調査研究ジャーナル 2014 Vol.3 No.1 実践報告 平成 25 年上半期に実施した作業環境測定について 磯部清房 1)、中野厚夫 1)、秋山勝弘 1)、前島寛 1)、加藤聖一 1)、桑原竹一郎 1) Report of the Work Environment Measurement in the First Half of 2013 Kiyofusa Isobe1),Atsuo Nakano1),Katsuhiro Akiyama1),Hiroshi Maejima1), Seiichi Kato1),Takeichiro Kuwahara1) 要旨 当財団が平成 25 年上半期に実施した 114 社 585 作業場の粉じん、有機溶剤、特定化学物質、鉛、 騒音の作業環境測定結果を基に委託元、測定対象物質、そして作業環境管理の状況をまとめた。委 託元は京葉コンビナートに隣接する千葉市を中心に県中央部に集中している。業種は 39 種に及ぶが 化学工業、石油化学会社及び付属する開発研究機関の割合が高くなっている。このため測定対象物 質の半数以上(55.4%)は有機溶剤となっている。作業環境管理の状況を第 1 管理区分の割合から見 ると金属・鉛は 100%、有機溶剤は 95%、粉じんと特定化学物質(金属を除く)は約 90%と大半の 作業環境は良好であった。一方、第 2 管理区分、第 3 管理区分となった単位作業場所は悪い評価結 果が固定化する傾向が見られた。また、騒音は第 1 管理区分の割合が 36.2%に留まっており、他の 測定対象に比べて環境改善が進んでいなかった。 (調査研究ジャーナル 2014;3(1):36-42) キーワード:作業環境測定、粉じん、有機溶剤、特定化学物質、金属、鉛、騒音、千葉県、業種、 管理区分 はじめに 当財団は労働安全衛生法第 66 条に基づき、 働く人の健康診断とともに有害物質を取り扱っ ている事業場からの委託を受け、同法第 65 条 に基づく作業環境測定を昭和 52 年から実施し ている。 作業環境測定は主に生産現場を対象に実施さ れるが生産活動のグローバル化にともなう産業 構造の変化、有害物質の規制強化などにより作 業環境測定及び作業環境測定機関を取り巻く環 境は大きく変わりつつある。ここでは、平成 25 年上半期に財団が実施した作業環境測定結果を 基に、委託元、測定対象物質、そして作業環境 管理の状況について報告する。 材料および方法 作業環境測定は、健康に有害な因子が職場の 連絡先:磯部清房 〒 261-0002 千葉市美浜区新港 32-14 1)公益財団法人ちば県民保健予防財団 (E-mail:ki-isobe@kenko-chiba.or.jp) (Received 16 Dec 2013 / Accepted 18 Feb 2014) 36 環境中にどれ位あるかを知り、適切な対応をと るための基礎情報として活用される。測定対象 物質、測定及び測定結果の評価の方法は、労働 安全衛生法施行令第 21 条、有機溶剤中毒予防 規則、鉛中毒予防規則、特定化学物質障害予防 規則、粉じん障害予防規則、石綿障害予防規則、 騒音障害防止のためのガイドライン、作業環境 測定基準及び作業環境評価基準 1,2) により規定 されている。また上記の法令及びガイドライン により測定は、6 ヶ月以内ごとに 1 回、鉛は 1 年以内ごとに 1 回測定することが事業者に義務 付けられている。財団は平成 25 年 6 月現在、 千葉県内の 124 事業場から延べ 627 作業場につ いて作業環境測定を受託している。このうち平 成 25 年上半期(1 月 1 日~ 6 月 30 日)に測定 を実施した 114 事業場 585 作業場を対象とし、 粉じん、有機溶剤(47 種類)、特定化学物質(化 学物質 31 種類、金属 12 種類)、鉛、騒音の測 定結果及びその評価結果について過去の測定結 果を踏まえて検討した。 1.測定方法及びその結果の評価方法 作業環境測定には、作業が行われる場所(単 位作業場所という)の有害因子の濃度や量を統 磯部ほか:平成 25 年上半期に実施した作業環境測定について 計的手法を使って推定するための A 測定と労働 者の有害因子への曝露が最も大きくなると思わ れる場所と時間を恣意的に選んで行う B 測定の 2 種類がある。 