を行っている。 5)識字教育 1)募集 ミャンマー語の書き方、読み方、会話、簡単な計 訓練生募集は、村長、村の開発委員会、教師、そ 算(加減乗除)を学ぶ他、材料の買い付け、注文のと の他関連組織の協力を得て、 村をいくつかに分けて、 り方、接客、帳簿の付け方などを指導する。写真や 各グループ毎に説明会を開催する。その後、各申込 絵、図を多用した教材の工夫や、外部講師を招いた 者の家庭を訪問して面接を実施し、経済状態や困窮 り、すでに小規模で商売を始めている女性を訪問す 具合を確認して参加者を決定する。選考条件は、① るなど、参加者の関心を広げる工夫を行っている。 経済的な困窮度 ②技術修得への意欲 ③年齢(16 1999 年から現在までに実施した訓練コースの詳 ∼40 歳) ④低学歴(無学歴∼小学校 3 年生程度) 細は表 2 の通りである。 ⑤毎日通学できる健康状態 ⑥女性の世帯主を優先 であり、宗教は問わない。 表 1 事業運営費 事業費総額 事業費収入内訳(円) 期間 備考 助成団体名 (円) 自己資金 助成金 (1US$=¥110.-で計算) 1 1998.6 ∼1999.3 13,520,166 7,920,166 5,600,000 外務省 NGO 補助金 ミシン整備&計画立案等,技術指導,調整各 1 名 2 1999.4 ∼2000.3 19,133,000 9,619,000 9,514,000 外務省 NGO 補助金 縫製技術 1 名,計画立案・機材整備 1 名の派遣等 3 1999.1 ∼1999.12 572,000 - 572,000 UNHCR 教材費,施設増設工事費の一部等(5,200US$) 4 2000.1 ∼2000.12 187,000 - 187,000 UNHCR 教材費(1,700US$) 5 2001.10∼2002.3 4,487,243 3,516,243 971,000 東京国際交流財団 縫製技術兼ベンガル語通訳 1 名,裁縫技術 1 名 6 2002.7 ∼2003.6 7,874,923 4,060,923 3,814,000 郵政事業庁国際ボ 調整 2 名、裁縫技術 1 名、現地傭人費、機材/教材 ランティア貯金 費 7 2002.10∼2003.3 1,423,052 732,476 690,576 東京国際交流財団 国内活動のための支援 8 2003.4 ∼2004.3 4,677,596 1,538,548 1,714,000 RIJ(国際難民奉仕 現地スタッフ雇用,技術・評価専門家派遣,機材・ 1,425,048 会)、都生活文化局 教材費 24,487,624 ― 計 51,874,980 27,387,356 119 ― 事例 28 表 2 訓練コースの詳細 No 年 1 1999 2 3 4 5 6 〃 〃 〃 〃 2000 7 〃 8 2001 9 〃 10 〃 11 2002 12 〃 13 14 15 〃 〃 2003 16 17 18 19 〃 〃 〃 〃 20 〃 21 〃 22 〃 23 〃 24 〃 25 〃 26 27 〃 〃 訓練コース デザインと洋裁訓練長期コース (12 ヶ月) 手縫いコース(2 週間) 手縫いコース(2 週間) 仕立て方短期コース(2 週間) 仕立て方短期コース(2 週間) デザインと洋裁訓練長期コース (9 ヶ月) 99 年卒業生対象 フォローアップコース(1 ヶ月) IGA 参加者のための フォローアップコース(5 週間) 99&00 年卒業生対象 フォローアップコース(8 週間) デザインと洋裁訓練長期コース (5 ヶ月) 01&02 年卒業生対象 フォローアップコース(2 ヶ月) デザインと洋裁訓練長期コース (5 ヶ月) フォローアップコース(2 週間) 手縫い・刺繍コース(2 週間) デザインと洋裁訓練長期コース (5 ヶ月) フォローアップ刺繍コース(1 日) フォローアップコース(7 日) OJT(1 ヶ月) フォローアップコース(1 ヶ月) 基礎手縫い&御菓子作りコース (2 ヶ月) 基礎手縫い&御菓子作りコース (2 ヶ月) 基礎手縫い&御菓子作りコース (2 ヶ月) 基礎手縫い&御菓子作りコース (2 ヶ月) 基礎手縫い&御菓子作りコース (2 ヶ月) 基礎手縫い&御菓子作りコース (2 ヶ月) フォローアップコース(2 週間) 長期コース(5 ヶ月) 応募者数 (名) 100 受講者数 (名) 20 WS WS WS WS WS 24 23 20 23 135 24 23 20 23 30 全希望者 全希望者 No.2 受講者中の全希望者 No.3 受講者中の全希望者 BAJ WS 14 14 No.1 と No.6 受講者中の全希望者 BAJ WS 14 14 No.1 と No.6 受講者中の全希望者 BAJ WS 22 22 No.1 と No.6 受講者中の全希望者 BAJ WS 230 20 コースに識字教育を導入。 BAJ WS 19 19 No.6 と No10 受講者中の全希望者 BAJ WS 230 29 BAJ WS インディン村 BAJ WS 29 27 170 29 27 30 No.11 受講者中の全希望者 希望者全員 インディン村 インディン村 BAJ WS BAJ WS 27 20 28 26 27 20 28 26 希望者全員 No.13 受講者中の全希望者 No.14 受講者中の全希望者 No.15 受講者中の全希望者 2 名は遠距離のため通学困難 実施地 BAJ WS* BAJ BAJ BAJ BAJ BAJ パンドビン 村 ニャウンチ ャン村 バゴナ村 計 水野専門家面接により選抜 10 130 10 10 イタリア村 シュエザ・カ パゴン村 シュウェザ・ グナ村 BAJ WS BAJ WS − 備 考 10 220 10 10 30 − − 30 30 565 (のべ人数) No.14 受講者全員 フォローアップコース参加者等の 重複分を除くと約 300 名となる *BAJ WS:BAJ マウンドー技術センター (ワークショップ) 120 事例 28 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 3.プロジェクトの評価 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 訓練で習得した裁縫技術を使って収入を得る機会 (a)妥当性 を提供し、参加女性の自立を促す。 現地のイスラム系女性は外出が自由にはできない (2)訓練等の計画と準備 状況なので、親戚以外から外部の情報を得ることの 本事業は UNHCR を中心とする地域開発プログラム できる訓練参加は貴重な体験であり、また、家庭で の一環でもあり、特定の現地政府カウンターパート 作業できる裁縫を自立の手段としたのは適切である。 機関はない。現地の BAJ スタッフが中心となって、 町の市場には既に男性のテーラーも多いので、必ず コース毎に成果や課題、地域の状況を確認しながら しも裁縫が最良の選択とは言えないが、社会的には 計画を策定して準備する。他機関・団体のプロジェ 野菜販売などよりは “良い仕事” とみなされており、 クトなどとの調整を行った後、現地政府機関の実施 女性が自ら社会参加するための動機付けとしては妥 許可を得てから実施している。 当な選択と言える。 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 訓練コース内容については、毎回の訓練修了後に 訓練コース期間中から、研修終了後の収入向上の 受講者からのフィードバックを得て漸次改善してい ための準備と研修参加者の間でのネットワーク作り る。その結果、訓練卒業生のインタビューではコー を心がけている。 スへの満足度が高く、卒業後にテーラーの仕事に従 (a)収入向上支援 事する女性が少なくないことからも内容はほぼ妥当 個人で仕立て注文がない場合や、ミシン購入資金 と言えよう。 を稼ぎたいなどの希望者には、BAJ 技術センターに (b)目標達成度 おいて、BAJ が地域で受けた注文品やヤンゴンや東 1999 年度の長期コース修了生の半数以上、また短 京で販売する製品を製作して収入を得ることができ 期コース修了生の 3 割以上がミシンを購入し、卒業 るように支援している。 後も裁縫に従事して収入の機会を得ている。また外 (b)ミシン購入支援 への販売はしないが家族の衣類や枕カバーなどを作 修了者中のミシン購入希望者に分割支払いでの購 って家計支出軽減に寄与している場合もある。フォ 入支援を行っている。 ローアップコースの開設や収入向上の機会を提供す (c)店舗運営支援 ることで、参加者の技術は確実に向上しつつあり、 研修修了生を対象にテーラーショップの運営を支 全部の修了者が経済的に完全な自立を果たすのは容 援する。外部からの受注を受けやすくし、実際の経 易では無いが、ある程度の収入向上は図られつつあ 験を積むために 2000 年から店舗を開設し、 機材貸与、 る。 技術・運営指導、家賃補助などを行って支援した。 一方で、この地域には「何とか生活できれば女性 これまで多くの修了生が店舗運営を経験した。 は働くべきではない」という特有の認識もあり、技 (4)訓練等の定着・継続に向けた取組み 術修得が収入向上の意欲に結びつかない場合もある。 地元出身の講師を育成してきたので、訓練コース 地域社会全体が変化していくのは、まだ長い時間が を地域の女性が主導的に推進することが可能となっ かかると思われる。 た。2002 年末からは、イスラム系住民の村で女性を (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 対象にした訓練コースを実施しており、参加者の家 立発展性 族や村の男性の理解と協力を得るための働きかけも (a)インパクト 行っている。また、研修修了生が作品を地元で販売 これまでの訓練参加者の 7 割は非識字者だが、技 できるように、ネットワーク担当職員が地域のニー 術を修得して所得向上へ結びつけるためには、簡単 ズや価格の情報を提供し、修了生が互いに協力し易 な読み書きや計算が非常に大切となる。2001 年以降 い環境作りを心がけている。 のコースでは毎日 30 分の識字教育を実施した結果、 コース修了後は参加者が読み書きを修得し、受講に よって生まれた知識欲や自立に向けた活動に大きな 121 事例 28 影響を与えた。 とが多く、得た利益や家計貢献度などが分からない この地域ではイスラム系住民と仏教徒のラカイン ことが多い。今後この点を改善できれば、継続性に 人の間で緊張関係があり、居住地域も明確に分かれ も繋がっていく余地がある。店舗運営に携わった修 ている。しかし、参加者はコース中の共同作業を通 了生は、裁縫技術の他、店舗管理、顧客対応なども じて異なる民族同士でも互いに協力でき、より効果 実地に訓練されるので、一定の管理能力ができつつ 的な仕事や学習ができることを学んだ。この地域で ある。また、経験の長い女性と経験の乏しい女性と は、これまで両民族の女性同士が一緒に学ぶ機会は を組み合わせることで、技術面でのノウハウの移転 なかったが、コースで親しくなった女性たちがお互 が行われ、継続的な活動に役立った。 いの言葉を教えあうこともあり、地域の平和構築へ また、ミシン基金を設立して購入希望者に貯金を の好影響は小さくない。 奨励して自宅での開業を勧めた。 既に 67 名がミシン また、この地域の女性にとって人前での発言は考 を購入したことは、今後の継続性に明るい希望を持 えられない事であったが、発言して自分の意見を述 たせるものである。 べたり、当初は喧嘩ばかりしていた参加者がコース を通じて次第に穏やかになるなどの変化もあった。 4.教訓・提言 インストラクターによれば、公共の場におけるマナ (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 ーや人との接し方など基本的なコミュニケーション ① 対象地域はイスラム文化の影響が大きく、 女性が の方法を指導してきたことの成果であるという。 外部の情報に触れたり自由に行動したりするこ 本事業の評価調査団に対して、多くのイスラムの とは大きく制限されている。プロジェクトによ 女性は就学経験がなく、参加者の多くが訓練コース り技術修得や女性の自信創出という効果が出て がこれまでの人生で最も楽しい経験であったと述べ きてはいるものの、地域男性の理解と協力を得 ている。技術の修得のみならず、自らの生活圏で出 られるかどうかが女性の自立に大きく関わって 会うことのない他民族や BAJ スタッフとの交友、時 いる。地域男性への更なる働きかけも重要であ には外国人との接触機会を得たことは、受講者にと る。 って貴重な体験となっている。当初は、村の女性の ② 近い将来、 この地域から UNHCR の撤退が予想され 技術訓練に非常に消極的であった村の指導者層(男 ているので、BAJ も今後は本プロジェクトを長期 性)も、 訓練に参加した女性たちの変化を見て技術訓 的に継続することはできない。本プロジェクト 練に積極的になった例も聞かれるようになった。 の今後の目標をどうするか、限られたプロジェ また訓練参加者の多くは姉妹がいることから、家 クト期間後に何を残していくか、などが大きな 庭内で裁縫技術が普及した例もあり、今後、直接受 検討課題である。 講できなかった希望者への機会の拡大に繋がってい ③ 今後は、 訓練に参加した多くの女性をまとめてい くことを期待したい。 くリーダーの存在が重要となるので、技術研修 (b)自立発展性 だけではなく、リーダーを育成していくことも 地域のイスラム女性は生活上の制約が多いので、 大切な課題である。 意識的に、参加者間のネットワークや家族の協力の (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 取り付けなど、コース参加者が裁縫を続けていける ① 国境に近く民族間の緊張があり、 当局の移動許可 環境作りに努力してきた。技術面では、本事業によ も毎回必要な地域である。BAJ がイスラム系の る裁縫技術訓練の結果、意欲的な卒業生はテーラー 村々でプロジェクトを直接実施できるようにな を営業できる程度の技術を修得している。これは適 るには、何年かの「準備期間」が必要であった。 宜実施しているフォローアップコースや、日本で本 BAJ が本地域に入って 7 年の間に、様々な開発事 事業を支える裁縫サポーターによる見本帳、短期専 業を通じて地域の人々や現地政府に BAJ につい 門家派遣による技術支援などがレベルの向上に有効 ての理解が深まり、ようやく村での事業が可能 に働いていると思われる。収入向上面では、個人で となった。地域の状況と外部者に対する受容性 受注販売している修了生は帳簿や記録をつけないこ を考慮しながら、事業内容を検討することが重 122 事例 28 要である。 ② 裁縫技術訓練は「技術修得の機会」である以前に 「外部の情報に触れる新鮮な機会」であった。 外部情報に触れる機会の創出は、外部者の支援 として重要な役割である。 ③ 本事業実施以前には、 現在のような成果を得られ ることは予想できなかったが、今後は、プロジ ェクト修了後に何を残すかを意識的に追求し、 明確な目標設定をしていくことが必要である。 ④ 日本で本プロジェクトを支えるボランティアの 裁縫サポーターが生まれ、その中の約 10 名が現 地を訪問して技術指導や交流を行った。研修参 写真 1 自分の作品を着てうれしそうな参加者たち 加者と日本のサポーター間での相互理解や絆が 生まれつつあるのは、大変意義深いことである。 写真 2 訓練修了後に仕立屋を営んでいる 123 事例 29 ミャンマー・シトウェ市における技術訓練学校運営事業 特定非営利活動法人 ブリッジ エーシア ジャパン 理事・事務局長 新石 正弘 海外事業担当 山内 千里 1.プロジェクトの概要 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 (1)プロジェクト実施の背景 (a)実施場所 シトウェ市はミャンマー西部のラカイン州の州都 ミャンマー連邦ラカイン州シトウェ市 で、以前はアキャブ島とも呼ばれ首都ヤンゴンから (b)実施体制 は飛行機で約 1 時間余である。月一回の貨客船しか カウンターパート:国境地域民族開発省教育訓練局 通っていなかったが近年橋ができて、乾季なら車で (Ministry of Progress of Border Areas and も行けるようになった。ラカイン州には、ラカイン National races and Development Affairs, 王朝の歴史を持つ仏教徒のラカイン人とイスラム系 Department of Education and Training /略称:DET) ベンガル人が主に住んでいる。経済的には貧しくマ 日本人職員:プロジェクトマネージャー、 ラリアの多いことでも知られている。 現地調整員、短期専門家 近年、ミャンマー全体の経済発展に伴い、当地で 現地職員数: もようやく車両や船舶が増加し、電気製品等の普及 講師・インストラクター11 名(主任講師 1 名、自 も目立つようになってきたが、これらの整備や修理 動車・電気・溶接各 3 名、英語 1 名) 、 ができる技術者はまだ非常に少ない。そしてその多 補助員 3 名(自動車 2 名、溶接 1 名) 、 くは徒弟制度で技術を修得した人たちで、理論は学 モニタリング員 1 名、事務職員 5 名、 んでいないため新しい技術への対応には限界がある。 補助職員 4 名(警備員、運転手、清掃員) 当地には、シトウェ大学があるが一部の青年しか この他に BAJ ヤンゴン事務所では、 DET との連絡、 行けず、 多くは教育を受ける機会に恵まれていない。 調整、資機材調達と輸送手配、人員移動等の後方支 また大学の理工学部でも予算難などのため、理論中 援、JICA 現地事務所との連絡、調整を行う。BAJ 東 心で実習や実験などはほとんどないと言われている。 京本部事務所では、JICA との契約交渉、報告、連絡、 地域青年が技術を体系的に学習して実習もできる教 経理取りまとめを行うとともに、専門家派遣調整、 育機関はなく、勉学も就職も困難で、地域内の技術 資機材調達と輸送等の後方支援を行っている。 レベルも停滞したままの状況である。 表 1 主な事業資金 (2)プロジェクトの目的と目標 スキーム名 ブリッジ エーシア ジャパン(BAJ)は、このよ うな状況を改善し、地域青年に“学び” 、 “考える” 事業期間 機会を提供し、彼らが将来の地域の発展を担ってい く力となることを目的として、2001 年に BAJ シトウ 事業費 草の根無償資金 JICA 草の根技 協力 術協力 2001 年 3 月∼ 2003 年 4 月∼ 2002 年 12 月 2006 年 3 月 US$188,829 5000 万円 ェ技術訓練学校(BAJ Sittwe Technical Training (3 年間総額) School、略称 STTS)を開設した。 備 考 当プロジェクトは、中央の開発から取り残されて 施設建設・機材 技術訓練学校の 運営等 きた辺境地域の青年に技術と知識を学ぶ機会を提供 (c)活動内容 することを目標とし、技術を学んだ青年の就労機会 技術訓練は、1 期 6 ヶ月で 95 名の青年を対象に自 が拡大し、その青年を介して地域の技術が向上する 動車修理(35 名)、溶接・切断技術(30 名)、電気技術 ことを上位目標とする。 (30 名)の 3 コースを開講し、2004 年 7 月までに 4 124 事例 29 期が終了した。入学者は、シトウェから 1/3、ラカ まだ承認が得られていない。今後も実現を目指して イン州から 1/3、 DET の推薦によるミャンマーの国境 DET との調整を継続していく予定である。 地域の青年(孤児や片親の青年が多い)が 1/3 の割合 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み としている。 (a)理論を重視したカリキュラム ミャンマーの地方では、技術の習得は専ら、工場 などで徒弟制度の中での実地訓練を通して行われて 表 2 既に終了したコースと卒業生数 自動車 電気 溶 合 いる。理論も含めて体系的に技術を学ぶことができ 整備 技術 接 計 るのは、大学進学者などのごく限られた人たちであ 32 26 29 87 る。実地訓練のみで経験に頼ってばかりでは、新し 25 24 23 72 第 3 期(03.5.5∼03.11.14) 30 23 30 83 には限界がある。当事業では、理論学習と実習の両 第 4 期(04.1.12∼04.7.30) 28 16 14 58 方に重点が置かれている。また、ミャンマーの初等 115 89 96 300 中等教育では、暗記学習が主で、一般的に青年は自 第 1 期(01.9.13∼02.3.15) 第2期 (02.3.27∼02.12.16) 合 計 い発想が生まれにくい。また、現地にとっての新し い機器の修理・整備や、新しいものを創造していく ら考え、創造していくことに慣れていない。訓練生 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 ひとりひとりに“考える力”を培うことも STTS の目 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ 的の一つである。 (b)適切な機材設備の中で行う実習訓練 本プロジェクトにおける訓練は、既述したように (Practical & On the Job Training / OJT) その中心をなすものである。 知識と技術を体得し、技術を実際に活用できるよ (2)訓練等の計画と準備 全体計画については、BAJ と DET、JICA との協議 うになるためには、理論を理解し、実習を通じて確 に基づいて決定されている。具体的なシラバス等に 認することが不可欠である。そして実習訓練を行う ついては、STTS のミャンマー人教職員が中心になっ ためには、適切で必要十分な設備、機材、工具を必 て計画を立案し、準備する。その過程においては、 要とする。STTS では、工具、機材、設備を適切に使 ミャンマーでの教育課程、他の技術訓練校や大学の いこなすことができるようになることも重要な課題 教育内容、地域のニーズなどが考慮される。日本人 の一つである。STTS の機材・設備については、主に 駐在員やプロジェクトマネージャーも検討に加わっ ミャンマー国内で調達が容易な機材・工具を揃えて ており、短期派遣専門家は助言を行っている。 訓練生の卒業後に備えているが、一部に日本製の機 材・工具も使用している。STTS では、適切な設備、 各コースの目標は次の通りである。 機材、工具を備えた実習場・小規模工場を学校内に ① 自動車修理:日本の 3 級整備士レベルの知識と技 設置し、実習訓練において十分な実地体験ができる 術の習得 ように努めている。また同時に、地域社会からの修 ② 溶接・切断技術:車両ボディや船体の修理、旋盤 を使った簡単な機械部品の製作ができる能力の 理などの仕事も受付け、理論と実地の違いと関連性 習得 を学びながら、生きた技術の習得と多くの経験が得 られるよう工夫している。 ③ 電気技術:基本的理論の理解と基本的な屋内配線 (c)外部講師による特別講義・実習、施設見学等 や電気器具修理のできる能力の習得 訓練生の視野を広げ、自ら考え創造する力を培う ④ その他のコース:訓練生の要望に応じて英語クラ ために、専門分野の理論と実習だけでなく、外部講 スを開講している。 また、シトウェの人口の約半分を占めるミャンマ 師による特別講義を実施している。日本からの専門 ーの市民権がないイスラム系ベンガル人のコース参 家による講義・実習、 シトウェ大学教授、国連機関、 加、および女性を対象とする訓練コースの実施を NGO 職員などによる特別講義、地域の造船所、銀行、 STTS 開設当初から提案しているが、時期尚早として 空港の見学などを行っている。これまでに、日本人 専門家 7 名を含む 25 名の専門家が各専門分野、 周辺 125 事例 29 知識や一般教養を習得するための特別講義を行って を習得するのは不可能だが、訓練コース中により多 きた。また、成績優秀者を対象に自動車運転教習も くを吸収し、 “自ら考えることができる”素地を作る 行っている。今後も地域のニーズ、訓練生たちの要 環境作りを目指している。これまでに 4 期約 300 名 望に基づいて、積極的に副次コースの開講を行って あまりの青年が卒業しており、地域青年に専門技術 いく。 と知識を学ぶ機会を提供するという目標は、徐々に (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 達成できるようになってきている。 STTS は基本的にミャンマー人教職員によって実 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 施され、また、卒業成績優秀者の中から数名の助手 立発展性 を採用している。そのため訓練生や DET との意思疎 (a)インパクト 通が円滑に行われ、地域の条件や環境を考慮した技 学ぶことも就職もできず、日々を無為に過ごすし 術を開発・指導することが期待されている。 かなかった青年たちに技術を学ぶ機会を提供し、地 日本からの短期専門家の派遣や、他のプロジェク 域の企業に優秀な人材を提供することができた。ま トでミャンマーに滞在する BAJ 技術スタッフによる た卒業生たちが地元の企業で更に実地経験を積むこ 技術指導も行っており、常に外部の情報や最新技術 とにより、地域全体の技術力の向上が期待できる。 に触れて講師陣が技術向上を図れるように限られた (b)自立発展性 予算内で心がけている。 ミャンマー人講師陣の育成のために、日本から技 日本人常駐スタッフは調整員として、ミャンマー 術専門家の派遣やミャンマー国内の研修への積極的 人教職員の管理、調整、また各々の能力向上の促進 な参加など、将来的な自立発展性を確保するための を図る。継続的な人材育成のためには、中、長期に 努力を行っている。また、カウンターパートである わたり、学校が継続していくことが望ましい。STTS DET への事業引渡しに備え、運営会議にて情報共有 は、将来は DET に引き渡されて継続運営される予定 と今後に向けての協議を行っていく他、引渡しの前 だが、将来の DET への運営引渡しが円滑に行われる に 3 年間の準備期間を設け、その間 DET から順次教 よう、日本人スタッフには主にファシリテーション 職員及びマネジメント職員を派遣するよう調整中で の役割が期待されている。プロジェクトマネージャ ある。今後 3 年後には DET が事業を引き継ぎ、継続 ーは全体を統括し、モニタリング等を参考にしてプ して学校の運営をしていくことを目指して努力中で ログラムの軌道修正等も行っている。 ある。 3.プロジェクトの評価 4.教訓・提言 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 (a)妥当性 (a)相手国の実情と日本側としての立場 当地の殆どの教育機関は設備・機材が未整備であ 根本的には、相手国政府担当機関の予算や人員が り、また理論と実習の両方を体系的に学習できる技 十分でなく、まだ明確な政策がない場合に、日本側 術教育機関がない。当プロジェクトでは、理論と実 はどうすべきかという問題がここでもある。①ない 習を組み合わせた授業を行い、併設の実習場・小規 からやるべきでない ②無理にでも相手国政府から 模工場で実地訓練の機会を豊富に提供することによ 要請を取り付けて、それに基づき実施 ③何もしな って、知識を実地に応用する力をつけていくことを ければ地域青年たちは技術習得の機会がないままな 目指している。 現在、 多くの青年達は就職もできず、 ので相手国政府の了承を取り実施、など様々な立場 勉学の機会も十分にない状況であるが、将来的な地 がある。BAJ の本プロジェクトでの立場は③である。 域の発展を見据えて、 プロジェクトを実施している。 しかし、日本政府の中には、公的な資金を使う場合 (b)目標達成度 は、何年後かの現地側カウンターパートへの引渡し 当プロジェクトは開始後 3 年が経過したが、地域 後の維持管理計画が最初の企画段階で明確にできな のニーズに合致した授業が行えるよう教授内容や設 ければ、公的資金を使って事業を始めるべきでない 備の充実に努めてきた。6 ヶ月で十分な知識と技術 という意見もある。 現在 BAJ は JICA と協同して本事 126 事例 29 業を行い、相手国政府機関との交渉、将来の引渡し など、状況に応じて柔軟に対応できる NGO の利点と 政府機関としての JICA の利点を組み合わせ、 地域の 青年たちの将来にとって大いに役立つ事業にして行 きたいと望んでいる。 (b)問題点・課題 ① DET の予算や人員が少なく、職業訓練教育に関す る方針や展望が明確でない。 ② 国全体が雇用問題を抱えている状況下で、 卒業生 の就職先確保は容易なことではない。 ③ DET へ引渡し後の学校運営のための資金と人材 の継続的な確保に不安がある。 写真 1 自動車整備実習の様子 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 本プロジェクトについては、日本大使館や JICA の協力を得られたが、公的資金を使う場合には、日 本政府の担当官によって見解がかなり異なるので、 プロジェクト実施前によく打ち合わせを行い、プロ ジェクトの可能性について調整しておくことが肝要 である。 さらに、プロジェクト開始前からカウンターパー トとプロジェクト引渡し後の運営について協議し、 引渡し前に十分に準備期間を設けるべきである。 写真 2 学校校舎の前でスタッフ、訓練生とともに 127 事例 30 ミャンマー・ヤンゴン市における障害者支援事業 特定非営利活動法人 難民を助ける会 常任理事・事務局長代行 堀江 良彰 海外事業担当 松山 恵子・加藤 美千代 1.プロジェクトの概要 などの取りまとめを行うとともに、 専門家派遣調整、 (1)プロジェクト実施の背景 資機材調達等の後方支援を行っている。 ミャンマーの身体障害者は 200 万人前後(人口の 3 (c)活動内容 ∼5%)に上ると推定され、 その中にはポリオ(小児麻 職業訓練は、1 期 3 ヵ月半で約 30 名の障害者を対 痺)や発達障害のほか、 ミャンマー政府と少数民族と 象に理容・美容コース(定員 15 名)、洋裁コース(定 の紛争で使用されている地雷による障害者も多数存 員 15 名)の 2 コースを開講し、 年間約 90 名が訓練校 在するといわれている。 を卒業する。 2003 年までの訓練生の 70%がビルマ族 障害者に対するミャンマー政府の福祉政策は、現 であるが、チン州、カチン州など全国各地からの障 在も基本法制定すら進んでおらず、国営と民間も含 害者が受講している。障害の原因としてはポリオ めて障害者を支援する施設や団体も数えるほどしか (40%)、地雷(18%)などがあげられる。 ない上に、社会的偏見も根強く残っているため、大 多数の障害者は家の中に取り残された状態が続いて 表 1 2003 年度における事業資金 スキーム フェリシモ 名 地球村基金 2003 年 10 月 事業期間 ∼2004 年 3 月 いる。 (2)プロジェクトの目的と目標 難民を助ける会は、こうした状況を改善し、障害 者の精神的・社会的・経済的自立を支援することを 2003 年 4 月 ∼2004 年 3 月 事業費 50 万円 910 万円 備 考 助成期間は 2003 年 10 月∼2004 年 12 月。 助成金額 200 万円の うち、 150 万円は 2004 年度に活用とした。 職業訓練校運営費、 資機材等に充当。 職業訓練校運営 費、モデルショッ プ費、資機材費な どに充当。 目的として、2000 年にヤンゴン市に職業訓練校を開 設した。目的は以下のとおりである。 ① 障害者およびその家族の生活水準の向上 ② 技術の習得および生きる希望や自信の回復 自己資金 ③ 他の障害者の存在を知ることによる相互扶助 精神の向上 また、エンパワメントされた障害者自身が各地域 で活動をすることによって、ミャンマー社会におけ 表 2 既に終了したコースと卒業生数 る障害者の地位が向上することを目標としている。 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 (a)実施場所 ミャンマー連邦ヤンゴン市 (b)実施体制 カウンターパート:ミャンマー社会福祉局、 保健省、 ミャンマー障害者連盟 日本人職員:現地調整員、短期専門家 職員数: 洋 裁 理容・美容 2000 年 28 33 61 2001 年 41 28 69 2002 年 39 41 80 2003 年 41 41 82 合 計 149 143 292 合 計 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 講師・インストラクター7 名(うち障害者 5 名) (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ モデルショップ 2 名(うち障害者 2 名) 本プロジェクトにおける訓練は、既述したように 事務職員 3 名(警備員、調理師等) その中心をなすものである。 難民を助ける会東京本部では、報告、連絡、経理 128 事例 30 (2)訓練等の計画と準備 なく職業訓練を効果的に受けるためにも訓練生自身 全体計画については、難民を助ける会ミャンマー の自信回復とエンパワメントは重要である。毎朝の 事務所の職員(含ミャンマー人職員)の意見を尊重し、 モーニングトークを通して自己発露の機会を作るほ 東京本部、一部の卒業生との協議に基づいて決定さ か、 寮生活を通して社会適応能力を身につけている。 れている。障害者関連の団体や短期派遣専門家はア (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み ドバイザーとして検討に加わり助言を行っている。 職業訓練はミャンマー人講師によって実施されて 各コースの目標は次の通りである。 おり、卒業成績優秀者の中から数名の助手を採用し (a)洋裁 ている。また、日本および現地の短期専門家を招聘 ミャンマーで普段着として利用される洋服やミャ し、現地の技術を大切にしながら、技術の向上を図 ンマーの伝統衣装、ドレス製作など、自立してお店 っている。 を開くのに必要な技術を身につける。 日本人常駐スタッフは調整員として、ミャンマー (b)理容・美容 人スタッフの管理、調整、また各々の能力向上の促 ミャンマーの理容・美容技術に加えて、他店との 進を図る。スタッフの能力開発や人材育成に力をい 差別化を図るために日本のサービス技術も身につけ れているため、プロジェクトの企画、実行、運営、 る。 会計、評価にはミャンマー人スタッフが中心となっ (3)効果的な訓練等を行うための取り組み て関われるような環境を作っている。 (a)カリキュラム 理容・美容コース、洋裁コースとも将来的には訓練 洋裁のコースでは、競合店が多いことから差別化 校の外に独立したショップを開き、自立発展を図る を図るために「文化式」(型紙を使った縫製技術)を とともに、ミャンマーの障害者の自助組織の中核と 取り入れ、丁寧かつフィット性を高めた仕上がりを しての機能を果たすように計画している。 理容・美容 目指すカリキュラムを組んでいる。 のショップは 2005 年 3 月の開始を予定している。 理容・美容コースでは、 ミャンマーの技術に加え、 日本のサービス技術(ひげそりなど) もカリキュラム 3.プロジェクトの評価 に含んでいる。 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 (b)モデルショップでの実習訓練 (a)妥当性 技術を身につけただけでは、自立して店舗を持ち ミャンマーには障害者を支援する国営ならびに 経営することは難しい。訓練生からも「お店を開く 民間の施設がほとんど存在していない。 自信がない」 という声を聞く。 難民を助ける会では、 当プロジェクトでは、現場で即戦力として使える 職業訓練プログラムを行うと同時に、ビジネス手法 技術を身につける授業を行い、さらに実習訓練で自 の伝達や卒業生に対するアドバイスを行うなど、よ 立への自信を身につける訓練も行っている。 り実践に即した包括的なアプローチをとっている。 障害者が積極的に社会に進出することによって、 3 ヵ月半の訓練を終了した卒業生の一部は、モデ 経済的・精神的・社会的な自立を促進し、障害者基 ルショップで一般の客を相手に実習を積む。