厚生労働科学研究費補助金 創薬基盤推進研究事業 平成 25 年度(2013 年度) 国外調査報告書 創薬基盤強化の新機軸を探る ‐核酸医薬の新展開・産学連携の最新動向を中心に‐ 公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 発行元の許可なくして転載・複製を禁じます。 はしがき 公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団(HS 財団)では、昭和 61 年度(1986 年度)より、厚 生科学研究費補助金を活用し、医療・医薬等いわゆるヒューマンサイエンスにおける研究開発の 分野で、産学官が協力して実施する各種プロジェクトを推進しております。 HS 財団は、上記各種プロジェクトを推進するために有用な情報を提供する目的で、欧米を中心 とする諸外国の医薬品などの研究開発の状況に関する「国外調査」を毎年実施して参りました。 平成 25 年 2 月に実施した会員を対象とした国外調査のテーマに関するアンケート調査の結果を 踏まえ、平成 25 年度の国外調査においては、「創薬基盤強化の新機軸を探る‐核酸医薬の新展 開・産学連携の最新動向を中心に‐」をテーマに、欧米各国における最新の医薬品産業の動向を 把握するとともに、創薬に関連する科学・技術の進展と先端的医療技術開発の現状等について調 査・分析することを目的に、欧米各国を訪問して、製薬企業、研究・医療機関及び関連行政機関 より、最新の情報を入手・分析することと致しました。 今回の国外調査で収集した情報が、日本のヒューマンサイエンスにおける研究開発振興の一助 となることを切に願っております。 なお、本調査は、平成 25 年度の厚生労働科学研究費補助金(創薬基盤推進研究事業)を受け て行った調査であり、HS 財団の情報委員会に所属する「国外調査ワーキンググループ」が計画立 案し、実施したものです。本調査の実施にあたり、諸準備・諸手配にご協力頂きました関係各位に、 厚く御礼申し上げます。 公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 i 情報委員会・国外調査ワーキンググループ(敬称略、会社名五十音順) 【WG メンバー】 第一三共株式会社 研究開発本部 佐 味の素製薬株式会社 創薬研究所 岩 田 博 司 興和株式会社 医療用開発本部 川 越 淳 一 大正製薬株式会社 薬制部 池 田 陽 子 大正製薬株式会社 医薬事業企画部 川 西 政 史 武田薬品工業株式会社 医薬研究本部 内 林 直 人 日本新薬株式会社 医療政策情報部 中 立 一 克 Meiji Seika ファルマ株式会社 医薬製品企画部 林 株式会社レクメド 代表取締役社長 松 株式会社レクメド 創薬事業グループ 柏 株式会社レクメド 創薬事業グループ 鈴 木 (公財)ヒューマンサイエンス振興財団 研究企画部 佐 (公財)ヒューマンサイエンス振興財団 研究企画部 井 口 富 夫 (公財)ヒューマンサイエンス振興財団 研究企画部 加 藤 正 夫 ii 藤 督 宏 本 行 正 純 々 木 子 規 由 徹 (リーダー) 目 次 第 1 章 調査の概要 1-1. 調査の目的……………………………………………………………………………….. 1 1-2. 訪問先と主な入手情報……………………………………………………..................... 1 1-3. 調査団メンバー………………………………………………………………………….... 11 1-4. 調査日程…………………………………………………………………………............. 12 1-5. 調査協力者……………………………………………………………………………….. 13 第 2 章 訪問先別調査結果 ■米国 【Washington DC】 2-1. Pharmaceutical Research and Manufacturers of America(PhRMA)………………....... 14 2-2. Biotechnology Industry Organization(BIO)………………………………………….… 18 【Bethesda/MD】 2-3. National Institutes of Health(NIH)……………………………………………………… 21 【Tucson/AZ】 2-4. Critical Path Institute(C-Path)…………………………………………………………... 24 【San Diego/CA】 2-5. ISIS Pharmaceuticals, Inc. …………………………………………………….………… 31 2-6. Arena Pharmaceuticals, Inc. ..……………………… …………………………............... 36 【San Francisco/CA】 2-7. California Institute for Quantitative Biosciences(QB3)……………………………… 44 【Menlo Park/CA】 2-8. Johnson & Johnson Innovation Centers…………………………………………………. 49 ■欧州 【Paris, France】 2-9. Sanofi.........................................................................……………………..………... 56 2-10.Pierre Fabre SA ………………………………………………………........…………….. 63 iii 2-11.Medicen Paris Region ………………………………………………………………...... 67 【Leiden, Netherlands】 2-12.Leiden Bio Science Park ……………………………………………………………….... 72 【Madrid, Spain】 2-13.Centro Nacional de Biotecnología(CNB) /英名:The Spanish National Centre for Biotechnology..…………………………… 2-14.Sylentis S.A. …………………………………….........................……………………. 77 81 【London, UK】 2-15.UK Trade & Investment(UKTI)....………………………………………….....………. 85 2-16.Human Induced Pluripotent Stem Cells Initiative(HipSci)…………………………… 88 2-17.Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(MHRA)………………...…. 92 第3章 調査結果の総括と提言 3-1. 調査結果の総括………………………………………………………………………….. 94 3-2. 提言……………………………………………………………………………………….. 95 注:本文中の金額の桁表記として、K=1,000(千)、M=1,000,000(百万)、B=1,000,000,000(十億)、 を用いた。 iv 巻末付録 CD-ROM 巻末付録 CD-ROM に、各訪問先から受領したプレゼンテーション資料及びプレゼンテーション 補足資料を PDF ファイルに変換し、収載した(計 26 個)。なお、各訪問先から受領した資料の内、 ホームページからダウンロードできる資料については割愛した。 01.Pharmaceutical Research and Manufacturers of America(PhRMA) 受領資料なし 02.Biotechnology Industry Organization(BIO) 02-1. BIO Overview 03.National Institutes of Health(NIH) 03-1. NIH Big Data to Knowledge Initiative (BD2K) 04.Critical Path Institute(C-Path) 04-1. Critical Path Institute Overview 04-2. Accelerating Pathways to a Healthier World: The C-Path Paradigm 04-3. Building a Translational Safety Strategy: Review of nonclinical and clinical biomarker qualification efforts in the Predictive Safety Testing Consortium 05.ISIS Pharmaceuticals, Inc. 05-1. ISIS Corporate Presentation: Prepared for Japan Health Sciences Foundation 06.Arena Pharmaceuticals, Inc. 06-1. Arena Pharmaceuticals Company Overview & History 07.California Institute for Quantitative Biosciences(QB3) 07-1. QB3: ucb ucsc ucsf: created to fuel the California bioeconomy 08.Johnson & Johnson Innovation Centers 08-1 . Johnson & Johnson Innovation: “The J&J Innovation Centers: Partnering with Academia and Entrepreneurs to Catalyze Innovation” 09.Sanofi 09-1. Sanofi Presentation 10.Pierre Fabre SA 10-1. Pierre Fabre v 11.Medicen Paris Region 11-1. Medicen Paris Region: Enabling biotechnology and med-technology in France’s capital region 11-2. CURRENT & FUTURE OF OLIGONUCLEOTIDE-BASED THERAPEUTICS: A Broad Platform For Drug Development 11-3. DT01 PRESENTATION: “DT01, a 1st-in-class DNA repair inhibitor to treat resistant cancers” 12.Leiden Bio Science Park 12-1. Leiden Bio Science Park: The Life Sciences hot spot in the Netherlands 12-2. Home to successful life science companies 13.Centro Nacional de Biotecnología(CNB) 13-1. CNB Visit of Japanese Health Science Foundation 13-2. Centro Nacional de Biotecnología 13-3. Perspectives of cryoEM image processing 13-4. Structural biology of viral fibres 13-5. Magnetic nanoparticles as drugs and/or biomolecules tumor-targeted delivery systems for cancer immunotherapy 14.Sylentis S.A. 14-1. Zeltia: Crossing new frontiers in healthcare through innovation 15.UK Trade & Investment(UKTI) 15-1. Unlock Your Global Business Potential: Japan Health Sciences Foundation 15-2. Unlock Your Global Business Potential: The New UK Life Science Prospectus 15-3. Unlock Your Global Business Potential: UK Stratified Medicine 16.Human Induced Pluripotent Stem Cells Initiative(HipSci) 16-1. HipSci Cell Phenotyping group at King’s College, London 17.Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(MHRA) 受領資料なし vi 第 1 章 調査の概要 1-1.調査の目的 平成 25 年度(2013 年度)の国外調査は、「創薬基盤強化の新機軸を探る‐核酸医薬の新展開・ 産学連携の最新動向を中心に‐」をテーマに、次ページに示すスケジュールにて、欧米各国の製 薬企業、研究機関、及びライフサイエンス関連行政機関等を訪問するものであった。又、その具体 的目的は、以下の通りであった。 目的 1:核酸医薬の進展 目的 2:各国のライフサイエンスに関する産学連携の最新動向 目的 3:大手・中堅製薬企業の経営戦略及び研究開発戦略 1-2.訪問先と主な入手情報 1) Pharmaceutical Research and Manufacturers of America(PhRMA) ・ PhRMA は、一部の企業の色に染まらない業界全体に関する非常に多くの活動を進めて おり、約 200 人のスタッフは全て PhRMA に雇用されている専属スタッフである。 ・ 最近は、前競争的(Pre-competitive)な提携への関与が増えており、代表的なものとして、 Multi- Regional Clinical Trial Center 、 Regan Udall Foundation 、 Clinical Trials Transformation Initiatives、Observational Medical Outcomes Partnership Foundation、 National Center for Advancing Translational Science、Foundation for NIH、Biomarker Consortium、Alzheimer's Disease Neuro-imaging Initiative 等がある。 ・ 上記活動の多くにおいて、NIH、FDA とは密接な連携を取っており、患者のためを考えた プロジェクト展開を図っている。 ・ 去年と今年で、Public-Private Partnership(PPP)に関する landscape analysis を実施してお り、間もなく公開されるその報告書の中で、PPP が成功するための秘訣として、明確な目標 設定、適正な専門性を持ち影響力のあるメンバーの選定、メンバー全員の参画、オープン な精神による真のパートナーシップの形成、単純かつガバナンスのはっきりした共同体組 織の構築、適正な funding、が考察されている。 2) Biotechnology Industry Organization(BIO) ・ BIO は、米国内外の 1,000 を越える多くの企業が会員となっている世界最大のバイオ産業 業界団体であり、製薬産業を含む、幅広いバイオ産業の推進・発展に取組んでいる。研究 開発型企業が 66%を占め、さらに年商 25M 米ドル以下のバイオテク企業が 92%を占めて いることから、これらの会社のニーズを十分に汲み取った種々の活動を展開している。 ・ BIO の活動の特徴として、Committee Structure があり、会員企業は各社の関心に合わせ てそれぞれの Committee に参加し、その活動を通して必要な情報の入手や、政府への提 言等をまとめている。 ・ BIO は、約 160 人のスタッフ(オフィス系業務担当者も含む)を直接雇用し、コンソーシアム による前競争段階の創薬関連技術の評価・実装、政府バイオ関係補助金・事業支援費の 増額を目指したロビー活動、バイオ産業に関する規制改革、会員企業間の交流・連携等 1 多種多様な業務にあたっている。 ・ BIO は、コンソーシアム等の枠組みの中で、NIH 等の公的研究機関や FDA 等政府機関と の共同研究等に直接取組んでおり、PPP に関する会員企業の実績や米国でのトレンド等も 精度高く把握して、その情報発信に努めているようであったが、もともと PPP は、最終的に 各企業が判断・実施するものであるため、業界団体として何らかの具体的な方針や推進策 等を有しているわけではないようであった。 ・ 核酸医薬に関して、BIO の直接的な取組みはないものの、会員企業では、RNAi に関する 研究開発の割合が増加している。また、会員企業は、BIO の薬事関係の Committee で、 FDA の最新情報を入手することができる。 3) National Institutes of Health(NIH) ・ NIH Common Fund Program の Big Data to Knowledge(BD2K)Initiative について説明を 受けた。 ・ NIH でのライフサイエンス関連ビッグデータへの取組みは、数年前からの予備的検討を経 て、来年度からの本格的始動に向け、急ピッチで実行計画が練られている状況であった。 ・ 1990 年代より、ライフサイエンス研究・医療分野では、将来 IT 活用が重要になると認識さ れており、NIH も目的を絞った小規模プロジェクトでの検討を断続的に行ってきたが、当時 の当該データは仕様が一様でなく、データ活用の目的やゴール設定も明確にし難かった ため、大きなプロジェクトとして継続的に取組むには至らなかった。 ・ しかし、昨今、技術的進展が顕著となり、ビッグデータ活用基盤の整備も進みつつある状 況となったことに鑑み、今般、コリンズ長官自らの判断で、7 年間の予定で、年間数 100M 米ドルの資金を投入する大型プロジェクトが動き出すこととなった。 ・ BD2K Initiative と名付けられたこのプロジェクトでは、分散している情報の単なる統合や既 存ツールの改良等を目指すのではなく、データ活用の目的と方策を科学的に検討すること を重視しているが、当面の目標は対象とするデータのカタログ作りであり、データの信頼性 保証や得られる知的財産の取扱い等については、今後協議することとなっている。 ・ 本プロジェクトには、NIH 内の複数の研究所が参画し、当該研究所が保有するデータを対 象とするが、IT 企業や主要大学等も参画するコンソーシアム形式で運営される予定であり、 既に、Key Person を座長としたワークショップの開催等により、今後の具体的計画案に関 する協議・パブリックオピニオンの聴取に着手している。 ・ 世界最大のライフサイエンス拠点として絶大な影響力を有する NIH が、本腰を入れてビッ グデータ活用の取組みを開始したことは大いに注目すべきであり、今後どのような成果を産 生して行くのか、継続的にフォローして行くべきである。 4) Critical Path Institute(C-Path) ・ C-Path は、40 人弱のスタッフからなる小規模の NPO ながら、新たな医薬品評価基準の確 立等、前競争段階・非競争機能での医薬品研究開発・承認プロセスの効率化・迅速化に 繋がる各種検討を国際的コンソーシアム形式で進めており、現時点では、複数のコンソー シアムが活動中である。 ・ C-Path の運営資金は、FDA 等からのグラント、各種慈善財団・患者団体からの支援資金、 2 コンソーシアム会員企業からの会費等で構成されており、結核治療の改革を目指したコン ソーシアムである CPTR イニシアティブにおいては、ゲイツ財団から多大な経済的バックアッ プを受けている。 ・ 活動中のコンソーシアムは、何れも医薬品研究開発・承認プロセスに関する問題・課題を 解決するための取組みであり、目的やゴールも明確で、多くの企業が能動的に参画してい るようであった。 ・ 複数のコンソーシアムで、規制当局との連携・協業も積極的に行っており、これまでの成果 が FDA や EMA に採用されていること等から、規制当局からも高く評価されていることが伺 われるが、PMDA との連携・協業は限定的であり、今後の関係強化を大いに期待している とのことであった。 ・ C-Path の今後の Key challenge として、多忙な関係者からの協力・支援を如何に確保する か、十分なスタッフ維持のための資金確保、規制プロセスや先端科学の教育、コンソーシ アムメンバーの意見調整などを挙げている。 5) ISIS Pharmaceuticals, Inc.(ISIS) ・ ISIS は 1989 年に設立され、一貫してアンチセンス医薬の研究開発を継続している。 ・ 同社が開発した、第 1 世代の修飾核酸(Phosphorothioate 型)である alicaforsen が 2008 年 6 月に希少疾患である回腸嚢炎を適応に、第 2 世代(2'-methoxymethyl 型)である mipomersen が 2013 年 1 月にホモ型家族性高コレステロール血症を適応に FDA より承認 されており、核酸医薬のパイオニア企業である。 ・ スタッフは現在 350 人ほどで、今後も POC を確認後にライセンスアウトする現在のビジネス モデルを継続し、規模は拡大しない方針である。 ・ 修飾核酸に関する多くの特許を有し、現在、第 2 世代から半歩進んだ第 2.5 世代の修飾 核酸を中心に研究を進めている。 ・ 創薬を目指す疾患領域は、心血管系疾患、難治・希少疾患、代謝性疾患、がん、炎症そ の他の疾患であるが、特に領域を特定せずアンチセンスが有効とされる疾患を貪欲に攻め ているようである。 ・ 将来を見据えた活動として、Biogen IDEC と、中枢領域において創薬初期段階から戦略 的に提携している。 ・ ISIS の本社・研究所は、サンディエゴ郊外の小高い丘の上にあり、環境を重視しつつ、研 究者同士の交流に配慮し、研究に専念できる環境と研究者の活発な交流を意図したデザ インとなっている。 6) Arena Pharmaceuticals, Inc. ・ Arena Pharmaceuticals は、1997 年に設立され、2000 年に Nasdaq に上場した、G タンパク 質 共役 受 容 体(GPCR)を標 的とする創 薬を行なうバイオテク企 業であり、従 業 員数 は約 230 名である。 ・ 独自に確立した GPCR のスクリーニング系を用いた創薬で実績を重ね、セロトニン受容体 アゴニストの抗肥満薬 lorcaserin が 2012 年に FDA 承認を取得し(抗肥満薬として 13 年ぶ りの認可)、6 つの医薬品候補化合物が臨床開発段階にある。販売提携先のエーザイが米 3 国販売を行っている。 ・ プロジェクトの研究開発の進捗に合わせ、合成、薬理、動態、毒性等の研究機能を立ち上 げ、さらに、スイスの製造工場を買収して、100%子会社を設立した。 ・ 研究は、GPCR を標的とした循環器、中枢、炎症等に注力し、開発は、Phase3 まで自社で 行う方針を取り、約 1.5 年に一つのパイプラインを上市できる研究開発能力を有している。 ・ 研究開発の意思決定では、初期研究テーマと創薬プロジェクトで異なるスキームを取り、初 期研究テーマでは、主要な研究者を中心に、進捗等を管理し、ディスカッションをもとに方 向を決定し、創薬プロジェクトでは、主要な研究者と関連部署(CMC、毒性、ADME 等)か ら成るコミッティーを組織して意思決定を行なう。 ・ lorcaserin の日米での販売を行うこととなったエーザイを始め、大正、アステラス等の日本企 業との提携が多く、Lilly や Merck 等の欧米企業、韓国 Ildong、台湾 CV Biotech 等のアジ ア企業との提携実績を有するが、アカデミアとの提携は積極的に行なっていない。 7) California Institute for Quantitative Biosciences(QB3) ・ 2000 年 12 月、当時のカリフォルニア州知事 Gray Davis は、同州が世界のハイテクリーダ ーであり続ける事を意図し、カリフォルニア大学各校の研究基盤と知財を活用した産学連 携構想 California Institute for Science and Innovation を発表した。この構想に基づいて設 立された 4 つのプロジェクトの 1 つで、ライフサイエンス分野をカバーしているのが QB3 であ る。 ・ QB3 に参画しているのは、サンフランシスコ校、バークレー校、サンタクルーズ校の 3 校であ り、サンフランシスコ校がリーダーを務めている。 ・ QB3 が目指しているのは、Genentech のような業界をリードするバイオテク企業の創出・育 成であり、Start-up 企業に対して、法務、人事、財務、知財等の専門家を紹介したり、起業 家としてのトレーニング、外部提携に関するコンサルティング、研究室の提供、試薬機器類 購入等に関するサポートも行っている。 ・ 資 金 面 に関 しては、Mission Bay Capital がベンチャーキャピタルとして機 能 しており、 11.3M 米ドルの資金量を持ち、既に 11 社に投資している。 ・ 2006 年よりインキュベーター施設の運営を始め、現在、5 つの施設に 62 社が入居中であ る。 ・ 過去 12 年間で 156 社を立ち上げ、内 36 社は operational な企業に成長、これらの企業は 370M 米ドルの資金を獲得し、400 人以上の雇用を創出した。 ・ 産学連携に関しては、Pfizer、Novartis、Roche、Bayer、J&J 等の製薬企業を含む 100 以上 の企業との提携が実現しており、Pfizer は 3.5M 米ドル/年を提供している。 8) Johnson & Johnson Innovation Centers(JJIC) ・ JJIC は、「新しい方法で社外イノベーターとネットワークを築くことにより J&J のイノベーショ ンを活性 化する」という、J&J の CSO の提案が認 められ、旧 The Corporate Office of Science And Technology(COSAT)も取り込んで設立された。 ・ 「新しい方法」で取り組むという意識を保つため、社員に固有のデスクがないことや、多くの 機会を通じて地域との交流を深める等の取り組みを行っている。 4 ・ JJIC は、医薬品、医療機器、診断薬、消費財における社外イノベーションを発掘・育成し (医薬品では早期研究から POC まで)、J&J 本体へ引き継ぐことをミッションとしている。 ・ ボストン、サンフランシスコ、ロンドン、上海に 4 つのセンターを設立し、各地域のアカデミア 研究者、ベンチャー研究者、コンソーシアムスタッフ、投資家等との協力関係を構築し、早 期研究段階からの関与による成功確率の向上、幅広いイノベーション機会の探索を目的と している。 ・ 疾患領域別にアサインされたリーダーが、各案件のプレスクリーニングと評価の社内コーデ ィネートを行い、いずれのプロセスもスピードを重視している。 ・ JJIC には、経験豊富な研究者、開発スタッフ、アライアンススタッフ、法務・知財スタッフが おり、社外に対して、メンターシップ、インキュベーター、投資やライセンスなど提供してい る。 ・ サンフランシスコの JJIC は、科学的評価、New Ventures & Transaction、投資、管理等の担 当者から成る 25 人で運営されており、半数以上を外部から採用し、多様な経験・専門性か ら様々な視点でイノベーションを評価・検討することで、質の高い評価が可能になると考え ている。 9) Sanofi ・ Sanofi は、数年前に経営方針を変更し、製薬企業から治療ソリューションを多角的に提供 するグローバルヘルスケア企業となった。特許切れ、R&D 生産性の低下、欧米先進諸国 の医療改革の三大要因から成る製薬産業の環境変化に対応するため、GROW(成長基 盤)、INCREASE(R&D の革新)、SEIZE(外部機会の獲得)、ADAPT(世界市場の構造 変化への適合)の 4 つの基本戦略を打ち出した。 ・ 成長基盤については、新興市場、糖尿病治療製品(医薬品以外を含む)、ワクチン、コン シューマーヘルス、動物用医薬品、ジェンザイム(希少疾患、多発性硬化症等)、その他革 新的製品から成る 7 分野を中核としている。 ・ R&D の革新のため、トランスレーショナルメディシンとオープンイノベーション、及びその融 合に取組んでおり、トランスレーショナルメディシンでは、疾患及び患者の理解を重視し、オ ープンイノベーションでは、アカデミア、ベンチャーキャピタル、バイオテク企業、製薬企業、 患者団体等の様々な外部機関と共同研究・開発、投資、M&A 等の多様な枠組で連携し ている。 ・ 主要領域は、がん、ワクチン、糖尿病、希少疾患、多発性硬化症、免疫、心血管、加齢性 神経変性疾患、眼科、感染症(一時期撤退したが復帰)、動物医薬、その他、の 12 領域で ある。 ・ 研究開発の外部連携は、フランス及びドイツの欧州 2 大研究拠点、Genzyme と統合したボ ストン研究拠点、上海の研究拠点をハブとして行っており、日本は上海拠点がカバーして いる。 ・ 研究開発投資は、成長基盤としている確立した疾患領域に対して 40%、次世代の成長基 盤に対して 40%、さらに、ハイリスクな革新的な機会に対しても 20%の割合を配分してい る。 ・ 世界市場の構造変化への対応としては、新興国の疾患ニーズに沿った R&D を行ってい 5 る。 ・ Genzyme については、希少疾患等の強みのある分野は残した上で Sanofi のリソースも統 合して強化し、がん領域等の Sanofi が強い分野については Sanofi へ統合した。 10) Pierre Fabre SA ・ Pierre Fabre は、Pierre Fabre 氏により 1961 年に設立されて以降、継続的・発展的に医薬 品事業を展開して来た。 ・ 同社の昨年の総売上高は 1,978M ユーロであり(47%が医薬品、53%が皮膚用化粧品)、 フランスの製薬企業として国内 3 位、皮膚用化粧品やオーラルケアの事業規模は欧州最 大である。フランス国内以外に他のヨーロッパ諸国や南米等に販売網を持ち、売上高の約 50%がフランス国外であるが、今後はさらに新興国への進出を図り、2020 年には売上高 3,800M ユーロを目指している。 ・ 医薬品の研究開発には資源を惜しみなく投入しており、昨年の研究開発費は医薬品売上 高の約 17%(159M ユーロ)で、がん領域を最優先として約 50%の研究開発費を配分して いるが、これ以外に皮膚疾患領域、中枢神経領域、婦人科領域に重点を置いている。 ・ 創業者である Pierre Fabre 氏が本年 7 月に他界した後も経営は順調で、当面はこれまでと 同様の企業理念・方針にて、既存路線を邁進するとのことであった。 ・ 中堅製薬企業が生残るには、自社の特徴・強みを徹底的に活かすこと、常に迅速な判断 を心掛けること、深くて長い付合いができるよう外部との関係を大事にすること、身丈にあっ た規模で事業展開すること、が重要と考えているとのことであった。 ・ PPP や国内外他社とのアライアンスも積極的に行っており、特に、日本企業に対しては大 変好印象を持っており、今後もパートナーとして関係を維持・強化していきたい意向であ る。 ・ 抗体医薬品の品目数を 3 品目から 5~6 品目へ増やす予定であり、共同開発パートナーと なる企業を探しているとのことであった。 11) Medicen Paris Region(MPR) ・ MPR の概要及び PPP に関する活動、及び、MPR 支援先の核酸医薬バイオテク企業の DNA Therapeutics 及び Genethon の事業について説明を受けた。 ・ MPR は、フランス政府が産業競争力向上のために 2005 年に認可したパリ地域圏のバイ オ・医療産業クラスターであり、フランスのバイオ・医療産業クラスターで最大規模を誇り、イ ノベーションの創出、国際的バイオ・医療産業の集積・発展を目指している。職員数は 12 名で、政府からの支援と参加機関からの会費等を基に組織を運営している。 ・ パリ地域圏は、パスツール研究所等の主要研究機関、9 つの大学、4 つのサイエンスパーク がある他、39 の病院、24,000 床から成る欧州最大の病院ネットワークが立地し、Sanofi、 Ipsen、Servier 等のフランス大手製薬企業に加え、フランスバイオテク企業の約 50%、GE Healthcare 欧州拠点も立地し、ライフサイエンス・創薬に関する PPP では欧州最適な地域 の 1 つである。 ・ MPR の PPP の事業は、トランスレーショナルリサーチ、イメージングツール、バイオ医薬品、 バイオ IT 等に集約しており、がん、中枢神経系、感染症、循環器代謝等の疾患領域に強 6 みを持っている。 ・ PPP 事業として、2006~2012 年に 744M ユーロの研究資金(公的資金と企業出資のマッチ ング)を獲得し、206 件を支援したが、この内、21 件のプロジェクトが終了し、48 件の特許を 取得、14 製品(イメージング、メディカルデバイス、バイオロジカルツール分野)が製品化さ れている。 ・ DNA Therapeutics は、MPR が支援している DNA 二本鎖切断修復を阻害する短鎖二本鎖 DNA を用 いた医 薬 品 開 発 を行 うバイオテク企 業 で、黒 色 腫 を適 応とするプロジェクトを Phase1 開発中である。 ・ 同じく、Genethon は、希少疾患を適応とする遺伝子治療医薬品の開発を行うバイオテク企 業で、ex vivo 型では Wiskott-Aldrich 症候群プロジェクト、in vivo 型ではγ-サルコグリカン 異常症プロジェクトが臨床開発段階にある。 12) Leiden Bio Science Park(LBSP) ・ LBSP は、120 エーカーの用地を有する欧州最大規模のライフサイエンス系サイエンスパー クであり、振れることなく、バイオメディカル・ライフサイエンスのみに注力して、企業の新設・ 運営の支援、既存企業に対するビジネスチャンスの提供を行って来た。 ・ LBSP は、オランダ屈指の学術都市であるライデン市中心部にあり(ライデン駅に隣接)、ス キポール空港から鉄道で 15 分、車で 30 分程度の距離にあり、海外からのアクセスは非常 に便利である。 ・ LBSP 内 には、約 100 社 のライフサイエンス関 連 企 業 があり、アステラス製 薬 、Janssen Biologics、Crucell、Millipore、Galapagos 等、著名なライフサイエンス系企業が本社・研究 拠点を置いている。 ・ LBSP では、約 15,000 人が働いており(医療従事者:約 6,700 人、企業:約 4,250 人、大学 等:約 2,700 人等)、進出企業の増加、医療センターの拡張等により、2025 年には 25,000 人に増加する計画である。 ・ LBSP の最大の特徴は、進出企業に対する親身で継続的な支援・協力であり(例:製薬企 業の進出に合わせ、大学が有する各種計測・分析機器の利用の幅を拡張したり、各種研 究開発業務受託企業の進出を実現したりしている)、それが既に進出した企業の高い評価 に繋がっているものと思われた。 ・ オランダ政府による R&D 優遇政策や大型で先端的な医療機関である Leiden 大学医療セ ンターにおいて、トランスレーショナルリサーチや分子画像診断・解析等の分野で企業との 連携が常時可能な状況にあることも、医薬品・医療機器の開発を目指す企業にとって魅力 的であるものと思われた。 ・ オランダ国内においてもバイオクラスター間の競争が激しくなっている。首都のアムステルダ ム地域、ドイツ国境に近い西側地域の方が財務的に潤っており、資金的支援が充実して いるが、LBSP は、それ以外の支援で対抗しているようであった。 13 ) Centro Nacional de Biotecnología ( CNB ) / 英 名 : The Spanish National Centre for Biotechnology ・ CNB は、1992 年に設立されたスペイン国立のバイオ研究拠点で、大学ランキングでスペイ 7 ン 1 位のマドリッド・オートノマ大学キャンパス内にあり、新設したシステムバイオロジーを含 めた 6 つの Department の 68 研究室に、約 600 名の研究者・サポートスタッフ等が所属し ている。 ・ CNB の重要な使命の 1 つは、研究成果の社会還元であり、毎年行っている研究テーマ及 び獲得成果のレビューにおいては、これを強く意識し、論文・学会発表や特許出願のみで はなく、より幅広く、社会全体への貢献の程度を評価に組入れているとのことであった。 ・ ポスドクを中心とする若手研究者の育成にも注力しており、国外からも多くの若手研究者が 留学しており、研究員あたりの論文・学会発表件数(昨年実績で 1,153 件)では、国際的に も高い水準にある(スペインでは 3 位、全世界では 49 位)とのことであった。 ・ 今回の訪問では、研究所長から直接概要や運営方針等を説明して頂くとともに、各研究 分野のヘッド及び各研究室長(教授)から、多くの興味深い研究の紹介を受けた。AIDS や インフルエンザに対するワクチンの研究、がん細胞の脂質代謝異常に着目した新規癌治 療法に関する研究等では、ユニークで独自性の高い研究が進められており、新たなブレイ クスルーが生まれる可能性を感じた。 14) Sylentis S.A. ・ Sylentis は、2006 年、スペインの化学・医薬品企業である Zeltia Group が設立した siRNA を用いた核酸医薬の開発に特化したバイオテク企業である。 ・ 患者の QOL を改善する新たな治療法の発見・開発・実用化をミッションとし、有効な治療 法が存在しない疾患を主たる標的としている。 ・ 現在臨床開発している治療薬は、高齢化に伴って患者数が増加している緑内障・ドライア イ症候群を対象とするものであり、慢性炎症領域(炎症性腸疾患、関節炎)や中枢神経系 領域(脳血流不全、認知症)において、非臨床段階のプロジェクトを有している。 ・ 当面、対象とする疾患は、全身投与を必要としない眼科領域、慢性炎症領域、中枢神経 系領域の一部となるが、将来的には、siRNA を全身投与するための核酸修飾技術・製剤 技術にも取組む予定である。 ・ 対象疾患の選択やプロジェクトの優先度判断等は、シニアメンバーが協議して迅速に決定 することとしており、僅か 16 名の実働スタッフにて、外部委託先を活用しつつ効率的に研 究開発を進めている。 ・ 核酸医薬に取組んでいる他のバイオテク企業との明確な違いは、現時点で修飾核酸での 開発を考えていない点である。その目的は、修飾に伴う未知の代謝産物等による副作用 発現のリスク、オフターゲットへの非特異的作用が増強されるリスクを回避することである。 15) UK Trade & Investment(UKTI) ・ UKTI のライフサイエンス産業政策への取組みについて説明を受けた。 ・ UKTI は、英国企業の国際的事業拡大・発展を支援する英国政府機関であり、国外企業 の英国進出や既に英国に拠点を有する企業の英国内での事業拡大に対する支援も行な っている。 ・ UKTI では、ライフサイエンス産業、特に製薬産業が英国の国益にとって非常に重要との 認識に従い、その進展・拡大のために様々な取組みを実施しており、そのスタッフ数は約 8 2,280 人(海外 1,230 人、英国内 640 人、英国領内 410 人)、年間予算は約 85M 英ポンド とのことであった。 ・ 昨今、欧州においても、ライフサイエンスビジネスの育成・強化に注力している国が増えて いるが、英国は、税制面での優遇処置、NHS(ナショナルヘルスサービス)で蓄積している 各 種 データや医 療 機 関 のネットワークを活 用 できること、Research Charities(例 Cancer Research Fund など)の充実等から、ドイツ、フランス、スウェーデン等に対して優位にあると 認識している。 ・ 2011 年 5 月に公表された 5 ヵ年計画「Britain open for business」でも取上げているように、 UKTI では、これまで大企業中心であった企業の海外展開支援を中小企業にも拡大し、特 に、国際的にも通用する革新的技術を有すると判断された中小企業に対しては、選択的 に経済的支援を実施することにした。 ・ 今回、主たる対応を取って頂いた Dr. Mark Treherne は、昨年、UKTI の組織改編とともに 新設されたライフサイエンス投資部門の責任者(Chief Executive)であるが、これまでの職 歴は、ファイザーや中小バイオテク企業等の製薬関連企業中心であり、初めて公的機関で 勤務することになったとのことであった。 ・ 我が国においても、このような民間人材の抜擢等により、より企業にとって現実的で効果的 な政策を検討・実施できる体制を構築する等、参考にすべき点が少なくないと思われた。 ・ 2012 年 英国の保険医療政策として dementia への challenge をキャメロン首相がアナウン スし、2015 年までに dementia care & research への予算を付ける方針を打ち出している。 16) Human Induced Pluripotent Stem Cells Initiative(HipSci) ・ HipSci は Wellcome Trust や Medical Research Council(MRC)からの資金提供を元に、昨 年から始まった英国での新たな再生医療関係の取組みであり、高質な iPS 細胞の収集とカ タログ化を目指している。当面、英国内の 800 人の健常人と 700 人の患者から、iPS 細胞を 樹立する予定で、現在、実施基盤の整備を進めている状況である。 ・ 今回、HipSci を紹介して頂いた Dr. Danovi の研究グループ(HipSci Cell Phenotyping group)は、King’s College の Guy’s Hospital に昨年設置されたばかりで、現在 8 名の研 究員で構成されており、その主たる研究目的は、正常細胞が病的状況に変化する際の細 胞や細胞質内オルガネラの形態・生化学的変化を見つけだし、疾患発症のメカニズム解 明に結びつけることである。 ・ Cell Phenotyping 以外の HipSci の具体的な取組みは、Wellcome Trust Sanger Institute の ゲノミクス、Dundee 大学のプロテオミクス、EMBL-Europian Bioinformatics Institute のデー タマネージメント等であり、企業の参画に関しては、最近、協議を始めたばかりである。 ・ iPS 細胞の標準化や規格設定に関しては重要な課題となるが、具体的な方針は協議中で ある。 ・ HipSci の運営費用は、2015 年までの 4 年間の総額で 30.5M 英ポンドとなっており、今後、 京大の山中教授を始めとする他国専門家との共同研究も積極的に検討して行きたいとの 意向であった。 ・ 英国では NHS(国営医療サービス)が充実しており、これによって、研究者や臨床医が、患 者やその臨床データに容易にアクセスできる。このことが、英国で疾患関連 iPS 細胞研究 9 を実施しやすい理由となっているとのことであった。 17) Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency(MHRA) ・ MHRA の核酸医薬に対する薬事規制の考え方について説明を受けた。 ・ 核酸医薬に関する薬事規制に関しては、日米欧での見解・判断の相違が散見されている が、MHRA では、全合成で製造する限り、原則、核酸医薬は、低分子医薬品と同じ規制を 適応するとの明確な方針を有していた。 ・ しかしながら、MHRA の核酸医薬に関する評価経験は極めて限られており、今後、予期せ ぬ問題が起きる可能性もあるため、当面は、1 つ 1 つの案件を慎重かつ詳細に評価して行 くとのことであった。 ・ 核酸医薬の評価において、現時点で MHRA が最も注意しているのは、その純度と不純物 が有する非特異的薬理作用である。 ・ EMA と同様、当面、MHRA も核酸医薬に特化したガイダンスやガイドラインを作成する予 定はないが、作成の必要が認められた場合は、速やかに対応できるようにしておきたいとの ことであった。 10 1-3.調査団メンバー 調査団メンバーは、情報委員会・国外調査ワーキンググループ(WG)メンバー及び事務局で構 成される以下 9 名であった。 団長/WG リーダー 佐 藤 督 第一三共株式会社 研究開発本部 池 田 陽 子 大正製薬株式会社 薬制部 川 西 政 史 大正製薬株式会社 医薬事業企画部 正 株式会社レクメド 代表取締役社長 純 子 株式会社レクメド 創薬事業グループ 規 由 株式会社レクメド 創薬事業グループ 徹 (公財)ヒューマンサイエンス振興財団 研究企画部 井 口 富 夫 (公財)ヒューマンサイエンス振興財団 研究企画部 加 藤 正 夫 (公財)ヒューマンサイエンス振興財団 研究企画部 松 本 柏 鈴 木 佐 々木 11 1-4.調査日程 月日 訪問都市 (曜日) 10 月 21 日 (月) 22 日 (火) 23 日 (水) 24 日 (木) Washington DC, 1. PhRMA USA 2. Biotechnology Industry Organization(BIO) Bethesda, USA 3. National Institutes of Health(NIH) Tucson, USA 4. Critical Path Institute(C-Path) San Diego, USA 25 日 San Francisco, USA (金) Menlo Park, USA 26 日(土) /27 日(日) 28 日 (月) 29 日 (火) 30 日 (水) 31 日 (木) 訪問先 5. ISIS Pharmaceuticals, Inc. 6. Arena Pharmaceuticals, Inc. 7. California Institute for Quantitative Biosciences (QB3) 8. Johnson & Johnson Innovation Centers (移動日) Paris, France 9. Sanofi 10.Pierre Fabre Paris, France 11.Medicen Paris Region Leiden, Netherlands 12.Leiden Bio Science Park Madrid, Spain 13.Centro Nacional de Biotecnología(CNB) 14.Sylentis 15.UK Trade & Investment(UKTI) 11 月 1 日 (金) London, UK 16.Human Induced Pluripotent Stem Cells Initiative (HipSci) 17.MHRA 12 1-5.調査協力者(敬称略) ・ 塚本 芳昭/一般財団法人バイオインダストリー協会(JBA) 業務執行理事 専務理事/ BIO、PhRMA ・ 森下 節夫/一般財団法人バイオインダストリー協会(JBA) 事業連携推進部 次長/ BIO、PhRMA ・ James C. Greenwood/President and CEO, Biotechnology Industry Organization/BIO ・ Joseph Damond/Senior Vice President, International Affairs, Biotechnology Industry Organization/BIO ・ Ira Wolf/Japan Representative, Pharmaceutical Research and Manufacturers of America (PhRMA)/PhRMA ・ Tina Chung, MPH/Program Officer for Asia and the Pacific, Division of International relations, Fogarty International Center/NIH ・ 碓井 悦子/ノバルティスファーマ株式会社 薬事部レギュラトリーポリシー担当マネージャ ー/C-Path ・ Steven T. Broadbent/Chief Operating Officer, C-Path/C-Path ・ Jack Lief/Co-Founder, Chairman, President and Chief Executive Officer, Arena Pharmaceuticals, Inc./Arena Pharmaceuticals, Inc. ・ Catherine Sharpe/FibroGen, Inc./QB3 ・ 島田 秀孝/サノフィ株式会社 渉外本部長/Sanofi ・ 西原 朗/協和発酵キリン株式会社 事業開発部 マネージャー/Pierre Fabre ・ 水田真紀/在日フランス大使館 企業振興部 ライフサイエンス担当/Medicen Paris Region ・ Nettie Buitelaar, Ph.D./Managing Director, Leiden Bio Science Park Foundation/Leiden Bio Science Park ・ 武井 尚子/駐日英国大使館 貿易・対英投資部 ライフサイエンス 対英投資上級担当 官/UKTI、HipSci、MHRA ・ 越川 麻子/駐日英国大使館 貿易・対英投資部 ライフサイエンス 対英投資副担当官/ UKTI、HipSci、MHRA 注: 調査協力者は訪問までに調整等にご協力いただいた方々を掲載した。 調査協力者の記載情報は、氏名/所属等/協力をいただいた訪問先、の順に記載した。 13 第 2 章 訪問先別調査結果 2-1.Pharmaceutical Research and Manufacturers of America (PhRMA) Pharmaceutical Research and Manufacturers of America (PhRMA) 米国研究製薬工業協会 所 在 電 地 : 950 F Street, NW Suite 300 Washington DC 20004, USA 話: +1 202 835 3404 F A X: +1 202 715 7086 H o m e p a g e: www.phrma.org/ 面 談 日 時 : 2013 年 10 月 21 日(月) 10:00~11:00 面 談 場 所 : 上記所在地 面 談 者: Salvatore Alesci, MD, Ph.D. Vice President, Scientific Affairs Contact Person: Salvatore Alesci, MD, Ph.D. Vice President, Scientific Affairs 面 談 目 的: 以下の項目に関する調査、情報収集を行うこと。 ・ 米国における産学連携に関する PhRMA の対応方針、姿勢 説 明 内 容: 1. PhRMA の概要 ・ Salvatore Alesci 氏より説明を受けた。同氏はイタリアで Ph.D.、M.D.取得後、1998 年に渡 米、NIH で 8 年間、医学基礎研究に従事した後、Wyeth Pharmaceuticals で translational research のリーダーとして 4 年間在職後、Merck に移り早期臨床試験を担当。2011 年に PhRMA に加わり、Vice President, Scientific Affairs として活躍中である。 ・ PhRMA は 1958 年に”Pharmaceutical Manufacturers Association”として設立され、1994 年 に現在の名称、“Research”の追加されたもの、に変更された。 ・ 現在の PhRMA のミッションは以下に記載のごとく、名称変更を反映して、新薬の研究開発 に重きを置いたものとなっている。 PhRMA's mission is to conduct effective advocacy for public policies that encourage discovery of important new medicines for patients by pharmaceutical and biotechnology research companies. To accomplish this mission, PhRMA is dedicated to achieving these 14 goals in Washington, the states and the world: Broad patient access to safe and effective medicines through a free market, without price controls; ・ Strong intellectual property incentives; And transparent, effective regulation and a free flow of information to patients. 現在の会員は 45 社。内 29 社は年商 500M 米ドル以上の Full Member 会社、16 社は年 商 500M 米ドル未満の比較的新しい Research Associate Member 会社に分けられている。 ・ PhRMA は、一部の企業の色に染まらない業界全体に関する非常に多くの活動を進めて おり、約 200 人のスタッフは全て PhRMA に雇用されている専属スタッフである。 2. PhRMA が関与する Public-Private Partnership (PPP) ・ 最近は、前競争的な提携(pre-competitive collaboration)への関与が増えており、PhRMA が関与するもので代表的なものとして、Multi-Regional Clinical Trial (MRCT) Center、 Clinical Trials Transformation Initiatives (CTTI) 、Observational Medical Outcomes Partnership ( OMOP ) Foundation 、 Biomarker Consortium 、 Alzheimer’s Disease Neuro-imaging Initiative ( ADNI ) 、 California Partnership for Access to Treatment (CPAT)等がある。 ・ Multi-Regional Clinical Trial(MRCT)Center 設立: 2009 年 メンバー: Harvard 大、PhRMA、製薬企業、病院、慈善団体 活動: ・ 国際共同臨床試験や translational research のルール、基準作り Clinical Trials Transformation Initiatives(CTTI) 設立: 2007 年 メンバー: Duke 大、FDA、PhRMA、製薬企業、アカデミア、病院 活動: ・ 臨床試験の質向上を目指した調査、意見交換、提言 Observational Medical Outcomes Partnership(OMOP)Foundation 設立: 2008 年 メンバー: Foundation for NIH(FNIH)、FDA、PhRMA、製薬企業 活動: ・ 医薬品とそのアウトカムの関係を観察研究で明らかにする Biomarker Consortium 設立: 2007 年 メンバー: NIH、FNIH、FDA、PhRMA、製薬企業、BIO、各種 NPO 活動: ・ 新規バイオマーカーの探索と検証 Alzheimer’s Disease Neuro-imaging Initiative(ADNI) 設立: 2004 年 メンバー: FNIH、製薬企業、Alzheimer’s Association 活動: ・ 画像解析を中心にしたアルツハイマー病の発症の客観指標の標準化 California Partnership for Access to Treatment (CPAT) 設立: 2005 年 メンバー: PhRMA、製薬企業、医療機関、患者団体、教会、各種団体、個人 15 活動: ・ 種々のコミュニティーへの加州の health care system の啓蒙、教育 以上に加えて、創薬標的分子の検証、Target validation に関する新しいコンソーシアムを NIH と製薬バイオテク企 業で構築する動きもある。Target validation を pre-competitive collaboration として進めることでの新薬創製機会の拡大が狙える。 本年 2 月 4 日に NIH より新しい PPP コンソーシアムとして、AMP (Accelerating Medicines Partnership)の設立がアナウンスされた。本コンソーシアムの構成メンバーは官から NIH と FDA、民からは製薬 10 社(AbbVie、Biogen Idec、BMS、GSK、Johnson&Johnson、Lilly、 Merck、Pfizer、Sanofi、そして日本から武田)、それに関連患者団体と PhRMA である。ま た、全体運営は FNIH が担当する。アルツハイマー病、2 型糖尿病、自己免疫疾患として 関節リウマチと全身性エリマトーデスを最初の対象疾患とし、官民共同で、バイオマーカー と創薬標的分子の探索と検証を実施する。期間は当面、5 年間で総予算 230M 米ドル、 NIH と民間がほぼ同額を支出、を見込んでいる。また、得られたデータについては一般公 開を原則とするとのことである。 ・ 上記活動の多くにおいて、PhRMA は患者のためを考えたプロジェクト展開を図っている。 特に pre-competitive な提携にはアカデミアに加え、NIH や FDA の機能を取り込むことが 重要で、National Center for Advancing Translational Sciences(NCATS)、Foundation for NIH(FNIH)、Regan Udall Foundation などを連携 の軸に据えている。因みに FNIH と Reagan Udall Foundation はいずれも米国連邦議会の決議により設立された NPO である。 ・ National Center for Advancing Translational Sciences (NCATS) 設立: 2011 年 形態: NIH 内の 1 研究センター 活動: 新薬や新規治療法の開発加速のための translational research の支援(外部 への Funding 含む)、Drug repositioning の支援等 ・ ・ Foundation for NIH(FNIH) 設立: 1998 年 形態: NPO 活動: NIH の研究成果や活動を基にした各種 PPP を支援 Regan Udall Foundation 設立: 2007 年 形態: NPO 活動: 新薬創製に向けての Regulatory Science 面で FDA とアカデミア、企業間の PPP を推進 ・ PhRMA では 15~16 名のスタッフが PPP 関連業務に関与している。 3. PPP に関する調査 ・ 去年と今年で、マッキンゼー(McKinsey & Company)との共同で、過去 10 年間における、 会員企業に関与する 76 の提携について、そのホームページ、プレスリリース、個々のインタ ビューにより、情報収集し、PPP に関する landscape analysis を実施している。間もなく公開 されるその報告書の中で、PPP が成功するための秘訣として以下を挙げられ、考察されて いる。 16 ① 明確な目標設定、 ② 適正な専門性を持ち影響力のあるメンバーの選定、 ③ メンバー全員の参画、オープンな精神による真のパートナーシップの形成、 ④ 単純かつガバナンスのはっきりした共同体組織の構築、 ⑤ 適正な funding 所 感: PhRMA は会員企業とアカデミア、NIH、FDA をメンバーに含む pre-competitive collaboration を 数多く構築し、実活動を推進している。年々、困難性が増し、かつコストが指数関数的に増大して いる新薬創製の現状を打破する策としては産学官を統合した、特に産においては各企業固有の 損得勘定を無視した、pre-competitive な連携が益々必要になってくるわけで、日本での対応の遅 れが大いに気になるところである。間もなく発足する独立行政法人日本医療研究開発機構に期待 したいところではあるが、アカデミアシーズの活用に重きを置きすぎているところもあり、民間主導の 機関の活用、あるいは官主導で米国 NCATS や Regan Udall Foundation のような組織を新設する ことにより、PhRMA などが担っている、コーディネーターの役割を期待するのが良いのかもしれな い。 (加藤 正夫) 受 領 資 料: なし 参 考 資 料: 1. Multi-Regional Clinical Trial(MRCT)Center: http://mrct.globalhealth.harvard.edu/ 2. Clinical Trials Transformation Initiatives(CTTI): http://www.ctti-clinicaltrials.org/ 3. Observational Medical Outcomes Partnership(OMOP)Foundation: http://omop.fnih.org/ 4. Biomarker Consortium: http://www.biomarkersconsortium.org/ 5. Alzheimer’s Disease Neuro-imaging Initiative: http://www.adni-info.org/ 6. California Partnership for Access to Treatment(CPAT): http://www.caaccess.org/ 7. National Center for Advancing Translational Science(NCATS): http://www.ncats.nih.gov/ 8. Foundation for NIH (FNIH): http://www.fnih.org/ 9. Regan Udall Foundation: http://www.reaganudall.org/ 10.NIH の 2 月 4 日付けプレスリリース: http://www.nih.gov/news/health/feb2014/od-04.htm 17 2-2. Biotechnology Industry Organization (BIO) Biotechnology Industry Organization (BIO) 所 在 電 地 : 1201 Maryland Avenue SW Suite 900 Washington DC 20024, USA 話: +1 202 962 9200 F A X: +1 202 488 6301 H o m e p a g e: www. bio.org/ 面 談 日 時 : 2013 年 10 月 21 日(月) 15:30~17:00 面 談 場 所 : 上記所在地 面 談 者: Lila Feisee Vice President International Affairs John Sloan Vice President External Affairs & Member Service Andrew W. Womarck, Ph.D. Director, Science & Regulatory Affairs Roy Zwahlen Associate Counsel Contact Person: Lila Feisee Vice President International Affairs 面 談 目 的: 以下の項目に関する調査、情報収集を行うこと。 ・ バイオ産業の発展に対する BIO の対応方針、姿勢 ・ 核酸医薬に対する、BIO のかかわり方について 説 明 内 容: 1. BIO の概要 ・ BIO は、1993 年に設立され、米国内外の 1,000 社を越える多くの企業が会員となっている 世界最大のバイオ産業業界団体であり、約 160 人のスタッフが製薬産業を含む、幅広いバ イオ産業の推進・発展に取組んでいる。その中でも、研究開発型企業の割合が 66%を占 め、さらに年商 25M 米ドル以下のバイオテク企業が 92%を占めていることから、これらの会 社のニーズを十分に汲み取り、種々の活動を展開している。 ・ BIO のミッションは、”Create a positive environment that promotes biotech innovation”で、 この目的を達成するために、規制当局への働きかけや世界的な会合(BIO International Convention 等)を開催している 18 ・ BIO の活動の特徴として、Committee Structure があり会員企業は各社の関心に合わせて それぞれの Committee に参加し、その活動を通して必要な情報を得たり、政府への提言を まとめている。 ・ BIO の会員企業には、年度総会への参加、各種分科会活動への参画、BIO から発信され る各種重要情報の受領等様々な特典があり、企業規模で年会費が違うため、小規模な企 業も会員になり易く、グローバルメガ企業から設立直後のバイオテク企業まで、様々な企業 が会員となっている。 2. BIOが関与するPublic-Private Partnerships (PPP) ・ PPP は、バイオテク企業にとっての常套手段であり、昨今のオープンイノベーションブーム の遥か以前より、会員企業の多くは、様々な形態で公的研究機関と連携・協業している。 ・ PPP において、初期の研究資金をどこから調達してくるかが大きな問題となっており、エン ジェルファンドの他、政府系の研究グラントが大きな役割を果たしている。 ・ “North Carolina Biotech Cluster”のケースでは、528 のバイオテク企業が活動を続け、1 米 ドルの初期投資に対して、99 米ドルの追加投資が実施された計算となっている。また、バイ オテク企業で働く従業員の平均年収は 75K 米ドル(未公開の一般企業の平均は 40K 米ド ル)で、バイオ育成による州政府への税収入の貢献は、1.4B 米ドルに達している。 ・ BIO としても、コンソーシアム等の枠組みの中で、公的研究機関や FDA・NIH 等政府機関 との共同研究等に取組む等、直接 PPP に関する活動は有しており、PPP に関する会員企 業の実績や米国でのトレンド等も精度高く把握し、米国における成功例や海外での具体 例を分析しその情報発信に努めているようであったが、もともと PPP は、最終的に各企業が 判断・実施するものであるため、業界団体として何らかの具体的な方針や推進策等を有し ているわけではないようであった。 3. Bioscience & Regulatory Affairs ・ BIO の会員の中では、Genentech、Amgen をはじめとして多くのバイオ医薬品を手掛けるバ イオテク企業が、彼らの関心事でもあるバイオ医薬品の規制、臨床開発、バイオ製品の製 造、そして対バイオシミラー対策に積極的に取り組んでいる。 4. 核酸医薬に対するBIOのかかわり方 ・ 核酸医薬に関係する BIO の取組みとしては、直接的な関与はしていないものの、関係企 業は薬事関係の Committee で、FDA の最新情報を収集することができる。また、研究動向 としては、RNAi に関する研究開発の割合が増加している。 所 感: BIO は当初いくつかのバイオテク企業のショーケース的な要素からスタートしたが、今では大手 製薬企 業も会員企 業に加え、世界的なロビー団 体へと成長した。会の運 営は、会員 企業が Committee のメンバーとなり、政府に対する要望をまとめていて、BIO が会員企業の利益を代表し て積 極 的 に活 動 していることが感 じられる。特 に、Regulatory の分 野 においては、会 員 企 業 に 19 Genentech や Amgen といった世界のトップ製薬企業並みのバイオテク企業がバイオ医薬品で、膨 大な利益を享受していることから、バイオシミラーや、バイオ医薬品の製造工程と品質保証に関心 が高く、これらの問題に積極的に取り組んでいる。PPP に関しては、基本的に企業間の問題として、 BIO が中心となって働きかけを行うことはないようであるが、その状況に関しては、分析が行われて いる。 (松本 正) 受 領 資 料: 1. BIO Overview 20 2-3.National Institutes of Health (NIH) National Institutes of Health (NIH) 所 在 地 : Forgarty International Center Conference Room, Building 31A, 31 Center Drive, Bethesda, MD 20892-2220, USA 電 話: +1 301 496 4787 H o m e p a g e: www.nih.gov/ 面 談 日 時 : 2013 年 10 月 22 日(火) 8:00~10:30 面 談 場 所 : 上記所在地 面 談 者: Michael F. Huerta, Ph.D. Associate Director, National Library of Medicine Director, Office of Health Information Program Development Jennifer Couch, Ph.D. Chief, BD2K, Systems Biology, Computational Biology Department of Health and Human Services, Division of Cancer Biology Contact Person: Tina Chung, MPH Program Officer for Asia and the Pacific, Division of International Relations 面 談 目 的: 以下の項目に関する調査、情報収集を行うこと。 ・ Big Data to Knowledge(BD2K)イニシアチブについて 説 明 内 容: 概 要: 1. Big Data to Knowledge (BD2K)実施の背景 1) 生物医学研究の現状 ・ 今日、生物医学研究では独立した個々の研究機関が日常的に膨大で多様なデータを生 産し続けており、データ集約型の研究になってきている。しかしながら、データを管理・統 合・分析する能力、及び、他人が生産したデータを探し利用する能力は、ツールや教育の 不足、アクセスのし難さ等から、そのほとんどは生物医学研究コミュニティーで幅広く利用さ れていないのが実情である。 ・ 生物医学研究の主な成果は、科学論文に載ったコンセプトが主であり、データではない。 ・ NIH でのライフサイエンス関連ビッグデータへの取組みは、数年前からの予備的検討を経 て、来年度からの本格的始動に向け、急ピッチで実行計画が練られている状況であった。 ・ 1990 年代より、ライフサイエンス研究・医療分野では、将来 IT 活用が重要になると認識さ 21 れており、NIH も目的を絞った小規模プロジェクトでの検討を断続的に行ってきたが、当時 の当該データは仕様が一様でなく、データ活用の目的やゴール設定も明確にし難かった ため、大きなプロジェクトとして継続的に取組むには至らなかった。 ・ 昨今、技術的進展が顕著となり、ビッグデータ活用基盤の整備も進みつつある状況となっ た。 2) 生物医学研究の将来の方向性と対応 ・ データの相互利用、手法やデータの標準化、データやツールへのアクセスを容易にするこ とで research ecosystem につながり、サイエンティフィックなイノベーションを可能にする。 ・ データ中心の研究活動にすべきである。 ・ ビッグデータは研究機関から産生されるデータ全てを意味している。 ・ 上 記 背 景 から NIH のフランシス・コリンズ所 長 指 示 により NIH 所 長 諮 問 委 員 会 (the Advisory Committee to the Director:ACD)の下に、①生物医学の研究者の多様性、②未 来の生物医学の研究人材、③データ及び情報科学を検討する 3 つのワーキンググループ が設置された。 ・ ワーキンググループは 2012 年 6 月 15 日にビッグデータから知見を得る(Big Data to Knowledge : BD2K)についての提案事項をレポートにまとめ ACD へ報告した。 2. BD2K イニシアチブ実施計画案 ・ NIH は、2012 年 12 月 6 日と 7 日に行われた ACD において、生物医学研究コミュニティ ー強化に向けた BD2K 実施計画案を発表した。この計画案は、2012 年 6 月 15 日に提示 された提案事項について、さらに NIH 内部での審議を経て策定されたものである。 ・ BD2K イニシアチブは、研究、開発、教育へ資金援助する、全ての NIH 研究所&センター が全面的に協力・支援する、よりデータ中心の生物医学研究を推進する、ユニークかつ 7 年間の予定で、年間数 100M 米ドルの資金を投入する大型プロジェクトである。 ・ BD2K イニシアチブでは、分散している情報の単なる統合や既存ツールの改良等を目指 すのではなく、データ活用の目的と方策を科学的に検討することを重視しているが、当面 の目標は対象とするデータのカタログ作りであり、データの信頼性保証や得られる知的財 産の取扱い等については、今後協議することとなっている。 ・ BD2K イニシアチブは、膨大なデータの利用により生物医学研究者が革新的な研究成果 を得るべく、データ科学分野の研究や教育を支援するものであり、協力的な環境下での分 野横断型チームの形成を促し、既存の生物医学分野以外からデータサイエンスに関する 経験のある研究者の参加を増やす計画である。 ・ 具体的な計画案としては、 ① 学部学生を対象とするメンター付研究体験の推進、生物医学の研究職を目指す学生 向けの財政支援、博士課程の多様性を促進する手法を開発するためのイノベーショ ン・スペースの提供等を目指す、新規プログラム Building Infrastructure Leading to Diversity(BUILD)の立ち上げを含む 4 項目 ② 研究助成や個人ごとの能力開発計画の導入による、大学院生及びポスドク研究者教 育の強化を含む 4 項目 22 ③ 処理済データ及びソフトウェアの公開方針や分析手段等を定める新たな「知識へのビ ッグデータ(Big Data to Knowledge:BD2K)」事業による、生物医学データの価値の最 大化を含む 2 項目が、それぞれ提示されている。 ・ 本プロジェクトには、NIH 内の研究所が参画し、当該研究所が保有するデータを対象とす るが、IT 企業(グーグル、マイクロソフト、アマゾン)や、主要大学、国立の研究所や防衛高 等 研 究 計 画 局 等 も 参 画 す る コ ン ソー シ アム 形 式 で 運 営 され る 予 定 で あ り 、 既 に 、 Key Person を座長としたトレーニングに関するワークショップの開催等により、今後の具体的計 画案に関する協議・パブリックオピニオンの聴取に着手している。 3) BD2K 研究拠点の公募プログラム ・ NIH は、2013 年 7 月 22 日 BD2K 研究拠点(Centers of Excellence:COE)の公募プログラ ムの設立を発表した。今回発表された BD2K COE プログラムは、BD2K イニシアチブ下で 幾つか予定されているファンディング・プログラムのうち最初のものである。 ・ この公募プログラムでは、2014 年 10 月までに COE を 6~8 件採択する予定である。採択さ れた COE は、データの共有、統合、分析及び管理のための革新的な方法、研究手法、ソ フトウェア及びツールを開発・共有する事によって、増加・複雑化を続けるデータの利用に 必要な、研究コミュニティーの能力を高める事を目指す。また、COE では学生や研究者に、 データ科学上の手法の利用と開発の教育も提供する。 ・ BD2K Center of Excellence の設立に対する資金提供を受けたいと考える組織は、データ サイエンス領域の研究テーマを提示する必要がある。具体的には、データの統合、分析や、 データベースの開発と管理のためのアプローチ、方法、ソフトウェア、ツールの開発などを 目的とする研究計画が求められている。 ・ 研究開発努力から生まれる製品は、研究者たちに広く提供されることになっている。なお、 各センターは集まってコンソーシアムを形成し、相互に協力する予定である。 所 感: NIH については毎年継続して訪問してきたが、今回の訪問に際しては、10 月に米国の政府機 関が閉鎖され一時訪問が危ぶまれたが、訪問直前に解除されたため無事訪問する事が出来た。 解除後の業務再開で多忙な中、我々のために対応していただいた Dr.Huerta、Dr.Couch、および、 献身的にアレンジしていただいた Ms.Chung に心から感謝を表したい。 BD2K イニシアチブは計画がスタートしたばかりであるが、世界最大のライフサイエンス拠点とし て絶大な影響力を有する NIH が、本腰を入れてビッグデータ活用の取組みを開始したことは大い に注目すべきであり、今後どのような成果を産生して行くのか、独立行政法人 日本医療研究開発 機構設立を目指す我が国としても継続的にフォローして行くべきである。 (井口 富夫) 受 領 資 料: 1. NIH Big Data to Knowledge Initiative (BD2K) 23 2-4.Critical Path Institute (C-Path) Critical Path Institute (C-Path) 所 在 電 地: 1730 E. River Rd., Tucson, AZ 85718, USA 話: +1 520 547-3440 F A X: +1 520 547-3456 H o m e p a g e: www.c-path.org/ 面 談 日 時: 2013 年 10 月 23 日(水) 10:00~12:00 面 談 場 所 : 上記所在地 面 談 者: Martha A. Brumfield, Ph.D. President and Chief Executive Officer Steven T. Broadbent Chief Operating Officer Enrique Aviles Chief Technology Officer Lynn D. Hudson, Ph.D. Chief Science Officer John-Michael Sauer, Ph.D. Executive Director. Predictive Safety Testing Consortium Liz Walker Director, Regulatory Submissions and Strategy(via telephone) Gary H. Lundstrom Senior Project Manager. Polycystic Kidney Disease Consortium. Predictive Safety Testing Consortium Contact Person: Steven T. Broadbent Chief Operating Officer 面 談 目 的: 以下の項目に関する調査、情報収集を行うこと。 ・ 取り組み方針及び具体的戦略 ・ Public-Private Partnership の取り組み 説 明 内 容: 1. 概要 1) C-Path の概要 24 ・ C-Path は、2005 年に FDA が打ち出した Critical Path Initiative Program を受けて FDA と の Public-Private Partnership(PPP)として発足した全世界な非営利組織団体であり、医薬 品開発の長期化、研究開発コストの高騰、成功率の低下および効果や安全性評価の明 確な基準の未整備などの現状の課題を解決するためには、産学官のイノベーティブかつコ ラボラティブなアプローチが必要との認識で新しい評価方法や治験の基準を作成すること を目的としている。これにより規制の適格性や医療用製品承認や採用が早められることが 期待されている。 ・ C-Path の運営資金は、FDA 等からのグラント、各種慈善財団・患者団体からの支援資金、 コンソーシアム会員企業からの会費等で構成されており、企業からの資金は入っていない。 結核治療の改革を目指したコンソーシアムである CPTR においては、ゲイツ財団から多大 な経済的バックアップを受けている。 ・ C-Path のスタッフは 35 人である。(2013 年 10 月時点) 2) 活動中のコンソーシアム ・ C-Path においては新たな医薬品評価基準の確立等、前競争段階・非競争機能での医薬 品研究開発・承認プロセスの効率化・迅速化に繋がる各種検討を国際的コンソーシアム形 式で進めている。 ・ 2013 年に活動中のコンソーシアムは以下の 7 つであり、世界 1,000 人以上の科学者と 41 の企業が参加している。 Fig.2-4-1 C-Path において活動中のコンソーシアム (受領資料より) 25 Coalition Against Major Diseases(CAMD) CAMD は、慢性神経変性疾患の治療のための薬剤開発ツールを加速させるために革新 的なアプローチとプロセスを開発するために作られた。 Critical Path to TB Drug Regimens(CPTR) CPTR は、TB(結核)に対する新しい治療計画の加速的発展を可能とすることに注力した C-Path、ビル&メリンダ・ゲーツ財団及びグローバル TB アライアンスが主導する官民パート ナーシップである。実施されている研究は、新しいバイオマーカーとデータ標準化の促進、 進行性の TB モデルと臨床試験シミュレーションツールの開発、ならびに新しい治療法のた めに世界的な規制パスウェイを強化することを含む。 Multiple Sclerosis Outcome Assessments Consortium(MSOAC) MSOAC の主な目的は、Multiple Sclerosis(MS:多発性硬化症)治療の臨床試験のプライ マリーあるいはコプライマリ-なエンドポイントとして臨 床 医 から報 告 されたアウトカム (ClinRO)インスツルメントについて、FDA と EMA からの認証(資格)取得である。 Polycystic Kidney Disease(PKD)Consortium PKD アウトカムコンソーシアムは、多発性嚢胞腎症の有効な薬物治療ための重大なアンメ ットニーズについて取り組むための PKD Foundation、FDA、C-Path と臨床医科学者の間の 共同研究を行っている。 Patient-Reported Outcome(PRO)Consortium PRO Consortium は、臨床試験において主要あるいは重要なセカンドエンドポイントとして 患者による医療効果評価に使用するための PRO Instruments を開発、検証するために作ら れた。 Electronic Patient-Reported Outcome(ePRO)Consortium ePRO Consortium は、PRO Consortium で開発した PRO Instrument を電子プラットフォーム (例えばスマートフォン、タブレット型コンピューター、ウェブまたはインタラクティブな音声応 答システム)上で患者による医療効果評価手段として利用しやすくするために作られた。 Predictive Safety Testing Consortium(PSTC) PSTC は、FDA、EMA と PMDA の協議の下で、製薬会社を加えて革新的な安全性試験を 共有し検証するために作られた。現在、組織別に心臓(CHWG)、肝臓(HWG)、骨格筋 (SKM)、血管(VIWG)、腎臓(NWG)、精巣(TWG)のワーキンググループ(WG)が設置さ れており、WG 横断的に miRNA、Histology および Statistics のチームが支援している。 3) これまでの C-Path の成果 ・ 7 つの非臨床安全性バイオマーカーを開発し、FDA、EMA および PMDA が適格と評価し た。 ・ Alzheimer 病治療評価のための新しいシミュレーションツールを開発し、EMA が適格と評 価した。 ・ 2008 年から the Clinical Data Interchange Standards Consortium(CDISC)と共同で 4 つの CDISC 治 療 分 野 ( Alzheimer’s 、 Tuberculosis 、 Parkinson’s disease 、 Polycystic kidney disease)のデータスタンダードを作成し、提供した。 ・ CDISC の Alzheimer 病の臨床試験データを集積し、最初に最大規模のデータベースを公 26 開した。 ・ 臨 床 試 験 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン ツ ー ル は EMA に よ り 適 格 と 評 価 さ れ 、 FDA に よ り “fit-for-purpose”と判断された。 4) 進行中の活動 ・ 新たに 44 のバイオマーカーについて FDA と検討中である。 ・ 新たに 37 の安全性バイオマーカーを開発中である。 ・ Patient-Reported Outcome instruments が 7 治療分野で開発中である。 ・ 多発性硬化症に対する CDISC standards を作成中である。 2. Public-Private Partnership Projects(PPP)への取組み 1) PPP の成功要因として以下の内容が挙げられた。 ① アンメットニーズの疾患に対する特別プロジェクトを見極めること。 ② 参加する意思を持ち、可能であればデータ提供で貢献できる企業とアカデミアの専門家を 繋ぎ合せること。 ③ 規制当局が参画しリーダーシップを発揮すること。 ④ 患者団体と患者支援基金を加えること。 ⑤ 高度な専門知識と技術を有する専門家と経験豊かなプロジェクトマージメント能力を有する スタッフが参加すること。 ⑥ 政策モデルを決定し、資金ソースを確保すること。 ⑦ 会員資格とデータアクセスのための実効性のある法的契約を結ぶこと。 ⑧ 個別のスケジュールを持った詳細な研究計画を作り、早期に結果を公開出来るようにする こと。 2) C-Path Online Data Repository(CODR) ・ CODR は、C-Path のコンソーシアムにおいて得られた薬物毒性のバイオマーカー、神経変 性疾患および患者による医療効果評価に関連した価値ある科学的なデータを、C-Path コ ンソーシアムメンバーと資格を持った研究者がアップロードおよび利用することができるユニ ークなデータベースであり、PPP を運営していく上で重要な手段となっている。 ・ 現在、CODR には、CAMD-AD(Alzheimer Disease)、CAMD-PD、CPTR、PSTC Clinical LSSP、PSTC Non-Clinical、PSTC Clinical Kidney、MSOAC、PKD がある。 3) 今後の Key challenge ・ C-Path の今後の Key challenge として、多忙な関係者からの協力・支援の確保、十分なスタ ッフ維持のための資金確保、不確実なエビデンスによる規制にならないこと、規制プロセス や先端科学の教育、データの収集保存のための環境整備、コンソーシアムメンバーの意見 調整などを挙げている。 3. Predictive Safety Testing Consortium(PSTC) 1) PSTC の概要 27 ・ PSTC は 20 の企業からなるメンバーと FDA、EMA 及び PMDA などの当局を含む 9 のパ ートナーで構成される。 ・ 組織毎に心臓、肝臓、骨格筋、血管、腎臓、及び精巣の 6 つのワーキンググループ(WG) が設置され、WG 横断的に miRNA、Histology 及び Statistic チームが支援している。 Fig.2-4-2 PSTC の組織 (受領資料より) ・ 各 WG のゴールは安全性バイオマーカー(BM)を見いだすことであるが、どのような BM と するかは WG によって異なる。たとえば、腎臓では translational safety BM を血管では種特 異的 BM を探索している。 ・ 参加企業は研究専門家とラボリソースを持ち寄って各プロジェクトを推進している。 2) 各 WG の取り組み ・ 腎臓(腎毒性)WG WG のゴールは、げっ歯類及びヒトにおける薬剤誘発腎障害の BM の適格性の確認 を FDA 及び EMA から得ること、及びイヌや非ヒト霊長類における薬剤誘発腎障害の BM としての有用性を明確にすることである。 ラット GLP 毒性試験で薬剤誘発腎障害をモニターする有用なマーカーとして 7 つの BM( 尿 中 腎 障 害 分 子 ( Kim-1 ) 、尿 中 ク ラス タリン 、尿 中 アルブ ミン 、尿 中 Trefoil factor-3(TFF3)、尿中シスタチン C、尿中β2-マイクログロブリン、尿中総タンパク)を 見出し、FDA、EMA 及び PMDA より適格性についての正式の見解を得ている。これ らの BM についてイヌや非ヒト霊長類での使用可能性も検討を行っている。 上記の 7 つの BM 以外の腎障害 BM について、超早期の腎障害の検出能力や障害 の可逆性のモニタリングにおける有用性、及び、薬剤誘発腎障害での特異性につい て検討を行っている。 これらの BM について、ヒトにおいても腎障害の BM となりうるのかについて検討を行っ 28 ている。 ・ 骨格筋 WG WG のゴールは、げっ歯類、イヌ、非ヒト霊長類及びヒトにおける薬剤誘発骨格筋変 性の BM の適格性の確認を FDA 及び EMA から得ることである。 非臨床及び臨床から見出された BM について、薬剤誘発骨格筋障害を検出、モニタ ーするための特異性や正確性の検討を行っている。 ・ 肝臓(肝毒性)WG WG のゴールは、現状の肝臓のマーカーの課題を克服した BM を特定すること、 BSEP 阻害を測定する BM を特定すること、前臨床で見出された胆管過形成と臨床の 関連性を評価すること、新規肝障害 BM のアッセイの開発及びバリデーションすること、 及び in vitro の肝臓モデルの gap 評価をすることなどである。アッセイの開発の標的と して miRNA も含まれている。 非臨床の肝障害 BM については、現状のマーカーの課題を改良したいくつかの BM の適格性の検討を行っている。 臨床の肝障害 BM については、治療早期に、患者が重症肝炎になるか、適応できる か、そして治療を安全に続行できるかを予測できる BM に注力している。 ・ 心臓(心肥大)WG WG のゴールは、NT-proANP を薬剤誘発心肥大の測定にげっ歯類で使用することの 適格性の確認である。 ・ 血管(血管障害)WG WG のゴールは、げっ歯類及びヒトにおいて、薬剤誘発血管障害の非臨床及び臨床 BM の適格性の確認である。 薬剤誘発血管障害はラット、イヌ及びサルなどの非臨床試験で用いる動物種で見ら れるが、その病理組織学的所見は動物種間で異なり、またヒトとも異なる。PSTC では、 ラットから血管上皮あるいは血管平滑筋が薬物誘発障害に高感度及び特異的で、ヒ トとメカニズムの関連性が示せる BM を追求している。 また、非臨床試験及び臨床試験において安全性をモニターできる非侵襲性の BM も 探索している。 ・ 精巣 WG WG のゴールは、げっ歯類及び大動物において、薬剤誘発精巣障害の BM の適格 性の確認である。 ・ PSTC は IMI がスポンサーをつとめる SAFE-T コンソーシアムと薬剤誘発肝障害、腎障害及 び血管障害についてコラボレーションを開始した。 3) 今後の Vision ・ PSTC の Vision として、医薬品開発を加速するためのトランスレーショナルな安全性戦略を 明確にすることを挙げている。具体的には、新しいツールや医薬品探索や開発に用いるア プローチを開発することにより、医薬品の安全性を評価するアプローチの近代化を行うこと である。BM の適格性評価は毒性を見るツールのひとつとしての検討である。 29 所 感: 複 数のコンソーシアムで、規 制 当 局との連 携・協 力 も積 極 的に行 っており、これまでの成果が FDA や EMA に採用されていること等から、規制当局からも高く評価されていることが伺われる。一 方、PMDA との連携・協力は限定的であり、今後の関係強化を大いに期待しているとのことであっ た。 WG 活動では、数人の C-path のプロジェクト担当者が 100 人単位の共同研究者をまとめている ことより、非常に統制の取れたプロジェクト運営をしていることが感じられた。 今回の会合に出席頂いた CEO を始めとする C-Path のシニアメンバーは、C-Path と HS 財団に は共通点が少なくないと感じたようであり、HS 財団に、日本での C-Path の活動推進のための連携・ 協力について検討することを要請された。 (池田 陽子、井口 富夫) 受 領 資 料: 1. Critical Path Institute Overview 2. Accelerating Pathways to a Healthier World ‐The C-Path Paradigm‐ 3. Building a Translational Safety Strategy: Review of nonclinical and clinical biomarker qualification efforts in the Predictive Safety Testing Consortium 参 考 資 料: 1. 