このうち A 測定は、単位作業場所ごとに、縦 と横、等間隔に最低 5 箇所以上の測定点を設定 して行い、得られた測定値から幾何平均値と幾 何標準偏差を計算、さらに第 1 評価値 EA1(推 定最高濃度)と第 2 評価値 EA2(推定平均濃度) を算出する。そして、この評価値と作業環境管 理の良否を判断する基準として行政から示され ている管理濃度(E)を比較し、単位作業場所 の状態を第 1 管理区分(作業環境は良好)、第 2 管理区分(作業環境の改善に努めること)、第 3 管理区分(作業環境の改善を行う必要あり)の 3 段階で評価する。 B 測定の評価は、B 測定値が管理濃度未満な らば第 1 管理区分、管理濃度以上かつ管理濃度 の 1.5 倍以下の場合は第 2 管理区分、管理濃度 の 1.5 倍を超えた場合は第 3 管理区分となる。 そして、A 測定と B 測定のうち悪い方の評価 結果が単位作業場所の総合評価となる(表 1)。 騒音については、測定値の算術平均値と基準 となる等価騒音レベルを比較して A 測定の平均 値と B 測定値がともに 85dB(A)未満の場合 は第 1 管理区分、A 測定の平均値もしくは B 測 定 値 の ど ち ら か が 85dB(A) 以 上 90dB(A) 未満の場合は第 2 管理区分、A 測定の平均値も しくは B 測定値のどちらかが 90dB(A)以上 の場合は第 3 管理区分となる。 2.委託元及び測定対象物質の状況 委託元事業場の所在地は 41.2% が千葉地域 (千葉市、市原市)にある。次いで印旛地域(成 田市、富里市、佐倉市、印西市、白井市、八街市、 四街道市、酒々井町、栄町)の 14.9%、葛南地 域(市川市、船橋市、習志野市、八千代市、浦 安市)と山武地域(東金市、大網白里市、山武市、 九十九里町)の 8.8% と県中央地域に集中して いる。 受託事業量の目安となる単位作業場所数の地 域分布も千葉地域が一番多く、全体の 40.0% を 占めている。2 番目は君津地域(君津市、木更 津市、袖ヶ浦市、富津市)の 14.5%、3 番目は 印旛地域の 11.6% であった。 次に委託元事業場の業種 3)と測定依頼項目を 表 2 に示す。 114 社の業種は 39 種類と多岐にわたっている が、金属製品製造業の 14 社(12.2%)が一番多く、 次いで化学工業の 9 社(7.9%)、ゴム製品製造 業の 8 社(7.0%)、プラスチック製品製造業 7 社(6.1%)、汎用機械器具製造業 7 社(6.1%)、 石油製品・石炭製品製造業 5 社(4.3%)となっ ている。京葉コンビナートに隣接する地域性を 反映し、石油化学系製造業の割合が高い。 同様に業務量の目安となる単位作業場所の数 を業種別に見ると、石油製品・石炭製品製造業 の 118 箇所(20.2%)が一番多く、2 番目が金 属製品製造業の 75 箇所(12.8%)、次いで化学 工 業 の 72 箇 所(12.3 %)、 ゴ ム 製 品 製 造 業 の 35 箇所(6.0%)、電気機械器具製造業の 27 箇 所(4.6%)、窯業・土石製品製造業の 27 箇所 (4.6%)の順になっている。単位作業場所数も 石油製品・石炭製品製造業と化学工業の割合が 高くなっている。 さらに測定対象物質ごとの業種分布を見ると、 単位作業場所数の多い石油製品・石炭製品製造 業と化学工業における 140 作業場を含め全作業 場の 55.4%、324 作業場は有機溶剤を測定して いる。 粉じんは金属製品製造業、窯業・土石製品製 造業、電気機械製品製造業、ゴム製品製造業に 集中し、主に溶接、金属の研ま作業、粉体原 料の投入・混合作業などを対象に 118 作業場 (20.2%)で測定が行われている。 特定化学物質(金属を除く)は 16 業種に分 布しているが、主に研究施設での実験研究、医 療業における器具等の滅菌、標本保存、水道 業における消毒などの作業を対象に 57 作業場 (9.7%)で測定が行われている。 金属・鉛の測定は、30 作業場(5.1%、鉛は 1 作業場)と少なく、このうち 24 作業場は石油 化学系会社研究施設での実験作業を対象にして 表 1 作業環境測定結果の評価 B測定 B 測定値<管理濃度 管理濃度≦ B 測定値 ≦管理濃度× 1.5 管理濃度× 1.5 < B 測定値 第 1 評価値 <管理濃度 第1管理区分 A測定 第2評価値≦管理濃度 ≦第1評価値 第2管理区分 管理濃度< 第2評価値 第3管理区分 第2管理区分 第2管理区分 第3管理区分 第3管理区分 第3管理区分 第3管理区分 37 調査研究ジャーナル 2014 Vol.3 No.1 いる。 