家に引 本法も制定されていないミャンマーで障害者の地位 きこもりがちであった障害者が、接客技術を身につ 向上を目指してプロジェクトを実施している。 けるのにも役立っている。 (b)目標達成度 (c)外部講師による特別講義・実習 当プロジェクトは開始後 4 年が経過しこれまでに 2003 年には洋裁の日本人専門家を 2 回ミャンマー 292 名が卒業したが(2003 年 12 月まで) 、卒業生の に派遣し、生徒を指導するアシスタントやスタッフ 7 割近くが技術を活かして収入を得ているという調 の訓練にあたった。 査結果が出ている。家族の手を煩わすことなく、一 (d)訓練生のエンパワメント 般公務員の給与よりも高い収入を得ている卒業生も 訓練生となる障害者のなかには、身体的な障害を おり、収入の面では自立して家族に貢献している。 持つことに起因して、精神的または社会的に自立す また、卒業生による自助組織の設立や他の障害者 る意識が低い者もいる。卒業後の生活のためだけで のために働く姿も見られることより、プロジェクト 129 事例 30 の目的はある程度は達成できていると考えられる。 目標としている障害者の地位向上は、4 年という短 期間で成し遂げられることではなく、長期的な視野 で取り組んでいる。 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 立発展性 (a)インパクト 訓練生はミャンマー全土から集まっており、卒業 後地域に戻った卒業生が自立した生活を送ることは、 地方における偏見や差別をなくし、障害者に対する 新たな認識をもたせるきっかけとなっている。 (b)自立発展性 写真 1 洋裁コースで学ぶ訓練生たち(2004 年 10 月) 将来的な自立発展性を確保するために、ミャンマ ー人障害者の講師育成に努めている。 それと同時に、 障害者の自助組織への支援を行い、将来的に自分た ちで活動を繰り広げることができるようアドバイス などを行っている。エンパワメントされた卒業生が 各地域で自助組織を設立することを期待している。 政治状況が不安定であり民間の福祉団体の設立や 運営が難しいミャンマーにおいて、当事業の現段階 での現地へのハンドオーバーはまだ考えていないが、 将来は、ミャンマー政府の決定にある程度従わざる を得ないものの、障害者の自助組織になんらかの形 で引き継いでいきたいと考えている。 4.教訓・提言 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 ① 職業訓練コースを受講できる障害者はある程度 軽度の障害者に限られる。家族への負担も大き 写真 2 理容・美容コースの訓練風景(2003 年) い重度の障害者の社会復帰や経済的自立への支 援が課題である。 ② 訓練校ではビルマ語を使用している。ミャンマ ー全土から訓練生を募集しているので、ビルマ 語を話せない障害者への対応を考えなければな らない。 ③ 首都以外の地域に住む障害者のエンパワメント ならびに支援を進める必要性がある。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 障害者支援の分野は、長期的な事業となる場合が 多い。財政確保に向けた長期的展望や計画が必要で ある。 130 事例 31 ヨルダン 職業訓練技術学院プロジェクトの実施 千葉職業能力開発促進センター 梅本 清 (元 JICA 専門家・チーフアドバイザー) 1.プロジェクトの概要 職 種:機械加工科、溶接科、塑性加工科 (1)プロジェクト実施の背景 定 員:各科定員 30 名(1 学年 15 名×2) ヨルダンは 1946 年イギリスの委任統治から正式 (b)向上訓練(短期) に独立し、その後、4 次にわたる中東戦争による領 対 象:在職者 土縮小とパレスチナ難民の受け入れ、また湾岸戦争 職 種:機械加工科、溶接科、塑性加工科 による周辺諸国からの援助停止による経済的打撃を 定 員:各科 10 名 受けるなどして、苦難の道を歩んでいる。 現在、ヨルダンでは職業教育制度の大規模な見直 面積は北海道とほぼ同じで、中東諸国では珍しく しを行っており、これらに関しても当プロジェクト 非産油国であり、天然資源に乏しく経済的な自立が の目的も大きく関わっている。ヨルダンの教育制度 困難で、海外からの援助に頼らざるを得ない状況で と技能資格は図 1 のように 5 段階の技能資格①スペ ある。GDP の産業別比率を見てみると、第 1 次産業 シャリスト②テクニシャン③クラフトマン④スキル 3.5%、第 2 次産業 25.2%、第 3 次産業 71.3%であ ドワーカー⑤セミスキルドワーカーとなっており、 る。主な天然資源はリン鉱石で日本の企業も進出し STIMI はクラフトマンレベルの技能者養成に関わっ ている。機械製造業は未熟だが、一方で観光産業が ている。当国においては、学歴がそのまま技術者の 近年顕著な伸びを見せている。貿易収支は赤字で観 格付けになることが認識されてきたが、最近 VTC(職 光収入や海外出稼ぎ労働者からの送金に頼っている 業訓練公社)を中心として技能検定制度を含む職業 のが現状である。一方、ヨルダン政府は WTO(世界貿 構成法の導入を図っており、今後、企業における全 易機関)に加盟するなどして、 製造分野の強化策を打 ての技術系社員は技能資格証書取得する義務がある ち出している。人口増加率は 3.1%で、20 歳以下の 方向に向かっている。 人口が 60%に達しており、特に 15 歳から 24 歳まで (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 (a)プロジェクトの実施場所 は 25.0%に達している。 アンマン市中心からほぼ 40km南に位置してい このような状況のもとで、ヨルダン政府は国内産 業の振興、特に工業製品の品質向上による輸出競争 るアンマン市サハーブ地区工業団地 力の強化及び雇用拡大を図るため、わが国にプロジ (b)プロジェクトの実施体制 1)スタッフの配置 ェクト方式技術協力の要請を行った。1997 年 10 月 より 5 ヵ年の協力が開始された。 日本側専門家:チーフ・アドバイザー他 7 名 (2)プロジェクトの目的と目標 ヨルダン側:カウンターパート 28 名、事務員 14 名 2)ヨルダン側投入 当プロジェクトの目的は職業訓練技術学院 施設:約 2 億円(50%は世界銀行からの融資)、1998 (Specialized Training Institute for Metal 年 11 月完成 Industries:STIMI)を設立し、ヨルダンの製造業、特 に金属加工分野における技能者の養成及び資質向上 人員配置:カウンターパート 28 名、事務員 14 名 を図るため必要な訓練コースを実施することになっ 学院運営管理諸費用:実施機関‐職業訓練公社(VTC) 3)日本側投入 た。開設した訓練職種は以下のとおりである。 長期派遣専門家:チーフ・アドバイザー、調整員、 (a)養成訓練 訓練計画、機械加工、溶接、塑性加工 訓練期間:第 1 学年‐12 ヶ月間 STIMI にて訓練、 短期派遣専門家及び据付技師派遣:必要時 3∼4 名 第 2 学年‐企業にて 6 ヶ月間 OJT 訓練 対 機械供与:調査車両、視聴覚機器、訓練機材等 象:中等教育修了者(18 歳以上) 131 事例 31 カウンターパート日本研修:4 名/年 企業での OJT 訓練を実施することとした。 実施機関:国際協力事業団(JICA) (b)向上訓練 支援機関:厚生労働省、雇用・能力開発機構 向上訓練については日頃から関係企業、団体等と の連絡を蜜にし、STIMI が外部に対して提供できる 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 訓練コースを常に準備し迅速に対応できるようにし (1)プロジェクトにおける訓練等の位置付け ておき、企業や団体等から訓練の申し込みがあると ヨルダン政府は WTO に加盟、技能検定制度を設定 訓練内容の詳細を両者で詰め、具体的なコースを設 するなどして、 製造業分野の強化を打ち出しており、 定した。 このように当初の計画に組み込んだもの(レ 現在の労働人口 91 万人のうち、職業訓練校卒は 1 デイメードコース)だけでなく、企業、団体等から新 万 7000 人にとどまっている。また、高学歴志向のた 規相談がある場合でも積極的に対応している(オー めクラフトマンが不足しており、 職業訓練公社(VTC) ダーメードコース)。 所管の職業訓練センターでは、 金属・機械加工分野に (3)効果的な訓練を行うための取り組み ついてはこれまで中卒者を対象とした施設しかなか (a)訓練管理専門家の派遣 ったため、国内においては STIMI がクラフトマン養 プロジェクトを立ち上げる場合、事前にその国の 成の唯一の実践的な訓練施設である。 ニーズを把握した後、 訓練計画を作成、 訓練を実施、 (2)訓練等の計画と準備 その成果を確認し、評価するというプロセスを経る (a)養成訓練 が、決められた期間内に効果的な訓練を実施するた 養成訓練のカリキュラム開発のためにプロジェク めには、計画の段階が非常に重要になる。ヨルダン ト開始当初、企業に対し訓練ニーズ調査を行った。 の場合、訓練管理専門家を派遣し、訓練計画、実施、 その結果、計画段階では中卒者を受け入れる案もあ 評価のプロセスを体系化し、効率的な訓練を実施し ったが、企業側のニーズもあり高卒者に対する 18 た。 ヶ月間の訓練コースを開設した。 全訓練期間のうち、 (b)カウンターパートへの効果的技術移転 前半の 12 ヶ月間は学院内での訓練を実施すること 専門家の日常業務は、訓練計画、テキスト、指導 とし、カリキュラムは各科共通科目として数学、コ 案、視聴覚教材等の作成の他、カウンターパートへ ンピューター、技術英語等の一般科目に加え、機械 の技術移転を行う。この技術移転指導を行う場合、 製図や ISO 基準等の基礎学科と各科に必要な専門学 専門家は事前にカウンターパートにインタビューし、 科と実技からなっている。また、後半の 6 ヶ月間は 彼らが有している専門分野の不足部分又は未修得分 図1:ヨルダンの教育制度と技能資格 132 事例 31 野を一ヶ月ごとに確認し、それに基づいて指導計画 画部門長、各科主任の出席のもと、事前に日本側と を作成し、計画的に技術移転を行った。 ヨルダン側で議題を調整し、会議では学院長がイニ (c)企業、団体へ訪問 シャチブをとり、日本人専門家はアドバイザーとし カウンターパートへの効果的な技術移転は、彼ら て協力し訓練がスムーズに実施されるようにした。 と常に密接な連携を図る必要がある。 (d)専門家会議 指導員は施設内での訓練が主要な業務であるとい 週一回を原則とし、プロジェクトを期限内に実施 う意識が強く、直接訓練生を指導すること以外に関 出来るように、プロジェクト実施上の諸問題を共有 心と経験が乏しい傾向があるが、専門家はカウンタ し、ともに解決するための専門家会議を実施した。 ーパートとニーズ調査、卒業生の評価等を行うため (e)職業訓練公社(VTC)との密接な連携 に積極的に企業団体等を訪問しその実態を把握しカ プロジェクトサイトはアンマン郊外のサハーブ地 リキュラムに反映することとした。 区工業団地の一角にあり、チーフ・アドバイザーと (d)機械、工具等の入手方法の実態調査 カウンターパートの学院長は施設内で業務をとるこ STIMI の機器等は日本から供与されたものだが、 ととしているものの、チーフ・アドバイザーはプロ 消耗品等は現地で調達する必要があるため、現地の ジェクトを円滑に実施・運営するために上部組織の 機工具店を調査し、現地調達を心がけた。 職業訓練公社(VTC)の担当者と密接な連携をとる必 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 要がある。その為、担当部長の部屋に週 2,3 回同室 (a)養成訓練 し、VTC の総裁、副総裁とプロジェクトをスムーズ 訓練実施期間中に、訓練計画確定後変更が生じた に運営するための協議をできるだけ多く持つように 場合にその都度訓練計画部門が各科と調整した。12 した。 ヶ月間の学院内での訓練が終了すると 6 ヶ月間の (f)合同委員会の開催 OJT 訓練に入る。 STIMI の運営状況、プロジェクトの進捗状況、今 OJT 訓練については訓練計画部門を中心に、企業 後に必要なアクションプラン等を確認するため、 VTC 訪問スケジュールを作成した後、各専門家とそれぞ 総裁、副総裁、その他局長級、STIMI から学院長他、 れのカウンターパートが企業訪問を行いながら、 OJT 日本人専門家、 そしてオブザーバーとして JICA ヨル に適切な企業、団体を選定した。OJT 訓練中は専門 ダン事務所長が出席し、合同委員会を開催した。 家と各科の指導員が 2 週間に 1 度程度企業訪問し、 (g)技術交換のための出張 企業との意見交換や訓練生へのアドバイスを行った。 一方、訓練生は 3 週間に 1 度来院し、企業での訓練 日本の ODA によるプロジェクトを成功させるため には、被援助国の自助努力が欠かせない。 実施状況を報告し、 必要であれば補講を行った。この その為、VTC 総裁、学院長、訓練計画部門長及びチ OJT 訓練は卒業生の就職先の開拓に大いに役に立っ ーフ・アドバイザー、訓練計画専門家が過去の日本 た。 の援助によるプロジェクトの成功例を見るために、 (b)向上訓練 マレーシアの労働省の職業訓練部署、CIAST(マレー 養成訓練での 6 ヶ月間の企業おける OJT 訓練は訓 シア職業訓練指導員上級技能訓練センター)、 練生の企業の実情把握に役立つだけでなく、STIMI JMTI(日本・マレーシア技術学院)等を見学し、 ヨルダ の PR 効果もあり、 訓練生の就職先の開拓だけでなく、 ン関係者に STIMI を成功させるために一層の自助努 企業からの向上訓練受講に大いに貢献した。知名度 力を促した。 の高まりとともに、企業、公共機関からの訓練依頼 (h)第 3 国研修「CAD/CAM」の実施 も増え、具体的には政府関係職員、国連パレスチナ STIMI は金属加工分野で中東地域では最新で高度 難民救済事業機関(UNRWA)の指導員、EU-NGO パレス の設備を備えており、中東地域での中心的役割を果 チナ難民キャンプ等からの研修依頼、大学からの卒 たすことが期待されている。 中東諸国 22 カ国に呼び 業研究実施の申請等が増加してきた。 かけ 16 名を受け入れて実施し、成功裏に終了した。 (c)訓練会議 5 回実施を予定している。 週一回を原則とし、専門家全員、学院長、訓練計 133 事例 31 (i)他機関との連携 きる。 日本から供与された機器により STIMI は中東地域 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 でも金属加工分野では屈指の訓練施設となった。国 立発展性 内の先端企業、国内の研究機関及び国際機関から業 STIMI はヨルダンにおける金属加工分野のクラフ 務連携の問い合わせや研修依頼があり、可能な限り トマンレベルの技能者を養成するという VTC の政策 これらの機関に協力することとした。 に貢献しているし、唯一の施設でもある。現在、VTC (j)実習収益の確保 は今後 2 年間に同レベルの 3 訓練施設を新設する計 プロジェクトを日本との約束どおり実施するため 画である。STIMI はこれら新設施設のモデルケース にヨルダン政府は業務運営費を特別に計上しており、 として捉えられている。また、STIMI は VTC 傘下施 協力期間中は訓練実施等には支障をきたしていない 設の指導員の養成も行っており、その一方で向上訓 が、ヨルダン国は資源に恵まれていないため訓練施 練では近隣アラブ諸国や UNRWA の指導員の研修も行 設自ら収益をあげ、管理・運営費を確保しなければ っており、2002 年には CAD/CAM に関する第 3 国研修 ならない状況にある。特にプロジェクト終了後は積 を実施し、高い評価を受けた。 極的に収益をあげる必要があるため、専門家が滞在 当プロジェクトは、アクションプランに基づいて している間に、企業、関連機関からの研修要請をで 実施され、STIMI の管理・運営も確立されており、 きるだけ受け入れ、外部からのより高度で幅の広い 訓練に必要な機材も予定通り設置された。 要請に応えられる技術を指導した。 STIMI の指導員もクラフトマンレベルの技能者を養 成できる知識・技能を有するレベルまでになった。 3.プロジェクトの評価 VTC は今後、STIMI を有効に管理・運営のための予算 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 及び人の配置を約束した。 ヨルダンの社会開発計画(1999∼2003)によると、 労働力の人材開発のための戦略の目的の一つは、労 4.教訓・提言 働市場からの要請に基づく訓練計画の質の向上及び (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 量の拡大を図ることとしている。さらに、新社会・ (a)技能者の評価制度の確立 経済への移行計画では貧困対策と雇用対策の拡大を 当プロジェクトは金属加工分野におけるクラフト あげている。これらを達成する手段として、 今まで職 マンレベルの技能者養成施設として日本が協力して 業訓練は実施されて来たし、 現在も実施されている。 きたものである。しかしながら、全般的に見てこの このような国の政策の元で、 職業訓練公社(VTC)の政 国は高学歴、ホワイトカラー指向であり、プロジェ 策のなかで STIMI はクラフトマンレベルの技能者養 クト関係者の努力にもかかわらず期待した程入学希 成のための特別な施設として位置付けられている。 望者が集まらなかったことにその結果が現れた。協 ヨルダンの製造業は 2000 年の資料によると、 1999 力期間中、 職業訓練公社(VTC)を中心に技能検定制度 年の GDP の 15.6%を、 雇用面では 12.1%を占めてお の確立を図るなどして、技能者評価の制度を確立す り、機械加工、塑性加工及び溶接技術分野の職業訓 る努力がなされているが、早急にクラフトマンへの 練は産業の基礎として金属加工業だけでなく、その 評価を確立し、STIMI への入学希望者が増加するよ 他の製造業の分野でも大いに役立っている。2000 年 う努力する必要がある。 から 2002 年間にプロジェクトが実施した企業に対 (b)高等教育機関への進学への道の開拓 する調査結果によると、STIMI の卒業生を受け入れ 現在、ヨルダンの教育制度と技能資格は図 1 のよ た企業及び OJT の訓練生を受け入れた企業の訓練生 うに制度化されようとしている。STIMI の入学資格 の能力に対する評価は高い。 は高卒で、1 年 6 ヶ月の訓練を受けクラフトマンレ また、日本のヨルダンへの技術援助は、調査結果 ベルのグレード 2 の資格を付与される。訓練生の中 からも企業からのニーズにマッチしていることがわ にはより高度の教育を希望する者もおり、現状では かる。以上のことから日本からの技術援助は目標を より高度の教育・訓練を受けることができないため、 達成しているとして、協力の妥当性は高いと評価で 中退する者もいる。専門家チームはプロジェクトが 134 事例 31 終了するに当たり、VTC に対し文部省等と協力し、 より高度の教育の受講可能な制度の確立を提言し た。 (c)指導員の定着 ヨルダンでは公務員の国内企業への流出だけでな く、この国の公務員制度が公務員の海外での有限勤 務を認めているため、多くの公務員が海外勤務をし ている。当プロジェクトの関係者も近隣諸国へ所謂 出稼ぎに出ている者もおり、これは優秀な人材の海 外流出問題としてヨルダンにとっては非常に残念な ことである。ヨルダンの諸状況を考えるとやむをえ ない面も有るが、今後は STIMI の発展のためにも流 出防止対策をとる必要がある。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 写真:NC 旋盤実習 5 年間という限られた期限内でプロジェクトを完 成させるためには、専門家だけでなく、受け入れ国 の全般的な協力と自助努力が重要である。当プロジ ェクトが得た教訓は、期限内で終了するためには以 下のようなことが必要であった。 ① 受入国の関係組織、機構の把握と人脈の把握 ② カウンターパートとの親密な連携業務 ③ 技術移転手法の確立 ④ 業務に必要な英語力 ⑤ 異文化の理解 ⑥ JICA、大使館担当者との情報交換 ⑦ カウンターパーの転職防止 ⑧ 技能尊重風土の醸成 ⑨ 機器等に必要な部品の入手経路の確立 (特に日本から供与された機器等の部品) ⑩ コース開発に係る詳細なニーズの把握 135 事例 32 UNRWA 職業訓練支援の実施 (UNRWA:国連パレスチナ難民救済事業機関) 千葉職業能力開発促進センター 久米 篤憲 (元 JICA 専門家・職業教育管理) 1.プロジェクトの概要 きた。 (1)プロジェクト実施の背景 (2)プロジェクトの目的と目標 はじめに、国連パレスチナ難民救済事業機関 ここからは、小職が担当した 3 年間の活動をプロ (UNRWA)に関する基礎的な情報を紹介する。 ジェクトと位置付けて報告する。 (a)設立経緯 小職派遣前までの専門家派遣は、UNRWA が設置す 1948 年のイスラエル建国とともに第 1 次中東戦争 るシリアのダマスカス訓練センター及びヨルダンの が勃発し、イスラエルによって追放されたパレスチ ワディシール訓練センターに限られていたが、小職 ナ人約 75 万人が難民としてヨルダン、シリア、レバ に対する案件要請書には以下のような主旨の目的が ノン、ヨルダン川西岸及びガザ地区に流出した。 記載されていた。 UNRWA は、これら難民の救済を目的として 1949 「今後、職業訓練分野に対する協力効果をさらに高 年の国連総会決議(302-Ⅳ)により設立、翌 1950 年 めるためには、これまでの技術協力に加え、各校が から活動を開始。更に 1967 年の第三次中東戦争勃 地域社会のニーズに対応した教育体制を整備するこ 発に際し、イスラエルに占領された西岸等より約 35 とが重要であり、UNRWA 各職業訓練の運営面での支 万人のパレスチナ人が流出、新たな難民が発生した 援を行う専門家派遣が必要であると思料される。 」 ことにより、UNRWA の救済事業は拡大した。 以上の要請目的に対して次のような目標を設定し (b)UNRWA の事業内容 て活動した。 UNRWA は主に、前記した 3 ヶ国 2 地区に居住する (a)訓練管理システム(TMC)の導入 パレスチナ難民を対象に、教育、医療・保健、福祉 特に訓練指導員の日常業務に注目し、その役割を 活動を実施している。 体系化する。すでに、 「フィリピン職業訓練向上プロ ① 教育:小・中学校(男女)及び職業訓練校を運営。 ジェクト」(JICA プロ技)にて TMC(Training 教員にはパレスチナ人を雇用。 Management Cycle)としてサンプルが構築されてい ② 医療・保健:診療所、母子保健センターを運営。 るので、UNRWA の職業訓練分野における在来手法と 保健・衛生の他、家族計画の指導・実施及び衛 融合を図り再構築する。構築後は、指導員への再教 生環境向上の活動を実施。 育(訓練指導技法)セミナーとして定着を促す。 ③ 救済・福祉:老人、寡婦、身体障害者等貧困下に (b)施設運営システムの改善 置かれているパレスチナ難民に対し、食料及び 業務計画・実施・評価・改善の取り組みを、日本 住居を提供。 の訓練施設で利用している職員会議や委員会の規程 (c)我が国との関係 集を翻訳、導入することで UNRWA 内の組織運営上の ① 1953 年より、毎年支援金を拠出。 改善を図る。 ② 1973 年より UNRWA の活動及び予算審議を監督す (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 る諮問委員会に参加。 専門家としての活動範囲は、UNRWA の活動範囲で (d)JICA 援助の背景 あるヨルダン、シリア、レバノン、ガザ地区、ヨル 1986 年に当時の安部外相による中東諸国歴訪の ダン川西岸地区であったが、通常はヨルダンの首都 折、日本政府として UNRWA 援助を開始する公約に端 アンマン市にある UNRWA 教育局本部ビルに執務室を を発している。 具体的には JICA が 1986 年 12 月から 提供してもらっての活動となった。 計 12 名の長期個別派遣専門家を継続的に派遣して 活動に際して、UNRWA 側から指定されたカウンタ 136 事例 32 ーパート(目的達成の為に協力し合うパートナーの 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 意)は教育局長(UNESCO が派遣したイギリス人)と技 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ 術教育職業訓練部長(UNRWA 職員のパレスチナ人)の UNRWA 傘下の 8 ヶ所の職業訓練センターには約 2 名であった。 5000 名以上の若者が訓練を受講している。訓練の形 教育局長はイギリス国内で一般教育に長く携わっ 態も技術革新という時代を背景としての企業ニーズ た経験を有する方で、UNRWA 傘下の小・中学校約 640 を受けて、従来の中卒対象の技能(スキル)訓練コー 校と職業訓練センター8 校の責任者として多忙を極 ス(2 年間)に加えて、高卒者を対象とした技術(IT めておられた。 関連や CAD など)分野のコースを増設してきた経緯 技術教育職業訓練部長は、小職が着任した時期に がある。 は人事異動の為に空席で、後任の部長も事情があっ (2)訓練等の計画と準備 て 1 年間で退職、その後任が着任した時期に小職の 職業訓練スペシャリストは 8 訓練センターが開設 任期が修了したこともあり、業務遂行に良好なパー する 58 種類の訓練コースを 14 系に区分けし、その トナーシップを構築できた時間は限られていた。 系ごとに 1 名が配属されている。 実際の活動は、技術教育職業訓練部長およびその TMC 導入に際して、実際に 2 つの方法を用いた。 代行と協議して、派遣目標達成のため TMC 導入に尽 ① 職業訓練スペシャリストの JICA 集団コース「職 力した。具体的には技術教育職業訓練部に配属され 業訓練向上セミナー」への参加を計画・申請し ている技術教育職業訓練スペシャリスト(以下、 職業 た。 訓練スペシャリスト)に対する技術移転を介して、 彼 実際には限られたコース定員の枠を取得するの らから 8 訓練センターの指導員を教育することとし が困難であり、3 年間の派遣期間中に 2 名を参加さ た。 せた。 図 1 は TMC の概念(コンセプト)を示すもので、職 ② 8 訓練センターの指導員を対象に TMC セミナーを 業訓練指導員の日常的な役割に対して、訓練評価を ヨルダンで開催する。 重要な位置付けとして、良質な訓練提供への改善活 日頃の職業訓練スペシャリストへの技術移転の成 動を主眼としている。 果に対する評価も踏まえて、彼らを講師にしたセミ ナーを計画した。実際には予算の問題で、JICA 予算 と UNRWA 予算で各 1 回、 計 2 回のセミナーを実施し、 8 訓練センターの副校長全員と主任(科長レベル)指 導員の計 40 名を指導した。 ①訓 練 ニ ー ズ 把握 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 職業訓練スペシャリストへの技術移転を効果的に ②訓練プログラム開発 進めるためには彼らの学習意欲(モチベーション) を 高める必要がある。その為に、まず何を技術移転す るのかを明確にしたのが「表 1」にある TMC に関す ③カリキュラム&教材開発 る技術移転の項目一覧表である。 スペシャリストは教育局長に対して活動報告の義 ④訓練実施 務を与えられており、指導員への教育や新たなカリ キュラム開発及び改善が活動の主体である。 そこで、 ある程度の技術移転の結果を受けて、意欲のあるス ⑤訓練評価 ペシャリストに対して、実際の指導機会を与えるこ 図1:TMC 概念 とで実績を出させると共に、意欲の低い者に対して は「セミナーを担当することで実績につながる」と いう刺激を与えながら指導を行った。 137 事例 32 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み はこれらの成果を踏まえて、 「今後は UNRWA の自助努 TMC という日本の職業訓練をモデルに再構築した 力が求められる時期」として専門家派遣をひとまず システムを簡潔に述べるのは容易ではない。しかも 終了した。 時と場所、対象者を変えて繰り返し説明するのはよ (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 り困難を要するものである。そこで、英語版とアラ 立発展性 ビア語版で TMC 紹介ビデオを作成した。その内容は UNRWA の職業訓練は、ヨルダンに設置した教育局 指導員の日常業務を再確認することと、その業務の 勤務の職業訓練スペシャリストによって、カリキュ 進め方(手法)を完結に 20 分で紹介したものである。 ラムや教材開発がなされ、各訓練センターの指導員 ビデオは時代的な背景を反映させて、VHS テープと に配布される。言わばトップダウン方式である。今 CDR に記録して各訓練センターはじめ関係者に配布 回導入を計った TMC は、訓練の準備・実施・評価と した。 いう役割以上に指導員の業務見直しを視野に入れた さらに、セミナー用教材の整備として、職業訓練 システムであり、地域産業ニーズに見合うカリキュ スペシャリストがセミナーを担当するときの教材を ラムや教材の改善ができることを狙っている。言わ 英文でパワーポイント教材として開発した。実際の ばボトムアップがインパクトである。しかし、UNRWA セミナーは受講者の英語力の問題があるためにアラ が運営する 8 訓練センターでカリキュラムを統一す ビア語で実施される。スペシャリストへの技術移転 ることは修了証書との関係で重要であるために施設 の際には、開発した英文教材を、彼らがアラビア語 ごとのカリキュラム変更は困難であるが、近い将来 の教材に翻訳する時点で大きく進展した。 在職者への短期間訓練の提供には TMC が大きな効力 これらの開発教材が、 専門家の帰国後に改善され、 を発揮すると期待している。 継続的に利用されれば TMC の定着が期待されると願 っている。 4.教訓・提言 (1)プロジェクトおよび訓練実施上の問題点・課題 国際協力機構(JICA)派遣による紛争地域への協力 3.プロジェクトの評価 支援は、外務省の渡航安全情報の判断及び、JICA と (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 これまでの約 18 年間に及ぶ JICA 支援に対して、 専門家の契約もあることで大きく制限された。 「現地 その内容や成果について総合的に妥当性や達成度を へ出かけて行ってより詳しく現状把握して活動に反 評価した報告は無いようだ。ただ、派遣された専門 映させたい」と願っていたが、結局 3 年間の任期内 家各自の業務報告書からその成果を読み取るか、以 にガザや西岸地区への出張は不可能であった。 下のような主観的な評価がある。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 (a)教訓として JICA の長期派遣専門家が活動した UNRWA 傘下の訓 「技術移転に対する、出たとこ勝負からの脱却」 練施設にはテキストや指導案などの教材が整備され 小職は過去、ネパール、フィリピンそして今回と ており、機械工具の整理・整頓という指導員への躾 教育の成果さえも確認できる。また、専門家派遣と 計 9 年間の専門家派遣を経験した。その経験をも踏 同時期にはじまった「UNRWA 特設」と呼ばれる本邦 まえて、以下に自ら教訓とするところを述べたい。 研修の受け入れは、8 訓練センターや UNRWA 教育局 延べ 9 年間の派遣中に出会った多くの専門家や 本部などからの参加者が延べ 200 名を超えている。 JOCV 隊員(青年海外協力隊員)たちとの会話から、派 彼らの中から訓練センターの校長や主任指導員にな 遣現場において「聞かれたら教える」とか「間違っ った者も少なくない。 ていたら正してやる」といった『出たとこ勝負の技 術移転になりがちだ』 との共通した悩みがよく出た。 小職の訓練システム構築活動に関しても、看護分 野のスペシャリストが TMC を応用して看護師育成訓 出たとこ勝負の技術移転の弊害は、たまたま出くわ 練コースを開発したことや、ビデオや教材整備の成 した問題の解決にはなるが、その他の潜在的な問題 果が確認された。 や根本的な問題が見落とされる。結果、派遣期間中 に相手の要求に沿って技術移転したにもかかわらず、 UNRWA 側は継続して支援を依頼しているが、JICA 138 事例 32 相手の技量をどの程度伸ばしたかという評価さえも 困難にする。 その対策には、自らが指導する対象者の到達すべ きイメージをどれだけ明確に描けるかが重要とな る。小職の場合、職業訓練のカリキュラム開発手法 として開発された CUDBAS(クドバス)と呼ばれる職 務分析手法を用いて「技術移転項目一覧表」を作成 することで計画的な技術移転を試行してきた。この 手法はヨルダン派遣中に 20 名を越える JOCV 隊員に 指導しながら、各自の「技術移転項目一覧表」を共 に作成することでその効果を確認できたと自負し 写真 1 自動車整備訓練風景 ている。 表 1 には、 小職が実際に活動に用いた 「UNRWA 職業訓練スペシャリストに対する技術移転項目一 覧表」を紹介した。この表を英訳、拡大したものを 常時執務室に掲示しておいたために、職業訓練スペ シャリストなどが常時「これは何だ、どういう意味 だ」と説明を求めてくる。その度に彼らの既得知識 や経験を評価できると共に、その場で技術移転が進 んでいくという利用法が特に効果的であった。 (b)提言 海外技術協力の目的で派遣される方々の多くが 専門分野におけるスペシャリストであっても、誰か に指導するとなると別のノウハウが必要となる。そ れは「有名な野球やゴルフのプレーヤーが必ずしも 写真 2 TMC セミナー風景 優秀なコーチとなりえない」のと同じことで、何を 指導するのか、それらをどの順番で指導するのかと 言った問題が立ちふさがる。前記したように、今後 の JICA 派遣その他で途上国の現場で技術移転がな される場合その活動が「出たとこ勝負」にならない 様にするには技術移転を体系的に進めるノウハウ が求められると思われる。 紙面の都合で詳細は書けないが、機会があれば JICA 機関紙フロンティア 2004.6 no59 に今回の提言 内容を紹介しているので参照していただきたい。尚、 同内容は JICA のホームページにも紹介されている ので参照願いたい。 http://www.jica.go.jp/jicapark/frontier/0406/08.html 139 訓練評価 6 訓練実施 5−1 5 方法を知って いる いる 指導員評価の 知っている 評価について カリキュラム 6−3 る いる 6−2 て講義が出来 OHPを使っ 5−3 情報(テキスト を含む)シート の作成が出来 る 4−3 来る 表の作成が出 期間訓練計画 3−3 っている 決定方法を知 訓練生定員の 2−3 いる ついて知って 企業ニーズに 1−3 ABILITY−3 ついて知って 実技指導法に 5−2 作成が出来る 作業手順票の 4−2 職務分析手法 を用いてカリ キュラム編成 が出来る 3−2 方法を知って 訓練生評価の 6−1 て知っている 講義法につい 作成が出来る 訓練指導案の 4−1 知っている 発手法について カリキュラム開 3−1 が出来る が立てられる 教材開発 4 カリキュラム 開発 3 設置目標設定 訓練コースの が必要か、仮説 どんなコース 2−1 2 訓練コース 設計 ている いる 2−2 について知っ 地域のニーズ 1−2 ABILITY−2 ついて知って 国のニーズに 1−1 ABILITY−1 来る 教材評価が出 6−4 パソコンを使 って(パワーポ イント等)講義 が出来る 5−4 る の作成が出来 OHPシート 4−4 出が出来る な運営費用の算 コースの大まか 2−4 いる ついて知って 個人ニーズに 1−4 ABILITY−4 出来る コース評価が 6−5 が出来る を進めること グループ討議 5−5 作成が出来る パソコン教材 4−5 人員の概算を作 成できる 施設、設備、機材、 コースに必要な 2−5 る いて知ってい 文献調査につ 1−5 ABILITY−5 UNRWA職業訓練スペシャリストに対する技術移転項目一覧表 職業訓練 ニーズ調査 1 仕事 表1 事例 32 クできる フィードバッ 評価の結果を 6−6 ている の仕方を知っ 効果的な質問 5−6 成が出来る 演習課題の作 4−6 ている について知っ 聞き取り調査 1−6 ABILITY−6 が出来る 報告書の作成 6−7 ができる 発表会の運営 5−7 作成が出来る ビデオ教材の 4−7 いる ついて知って 質問紙調査に 1−7 ABILITY−7 いる 効果を知って ビデオ教材の 5−8 出来る 調査の計画が 1−8 ABILITY−8 査が出来る ってニーズ調 演習課題によ 1−9 ABILITY−9 事例 33 飢えの問題を自立的に解決するための農村指導者養成 準学校法人 アジア学院 校長 田坂 興亜 1.