Education for Sustainable Development

平成 年度文部科学省
﹁日本/ユネスコパートナーシップ事業﹂
27
平成27年度文部科学省
「日本/ユネスコパートナーシップ事業」
ESDの教育効果
︵評価︶に関する調査研究 報 告 書
Education for
Sustainable
Development
ESDの教育効果
(評価)に
関する調査研究
報 告 書
ロゴ
編集・発行:岡山大学
〒700‐8530 岡山市北区津島中3‐1‐1
岡山大学大学院教育学研究科ESD協働推進室
TEL:086‐251‐7723
平成28年3月
岡山大学
平成 27 年度文部科学省「日本/ユネスコパートナーシップ事業」
ESDの教育効果(評価)に関する調査研究
報 告 書
平成 28 年 3 月
岡山大学
研究組織
【研究代表者】
川田 力
岡山大学大学院教育学研究科 教授
【研究分担者】
卜部匡司
広島市立大学国際学部 准教授
及川幸彦
宮城教育大学国際理解教育研究センター 協力研究員
岡本弥彦
岡山理科大学理学部 教授
後藤顕一
国立教育政策研究所 総括研究員
佐藤真久
東京都市大学環境情報学部
新川壮光
東北大学大学院教育学研究科 大学院生
鈴木克徳
金沢大学環境保全センター長 教授
住野好久
岡山大学大学院教育学研究科 教授
高雄綾子
フェリス女学院大学国際交流学部 准教授
濱田 眞
秋田大学理工学部 非常勤講師
藤井浩樹
岡山大学大学院教育学研究科 准教授
米原あき
東洋大学社会学部 准教授
教授
【研究協力者】
秋山寿彦
東京学芸大学附属世田谷中学校 教諭
有本昌弘
東北大学大学院教育学研究科 教授
石丸哲史
福岡教育大学教育学部 教授
石森広美
宮城県仙台二華高等学校 教諭
曽我幸代
名古屋市立大学大学院人間文化研究科 講師
目
次
研究組織
ESD の教育効果(評価)に関する調査研究の成果と課題 …………………………………………… 1
国内における ESD 評価研究の動向 ……………………………………………………………………… 8
「持続可能性キー・コンピテンシー」の先行研究・分類化研究に基づく「能力開発論」の考察
-学習指導における ESD 枠組(国立教育政策研究所 2012)との接点と
IPCC 第 5 次評価報告書(IPCC 2014)に内在する教育的論点の抽出を通して- …………14
「協働ガバナンス」と「社会的学習」に関する理論的考察
-協働ガバナンスと社会的学習(第三学派)におけるプロセスの連関に関する考察- ………24
評価の方向目標としての ESD の三角形モデル
-「ゆさぶり」のある ESD の実践を目指して-
…………………………………………………31
学校における ESD で習得される知識・理解の評価の必要性 …………………………………………37
ESD の視点に立った学習の指導と評価
-国立教育政策研究所最終報告を踏まえて- ………………………………………………………44
「学び」の一環としての「評価」
-協働型で行うプログラム評価の可能性- …………………………………………………………52
形成的アセスメントに基づいた ESD 評価の枠組み ……………………………………………………62
ESD によるマルチレベルの教育変革プロセスの評価に関する考察
-ドイツのプログラム効果測定と実践プロジェクト認定を事例に-………………………………75
ESD の教育効果(評価)の現状と展望
-国立教育政策研究所研究指定校を中心に- ………………………………………………………83
気仙沼市の実践を踏まえた ESD の教育評価の枠組み …………………………………………………95
ユネスコスクールにおける ESD の学習評価の取り組み
-北陸を中心として- ………………………………………………………………………………103
総合的な学習と教科をつなぐESDの実践と評価
-広島県福山市立駅家西小学校の事例- ……………………………………………………………111
公開シンポジウム「学校を中心とした ESD の教育評価のありかた」 ………………………………122
付録
ESD の教育効果(評価)に関する調査研究の成果と課題
岡山大学
川田 力
1.はじめに
研究を実施し、モデル実践例における学習評価の観点
(1)ESD の教育効果(評価)に関する調査研究
が示されている。また、2013 年度からは、国立教育政
本稿では、
平成 27 年度日本/ユネスコパートナーシ
策研究所は研究指定校事業において ESD を学校全体で
ップ事業の一環として、岡山大学が文部科学省から受
体系的に推進するための実践研究校を指定し、ESD に
託して実施した「ESD の教育効果(評価)に関する調査
関する実践研究を進める中で、学習評価の在り方を検
研究」の成果と課題について概説する。
討している。
本調査研究の目的(=委託内容)は、①各個人に今
しかしながら、我が国の学校教育においても ESD の
後求められる資質・能力の向上に ESD がどのように貢
認知度がさほど高くなく、ESD が児童・生徒の資質・能
献するのかを理論的・実証的に明らかにするため、ESD
力の向上にいかに貢献しているのかについて、適切な
の評価の枠組みを提案すること、②国内のユネスコス
評価枠組みによる分析結果が示されていないことが、
クール等 ESD を実践してきた学校の取組が、
児童生徒、
ESD の浸透を停滞させている1要因と考えられる。
教員、地域などにもたらした効果とその評価手法の事
例を収集することである。
(2)調査研究計画と実施概要
その際、
実施上の留意点として、
調査研究の成果は、
こうしたなか、岡山大学は 2011 年度から 2013 年度
国内(特に学校現場)において普遍的に有効に活用で
まで学内経費を用いて、ESD 研究者を招聘して「ESD の
きるものであること、国立教育政策研究所「学校にお
理論と評価に関する研究会(ESD コロキウム)
」を開催
ける持続可能な発展のための教育
(ESD)
に関する研究」
した。また、2014 年度には、ASPUnivNet(ユネスコス
等の関連する既存の調査研究事業の成果を活用し、そ
クール支援大学間ネットワーク)の事務局担当大学と
れらをより発展させることを念頭に置いて事業を進め
してのリーダーシップを発揮し、ASPUnivNet の全体事
ること、ユネスコスクール以外の学校への ESD の更な
業として、東京で公開シンポジウム「学校教育におけ
る浸透に資するものとすること、調査研究にあたって
る ESD の学習評価のありかた」
(2015 年 1 月 25 日)を
は、進行について文部科学省と協議しながら行うこと
開催した実績を有していた。
の4点が示されていた。
そこで、当該調査研究事業の研究目的を実現するた
ESD のモニタリングと評価に関しては、佐藤(2009)
めに、研究目的①については、ESD の評価に関する研
が報告しているように、DESD(国際連合「持続可能な
究レビューを実施すること、ESD と児童生徒の資質・
開発のための教育の 10 年」
)の開始当初から、ESD 推
能力の向上との関係を理論的に考察すること、児童生
進戦略の1つに位置づけられ、様々なレベルでの評価
徒の資質・能力の向上を評価するにふさわしい評価手
の必要性が提唱されるとともに、具体的な評価指標の
法を検討すること、ESD の評価枠組みを提案すること
開発研究が世界的に進められてきた。たとえば、個人
の4点からなる研究計画を、研究目的②については
レベルにおける ESD の教育効果(評価)については、
国立教育政策研究所研究指定校事業における ESD を学
ドイツのトランスファー21 による ESD コンピテンシー
校全体で体系的に推進するための実践研究校(平成 25
やイギリスのサステナブルスクールの取り組み成果が
~27 年度)の取組みの効果とその評価手法の事例収集、
知られている。我が国でも、国立教育政策研究所教育
ユネスコスクール支援大学間ネットワークを活用した、
課程研究センター(2010、2012)が ESD に関する調査
ユネスコスクール加盟校における先進的評価手法の事
1
策が提案された 2)。これは国内の ESD の現状と課題を
例収集からなる研究計画を立案した。
調査研究実施にあたっては、文部科学省と協議し、
検討した上で、ESD を広めるための取組、ESD を深める
ESD の政策評価、プロジェクト評価、学校評価、波及効
(実践力を高める)ための取組、国際的に ESD を推進
果の評価についても視野には入れるものの、学校を中
するための取組の3つに分類して推進方策が提案され
心とした ESD の学習評価を中心に調査研究を実施する
たものであるが、その中でも、国内の学校教育におけ
こと、奈良教育大学が同じく平成 27 年度日本/ユネ
る ESD の推進拠点とされるユネスコスクールにおいて
スコパートナーシップ事業の一環として、文部科学省
さえ、ESD の普及が進まない理由として過半数の学校
から受託した ESD の「教員研修プログラムのあり方に
が ESD の概念が分かりにくい、ESD に関する教員の理
関する調査研究」と連携をとりながら実施することと
解が不十分であることをあげていることが報告されて
した。
いる 3)。
研究組織は、これまで ESD の実践および研究に積極
このように、国内の学校教育における ESD の普及啓
的に取り組んできた実績および研究業績を有する研究
発が十分に進んでいないという課題あるものの、ESD
者・教育者から構成することとし、研究分担者として
はいかなるものであるのかについては 2005 年の国連
卜部匡司、及川幸彦、岡本弥彦、後藤顕一、佐藤真久、
持続可能な開発のための教育の 10 年の開始以前から
新川壮光、鈴木克徳、住野好久、高雄綾子、濱田眞、
国内外でかなりの議論がなされ、既に一定の共通理解
藤井浩樹、米原あきの各氏の計 12 名、研究協力者とし
がなされているといえる。
て秋山寿彦、有本昌弘、石丸哲史、石森広美、曽我幸
具体的には、佐藤(2012)が整理しているように、
代の各氏の計 5 名の協力を得て当方(川田力)を研究
①ESD が世代間の公平、男女間の公平、社会的寛容、貧
1)
代表者とする研究組織を構成した 。
困削減、環境の保護と回復、天然資源の保全、公平で
実際の調査研究は、計 7 回の研究打合せによって各
平和な社会など、持続可能性の基礎となる理念と原則
研究分担者の担当テーマを決定し、研究協力者も交え
を土台としていること、②ESD を含め、すべての持続
た 2015 年 9 月 2 日、9 月 25 日、11 月 8 日、11 月 27
可能な開発に関するプログラムでは、環境、社会(文
日、12 月 3 日、2016 年 3 月 2 日の計 6 回の研究会を
化も含む)
、
経済という持続可能性の3つの領域を考慮
開催するとともに、2016 年 2 月 17 日、2 月 27 日、2
しなければならないこと、③ESD の目的は、質の高い
月 28 日の計 3 回の実地調査を実施し、議論検討を行
基礎教育へのアクセスの向上、既存の教育プログラム
った。また、2016 年 1 月 11 日には東京国際フォーラ
の
(持続可能な社会の構築に向けた)
新たな方向づけ、
ムにてシンポジウムを開催し、研究成果の一部を公開
持続可能性についての人々の理解と認識の向上、
(持続
し、より広汎に議論を深めた。
可能な社会の構築のための)訓練の提供であるとし、
あらゆる領域が協力してともに取り組まなければなら
2.ESD 評価研究の課題
ないこと、④ESD は、先進国と開発途上国の双方にと
(1)ESD をめぐる課題
って重要だが、地方の状況、優先事項、アプローチに
2005~2014 年の国連持続可能な開発のための教育
よって文化的に適切な方法で、
その地域の環境、
社会、
の 10 年を経験し、わが国では各地で ESD の実践が展
経済状況に合致するよう定めなければならないという
開している。しかしながら、ESD がきわめて広範な課
ことを指す。
題を扱っていること、および、きわめて多様な主体に
そして、さらに、ESD が持続可能な開発についての
よる多様な実践がなされていることなどにより、ESD
教育を行うものだけではなく、国際的な教育的優先事
とは何なのかがわかりにくいという指摘がなされてい
項との連関を持った上で、
現実的な社会転換に向けた、
る(西井 2012、阿部 2010)
。こうした状況の中で、ESD
価値観、態度、行動の変革の重要性を提示しているも
の進捗状況を検証する必要があるという(阿部 2010)
のであるという理解が鍵となる。
いう議論があり、ESD の成果や教育効果の測定や評価
これらのことを踏まえて、文部科学省・日本ユネス
に期待が寄せられている。
コ国内委員会は、ESD について「今、世界には環境、貧
2015 年 8 月には、日本ユネスコ国内委員会教育小委
困、人権、平和、開発といった様々な問題があります。
員会 ESD 特別分科会から「持続可能な開発のための教
ESD とは、これらの現代社会の課題を自らの問題とし
育(ESD)の更なる推進に向けて」とする我が国として
て捉え、身近なところから取り組む(think globally,
より具体的な ESD の実践を推進していくための推進方
act locally)ことにより、それらの課題の解決につな
2
がる新たな価値観や行動を生み出すこと、そしてそれ
寄与する「持続可能な社会づくりの構成概念」の重要
によって持続可能な社会を創造していくことを目指す
性を十分に意識しない実践が増えている状況もみられ
学習や活動です。つまり、ESD は持続可能な社会づく
る。このことは、中山・佐藤(2009)が指摘している
4)
りの担い手を育む教育です。
」 と明言している。
ように、日本における ESD は MDGs(ミレニアム開発目
このように ESD においては、持続可能な社会の構築
標)5)への配慮に欠け、もっぱら日本流の「持続可能
のために求められる価値観や行動力の育成が求められ
な社会の構築」に焦点を絞りすぎているという現実に
るが、成人に既存の価値観や行動様式の変容を求める
もがっていると考えられる 6)。
よりも、価値観や行動様式の習得過程にある児童・生
こうしたことは、国立教育政策研究所の当該調査で
徒に対する教育活動に関与するほうが教育効果が期待
は ESD の評価の枠組みが十分に示されていなかったこ
されるとして、学校教育、とりわけ初等・中等教育に
とに起因するとも考えられることから、ESD の評価の
おける ESD の実施への期待はきわめて大きい(川田
枠組みの提示は、こうした状況を改善することに資す
2012)。
る喫緊の課題ということができる。
こうしたことから、文部科学省も教育振興基本計画
に ESD を位置づけたり、学習指導要領に持続可能な社
(2)教育評価をめぐる課題
会の構築を盛り込んだり、学校教育における ESD の推
以上のように ESD の評価の枠組みの提示が求められ
進拠点としてユネスコスクールを位置づけ、その量的
るなか、教育の目標にもとづいて教育効果を確認し価
拡大をはかるなどの具体的な取り組みを実施し、一定
値判断を行うという教育評価に関しても、
評価の目的、
の成果を上げてきた。
評価の主体、評価の対象、評価の時期、評価の方法な
また、国立教育政策研究所は、学校における ESD の
どから多様性があることを、まず、確認しておく必要
定着と充実にむけて、カリキュラムや教材の在り方、
がある。
指導方法の在り方、評価の在り方などを明らかにし,
評価の目的は、評価の主体とも密接に関わるが、教
ESD の指導に関する参考とする資料を提供することを
師・指導者にとっての指導計画の作成、指導計画の修
目的に「学校における持続可能な発展のための教育
正、指導成果の確認とそれに伴う成績の作成・通知と
(ESD)に関する研究」を 2009~2011 年度の3年間に
いった指導目的の評価、学習者にとっての学習計画の
わたって実施し、中間報告書および最終報告書をまと
作成、学習計画の修正、学習成果の確認とそれらの結
めている(国立教育政策研究所教育課程研究センター
果としての次の学習への意欲の喚起といった学習目的
2010、国立教育政策研究所教育課程研究センター
の評価、学校の管理・運営者にとっての学校の組織・
2012)
。この研究では、ESD の学習指導過程を構想し展
運営とそれに伴う教育課程や諸活動の実施といった管
開するために必要な枠組みを提示し、その普及を図っ
理目的の評価、研究者にとっての、教育の諸条件の改
たことは極めて大きなインパクトを与えた。なかでも
善に資する研究目的の評価などがある。
「持続可能な社会づくりの構成概念」および「ESD の
評価の主体としては、上述した教師・指導者、学習
視点に立った学習指導で重視する能力・態度」が、学
者・児童生徒、学校の管理・運営者、研究者のほかに
校現場で ESD の実践を行う際の手がかりとして活用さ
も文部科学省や教育委員会等の教育行政当局、学校教
れ、学校外のステークホルダーとのコミュニケーショ
育に関わる保護者や地域住民も想定される(石田
ンツールにも使われるなど、ESD の推進に大きく寄与
2006、天野 2006)
。
してきたといえる。
また、評価の対象としては、学習者の学習状況、教
しかしながら、それらが学習指導の枠組であること
育課程や指導方法を含む教育の方策、教育目的・教育
が看過されていたり、学習者の発達段階や地域的状況
目標などがある(西岡 2015)
。
など各学校での ESD の実践を取り巻く状況に合わせて、
評価の時期については、学習前の診断的評価、学習
それらを十分に吟味することなく採用することにより
過程における形成的評価、
学習後の総括的評価があり、
ESD 実践の形式化が進むという望ましくない影響も散
評価の主体や学習への関わり方の違いにより、評価の
見される。
目的や評価の対象は異なることとなる。
さらには、
「ESD の視点に立った学習指導で重視する
評価の方法については、極めて多様な評価の方法が
能力・態度」の育成が過度に強調され、ESD の直接的な
開発されてきたが、田中(2008)が指摘しているよう
目的である持続可能性についての理解と認識の向上に
に、教育によって教育目標を実現できたのかを的確に
3
ESD の実践者に選択的に受容してもらうことを考えた。
3.学校を中心とした ESD の学習評価
以下、本調査研究でなされた学校を中心とした ESD
の学習評価に関する議論や提案を簡単にまとめる。
研究目的①に関する ESD の評価に関する研究レビュ
ーについては、新川が担当した。
新川は国立国会図書館の書誌データベースを活用し
て ESD の評価に関する研究を収集分析し、それぞれの
研究概要をまとめた。その結果、ESD の評価枠組みや
評価指標についてはドイツやニュージーランド等海外
の先進地域の事例が紹介されている他、国内において
は環境教育やグローバル教育の知見から枠組みの提案
がなされていることなどを解明した。
研究目的①に関する ESD と学習者の資質・能力の向
上との関係を理論的に考察するとともに、それらを評
価するにふさわしい評価手法を検討し、ESD の評価枠
組みを提案する取り組みは、佐藤、卜部、住野、岡本、
多様な評価の方法(出典:渡辺 2015)
米原、濱田、高雄が担当した。
佐藤は、海外における先行研究を踏まえて、システ
把握するためのものであり、教育課程の領域やレベル
ム思考・予測・規範的・戦略的・対人関係コンピテン
と適合している必要がある。また、どの評価方法を用
スからなる持続可能性キー・コンピテンシーの存在に
いるかということ自体が、教師がその学習において何
ついて指摘した。さらに、それらが国立教育政策研究
に価値をおいているかを学習者に示すという波及効果
所の ESD の学習指導過程を構想し展開するために必要
を与えることにもなるため、どの評価方法を選択する
な枠組みに概ね位置づけられること、および、その獲
かはきわめて重要となる(渡辺 2015)
。
得プロセス存在と重要性を指摘した。また、佐藤は別
稿でそうしたプロセスとして個人的学習を超える社会
(3)本調査研究の基本的スタンス
以上のような教育評価の多様性の存在を前提として、
評価の目的、評価の主体、評価の対象、評価の時期、
評価の方法などからなる多次元マトリックスを作成し、
分析的に ESD の評価の枠組みの提示をするのは、容易
卜部も同じく、ESD で求められる資質・能力を確認
しつつ、それらを踏まえた ESD の評価の理論的難点を
指摘した。そこから、ESD の評価には「コンピテンシ
ー」よりも「サステイナビリティ」を手がかりとした
ではない。そこで、本調査研究では、学校を中心とし
た
的学習に注目する必要性を議論した。
ほうが、
より ESD の固有性が見えやすいことに論究し、
7)
学習評価、つまり学習や指導改善に焦点をあて、
持続可能性の3要素から構成される「ESD の三角形モ
学習者の学習状況を対象とした評価を中心として調査
デル」を評価の方向目標として活用することを提案し
研究を進めることとした。
た。
その際、上述のとおり学習評価は教育目的・目標と
住野は、学校における ESD において知識・理解は、
密接に関連したものとなり、当然、指導計画や学習計
4観点の一つとして位置づけられているにもかかわら
画にも影響を及ぼすと考えられることから、ESD の学
ず、その評価が十分行われていないことを指摘した。
習評価の枠組みを提示すると、それが ESD の実践を規
そして、ESD で習得されるべき知識・理解は、ESD で育
定してしまう恐れがあることから、本調査研究は極め
まれた資質・能力が発揮され、ESD で育まれるべき資
て丁寧かつ慎重に進めるべきであるという共通理解が
質・能力が育成される過程でこそ習得されること、ESD
なされた。したがって、本調査研究においては、統一
で育むべき資質・能力は ESD で習得された知識を活用
的な見解の導出を目標とするのでなく、それぞれの研
する過程において形成されることから、ESD の評価に
究者の多様な見解を多様なままに提示し、その結果を
おいて、知識・理解、資質・能力、価値観・態度は一
4
体的に育まれ、一体的に評価される必要があることを
る先進的評価手法の事例収集は、及川、鈴木、藤井が
論じた。
担当した。
岡本は、国立教育政策研究所の ESD の学習指導過程
及川は、
学校教育における ESD 評価の枠組みとして、
を構想し展開するために必要な枠組みの6つの構成概
学習者の変容(能力・態度)の評価、学び(カリキュ
念と7つの能力・態度を取り上げ、学習目標の設定に
ラム・学習手法)の評価、システム(推進体制)の評
ついて論じた。そして、小・中・高等学校での教科や
価の3つの段階を提案した後、気仙沼市のユネスコス
総合的な学習の時間において、これらの構成概念や能
クールで、どのような学習評価が実践されているのか
力・態度を評価の4観点に位置付けながら授業を展開
をアンケート調査の集計結果を用いて具体的に報告し
することや、生徒の自己評価の指標として活用するこ
た。
とが、ESD の視点に立った学習の指導と評価の充実に
鈴木は、平成 24 年度に金沢大学が実施した北陸を
つながることを具体的に論じた。
中心とするユネスコスクールの取り組み概要調査のデ
米原は、ESD の評価の難点について、ESD 自体の定義
ータから、ESD の学習評価に関する調査結果を報告し
が明確でないこと、ESD 評価の意義、ESD 諸活動の評価
た。また、それに加えて、ESD の視点に立った学習指導
レベルの3点から検討した。そして、これらの困難に
における評価規準の在り方について岡本(2013)をも
挑戦する方途として、
従来の PDCA サイクルの全ての段
とに議論を行うとともに、ESD の評価を十分に念頭に
階に評価のアイデアが盛り込まれるというプログラム
おいた ESD 活動として富山市立堀川小学校の実践事例
評価を参加型で実施することを ESD の評価枠組みの基
を詳細に紹介した。
本として採用すべきであることを提唱した。
藤井は、従来の学習や体験活動を ESD の視点から見
濱田は、各個人に今後求められる資質・能力の向上
直し、持続可能な社会の構築にかかわる諸問題を多面
に ESD がどのように貢献するのかを理論的・実証的
的・総合的に捉える学習に発展させるという ESD の実
に明らかにするため、資質・能力の育成に向けた評価
践を継続的に実施している福山市立駅家西小学校をと
の在り方を理論的に考察し、その妥当性を形成的アセ
りあげ、
同校での ESD の評価について詳細に報告した。
スメントの実践事例をもとに検証した。さらに、ESD コ
その中で ESD の評価については「ESD で子どもにつけ
ンピテンシーを構造化し、形成的アセスメントに基づ
たい力」の育成で重点を置く授業場面を明確にし、達
いた ESD 評価の枠組みを具体例を示して提案した。
成度を見取っていること、
その手法は質的方法であり,
高雄は、ESD の効果を個人、学校、地域、国家の各レ
子どもの発言や行動、成果物の記述がデータとして用
ベルで多面的に検証しようとするドイツの取り組みを
いられていることを紹介した。
事例に、ESD の評価枠組みについて議論した。その結
果、
ドイツにおける ESD は、
持続可能な開発に向けて、
4.おわりに
生徒個人と教員、学校組織、ローカルな文脈のマルチ
本調査研究の目的は、①各個人に今後求められる資
レベルで、各主体が教育の質の向上に取り組む変革プ
質・能力の向上に ESD がどのように貢献するのかを理
ロセスであることを指摘するとともに、国家による
論的・実証的に明らかにするため、ESD の評価の枠組
ESD プログラムにおいて、ESD 以外の教育実践とも共通
みを提案することと、②国内のユネスコスクール等
性を持つ手法を基盤としつつ、マルチレベルの変革プ
ESD を実践してきた学校の取組が、児童生徒、教員、地
ロセス自体を評価する構図が形成されていることを明
域などにもたらした効果とその評価手法の事例を収集
らかにした。
することであった。
研究目的②に関する国立教育政策研究所研究指定校
調査研究を進め、
議論を重ねる中で判明したことは、
事業における ESD の取組みの効果とその評価手法の事
ESD についての理解に多様性があり、
ESD の実践にも多
例収集は後藤が担当した。
様性がある、さらに評価についても多様性があるとい
後藤は、次期学習指導要領の議論の方向性と ESD で
う中で、評価の枠組みを分析的・個別的に追究するの
求められる資質・能力の関係を整理して紹介した後、
は、さほど有用ではないということである。
国立教育政策研究所研究指定校を中心に、ESD の教育
換言すれば、ESD は状況依存的学び、文脈的学びと
効果を、
どのような方法で評価しているのかを紹介し、
いうことができ、ESD には包括的・プログラム的な評
およびそれらの改善の方向性を提案した。
価枠組みが適していると考えることができる。また、
研究目的②に関するユネスコスクール加盟校におけ
ESD は包括的・総合的な学びであるため汎用的到達目
5
標を設定することが困難と考えられることである。こ
注
のことを踏まえると、目標への到達度を測定して評価
1)ここに示した調査研究計画および研究組織は、調査
を行うという総括的評価の実施は困難であり、ESD に
研究の進行に伴い必要となった修正を実施した後の
は参加型の形成的評価が適しているといえる。また、
ものである。
ESD では、特定の正解を指向しないことから、学習者
2) 日本ユネスコ国内委員会教育小委員会 ESD 特別分
の主体的・能動的な学びを重視し、その評価も絶対的
科会「持続可能な開発のための教育(ESD)の更なる
評価が適していると考えられるということである。こ
推進に向けて」(http://www.mext.go.jp/ unesco/
れらのいずれもが、ESD の評価枠組みとして参加型プ
001/ 2015/ 1360636.htm)2016 年 2 月 1 日検索
ログラム評価が適切であるという、米原の主張を支持
3) 前掲 2)
するものといえる。現状を鑑みるに、既存の目標で教
4) 文 部 科 学 省 ・ 日 本 ユ ネ ス コ 国 内 委 員 会 HP
育を行い、既存の評価基準・規準で総括的評価を実施
(http://www.mext.go.jp/unesco/004/1339970.htm)
することが多かった学校教育現場にとっては、従来の
2016 年 2 月 1 日検索
評価観の大幅な変更が求められることとなるため、学
5)ミレニアム開発目標は 2015 年を目標年とされてい
校教育における ESD の評価枠組みとして参加型プログ
たものであり、現在は、2030 年を目標とした持続可
ラム評価をすぐに適用するのは必ずしも容易ではない
能な開発目標(SDGs)に発展的に継承され、そのゴ
と考えられる。
ール 4 の達成基準として ESD が明記された。
しかしながら、地球や世界の持続可能性を脅かす課
6)永田(2015)は、日本の ESD のガラパゴス化という
題が山積している状況の認識と、それに対抗すべく持
表現で、同様の状況を指摘している。
続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けた世界的取り
7)学校を中心とした、としているのは ESD の実践が学
組みが進む中、本調査研究の結論として ESD のより一
校外に及んだり、学校外のステークホルダーの協力
層の推進に資する ESD の評価枠組みとして参加型プロ
の下に実施される現状を鑑みてのことである。
グラム評価と、
それに伴う評価観の転換を提案したい。
尚、具体的に参加型プログラム評価を実施していく
参考文献
際には、国立教育政策研究所教育課程研究センターの
1)阿部治「ESD(持続可能な開発のための教育)とは何
国立教育政策研究所の ESD の学習指導過程を構想し展
か」生方秀紀他編著『ESD をつくる 地域でひらく未
開するために必要な枠組み大きなヒントとなることは
来への教育』ミネルヴァ書房、2010
いうまでもない。また、本調査報告で紹介した、ESD の
2)天野正輝「評価の主体と対象」辰野千壽他監修『教
学習評価の取り組み事例は、参加型プログラム評価の
育評価事典』図書文化、2006
実施にも援用可能と考えられる。
3)池田満之「ESD とは何か」西井麻美他編著『持続可能
本調査研究を終えて、ESD に求められているミッシ
な開発のための教育(ESD)の理論と実践』ミネルヴァ
ョンをどうしたらより広く教育現場で共有できるのか、
書房、2012
学校運営やカリキュラムマネジメントに ESD の評価の
4)石田恒好「教育評価の機能と目的」辰野千壽他監修
枠組みはいかに適用できるのか、本調査研究の成果を
『教育評価事典』図書文化、2006
活かした事例的学習プログラムを提案すべきではない
5)川田 力「ESD と学校教育」西井麻美他編著『持続可
かなど、ESD の評価に関して残された課題も少なくな
能な開発のための教育(ESD)の理論と実践』ミネルヴ
い。これらの課題を解決するためには ESD の評価に関
ァ書房、2012
する研究の一層の推進と、研究者・教育者・学習者の
6)国立教育政策研究所教育課程研究センター『学校に
より一層の協働が求められる。
おける持続可能な発展のための教育(ESD)に関する研
究 中間報告書』国立教育政策研究所教育課程研究セ
ンター、2010
7)国立教育政策研究所教育課程研究センター『学校に
おける持続可能な発展のための教育(ESD)に関する研
究 最終報告書』国立教育政策研究所教育課程研究セ
ンター、2012
8)佐藤真久『
「持続可能な開発のための教育(ESD)
」の
6
国際的動向に関する調査研究』平成 21 年度横浜市委
理教育実践』古今書院、2011
託調査・佐藤真久、2009
13)永田佳之
『日本の ESD を捉え直す-国際的潮流から
9)佐藤真久「DESD の始まりと DESD 国際実施計画の策
みた実践・研究・政策課題』みくに出版、2015
定」佐藤真久ほか編著『持続可能な開発のための教育
14)西井麻美「持続可能社会に向けた教育」西井麻美他
ESD 入門』筑波書房、2012
編著『持続可能な開発のための教育(ESD)の理論と実
10)田中耕治『教育評価』岩波書店、2008
践』ミネルヴァ書房、2012
11)中山修一・佐藤真久「国連 ESD の 10 年ユネスコ国
15)西岡加奈恵
「教育評価とは何か」
西岡加奈恵他編
『新
際実施計画の策定背景とアジア太平洋地域における
しい教育評価入門 人を育てる評価のために』
有斐閣、
ESD の展開にむけた配慮事項」
『エネルギー環境教育』
2015
4-1、pp.9-16、2009
16)渡辺貴裕「学力を把握するための方法」西岡加奈恵
12)中山修一・佐藤真久「国連 ESD の 10 年ユネスコ国
他編
『新しい教育評価入門 人を育てる評価のために』
際実施計画の策定とアジア太平洋地域における ESD の
有斐閣、2015
展開にむけて」中山修一ほか編『持続可能な社会と地
7
国内における ESD 評価研究の動向
東北大学
新川 壯光
永田(2015)2)では「国連 ESD の 10 年」の成果とし
1.はじめに
持続可能な開発のための教育(ESD)において「評
て「数多くの優良事例が共有された」一方で課題と
価・モニタリング」の問題は長年国際的にも課題と
して「モニタリング・評価に関する理論や枠組み、
なっており、国内でも評価枠組みや評価指標・手法
指標は具体的な成果が見られなかった」としており、
の開発の必要性が近年特に主張されるようになった。
国内外で使われている ESD の評価枠組みについて検
本研究では国内における主要な ESD 評価研究を概説
討している。
「国内で使われる ESD の枠組み」として
し、今後の ESD 評価研究の動向に対する示唆を得る
は「持続可能な開発のための教育の 10 年」推進会議
こと目指す。
(ESD-J)の「ESD で大切にしている視点」
、国立教
育政策研究所の「持続可能な社会作りの構成概念
2.国内における ESD 評価研究の動向
(例)
」と「ESD の視点に立った学習指導で重視する
1)
佐藤(2015) では IPCC(気候変動に関する政府間
能力・態度(例)
」を紹介し、
「諸外国およびユネス
パネル)第5次評価報告書を研究対象とし、報告書
コにおける ESD の枠組み」としてはイギリスのサス
における指摘事項を「持続可能性キー・コンピテン
ティナブル・スクールにおける「サスティナブル・
シー」における5つのキー・コンピテンス(システ
スクールのためのナショナルフレームワーク」とそ
ム思考・予測・規範的・戦略的・対人関係コンピテ
の評価表(Performance Matrix)、オーストラリアの
ンス)との関係に基づいて抽出・分類することで、
南オーストラリア州における 5 領域からなる「南オ
持続可能な開発のための教育(ESD)の文脈で位置付
ー ス ト ラ リ ア 州 に お け る EfS ( Education for
けられている気候変動教育(CCE)の能力開発プログ
Sustainability : 国内における持続可能性のため
ラムの開発に向けた配慮項目(獲得コンピテンスと
の教育)モデル」と「学び」のルーブリック、ニュ
学習方法例)の抽出・整理を試みている。その結果
ージーランドの EfS における「EfS の渦巻き」モデ
として、報告書での指摘事項は「システム思考コン
ルと「サスティナブル・スクールの枠組み」に加え
ピテンス」
、
「予測コンピテンス」との接点が強い傾
てその評価のための 25 項目、欧州ネットワークにお
向が見られ、日本で CCE の能力開発プログラムを開
け る 「 SEED
発する場合には「規範的コンピテンス」
、
「戦略的コ
Environmental Education:
『環境教育を通した学校
ンピテンス」
、
「対人関係コンピテンス」の獲得を視
開発』)の枠組み 」と「SEED による『ESDE 学校の
野に入れることが必要としている。本研究の特徴と
ための質基準』
」
、ユネスコ本部の「ESD レンズ」と
しては Wiek et al.(2011)の先行研究レビュー・分
レビューツール、についてそれぞれ検討している。
類化研究に基づき、ESD に関係するコンピテンス間
その結果として、国内外の取組みの相違点、国内の
の関係性を概念的に整理しながら、同時にそれぞれ
枠組みでは「ESD で重視される技能として例示され
のコンピテンスを獲得するための具体的な学習方法
ている」のに対し、国外の枠組みでは、
「各国のカリ
例(システム思考:
「ミステリー」
、予測コンピテン
キュラムで示されているキー・コンピテンシーとの
ス:
「シナリオテクニック」
、規範的コンピテンス:
「未
関連で書かれている」点、国内の2つの枠組みには
来ワークショップ」
、戦略的コンピテンス:
「戦略プ
評価表が示されておらず、
「自己評価を通じて実践を
ランニング・概念マップ」
、対人関係コンピテンス:
振り返り、見直すことができない環境」にあるのに
「チームワーク」
)の提案も行っていることが挙げら
対して、国外の枠組みはグローバルな諸問題に対応
れる。
する「必要性」や「社会変容をもたらす学校の役割」
8
(School
Development
through
について説かれており、枠組みと対になる評価表が
るなど「高次の思考能力」の変容がブータンやタイ
示されている点が挙げられている。一方で国外の事
の調査プロジェクトが意識されたほか、その他の地
例の「陥穽」として「数値化によって評価すること
域でも「ESD のプロジェクトを通して『問題解決能
が可能」であることで、
「たとえ自己評価を前提に作
力』や『創造的思考』などの能力は各国で習得され
成されたとしても、これを単純に応用すると、持続
ている」とフィールド調査やアンケート調査から判
可能性をめぐる競争主義を煽るような事態を生み出
断されており、
「自己や家族、学校、コミュニティ、
してしまう」危険性も提起している。
将来世代、自然、地球へのケアの態度が生まれたか
3)
永田(2011) においては、2009 年 3 月末から 4 月
どうか」についても高まりがあるとされる他、
「高次
初旬かけてドイツのボンで開かれた「ESD ユネスコ
の思考能力」の習得と「ケア」という態度の関係性
世界会議」
、同年 8 月にユネスコ・アジア文化センタ
についても、影響を与えていると判断している。HOPE
ー(ACCU)が開催した「アジア太平洋地域 ESD 教育者
評価の一環として各国の「希望度」を測る「希望調
フォーラム」の両者で出された宣言にも盛り込まれ
査」も行われており、そちらについても「すべての
た ESD の評価をめぐる課題について、アジア太平洋
国において『希望』の度合いは上昇している。
」とし
地域で開発された評価手法である「HOPE 評価」のコ
ており、アンケート調査からだけでなく、フィール
ンセプト、手法及び実施国、結果分析の概説を通じ
ド調査においても「
『希望度』の上昇を物語る村人等
て、その成果と課題を明らかにすることを試みてい
の声を多く聞くことができた」としている。
る 。 HOPE 評 価 は 「 Holistic, Participatory,
髙橋(2011)4)では ESD の「ESD の花弁モデル」参考
Empowering の頭文字をとって『HOPE 評価』と名付け
にモデルの花芯にあたる中心部に地域での具体的な
られ」ており、その哲学として「持続可能な未来に
「持続可能な開発」像をおき、花弁にあたる周辺部
向けた共通のビジョンのもと、内発的にうみだされ
に展開されている体験的・実践的活動を含む何らか
た、それぞれの土地に固有の文化や伝統を重んじつ
の「教育・啓発活動」を配置する「ESD の花弁評価
つも、ポジティブに変わろうとする意志を尊重する
モデル」を作成した。このモデルを山形県長井市に
こと、参加型で力づけになる方法を用いて、対話や
おける循環型地域づくりの事例について、事例解析
『厚い記述』を重んじ、関係者のさらなるエンパワ
による整理を行ったうえで適用して考察を加えるこ
メントのために形成的なフィードバックを行うこと、
とで、
「日本特有の ESD の展開である『地域づくり』
評価のミッションの在り方自体を相互の学びや自ら
に焦点を絞って、
『花弁評価モデル』という新たな枠
のリフレクションを促すものとすること、そしてす
組みを提示することが研究の目的である」としてい
べてのプロセスを通じて、より公正で、平和な、持
る。事例解析においては長井市で長年行われている
続可能な社会をめざすという目標を持ち続けること」
「レインボープランという地域循環型システムを取
が明示されている。具体的な手法としては「アンケ
り入れた活動」の概説と歴史的経緯、コンセプトの
ートによる量的調査とフィールドでの質的調査の双
推移、プランが定着したことの素因としての「①地
方からなる」とされており、アンケート調査では「ESD
域における問題意識の高まり」
、
「②妥当な手続きの
が重視している知識・技能・態度・価値観、そして
採用」
、
「③中心的人物の存在」を明らかにした。そ
未来への希望の度合いの変化」について調査し、フ
の上でモデルの適用の段階では中心部となるコンセ
ィールド調査ではフォーカスグループ・ディスカッ
プトに「循環型まちづくり」を置き、その周囲に「レ
ションや個別インタビューを含んだ半構造的インタ
インボープランの推進活動」
、
「長井市(行政)によ
ビューとプロジェクト活動の観察が行われる。アン
る広報活動等」
、
「長井まちづくり NPO の活動」
、
「学
ケート調査は8ヵ国で、フィールド調査は7ヵ国で
校給食(食育)
」
、
「市民農場・虹の駅の活動」といっ
実施され、
「フィールド調査での暫定的な評価分析結
た諸要素をそれぞれの活動の関係に応じて花弁が重
果を、現地の人と共有する機会も設けられ」
、その共
なる形で「花弁評価モデル」を作成している。この
有の場にすべてのステークホルダーが参加して評価
モデルにおいては「地域における ESD 活動がどれだ
チームと意見交換が行われている。結果分析の中で
け充実しているかという観点に基づいた評価」につ
国際実施計画最終版(2005 年 10 月)において「ESD
いて、
「花弁の数」や「花弁同士の重なり合い」
、
「そ
にとって重要なのはメタ認知的な思考」と強調され
れぞれの花弁が中心のコンセプトをどの程度包摂し
9
ているか」という点から判断できるとしている。そ
境教育の目標を定め」ることで、環境教育において
の結果として「さまざまな教育活動・啓発活動が発
「深い学びが成立しているか否か」を判断するため
展してきていること」
、
「それぞれの活動が中心的な
の「着眼点をあらかじめ考えておく」ことの重要性
コンセプトをきちんと内包し」ていること、
「教育・
を指摘している。
「②意図せざる結果の発見」につい
啓発活動間で連携が見られていること」から、長井
ては「授業者以外の『他者』の視点の目を評価に活
市の循環型まちづくりを「持続可能な開発のための
用するための方法」として「同じ学校の他の教師、
教育として展開されて、一定程度の成功を収めてい
保護者や地域の人々、学生ボランティア、環境 NPO
る事例である」と判断している。
の関係者、大学の研究者など」を「授業者とは違う
5)
高雄(2010) においては日本ではまだ十分になさ
まなざしで子どもの学びを捉える観察者」として教
れていない「ESD で獲得されるべき技能や能力概念
室に招き、
「多元的・複眼的に子どもの実態を把握す
の共有化の可能性」を、ESD の「コンピテンシー・
ること」を提案している。
「③学びの意味の長期的な
モデル」をめぐる議論が盛んなドイツの事例から考
把握」については「一人ひとりの子どものアイデン
察することを研究目的としている。そのためにまず
ティティ形成に寄り添って、彼らにとって『意味の
は現在のドイツの教育制度改革の動向として、州ご
ある学び』とはどのようなものかを丹念に聴き取る
との格差や生徒の多様性の増大、
「PISA ショック」
こと」を推奨しており、
「環境教育がめざす『持続的
に対応するための「学習の成果およびプロセス測定
な社会作りに積極的に参画できる』人間を育成する
を通じた能力(コンピテンシー)の習得を含んだナ
ために欠かせない視点である」としている。
木村(2015)7)においては「ESD が実現をめざす持続
ショナルな教育スタンダード構築の動きを取り上げ、
ドイツの現状やコンピテンシー論についての議論を
可能な社会のあり方やその実現方法」についての一
踏まえた上で、ドイツにおける価値教育を重視する
つの方途として「
『目標に準拠した評価』の立場に立
ユルゲン・ロースト(J.Rost)の「ESD コンピテンシ
ち、学習者に身につけさせたい力としての教育目標
ー・モデル」とコンピテンシー獲得のための実践で
を明確化するとともに、指導と学習の改善のための
ある「マス・ツーリズムのシンドローム」について
フィードバック機能を有する教育評価を実践するこ