騒音は 10 業種 56 作業場で測定が行われてい るが、金属製品製造業における研ま作業、成型 作業などの割合が高く、31 作業場(55.4%)を 占めている。 結果 図1に測定結果の評価一覧に示すとともに、 以下に測定対象(分類)ごとに測定評価を概説 する。 1.粉じん 粉じんは法令により作業ごとに測定対象が区 分されているが、調査対象では表 3 に示すとお り、7 種類の法定粉じん作業と法定対象外の粉 じん作業場について測定が行われていた。この うち一番多かった作業は自主的な作業環境管理 表 2 業種別の測定実施項目 業 種 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 事業場 粉じん 75 32 72 5 35 10 18 1 16 5 118 27 16 15 6 20 13 2 27 21 15 1 12 3 7 6 12 12 1 7 6 5 4 4 1 9 7 8 5 7 5 5 5 4 4 2 2 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 585 118 324 57 30 合 計 (100.0%) (20.2%) (55.4%) (9.7%) (5.1%) ※業種区分は、日本標準産業分類(総務省統計局)の中分類によって行った。 38 金属製品製造業 化学工業 ゴム製品製造業 プラスチック製品製造業 汎用機械器具製造業 石油製品・石炭製品製造業 電気機械器具製造業 輸送用機械器具製造業 食料品製造業 非鉄金属製品製造業 窯業・土石製品製造業 その他の事業サービス業 公務(市町村、警察、刑務所) 自動車整備業 医療業 水道業 機械器具小売業 娯楽業 道路貨物運送業 その他の教育・学習支援業 なめし革・同製品・毛皮製造業 生産用機械器具製造業 鉱業 総合工事業 学術研究機関 繊維工業 電子部品・デバイス・電子回路製造業 情報通信機械器具製造業 保険業 運輸に付帯するサービス業 木材・木製品製造業 洗濯・理容・美容・浴場業 印刷・同関連業 保健衛生 廃棄物処理業 その他の製造業 建築材料、鉱物・金属材料等卸売業 ガス業 飲食料品小売業 14 9 8 7 7 5 5 5 4 4 3 3 3 3 3 2 2 2 2 2 2 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 114 総数 単位作業場所 内 訳 特定化学 有機溶剤 金属・鉛 物質 11 1 58 9 19 2 13 8 82 11 24 10 1 5 16 1 2 5 1 1 6 13 1 4 2 7 1 5 4 8 11 5 2 5 1 3 2 4 3 2 2 1 3 4 2 3 5 5 4 4 2 2 2 1 騒音 31 4 4 3 1 4 1 4 3 1 56 (9.6%) 磯部ほか:平成 25 年上半期に実施した作業環境測定について 表 4 に示すように粉じん濃度も高くなっている が、遊離けい酸含有率(Q%)が高かった。特 に第 3 管理区分と評価された作業場は遊離けい 酸含有率が高く、その含有率から計算される管 理濃度(E = 3.0/(1.19Q+1))の値が非常に小 さかったため粉じん濃度の平均値は、第 2 管理 区分の作業場より低くても、第 3 管理区分となっ ていた。 2.有機溶剤 有機溶剤は 47 種類の溶剤が測定対象となっ ているが、今回の調査では 38 種類(フロン系 1 種類)の有機溶剤が測定されていた。また表 5 に示すように単一の有機溶剤を使用する作業 場は 42.6%と半数以下であり、大半は複数の有 の一環として測定が行われていた「溶接作業、 手持式動力工具による研ま作業などの法定外 粉じん作業」の 41 作業場。2 番目は「屋内の、 粉状の鉱石、炭素原料又はこれらを含む物を混 合し、混入し、又は散布する箇所」の 31 作業 場、3 番目は「屋内の、研ま材の吹き付けにより、 研まし、又は岩石若しくは鉱物を彫る箇所」の 23 作業場であった。