沿革 ほとんどの研修生は、国内に飢えている人口を多 準学校法人アジア学院は 1973 年に西那須野の地 く抱えた国々から来日しており、有畜複合型の有機 に設立され、今日まで 31 年にわたって、有機農業に 農業の技術を習得すると共に、飢えの問題の根底に 基礎をおいて、自給をめざす食糧生産を推進する農 ある社会・経済的要因をコミュニティーに基礎を置 村指導者を養成してきた。2004 年の時点で、短期の いて、どのように解決して行けば良いのかを真剣に 訓練を受けたものも含めると、51 ヶ国、1009 名の卒 模索している。そのため、アジア学院で行う研修の 業生がアジア、アフリカ、太平洋諸島などの途上国 プログラムも農業技術の移転、訓練にとどまらず、 で、飢えの問題を自立的に解決するために活動を展 社会・経済的な要素も含めた総合的な内容となって 開している。 いる。 創立当初は、 「東南アジア農村指導者養成所」とい う名前が示すように、アジアの国々からの研修生を 対象にしていたが、1970 年代前半には、アフリカで 深刻な飢餓の問題が発生し、アフリカ諸国からも研 修生を受け入れてほしい、との要請があったので、 1976 年からアフリカからも研修生を受け入れるよ うになり、今日にいたっている。 2.2004 年度の研修生 今年度の研修生は、アフリカのウガンダ、カメル ーン、ガーナ、ザンビア、ナイジェリアから各 1 名、 写真 1 2004 年度入学式 アジア諸国からは(括弧内は人数)、スリランカ(1)、 3.研修プログラムの概要 バングラデシュ(4)、インド(3)、ミャンマー(2)、ネ 研修プログラムは、フィールドでの実習、教室で パール(2)、フィリピン(4)の 16 名、これに日本人の 研修生5名が加わって12月までの研修を続けている。 の座学、見学旅行の三つの要素から構成されている さらに、過去の研修生の中から、それぞれの国に帰 が、その中で一番大きな部分を占めるのは、 研修生が 国後非常に良い働きをしている卒業生をトレーニン 自ら実践することによって学ぶ方式のプログラムで、 グ・ アシスタント(TA)として招く制度があり、今年度 「ぼかし」と呼ばれる堆肥の作り方、 「マルチ」と呼 はインド、スリランカ、フィリピン、ミャンマーから ばれる地表をわらや引き抜いた雑草で覆って水分の 4 名の TA が研修の手助けをすると同時に、自分自身 蒸発を防ぎ表土の流出を防ぐ方法、ニワトリ、豚、 さらなる研修を重ねている。また、昨年度の日本人 牛の飼育(乳搾り、 子豚の去勢、 ニワトリの解体作業、 研修生の中から 1 名が、グラジュエート・インター 豚舎からの排泄物によるバイオガスの活用などを含 ン(GI)として、二年目の研修を続けている。日本人 む)等々、有畜複合型農業の技術は、現場での毎日の の研修生のほとんどが、将来、青年海外協力隊や国 実践によって初めて習得が可能となる。夏季に東北 際協力 NGO などで活動したいという夢を持っている 地方の有機農家に泊りがけで行なわれる農業実習も ので、特に農業の背景なしに入学した学生たちは、 将 この中に入るであろう。今年度は山形県の庄内地方 来必要となる農業や畜産の技術などを充分に身に付 と置賜地方の二箇所で行われた。 けたいという理由から二年目の研修を希望している。 141 これら実習の基礎となるのが教室内での講義、ワ 事例 33 ークショップ、ディスカッションなどで、筆者担当 物、ニーム、レモングラス、マリーゴールドなどが の”Danger of Chemical Farming”,“Development ここでは活用できる。この農場を共同運営している and Environment”やアジア学院の創設者である高 修道会にはアジア学院の卒業生が三人もおり、ここ 見敏弘氏による「指導者論」 、農場・畜産担当スタッ での研修に協力している。 フによる講義等それぞれの分野においてスタッフに よる講義が行なわれているが、カバーできない分野 4.卒業生に見る研修の成果 については、外部から専門家を講師として招いて行 (1)マレーシアの事例 なっている。 今年は UNESCO アジア文化センターの支 マレーシア政府は、2002 年 8 月に有機農産物の認 援により、韓国自然農業の第一人者で今年度の日韓 証制度を導入したが、その開始に当たって、首都ク 国際環境賞の受賞者である趙漢珪氏とフィリピンで アラルンプールでセミナーを開いた。政府側は法律 水撃ポンプなどの適正技術を開発・普及させている を作ることはできても、まだ有機農業を実践する農 イゼンガ・オーケ氏を招き、特別講義と実習を行な 家がきわめて少ないため、堆肥の作りかたなどの技 った。 術面では NGO に期待を寄せている。有機農法のノウ ハウを持った NGO である CETDEM(Center for Environment, Technology and Development, Malaysia;マレーシア環境技術開発センター)は、ア ジア学院の 1994 年度の卒業生であるシュ・ルアン・ タンさんが夫のガーミット氏と共にリーダーとして 率いている。タンさん自身がマレー語、英語、中国 語で堆肥の作り方についての手引書を作り、農民た ちに実際の指導をしてきた。 (2)ミャンマーの事例 写真2 稲刈り ミャンマー中部にピンマナという町があり、その さらに、キャンパスの外に出かけていって学ぶ見 近郊のイエジンで、YMCA の農場を拠点にして、アジ 学旅行がある。 埼玉県小川町の金子農場、 田下農場、 ア学院の 1994 年卒業生メルヴィン氏が有機農業の 西那須野近隣の帰農志塾、ウィンドファミリーなど 発展に尽くしている。ミャンマーの軍事政権はその それぞれ独自の有機農法を行なっている農場の見学、 経済政策の失敗のために、国内は大変なインフレに また、足尾銅山や水俣などの近代化・工業化の過程 見舞われており、農民が化学肥料や農薬を購入する で生じたいわゆる「公害」の現場の見学、さらには、 ことは困難となっている。そこで、化学肥料や農薬 「生協」などを通して行われている生産者と消費者 に依存せずにできる農業、つまり、鶏糞と稲わらか の間の流通における提携の試みなど、社会・経済の ら堆肥をつくる、というような有機農法を実践する 仕組みについても学ぶ機会が設けられている。 農家が増えてきている。 メルヴィン氏は YMCA の理事 4 月から 12 月まで、西那須野のキャンパスで営ま で、戦前に農業学校で、今で言う「有機農法」を習 れるこれらの研修に加え、フィリピンのネグロス島 得した 70 才すぎの老人たちと共に、 農民たちの先頭 北部のバコロド付近にカトリックの修道会と共同で に立って、 有機農業による食糧の自給に務めている。 農場と研修センターを開設し、1996 年以降、日本が 実際、聴いてみると、この地域ではコメの自給が達 冬を迎える一、 二月に仕上げの研修を行ってきたが、 成されているということであった。 メルヴィン氏は、 今年は財政難からこの部分の研修を日本人の研修生 2003 年度にはその息子をアジア学院の研修生とし のみに限定せざるを得ない状況にある。このネグロ て送り、土壌を豊かにしながら持続的な食糧生産を、 ス島での研修は、熱帯の国々から来た研修生にとっ この地域でさらに発展させようとしている。 て、母国に近い環境で研修最後の仕上げをするとい う意味がある。たとえば、防虫効果のある熱帯の植 142 事例 33 (3)タイの事例 動するリーダーの育成を精力的に行ってきた。2004 タイには、北部の古都チェンマイにチョムチュア 年 7 月からは、JICA のサポートにより、このアラハ ンという 1988 年度の卒業生が ISAC(Institute for バード農科大学を中心に三つの拠点にモデル農場を Sustainable Agriculture Community) という NGO 開き、そこで有畜複合型の有機農法に基礎をおいた を作って有機農業の推進を行っている。 しかし、有機 農村開発のための農村指導者養成を行うプロジェク 農業を実践している農家の周辺で、みかん農園が農 トが三カ年計画で始まっている。アジア学院のイン 薬を大量に使用しているため、これに対して、地域 ド人卒業生ミシュラ氏(1989 年卒)が若手の教員と の仏教のお坊さんを中心に農民による抗議活動を行 してすでに活動を始めており、アジア学院の職員三 っている。お坊さんが中心にいることで農民が一つ 浦照男氏が、この 4 月からプロジェクトマネージャ にまとまり、周辺との摩擦を最小限にして活動して ーとして派遣された。また、2002 年度の日本人研修 いる。また、東北タイには、バムルン・カヨタとい 生川口景子さんが、アジア学院でさらに一年間イン う 1989 年度の卒業生がいて、1990 年代に東北タイ ターンとして研修を重ねた上で、アラハバードに派 の貧しい農民数万人を率いて政府に農業政策の転換 遣され、このプロジェクトの助手を務めている。 を迫り、ついに国家農業基本法の策定に農民代表の このプロジェクトの特徴は、アジア学院がインド 参加をタイ政府に認めさせた。 から西那須野の地に招いて過去 30 年かけて行って きた 200 名の農村指導者養成を、インドの社会的・ (4)インドの事例 自然環境下で、毎年 200 名ずつの研修を三年間に渡 インドは国土の大きさと共に人口も多く、特に飢 って行うことができるという点で、極めて大きな波 えに直面している人口を多く抱えているため、飢え 及効果が期待されている。 の問題の解決が大きな課題である。 過去 31 年間にア ジア学院で研修を受けた卒業生の数もインドが一番 多く、200 名を越えている。 「緑の革命」と呼ばれる「多収穫品種」の小麦、 稲が導入されて、インド全体での穀物の収穫量は大 幅に増加したにもかかわらず、依然として多くの 人々が飢えに苦しんでいるのは、人口の増加も一つ の要因ではあるが、それだけでなく、 カースト制度を 含む社会的な差別が大きな貧富の格差を生み出し、 貧しい人々が都市のスラムに流入することによって、 本来食糧の生産者であった農村人口が、都市の食糧 写真 3 アラハバード近郊の農家で、畑の状況を説明して 消費者に転ずる状況などの社会的経済的要因がから いるミシュラ氏 んで、飢えの問題を深刻なものとしている。そうし (5)バングラデシュの事例 た状況の中で、社会の底辺にいる人々を助ける活動 がマザーテレサの団体など様々な NGO や国際機関に バングラデシュも、インド同様、貧困と飢えの問 よって行なわれているが、ここでは、アジア学院の 題が深刻な国の一つである。この国でも多収穫品種 卒業生や元職員が関わっているアラハバード農科大 の稲が導入されて、コメの増収が図られてきたが、 学の取り組みを紹介したい。 社会・経済的また宗教を含む文化的な背景が複雑に 関係して、飢えの問題は解決がなかなか困難である。 アラハバードは、 インドの東北よりの地域で、大河 ガンジスとヤムナー河が合流する地点にある。アジ たとえば、貧しい農民が多収穫品種の稲を栽培する ア学院の元職員である牧野一穂博士は、この大学 ためには、種籾や化学肥料を借金をして購入しなけ の”Non-Formal Education Program”として、特に ればならない。ところが、地域で金貸しをしている ミゾラム、ナガランド、マニプールといったインド 人たちは 120∼180%もの高い利息を要求する「高利 の北限地域で、貧しい農民たちの自立をめざして活 貸し」の場合が多く、貧しい農民は、生産したコメ 143 事例 33 の大半を借金のかたに持ってゆかれるため、手元に (6)韓国の事例 はほとんど残らない、あるいは借金だけが残るとい 韓国は、 目覚しい経済面での発展によって、もはや う 現 実 がある 。 ( 文 献”Past Roots, Future of 「途上国」とは言えない国である。しかし、北朝鮮 Foods―Ecological and では多くの人々が飢えており、解決のメドは立って Innovations in Four Asian Countries” Pesticide いないように見受けられる。また、韓国の国内でも Action Network(PAN) Asia and the Pacific, 2003.) 都市と農村の格差は大きく、農村部では安い輸入食 こうした状況から脱却するために、多くの NGO が 糧の流入によって農民が窮地に立たされている。そ 様々の取り組みを行っているが、ここでは、 アジア学 うした中で活動しているアジア学院の卒業生の事例 院の卒業生が指導的役割を演じている二つの団体の を紹介したい。 Farming Experiences 事例を紹介したい。 李愛利さんは 1993 年度のアジア学院卒業生であ その一つは、プロシカという「しにせ」の NGO で、 るが、ソウルから車で北へ 2 時間ほど走り、 「38 度 有機農業を基本とした農民の自立のためのトレーニ 線」と書いた大きな表示の手前で東に向かい、さら ング、農村開発、マイクロクレジットなど総合的な に 30 分ほど山の中に入った鄙びた小さな山村にあ 活動を行なっている。この NGO で有機農法を様々な る社会福祉施設 Si Gol Zip で働いている。この施設 試行錯誤の末に確立したのは、現在も非常勤講師と では半数が精神障害者という 30 人が共同生活を送 してアジア学院での訓練プログラムに関わっていた っている。その共同体を経済的に支えているのが、 だいている村上真平氏で、彼は熱帯環境下での有機 自家製のみそ、しょうゆである。この村の農民は、 農業の実践に関する第一人者である。 この NGO には、 米国や中国から輸入されてくる安い大豆に太刀打ち 1984 年度の卒業生ディパック氏が指導的な立場で できず大豆の生産をやめていたが、李さんが有機農 活動しており、今年度もその中堅職員がアジア学院 法による大豆生産を指導した上で、生産された大豆 で学んでいる。 を買い上げ、これを原料にしょうゆとみその生産に もう一つは、比較的新しい NGO で、アジア学院の 着手した。みそ、しょうゆの作り方はアジア学院で 1979 年の卒業生サイモン・アドヒカリ氏がリーダー 学んだというよりも、現地で伝統的に行われてきた の BASSA という NGO である。この NGO は宿泊施設を ものである。家屋の屋上に陶器の大きなつぼがずら 備えた研修センターを持っており、NGO のワーカー りと並べてあり、この中でしょうゆが熟成して行く。 のためのセミナー等を行うとともに、近隣の農民の 生産したみそ、しょうゆはソウルや近郊の都市で高 ための様々なトレーニング・プログラムを行ってい く売れるため、その収入で共同体全員の生活が維持 る。このセンターには有機農法による作物栽培のモ されている。つまり、NGO として自立した運営を行 デル農場や養魚場があり、アジア学院と同じような っているわけで、日本の NGO にとっても学ぶべきも 農村指導者養成が、実習を伴って行えるようになっ のが多い。 ている。有機農業のほかに簡易トイレの作りかたの 展示もあり、糞尿の垂れ流しによる伝染病の蔓延を 防ぐための衛生教育も行われている。 写真 5 屋上にずらりと並んだしょうゆのつぼ このように、李さんの活動はアジア学院で学んだ 写真 4 有機農法を地域農民に「技術移転」して、輸入大豆 BASSA によるワークショップ 144 事例 33 によって壊滅状態にあった地域の大豆生産を復活さ 動してきたアジア学院の卒業生たちが手を携えて協 せると共に、有機農法で生産した大豆を用いた食品 力することにより、飢えのない、平和な世界を創っ 加工によってみそ、 しょうゆを作り、これを販売して て行くために貢献できればと願っている。 心身障害者と共に生きる共同体を持続的に維持、運 営するという点で、実にみごとな NGO の実践が行わ れている。 (7)アフリカの事例 ケニアでは、オモト・チタイ(1984 年卒)、ピータ ー・チャンディ(1990 年卒)といった卒業生がアジア 学院で学んだことを、アフリカという気候風土や植 生が日本とは全く違う環境に合わせて応用すること により、 有機農業を村人と共に実践・ 普及している。 たとえば、日本で用いていた稲わらの代わりにとう もろこしの茎を使って堆肥を作ったり、農薬の代わ りに現地にあるハーブを用いてコーヒー栽培を行っ ている。また、植林のための苗木作りを、まず婦人 たちのグループで行い、さらにその夫たちをも巻き 込んでその運動を広げて行っている。 ウガンダには、カンディガ・サムソンという 2003 年度の卒業生がいて、北部ウガンダでの NGO 活動を 行なっている。 この地域は過去 18 年にわたる戦争の ために多くの人々が難民となっているので、彼は日 本と地元の NGO の協力のもとで、シェルターを作っ て難民の子供たちを戦乱から保護する活動を行なっ ている。 最近彼から届いた手紙によると、彼自身と違 う「アコリ」という部族の人たちの中で活動する上 で、アジア学院で学んだ PRA という、住民参加型の プロジェクトの進め方に関するトレーニングが大い に役立っている、ということである。彼は、この手紙 の中で、「私は、世界で一番幸運な人間だ!」とアジ ア学院で学ぶ機会を与えられたこと、そして、 そこで 学んだことを生かして人々のために役立つ活動を行 なえる喜びを表している。 5.これからの課題 上記以外にも多数に上る好事例があるが、飢えの 問題解決のための農村リーダーの養成という使命を 31 年にわたって行ってきた成果が、その卒業生によ って、 世界各地の途上国で実を結びつつある。 今後、 この人材育成の事業をさらに継続すると共に、スリ ランカのような、タミールとシンハリ族との内戦が 終結したあとの復興に、両方の種族の居住地域で活 145 事例 34 職業訓練について考える−パレスチナとレバノンでの経験から 特定非営利活動法人 パレスチナ子どものキャンペーン 事務局長 田中 好子 1.ガザにあるろう学校での職業訓練 近い現在の状況でも安定して継続できる要素になり パレスチナ自治区のガザにある「アトファルナろ ました。 幸いにも初期立ち上げの資金(機材や材料な う学校」は、1992 年に当会が現地の NGO と一緒に開 どと専門家の雇用)には世界銀行の支援を得ること 校しました。 最初は 28 人の生徒から出発した学校が ができ、本格的な機械も導入できました。指導者に 10 年間で生徒数 250 人、地域の聴覚障害者センター は比較的高給を払ったことも良かったと思います。 へと発展しています。長年、小学校の課程を終えた ろう学校の卒業生、また地域の聴覚障害者は、こ 子どもたちの将来をどうするかが大きなテーマでし こで訓練を受けながら、同時にお小遣い程度とはい たが、数年前にようやく中学校の課程を始めること え賃金をもらうことができます。自立しようとして ができました。今後も子どもたちの将来は最も重要 いる若者にとっては大きなチャンスとなりました。 な課題の一つであり続けます。 現在では 70 人以上がここで働いています。 ガザは、1967 年よりイスラエルの軍事占領下にあ 職人が高齢化し技術が失われかけていた伝統的な り、インフラが整備されていない上に地場産業もな 手織物がありましたが、このアトファルナの職業訓 く、成人男性の失業率が 7 割以上になっています。 練所に技術が伝えられました。複雑な糸掛けの過程 こうした場所で十代の聴覚障害の若者たちが職につ も、聴覚障害の人たち独特の勘の鋭さで、難しい職 くこと自体、非常に厳しいのは言うまでもありませ 人技を習得しました。それでも原料の綿糸を入手す ん。これまでに成人の聴覚障害者の作業所に弟子入 るのに困難を抱えています。 りをする、パン屋で修行する、美容師の見習いにな 民族衣装で有名な手刺しの刺繍も、それをアレン るなどさまざまな試行を重ねてきましたが、コミュ ジして製品化することで、ガザを訪れる国際機関の ニケーションの難しい聴覚障害者の受け入れはなか 関係者など外国人のみやげ物として評判が高まりま なか進みませんでした。 した。 刺繍や陶芸はほかの団体でも作っていますが、 1997 年に学校が移転したのに伴い、作業所を学校 縫製や品質の確かさ、品数の多さで、アトファルナ の中につくり、学校教育の延長として職業訓練を実 は後発ながら、 トップに躍り出ることになりました。 施することになりました。顔見知りのスタッフや同 現在、職業訓練の製品は「アトファルナ・クラフ じ聴覚障害の子どもどうしならば手話によるコミュ ト」として販売され、その収入は学校の運営資金の ニケーションに問題がないうえに、孤立しがちな障 30%を確保するほどになっています。こうした成功 害者にとって情報交換をし、自由に話し合える場に の背景には、子どもたちの進路に悩み、また学校の もなるからです。 運営資金に悩みぬいたスタッフたち、特に校長であ 内容としては、木工、縫製、刺繍、陶芸、手織物、 り理事長である、ジェリー・シャワさんの努力を抜 パン作りなどさまざまな種類があります。まず指導 きには語れませんし、事業目的がはっきりしていた 者という人材面では、こうした事業に賛成してくれ ことが何よりだったと思います。 た腕のよい聴覚障害者の職人さんや、以前はイスラ エルに出稼ぎに行っていたが、封鎖によって職を失 2.難民キャンプの女性支援 った一般の職人さんたちを現地で確保したことがポ 当会では 20 年前からパレスチナの刺繍製品に関 イントでしょう。ガザはこの数年、人や物の出入り わってきました。もともと扱ってきたのは、レバノ が極端に制限され、外国人の立ち入りも簡単ではあ ンにあるパレスチナ難民キャンプの女性たちが作っ りません。現地の人材と現地で入手できる材料、ま てきたものです。ここでも、伝統的な民族衣装の刺 た伝統的な技術を中心にすえることで、戦争状態に 繍の技術を若い世代に伝えつつ、収入を作り出すた 146 事例 34 めに、海外やレバノンの余裕のある階層の人たちに の現地の人々には難しいものと写ります。技術指導 販売しています。刺繍はほかに技術のない女性たち という点ではこうしたことは非常に重要なポイント が家で少しずつ作業できるもので、長年、難民キャ ではありますが、見方を変えて、その努力がどれだ ンプでのわずかな収入のひとつとなってきました。 け報われるのかという観点にたったとき、その努力 夫を亡くし子どもを抱えた女性たちが、物乞いや売 はもしかしたら無駄になるかもしれない、と思うこ 春をしなくて済むようにと始められ、規模が拡大し とがあります。というのも手間ひまをかけた手刺し てきたものです。レバノンには、人口比で1割に達 の刺繍であるパレスチナの製品の価格は、布地や糸 するパレスチナ難民が暮らしています。1948 年に難 が輸入品であること、現地の物価水準などから相対 民になって以来 50 年以上、 故郷に帰ることを許され 的に高価です。また一点一点色やデザインが微妙に ず、二世代目、三世代目の難民たちの多くが難民キ 違うことが手作りの特徴です。そして、たとえば同 ャンプに住んだままですが、彼らは市民権がなく、 じ先進国でも、ヨーロッパ人たちが求めるものは、 70 種類以上の職種に就くことが禁じられ、土地も持 こうした色やデザインの美しさであって、日本人の てないために、最低レベルの生活を余儀なくされて 求めるような縫製の堅牢さではありませんから、今 います。 後長期にわたって、安定して日本で売れるという展 ここで、私たちは、現地の NGO と一緒に、幼稚園 望がないとしたら、時間をかけ苦労したことは無駄 や子ども歯科、補習クラスなどの事業を進めてきま に終わってしまうかもしれないのです。こう考える した。技術指導をし、刺繍製品を作り出すことは、 とマーケットの安定的な確保を抜きにした技術指導 やはり現地の社会福祉 NGO が生活に苦しむ女性たち はないのですが、私たちの側にそれに対応する能力 に収入を作り出し、同時に幼稚園などの運営資金の はまだまだ不足しています。 足しにすることから始まっています。 また、大量注文に応える現地の能力にも限界があ 忘れてはならない大事なことは、パレスチナの刺 って、ビジネスにならない難しさがあります。ガザ 繍は、大英博物館でも評価される美しい伝統文化を とレバノンを比較したときにいえることは、職業訓 継承していることです。そして、それを見た人の「惨 練が単独で存在するのではなく、その後のシステム めで哀れな難民」という先入観を覆す力を持ってい が機能しているかどうかで、技術指導の効果に差が るように思います。 援助・ 被援助という関係の中で、 出るということに尽きると言えます。その一方で、 先進国、経済強国に住む私たちは、難民となった人 刺繍の美しさの点に関しては手工業的なレバノンの たちに優越感を持ちがちですが、相手がこうした美 ほうに軍配を上げざるを得ないというのが、もうひ しいものを作り出す人たち、文化を持つ人たちであ とつの経験なのです。 るという認識を持つと、その関係性にも変化が生じ ると信じています。 4.ニーズにあった技術とは何か? パレスチナ難民キャンプで国連機関が実施してい 3.これまでの経過と問題点 る職業訓練は、理容とか自動車修理、配管などの分 このレバノンでの刺繍プロジェクトとの関係は長 野です。果たして現代的なニーズと見合っているの いので、日本から縫製の専門家を派遣した経験もあ かどうか疑問を感じます。難民の人たちがキャンプ り、また製品の開発についての注文も出してきまし の外でも生活できるようにするためには、もっと別 た。しかし結果的にそれほどの効果を挙げるにいた な、高度な技術が必要とされるのが現状です。とい っていません。確かに日本で売りやすいもの、日本 うのも狭いキャンプの中での需要はすでにいっぱい 人の好むものはありますが、果たしてそれでよいの になっていますし、貧しい人たちの間でわずかなお かどうか、という非常に大きなテーマに直面するか 金が動いているだけに過ぎないからです。 らです。たとえば、袋物の縫製についていえば、日 そもそも IT が進んでいる現状では、 たとえば自動 本人はマチのあるもの、ポケットの多いものなどを 車修理ひとつでも、これまでのような技術で対応で 好みますし、裏地の付け方ひとつにも注文は多々あ きる範囲はどんどん狭められています。ガザのろう ります。当然、手間がかかりますし、大雑把な感覚 学校で行っている補聴器の修理についても、デジタ 147 事例 34 ル化が主流になっている現在、これまでの修理技術 では対応ができなくなっています。そして、ヨーロ ッパの補聴器メーカーの協力を得て新たな技術習得 をしながら対応しており、企業との連携も欠かせま せん。 5.マーケットを作る意味 私たちは、子どもの教育や福祉分野を中心に活動 している NGO なので、技術指導や職業訓練はそもそ も専門外であり、派生して出てくる事業としてしか 扱っていませんが、以上のようなことからこれまで の職業訓練のあり方については、少し再検討すべき 時期だと感じています。かつて、レバノンで縫製の 訓練と子ども服の製品化に少し関わったことがあり 写真 1 陶器の絵付けをする若い聴覚障害者 ましたが、このときには市場調査ができなかったた めに失敗した経験もあります。 2 年程前にもレバノンの難民キャンプで、新たに 青少年の職業訓練を検討したことがありました。現 地の希望は携帯電話の修理でした。インフラの整っ ていない難民キャンプでは固定電話を持つことは非 常に難しく、人々は割高でも携帯電話を持たざるを 得ません。日本と違って、中古の携帯電話が売買さ れている状況です。しかもヨーロッパのシステムで すと、中のチップを入れ替えればいくつかの国で使 用ができます。残念ながら日本のシステムと現地の システムが異なる上に、日本からの技術者の派遣が 現実的でなかったのでこれは実現できませんでした が、そのときに、日本側のイメージの貧困さを再認 写真 2 木製のらくだ置物の彩色作業 識しました。 こうした経験から、今後、職業訓練分野での協力 には、マーケットを確保する、新しい技術を見つけ 出す、何年間かの収入を保障する、現地での人材確 保のための支援をするなど、より広範で、重層的、 長期的な視点が欠かせないと思っています。その上 で初めて、技術指導が生きてくると思うからです。 写真 3 刺繍をする地元の聴覚障害者 148 プロジェクト事 例 〈 ア フ リ カ 〉 事例 35 ウガンダ国における〔Ⅰ〕ナカワ職業訓練校復興プロジェクト 〔Ⅱ〕同・フォローアップ技術協力 独立行政法人雇用・能力開発機構千葉センター 宮城 健 (元 JICA 専門家・チーフアドバイザー) [Ⅰ] ナカワ職業訓練校復興プロジェクト (3)実施場所・実施体制・活動内容 1.プロジェクトの概要 (a)所管省庁 (1)プロジェクト実施の背景 教育・スポーツ省(Ministry of Education and ナカワ職業訓練校(Nakawa Vocational Training Sports)の BTVET(Business,Technical, Vocational Institute;略称 NVTI)は、1968 年日本の技術協力に Education and Training)局がウガンダの職業訓練を よって建設された職業訓練校で、その後 5 年間の技 所管している。 術移転が実施され、ウガンダの職業訓練を切り開い 当プロジェクト開始当時の 1998 年までは、労働・ てきた。独立後間もないウガンダ国では、この 1960 社会・福祉省が所管していたが、 省庁の統廃合により 年代後半から 70 年代にかけ、オボテ、アミンなどに 現在に至った。 よる軍事クーデターが勃発し、社会的及び経済的に (b)実施場所 激しい混乱の時代が続いた。このような時代をくぐ りぬけ、 開設以来ほぼ 20 年以上にわたりウガンダ国 カンパラ市内ナカワ(市の中心より約 4.0 ㎞) (c)実施体制 による運営が続けられてきたが、NVTI は施設・機材 1)日本側投入 等の老朽化が進み、さらにローカルコスト維持の難 ①協力期間:5 カ年間 しさ等様々な問題を抱えていた。 (1997 年 5 月 20 日∼2002 年 5 月 19 日) 施設の復興計画は、1994 年、漸く政治・経済的に ②日本側投入:専門家の派遣(長期 17 名、短期 10 安定した時代を迎え、国の再建をかけた国家復興開 名)電気、自動車、溶接、板金、機械、電子、家具 発計画の中で議論された。内戦で荒廃した施設の改 製作および訓練管理、リーダー、調整員 修と併せて機器の更新、産業界の需要に即応できる ③本邦での研修の受入者総数(延べ 43 名) 人材を育成できる新たな科目増設を含めた「ナカワ ④機材供与(423 百万円) 職業訓練校復興プロジェクト」として日本側に要請 2)ウガンダ側投入 された。 ①同校の敷地、施設(356 万 US$相当) (2)プロジェクトの目的と目標 ②スタッフの配置(延べ 50 名) (a)目的 校長、副校長、カウンターパート各科 6 名(シニア ① 中卒養成訓練(2 年間)の実施 指導員 1 名、指導員 3 名、指導員補 2 名) ② 徒弟制訓練(訓練法に基づく企業からの委託によ ③運営予算(1,184 万 US$相当) る初任技能者の訓練)の実施 (d)NVTI の活動内容 ③ 向上訓練(企業の在職者に対する技術セミナー、 依頼によるオーダー・メイド研修等)の内容改善 1)養成訓練 機械、板金、溶接、自動車整備、木工、電気、電 ④ 訓練指導員の能力向上 子の 7 コースで各科定員 20 名、訓練期間は 2 年間。 (b)目標 夜間コースも実施。 ウガンダ産業界の求める人材の育成が出来る。 2)向上訓練 官公庁(警察、教員)、民間企業(製糖工場、ビール 工場、飲料水工場等)から現職技能者を受け入れて、 151 事例 35 各科で実技重視の訓練を実施。1998 年から通算 946 の業務への導入も進められた。サーバーの管理やネ 名が訓練を受けた。 ットワークの維持管理まで業者に委託することな また、UNIDO(国連工業開発機関)や Sasakawa グロ ーバル 2000 などとの連携による訓練や他の職業訓 く自らが実施しており、同校のホームページ http://www.nakawavti.ac.ug/も開設している。 練施設指導員を対象とした指導技法セミナー (PROTS)も開催。 3.プロジェクトの評価 3)徒弟制訓練 (1)妥当性 訓練実施にかかる取扱機関の DIT(Directorate of ウガンダ国の産業界のニーズ、日本側協力の重点 Industrial Training;職業訓練局)から依頼が無く、 分野の観点からの評価は高いといえるが、現行のウ 実施に至らなかった。 ガンダの教育政策(1998 年から所管した職業訓練を 含む)から見ると、 必ずしも高いプライオリテイが置 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 かれていない。今後、ナカワ職業訓練校はこのよう (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ な教育政策、近年焦点となっているポストプライマ 「ウガンダ産業界の求める人材の育成が出来ると リー教育訓練、他ドナー国の動向等を十分配慮しな いう目標にかなった訓練等の実施が出来るようにす がら、これまでのプロジェクトで蓄積した施設、ノ ること」がプロジェクトの主体である。 ウハウ及び人的資源を活かす方策を考えていく必要 (2)訓練の計画と準備 がある。 産業現場で役立つ技術者の育成という観点から、 実技 75%、 理論 25%のカリキュラム構成を基本とし (2)有効性 養成訓練の各科の応募率は年々向上していて、ニ たコースの目標設定及び年間計画を作成した。 ーズの高さを示している。卒業生の資格取得の面で (3)効果的な訓練等を行うための取り組み も同レベルの公立職業訓練校と比較して、DIT が実 専門家による 7 分野の技術移転は、カウンターパ 施するTrade Test及び国家技術試験(UNEB)の合格率 ートの本邦研修と連携して進められた。現地管理者 は高い。2000 年卒業生の卒業後追跡調査によると、 及び指導員に対して、各コースの訓練計画、カリキ ナカワ校で高い技術を身につけた同校卒業生の約 ュラム開発の技法の指導や 7 分野の訓練技法及び専 90%が就職して活躍している。 門技術の技術移転を行った。また、指導者の作成す また、向上訓練も訓練後の派遣元企業に対するア る 4 点セット(ワークシート、 アセスメント・ シート、 ンケート調査結果等によると、産業現場で実際のも 指導案、授業計画)の共有化など、プロジェクトでは のづくりが出来る技能・ 技術者養成への評価が高い。 特徴ある取り組みがされた。 (3)効率性 そして、プロジェクト後半では、 「産業界の現職労 養成訓練の達成率は 140%で、向上訓練及び徒弟 働者を対象とした向上訓練」に力点を置き、指導員 制訓練が 31%であった。なお徒弟制訓練については の企画力や技術移転能力の向上を図った結果、産業 DIT の要請が無く実施に至らずに、プロジェクト中 界でも高く評価された。一例をあげれば、南アフリ 途で到達目標から外している。 カ共和国からウガンダに進出したナイルブルワリー また、 GTZ(ドイツ技術協力公社)がナカワ校と同様 では、従来、南アへ従業員を派遣して技術研修を実 の訓練校で実施したプロジェクトと対比しても投入 施していたが、ナカワ職業訓練校の施設と指導力を 対成果の効率性は概ね良好と判断された。 評価し、企業の認定訓練施設として年間にわたり訓 (4)インパクト 練を委託実施することに変更した。 ナカワ校が実施しているレベルの高い技術訓練を (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 求めて、同じ公立の職業訓練校であるルゴゴ職業訓 訓練管理については、6 つの委員会制度を設けて 同校の運営を共有化し、各科の意見を反映させた。 