概説している。一方でこのモデルと実践では「行動」
と」を挙げ、グローバル教育におけるルーブリック
への接続は検証できていないという分析がなされて
を活用した教育評価実践について、オーストラリア
いることから、ゲルハルト・デ・ハーン(G.de Haan)
のグローバル教育をテーマに ESD とグローバル教育
の「行動戦略を含む『創造的コンピテンシー』モデ
との関係を整理した上で、グローバル教育における
ル」とその実践例である「生徒企業」を概説し、そ
教育評価実践のための評価基準表の試案を提案して
の成果と共に実施する上でのドイツの「教育制度の
いる。ESD とグローバル教育の共通点として「
『持続
限界」と ESD を通した「イノベーション的ダイナミ
可能な開発』の実現を目的としているということ」
ズム」の必要性についても解説している。
と「
『for の教育』であるということ」を挙げており、
6)
浅野(2008) においては「環境教育の学びを子ども
そこからグローバル教育における教育目標の観点で
の経験に即して評価するための視点と方法を提案す
ある「①社会認識の深化」
、
「②自己認識の深化」
、
「③
る」ことを目的とし、
「環境教育の学びの核となる領
行動への参加」について、国立教育政策研究所によ
域」として「横断的・総合的な学習」が提唱された
る「
『持続可能な社会づくり』の構成概念(案)
」と
経緯と教育評価の現状、環境教育の評価の現状、カ
「ESD の視点に立った学習指導で重視する能力・態
リキュラム評価の視点における潜在的なカリキュラ
度(例)
」とのマトリックスを作成した上で「ESD の
ムの視点を整理した上で、環境教育の学びの評価と
視点は、グローバル教育の枠組みに位置づけること
して重要な視点として「①環境教育の目標設定」
、
「②
が可能である」として、グローバル教育の評価基準
意図せざる結果の発見」
、
「③学びの意味の長期的な
表の試案を改訂することで「ESD の実践のための教
把握」の 3 つの視点を提案している。
「①環境教育の
育目標と評価基準を設定することが可能になる」と
目標設定」については「各教科や『総合』の領域な
している。
どの領域の中に意図的・計画的に環境に関する学習
嶋本(2013)8)においては技術・家庭科分野に ESD
を組み込む必要」があり、
「あらかじめ学校全体で環
の観点が盛り込まれたことを受けて、指導に不安を
10
抱えている教員が多い「計測・制御」単元について、
学校全体の教材化や、地域社会の巻き込みなど、組
自動ドアモデルのプログラム作成を中心とした「生
織・市民能力の向上に資する」ことなどから、
「環境
活や社会とのとながりを意識した教材開発」を行い、
学校」
の数は 2010 年 11 月には 715 校に達している。
作業後に ESD の視点を取り入れたワークシートを用
活動においては「(1)プログラムの検討、(2)カリキ
いて、
「プログラムによる自動ドアが製品化された場
ュラム開発、(3)生徒の環境体験、(4)環境グループ
合、自分を取り巻く社会や環境、経済にどのような
づくり、(5)全校ビジョンマップづくり、(6)プロジ
影響を及ぼすか比較・検討」を行わせることで、
「技
ェクト実施、(7)方針、ケアコード(共有する標語)
、
術を適切に評価し活用する能力と態度を育てる」こ
戦略の策定、(8)地域連携を発見・強化、(9)プロセ
とを目指した実践を概説している。結果として、
「ワ
スの進行(記録、省察、表彰)を継続といった 9 段
ークシートを用いることによって、計測・制御に関
階においてなされることが推奨されて」いることに
する技術の課題を見つけるための視点を与えること
加 え て 、「 行 動 に 基 づ く 学 習 サ イ ク ル (action
ができ、自分を取り巻く社会や環境、経済などから
learning cycle)」として「(1)探究学習・問題解決
自動ドアのプラスの影響とマイナスの影響を比較し、
学習における学習プロセス」、「(2)協同プロセス」、
最適解を考えることができた」としている。これに
「(3)合意形成」などが重視されているとしている。
加えて別の「解決策を考えるためのワークシート」
「環境学校」の活動には自治体評議会も積極的に参
を用いることで、
「プログラムの変更や新たな機能を
画しており、教育省もその成果と課題についてレポ
追加した場合の効果を検討した上で、最適な仕組み
ートをまとめている。
以上のニュージーランドの EfS
に修正するために解決策を考えるようとする態度を
の現状から日本の学校教育への示唆としては「
『強い
育成することができた」としている。
持続可能性』と倫理規範としての自然観」の導入、
9)
佐藤(2012) においてはニュージーランドにおい
「環境学校」の取組みから「行動に基づく学習サイ
て 1980 年代中盤から行われた教育制度改革と持続
クル」を基礎とした学習プログラムによる生徒の行
可能な社会に向けた関連施策を整理した上で、
「持続
動変容や能力・態度の育成、
「学校理事会の効果的活
可能性教育(EfS)
」の取組とその中心的役割を果た
用、自治体評議会の積極的巻き込み、全国ネットワ
す「環境学校(EnviroSchools)」の取組と展開につい
ークによる知見の蓄積と共有、報奨制度によるイン
て概説し、
「環境学校」の現況を教育省の報告からレ
センティブと取り組みの進捗の明確化」などの要素
ビューし、日本の学校教育への示唆について考察し
が日本のユネスコスクールなどの取組みにつながり、
ている。
「
『環境学校』から、日本の学校教育における ESD の
ニュージーランドでは環境的側面、経済的側面、
充実にむけて学ぶ点はとても多い」としている。
社会的側面の変化から「持続可能な開発」に関する
井元(2005)10)では持続可能な食生活を目指した食
議論が活発化し、持続可能なニュージーランド委員
教育プログラムの実践と評価を行うことを目的とし、
会(Sustainable Aotearoa New Zealand,SANZ)によっ
高等学校、A 大学(調理実習あり)
、B 大学(調理実
て「生態学的保全」と「関係の全体性」に配慮した
習なし)の 3 校において、授業計画・実践を行い、
「強い持続可能性モデル」が提示されている。具体
授業前アンケート、授業後アンケート、授業終了後
的な教育政策としては、国家環境教育戦略の策定
約 1 カ月後の調査を検討することで、プログラムの
(1998)や学校における環境教育ガイドラインの発表
妥当性を分析・評価している。その結果として、授
(1999)から「持続可能性教育(EfS)」の概念提示
業前アンケートでは「一人暮らしの方が料理をする
(2004)が行われ、
「国連持続可能な開発のための教育
頻度が高い傾向がみられ」た点、
「一人暮らしの方が
の 10 年(DESD)」の国内プログラムとして「持続可能
食材を購入する頻度が高い傾向がみられ」た点が明
性教育(EfS)」が行われている。その活動の中心とな
らかとなり、授業後の調査から食物の旬についての
っているのが「環境学校(EnviroSchools)」であり、
質問の正解率や意識が全体的に高まり、特に「食材
「基本的にどの学校も手続きを通じて自由に参加で
を購入している」人がより大きな割合で旬を意識す
きるものの、取組の継続性と活動成果、学校連携の
るようになった点、旬に対する意識の高まりは約 1
度合いなどに応じて報奨制度に基づく賞が付与され
か月後も維持されたものの、産地に対する意識の高
る」ことや「児童生徒の資質能力の向上のみならず、
まりは約一か月後には一定程度減少した点などが明
11
らかになった。加えて授業実践後のアンケートの自
ついての紹介とシンポジウムで共有すべき内容と議
由記述から、調理方法が「調理時間とエネルギー効
論すべき課題として「①DESD に関する国際的なとり
率に大きく影響していることを身を持って体験した
くみの現状と課題の把握」
、
「②日本に求められる役
ことが示された」としており、プログラムの有効性
割と ESD-J のミッションの確認」
、
「③教育機関と地
として「①生徒や学生が食材の生産、輸送、調理、
域との連携における ESD 推進の課題の把握」がまず
廃棄に関して環境問題との関連を認識するようにな
は提案された。その上でパネル討論として第一部で
った」点、
「②旬や産地を意識して食材を購入しよう
は「先進的な世界の動向から ESD の概念、その特徴
とする学生が増加した」点、
「③生活において食材購
を学ぶこと」をテーマに、第一報告では国際自然保
入、調理にかかわっているひとほど、授業に対して
護連合(IUCN)教育コミュニケーション委員会(CEC)
積極的に取り組み、環境に配慮した食生活を実践し
の代表であるウェンディ・ゴールドスタイン氏から
やすい傾向が認められた」点、
「④調理実習は日常生
「持続可能な開発のための教育―どこから来て、ど
活における環境配慮行動の実践に有効であると確認
こへ向かうのか」と題して、環境教育と ESD の関わ
された」点を提示している。
り、今後の DESD について提案を行い、第二報告では
11)
綿引(2004) においては、持続可能な社会に向け
氏から「ESD における NGO の役割と課題―開発教育
ての消費者教育の授業方法として、高等学校におい
脅威階からの報告」と題して、ESD と開発教育の主
てディベートを実施し、その内容分析、全授業終了
要原則の類似性と政府レベルで ESD 政策を進めるた
時に実施したポストテスト、生徒の書いた小論文、
めの NGO のロビー活動等の重要性について提案を行
授業全体に関する授業者の意見・感想を分析するこ
った。第二部では「ESD を具体的に地域で展開して
とを通して、授業評価を行い、実践教育プログラム
いく議論へ発展させること」をテーマに、第三報告
の考案につなげることを目的としている。分析の結
として、フィリピンで長年、地域成人環境教育に携
果から成果として「
『情報リテラシー』
、及び『個人
わるロイヤル・メルボルン工科大学講師のホセ・ロ
的意思決定』の重要性については多くの生徒に受け
ベルト・ゲバラ氏から「学習と参画:持続可能な開
入れられた」点、
「
『多角的視野』を持つことについ
発のための成人教育」と題して、成人教育と ESD の
ても、人体への安全性をはじめ、環境倫理の視点な
類似した原則を「①内容では『一つのビジョンを示
ど授業以前に比べ量的にも質的にも増した」点、
「社
す持続可能性の原則』を共有し、②状況では、
『社会
会的意思決定能力を備えた『生活者』としての自覚
の周辺に取り残されたグループを学習者として優先
に関しては、ディベートの中の重要な論点にもなり、
する』ことであり、③方法では『エンパワメントの
ポストテストや小論文の記述の中に読み取ることも
ための参画型の教育実践』であること」とし、高等
できた」点を挙げている。一方で課題として「①授
教育の役割やアジア・太平洋地域における教育の権
業時間のバランスや、ディベートの方法などの細部
利拡大の必要性について提案し、最終報告として国
における授業方法の改善」
、
「②『社会的意思決定』
連大学高等研究所の鈴木克徳氏より「ESD における
や『生活者』の自覚をもつことの重要性について、
科学技術界と高等教育機関の役割」と題して、科学、
多くの生徒への定着を計る工夫」
、
「③『総合的な学
技術および教育が SD に向けて共に取り組むことを
習』への可能性の検討」
、
「④生徒の評価基準等の検
初めて明らかにした宣言、ウブントゥ宣言に関して
討」が必要であり、他校への汎用性を高めることも
「高等教育はすべてのレベルの教育者に対して、SD
意図している。
における重要な課題について情報を提供し、支援す
12)
小栗(2004) では 2003 年 10 月に開かれた「持続
る役割を果たせるし、果たすべきだ」として高等教
可能な開発のための教育」をテーマとする国際的な
育機関の役割を強調すると共に、国連大学で進めよ
シンポジウムの概要と評価について概説されている。
うとしている「ESD を推進するための地域拠点」づ
シンポジウムの構成としては主催者である ESD-J と
くり構想について紹介した。これらのシンポジウム
国連大学高等研究所の共同執筆による基調提案とし
に対する感想としてはシンポジウムが提供する情報
て「持続可能な開発のための 10 年」
(DESD)をめぐ
について参加者に通じる内容であったことが明らか
るユネスコの参加も含めた国際的な動向と日本国内
になって一方で、
「一方的な情報・意見表明ではなく、
での ESD-J の設置を中心としたこれまでの取組みに
多様な意見、相互作用を伴う学習を積極的に求める
12
声」や実際の行動につながるような事例・具体的な
らす評価のあり方を求めて」『比較教育学研究』、
手法紹介を求める意見が多く出されたと紹介されて
VOL.42、日本比較教育学会紀要編集委員会、pp3-18、
おり、その後の ESD 研究会等の活動内容に示唆を与
2011
えたと考えられる。
4)高橋正弘「地域づくり活動をめぐる ESD からの評
価枠組の研究--山形県長井市の循環型まちづくりに
3.おわりに
おける教育・啓発活動について」
『大正大學研究紀要.
以上が 2000 年代以降の国内における ESD 評価研究
仏教学部・人間学部・文学部・表現学部』
、VOL.96、
の現況である。ESD の評価枠組みや評価指標につい
大正大学、pp192-200、2011
てはドイツやニュージーランド等の先進地域の ESD
5)高雄綾子「公教育制度における ESD の意義の考察
活動における事例が紹介されている他、国内におい
--ドイツの『ESD コンピテンシー・モデル』をめぐ
ては環境教育やグローバル教育の知見から枠組みの
る議論と評価から」
『環境教育』
、VOL. 20(1)、日本
提案がなされている。また ESD 独自の評価の在り方
環境教育学会、pp35-47、2010.8
として HOPE 評価といった国際的な評価プログラム
6)浅野信彦「環境教育の学びをどう評価するか」
『教
について紹介が行われているのに加えて、
日本の NPO
育研究所紀要』、VOL.17、文教大学教育研究所、
や地域を中心とした ESD 活動に焦点を当てたステー
pp43-50、2008
クホルダーとの対話の必要性や、その関係性をモデ
7)木村裕「
『持続可能な開発のための教育』における
ル化する提案なども行われている。今後の課題とし
教育評価実践のあり方に関する一試論 : オースト
て学習指導要領に ESD の理念が盛り込まれたことに
ラリアのグローバル教育研究の成果を手がかりに 」
より、技術・家庭科を始めとした既存の各教科にお
『人間文化』
、VOL.38、滋賀県立大学人間文化学部研
いて ESD 活動がなされる事例が増加することが予想
究報告、pp2-13、2015
されるが、その評価に関しては学校全体の ESD 活動
8)嶋本雅宏,川田和男,長松正康 他「持続可能な社会
や ESD 評価枠組みとの関係性を明確に示すことが、
の構築を目指した,『ものづくり教育』のための教材
各教科・総合的な学習の時間など既存の枠組みの中
開発とその実践 : 技術を適切に評価し活用できる
に留まらない ESD の「つながり」を生み出すために
人材の育成を目指して」
『学部・附属学校共同研究紀
重要であり、今後の ESD 評価研究において更なる蓄
要』
、VOL.42、広島大学、pp191-199、2013
積が期待される。
9)佐藤真久,日置光久「ニュージーランドにおける
『持続可能な開発』関連施策と学校における『持続
参考文献
可 能 性 教 育 (EfS) 』 の 取 り 組 み : 環 境 学 校
(EnviroSchools)の取り組み・展開と EfS 評価報告書
1)佐藤真久,高橋 敬子「気候変動教育(CCE)に関する
に基づいて」
『環境教育』
、VOL. 21(3)
、日本環境教
能力開発プログラムの開発に向けた配慮項目の抽
育学会、pp3-16、2012
出 : IPCC 第 5 次評価報告書における教育的論点と
10)井元りえ,大家千恵子,津田淑江「持続可能な食生
『持続可能性キー・コンピテンシー』の議論に基づ
活を目指した食教育プログラムの開発(第 2 報)食教
いて」『エネルギー環境教育研究 = Journal of
育プログラムの実践と評価」
『日本家政学会誌』
、VOL.
energy and environmental education.』
、VOL.9(2)、
56(9)
、日本家政学会、pp633-641、2005
日本エネルギー環境教育学会、pp59-66、2015
11)綿引伴子,分校淑子,尾島 恭子他.「持続可能な社
2)永田佳之,曽我幸代「ポスト『国連持続可能な開発
会に向けての消費者教育の転換(第 3 報)高等学校の
のための教育の 10 年』における ESD のモニタリン
授業評価 」
『金沢大学教育学部紀要』
、VOL.53、金沢
グ・評価の課題 : 国内外の評価枠組みに関する批判
大学教育学部、pp133-139、2004
的検討」
『聖心女子大学論叢』
、VOL.124、聖心女子大
12)小栗有子「
『持続可能な開発のための教育の 10 年』
学、pp82-99、2015
国際シンポジウムの概要と評価」
『鹿児島大学生涯学
3)永田佳之,寶槻圭美「アジア太平洋諸国における
習教育研究センター年報』
、VOL.1、鹿児島大学生涯
ESD 評価に関する国際調査--エンパワメントをもた
学習教育研究センター、pp46-53、2004
13
「持続可能性キー・コンピテンシー」の先行研究・分類化研究に基づく
「能力開発論」の考察 1)
学習指導における ESD 枠組(国立教育政策研究所 2012)との接点と
IPCC 第 5 次評価報告書(IPCC 2014)に内在する教育的論点の抽出を通して
東京都市大学
1.はじめに
佐藤 真久
2.本研究の概要
今日のカリキュラムの編成と実施において、その充
実と成功を収める上でキー・コンピテンシー2)が果た
(1)本研究の目的と方法
す重要な役割については、教育論文で合致がみられて
いる (Burke 1989; ライチェンら 2006; Baartman et al.
本稿では、当該研究(Wiek, A. et al. 2011)の活用を
2007)
。さらに、今日では「持続可能性におけるキー・
通して、下記の 2 つの研究を行うものである。
コンピテンシー」
(key competencies in sustainability)
(以
下、持続可能性キー・コンピテンシー)3)に関する教
1)国立教育政策研究所の提示する ESD 枠組(2012)
育論文も多く発表されている。とりわけ、2000 年以降、
との接点
「持続可能性キー・コンピテンシー」の概念化は、数
国立教育政策研究所では、学校における持続可能な
多くの論文や報告書により大きく進展している(Byrne
発展のための教育(ESD)の定着と充実にむけて、カ
2000;de Haan 2006;Barth et al. 2007;Rohweder et al.
リキュラムや教材の在り方、指導方法の在り方、評価
2008; UNESCO 2010)
。代表的な例としては、ドイツの
の在り方などを明らかにし、ESDの指導に関する参考
ESD 関連プログラム(Transfer 21)において発表され
資料(事例含む)を提供することを目的に、平成21年
ている学校の質的向上と形成能力の育成のための指導
(2009)4月から平成24年(2012)3月までの3年間でプ
指針(ESD コンピテンシー)がある(de Haan 2006;ト
ロジェクト研究「学校における持続可能な発展のため
ランスファー21 編 2012)
。しかしながら、多くの論文
の教育(ESD)に関する研究」を行い、研究成果とし
はいまだに相互を関連づけた概念化を目指したもので
て、学習指導におけるESDの枠組(以下、国研ESD枠
はなく、コンピテンシーのリストが大部分である。そ
組)を提示した。本プロジェクト研究では、国研ESD
の上、提示されているコンピテンシーは系統だった包
枠組として、
(1)
「持続可能な社会づくりの構成概念」
括的なものではなく断片的なものがほとんどであると
(後述)
、
(2)
「ESDの視点に立った学習指導で重視す
いえよう。本稿では、
「持続可能性キー・コンピテンシ
る能力・態度」
(後述)
、
(3)
「ESDの視点に立った学習
ー」に関する先行研究レビュー・分類化研究(Wiek, A.
指導を進める上での留意点」
(教材のつながり、人材・
et al. 2011)
(以下、当該研究(Wiek, A. et al. 2011)
)の
施設のつながり、能力・態度と行動のつながり)をま
活用を通して、
(1)学習指導における ESD 枠組(国立
とめている(国立教育政策研究所 2012)
。
教育政策研究所 2012)との接点を考察しつつ、
(2)不
本稿では、当該研究(Wiek, A. et al. 2011)の活用に
確実性の高い社会における ESD の重要な領域として
より、とりわけ、国研ESD枠組の「
(1)持続可能な社
気候変動教育(CCE)に注目し、近年の国際的議論に
会づくりの構成概念」と「
(2)ESDの視点に立った学
内在する教育的論点を抽出することを目的としている。
習指導で重視する能力・態度」との接点を考察する。
14
2)IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第 5 次評
は、DESD における中頃から広まってきた用語である
価報告書(IPCC 2014)における教育的論点の抽出
が、DESD 開始当初から用語そのものがあったわけで
国連・持続可能な開発のための教育の 10 年(DESD:
はない。
「ESD は動的である“ESD itself is on the move”」
2005-2014)の中間年(2009 年)において、国連教育科
(UNESCO 2012)との指摘通り、世界で直面する課題・
学文化機関(UNESCO)は、DESD 後半で具体的な成
状況に応じて ESD 概念にも進展が見られていると言
果を出し、
ポスト DESD につなげる取組の一つとして、
えよう。永田は、本用語の訳として「自らを変容させ、
気候変動教育(CCE)をフラッグシップ・イニシアテ
社会を変容させる学び」
(永田 2014)であるとしてい
ィブとして打ち出した。本イニシアティブでは、第一
るが、筆者は、
「自己変容と社会変容の学びの連関」と
の目的として、
(1)CCE の各国(特に小島嶼国とアフ
訳したい。その理由は、自己変容のための学び(自己
リカ諸国)の教育政策や教育課程への統合、
(2)教育
教育過程を重視した主体形成、内発的な学び)が社会
の役割を各国の気候変動政策や行動への反映、にむけ
変容のための学び(地球環境問題と貧困・社会的排除
た政策的助言を挙げている。さらに、中等教育段階に
問題の同時的解決にむけた協働と社会的な学び)に影
おける CCE の推進に向け、教員養成や職業訓練・産業
響をもたらすだけでなく、その逆もまたあり得るから
技術教育(TVET)におけるツールや教材の開発を目指
である。本稿の立ち位置は、ESD における「自己変容
すものである(望月 2011)
。同時期の 2010 年、国連気
の学び」に内在する「個人の資質・能力の向上」であ
候変動枠組み条約(UNFCCC)第 16 回締約国会議
り、
「自己変容と社会変容の学び」における一翼を有し
(COP16)では、
「カンクン合意」を採択し、世界全体
ているといえよう(図 1)
。そして、
「自己変容の学び」
での協調路線を構築したことは一定の評価を得ただけ
と「社会変容の学び」の相互連関こそが重要な意味を
でなく、適応対策推進にむけた「カンクン適応枠組」
もつ
(協働と社会的学習は別章で取り扱うこととする)
。
の設立、UNFCCC の第 6 条(教育・訓練・啓発)に関
とりわけ、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不
する取組の 189 締約国の満場一致から、CCE の充実の
確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)を
重要性を読み取ることができる。望月(2011)は、
「ESD
有する時代においては、
「自己変容の学び」と「社会変
は、従来から未来志向型の教育として定義されてきた
容の学び」のプロセス(状況的、主体的、協働的、探
が、旧態依然の開発のビジョンとは違うより持続可能
究的プロセス)の連関がますます重要になると筆者は
な未来(言わば「望ましい未来」
)
、ならびに未曾有の
考える。
リスクを抱えた「不確かな未来」という双方の意味に
おいて、オルタナティヴな未来のための学びとして気
候変動教育を捉えることができよう」と述べている。
DESD 終了後も、CCE は ESD の重要な領域としてみ
なされており、不確実性の高い社会において、その重
要性がうかがえる。
本稿では、当該研究(Wiek, A. et al. 2011)の活用に
より、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第 5 次
評価報告書(AR5)
(IPCC 編 2014a;2014b)を研究対
象とし、第 5 次評価報告書(AR5)に内在する教育的
論点を抽出することを目的としている。
図 1:ESD における「個人の資質・能力の向上」
(2)本稿の立ち位置~ESD における「個人の資質・
の位置づけ
能力の向上」
3. 「持続可能性キー・コンピテンシー」先行研究レ
ビュー・分類化研究(Wiek, A. et al. 2011)
DESD の中間年会合(2009 年)では、周知の「学習
の四本柱」(Learning to be, to know, to do and to live
(1)当該研究(Wiek, A. et al. 2011)の概要
together)に加え、“Learning to transform oneself and society”
(自己変容と社会変容の学びの連関)を「新しい学習
当該研究(Wiek, A. et al. 2011)は、①「持続可能性
の柱」として位置づけている。この「新しい学習の柱」
キー・コンピテンシー」に関連する論文を特定し、②
15
特定されたコンピテンシーを統合して整合性のある枠
組に特化したものである。
組を構築し、③それらのキー・コンピテンシーの概念
化に存在する重大な隔たりを特定する 4)ことを目標と
2)予測コンピテンス
する取組であった。関連論文の特定においては、文献
(anticipatory competence)
検索システム「Google Scholar」
(学術論文および文献
「予測コンピテンス」とは、持続可能性の諸課題と
用)などを利用し、持続可能性に著しく重点を置く 43
問題 解決の枠 組に関連 する豊 富な種類 の未来像
の関連資料(28 の学術論文および文献と 15 の報告書・
(pictures of future)を包括的に分析し、評価し、策定す
5)
白書)を特定している 。そして、持続可能性に関す
る能力である。未来像を分析する実能力とは、その構
る国際的な議論と先行研究の文献レビューを通じて、
造、主な要素、力学を把握して明確に表現することで
「持続可能性キー・コンピテンシー」を定義し統合す
ある。また、評価する実能力が「現在の状況」に関連
る「持続可能性研究・問題解決の統合的枠組」
(図 2)
する相対的スキルを指す。最終的に、策定する実能力
を構築し、さらに、概念の分類化研究を通して、5 つ
が創造的で建設的な技能を統合する。
分析し、
評価し、
のキー・コンピテンス(下記詳述)を提示している。
策定する力量は、取得した未来志向の知識に基づくも
のであり、この知識とは、時間や不確実性の概念を含
(2)持続可能性研究と問題解決の統合的枠組
む知識(IPCC の排出シナリオなどの論文、シミュレー
複雑な持続可能性に関する問題の解決方法について
ションやシナリオ分析などの方法および方法論)を指
は、今日まで統合的計画 (Ravetz 2000)
、バックキャ
す。
これらの技能は、
持続可能性の主な諸課題である、
スティング (Robinson 2003)
、実践適応科学(Bammer
不慮・有害な結果や世代間の公平性などへの取組に特
2005)
、
トランジション・マネジメント
(Kemp et al. 2005;
化したものである。
Loorbach and Rotmans 2006)
、学際的事例研究(Scholz
et al. 2006; Wiek and Walter 2009)などが提案されてき
3)規範的コンピテンス
た。当該研究(Wiek, A. et al. 2011)では、これらのア
(normative competence)
プローチと事例に基づき「持続可能性研究・問題解決
「規範的コンピテンス」とは、持続可能性の価値、
の統合的枠組」を導き出し、本統合的枠組において、
原理、目標、目的を包括的に位置づけし、特定し、適
個々の「持続可能性キー・コンピテンス」が相互に関
用し、調整し、折衝する能力である。この力量により、
連していることを強調している。
まず、社会生態学システムの現在/未来の状態の持続
可能性
(または持続しない可能性)
を包括的に評価し、
(3)持続可能性キー・コンピテンシー
次に、これらシステムの持続可能性の見通しを包括的
に策定することが可能になる。この力量は、取得した
1)システム思考コンピテンス
規範的知識に基づくものであり、これには正当性、公
(systems thinking competence)
平性、社会生態学的な統合性と倫理観の概念などが含
「システム思考コンピテンス」は、様々な領域(社
まれる。これらの技能は、持続可能性の主な諸課題で
会、環境、経済など)と様々なスケール(地方から世
ある社会生態学的システムの統合性、世代内・世代間
界まで)にわたって複雑なシステムを総合的に分析す
の公平性などへの取組に特化したものである。
る能力である。そして、持続可能性の諸課題や問題解
決の枠組に関連するカスケード効果、慣性、フィード
4)戦略的コンピテンス
バックループ(因果ループ)
、およびその他のシステム
(strategic competence)
特性を考察する能力である。複雑なシステムを分析す
「戦略的コンピテンス」とは、持続可能性に向けた
る能力とは、そのシステムの構造、主な要素、力学を
介入、移行、変容を促すガバナンス戦略を包括的に設
把握し、
経験的に検証して明確に表現することである。
計し実行する能力である。この力量には、①戦略的概
さらに、分析する力量は取得した全般的で体系的知識
念(志向性、システムの慣性、経路依存性、障壁、伝
に基づくものであり、これには、構造、機能、因果関
達者、連携など)の本質的な理解や、②システムへの
係、さらには見識、動機、意思決定、規制も含めた概
介入の実行可能性、実現可能性、有効性、能率ならび
念が含まれる。これらの技能は、持続可能性の主な諸
に予期せぬ結果の可能性についての知識、方針、プロ
課題であるシステムの統合性、ガバナンスなどへの取
グラム、③実行計画を設計、考査、実行、評価、様々
16
な社会の当事者を参加させ、様々な見方を促し、確定
的に捉える必要があると考えており、システムを、①
的でない証拠を認める方法および方法論、などが含ま
多種多様な要素からなり、②それらが互いに作用し合
れる。
「戦略的コンピテンス」とは「物事を成し遂げ」
い、③ある方向へ変化しながら、全体として一定の機
られることであり、実社会の状況や相互関係性に精通
能を果たすものと捉えている。この三つの視点に沿っ
し、
政治を理解し、
適切なタイミングで実務に挑戦し、
て、表1に示すよう に [1]
[2]の上位概念を更にそ
事業の計画や実行にかかる問題を解決できることなど
れぞれ三つの下位概念として構成・配置している点に
が含まれる。これらの技能は、持続可能な未来への移
特徴が見られる。
行を可能にする主な諸課題への取組に特化したもので
ある。
表1:「持続可能な社会づくり」構成概念
(国立教育政策研究所、2012)
視点
5)対人関係コンピテンス
(interpersonal competence)
「対人関係コンピテンス」とは、協力的で参加型の
上位概念
[1]人を取り巻く
環境に関する概
念
[2]人の意思や
行動に関する概
念
持続可能性研究と問題解決へと動機づけし、それを可
能にし、促す能力である。この力量には、意思疎通
(Crofton 2000; Byrne 2000)
、熟考と交渉(Sipos et al.
2008)
、協力(de Haan 2006; Sterling and Thomas 2006)
、
リーダーシップ (Ospina 2000; Kevany 2007)
、多元的
で比較文化的思考(de Haan 2006; Kelly 2006; McKeown
①多種多
様な要素
からなる
視点
②互いに
作用し合う
視点
③ある方
向へ変化
して
いる視点
Ⅰ多様性
Ⅱ相互性
Ⅲ有限性
Ⅳ公平性
Ⅴ連携性
Ⅵ責任性
(2)国研 ESD 枠組「
(2)ESD の視点に立った学習指
and Hopkins 2003; van Dam-Mieras et al. 2008)
、共感 (de
導で重視する能力・態度」の研究と特徴
Haan 2006; Sterling and Thomas 2006)が含まれる。これ
らの技能は、特に利害関係者間で協力する上で重要で
ESDで重視する力(能力・態度)についても様々な
あり、各キー・コンピテンスで挙げた手法の大部分に
捉え方がある。例えば、
「我が国における『国連持続可
必須のものである。文化、社会集団、コミュニティ、
能な開発のための教育の10年』実施計画」
(
「国連持続
個人にわたる多様性を理解し、受入れ、促す力量がこ
可能な開発のための教育の10年」関係省庁連絡会議、
のコンピテンスの主要素とされている。
2006)では、育みたい力として、
「問題や現象の背景の
理解、多面的かつ総合的なものの見方を重視して体系
4.当該研究(Wiek et al. 2011)と国研 ESD 枠組
的な思考力(システムズシンキング)を育むこと」
、
「批
(2012)との接点
判力を重視して代替案の思考力(クリティカルシンキ
ング)を育むこと」
、
「データや情報を分析する能力、
(1)国研 ESD 枠組「
(1)持続可能な社会づくりの構
コミュニケーション能力の向上を重視すること」を挙
成概念」の研究とその特徴
げ、さらに「人間の尊重、多様性の尊重、非排他性、
機会均等、環境の尊重といった持続可能な開発に関す
国研ESD枠組では、国内外の事例収集と教育実践者
る価値観を培うこと」も重要としている。国研ESD枠
や研究者による継続的な議論に基づき、
「持続可能な社
組「
(2)ESDの視点に立った学習指導で重視する能力・
会づくり」を捉える6つの要素(構成概念:Ⅰ多様性【多
態度」では、上述する指摘ほか、ESD-J(2006)
、ESD
様】
、Ⅱ相互性【相互】
、Ⅲ有限性【有限】
、Ⅳ公平性【公
ツールキット(McKeown, R. 2002)
、英国教育技能省
平】
、Ⅴ連携性【連携】
、Ⅵ責任性【責任】
)を抽出して
(2005)等から、ESDの視点に立った学習指導で重視
いる6)。国研ESD枠組では、
「持続可能な社会づくり」
する能力・態度として、7つの能力・態度(➊批判的
に関連する概念等を、
[1]人を取り巻く環境(自然・
に考える力《批判》
、➋未来像を予測して計画を立てる
文化・社会・経済など)に関する概念と、
[2]人(集
力《未来》
、➌多面的・総合的に考える力《多面》
、➍
団・地域・社会・国など)の意思や行動に関する概念
コミュニケーションを行う力《伝達》
、➎他者と協力す
の二つに大別している(国立教育政策研究所、2012)
。
る態度《協力》
、➏つながりを尊重する態度《関連》
、
また、
「持続可能な社会づくり」は、極めて多く要素が
➐進んで参加する態度《参加》
)を抽出している。さら
複雑に絡み合った概念、つまり、システムとして多面
17
(1)システム思考コンピテンス
Ⅴ【連携】
➎《協力》
Ⅰ【多様】
Ⅱ【相互】
➌《多面》
➏《関連》
(5)対人関係
コンピテンス
(横断的)
(2)予測コンピテンス
Ⅲ【有限】
➋《未来》
[B]非介入時の
未来のシナリオ
介入地点
[C]持続可能性の
ビジョン
[A]現状の複雑な問題群と
その歴史
持続可能性
キー・コンピテンシー
Ⅵ【責任】
➐《参加》
[D]持続可能性
への移行戦略
Ⅳ【公平】
(3)規範的コンピテンス
(4)戦略的コンピテンス
基本的コンピテンシー ➊《批判》 ➍《伝達》
図2:持続可能性における5つのキー・コンピテンス(灰色部分)と
持続可能性研究・問題解決の統合的枠組との関連、国研ESD枠組(下線部分)との接点
点線の矢印は、個々のコンピテンスが研究と問題解決枠組の一つもしくは複数の構成要素と関連していることを表している
(例えば、「規範的コンピテンス」は持続可能性のビジョンを策定するだけでなく現状の持続可能性を評価することにも関連)
Wiek et.al. (2011)と国立教育政策研究所(2012)に基づき筆者作成
に、
「生きる力」で期待されている「確かな学力」
(思
関わりの中で俯瞰的に捉えようとする能力・態度も含
考力、判断力、表現力、課題発見能力、問題解決能力)
まれており、国研ESD枠組「
(2)能力・態度」では、
と「豊かな人間性」
(自律心、協調性、感動する心)や、
「➌多面的、総合的に考える力」と「➏つながりを尊
国際標準の学力として注目されているキー・コンピテ
重する態度」に位置付けられているといえよう。
ンシー(OECD, 2005)のカテゴリー(相互作用的に道
具を用いる、異質な集団で交流する、自律的に活動す
2)
「予測コンピテンス」との接点
る)とも更に関連づけて整理をしている点に特徴があ
持続可能性は時間概念が存在して始めて生じる概念
ると言えよう。
とりわけ、
キー・コンピテンシー
(OECD,
である。
「予測コンピテンス」からは、システムが長短
2005)との関連づけは、教科等の指導において、単元
の時間の流れの中で変化・変容していることについて
(題材)の目標や授業の目標に、これらに基づいたも
の概念を見いだすことができる。つまり、有限の環境
のを付加したり、関連づけたりすることを通して、ESD
要因や資源などに支えられている社会の発展には、限
の視点に立った学習指導を可能にする点において特徴
界や不確実性があることを与えている。国研ESD枠組
が見られる。
「
(1)構成概念」では、
「Ⅲ有限性」として位置付けら
れているといえる。また、
「予測コンピテンス」には、
(3)当該研究(Wiek et al. 2011)と国研 ESD 枠組
将来のビジョンを予測して物事を計画する力、すなわ
との接点
ち、バックキャスティングの能力も含まれており、国
研ESD枠組「
(2)能力・態度」では、
「➋未来像を予測
1)
「システム思考コンピテンス」との接点
して計画を立てる力」に位置付けられているといえよ
「システム思考コンピテンス」からは、地球上の生
う。
命を支えている自然のシステムや、人間の基本的欲求
を支える社会・経済のシステムなどについての概念
(階
3)
「規範的コンピテンス」との接点
層性や関係性など)
を見いだすことができる。
これは、
「規範的コンピテンス」からは、公平、公正、安全、
持続可能性を考える上での出発点でもあり、国研ESD
幸福などに関わる概念を見いだすことができる。これ
枠組「
(1)構成概念」では、
「Ⅰ多様性」と「Ⅱ相互性」
は、持続可能な社会の実現の基盤になるものであり、
として位置付けられているといえよう。また、
「システ
さらには、集団的な行動規範を促し、持続可能性のビ
ム思考コンピテンス」には、多様で複雑なシステムを
ジョン構築に資するものであるといえる。国研ESD枠
多面的、総合的に理解し、さらに、それらを自分との
組「
(1)構成概念」では、人(集団・地域・社会・国
18
など)の意思や行動に関する概念に位置付けられるも
むしろ重要である」と述べ、さらには「基本的コンピ
のであり、特に「Ⅳ公平性」に関連が深いといえる。
テンシーと併用して行うべきである」と指摘している
ことからもわかるとおり、批判的思考能力やコミュニ
4)
「戦略的コンピテンス」との接点
ケーション能力を基礎的コンピテンシーに位置付けな
「戦略的コンピテンス」からは、持続可能性への移
がらも、
「持続可能性キー・コンピテンシー」の議論に
行には、合理的・客観的な現状把握に基づいた意思決
おける両能力の重要性をうかがうことができる。
定・合意形成や、計画性・実行可能性の高い責任ある
ビジョンが必要不可欠であることを見いだすことがで
5.当該研究(Wiek et al. 2011)の活用を通した IPCC
きる。国研ESD枠組「
(1)構成概念」では、
「Ⅵ責任性」
第 5 次評価報告書(AR5)
(IPCC 2014)に内在する教育
として位置付けられているといえる。また、
「戦略的コ
的論点の抽出
ンピテンス」には、集団や社会における管理・行動な
どに責任をもち、持続可能性に主体的に参加・貢献し
第 5 次評価報告書(AR5)
(IPCC 2014)に内在する
ようとする態度も含まれており、国研ESD枠組「
(2)
教育的論点の抽出においては、表 2 を参照されたい。
能力・態度」では、
「➐進んで参加する態度」に位置付
気候変動の影響を低減するためには、①気候のモニタ
けられているといえよう。
リング、②将来における気候変動予測、③予測される
気候変動による影響評価を体系的に実施し、影響やリ
5)
「対人関係コンピテンス」との接点
スク、将来像を理解・検討した上で、④適応策及び緩
「対人関係コンピテンス」からは、多様な主体の協
和策を立案し実施することが必要である。①気候シス
力・協働やリーダーシップ・団結・チームワークなど
テムの近年の変化は、直接観測や、衛星及び観測プラ
の必要性を見いだすことができる。これは、国研ESD
ットフォームによる遠隔測定(リモートセンシング)
枠組「
(1)構成概念」での「Ⅴ連携性」と、国研ESD
に基づいたモニタリングをもとに、観測、フィードバ
枠組「
(2)能力・態度」での「➎他者と協力する態度」
ック過程の研究、及びモデルによるシミュレーション
に、極めて明確に位置付けられているといえる。
を組み合わせることによって理解され、②③様々な階
層の気候モデルや多様なシナリオを用いて気候システ
(4)小括
ムの変化予測がなされ、評価される。これらの情報を
基礎として、④効果的な適応策、緩和策の立案、実施
以上のように、当該研究(Wiek, A. et al.2011)により
がなされている。
分類化された「持続可能性キー・コンピテンシー」
(シ
これらの要素と当該研究(Wiek et al. 2011)の接点は、
ステム思考・予測・規範的・戦略的・対人関係コンピ
①②③に関しては、前述した「システム思考コンピテ
テンス)は、国研ESD枠組にも概ね位置付けることが
ンス」
、
「予測コンピテンス」との関連性が高いと言え
できた(図2)
。特に、国研ESD枠組「
(1)構成概念」
る(表 2)
。また、④については、低所得グループや脆
については、
「システム思考コンピテンス」
・
「予測コン
弱な地域社会への影響等を「規範的コンピテンス」に
ピテンス」が人を取り巻く環境に関する概念(Ⅰ多様
より理解し、
「戦略的コンピテンス」
を用いて、
経済的、
性、Ⅱ相互性、Ⅲ有限性)と、
「規範的コンピテンス」
・
社会的、技術的、及び政治的な意思決定や行動、変革
「戦略的コンピテンス」
・
「対人関係コンピテンス」が
を行う必要がある。また、これら全てを実施する際に
人の意思や行動に関する概念(Ⅳ公平性、Ⅴ連携性、
は、多様なステークホルダーとの対話、合意形成等が
Ⅵ責任性)とそれぞれ整合していることが判明した。
必要となるため、
「対人関係コンピテンス」との関連性
一方、国研ESD枠組「
(2)能力・態度」については、
が高いと言える。
(表 2)
7つの能力・態度のうち、2つの能力(
「➊批判的に考
える力」
「➍コミュニケーションを行う力」
)は「持続
可能性キー・コンピテンシー」に直接位置付けること
ができなかった。ただし、当該研究(Wiek, A. et al.2011)
では、本文中において「批判的思考やコミュニケーシ
ョン能力などの基本的コンピテンシーが持続可能性の
専門職や教育課程では重要でないというわけではなく、
19
表2 当該研究(Wiek, A. et al.2011)の活用を通した
策研究所 2012)との接点を考察しつつ、
(2)不確実性
IPCC第5次評価報告書(AR5)(IPCC 2014)
の高い社会における ESD の重要な領域として気候変
に内在する教育的論点の抽出
動教育(CCE)に注目し、近年の国際的議論に内在す
(1)システム思考コンピテンス(SPM より抜粋)