これら3つの作業で粉じん 測定全体の 80%を占めていた。 測定した粉じん作業場のうち、第 1 管理区分 の割合は 88.1%であり全国平均(85.4%)4)よ りやや良い結果となっていた。一方、法定対象 外の作業場を含む 14 作業場が第 2 もしくは第 3 管理区分と評価された。これらの作業場では 第1管理区分 第2管理区分 粉 じ ん 88.1 有機溶剤 95.1 第3管理区分 6.8 5.1 3.1 1.9 特定化学 物質 89.5 金属・鉛 100 騒 音 8.8 1.8 33.9 25.0 41.1 0 50 100% 図 1 作業環境測定結果の評価結果 表 3 粉じんの作業環境測定結果(粉じん作業別) 粉じん作業の種類(粉じん則別表2の区分) 五 屋内の、岩石又は鉱物を動力(手持式又は可搬式動力工具によるものを 除く。)により裁断し、彫り、又は仕上げする箇所 六 屋内の、研磨材の吹き付けにより、研磨し、又は岩石若しくは鉱物を彫 る箇所 七 屋内の、研磨材を用いて動力(手持式又は可搬式動力工具によるものを 除く。)により、岩石、鉱物若しくは金属を研磨し、若しくはばり取りし、 又は金属を裁断する箇所 八 屋内の、鉱物等、炭素原料又はアルミニウムはくを動力(手持式動力工 具によるものを除く。)により破砕し、粉砕し、又はふるい分ける箇所 十 屋内の、粉状の鉱石、炭素原料又はこれらを含む物を混合し、混入し、 又は散布する箇所 十三 屋内の、陶磁器、耐火物、炭素製品を製造する工程において、半製品 又は製品を動力(手持式動力工具によるものを除く。)により仕上げる箇 所 十四 屋内の、型ばらし装置を用いて砂型を壊し、若しくは砂落としし、又 は動力(手持式動力工具によるものを除く。)により砂を再生し、砂を混 練し、若しくは鋳ばり等を削り取る箇所 法令対象外作業(アーク溶接作業、手持式動力工具により金属研ま作業など) 合 計 作業 第1 第2 第3 場所数 管理区分 管理区分 管理区分 3 3 23 21 13 13 4 2 2 31 29 2 2 2 1 1 1 1 41 34 3 4 118 104 8 6 (100%) (88.1%) (6.8%) (5.1%) 39 調査研究ジャーナル 2014 Vol.3 No.1 機溶剤を混合(混合有機溶剤)して使用してい た。最大は 9 成分、全作業場の平均は 2.2 成分 であった。 図 2 に測定対象となった有機溶剤のうち上位 10 成分を示す。トルエンは広い用途に使用され ている有機溶剤であるが、今回の調査において も測定作業場の約 40%(129 作業場)で使用さ れていた。次いでアセトンが 26.9%、キシレン が 20.1%、メタノールが 18.8%となっていた。 また金属の脱脂洗浄に使用されていたトリクロ ロエチレン、テトラクロルエチレンは、それぞ れ 4 作業場(1.2%)と少なく、代替溶剤とさ れるジクロルメタンが 40 作業場(8.1%)で使 用されていた。 次に作業環境管理の状況を見ると 324 単位作 業場所のうち、308 作業場(95.1%)は作業環 境が良好と判断される第 1 管理区分であった。 これは全国調査の結果 89.6%4) よりも 5%以上 高い割合である。 一方、第 2、第 3 管理区分となった 16 作業 場は単一成分の有機溶剤を使用する作業場が多 く、また過去の測定結果を見ると、悪い評価結 果が継続していた。 3.特定化学物質(金属を除く) 測定を行った 57 作業場における対象物質別 の結果を表 6 に示す。 本調査では 13 種類の特定化学物質が測定さ れているが、従来から特定化学物質に指定され ている物質は塩素を除き少なく、新たに特定化 学物質に指定されたエチレンオキシド、ホルム 表 4 管理区分別の粉じん濃度と管理濃度の平均値 第1管理区分の 作業場 第2管理区分の 作業場 第3管理区分の 作業場 粉じん濃度(mg/ ㎥)の平均値 0.13 0.46 0.20 管理濃度(mg/ ㎥)の平均値 1.79 1.38 0.07 遊離けい酸含有率(%)の平均値 0.85 1.41 50.7 注)作業場ごとの粉じん濃度は幾何平均値を用いた。 