練校をはじめ、チャンボゴ大学、マケレレ大学から も実習訓練(向上訓練)を受けに来る学生もいる。 また、訓練校内にイントラネットを構築し、ネッ また、養成訓練では女性の入所枠を 5 名設けるな トワーク技術を活用した情報共有化や情報公開等 ど、ジェンダーの観点の配慮もしている。近隣諸国 152 事例 35 (ケニア、タンザニア、ルワンダ、スーダン)からの [Ⅱ] 同・フォローアップ技術協力 応募もあり、良いインパクトを与えている。 1.プロジェクトの背景 (5)自立発展性 「 〔Ⅰ〕ナカワ職業訓練校復興プロジェクト」の 5 財政面においては、職業訓練はきわめて乏しい予 算しか配布されず厳しい状況が続いている。 年の期間満了を受けて、これまでの訓練成果と実績 の上にさらに、進展が急速に進んでいる産業技術に 人的配置では、校が独自に雇用する臨時職員数が 関して、ウガンダ国側からも強いフォローアップの 国が配置する公務員数を上回っている。これは財政 要請があり、 特に技術進展の著しい電子科(デジタル とあわせて自立発展性の阻害要因となっている。 技術および IT 技術)、電気科(自動制御技術)、自動 機材管理、訓練の実施においては、日本人専門家 車整備科(電子制御エンジンと自動変速装置 A/T)、 の技術移転が有効に行われ、カウンターパートが自 木工科について技術移転等の追加が要請され、これ 立できる状況であるが、電子科、自動車科、木工科、 に基づいてフォローアップの覚え書きが交わされた。 電動機制御等の特定技術及び各科向上訓練等の分野 に関して、追加の技術援助がさらに効果・効率性を 2.フォローアップ技術協力の実施 生むとの提言があり、更なるサポートが望まれる。 (1)実施期間 2002 年 5 月 20 日∼2004 年 5 月 19 日 4.教訓・提言 (2)技術移転の目標及び内容 (1)プロジェクトでの問題点・課題 ① 電子・・・デジタル技術全般 復興プロジェクトの間、国家再建復興計画は着々 と進められたが、その一環として省庁の再編も行わ れ、職業訓練が「労働・社会・福祉省」から「教育・ (コンピュータ、デジタルデバイス) ② 電気・・・PLC(シーケンス制御を含む自動化技術 の基礎、応用) スポーツ省」へ管轄が替わった。これまで所属して いた DIT と BTVET が統合され、教育省が実施してい ③ 自動車整備科・・・EFI エンジンの整備技術、 A/T の整備技術 た技術教育と、労働省が実施していた産業よりの職 ④ 機械・・・刃物研削 業訓練を BTVET 局が一手に引き受けた。BTVET 局は ⑤ 木工・・・基礎技術の確立、 その整理と変革に最大の努力が続けられているが、 法整備の不十分さなどもあり、予定されていた徒弟 デザインの優れた家具の製作技術 ⑥ 指導技法・・・指導員研修、研修計画 制訓練などが実施に至らないなどの問題があった。 今後の課題としては、ナカワ校は実技重視の養成 訓練及び向上訓練により、企業ニーズにあった即戦 3.フォローアップ最終評価 (1)目標達成度 力となる人材を育成しており評価は高いが、同校が 現在専門家派遣中の木工科における技術移転は、 引き続き産業界の求める人材を輩出していくため 2004 年 5 月のフォローアップ協力終了時までには完 にも、政策検討、ニーズ調査、卒業生調査などを通 了する見込みであり、他の全ての科においても、日 じて、社会や産業界のニーズに合致する事業運営が 本人専門家による技術移転や、本邦、第三国におけ 出来るように努力する必要がある。 る研修により、必要な技術移転は完了している。当 (2)他のプロジェクト等への教訓・提言 初計画の達成状況は、プロジェクト提出による報告 ① 長期プロジェクトなどでは、 政府の組織改革など 書、カウンターパートへの聞き取り調査等により、 に伴い、当初の計画通りの事業が実施できない 全科において概ね良好であると判断される。 場合もあり、実施途中でプロジェクトの PDM の (2)効率性・有効性 改訂が必要になる場合もある。 今回のフォローアップ協力期間において、供与機 ② 自立性を尊重して進めることが大切で、 委員会制 による訓練校管理運営は有効な方法であった。 ③ 施設内ネットワークによる情報共有は、 活動に活 性を与える。 材である技術訓練用自動車部品の納品までの過程 に時間がかかり、予定より 2∼3 ヶ月も遅れたもの があった。しかし、技術移転の手順等を組み直し、 その期間に専門家による理論分野を中心とした訓 153 事例 35 練を前もって先に進め、機材が到着すると同時に実 念頭においた活動を行うことが必要である。 技分野に関する訓練に取り組んだことで時間のロ (2)財務的側面 スを克服した。その結果、技術移転はフォローアッ 現在、職業訓練分野の予算は、教育・スポーツ省 プ期間の 2/3 の時点で所定の成果を上げることがで 予算全体の 4%程度(2003 年度)しか充てられていな き、さらに、プロジェクト開始当初は予定されてい い(初等教育分野に最低 65%を充てることが、ドナー なかった第三国研修(実施希望あり)の実施へ向け との協議にて決まっている)。1999/2000 年度以降、 ての調査や研修カリキュラム、教材作成までを含め 省からナカワ校に配賦される予算の中で、政府職員 た技術移転へとその範囲を広げることが出来た。 の給与を除く項目は減少し続けているといった厳し これは、それまでの 5 年間のプロジェクトで基礎 い状況ではあるものの、省としては職業訓練部門を 的な技術移転が速やかに行われたことやカウンタ 支援すべく最大限の努力をするとの発言があった。 ーパートの大部分が十分な研修の機会が与えられ さらに、2004 年施行予定の ESIP2 においては、初 て、個々がその力を付けていたことに大きく起因し 等教育修了者への対策として、教育とあわせて訓練 ていると推察する。つまりカウンターパートの気力 にも重点をおいていく予定であり、予算の配分率に と専門家の技術移転の歯車が上手にかみ合ったか おいても職業訓練分野の割合の増加が期待される。 らだと言える。 また、学校レベルで見た場合、養成訓練及び向上 (3)インパクト 訓練の授業料収入は増加傾向にあり、2002/2003 年 日本側・ウガンダ側双方の努力により、本プロジ においては、政府採用職員への給与を除いた総予算 ェクトは成功裏に期間を終了し、ナカワ職業訓練校 の 56.5%を占めるほどになっている。訓練校独自の はウガンダの職業訓練分野における先導的な地位 収入捻出方法であるインカムジェネレーション活動 を確立している。その成果を集約して、 「第三国・ についても、総予算の 11.7%を占めている。同活動 現地国内研修(電気・電子・自動車分野の 3 コース)」 は本来、機材の減価償却を補うもしくは新規購入に を JICA ケニア事務所と共同で開催した。2004 年 1 充てられるべきものであるが、現在は政府の予算配 月 19 日∼2 月 27 日に 39 名の職業訓練指導員等を集 分の不足もしくは遅延により、実際にはこれらの収 めて行われた第1回は問題なく終了し、2005、2006 入が訓練校の人件費や学校運営費に充てられている。 年の継続実施を含めた覚え書きが交わされた。 優秀な指導員が転出しないためにも、インカムジェ このように、本プロジェクトの成果は国内のみな らず、近隣諸国にもインパクトを与えたといえる。 ネレーション活動によって職場環境や給与支払状況 を改善していく必要がある。 (3)技術的側面 4.自立発展性 アンケートの結果や聞き取り調査の結果から判断 (1)制度的側面 して、指導員は移転された技術に関して現在のレベ 国の職業訓練政策レベルではいくつもの制度改革 ルを維持できるものと思われる。今後は、産業界か が進捗の過程にあり、 その迅速化が求められている。 ら求められる最新の技術を適宜キャッチアップして 1998 年に職業教育・訓練分野の組織体制の整備を いくことが大切である。 目 的 と し て ESIP1(First Education Strategic また、電子科の指導員によるイーサネットを利用 Investment Plan)が施行され、さらに 2004 年に向け したサーバーの運用は、ホームページやメイル機能 て ESIP2 の検討が行われている。 運用など実践的な技術の活用として、第三国研修の また、ウガンダ国における技術・職業教育訓練に 情報提供及び連絡などに効果的を発揮しているが、 関する政策が、民間セクターの人材も委員として参 今後、ソフトやハード面のメンテナンスに配慮をし 加する委員会において研究・検討の後、BTVET 局に てゆく必要がある。 より作成され、2004 年初めに定められる予定である。 このように、職業訓練の制度が整備されていき、 今後もナカワ校に対する政府支援は維持されるもの と考えられるが、引き続き BTVET 局による政策等を 154 5.教訓・提言 ① 定期的な訓練内容の見直しの必要性 産業界の技術の進展は早いので、常に産業界に 事例 35 目配りをし、定期的に訓練内容の見直しや改善が 必要である。 ② 情報発信及び共有手段としてコンピュータ、ネ ットワーク、ウェブサイト等の活用は職業訓練を 活性化させるためにも重要である。 ③ 自立発展を養う新事業展開 習得した新技術はプロジェクト内にとどめず外 部に発信すべし。例えば、その成果を地域へ広く 伝えるための「第三国・国内研修(指導員対象)」 の開発企画等で、プロジェクト事業の自立的発展 性を継続することが肝要であろう。 写真 1 ナカワ職業訓練校・ウガンダと日本の協力シンボル 写真 2 自動車整備・電子制御エンジンの整備技術セミナー 表 フォローアップ技術協力の流れ 年月 2002 年 5-6 2003 年 7-8 9-10 11-12 1-2 2004 年 3-4 5-6 7-8 9-10 11-12 R/D 最終 指導員 評価 ニーズ 1-2 3-4 宮城 佐藤 竹野 山川 竹間 (短) 斎藤 (短) 牧野 牧野 (短) 実施内容 技術 移転 周辺国 ニーズ 第三国 研修 ↑会計検査(2002.5) JICA の組織変更↑ (2003.10.1) 155 ↑最終評価(2003.11.10∼23) 5-6 事例 36 ギニア共和国における「貧困解消」プロジェクト 特定非営利活動法人 サパ=西アフリカの人達を支援する会 事務局スタッフ 1.プロジェクトの概要 2)事業資金割合 (1)プロジェクト実施の背景 サパ会費・寄付金・事業収入 サパが活動地としてギニア共和国を選んだのは、 手塚 三恵子 約 80% 助成金(郵政公社国際ボランティア貯金・ 経団連公 この地域(西アフリカ諸国) に世界の最貧国が集中し 益信託経団連自然保護基金) ているからである。具体的な活動地選定に当たって 約 20% (c)活動内容 は、ギニア国内の最貧地域の中で行政が関与せず、 1)熱帯林の再生活動について かつ国内、海外の援助団体による支援を受けていな サパでは、熱帯林の再生植林を最貧国の集中して い農村を対象にすることとした。 いる西アフリカのギニア共和国で実施し、過去 4 年 この地域の貧困の原因は、次の遠因と近因の 2 つ 間で約 230ha を植林した。植栽は、生活に困窮して に大別できる。 いる地元住民に早期に役立つ樹種としてカシュナッ • 遠因:熱帯林消失 ‐ ギニア共和国では地域住民 ツ、ネレ、マンゴー、アカシア等とし、この中には の衣食住を支えていた豊かな熱帯林が外貨稼ぎのた 植栽後 3 年目に早くも一部に結実が見られ、今後住 めに伐採・輸出され姿を消し、 住民達の生活基盤の崩 民達の食糧不足の緩和と現金収入が期待されている。 壊が始まった。 これらの早期に結実する有用樹の植栽本数は、ha 当 • 近因:焼畑の長年の酷使による土壌劣化 - これ り 250 本に止め、この後、旧伐採木の伐根よりの萌 はアフリカでは 「土地に有機物を戻す」 「土をつくる」 芽稚樹を合わせ保育し、元の熱帯林にできる限り近 という発想がないためである。かつては焼畑を行っ い混交林の成林を目指している。60 年前まで存在し た土地は 10 年休ませ、 地力を回復させる知恵を人々 ていた熱帯林よりの恩恵を記憶している村の長老達 は持っていたが、人口急増のためにローテーション の「森造り」への願望を子供、孫と受け継いでいく 期間が短縮され土壌の劣化を促進し、農作物の減収 ための基盤が構築され始めたと言える。 のため食糧不足が加速された。 2)有機農業による「土作り」活動で食料不足を (2)プロジェクトの目的と目標 補完 上記の「熱帯林消失」と食糧の供給地である焼畑 日本の農業が、化学肥料のない時代から継続して 土壌の劣化による「農作物の減収」を同時にリカバ 一定の収穫量を維持できたのは「堆肥、ボカシ肥」 ーし、貧困の解消を実現することである。 を始めとした伝統有機肥料の施用による成果に外な (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 らない。昔から日本では「農業とは土作りである」 (a)実施場所 :ギニア共和国 と言われ、土作りの出来、不出来が農作物の収穫量 • キンデイア県モロタ村、サムレヤ村 を左右してきた。現代でもこの言葉は不変である。 首都コナクリから北東約 120km に位置する これらの有機肥料は土壌の化学性、物理性を改善 • ドウブリカ県タネネ郡サナワリア村 し且つ効力が持続する。化学肥料では一次的に増収 首都コナクリから西北西約 130km に位置する とはなるが、塩基の集積他で土壌の機能を退化させ (b)実施体制 栽培の持続性を阻害している。 1)現地人員 有機肥料施用区は無施用区に比較し「分けつ」数 サパ現地スタッフ:2004 年 11 月現在 5 名 が倍となり、収穫量も当然倍増と大きな差異がでて 保健衛生士(ギニア保健省より派遣):1 名 いる。同じくトマト、落花生、オクラの栽培比較で 日本人スタッフ(1 名:月に 20 日程度滞在、1 名ギ 30∼50%増収を記録している。 ニア代表代行:随時派遣) 156 事例 36 3) 「有機肥料生産技術研修センター」の建設 5)小学校の建設活動 化学肥料の購入資金に事欠くギニアの農民達は、 サパの活動地であるサナワリア村は、 役場、 学校、 生活上の廃棄物である油ヤシの搾り滓、米糠、食し 診療所等の機関は一切なく、ギニアでも最貧地区に た動物の骨等の有機物を発酵させることで立派な肥 属していた。サパは、最初に子供達に教育の機会を 料に生まれ変わる実態と、これらの肥料の施用で栽 与えるべく、1998 年に草葺きの識字教室をマデイナ 培農作物の増収を目の当たりし、 「土作り」の重要性 集落に、そして 1 年後にカンバ集落にそれぞれ村民 を認識し始めている。彼等より有機肥料の生産技術 達のボランテイアで建設された。しかし、草葺き教 をより広くギニア国内に普及させるための研修セン 室は、耐久性に乏しく雨漏りが頻発すると共に、就 ター設立の要請がサパにあり、 これを受けてサパは、 学希望児童が増え教室が手狭になったため、最初の 2002 年4月にギニアの西部に位置するドウブリカ 草葺きマデイナ教室を 2000 年に本格的コンクリー 県サナワリア村に研修センターを建設した。施設は トブロック造りの 2 教室構成で改築した。又 2002 「研修生用の宿舎」 (10 名収容)と講義室(20 名収容)、 年にはカンバ集落に 3 教室 150 名収容の小学校を建 堆肥とボカシ肥の生産小屋及び、肥効を確認する栽 設した。 培試験農場等で構成され、 年間 60 名の研修終了生を 6)国際連合食糧農業機関(FAO)と活動の協力提 送りだすことにしている。 携がスタート 下の表 1 は 2004 年 7 月から 9 月までの 「ボカシ肥 (テレフードマイクロプロジェクト) 生産量」である。 このプロジェクトは、FAO ギニア事務所と地元マ デイナ小学校を含む地元集落及びサパの三者がプロ 表 1 ボカシ肥の生産 期 間 ジェクト推進委員会を設置し、小学校の菜園運営に 生産量(kg) 7/3 ‐ 7/21 755 よる地域の農業振興を通して食料増産に寄与するこ 8/3 ‐ 8/30 1,060 とを目的とするものである。サパは有機肥料生産技 9/5 - 9/23 1,160 術の指導と有機肥料の供給を担当する。栽培地は 合 計 2,975 3500 ㎡とし、内 3000 ㎡を各種野菜に、残り 500 ㎡ は稲をそれぞれ栽培することとした。又、栽培に必 要な水入手のため 2 基の井戸掘りを行なった。 4)風土病予防活動(深井戸の設置による「ギニ 尚、稲栽培については、現在西アフリカで話題の アウオーム病」の予防活動) サパの活動地内の各村には、水道、電気が無く不 「ネリカ米」(New Rice for Africa)と地元在来種を 衛生な環境下で生活を強いられている。中でも飲用 それぞれ栽培することになり、6 月に苗床作りをス 水は川水に依存しているため、水中に生息する原虫 タートさせた。これらは既に過去 2 年間、村民達が (ギニアウオーム)が体内に入り健康を阻害している。 栽培経験済みのものである。 予防には川水を煮沸するか又は原虫に汚染されてい ない地下水の飲用しかない。サパは、サナワリア村 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 内で 2000 年より毎年 1 基の深井戸を 4 集落に設置し (有機肥料生産技術研修センターでの研修について) 病気の予防に寄与している。深井戸は太古から地中 (1)プロジェクトにおける訓練などの位置づけ 50m以下の深さに封じ込められている地下水、別名 サパが行っている植林や有機農業の普及活動の目 「化石水」を揚水する井戸である。化石水には「ギ 的は、サパが村人に栽培技術を具体的に指導し、彼 ニアウオーム病」媒介の原虫は生息せず且つ清浄な 等が自立する事にある。実地で堆肥・ボカシ肥を作 ため深井戸設置後、住民達を苦しめていた「ギニア り、作物を育てるなどの経験を積んでいくことが最 ウオーム病」 を始め、 慢性下痢症状が減少している。 重要であり、研修生がその技術をそれぞれの村に持 ち帰り広めていくことが求められている。 この他スタッフにより乳幼児への栄養食の基礎知 (2)訓練等の計画と準備 識を伝えると共に実地の食事作りを指導している。 「有機肥料生産技術研修センター」を 2002 年に建 設した。主に堆肥とボカシ肥の生産方法を学び、出 157 事例 36 来た肥料を使用した栽培試験などを行う。具体的な 肥、ボカシ肥ともに村民のみで生産し、センターの 指導は、 サパスタッフ長として 5 年間従事している、 運営も可能となった。今後は研修生を更に増やす努 オスマン・スマ氏が担っている。また、村人からの 力をし、自助運営を目指したい。 要請に応え、識字教室も開催している。主なカリキ (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 ュラムは以下の通りである。 立発展性 [ボカシ肥生産研修] 農業と言えば、焼畑しか知らなかった村人に「地 ① 実地研修に入る前に、講義室にて有機肥料の生 力」の重要性を教示し、油椰子の搾油滓、米糠など 産工程の概要の講義を受ける。(2 日間) それまで捨てていた廃棄物から有機肥料を作り、作 ② 原料の確保:油ヤシの搾油滓、米糠、骨粉(動物) 物を育てるといった一連の作業を体験できる施設が を集める。(3 日間) 出来たのはサナワリア村及び周辺の農民にとって大 油ヤシの搾油滓は、ギニアの農家では日常的に きなプラスである。現在施設はギニア人スタッフと 自生している油ヤシの果実を採取し採油してい 村のボランティアによって管理運営されているので、 る。このとき発生する繊維滓を各農家から予め 将来は自助発展することも十分可能と考えている。 集め貯蔵してある。また、ギニア人の主食は米 のため、糠の入手は容易である。更に、鶏、羊、 4.教訓・提言 牛等を食した後の骨を砕いた骨粉を用意してお (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 く。 サパのスタッフ及び村民は堆肥、ボカシ肥の生産 ③ 上記②の原料(3 種類約 60kg)を研修生全員で手 技術を習得し、これらの生産が安定してきている。 を使ってほぐし混合の後、山状に積み上げる。 有機肥料の備蓄もできるようになったため、栽培試 この後散水し蒸散防止のため上部にビニールシ 験場に施用するだけではなく、近隣の村民にも無償 ートを被せる。(1 日) で配りその効果を知ってもらうことにしている。こ ④ 上記③の作業の後 5∼7 日間毎日 1 回 40∼60℃ うした地道な活動からギニア全土に有機肥料農業が で醗酵中の混合した原料の切り返しを行う。(5 広がることが大きな目標である。 ∼7 日間) また、ギニア人スタッフが研修作業への出席者名 ⑤ 醗酵が終わる前に山土を原料と同量混合する。 や実施内容記入リストを各々作成し、日時氏名など この後、2∼3 日間の醗酵継続で終了となりボカ を記入してもらい月ごとに管理している。文字の書 シ肥が完成する。(2∼3 日間) けない人もいるので、 リストに絵文字で項目を作り、 (3)効果的な訓練を行うための取り組み ○をつけてもらうなど工夫している。 研修に来ている村人達は、それぞれに自分達の畑 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 を持っている。しかし、天候不順(作物の収量低下) 現在研修センターの運営はサパの資金協力で成り や経済不安(インフレ)などが続くと、食べるために 立っている。しかし、いつまでもこの状況継続は不 町へ出稼ぎに出たり、自分達の畑の世話にかかりき 可能のため、早い時期に自立できるよう下記プロセ りになり、研修どころではなくなってしまう。こう スの履行を促している。 した事態の場合、中断した時点からまた次回研修を • 堆肥、ボカシ肥の生産研修に伴う研修料の徴収 受けられるよう柔軟にシステム構成している。 また、 • 有機肥料を使用して育成した作物の市場での換金 試験栽培した野菜や果物は研修生達が食する。これ • 行政を通しての有機肥料施用普及活動のギニア 全国展開 も研修意欲の向上につながっていると思われる。 以上のような研修センターの自助型運営まで発展 3.プロジェクトの評価 できるかどうかが問われている。幸い国連 FAO が有 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 機農法に強い関心を持ちサパとの活動提携が実現し ているので、今後の展開を期待している。 貧困にあえぎ「食べることが最優先」の農民達が 住む村で、コストをかけずに作物増収する技術を実 地で学べる施設は彼らにとって大変有益である。堆 158 事例 36 表 2 プロジェクト実施内容 サナワリア村 モロタ村 サムレヤ村 植林開始 1998 年 草葺教室建設 サパ発足 (マデイナ小学校) 1999 年 ・草葺教室建設(カンバ小学校) 植林開始 (後に火事で消失) ・植栽(除草、防火対設置、灌水 含む)42ha ・植林 カシュー、マンゴー、ネ レ合計 10,500 本 2000 年 ボカシ肥生産指導開始 ・マデイナ小学校をコンクリート 校舎に改築 ・植栽(除草、防火帯設置、灌水 含む)66.2ha ・植林 カシュー、マンゴー、ネ レ 2001 年 ・カンバ小学校付属井戸設置 ・深井戸1基 ・植栽(除草、防火帯設置、灌水 含む)30.4ha レ ・有機肥料生産技術研修センター 建設 ・深井戸1基 (予定) 合計 7,000 本 ・植栽(除草、防火帯設置、灌水 含む)41ha ・植林 カシュー、マンゴー、ネレ ・除草作業 138ha ・防火帯設置 9800m(8m 幅) ・灌水 70ha 合計 10,250 本 ・植栽(除草、防火対設置、灌水 含む)7ha ・植林 アボガド、グアバ、柑橘、 アブラヤシ合計 748 本 ・深井戸1基 ・選伐作業開始 ・防火帯設置 10,000m(8m 幅) ・FAO と提携(テレフードマイク ・防火帯設置 12,000m(8m 幅) ・灌水 20ha ロプロジェクト開始) 2004 年 ・植林 カシュー、マンゴー、ネレ 合計 8,472 本 ・カンバ小学校建設 2003 年 含む)28ha 合計 16,550 本 ・植林 カシュー、マンゴー、ネ 2002 年 ・植栽(除草、防火帯設置、灌水 ・灌水 30.4ha ・深井戸2基 ・選伐作業継続 ・FAO 継続 ・防火帯設置 10,000m(8m 幅) ・生活の森プロジェクト発足予定 写真 ボカシ肥を生産中の研修生たち 159 ・防火帯設置 10,000m(8m 幅) 事例 37 ケニア国ガリッサ県における女性の自立のための職業訓練:ミコノ縫製技術訓練所 国際協力 NGO「ミコノの会」 代表 国島 司 1.プロジェクトの概要 間奮闘しながらこのトラックを無事に修理し、道路 (1)プロジェクト実施の背景 に戻しました。 今から 22 年前、 地球人口が 46 億人(現在 60 億人) 修理期間中、いったい私たち NGO に何ができるだ の時、 ケニアのトルカナ(Turkana)地方やマーサビッ ろうか、 との疑問に答えるため、 現地の学校や病院、 ト(Marsabit)地方の旱ばつの様子が連日、日本のメ 職業訓練所等を訪問し、フィジビリティースタディ ディアで報道されていました。その中で、 「ケニアで ー(実施の可能性を調べる調査)を実施しました。そ は 50 万人が飢餓に瀕している。東京では毎日 50 万 のなかで、隣国のソマリアに続く地平線をさえぎる 食が残飯として捨てられている。 」や「援助物資がそ ように生えた 1 本のアカシアの木、その木の下で勉 れを必要としている現地に届いていない。 」 といった 強する子供たちに出会いました。木の幹に立てかけ 記事が、私たちの目に留まりました。 られた 1 枚の黒く塗られたベニア板。文字通りこれ 実際にケニアに行って現地を見て、関連する国連 が黒板なのです。そこに先生が書いた文字を一生懸 機関[WFP(国連世界食糧計画)や UNHCR(国連高等難 命に地面の砂の上に書き写している子供たち。教え 民弁務官事務所)]を訪ねると、以下のような実情が る者の熱意と学ぶ者の真剣なまなざしがピーンと張 判りました。 り詰めた空気を作っていて、そこに教育の原点を見 ① 食料は首都のナイロビまでは届いて倉庫に保管 つけたような気がしました。私たちはこれを「木の されている。そこから先に運ぶための車両(トラ 下教室」と名づけました。先生に促されてその木の ック)が不足しているので運べない。 下教室に加わり、子供たちに何が欲しいかを直接尋 ② 車両不足の原因は、車の絶対数が足りない、ある ねてみました。そこで子供たちから返ってきた答え いは車はあるが故障しているので使えない。 は「学ぶための校舎」でした。子供たちの夢を日本 そこで私たちは、日本で募金活動をして集めたお に持ち帰り「遊牧民の子供に教室を」の募金キャン 金でトラックを購入してトルカナとマーサビットに ペーンを展開し、1 年後、実際にそこに校舎を 1 棟 送ると共に、故障した車両を修理するための技術者 (4 教室)建設することができました。その後もこの (自動車整備士)を派遣し、必要な修理工具や部品を キャンペーンは継続され、現在までに建設した学校 現地に送り届け、ケニアの各地をまわり巡回修理プ は 15 校を数え、校舎数は 20 棟を超えました。 ログラムを展開しました。そして、それは 3 年間続 学校を建設し、そこで子供が学び始めると、さま きました。巡回先で修理するものは主に車両なので ざまな問題が発生してきました。活動で集められた すが、土曜日等には現地の人々の要望に応えて、な 募金や寄付金という大切な資金を有効に役立てるた べやクワ、やかん、荷車、ベッド等も修理し、現地 めに、私たちは活動を面として展開するよりも「点 の人々の歓迎を受けました。 として集中」することを選びました。資金や活動を 隣 国 ソ マ リ ア に 近 い 北 東 州 (North-Eastern 広範囲に薄くばら撒くよりも、 「1 滴の水滴でも、同 Province)の半砂漠の地ガリッサでは、走行 1 千 km じ所に 10 年 20 年と落とし続けると、やがてそこに にも満たない真新しいトラックが、320km 先の目的 草が生え木も育つようになる。この 1 つめの点がう 地ワジアー(Wajir)に到着する前の陸送中に横転事 まく行けば、2 つめの点を作ろう」というのがその 故を起こし、1 年間も放置されたままになっていま ポリシーです。学校建設という活動についても、ケ した。放置の原因は、修理部品の入手困難と修理技 ニア各地に建設するよりもガリッサ県に集中して実 術者の不在でした。私たちの巡回修理チームはこの 施しました。この学校建設プロジェクトを進めてい ガリッサの地に入り、気温 44 度という猛暑と 2 週 くうちにさまざまな出来事に出会い、それらに対応 160 事例 37 するプロジェクト(事業名:ガリッサプロジェクト 職ができたり、やがてはオーダーメイドの縫製店の Grissa Project)を実施してきました。その内容を列 自営も可能になり、立場も生活も安定します。力の 記すると以下のようになります。 ある人はこのあと、グレード 2(2 級)やグレード 1(1 ① 朝食を食べていない子供が多いので給食プログ 級)の資格試験にチャレンジすることもできます。 ラムの実施。 少なくとも、私たちと関わったこれらの子供たち ② 給食の煮炊きのために薪を消費するので植林プ の中から、夜の都会に出て我が身を売る少女や、政 ロジェクトの実施。 府から白い目で見られているミラーMiraa(覚醒性の ③ 乾季に木を枯らさないための井戸掘りと給水プ ある樹木の新芽でミルンギ Mirungi ともいう)の売 ロジェクトの実施。 人にはなってもらいたくない、というのがもうひと ④ 孤児が多く出るので孤児を支援する奨学金制度 つの理由です。 の実施。 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 ⑤ 病気の子供たちを救うための診療所の建設と医 (a)実施場所 ケニア国北東州ガリッサ県 療事業の実施。 (b)実施体系 ⑥ 乾季に草を求めて移動する家畜と親と共に子供 正確かつ迅速な対応が必要なため、現地事務所を も移動するので巡回医療プログラムの実施。 1986 年に開所しました。ここに日本人スタッフ(駐 ⑦ 学校を卒業しても職に就けない子供を支えるた 在員 3 名)が常駐し、 主に資金管理と人事管理を担当 めの「職業訓練プログラム」の実施。 しています。活動開始から 20 年近く経った現在、多 これらを現在実施していますが、ここでは特に⑦ くの決定権をケニア人スタッフに委譲し、必要以上 の「職業訓練プログラム」の中の女子への「縫製技 に日本人が表に出ないように心がけています。 術訓練プログラム」について記述いたします。職業 (c)活動内容 訓練プログラムの中には、この他に男子を対象にし 学校建設、診療所の建設と運営、職業訓練所開設 た「自動車整備技術訓練プログラム」と「木工技術 と運営、植林事業、井戸掘り、巡回医療活動、奨学 訓練プログラム」を実施していますが、ここでは省 金支援、公衆衛生教育等。 略いたします。 (d)事業予算 2003 年度は事業全体で 2100 万円 (2)プロジェクトの目的と目標 (うち職業訓練事業 150 万円) 勉強をしたくてもできない子供たちのために小学 校を建設し、子供たちに教育の機会を与えてきまし 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 た。比較的に経済力のある親を持つ子供は、上級の (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ 学校に親の資金で進んでいきます。しかし、いくら 学校を建設し、里親制度による奨学金教育支援で 本人に能力があっても、親に資金力がなかったり、 困窮家庭の子供を支える中で、技能教育の必要性が あるいは病気などで親そのものを亡くしている子供 発覚した。手に技術がないために、就職の手段とし にとって、中学校への進学は不可能です。そこで私 て結婚を選択しなければならない卒業生が多数いる たちは奨学金制度でこれらの子供を支援するわけで ことが、その後の追跡調査(1989 年に実施)で分かっ すが、すべての孤児を支援することはできません。 た。上級学校へ進学できない女子に縫製技術を身に 小学校課程の修了をもって社会に出て行かなければ つけさせ、男子には自動車整備技術や大工や家具職 ならない子供たちが多くいます。これらの子供たち 人を育成する木工技術を身に付ける場所と機会を与 に、裕福な生活はできなくとも自立できる力を持つ えることに本プログラムを位置付け、 実施している。 機会を提供するために、この職業訓練プログラムを (2)訓練等の計画と準備 実施するにいたりました。 小学校課程(ケニアの場合 8 年間)で充分な基礎技 ケニアには職業技能レベルに従って分類された資 術を身に付けることを徹底する。 設置したミシン(足 格試験があります。小学校 8 年生を終えてまず挑戦 踏み式ミシン)は日本でいただいた寄付金や助成金 できるのはグレード 3(3 級)です。 それでも合格率は で現地購入。他に日本でいただき船便で輸送した中 低く、20%程度です。これに受かると縫製工場に就 古ミシンも設置している。学校では 1 教室を縫製技 161 事例 37 術室として専用に使用している。指導講師にはケニ 今のところ、訓練費を低く抑えていかないと、訓練 ア国の国家資格保持者を採用している。講師の中に 生に多大な負担を強いる結果になってしまう。毎年 は、この職業訓練プログラムで育てた人材も含まれ 多数誕生する国家試験合格者は、ガリッサ県のみで ている。 なく北東州全体の女性の話題になっている。 卒業後、さらに専門のトレーニングができるよう に「ミコノ縫製技術訓練所」を開設し、縫製で自立 [参考]これまでの実績(12 年間) できるように支援している。自立できない場合、当 ガリッサで縫製業を営んでいる女性 地ではかなりの確率で身売り結婚の犠牲者になるの ガリッサ以外で縫製業に従事している女性 264 名 で、訓練生の取り組みは真剣そのものである。 他人を雇用して縫製事業を営んでいる女性 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 21 名 8 名(うち数) 学校での訓練時(日本の学校の家庭科に該当)には ガルメント(衣服店)経営者 訓練が効果的にできるように、専用の縫製訓練教室 国家資格取得者 18 名(うち数) 386 名 を所有している。刺繍付き衣類等の人気のある製品 を製作するためにジグザグミシンも導入して、飽き (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 のこない訓練を実施している。多くの学校は町外れ 立発展性 にあり遠くて不便なので、 「ミコノ縫製技術訓練所」 女性、 とりわけムスリム(イスラム教徒)の女性は、 はガリッサの町中に開設している。講師は技術レベ 他の女性に比べて自立の機会に恵まれにくい境遇に ルの高い人を、採用試験で選別して雇用している。 ある。批判を覚悟の上で明言するならば、これは、 採用試験の倍率は高く、常に 20 倍を超えている。基 女性には教育は不要で子供を産んで家庭を守ること 本的には国家2級以上の試験の合格者、かつプロと が本業、といったムスリム男性の意識によるところ しての実務経験のある人の採用となる。宗教はイス が大きい。そのために、夫に先立たれたり離婚させ ラム教徒、 キリスト教徒を問わないで採用している。 られたりすると食べていく手段をもたないため、す ちなみに、生徒の宗教は、9 割以上がイスラム教で ぐに路頭に迷うことになる。イスラム教徒の一夫多 ある。宗教の違いで混乱が起きたことは今のところ 妻(ポリガミー)制度は、これらの女性の救済制度と ない。 いうことであるが、世の男性の解釈はまちまちで、 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 多くの場合、男性自らのエゴイズムを擁護するため 女性が身売り結婚の犠牲にならないように、贅沢 に、都合のいいようにアレンジされたりする。男性 な生活は望めなくとも、自立するための技術を身に は、お金をたくさん得ると、まるで上着を取り替え 付けるために取り組むことを基準に、活動を実施し るように、古くなったからと、奥さんも新しい女性 ている。技術を身につけるという今のニーズと、将 に取り替えることも多々ある。したがって統計に出 来は自立できるという未来のニーズに応えるため、 にくいが、かなりの離婚率(推定 7 割以上)である。 と事業の方針を定めている。 