気候システムの観測された変化

気候変動をもたらす要因、検出と原因特定

気候システム及びその近年の変化についての理解

気候モデルの応答の定量化

将来の世界及び地域における気候変動

気候の安定化、気候変動の不可避性と不可逆性

観測された影響、脆弱性、及び曝露

複数の分野や地域に及ぶ主要なリスク

分野ごとのリスク及び適応の可能性

将来のリスク管理とレジリエンスの構築

効果的な適応のための原則

気候に対してレジリエントな経路と変革

温室効果ガスのストックとフロー及びその排出要
因のトレンド

長期的な緩和経路、部門横断型緩和経路と対策

エネルギー最終消費部門(輸送部門)
(2)予測コンピテンス(SPM より抜粋)

気候モデルの評価

気候モデルの応答の定量化

将来の世界及び地域における気候変動

気候の安定化、気候変動の不可避性と不可逆性

分野ごとのリスク及び適応の可能性

地域ごとの主要なリスク及び適応の可能性

温室効果ガスのストックとフロー及びその排出要
因のトレンド

長期的な緩和経路、部門横断型緩和経路と対策

エネルギー最終消費部門(輸送部門)
(3)規範的コンピテンス(SPM より抜粋)

適応経験、効果的な適応のための原則

意思決定の文脈(気候に関連するリスクへの対応)

分野ごとのリスク及び適応の可能性(都市域)

部門横断型緩和経路と対策
(4)戦略的コンピテンス(SPM より抜粋)

適応経験、効果的な適応のための原則

意思決定の文脈(気候に関連するリスクへの対応)

分野ごとのリスク及び適応の可能性

気候に対してレジリエントな経路と変革

気候変動の緩和のアプローチ、緩和政策及び制度

エネルギー最終消費部門(建築部門、産業部門)

農林業・土地利用(AFOLU)

人間居住、インフラ、空間計画
(5)対人関係コンピテンス(SPM より抜粋)

意思決定の文脈

分野ごとのリスク及び適応の可能性

効果的な適応のための原則

エネルギー最終消費部門(産業部門)