薬剤誘発性急性腎障害バイオマーカーに係るファーマコゲノミクス・バイオマーカー相談の結 果について: http://www.pmda.go.jp/operations/shonin/info/consult/m03_pharma_kekka.html 2. FINAL CONCLUSIONS ON THE PILOT JOINT EMEA/FDA VXDS EXPERIENCE ON QUALIFICATION OF NEPHROTOXICITY BIOMARKERS.: http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Regulatory_and_procedural_guidel ine/2009/10/WC500004205.pdf 3. FDA NEWS RELEASE:FDA, European Medicines Agency to Consider Additional Test Results When Assessing New Drug Safety Collaborative effort by FDA and EMEA expected to yield additional safety data: http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/2008/ucm116911.htm 30 2-5.ISIS Pharmaceuticals, Inc. ISIS Pharmaceuticals, Inc. 所 在 電 地 : 2855 Gazelle Court Carlsbad, CA 92010, USA 話: +1 760-931-9200 H o m e p a g e: www.isispharm.com/ 面 談 日 時 : 2013 年 10 月 24 日(木) 10:00~12:00 面 談 場 所 : 上記所在地 面 談 者: D. Wade Walke, Ph.D. Vice President, Corporate Communications and Investor Relations Kevin T. Skol Director, Business Development Joseph Baroldi Director, Business Development Erich Koller, Ph.D. Assistant Director, Core Research Kiyoko Shimizu Project Administrator, Clinical Development Contact Person: Brigitte Porte Senior Corporate Communications Coordinator 面 談 目 的: 以下の項目に関する調査、情報収集を行うこと。 ・ 核酸医薬を中心とした同社の成長戦略 ・ R&D 戦略とパートナリング戦略について 説 明 内 容: 1. ISIS Pharmaceuticals, Inc.(ISIS)の成長戦略 ・ ISIS は 1989 年に設立され、一貫してアンチセンス医薬の研究開発を継続している核酸医 薬のパイオニア企業である。 ・ 同社が開発した、第 1 世代の修飾核酸(Phosphorothioate 型)である fomivirsen は、サイト メガロウイルス網膜炎を適応に硝子体内注入剤として 1998 年 8 月に FDA の承認を受けた。 同剤は FDA が承認した最初のアンチセンス抗ウイルス剤である。 ・ また、同じく第 1 世代の修飾核酸である alicaforsen は、回腸嚢炎を適応に、2008 年 6 月 に FDA、2009 年 4 月に EMA より希少疾患治療薬指定を受け、Named Patient Supply プ 31 ログラム 脚注 による供給が Atlantic Healthcare plc.により実施されている。同剤は、白血球の 細胞表面に発現するたんぱく質である ICAM-1 を標的とするアンチセンスであり、炎症反 応を抑え、組織修復を亢進することが期待されており、潰瘍性大腸炎等について浣腸剤の 治験が進行中である。 (脚 注 ) 患者アクセスプログラムの一つ。該当する医薬品が承認されていない国、保険償還価格が決定 していない国において、その使用を求める医師に対し、製造販売業者が患者を登録した上で個別 に医薬品を提供するプログラムである。当プログラムの下での薬剤費は医療機関や医療保険給付 者が 負担するが、関連法令や倫理上の規制は各国で異なっている。 ・ さらに第 2 世代(2’-methoxymethyl 型)である mipomersen がホモ型家族性高コレステロー ル 血 症 を 適 応 に 2013 年 1 月 FDA よ り 承 認 さ れ 、 Genzyme Corporation を 通 じ 、 KYNAMRO TM (mipomersen sodium)Injection として上市された。本剤は全身投与型のア ンチセンス医薬として、世界で初めて FDA より承認を受けたものとなった。 ・ 修飾核酸に関する多くの特許を有し、現在、第 2 世代から半歩進んだ第 2.5 世代の修飾 核酸を中心に研究を進めている。第 2.5 世代(架橋型)の核酸医薬である ISIS-STAT3 Rx は、多くのがん細胞で過剰発現している STAT3 を標的とするアンチセンスで、AstraZeneca にライセンスされた。STAT3 を過剰発現する各種のがんに有効性を示すものと期待されて いる。 Fig.2-5-1 第 2.5 世代の修飾核酸 (受領資料より) 32 ・ ISIS は、アンチセンス治療薬関連の自社発明やインライセンスにより広範な特許を集積し、 アンチセンス治療薬開発における支配的な地位を築いている。アンチセンスの作用機作、 オリゴヌクレオチドの基本化学、アンチセンス医薬のドラッグデザイン、アンチセンスの配列、 アンチセンス医薬の製剤等に関する多くの知財を保有しており、自社開発医薬のパテント 保護により、類似医薬による他者からの事業侵害阻止を目指している。 2. ISIS のパートナリング戦略 ・ ISIS のスタッフは現在 350 人ほどで、今後も規模は拡大しない方針である。 ・ ISIS は、疾患標的の選定(Target Validation)、リード開発(Lead Development)、非臨床試 験、POC 確認のための臨床試験を得意とし、POC 確認後にライセンスアウトするビジネスモ デルを継続するが、ISIS のアライアンスは、多岐に渡っている。バイオテク企業とのアライア ンスや合弁事業を通じ、数多くの大手製薬企業と多彩な提携戦略を進めている。 Fig.2-5-2 ISIS の提携戦略 (受領資料より) ・ 創薬を目指す疾患領域は、心血管系疾患、難治・希少疾患、代謝性疾患、がん、炎症そ の他の疾患である。領域を特定せずアンチセンスが有効とされる疾患を攻めているようであ る。 ・ 脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy: SMA)の治療薬として Biogen Idec と開発中の ISIS-SMN RX 、トランスサイレチン・アミロイドーシス(transthyretin amyloidosis)の治療剤とし て GSK と開発中の ISI-TTR RX および ISIS が単独で開発を進めている重症高トリグリセライ ド血症治療剤の ISIS-APOCIII RX を紹介いただいた。 33 Fig.2-5-3 ISIS の提携基準 (受領資料より) ・ また、中枢領域において Biogen Idec と、創薬初期段階から戦略的に提携した。 Fig.2-5-4 ISIS-Biogen Idec 提携の歴史 (受領資料より) 34 3. 施設見学 10:00~10:30 Erich Koller, Ph.D. Assistant Director, Core Research Kiyoko Shimizu Project Administrator, Clinical Development ・ Koller 博士に説明いただきながら ISIS の研究施設を見学させていただいた。ISIS の本社・ 研究所は、サンディエゴ郊外の小高い丘の上にあり、環境を重視しつつ、研究者同士の交 流に配慮し、研究に専念できる環境と研究者の活発な交流を意図したデザインとなってい る。 ・ 壁一面に飾れた特許証の数々から知財を重視していることが伺えた。 Fig.2-5-5 ISIS 社の特許証 (訪問時に撮影) 所 感: 核酸医薬のパイオニア企業として、活発に研究開発を進めていることが伺えた。保有するアンチ センスに関する多彩な知財を有効活用し、多くの企業と提携関係を築いている。mipomersen は、 全身投与型の核酸医薬として初めて FDA の承認を得たが、安全性の点から EMA は非承認とした。 安全性等、多くの課題を解決することが必要になると思われるが、核酸医薬の実用化に向けて ISIS は邁進しているように感じた。 (佐々木 徹) 受 領 資 料: 1. ISIS Corporate Presentation; Prepared for Japan Health Sciences Foundation. 35 2-6.Arena Pharmaceuticals, Inc. Arena Pharmaceuticals, Inc. 所 在 電 地 : 6154 Nancy Ridge Drive, San Diego, CA 92121, USA 話: +1 858.453.7200 F A X: +1 858.453.7200 E - m a i l: businessdevelopment@arenapharm.com H o m e p a g e: www.arenapharm.com/ 面 談 日 時 : 2013 年 10 月 24 日(木) 14:40~16:00 面 談 場 所 : 上記所在地 面 談 者: Maurice J. Mezzino, CFA Vice President, Corporate Development Graeme Semple, Ph.D. Vice President, Descovery Chemistry Dominic Behan, PhD. Executive Vice President and Chief Scientific Officer Hussien “Sunny” Al-Shamma, Ph.D. Vice President, Discovery Biology David J. Unett, Ph.D. Vice President, Receptor Pharmacology Joanne M. Quan, MD Vice President, Clinical Development Contact Person: Maurice J. Mezzino, CFA Vice President, Corporate Development 面 談 目 的: 以下の項目に関する調査、情報収集を行うこと。 ・ ベンチャーから製薬会社へと変貌しつつある会社の現況 Overview and topics of Arena activities at the growing period for Arena ・ 自社創薬品目の上市までの歴史、戦略、成功の秘訣など Company history, strategy and key for success until the launch of the first original compound ・ 創薬や開発における公的機関や企業との提携やオープンイノベーションに対する取り組み Policy and approaches of Arena on public private partnership and open innovation activities of drug discovery and development 36 ・ 現在そして将来の研究領域について(核酸医薬など) Current and future research interests area, such as nucleic acid medicine 説 明 内 容: 1. 会社概要 ・ G タンパク質共役受容体(以後、「GPCR」)を標的としてアンメットメディカルニーズに応える べく、創薬、開発、販売を行なうバイオテク企業である。 ・ GPCR に関連する心循環器、中枢、炎症などが研究領域となっている。 ・ 現在社員は、220~230 人。同じ敷地に 8 つのビルをもつ。 ・ 主なマイルストーン: 1997 年 サンディエゴに設立 2000 年 上場 2004 年 lorcaserin 臨床試験開始 2008 年 臨床開発品が 5 つとなる。欧州の製造工場を買収して子会社化。 2012 年 lorcaserin の FDA 承認取得 ・ 提携経験: 日本の製薬会社とは、2000 年大正製薬、2001 年藤沢薬品、2010 年エーザイ。 他にリリーや Merck などのグローバルカンパニーとの提携経験を有する。 ・ 自社創薬の抗肥満薬 BELVIQ ® (lorcaserin)を、会社として初めての自社創薬医薬品の販 売を開始した。抗肥満薬としては 13 年ぶりの認可となった。 本剤はセロトニン受容体アゴニストであり、選択的に脳内セロトニン 2C 受容体を刺激 することで、少量の食事でも満腹感を得ることができるようになって体重を減少させると 考えられる。 本剤はエーザイと提携しているが、以前、別のグローバル会社との共同開発も行なっ ていた経緯がある。 ・ 現在は、BELVIQ ® の米国はじめ他の地域での販売を推進するとともに、GPCR 研究より見 出された他のパイプラインの開発に注力するため、他の研究領域には参入しない。今後も GPCR 研究を更に発展させ、継続して新規の薬剤候補品を見つけたいと考える。 ・ 設立から現在までに、増資や株の発行などで 1.5B 米ドルの資金調達に成功した。これは プロジェクトの進捗、他社との提携などが評価されたことによる。 ・ スイスの製 造 工 場 を買 収 して、100%子 会 社 の Arena Pharmaceuticals GmbH とした。 BELVIQ ® の製造と Siegfried AG(元の会社)の製造受託を引き続き行なう。スイスは 10 年 間の税金免除措置がある。 ・ 特許について: 新規物質が取得されたときに出願し、主要国はほぼ全部権利化する。 ・ 研究開発への考え方 初期開発プロジェクトを実施することで、会社の将来性を高める 困難は機会をもたらす ・ You can learn as much from the ‘bad’ molecules as you do from the ‘good’ What you build to take on your early challenges 成功因子:研究開発への努力を惜しまず、勤勉さを尊ぶような企業文化。そして他社との 提携が重要と考える。 37 Arena Core Value (名刺の裏に印刷) Intelligency – High standard of personal behavior Excellence – Being the best Teamwork- Cooperative efforts Innovation – Cutting edge solutions 2. 歴史 ・ 会社創立期: GPCR のスクリーニング系を独自で立ち上げ、特許化した。このスクリーニン グ方法は、リガンドの分っていないオーファン GPCR もスクリーニングを可能とした。 ・ 1999 年:5-HT 2A 受容体の研究を行なうなかで、合成機能を設立。 ・ 2000 年:5-HT 2C 受容体の研究の開始し、肥満をターゲットとする。 ・ 2001 年:5-HT 2C 受容体研究の決断;良いリード化合物が得られなかったので、合成とスク リーニングのリソースを補充。薬理研究機能を設立。 ・ 2002 年:ロルカセリンを合成。 ・ 2003 年:PK 機能追加。Chemist の機能の拡大(約 2 倍) ・ 2004 年:IND、Formulation 機能追加 ⇒ ロルカセリンの開発を通じて、合成、薬理、動態、毒性などの機能を補強し、経験を積んで いった。このような内部機能の拡大とノウハウの蓄積は、当該プロジェクトのみならず、他の プログラムへの展開や、研究開発機能の強化につながった。自社内部の専門知識や技術 は、外部へ委託する際にも極めて重要と考える。 【5-HT 2A 睡眠プロジェクト】 ・ 2003 年:APD125 を合成。睡眠の適応のため、溶解性と長時間作用が重要であり、製剤化 研究の機能が強化された。 【MCHプロジェクト】 ・ MCH-R1 受容体プロジェクトは、肥満と不安/うつの 2 つの適応可能性があった。本プロジェ クトを通じて、中枢系の合成展開、中枢系薬理などの知識と経験が蓄積された。 【GPR119とNiacinプロジェクト】 ・ GPR119:糖尿病への造詣が深くなり、またミクロソーム安定性や CYP 阻害圧制などを社内 に設立した。 ・ Niacin:心循環器系チームを立ち上げた。 【5-HT 2A 心循環器プロジェクト】 ・ 2005 年後半:APD791 を合成。社内の PK/PD 研究の促進、hERG や CYP 阻害のハイス ループットスクリーニングが可能となった。 【H3アンタゴニストと5-HT 2A 睡眠プロジェクト】 ・ 2007 年:APD916 合成。合成、中枢系薬理、PK のノウハウを融合。 【H3アンタゴニストと5-HT 2A 睡眠プロジェクト】 ・ 2009 年:APD811 合成。プロスタサイクリン受容体のアゴニスト、肺高血圧症。 ・ 2010 年:APD334 合成。SIPI アゴニスト能に基づく細胞内及び種間の情報伝達の新たな パラダイムを探索する。 38 Fig.2-6-1 Arena 社の研究機能拡充の歴史 (受領資料より) 3. 戦略等(主に質疑応答より) ・ 意思決定システム: 初期研究テーマと創薬プロジェクトでは、異なるスキームで意思決定 を行なう。 ① 初期研究テーマ: 主要な研究者が中心に、進捗等を管理し、ディスカッションをもとに 方向を決定していく。 ② 創薬プロジェクト: 主要な研究者と、関連部署、CMC、毒性、ADME 等が、コミッティ ーとして決定を行なう。 多岐の研究開発機能を社内に保有するため、バイオテク企業から小さい製薬会社のように なった。そのため、意思決定システムについても、今後検討が必要かもしれない。 ・ リスクを取ることは、創薬バイオテク企業としては恐れていない。そのリスクを十分検討したう えで、取り上げるべきと思えば、実行する。 ・ 提携先: アジア(日本、韓国、台湾)にパートナーが居ることは、特にアジアのパートナー を探していたわけではなく、地理的な拡大を狙った結果このようになった。 ・ 他のグローバルカンパニーや米国製薬会社ではなく、エーザイをアメリカの提携先として選 択した理由: 承認審査のプロセスから協同で取り組んでくれた。販売提携であるものの、FDA へも 共同対応することで、販売が速やかに開始でき、且つこれらの情報はマーケティング にも有効であった。 プライマリーケアの強い営業プレゼンスが、既に構築されていた エーザイの文化が、Arena に合った。 単なる営業力だけでなく、お互いのニーズ、可能なリソース配分、自社戦略なども含 めて、良いと思った。 39 ・ 日本の会社との提携について 日本の会社は、短期的ではなく、長期的な Vision で考える。短期的な結果で判断さ れると、創薬ベンチャーとしてはパートナーシップ構築が難しくなる。 長期にわたる提携により、より友好的な関係が築かれ、両者にとって良い提携フレー ムを構築することができる。 日本人の人間性(勤勉、友好的など)のみならず、日本の研究者はの科学的知識レ ベルは高く、優秀な研究者が沢山いる。 4. パイプライン ・ 約 1.5 年に一つのパイプラインを投入できる研究能力を有する。 (i) APD811: プロスタサイクリン受容体のアゴニスト、肺高血圧症、Phase1終了。プロスタサイク リンアゴニストの静脈内注射、皮下注射、吸入剤は存在するが、頻回投与などが問題である。 本剤は、20時間の半減期を有する経口剤。2014年にはPhase2を予定。 (ii) temanogrel: セロトニン2A インバースアゴニスト(逆作動薬)、血栓症、Phase1終了。Ildong は韓国権利のみライセンス契約済み。IldongがPhase2a (POC試験)を実施もしくは資金提 供を行う予定。 (iii) APD334:S1P1受容体アゴニスト、自己免疫疾患、2013年に、Phase1開始予定。 (iv) APD371:カンナビノイド受容体1アゴニス、疼痛、前臨床段階。 ・ 研究プログラム: GPR119 アゴニスト、2 型糖尿病など。GPR119 のリガンドについては、幾 つか報告があるが、未だ確定されていない。Arena としても興味がある。 Fig.2-6-2 Arena社のパイプライン (受領資料より) 5. BELVIQ ® ・ 概要 2012 年 6 月米国にて承認、抗肥満薬としては 13 年ぶりの新薬となる。 40 新規メカニズム:5HT 2c アゴニスト 、満腹感を促進する。 疫学情報: 世界の患者数は約 5 億人、米国は南部で肥満率が高い。 開発の経緯: Phase3 は 米国にて 7,794 人が参加した。 体重増加に伴う疾患への効果: Phase3 データを分析すると、糖尿病などへの効果 が見られる。 ・ 承認情報 適応: BMI 30kg/m 2 以上、もしくは 27kg/m 2 以上で少なくとも 1 つ以上の合併症を患 う患者 Warning: 本剤による心循環器系の発症率や死亡率に関しては確立していない。 処方箋薬(フェンテラミン等)、市販薬、漢方薬を含む、他の抗肥満薬との併用 時における有効性と安全性は確立していない。 ・ 使用上の注意: 12 週で 5%の減量が継続の基準 審査が長引いた理由; ダイエット薬が過去に副作用を多く発生していること アメリカで過去に承認されていたフェンフルラミン(非選択的セロトニンアゴニスト)が、 強い副作用のため 1997 年に使用禁止となっていること 本剤も、高投与量における動物試験での発がんリスクや心臓弁膜症のリスクが指摘さ れていること ・ ・ 最終的に承認された理由; 肥満率が高まるなかで、13 年間も新薬が出ない状況を勘案 安全性/有効性確認のポスト・マーケティ ング・スタディへの同意 米国麻薬取締局(Drug Enforcement Administration; DEA)によるスケジュール審査が、 2013 年 5 月に完了し、スケジュールⅣとなった。2013 年 6 月発売となった(参考;規制のレ ベルにて分類(スケジュール I ~V)、スケジュール I が最もリスクが高く、処方薬として使われ ることはない)。 ・ BELVIQ ® の物質特許は存在し、2023 年まで継続する見込み。特許保護期間延長を米国 にて申請しており、もし認められれば 2026 年までとなる。 ・ 更に、BELVIQ ® の他剤との併用、他適応の研究も行なっている。フェンテルミン(FDA 認 可の食欲減退刺激剤)との併用時の動態試験は終了しており、エーザイは併用安全性確 認の 12 週パイロット試験を計画している。 ・ 提携 販売パートナーとして、北米・南米はエーザイ、韓国は Ildong、台湾は CV Biotech と 契約した(その後、2013 年 11 月エーザイと日本を含めて対象地域を拡大する契約を 発表した)。エーザイは 2013 年に Mexico、Canada や Brazil に申請、Ildong も 2013 年の申請を予定。韓国では、11 社くらいの製薬会社が興味を示し、タームシートを提 示した。 北米・南米:エーザイ 経済条件: 55M 米ドル 一時金、20M 米ドル 承認マイルストーン、65M 米ドル DEA(麻薬取締局)Scheduling マイルストーン、他に 54.5M 米ドルのマイルストーン。 41 正味売上げの 31.5~36.5%にて製剤供給 韓国:Ildong 70年以上の歴史をもつ韓国トップクラス製薬会社(WW 15位) 経済条件: 5M米ドル 一時金、3M米ドル 韓国承認。正味売上げの35~45%にて 製剤供給、2014年後半上市予定 (参考)肥満の定義:BMI 25 以上 (日本で承認されているサノレックスは高度肥満 BMI35 以上のみ)であり、成人の 1/3 が肥満との報告がある。 他 の 地 域 に つ い て は 、 現 時 点 で は 自 身 で の 承 認 申 請 を 検 討 し て い る 。 2012 年 Arena 自身で EU とスイスの承認申請を行なった。 Fig.2-6-3 BELVIQ ® の世界展開 (受領資料より) Fig.2-6-4 BELVIQ ® の安全使用の教育ツール (ホームページ資料より) 42 所 感: 日本の会社との提携経験もあるためか、今回の調査には、Vice President 以上のシニアメンバー が 6 名も参加と協力的であり、会社の歴史、会社の技術の優位性、企業精神等の説明があった。 1.5 年に一つプロジェクト化する研究開発能力の維持には、研究者の科学的なレベルのみならず、 企業精神を共有することの重要性を実感した。 プロジェクトや外部との提携を通じて、徐々に機能(合成、臨床開発、毒性、動態、CMC、製造 等)を拡大したことも成功要因と考える。バイオテク企業は資金が得られると、直ぐに機能を拡大し たりしがちだが、Arena は一つ一つ着実に成長してきた会社である。外部へ機能を委託することが 経営の効率化と言われるなかで、内部に機能を拡充することは珍しいが、実際には社内の経験や ノウハウの蓄積が、次のプログラムを起案・推進するための原動力となっていることが実感された。た だし、製造施設も自社で保有する選択については、未だ結果が見られないので、今後の動向に着 目したい。 外部との提携の重要性も強調しており、日本人の性質や科学的な知識等を高く評価していた。 日本への評価の高さは、Arena の企業精神に合致していたためか、それとも他のバイオテク企業に も通じるものなかは、興味深いところである。 また、製薬企業へ変貌しつつある Arena の今後の方向性は、日本の製薬会社の成長戦略の参 考になると思われる。 (柏 純子) 受 領 資 料: 1. Arena Pharmaceuticals Company Overview & History 参 考 資 料: 1. Arena Pharmaceuticals ホームページ: http://www.arenapharm.com/ 43 2-7.California Institute for Quantitative Biosciences (QB3) California Institute for Quantitative Biosciences (QB3) 所 在 地 : UCSF MC 2522, Byers Hall Room 214C, 1700 4th ST, San Francisco, CA 94158-2330, USA 電 話: +1-315-514-0265 H o m e p a g e: www.qb3.org/ 面 談 日 時 : 2013 年 10 月 25 日(金) 10:00~11:00 面 談 場 所 : 上記所在地 面 談 者: Douglas Crawford, Ph.D. Associate Director, QB3 Managing Director, Mission Bay Capital Contact Person: Douglas Crawford, Ph.D. Associate Director, QB3 Managing Director, Mission Bay Capital 面 談 目 的: 以下の項目に関する調査、情報収集を行うこと。 ・ 産学連携戦略とパートナリング戦略について ・ バイオテク企業の育成の実情 説 明 内 容: 1. 設立経緯 ・ 2000 年 12 月、当時のカリフォルニア州知事 Gray Davis は、同州が世界のハイテク産業の リーダーであり続ける事を企図し、カリフォルニア大学各校の研究基盤と知財を活用した産 学連携構想 California Institute for Science and Innovation(CISI)を発表した。この構想に 基づいて設立された 4 つのプロジェクトのうちの 1 つで、ライフサイエンス分野をカバーして いるのが California Institute for Quantitative Biosciences、 QB3 である(他の 3 プロジェク トは California Institute for Telecommunication and Information Technology(CAL(IT) 2 )、 California Nanosystems Institute(CNSI)、California Institute for Information Technology Research in the Interest of Society(CITRIS)である)。 ・ QB3 に参画しているのは、サンフランシスコ校、バークレー校、サンタクルーズ校の 3 校であ り、サンフランシスコ校がリーダーを務めている。 44 2. 組織、スタッフ ・ QB3’s director(Regis B. Kelly、Ph.D.)が全体を統括する。 ・ 3 校(UC サンフランシスコ、UC バークレー、UC サンタクルーズ)に研究拠点を持ち、それぞ れを academic director が研究と教育を監督運営している。 ・ 第 4 の組織として、QB3’s director office に Innolab を設置、研究成果の産業化を援助(企 業との連携、ベンチャー設立の援助)している。 ・ 高額機器に関しては重複を避け、特定拠点においてスタッフと共に設置している。 ・ 教職員数(faculty members)250 名、内、ノーベル賞受賞者 1 名、National Academy of Science の会員 32 名。 3. 研究部門と研究施設・設備 ・ 研究部門には Biological Imaging、Biomaterials、Stem cells and regenerative medicine、 Biomolecular structure and mechanism、Cellar dynamics、Chemical Biology、Genotype to Phenotype 、 Precision measurement and control of biosystem 、 Synthetic biology 、 Theoretical modeling of biosystem などがある。 ・ 研究施設としては 2005~2007 年に加州政府から 100M 米ドルの援助を受け建設された 4 つの建物を使用している。また、利用できる大型研究施設として、構造決定用ビームライン、 High through-put screening 設備、Genomics proteomics 関連解析機器、Informatics 用サ ーバー、Imaging 関連機器 (UCSF-Nikon Imaging Center)、Bioengineering 関連設備な どがある。 4. QB3 によるバイオテク企業の育成 ・ QB3 が目指しているのは、Genentech のような業界をリードするバイオテク企業の創出・育 成であり、Start-up 企業に対して、法務、人事、財務、知財等の専門家を紹介したり、起業 家としてのトレーニング、外部提携に関するコンサルティング、研究室の提供、試薬機器類 購入等に関するサポートも行っている。 