このような夫婦間の絆の不安定な夫婦が多いと、不 安定な夫婦→不安定な家庭→不安定な地区→不安定 3.プロジェクトの評価 な町(あるいは村)→不安定な県→不安定な地方→不 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 安定な国というように、女性の手に職が付くことに 現在のところ、 地元の要求に確実に対応している。 よって得られる社会的・経済的安定性は個人や家族 申込み者の 2 割程度にしか訓練の機会を提供できな の領域を超え、国家のレベルまで影響を与えてしま いので、規模の充実を模索している。事業資金とし う。手に職をつけることが家族の安定をもたらすと ては、日本からの資金とケニアからの資金が主であ いうことに気づいた女性は、食べていく力として手 る。ケニアからの資金とは、ケニアのハランベー資 に職をつけることに、他人に強制されるのではなく 金(ケニアで集められた寄付金)と訓練生が支払う訓 内発的に関心を持ち、私たちの縫製技術訓練所に集 練費(授業料)である。ケニアからの資金の割合を増 まってくることになる。 やしていくことが事業の自立に繋がるわけであるが、 162 事例 37 4.教訓・提言 安定をもたらし自立を促す「職業訓練プログラム」 (1)プロジェクト・訓練等の問題点・課題 を、私たちの「顔丸見えの国際協力活動」の一環と 平均寿命の低下の原因が、エイズや住環境の悪 して、今後もさらに充実していく予定である。 化にあるのかは定かでないが、緑が少なくなって いることは実際に体感できる。これまで耕作が可 能だった土地は、比較的乾燥に強いキャッサバ(芋 の一種)さえ育たなくなった。農地が砂漠の一歩手 前の半砂漠になってしまったのである。煮炊きの ための薪はだんだん「細く・遠く・少なく」なっ ている、と主婦は嘆く。ここでの植林活動は必至 であるが、植林だけでは樹木が育たない。植えて (植林)、毎日水を与えて育てて(育林)、ヤギの食 害から守って(守林)、やっと樹木が活きる(活林) のである。つまり、活林=植林+育林+守林とな る。これが「木を植えても育たない」と言われる 所以である。木が育たない土地では人も育たなく なっている。 「遠く・少なく・汚く」なっていく飲 み水の影響が、人口と寿命の減少の一因になって いることも指摘できる。技術訓練に加えて、緑化 写真 1 ヒューガ女子小学校における縫製技術教室 も平行して実施していかないと、人間の住めない (37 台のミシンが活躍している) 環境をさらに広げる結果にしてしまう。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 ケニアを中心にアフリカでNGO活動を20年あまり 展開してきた。ケニアのみでなくアフリカ全体にい えることだが、技能者や職人の社会的地位が低く収 入が少ないため、優秀な人材が集まりにくい社会構 造になっている。学歴があり技術、あるいは技能が あり、これは優秀だと思われる人材は概ね管理業務 についてしまい、身についた技術が活かされていな いことがある。大学を卒業して、これから国家建設 に重要と思われる人が多数、アメリカやイギリスと いった外国に出て行ったまま帰ってこない。帰って くるのは政治留学した、今後の支配的立場が約束さ れた文科系人ばかりである。 国家の自立のためには、 技術者・技能者を活かすことのできる社会的・政治 写真 2 ミコノ縫製技術訓練所 (日本からスタディーツアーの人々が訪問した) 的な転換が求められる。 また、平均寿命が短すぎることが、家庭や家族の 不安定や技術力の移転・蓄積の障害になっている。 大きすぎて目立ちにくいサブジェクトではあるが、 技術が活かされ有効に継承されるには、健康的な生 活ができるためのある程度の寿命(65∼70 歳)が確 保できる住環境が必要である。そのためにも、ガリ ッサ県で育てている「半砂漠の中の森」と、生活に 163 事例 38 ザンビア共和国ルサカ首都圏救急救助隊整備計画 特定非営利活動法人 TICO 救急プロジェクト担当 五十嵐 仁 1.プロジェクト概要 ⑤ 技術指導を実施するために、 日本の消防機関等と (1)プロジェクト実施の背景 連携し技術巡回指導を実施する。 ザンビア国(以下「ザ国」)ルサカ市は人口約 200 ⑥ 基盤整備を 2006 年 10 月までに完了し、 同基本体 万人(ザ国保健省資料)のザ国の首都である。1964 年 制を警察庁へ委譲する。 にイギリスより独立したザ国は、銅の輸出のみに頼 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 るモノ(mono)経済により社会経済発展がなされてき (a)実施場所 たが、銅の国際価格の暴落から国家経済は破綻しザ (b)実施体制 ルサカ市(首都圏) 国民の生活が逼迫した。同国人口の 5 割強が国連の 1)カウンターパート機関 定義する貧困ライン以下で生活を強いられるなど非 警察庁、ルサカ県警本部、ルサカ市消防本部、交 常に厳しい経済社会環境に陥り、公共機関が提供す 通安全協会、Sustainable Community Development べき基本サービスもままならぬ状況に至った。 Programme(SCDP:コミュニティー持続可能開発計画) このような状況の中、近年日本政府を含む各国政 2)専門家などの人材投入 府の支援等を通じ、改善がもたらされている公立の 日本人長期専門家(救急行政一般) 医療機関もある。ところが、日本では市町村の消防 日本人短期主席指導員(救急救命・救急統括) 機関レベルにて提供さている救急救助業務が、ザ国 1名 神戸市消防局 1 名 ではまったく実施されておらず、緊急に医療機関へ 日本人短期巡回指導員(救急救命・救助技術) 搬送され緊急診療を受けないと延命ができない傷病 神戸市消防局 5 名 者が発生してもその命が切り捨てられているなど人 3)主なカウンターパート 間の尊厳が十分に守られていない劣悪な状況がある。 ザ国地域警察協議会委員長 この状況を改善するために、TICO はザ国政府との ルサカ県警本部・副本部長 1名 1名 協議を実施し、首都ルサカ市において標記救急救助 4)プロジェクト実施・運営管理機関 隊の整備を行うため、2002 年 10 月からプロジェク 警察庁救急救助管理委員会(警察幹部、 消防本部幹 トが開始された。 部、 ザ国地域警察委員計 7 名が参加)がザ国法務省の (2)プロジェクトの目的と目標 承認により設置され、救急救助隊の日々の運営管理 当プロジェクトは、 以上の目的を達成するために、 業務を執行。日本人専門家は同庁の救急救助隊管理 以下のプロジェクト活動目標を設定した。 委員会の委員として警察庁長官に任命され特定司法 ① ルサカ首都圏を 4 分割し、4 つの救急救助隊の管 警察権を付与後、公務執行する。 轄区を設ける。 5)救急救助技術訓練 ② 4 分割された管轄区に分駐所もしくは待機所を 救急隊本部事務所兼ルサカ北東部分駐所にて実施。 設置するとともに同所へ救急隊を各 1 隊配備し、 規模の大きい実地訓練は、警察庁付属警察学校、ル 救急救助業務が実施できる基本的な体制を作る。 サカ市消防本部・中央消防署にて実施している。 ③ 4 管轄区による救急業務体制を実施するために 6)救急救助隊員 必要な資機材を供与する。 2004 年 10 月現在(非専務隊員も含む)、 ④ 上述の目標を達成するに必要な人材を警察庁、 消 警察 14 名、消防官 4 名、ボランティア隊員 14 名。 防本部、地域ボランティアグループから選抜し、 各分駐所もしくは待機所が開設されるにつれ、救急 指導員として活躍する隊員へ救急救助活動に必 救助隊員の数は増えていく。 要な技術を伝授する。 164 事例 38 7)救急救助指令 ニング法(現場で業務に携わりながら訓練を行う方 救急隊本部事務所に小部屋を併設、 隊員 5 名(日勤 法)を計画し実施している。現在のところこの方法 2 名、夜勤 2 名、非番1名)体制で県警本部司令室か が一番効果的のようである。 ら入電する救急要請の受理、救急隊の指令を実施。 訓練の準備として、人口呼吸用のダミー(人形)を 8)財務 使用しているが、医療機関などにおける院内訓練は TICO と警察庁間の合意(RD)書に基づき、2006 年 現在のところ実施されていない。これは、救急隊が 10 月までは TICO 側がプロジェクトに必要な資金を 使用する機材を使い指導できる医療機関がないため 主に投入するが、救急救助隊車両の燃料一部、警察 である。救急救助という分野では初めての試みであ 職員の配置、分駐所配置の土地などについてはザ国 ることから、固定計画より柔軟に計画を立て、臨機 政府が負担する。 また、 ルサカ市議会の承認のもと、 応変に訓練を実施している。 ルサカ市消防本部関連施設を救急救助隊が使用し、 表 訓練の種類 現場レベルでの連携を助長する。 種 類 9)装備 標準型救急車 4台 高規格救急車 1台 簡易救助車 1台 指揮車 1台 予備救急車 1台 概 要 担当指導員 基礎 標準型救急車に乗務する TICO 救急 救急法 隊員が必要な基礎的な救 行政専門家 (隊員用) 急措置法を学ぶ。患者観 察、人口呼吸、患部固定、 止血、救急車機材の取り扱 計 8台 い方法を含む。 以上の体制で、 2004 年 10 月現在ルサカ首都圏で 4 区分化されたうち北東部と南東部に設けられた救急 隊分駐所(計 2 箇所)に変則的に救急 2 隊、救助 1 隊 を 24 時間(12 時間勤務の 2 交代)体制で配置し、 同2 上級 基礎救急法の他、日本の救 神戸市 救急救命 急救命士が実施可能な医 消防局職員 (隊員用) 療行為について学ぶ。しか し、薬剤の投与はザ国政府 区域で発生した事件・事故へ出動し傷病者の救護を 認可の医療技術者のみが 行っている。 現在の担当管轄人口は約 75 万人である。 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ 救急救助業務については、機材が確保されていて 実施できるものとする。 車両 交通事故等において車体 神戸市 救助法 の破損で車内に閉じ込め 消防局職員 (隊員用) られた怪我人を救出する ために必要な小型重機器 もそれらを使用する状況は毎回違い、各事故事件現 の使用方法及び車両から 場において工夫をこらし人命救助を行う必要がある。 怪我人をバックボード等 このため、本プロジェクト成功への要が「訓練」で に固定する方法を含む。 あると言える。 (2)訓練等の計画と準備 日本人長期専門家による基礎救急措置法の指導以 外は、神戸市消防局の有志職員による短期巡回指導 ロープ 井戸や低所に落ちた怪我 神戸市 救助法 人を救出するために必要 消防局職員 (隊員用) なロープワークを学ぶ。高 所からの救助に活用でき であることから、特殊技術訓練はおおむね同市消防 る方法も含む。 局職員の都合に合わせ、1 年に 1 回の短期集中講座 として計画実施を行っている。基礎救急措置法につ 救急車両 救急車などの緊急車両を いては、毎週土曜日に全隊員を招集し、救急隊本部 運転技法 専属して運転する隊員の TICO 専門家 事故回避などの技能訓練。 事務所において理論と実技を組み合わせた形で約 2 救急行政 時間 30 分程訓練を継続実施している。 救急システム全般の運営 (幹部用) 管理体制にかかる研修。管 さらには、日本人長期専門家が救急車に同乗もし 理を行う幹部隊員用。 くは現場へ指揮車にて同行し、オンザジョブトレー 165 TICO 専門家 神戸市 消防局職員 事例 38 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 制における技術移転も非常に重要な部門と言える。 訓練日に隊員を招集するものの、訓練中に緊急事 さらに、プロジェクト終了後においても日本とザ 案に出動する隊員がいることから、結局全隊員を一 ンビアの救急救助隊員の継続交流を行う計画がある。 同に集めた集団研修を実施することが困難である。 救急医療の手技は年々新たな研究からその方法が変 また、日本人専門家も同時に出動する必要がある事 更されるなど、常に新しい情報を入手し、現場へ導 案も多く、訓練が途中中断することが絶えない。そ 入する必要がある。そのため、巡回指導を単発で実 のため、理論による座学から主に実際の現場で指導 施するほか、将来的に救急隊本部事務所にパソコン する方法へウエイトを移行し、実践型の指導を行っ を配備し、インターネットを仲介にした遠隔映像指 ている。現在稼動している隊長レベルの隊員は、可 導などで技術的な相談を行い、日本からフォローア 能な限り長期日本人専門家と行動をともにして現場 ップできる体制を考察中である。 での指導要領を学ぶなど、マンツーマン方式による 訓練の配慮も行っている。 3.プロジェクトの評価 地域からボランティアとして参加している隊員は、 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 報酬がないため長続きしない傾向があり、継続的に 本プロジェクトは、日本政府を含む各国政府が支 訓練にも参加できない状況がある。管理委員会とし 援し改善されてきた公立の医療機関が提供するサー て訓練受講者(一定の区切りを持つ)へ資格の付与 ビスを人々が受けられるように支援する、人間の基 (ワッペンやバッチ)や高規格救急車の隊員へ格上げ 本的人権を守る一つの手段と考える。交通事故等で されるようなインセンティブ制度を導入し、継続的 怪我人が発生した場合、自家用車などの移動手段を に訓練を受ける環境を模索している。また、訓練な 持っている人が少ないため、一般市民が事故現場を どで良い成績を収めた隊員に対し、地域警察協議会 通過するトラックなどを止めてはアマチュア的に怪 から階級の昇級制度を導入し、訓練参加への楽しみ 我人を搬送している。特に夜間は、防犯上一般市民 を加えている。 からの支援を得ることは困難なため、例えばひき逃 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み げされた被害者は、救護されることなく翌日道路わ 同プロジェクトにてもっとも重要視されているの きで死体となって発見される事案も少なくない。こ は、専門家が去った後、ザ国の社会経済文化的に適 のような状況を抑制し人間の尊厳を可能な限り守る 合したレベルの救急救助サービスが継続されるかど プロジェクトであることから、ザ国政府からも高く うかである。これを保障するのが、訓練を継続的に 評価されている案件と認知している。 実施できる現地人指導員の養成であると考えている。 また、救急車における救急救助技術は、厳密に言 現在実施している訓練は、2 方面隊の運用に必要と うと、病院内などにおける救急医療技術とは違い、 なる隊員の養成訓練であり、4 方面隊運用のためで 限られた機材や手技を用いて第一線にて人命を救助 はない。一度に隊員の数を増やしていくより、十分 するという特殊技術でもある。日本の団体で緊急援 なる指導が継続して可能な指導員の養成が優先的に 助的に災害医療派遣などを実施する活動は良く耳に 進められている。2005 年度には、幹部隊員を神戸市 するが、国づくりという視点で言えば、その国のプ 消防局に派遣し視察訓練等を独自に実施して、プロ ロが自ら自国民を救うシステムが存在することが重 ジェクト終了後も現地人指導員が中心となって後輩 要といえる。よって、救急救助技術を長期にわたり 隊員を養成していくグランドを作る。これが、本プ 指導し現地に救急システムをつくる国際協力活動は ロジェクトにおける訓練の定着・継続の是非を問う 世界的にみても珍しい。日本にとってみても、消防 ものと思慮される。 職員など特殊技術は持っていてもその技術を海外へ また、救急救助隊の車両や救助機材を保守管理す 行き伝授する機会が少ないので、国際協力に参加す るメカニックの養成についても視野に入れており、 る機会を提供するという意義がある。 プロジェクト期間中に日本人専門家による巡回指導 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 を計画している。機材が故障し、修理されないまま 立発展性 機材が放置されることが多いザ国では、保守管理体 救助隊の整備は2004年8月に始まったばかりであ 166 事例 38 るが、すでに 4 件の要救助事案のうち 3 事案におい 設を各所に持つ BP(イギリス石油会社)など資本の て車内に閉じ込められた、もしくは、車両の下敷き 大きい会社などと現在交渉を進めており、政府以外 になった怪我人をタイムリーな対応と小型救助重機 のスポンサー制度も取り入れ始めている。日本にお 材の導入によって生存したまま救出している。ザ国 いても、損害保険会社が消防署へ救急車や消防車を における閉じ込め、下敷き事故では助からないとい 寄贈するような社会奉仕活動があると同様に、民か う固定観念が、救助隊の発隊からその価値観を変え らの救急救助隊の運用支援も期待している。 ようとしている。 根本は、日本の支援で基盤を整備し、ザ国の人々 また、ルサカ首都圏北東部と南東部では、交通事 が自分たちを守る機構をさらに発展させ守っていき、 故や、病人が路上に倒れている事案に遭遇した際、 人命を救う。これが理想と考えている。 携帯電話を所持している市民が警察へ通報し、救急 車を要請するという行動の変革をもたらしてきてい 4.教訓・提言 る。救急隊業務を実施した 2002 年 11 月の救急出動 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 件数は 54 件であったのが、2003 年 2 月には 189 件 ザ国では、医療業界でも「救急医療」というコン とうなぎのぼりとなった。これは、市民が救急隊に セプトを十分に理解し行動できる医療従事者が少な 任せたほうが延命できると社会的に理解された結果 い。現在救急隊が保有するスクープストレッチャー と思われる。119 番型の救急業務というサービスが (2 つに分れ、すくうように怪我人を収容できる万能 皆無だったザ国で予想以上に優良なインパクトを与 担架)の存在すら知らない医師が多くいる。 このよう え続けており、ザ国政府の内閣府防災担当副大臣や な背景の中で、救急隊により救護され応急措置が施 警察庁長官本人が救急救助隊の日々の活動に対し頻 された患者が大学病院にて速やかに診療されない事 繁に言葉をかけることからも、官民両レベルより同 案が発生している。事情聴取の結果、救急隊員がす プロジェクトが受け入れられていることが理解でき でに応急措置を実施していることから、それ以上直 る。 ちに医療機関として実施手技はないというのが多く 本救急救助隊の自立発展性を高めるために、ボラ の意見であった。救急隊で対応が困難な事案に対し ンティア救急隊員を中心とする運用から、警察庁も ても、救急隊が搬送したというだけで病院救急室の しくは消防本部の一機関としての運用へ転進するよ 医療関係者が同患者を優先的に診療しないことにつ うな計画も盛り込まれており、2006 年 10 月には本 ながってしまう、憂慮すべき事態となっている。救 プロジェクトにて作られる基盤をそのまま官により 急隊員のレベルは、基礎訓練を受けているとはいえ 継続運用されるように配慮されている。TICO では、 日本と比べ依然低いため、救急隊員が実施した応急 1998 年にザ国において保健省が管轄する転院搬送 措置を医療関係者が過大評価してしまっている。よ 用の救急搬送システムを構築した実績があり、同プ って、医療機関の救急室に従事する関係者との意思 ロジェクトへの支援は 1 年間のみであったものの、 疎通が今後重要となる。 プロジェクト終了後も保健省が継続的に予算などを 日本でも課題となっているが、救急車をタクシー 充当し現在でも運用されている。これは成功例とみ 代わりに使用する市民も出始めている。人口 200 万 なされよう。よって、今般整備中の 119 番型救急救 に対し、4 台の救急車で運用基盤を作ることになっ 助隊も同様なる方法にて政府の一部公共サービスと ているが、市民が救急車の乱用に走った場合、本来 して位置づけたい。また、ザ国では救急救命士など の救急隊の意味をなさなくなる懸念はある。この対 の国家資格制度が未整備のため、ザ国の経済社会・ 策として警察庁の管理委員会の提議により、救急車 文化環境を理解しつつ、2006 年 10 月以降、ザ国担 の利用者へガソリン代の一部を負担してもらう制度 当政府が本プロジェクトにおいて実施する研修を公 が発足し実際に費用の一部負担をお願いしている。 式に認知し、また国として資格を付与するような制 これは、救急隊存続に大きな糧になっており、貧困 度へと発展することを提議する。 に苦しむ家庭で負担ができない市民に対しては無償 機材の保守管理においても、ザ国内において現地 で搬送を行うなど臨機応変に対応が始まった。 人技術専門家の存在を掌握したり、自動車整備の施 訓練においては、現地人専門家を養成し指導を継 167 事例 38 続していく必要があるが、実際には医療関係者でも 様なる合意内容の履行の遅れが見られる。しかし、 救急分野の特定な訓練を受けてきた人材が非常に少 国情にある程度合わせつつ根気よく協議を続け、さ ないため、知識の未熟な指導員候補生への指導とな らには、官のみならず民活の利用などを弾力的に行 っている。海外の医大を卒業した医師など救急に関 い、政府カウンターパート機関が履行できない部分 する知識をある程度保持する人材を指導員として確 を臨機応変に動き補完していくような裁量が必要と 保し養成することは予算の関係上、現在不可能であ 認識している。 ることから、ザ国で特有な制度である准医師をさら 最後に、レベル的に高い指導員を養成するには、 に確保し、救急隊指導員として養成する必要が出て それなりのレベルの人材を確保する必要があるが、 きている。救急というコンセプトがまったくなかっ プロジェクト予算の充当が不可能な場合、マンツー た国で救急医療にかかわる活動を実施する場合、十 マンでじっくり時間をかけ指導をするような配慮も 分な現地人専門家を確保できない可能性もあり、注 必要になる。また、優秀な訓練修了生はブレインド 意が必要である。これを克服するには、指導員候補 レイン(自国を出て他の国で仕事を得ること)の可能 者を定期的に日本など救急システムが確立されてい 性も憂慮されるので、契約が社会的に認められてい る国において中期的に訓練することが必要となる。 る国(ヨーロッパの伝統を間接的に継承している 救助機材は、高価かつ精密である。お国柄や民族 国々)では訓練を受ける受講者から誓約書を取り付 内の価値観にも左右されるが、日本人の目から見る けることも必要と感じている。 現地人隊員の機材の取り扱いは非常に雑である。こ れにより訓練においても救助機材が故障や不調とな り、訓練の継続ができない場合もある。特に油圧関 係機材は、ほこりなどにも弱く精密機械の取り扱い 方法など基礎的な姿勢についての訓練も大きな研修 分野となりつつあり、道徳教育まで発展する恐れも 出ている。文化的な背景で価値観の違いから、日本 人専門家と現地人隊員との意思疎通が困難なときも しばしばあり、ザ国の経済社会文化に適した救急救 助行政のしくみの構築と新たなチャレンジも強いら れる。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 訓練を受ける受講生に対し、インセンティブを主 催者側が提供しないといけない状況を当初は理解す 写真 1 神戸市消防局の救急救命士による現場での指導 ることができなかったが、特にボランティアで無償 ベースにより参加する隊員や活動員に対しては、プ ロジェクトとして何らかのインセンティブを提供し、 学習の意欲を向上させる必要もあると強く感じる。 特に、制服などにこだわる文化がある場合、受講済 の活動員に制服(救急隊は制服、 他の活動などではプ ロジェクト名入りの T-シャツなど)を提供するとモ チベーションが向上することが本プロジェクトを通 じ認識できた。 他のアフリカ諸国については断言できないが、ザ 国においては、相手国カウンターパート機関とプロ ジェクト実施に関しさまざまな合意をしてもそれが 守られない場合がある。特に政府機関においては同 写真 2 ザンビアで初めて組織された警察・消防救急救助隊 168 事例 39 セネガル共和国における職業訓練センター拡充計画プロジェクトの実施 元雇用・能力開発機構本部 職業能力開発指導部指導役 船場 専 (元 JICA 専門家・チーフアドバイザー) 1.プロジェクトの概要 れる (1)プロジェクト実施の背景 ④ 管理部門職員が実施するプロジェクト運営管 日本−セネガル職業訓練センター(CFPT)はわが国 理が向上する の無償資金協力により 1982 年に建設が開始され、 建 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 設が完了した1984年から7年間のプロジェクト方式 (a)プロジェクトの実施対象機関 カウンターパートとしてのセネガル側の実施機関 技術協力およびそれに続くフォローアップ・アフタ ーケア協力(3 年間)を通じて、中学校卒業者(BFEM は教育省の職業訓練局である。1998 年実施調査の際 資格保持者)を対象に電子・電気・機械・自動車整備・ は国民教育省であったが、2001 年に技術・職業訓 家電修理の 5 分野において 3 年制の技術者資格 練・識字・国民言語省、2003 年に教育省に改組され (Brevet de Technicien=BT)取得コースを実施し、セ た。 ネガルの産業界からその卒業生の質の高さを評価さ (b)プロジェクトの組織 れている。近年、セネガルにおいて産業技術の高度 プロジェクトの母体となった CFPT は校長、副校 化、情報化の進展に伴い、より高い技術資格を有す 長、 総務課長、 教務課長の 4 人の管理職が配置され、 る技能者に対するニーズが高まり、また、1980 年代 既存の BT コースの指導員が 16 人、一般教科担当職 に端を発する経済危機の中で大学卒業者の就職難が 員 6 人、生徒相談担当職員 3 人、その他総務、保健、 続いたことから直接雇用に結びつくような高等教育 資材管理、秘書等 10 人が配置されている。プロジェ の多様化が求められることとなった。このような状 クトの BTS 担当指導員は 11 人で CFPT としては総勢 況の下で、セネガル政府は 1995 年ディプロマ(短大 50 人となっている。 卒)レベルの上級技術者資格(Brevet de Techicien (c)CFPT の活動内容 Superieur=BTS)に関する大統領令を改定し、政府の CFPT には BT レベルの訓練コースがあり、訓練期 承認によってあらゆる部門の BTS 資格取得コースの 間は 3 年、訓練対象者は 16 歳から 21 歳の BFEM(中 開設を認めることとした。CFPT においても直ちに 等教育第一段階終了)の資格を持った者、 または同等 BTS コースの開設が計画され、1996 年にセネガル政 以上の者となっている。現在、電気、電子技術、機 府は日本に対し協力要請を行った。 械、自動車整備の 4 科で訓練が実施されている。ま (2)プロジェクトの目的と目標 た、夜間コースも全科に併設されており、訓練期間 セネガル政府の要請を受け、1997 年の事前調査、 は 3 年、年齢制限はなく、BFEM の資格を持った者、 または同等以上の者となっている。 1998 年の短期調査、実施協議調査を経て、1999 年 4 その他に大企業の要請に応じて、企業の従業員を 月からすでに実施されている BT コースをベースと 対象にした向上訓練セミナーも実施している。 した、工業情報技術および制御技術の2分野におけ また、このセンターの特徴として、養成訓練の BT、 る BTS 資格取得コース(2 年制)実施を目的とするプ BTS コース(昼間)には周辺諸国の学生を受け入れる ロジェクトとして開始された。 枠が設けられている。さらに、周辺諸国の指導員の そして、プロジェクトの目標として、以下の 4 項 ための再教育の場としても位置付けられ、JICA の援 目を達成することが求められた。 ① CFPT の BTS 担当指導員の能力が向上する 助による第 3 国研修のほか、 ACCT(フランス語圏エー ② 機材が適切に活用され、維持管理される ジェンシー)、F.Ebert 財団、職業訓練協会等各種 ③ 訓練プログラムが定期的に見直され、実施さ 団体からも定期的に研修員の受け入れを行っている。 169 事例 39 プロジェクトはこれらの訓練に追加される形で、 集・分析を行った。 実施された。プロジェクトが実施した BTS の訓練期 第 2 段階:訓練コースの設定では第 1 段階で検討 間は 2 年、 訓練対象者は 23 歳を限度とするバカロレ された結果を踏まえ、実施協議調査団により、協議 ア(国家統一大学入学資格試験) の科学もしくは技術 を深めコースの設定が行われた。 の資格を持った者、または同等以上の者となってい 第 3 段階:カリキュラムの作成段階では派遣され る。プロジェクト開始当初は工業情報技術科、制御 た長期専門家をはじめ、学識経験者、企業の代表、 技術科の 2 訓練科で昼間コースが開始され、2002 年 政府関係者、セネガル側プロジェクト関係者で構成 度から夜間コースが開始された。そして、同じ年に されたカリキュラム検討委員会で作成された。 また、 在職者を対象とした向上訓練セミナーも実施される 教材はセネガルには参考とすべきものはまったく見 ようになった。 あたらず、すべてプロジェクト内部で作成された。 2003 年 12 月から JICA の無償資金協力により、新 第 4 段階:訓練の実施、第 5 段階:訓練の評価は たに実習棟の建設が開始され、2004 年 10 月からは 教材の作成と平行して、行われた。2 年時以降は作 制御技術科を電子制御技術科(仮称)、機械制御技術 成された教材の改訂、評価法の検討を行いながら実 科(仮称)に分科された。 施した。 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 TMC システムを導入することで、すでに効果的な (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ 訓練ができる体制が出来上がっているが、より効果 「プロジェクト実施の背景」の項で述たように、 的に訓練を行うため、機械の整備、機材の管理、安 産業の高度化、情報の進展に伴い、より高度な技術 全・衛生に特に配慮し、その徹底のための対策を講 者の必要性が高まる中で、セネガルとして、また、 じた。なかでも、機材の管理は機材台帳の作成から プロジェクトの母体である CFPT として高度な技術 倉庫管理、貸し出しにいたる一連の流れを作るのに 者の養成が急務の課題となり、その方策の一つとし はかなりの時間がかかり、また、管理職の理解を得 て、日本に対しプロジェクト協力の要請を行った経 るのにも精力と時間が必要であった。 緯があり、プロジェクトが実施した BTS の訓練はそ (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み の中核となるものである。 プロジェクトの目標のうち、①CFPT の BTS 担当指 (2)訓練等の計画と準備 導員の能力が向上する ②管理部門職員が実施する プロジェクトの目標、活動内容、それらに対する プロジェクト運営管理が向上する の 2 点を重視し 評価の指標等がプロジェクト開始前の段階で、PCM て、表 1 に示す技術移転状況表を作成した。 手法を使って、PDM のフォーマットに落とし込んで この表の目的は効果的に技術移転を行うとともに、 作成された。さらに、プロジェクトの中間段階にお 専門家とカウンターパートそれぞれが共通の理解を いて、当初の計画と実施結果、環境変化等を考慮し していることを求めたものである。 この表を見れば、 ながら、この PDM の見直しを行った。 専門家の誰がどの項目をカウンターパートの誰に技 また、プロジェクトの活動 5 カ年計画はこの PDM 術移転を実施したかがはっきりと分かり、カウンタ に従い作成され、PDM 同様、中間段階で改定を行い ーパートが習得した度合いも確認できる。評価判定 ながら実行に移された。 は表 1 の下欄に示す評価基準に基づき、専門家とカ このプロジェクトではフィリピンのプロジェクト ウンターパートの両者が判断し、両者の合意で記入 で開発した TMC の訓練のシステムを採用し、実施さ される。したがって、専門家が技術移転したつもり れた。そのシステムは Training Management Cycle になっていても、カウンターパートから満足が得ら と呼ばれており、①訓練ニーズの把握 ②訓練コー れない場合は評価が低くなり、再度技術移転を行う スの設定 ③カリキュラムと教材作成 ④訓練の実 ことになる。 施 ⑤訓練の評価 の 5 段階で構成されている。 プロジェクトではこれら全モジュールの 90%以 第 1 段階:訓練ニーズの把握は事前調査団、短期 上を 2 人以上のカウンターパートがレベル A に到達 調査団とセネガル政府、CFPT が中心となり情報の収 し、残る 10%もレベル B 以上に到達することを最終 170 事例 39 目標とした。ここで 2 人以上としたのは、プロジェ には CFPT 内の教務委員会において見直しが行われ クト終了後、なんらかの事情でカウンターパートが た。 やめた場合にも訓練が継続していけるように考えて ④ 管理部門職員が実施するプロジェクト運営管理 のことである。 が向上する また、この表により、長期専門家のできること、 管理部門職員とは定期的に幹部会議を持ち、互い 短期専門家に頼むことを専門家会議で協議し、計画 の考え方を示しながら問題解決に取り組んだ。 また、 的に短期専門家の派遣申請を行うことができた。 日常業務の中で必要なことはその都度アドバイスす ることにより、 管理職の管理に関する意識を高めた。 3.プロジェクトの評価 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 立発展性 このプロジェクトで実施された産業部門情報化 セネガルにおける情報化への勢いは目をみはるも に対応する訓練は 2001 年∼2010 年の国家教育訓練 のがあり、市中にコンピュータが溢れ、インターネ 10 ヵ年計画に掲げられている技術進歩と国際市場 ットの需要もすごい勢いで増加している。卒業生の における競争に対応するための職業訓練政策に合致 中にはすでに企業から依頼を受け、コンピュータシ しており、セネガルの労働市場が必要とされている ステムを構築した者もいる。また、セネガル国内の 高い技術を有する人材を輩出している。 他のセンターへのインパクト、第 3 国研修を通じた プロジェクトに期待された目標に対する成果は 西アフリカ仏語圏諸国へのインパクトも考察されて 以下のとおりであり、当初の目標は十分に達成され いる。 た。 CFPT はすでに 20 年の歴史を有しており、自主的 ① CFPT の BTS 担当指導員の能力が向上する に夜間訓練や向上訓練(セミナー)が実施され、それ 専門家の主な業務となったカウンターパートに対 に伴って自主財源が確保されている。日本の協力に する技術移転は工業情報技術科は学科 100%、実技 より新たに実習棟が完成し、国内においてますます 98%、制御技術科は学科 96%、実技 98%で、全モジ その活躍が期待されている。 ュールの 98.02%を達成した。 ② 機材が適切に活用され、維持管理される 4.教訓・提言 供与された機器のうち毎日の訓練に使用されてい (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 る機器は全体の 32%、 週単位で使用される機器 40%、 このプロジェクトの目標が「工業情報技術・制御 半年単位で使用される機器 20%、年単位で使用され 技術分野の BTS コースが機能する」となっているこ る機器 8%となっており、 5 年間の協力期間中で最も とから、プロジェクトの運営管理という観点からの 損耗の激しかった機器はコンピュータで、ハードデ 協力が強く望まれた。したがって、日常の訓練はも ィスクの損傷、一部部品の損傷などである。特にハ とより、カウンターパートである管理者および指導 ードディスクは防塵対策をしてもなお、セネガル独 員の意識改革が強く求められたプロジェクトでもあ 特のきめの細かい砂塵が進入しハードディスクを傷 る。 めるケースが目立った。供与された機器のすべてに 開発途上国ではあらゆる権限が管理職に集中して ついて、それぞれ管理担当者を決めて、それに必要 おり、そのほとんどをトップが握っている。