緩和政策及び制度
る教育的論点を抽出することを目的としたものだった。
1 つ目の研究(国研 ESD 枠組との接点)では、当該
研究(Wiek, A. et al.2011)により分類化された「持続可
能性キー・コンピテンシー」
(システム思考・予測・規
範的・戦略的・対人関係コンピテンス)を、国研 ESD
枠組にも概ね位置付けることができた(図 2)
。
当該研究(Wiek, A. et al.2011)では、分類化された
「持続可能性キー・コンピテンシー」
(システム思考・
予測・規範的・戦略的・対人関係コンピテンス)にも
獲得のプロセスがあると指摘している。個人の資質・
能力の獲得プロセスは、自己教育過程を重視した主体
形成や内発的な学びに資するだけでなく、カリキュラ
ム・マネジメントにおける改善プロセスや学校運営に
おけるガバナンスのプロセスなどといった組織におけ
る学びのプロセスにも貢献しうる可能性を有している
といえよう。
また、当該研究(Wiek, A. et al.2011)で指摘する「持
続可能性キー・コンピテンシー」は、主として高等教
育段階の国際的議論に基づいて考察がなされているた
め、日本国内における高等教育段階の持続可能性にお
ける資質・能力の議論にも資するとともに、初等中等
教育段階や生涯学習においても議論されるべきもので
あり、教育段階を超えて、当該研究が貢献しうる可能
性を有していると言える。その一方で、学校教育にお
ける ESD に関する能力論の構築においては、
(1)1980
年代後半からの経済のグローバル化とポスト工業化社
会を背景に有する OECD DeSeCo プロジェクト、
(2)
教科横断的・探究的カリキュラム、グローカルなメタ
認知、自己・他者・社会の関係性、協働性・地域性・
自己実現性の議論を背景に有する総合的学習、
(3)持
続可能な開発や人間開発の背景に有する ESD 国内実
施計画などのように、多様な能力論が混在しているこ
と(小玉 2015)を踏まえる必要があるだろう。また、
安彦(2014)の指摘のとおり、人格形成を見すえた能
力形成のためには、コンピテンシーの議論を超えた考
察を深める必要がある。
さらに、当該研究(Wiek, A. et al.2011)の「持続可能
性キー・コンピテンシー」は、異なる教育段階や領域、
6.おわりに
分野を関連づけるコミュニケーション・ツールとして
本稿では、当該研究(Wiek, A. et al. 2011)
)の活用を
も活用できる可能性を秘めている点を強調したい。事
通して、
(1)学習指導における ESD 枠組(国立教育政
実、国研ESD枠組は、学校における教育実践において
活用されているだけでなく(Okamoto, Goto, et al. 2013)
、
20
動物園(三菱総合研究所 2013)や国立青少年教育施設
『環境教育』
、日本環境教育学会、25(1)
、pp.144-151、
(山本、酒井ら 2013)における社会教育の実践、ラム
2015]と[佐藤真久・高橋敬子「気候変動教育(CCE)
サール関連教育実践(CEPA)においても活用されてお
に関する能力開発プログラムの開発に向けた配慮項目
り(佐藤ら 2014)
、その有効性が指摘されている。国
の抽出-IPCC 第 5 次評価報告書における教育的論点
研ESD枠組と同様に、
当該研究(Wiek, A. et al.2011)
が、
と「持続可能性キー・コンピテンシー」の議論に基づ
日本の学校教育(初等中等教育段階)や高等教育の範
いて-」
『エネルギー環境教育研究』
、日本エネルギー
疇を超えて、地域におけるESDの拡充にも資するもの
環境教育学会、9(2)
、pp.59-66、2015]に基づき作成
であると言える。
されたものである。
2つ目の研究(気候変動教育(CCE)に関する近年の
2)OECD(経済協力開発機構)のデセコ・プロジェク
国際的議論に内在する教育的論点の抽出)
においては、
トの定義によれば、コンピテンス(competence)とは、
IPCC評価報告書(AR5)
(IPCC 2014)における教育的
心理社会上の前提条件が流動する状況で、固有の文脈
論点の抽出・整理した結果、
「システム思考コンピテン
に対して、複雑な需要にうまく対応する能力を意味す
ス」と「予測コンピテンス」の側面が強いことが分か
る。コンピテンスという考え方は、ホリスティックな
った。同報告書は、各国の気候変動対策の基礎資料と
(総合的な)概念であり、理性と感情が生命上関連し
なる科学的知見の提供という特徴が色濃いため、評価
あっている考え方から生まれている。また、個々人の
報告書を用いて日本で行われている能力開発プログラ
コンピテンスは、動機付けから態度や技能、知識とそ
ムは、
科学的知見をわかりやすく伝える
「知識の提供」
の活用にいたる構成要素から成る資源を適切な時、複
に偏重してしまいがちである。今後、学習者に対して
雑な状況でも適切に活用する能力を含む。コンピテン
知識の提供にとどまらず、
「規範的コンピテンス」
、
「戦
シーはコンピテンスの集合的概念である(ライチェン
略的コンピテンス」
、
「対人関係コンピテンス」の獲得
ら 2006)
。
をも範疇にいれた戦略的な気候変動の適応・緩和策を
3)当該研究(Wiek, A. et al.2011)では、
「持続可能性キ
考える能力開発プログラムの開発が重要であろう。そ
ー・コンピテンシー」を、
「実社会における持続可能性
のためには、日本及び海外で既に実施されているCCE
の課題、難問、機会」に関連する職務達成と問題解決
能力開発プログラムの収集と比較・分析を行いながら、
で成功を収めることができる知識、技能、態度の複合
より効果的な能力開発プログラムの開発と実践が必要
体」と定義している。
であろう。このように、当該研究(Wiek, A. et al.2011)
4)当該研究(Wiek, A. et al.2011)では、
「持続可能性キ
の枠組の活用を通して、持続可能性に関する特定テー
ー・コンピテンシー」の課題として、
(1)支持する経
マにおける国内外の議論からも教育的論点を抽出する
験的証拠が提示されていないこと、
(2)カリキュラム
ことが可能であり、今後、更なる応用を検討していく
の中で十分に運営ができていないこと、
(3)方法論の
必要があるだろう。
詳述がなされていないこと、
(4)理論的根拠が十分で
総じて、当該研究(Wiek, A. et al.2011)は、今後の持
はないこと、を指摘している。
続可能性に関連する能力開発論を考察する際の基礎と
5)分析対象文献: Crofton 2000; Cusick 2008; de Haan
なる枠組(持続可能性キー・コンピテンシー」を定義
2006 (cf. Barth et al. 2007; van Dam-Mieras et al. 2008);
し統合する
「持続可能性研究・問題解決の統合的枠組」
)
Grunwald 2004, 2007; Jucker 2002; Kearins and Springett
を提供しているといえよう。今後、多様な能力開発論
2003; Kelly 2006; Kevany 2007; Ospina 2000; Rowe 2007;
における当該研究(Wiek, A. et al.2011)の有効性と限
Segalas et al. 2009; Shephard 2007; Sipos et al. 2008; Steiner
界の考察、当該研究(Wiek, A. et al.2011)の活用を通し
and Posch 2006; Sterling 1996; Sterling and Thomas 2006;
た国内外の持続可能性に関する議論からの教育的論点
Svanstrom et al. 2008; Wals and Jickling 2002; Warburton
の抽出、当該研究(Wiek, A. et al.2011)の活用を通した
2003; Welsh and Murray 2003.(詳細は、Wiek, A. et al.
プログラムの開発等、
更なる取組が必要とされている。
(2011)
)
6)
「持続可能な社会づくり」の構成概念の抽出におい
注
ては、主要レビュー文献(本稿指摘)のほか、筆者に
1)本稿は、
[佐藤真久・岡本弥彦「国立教育政策研究
よる、ニュージーランド、オーストラリア、ドイツ、
所による ESD 枠組の機能と役割-「持続可能性キー・
スウェーデン、中国、英国、バルト海沿岸諸国におけ
コンピテンシー」
の先行研究・分類化研究に基づいて」
る国際比較に基づき議論が深められている。
21
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促進に向けて-地域における学習の場としての
23
「協働ガバナンス」と「社会的学習」に関する理論的考察 1)
協働ガバナンスと社会的学習(第三学派)におけるプロセスの連関に関する考察
東京都市大学
1.はじめに
佐藤 真久
(2)本稿の立ち位置~ESD における「協働と社会的
学習」
「社会的学習」
(Social Learning)のアプローチは、持
国連・持続可能な開発のための教育の 10 年(DESD:
続可能な消費とライフスタイルの選択に関する実践や、
2005-2014)の中間年会合(2009 年)では、周知の「学
持続可能な地域社会の構築に向けた取組等において、
習の四本柱」
(Learning to be, to know, to do and to live
重要な探究プロセスに積極的に参画する機会を増大さ
together)に加え、“Learning to transform oneself and society”
せ、
環境管理に対する個人的、
集団的な対応を再考し、
(自己変容と社会変容の学びの連関)を「新しい学習
また、より持続可能な社会に向けた解決策を特定し、
の柱」として位置づけている。この「新しい学習の柱」
これらの解決策を主流化するプログラムの計画を実施
は、DESD における中頃から広まってきた用語である
し、活動の実施と成果のモニタリングと評価により、
が、DESD 開始当初から用語そのものがあったわけで
これらのプロセスにおいて、変容を促すことを可能に
はない。
「ESD は動的である“ESD itself is on the move”」
す る 。そ して、「協 働ガバ ナ ンス」( Collaborative
(UNESCO 2012)との指摘通り、世界で直面する課題・
Governance)は、我々が日常生活を営む方法を再調整
状況に応じて ESD 概念にも進展が見られていると言
し、健全な環境管理と持続可能な開発の達成が意味す
えよう。永田は、本用語の訳として「自らを変容させ、
るところを再定義するために、個人とステークホルダ
社会を変容させる学び」
(永田 2014)であるとしてい
ーを対話でまとめる手段を提示する。しかしながら、
るが、筆者は、
「自己変容と社会変容の学びの連関」と
(社会的文脈、文化的関連性において)持続可能な方
訳したい。その理由は、自己変容のための学び(自己
法での生活とは何を意味するか、持続可能な地域づく
教育過程を重視した主体形成、内発的な学び)が社会
りとは何を意味するのか、その新しい理解、世界観、
変容のための学び(地球環境問題と貧困・社会的排除
生活様式を築くためには、ステークホルダーは個人的
問題の同時的解決にむけた協働と社会的な学び)に影
学習、集団的学習(Collective Learning)
、知識の創造と
響をもたらすだけでなく、その逆もまたあり得るから
いうプロセスを通過しなければならない。
である。本稿の立ち位置は、
「協働と社会的学習」であ
り、まさに、
「自己変容と社会変容の学び」における一
2.本研究の概要
翼を有しているといえよう(図 1)
。そして、
「自己変
容の学び」と「社会変容の学び」の相互連関こそが重
(1)本研究の目的と方法
要な意味をもつ(個人の資質・能力の向上は別章で取
本研究は、
(1)
「社会的学習」についての理論的考察
り扱うこととする)
。とりわけ、VUCA(Volatility:変
を行い、
(2)
「社会的学習(第三学派)
」と協働ガバナ
動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、
ンスにおけるプロセスの連関に関して考察を行うもの
Ambiguity:曖昧性)を有する時代においては、
「自己変
である。
容の学び」と「社会変容の学び」のプロセス(状況的、
主体的、協働的、探究的プロセス)の連関がますます
重要になると筆者は考える。
24
的学習(第三学派)
」
)の理論は、協働ガバナンスのプ
ロセスにおいて、持続可能性の構築に向けて社会的変
革に取組むことを可能にする「変容を促す学習」
(Transformative Learning)のプロセスの構築に資する
モデルを提供する。
「社会的学習(第三学派)
」は、およそ 10 年前に誕
生し、生態学的問題、天然資源管理、持続可能な開発
の理論を適用したことで知られる。この新しいアプロ
ーチは、天然資源管理、参加型農村調査(PRA)
、集団
的な問題解決のアプローチにおける、共同体への参加
に関する初期の研究から生まれた。また、このアプロ
図 1:ESD における
ーチの全体的な有効性を高めるために、実践共同体
「協働と社会的学習」の位置づけ
(CoP)
、経験学習、問題基盤型学習(PBL)など、特
定の教育学的教授法も生まれた。この第三学派は、新
3.
「社会的学習(第三学派)
」の理論的考察
しい持続可能な生活の方向性について、いかにして
Didham と Ofei-Manu (2015)は、社会的学習理論
人々が集団的に考え、協議し、構想するかを検討して
の開発と歴史において、以下の三学派があることを指
いる(換言すれば、生態学及び教育に基づく、社会と
摘している。
して(as)
、社会変革のため(for)の「持続可能性学習」
「社会的学習(第一学派)
」の理論は、1960 年代初期
(Sustainability Learning)
)
。そして、
「社会的学習(第三
に Bandura により開発され、社会認識理論、認知心理
学派)
」は、
「新しい、予想外の、不確実かつ予測不可
学の分野に基づいている。Bandura は、個人の行動に関
能な状況で活動するグループ、
共同体、
ネットワーク、
する学習は、観察を通じて発生することもあることを
社会システムで発生する学習は、予想外の状況におけ
示し、学習は社会的文脈で発生する認知プロセスであ
る問題解決に向けられ、このグループまたは共同体に
り、社会的通念に影響されると主張した(Bandura,
おいて有効な問題解決能力の最適利用によって特徴付
1977)
。このように、社会的学習理論に関する認知心理
け ら れ る 」 と 定 義 さ れ る ( Wildemeersch 1995 in
学の学派は、個人がいかにして社会から学習するかを
Wildemeersch 2009: 100)
。
説明している。
このように、
「社会的学習(第三学派)
」は、人類が
「社会的学習(第二学派)
」の理論は、組織的学習と
VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、
組織管理の分野で発展した。第二学派の概念は、二重
Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)を有する時
ループ学習(Double-loop Learning)については Argyris
代において、今日直面する問題や課題を乗り越え、想
と Schon の研究(1978)
、行動学習プロセス(Action
像できる方法で、社会全体として健全な環境管理と持
Learning Process)については Revans の研究(1982)に
続可能な開発に向けていかにして前進することができ
おいて、それぞれ最初に提起された。しかしながら、
るかという問いに取組む上で最も有用であることを証
第二学派が実際に隆盛したのは、1990 年代初頭に入っ
明している。我々が社会としてどのように新しい行動
てからである(Wang & Ahmed, 2002)
。Senge(1990)
と実践を学習するかだけでなく、我々が確固とした持
のように、企業を構造化し、
「学習する組織」
(Learning
続可能性の観点を取り入れることによって、支配的な
Organizations)に発展させるための具体的な提案を行
世界観をいかに転換できるか、より広範なアプローチ
う上でこのアプローチを採用した研究者も存在した
と観点を検討するために、現行の慣例や思考の限界を
(Flood, 1999)
。第二学派は、いかにして集団的学習と
超えた先を見据えなければならない。Glasser(2009)
グループ学習が発生するか、また、それがグループメ
は、
「社会的学習(第三学派)
」の位置付けについて、
ンバーの実社会での経験にどのように影響されるか、
「我々の運命や将来を見据えるために、人間の傾向を
組織がいかに学習し適応するかという理解を導いてい
利用する(for harnessing the human propensity)基盤およ
る。
びパイプ」であり、それを行う上で、
「全てにおいてよ
近 年 の 「 生 態 学 的 ・ 持 続可 能 性 社 会 的 学 習 」
り持続可能な望ましい社会を実現するためのメタナラ
(Ecological / Sustainability Social Learning、以下、
「社会
ティブおよび媒介手段としての経済成長」に取って代
25
わると主張している(Glasser 2009: 38)
。
協働ガバナンス
運営制度の設計
4.
「協働ガバナンス」の理論的考察
・広範なステークホルダーの包摂
・討議の場の唯一性
・明確な基本原則
・プロセスの透明性
開始時の状況
協働プロセス全体を俯瞰した視点からとらえたもの
パワー・資源・知識の
非対称性
協働のプロセス
信頼の構築
が 、 い わ ゆ る 「 協 働 ガ バ ナ ン ス 」( Collaborative
プロセスへのコミットメント
相互に依存していることの認識
プロセスへの主体的なかかわりの共有
相互利益を追求することへの意欲
膝詰めの対話
Governance)に関する研究である。
「協働ガバナンス」
参加の誘発と制約
とは、
「それ以外の方法では達成できなかった公共の目
的を遂行するために、公的機関、各種政府機関、およ
協力、あるいは軋轢
の歴史(開始時の信
頼の程度)
び/ またはパブリック、民間および市民の領域間の境
誠実な折衝
中間の成果
共通の理解
小さい達成
戦略的計画
共同の事実発見
明確なミッション
問題の共通理解
共有できる価値の同定
アウトカム
(成果)
変革促進・プロセス支援・資源連結・問題解決提示
界を越えて、建設的に人々を従事させる、公共政策に
チェンジ・エージェント機能
かかる意思決定と管理のプロセスと構造」(Emerson,
図 2:協働ガバナンス・モデル
Nabatchi, & Balogh, 2012)と定義される。協働のプロセ
(佐藤・島岡 2014)に基づき筆者作成
佐藤・島岡(2014)
スについては、Ansell & Gash(2008)、Emerson et al.
(2012)
、小島(2011)など、いくつかのモデル化が試
5.「協働ガバナンス」と「社会的学習(第三学派)」
みられてきた。協働プロセスの具体性と促進機能の網
におけるプロセスの連関
羅性に優れているAnsell & Gash(2008)は、協働にか
かる137の事例研究文献を対象に、
事例に共通する変数
(1)
「社会的学習(第三学派)
」における集団的学習
(要素)を抽出し、変数間の関係を分析したモデルで
の位置づけ
ある。分析対象文献には、次の限界があることに留意
「社会的学習(第三学派)
」は、顕著な集団的学習の
する必要がある。
すなわち英語で書かれたものであり、
観点を捉えており、個人的学習の概念を超えて、単な
米国の事例が主であり、天然資源マネジメントが主で
る知識の獲得以上のプロセスとみなされている。
あり、行政が主体である。
Garmendia ら(2010)は、
「異なる種類の知識と観点に
佐藤・島岡(2014)は、
(1)上述する協働ガバナン
より、社会参加者の多様なグループ間の集団的学習プ
ス・モデル(Ansell & Gash, 2008)と、
(2)Havelock &
ロセスを向上させる協議的アプローチは、社会生態学
with Zlotolow(1995)の指摘するチェンジ・エージェン
的システムの脅威に対して新たな対応を創出する際の
ト機能を結合させた協働ガバナンス・モデルを提示し
中心的存在となる」とし、社会生態学的システムの脅
ている(図2)
。具体的には、
[開始時の状況]として、
威に対する「社会的学習(第三学派)
」の可能性を指摘
(1)パワー・資源・知識の非対称性、
(2)協力あるい
している(Garmendia and Stagl 2010: 1712)
。一方、
「社
は軋轢の歴史(開始時の信頼の程度)
、
(3)参加の誘発
会的学習(第三学派)
」が直面する課題の一つとして、
と制約、
[運営制度設計]として、
(1)広範なステーク
協働ガバナンスや参加型意思決定のプロセスなど、さ
ホルダーの包摂、
(2)討議の場の唯一性、
(3)明確な
まざまな社会的学習の状況で生じる社会的相互関係は、
基本原則、
(4)プロセスの透明性、
[協働プロセス]と
本質的に社会的文脈、確立された基準と価値に影響さ
して、
(1)膝詰めの対話、
(2)信頼の構築、
(3)プロ
れるということである。つまり、社会的学習の成果を
セスへのコミットメント、
(4)共通の理解、
(5)中間
左右する権限とスケールの影響を認識し、対処するこ
成果、
[チェンジ・エージェント機能]として、
(1)変
とが重要である。これは、社会的学習グループの観点
革促進、
(2)プロセス支援、
(3)資源連結、
(4)問題
を確立する際に、集団的グループのメンバーが広範囲
解決提示、から構成される。
にわたり異なる世界観、認識論的信念、知識体系を持
上述のとおり、
「協働ガバナンス」が、
「公共政策に
つことで、部分的に対処することができる。また、こ
かかる意思決定と管理のプロセスと構造」(Emerson,
れによって、グループが協議・交渉のプロセスを通じ
Nabatchi, & Balogh, 2012)と定義されるように、
「協働
てまず乗り越えなければならない緊張関係が当初から
ガバナンス」には、そのプロセスと構造があることが
生じる(Reed et al., 2010)
。この緊張関係を克服するに
読み取れる。
は、グループが共通する一つの世界観を採用するので
はなく、グループの各メンバーが自身の専門知識によ
ってプロセスをサポートできる、集団行動の共通目標
を特定する必要がある。Pahl-Wostl ら(2007)は、
「問
26
題に対処する初期段階で、
問題領域の構成、
再構成は、
(2)日本独自のグローカルな実践論の特徴
プロセス全体の方向を決定する… 問題の構成の違い
鈴木・佐藤(2012)は、グローカルな実践論として
は、コミュニケーション上の問題と参加者の固定化し
内発的発展論に注目し、日本ではその独自の拡充がな
た対立に主な理由がある」と説明している。
(Pahl-Wostl
されているとしている。そして、その特徴は、①地域
et al. 2007: 11)
。このような構成概念、基準、世界観は、
の技術、産業、文化を土台とし、②住民が自ら学習し
とりわけその認識論的信念や物理的環境および社会的
計画するもので、③地域産業連関を重視し、④環境・
環境を理解する方法について、参加者の知識と経験の
生態系の保全をなし、
⑤住民の主体的参加による自治、
多様性に由来する可能性があるといえよう。
「社会的学
自律的意志決定がみられるというように整理されてい
習(第三学派)
」のプロセスは、具体的にグループメン
る(清水・小山・下平尾 2008)
。また、日本における
バー内の合意を形成せず、特定の目標ではないが、共
内発的発展論の主唱者・宮本憲一は、環境の維持可能
通の目的と、人々の意見の相違に建設的にはっきりと
な範囲での経済・社会のあり方として「維持可能な社
対処する能力を理想的に創出する(Pahl-Wostl et al.,
会」を提起した(宮本 2007)
。それは、①平和を維持
2007)
。さらに、Pahl-Wostl らは、適応的水管理(Adaptive
する、とくに核戦争を防止する、②環境と資源を保全・
Water Management)の事例における社会的学習を考察
再生し、地球を、人間を含む多様な生態系の環境とし
した上で、社会的学習は、
(1)短中期で参加者が参画
て維持・改善する、③絶対的貧困を克服して、社会経
するプロセスを通じて参加者間で発生、
(2)中長期で
済的な不公正を除去する、④民主主義を国際・国内的
より幅広いガバナンス構造への構造的かつ文脈的なシ
に確立する、⑤基本的人権と思想・表現の自由を達成
フトが集団的学習プロセスの一環として発生、という
し、多様な文化の共生を進める、という 5 つの課題を
二つの異なるレベルとそれぞれのタイムスケールで発
総合的に実現する社会である。宮本(2007)はさらに、
生し得ると主張した(Pahl-Wostl et al. 2007: 10)
。
「維持可能な社会」の実現のためには、地域と地球の
Rodela らは、社会的学習と天然資源管理との関係を
総合的発展をすすめる「内発的発展」と、環境保全の
扱う 54 の査読論文のレビューを行い、結果として対
ための「計画原理」が不可欠であると主張している。
象論文の大部分に主題(すなわち「社会的学習(第三
清水・小山・下平尾(2008)の指摘する日本独自の
学派)
」
)と分析の内容に不一致があると結論づけ、実
グローカルな実践論の特徴における[①地域の技術・
際の有効性に関してデータや根拠の提示を試みた研究
産業・文化を土台]
、
[③地域産業連関の重視]
、
[④環
はごくわずかであると述べている(Rodela, Cundill, &
境・生態系の保全]は、地域特性を活かした環境保全
Wals, 2012)
。Reed ら(2010)は、その著書で同様の点
のための「計画原理」として位置づけることができ、
..............
計画を遂行する際には、
「協働」を構造づける「協働ガ
.....
バナンス」が必要だと筆者は考える。また、
[②住民が
を指摘し、多くの場合、
「社会的学習(第三学派)
」の
概念と分析には方法論的な迷いが生じ、社会的学習の
ために必要な条件の調査と混同されている。社会的学
自ら学習し計画]
や
[⑤住民の主体的参加による自治、
習概念の明確化については、その必要性は指摘されつ
自律的意志決定]は、個人・集団による主体的な学習
つも、社会的学習の性質が、個人の自主的な参画を必
を促進することは、困難な手順としても認識されてい
活動(自己教育活動)とそれを援助・組織化する教育
..
活動として位置づけることができ、地域における「学
.................
習」を構造づけるには「社会的学習」が重要であると
る(Holden, Esfahani, & Scerri, 2014: 14)
。しかしながら、
筆者は考える。
要とする緩やかな学習プロセスであることから、協働
ガバナンスにおける社会的学習および参加型意思決定
Holden ら(2014)の指摘は、社会的学習の促進を試み
鈴木は、内発的な「発展(development)
」では地域住
ることは無益であり、場(グループ設定)とプロセス
民の人間的な「発達(development)
」が重要であるとし、
(対話と批判的行動、内省を通じて)を促進すること
そのために不可欠な学習活動を援助・組織化する地域
の重要性が際立つということではない。
「社会的学習
社会教育活動として「地域社会発展教育あるいは地域
(第三学派)
」は、予め決められた知識一式を学習する
づくり教育(community development education)
」が問わ
ものではなく、実践的に試行し、総体的に判断する新
れ、それは 21 世紀の環境教育・ESD においても重要
しい知識を創造するための調査、対話、実践、内省の
な意味をもつようになってきたと指摘し、持続可能な
協働的な追求であると言えよう。
内発的発展に必要な学習と教育の論理を求めている
(鈴木 1998)
。
27
(3)
「協働ガバナンス」と「社会的学習(第三学派)
」
く、地域における不確実性・予測不可能性に対応した
におけるプロセスの連関
探究プロセスを構築することを可能にさせるものと位
近年の「社会的学習(第三学派)
」の取組は、ガバナ
置付けられよう。
ンス構造と自然環境という文脈に「社会的学習」のプ
ロセスを組み込んでいる。天然資源管理は、高い不確
6.おわりに
実性と限られた予測性という複雑な問題に直面してお
り、それゆえ適切かつ効果的な資源管理を確保する上
本研究は、
(1)
「社会的学習」についての理論的考察
で人間的側面が重要な役割を果たす。したがって、こ
を行い、
(2)
「社会的学習(第三学派)
」と協働ガバナ
れらの問題、課題に関する集団的な意思決定に多様な
ンスにおけるプロセスの連関に関して考察を行うもの
ステークホルダーを参画させるガバナンス・プロセス
であった。
本稿では、
近年の
「社会的学習
(第三学派)
」
)
は、問題解決と適応管理に関する人間の可能性を生か
の理論は、協働ガバナンスのプロセスにおいて、持続
す上で重要となるといえよう。Pahl-Wostl and Hare
可能性の構築に向けて社会的変革に取組むことを可能
(2004)は、
「このことは、問題解決に対するコミュニ
にする「変容を促す学習」
(Transformative Learning)の
ケーション、観点の共有、適応するグループ戦略の開
プロセスの構築に資するモデルを提供する(前述)
、と
発に関する疑問の優先度が高い場合、管理は一つの問
述べているものの、顕著な集団的学習の観点を捉えて
題に対する最適解の探索でなく、進行中の学習と交渉
おり、個人的学習の概念を超えて、単なる知識の獲得
のプロセスを意味することを示している」とし、
「協働
以上のプロセスとみなされており、具体的・理論的な
....
考察は未だ十分である。今後、地域における「協働」
...............
を構造づける
「協働ガバナンス」
の更なる掘り下げと、
.................
地域において「学習」を構造づける「社会的学習」の
ガバナンス」における「社会的学習」の役割を強調し
ている。
筆者は、日本国内における環境保全にむけた協働取
組事業の運営とその事例研究を通して、対象とする協
...................
働取組には、
「協働」を構造づける「協働ガバナンス」
更なる掘り下げ、そして、その「協働ガバナンス」と
「社会的学習」におけるプロセス(状況的、主体的、
が見られ、その「協働ガバナンス」における「協働の
協働的、探究的プロセス)の連関に関する考察を更に
プロセス」をスパイラル状に実施・展開している事例
......
には、
「社会的学習」が内在している点(
「学習」を構
...........
造づける「社会的学習」の存在)を強調している(図
深めて必要がある。
注
2)
3)
(佐藤 2015;佐藤 2016) 。
1)本稿は、
[佐藤真久・島岡未来子「
「協働を通した環
境教育」の推進にむけたコーディネーション機能の検
討-NPO 法人アクト川崎と NPO 法人産業・環境創造
リエゾンセンターの機能比較に基づいて-」
『環境教
育』
、日本環境教育学会、2016(in press)
]と[佐藤真
久「自己変容と社会変容の学びの連関」
『環境教育学の
基礎理論―再評価と新機軸』、法律文化社、2016(in
press)
]に基づき作成されたものである。
2)この指摘は、
[佐藤真久「最終報告書[協働ガバナ
ンスの事例分析]と[社会的学習の理論的考察]に焦
点を置いて」
、最終報告書、平成 26 年度:環境省地域
活性化に向けた協働取組の加速化事業、2015.]
、