表 5 有機溶剤の成分数と管理区分の分布 成分数 作業場数(%) 1成分 2成分 3成分 4成分 5成分 6成分 7成分 8成分 9成分 合 計 138(42.6) 82(25.3) 63(19.4) 18( 5.6) 12( 3.7) 4( 1.2) 3( 0.9) 3( 0.9) 1( 0.3) 324 酢トルエン 酸-n-ブチル 第1管理区分の 第2管理区分の 第3管理区分の 作業場 作業場 作業場 127 6 5 80 1 1 61 2 17 1 12 4 3 3 1 308 10 6 29 イソプ ロピルアルコール アセトン 30 メチキシレン ルエチルケトン 31 ジクロルメタン メタノール 40 酢酸エチル ノルマルヘキサン 41 129 87 65 61 41 41 41 ジクロルメタン メタノール 61 40 メチルエチルケトン キシレン ノルマルヘキサン 酢酸エチル 65 31 イソプロピルアルコール アセトン 87 30 酢酸-n-ブチル トルエン 129 29 0 20 40 60 80 100 120 作業場数 図 2 有機溶剤作業で使用されていた溶剤(上位 10 成分) 40 140 磯部ほか:平成 25 年上半期に実施した作業環境測定について アルデヒドが多くなっていた。 測定結果の評価は、密閉設備での使用や取扱 量が少ないことから発散量が少なく、ほとんど が第 1 管理区分となっていた。しかしエチレン オキシドとホルムアルデヒドを殺菌剤や防腐剤 として使用する 6 作業場では全て第 2 または第 3 管理区分であった。 4.特定化学物質(金属)・鉛 クロム、カドミウム、鉛(添加剤、鉛ハンダ) など従来使用されていた金属・鉛は世界的な規 制強化によりほとんど使われなくなった。その 一方、最新の電子機器に使用される稀少金属類 (ニッケル、コバルト、インジウム)が特定化 学物質の金属に追加された。このため表 6 に示 すように測定作業場数は主にニッケルとコバル トを対象に実験室など 30 作業場(5.1%)と少 なかった。また測定結果の評価は全て第 1 管理 区分であった。 5.騒音 騒音測定は「騒音障害防止のためのガイドラ イン」の中で等価騒音レベルが 85dB(A)を 超える可能性がある作業場所として例示されて いる 60 種類の作業場のうち 14 種類、延べ 58 作業場所について測定を行った。その測定結果 を表 7 に示す。 測定した騒音作業場のうち一番多い作業場は 「携帯用研削盤、ベルトグラインダー、チッピ ングハンマー等を用いて金属の表面の研削又は 研磨の業務」を行う 15 作業場、次いで「多数 の機械を集中して使用することにより製造、加 工又は搬送の業」を行う 10 作業場、3 番目は 「ショットブラストによる金属研ま」を行う 9 作業場となっていた。 測定結果の評価を見ると第 1 管理区分の割合 が 33.9%と低く、逆に第 3 管理区分と評価され た作業場が 41.1%と非常に高かった。 他の測定機関においても騒音作業場は第 1 管 理区分の割合が 30%以下 5,6)と報告されている が、本調査においても同様であった。 考察 委託元事業場の業種は 39 業種と多岐に渡っ ているが、京葉コンビナートに隣接する地域性 を反映し、化学工業及び石油製品・石炭製品製 造業の割合が高くなっている。同様の理由によ り測定対象別の単位作業場数の割合は有機溶剤 が 54.9%と高くなっている。粉じんは 20.2%、 特定化学物質(金属を除く)は 9.7%、金属・ 鉛は 5.1%、騒音は 9.6% となっている。また、 測定対象作業と測定対象物質は粉じんでは法定 対象外の溶接作業の割合が高く、特定化学物質 (金属を含む)では新たに指定された物質の割 表 6 特定化学物質(金属を含む)・鉛の物質別管理区分 物 質 名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 ニッケル エチレンオキシド ホルムアルデヒド 塩素 コバルト 硫化水素 塩化水素 硫酸 シアン化水素 臭化メチル 硝酸 ベンゼン マンガン インジウム エチルベンゼン クロム酸およびその塩 3,3'- ジクロロ -4,4'- ジアミノジフェニルメタン 水銀 トリレンジイソシアネート 鉛 合 計 作業場 第1 総数 管理区分 18 18 13 11 13 9 9 9 6 6 5 5 3 3 3 3 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 87 81 (100.0%) (93.1%) 第2 管理区分 1 1 (1.2%) 第3 管理区分 2 3 5 (5.7%) 網掛け部分は金属・鉛を示す。 