予算か なメインテナンスシートを作成し、それぞれに維持 らはじまり訓練用機器、資材の管理に関することま 管理の責任を負わせることとした。また、供与され でが、施設長である校長に握られており、副校長、 た多くの部品等の管理も整理整頓することからはじ 総務課長、教務課長といった中間管理職はお飾りに め部品台帳で在庫の確認が行えるようにした。 過ぎない。その影響もあると思われるが、指導員レ ③ 訓練プログラムが定期的に見直され、実施され ベルにおいても訓練用機材、消耗品等の扱いがずさ る んで、目を覆うようなことが日常茶飯事である。そ 当初のカリキュラムはプロジェクト開始時にカリ のような視点からまず挙げられた課題は、 キュラム検討委員会において作成され、訓練終了時 ① 管理職から指導員への権限の委譲 171 事例 39 ② 消耗品、訓練用機材の管理 の 2 点であった。簡単なようで、かなり骨の折れる 事項であった。これらのことを強く推し進めていく 過程において、セネガルにおけるヒエラルキーにま で言及されたこともあった。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 厚生労働省が関係する職業訓練プロジェクトは今 では、技能者養成のプロジェクト、技術者養成のプ ロジェクト、教材開発のためのプロジェクト、指導 員養成のプロジェクトと多種多様なものになってき ている。特に最近の傾向では、フィリピンのプロジ ェクトでの指導員養成に必要な指導技法の技術協力、 写真 1 CAD実習風景 イランのプロジェクトでの視聴覚教材の作成手法に 関する技術協力といったソフトの技術協力が求めら れてきている。そして、そのレベルも技術者養成プ ロジェクトに見られるように、より高度なものにな ってきている。求められる技術レベルが高度で専門 的である場合、一人の専門家ではとてもカバーしき れないケースが多く発生することが考えられる。そ のため、現在のプロジェクトでは以前の制度にはな かった短期専門家派遣が認められているが、ここで 考えなければならないことは短期専門家派遣に対す るプロジェクトとしての姿勢である。 プロジェクト期間中に派遣される短期専門家の 数は R/D(Record of Discussion:合意議事録)の段階 写真 2 油・空圧制御実習風景 でほぼ決められており、ある程度計画が立てられる はずである。ただ単に今年度どの分野に何名となっ ているからお願いしますというのではなく、少なく とも必要としている専門分野、期待する技術移転項 目、仕上り像、作成される教材ぐらいは具体的に要 請すべきである。 また、プロジェクトにあっては、技術移転終了時 にはその結果について評価を行い、少なくとも派遣 元には報告するようなシステムを作るべきである。 短期専門家の中には何をしにきたのか分かっていな い、自分の任務を認識していない者がいることは残 念ながら事実である。その原因の一端は上述した要 請の仕方にも問題があると思われる。 写真 3 LAN実習風景 172 事例 39 表1 技術移転状況(実技) 工業情報技術科(Informatique Industrielle) 家 短期専門 SECK 専門家 DIALLO 専門家 MBOW 専門家 MBODJI WORD の基礎 I10101 A A A A ○ EXCEL の基礎 I10102 A A A A ○ 既修得済み POWERPOINT の基礎 I10103 A A A A ○ 既修得済み C言語 I10201 A = = A ○ Visual Basic 言語 I10202 A = = A ○ Java 言語 I10203 B = A A MS-DOS 操作 I10301 A A A A ○ Windows 操作 I10302 A A A A ○ UNIX 操作 I10303 = A A A (Access)テーブル操作・クエリー I10401 A = = A ○ ○ (Access)フォーム I10402 A = = A ○ ○ (Access)レポート I10403 A = = A ○ ○ (Access)マクロ I10404 B = = A ○ (SQL)テーブル操作 I10405 A = = A ○ (SQL)テーブル検索 I10406 A = = A ○ (SQL)アクセス制御 I10407 A = = A ○ RLC 基本回路 I10501 A = A A ○ レベルアップ 電子電気回路 I10502 A = A A ○ レベルアップ オペアンプ I10503 A = A A ○ レベルアップ 論理ポート I10504 A = A A ○ レベルアップ コーダ・デコーダ I10505 A = A A ○ レベルアップ カウンター I10506 A = A A ○ レベルアップ コンバーター I10507 A = A A ○ レベルアップ マルチプレクサ I10508 A = A A ○ レベルアップ アセンブリ言語 I10601 B B A = ○ DOS/V 機のハードウェア構成 I10602 A A A = ○ 組立技法 I10603 A A = A ○ 手書き I10701 A = A = ○ フォトエッチング I10702 A = A = ○ 両面基盤の作成 I10703 B = A = ○ PC によるマスク作成 I10704 B = A = ○ 光ファイバと光通信 I10801 A B = A ○ ○○専門家 光ファイバー融着接続法 I10802 A A = A ○ ○○専門家 光伝送路測定技術 I10803 B B = A ○ ○○専門家 光敷設配線技術 I10804 A B = A ○ ○○専門家 光通信技術 I10805 A B = A ○ ○○専門家 プロトコル解析 I10806 C A C A ○ ××専門家 ブラウザ、E メイルの使用 I10901 A A A A ○ HTML 言語 I10902 = A = B ○ CGI 言語の文法 I10903 = A = B ○ スクリプトの作成 I10904 = B = B ○ WindowsNT の始動 I11001 A B A B △△専門家 NT のネットワークサービス I11002 A B A B △△専門家 ネットワーク NT の運用管理 I11003 A B A B 構築実習 LINUX の始動 I11004 B A B A ○ ○ □□専門家 LINUX のネットワークサービス I11005 B A B A ○ ○ □□専門家 LINUX の運用管理 I11006 B A B A ○ ○ □□専門家 速度・位置制御 I11101 A = A = ○ PID 制御 I11102 A = A = ○ 温度制御 I11103 A = A = ○ レベル制御 I11104 A = A = ○ RST 制御 I11105 A = A = ○ 直流モーター I11201 A = A = ○ ステッピングモーター I11202 A = A = ○ センサー I11203 A = A = ○ A/D コンバータ I11204 A = A = ○ 卒業研究 I11300 B = A A ○ ○ ××専門家 情報処理工学 オペレーティング システム実習 データベース実習 電子・電気工学実習 計算機工学 計算機工学実習 プリント基板 設計実習 データ伝送実習 情報通信工学 ネットワーク 活用実習 自動システム 制御工学 制御実習 インターフェース カード設計実習 研究卒業 A 習 B:専門家の協力を得て訓練ニーズの把握、コース設定ができる。そして、自ら各モジュールの教材が作成でき、訓練を行い、評価できる。 173 ○ □□専門家 ○ ××専門家 △△専門家 A:自ら訓練ニーズの把握、コース設定ができる。そして、自ら各モジュールが作成でき、訓練を行い、評価できる。 =:技術移転を受けていない。 考 既修得済み ○ (評価基準) C:専門家の協力を得て各モジュールの教材が作成でき、訓練を行い、評価できる。 B プログラミング実 備 C 情報基礎実習 研究卒業 n°de module 技術移転モジュール 事例 40 ムトワラ職業訓練センター(タンザニア国)機材整備に関わる職業訓練機能の向上 カリブ・ヒューマン代表 西川 義雄 (元 JICA 専門家・職業訓練) 1.プロジェクトの概要 月迄に設置された。それに伴うセンターの運営管理 (1)プロジェクト実施の背景 アドバイザーとして 2001 年 4 月から 2 年間、長期 タンザニア国(以下「タ」国)では労働問題がとり 専門家が派遣された。 わけ深刻で、産業界における熟練労働者の比率は 11 (2)プロジェクトの目的と目標 ∼13%となっている。また、1998 年時点では初等学 「タ」国南部地域の青少年の技能労働者育成とム 校卒業後、中等学校を卒業しない生徒が 85%を占め トワラ州職業訓練サービスセンター(RVTSC)の職業 ており、青少年の失業増加が深刻化している。かか 訓練機材の整備を通して職業訓練機能、施設運営管 る状況のもと、 「タ」国政府は労働力の質の向上を 理、指導員等の向上をはかる。 目的に、国家開発計画(20 年)において全州及び県に (3)プロジェクトの実施場所・実施体制 職業訓練センターを創設することとし、さらに 1994 (a)VETA 年 2 月の新職業訓練法に基づき職業教育訓練公団 「タ」国の職業訓練は長い間、労働・青少年開発 (Vocational Education and Training Authority; 省の国家職業訓練局が実施母体となってきたが 略称 VETA)を設立し、職業訓練セクターの戦略行動 1994 年の新職業訓練法によって職業教育訓練公団 計画(SAP:1996−1999)を策定した。この計画の中 (VETA)を設立した。新法は「職業教育訓練協議会」 で地域の中心となる職業訓練センター10 校が州職 が設けられ、その役割は職業訓練体制が国家ニーズ 業訓練サービスセンター(RVTSC)に格上げ、充実 にあっているかどうかをチェックする責務があり、 されることになった。今回の支援対象となったムト そのメンバーは雇用者団体、 労働団体、 各業界団体、 ワラ職業訓練センターはその一つで、隣接する既存 教育者、労働・青年省、通商貿易省、全宗教会議等 のリンディ職業訓練センターを吸収する形で、新設 の代表者 11 名から構成されている。 センターとして建設された。当センターでは基本的 (b)VETA の機能 には初等教育 7 年卒業者、一部のコースは中等教育 ① 職業訓練のための機会と施設を供給すること 卒業者を対象とした 11 コース(大工・木工建築、左 ② 政府と民間のニーズのニーズにあった基礎的・ 官・ブロック、秘書・コンピュータ、洋裁・服飾、 特殊訓練の訓練体制を確立すること 水道・配管、自動車整備、溶接・板金、電気工事・ ③ 経済の生産性にあった技能者育成により市場の 修理、自動車電装、商業、木彫)を新設し、うち 5 需要を満たすこと コース(木工・木工建築、左官・ブロック、秘書・ ④ 訓練プログラムの妥当性を高めるために各地域 コンピュータ、洋裁・服飾、水道・配管)について に計画と実施の権限を委譲すること は、一部機材を購入して他のコースに先がけて 1999 ⑤ 年の 7 月から開始されている。しかしながら、当セ 訓練プログラムには経済的価値と熟練技能を育 成、指導すること ンターの機材整備計画において資金不足等の負荷 ⑥ 最新技能の維持改善のため、企業内訓練を促進 がかかり、1996 年に日本政府に対して、タンザニア すること 国南東部地域の青少年層の技能労働者育成を目的 ⑦ 障害者のための訓練開発の促進 として、当センターを対象とした機能向上のための 無償資金協力を日本政府に要請した。日本政府・ (c)VETA ムトワラセンター組織図 JICA はそれに対し、1999 年 10 月を主に数回の調査 図 1 参照 団を派遣し、 概算額で 3 億余りの機材供与を決めた。 機材納期は当初の計画より遅れながらも 2001 年 12 174 事例 40 所 長 表 ムトワラ RVTSC の入学資格、期間及び定員 【アドバイザー】 コース名 秘書 指導員 指導員 定 員 初等教育卒業以上 1年 16名 左官・ブロック 初等教育卒業以上 1年 16名 秘書・コンピュータ 中等教育Ⅳ卒業以上 2年 各学年16名 洋裁・服飾 初等教育卒業以上 1年 16名 水道・配管 初等教育卒業以上 1年 16名 自動車整備 初等教育卒業以上 2年 各学年16名 溶接・板金 初等教育卒業以上 2年 各学年16名 電気工事・修理 初等教育卒業以上 1年 16名 自動車電装 初等教育卒業以上 1年 16名 調理 商業 中等教育Ⅳ卒業以上 1年 16名 運転手 木彫 初等教育卒業以上 1年 16名 協議会 指導員 期間 木工・木工建築 州職業訓練 事務長 入学資格 開発課長 保管担当 帳簿補助 会計課長 会計担当 図 1 VETA ムトワラセンター組織図 合 (d)訓練生と訓練コース 計 224名 (2)訓練等の計画と準備 2002 年 1 月からの新期からは従来の木工・ブロッ 技術移転対象はカウンターパートの所長はじめ管 ク・コンピュータ・洋裁・配管の 5 コースに加え、 理職であるが場合によっては指導員にも下記の内容 自動車整備・溶接板金・電気工事・自動車電装・商 で実施する。 (A)管理(計画) A1 施設年度重点方針、行動計画の作成 A2 年間訓練計画の作成 A3 施設機器等整備計画の作成 A4 指導員研修計画の作成 A5 施設評価システムの作成 A6 年度事業概要の作成 (B)管理サイクル B1 実践的管理マニュアルの作成 B2 P―D―C―A サイクルの習慣づけ B3 業務分掌による業務範囲の明確化 B4 改善ミーテングの定例化とその応用 B5 月別、期別データの整理と共有化 B6 訓練進行チェックと統制 B7 施設内研修の実施 (C)管理者と指導員の連携 C1 指導員プロファイルの活用 C2 効果的なミーテング(計画的・タイムリーに) C3 対人コミュニケーション技法の研修 (D)指導員の資質向上 D1 訓練目標の作成 D2 時間・週間・月間訓練計画の作成 D3 入所―訓練―就職迄のサイクル整備と開発 D4 計画―実行―検討(統制)の習慣化 D5 評価方法の改善 (E)指導力の向上 E1 レッスンプランの作成と習慣化 E2 実技示範力の向上(自己技能チェック表) E3 指導技法の改善と研究会 E4 視聴覚機材の活用と自己研鑽 E5 内外の研修会の参加 (F)設備保全 F1 実践ガイドブックの作成 F2 年度重点目標と評価 業・木彫の 6 コースが増設され、 計 11 コースとなっ た。訓練生の年齢は 16 歳から 23 歳までにわたって おり、初等学校あるいは中学校卒業直ちに入った訓 練生は少ない。訓練受講料は有料の寮費込みで年間 90,000 シリング(約 13,000 円)がいる。これをムト ワラ地域の貧しい家庭が揃えて入学することは容易 ではない。1 ヶ月の間は各コース訓練生全員が揃う 事は難しい。 (e)カウンターパート *氏名 :George S. Mhina (年齢:44 歳) *職位 :センター所長 *略歴 :学士卒、十分な指導員経験等がある。 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ 「タ」国における最後の RVTSC として設立された ムトワラセンターは他の施設と違い稼動実績を持た ない新設のセンターである。機材整備を充実させた としても職業訓練の向上にはつながらず、以下次の 技術移転が必要となってくる。 ① 機材の維持管理 ② 指導員への教育訓練 ③ 訓練管理の浸透 ④ カウンターパート(所長)への技術移転 ⑤ カリキュラム開発 175 事例 40 F3 実習場レイアウトとその合理性の確認 F4 安全通路の確保 (G)機器等保全 G1 使用前・使用後点検 G2 安全作業基準書 G3 機器使用基準書 G4 機器整備台帳 G5 工具整備台帳 G6 機器・工具等修理台帳 G7 定期点検(日・週・月・定期) (e)他施設の調査 ムトワラセンターのベンチマークとして VETA 優 良センター、民間訓練センター等、8 施設の調査を 実施した。その中でも一際目立ったのが Ndannda 職 業訓練センター(ドイツ)であった。日本の短期間協 力と異なり、20 数年にわたり市民と共有している施 設として、また 3 年間の訓練期間で多能工的訓練生 を輩出しているのが印象的であった。 (3)効果的な訓練を行う取り組み (a)機材整備に関わる対応 3.プロジェクトの評価 機材設置が当初計画よりも大幅に遅れ、 2001 年 12 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 月末迄、かろうじて間に合った形となったが、その 当プロジェクトの上位目標は「タ」国南部地域の 後の調整と整備になお数ヶ月要することとなった。 基本設計と実際の据付にはかなりのギャップが生じ、 それに伴う補修工事、電源工事が平行して行うこと 青少年の技能労働者育成であり、またプロジェクト 目標は訓練機材の整備を通してムトワラセンターの 職業訓練機能の向上であった。しかし、センター機 になった。本来の技術移転は設置後からセンターの 能がレベルアップされたとしても訓練生の出口、即 管理運営業務が実施される予定であったが、機器維 ち就職先が少ないということは致命傷である。職業 持・トラブル対策に大半時間が食われるという予定 訓練の父は事業所・会社であり、その連携なしでは 外の作業が入ったのである。 単なる学校として位置づけられても仕方がない。ム ①機材 引渡し後の機器点検と整備 トワラ・リンデ周辺における南東部地域の人口は約 ②設備維持管理基準の作成 100 万人以上で、 8 割強がカシュナッツ主力の零細農 ③実習場における機器等のレイアウト改善 業である。またリンデ・ムトワラ地域の漁業では潜 ④安全通路確保 在的資源が期待されながら旧態漁法で自給が精一杯 ⑤機器等管理台帳作成と現員数の確認 のムトワラ地域の現状。このような環境下で目標達 (b)訓練管理開発 成にアプローチすることに心苦しさは否定できない。 カウンターパート及び管理職への技術移転を容易 機材整備の大幅な遅れ、資材不足等で支障が生じた にするために、年間訓練計画作成法と関連諸計画の が、計画に基づく訓練機能の向上に関しては成果を 作成法、施設運営管理基準の作成、各実習場工具室 8 割強あげることができた。計画的業務に慣れない の改善マニュアルの作成、指導法マニュアル、安全 センターに対しては、共通認識ができるよう基準書 管理テキスト等の作成を行う。 (マニュアル化)の重要さを指導し、仕事の進め方 (c)カウンターパートへの技術移転 では管理サイクル(特に計画−実行)を回すクセを センター所長及び管理職には上記訓練管理資料を 飽きるほど繰り返した。また、当初計画の実習場レ 基に技術移転を行った。 イアウトを改善に次ぐ改善で効率的な実習作業ライ (d)訓練管理セミナーの実施 ンに変えることができたし、工具室では器工具の収 センター指導員の半数近くが基本的な知識・技能 納・取り出しが容易にするために棚・治具等の改良 研修を受けていないし前歴の職種経験も浅い。その で「目に見える管理化」を強調した。これらは整理・ ような彼らに指導員としての心構え、仕事の管理サ 整頓・清掃の「3S」の定着に他ならない。 イクル、仕事の改善法などのセミナーは貴重な体験 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 であった。 立発展性 * 「訓練管理シミュレーション」―20 人/2 日間 当プロジェクトの鍵は機材の維持管理と訓練機能 * 「問題解決法と職場改善」 ― 24 人/2 日間 * 「リーダーシップ」 ― 24 人/2 日間 * 「訓練指導技法」 ― 23 人/2 日間 のレベルアップである。タンザニアでは見られない 訓練機材の充実で、遠くはリンデ、ダンダからセミ ナー(向上訓練)の利用が見られるようになった。 176 事例 40 さらに地域の評価は機材のみならず指導員の技能向 上で、センターへの活用が増えつつある。ムトワラ センターが南部地域の中核センターとして基盤を確 立するためには、海岸に面した湿気の多い環境で機 材をどう維持管理していくか、また訓練管理が常に 計画的に継続できるかどうかにかかっている。 また、 この地域の生活を支えるインフラ、交通網の早急な 整備もセンター発展にかかっている。 4.教訓・提言 写真 2 実習棟 職業訓練施設のレベルの質が問われることが良く ある。それは施設の大小、設備・機器等の量、訓練 生の多少で比較されるものではない。それは訓練施 設の運営管理の高さと管理サイクル(計画−実行− 評価)が良く回されているかどうか、実施されてい る訓練の流れが誰から見ても分かりやすくなってい るかどうか、訓練業務の標準化が徹底されているの か、指導員全体の質が高いかどうか、地域周辺事業 所・市民との連携、コミュニケーションがしっかり とれているかどうか、が客観的な評価として受け止 写真 3 コンピュータ科 められる。また職業訓練の発展は「タ」国において 非常に大切なことである。教材不足で座学一辺倒に なりやすいアフリカで、実学一体化の教育訓練こそ 当国における青少年の人材育成で重要な役割を担う のである。そういう観点から職業訓練を通して国際 協力のありかたを模索できたことに関係者に感謝を 申し述べたい。これからの協力は「金・物」 でなく、 人を通して相互信頼のもとに人材開発を粘り強く発 展させることが大切であろう。アフリカにあった創 造的な職業訓練を支援するには 2 年の短期間では到 写真 4 自動車整備科 底およばない。それにはあの暖かい包容力のある寛 大な人間性をもっと知る必要があろう。 写真 1 センター全景を上空より見る(手前が海) 写真 5 縫製科 177 プロジェクト事 例 〈 中 南 米 〉 事例 41 グアテマラにおける職業訓練拡充プロジェクト 埼玉職業能力開発促進センター 水野 新 (元JICA専門家・職業訓練教育教材開発 2000年7月∼2003年7月) 1.プロジェクトの概要 ② 理事会の構成 (1)プロジェクト実施の背景 官僚側委員 3 名(労働大臣、経済大臣、企画庁長官) 1996 年 12 月の停戦合意により 36 年間続いた内戦 民間委員 6 名(経営者団体代表、農業、工業、民間 が終結し、多くの兵士が職を失った。さらに、内戦 金融分野連合会代表) 中にメキシコ等に流れた難民も戻り、大量の失業者 労働側委員 3 名(農業、工業、商業労働組合代表) が発生し、社会問題となってきている。かつ、内戦 ③ 職員数:1,567 名(正規 675 名、契約 892 名) の影響で製造業が立ち遅れ、国際競争社会で対応で ④ 財政:財政資金は民間企業からの分担金(労働者 きない状態になっており、抜本的な職業訓練の再編 の月給の 1%)である。 整備が急務な課題となってきている。 ⑤ 主な業務 これらの課題に取り組むため、職業訓練庁 職業訓練(養成訓練、在職者訓練、移動訓練等) (Instituto Nacional Tecnica y Capacitacion 技術援助(指導助言、企業診断等) Profecional;略称 INTECAP)は 1998 年に 3 つの改革 技術情報(技術誌、図書室、修了者の人材バンク) に着手した。第一は、地方分権化に対応できる機構 改革である。第二は、労働者の職業生活全般にわた 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 る「新たな職業訓練システムの構築」である。第三 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ は、国の人材育成計画達成のため、指導員養成・研 (a)訓練の種類 修訓練センター、ホテル・観光訓練センター、食肉 各種の訓練コースをとおして、初級、中級、上級 加工訓練センターの新設である。しかしながら、 レベルの訓練を実施している。 INTECAP にはそのノウハウがなく、日本政府に無償 資金協力及び専門家派遣の要請を行った。 表 1 訓練の計画 (2)プロジェクトの目的と目標 種類 定義 特徴 ① 新たな職業訓練システムの構築 若年者 初級レベルの仕事が ② 訓練プログラム及び訓練教材の開発 総合訓練 できる職務を得るた ③ 指導技術の開発 (F.I.T) め、若年者への総合 ・未経験者 的・組織的な訓練 ・訓練期間:1∼3 年間 ・18 歳以上 ④ 職業訓練の管理運営 ・14∼22 歳で 小卒以上(義務教育) (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 技術課程 中級レベルの仕事が (a)実施対象機関 職業訓練庁(INTECAP) 訓練 できる職務を得る、 (b)INTECAP の概要 (C.T) 若年者及び成人への ・未経験者 総合的・組織的訓練 ・訓練期間:1 年間 1960 年 6 月 29 日にグアテマラ政府と米国政府と 中卒又は同程度 の技術協定の締結により、産業促進センター(CFPI) 有資格者 企業経営(管理)に関 ・18 歳以上 が設立された。 その後、 産業生産開発センター(CDPI)、 訓練 連する分野の職務発 ・大卒又は企業幹部経験 国立産業生産訓練開発センター(CENDAP)を経て、技 展のため、幹部及び 術者養成の主導的な活動と、企業の生産性向上のた 経営者への訓練 ・訓練期間:6 ヶ月以内 ・訓練形態により資格条 が 3 年以上 めの技術訓練を目的に、1972 年 5 月 19 日法令第 その他の ・入職前(導入)訓練 17-72 条により職業訓練庁(INTECAP)が設立された。 訓練 ・補完(向上)訓練 件及び訓練期間は多 ・セミナー等 様。 ① 組織:総裁室、4 部、9 室及び 6 地域管轄事務所、 19 職業訓練センター、14 地方センター 181 事例 41 (b)訓練形態 資金協力により機器整備で一定の成果が期待できる ① 企業−訓練センター(デュアル・システム) レベルになったが、指導員の陳腐化により、カリキ (週 1 日センター、週 4 日企業) ュラム、教材、指導技術面での遅れが顕著であるた ② 訓練センター−企業(週 4 日センター、週 1 日企 め、新た職業訓練システムに適合した能力評価を明 業) 確化し、階層別、レベル別の研修制度の確立を図っ ③ 訓練センター内訓練 た。 ④ 事業内援助及び移動訓練 (2)専門家の訓練等への技術協力計画及び実績 3.プロジェクトの評価 INTECAPの訓練体系に基づいて実施されている各 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 種訓練等への協力計画は、技術部長、技術訓練課長 INTECAP は、中米・カリブ地域の職業訓練機関と (C/P)と検討し、表1のとおりに計画、実施した。 の共通目標である 「新たな職業訓練システムの構築」 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 及び「ISO9000 取得」の取り組みを開始していた。 養成訓練はデュアル方式で実施しており、入所前 かつ、産業界の要請により、若年者(見習工)訓練 に受け入れ企業と訓練契約を結ぶため、卒業後は契 から在職者訓練へ大きくシフトするため、体制の整 約企業に就職している。 備及び訓練計画、教材開発等を検討していた。 しかし、契約企業が確保できない若年者に対して これらの課題を進めていくために、わが国の職業 は、変形デュアル方式(訓練主体が訓練センター)に 訓練及び教材開発分野への指導助言のための専門家 より訓練機会の拡大を図っているため、終了時の就 要請が行われた。 職先の確保が課題となっている。 訓練ニーズの把握、訓練コースの開発、訓練教材 具体的には、訓練生が個々に就職活動をしている。 の開発、指導技法、訓練評価という一連の体系を、 組織としては、理事会を通じて多くの修了生の受け C/P に技術移転を行い、その成果を他の職員に「セ 入れを企業団体へ要請している。 ミナー形式」で普及促進を図った。かつ、各種マニ 問題点は、訓練施設の老朽化と訓練の旧態依然の ュアル・テキスト等の作成により、円滑な技術移転 体質である。1970年代に行われたドイツの協力によ を図った。 り、職業訓練(デュアル方式)の基礎固めの技術協力 一方、INTECAP は企業支援の充実を図っており、 が行われ、一定の成果をあげてきた。 特定企業を選定して、技術レベルの事前評価、プロ その後も各国の部分的な協力で補強してきたが、 グラム作成、教材作成、訓練実施、訓練評価等の一 老朽化は進んでいる。かつ、訓練システム(デュアル 連を行なうパイロットプロジェクトへの指導助言を 方式)は、技術革新及び産業構造の変化により、多様 も行なった。 な企業ニーズに対応でき得なくなってきている。上 INTECAP ではわが国の「5S」運動を取り入れてお 述したとおり、これらの諸課題を解決するため、 り、その推進を目的に、 「5S」CD 教材(自学自習教材) INTECAPは3つの改革に着手した。この具体化のため を作成し、10,000 人規模の「5S」研修を実施してい に諸外国へ技術協力の要請を行った。特に、わが国 る。 の無償資金協力及び技術協力への強い要請があった。 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 立発展性 訓練生支援は、 「グ」国の先住民支援対策に加え、 新たな職業訓練制度は、2003 年より本格実施して INTECAP独自の奨学金制度で実施しているが、中退者 おり、今後は、実践及び評価の指導助言が必要にな の減少にはつながっていない。INTECAP奨学金制度で ってくる。特に、指導技術の向上では、指導技術 は、訓練の必要経費(教科書代、教材費等)は無料で (PROTS)セミナーを実施して一定の成果をあげてい あるが、生活費は十分に満足のいく額ではなく、か る。この成果を基に、中米・カリブ地域の指導員の つ、修了しても就職が約束されたものでないため、 指導技術向上を目的に「地域特設」を開設し、本邦 途中で適当な働き口が見つかればやめてしまう。 研修を実施中である。 定着・継続の鍵は、訓練内容の充実である。無償 かつ、中米・カリブ地域の職業訓練機関は、定期 182 事例 41 会議、専門家派遣、情報交換等を通して、成果(物) この問題を解決するには、第一に、諸課題を相手 の共有化、職員の人材育成等を自主的に実施してい 機関に考えさせる。第二に、専門家と相手機関との る。 信頼関係を構築する。第三に、専門家は、C/P に適 一方、 「グ」国の産業構造は、農業からサービス 切で具体的な指導助言をする。第四に、C/P 自身が 業へ大きくシフトしている。 「グ」国の外貨収入のト 技術・ 技能の習得が実感できるように行う。 第五に、 ップは、コーヒーから観光にとってかわった。今後 C/P とともに成果(物)をあげ、所属機関から高い評 とも農業の一次産品(コーヒー、砂糖、バナナ等)の 価を得られるようにすることであると言える。 国際価格は下落すると予想されている。 したがって、INTECAP は、観光庁(INGUAT)との協 議で、今後の成長が見込まれる「ホテル・観光分野」 の人材育成は、INTECAP が担うことになり、本部棟 に「ホテル・観光訓練センター」を建設し、 2003 年 から訓練を実施している。 4.教訓・提言 (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 協力活動で常に念頭においたのは「自助努力」で ある。専門家が行なう技術移転は、主にわが国で開 発されたものであり、それを C/P が習得し、 「グ」国 にあった適正技術にしてはじめて定着発展が可能で ある。そのためには、相手機関にこの「自助努力」 写真 1 フライス盤での指導風景 を理解させ、実践させないと、せっかく技術移転し たものが、C/P 自身の技術向上、及びマニュアル・ テキストの作成のみで終わり、 定着発展は望めない。 そのためには、①知識、技術、教材(マニュアル) 等の共有化、②共同(チーム)の作業、③進行管理(チ ェックリスト)、④評価(確認・観察)、⑤業務への反 映(フィードバック)を明確にして、仕事(技術移転) を進めることが重要である。 これを具体化するためには、あるレベルに達した 人材の確保が重要である。幸運にも C/P はヨーロッ パの留学経験があり、先進国の職業訓練に対して一 定の知識と経験を有していた。しかし、技術移転を 「セミナー形式」で INTECAP 職員に実施したが、基 本的な知識、技術面での格差が大きく、短期間での 指導では困難であり、組織全体のものにはなってい ない。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 ラテン・ アメリカ諸国の C/P 機関の一般的特徴は、 先進国とりわけわが国に対する信頼度は高いものが ある。したがって、業務(技術移転)は、比較的円滑 に進むが、その技術の定着発展までも、わが国に頼 る傾向がある。 183 事例 41 表2 訓練計画 第一年度 第二年度 第三年度 2000.08∼ 2000.12∼ 2001.04∼ 2001.08∼ 2001.12∼ 2002.04∼ 2002.08∼ 2002.12∼ 2003.04∼ 年月日 11 2001.03 07 11 2002.03 07 11 2003.03 07 期間 指導項目 指導計画 新職業訓練システム 指導実績 試行 実施 試行 実施 指導計画 カリキュラム開発 指導実績 指導計画 教材開発 実施 指導実績 指導計画 指導技術 PROTSセミナー 指導実績 PROTSセミナー 指導計画 管理運営 試行 指導実績 実施 事前調査 無償資金協力 供与式 機材設置 184 稼動 事例 42 パラグアイ共和国における 日本・パラグアイ職業能力促進センタープロジェクトの実施 中央職業能力開発協会検定部検定第三課 高中 克明 (元 JICA 専門家・チーフアドバイザー) 1.プロジェクトの概要 併せて訓練センターの運営管理体制を充実させるこ (1)プロジェクト実施の背景 ととした。 日本政府はパラグアイ共和国司法労働省職業訓練 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 局(SNPP)西部支局の電気・電子センターに対して、 (a)実施場所 1989 年に無償資金協力による機材協力を実施する プロジェクトの実施場所として、パラグアイ首都 と共に同年から個別専門家の派遣を行い、技術協力 郊外の主として若年者を対象とした中期の養成訓練 を行った。しかし、その後の南米共同市場(メルコス を実施していた中部センターに併設することとし、 ール)の発足やイタイプダムと水力発電所完成後の センターの名称を新たに日本−パラグアイ職業訓練 電化政策の推進及び海外からの進出企業により、パ センター(SPP-PJ)とした。 ラグアイ国内における新技術の導入、生産の自動化 (b)実施体制 及び電気・電子応用機器の普及が急速に進んだ。こ プロジェクトチーフ・ アドバイザーの C/P として、 のことから、産業構造の変化に対応する電気・電子 司法労働省職業訓練局長及び訓練センター所長が指 分野の技術・技能者の不足が大きな課題となった。 名され、電気・電子等各4専門分野に平均 10 名の (2)プロジェクトの目的と目標 C/P(インストラクター)が配置された。 パラグアイ政府は電気・電子分野における技術レ プロジェクト開始直後は C/P の配置に不足があっ ベルの向上を図ることを目的に在職者を対象とした たが、徐々に改善されプロジェクト中期には R/D に 技能向上訓練システムの確立、職業訓練指導員の再 記載された定員以上の配置がされた。 訓練及び職業訓練指導技法の向上、並びに職業能力 日本側のプロジェクト構成はチーフ・アドバイザ 開発事業の地方拡大を図るためのプロジェクト方式 ー、調整員、4 分野の専門家及び訓練管理担当専門 技術協力の要請を行った。 家(プロジェクト開始後 2 年のみ)であり、現地スタ 具体的なプロジェクトの目標として、 「日本・ パラ ッフとして 2 名の補助員を採用した。 グアイ職業能力促進センターにおいて、電子技術分 (c)活動内容 野(電気・電子・制御・冷凍空調)を中心に質的に 1)施設運営管理 改善された向上訓練及び指導員再訓練が展開できる 職業訓練施設の広報、受講者募集、訓練コースの ようになる」とした。 記録、評価、フォローアップ等施設の効率的な運営 目標は、 「技術移転によりパラグアイ国自身で電 管理の移転。パソコンを導入し、データ管理の可能 子技術分野を中心とする質的に改善された技能向上 を目指した他、適切な運営管理に即したスタッフの 訓練を提供することができる」とした。 配置を指導。 