[佐藤
図 3:協働ガバナンス・モデル(佐藤・島岡 2014)
真久「最終報告書[継続案件の多角的考察]と[協働
と内在する「社会的学習」
ガバナンスの事例比較]に焦点を置いて」
、
『最終報告
書』
、平成 27 年度:環境省地域活性化に向けた協働取
このように、
「社会的学習(第三学派)
」は、
「協働ガ
組の加速化事業、2016.(in press)
]を参照されたい。
バナンス」における「協働プロセス」をスパイラル状
に実施・展開をしていくことを可能にさせるだけでな
28
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平本健太
(編)
『戦略的協働の本質:NPO,
政府, 企業の価値創造』東京:有斐閣、2011.
25. 清水修二、小山良太、下平尾勲編『あすの地域論』
、
八朔社、2008.
26. 鈴木敏正、佐藤真久「
『外部のない時代』における
環境教育と開発教育の実践的統一にむけた理論
的考察:『持続可能で包容的な地域づくり教育
(ESIC)
』の提起」
、
『環境教育』
、21(2)
、pp3-14、
2012.
27. 鈴木敏正『地域づくり教育の誕生』
、北海道大学図
書刊行会、1998.
30
評価の方向目標としての ESD の三角形モデル
「ゆさぶり」のある ESD の実践を目指して
広島市立大学 卜 部 匡 司
はじめに
ているのか、それらを確認するための評価の枠組み
を提案することである。しかし ESD の評価には、
本稿の目的は、
「ESD の三角形モデル」を手がか
りに、ESD の実践を評価する視座を提案することで
大きな難点として次の2点が指摘できる。ひとつは、
ある。周知の通り ESD とは、持続可能な開発のた
ESD においては、従来の教科における成績評価のよ
めの教育(Education for Sustainable Development)
うに、学習の具体的な到達度(どうすれば正解なの
であり、持続可能な将来を創造するために世界規模
か)が設定できないという点である。これは、ESD
で取り組むべき教育であり、私たち一人ひとりが世
が包括的・総合的で広がりをもった学習活動である
界の人びとや将来世代、また環境との関係性の中で
ことによる。逆の言い方をすれば、包括的・総合的
生きていることを認識し、持続可能な開発を目指し
な学習活動では、そこで育成されるべき資質・能力
て行動を変革するための教育である。
の汎用性が高くなることから、それらは必ずしも
ESD は、国連総会(2002 年)でのわが国政府の
ESD でなければ育成できないというものではなく
提案で始まった「持続可能な開発のための教育の 10
なってしまう。すなわち、
「ESD の視点に立った学
年(2005~2014 年)
」を皮切りに、ユネスコ主導で
習指導で重視する能力・態度」は ESD でなくとも
世界的に推進されてきた取り組みである。わが国で
育成できてしまうのである。第二の難点は、ESD の
も「教育振興基本計画」
(2008 年)や「学習指導要
評価において「到達目標」の設定を断念し、その代
領」
(2008/2009 年)において ESD の必要性とその
わりに「方向目標」を設定したとしても、ESD の学
推進が謳われ、ユネスコスクールへの加盟が奨励さ
習では、より持続可能な社会に向けた「望ましい方
れている。そして、ユネスコスクールを中心にさま
向性」をリニアな(一方向的な)形で示すことがで
ざまな ESD の取り組みが行われてきた。それと並
きないという点である。これは ESD が、環境、経
行して、ESD の学習指導過程を構想し展開するため
済および社会の発展を「統合的に」扱うものである
の枠組みとして、
「持続可能な社会づくりの構成概念」
ということに起因する。例えば、貧困や環境汚染な
(例:多様性、相互性、有限性、公平性、連携性、
ど、単独のテーマを扱う学習では、その問題解決に
責任制など)および「ESD の視点に立った学習指導
向けた望ましい方向性について、ある程度の共通理
で重視する能力・態度」
(例:①批判的に考える力、
解が得られやすいが、ESD ではそう簡単にはいかな
②未来像を予測して計画を立てる力、③多面的、総
い。むしろ ESD では、環境、経済および社会のバ
合的に考える力、④コミュニケーションを行う力、
ランスを考える過程で、望ましい方向をめぐる児童
⑤他者と協力する態度、⑥つながりを尊重する態度、
生徒の思考の「ゆさぶり」こそが大切なのである。
こうした問題意識のもと、ESD の評価をめぐるこ
⑦進んで参加する態度など)が提案された(国立教
育政策研究所、2012、pp. 3-9)
。
れらの難点を克服するための試みとして、本稿では
いまや ESD で求められる資質・能力が設定され、
いくつか実践事例を紹介しながら、
「ESD の三角形
それに基づくカリキュラムや授業モデルが開発され
モデル」を手がかりとした ESD の評価方法につい
つつある中で次に重要なのは、ESD の取り組みを評
て提案する。
価するための手法を開発することである。すなわち、
ESD が児童生徒の資質・能力の向上にいかに貢献し
31
1.ESD の三角形モデル
めの工夫が必要となる。その工夫として提案するの
「ESD の三角形モデル」とは、正三角形の3隅に
が、ESD の方向目標としての「ESD の三角形モデ
それぞれ ESD の3要素(経済、社会および環境)
ル」である。すなわち、ESD の学習の方向性を、①
を配置したモデルである。これは「環境、経済、社
「より持続可能な方向(=ESD の三角形モデル)
」
会の面において持続可能な将来が実現できるような
に向けて設定し、その三角形のモデルの中で、②経
価値観と行動の変革をもたらす」という ESD の目
済、社会および環境の相互のバランスを考慮できる
標を正三角形で象徴的に示している。このモデルで
かどうかに注目するのである。
重要なのは、正三角形の3隅のそれぞれに経済、社
会および環境を配置するだけでなく、この正三角形
2.高等学校での実践事例
を指1本で支えながら提示することである。正三角
こうした「ESD の三角形モデル」に基づく ESD
形を指1本で支えるには、その三角形の重心を支え
の事例として、
「カフェの経営で優先すべきは?」を
なければ、三角形はすぐに傾いてしまう。この三角
テーマとした実践研究を紹介する。この実践は、
形モデルはすなわち、持続可能な社会づくりに経済、
2015 年 11 月に京都府立 S 高校(2年生)において
社会ならびに環境のバランスが大切だというサステ
教育実習の学生によって行われたものである(潮田、
イナビリティの本質を一目で理解するのに役立つ。
2016 年)
。
「ESD の三角形モデル」を援用すれば、
実際、経済システムが首尾よく回ったとしても社会
持続可能な社会づくりを目指した「カフェの経営」
の各システムや生態系システムが維持できなければ、
では、例えば、
「効率よく儲ける」
(経済)ことを優
いずれ経済システムも回らなくなってしまう。しか
先するあまり「食材産地の収入確保(フェアトレー
し、社会的格差や貧困の解消、また環境への配慮を
ド)
」
(社会)や「地球にやさしい栽培」
(環境)への
重視するあまり、経済活動(景気)が停滞してしま
配慮を怠れば、いずれ食材産地の人びと生活が破綻
えば、企業や家計の収入も減り、生活そのものが維
したり、農地の自然環境が破壊されたりすることで、
持できなくなってしまう。もともとサステイナビリ
結局は食材調達も困難となり、カフェの経営の持続
ティの概念が、再生可能な森林伐採を考える中で生
も困難となる。このメカニズムを生徒たちが認識す
まれたものであることに鑑みれば、環境保護のため
るよう開発されたのが、以下の実践である。
には木を伐採しすぎてはいけないのだが、経済活動
のためには一定の木を伐採しなければならないので
(1)授業の概要
あり(卜部、2011)、まさにそのバランスが大切な
この実践は、全2時間で構成される。まず1時間
のである。
目には「カフェの経営」について、
「サステイナビリ
こうした「ESD の三角形モデル」をもとに ESD
ティの視点に立つと、カフェの経営においても経済
の評価を考える際、各教科で見られるような「到達
(利益の追求)のみならず、社会(フェアトレード)
目標」に基づく評価を断念せざるを得ないとすれば、
および環境(地球に優しい栽培法)についても考慮
残された選択肢は「方向目標」に基づく評価である。
することが重要だ」ということを高校生に理解させ
「方向目標」とは、特定の方向を目指しているかど
る。同時に、これら経済、社会ならびに環境のすべ
うかに注目した目標設定であり、特に ESD で言え
てのバランスへの配慮は大切であるが、その「どれ
ば、
「持続可能な方向を目指しているか」がポイント
を優先するかの判断は極めて難しい」ということを
と な る 。 実 際 の と こ ろ 、 ESD ( Education for
体感させる。次いで2時間目には、
「カフェの経営で
Sustainable Development)の「for」は「~に向け
最も優先すべきは?」をテーマに、生徒たちにグル
て」という意味であり、ESD は持続可能な開発とい
ープでディスカッションを行う。そうすることで
う「方向を目指した」教育なのである。
ESD をめぐる3つの価値観(経済、社会および環境)
ただし、より持続可能な社会に向けた「望ましい
のバランス感覚は、それぞれの思想や立場によって
方向性」をリニアな(一方向的な)形で示すことが
多様にありうるという事実を理解させ、最終的に自
できないという ESD の難点を考慮すれば、
「持続可
分はどの立場に立つのかについて価値判断を迫るの
能な方向」という ESD の「方向目標」の設定には、
である。
環境、経済および社会の発展を「統合的に」扱うた
32
(2)生徒の反応
から購買も消費も増えない」とする「経済」最優先
まず、1時間目の学習において生徒一人ひとりに
の意見との対立も見られた。⑤「経済、社会、環境
「カフェの経営で最も優先すべきは?」と尋ねたと
の三者すべて」最優先としたグループは、むしろ議
ころ、全生徒 28 名のうち、
「経済」最優先が 12 名
論に広がりが見られ「環境が土台にあり、その上に
(46%)
、
「社会」最優先が 5 名(19%)
、
「環境」最
社会、そして経済というピラミッド構造になってお
優先が 8 名(31%)
、どれも大切で最優先困難が 1
り、環境が整わないとそれ以上は整えられない」と
名(4%)
、無回答が 1 名であった。つまり、高校生
する「環境」最優先の立場、
「環境や経済についての
の判断によれば、
「経済:社会:環境」を最優先する
知識をみんなが持っている必要があるからこそ社会
割合は、大まかに言えば「5:2:3」という割合
的格差是正のための教育が必要だ」とする「社会」
になるということがわかった。
最優先の立場、そして「お金に余裕ができると心が
次に、2時間目のグループ討議において、
「カフェ
豊かになって、環境や社会について考えられる」と
の経営で最も優先すべきは?」の問いに、各グルー
する「経済」最優先の立場が、それぞれ相互三つ巴
プとしてどう答えるか尋ねた。その際、生徒たちに
の議論を展開していた。
は、できるだけグループの構成員の全員が納得する
さらに2時間目の終盤に、グループ討議を踏まえ
まで徹底的に議論し、もしグループ全員で納得でき
たうえで再び生徒一人ひとりに「カフェの経営で最
なかった場合はどこまでは全員が納得できて、どこ
も優先すべきは?」と尋ねた。その結果、全生徒 28
が納得できなかったのかを明確にするよう求めた。
人のうち、
「経済」最優先が 12 名、
「社会」最優先が
その結果、全7グループのうち、①「経済」最優先
4 名、
「環境」最優先が 2 名、
「経済と社会の両方」
が 2 グループ、②「社会」最優先が 1 グループ、③
最優先が 1 名、
「経済と環境の両方」最優先が 4 名、
「経済と社会」最優先が 1 グループ、④「経済と環
「経済、社会、環境のすべて」最優先が 4 名であっ
境」最優先が 2 グループ、⑤「経済、社会、環境の
た。
三者すべて」最優先が 1 グループであった。このと
今回の ESD 実践を通して高校生の考え方にどの
き、①「経済」最優先のグループは「まずは経済的
ような変化が見られたかと言えば、
「経済」最優先は
収入がないと何もできない」というロジックであっ
46%から 44%でほぼ横ばい。
「環境」最優先は 31%
たのに対し、②「社会」最優先のグループは「まず
から 4%に大きく減少し、
「社会」最優先は 19%か
は社会的格差を是正すべく教育の質を向上しなけれ
ら 15%でやや減少傾向であった。また、
「経済、社
ば、経済に関する知識に乏しいままでは経済成長が
会、環境のすべて」を大切にする生徒の割合が 4%
できない。ましてや環境保護にまで配慮はできない」
から 15%に増大した。さらに、当初の想定にはなか
という論理を立てた。③「経済と社会」最優先のグ
った「環境と経済の両方大切」が 15%、
「社会と経
ループは、グループとしての意見がまとまらず、
「経
済の両方大切」が 3%になった。なお、
「経済」を最
済的に安定しないと暮らしが安定しない」とする「経
優先した生徒はディスカッションを行った後も依然
済」最優先の意見と「社会が安定することで平等な
として「経済」を最優先する一方で、当初は「環境」
社会が実現し、教育が平等に受けられるようになる
や「社会」を最優先した生徒のほうは「経済」最優
ことで、みんなが経済的に安定する」とする「社会」
先の論理にゆさぶられ、そちらに引きずられていく
最優先の意見に対立が見られた。④「経済と環境」
という傾向が見られた。
最優先のグループも、全員で納得する答えを出せず、
「まずは途上国が経済発展すべきであり、それで環
3.ギムナジウム(ドイツ)での実践事例
境が悪くなれば、環境にやさしい対処をすればよい」
次に、
「ESD の三角形モデル」を用いたドイツの
とする「経済」最優先の意見と「地球によい環境で
実践事例について紹介する。この実践は、ドイツ南
ないとそもそも人間や生物が健康的に生きられない」
部バーデン・ヴュルテンベルク州 T 市のギムナジウ
とする「環境」最優先の意見の対立が見られた。ま
ムの地理の授業(わが国の高校1年生相当)で 2015
た「環境が維持されるからこそ自然や資源が活用で
年 9 月に行われたものである。この授業のテーマは
き、それが経済と社会の安定に寄与する」とする「環
「土地利用の帰結と対策について考える」である。
境」最優先の意見と「経済が発展しなければ、そこ
つまり「土地を開発すればどうなるのか、またそれ
33
にどう対応すべきかについて考えること」が授業の
設」
、
「宅地建設」ならびに「道路建設」を想定した。
課題である。それを考える際の条件として、次の3
このとき「工場建設」では、
「経済」にメリットがあ
点が示された。すなわち、①さまざまな視点に配慮
る一方、
「交通量の増加」
、
「ゴミの増加」
、
「他生物の
すること、②相互作用についてよく考えること、③
締め出し」
、
「工場までの道路整備」というデメリッ
「ESD の三角形モデル」に基づいて判断することで
トが挙げられた。また「宅地建設」では、
「住居空間
ある。実際に授業を観察してみると、次のような展
の確保」というメリットが指摘された一方で、
「ゴミ
開であった。
の増加」
、
「他生物の締め出し」
、
「住宅周辺の道路整
備」というデメリットが挙げられた。さらに「道路
(1)授業の概要
建設」では、
「移動の活性化が経済活性化をもたらす」
まず、授業の冒頭で教師が「ESD の三角形モデル」
メリットがある一方で、
「野生動物たちの生活空間の
を示し、その重心を指1本で支えながら「サステイ
遮断」や「緑地減少による洪水誘発」というデメリ
ナビリティ(持続可能性)
」の概念を説明した。すな
ットが指摘された。なお、この「グループ A」は「ESD
わち、
「経済、社会および環境のバランスを維持する
の三角形モデル」を用いた判断までは至らなかった。
次に「グループ B」は、次の図1のような結果と
ことが持続可能な社会づくりの鍵になる」というこ
とを確認した。
なった。すなわち、土地を開発すれば、洪水が起こ
次に、全生徒 15 名を4グループに分け、3グルー
りやすくなり排水の不具合が冷害を、それが都市環
プが「土地利用の帰結」について、1グループが「土
境の悪化をもたらす。また、野生動物の生活空間が
地利用の帰結と対策」について、
「ESD の三角形」
遮断され、動物による交通事故が増えるとともに動
をイメージしながら、経済、社会および環境におけ
物の子孫が減少し、それが生態系の破壊をもたらす。
るメリットとデメリットをそれぞれ列挙し、それら
さらに、交通量が増えれば二酸化炭素の排出量が増
を模造紙に図示していく作業を行った。
える。これらはいずれも気候変動をもたらす要因と
なる。なお、この「グループ B」は「ESD の三角形
(2)生徒の反応
モデル」をもとに「土地利用」は「環境」にとって
「土地利用の帰結」を議論する3グループでは、
マイナス、
「経済」および「社会」にとってはプラス
グループごとにそれぞれ次のような意見集約が見ら
に作用すると判断した。
れた。
まず「グループ A」は、土地利用として「工場建
「 土 地 利 用 」 の 帰 結
洪水
↓
排水の不具合
↓
不規則な水代謝
↓
蒸発による冷害
↓
都市環境の悪化
野生動物の生活空間の遮断
↙
↘
動物の子孫減少
野生動物の自動車事故の増加
↓
↔
生態系の破壊
交通量の増加
↓
CO2 排出量の増加
気 候 変 動
⇒ ESDの三角形に基づくバランス判断 (-) 環境 (+) 経済 (+) 社会
図1:
「グループ B」の意見集約結果
さらに「グループ C」は、最初から「ESD の三角
デメリットを列挙していた(図2参照)
。図2によれ
形モデル」の上に「土地利用」のメリットならびに
ば、
「土地利用」によって「経済」には「インフラの
34
改善」や「新工場の建設・稼働」が経済の活性化を
「 土 地 利 用 」 へ の 対 策
もたらすというメリットがある。その一方で「環境」
土地利用
には「野生の動植物の生活空間の遮断」により生物
多様性が破壊されたり、
「水循環の変化」により洪水
リスクが増加したりというデメリットがある。また
「社会」には「敷地面積縮小による生活の質の低下」
が懸念されるが「個人的な移動手段の改善」がプラ
スに作用する。しかし、全体としては「土地利用」
は「負の帰結(-)
」をもたらすという判断であった。
1.道路整備
-周辺道路の整備
-交通網の新設
-大型駐車場の建設
-速度抑制舗装を行う
-自家用車を持たない
-従来の道路を改装し新道を建設しない
-大型駐車場/地下駐車場を整備する
2.工場整備
-工場用地の確保
-倉庫用地の確保
-事務所用地の確保
-工業団地を整備する (多くの地域)
-建物を高層化する
-従来の土地を再活用する
3.宅地整備
-新規造成地域の開拓
-家族用戸建て住宅の散在所有
-住宅地を集約する
-新たな住宅モデルを示す
-改装/改築する
図3:
「グループ D」の意見集約結果
「 土 地 利 用 」 の 帰 結
環 境
対策
・野生の動植物の生活空間の遮断 (-)
⇒ 生物多様性の破壊 (-)
・水循環の変化 (-)
⇒ 洪水リスクの増加
おわりに
本稿では、
「ESD の三角形モデル」を評価の方向
(-)
目標として、すなわち ESD の取り組みを評価する
経 済
・インフラの改善 (+)
・新工場の建設・稼働 (+)
⇒ 経済の活性化 (+)
手がかりとして活用することを提案してきた。ESD
社 会
・敷地面積縮小による生活の質の低下 (-)
・個人的な移動手段の改善 (+)
は包括的・総合的な学習活動であるため、ESD で育
成されるべき資質・能力(コンピテンシー)は必ず
図2:
「グループ C」の意見集約結果
しも ESD でなければ育成できないわけではない。
他方、
「土地利用の帰結」のみならずその「対策」
とするならば、ESD の評価には「コンピテンシー」
まで議論した「グループ D」は、次のような意見集
よりも「サステイナビリティ」を手がかりとしたほ
約が見られた(図3参照)
。まず「土地利用」を「道
うが、より ESD の固有性が見えやすいと考えられ
路整備」
(周辺道路の整備、交通網の新設、大型駐車
る。このとき、環境、経済および社会のサステイナ
場の建設)
、
「工場整備」
(工場用地、倉庫用地、事務
ビリティを「統合的に」扱うための工夫として「ESD
所用地の確保)および「宅地整備」
(新規造成地域の
の三角形モデル」が大変有用であり、またこの三角
開拓、家族用戸建て住宅の散在所有)の3つに分類
形モデルの中で生徒の思考が「ゆさぶられる」こと
し、
「ESD の三角形モデル」
(持続可能性という視点)
こそが ESD 固有の目標(方向目標)となる。そう
を踏まえながら、それぞれの対策について列挙した。
考えれば、ESD の評価とは、生徒が「ESD の三角
まず「道路整備」では「速度抑制舗装を行う」
、
「自
形モデル」をめぐる数々の議論の中でどうゆさぶら
家用車を持たない」
、
「従来の道路を改装し新道を建
れ、その結果どう自分なりの立場を論理的に考える
設しない」
、
「大型駐車場/地下駐車場を整備する」
に至ったのか。それを丁寧に分析していくことであ
という対策が、次に「工場整備」では「
(多くの地域
ろう。従来の教科における成績評価は、どちらかと
に)工業団地を整備する」
、
「建物を高層化する」
、
「従
言えば、
「到達目標」を設定し、その基準や規準に到
来の土地を再活用する」という対策が、それぞれ挙
達しているかどうかで判断する「番犬型」の評価で
げられた。さらに「宅地整備」では「住宅地を集約
あった。これに対して、
「方向目標」の設定にとどま
する」
、
「新たな住宅モデルを示す」
、
「改装/改築す
らざるを得ない ESD の評価は、いま自分たちはど
る」という対策が指摘された。
こにいてこれからどうなりそうなのかを(試行錯誤
の中で)教えてくれるような「盲導犬型」の評価に
なるであろう(Dill、1998)
。このとき「ESD の三
角形モデル」がまさにその「盲導犬」が動きまわる
ための座標軸となるのである。いくら評価の専門家
が専門的な見地から ESD の実践や生徒のコンピテ
ンシーを評価したところで、その評価結果が学業成
35
績として社会的に意味を持って受け入れられにくい
2)卜部匡司「ドイツにおける ESD の概念」中山修一、
以上、
「それがどうした?」という話になる。こうし
和田文雄、湯浅清治編『持続可能な社会と地理教
た中で「ESD の三角形モデル」は、ESD の実践に
育実践』古今書院、2011 年、176-180 頁。
取り組む教師や生徒をはじめ、その観察者、また専
3)国立教育政策研究所『学校における持続可能な発
門家などがお互いに議論を展開するための「土俵」
展のための教育(ESD)に関する研究〔最終報告
として使えそうである。
書〕
』国立教育政策研究所、2012 年。
4)Dill, William R., “Guard Dogs or Guide Dogs?
参考文献
Adequacy vs. Quality in the Accreditation of
1)潮田愉子『ESD をめぐる高校生の価値認識に関す
Teacher Education”, Change, Vol.30, No.4,
る研究-カフェから見える ESD』広島市立大学国
1998, pp.13-17.
際学部卒業論文、2016 年。
36
学校における ESD で習得される知識・理解の評価の必要性
岡山大学
1.ESDにおける知識・理解の位置づけ
住野 好久
2.日本の学校 ESD における知識・理解の位置づけ
ESD は、今地球上で起きている地球の存在自体を
それに対し、日本ユネスコ国内委員会教育小委員
脅かしている様々な課題の存在とそれに取り組むこ
会 ESD 特別分科会が平成 27 年 8 月 4 日に公表した
との重要性について伝え、当事者としてこの課題の
「持続可能な開発のための教育(ESD)の更なる
解決・改善に主体的・共同的に取り組むことのでき
推進に向けて」において ESD は「知識や技能の習得
る人材を育成することを目指している。このような
に加え、人間の尊重、多様性の尊重、非排他性、機
人材の育成には、どのような教育が求められるのか。
会均等、環境の尊重等、持続可能な開発に関する価
2014 年 12 月の第 69 回国連総会において採択され
値観のほか、体系的な思考力、代替案の思考力(ク
た「ESD に関するグローバル・アクション・プログラ
リティカル・シンキング)
、データや情報の分析能力、
ム(GAP)
」において ESD は「持続可能な開発に貢献
コミュニケーション能力の育成やリーダーシップの
し、環境保全及び経済的妥当性、公正な社会につい
向上を目指すものである」と述べ、知識の習得より
ての情報に基づいた決定及び責任ある行動を取るた
も、価値観、思考力、コミュニケーション能力とい
めの知識、技能、価値観及び態度を万人が得ること」
、
った資質・能力の育成を重視している3)。
そして、
「批判的思考、複雑なシステムの理解、未来
我が国の ESD において知識・理解が軽視され、資
の状況を想像する力及び参加・協働型の意思決定等
質・能力が重視される背景に、学校教育における ESD
の技能を向上させる」ことを可能とするものとされ
が「総合的な学習の時間」において取り組まれてき
ている1)。また、2015 年 9 月 25 日第 70 回国連総会
たことを上げることができる。小学校学習指導要領
で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な
には「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主
開発のための 2030 アジェンダ」では ESD について
体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力
「2030 年までに、持続可能な開発のための教育及び
を育成するとともに、学び方やものの考え方を身に
持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平
付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的、協
和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズン
同的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考える
シップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢
ことができるようにする」ことが目標として示され
献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可
ており4)、知識習得に関わる目標はない。というの
能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習
も、総合的な学習の時間は各教科等で習得された基
得できるようにする(all learners acquire the
礎的基本的な知識・技能を関連づけて課題を探求す
knowledge
promote
る時間と位置づけられているからである。他方、教
sustainable development)」ことを目標と位置づけ
科指導の中で行なわれる ESD においては、観点別評
た
and
skills
needed
to
2)
。この2つの文書はともに ESD を通して学習者
価の4観点「関心・意欲・態度」
「思考・判断・表現」
に持続可能な開発を促進するために必要な知識や理
「技能」
「知識・理解」に基づいて行なわれるため、
解を学習者に保障することを求めている。
知識・理解が目標として位置づくこととなる。した
37
がって、日本の学校における ESD の目標や評価規準
りの環境問題に関心を持ち、理解を深め、環境保全
における知識・理解の位置づけは学校教育の領域区
へ自主的に行動を踏み出すようになることを目的と
分によって異なるものとなっている。
し、地球環境問題についての知識とその対応能力な
しかし、学校における ESD は個々の教科・領域で
どを確認するために、NPO 法人 エコリテラシー協会
バラバラに行われるものではなく、学校の教育活動
が実施するものである。
全体を通じて行われるべきであり、学校としての
この検定試験で問われる内容は、公式テキストで
ESD の目標と全体計画に基づいて実践される必要が
ある「地球教室」
(朝日新聞社)を基本とし、小学4
ある。では、学校における ESD を通じて習得させる
年生以上が知っていて欲しいエコロジーの知識、毎
べき知識・理解の内容とはどのようなものなのか。
日の生活で身につけるべき行動やニュースなどであ
3.ESD で獲得すべき共通の知識・理解とは
る。
「地球教室 基礎編」の「ティーチャーズズ・ガ
学校における ESD を通じて習得させるべき知識・
イド」にはエネルギー、自然環境、資源・ゴミの3
理解の内容を検討するために、まず、学校外での ESD
つのテーマについて学習課題と評価基準が示されて
においてどのような知識・理解の内容が求められて
いる。各テーマ毎に知識・理解に関する主な評価基
いるかを検討する。
準を示すと、以下の通りである7)。
①エネルギーから考える
(1)eco 検定(環境社会検定試験)
5)
「日本ではどのようなエネルギーを利用している
この検定は、環境意識の高まりにともない、ビジ
か知識を持っている」
「生活習慣と違いとエネルギ
ネスと環境の相関を的確に説明する力が求められる
ー消費量との関係を理解」
「日本の過去の家庭生活
今、複雑・多様化する環境問題を幅広く体系的に身
について知識を深め、背景を含めて理解できる」
に付けるとともに、環境に関する幅広い知識をもと
「現在起こっている環境変化の実態を把握し、そ
に率先して環境問題に取り組む「人づくり」
、そして、
の原因を考察できる」
「化石燃料を燃やすことは大
環境と経済を両立させた「持続可能な社会」の促進
気汚染の原因ともなり、健康にも影響を与える可
を目指して、2006 年に東京商工会議所が創設したも
能性があることについて理解できる」など
のである。
②身近な自然から考える
検定試験で問われる内容は公式テキストに示され
「森林の減少と地球の温暖化との関係について理
ているが、主に以下の内容である。
解することができる」
「自然環境の中には複数の生
①地球を知る:地球の基本知識、いま地球で起きて
態系が存在し、人間もその中で生きていることを
いること
理解できる」
「生態系における森林の重要性に気づ
②環境問題を知る:地球温暖化、エネルギー、生物
き、その機能を理解している。水の循環の仕組み
多様性・自然共生社会、循環型社会、地球環境問
を理解している」
「外来種の侵入や、一つの種の絶
題、地域環境問題
滅により、生態系のバランスが崩れる仕組みを理
③持続可能な社会へのアプローチ:地球サミット、
解することができる」など
環境基本法、環境保全における基本原則や手法、
③資源・こみから考える
環境アセスメント
「家庭から出るごみについての、種類や量など、
④各主体の役割・活動:パブリックセクターの役割・
基礎的な知識を身につける」
「自然界に出すごみを
取組、企業の環境への取組、個人の行動、NPO・主
最小限におさえる社会(循環型社会)のために、
体を超えた連携
リサイクルが必要であることがわかる」
「輸入に頼
る日本の食料事情や、旬ではない時期の食物栽培
(2)子どもエコ検定6)
にかかるエネルギー量の多さ、食品廃棄物の多さ
この検定は、一人でも多くの子どもたちが身の回
と賞味期限・消費期限について、知識を得、理解
38
を深めている」
「水質の悪化が健康に影響を及ぼす
かなう「旬産旬消」を目指していく
仕組みを、食物連鎖と関連づけて理解できる」
「水