41 調査研究ジャーナル 2014 Vol.3 No.1 合が高く、従来からの法定作業を行う作業場や 指定測定物質を取り扱う作業場の割合は低かっ た。 作業環境管理の状況を作業環境測定結果の評 価から見ると、金属・鉛は全ての作業場が第 1 管理区分、有機溶剤は 95%、粉じんと特定化学 物質(金属を除く)は約 90%が第 1 管理区分 となっており、作業環境が良好な作業場の割合 が高かった。 特に有機溶剤は管理濃度の見直しが何度か行 われ、例えばトルエンの場合、管理濃度はこの 20 年間に 100ppm から 20ppm と 1/5 に下がっ ている。これらを考慮すると調査対象作業場の 作業環境は大きく改善していると考えられる。 その一方、有機溶剤は、測定結果記録表の記 載事項から有機溶剤の発散面積が大きい、時間 当たりの発散量が大きいなど「工学的な環境改 善が難しい作業場」 、粉じんは「管理濃度が低 い作業場」、特定化学物質(金属を除く)は、 「エ チレンオキシドやホルムアルデヒドを使用する 作業場」などが第 2、第 3 管理区分となっており、 固定化する傾向が見られた。また、騒音は工学 的な手法による環境改善が技術的に難しく、さ らに費用対効果も低いため作業環境が良好な第 1 管理区分の割合は 33.9%と低く、環境改善が 進んでいない。 これらの作業場においては、今後、対象物質 等の代替化、設備の密閉化、自動化など作業工 程、作業方法に踏み込んだ改善を検討する必要 があると考えられる。 おわりに 今回の調査を通じて、第 2、第 3 管理区分が 継続している作業場の環境改善が課題であるこ とを改めて感じた。これまでも第 2、第 3 管理 区分と評価された作業場には、報告書の他にサ ンプリング時の状況についてのコメント文を添 付しているが、調査結果を参考として、今後は 改善に役立つ情報提供も充実させていきたい。 引用文献 1)公益社団法人日本作業環境測定協会 . 作業環境測定 ガイドブック [ 0] 総論編 .2009. 2)厚生労働省 . 騒音障害防止のためのガイドライン(基 発第 546 号).1992. 3)総務省統計局 . 日本標準産業分類(平成 19 年 11 月 改訂版).2008. 4)中央労働災害防止協会 . 平成 25 年度労働衛生のしお り .2013 ;39. 5)公益財団法人神奈川県予防医学協会 . 事業年報平成 23 年度 . 2012 ;135. 6)公益財団法人神奈川県予防医学協会 . 事業年報平成 23 年度 . 2012 ;160. 表 7 騒音の測定結果一覧 作業 場所数 ガイドライン別表の号数および業務内容 3 42 2 4 24 38 5 11 16 27 1 9 13 21 携帯用研削盤、ベルトグラインダー、チッピングハンマー等を用いて 金属の表面の研削又は研磨の業務 多数の機械を集中して使用することにより製造、加工又は搬送の業務 ショットブラストにより金属の研磨の業務 動力プレス(油圧プレス及びプレスブレーキを除く。)により、鋼板 の曲げ、絞り、せん断等の業務 射出成型機を用いてプラスチックの押出し、切断の業務 圧縮空気を吹き付けることにより、物の選別、取出し、はく離、乾燥 等の業務 シャーにより、鋼板を連続的に切断する業務 鋼管をスキッド上で検査する業務 丸のこ盤を用いて金属を切断する業務 ロール機を用いてゴムを練る業務 インパクトレンチ、ナットランナー、電動ドライバー等を用い、ボル ト、ナット等の締め付け、取り外しの業務 鋼材、金属製品等のロール搬送等の業務 ハンマーを用いて金属の打撃又は成型の業務 振動式型ばらし機を用いて砂型より鋳物を取り出す業務 全 業 種 42 第1 第2 第3 管理区分 管理区分 管理区分 15 4 7 4 10 9 1 4 3 1 6 4 4 1 2 1 3 2 3 3 2 2 2 2 1 2 1 1 1 1 2 2 1 1 1 1 1 1 56 19 14 23 (100.0%)(33.9%)(25.0%)(41.1%)
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