特に、プロジェクト開始直後の進出企業を中心と 2)向上訓練コース開発 した聞き取り調査(約 110 社)の分析結果で、公共職 在職者を対象とした技能向上訓練(4 専門分野)で 業訓練のレベルが企業ニーズに応えていなかったこ あることから、短期間・即効性を最重視し、1 コー とから、期待されていなかった事実が判明した。 スを約 20 時間で修了可能なコースを開発すること このことから、指導員の再訓練による質(レベル) とした。また、調査結果に基づき仕上がり像を具体 の改善(向上)及び在職者を対象とした向上訓練コー 的に掲げコース開発に係る移転活動をした。 スの改善(ニーズに合致したコースの開講)を図り、 コース毎に目標、教材作成、機材・資材、担当等 185 事例 42 の計画作成、専門技術の移転を行い、コースの体系 ていた。ブラジル、アルゼンチン等からの進出企業 図(コースの関連性による連鎖)を作成した。 の多くは綿花、農産物、乳製品等パ国の第一次産業 3)指導員再訓練 の産物を自動化機器の駆使で大量生産し、自国へ輸 公共職業訓練の場として SNPP が設置・ 運営する訓 出している。パ国の技術者の不足から、機器の保全 練センターで指導を担当する指導員の質(専門分野) に係る技術者はブラジル等からの派遣に委ねられて の向上が課題であった。プロジェクト開始以前の公 いた。パ国は技術者の不足を解消すべく、2001 年に 共訓練は機械、電気、自動車、溶接等の基礎的な中・ 5 ヶ年計画を立て、プロジェクトの活動はその一翼 長期訓練であり、指導員の研修の場が設定されてい を担うものとなった。 なかった。向上訓練コースの開発と同様に、指導員 (2)訓練等の計画と準備 を対象とした訓練コースを体系化させ、基礎から高 (a)向上訓練コース 度、応用へと連鎖させ開発し、研修の場を与えるこ 専門分野の専門家は C/P と訓練体系の全体像を検 とにより、資質の向上を図った。 討し、ニーズ、機材を考慮に 20 時間程度の個別のコ 4)職業訓練の地方展開 ースを設定した。各個別コースの到達目標、資材計 在職者を対象とした向上訓練コースは、SPP-PJ の 画を含め専門分野の技術移転を行った。C/P の指導 近郊に勤務する労働者のみに受講の機会が与えられ、 担当範囲の拡大を念頭に置いた。 地方に勤務する労働者からの要望には応えていなか (b)指導員再訓練コース った。地方の訓練センターに勤務する指導員を対象 基本的な計画と準備は向上訓練コースと同様であ とした指導員再訓練コースの修了者が、地方訓練セ るが、受講対象者が指導員であることから、教材の ンターへ帰任後のコース開講に機材の不足が障害と 作成、指導技法、改善の仕方等を含んだ移転内容と なった。 した。 このことから、専門家の C/P が機材を地方へ持ち (3)効果的な訓練を行うための取り組み 込み、地方で開講することにより、地方の在職者に (a)訓練コース体系図の活用 受講の機会を与えることのみならず、地方の指導員 パラグアイ国で訓練コースを体系化し、受講希望 に訓練技法の実践の機会を与える場とした。 者に示した試みは初めてのことであり、それだけで 5)スタッフの配置、事業予算等 反響があった。受講者の現在持っている技術・技能 1997 年 9 月に協力期間 5 ヶ年で開始されたプロジ のレベル・範囲を考慮に受講済みのコースと次に受 ェクトは 2002 年 9 月に 1 年半の期間が延長され、 講するコースとの関連を具体的に紹介するシステム 2004 年 3 月に高い評価を得て終了した。 を導入したことによりリピーターとさせた。このこ 協力期間中にチーフ・アドバイザーを含め延べ 13 とが受講者増に繋がった。 名の専門家が派遣され、14 名の短期派遣専門家を迎 (b)実技重点のコース えた。 専門分野の C/P は一部の交代を含め 43 名を数 パラグアイ国の多くの教育訓練現場では、機材の えた。C/P の本邦研修は職業能力開発促進センター 不足から理論を重点としたカリキュラムとなってい 等へ延べ 14 名が受け入れられ、 帰国後の技術移転は たが、SPP-PJ ではコースの重点を実技中心とした。 スムーズに展開した。 このことから在職者に注目を集めた。 期間中に供与された機材費は現地調達を含め約 (c)広報 3.9 億円で、施設運営に係る費用は SNPP が十分では パ国のプロジェクトにかかる直接の期待は技術・ なかったが負担した。 技能者の不足を解消することであった。より多くの 在職者にコース内容が届くようテレビ、ラジオ新聞 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 を活用した。公共機関の窓口にもパンフレットを置 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ き、インターネットのホームページも開設した。 パラグアイ政府はメルコスールの完全実施に向け IT 関連技術をメルコスール加盟諸国(ブラジル、ア ルゼンチン等)レベルまで引き上げる必要に迫られ 186 事例 42 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 (a)企業訪問 立発展性 受講者の所属する企業を訪問し、受講者が受講後 (a)インパクト の現場での業務で「何がどのように変わったか」調 パ国で電気・電子分野の在職者訓練コースは、プ 査し、改善に努めた。 ロジェクトの開始により初めて当該分野の在職者に C/P であるインストラクターに講義後の追跡調査 技術、技能の向上に係る受講の機会を与えた。プロ として企業訪問をさせ、講義内容がどのように活か ジェクト中期までの成果から、国は新たな中期計画 されているのか、確認とともにカリキュラムの改善 に「新たなビジョン」として、プロジェクトの提案 に活用させた。結果、受講者の増加がみられ、C/P であった在職者訓練の重要性を反映させ、地方セン の士気が向上した。 ターにスペインからの機材供与を当てることとした。 (b)自立発展性 3.プロジェクトの評価 各専門分野のコース数の拡大、他専門分野のコー (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 スとの関連強化等、今後数年間に渡る計画を C/P 主 (a)職業訓練の質の向上 体で立てた。パ国は農牧製品主体の産業に自動化が プロジェクト開始前の公共職業訓練は、若年者を 近隣諸国から進入し、工業化はスタートしたばかり 対象とした自動車整備等 6 ヶ月の基礎コースの他、 である。 在職者訓練としては生活に密着した美容、理容、料 電子・制御・情報分野の指導員養成施設建設が強 理にかかるコースしか開講されていなかった。プロ く望まれている。現 C/P が柱となって活動されるこ ジェクト開始後の後半では IT 関連コースを含め専 とが期待されることから、SPP-PJ の業務の重要性は 門 4 分野で 160 を超えるコースが開発され開講に至 益々大きくなる。C/P の定着率が高いことから、自 った。首都圏の電気・電子分野に勤務する在職労働 立による発展性が高い。 者約 7,000 人に受講の機会を与えることができたこ と、及び受講後のアンケートの結果から多くが生産 4.教訓・提言 現場で活用が可能な訓練内容に満足を示しているこ (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 とから妥当なプロジェクトと言え、提供する訓練の (a)機材不足を補う移動訓練 質は大幅に向上したと言える。 プロジェクトの拠点である SPP-PJ センターに整 (b)指導員(インストラクター)の質の向上 備された機材は、満足するものではないが、必要最 専門家から技術の移転を受けた C/P がコースを立 小限の訓練機器、消耗機材は満たされていた。しか ち上げ開講し、改善を重ねる。1 人の C/P が担当で し、地方の訓練施設では整備が大きく遅れている。 きるコース数を増加させ、担当コースの幅を持たせ 地方の訓練施設等に勤務する指導員が SPP-PJ セン ることが肝要であることから、伝達研修として他の ターでの「指導員再訓練コース」を受講後、地方の C/P のコースに積極的に参加させた。 訓練施設で同様のコースの開講を試みても機材の不 プロジェクトの柱の一つであった「指導員再訓練 足から満足するものではなかった。リーダーの C/P コースの構築」は、SNPP 傘下の訓練施設の指導員の である SNPP 総局長に定例打ち合わせで改善を促し みならず、文部省傘下の工業高校教諭へも受講の機 てもすぐに改善できる課題ではなかった。窮余の策 会を与えた。このことは、専門家が C/P に伝えた技 として、C/P が機材を地方施設へ持ち込み(移動訓 術・技能が C/P から多くのパ国の指導者へ移転され 練)向上訓練コースを担当することにより、機材不 効果の拡大が図れた。プロジェクト終了時には指導 足を補うと同時に地方の指導員へのモデル授業とし 員再訓練コースを向上訓練コース同様に体系化(40 た。 コース)し、選択の幅を広げた。 187 事例 42 (b)インストラクターの兼職 トでの目標はより具体化し、専門家と C/P の定例打 公共訓練施設での指導員の給与水準は民間に比べ ち合わせ会で「在職者が受講後に生産現場での生産 相当低い賃金である。年間のインフレ率が 30%以上 活動の場で受講内容がどのように活かされたか」と の国で知識・技能を持つ公務員は平行しての収入源 した。短期間で即効性のあるコースでなければなら を探す。約 40 人の C/P のうち 70%が国営企業や教 ないとした結果、 受講者の急増が見られた。 しかし、 諭等の兼職を持っており、SPP-PJ のインストラクタ 受講者がどれだけ増加したではなく、1 人 1 人の受 ー業務に少なからず悪影響をあたえている。職業訓 講者の評価が結果として、PDM の上位目標に到達す 練指導員に専念できる優遇措置を図るべきである。 ることを常に念頭に置くことが肝要である。 (c)頻繁な政府機関役員の交代 (b)C/P が地方センターの専門家となる パ国の技術専門分野(4 分野)における C/P 配置員 専門分野の優秀な C/P のうち 2 名が地方訓練セン 数(R/D)は各 4 名であったが、 成果が出始めたプロジ ターの課長を経て所長に昇格した。 ェクト中期では各 10 名の配置となり、 専門家を喜ば プロジェクトでの C/P の定着はすばらしいものが せた。 あり、SNPP 組織内で殆ど異動はみられなかったが、 反面、リーダーの C/P である SNPP 総局長は労働大 プロジェクト中期に SNPP 側からの昇格提案があり、 臣の交代に合わせ交代してきた。軌道に乗り始めた プロジェクトとしては懸念を示した。結果として訓 頃の交代で、引継ぎも行われないことから苦労を強 練・ 運営管理を含め SPP-PJ の方式が地方へ拡大され いられた。途上国の常識と言われるが、改善すべき ることとなり、高い評価を得た。 課題である。 (c)他国ドナーとの連携 (d)資格制度の確立 プロジェクト開始後に隣国ブラジルがパ国内で技 パ国には技能・技術に係る資格制度が電気工事の 術協力を開始させた。お互いのドナー国が補完する 一部を除き確立されていない。国立電力会社が国の よう連携を深めた結果、ブラジルが基礎コースを担 委託を受け、民間訓練施設で講習会を開講し、修了 当し、 基礎コース修了者を対象に SPP-PJ の高度なカ 時の資格試験合格でその資格を与えている。 リキュラムを繋げた。他ドナー国との意見交換の場 日本の技能検定制度同様に技を客観的に評価する を設けることがその地域の発展に繋がった。 (d)ブラジル SENAI、ILO・CINTERFOR との関係強化 制度の確立が急がれている。 パ国はメルコスール加盟諸国では後進国であり、 (e)C/P の定着と専門家の派遣 C/P へ「現プロジェクト終了後も現職として継続 他の新進諸国、機関から学ぶことが多い。メルコス するか」を問うアンケートを取った。結果、定着率 ール加盟国、SENAI、CINTERFOR を招いてパ国政府と が高かった理由の一つとして「専門家の近くにいる プロジェクトの共催で開いた国際セミナーはパ国政 ことで、新しい技術・技能が学べ、新しい機材に接 府職員に意識改革の大きな成果を上げた。 することが可能である」と集約された。パ国はプロ パ国のみならず、国境を越えた技能の客観的な評 グラムソフトの更新等ランニングコストの配慮が必 価制度の構築等検討すべき課題は多く、連携が強く 要であると同時に、先進隣国であるブラジル、アル 望まれる。 ゼンチン等からの短期専門家受け入れについて実施 (e)政府高官の高い認識(自助努力)の継続 パ国の職業能力開発のリーダーである SNPP 局長 に向けた検討が必要とされる。 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 がプロジェクト協力期間中と同様な人造りに係る高 (a)目に見える成果「何がどう変わったか?」 い認識を持ち、中期目標達成のための自助努力を継 続することが、諸隣国との競争に追いつくことであ プロジェクト方式による技術協力は予め協力期間 る。 が決められており、期間内に相手国の要請に合った プロジェクト期間中は、定例的に議論・検討の場 成果を出さねばならない。 PDM(プロジェクト デザイン マトリックス)の上 を持ち、お互いの信頼の基に築きあげたが、プロジ 位目標は「パ国の電子技術分野における技能労働者 ェクト終了後は、自らの努力で築き諸隣国との競争 の需要が満たされる」とされた。プロジェクトサイ に勝たねばならない。 188 事例 43 メキシコ合衆国の電子分野における 研究・教育手法の開発に係る技術指導プロジェクトの実施 京都職業能力開発促進センター 平松 重巳 (元 JICA 専門家・電子分野における研究・教育手法の開発) 1.プロジェクトの概要 できる必要があります。外国から導入した先端技術 (1)プロジェクト実施の背景 を、メキシコ国内でメキシコの技術者が発展させる (a)メキシコの経済 ことのできる能力も国際競争力をつけるために欠か 2002 年のメキシコの GDP は 6,153 億ドル、一人あ すことは出来ません。 たりの GDP は 6,312 ドルとなっています。GDP は G7 しかしながら、外国資本の製造業に付随するメキ 及び中国に次いで第 9 位の規模です。1965 年大きな シコの協力企業(下請け)は非常に少なく、協力企業 市場であるアメリカとの国境地帯にマキナドーラと をその国からつれてきたり、部品を輸入したりして いう工業地帯を作り上げ、優遇税制をもって輸出産 います。メキシコの技能・技術のレベルが低いため 業を振興してきました。その後マキナドーラ地域は 満足な部品等を供給できないことが現状です。 内陸にも拡大されています。その結果アメリカの 8 賃金が安いだけでは、企業誘致はさらに賃金の安 分の 1 という安い労働力を求めて、アメリカはもと い国へ逃げていくのは明白です。充分な技能労働者 より日本企業も多数進出しています。これが原動力 の供給と先進技術を応用・発展できる能力を持った となり、メキシコを世界第 9 位の GDP を持つ国に育 技術者の育成が急がれています。 て上げました。 この背景には 1990 年代からの経済政 (c)メキシコの教育・訓練(職業能力開発)実施機関 策の成功があるといえます。93 年の APEC 加盟、94 日本では学校教育は文部科学省が、職業能力開発 年の NAFTA(北米自由貿易協定)締結、 OECD への加盟、 は厚生労働省の管轄になっていますが、メキシコで 94 年 12 月の通貨危機を通貨切り替えで乗り切った は教育・訓練は教育省の管轄になっています。 ことなどが上げられます。また、平成 16 年 9 月には メキシコの職業技術教育は技術教育研究次官局が 日墨経済連携協定が締結され、日本とメキシコの経 担っています。職業訓練は職業訓練センター局 済交流がより密になろうとしています。一方、NAFTA (DGCFT)が運営する国立職業訓練センター(CECATI) 締結の結果、アメリカの安い農産物が輸入されるな および州立職業訓練センター(ICATHI)が実施してい どの事情があり、南部のチアパス州では農民を中心 ます。 国立は全国に 198 所、 州立は 142 所あります。 とした反政府組織が活動を活発にしています。この 職業訓練センターは入学資格を問わないことからそ 地方の農民一人あたりの GDP は 500 ドル以下といわ の訓練を必要としている人々が受講者となっていま れています。国内に大きな経済格差を持っているた す。そのため、受講者は Off-JT の労働者、就職のた め、地方から大都市へと人口の移動が起こり、その めに技術・ 技能を身に付けようとする学生(訓練は二 労働力を大都市が吸収できないため大きな社会問題 部制のため学生も受講可能)、求職者、主婦等様々で となっています。 す。 国立職業訓練センターの訓練方式はモジュール方 (b)優れた技能者・技術者の必要性 米国の 8 分の 1 という安い賃金と貿易自由化や規 式で、51 職種に 230 コースが準備されています。各 制撤廃でメキシコに外国資本の製造業の進出を容易 コースともおおよそ 80%が実技で 20%が学科とな にしており、こうした製造業が雇用創出の 70%を担 っており、実技が重視されています。1 コースの時 っています。今後も製造業の拡大が雇用の面でも非 間数は 120∼600 時間(3∼6 ヶ月)で、終了後は各コ 常に重要です。メキシコは誘致した先進技術の企業 ースとも修了証書が発行され、モジュールを構成す に、その技術に対応できる技能労働者を充分に供給 るコースを積み重ねると一つの資格になる職種が多 189 事例 43 くあります。 第 3 点目は設備の問題です。全国画一のカリキュ 職業訓練センターはいくつかの大きな問題を抱え ラムで運営されているはずですが、設置機器は各施 ています。 設にばらつきがあり、統一がとれていないし、十分 第 1 点目は各設置科の訓練内容についてです。職 とはいえません。 業訓練センターは基本的には自営業者の育成を目的 第 4 点目は修了生の資格の問題です。修了証書は としています。その為徒弟制度を念頭において設立 でますが、それが全国的に権威をもって迎えられる されています。徒弟制度は親方が弟子を訓練し一人 ものとはなっていません。技能標準とそれに伴う修 前の職人に育てていくものであり、弟子は一人前に 了試験とでも言うべきものが必要になってきます。 なれば親方から独立し、自分で開業することになり また、このことは、何も職業訓練センターの修了生 ます。これは個人営業なり、個人技能・技術が大き にとどまるのではなく、在職者も含めた技能検定制 なウエートを占める分野において許されるものであ 度の必要性も含めて考える必要があります。この点 り、企業で就業する訓練内容とはなっていません。 については、 メキシコの社会制度(アメリカ型学歴社 第 2 点目の問題は、指導員の資質についてです。 会とヨーロッパ型社会の混在)もあり、難しい面が 職業訓練センターの指導員はいわゆる現場上がりの 多々あるようです。 方が多く、それゆえに時代の変化についていくこと DGCFT は CECATI の抱える問題を解決するために が難しいと言えます。専門知識についても言葉とし 2000 年 11 月 5 日に職業訓練研究開発センター ては知っているが、内容はそれほど詳しくはないと (CIDFORT)を設立しました。CIDFORT は DGCFT が実施 か、指導順序についてもばらばらであり、体系的な する事業の質を充実・向上させるために教育システ 訓練を自分で作り出すだけの力がありません。これ ム・教育技法の開発、カリキュラム・教材開発およ らを解決していくには、指導員の高度化研修を実施 び成果物の普及を行うことを業務としています。 することが必要となってきます。 計画調整次官局 [独立法人格] 事務局 基礎通常教育次官局 国立ポリテクニック大学 特別連邦区教育事業次官局 国立職業技術高校 科学研究・高等教育次官局 技術教育研究次官局 中等技術教育局 産業技術教育局 教育相 CETIS(産業技術高校),CBTIS(職業高校)を運営 CNAD(職業技術教育活性化センター)や CET-MEJA(日本−メキシコ技術学院) 工業大学局 農林技術局 海洋技術局 職業訓練センター局 (DGCFT) 国立職業訓練センター(CECATI)を運営 州立職業訓練センター(ICATHI)を監督 国立技術教育システム庁 国家科学技術審議会 職業訓練研究開発センター (CIDRORT) 図 1.教育省の組織図 190 事例 43 (2)プロジェクトの目的と目標 織です。そのために財務省から DGCFT へは CIDFORT 2001 年 4 月から 2003 年 10 月末までは個別専門家 の為の予算は流れてきません。CIDFORT の運営予算 として派遣されました。要請内容について説明する は DGCFT の内部のやりくりでまかなっています。問 前に CECATI で実施している電子科の内容について 題点は人件費です。人件費は直接教育省から出てい 述べます。内容はほとんどの他の訓練科と同様に自 ますが、財務省に認められていない組織であるため 営修理業者を養成するためのものであり、カリキュ 職員の給与が非常に低くなっています。例えば所長 ラムは、オーディオ修理、AM/FM ラジオ修理、TV 修 の給与は指導員の給与であり、一般職業訓練センタ 理、VTR 修理となっています。このような職業訓練 ー所長の給与の約 60%です(月額約 900 米ドル)。ま の現状の中で、当初要請は「電子分野における研究・ た、研究者の給与は、もともと認められていない事 教育手法の開発における技術指導」という指導科目 から上級技師(指導員より格下)の給与です(月額約 名が示すように、CECATI の電子科に関することまで 500 米ドル)。このことは優秀な研究者を雇用する上 は理解できたのですが、具体性の無い漠然とした要 で非常に大きなネックになっています。また、優秀 請でした。そこで、職業訓練センター局と数回の会 な者を異動させて CIDFORT に勤務をさせようとして 合を持ち具体性を持たせ、要請内容を、企業人養成 も所在地が Hidalgo 州 Pachuca 市というメキシコ市 のための電子科のカリキュラム作成及び、指導技法 から約 100 ㎞北方の地方都市なので敬遠をされてい の指導としました。当初は職業訓練センター局が実 ます。労働組合が強いので無理強いは出来ないこと 施する電子科の訓練内容の見直しと教育・研究手法 となっています。CIDFORT は職業訓練センターの抱 の開発業務を行っていましたが、それに加えて、局 える様々な問題を解決するために作られた施設です。 長の要請により、Web 訓練教材作成セミナーを構築 ところが、給与の低さから職業訓練という単語は知 し、実施しました。 っていてもその実際を知らない研究者しか集められ 2003 年 11 月から 2004 年 3 月までの期間、プロジ ないことがありました。そのため与えられた仕事は ェクトという格付けに変更されました。CIDFORT は こなせてもそれを職業訓練のために生かすというこ 前述のような理想を持って作られた組織ですが、い とができません。また、ある程度指導員経験がある くつかの理由により、うまく機能をしていません。 人であっても指導員教育を受けていないため訓練カ そのため、DGCFT 局長より、CIDFORT の指導を要請さ リキュラムを作成したり指導案、作業分解票を作成 れました。具体的には、CIDFORT が実施する指導員 したりすることができません。このような人員を有 訓練の増加、CIDFORT 自前の教材作成、DGCFT の電子 効に活用して前述の CIDFORT の任務を遂行するため 図書館運営体制の構築(CIDFORT が管理)、遠隔訓練 には非常に大きな労力を必要とします。彼らに不足 の試行の取り組み(CIDFORT が管理)になります。し しているのは彼らを教え導く指導者です。知らない たがって、プロジェクトでは以下の項目が業務実施 だけで決して無能ではありません。方向性をもたせ 計画となりました。 ることが大切です。 ① 指導員訓練の計画、 実施方法に対する助言、 指導。 (b)CIDFORT の運営費 ② Web 訓練教材作成方法セミナー実施の技術移転。 CIDFORT には年間約 800 万円の運営予算がついて ③ 企業人養成の為の電子コースの構築。 います。 これとは別に機器類については本部(DGCFT) ④ 電子図書館の設置に対する助言、指導。 申請となっています。2001 年は開設した次の年にあ ⑤ 遠隔訓練の試行に対する助言、指導。 たり運営費で備品を揃えていきました。2002 年、 (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 2003 年は技術教育次官局(SEIT)全体に財務省から (a)実施対象機関 予算が流れてこなかったため CIDFORT は運営費がな 対象機関は CIDFORT でした。CIDFORT は行政組織 い状態でした。 の中には無い組織です。CIDFORT は DGCFT に入って また、Hidalgo 州から CIDFORT への資金援助があ おられた日本人専門家の提言により、前局長が作っ ります。2003 年はハイルーフ実習場(約 2,000 万円) た組織で、2000 年 11 月 5 日に開所式を行いました 及びコンピュータ、電子関係の計測機器(約 800 万 が、実際には、財務省に認可をされていない闇の組 円)の援助がありました。2004 年は約 2,500 万円の 191 事例 43 援助がある予定です。州からの資金援助は毎年ある (a)指導員訓練の計画、実施方法に対する助言、 とは限りません。 指導(達成度 126%) CIDFORT が指導員研修を実施するための施設とい 2.プロジェクトにおける指導員研修の実施 うこと、即ち CIDFORT の役割を説くことから始め、 (1)プロジェクトにおける指導員研修の位置づけ 各職員に協力を求めながら拡大をしていきました。 CIDFORT は研究開発機関であり、その成果を指導 2003 年の目標は研修回数 23 回としました。これは 員に伝達する責務を負っています。指導員研修を実 研修回数 2001 年 11 回、2002 年 12 回の実績である 施する事は CIDFORT の大きな部分を占めています。 ことからその倍を目標とした数字です。結果は 2003 (2)指導員研修の計画と準備 年に 29 回を実施しました。 計画は年度計画として全国の職業訓練センターに (b)教材作成方法の技術移転(達成度 80%) 公表し、受講者を公募します。公募とは別にオーダ CIDFORT は職業訓練教材開発の役目を持っていま ーメードで各州からの要望に応えることもあります。 す。現時点ではどの部門が何科のどのような教材を この場合は CIDFORT の研究員が出張をする形になり 作るのかということは明確にされていません。職業 ます。 訓練センター(CECATI)訪問や CIDFORT で行っている 教材の準備は CIDFORT の成果物を指導員に対し訓 指導員研修を見たときにまず感じるのは、指導員あ 練するわけですから問題がありませんが、指導案の るいは CIDOFRT の研究者が作る教材の不満足さです。 準備、すなわち伝達研修の実施方法について準備が 一部の物を除きそれらは非常に素晴らしい取扱説明 必要となりました。 書です。職業訓練のための教材ではありません。す (3)効果的な指導員研修を行うための取り組み なわち、指導員あるいは研究者が職業訓練の指導技 研究員に対し、指導方法を技術移転し、効果をあ 法を知らないし、職業訓練教材の作成方法を知らな げてきました。また、パワーポイントスライドを利 いということが見受けられます。 用したビジュアルな教材の作成についても技術移転 将来、CIDFORT が教材作成を指導することと を行いました。 CIDFORT で行う指導員研修向けの教材を作成するた (4)指導員研修の定着・継続に向けた取り組み めに開発部門、研究部門の研究者を対象に職業訓練 指導員研修の予算は DGCFT 本局が確保しているの 教材作成方法を技術移転しました。プロジェクトの で継続して行われる予定です。 目標値として CIDFORT によって 2 教材を自前作成す る事となっていましたので次の 2 つのテーマに絞っ 3.プロジェクトの評価 て指導員研修用教材を作成することにした。 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 ・訓練に効果的な写真・ビデオ撮影方法 個別専門家の部分について、自分が何を目的に派 ・訓練に効果的なスライドの作成方法 遣されたのかが良く分からないまま派遣されたよう 担当の研究者全員に対し指導法の講義を行い、ま な気がしています。 もし、 私に海外経験が無ければ、 た個別に指導を行いました。その結果、スライドの あるいは日本における職場での経験が無ければ、た 作成方法については満足する内容のものが作られつ だ行って帰ってきただけになっていたでしょう。個 つあり、離任時点でほぼ完成をしていました。写真・ 別専門家の部分については、当初考えていたこと以 ビデオ撮影方法については担当者の能力の問題から 上に局長の依頼である Web 教材作成まで行うことが 少々遅れがちです。また、途中大きな行事が入って 出来ました。 きたため 1 ヶ月ほど全ての CIDFORT 業務が止まり遅 プロジェクトについては 4 月段階から準備をして 滞していました。 いたもののプロジェクトが始まったのが 11 月から (c)企業人養成の為の電子コース であり、供与機材が入ったのが離任間際であったこ ① とから期間が短すぎました。期間があれば規模、内 カリキュラム作成の技術移転 C/P に対して技術移転済み。 容については妥当と考えます。 ② 目標達成度は次のようになったと考えます。 訓練教材作成の技術移転 C/P に対して技術移転済み。 192 事例 43 ③ 試行に対する助言、指導 しないような習慣になっています。CIDFORT の研究 C/P に対して助言、指導を行った。 者が自発的に考えてする仕事が出来ないこと、仕事 メキシコ市にある CECATI No.194 を使用して 2004 のやり方を知らないことに気がつきました。仕事の 年 1 月から企業人養成のための電子コース試行を行 やり方を教える人が教え方を知らないためにこのよ う予定であり、C/P を通して、当時のメキシコ市 うなことが起こっています。このような中で育成さ DGCFT 地方事務所長と打ち合わせを行っていました。 れた人は考えて自発的に業務を行うことができませ ところが、2003 年 10 月に地方事務所長が交代にな ん。言われただけの仕事しかできなくなってしまい ったため話が途切れてしまっています。この時点で ます。業務の目標・目的を明らかにし、そのために 当時の C/P も DGCFT 本局の部長に出世し、私の相棒 どのようにしたらよいかを考えさせながら仕事を技 で無くなったため話が進まなくなりました。 術移転していきました。時間はかかりましたが、研 (d)電子図書館の設置に対する助言、指導 究者の何人かは自分で考えて業務ができるようにな 電子図書館の設置に対する助言、指導を CIDFORT りましたし、また他の研究者に仕事を教えるときに 所長に行いました。供与機材で購入するサーバーに どのように教えたらよいかも身につけられるように ついて電子図書館だけではなく、CIDFORT の成果物 なりました。 を広くメキシコに広げることも含めて提言をしまし (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 た。 このプロジェクトは個別派遣専門家が一人で行っ (e)遠隔訓練の試行に対する助言、指導 た特異なプロジェクトだと思います。あまり参考に 遠隔訓練の試行に対する助言、指導を CIDFORT 所 はならないかもしれません。 長に行うとともに、職員に対しその技術移転を行い 最近、日本の顔の見える国際協力という言葉をよ ました。供与機材が離任間際に納入されたため試行 く耳にします。メキシコでも今まで協力した は行えませんでした。 CNAD(職業技術教育活性化センター)では常に日の丸 上記(d)及び(e)についてはもうひとつ大き がはためいていますし、CIDFORT でも何か体外的な な問題が発生しています。私が助言・指導をした 行事がある毎に、日本の専門家の平松として紹介を CIDFORT 所長が、2004 年 3 月 3 日突然転職をしまし されます。私は日本の顔とは何であろうかと常に考 た。その後任は決まっておらず、暫定的に本局技術 えていました。日本には色々な考え方を持った人が 部長が兼任している状態です。 住んでおり、それらをひとまとめにして日本という (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 顔を出すことは無理というほかありません。 立発展性 一番大切なことは、平松という人間をよく知って ようやく CIDFORT の指導員研修が全国の職業訓練 もらうことです。職員全員に誰彼の隔てなく付き合 センターに知れわたったところです。Web 教材作成 うことです。何にでも顔を突っ込み、相手の身にな セミナーは e-Mexico 政策ともあいまって大きなイ って話をすることであり、みんなと一緒に酒を飲む ンパクトを与えました。電子図書館もすでに稼動し ことだと思います。しかも中途半端な飲み方でなく ていますし、遠隔教育の試行も取り組んでいるはず 徹底的に飲むことで自己を全て相手にさらけ出し、 です。 相手もさらけ出してくれることが大切です。 ペスタロッチは教育の原点はあなたと私、といっ 4.教訓・提言 ています。いかに私をあなたに知ってもらうか、あ (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 なたのことをいかに私がわかるかが教育だけではな CIDFORT の業務と DGCFT 本局の業務が一部オーバ く国際協力にも通じるのではないでしょうか。 ーラップするところがあり、その調整をする必要が あります。CIDFORT のあり方を見直す必要もあるよ うに思われます。 メキシコでは物事を決めるのはトップダウンで行 われます。そのため下の人は言われたことだけしか 193 プロジェクト事 例 〈 ヨーロッパ 〉 事例 44 ボスニア・ヘルツェゴビナ国サラエボにおける平和構築のための養蜂技術訓練事業 特定非営利活動法人 ジェン(JEN) 木山 啓子 1.プロジェクトの概要 サラエボ近郊に住み、養蜂をするだけの土地を所有 (1)プロジェクト実施の背景 する多民族の人々約 40 名、特に生活状態の厳しい ボスニア・ヘルツェゴビナ国(以下ボスニア)は、 人々を優先し、特定することから始めた。養蜂の技 旧ユーゴスラビアから発生した 5 つの国のうちの一 術訓練の後、 成績優秀者には養蜂の道具や蜂を提供、 つで、凄惨な紛争は 1995 年末に終結した。民族紛争 訓練された技術を使っての蜂蜜作りも指導し、訓練 とも位置づけられた紛争では、多くの難民・国内避 期間終了後もモニタリングと指導を継続して直接収 難民が発生し、エンティティと呼ばれる二つの部分 入創出に結びつけた。更に、大きな機械は訓練生達 に国が分かたれた状況が続いている。少数派の難 が共有することで、後の共同作業及び養蜂組合設立 民・国内避難民が出身地(p lace of origin)に帰還で への下地も作った。 きることは、国の持続可能な復興と平和構築の観点 からも重要課題として挙げられている。 2.プロジェクトにおける訓練等の実施 また、紛争により殆どの工場が破壊された結果、 (1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ 元工場労働者の収入創出が復興のためにも急務とさ 本事業において特に注意深く行われたのは、訓練 れた。大規模な工場の再建への巨額な投資が実現し されるべき農業を何にするかという点である。訓練 たとしても、全ての地元民が職を得るには程遠く、 生達が未経験の農業で収入に結びつくものを選定す 少数派でさらに帰還民であれば、就職は極めて困難 ることで、参加者の意欲や持続されてゆく可能性が であることから、農業による収入創出を推進するこ 高まる。又、生産物が運び易く、近隣の市場や知り とが現実的且つ即効性のあるものと考えられた。 合いの間で販売可能であることも事前に再三確認さ JEN は、紛争中の 1994 年から当地で活動を続けて れた。