3)京山地区について
と食、健康との関連を理解し、自らの食生活と関
・京山地区で人口割合が一番多いのはどの年代でし
連づけて考えることができる」
「水と食、健康との
ょうか?
関連を理解し、自らの健康と関連づけて考えるこ
① 20 さい台 ② 40 さい台 ③ 60 さい台
-------------
とができる」など
(3)京山ESD検定8)
(4)これらの検定に共通している知識・理解
この検定は、岡山市京山 ESD 推進協議会が主催し、
これらの検定試験で問われる知識・理解の内容は
京山 ESD 入門講座を受講した人を対象に実施されて
以下に整理できる。
いる。検定問題は全 50 問で、
「地球と世界と日本の
①地球や世界、地域社会の持続可能性がこれまでど
現状」と「ESDについて」が各 20 問ずつ、
「京山
うであり、今どうなのかに関する基礎的な知識で
地区について」が 10 問出題される。2010 年度は以
ある。例えば、自然環境やエネルギーの実態、地
下のような問題が出題された。
域社会の持続可能性に関する現状などについて知
-------------
ることである。
1) 地球と世界と日本の現状
②持続可能な社会づくりのために、どのようなアプ
・2100 年には地球の平均気温が、最大何℃上昇する
ローチ、取組が必要になるのかに関する知識であ
といわれていますか?
① 約3℃
② 約6℃
る。ESD とは何か、に関する知識も含まれる。
③ 約9℃
③地球や社会の持続可能性に関する様々な知識の背
・現在、日本人が一人あたり排出する二酸化炭素の
景や根拠、これらの知識と知識の関係や構造を理
量は、1 日平均約何キロでしょうか?
解すること、そして、持続可能な社会づくりのた
① 約3キロ ② 約6キロ ③ 約9キロ
めに何が求められているのかを理解することであ
・岡山から東京へ行く場合、次のどれが一番1人当
る。
たりの二酸化炭素排出量が多いことになるでしょ
こうした社会や地球の持続可能性に関する知識・
うか?
理解を、学校における ESD を通じても、子どもたち
① 飛行機 ② 電車 ③ 自動車
に習得させていくことが求められているのではない
2)ESD(イーエスディ)について
か。
・ESDを世界中で進めるための「ESDの10年」
4.国立教育政策研究所における「持続可能な社会
づくりの構成要素」
は、いつ始まったでしょうか?
① 2002 年 ② 2005 年 ③ 2008 年
国立教育政策研究所は、学校における ESD の学習
・
「ESDの10年」を国連に提案した国(言い出し
指導過程では「持続可能な社会づくりに関わる課題」
っぺ)はどこでしょうか?
を見出すことが求められ、そのためには「持続可能
① 日本 ② アメリカ ③ ドイツ
な社会づくり」を捉える要素(構成概念)が必要とし、
・次の中で持続可能な社会を生み出しているのはど
それを以下の 6 点、例示している9)。
れでしょうか?
①多様性(いろいろある)
① 安くて便利な100円ショップをもっと増
自然・文化・社会・経済は,それぞれの形成過程
やしていく
で様々な様相を見せ,多種多様な事物・現象が存在
② 食べ物に困らないように海外からの食料輸
している。そうした生態学的・文化的・社会的・経
入量をよりいっそう増やしていく
済的な多様性を尊重するとともに,自然・文化・社
③ 食べ物もエネルギーもそれぞれの地域でま
39
会・経済にかかわる事物・現象を多面的に見たり考
識・理解」の③にある「知識と知識の関係や構造を
えたりすることが大切である。
理解すること」に対応していると言うこともできる。
②相互性(関わりあっている)
つまり、単に断片的な知識として、例えば「熱帯雨
自然・文化・社会・経済は,それぞれが互いに働
林が乱伐され減少していること」を知るだけではな
き掛けあうシステムであり,それらの中では物質や
く、
「その事実が私たちの生活とつながっていること
エネルギー等が移動・消費されたり循環したりして
(相互性)」
「その問題の解決・改善に取り組む責任が
いる。人は,そうしたシステムとのつながりを持ち,
私たちにはあること(責任性)」などの知識・理解を
さらにその中で人と人とが互いにかかわり合ってい
習得させることこそが ESD に求められるということ
ることを認識することが大切である。
である。
③有限性(限りがある)
では、こうした構成概念を踏まえた知識・理解の
自然・文化・社会・経済を成り立たせている環境
習得はどのように評価されるのだろうか。国立教育
政策研究所が取り上げた実践事例を検討する10)。
要因や資源(物質やエネルギー)は有限である。こ
うした有限の物質やエネルギーを将来世代のために
5.【小学校 総合的な学習の時間】
「防災リーフレッ
トをつくろう」(第5学年)の検討
有効に使用していくことが求められる。また,有限
の資源に支えられている社会の発展には限界がある
(1)実践事例について
ことを認識することも大切である。
1)単元の概要
④公平性(一人一人を大切に)
本単元は,自然災害の脅威に対する危機感をもち
持続可能な社会の基盤は,一人一人の良好な生活
ながら,地震や津波にどのように対応し,どのよう
や健康が保証・維持・増進されることである。その
に自他の生命を守るかといった震災への対応力を身
ためには,人権や生命が尊重され,他者を犠牲にす
に付けるものである。平成 23 年3月 11 日に発生
ることなく,権利の保障や恩恵の享受が公平である
した東日本大震災では,本地域も甚大な被害を受け,
ことが必要であり,これらは地域や国を超え,世代
多くの児童が自宅を失うなどの経験をし,精神的に
を渡って保持されることが大切である。
も傷ついた状態にあった。自然災害の脅威とともに,
⑤連携性(力を合わせて)
自然災害を予測,対応する人間の能力や科学の力に
持続可能な社会の構築・維持は,多様な主体の連
は限界があることを踏まえて,防災について学ぶこ
携・協力なくしては実現しない。意見の異なる場合
とが必要となる。その上で,自分の命を守るととも
や利害の対立する場合などにおいても,その状況に
に,地域の幼児や高齢者,障害をもつ人々が危険に
したがって順応したり,寛容な態度で調和を図った
さらされる可能性が高いことにも目を向け,地域全
りしながら,互いに協力して問題を解決していくこ
体の人々の生命をどうやって守っていくかというこ
とが大切である。
とを思考・判断する力を身に付けさせる。そして,
⑥責任性(責任を持って)
復興に向けて,これからのまちづくりを地域との協
持続可能な社会を構築するためには,一人一人が
力の在り方を考えさせながら,防災意識の持続を図
その責任と義務を自覚し,他人任せにするのではな
るものである。
く,自ら進んで行動することが必要である。そのた
これらの活動が児童一人一人の防災意識を高め,
めには,現状を合理的・客観的に把握した上で意思
自分たちにできること,地域の人々に働きかけるこ
決定し,望ましい将来像に対する責任あるビジョン
とは何かを探究しようとする意欲を高めるものとな
を持つことが大切である。
り,地域の未来像を描きながら,自ら行動する児童
これらの構成概念は、ESD を通じて習得させるべ
を育成することにつながると考える。
き知識・理解の内容が持つべき性質を表すものであ
る。上述した「
(4)これらの検定に共通している知
40
2)ESDの視点の明確化
4)評価
【持続可能な社会づくりの構成概念】
①児童の事前と事後の意識の変化をアンケート調査
有限性:自然災害に対する人間の知識・能力には限
を通して
界があること
「いつ、どこでも安全に避難することができるか」
連携性:防災について計画実践するためには,自分
「災害を通して自分たちの生活を見直したか」
「防災
と自分を取り巻く「人」
「自然」
「地域」との
について自分たちにできることはあるか」
「これから
つながりが大切であること
安全なまちづくりは必要か」について事前事後のア
責任性:震災を乗り越え新たな地域をつくりあげる
ンケートを通して、意識の変化を把握した。
ためには,一人一人がその責任と義務を自覚
②児童が単元の最後に書いた感想の分析を通して
し自ら進んで行動すること
・
「地震や津波について知れば知るほど,絶対安全は
【重視する能力・態度】
あり得ないのだと思った。だからこそ今何をすれば
批判的に考える力:多種多様な情報の中から必要な
よいのか,何を備えればよいのかを真剣に考えた。
」
情報を収集・整理し,考えを深めながら課題
→単元の導入で,地震や津波の脅威について理解さ
を解決することができる。
せ,自然災害に対する人間の知識・能力には限界
未来像を予測し計画を立てる力:過去の災害を教訓
があるという【有限性】についての考えを深め,
に,未来に向けて,
「一人一人が心がけること,
児童自身が防災を学び,実践する大切さを感じ取
地域に働きかけること」は何かを考えること
るものとなった。また,新たな地域をつくりあげ
ができる。
るためには,生涯に渡って,一人一人がその責任
多面的,総合的に考える力:防災について自分,地
と義務を自覚し,自ら進んで行動することが大切
域,社会など,様々な視点から考えることが
であるという【責任性】を意識化させることがで
できる。
きた。
つながりを尊重する態度:防災学習を通して人同士
・
「もし,また津波が来たら,何よりも命を守る。自
のつながり,自分と地域とのつながりを大切
分も,家族も,近所の人も。より高い場所はどこな
にしようとしている。
のか,そこまで歩いて何分かかるのか。みんなの役
に立つ地図を作った。
」
「近所の人たちとのつながり
3)単元の目標
が弱いと防災がうまくいかないと思う。仮設住宅の
【関心・意欲・態度】人同士のつながり,自分と地
ように見知らぬ人たちが集まった場所では,みんな
域のつながりを大切にして,地域を災害から
で触れ合う場所と行事があるとよいと思う。
」
守ろうとする。
《関係》
→地域への聞き取り調査を通して,地域の人々とか
【思考・判断・表現】災害を様々な視点から捉える
かわりをもったことで,地域には健常な人だけで
ことで,人の力の可能性や有限性に気付き,
なく,高齢者や障害者,幼い子どもを抱える人々
未来に向けてできることを考え表現している。
の存在などに気付き,日頃から自分と自分を取り
《未来》
巻く「人」「自然」「地域」の協力が大切であるという
【技能】防災に関する多種多様な情報の中から,必
【連携性】に気付き,地域や社会との「つながり
要な情報を収集・整理し,考えを深めながら
を尊重する態度」を理解したことが分かる。
課題を解決している。
《批判》
・
「あのときは,電気も水も使えなかった。いつの間
【知識・理解】協力して防災に努めていることや,
にか,それを忘れてしまっている自分がいる。いざ
新たな地域づくりに向けて取り組んでいるこ
というときのために,今の生活を見直したい。
」
とを,理解している。
《多面》
→防災リーフレットづくりの視点を「一人一人が心
がけること,地域に働きかけること」とし,防災
41
について6つの具体的な課題で探究活動をさせた
「今何をすればよいのか,何を備えればよいのかを
ことで,児童が主体的に情報を収集・整理し,再
真剣に考えた」という記述から「責任性」を、
「近所
調査や検証実験を繰り返しながら課題を追究する
の人たちとのつながりが弱いと防災がうまくいかな
ことができた。その結果,児童は,自分たちの生
い」という記述から「連携性」を読み取っている。
活を見直し,進んで贅沢でない生活スタイルをみ
つまり、子どもたちが習得した知識・理解の内容に
んなで協力して実践することの大切さを学ぶこと
ついて、6つの構成概念をふまえた評価がなされて
ができた。つまり,
「自己制御力」という新しい能
いる。
力や態度が身に付いたと考えられる。
しかし、本実践事例では、子どもが習得した知識・
・
「わたしたちの大谷が,これからも農業や漁業がさ
理解の質について吟味がなされたり、価値づけされ
かんで,みんなが安心して生活できる,すてきなま
てはいない。つまり、
「有限性」
「責任性」
「連携性」
ちになるようにしていきたい。
」
に関する知識・理解は習得されていても、有限性の
→防災とともに「未来につながるまちづくり」とい
理解として十分であったのか、どの程度当事者とし
うテーマで授業を進めたことで,地域のよさを見
ての責任を自覚できたか、何とどうつながり、どう
つめ,自分たちが未来のまちづくりを行っていこ
つながって何をすべきかについて評価する評価基準
うとする態度が身に付いた。
もルーブリックも準備されていない。
(2)本実践事例における知識・理解の評価
6.知・力・観の一体的な育成と評価
この実践事例では、
「持続可能な社会づくりの構成
以上のように、学校における ESD において知識・
概念」として、有限性、連携性、責任性の3点が示
理解は、事例として紹介した総合的な学習の時間だ
されている。が、これらは「単元の目標」に位置付
けではなく、教科における ESD においても、目標に
いていない。
【知識・理解】の目標には、
《多面》と
は4観点の一つとして位置づけられているにもかか
いうラベルが付けられているが、これは「多面的、
わらず、その評価は十分行われていない。
総合的に考える力」という能力目標の観点から設定
知識は機械的な暗記ではなく、主体的な思考・判
したことを意味する。つまり、本実践事例では「持
断・表現を通して習得されることで活用可能な知識
続可能な社会づくりの構成概念」は知識・理解の評
となる。つまり、ESD で習得されるべき知識・理解
価の観点としては採用されていない。が、その内容
は、ESD で育まれた資質・能力が発揮され、ESD で
を見ると、「協力して防災に努めていること」
(連携
育まれるべき資質・能力が育成される過程でこそ習
性)、
「新たな地域つくりに向けて取り組んでいるこ
得される。そして、逆に、ESD で育むべき資質・能
と」(責任性)という構成概念を踏まえた内容となっ
力は ESD で習得された知識を活用する過程におい
ている。
て形成される。このような知識・理解と資質・能力
では、これらの知識・理解に関する評価はどう行
との一体的な形成によって、社会や地球を持続可能
われたのか。まず、取り組みの事前事後に子どもの
なものにするために自分は何をしなければならない
意識の変化を明らかにするためのアンケートが行わ
かという当事者としての意識・責任感や価値観が形
れている。この中で、
「いつ、どこでも安全に避難す
成される。
ることができるか」では安全な避難について知って
したがって、知識・理解、資質・能力、価値観・
いるかどうか知識を問い、
「防災について自分たちに
態度は一体的に育まれ、一体的に評価される必要が
できることはあるか」防災についての知識を問うて
ある。本稿では、その評価法については十分言及で
いる。さらに、単元終了時に子どもが書いた感想の
きず、その必要性を提起することにとどまらざるを
分析では、
「地震や津波について知れば知るほど,絶
えないが、継続して研究・実践を進めたい。
対安全はあり得ない」という記述から「有限性」を、
42
cs/youryou/syo/
注
sougou.htm
1)「持続可能な開発のための教育(ESD)に関する
5)
グローバル・アクション・プログラム」 2014 年。
エ
コ
検
定
WEB
サ
イ
ト
:
http://www.kentei.org/eco/
http://www.mext.go.jp/unesco/004/1345280.htm
6)子どもエコ検定 WEB サイト:
2)「我々の世界を変革する:持続可能な開発のため
http://www.kodomoeco.jp/
の 2030 アジェンダ」2015 年。
7)「2015 年版地球教室 基礎編 ティーチャーズ・
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf
ガイド」朝日新聞社。http://www.asahi.com/ad/
3)日本ユネスコ国内委員会教育小委員会 ESD 特別
clients/chikyu/2015pdf/TG0707.pdf
分科会「持続可能な開発のための教育(ESD)
8)京山 ESD 検定 WEB サイト:http://www.kc-
の更なる推進に向けて」2015 年。
d.net/pages/esd/esdkenteiindex.html
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/othe
9)「学校における持続可能な発展のための教育
r/micro_detail/_icsFiles/afieldfile/2015/08/04/13
(ESD)に関する研究(最終報告書)
」国立教育政
60636_02.pdf
策研究所、2012 年、3~6ページ参照。
4)文部科学省「小学校学習指導要領」2008 年。
10)同上書、43~48 ページ参照。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-
43
ESDの視点に立った学習の指導と評価
-国立教育政策研究所最終報告を踏まえて-
岡山理科大学 岡本 弥彦
1.はじめに
ESDに限定されるわけではなく,各教科等におい
学校教育においてESDの実践をより効果的に進
ても同様であるが,こうした教育活動の展開を簡潔
めるためには,ESDの視点に立った学習指導を分
に表すと,次のようになる。
析的に評価し,児童生徒の学習状況を適確に評価す
①事前に学習目標を設定する。
るなど,学習評価を充実させることが大切である。
②その目標の達成に向けて授業を実施する。
国立教育政策研究所(2012)は,
「学校における持
③指導過程や指導後に,目標に照らして評価する。
続可能な発展のための教育(ESD)に関する研究」
④評価結果を授業の工夫改善に役立てる。
を行い,カリキュラムや教材,指導方法の在り方な
こうした過程(PDCAサイクル)を繰り返すこ
どを明らかにした。その研究の最終報告(以下,
「国
とにより,ESDの視点に立った授業が改善されて
研最終報告」と略す)では,ESDの学習指導過程
いき,ESDで求められる学力が児童生徒に育成さ
を構想し展開するための枠組み(以下,
「国研ESD
れることにつながる。
枠組」と略す)が提案され,それに基づいた小・中・
したがって,ESDの視点に立った学習評価を進
高等学校での実践事例が紹介されている。
める上では,学習目標(その目標を踏まえた評価規
本稿では,それらを踏まえながら,特に「指導と
準を含めて)を明確にしておくことが必須である。
評価の一体化」の観点から,国研ESD枠組を捉え
これは当然のことではあるが,評価について議論さ
なおすことを通して,ESDの視点に立った学習の
れる際,どのように評価するかという方法論が先行
指導と評価の在り方を論じることとする。
し,目標の設定が疎かになるおそれもある。また,
評価の困難さが問題視されるような場面においても,
2.ESDの視点に立った学習評価
目標が明確になっていないが故に評価が難しくなっ
基本的に評価(教育評価)とは,教育目標を達成
ているような場合もある。評価方法の工夫改善も大
するために,トータルに教育活動をモニターして,
切であるが,評価と目標は表裏一体であると捉え,
活動を自己調整する一連の活動である(梶田,2003)
。
評価を的確に行うためには,目標(評価規準)を明
しかし,評価のついての考え方は,その位置付けや
確にすることが何よりも大切であることを指摘して
対象などにより,極めて多様である。本稿では,授
おきたい。
業に位置付けられた評価,いわゆる学習評価に焦点
化して論じることとする。つまり,学級や学年など
3.国研ESD枠組を踏まえた学習目標の設定
の中での相対的な位置付けによる成績評価や評定に
以上のことから,まずESDの視点に立った学習
ついてではなく,学習目標に準拠して授業中に行わ
指導の目標設定について述べる。ただし,ESDで
れる診断的評価や形成的評価,授業改善に役立てる
求められる価値観や行動の変革を,直接的に目標と
総括的評価を視野に入れた「指導と評価の一体化」
することや評価することには無理がある。そのため,
の観点から論じたい。
価値観や行動の基盤となる概念形成や能力育成など
ESDの視点に立った学習評価を進めるというこ
を,学習指導の文脈から規定する必要があると考え
とは,ESDの視点に立った学習目標を設定し,そ
る。そこで,本稿で取り上げたものが国研ESD枠
れに準拠した評価を行うということである。これは
組である。
44
(1)国研ESD枠組の構成
や概念を身に付けさせたいのか,を表したものであ
図1に,国研ESDの枠組を示す。この枠組では,
る。
ESDの視点に立った学習指導の目標を「持続可能
6つの構成概念(視点)は,環境・社会・経済を
な社会づくりに関わる課題を見いだし,それらを解
システムとして捉えて提案されたものである。シス
決するために必要な能力や態度を身に付ける」と設
テムとは,多様な構成要素から成り立ち,それらが
定している。その上で,持続可能な社会づくりを捉
互いに関連し合い,なおかつ全体で機能しながら,
えるための構成概念(Ⅰ多様性,Ⅱ相互性,Ⅲ有限
ある方向へと不可逆的に変化しているものと捉える
性,Ⅳ公平性,Ⅴ連携性,Ⅵ責任性)と,重視する
ことができる。また,6つの構成概念(視点)は,
能力・態度(❶批判的に考える力,❷未来像を予測
環境と人間の2つの側面からも捉えている。これを
して計画を立てる力,❸多面的,総合的に考える力,
表したものが,図2である。2×3のマトリックス
❹コミュニケーションを行う力,❺他者と協力する
構造を成している。
「多様性」
,
「相互性」
,
「有限性」
態度,❻つながりを尊重する態度,❼進んで参加す
は,人を取り巻く環境(自然環境や社会環境などを
る態度)が例示されている。さらに,授業を進める
含めた広義の環境)を捉えるための視点である。つ
上での留意事項(①教材のつながり,②人のつなが
まり,我々の周りの世界や,我々が対峙している事
り,③能力・態度のつながり)が示され,これら6
物・現象がどのようになっているかを捉えようとす
つの構成概念,7つの能力・態度,3つのつながり
る「実態概念」である。そして,その上で,人の意
が,ESDの視点として提案されている。
思・行動に関する側面として,
「公平性」
,
「連携性」
,
「責任性」が位置付けられている。これらは,我々
の世界を持続可能なものにするには,どうすればよ
いのか,どのようにする必要があるのかを捉えよう
とする「規範概念」である。このように,6つ構成
概念は羅列的なものではなく,システムの考え方の
上に,実態と規範のバランスを取ることに視点を置
いて設定されたものである。
図1 国研ESD枠組(国立教育政策研究所,2012)
(2)国研ESD枠組に基づいた学習目標の設定
学習指導要領に定められた各教科等では,学習指
図2 6つの構成概念の関係
導要領で規定されている目標やねらいに準拠した評
国立教育政策研究所(2012)を基に筆者作成
価を進めることが原則であるが,ESDの場合は,
独自に学習目標に相当するものを設定した上で,指
学習目標を設定する上では,6つの構成概念は,
導と評価を進めていく必要がある。そこで,国研E
児童生徒に身に付けたい概念であり,換言すれば,
SD枠組に基づいた学習目標の設定について述べる。
環境・社会・経済に関して,児童生徒に気付かせた
いこと,あるいは理解させたいこと,認識を深めさ
1)6つの構成概念に基づいた学習目標の設定
せたいことなどを概念的に表したものと言える。
ESDで取り扱う内容は,
「環境」
,
「社会(文化を
したがって,これらを校種や児童生徒の発達段階,
含む)
」
,
「経済」が基盤になっているが,これらの内
教科等の特性などに応じて具体化することにより,
容を捉えるための視点が,6つの構成概念である。
ESDの視点に立った学習指導の目標(評価規準)
環境・社会・経済に関わる教材を授業で取り扱う場
が明確になる。6つの構成概念に基づいた学習目標
合に,教師がどのような視点でその教材を解釈した
の例を表1に示す。例えば,
「多様性」では「各地域
らよいのか,あるいは,児童生徒にどのような知識
には,地形や気象などに特色があることを理解する
45
表1 6つの構成概念に基づいた学習目標(例)
表2 7つの能力・態度に基づいた学習目標(例)
Ⅰ多様性の例
❶批判的に考える力の例
○生物は,色,形,大きさなどに違いがあることに気付く。
○他者の意見をよく検討して採り入れることができる。
○各地域には,地形や気象などに特色があることを理解する。
○ 積極的に,よりよい解決策を考えることができる。
Ⅱ相互性の例
❷未来像を予測して計画を立てる力の例
○生物が周辺の環境と関わって生きていることに関心を持つ。
○見通しや目的意識を持って計画を立てることができる。
○食料には外国から輸入しているものがあることを理解する。
○他者の受け取り方を想像して計画を立てることができる。
Ⅲ有限性の例
❸多面的,総合的に考える力の例
○土地は,火山の噴火などによって変化することを理解する。
○廃棄物も見方によっては資源になると捉えることができる。
○物や金銭の計画的な使い方に関心を高める。
○様々なものごとを関連付けて考えることができる。
Ⅳ公平性の例
❹コミュニケーションを行う力の例
○自他の権利を大切にすることについて認識を深める。
○自分の考えをまとめて簡潔に伝えることができる。
○差別せず,公正・公平に努めることが大切であると認識する。
○自分の考えに,他者の意見を取り入れることができる。
Ⅴ連携性の例
❺他者と協力する態度の例
○地域の人々が協力して,減災に努めていることを理解する。
○相手の立場を考えて行動することができる。
○謙虚な心を持ち,自分と異なる意見も大切にしようとする。
○仲間を励ましながらチームで活動することができる。
Ⅵ責任性の例
❻つながりを尊重する態度の例
○国際社会における日本の重要な役割を理解する。
○自分が様々なものごととつながっていることに関心を持つ。
○家庭で自分の担当できる仕事があることに気付く。
○いろいろなもののお陰で自分がいることを実感する。
国立教育政策研究所(2012)を基に筆者作成
❼進んで参加する態度の例
○自分の言ったことに責任を持ち,約束を守ることができる。
○進んで他者のために行動することができる。
ことができる。
」などが,
「連携性」として「人々が
国立教育政策研究所(2012)を基に筆者作成
協力して災害の軽減に努めていることを認識でき
る。
」などが,それぞれの構成概念を取り上げたとき
とができる。
」などが,
「つながりを尊重する態度」
の学習目標や評価規準となる。
として「自分が様々なものごととつながっているこ
とに関心を持つ。
」などが,それぞれの能力・態度を
2)7つの能力・態度に基づいた学習目標の設定
ねらいにしたときの学習目標や評価規準となる。
7つの能力・態度は,国研ESD枠組を構築する
際に,日本の学校教育でESDを進めることが前提
3)4つの評価の観点におけるESDの視点
となることから,
「生きる力」
(
「確かな学力」
,
「豊か
な人間性」
)を基本に位置付けるとともに,他の先行
現行の学習指導要領における学習評価では,観点
事例の中で取り上げられている多様な能力・態度を
別の学習状況の評価,いわゆる4つの評価の観点
分析することを通して,抽出・整理されたものであ
(
「関心・意欲・態度」
,
「思考・判断・表現」
,
「技能」
,
る。また,国際標準の学力とされるOECDのキー・
「知識・理解」
)に基づいた学習目標を設定して評価
コンピテンシー(
「相互作用的に道具を用いる」
「異
することが一般的である。ESDの視点に立った学
質な集団で交流する」
「自律的に活動する」
)との関
習においても,4つの評価の観点に基づいて指導と
連性も見据えながら設定されている(岡本,2014)
。
評価を進めていくことが可能である。表3は,ES
学習目標を設定する上では,7つの能力・態度は,
Dの視点に基づいて作成された「評価規準に盛り込
文字どおり能力や態度であり,持続可能な社会づく
むべき事項」の例(岡本・五島,2014)を簡略化し
りに関わる課題に自ら取り組もうとする意欲・態度
て表したものである。より具体的な評価規準の例は,
や,習得した知識・技能を活用したり,他者と協働
後述の実践事例の中で示す。
なお,総合的な学習の時間では,評価の観点も学
したりして課題を解決する思考力・判断力・表現力
校独自で設定することが可能であるため,4つの観
などを表したものと言える。
7つの能力・態度に基づいた学習目標の例を表2
点とは異なる観点として,ESDに特化した観点(例
に示す。例えば,
「批判的に考える力」として「他者
えば,実践や参画に関する観点)を設定することも
の意見や情報を,よく検討・理解して採り入れるこ
可能であろう。
46
表3 ESDの視点に基づいた評価規準(例)
えることができる。」,➏つながりを尊重する態度
関心・意欲・態度
思考・判断・表現
技能
知識・理解
「 防災学習を通して人同士のつながり,自分と地域
自分と社 会と
のつながりに関
心を持っている。
他者と協 力し
て物事を進めよ
うとしている。
集団での 自分
の発言に責任を
持っている。
客観的な 情報
に基づいて建設
的に考えること
ができる。
未来を予 想し
ながら計画する
ことができる。
自然界の つな
がりを多面的に
考えている。
自分の気 持ち
を分かりやすく
伝える方法を身
に付けている。
自分の考 えを
他者と共有する
方法を身に付け
ている。
人・もの ・こ
と・社会・自然な
どのつながりや
広がりを理解し
ている。
集団や社 会に
おける自分の役
割を理解してい
る。
とのつながりを大切にしようとしている。
」を取り上
げている。
これらに基づいて,4つの評価の観点からの単元
目標を,次のように設定している。
【関心・意欲・態度】人同士のつながり,自分と地
域のつながりを大切にして,地域を災害から守ろ
うとする(Ⅳ連携性,➏つながりを尊重する態度)
。
岡本・五島(2014)を基に筆者作成
【思考・判断・表現】災害を様々な視点から捉える
ことで,人の力の可能性や有限性に気付き,未来
4.国研ESD枠組に基づいた指導と評価の実際
に向けてできることを考え表現している(Ⅲ有限
以上述べた国研ESD枠組に基づいた学習目標の
性,➋未来像を予想し計画を立てる力)
。
設定を踏まえた上で,小・中・高等学校における実
【技能】防災に関する多種多様な情報の中から,必
践例を紹介する。
要な情報を収集・整理し,考えを深めながら課題
を解決している(➊批判的に考える力)
。
(1)小学校「総合的な学習の時間」での事例
【知識・理解】協力して災害に努めていることや,
1)概要
新たな地域づくりに向けて取り組んでいることを
本事例は,宮城県気仙沼市立大谷小学校・第5学
理解している(Ⅵ責任性,➌多面的,総合的に考
年の総合的な学習の時間において,
「防災リーフレッ
える力)
。
トをつくろう」をテーマに,自然災害の脅威に対す
る危機感を持ちながら,地震や津波にどのように対
3)単元計画(総時数 20 時間)
応し,どのように自他の生命を守るかといった震災
第一次 地域の防災についてみつめよう
への対応力を身に付けることを目指して取り組んだ
第1時 家族や地域の人々を対象に,震災時の行動や避
ものである(国立教育政策研究所,2012)
。東日本大
難の状況,問題点について聞き取り調査を行う。
震災(平成 23 年3月 11 日)の直後におけるESD
第2時 聞き取り調査の結果をまとめる。
の視点に立った防災学習としての実践である。
第3・4時 気仙沼市の防災対策を,市の危機管理課の
担当者から聞き,気付いたことやさらに知りたいこと
について,質問したり話し合ったりする(Ⅴ連携性)
。
2)ESDの視点に基づいた学習目標の設定
第二次 大谷の防災について考えよう
構成概念については,Ⅲ有限性「自然災害に対す
第5・6時 震災前後の状況を表した映像や写真を見て,
る人間の知識・能力には限界があること」
,Ⅴ連携性
自分たち地域の防災上の課題について,パネルディス
「防災について計画,実践するためには,自分と自
カッションで話し合う(Ⅲ有限性)
。
分を取り巻く人・自然・地域とのつながりが大切で