Fig.2-7-1 QB3 による startup 会社立ち上げの支援 (受領資料より) 45 ・ 2006 年よりインキュベーター施設の運営を始め、現在、5 つの施設に 62 社が入居中。過去 12 年間で 156 社を立ち上げ、内 36 社は operational な企業に成長、これらの企業は 370M 米ドルの資金を獲得し、400 以上の雇用を創出した(Fig.2-7-2)。 ・ 代表的な QB3 発のバイオテク企業としては、新規 ADC 技術(抗体毒素結合技術)を開発 している Redwood Bioscience などがある。 ・ 資金面に関しては、Mission Bay Capital LLC が QB3 発のバイオテク企業への専用ベンチ ャーキャピタルとして機能しており、11.3M 米ドルの資金量を持ち、既に 11 社に投資してい る。民間の投資会社ではあるが、QB3 の Dr. Douglas Crawford も Mission Bay Capital の managing director として同社の経営に参画している。 Fig.2-7-2 QB3 による startup 会社成長の支援 (受領資料より) 5. 産学連携 ・ 産学連携に関しては、Pfizer、Novartis、Roche、Bayer、J&J 等の製薬企業を含む 100 以上 の企業との提携が実現している。 ・ 特に Bayer、Novartis、Pfizer、Roche の大手製薬企業は QB3 の startup 育成に注目、 「QB3 Collaborative Startups」と名付けられたプログラムに参加して、Mission Bay Capital の資金援助も受けつつ、早期段階からの提携を模索している(Fig.2-7-3)。 ・ Pfizer との提携:3 大学の 20 人以上の研究者に 3.5M 米ドル/年を提供している。現在 3 年目。 ・ Johnson & Johnson との提携: QB3 と共同で the QB3 Bridging-the-Gap Awards を研究者 に授与している。 ・ GE Healthcare との提携: INCell analyzer などを貸与、年 2 回の使用法に関する training course を開催。 ・ ニコンとの提携: 2.3M 米ドルの寄付により、UCSF-Nikon imaging Center を設立(2006)。 46 Fig.2-7-3 QB3 による startup 会社と製薬企業との提携支援 (受領資料より) 6. 今後の展望 ・ 現在、QB3 を含む UC サンフランシスコ校が拠点の一つとしているミッションベイ再開発地 区には UCSF Children, Women and Cancer Hospital を中心とするライフサイエンス系産学 イノ ベ ー ショ ンセ ンタ ーが 建 設 中 で あ る 。ここに は企 業 で は Bayer、Nectar 、 Fibrogen 、 Illumina、Celgene などが入居予定であり、加えて、Third Rock 等のベンチャーキャピタル 数社も進出し、QB3 発ベンチャーへの資金的サポートがなされるものと思われる。 Fig.2-7-4 UC サンフランシスコ校地区での産学イノベーションセンターの建設 (受領資料より) 47 所 感: 昨今の我が国における創薬支援ネットワークや独立行政法人 日本医療研究開発機構構想で、 国所管研究所・アカデミアの創薬シーズと製薬企業による開発、応用研究の間には、「死の谷」が 存在し、それを埋めることによる新薬創製の活性化と健康寿命の延伸を謳っている。「死の谷」を埋 める施策として、創薬支援ネットワークや医薬基盤研究所の創薬支援戦略室がアカデミア-企業間 の仲介役を務め、臨床研究実施施設の充実と国資金の投入等を挙げている。しかし、この「死の 谷」を埋める役割の相当部分を米国ではベンチャー企業が果たしていると思われ、今回の調査で 判明した QB3 の取っている対応策、すなわち、大学発ベンチャーのまさに萌芽期の段階からの、 手取り足取りのあらゆる方面からの支援というのは、わが国ではほとんど手つかずの分野ではない かと思われる。特に時間のかかるバイオ起業家の人材育成の面が最重要と思われ、健康•医療戦 略あるいは関連施策の一つの柱として、早急の対応策の策定と実施を期待したい。 (加藤 正夫) 受 領 資 料: 1. QB3 ucb ucsc ucsf: created to fuel the California bioeconomy 参 考 資 料: 1. QB3 ホームページ: http://www.qb3.org/ 48 2-8.Johnson & Johnson Innovation Centers Johnson & Johnson Innovation Centers 所 在 電 地 : 99 El Camino Real Menlo Park, CA 94025, USA 話: +1 650 847 4407 H o m e p a g e: www.jnjinnovation.com/ 面 談 日 時 : 2013 年 10 月 25 日(金) 14:00~16:00 面 談 場 所 : 上記所在地 面 談 者: Adam Keeney Head, Transaction Thorsten Melcher New Ventures and Partnerships Contact Person: Thorsten Melcher New Ventures and Partnerships 面 談 目 的: 以下の項目に関する調査、情報収集を行うこと。 ・ Innovation Center を 独 立 さ せ た 背 景 と グ ル ー プ 会 社 と の 連 携 ( Johnson & Johnson Innovation Center はイノベーションを探索、インキュベーション機能を有し、将来有望とな れば、Development Company へ引き継ぐなど) Background of founding the Innovation Centers independently from other Johnson & Johnson group companies, such as Development Company, and the relationship with the group companies. For example; Innovation Center identify and incubate innovations, when the innovations is getting to reach the appropriate stage, and then they are Development company takeover development activity of these innovations. ・ Innovation Center の権限範囲 Range of responsibility of Innovation Center, from the viewpoint of the group companies ・ 4 ヶ所で設立した理由、その棲み分け The reason why 4 sites of Innovation Center were established at same time, not 1, and let us know about the differences of each site’s activity and goal, if existed. ・ 核酸医薬への取り組み ・ Research progress on nucleic acid medicine, if you have 日本のイノベーションに対する期待 Your expectation on potential innovation in Japan 49 説 明 内 容: 会社概要と現活動等について、事前質問も考慮して、説明があった。 1. オフィスツアー ・ 開設して 6 ヶ月の新しいオフィスは、明るく開放的なつくりであり、アイデア交換ができるカフ ェやオープンスペースが随所に設けられている。また、いつでも外部のヒト(研究者、ベンチ ャーキャピタル、バイオテク企業など)を呼んで話をすることができる。会議をする場合には、 大小の会議室を使用する。 ・ 毎週水曜日にはオープンランチ、毎月第一火曜日はレセプションを開催し、誰でも招待す ることができる(レセプションには 100 名近く参加するときもある)。 ・ 本オフィスには 25 人が勤務するが、全員が対等の立場で仕事をしているいう認識がある。 そのため、ヘッドの Adam Keeney 氏でさえも個室はなく、皆と同じフリーデスクを使用する。 フリーデスクとは、全員が決まった個人用デスクがなく、出社した時にその日の自分のデス クを決める。ただし、前日と同じデスクは使用してはいけないというルールがある。このシステ ムによって、社内の多くの人と気軽にコミュニケーションが取りやすく、新しいアイデアも生ま れやすい環境をつくる。また個人のデスクをもたないことで、ペーパーレス化も促進される。 ・ 250M 米ドルをかけたビデオ会議システムが導入されており、臨場感のあるビデオ会議が可 能である。 ・ 2 階には、JJDC という Johnson & Johnson のコーポレートベンチャーキャピタルの人たちが 勤務する。 2. Johnson & Johnson 概要と Innovation Center の成り立ち ・ Johnson & Johnson は、米国ニュージャージー州に本社を置く製薬、医療機器その他のヘ ルスケア関連製品を取り扱うトータルヘルスケアカンパニー。250 以上の事業会社を通じて、 175 カ国以上にて製品を販売し、世界の全従業員は約 128,000 にのぼる。なお、以前は幾 つかの製薬会社が傘下にあったが、現在はヤンセンファーマのみが製薬事業を行なって いる。 ・ J&J Credo (我が信条):「顧客(患者さん、医療関係者など)、従業員、地域社会、株主に 対する責任を果たしていくべきである。研究開発は継続され、革新的企画は開発され、失 敗は償わなければならない」(ヤンセンファーマ website より抜粋)。 ・ Johnson & Johnson は提携に対する経験と良い結果が在するため、提携が不可欠である と認識している。 ・ Johnson & Johnson の CSO は、「Johnson & Johnson のイノベーションの活性化は、リソース、 アイデアと技術を融合させることの出来る人々のとの強いネットワークを、新しい方法にて 、 築くことである」と述べており、本提案が CEO(ビジネスバックグランド)に認められ、トップダ ウンで Innovation Center が設立された。提案から着手まで半年あまりであった。なお、以前 Johnson & Johnson に 設 置 さ れ た COSAT ( The Corporate Office of Science And Technology)は、本 Innovation Center に吸収された。 ・ ボストン、サンフランシスコ、ロンドン、上海の 4 つの Innovation Center を設立した(ただし、 上海は 2014 年第一四半期に開設予定)。4 つのセンターが地域ごとに担当し、現地にて 密な交流を通じて、イノベーションの共同推進を図る。上海は、オーストラリア、ニュージー 50 ランド、日本、韓国等をみることになる。 ・ 日本ではなく、上海にアジアのセンターを設置した理由は開示されなかった。 ・ 4 つの Innovation Center は、それぞれにサテライトオフィスを設立することができる。現時点 では、ボストン傘下にミネソタ(医療機器)、サンフランシスコ傘下にサンディエゴ、ロンドン傘 下にイスラエルがある。 Fig.2-8-1 Our Credo (ヤンセンファーマ ホームページより) Fig.2-8-2 設立された Innovation Centers (ホームページ資料より) 3.Innovation Center 運営状況等 ・ Innovation Center のミッションは、医薬品、医療機器、診断薬、消費財におけるイノベーシ 51 ョンを発掘し、育てる。具体的には、早期研究から臨床 POC までのノベーションを、将来 Johnson & Johnson へ引き継ぐための投資である。ただし、現時点では医薬品のみを実施 している(ロンドンでは、最近消費財の担当者が採用されている)。 ・ 本構想の目的はコミュニティーの研究者、企業家、投資家との強い関係を構築して、協同 にて早期研究からビジネスまでのハードルを下げる。早期研究から医薬品までの成功確率 は 1%に満たないので、幅広い機会を取り上げる仕組みが重要と考える。 ・ 予算は本体とは別に独立しており、最終的なレポートは本社 CSO という上位報告システム である(言い換えると、CSO に報告するまでの活動の予算を有している)。 ・ Innovation Center 内の疾患リーダーは案件のプレ・スクリーニングと評価コーディネーター 役である。多くの案件を評価するために、また評価の均一化を図るために、評価の指標を 設けており、これに基づきプレ・スクリーニングを行なう。 ・ 実際の案件評価は、本体の研究者に依頼する。一次評価は 8 週間であり、期限は評価担 当者にも死守させる。早い決断を行なうためには、内部の法務担当者のキャパシティが不 足している時は外部を利用することも許されているなど、スピードを重視している。 ・ Innovation Center は 、 科 学 的 な 専 門 家 、 開 発 経 験 、 提 携 ケ イ パ ビ リ テ ィ ( Johnson & Johnson コーポレート ベンチャーキャピタル(JJDC)、ファイナンス、法務など)を有し、メン ターシップ、インキュベーター、投資やライセンスなど提供する。また、JJ Innovator Program という、シード段階の有望な技術や研究を行なう起業家を支援し、資金や助言などを行な い企業支援枠組みもある。 ・ 外部の Innovator としては、アカデミア、バイオテク企業、コンソーシアム、ベンチャーキャピ タルなどを対象とする。サンフランシスコでは、主に、Stanford 大学、カリフォルニア州サンフ ランシスコ大学 (UCSF)などがあり、また、カリフォルニア州のインキュベーションセンター QB3(当該国外調査派遣団が同日午前に訪問)とも提携しており、Innovation Center が関 与して創立した新会社が、QB3 にラボを設けるなど行なっている。 ・ サンフランシスコの Innovation Center は、科学的評価、New Ventures & Transaction、投資、 管理の担当者が居る。半分以上が Johnson & Johnson 外部からの入社、各自のバックグラ ンドも多様であるため、様々な視点でイノベーションを評価、検討し、各自が意見を言い、 評価の質を高めると考える。現時点では、25 人という数は、最適であると自負している。 ・ 医薬品の興味領域は、免疫、がん、心循環器&代謝、神経科学、感染症&ワクチン。更に、 興味疾患や腫瘍の種類などより具体的な情報も公表されている。 免疫:リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、喘息・COPD がん:前立腺がん、血液悪性腫瘍、肺がん、結腸直腸がん 心循環器&代謝:心不全、2 型糖尿病 神経科学:アルツハイマー(疾患就職作用、認知機能障害に対する症状治療、バイ オマーカーと診断)、気分障害と治療抵抗性うつ、統合失」調症(POC より後期品)、 疼痛(POC より後期品) 感染症&ワクチン:B 型/C 型肝炎、HIV 治療、呼吸器系ウイルス(RSV、ライノウイル ス、インフルエンザ、COPD、喘息、低分子・高分子)、ワクチン 52 Fig.2-8-3 サンフランシスコ Innovation Center 概要 (ホームページ資料より) Fig.2-8-4 Innovation Center の役割 (受領資料より) 4. 成功事例 ・ Innovation Center は開設から 6 ヶ月だが、研究契約一つ、Innovator Program 一つを達成 した。 53 1) 免疫系の研究 ・ Johnson & Johnson 内では後期臨床試験段階のものがあり、初期段階のものにリソースを 配分できない。一般的な製薬会社であれば、塩漬けにされてしまうケースである。 ・ Innovation Center としては、新会社の設立を支援し、また外部からの資金調達も工面して、 研 究 促 進 の土 台 を提 供 した。このような支 援 を、JJ Innovator Program と 呼 んでいる。 Johnson & Johnson は、一次交渉権を有する。 2) ビジネス・イノベーション ・ 中枢系の非臨床試験 CRO との契約を実労働勤務時間で精算することにしていたが、実務 担当者のモチベーション向上を狙い、半分は作業時間ベースでの請求としたが、残り半分 は研究マイルストーン契約とした(例えば、標的バリデーション、ヒット化合物取得、リード化 合物選定など)。双方ともに合理的であり、業務の効率化(スピード、費用削減)が可能とな った。 3) ビッグファーマ同士の提携(近い将来の構想) ・ 投資マネーが活用されていない現状は、投資家がリスクを取りたくない、より質の高い案件 に投資したいという気運が働いている。そのため、ビッグファーマ同士が、ターゲットや疾患 を限定して、候補化合物をプールし、その中で優先順位をつけて開発することで、各社の エキスパートによりより精度の高い選定や、バックアップの準備などから開発リスクは低減す る。 ・ 現在でも、テキサスで、AIR (Academia Industry Round)があり、ファイザー、アストラゼネカ、 Johnson & Johnson などが参加する取り組みがある。革新的な科学の育成や、研究開発生 産性の向上には有効と考えられる。 5. 今後について ・ Innovation Center がうまく機能するかどうか、3-5 年後、客観的な指標に基づき評価される と考える。例えば、パイプラインへの導入数、会社設立数、契約の数などが指標となる。そ の結果によって、この Innovation Center が拡大されるか、閉鎖されるか決まるだろうとのこと である。 ・ Johnson & Johnson は定期的なターンオーバーを必要と考えており、本構想が将来にわた って継続されることが必ずしも良いかどうかは問題としていない。 所 感: Johnson & Johnson Innovation Centers は、本体からの独立性や異なる組織であること、そしてこ れはイノベーションの発掘と育成の新しい方法であることを、関係者が強く意識し、また社外にも印 象つけるためにも、オフィスの設計、仕事の進め方等を、過剰なほど斬新に造り上げているような印 象を受けた。 蛇足であるが、何時でも気軽に交流できる職場の環境や雰囲気は、かつての日本企業の良さに 通じると思われた。 世界的にみても製薬会社はイノベーションに飢えており、色々な取組みが行なわれている。3~5 年後に Innovation Center が評価された時に、他社が同じようなイノベーションセンターを設立する のでは遅 いかもしれないが、現 時 点 で早 急 に追 随 することもリスクは高 い。Johnson & Johnson 54 Innovation Centers の成功や失敗を学びながら、単に同じ仕組みではなく、各社に合った新しいイ ノベーションの発掘・育成方法を模索する必要があると思われる。例えば、昨年、当該国外調査に て訪問した Novartis Biomedical Center は、研究開発の生産性にかなりの貢献をしていることも参 考になる。 25 人体制で、実際には、どこまで対応できるか、案件の数や評価の深さなどは不明である。また、 一般的に研究者は社外の研究案件についてネガティブな評価をしがちであること、その結果、研 究者と Innovation Center の見解に齟齬が生じた場合の対処など、懸念が感じられた。 このようなイノベーションセンターは、他社に模倣される可能性もあり、その場合どのように競合し ていくのかも興味深い。後から他社にイノベーションセンターを開設された場合、リソース(資金やヒ ト)を多く投入すれば勝てるのか、それとも、それまで先に構築したネットワークが生きるのか、どちら がイノベーションセンターのような機能の優位性に影響するのかについても、日本の製薬会社の参 考になるであろう。 (柏 純子) 受 領 資 料: 1. Johnson & Johnson Innovation “The J&J Innovation Centers: Partnering with Academia and Entrepreneurs to Catalyze Innovation” 参 考 資 料: 1. ヤンセンファーマ株式会社 ホームページ: http://www.janssen.co.jp/ 2. Johnson & Johnson Innovation Centers ホームページ: http://www.jnjinnovation.com/ 55 2-9.Sanofi Sanofi 所 在 地 : 54, rue La Boétie 75008 Paris, France 電 話: +33 1 53 77 40 00 H o m e p a g e: www.sanofi.com/ 面 談 日 時 : 2013 年 10 月 28 日(月) 9:30~11:30 面 談 場 所 : 上記所在地 面 談 者: Dr. Patrick Tricoli International Senior Director, Scouting & Partnering R&D, Strategy, Science Policy & External Innovation Kathleen Smith Foreign Delegations Senior Manager Public and Government Affairs France Contact Person: Dr. Patrick Tricoli International Senior Director, Scouting & Partnering R&D, Strategy, Science Policy & External Innovation 面 談 目 的: 以下の項目に関する調査、情報収集を行うこと。 ・ R&D 戦略とパートナリング戦略を中心とする成長戦略 ・ 核酸医薬に関する取り組み 説 明 内 容: 1. 会社概要 ・ 欧州製薬企業、米国製薬企業との M&A を通して事業拡大してきたが、ここ数年は、製薬 企業以外のヘルスケア企業との M&A を行い、単なる製薬企業から、医薬品以外に、患者 ベネフィットの向上を目的としたサービスも提供するグローバルヘルスケア企業となってい る。 ・ 2012 年の年間売上 34.9B ユーロ、2012 年末時点において、従業員数 110,000 人以上、 100 ヶ国以上に拠点を持ち、医薬品、ワクチンに加え革新的な治療製品の研究、開発、販 売を行っている。 ・ ①Patent Criff(主力医薬品の特許切れ、及び、ジェネリック医薬品との競争)、②R&D 生 産性の低下、③世界的な、特に西欧諸国における、国家財政の問題等による医療制度コ ストに対する抑制圧力、の 3 要因から成る、製薬業界が過去 20 年間に経験したことのない 56 大嵐(Perfect Storm)に直面し、会社経営戦略を抜本的に見直し、GROW、INCREASE、 SEIZE、ADAPT の 4 つの基本戦略を打ち立てた。 Fig.2-9-1 Sanofi の新成長戦略 (受領資料より) 2. GROW - A Global Healthcare Leader with Synergistic Platforms ・ 2 年前に、下記 7 分野を成長基盤の中核として位置づけた。既にこれら成長基盤から、全 社売り上げの 74.7%を上げている。 ① 新興国市場 ② 糖尿病ソリューション(インシュリン製品以外を含む) ③ ワクチン ④ コンシューマーヘルス ⑤ 動物用医薬品 ⑥ ジェンザイム(希少疾患、多発性硬化症(MS)等) ⑦ その他革新的製品 3. INCREASE - Innovation in R&D 1) 注力疾患領域 ・ 注力疾患領域として、がん、ワクチン、糖尿病、希少疾患、多発性硬化症(MS)、免疫、心 血管、加齢性神経変性疾患、眼科、感染症、動物医薬、その他新領域から成る 12 の領域 を設定している。 ・ 上記 12 の領域の全てを同等に扱うのではなく、既に確立され成長基盤の中核としている 領域(がん、ワクチン、糖尿病、希少疾患、MS)、次世代の成長基盤と位置づけている戦 略的な領域(免疫、神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病))等で、注力度合 を変えている。 ・ 心疾患領域は、4 年前に新規の研究開発投資を行わないことを決断したが、多くの患者ニ ーズが存在し、また、自社の研究能力が高く、開発能力に余力があり、主力製品の販売を 57 通じて市場も押さえ、同領域に強みを有していることを見直し、再度注力領域として位置づ け、新規研究開発投資を再開した。 ・ 眼科領域については、研究と臨床をつなぐユニークなプラットフォーム技術を有し、眼科領 域に特化していた、フランスのバイオテク企業の FOVEA Pharmaceuticals を 2009 年に買収 しており、これを中核とした研究ユニットを組織し、将来的な参入を目指している。 ・ 感染症は、患者ニーズがあることから、グラムネガティブの耐性菌を標的として注力している。 また、ワクチン、動物薬とも多様なシナジーがあり、これら疾患領域と連携した研究を行って いる。 ・ その他領域としては、繊維症、組織保護および修復、慢性疼痛、感覚器、新興国における Neglected infectious disease にフォーカスしている。 2) トランスレーショナルメディシン ・ R&D の革新については、Outstanding science に基づいて、トランスレーショナルメディシン とオープンイノベーションを融合させることが重要であると考えている。 ・ かつては、新規受容体等の最先端の基礎生命科学の知見から始め、自社が強みを持つ 化学合成技術を生かして新規薬剤を創製し、最後に臨床試験で患者に試すという研究開 発を行っていたが、効果を上げられなかった。この反省を生かし、現在のトランスレーショナ ルメディシンによるアプローチでは、最初に疾患及び患者に焦点を当て、その理解から標 的とする分子、さらに作用機序を定め、その後に新規薬剤を創製している。 Fig.2-9-2 Sanofi におけるトランスレーショナルメディシンの概念 (受領資料より) ・ 標的の選定に当たっては、ヒト遺伝学や予測性の高い動物モデルに基づいて、行うことを 重要視している。 58 3) オープンイノベーション ・ オープンイノベーションでは、アカデミア、ベンチャーキャピタル、バイオテク企業、製薬企 業、疾患財団等の多様な外部機関と、共同研究および開発、投資、M&A 等の多様な方 法で行っている。具体的には下記機関等と連携している。 ・ CHARITE:ドイツ ベルリンを拠点とするヨーロッパ最大の大学病院の 1 つであり、3,000 人 の医師と科学者が世界トップレベルの研究・治療・教育を行っている。エミール・フォン・ベ ーリング、ロベルト・コッホ、パウル・エールリヒなど、ドイツのノーベル生理学・医学賞受賞者 の半数以上を排出した。Sanofi の注力領域の研究に優れ、2010 年に脳卒中研究と炎症 性自己免疫疾患(関節リウマチ等)の分野で研究協力提携を開始し、2012 年に糖尿病へ 領域を拡大した。 ・ Regeneron Pharmaceuticals, Inc.: ニューヨーク州タリータウンを拠点としたバイオ医薬品の研究開発と商業化を行ってい るバイオテク企業。 1998 年設立、1991 年 IPO。設立当時から進めていた神経栄養因子を用いた医薬品 プログラムが臨床後期段階で相次ぎ失敗したが、遺伝子組換え手法に関する強みを 生かし、タンパク質医薬プラットフォーム技術の TRAP technology(可溶性デコイ受容 体融合タンパク質)を開発し、これを利用した、EYLEA ® 、ZALTRAP ® 、ARCALYST ® の開発に成功し、米国で上市している。Sanofi は、Sanofi-Synthélabo と Aventis が合 併 す る 前 の 2003 年 に 、 Aventis と し て 、 ZALTRAP ® の 開 発 及 び 販 売 に つ い て Regeneron と提携した。 さらに、抗体医薬プラットフォーム技術の、VelocImmune ® (ヒトモノクローナル抗体開 発技術)、VelociGene ® (疾患関 連遺 伝子 同定 技 術)、VelociGene ® (疾患 哺乳類モ デ ル ハ イ ス ル ー プ ッ ト 作 成 技 術 ) を 開 発 し 、 Sanofi は 、 2007 年 に VelociSuite technology(VelocImmune ® 、VelociGene ® 、VelociGene ® )を用いた治療用完全ヒト抗 体の研究・開発・商業化を目的とした包括的な戦略提携契約を締結し、2009 年に提 携内容の拡大および提携期間の延長の契約を締結した。Sanofi は Regeneron に対し て年間約 100M 米ドル(2010 年から年間 160M 米ドルに増額)を支払い、Regeneron は合計約 30 個の抗体医薬の臨床開発段階入りを目指す。既に 2007 年の契約の成 果として臨床段階入りした、alirocumab(抗 PCSK9 抗体)、sarilumab(抗 IL-6 受容体 抗体)が Phase3、dupilumab(抗 IL-4 受容体αサブユニット抗体)が Phase2 段階に達 している。また、2009 年の契約以降は、Sanofi も標的分子の決定過程に参画してい る。 ・ Michael J. Fox Foundation(MJFF):パーキンソン病研究の世界最大の民間出資団体。タ ーゲットを絞った研究プログラムを積極的に財政支援している。Sanofi は同疾患について 次世代領域と定めており、2012 年に、PDE4 阻害剤である AVE8112 の安全性および耐性 を評価する臨床試験を実施するため、MJFF と提携契約を締結した。 ・ Innovative Medicines Initiative(IMI):EU における Public-Private Partnership(PPP)プログ ラム(平成 23 年度国外調査にて EFPIA 訪問時に調査)。製薬産業界における共通の課題 解決のために、製薬企業、アカデミック、バイオテク企業、規制当局が共同して実施してい る前競争的プログラム。2004 年からのプログラムでは、EU が 1B ユーロ、製薬企業が 1B ユ 59 ーロを負担し、計 2B ユーロの予算で行われた。複数年に渡るプロジェクトについては、産 業環境の変化に合わせて、途中で設定目標の変更が可能等、成果を出すために柔軟性 を有している。現在、2014 年開始予定の次期 IMI プログラム「HORIZON 2020」に向けて 協議中にある。 4) R&D 成功のドライバー ・ R&D 成功のドライバーとして、①Scientic Quality に加え、②Medical Value、③Operation Effeciveness の 3 つが重要であると考えている。 ・ Medical Value とは、既存の製品に対し技術的に優れているだけではなく、患者ニーズを満 たし、保険財政ともバランスし、社会から経済的に受け入れられる価値であると考えている。 ・ 製薬企業では、1 ユーロの研究開発投資から 0.7 ユーロのリターンしか得られていないと言 われ、一方で、バイオテク企業は、研究コストを抑え、ずっと高い R&D 生産性を有している。 Operation Effeciveness を上げるには、バイオテク企業のように、あたかも 1 ヶ所で事業を行 うような環境を社内に構築することが必要と考え、これを実現するための 1 つの方策として、 2 年前に、外部提携情報に関する社内統一データベースを構築した。研究者と事業開発 者が共にこのデータベースを利用している。パートナリング・カンファレンスから上がってくる 情報は全てこのデータベースに登録・管理され、同一案件に対して複数のカンファレンス で複数の担当者が面談し、社内において重複して検討するような非効率性を排除してい る。 5) R&D 連携拠点 ・ 自社研究開発と外部機関との研究連携については、各地域のハブにより統括するシステ ムを採用している。 ・ 欧州については、会社の歴史的に重要なフランスおよびドイツ・フランクフルトに 2 つのハブ を有している。 ・ 北米には、西海岸にバイオテク企業との連携拠点、カナダを含む他の北米地域全体をカ バーする連携拠点等があり、Genzyme と統合して刷新されたボストンのハブでこれら連携 拠点を統括している。 ・ Genzyme については、研 究開 発とブランドに分けて考えている。研究 開発 については、 Genzyme の研究開発能力が高い、腎疾患、MS、免疫、希少疾患、Biosurgey 等の分野に ついては、Genzyme の研究開発機能を存続し、Sanofi も高い研究能力を有していたがん 等の分野については、Sanofi と Genzyeme の研究開発機能を統合した。 ・ Asia/Pacific は広大な同地域をカバーするのに適した上海にハブを置いている。日本につ いても、上海ハブがカバーしている。 6) 研究開発の投資配分 ・ 研究 開発 投 資は、研 究 開発の革 新性により、Consolidation、Expansion、Transformation の 3 つに分類し、それぞれに、40%、40%、20%の割合で配分している。 ・ Consolidation:糖尿病、がん、希少疾患、ワクチン等の成長基盤としている疾患領域の競 争優位の強化に繋がる研究開発への投資。 60 ・ Expansion:パーキンソン病、アルツハイマー病等の次世代の成長基盤の確立に繋がる研 究開発への投資。 ・ Transformation:先進医療デバイス等の将来的にブレークスルーを生み出す可能性があり、 新たにで急成長している科学技術的分野への投資。 4.SEIZE - External Growth Opportunities ・ 2009 年以降、Genzyme、FOVEA を含む 32 社の買収、91 のライセンス導入契約締結、3 つのジョイントベンチャーを設立している。この結果として、現在の自社開発パイプラインの 約 50%が外部由来である。また、特にバイオ医薬品に関する提携を重視したため、ワクチ ンを含めたバイオ医薬品の自社開発パイプラインに占める割合は約 50%となっている。 ・ Cooperate venture については、他社と比較して積極的に行っていない。情報収集目的で 多岐に亘って分散して投資することはせず、現在の自社戦略と合致した企業を厳選し、集 中的に投資している。 ・ バイオテク企業との提携形態としての買収については、提携したバイオテク企業からの技 術移転がスムーズであれば、外部技術の導入の手段として効率的であるとは考えていない。 買収は、バイオテク企業が対象であっても、市場シェアの拡大や売上増を求めて行われる ことが多い。 ・ Sanofi-Genzyme BioVentures:Genzyme に買収前より存在していた、希少疾患を対象にし た投資ファンド。Sanofi による Genzyme の買収後は活動が低下していたが、2012 に活動を 再開し、その後 7 社への投資を実行した。プロダクトを持つ企業を中心に、プラットフォーム、 テクノロジーベースの企業へも投資を行っている。 ・ Wrap Device Bio:Natural product に関するアカデミア発の技術を有する企業。米国の VC2 社と共同で出資した。Sanofi は、出資だけではなく、Sanofi の持つ natural products の ライブラリーへのアクセスも許可している。 ・ Sunrise:投資先のバイオテク企業に対して、sanofi の持つ専門性(開発、法務、プラットフォ ーム、ライブラリー)の提供を支援する部門。専門性は、社内の関連部門から提供される。 5.ADAPT - The Group to Future Challenge & Opportunities ・ 主要な新興市場(ブラジル、中国、インド、ロシア等)は全て参入しており、これらの市場か らの売上が順調に増加している。 ・ 主要な新興市場においてリーダーシップをとれるポジションを維持しているため、これから 新規に新興市場への参入を目指す企業にとって、最有力のパートナー候補となっている。 ・ R&D の面からは、研究開発ユニットとして Asia pacific research unit を持ち、中国の肝疾患、 アジア、アフリカ地域の Neglected infectious disease 等の新興国の患者ニーズにフォーカ スした新規薬剤の研究開発を行っている。 6.核酸医薬 ・ 核酸医薬についても、基本的な姿勢は変わらず、患者ニーズを満たすことができるかどうか を第一の基準としている。核酸医薬の現状については、ドラッグ・デリバリーが最大の課題 になっていると認識している。 61 ・ 核 酸 医 薬 分 野 で 先 行 し て い た 大 手 製 薬 企 業 が 撤 退 す る 中 、 2010 年 に Regulus Therapeutics と提携し、遅れてこの分野に参入した。 ・ Regulus との提携については、単なる、新規の標的や薬剤の探索のための共同研究提携 ではなく、Sanofi のグローバル R&D 全体に影響を及ぼすような、新しい治療アプローチの 開拓に繋がるものと大いに期待している。 所 感: 今回の面談では、患者ニーズに第一にフォーカスすることの重要性を一貫して説明されており、 その姿勢は、先進国における心疾患や感染症への再注力や、新興市場における同地域の患者ニ ーズに沿った研究開発というユニークな試みにつながっており、その徹底ぶりに強い印象を受け た。 また、今回の面談では詳細な説明はなかったが、製薬企業からグローバルヘルス企業へと方針 転換を図り、ここ数年は製薬企業以外の買収に力を入れ、また、将来機会として先進医療デバイス ベンチャーへの投資を行っているなど、特許切れ問題や、治療における薬剤貢献度の低下への新 たな対応として、製薬企業の枠を超えた統合的なヘルスケアサービスの提供を目指した展開にも 注力している様子が窺え、今後のこれらの動きにも注目したい。 (鈴木 規由) 受 領 資 料: 1. Sanofi Presentation 参 考 資 料: 1. Press release Sanofi-Aventis 2010 年 6 月 8 日「シャリテ・ベルリン医科大学とサノフィ・アベン ティス、革新的な研究協力協定に署名」 2. Press release Sanofi-Aventis 2007 年 12 月 6 日「治療用完全ヒト抗体の開発・商業化のため、 Regeneron と包括的提携、持ち株を約 19%へ増資する予定」 3. Press release Sanofi-Aventis 2009 年 11 月 16 日「サノフィ・アベンティスと Regeneron 社、抗体 医薬に関する戦略的提携を拡大」 62 2-10.Pierre Fabre Pierre Fabre SA 所 在 地 : 45, place Abel Gance, 92654 Boulogne Cedex, France H o m e p a g e: www.pierre-fabre.com/en 面 談 日 時 : 2013 年 10 月 28 日(月) 15:00~16:00 面 談 場 所 : 上記所在地 面 談 者: Frédéric Desdouits EVP Head of Corporate Buisiness Development, Acquisitions & Market Intelligence Frédéric Molin Corporate Licensing Acquisitions Director Contact Person: Marie Brughera Assistant, Business Development Department 面 談 目 的: 以下の項目に関する調査、情報収集を行うことを目的とした。 ・ 中堅企業ならではの強みと課題について ・ 国内販売を中心とした同社の成長戦略、特に R&D 戦略とパートナリング戦略について ・ 今後の展望について 説 明 内 容: Desdouits、Molin 両氏より、会社概要、R&D 戦略、今後の展望について説明を受けた。 1. 会社概要 ・ Pierre Fabre は、Pierre Fabre 氏により 1961 年に設立されて以降、継続的・発展的に医薬 品事業を展開している。創業者である Pierre Fabre 氏は 2013 年 7 月に他界したが、当面 はこれまでと同様の企業理念・方針にて事業を展開する計画である。 ・ 企業の株式は Pierre Fabre 基金が出資する Pierre Fabre Participations が 86%を保有す る。 ・ Pierre Fabre の事業は医療用医薬品、一般用医薬品、皮膚用化粧品の 3 つの柱からなる。 これらを合わせた 2012 年の総売上高は 1,978M ユーロであり、医薬品と化粧品がそれぞれ 50%ずつを占める。2011 年の売上高に対しおよそ 3%、2002 年と比較してはおよそ 48%の 増加率である。フランスの製薬企業として国内 3 位、皮膚用化粧品やオーラルケアの事業 63 規模は欧州最大である。 Fig.2-10-1 Pierre Fabre の売り上げと内訳 (ホームページ資料より) ・ フランス国内以外にもヨーロッパや南米等に自社製品販売のケイパビリティを持つ。途上国 を含む海外 42 ヶ国に子会社があり、総売上高の約 50%がフランス国外からなる。 ・ 世界でおよそ 10,000 人の従業員。そのうち、フランス国外で 33%が勤務する。医療用医薬 品の研究開発、販売等には 5,100 人が携わる。 2. R&D 戦略について ・ 医薬品および化粧品の研究開発には資源を惜しみなく投入している。医薬品・化粧品を 合わせた研究開発に対する投資額は 200M ユーロを上回り、医薬品開発に対する 2012 年の研究開発費は医薬品売上高の約 17%(159M ユーロ)である。医薬品、化粧品を併せ た研究開発には約 1,700 人が従事する。 ・ 戦略領域として、がん領域、皮膚疾患領域、中枢神経領域、婦人科領域を掲げる。 ・ がん領域は臨床、販売の経験も豊富であり、がん領域のみで売上高は 154M ユーロに上る。 研究においても最優先領域とし、約 50%の研究開発費を配分している。 ・ 婦人科領域については過去 20 年間の経験を基に積極的なプロモーションを実施し、世界 で 133M ユーロの売上高である。そのうち 60%はフランス国外が占める。 ・ 皮膚科領域においては非常に強いプレゼンスを持ち、2012 年の売り上げは 125M ユーロ 64 に上る。他社との提携についても経験が豊富である。近年、皮膚科領域の研究を実施する バイオテク企業を新たに設立し、血管腫や紫外線角化症、基底細胞がんなどをターゲット とした研究を進めている。 ・ 中枢領域については Phase1 まで実施のうえでの導出を基本方針としている。 ・ フランス国内に 5 つの研究施設を有する。そのうち、The Pierre Fabre Immunology Centre はモノクローナル抗体研究に特化された施設として 2011 年に設立された。 ・ 抗体医薬品についてはがん領域を中心に、品目数を 3 品目から 5~6 品目へ増やす予定 であり、共同開発パートナーとなる企業を探索中である。 Fig.2-10-2 Pierre Fabre のパイプライン (受領資料より) ・ PPP や国内外他社とのアライアンスは積極的に実施している。かつての日本訪問時には 18 社と面談した。日本企業に対しては大変好印象を持っており、今後もパートナーとして関係 を維持構築していきたい意向である。 3. 今後の成長戦略、展望 ・ 今後、まずは BRICs に加えてトルコ、メキシコ、アフリカ諸国に焦点を当て、途上国への更 なる進出を図る。現在 50%前後の国外売上比率を 70%まで増大させ、そのうち 20%以上を 途上国とすることを目指す。2020 年には売上高 3,800M ユーロ(2011 年のおよそ 2 倍)を 目指す。 ・ 中堅製薬企業が生き残るには、自社の特徴・強みを徹底的に活かすこと、常に迅速な判 断を心掛けること、深くて長い付合いができるよう外部との関係を大事にすること、身丈にあ 65 った規模で事業展開すること、が重要と考えている。 ・ フランスをはじめ、ヨーロッパ諸国は隣国と地続きで接していることもあり、比較的海外への 展開は容易である。この点は日本の企業と比較して有利な点であると考えている。 所 感: 安定した化粧品の売り上げを土台に医療用医薬品についても売り上げを増加させつつある。化 粧品販売で培った関係や販売力を医療用医薬品にも活用する、専業他社とは異なるビジネスモ デルを構築している。現在はがん領域、抗体医薬品の開発に焦点をあてており、これらの成否が 医療用医薬品領域の浮沈を握っているが、会社としては判断に迷いのないようであった。偉大な創 始者の死後、新しい CEO の下で今後どのような発展を見せるか、今後の推移を見守りたい。 (川西 政史) 受 領 資 料: 1. Pierre Fabre 参 考 資 料: 1. Pierre Fabre ホームページ: http://www.pierre-fabre.com/en 66 2-11.Medicen Paris Region Medicen Paris Region 所 在 電 地 : 6, rue Alexandre Cabanel, 75015 Paris, France 話: +33.1.44.49.30.00 H o m e p a g e: www.medicen.org/ 面 談 日 時 : 2013 年 10 月 29 日(火) 10:00~12:30 面 談 場 所 : 上記所在地 面 談 者 : Igor Beitia Ortiz, Ph.D. Senior Projectt Manager, International Affairs, Medicen Paris Region Jian-Sheng Sun Chariman & CEO, DNA Therapeutics SA Carole Masurier, Ph.D. Partnerships Manager, Genethon Contact Person: Igor Beitia Ortiz, Ph.D. Senior Projectt Manager, International Affairs 面 談 目 的: 以下の事項に関する調査、情報収集を行う。 ・ Medicen Paris Region の概要 ・ Medicen Paris Region の Public-Private Partnership(PPP)活動 説 明 内 容: Medicen Paris Region(以下、MPR)について、Dr. Ortiz より、MPR が支援を行っている核酸医 薬バイオテク企業の DNA Therapeutics について Prof. Sun より、また、同遺伝子治療バイオテク企 業の Genethon について、Dr. Masurier より、それぞれ説明を受けた。 1. パリ地域 ・ パリ地域は、ライフサイエンスおよびヘルスケア産業において、科学的側面、経済的側面か ら欧州一の地域である。 ・ 37 病院、22,500 床、15,800 人の医師を含む 71,800 のヘルスケア専門家から成る欧州最 大の病院ネットワークである AP-HP(Assistance Publique - Hôpitaux de Paris)が立地し、医 療サービスを提供すると共に、年間約 1000 件の臨床試験を実施し、欧州における臨床研 究の主導的地域となっている。 ・ 主要研究機関(Pasteur Institute、Curie Institute、Gustave Roussy Institute、INSERM;国 67 立保健医学研究所、AEC;フランス原子力委員会、CNRS;フランス国立科学研究センター 等)、9 つの大学、4 つのサイエンスパークが立地している。 ・ パリ地域には、フランスのライフサイエンス企業の約 50%、1,000 社以上が所在し、フランス 大手製薬企業(Sanofi、Ipsen、Servier、LFB)の他 Roche、GSK 等の欧米大手製薬企業も 所在し、GE Healthcare の欧州研究開発拠点の他、Siemens 等の大手医療機器企業も所 在する。 ・ パリ地域には、SME が、バイオテク企業と医療機器企業を併せて、400 社所在している。 ・ 合計で約 300 の公的、民間の研究所があり、フランスの公的および民間のライフサイエンス 研究全体の約 40%がパリ地域で行われている。 ・ 疾患領域としては、がん、神経科学、感染症、心疾患・代謝性疾患、に強みを持っている。 2. Medicen Paris Region(MPR) ・ フランス政府は、2005 年に自国の産業競争力向上のために 71 のイノベーション・クラスタ ーを認可した。その内、バイオテクノロジー・医療産業分野においては、下記 8 つが認可さ れた。 MPR(パリ地域圏) Lyonbiopôle (ローヌ=アルプ地域圏) Alsace BioValley(アルザス地域圏) Nutrition Health Longevity(ノール=パ・ドゥ・カレー地域圏) Atlantic Biotherapies(ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏) Prod’Innov(アキテーヌ地域圏) EuroBioMed(ラングドック=ルシヨン地域圏、プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュー ル地域圏) ・ Cancer-Bio-Santé(ミディ=ピレネー地域圏) MPR、Lyonbiopôle、Alsace BioValley の 3 つのバイオクラスターは、国際競争力保有バイ オクラスターとしても認可され、国際的な企業集積を目指して運営されている。 ・ MPR の参画機関数は、231 機関であり、その内 SME170 社ある。なお、INSERM と CNRS は、多数の研究室をパリ地域に有するが、それぞれ 1 機関としてカウントしている。 ・ MPR は、参画機関からの年会費、一部サービスに対する手数料、および、政府からの支 援を財源に、職員数 13 名で運営されている。 ・ MPR は、地域経済開発公社、インキュベーター、スタートアップ養成所、サイエンスパーク、 職業および産業団体のいずれでもなく、パリ地域のヘルスケア産業のイノベーションに関わ る全てのステークホルダーの代理人として、アカデミック、大企業、中小企業、病院、大学、 地域政府から成るメンバーの協業を促進することを目的としている。また、SME 向けの支援、 パリ地域のヘルスケア産業の活性化についても目的としている。 ・ SME 向けのサービスとしては、事業発展のために、専門スキルトレーニング、ファイナンス へのアクセス、国際連携、ネットワーク活動について支援を行っている。特に、地域との連 携強化のために、R&D コラボレーションの促進を行っている ・ 大手製薬企業向けのサービスとしては、MPR に参画している学術機関や医療機関とのマ ッチングが支援可能である。例えば、MPR 参画医療機関とは 1 本の治験契約で済ますこと 68 ができる。 ・ MPR 参画研究機関と、パリ地域外やフランス国外に所在する MPR 非参画製薬企業との 連携についても推進しており、日本にも毎年 3 月に来日し、製薬企業へのプロモーション 活動を行っている。日本の学術機関との連携実績はあるが、企業については未だない。 3. MPR における PPP 支援活動 ・ PPP プロジェクトについては、下記 3 ステップで支援を実施している。 ① セミナー、ワークショップによる MPR 参画機関の間の連携の醸成 ② プロジェクトに最適な資金の探索並びに資金獲得の支援 ③ プロジェクト遂行に関する支援 ・ MPR 自体にファンドはなく、PPP プロジェクトの資金は、フランス政府予算、政府予算以外 の PPP グラント、公的投資銀行(Bpifrance)からの投資を受ける。また、研究開発投資は、 政府資金と企業負担のマッチングであり、1 プロジェクトあたりの総額は、100K~20M ユー ロ程度である。 ・ PPP の主要な技術分野として、バイオマーカー・in vitro diagnostics、イメージング技術、再 生医療・生体材料、メディカル IT、トランスレーショナルメディシンに注力し、疾患領域につ いては、がん、神経、精神疾患、循環器代謝疾患、感染症にフォーカスしている。トランスレ ーショナルメディシンでは、POC、プロファイリング、最適化段階が支援対象となる。 3. MPR における PPP 支援実績 ・ PPP プロジェクトとして、2006~2012 年の間に 206 件を支援し、744M ユーロの研究資金 (内、公的資金 349M ユーロ)を獲得した。 ・ 終了した 21 件のプロジェクトでは、109M ユーロの研究投資を受け(内、公的資金 48M ユ ーロ)、48 件の特許を取得、14 製品(イメージング、メディカルデバイス、バイオロジカルツー ル分野)が上市されている。 ・ IRIMI(Imagerie médicale Robotisé pour les Interventions chirurgicales Mini-Invasives): 低侵襲のロボットイメージングシステムの開発プロジェクト。GE Medical Systems(現 GE Healthcare)と、ロボット製造企業の BA Systèmes、電子装置メーカーの C&K Components、 及び、研究機関は、CEA LIST、CNRS、AP-HP が参画した。GE Healthcare はフランスに医 療 機 器 の欧 州 研 究 開 発 拠 点 を持 つ 。本 プロ ジェクトにより完 成 した製 品 は、現 在 、GE Healthcare が米国及び欧州で販売している。また、本製品の製造は GE Healthcare がパリ 地域で行っている。 ・ CReMEC(Centre de Ressource de Modèles Expérimentaux de Cancer):患者由来の大腸 癌組織を用いた動物モデル(マウス、ラット)及びデータベースの構築プロジェクト。非臨床 試験モデルの提供を事業とするフランス企業 Oncodesign Biotechnology SA と、研究機関 は、AP-HP、Curie Institute、Institut Gustave-Roussy、INSERM が、製薬企業は、Sanofi、 Servier、IPSEN が参画した。研究開発投資 5.5M ユーロ(内、2.25M ユーロは公的資金を 活用)を受けた。本プロジェクトで構築されたデータベースには、大腸癌組織を提供して下 さった患者の医療情報等が含まれている。製薬企業は、プロジェクト終了後、成果につい て、各社の独自の自社研究開発に優先的に利用可能となっている。 69 4. MPR 支援企業:DNA Therapeutics ・ 第三世代核酸医薬と呼んでいる短鎖二本鎖 DNA(Dbait)を用いた医薬品開発を行うバイ オテク企業。 ・ Dbait は、擬似的な DNA 二本鎖切断部位として、修復酵素に認識されることで、これら修 復酵素がゲノム DNA 上の二本鎖切断部位へ移行することを妨げ、結果として、がん細胞 の DNA 二本鎖切断修復を阻害し、抗癌作用を発揮する。 Fig.2-11-1 Dbait の構造 (受領資料より) ・ 会社沿革 2001 年:Curie Institute から Dbait に関する初めての学術論文が発表された。 2006 年:会社設立。 2008 年:12M ユーロを資金調達した。 2013 年:プリミティブなヒト臨床試験において、Proof of concept(POC)を達成した。 ・ 事業コストを抑えるため、現在も発明者である Curie Institute のラボに間借りして研究開発 を継続している。発生する知財については 50%-50%で Curie Institute と共有しているが、 世界的な排他的ライセンスに関して契約済みである。 ・ 動物モデルにて安全性を確認しているが、フランス規制当局と相談した結果、安全性に懸 念を抱かれたため、まずは局所投与のメラノーマから開発を始める。メラノーマで安全性が 確認された後、全身投与による固形がんの臨床試験を実施する予定である。これらの結果 を基にして、2016 年に検証的臨床試験の実施を計画している。 ・ 日東電工株式会社が精力的に海外核酸医薬企業を買収していることに非常に注目して おり、同社の参入により価格競争が生じ、核酸医薬の製造コストが低減されることに大いに 期待している、とのことであった。 5. MPR 支援企業:Genethon ・ 希少疾患を適応とする ex vivo 型及び in vivo 型の遺伝子治療医薬品の開発を行うバイオ テク企業。 ・ 遺伝子治療、細胞治療を用いた希少疾患治療薬のトランスレーショナルリサーチに注力す る 慈 善 団 体 AFM-Téléthon ( Association française contre les myopathies / 英 名 : The French Muscular Dystrophy Association)によって 1990 年に設立された。 ・ 現在は、従業員数約 200 人以上、10,000m 2 の研究施設を持ち、探索用の齧歯類の動物 施設、薬効および毒性研究用の大型動物(イヌ、サル)の研究室、治験薬製造用の GMP 製造施設を有する。 ・ 前臨床段階まで自社で行い、臨床段階からは製薬企業等との提携を通じて、開発を進め 70 る方針である。 ・ ex vivo 型遺伝子治療では、遺伝子改変造血幹細胞を用いた投与を行う。in vivo 型では 直接体内へ投与する。 ・ ex vivo 型では、Wiskott-Aldrich Syndrome (WAS)(2011 年開始、2015 年終了予定)、 Chronic Granulomatous Disease(2013 年開始、2017 年終了予定、欧州 4 ヶ国で実施)の 2 プログラムが臨床開発段階にある。 ・ in vivo 型では、Duchenne muscular dystrophy(2014 年末に臨床開始予定)、Myotubular Myopathy の 2 プログラムが最も進んでおり、臨床試験準備中である。 Fig.2-11-2 Genethon の主な開発 pipeline (Genethon ホームページより) 所 感: 日本国内においては、製薬企業、バイオテク企業、病院、アカデミア等の各業界内での連携は 進んでおり、また一方で、企業・大学間の 1 対 1 の産学連携も盛んに行われている。しかしながら、 Medicen Paris Region が行っているような、ライフサイエンスに関連した全ての業界に属する機関が 集まり、ライフサイエンス領域における共通の課題を解決するために連携を模索する試みは、まだ まだ少ないように見受けられる。ライフサイエンスにおけるイノベーションを加速するために、日本に おいても同様の試みが数多くなされることを期待したい。 (鈴木 規由) 受 領 資 料: 1. Medicen Paris Region, Enabling biotechnology and med-technology in France’s capital region 2 . CURRENT & FUTURE OF OLIGONUCLEOTIDE-BASED THERAPEUTICS: A Broad Platform For Drug Development 3. DT01 PRESENTATION: “DT01, a 1st-in-class DNA repair inhibitor to treat resistant cancers” 参 考 資 料: 1. Genethon ホームページ: http://www.genethon.fr/en/ 71 2-12.Leiden Bio Science Park (LBSP) Leiden Bio Science Park (LBSP) 所 在 地 : Poortgebouw Noord, Rijnsburgerweg 10, 2333 AA LEIDEN The Netherlands 電 話: +31 (0)71-5247556 H o m e p a g e: www.leidenbiosciencepark.nl/ 面 談 日 時 : 2013 年 10 月 30 日(水) 10:00~11:30 面 談 場 所 : 上記所在地 面 談 者: Nettie Buitelaar, Ph.D. Managing Director, Leiden Bio Science Park Foundation Hermine Klein Marketing Manager, Leiden Bio Science Park Foundation Contact Person: Nettie Buitelaar, Ph.D. Managing Director, Leiden Bio Science Park Foundation 面 談 目 的: 以下の項目に関する調査、情報収集を行うこと。 ・ オランダのライフサイエンス概要について ・ オランダ Leiden Bio Science Park の概要と産学連携の取組みについて 説 明 内 容: 1. オランダのライフサイエンス概要 ・ 120 マイル(200km)圏内に先端学術機関、医療・バイオ・医薬の中小および世界的企業 数百社が集まっており、ヨーロッパでも有数のライフサイエンスイノベーションの集積地とな っている。 ・ 主な集積地域は、アムステルダム/ライデン/ロッテルダム/ユトレヒト、アイントホーフェン /マーストリヒト、フローニンゲン、ワーゲニンゲン/ナイメーヘンにある。 ・ オランダのライフサイエンス関連産業は、オランダの GDP の 2.5%を生み出している。 ・ オランダのライフサイエンス関連へ投資された年間の R&D 費は、2.5B ユーロであった。 ・ 強い分野は、予防医療、トランスレーショナル・リサーチ、臨床研究、循環器研究、感染症、 がん、関節リウマチ、神経変性症、診断、画像化である。 2. Leiden Bio Science Park(LBSP)の概要 1) LBSP の概要 72 ・ Leiden Bio Science Park(LBSP)はオランダ有数のライフサイエンスパークであり、ヨーロッ パのトップサイエンスパークの中でも上位 5 位に名を連ねている。LBSP は、バイオメディカ ル・ライフサイエンスに特化し、新設企業および既存企業に多くのビジネス機会を提供して いる。 ・ LBSP はオランダの Best Business Park 2009 Award を授賞した。 ・ LBSP は 120 ヘクタールの広さを有し、オランダ屈指の学園都市ライデン市とウグストゲース ト市にまたがって位置し、アムステルダム、ユトレヒト、デルフトやロッテルダムにも近く、スキ ポール空港から鉄道で 15 分、車で 30 分程の距離にあることから、海外からのアクセスは良 好である。 ・ LBSP 内には約 100 社のライフサイエンス関連企業があり、その比類なき研究をはじめ、優 れた施設が整う健全なビジネス環境から、Astellas、Janssen Biologics、Crucell、OctoPlus、 Pharming、Danisco Genencor、Millipore、BaseClear、Galapagos などライフサイエンスにお けるトップ企業が本社・研究拠点を置いている。 Astellas は 2012 年に LBSP 内に施設を集約した。 Crucell は 1.75B ユーロでジョンソン・アンド・ジョンソンによって買収された。同社は、ラ イデンに世界的な『予防医学センター』を設立している。 ・ LBSP では、ライデン大学医療センター(LUMC)に約 6,700 人、企業に約 4,250 人、LUMC 以外の大学教育機関(ライデン大学、Hogeschool Leiden、ROC、LiS)に約 2,700 人など全 体で約 15,000 人が働いており、2025 年には 25,000 人まで増加すると見積もられている。 ・ LBSP には、2 つの博物館(Naturalis Biodiversity Center and Corpus Experience)がある。 ・ LBSP では成功要因として、バイオメディカル・ライフサイエンスへの特化、パーク内の多様 な企業との企業間連携による製品の価値向上、スピンオフ企業やスタートアップ企業のた めの研究施設提供、研究機関、教育機関、政府および企業間での連携と捉え、環境整備 に取り組んでいる。 ・ LBSP 内活動の情報発信、企業誘致、ロビー活動、LBSP 内の企業間・プロジェクト間の連 携推進、スタートアップ企業の支援、研究開発支援などの専門的なマネージメントを行う組 織として Leiden Bio Science Park Foundation がある。 ・ ライデン市とライデン大学は LBSP の開発において密接に協力し合い、36 ヘクタールの新 規開発地区を整備している。 2) 研究のための良好な環境 ・ LBSP 内には科学研究のための多くの施設があり、研究のための良好な環境を提供してい る。 The 7 Tesla scanner; 先進の MRI スキャナ(LUMC 内に設置)。 Cell Observatory; 生命科学のための会場と共有研究施設。バイオイメージングまた は、分子から細胞まで、生命のダイナミックな構造を視覚化できる。 Netherlands Centre for Electron Nanoscopy(NeCEN); 国立の最先端ナノ電子顕微 鏡研究センター。Cell Observatory の中にある。 Leiden Institute for Brain and Cognition(LIBC); 脳と認識の学際的な研究センタ ー。 73 Leiden Academy on Vitality and Ageing; 加齢研究のためのセンター。 Naturalis Biodiversity Center; Naturalis museum の中にある。3,700 万種の標本(動 物、植物、昆虫など)が保管されており世界でも 5 番目の規模を誇る生物多様性セン ター。 3) ライフサイエンス関連企業や研究所への支援 ・ 揺籃期や新興のバイオテク企業をはじめ、あらゆる成長段階にあるライフサイエンス関連企 業や研究所に、インキュベータービル、マルチテナントビルを通じて多くのビジネス機会を 提供し、また独自の研究所やオフィスの建設に十分なスペースを提供している。 ・ LBSP 内にスタートアップベンチャー企業の支援のため BioPartner Center Leiden(BPCL) が作られており、小規模のバイオテク企業や医薬品製造の設備、マネージメント、研究室 や事務所設備を提供などのインキュベーターサービスを提供している。BPCL は、LBSP 内 に 3 棟、延床面積 13,000m 2 の施設があり、現在約 50 企業が入居している。 ・ Expat Centre Leiden では、当地に赴任する駐在員へライデン地域に移住する際に必要な 法的手続き、インターナショナルスクールや社会生活に関するあらゆる情報を提供してい る。 ・ バイオ医薬品生産の大学教育と実際の生産現場のギャップを埋める教育訓練施設として Bio Simulation Factory が 2015 年中旬にオープンする予定である。この施設は、広さ約 2,000m 2 の GMP 施設であり、LBSP の中央地区に完成する予定である。 4) 最先端の科学と研究へのアクセス ・ ライデン大学、ライデン大学メディカル・センター(LUMC)、ヒューマン・ドラッグ・リサーチ・ Leiden/アムステルダム・センター(LACDR)、TNO クォリティ・オブ・ライフ、Top Institute Pharma などにおいて、世界トップクラスの生物医学および遺伝学の研究が行われている。 ライデン大学:1575 年設立されたオランダ最古の大学であり、ライフサイエンス分野で は脳機能疾患、循環器、再生医療、長寿健康医療、トランスレーショナルな創薬研究 開発の分野に強い。 ライデン大学メディカルセンター(LUMC):オランダの 8 つのメディカルセンターの 1 つ。 研究テーマは、エージング、自己免疫疾患、バイオインフォーマティクス、バイオイメー ジング、遺伝的疫学研究、がん免疫治療、感染症、神経疾患、がん遺伝子、再生医 療、心疾患である。 ・ 2008~2010 年に締結された欧州のバイオテク企業関連の共同開発契約上位 10 件の内、 5 件は LBSP に本拠を置いているオランダの製薬企業 3 社(Prosensa、Galapagos、Crucell) が関係している(Fig.2-12-1)。 ・ 2012 年に、生命科学分野の革新的技術教育のための MBO(management by objectives) センターとして the Leiden Instrumentmakers School(LiS)が設立された。 ・ 2012 年 Hogeschool Leiden が Genomics Expertise センターと位置付けられている。 74 Fig.2-12-1 欧州のバイオテク企業の共同開発契約トップ10(2008-2010年) (受領資料より) (表左のLeidenはLBSPに拠点を置いている企業を意味している) 5) 最先端のバイオサイエンス関連のサービス集団 LBSP はまた、バイオサイエンス産業に貢献する多様な最先端のサービス企業集団を抱えて おり、新規製品開発や製品の欧州市場への導入もより効率的に進めることが可能となる。 Fig. 2-12-2 LBSP内のバイオサイエンス関連サービス企業の例 (受領資料より) 6) ライデン発の医薬品例 ・ ライデンの企業から生み出された医薬品の例を以下に示した。 Ruconest ® : 遺伝性血管浮腫治療のための新薬。2010 年に Pharming により欧州で 上市。Ruconest ® は完全にオランダで開発された最初のバイオテクノロジー製品。 Factor-V Leiden: LUMC により発見された先天 性・遺伝 性血 液凝 固疾 患 の診断 75 薬。 Remicade ® : Janssen Biologics(旧 Centocor)により開発されたリウマチ性関節炎およ び各種自己免疫疾患治療薬。ライデンで生産されている。 Quinvaxem ® : Crucell により開発された 5 種混合(ジフテリア、破傷風、百日咳、B 型肝炎およびヒブ)ワクチン。ユニセフ経由でこのワクチンの 5 億回投与分以上が発 展途上国に配布されている。 Prosensa と LUMC はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬の研究を行って いる。 Locteron ® : OctoPlus によって開発されている C 型慢性肝炎の治療薬。 Fibrocap ® : ProFibrix により開発された手術中の重篤な出血を防止する薬。 7) 研究開発の Public-Private Partnerships ・ EU は、Horizon2020 R&D program を発表し、2014~2020 年の間に、優れた科学研究、 社会的に貢献した研究や技術および EU 内 3 カ国以上の間の協同プロジェクトに対して 70B ユーロの予算を提供するとしている。 ・ 民間のバイオテク企業やオランダのバイオテクノロジー研究機関は、ベンチャーキャピタル、 保険会社および銀行などからのファンドを絶えず探求している。 8) 日本との特別な結びつき 1609 年から日本とライデンは通商関係にあり、昔から強い結びつきがあった。ライデンには日 本とゆかりの深いシーボルト・ハウスがある。ここは、かつてフォン・シーボルトが住んだ家であり、 彼が日本から持ち帰った収集品が展示されている。現在、シーボルト・ハウスはオランダにおける 日本センターとしても活躍している。 ライデン大学は世界で最古かつ最も実績のある日本研究のメッカとしても知られ、京都大学や 東京大学と大学間交流協定を結んでいる。 所 感: LBSPの最大の特徴は、進出企業に対する親身で継続的な支援・協力であり(例:製薬企業の進 出に合わせ、大学が有する各種計測・分析機器の利用の幅を拡張したり、各種研究開発業務受託 企業の進出を実現したりしている)、それが既に進出した企業の高い評価に繋がっているものと思わ れた。 オランダ国内においてもバイオクラスター間の競争があり、企業の引き抜き合戦があるようである。 首都のアムステルダム地域、ドイツ国境に近い西側地域の方が財務的に潤っており資金的支援が 充実しているが、ライデン地区はそれ以外の部分の支援で対抗しているようである。 (井口 富夫) 受 領 資 料: 1. Leiden Bio Science Park -The Life Sciences hot spot in the Netherlands2. Home to successful life science companies 76 2-13.Centro Nacional de Biotecnología (CNB) Centro Nacional de Biotecnología (CNB) 英名:The Spanish National Centre for Biotechnology 所 在 電 F 地 : Darwin 3 Campus Cantoblanco 28049 Madrid, Spain. 話: +34 91 585 4500 A X: +34 91 585 4506 H o m e p a g e: www.cnb.csic.es/index.php/en/ 面 談 日 時 : 2013 年 10 月 31 日(火) 9:30~13:30 面 談 場 所 : 上記所在地 面 談 者: Carmen Castresana Fernández Director CNB Ana Sanz Herrero Manager, Technology Transfer José María Carazo Mark van Raaij Macromolecules Structure Department Ana Cuenda Isabel Mérida Mario Mellado Domingo Barber Ana Clara Carrera Immunology and Oncology Department Amelia Nieto Mariano Esteban Lluis Montoliu Pablo Gastaminza Cellular and Molecular Biology Department José Luis Martínez Luis Ángel Fernández Miguel Vicente Microbial Biotechnology Department Contact Person: Ana Sanz Herrero, Ph.D. Manager, Technology Transfer 77 面 談 目 的: 以下の項目に関する調査、情報収集を行うこと。 ・ CNB の概要 ・ CNB における産学連携活動の状況 説 明 内 容: 1. CNB の概要 ・ CNB は、1992 年に設立されたスペインの国立バイオ研究拠点で、大学ランキングでスペイ ン 1 位のマドリッド・オートノマ大学キャンパス内にあり、新設したシステムバイオロジープロ グラムを含め 6 つの Department、68 研究室に、約 600 名の研究者・サポートスタッフ等が 所属している。 ・ CNB の目標は、産業界と協力しつつ、健康、環境、農業の分野で卓越した科学的知 見を創出することにあるが、CNB の重要な使命の 1 つは、研究成果の社会還元であり、 毎 年 行っている研 究テーマ及び獲 得 成 果のレビューにおいては、これを強く意 識 し、論 文・学会発表や特許出願のみではなく、より幅広く、社会全体への貢献の程度を評価に組 入れているとのことであった。 ・ ポスドクを中心とする若手研究者の育成にも注力しており、国外からも多くの若手研究者が 留 学 しており、研 究 員 あたりの論 文 ・学 会 発 表 件 数 では、国 際 的 にも高 い水 準 にある。 2008~2012 年の間に、CNB 全体で、1,153 件の報文が科学ジャーナルに掲載され、 2013 年の SCIMAGO による研究機関ランキングによると、CNB はスペイン国内で 3 位、全世界で 49 位にランクされた。国際化も進んでおり、51%が国際共同研究の 成果であり、50 ヶ国、910 名の海外研究者との共同研究である。また、CNB 人員の 27%が海外からの人材である。 Fig.2-13-1 CNB の全景 (受領資料より) 2. CNB における産学連携活動の状況 ・ CNB の技術移転オフィス(Technology Transfer Office)は、2010 年に設立された。CNB 全 体で 2008~2012 年の間に、28 件の新規出願、32 件の国際出願、21 件の国内移行を進 78 めている。また同期間で、産業界をパートナーとする 17 件のライセンス契約、169 件の共同 研究契約が締結された。 ・ 健康関連分野でライセンス可能なパテント等について下表のように紹介された。 Fig.2-13-2 CNB の技術導出可能案件例 (受領資料より) ・ 日本との共同研究も実施されており、JSIP(Japan & Spain Innovation Program)など、(独) 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や(独)日本科学技術振興機構(JST)の 援助により日本の研究者との共同研究も進行中である。なお、JSIP では、日本の研究者に は NEDO より、スペインの研究者にはスペイン政府・産業技術開発センター(CDTI)より資 金が提供される仕組みである。 3. 研究成果の紹介 ・ 今回の訪問において、研究所長から直接概要や運営方針等を説明して頂くとともに、医薬 品や診断技術に関係する各研究分野のヘッド及び各研究テーマの実施責任者である研 究室長(教授)から、3 時間 45 分にわたり、非常に多くの興味深い研究内容の紹介を受け た。 ・ 特に AIDS やインフルエンザに対するワクチンの研究、がん細胞における脂質代謝異常に 着目した新規癌治療法に関する研究等では、ユニークな視点による独自性の高い研究が 進められており、新たなブレイクスルーが生まれることが期待される。 ・ また、クライオ電子顕微鏡を用いるイメージング研究で、CNB は欧州のセンター的な役割を 担っている。CNB の開発したソフトは全世界で多くの研究者が使用しており、国際的な共 同研究の経験が豊富とのことである。日本の研究者とも共同研究の経験があるが、資金的 79 な課題から持続的な共同研究が実施できず、成果 を上げるまでに至っていない。今後、 CNB の優秀なソフト開発能力と日本の優秀な電子顕微鏡製造企業と日本の製薬企業と の共同研究体制が求められている。 ・ 下記の創薬等に関連する Department の研究者と面談した。 高分子構造研究部 (部長 Jose Maria Valupuesta) 三 次 元 電 子 顕 微 鏡 、X 線 顕 微 鏡 画 像 プロセッシングの挑 戦 (José María Carazo) ウイルス fiber の構造生物学 (Mark J. van Raaij) 免疫がん研究部 (部長 Ana Cuenda) ストレス活 性 化 たんぱくキナーゼ(p38MAPK)のヒト疾 病 における役 割 (Ana Cuenda) ケモカイン受容体:新規疾病治療標的 (Mario Mellado) 免疫反応とがんの制御 におけるジアシルグリセロールキナーゼの役割 (Isabel Mérida) 所 炎症性疾病およびがん免疫療法とナノバイオ医薬 (Domingo F. Barber) 細胞の生存、分割およびがんにおける PI3K の役割 (Ana Clara Carrera) 細胞分子生物学研究部 (部長 Amelia Nieto) インフルエンザウイルスと感染細胞との相互作用メカニズム (Amelia Nieto) ポックスウイルスとワクチン (Mariano Esteban) 遺伝子操作により創出する動物モデル (Lluís Montoliu) C 型肝炎ウイルスの感染と発病に関与する細胞因子 (Pablo Gastaminza) 微生物バイオテクノロジー研究部 (部長 José Luis Martínez) たんぱく質の分泌と抗体の発現 (Luis Ángel Fernández-Herrero) 細胞周期の遺伝制御 (Miguel Vicente) 感: 数多くの研究室から研究成果について説明があり、研究に対する熱意を感じた。農業系バイオ や、感染症にも強い基盤があり、創薬に関連する研究を行っているが標的分子に関してはテーマ としてやや古いという印象を受けた。しかし古いがゆえに製薬会社の興味から外れた標的分子を更 に詳細に研究することで、新たな創薬シーズが出てくる可能性は十分あると考えられた。ヒト組織等 の入手も可能とのことで、連携の希望があれば、比較的容易に共同研究等が可能なようである。 (佐々木 徹) 受 領 資 料: 1. CNB Visit of Japanese Health Science Foundation 2. CNB Japon-final Centro Nacional de Biotecnología 3. Perspectives of cryoEM image processing (Jose-Maria Carazo) 4. Structural biology of viral fibres (Mark J. van Raaij) 5. Magnetic nanoparticles as drugs and/or biomolecules tumor-targeted delivery systems for cancer immunotherapy. (Domingo F. Barber Group) 80 2-14.Sylentis S.A. Sylentis S.A. 所 在 地 : Parque Científico, c/ Santiago Grisolía, 2 28760 Tres Cantos, Madrid, Spain 電 話: +34 91 804 7667 F A X: +34 91 804 9597 H o m e p a g e: www.sylentis.com 面 談 日 時 : 2013 年 10 月 31 日(木) 14:20~16:00 面 談 場 所 : Zeltia Group 本社 (Plaza del Descubridor Diego de Ordás, 3, planta 5, 28003, Madrid) 面 談 者: Eduardo Gómez-Acebo Consejero Board Member Ana Belén Irigaray Consejero Board Member Ana Isabel Jiménez Chief Operating Officer, COO Heiner Piepar Vice President, PharmaMar Buisiness Development & Licensing Contact Person: Ana Isabel Jiménez, Ph.D. Chief Operating Officer, COO 面 談 目 的: 以下の項目に関する調査、情報収集を行うことを目的とした。 ・ 核酸医薬品に対する規制動向とその対応について ・ R&D 戦略と今後の展望について 説 明 内 容: Irigaray 氏より親会社である Zeltia Group の概要および Sylentis 概要について、Jiménez 氏より 開発品の状況について説明を受けた。 81 1. 会社概要および R&D 戦略について ・ Sylentis は、2006 年、スペインの化学・医薬品企業である Zeltia Group が設立した siRNA を用いた核酸医薬の開発に特化したバイオテク企業である。 ・ 患者の QOL を改善する新たな治療法の発見・開発・実用化をミッションとし、有効な治療 法が存在しない疾患を主たる標的としている。 ・ 当面、対象とする疾患は、局所投与可能な眼科領域、慢性炎症領域、中枢神経系領域 の一部となるが、将来的には、siRNA を全身投与するための核酸修飾技術・製剤技術にも 取組む計画である。 ・ 現在臨床開発している治療薬は、高齢化に伴って患者数が増加している緑内障・ドライア イ症候群を対象とするものであり、慢性炎症領域(炎症性腸疾患、関節炎)や中枢神経系 領域(脳血流不全、認知症)において、非臨床段階のプロジェクトを有している。 Fig.2-14-1 Sylentis の注力領域とその研究・開発状況 (受領資料より) ・ 対象疾患の選択やプロジェクトの優先度判断等は、シニアメンバーが協議して迅速に決定 することとしており、僅か 16 名の実働スタッフにて、外部委託先を活用しつつ効率的に研 究開発を進めている。16 人のスタッフの内、ケミストは 3 人であり、薬理や毒性は外注で対 応している。 ・ 核酸医薬に取組んでいる他のバイオテク企業との明確な違いは、現時点で修飾核酸での 開発を考えていない点である。修飾核酸を使用しないことで、未知の代謝産物等による副 作用発現のリスク、オフターゲットへの非特異的作用が増強されるリスクが回避可能である と考える。 82 ・ 親会社である Zeltia Group はスペイン有数の化学・医薬品企業であり、化学品関連企業で あ る Zelnova S.A. お よ び Xylazel S.A. 、 医 薬 品 関 連 企 業 で あ る Pharmamar S.A. 、 Genomica S.A.U. お よ び Sylentis S.A.U. を 傘 下 に 置 く 。 Zeltia Group の 中 核 を な す PharmaMar S.A.は海洋産物由来の分子を基にした創薬を手がける企業であり、ガン領域 を中心とした研究・開発を進めている。 2. 開発品の状況および siRNA 全般について 1) SYL040012 ・ 薬剤の全身投与を必要としない眼科領域において、緑内障は今後の高齢化に伴い患者 数の増加が予想され、既存薬による治療満足度が低い疾患である。複数ある標的候補遺 伝子から、既に既存薬で有効性が認められていること、モデルとヒトの間で遺伝子配列が 良く保存されていること、siRNA による治療効果が既存薬と比較して高く、副作用発現が 低いことなどからβ2 アドレナリン受容体を標的遺伝子として選定した。 ・ 健常人ならびに患者を対象とした臨床試験において、眼内圧の低下が確認されたほか、 局所・全身共に良好な認容性を示した。加えて、薬効の 10 倍量まで投与しても血漿中で 薬剤は検出されなかった。 ・ 本剤は 2013 年 6 月時点で Phase2a 試験が完了しており、2014 年初めには Phase2b 試験 を開始する予定である。Phase3 以降のストラテジーについては検討中である。 2) SYL1001 ・ 眼科領域において、ドライアイは主要な疾患のひとつである。人工涙はドライアイ薬の市場 においても第 3 位を占めており、今後も横ばいを維持すると期待されるうえ、コンタクトレン ズやコンピューターの使用増加などのライフスタイルの変化により、今後は若年層の患者数 増加が見込まれる。 ・ ドライアイに伴う痛みの軽減を図るため、麻酔効果を発生させること無く疼痛をコントロール 可能な標的遺伝子として TRPV1 を選定した。 ・ 健常人ならびに患者を対象とした Phase1 試験において、局所・全身共に良好な認容性を 示した。加えて、薬効の 10 倍量まで投与しても血漿中で薬剤は検出されなかった。 ・ 本剤は現時点で Phase2a 試験を実施中であり、2013 年 10 月ごろデータ入手を予定してい る。 3) siRNA全般について ・ siRNA 治療薬においては CMC がもっとも鍵を握ると考えており、専門家によるコンサルテ ーションも実施している。規制当局から要求があれば検出限界の 10nM レベルまで分析を 実施する予定であるとの事である。 ・ siRNA 自体には前述のとおり修飾を行っていないが、薬剤そのものは 3 年間安定である。 ・ 作成した siRNA の配列はヒトの配列と同一かつ他の遺伝子配列とは相同性の無いものと なっており、オフターゲット効果については検討が不要と考えている。また、現時点では規 制当局からの検討の要求も受けていないようである。 ・ siRNA 設計においてバイオインフォマティクスを応用した独自の技術を有している。最適と 83 思われる配列を検索し、薬理学的に効果が期待できる siRNA の設計が可能とのことであ る。 ・ 現在検討中の疾患は前述のほか、眼科アレルギー、クローン病、関節炎、中枢神経疾患 などである。いくつかの疾患については併せて DDS 技術についても検討を実施している。 所 感: Sylentis の最大の特徴は、「核酸医薬品の局所投与が可能な疾患を選定すること、その疾患治 療薬に市場性があること、確度の高い標的分子が存在すること」というきわめて明確な同社の戦略 にある。siRNA 技術を選定した理由について、RNA 干渉効果を初めて線虫で示した論文 2 報を挙 げ、実施するか否かの判断は「based on “feasible”」と言い切った board member の Gómez-Acebo 氏には確固たる信念があるように見受けられた。 (川西 政史) 受 領 資 料: 1. Zeltia - Crossing new frontiers in healthcare through innovation 84 2-15.UK Trade & Investment (UKTI) UK Trade & Investment (UKTI) 所 在 地 : UK Trade & Investment, 1 Victoria Street London, SW1H 0ET United Kingdom 電 話: +44-(0)20-7215-8000 F A X: +44-(0)20-7215-2471 H o m e p a g e: www.ukti.gov.uk/ja_jp/home.html 面 談 日 時 : 2013 年 11 月 1 日(金) 10:00~11:30 面 談 場 所 : 上記所在地 面 談 者: Dr. Mark Treheme Chief Executive, Life Sciences Investment Organisation Teresa Agin Account Manager, Medical Devices & Healthcare, Life Sciences Investment Organisation Kevin Dodds Deputy Director, Strategic, Investment and Accounts Contact Person: 武井 尚子 駐日英国大使館 貿易・対英投資部 ライフサイエンス 対英投資上級担当官 面 談 目 的: 以下の項目に関する調査、情報収集 ・ UKTI のライフサイエンス産業政策への取組み 説 明 内 容: 1. 組織概要 ・ UK Trade & Investment (UKTI)は、英国企業の国際的事業拡大・発展を支援する英国 政府機関であり、国外企業の英国進出や既に英国に拠点を有する企業の英国内での事 業拡大に対する支援も行なっている。 ・ UKTI では、ライフサイエンス産業、特に製薬産業が英国の国益にとって非常に重要との 認識に従い、その進展・拡大のために様々な取組みを実施しており、そのスタッフ数は約 2,280 人(海外 1,230 人、英国内 640 人、英国領内 410 人)、年間予算は約 85M 英ポンド である。 85 2. UKTI のライフサイエンス産業政策 ・ 英国政府は、英国をライフサイエンス分野での世界のリーダーにすべく、2011 年 12 月に ten-year Strategy for UK Life Sciences を発表し、ゲノム研究や個別化医療の取り組みを 推進する方針を打ち出した。 ・ また、2012 年 3 月にキャメロン首相は英国の保険医療政策として dementia への challenge を発表し、dementia care & research へ予算を付ける方針を打ち出している。2015 年までに 介護分野での環境改善、痴呆患者へ心のこもった援助協力が出来るコミュニティー作りお よび研究開発促進に重点を置くとしている。 ・ 昨今、欧州においても、ライフサイエンスビジネスの育成・強化に注力している国が増えて いるが、英国は、税制面での優遇処置、NHS(ナショナルヘルスサービス)で蓄積している 各 種 データや医 療 機 関 のネットワークを活 用 できること、Research Charities(例 Cancer Research Fund など)の充実等から、ドイツ、フランス、スウェーデン等に対して優位にあると 認識している。 ・ 2011 年 5 月に公表された 5 ヵ年計画「Britain open for business」でも取上げているように、 UKTI では、これまで大企業中心であった企業の海外展開支援を中小企業にも拡大し、特 に、国際的にも通用する革新的技術を有すると判断された中小企業に対しては、選択的 に経済的支援を実施することにした。 3. UK Ecosystem 1) 税制優遇制度 ・ 法人税を 2015 年 4 月までに現行の 23%から 20%に減額する。 ・ R&D Tax Credits:研究開発を行う企業に対して R&D 費 1 英ポンドに対して 27 英国ペン ス上限で還付される制度。この制度は、欧州の他の国に比べて申請プロセスも容易になっ ている。 ・ Patent Box:2013 年 4 月時点で英国に登録されている特許や発明を使って得られた利益 に対しては法人税 10%を適用することとした。 2) R&D ファンドの充実 ・ 新規創薬タ-ゲット探索、バイオマーカー探索、診断技術、イメージング、インフォーマティ クス研究などに対して Research and innovation funders、knowledge transfer networks およ び research charities など各種の R&D ファンドが充実しており、英国のアカデミア、国立の 研究機関、企業間のパートナーシップ推進などへも幅広い支援が行われている。 ・ National Institute for health Research (NIHR) :政府資金で英国での臨床研究および治 験に対して支援する。500M 英ポンド/年。 ・ Research Partnerships Investment Fund:英国の大学などの高度研究機関と企業とのコラボ レーションを支援する。300M 英ポンド。現在までにライフサイエンス分野は 146.5M 英ポン ドの支出が担保されている。 ・ Biomedical Catalyst:ライフサイエンス分野で中小企業(the Technology Strategy Board へ 申請が必要)と大学(the Medical Research Council へ申請が必要)との共同研究を支援す る。180M 英ポンド。 ・ Technology Strategy Board:企業の個別化医療プロジェクトへ支援する。60M 英ポンド。 86 この支援は Stratified Medicine Innovation Platform の 200M 英ポンドの一部である。 ・ Medical Research Council:がん以外の個別化医療へ支援する。60M 英ポンド。 ・ Cancer Research Technology(CRT)と European Investment Fund のジョイントのファンド:が ん治療薬探索から Phase1 臨床試験までの橋渡し研究へ支援する。50M 英ポンド。 4. Creating an Open and Flexible Regulatory Framework ・ 個人の健康情報へアクセスするために専門家により透明性を持ったアドバイスが得られる。 ・ 効率的な承認プロセスを有し、グローバルに認められた規制当局である MHRA と EMA は 英国に本部を置いている。 ・ 革新的な医薬品を患者が早期にアクセスできるようにする Early Access Scheme を整備す ること、および順応性をもったライセンス活動について、検討中である。 ・ 専門の投資家グループと年四回会合を持ち、効率的かつ革新的な規制について議論して いる。 ・ MHRA は、先進の治療法、個別化医療、ナノテクノロジー、先進の製造技術および新規の 医薬品/デバイスコンビネーションを含む革新的な製品を開発している企業と MHRA との間 での事前相談を推進するために、最近 Innovation Office を設置した。 5. Unlocking Data to Drive Innovation ・ 英国政府は、英国で医薬・医療製品の臨床上の評価を行うための探索研究から臨床試験 全てに渡って強力に進めるために必要なデータを提供できるとしている。 ・ 英国は、約 6 千万人の人口を有する民族的な多様性を有する国であり、全国民を対象と する NHS(National Health Service)によって構築された国家規模の患者情報データベー スがあるため、これを活用した質の高い医薬品研究開発が可能であり、巨大な人口を有す るものの、国家レベルでの患者情報データベースが整備されていない米国、国家規模の 患者情報データベースを有しているものの、国の規模が小さいスウェーデン等よりも、優位 にある。 ・ 英国の特徴あるデータリソースとして、UK Biobank、Clinical Practice Research Datalink (CPRD)、NIHR BioResource 等がある。 所 感: 今回、主として対応を取って頂いた Dr. Mark Treherne は、昨年、UKTI の組織改編とともに新設 されたライフサイエンス投資部門の責任者(Chief Executive)であるが、これまでの職歴は、ファイザ ーや中小バイオテク企業等の製薬関連企業中心であり、初めて公的機関で勤務することになった とのことであった。我が国においても、このような民間人材の抜擢等により、より企業にとって現実的 で効果的な政策を検討・実施できる体制を構築する等、参考にすべき点が少なくないと思われた。 (井口 富夫) 受 領 資 料: 1. Unlock Your Global Business Potential: Japan Health Sciences Foundation 2. Unlock Your Global Business Potential: The New UK Life Science Prospectus 3. Unlock Your Global Business Potential: UK Stratified Medicine 87 2-16.Human Induced Pluripotent Stem Cells Initiative (HipSci) Human Induced Pluripotent Stem Cells Initiative (HipSci) 所 在 地 : 28th floor, Tower Wing, Guy’s Hospital, Great Maze Pond,SE1 9RT, London, UK H o m e p a g e: www.hipsci.org/ 面 談 日 時 : 2013 年 11 月 1 日(金) 13:00~14:00 面 談 場 所 : 上記所在地 面 談 者: Davide Danovi, MD, Ph.D. Director, HipSci Cell Phenotyping Centre for Stem Cells and Regenerative Medicine, King’s College, London Contact Person: Davide Danovi, MD, Ph.D. Director, HipSci Cell Phenotyping Centre for Stem Cells and Regenerative Medicine, King’s College, London 面 談 目 的: 以下の項目に関する調査、情報収集を行うこと。 ・ HipSci の設立経緯、現状および将来構想 説 明 内 容: 1. HipSci の設立 ・ HipSci は Wellcome Trust や MRC からの資金提供を元に、昨年から始まった英国での新 たな再生医療関係の取組みであり、高質な iPS 細胞の収集とカタログ化を目指している。 ・ 2012 年 11 月に Wellcome Trust と MRC は合計 13M 英ポンドの資金提供を発表した。 ・ 当面、英国内の 800 人の健常人と 700 人の遺伝性疾患を有する患者から、iPS 細胞を樹 立する予定で、現在、実施基盤の整備を進めている状況である。 ・ 直接、再生医療に役立てると言うよりも、cellular genetics などの基礎研究レベルでの iPS 細胞ライブラリーの活用に重きを置いている。 2. King’s Collegeでの現況 ・ 今回、HipSci を紹介して頂いた Dr. Danovi の研究グループ(HipSci Cell Phenotyping group)は、King’s College に所属し、Guy’s Hospital タワー棟 28 階に活動拠点を置く Fiona Watt 博 士 の 率 い る 幹 細 胞 再 生 医 療 セ ン タ ー ( Center for Stem Cells and Regenerative Medicine)内に昨年設置されたばかりで、研究室の整備を行っているところ であった(Fig.2-16-1)。現在 8 名の研究員で構成されている。 88 Fig.2-16-1 HipSci Cell Phenotyping group の研究室 (受領資料より) ・ その主たる研究目的は、正常細胞が病的状況に変化する際の細胞や細胞質内オルガネ ラの形態・生化学的変化を見つけだし、疾患発症のメカニズム解明に結びつけることであ る。 ・ 必要な機器類は、画像解析関連のものも含め、HipSci に提供された資金にてすでに設置 済みである(Fig.2-16-2)。 Fig.2-16-2 HipSci Cell Phenotyping group に設置された細胞解析機器 (受領資料より) 3. HipSci内での研究協力体制 ・ Cell Phenotyping 以 外 の HipSci の具 体 的 な研 究 の取 組 み:Wellcome Trust Sanger 89 Institute が ゲノ ミ ク ス 、Dundee 大 学 が プ ロ テオ ミ ク ス 、 EMBL-Europian Bioinformatics Institute がデータマネージメントをそれぞれ担当し、樹立された iPS 細胞に関する基本情報 を収集し、データベース化する(Fig.2-16-3)。 ・ 企業の参画に関しては、最近、協議を始めたばかりである。日本の企業からのアプローチ も歓迎するとのことであった。 Fig.2-16-3 HipSci 内の研究協力体制 (受領資料より) 4. 今後の課題など ・ iPS 細胞の標準化や規格設定に関しては重要な課題となるが、具体的な方針は協議中で ある。 ・ HipSci の運営費用は、2015 年までの 4 年間の総額で 30.5M 英ポンドとなっている。 ・ 今後、京大の山中教授を始めとする他国専門家との共同研究も積極的に検討して行きた いとの意向であった。 ・ iPS 細胞や ES 細胞の研究を英国で実施することのメリットは、英国では NHS(国営医療サ ービス)が充実しており、これによって、研究者や臨床医が、患者やその臨床データに容易 にアクセスできる環境が整備されている点にあるとのことであった。 所 感: 一昨年 11 月に HipSci が設立されたばかりであり、実務的にはまだ準備作業の段階のようで、 King’s College ではようやく研究に着手し始めた状況であった。また、他の協力研究機関の状況に 関する情報がそれほど得られなかったのは残念であった。しかし、iPS 細胞のそれなりの作製数を 目標値として設定できるということは、英国においてすでに構築され、活動している公的バイオバン クの寄与も相当に大きいものと推察される。また、構築されるライブラリー中の iPS 細胞には、国際 90 的に評価の高い Wellcome Trust Sanger Institute の遺伝子情報を始めとして、Dundee 大学や King’s College の各種オミックスデータが EMBL-Europian Bioinformatics Institute でデータベー ス化され、付随するので、各種研究に使用する上で非常に有利になってくると考えられる。最近、 再生医療用の iPS 細胞バンクの国際共同構築(国際バンク構想)の話題も出ているが、HipSci の 寄与、参画に関しては不明である。しかし、疾患 iPS 細胞も含め基礎研究用の基本情報の付随し た iPS 細胞バンクの重要性は今後益々高まってくると思われる。今後の HipSci の体制構築と進展 状況を見守りたい。 (加藤 正夫) 受 領 資 料: 1. HipSci Cell Phenotyping group at King’s College, London 参 考 資 料: 1. HipSci ホームページ: http://www.hipsci.org/ 91 2-17.Medicines and Healthcare products Regulatory Agency (MHRA) Medicines and Healthcare products Regulatory Agency (MHRA) 所 在 電 地 : 151 Buckingham Palace Road, Victoria, London, SW1W 9SZ, UK 話: +44 20 3080 6000 F A X: +44 20 3118 9803 H o m e p a g e: www.mhra.gov.uk/Aboutus/index.htm 面 談 日 時 : 2013 年 11 月 1 日(金) 14:30~15:30 面 談 場 所 : 上記面談場所 面 談 者: Andrew French, Ph.D. Group Manager - Licensing Dr Elaine Godfrey Deputy-Manager - CTU, Licensing Dr Bridgette Heelan Medical Assessor - Licensing Stephen Lee Principal Medical Device Specialist Biosciences and Implants, Devices Rosalind Polley, Ph.D. Senior Medical Device Specialist Biosciences and Implants, Devices Krishna Prasad, MD, Clinical Assesor/Cardiologist Manager, Product Lifestyle Assessment Team 1 MHRA Contact Person: Ida De Souza Executive Assistant Product Lifestyle Assessment Team 1 MHRA 面 談 目 的: MHRA の核酸医薬の薬事規制の考え方についての情報収集を行う。 説 明 内 容: ・ MHRA の核酸医薬に対する薬事規制の考え方について説明を受けた。 ・ 核酸医薬に関する薬事規制に関しては、日米欧での見解・判断の相違が散見されている が、MHRA では、全合成で製造する限り鎖長によらず、原則、核酸医薬は、低分子医薬品 と同じ規制を適応するとの明確な方針を有していた。非臨床で必要となる特殊な試験は、 分子や標的に依存する。MHRA の核酸医薬に関する評価経験は極めて限られており、今 後、予期せぬ問題が起きる可能性もあるため、当面は、1 つ 1 つの案件を慎重かつ詳細に 92 評価して行くとのことであった。 ・ 核酸医薬の評価において、現時点で MHRA が最も注意しているのは、その純度と不純物 が有する非特異的薬理作用(off-target 効果)である。 ・ 核酸医薬の不純物は低分子医薬品と比較して多様性に富むため、ペプチドと同様な考え 方ができる。また、不純物の解析法については方法の選択の根拠も含めて説明する必要 があるが、妥当でバリデートされた手法であれば方法は問わないため、企業から提案できる。 なお、臨床試験の中での解析法の変更はクロスバリデーションが必要となり、tricky な評価 となるため避けるべきであり、1 試験を完了した後に解析法を変えることを推奨するとの考え であった。 ・ Off-target 効果については、いろいろな疾患に係る分子に結合する場合は懸念するがケー スバイケースである。Off-target 効果を評価する方法は特定のものはなく、集められている 情報により、in silico、in vitro あるいは in vivo のいずれのデータでも受け入れは可能とのこ とである。企業が in silico において懸念を見出した場合は、可能であれば後から wet data を提出することが望ましいとのことであった。 ・ EMA と同様、当面、MHRA も核酸医薬に特化したガイダンスやガイドラインを作成する予 定はないが、核酸医薬の情報が集まり特有の課題や低分子との違いが見出されるなど作 成の必要が認められた場合は、速やかに対応できるようにしておきたいとのことであった。 所 感: MHRA においても核酸医薬の評価は経験が少ないとのことではあるが、評価に関する明確な考 え方は持っており、CMC から臨床まで明確な意見を聞くことができた。限られた情報の中でも、適 格に考え方を理解できるように真摯に説明をされ、企業とともに開発を進めようとする姿勢が垣間 見られた。 (池田 陽子) 受 領 資 料 : なし 参 考 資 料: 1. MHRA ホームページ: http://www.mhra.gov.uk/ 93 第 3 章 調査結果の総括と提言 3-1.調査結果の総括 1. 核酸医薬の現状と課題 核酸医薬は欧米においても新しい分野であり、現在開発されている治療薬は限られ、それらに 用いられている技術も限定されたものである。今回の調査の結果、核酸医薬には大きな期待を寄 せる声もあるものの、標的細胞へのデリバリー、体内での安定性、適応疾患等に関する科学・技術 的な問題・課題が少なからず残っているとともに、日米欧薬事規制当局の審査・評価結果には明ら かな差異が認められ、明確な方針も定まっていないことが分かった。このような様々な面での不明・ 未解決な点を解決して行くため、各当事者は、今後も具体的な事例を通じて実績・経験を重ねて 行くことになるが、それは、どの国・地域においても、突出して先行しているところはないことを示すも のであり、我が国にも、大いにチャンスがあるものと思われた。 2. 産学連携をもとにした創薬研究の進展 欧 米 では、アカデミア・バイオテク企 業のみならず、製 薬 企 業 においても、創 薬 標 的に対 する HTS から始まる典型的な創薬で、これまでのようなペースでの新薬創出が可能であると考えている 企業は殆どない。また、このような認識に従って、少なからぬ企業が、リスクを覚悟の上、よりイノベ ーティブな創薬アプローチに迅速に着手できるよう、組織のフラット化、下部組織への権限の大幅 な委譲、研究部門のマーケティング・開発部門からの分離等を積極的に進めるとともに、細胞療法 による疾患治療や組織再生、エピゲノム機能解析に基づく細胞機能制御、ナノマシン・テクノロジ ーによる DDS、組換え微生物によるがん・感染症の治療、コンピューターサイエンスを駆使した医 薬品候補物質の評価、等、従来の創薬の概念の枠内には収まらない新たな治療法、治療薬の開 発に取組み始めている。このような取組みを可能としているのが、オープンイノベーションを始めと する積極的な PPP(Public-Private Partnership)であり、創薬における PPP の役割は、今後一層重 要となって行くものと思われた。 3. 製薬企業における前競争的連携の進展 欧米各国における医療費削減の動きや新薬承認基準の厳格化、製薬企業の研究開発パイプ ラインの枯渇化等により、医薬品市場は世界的規模で変化しており、製薬企業の経営・研究開発 環境は激しく変化している。このような状況下で、より経済的・効率的に、より成功確率の高い創薬 を目指さざるを得ない製薬企業にとって、前競争的な連携は有力な手段であり、確実に重要性が 増していると思われた。実際、米国では、PhRMA や BIO において、前競争的連携に関する取組み が増加しているとのことであり、C-Path においても、新たな医薬品評価基準の確立等、医薬品研究 開発・承認プロセスの効率化・迅速化に繋がる複数のコンソーシアム形式での検討が進んでいると のことであった。また、PhRMA、BIO、C-Path でのこれらの取組みには、NIH や FDA 等からのグラン トや各種慈善財団・患者団体からの支援金等が提供されており、国家的な理解・支援が既に形成 されていると感じさせられた。我が国においても、早急に日本の製薬企業間での前競争的連携の 支援・推進体制の整備を進める必要があると思われた。 94 3-2.提言 上述の通り、我々は、今回の調査によって、欧米各国の行政・規制機関、業界団体、製薬企業、 公的研究機関、バイオテク企業等より様々な最新情報を入手し、様々な新たな取り組みや今後の 方向性等について、日本と対比することにより、大いに考えさせられた。 本レポートの最後に、我が国の行政・規制機関、製薬・バイオテク企業、大学・研究機関が今後 も持続的に発展し、世界の中でのプレゼンスを維持・向上することを願い、国外調査ワーキンググ ループとして、以下の通り提言する。 1. 速やかなオールジャパン連携体制の確立により、核酸医薬で世界をリードする基盤を一気に 構築・強化する。 修飾・安定化技術を中心に、核酸医薬に関する様々な技術は確実に進展しており、核酸医薬 の開花時期は遠い未来ではないと思われる。 しかし、前述の通り、核酸医薬には、様々な科学・技術的な問題・課題(標的臓器・細胞へのデリ バリー精度の改善、製造コスト低減と純度向上、より安定な修飾技術の開発、経口製剤化技術の 開発、新たな治療対象疾患の探索、オフターゲット効果の低減等)が残っており、日米欧薬事規制 当局の審査・評価のスタンスにも明らかな差異が認められ、ガイドライン、ガイダンス等も定まってい ない。 実際、今回の調査で訪問した核酸医薬を開発している企業では、何れの企業においても、先ず は開発中の核酸医薬で承認を獲得することを優先し、局所投与で効果が期待できる眼科・皮膚科 領域の限られた疾患を標的として開発を進める一方、新たな核酸医薬の治療対象疾患の探索、 新たな標的臓器・細胞へのデリバリー技術の開発等を中心に、アカデミア等との共同研究・技術提 携等を積極的に行っていた。 このような状況から、現時点では、いかなる国・地域においても、突出して先行している企業はな く、我が国の企業にも大いにチャンスがあるものと考えられる。しかし、核酸医薬にも莫大な研究開 発費を投 入し始めている欧米大 手製 薬企 業に比べ、企業規 模が小さい我が国の製薬企 業が、 様々な科学・技術的な問題・課題に単独で取組むのは得策ではなく、是非、オープンイベーション や前競争段階でのコンソーシアム等により、当該分野に明るいアカデミアや他社と協力して、問題・ 課題の解決を図るべきと考える。更に、我が国は、核酸修飾技術や核酸医薬の対象疾患に関する 研究等では、他の先進国をリードしてきた実績もあるので、その基盤を活用・強化するため、是非、 関係省庁には、優先的な公的研究費・事業化支援費の投入を検討して頂きたい。また、規制当局 には、FDA や EMA の一歩先を見据えたルールを提案する等、FDA や EMA を追従するのではな く、むしろリードして行く気概を持って、核酸医薬に取り組んで頂きたい。このような産学官のオール ジャパンでの連携を迅速に実現することができれば、我が国が核酸医薬分野で世界をリードするこ とも夢ではない。 2. オープンイノベーションを進化させ、我が国独自の双方向オープンイノベーションを確立・実践 展開する。 95 前述の通り、医薬品の研究開発においても、よりイノベーティブな創薬アプローチに迅 速に着手するため、また、全く新しい治療法・治療薬の開発に取組むため、オープンイノ ベーションを始めとする産学連携が急速に進展している。しかし、ここ数年間に多くの新 たな大型案件も報道された我が国におけるオープンイノベーションから、期待通りの成果 が得られているとは言い難く、見直し・改善の必要性が顕在化しつつある。 創薬分野で産学連携を成功させるためには、企業と提携アカデミア間の円滑な意思疎通、 情報・意見交換のためのインターフェースが整備され、常に両サイドにとって機能的であ る必要がある。しかしながら、欧米と異なって人的資源の流動性が低い我が国では、産業 界とアカデミアの間の相互理解が不十分で、大型の産学連携を開始したにも関わらず、製 薬企業のニーズをアカデミアが理解できていないケース、アカデミアの知識・経験を製薬 企業が活用できていないケースが少なくなく、実際、製薬企業のオープンイノベーション 公募サイトにおいても、募集する会社側と応募するアカデミア側の間で認識の違いが浮彫 りとなっている。 このような課題・問題を解決するため、企業側では、特定のアカデミアとの包括的提携 を行って、相互理解の醸成を図ったり、アカデミアの産学連携担当部署との定期的な会合 を持ったりしており、アカデミアでは、著名大学やこれらを中心とした地域クラスターに て、企業との連携強化、自前での創薬実施基盤の構築等が行われている。更に、政府側に おいても、独立行政法人 日本医療研究開発機構(新独法)の設立、アカデミアシーズの事 業化推進制度の整備・充実、医薬基盤研を中心とした包括的支援組織の設立等によるライ フサイエンス研究・事業の支援・推進が図られつつある。しかし、これらの方策では、抜 本的な改善は容易ではなく、即効性も期待できない。 我が国において、産学連携を成功させるキーは「より深い双方向での相互理解に基づく、 needs oriented collaboration の実現」であり、これを実現するには、これまでのアカデミア から企業への一方通行のオープンイノベーションではなく、企業とアカデミアが双方向で 経験・情報・技術・ノウハウを提供し合い、正に一体となって、イノベーションに取組む 体制の構築・運営が必要であると考える。 このような見地に立ち、もともと国土が狭く、直接対話型コミュニケーションを得意と する我が国の特性を踏まえて、以下のような方策の検討・実践を強く要望する。 ① 我が国では、各セクター内での連携(製薬企業:HS 財団、製薬協等、バイオテク企業:JBA、 大学発バイオベンチャー協会等、大学病院:医学系大学産学連携ネットワーク協議会等、アカ デミア:創薬支援ネットワーク等)は進んでおり、企業と大学の包括的単独連携も盛んである。し かし、フランスの Medicen Paris Region が促進していたような、ライフサイエンスに関連した全て の業界が多面的に連携し、業界共通の課題に複数の機関で取り組む試みはまだまだ充実して いない。ライフサイエンスにおけるイノベーションを加速するために、同様の試みを行うべきであ る。 ② 企業とアカデミアが双方向でオープンイノベーションに取り組めるようになるためには、オープン イノベーションを円滑かつ効率的に運営するとともに、外部リソースと内部リソースを柔軟に使い 分ける、革新的新組織を構築するべきである。さらに、当該組織は、ベンチャー企業のように、 意思決定が早く、機動力のある組織でなければならず、企業本体から独立した意思決定がで 96 きるようにするべきである。 ③ 我が国の生命科学分野全体をリードする組織となる新独法の設立が、政府主導で進められて いるが、当該新組織では、医薬医療創薬分野の基礎から応用・事業化までの全体を俯瞰し、 長期的かつ多角的戦略を立てる機能が必要である。このような機能を十分に果たし、総合的な 組織構築・運営を実現するには、製薬企業での研究開発の経験が豊富で、ビジネスマインドを 持ち、予算確保の折衝力も有する優れた人材を実務トップに据える等の思い切った施策を取 るべきである。 ④ 創薬支援ネットワークや新独法では、公的研究機関・アカデミアの創薬シーズと製薬企業によ る応用研究・開発の間には、所謂「死の谷」が存在し、これら新たな組織が埋めることによる創 薬の活性化が示されている。しかし、米国では、この「死の谷」を埋める役割をベンチャー企業 が果たしており、我が国においても、ベンチャー企業の育成・強化は重要な課題と思われる。今 回の調査で訪問した QB3 では、大学発ベンチャーに対し、設立早期から、あらゆる面での支援 が行われていたが、我が国では、このような支援はほとんど実施されていないため、バイオ起業 家の人材育成について、国主導での早急かつ現実的な対応策の検討・立案を期待する。 3. 我が国における製薬企業の前競争的連携の推進・支援体制を整備することにより、医薬品研 究開発・承認プロセスの効率化・迅速化を図る。 より経済的・効率的に、より成功確率の高い創薬を目指さざるを得ない製薬企業にとって、前競 争的な連携は有力な手段であり、確実に重要性が増している。今回の調査によって、米国では、 PhRMA、BIO、C-Path における前競争的連携に関する取組みに、NIH や FDA 等からのグラントや 各種慈善財団・患者団体からの支援金等が提供されており、国家的な理解・支援が既に形成され ていることが分かった。 一方、我が国においては、製薬企業間の比較的大規模な前競争的連携が実施された事例はあ るものの(例:ファルマスニップコンソーシアム)、やや散発的で目的も限定されている感は否めな い。 PhRMA や BIO においては、例えば、非臨床安全性試験に関する効率化・合理化を目的とした コンソーシアムが非常にうまく進展している例等もあり、C-Path においては、新たな医薬品評価基準 の確立等、医薬品研究開発・承認プロセスの効率化・迅速化に繋がる複数の検討がコンソーシア ム形式で進んでいること等を踏まえ、我が国においても、長期的視野に立って、早急に国内製薬 企業間での前競争的連携を支援・推進する体制の整備を進める必要がある。 上記認識のもと、我が国における前競争的連携推進を実現するため、日本の製薬企業並びに 関係する公的機関に対し、以下のような検討や施策の実践を期待する。 ① NIH では、アルツハイマー病を始めとする幾つかの疾患に関し、複数の製薬企業が参加したコ ンソーシアムにより、臨床試験のエンドポイントを共同で研究する前競争的連携が行われている。 本邦においても、例えば、企業にとって秘匿事項となっている医薬品の開発失敗事例を持ち 寄って、失敗の原因を共同で解析・共有し、失敗のリスク軽減を目指すような、前例のない前競 争的連携を実現するべく、新独法を始めとする関係機関に、積極的な検討を期待する。 ② 今 回 の調 査 で 明 らか となった 欧 米 での取 り組 み、及 び 過 去 に調 査 した 欧 州 における IMI 97 (Innovative Medicines Initiative)の進捗等に比べ、我が国の前競争的連携は、規模・内容と もに遅れが明らかである。米国 NCATS や Regan Udall Foundation のような組織を設置すること により、あるいは、関係団体での取り組み体制を強化する等により、先行している欧米と競合し ない分野において、前競争的連携を早急に強化・進展させるべきである。 ③ 日本の医科学分野の基盤を整備するため、また日本の医薬開発における前競争的なボトルネ ック解消に向け、アカデミアが率先して、日本人(アジア人)の遺伝子解析や疾患レジストリー、 バイオバンク等の整備とその有効活用を進めるべきである。また、これを推進するため、遺伝情 報を始めとする患者個人の情報の取り扱いについて、早急に国家的コンセンサスを固めるべき である。 ④ 欧米では、行政からの積極的な資金支援があり、FDA や EMA などの規制当局も積極的に前 競争的共同研究に参加している。我が国においても、創薬に関する前競争的連携に対し、同 様の支援を期待する。また、欧米に比べ、我が国では、患者団体との連携も少なく、あまり活用 されていないが、今後は当該連携を進展させるべきと考える。 ⑤ 今回の調査で、iPS 細胞を活用した疾患研究に取り組む HipSci を訪問したが、予算規模は大 きいものの、活動自体は始まったばかりであり、我が国における当該分野の取り組みは十分に 競争力を有していることが分かった。このような状況を踏まえ、基礎研究、応用研究、臨床研究、 製造法、レギュレーション、それぞれの分野で、更なる、オールジャパンでの前競争的連携体制 を構築し、我が国の強みや先進性を進展させ、世界を席巻する技術を確立するための取り組 みを開始するべきである。 以上 98 平成 25 年度(2013 年度) 国外調査報告書 創薬基盤強化の新機軸を探る -核酸医薬の新展開・産学連携の最新動向を中心に- 発 発 行 日: 平成 26 年 3 月 14 日 行: 公益財団法人 ヒューマンサイエンス振興財団 〒101-0032 東京都千代田区岩本町 2-11-1 ハーブ神田ビル 電話 03(5823)0361/FAX 03(5823)0363 (財団事務局担当 佐々木 徹) 印 刷: 株式会社 ユーティック 〒110-0016 東京都台東区台東 2 丁目 30 番 2 号 発行元の許可なくして転載・複製を禁じます。 C 2014 ○ E A 公益財団法人 ヒューマンサイエンス振興財団
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