更に、参加者達が共有できる機械があること いた自立支援を旨とする団体である。JEN は、1997 で共同作業を促進し、継続的な平和構築に結びつく 年より平和構築・ 民族共生の事業を実施していたが、 ことも考慮に入れた。 1999 年に至り、これを更に促進する事業を計画、ボ 訓練開始に当たっては、本事業が単なる収入創出 スニアの社会的・政治的・経済的背景に関する調査 の為のものではなく、多民族共生の促進の為のもの より、農業による収入創出に更に平和構築の要素を であることを繰り返し説明し、その意味でも積極的 取り入れることで、持続可能な復興を促進すること に参加するよう促した。 となった。 (2)訓練等の計画と準備 (2)プロジェクトの目的と目標 それまでの JEN による多民族共生のための事業実 本事業の目的は、以下の三つである。 施の経験から、治安に対する配慮がなされた。又、 ① 農業技術訓練による収入創出 教室における集中的訓練では、全ての段階で多民族 ② 少数派帰還民の定着促進 協力が促された。 ③ 多民族共生の促進(平和構築) 更に、訓練生が訓練後、確実にこの技術を使って (3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容 収入創出の為に働くように、収入の道が全くない世 本事業は、ボスニアの首都サラエボ周辺の村で実 帯主を選ぶことで、意欲の高い訓練生を集めた。 施した。調整員 1 名、技術訓練の講師 2 名、運転手 (3)効果的な訓練等を行うための取り組み 1名、 会計担当1名という極めて小さなチームで1999 訓練が難しすぎたり、時間を取りすぎて参加が困 年 10 月∼2000 年 9 月の間、効果的に実施した。 難にならない様、しかし、集中的訓練で十分に技術 少数派の帰還と定着促進が目的であることから、 が習得できるよう、カリキュラムの設定には特別な 197 事例 44 配慮がなされた。旧ユーゴスラビアでは、様々な産 の参加意欲が高く、技術訓練コースの出席率は常に 業のコンクールがあり、養蜂で最優秀賞を受賞した 90%を越えていた。多民族が共に時間を過ごし、共 指導者などが関わって、カリキュラム設定と訓練自 同作業を実施することで、共感が生まれ、民族共生 体を実施した。 に対する抵抗感が更に薄まり、民族共生の基礎が再 (4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み 構築された。又、機械を共有することで多民族の訓 定職がない世帯主でも、昼間は様々な用事で訓練 練生達が協力せざるを得ない体制を作った。本事業 に参加しづらい為、参加しやすい時間帯を選んだ。 の訓練期間中から多民族間の協力を促すよう事業を 又、訓練を終えただけでは養蜂の為の道具や蜂自体 進め、友好的な雰囲気のなかで訓練が終了した。 の提供を受けられず、成績優秀者のみがこれを受領 (2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自 できるということを予め伝えることで、多数の参加 立発展性 を得る工夫をした。 (a)インパクト 成績優秀者として蜂や巣箱の提供を受けた者達は、 本事業で小額の収入を得られた者は、生活を立て 蜂蜜の圧搾機などのような、全員で共有しなければ 直すきっかけを得ることが出来た。又、折角帰還し ならない機械も受領する。これは、一人で所有しな たが、収入の道がないため、再度移動を余儀なくさ ければならないほど使用頻度が高くないため、共有 れる可能性があった少数派帰還民にとっては、本事 することで多民族間協力を促進し、且つ相互サポー 業への参加が定着への努力の始まりとなった。 更に、 トグループも設立する準備をする様、 事業を計画し、 他民族との共同作業を義務付けたことで、訓練生同 実施した。 士の協力関係が始まり、共生への第一歩となり、他 民族に対する再理解が本事業により大きく進んだ。 3.プロジェクトの評価 収入を得る手段は、帰還先での少数派帰還民の最 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度 大の懸念点の一つであるが、本事業によりこれを克 (a)農業技術 服できた人々がいるということが、更なる少数派帰 約 40 名の訓練生達は最後まで脱落せずに訓練を 還民の定着支援事業実施の促進と、少数派の帰還自 修了した。又、訓練を終了した訓練生全員が養蜂技 体の促進につながった。事業開始資金がないために 術を習得できたことから、選択された農業技術は妥 生活を立て直すことができずにいた少数派帰還民や 当なものであったと考えられる。理由としては、① 地元の人々にとっても、本事業は貴重なきっかけと 短期間に習得できる技術で、②地域になじみがある なった。 産業で、③初心者でも失敗が少ないものであり、モ (b)自立発展性 ティベーションも高く保つことが出来たと思われる。 本事業の訓練生達は、訓練終了後も講師の指導を (b)収入創出 受けることが出来た。又、訓練終了後に受け取った 職業訓練終了後、成績優秀者として機械や蜂の供与 蜂蜜の圧搾機などの機械を共有することで、計画的 を受けた者たち 10 名は全員、 本事業によって生産し に協力しながら養蜂を続け、後に養蜂組合を立ち上 た蜂蜜を販売し、収入を上げることが出来た。又、 げる準備が整った。養蜂組合は、単なる機械の共有 訓練生達も幾人かは実際に収入を得ることが出来た。 の仕方を話し合うなどの協力だけでなく、その後の これは、①訓練終了後、本人達が投入すべきものが 蜂の病気をどう防ぐか、戦略的に事業を広げるには 少なく、②小規模農家が生産物(蜂蜜)を販売できる どうするか、など、相互の利益の為の積極的且つ堅 マーケットが存在し、③独占的な企業がないため、 固な協力組織となった。 人々は地元の農家から手作りの蜂蜜を買う習慣があ る、④この地域では高栄養食・健康食品としての蜂 4.教訓・提言 蜜の需要が高い、など収入創出に直結する妥当性の (1)プロジェクト・訓練の問題点・課題 高い事業であったと考えられる。 (a)自然環境 (c)平和構築 全ての農業事業に言えることだが、生産が自然環 生活のため、訓練とその後の生産に対する参加者 境に左右される為、いわゆる『最も失敗の少ない産 198 事例 44 業』を選択しても、常に確実に生産されるとは言い 慮をすることが大変重要である。 切れない。このリスクを最小限に抑えるべく、様々 (2)他のプロジェクトへの教訓・提言 な事態を予測し、 事前に対処(養蜂の場合は獣医の手 (a)訓練される技術 配など)しておくことが肝要である。 養蜂という技術は、上述の通り、比較的短期間で (b)マーケットの確保 収入に結びつく技術を身につけることができ、失敗 本事業は、収入創出と平和構築のための職業訓練 が少なく、共有すべき機械があり、実際のマーケッ であるので、販売に直結していない技術訓練は目的 トがあるなど、様々な意味で本事業の目的を達成す に合致しない。事前調査から、生産した蜂蜜は近隣 る上で極めて適切なものであった。事業の目的を明 で販売できると考えたために計画した事業であった 確にし、 その目的に合致した技術を選出することが、 が、生産物が売れる保証はなかった。このリスクは 事業成功の為に肝要である。 収入創出では常に付きまとう問題であり、子細な調 (b)マーケットの存在の確認 査をし、最低でもある程度の販路を確保してから事 この点は特に強調したい。訓練生の数、その生産 業を実施することが重要である。 できる量なども鑑み、確実に売れる(と思われる)マ (c)マーケットのサイズ ーケットの存在を確認することは極めて肝要である。 本事業は、成功したといえるだろう。しかし、本 (c)治安 事業がボスニアのサラエボ近郊で成功したからとい 上述の通り、治安上の事故が、事業の全体のみな って、近隣地域で同様の事業をどんどん実施してい らず、多民族共生と平和構築に関して及ぼす悪影響 ったら、成功した本事業の訓練生達も生産物を十分 は計り知れない。そこで、治安上の分析を十分に行 に販売することが出来ず、遂には養蜂組合も上手く い、リスクを回避できる範囲で事業を実施すること 機能しなくなるだろう。どんな事業の成功例も、他 が重要である。 地域でそのまま使えないのは当然のことだが、ここ では、サラエボという町とその近郊であってさえ、 同様の事業をたくさん実施できない事情がある。サ ラエボより更に小さい町や村では尚更である。又、 新しい支援事業によって、元々の生産者が不当に圧 迫されるようなことも避けなければならない。 (d)治安 少数派帰還民でなくても生活が厳しい紛争直後の 地域で、収入創出事業を実施する際、ただでさえ嫌 がらせや迫害を受けやすい少数派を対象としている ことが余りにも鮮明になると、事業に参加している 写真 1 蜂の巣箱 少数派民族の訓練生だけでなく、事業実施者や協力 者に対する嫌がらせや、時には、攻撃を受けたりす ることがある。本事業実施時は、紛争終結から 3 年 半が経過したところで、他民族に対する意識に個人 差はあるものの、十分に事故が懸念される時期であ った。一度事故が起きれば、職業訓練、収入創出、 帰還民の定着、多民族共生の促進、という本事業の 目的全てに対して大きな悪影響を及ぼしてしまう。 しかし、民族間の緊張があるからこそ多民族共生の 事業が必要とされているのであり、その意味で、こ うした事業において治安上の懸念は常にあるリスク である。事業の全ての段階で治安上のリスクへの配 写真 2 蜂をチェックする養蜂訓練生 199 参 考 資 料 本書で使用される主な専門用語の解説と関連事例 用 語・略 語 概 要 関連事例 職業訓練・技術指導関連用語 CUDBAS CUrriculum Development Method Based on Ability Structure の略で、 (クドバス) 能力資質の構造に基づくカリキュラム開発手法のこと。育成しようとする No.32 人材像の職務を整理・グループ化した上で、その人材に必要な能力・資質 の構造を明らかにし、これを基に「訓練科目とその水準」 、 「訓練プログラ ム」を作成し、最後にカリキュラムとして仕上げていくプロセスを取るカ リキュラム開発手法で PROTS の一部をなす。 PROTS PROgressive Training System for Instructor の略で、海外職業訓練協会 No.35 (プロッツ) (OVTA)が開発した。その特徴は訓練ニーズの把握からカリキュラムの No.41 作成、訓練実施、訓練評価、訓練管理までを一貫したコンセプトでつなぐ 技法で、幅広い業務をこなしている今日の職業訓練指導員に最低限求めら れる能力や資質をコンパクトに提供するシステム。 TMC Training Management Cycle の略で、職業訓練の管理サイクルを示す。 No.12 (訓練管理システ 根本的には上記の PROTS と類似したコンセプトと内容であるが、生い立 No.22 ム) ちとしては 1994 年から開始された「フィリピン職業訓練向上プロジェク No.32 ト(事例№22)」で構築された。職業訓練・技術指導の内容を段階的かつ No.39 継続的に改善していくことを目的に、①訓練ニーズの把握、②訓練コース の設定、③カリキュラム開発と教材作成、④訓練の実施、⑤訓練の評価、 の5つのステップを一つのサイクルとして展開していく手法。 訓練管理 カリキュラム開発 職業訓練施設運営上関係してくる様々な管理面の技術移転を総称して「訓 No.31 No.42 練管理」という指導分野を指す。例えば「設備や機材=物の管理」、 「指導 No.35 員や職員=人の管理」、「予算管理」、「安全の管理」など多岐にわたる。 No.40 訓練受講者がその訓練の修了目標に到達するための道筋を設定すること。 No.4 No.32 訓練の目的に対応した訓練目標を設定し、訓練項目、訓練方法、訓練順序 No.7 No.35 を決める。年・月・週・日の計画、一時間の授業をどのように展開するかも No.12 No.40 その範囲に含む。一度設定したカリキュラムはそれでよしとせず、常に改 No.22 No.41 善しなければならない。訓練修了後、訓練は満足できるものであったか、 No.27 No.42 訓練目標に到達したか、訓練で習得したことを職場などで活用したか、受 No.31 No.43 講者が抱えていた問題を解決できたか等の視点からの評価と密接に結び ついている。 指導員訓練 職業訓練施設の指導員養成を目的とした訓練のことで、訓練制度、訓練計 No.4 No.32 画立案、訓練技法、訓練管理、訓練評価、教材作成等に関することを学ぶ。 No.12 No.39 No.22 No.41 No.27 No.42 No.31 No.43 PCM 手法 Project Cycle Management 手法とは、プロジェクトの計画→実施→評価 No.39 という一連のサイクルについて PDM を用いて運営管理する手法。 PDM Project Design Matrixの略で、プロジェクト計画の概念的構成を一枚の表 No.22 No.39 にまとめた概要表のこと。プロジェクトの目標、成果、活動、投入、リス No.26 No.42 クなどの情報が4×4のマトリックスに記載され、この16の欄は相互に関 No.35 連しているため、ひとつの欄の内容の変更は、通常他の欄の内容の変更に つながる。具体的には、計画段階でプロジェクトの目的や戦略が概要表の 様式に基づいて構成され、実施段階でPDM をもとに作成された詳細な活動 計画によってプロジェクトが実施され、評価段階ではPDM に示されたプロ ジェクトの目的や成果の達成度が評価される。このようにして、PDM がプ ロジェクト・サイクルの全工程にわたって運営管理の中心的役割を果たす ことにより、プロジェクトの運営管理の一貫性が保たれる。 203 用 語・略 語 概 要 関連事例 援助スキーム関連用語 世界経済や流通システムの歪みによって貧困に追いやられている途上国 No.14 の人々を支えるために始められた貿易の一形態。寄附や援助とは異なり、 No.19 立場の弱い人々が正当な報いを受け、誇りを取り戻して自立することを共 No.21 に目指す、対等なパートナーシップによる貿易を行う。 No.34 マイクロファイナ 貧困層や低所得層を対象に貧困削減を目的として行われる小規模金融の No.2 No.13 ンス こと。近年、技術力向上とマイクロファイナンスを組み合わせ、起業等に No.3 No.17 よる自立支援を促進するプロジェクトが実施されている。類義語にマイク No.5 フェアトレード ロクレジットがある。 JOCV Japan Overseas Cooperation Volunteers の略で青年海外協力隊のこと。 No.32 20 歳から 39 歳までの青年を開発途上国に派遣し、現地の教育や生活の向 上を目的とした活動を行っている。 草の根無償 開発途上国の地方政府、教育・医療機関、開発途上国で活動している NGO No.15 等が現地で実施する比較的小規模なプロジェクトに対して我が国の在外 No.29 公館が中心となって資金協力を行う制度。 草の根技術協力 第三国研修 日本の NGO 等が開発途上国において地域住民を対象とした協力活動を No.8 JICA が支援する事業。人を介した「技術協力」であること、緊急性の高 No.11 い事業/対象地域であること、日本の国民に国際協力への理解・参加を促 No.19 す機会となること、の3点を特に重視している。 No.20 開発途上国の中でも比較的進んだ段階にある国を拠点として、日本の技術 No.31 協力を通じて育成した専門家を活用し、ほかの開発途上国から研修員を招 No.35 No.29 いて行う研修。 No.39 プロジェクト方式 3∼5年程度の協力期間を設定し、専門家派遣、研修員受入、機材供与等 No.4 技術協力 を組み合わせ、計画の立案から実施、評価までを一貫して JICA が実施す No.22 No.41 プロジェクト評価 No.40 る技術協力の形態を指す。2002 年度からは他の協力の形態とまとめて「技 No.26 No.42 術協力プロジェクト」という名称に変更された。 No.31 プロジェクトを効果、効率性、妥当性等の視点から客観的に調査し、プロ No.35 etc ジェクトに一定の判断を下すこと。評価の実施時期によって事前評価、中 間評価、終了時評価、事後評価に類別できる。それらの教訓を次期あるい は類似のプロジェクトに生かしていくことが評価の目的である。 援助機関 ILO International Lobour Organization の略で、国際労働機関のこと。労働に No.42 関する基本的原則と権利を推進し、実現することを目的とする国際機関。 児童労働・貧困の削減等を目的とした技術協力も積極的に行っている。 JICA Japan International Cooperation Agency の略で、国際協力機構のこと。 No.4 2003 年 10 月にそれまでの国際協力事業団が独立行政法人化されて発足し OVTA た日本国政府の技術協力実施機関。 No.19 Overseas Vocational Training Association の略で、海外職業訓練協会のこ No.27 と。国際化に対応した人材育成など海外職業訓練について、企業への支援 活動を行っている。 UNHCR The Office of the United Nations High Commissioner for Refugees の略 No.7 で、国連難民高等弁務官事務所のこと。難民の庇護や本国への帰還促進に No.28 関する活動を行っている国際機関。難民には宗教や移動の自由のほか、勤 No.37 労や教育を受ける権利があることが国際法的に認められており、NGO が UNHCR と協調して難民に教育や職業訓練の機会を提供している事例も 少なくない。 UNRWA United Nations Relief and Works Agencyfor Palestine Refugees in the No.31 Near East の略で、国連パレスチナ難民救済事業機関のこと。イスラエル No.32 によって追放されたパレスチナ難民を救済することを目的とする国際機 関。パレスチナ難民を対象に、教育、医療・保健、福祉活動を行っている。 204 No.22 No.11 No.23 etc 事 例 分 類 事例 題 名 目的 方法 就業 イラン・イスラム共和国マシャッド市第五区におけるIT 産業基盤整備 1 技能職業訓練事業 2 農業生産性の向上 インド・カルナータカ州ビジャプール農村改善支援事業 貧困からの脱却 ∼農業トレーニングセンターを中心に∼ 農村の自立 社会経済的生活環境の改善 自立支援 3 4 インドネシア共和国における「有機農業開発による農 民の自立支援」プロジェクトの実施 障害者の職業的経済的自立 インドネシア国における障害者職業リハビリテーション 障害者職業訓練の普及 の実施 障害者の就職促進 5 インドネシアにおける旋盤技術交流プロジェクト 就業 産業基盤整備 収入向上 6 生活改善 インドネシア、西スマトラ州における「平和と健康を担う 人材養成 人づくり」の実施 7 カンボジア王国首都プノンペンにおける障害者支援職 業訓練事業 障害者の自立支援 相互扶助 地域開発 生活向上 カンボジア王国 スバイリエン州スバイチュルン郡持続 循環型複合農業の基盤整備 8 可能な農業を通じた女性による農業開発プロジェクト 9 カンボジアにおける織物事業の実施 10 カンボジアにおける青少年自立支援プロジェクト 11 スリランカ北東部復興支援に向けた保健分野の人材 育成 12 タイ 労災リハビリテーションセンタープロジェクトの実 施 13 ネパール王国におけるルンビニ・プロジェクトの実施 14 フェアトレードで支援する途上国の生産プロジェクト 農業技術 農業従事者 女性 農業 マーケティング 農民組織会員 カリキュラム開発 教材作成 施設管理 指導技法 機械加工 機械組立 機械保全 溶接 施設・地方施設の職員 施設・地方施設の 指導員 障害者訓練生 訓練所スタッフ 訓練生(修了生) 地域住民 保健衛生 農業 漁業 縫製 修理(電気製品・ バイク) 地域開発 農業(野菜、果樹、 植林、畜産、稲作、 養魚) 専門家派遣 人材育成 (村、スタッフ) 伝統織物技術 村民 女性 農・漁業従事者 障害者 衣食住・精神面のサポート 教育・訓練の機会提供 職業訓練 医療支援 医療施設・機材整備 医療関係者研修 専門家派遣 コミュニティ学習センターの普及 ノンフォーマル教育の充実 収入向上 生活改善 識字教育 農業研修 職業研修 小口融資・貯金 人材育成・研修 識字教育 学校教育 職業訓練 フェアトレード エネルギー基盤整備 学習支援 地場産業育成 技術研修 16 女性の地位向上 バングラデシュにおける女性の農業研修センタープロ 農業の活性化 ジェクト 17 バングラデシュにおける農村貧困住民の意識化と収 入向上プロジェクト 収入向上 技術研修 小規模融資 生産性向上支援 農業研修 研修施設整備 収入創出 自立支援 19 生活改善 東ティモールマウベシ郡コーヒー生産者協同組合支援 農村の自立発展 事業 20 フィリピン共和国ケソン市パヤタスごみ処分場周辺コ ミュニティでの医療及び収入向上プロジェクト 21 雇用創出 フィリピン共和国における技術指導プロジェクトの実施 収入向上 とフェアトレード 22 フィリピン共和国における職業訓練向上計画プロジェ クトの実施 23 フィリピンにおける手工芸品実務者育成事業 訓練施設整備 農業研修 職業訓練 資金貸付 有機農業開発 人材育成・組織強化 経済協同組合促進 自然環境の保全 自然災害の予防 設備・機材の供与 施設・設備供与 (無償資金協力) 専門家派遣 本邦研修 職業訓練 就業支援 設備支援 資金貸付 起業支援 本邦研修 専門家派遣 (フォローアップ) 職業訓練 技術習得 識字・教養学習 PLA 女性相互扶助グループ づくり 女性組合の設立 農業学習会の設立と開催 相互交流 自信及び人間の尊厳回復 自立及び社会復帰支援 社会人の育成 保健システムの復興支援 人材育成支援 平和構築支援 職業的自立 リハセンターの整備 自立支援 ネパール・ランタン村における水力発電利用プロジェク 環境保全 トの実施 18 東ティモールにおける農業者育成プロジェクト 難民 地域貧困者 技術指導 伝統文化の記録・保存 15 収入向上 社会貢献 職業訓練実施能力の向上 収入向上 雇用安定 205 対象者 情報技術(IT) 製版印刷技術 農村女性の経済的自立 伝統文化の保存・復興 収入向上 生活改善 分野 職業訓練 就業支援 生産者組合の組織化 加工技術訓練 加工設備供与 職業訓練 組織運営 医療支援 技術指導 設備供与 フェアトレード 専門家派遣 管理者訓練 指導員訓練 能力開発 人材育成 研修センター整備 販売システムの構築 修理(自動車他) 縫製 美理容 医療 保健 農村女性 農村女性 青少年男女 女性 助産婦 保健ボランティア カリキュラム開発 リハビリセンター職員 教材開発 職業訓練指導員 訓練管理 労災被災者 リハビリテーション 識字教育 地域住民 農業 少数民族 子ども 木工 編み物 現地NGO 農民の共同組合 女性 被差別カースト 水力発電利用技 村民 術 環境保全 農業技術 農村女性 農業 畜産 スタッフ 農村住民 農業 若者 有機農業 コーヒー生産者 コーヒー加工技術 手工芸 服飾 保健衛生 製紙 指導技法 教材開発 カリキュラム開発 手工芸 女性 地元住人 C/P 施設管理者 指導員 現地NGO 地域住民 事 例 分 類 事例 題 名 24 フィリピン西ネグロスにおける養蚕プロジェクト フィリピン共和国マニラ市・トンド地区における小規模 25 職業訓練プロジェクト 26 ベトナム リプロダクティブ・ヘルス・プロジェクトの人材 養成 27 日本・マレーシア技術学院プロジェクト 28 目的 方法 食糧自給 収入創出 収入源の確保 自立支援 社会福祉基盤整備 高度技能者養成 地域産業支援 女性の自立 ミャンマー国における女性を対象とした裁縫技術訓練 民族融和 と識字による自立支援事業 収入向上 学習機会の提供 29 ミャンマー・シトウェ市における技術訓練学校運営事業 就労機会の拡大 地域技術の向上 障害者等の生活水準向上 技術の習得 30 ミャンマー・ヤンゴン市における障害者支援事業 生きる希望・自信回復 相互扶助精神の向上 障害者の地位向上 訓練施設の設立 訓練の実施 技能者の養成・資質向上 31 ヨルダン 職業訓練技術学院プロジェクトの実施 指導者の資質向上 農業研修 地場産業 植林 職業訓練 指導者養成 組織編成 就職斡旋 子供の支援 人材養成 医療機関整備 地域活動強化 機材供与 専門家派遣 本邦研修 情報提供 技術教育 識字教育 学習機会の提供 技術訓練(フォローアップ) 専門家派遣 施設・機材供与 職業訓練 専門家派遣 機材供与 専門家派遣 本邦研修 32 教育体制の整備 UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)職業訓練 運営システムの改善 支援の実施 専門家派遣 本邦研修 33 食料問題の解決 飢えの問題を自立的に解決するための農村指導者養 貧困削減 成 指導者養成 本邦研修 技術訓練 就業支援 職業訓練 設備支援 技術指導(専門家派遣) 機材供与(無償資金協力) 専門家派遣 本邦研修 34 就業 職業訓練について考える−パレスチナとレバノンでの 収入創出 経験から 伝統技術の伝承 ウガンダ国における[Ⅰ]ナカワ職業訓練校復興プロ 35 ジェクト[Ⅱ]同・フォローアップ技術協力 36 ギニア共和国における「貧困解消」プロジェクト 37 ケニア国ガリッサ県における女性の自立のための職 業訓練:ミコノ縫製技術訓練所 38 ザンビア共和国ルサカ首都圏救急救助隊整備計画 39 セネガル共和国における職業訓練センター拡充計画 プロジェクトの実施 40 ムトワラ職業訓練センター(タンザニア国)機材整備に 関わる職業訓練機能の向上 41 グアテマラにおける職業訓練拡充プロジェクト 42 人材育成 各種訓練の実施 指導員の能力向上 貧困の解消 熱帯雨林の再生 農作物の増収 女性の自立支援 女性の就業 女性の生活安定 救急救助業務実施体制の確立 救急救助隊の整備 防災危機管理体制の強化 高度技術者の養成 資格取得コース開設 職業訓練機能の向上 施設運営管理の向上 指導員の向上 職業訓練システムの構築 訓練プログラムの開発 訓練教材の開発 指導技術の開発 職業訓練の管理運営 技能向上訓練の向上 パラグアイ共和国における日本・パラグアイ職業能力 指導員の資質向上 促進センタープロジェクトの実施 研究・教育手法の開発 43 メキシコ合衆国の電子分野における研究・教育手法の 開発に係る技術指導プロジェクトの実施 44 収入創出 ボスニア・ヘルツェゴビナ国、サラエボにおける平和構 帰還民の定着 築のための養蜂技術訓練事業 多民族共生(平和構築) 206 植林・植栽 有機農業の普及 職業訓練 就業支援 設備支援 専門家派遣 技術移転 資機材供与 指導員養成 施設・機材供与 (無償資金協力) 専門家派遣 本邦第3国研修 機材供与(無償資金協力) 専門家派遣 分野 対象者 農業(養蚕) 農家 住民 縫製 女性 医療 保健 女性 医療従事者 地域住民 指導員 C/P 先進技術分野 指導技法 カリキュラム開発 裁縫 女性 菓子作り 電気技術 自動車修理 溶接・切断技術 美理容 洋裁 訓練管理 カリキュラム開発 指導技法 金属加工 (機械加工・溶接・ 塑性加工) 訓練管理 指導技法 TMC 有機農業 社会・経済 青年 障害者 C/P 指導員 指導員 C/P アジア・アフリカ諸国の 草の根NGOスタッフ 手工芸 精密機械修理 聴覚障害者 女性(難民キャンプ) 青少年 カリキュラム開発 訓練計画 指導技法 工学 訓練管理 有機農業 林業 C/P 指導員 管理者 縫製 救急救助技術 救急行政 防災危機管理 TMC手法 情報技術 制御技術 訓練管理 機材管理 訓練管理 カリキュラム開発 機材供与(無償資金協力) カリキュラム開発 専門家派遣 教材作成 本邦研修 施設管理 指導技法 農村住民 女子児童 女子生徒 成人女子 中堅警察官 中堅消防官 市民防災ボランティア C/P 指導員 管理部門職員 C/P 青少年 C/P 施設職員 機材供与(無償資金協力) 電子技術 指導員 専門家派遣 コース開発 施設管理者 本邦研修 教材開発 指導技法 技術移転 カリキュラム開発 指導員 セミナー構築 指導技法 研究員 指導員研修 電子技術 農業技術訓練 農業(養蜂) 難民 機材供与 国内避難民 組合の組織化 注:C/Pはカウンターパートのこと 〒101-0063 社団法人 アジア協会アジア友の会(JAFS) 〒168-0063 〒106-0046 理事長 菅波 茂 代表理事 田中 直 事務局長 広瀬 道男 特定非営利活動法人 アムダ(AMDA) 特定非営利活動法人 APEX 財団法人 オイスカ 代表 貞兼 綾子 理事長 緒方 貞子 独立行政法人 国際協力機構(JICA) 特定非営利活動法人 難民を助ける会 ランタンプラン 理事長 柳瀬 房子 特定非営利活動法人 TICO 代表 国島 司 代表 吉田 修 特定非営利活動法人 地球ボランティア協会(GVS) 理事長 根本 悦子 理事長 稲畑 汀子 特定非営利活動法人 地球の友と歩む会/LIFE 特定非営利活動法人 ブリッジ エーシア ジャパン 理事長 大石 嗣郎 国際協力NGO「ミコノの会」 Mikono International 代表 西村 美也子 特定非営利活動法人 第3世界ショップ基金 理事長 今井 鎮雄 代表理事 大橋 正明 特定非営利活動法人 シャプラニール=市民による海外協力の会 代表理事 北林 岳彦 代表理事 川北 秀人/ 國富 堅志郎 特定非営利活動法人 ジェン(JEN) 特定非営利活動法人 パレスチナ子どものキャンペーン 理事長 高橋 ユミ 財団法人 PHD協会 理事長 藤井 泰雄 特定非営利活動法人 金光教平和活動センター 特定非営利活動法人 サパ=西アフリカの人達を支援する会 理事長 小野 了代 〒102-0071 会長 小川 道幸 特定非営利活動法人 国境なき子どもたち(KnK) 理事長 野口 昇 〒153-0062 代表理事 枝松 直樹 特定非営利活動法人 国際ボランティアセンター山形(IVY) 社団法人 日本ユネスコ協会連盟 〒719-0111 代表理事 東村 真理子 特定非営利活動法人 国際エンゼル協会 社団法人 日本国際民間協力会 〒162-0056 代表 サフィア・ミニー グローバル・ヴィレッジ/フェアトレードカンパニー株式会社 〒151-8558 〒152-8551 〒514-1114 〒151-0071 〒650-0022 〒171-0031 〒150-0013 〒604-8217 〒141-0021 〒779-3403 〒659-0093 〒169-8611 〒169-0073 〒102-0083 〒990-2432 〒664-0862 〒152-0035 〒162-0843 代表理事 深水 正勝 理事長 近 泰男 特定非営利活動法人 幼い難民を考える会 財団法人 家族計画国際協力財団(ジョイセフ) 〒110-0003 〒701-1202 〒450-0003 代表理事 井上 礼子 代表理事 龍田 成人 特定非営利活動法人 アジア太平洋資料センター 特定非営利活動法人 アジア日本相互交流センター ICAN 〒329-2703 〒550-0002 校長 田坂 興亜 会長 柴田 俊治 準学校法人 アジア学院 郵便番号 代表者 団体名 団体連絡先 (五十音順) 03-5352-5311 03-5734-2946 東京都渋谷区代々木2ー1-1 新宿マインズタワー6∼13階 東京都目黒区大岡山2-12-1-W3-43 東 03-5734-2657 工大大学院生命理工学研究科幸島研究室気付 03-5351-2395 078-351-4867 03-3953-1394 03-5424-1126 075-241-0682 03-5423-4450 0883-42-5527 0797-34-1061 03-3261-9053 03-3711-8550 03-3202-4593 03-5332-9827 03-3237-5520 0865-42-6034 03-5155-2507 023-634-9884 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東京都杉並区和泉3−6−12 東京都台東区根岸1-5-12 井上ビル 岡山県岡山市楢津310-1 名古屋市中村区名駅南1-20-11 NPOプラザなごや2F 東京都千代田区神田淡路町1-7-11 大阪市西区江戸堀1-2-16 山下ビル4F 栃木県那須塩原市槻沢442−1 住所 gv@globalvillage.or.jp kohshima@bio.titech.ac.jp jicahm-education4@jica.go.jp http://www.ecology.bio.titech.ac.jp/langtangplan/LTplan.html http://www.jica.go.jp/ kilimanjaro@ztv.ne.jp baj@jca.apc.org phd@mb1.kisweb.ne.jp ccp@bd.mbn.or.jp nfuaj@unesco.or.jp info@kyoto-nicco.org aar@aarjapan.gr.jp zikomo@nmt.ne.jp gvs@cc.mbn.or.jp life@earth.email.ne.jp info@p-alt.co.jp info@shaplaneer.org info@jen-npo.org supa@jade.dti.ne.jp kpacgogo@nifty.com kodomo@knk.or.jp LER04525@nifty.com http://www.mikononep.org/ http://www.baj.apc.org/baj/ http://www.kisweb.ne.jp/phd http://www32.ocn.ne.jp/~ccp/ http://www.unesco.jp http://www.kyoto-nicco.org http://www.aarjapan.gr.jp http://www.nmt.ne.jp/~zikomo/ http://www32.ocn.ne.jp/~gvs/ http://www.ne.jp/asahi/life/home/ http://www.p-alt.co.jp/asante/kikin.html http://www.shaplaneer.org/ http://jen-npo.org http://supa.web.infoseek.co.jp/ http://konko.org/kpac/ http://www.knk.or.jp/ http://www.dewa.or.jp/IVYama/ post@angel-ngo.gr.jp http://www.globalvillage.or.jp http://www.peopletree.co.jp http://www.angel-ngo.gr.jp mk01-joi@kt.rim.or.jp cyr@mtb.biglobe.ne.jp fkitsuki@oisca.org tokyo-office@apex-ngo.org member@amda.or.jp info@ican.or.jp office@parc-jp.org asia@jafs.or.jp ari@nasu-net.or.jp メールアドレス http://www.joicfp.or.jp http://www5a.biglobe.ne.jp/~CYR/ http://www.oisca.org/ http://www.apex-ngo.org http://www.amda.or.jp/ http://www.ican.or.jp/ http://www.parc-jp.org http://www.jafs.or.jp http://www.ari-edu.org ホームページ 9 15 37 72 160 31 118 124 28 29 146 64 6 34 13 1 164 35 128 7 30 100 17 92 79 197 156 105 47 39 76 69 108 38 23 3 21 17 44 36 25 10 8 16 14 26 43 82 103 18 24 9 28 51 88 84 14 141 掲載 ページ 5 11 20 19 2 33 事例 番号
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