第7時 大谷の防災について,
「一人一人が心掛けるこ
あること」
,Ⅵ責任性「 震災を乗り越え,新たな地
と,地域に働き掛けること」をテーマに話し合う。
域をつくりあげるためには,一人一人がその責任と
第三次 防災リーフレットをつくろう
義務を自覚し,自ら進んで行動すること」を取り上
第8時 地域の防災として,どんなことが考えられるか
を話し合い,課題を設定する。
げている。
第9時 課題別のグループを編成し,情報収集や取材活
能力・態度については,➊批判的に考える力「防
動の役割分担をする。
災に関する多種多様な情報の中から,必要な情報を
第10~12時 課題別グループごとに,集めた情報や資料
収集・整理し,考えを深めながら課題を解決するこ
を基に,どのように防災リーフレットに表現するかに
とができる。
」
,➋未来像を予測し計画を立てる力「過
ついて話し合い,作業計画を立て,まとめる。
去の災害を教訓に,未来に向けて,一人一人が心掛
第13時 集めた情報や調べた結果を整理して,防災リー
けること,地域に働き掛けることは何かを考えるこ
フレットの原案を作り,発表する(Ⅴ連携性)
。
とができる。
」
,➌多面的,総合的に考える力「防災
第14~17時 防災リーフレットのレイアウトに課題別の
について自分・地域・社会など,様々な視点から考
原案を当てはめて作成する。
47
第四次 大谷の防災についてまとめよう
ュニケーションの手段として理科の学習に取り入れ,
第18・19時 作成した防災リーフレットを基に学級防災
身の回りの自然の多様性や有用性,地域の自然環境
会議をし(Ⅵ責任性)
,自分がすべきこと,地域に働き
の探究・保全の大切さについての認識を深めること
掛けることを視点に話合う。
を目指して取り組んだものである(岡本ほか,2014)
。
第20時 「大谷小防災リーフレット」の発表会を開く。
取り上げた教材は,砂(鉱物)で,自然の構成物
である鉱物をローカルな視点とグローバルな視点か
4)感想文による評価
ら捉えるとともに,体験的で参加型の授業を展開し
本事例では,単元最終時に児童に感想文を書かせ
た実践である。
ている。教師は,その感想文から,本単元で取り上
げた3つの構成概念(Ⅲ有限性,Ⅴ連携性,Ⅵ責任
2)ESDの視点に基づいた学習目標の設定
性)に関連する児童の気付きや意識を評価すること
構成概念については,Ⅰ多様性「身近な地域や世
ができている。
界には多種多様な鉱物が存在していること」
,Ⅱ相互
◎児童の感想文(一部抜粋)
性「鉱物は地球システムという広い空間での物質循
児童A「地震や津波について知れば知るほど,絶対安全
環の中で形成されていること」
,Ⅲ有限性「宝石鉱物
はあり得ないのだと思った。だからこそ,今何をすれ
や資源鉱物は,限られた場所にしか存在しなく,そ
ばよいのか,何を備えればよいのかを真剣に考えた。
」
れらの採掘には限界があること」
,Ⅵ責任性「将来に
渡って地域の自然を保全することが大切であること」
児童B「もし,また津波が来たら,何よりも命を守る。
を取り上げている。
自分も,家族も,近所の人も。より高い場所はどこな
能力・態度については,➌多面的,総合的に考え
のか,そこまで歩いて何分かかるのか。みんなの役に
る力「鉱物の特徴を,外観とともに成因や性質など
立つ地図を作った。
」
からも捉えるとともに,その特徴が日常生活に活か
児童C「近所の人たちとのつながりが弱いと防災がうま
されていることに気付くことができる。
」
,➍コミュ
くいかないと思う。仮設住宅のように見知らぬ人たち
ニケーションを行う力「観察結果や自分の考えなど
が集まった場所では,みんなで触れ合う場所と行事が
を適切に表現し,それを英語で相手に伝えることが
あるとよいと思う。
」
できる。
」を取り上げている。
これらに基づいて,4つの評価の観点からの単元
目標を,次のように設定している。
◆教師による評価
【関心・意欲・態度】鉱物の美しさと多様性を感じ
児童Aは,自然災害に対する人間の知識・能力には限
取るとともに,身近な鉱物を通して,自然を探究・
界があるという「有限性」についての考えを深め,児童
保全することへの関心・意欲を高める(Ⅰ多様性,
自身が防災を学び,実践する大切さを感じ取るものとな
Ⅲ有限性,Ⅵ責任性,➌多面的,総合的に考える
っている。また,新たな地域をつくりあげるためには,
力)
。
生涯に渡って,一人一人がその責任と義務を自覚し,自
【思考・判断・表現】観察や標本づくりを通して,
ら進んで行動することが大切であるという「責任性」に
鉱物と火成岩とを関連付けて考え,砂の多様性に
関する意識を高めている。
気付くことができる(Ⅰ多様性,Ⅱ相互性,➌多
児童B・Cは,地域には健常な人だけでなく,高齢者
面的,総合的に考える力)
。また,観察結果や自分
や障害者,幼い子供を抱える人々の存在などに気付き,
の考えなどを英語を用いて他者に伝えることがで
日頃から,自分と自分を取り巻く「人」
「自然」
「地域」
きる(➍コミュニケーションを行う力)
。
【技能】主要な鉱物の鑑定ができ,標本を作成する
のつながりが大切である「連携性」に気付いている。
ことができる。
【知識・理解】火成岩の主な造岩鉱物の名称や特徴
(2)中学校「教科の連携」での事例
についての知識を身に付け,鉱物が地球システム
1)概要
の構成物であることを理解している(Ⅱ相互性,
本事例は,岡山市立京山中学校・第3学年におい
➌多面的,総合的に考える力)
。
て,教科(理科と外国語)を連携させ,英語をコミ
48
3)単元計画(総時数3時間)
解できたか〔発表〕
。
7 観察結果と方解石の性質を関連付けて考える。
第1時「中学校のグラウンドの砂は,どのような鉱物から
8 岡山県での鉱物の採掘や研究の実態や歴史を知る。
できているのか?」
<評価>郷土のよさを発見し,大切にしようとする意識を
1 班ごとにグラウンドの砂(マサ)を採取する。
もてたか〔発表〕
。
2 1学年での大地の変化で学習した,火成岩をつくる鉱
9 本時のまとめをする。<評価>鉱物が地球の構成物であ
物を確認する。<評価>火成岩の主な造岩鉱物の名称を答
ること,鉱物に多様性や有用性があることなどが理解で
えることができたか〔発表〕
。
きたか〔発表,質問紙〕
。
3 採取した砂をふるいに掛けた後,水で十分に洗浄す
る。<評価>斑で役割を分担し,観察のために協力して準
注)<評価>の場面での〔 〕は,評価方法を示す。
備を進めているか〔教師による観察〕
。
4 洗浄した砂をスライドガラスに載せ,顕微鏡で観察す
4)質問紙調査による評価
る。
本事例では,単元最終時に,生徒が3時間の授業
5 ワークシートに,砂の形をスケッチし,観察結果を記
それぞれについて最も印象に残ったことを記述する
録する。
6 砂を標本台紙に貼り付け,含まれる鉱物の名称などを
質問紙調査を実施している。教師は,その結果から,
記入する。<評価>観察した事実を,適切な言葉で記録で
本単元で取り上げたESDの視点(Ⅰ多様性,Ⅱ相
きているか〔標本台紙の記載内容〕
。
互性,➌多面的,総合的に考える力,➍コミュニケ
7 観察結果を発表する。
ーションを行う力)に関連する生徒の意識や理解度
8 グラウンドの砂はどんな火成岩からできたものかを
を評価することができている。
考える。<評価>観察結果から,グラウンドの砂が花こう
◎質問紙(記名,記述式)と回答例
岩からできたものであることを見いだせたか〔発表〕
。
問 3時間の授業のそれぞれについて,最も印象
第2時「世界の砂を観察し,英語で表現しよう!」
に残っていることを書いてください。
1 英語で挨拶し,前時の復習をする。
(1) 1時間目の「京山中のグラウンドの砂は,ど
2 本時の学習課題を設定する。
のような鉱物からできているのか」について
3 砂とその産出場所の写真を見て,砂の特徴を知り,産
・1年のときに習った鉱物が身近なグラウンドにもある
出場所の地球上での位置を確認する。また,鉱物の特徴
と知り驚いた。
などについての感想を英語で発言する。<評価>英語で積
・自分が生きている場所が何でできているか知れてよか
極的にコミュニケーションしようとしているか〔教師に
よる観察〕
。
った。
4 各班で世界の8種類の砂を顕微鏡で観察する。
・岡山に花こう岩が多いことは知っていたけれど,グラ
<評価>鉱物の美しさと多様性を感じ取ることができた
ウンドのもとが花こう岩とは知らなかった。
か〔教師による観察〕
。
(2) 2時間目の「世界の砂を観察し,英語で表現
5 観察した世界の砂の標本を作成する。第1時で作成し
しよう」について
た標本台紙に,世界の砂を貼り付け,産地,鉱物名,色,
・世界には多種多様な砂があって,見たこともない鉱物
形などの特徴を英語で記入する。
が見られて勉強になった。
6 世界の砂を観察した感想や,標本づくりをした感想な
どを英語で発言する。<評価>鉱物の特徴などを英語で表
・南極の砂が赤く,ハワイの砂が緑色なのが不思議だっ
現できたか〔発表〕
。
た。
・感じたことを上手く英語にして伝えることは難しかっ
第3時「鉱物と私たちの暮らしとの関連を知ろう!」
1 前時までの復習をする。
たが,楽しかった。
2 本時の学習課題を確認する。
「鉱物」とは何か,何種
(3) 3時間目の「鉱物と私たちの暮らしとの関連
類あるのか,日常生活とどんな関わりがあるかなど。
を知ろう」について
3 鉱物の定義・成因を知る。<評価>鉱物が地球システム
・意外にも自分の身の回りに鉱物があったので驚いた。
の構成物であることを理解できたか〔発表〕
。
・いろんな鉱物がいろんな用途に使われていることが分
4 鉱物の性質と用途との関連を考える。
かった。
5 方解石の硬度をガラスと比較する。
・鉱物は私たちの生活を支えてくれていると思った。
6 方解石のへき開や希塩酸との反応を観察する。
<評価>方解石がクレンザーに使用されている理由が理
49
ステップ3(9月)
◆教師による評価
第1時に関しては,身近な場所での鉱物の起源に目を
ステップ2で行った取組について考察・分析し
向け,鉱物と火成岩とを関係付けて捉えていること(相
たものを地域に向けて発信する。
(むかし倉敷ふ
互性)が確認できた。
れあい祭,各グループ独自の場)
ステップ4(10~2月)
第2時に関しては,世界の砂の美しさと「多様性」を
感じ取っていることや,英語による交流(コミュニケー
ステップ3までの活動のすべてを分析・評価
ションをする力)の楽しさを実感していることが確認で
し,次年度の目標を確認する。その内容を報告し,
きた。
成果を共有する。
(実践報告会,個人研究レポー
ト,到達度自己評価)
第3時に関しては,各鉱物の特徴を多面的に捉え,そ
の特徴が日常生活に活かされていることに気付いてい
4)活動報告における生徒の自己評価
ること(多面的,総合的に考える力)が確認できた。
生徒は,ステップ4での実践報告として,各グル
(3)高等学校「総合的な学習の時間」での事例
ープ4ページ程度で報告書を作成している(岡山県
1)概要
立林野高等学校MDP委員会,2015)
。その中の「考
本事例は,岡山県立林野高等学校の総合的な学習
察とまとめ」において,6つの構成概念に基づいた
の時間「マイ・ドリーム・プロジェクト(MDP)
」
自己評価を行っている。3つのグループの報告(自
において,
「地域で活躍し,地域を育てることができ
己評価)を例示する。各グループとも,6つの構成
る人材の育成」を目指し,3学年合同の縦割りグル
概念に基づいた意識の高まりや認識の深まり,今後
ープ編成による課題発見・解決型の学習として取り
の活動への展望などを自己評価することができてい
組んだものである(岡山県立林野高等学校,2014)
。
る。
①福祉で社会の役に立ちたいグループ
「地域」を基本的な共通テーマとして,グループ
ごとに「心と脳の不思議」
「ものや芸術の創造」
「人
「施設体験を通し,地域福祉の現状と知識を深め,今後
体の仕組み・健康」など,多様なテーマを設定して
の看護・リハビリのあり方について考える。
」
探究活動を展開する実践である。
◆考察とまとめ
2日間の体験を通し,学んだことの第1は,コミュニ
ケーションを上手くとるには,どこに行っても大きな声
2)ESDの視点に基づいた学習目標の設定
と笑顔で挨拶をする事が大切ということ。これは,社会
構成概念については,教師が設定するのではなく,
生活上の常識であり,もっとも大切な事である。
(相互
生徒が探究活動を進めていく過程において,各グル
性)
ープのテーマについての気付きや認識などを言語化
第2は,高齢化が進み施設介護から在宅介護へと進む
して自己評価するために用いられている。そのため,
現在,医療・介護・福祉のスムーズな連携と,きめの細
探究活動に入る前に,教師が6つの構成概念の意味
かいサービスの提供が必要である。看護・リハビリはそ
や内容を生徒に説明している。
れを支える重要な仕事の一つであり,福祉社会を担う医
能力・態度については,7つの能力・態度を,更
療関係の仕事の需要は,今後,増加すると推測される。
に 22 の能力・態度に細分化し,これらに基づいて,
(連携性)
活動到達度自己評価シートを作成している(岡山県
第3は,看護とか理学療法士は,自分達が思っている
立林野高等学校MDP委員会,2015)
。
より地味な仕事である。患者さんや利用者の方に寄り添
い,心身共にケアすることを学んだ。
(公平性,責任性)
3)年間活動計画
今後も,自分の将来の夢(看護師・理学療法士)が実
ステップ1(4月)
現できるように頑張り,地域の方々のお役に立ちたいと
短期・中期目標(パフォーマンス課題)を決定
考える。
する。
②ものや芸術を創造することに関心があるグループ
ステップ2(5~8月)
「理美容・音楽・ものづくりのそれぞれの視点から,美
的な空間・心地よい空間・癒やしの空間・おもてなしの
課題解決に向けて取り組む。
(デアイ場「地域
空間づくりについて探究する。
」
の達人」講座,体験学習,宿泊研修,講演など)
50
◆考察とまとめ
とが,持続可能な社会の形成者としてふさわしい資
<前略>以上のことから,今年度の活動をESDの構成
質や価値観の醸成につながると考える。
ただし,本稿では評価方法の工夫改善や評価結果
概念に当てはめて考えると,以下の活動に成果がみられ
た。
を踏まえた授業改善を論じるまでには及ばなかった。
多様性…美作地域の自然や食,自然の音など様々なもの
パフォーマンス評価やポートフォリオ評価などを取
を活用して癒やしの空間づくりや美の追究ができる
り入れた指導と評価の在り方についても検討し,そ
のではないか。
れらを活用した実践を進めていくことも必要である。
相互性…外見の美しさは内面のからの健康や美しさと
また,本稿では,学習評価に焦点化して論じたが,
関わり合っている。様々な角度から癒やしの空間の演
授業評価やカリキュラム評価,さらには学校評価な
出を考えることで,相乗効果を生むことができる。
どについても議論を深める必要がある。国研ESD
連携性…地域の方や取組の切り口の違うチームと連携
枠組の中の3つのつながりについては,本稿ではあ
して活動を行ったことで,深みや広がりのある活動が
まり触れなかったが,①教材のつながりでは,例え
できる。
ば,クロスカリキュラムやカリキュラム・マネジメ
③人体の仕組みや健康について関心のあるグループ
ント等に関して,②人のつながりでは,アクティブ・
「成長期にあたる林野高校生のスポーツができる体作
ラーニングや地域連携,国際交流等に関して,③能
り・脳を活性化させることを目指す。
」
力・態度のつながりでは,価値観や行動の変革まで
◆「食育アンケート」の結果と課題について
も視野に入れた人格形成等に関して,授業評価・カ
<前略>以上のことから,朝食を取ることの意味を考え
リキュラム評価・学校評価等の指標の例として活用
た結果,朝食をとることによって,必要な要素,多様性,
できると考える。これらの具体化についても,今後
相互性,有限性,公平性,連携性,責任性の6つの項目
の課題としたい。
を,ほとんど満たすことができることがわかった。具体
的には,
参考文献
多様性は,味,食材,コミュニケーション,調理の仕
1)梶田正巳『新版学校教育辞典』
,教育出版,pp215,
方,季節,見た目,香り,伝統,栄養。
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相互性は,季節,家族,食材,文化,栄養,調理方法,
2)国立教育政策研究所『学校における持続可能な発
人と人,
(友達,家族,作った人)
,自然。
有限性は,調理方法,味,職人,水,土,肥料。
展のための教育(ESD)に関する研究最終報告書』
,
公平性は,食材(食べる量)
,栄養。
2012
連携性は,地域の味,家庭の味,調理方法,農家。
3)岡本弥彦「ESDを学校教育でどのように指導す
責任性は,節約(水,電気)
,味を受け継ぐ,調理方
るか-持続可能な社会づくりに必要な能力や態度に
焦点を当てて-」
『教育展望 11 月号』
,教育調査研究
法,食に関する判断力。
所,pp49-54,2014
5.おわりに
4) 岡本弥彦・五島政一「学校教育におけるESD推
学校教育でのESD推進に当たって,ESDの視
進の枠組み」
『環境教育とESD』
,日本環境教育学
点に立った学習目標や評価規準を明確にすることが
会,pp103-110,2014
重要であることを指摘した。そのための一つの例と
5) 岡本弥彦・五島政一・徳山順子・竹島 潤「中学
して,国研ESD枠組の6つの構成概念と7つの能
校におけるESDの枠組みを生かした授業実践-教
力・態度を取り上げ,学習目標の設定について具体
科(理科,外国語)の連携を通して-」
『日本環境教
的に論じることができた。そして,小・中・高等学
育学会関東支部年報』
,№8,日本環境教育学会関東
校での教科や総合的な学習の時間において,構成概
支部,pp67-72,2014
念や能力・態度を4つの評価の観点に位置付けなが
6)岡山県立林野高等学校「My Dream is Our Dream!
ら授業を展開することや,生徒の自己評価の指標と
~地域連携型ESDへの取組~」
『中等教育資料』
,
して活用することが,ESDの視点に立った学習の
№934,文部科学省,学事出版,pp30-35,2014
指導と評価の充実につながっていくことを例示する
7)岡山県立林野高等学校MDP委員会『平成 26 年度
ことができた。こうした教育実践を継続していくこ
マイドリームプロジェクト活動の記録』
,2015
51
「学び」の一環としての「評価」
協働型で行うプログラム評価の可能性
東洋大学
1.はじめに:問題の所在
米原 あき
て、本稿で提案するのは以下の 3 つの転換である。
「国連 ESD10 年」を経て、ESD の実践がひろまりつ
①定義自体が不明瞭な ESD に対する評価の考え方
つあるなかで、
「ESD の評価は難しい」という声をあち
こちで耳にする。その「難しさ」は何に起因するのだ
⇒ 事後的・総括的な評価から、形成的・協働的な評価
への転換
ろうか。
②ESD 評価の目的と意義についての考え方
ひとつには、ESD 自体の定義が明確でないため、評
価指標の立てようがない、という点に起因する難しさ
⇒ 説明責任・順位付けのための相対評価から、個々の
改善のための絶対評価への転換
である。事前に目指すべきゴールを設定し、その目標
③ESD 評価を行うシステムについての考え方
をどれくらい達成できたのかを事後的に計測すること
によって説明責任を果たす、という「総括的な評価」
⇒ 個別的・独立型の評価から、包括的・プログラム型
の評価への転換
の考え方で評価を捉えると、定義も不明瞭で事前に明
以下では、
これらの点について考察、
検討していく。
確なゴールを描くことが難しい ESD の評価は、確かに
困難である。
2.
「評価」とは何か:評価概念を構成する 3 つの価値
ふたつめは、ESD を評価したところで何の役に立つ
Scriven(1991)によれば、
「評価(evaluation)
」と
のか分からない、という点である。そもそも学習者主
は、
「物事の本質的な価値・外的な価値・社会的な価値
体で多様な教育活動を展開する ESD は、単純な知識の
を判断する総合的なプロセス」である(Scriven 1991,
獲得や他者との競争を前提としていないため、評価の
p.139;佐々木 2010)
。本質的な価値(intrinsic value)
結果を比較や順位付けに用いることの意義はほとんど
とは、その対象そのものの「善さ」に関わる価値であ
ない。
「相対的な評価」という視点から ESD 評価を捉え
り、外的な価値(extrinsic value)とは、価格や点数
ると、確かに ESD 評価の意義は曖昧である。
などによって外的な観点から「品定め」された値打ち
最後に、ESD の諸活動をどのレベルで評価すればい
を意味する。そして社会的な価値(societal value)
いのか不明確である、という点も困難性のひとつに数
とは、その対象が社会に対してひろく及ぼし得る影響
えられる。すべての教育活動にあてはまることだが、
やその対象がもたらす社会的な意義を指す。
「評価」と
「教育評価」には重層性があり、学習者の評価、教育
いう概念は、このような 3 つの異なる側面を含んでい
活動自体の評価、学校評価など、評価の対象は重層的
る。
で幅広い。特に ESD 活動の場合、学校外のフィールド
しかしながら、今日の日本社会で一般に用いられる
や関係者とのかかわりの中で活動が展開されるケース
「評価」という言葉は、上述の定義のうちの「外的な
も少なくないことから、それらの活動についても個別
価値」を意味することが多い。
「外的な価値の評価」と
的に評価の対象にしなければならないとしたら、確か
は、
「ある投入に見合うだけの成果が得られたか」とい
に評価は大変な負担となる。
う費用便益的な考え方を基礎に持つ。教育の文脈で言
本稿では、ESD 評価を困難にしている要因と考えら
えば、
「教師が教えたこと(投入)に対する学習者の理
れるこれらの点について考察し、これらの困難に挑戦
解度(成果)
」や「学校の取り組み(投入)に対する教
する方途として、プログラム評価という評価理論の応
育効果(成果)
」などの評価がこれに該当する。教育現
用可能性について検討する。上記 3 点の問題点に対し
52
場も様々な方面から説明責任が求められる今日、
「外的
化している(西岡 2003; 松下 2012, 2015 など)
。
な価値」を評価することの重要性は言うまでもなく、
また、もうひとつの今日的な評価の潮流として、学
更に、
「投入に対する成果」に関する評価情報は、学習
校評価が挙げられる。2006 年 3 月に『義務教育諸学校
者や教育活動の改善にも資する可能性があり、その重
における学校評価ガイドライン』が策定され、翌 2007
要性は否定されるべきものではない。
年には学校教育法と学校教育施行規則の改正によって、
一方で、
「外的な価値の評価」のみが過度に重視され
自己評価の義務化と学校関係者評価の努力義務化なら
ることにより、
「本質的な価値」や「社会的な価値」に
びに評価結果の設置者への報告に関する規定が設けら
対する評価の視点が看過されていないだろうか。
「外的
れた。文部科学省による 2008 年の調査によれば、95%
な価値の評価」と違って数値化しにくい価値や、時間
の公立学校が自己評価を実施しており、努力義務とさ
的・空間的な広がりがあるために即時的・直感的に把
れている学校関係者評価についても 81%の公立学校が
握しにくい価値などが教育評価の射程から外れがちに
実施している(善野 2012、p.57)
。学校評価が「学校教
なっていないだろうか。他方、ESD をはじめとする近
育を大幅に見直し改善してきたかといえば、疑問符を
年の新しい教育活動の多くは、
「外的価値」のみに捉わ
つけざるを得ない」
(大脇 2012、p.2)という実情はあ
れない、
「本質的価値」や「社会的価値」の重要性を指
るものの、
学校評価の理念は、
「他校と比較してどうか」
摘し、それらを指向する傾向がある。このような評価
という相対評価ではなく、
「この学校の取組みを改善す
と教育活動の乖離について再考するためにも、本稿で
るためには何をすべきか」という絶対評価を目的とし
は、上述の Scriven の定義に則り、評価の定義の 3 側
ている。大脇(2012)は『エンパワーメント評価
面に配慮しながら ESD 評価の在り方を検討する。
(empowerment evaluation)
』というフェッターマン
(Fetterman 2014 など)の理論に言及しつつ、偏差値
3.学習指導要領における「教育評価」の変遷:相対
に基づく学校ランキングで学校のイメージが形成され
評価から絶対評価へ
がちであることを問題視し、
「学校関係者をつなぎ,信
日本の学校教育の分野では、戦後の長い間、
「学習評
頼を構築できる学校評価を創り出すこと」
(p.16)を学
価=テスト=相対評価」という暗黙の了解が支配的で
校評価の目的に据えること――すなわち「社会的価値
あった。これは典型的な「外的価値の評価」である。
の評価」――を提唱している。
1948 年(昭和 23 年)に公刊された指導要録では、5 段
これらの絶対評価では、集団内の順位を明らかにす
階の相対評価が採用され、この考え方はその後の指導
ることよりも、その個人がどのような能力を身に付け
要録にも引き継がれていく。
日本の学校教育の
「評価」
たか、あるいはその学校がどのような取組みを行って
に変化をもたらしたのは、2001 年の学習指導要領に明
いるのかを確認すると同時に、その個人の能力やその
示された「相対評価の否定」と「目標に準拠した評価
学校の取組みを更に改善するための方途を探ることを
の導入」である(田中 2013, p.4)
。そもそもいわゆる
目的とする。
「外的な価値」を相対的に評価することを
5 段階評価は、その集団内での順位付けを示すに過ぎ
目的とした評価活動から、
「本質的価値・社会的価値」
ず、
「5」や「4」と評価されたからといって学習内容が
を絶対的な視点から評価することを目的とした評価活
身についていること――すなわち「本質」――を保障
動への転換が読み取れる。
する訳ではなく、
また、
集団全体のレベルが高ければ、
その個人がどんなに優秀であっても、必ず一定割合の
4.手法としての「参加型/協働型評価」
:総括的評価
学習者に「1」や「2」を付けざるを得ないという矛盾
から形成的評価へ
があった。また、順位付けが原則となっている以上、
従来の事後的な総括評価の手法で、
「本質的価値・社
評価は必然的に競争的なものと捉えられ、学習者の学
会的価値」を絶対評価の視点からとらえるのは困難で
びに対する圧力として働きがちであった。相対評価に
ある。その理由のひとつとして、ESD をはじめとする
代わって登場した「目標に準拠した評価」が目指すの
近年の教育活動の特徴に「学習者の能動的な学び」を
は、他者との比較ではなく、その学習者個人に対する
重視する点が挙げられる。教育活動において学習者の
絶対評価である。問題解決型学習やアクティブ・ラー
主体性を尊重するということは、特定の「正解」のな
ニングの推奨に見られるような「学びの多様化」に伴
い学びを推奨するということである。事前に想定され
って、近年、ルーブリックを用いたポートフォリオ評
た「正解」が存在しない以上、
「正解」を想定した試験
価やパフォーマンス評価など、学習評価の方法も多様
問題を作成し、それによって相対評価を行うことはで
53
きない。また、能動的な学びのプロセスを主眼とする
ることで、
「振り返り学習」や「自己改善」などの新た
教育活動において、
「成果」を過剰に重視する評価活動
な学習効果が期待できることが挙げられる(源 2003)
。
を行うと、評価活動自体がその教育活動の趣旨と矛盾
参加型の評価活動は、学習者自身が、
「この学びの『価
し、その趣旨を損ねてしまう可能性がある。
値』はどこにあるのか」
「この学びによって自分たちは
次に、ふたつめの理由として、ESD などの教育活動
何を得ようとしているのか/得たのか」
「なぜうまく行
は、
「チームワーク」や「コミュニケーション」などの
ったのか/行かなかったのか」
「どうすれば改善できる
「他者との協働的な学び」
を尊重する点が挙げられる。
のか」といった本質的価値や社会的価値を問い直す機
協働的な学びを大切にする教育活動において、学習者
会になり得るのである。
間のランキングにつながる相対評価を導入すると、協
働的な学びを阻害する可能性がある。
5.
「プログラム評価」とは
学習者による創造や協働を前提とした、形成的な学
(1)プログラム評価の理論的位置付け
習活動の評価を行う際には、評価活動自体も学習プロ
以上より、
「順位付けのための相対評価から、個々の
セスの一部となることが望ましい。そのような評価の
改善のための絶対評価への転換」および「事後的・総
手法として、
「参加型評価」がある。北米の評価学の分
括的な評価から、形成的・協働的な評価への転換」と
野 で は 、 1970 年 代 ご ろ か ら 「 参 加 型 評 価
いう考え方、そして、それらの評価活動を「参加型・
(participatory evaluation)
」という考え方が注目を
協働型」で行うという方法論的な観点を、評価の目的
集めるようになり、現在も様々な分野で発展を遂げて
と方法という枠組みで整理すると、下図のようにまと
いる(三好・田中 2001)
。参加型評価とは、
「評価活動
めることができる。
に評価専門家以外の人が『参加』し、評価のプロセス
を共有することにより付加価値を高める評価」(源
2007a, p.95;源 2007b)を指す。一言で「参加型評価」
と言っても、利害関係者評価・協働型評価・実用重視
評価・エンパワーメント評価など、
「参加」の濃度や目
的にも多様性があり(源 2007a, pp.99-101)
、一般化
された定義は存在しないが、
概して
「評価の専門家と、
実践上の意思決定者やプログラムの責任者あるいはプ
ログラムの主たる利用者の間の協働関係を伴う」
(Cousins and Earl 1992, pp.399-400)ことを特徴
図1 評価の目的と方法
(出典)筆者作成
とする。
学校における従来の教育評価では、
「非参加型」
、す
なわち「評価者」と「被評価者」――典型的な例とし
目的軸として、順位付けのための総括的な相対評価
ては、教師と学習者(児童・生徒)――が独立してお
と、改善のための形成的な絶対評価を両極におき、方
り、両者の間には「教える側」と「教えられる側」と
法軸として、参加型と非参加型を両極におくと、4 つ
いう力関係が想定されている。正解が事前に想定でき
の象限を以下のように説明することができる。
る問題を用いて試験を行う場合であれば、
「正しい解答
まず、筆記試験などを主な方法とし、5 段階評価な
を知っている出題者」が「評価者」となり、
「理解の程
どによる相対評価を主眼とする評価を「アチーブメン
度を試される学習者」が「被評価者」となる、従来型
ト・テスト型」の評価として第 3 象限に位置づけるこ
の評価活動が合理的であると言えよう。しかしながら、
とができる。次に、近年の新しい教育活動の登場に伴
上述のような「能動的・協働的な学び」を評価するた
って開発がすすんでいる「パフォーマンス型」の評価
めには、そもそも「何を評価するのか」
「どのような基
が第 2 象限と第 4 象限に位置づけられる。認知能力だ
準・指標で評価するのか」というところから、当事者
けではなく、ルーブリックやポートフォリオを用いて、
である学習者とともに検討していかざるを得ない。す
学習者のパフォーマンスを評価しようとするこれらの
なわち、必然的に「参加型」の評価活動が必要になっ
評価活動は(田中 2008)
、
「ルーブリックをつかってパ
てくる。
フォーマンスを点数化し、順位付けによる相対評価に
参加型評価のメリットとして、学習者が評価に関わ
活用する」という第 2 象限寄りの評価から、
「ポートフ
54
れるようになった注 2)。
ォリオやプレゼンテーションによって学習者個々人の
成長を絶対評価する」という第 4 象限寄りの評価まで
1980 年代のレーガン政権から 2000 年に至るまで、
幅がある。最後に、本稿で紹介する「プログラム評価」
アメリカ連邦政府は、赤字縮減のための大規模な予算
の考え方は、第 1 象限に位置づけられる。次節に詳述
削減を図ったが、その主な対象となったのが社会プロ
する通り、プログラム評価は、参加型で改善を目的と
グラムであった(ロッシ 2010、pp.12-15)
。またこの
して行われる評価活動である。
頃、税負担に見合うだけの社会サービスを享受できて
いないと感じる市民の不信感もあらわになっていった。
(2)プログラム評価の定義と歴史背景
このような社会状況の中で、社会プログラムを批判す
プログラム評価とは、
「社会的介入プログラムの効果
る側もまた評価情報を求めるようになり、プログラム
性をシステマティックに検討するために、プログラム
評価は、その科学性や体系性を高めつつ注 3)、社会プロ
を取り巻く政治的・組織的環境に適合し、かつ社会状
グラムの支持派からも反対派からも、活用されるよう
況を改善するための社会活動に有益な知識を提供しう
になった。
る方法で、社会調査を利用することである」
(ロッシ
アメリカでの普及・発展に伴って、近年、プログラ
2010、p.15)と定義されている。また、
「社会問題や社
ム評価の手法が日本にも導入されつつある(大島
会状況を改善するために設計された社会プログラムを、
2015)
。インフラ整備のようなハード政策ではなく、教
より効果的なものに改善をはかり発展させ、一方でそ
育や福祉のようなソフトプログラムで改善を図ろうと
の存廃や発展の方向性に関する意思決定を行うための
する社会において、かつ、それらのソフトプログラム
体系的で科学的なアプローチ法」
(大島 2015、p.7)で
を科学的に評価し、財政的説明責任を果たしつつプロ
あるとも言われている。これらの定義より、①「社会
グラム自体の改善も図っていこうとする社会において、
状況の改善」を目的とする評価活動であること、②社
プログラム評価の考え方は今後ますます普及し、発展
会的なプログラムの効果を確認するための評価活動で
していくと考えられる。
あること、そして③社会調査等を用いた体系的かつ科
学的なアプローチであることが特徴として挙げられる。
社会プログラムに対する体系的な評価へのニーズは、
(3)プログラム評価の概要
プログラム評価は、一定の取組みを行った「後」に
第二次世界大戦後のアメリカで顕著にあらわれた。戦
その達成度を測定して行う総括的な業績測定評価とは
後、都市開発や教育、保健など様々な分野で巨大な支
異なり、取組みの「過程」で改善の方途を提案するこ
出を伴う社会プログラムを実施することとなったアメ
とを主な目的とする、
プロセス重視の評価手法である。
リカでは、これらの公共政策の「結果を知る」という
その特性から、取組みの過程で様々な変化が起こりや
市民のニーズにこたえることが求められた。結果とし
すい対人サービスや、人材育成・社会開発系の活動の
て、1950 年代末のアメリカ社会では、プログラム評価
評価に適した手法であると言われている(スミス
は「ごく普通に行われる事柄」
(ロッシ 2010、p.9)と
2009;安田 2011;大島 2015)
。
なっていた。
一方で、プログラム評価の考え方は、業績測定に重
1960 年代には、ケネディおよびジョンソン政権時代
点をおいた PDCA サイクルの考え方を否定するもので
に実施された数々の社会プログラム注 1)が評価研究に
はなく、PDCA サイクルの「C(check)
」の評価を、後述
関する蓄積を急増させた(ロッシ 2010、p.12)
。すなわ
する「効率性評価」や「インパクト評価」というかた
ち、巨大な予算をかけて実施されたこれらの社会プロ
ちで包含しながら、より包括的な評価の視点を示した
グラムの運営方法は適切だったのか、また投入された
ものである。また、先述のロッシ(2010)の定義にあ
コストに対して十分な便益をあげたのかといったよう
るように、
「社会調査の利用」が織り込まれていること
な疑問にこたえるための研究が精力的に進められたの
に特徴があり、評価の各ポイントで社会調査を行い、
である。
体系的な現状把握に基づく評価活動を行うことが想定
1970 年代には、増加し続ける社会プログラムへの支
されている。この点からもプログラム評価が評価対象
出に反対する勢力があらわれ始めたことから、費用便
や状況の「変化の過程」に注目した考え方であること
益分析に基づく評価研究や、財政的説明責任を果たす
が分かる。
ための評価研究が一層求められるようになり、評価研
プログラム評価は、次節で詳述するように、①ニー
究は社会科学におけるひとつの専門分野として認識さ
ズ評価②セオリー評価③プロセス評価④効率性評価⑤
55
インパクト評価という 5 つの段階から構成される一連
用可能性について検討する。
の評価活動の総称である(図 2)
。PDCA サイクルにおい
ては「C」の段階のみが「評価」の段階であると考えら
(1)ニーズ評価
れるのに対し、プログラム評価の考え方では、下図の
プログラム評価の手続きは、受益者(本稿では ESD
ように、PDCA サイクルの全段階に評価の活動が付随し、
への応用を前提として、以下「学習者」とする)のニ
評価活動がプログラム全体の流れと融合している。ま
ーズを探ることからはじまる。学校レベルのプログラ
た、PDCA サイクルでは評価の対象とは考えられていな
ムの場合など、規模が大きい場合はアンケートなどの
い「P(plan)
」や「D(do)
」の段階での評価活動(セ
社会調査を適用し、ニーズ調査を行う。学級レベルや
オリー評価やプロセス評価)が、一連の評価活動の要
教科レベルで比較的規模が小さい場合は、生徒同士の
となってくるという点にも大きな特徴がある。
ディスカッションなどを通じて、グループインタビュ
ーによるニーズ調査ができる。既にその学校や学級や
教科で実施すべきプログラムの方向性が決まっている
場合は、ニーズ評価を省略してもよい。
例:小学校高学年「防災教育」を通じた ESD
①学級レベルでのディスカッションを行う。議題の例
として、
「私たちにとって、
『防災』
、
『減災』って何だ
ろう?どんな状態のことだろう?そのために何が必要
だろう?」など。
②学習者の発言の意図を掬い上げ、共通理解を形成す
る。ニーズ評価の観点から、学習者の「ニーズ」
、すな
図2 PDCA サイクルとプログラム評価の 5 段階
(出典)筆者作成
わち、学習者が学ぶ必要があると感じるポイントを引
き出していく。例えば、
「小学生の私たちにできること
本稿では、この一連の評価活動を協働型で行うこと
は、災害が起きた時に自分でできることを正しく行う
を提案する。すなわち、評価活動を教育活動と切り離
能力(自助の力)と、お年寄りや障がいを持つ人たち
して考えるのではなく、全体的な教育活動(プログラ
をサポートする能力(共助の力)
」など。
ム)の一環として捉え、その教育活動の目標や計画を
考案する段階から、学習者や関係者と共に取り組み、
(2)セオリー評価
共に評価し、一連の活動を通して共に学んでいこうと
ニーズ評価の結果に基づき、具体的にどのようなプ
する評価のアプローチとして
「協働型プログラム評価」
ログラムを策定するのか検討するのがセオリー評価の
を提案する。
「協働型プログラム評価」を ESD に適用し
段階である。ある教育プログラムを策定しようとする
た事例は、現在のところ存在しないが、社会政策の事
とき、そのプログラムによって達成したい目的は何な
例では一定の成果をあげている(源 2014)
。この方法
のか、また、その目的を達成するための手段として適
を適用することにより、ESD のような、
「学習者の主体
切な教育活動とはどのようなものか、
という目的-手段
的な学び」や「他者との協働的な学び」を重視する教
の関係性を、学習者と共に検討することが重要である。
育プログラムの評価をより適切に行うことができるよ
特に学習者が主体となって行う教育活動の場合、主体
うになると考えられる。
となる学習者自身がその教育活動の目的を認識するこ
とで、教育現場でしばしば見受けられる「目的と手段
6.プログラム評価の応用可能性
の倒錯状況注 4)」を避けることができる。
プログラム評価を ESD に応用する際、評価の対象と
この「目的-手段関係」を可視化したものが「ロジッ
なる「教育プログラム」をどのレベルで捉えるか、複
クモデル」
と呼ばれるものである。
ロジックモデルは、
数の可能性が生じる。結論から言えば、プログラム評
ワークショップ形式でセオリー評価を行う際、ワーク
価は、学校レベル、学級レベル、科目レベルと、どの
ショップの参加者から得られるアイデアを可視化し、
ようなレベルにも適用することができる。以下では、
共有するための道具として有用である。ロジックモデ
プログラム評価の 5 段階の各段階で行われる評価活動
ルという名称や書式を厳密に規定する必要は全くない
と全体の流れを概観し、プログラム評価の ESD への応
56
が、学習者と共に議論しつつ、図 3 のような様式の空
に基づく指標と
「知識の定着度を測るための筆記試験」
欄を埋めていくようなかたちでワークショップをすす
という客観指標が併存することもあり得る。また、ポ
めるとセオリー評価のイメージが掴みやすいだろう。
ートフォリオやパフォーマンスを評価するためのルー
一般的なロジックモデルは「最終目的・目的・手段・
ブリックを学習者と共に考案するという方法もある。
活動内容」で構成される。
「最終目的」には、当該プロ
学習者や当該プログラムの関係者と共にセオリー評
グラムだけでは達成できないと思われるが、そのプロ
価を行うことで、そのプログラムに関わる当事者たち
グラムを通じて最終的に達成したいと考えている「大
が、
「何を目指してどのような活動を行うのか」を認識
きな将来ビジョン」を描く。最終目的の下位に位置す
できるようになる。形成的な学習の場合、事前に準備
る「目的」には、そのプログラムで達成したいと考え
されたシナリオが存在しない中で、学習者が主体的に
ている目的を記述する。このとき、この「目的」が達
学ぶことが期待される。学習者がセオリー評価に関わ
成されれば、それが「最終目的」への貢献になり得る
ることで、
「主体的に学ぶ」ことに対する意識付けにも
かどうか、
「最終目的」と「目的」の間の論理的整合性
なり得る。
さらに、
指標を協働で考案することにより、
について十分に検討する必要がある。
この手続きが
「目
学習者自身が学びの成果に対する認識を明確に持てる
的-手段の倒錯」を回避する鍵となる。
ようにもなり得る。
続いて、その「目的」を達成するためにはどのよう
また、セオリー評価の時点で不都合や不整合が見つ
な教育活動を行えばよいか、具体的なプログラムの中
かった場合は、積極的にプログラムの変更や修正を行
身を考案する。これが「手段」である。
「目的」の達成
うことが望ましい。この段階で学習者や関係者と「何
に向けて、
「手段」は複数策定されてよいが、ここでも
を目的としてどのような活動を行うのか」がよく話し
「その教育活動(手段)が行われれば、目的の達成に
合われている活動は、学習者や関係者の主体性や協力
近づくか」という「目的」と「手段」の論理的整合性
を得やすく、成功する可能性が高い(飯田、後藤 2015;
に留意する必要がある。そして、
「手段」の下位にそれ
後藤 2013、2014;米原 2015)
。プログラム評価の 5 段
ぞれの教育活動の具体的な中身を列挙していく。
階のなかで、セオリー評価を特に重視したい理由はこ
の点、すなわち協働型評価による、関係者間の合意・
協力体制と学習者の主体性の形成にある。
プログラム名:__________________
例:小学校高学年「防災教育」を通じた ESD
最終目的:
↑最終的に実現したい大きな目標(長期目標)
①ニーズ評価の結果を踏まえて、学習者や学内の防災
↑長期目標を達成するための必須条件となる中期的な目標(中期目標)
担当者、地域の防災担当者などの関係者と共に「ロジ
目的:
手段01
ックモデル」を構築する(図4)
。担当教員は、ここで
↑中期目標を実現するために必要な取組み(教育活動)
0101
↑具体的な教育活動の中身
0102
は議論を促進するためのファシリテーター役となる。
学内関係者や地域の関係者と共にプログラムを策定す
・・・
ることで、手段 0101「避難訓練」や、手段 0201「防災
手段02
0201
マップ作り」
、手段 0202「介護体験・実習」のような教
0202
育活動も織り込む可能性がひろがる。
手段03
②ロジックモデルの原案に基づき、指標を検討する。
0301
例えば、
0302
・
「目的」の指標:児童の意識調査(アンケート)
・・・
・
「手段 01」
:避難訓練完了の全校目標…10 分以内
図3 ロジックモデルの例
(出典)筆者作成
社会科の関連単元の筆記試験
社会科の関連単元の発表と実技
次に、ロジックモデルに具体化した成果をどのよう
→児童同士の相互評価も含む
な指標で評価すればよいか、指標についても学習者と
→ポートフォリオを活用してもよい
協働で考案することを推奨する。ここで策定された指
・
「手段 02」
:防災マップ作成のグループ実習と発表
標は、プログラム評価の第三段階であるプロセス評価
→地域の関係者にも評価してもらう
で活用する。指標は活動の形態によって複数あってよ
などの指標が考えられる。また指標は、すべての教育
い。例えば、
「○○についての自信」といった主観評価
活動に対応している必要はなく、目的との関連性や、
57
調査の実効性・実施可能性なども加味しながら検討す
例:小学校高学年「防災教育」を通じた ESD
る。
①セオリー評価で策定した指標に基づくデータの収集
③指標を検討する中で、プログラム自体の問題(活動
を行う。
「避難訓練が完了するまでの所要時間」
「社会
の不要な重複や不足、目的-手段関係の不整合など)が
科の関連単元の筆記試験の点数(個人の点数・学級や
明らかになったときには、ロジックモデルを修正して
学年の平均点)
」
「グループ実習や調べ学習の成果発表
よい。ロジックモデルは「柔軟性の高い、いつでも書
の相互評価」などがプロセス評価のデータ(評価情報)
き換え可能な計画書」であると理解するとよい。
となる。
②収集したデータを関係者の間で共有し、
「なぜ避難訓
練が 10 分以内に完了できなかったのか、どうすれば
プログラム名: 私とあなたを守る防災教育
完了できるようになるか」など、問題や課題の洗い出
最終目的: ○○小学校の学区が災害に強いまちになる
↑最終的に実現したい大きな目標(長期目標)
しと、改善のための方法を検討する。学習者と協働で
目的: ○○小学校の児童の自助の力と共助の力が強化される
↑長期目標を達成するための必須条件となる中期的な目標(中期目標)
この作業を行うことにより、学習者にとっては振り返
手段01 災害が起きた時に、自分の身を自分で守れるようになる
↑中期目標を実現するために必要な取組み(教育活動)
0101 災害が起きた時に、短時間で安全確保できる【避難訓練】
↑具体的な教育活動の中身
0102 災害の種別に応じた非難の仕方を理解・習得している【社会科】
り学習の機会となり、次のステップに向けての動機付
けを得る好機にもなり得る。また、学習者以外の学内
・・・
外の関係者にも関わってもらうことで、より多様な観
手段02 災害が起きた時に、弱い立場の人たちのサポートができる
点から改善策や新しいアイデアが出される可能性が広
0201 助けが必要な人がどこにいるか知っている【防災マップ作り】
0202 自分にできるサポート技能を習得している【介護体験・実習】
がる。
手段03 天災のメカニズムを正しく理解し、防災情報を活用できる
(4)効率性評価・アウトカム評価
0301 天災のメカニズムについて、科学的に理解している【理科】
0302 地震速報など、防災情報の入手・活用ができる【調べ学習】
投入に対する成果を評価する効率性評価と、一定期
・・・
間を経たのちの成果を評価するアウトカム評価は、従
図4 ロジックモデルの例(防災教育)
(出典)筆者作成
来から PDCA サイクルの「C」の段階で行われてきた評
価活動である。これらの評価活動は、プログラムの部
(3)プロセス評価
セオリー評価を通じて策定したプログラムを実行に
会社や出資者に対する説明責任を果たすことを主な目
移し、それが順調にいっているかどうかをモニタリン
的とする。また、これらの評価情報を元に、今後もそ
グして、何か問題があれば解決を、なければプログラ
のプログラムを継続していくべきか否かを検討するこ
ムを向上させるためのさらなる改善案を検討するのが
ともある。効率性評価については、その学校の方針や
プロセス評価の役割である。モニタリングの際には、
計画、あるいはそのプログラムの内容によって、必要
セオリー評価で検討した指標を活用するとよい。
性の程度が変わってくる可能性がある。必要性が低い
学級レベルや教科レベルでプロセス評価を行う際に
と判断された場合は、効率性評価を省略したり、限定
は、自信や満足度などの主観指標をアンケート調査で
的に取り扱うとよい。また、アウトカム評価について
計測したり、個別面談あるいはグループ・ディスカッ
は、プロセス評価で得られた評価情報を経年データと
ションを通じて評価情報を収集したりすることができ
して蓄積し、一定期間後に比較分析することで、より
る。知識の定着度などの客観的な指標については筆記
科学的なインパクト評価(事前・事後の実験デザイン
試験を活用するのも有効である。また、ピア評価が学
による比較分析など:佐々木 2010)を行うこともでき
習者の意欲を高めるとも言われており(飯田、後藤
る。
2015;後藤 2013)
、ひとつの視点に偏ることなく、主
例:小学校高学年「防災教育」を通じた ESD
観・客観・ピアを含む複数の視点からプロセスを評価
①セオリー評価で策定した指標を使って、定期的にデ
することが望ましい。また、学校レベルのプロセス評
ータ収集を繰り返し、例えば「その年度のはじめと終
価では、学内外の関係者とともに策定した指標につい
わりで避難訓練の所要時間が何分くらい短縮された
ての情報を収集し、調査結果について議論する場を設
か」
「災害が起きた際に『自分の身を守れる』あるいは
け、意見交換を図ることが期待される。特に地域住民
『近所のお年寄りや助けが必要な人たちの役に立て
や地域の組織・団体などの協力を得て、学外活動を含
る』と感じる児童の数が増えたか」といった観点から
む教育活動を行う場合、プロセス評価の機会が学外関
アウトカム評価を行うことができる。
係者との情報共有・情報交換の機会にもなり得る。
②その教育活動にかかったコスト(経済コスト、時間
58
コスト、関係者の労力など)と成果(児童の自信・満
プを中心とした、プログラム評価の運営体制作りが考
足感や各種の指標の変化)について検討し、外部に対
えられる。学校を超えた共有を図るためには、教育委
する説明や報告に活用したり、今後もその活動を継続
員会などの協力を得て、広域な運用体制が作られるこ
する価値があるかどうかの判断材料として利用したり
とが望ましい(図 5)
。プログラム評価は形成的な評価
する。例えば、学習者や地域の関係者と共に「防災マ
の手法であるがゆえに、指標やプログラムが自由に策
ップの作成」についてのコストと成果について話し合
定できる反面、関係者の創造力が求められる。行き詰
い、その結果の報告をもって説明責任を果たす。同時
ったときの「知恵袋」として、様々な種類の成功事例
に、来年の該当学年の学習者にも同じ活動をやっても
が公開され、共有されていることが望ましい。
らう価値があるかどうか、工夫したほうが良い点はな
(2)人材育成の体制
いか、他の活動を導入するとしたらどんな活動がよい
また、プログラム評価の 5 段階の各段階で、協働型
かなどについて意見を出してもらい、プログラムの改
のワークショップやディスカッションを効果的にすす
善につなげる。
めるために、担当教員がファリシテーター役を務める
必要が生じる。さらに、セオリー評価の際に指標を考
案したり、プロセス評価の際に各種の調査を行ってデ
7.プログラム評価の運営体制と実践上の課題
前節ではプログラム評価を構成する 5 つの段階を追
ータを収集・分析したり、アウトカム評価の際に経年
ってみてきたが、ここでは、プログラム評価自体の運
データを統計分析することも必要になるだろう。これ
営・活用体制と、プログラム評価を実施するうえでの
らの専門的な内容を相談できる場所や、担当者が専門
課題について考察してみたい。近年、
「評価ブーム」と
能力を身に付けるための研修など、担当者の支援と能
も言える現象が広まる一方で、
「評価疲れ」という病理
力向上の機会が必要となる。上記の成功事例の共有と
も指摘されるようになっている。特に ESD などの、教
併せて、一学校を超える広域で研修などが行われるこ
科横断的に多様な活動を含む教育実践の場合、個々の
とが望ましい。
活動ひとつひとつを切り分けて評価しようとすると混
さらに、プログラム評価導入時点の「仕組みづく
乱し、大変な手間がかかる。その点、プログラム評価
り」も実践上の課題のひとつである。地域の関係者や
は、ロジックモデルを活用することにより、評価の対
保護者など、協働型評価の関係者への呼びかけや、プ
象と過程を包括的に捉える視点を提供してくれる。
ログラム評価の各段階をどのようなスケジュールで実
しかしながら、個々の活動に対する独立型の評価か
施していくのかという計画づくりには、強力なリーダ
ら、活動の全体的な流れの中で行うプログラム型の評
ーシップが必要となろう。実践の際には、プログラム
価へ転換するためには、プログラム型で評価を行うた
評価の概念と方法を一定程度理解した担当者がリーダ
めの運営体制が必要となる。実践の上では様々な体制
ーとなる必要があることから、リーダーを育成し、支
があり得るが、どのような体制をとるにしても考えな
援するための体制も整えることが求められる。
ければならないのは、情報を共有するためのシステム
と人材を育成するためのシステムについてである。以
下ではこの 2 点について検討する。
(1)情報共有の体制
既述の通り、
プログラム評価は、
相対評価ではなく、
絶対評価を主眼とする。したがって、評価結果を他者
や他のプログラムと比較して順位付けを行うといった
活用は想定されていない。しかしながら、互いを見本
としながら「成功事例(good practice)
」を共有する
ことはできる。各学校・学級・教科で作成されたロジ
ックモデルや指標などを公開し合うことで、プログラ
図5 学校ごとに異なるロジックモデル
(出典)筆者作成
ムそのものや、評価の手法が改善されていくことが期
待できる。
8.おわりに:
「学び」の一環としての「評価」
ひとつの学校内で異なる学級や教科の成功事例を共
本稿では、
「ESD の評価は難しい」と考えられている
有する場合には、学校内の委員会やワーキンググルー
59
原因とその対応策について、①事後的・総括的な評価
て混合手法(mixed methods)が認められていく。2000
から形成的・協働的な評価への転換、②説明責任・順
年以降、実験デザインをめぐる新たな議論が展開され
位付けのための相対評価から個々の改善のための絶対
ているが、詳細は佐々木(2010、pp.70-74)を参照。
評価への転換、③個別的・独立型の評価から包括的・
4)例えば、
「国際理解」を目的としたプログラムで英語
プログラム型の評価への転換という 3 つの転換につい
教育を行う場合、国際理解を深めるための手段であっ
て検討してきた。特に、これらの転換を実現する手法
たはずの英語教育がいつの間にか目的となってしまい、
として、協働型で行うプログラム評価の可能性につい
「国際理解教育≒英語教育」といった倒錯状況が生じ
て考察した。協働型プログラム評価は、学習者の能動
得る。セオリー評価を通じて、教師と学習者が共に目
的かつ協働的な学びを評価するための手法として大き
的を確認し、共に教育活動を策定することで、教える
な可能性をもっており、教育活動から評価活動を切り
側と学ぶ側に、目的に対する共通理解が生まれる。
離すのではなく、
能動的かつ協働的な学びを支援する、
教育活動の一環として位置づけることができる。
参考文献
そもそも「評価(evaluation)」の語源は、「価値
1)飯田寛志・後藤顕一「高等学校における相互評価表
(value)
」を「引き出す(ex-)
」
「活動(action)
」と
を用いた理科授業の実践とその検討:学習への取組意
いうところにある。評価活動を行うことで、学習者自
欲の高まりに着目して」
『理科教育学研究』
、VOL.56、
身も気づいていなかった価値――特に可視化されにく
NO.3、pp.285-297、2015。
い本質的価値や社会的価値――を引き出し、次なる学
2)大島巌「ソーシャルワークにおける『プログラム開
びの糧とするところに、
「評価」という言葉の本義があ
発と評価』の意義・可能性、その方法:科学的根拠に
ると言えるだろう。外的価値のみならず、本質的価値
基づく支援環境開発と実践現場改革のためのマクロ実
や社会的価値に重点を置く ESD のような教育活動の評
践ソーシャルワーク」
『ソーシャルワーク研究』
VOL.40、
価に取組む際、プログラム評価を適用することの意義
NO.4、pp.267-277、2015。
はこの点にある。
3)大脇康弘「学校をエンパワーメントする評価のあり
既述の通り、プログラム評価の手法は、その有効性
方」天笠茂・大脇康弘(編)
『学校をエンパワーメント
が認められて様々な社会政策分野に導入されているも
する評価』ぎょうせい、2012。
のの、ESD への適用事例はまだ見られない。その点で
4)後藤顕一「高等学校化学実験における自己評価の効
は本稿の試みは試論の域を出るものではなく、今後、
果に関する研究:相互評価表を活用して」
『理科教育学
具体的な事例と共に、応用の可能性を検討する必要が
研究』
、VOL.54、NO.1. pp.13-26、2013。
ある。
5)後藤顕一「高等学校理科課題研究における協働的な
学習活動を取り入れた学習プログラムの考案と評価:
注
汎用的能力の育成に向けて」
『日本教科教育学会誌』
、
1)「貧困との戦い(the War on Poverty)
」や「偉大な
VOL.37、NO.3、pp.71-84、2014。
社会(the Great Society)
」のもとに実施された、機
6)佐々木亮
『評価論理:評価学の基礎』
多賀出版、
2010。
会均等の保障と福祉の拡充政策を指す。
スミス, M.『プログラム評価入門:行政サービス、介
2)1976 年には、Sage Publication より、評価学分野の
護、
福祉サービス等ヒューマンサービス分野を中心に』
最初の学術雑誌である Evaluation Review が刊行され
梓出版社、2009。
ている。
7)善野八千子「マネジメントのツールとしての学校評
3)1980 年代に、実験デザインや準実験デザインなどの
価」天笠茂・大脇康弘(編)
『学校をエンパワーメント
自然科学的な手法が、評価学の主要なテキスト(ロッ
する評価』ぎょうせい、2012。
シ 2010 など)で紹介され、評価手法の科学的側面が重
8)田中耕治『教育評価』岩波書店、2008。
視されるようになったが、同時に、質的なアプローチ
9)田中耕治『新しい「評価のあり方」を拓く:
「目標に
や、関係者の主観を尊重した評価手法の重要性(構築
準拠した評価」のこれまでとこれから』日本標準ブッ
主義 constructivism)も指摘され(パットン 2001 な
クレット no.12、日本標準、2013。
ど)
、1990 年代は構成主義的な定性評価がひろく受け
10)西岡加名恵
『教科と総合に活かすポートフォリオ評
入れられた。構築主義と科学主義との間のパラダイム
価法:新たな評価基準の創出に向けて』図書文化社、
論争を経て、1990 年末には、両者の調停的な手法とし
2003。
60
11)パットン, M.『実用重視の事業評価入門』清水弘文
18)三好皓一・田中弥生「参加型評価の将来性」
『日本
堂書房、2010。
評価研究』
、VOL.1、NO.1、pp.65-79、2001。
12)松下佳代『パフォーマンス評価:子どもの思考と表
19)安田節之『プログラム評価:対人・コミュニティ援
現を評価する』日本標準ブックレット no.7、日本標準、
助の質を高めるために』新曜社、2011。
2012。
20)米原あき
「セオリー評価における社会調査の活用可
13)松下佳代『ディープアクティブ・ラーニング:大学
能性:
『協働型社会調査』の導入事例」
『ガバナンス研
授業を深化させるために』勁草書房、2015。
究』
、 VOL.11、pp.173-188、2015。
14)源由理子
「エンパワメント評価の特徴と適用の可能
21)ロッシ, P.他『プログラム評価の理論と方法:シス
性」
『日本評価研究』
、VOL.3、NO.2、pp.70-80、2003。
テマティックな対人サービス・政策評価の実践ガイド』
15)源由理子
「参加型評価の理論と実践」
三好皓一
(編)
日本評論社、2010。
『評価論を学ぶ人のために』世界思想社、2007a。
22) Cousins, B., & Earl, L. 1992. The case for participatory
16)源由理子
「ノンフォーマル教育援助における参加型
evaluation. Educational evaluation and policy analysis, 14(4),
評価手法の活用:
『利害関係者が評価過程に評価主体と
pp.397-418.
して関わること』
の意義」
『日本評価研究』
、
VOL.7、
NO.1、
23) Fetterman, D. et al. 2014. Empowerment evaluation (2nd
pp.73-86、2007b。
ed.). Sage publications.
17)源由理子
「地域ガバナンスにおける協働型プログラ
24) Scriven, M. 1991. Evaluation thesaurus (4th ed.). CA:
ム評価の試み」
『評価クオータリー』
、
VOL.30、
pp.2-17、
Sage publications.
2014。
61
形成的アセスメントに基づいた ESD 評価の枠組み
秋田大学 濱田 眞
1.はじめに
の形式はとらず(Moss,2008),その目的と機能に
本研究の目的は「各個人に今後求められる資質・
よって特徴づけられる。生徒の学習を促進すること
能力の向上に ESD がどのように貢献するのかを理
が目的であり,生徒が理解したかどうかについて集
論的・実証的に明らかにするため,ESD 評価の枠組
めた証拠を彼らの学習ニーズに沿って指導の改善に
みを提案する」ことである。
適用するという機能である(Wiliam,2011)。特に
そのため,まず OECD 教育革新センター編著
アセスメントによって得られる情報をフィードバッ
「formative assessment」等を参考に,資質・能力の育
クして学習指導の改善に使うことが,授業の本質的
成に向けた評価の在り方を検討し,その妥当性を形
要素とされる。
成的アセスメントの実践事例をもとに検証する。次
に,「Wiek の枠組み」に基づいて ESD コンピテン
(2)形成的アセスメントの要素
OECD 教育革新センターは,カナダ,イギリス,
シーを構造化する。最後に,形成的アセスメントに
基づいた ESD 評価の枠組みを構想する。
フィンランド,イタリア,ニュージーランド,オー
ストラリア等における形成的アセスメントの実践事
2.資質・能力の育成に向けた評価
例や国際的な文献調査をレビューし,形成的アセス
「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内
メントの要素を以下のように整理している。
容と評価の在り方に関する検討会-論点整理-」が
①相互作用を促進する教室文化の確立とアセスメ
リリースされた。その中で,わが国教育を「コンテ
ントツールの使用
ンツ型」から「コンピテンシー型」へと転換し,評
②学習ゴールの確立とそれらのゴールに向けた
価の基準を「何を知っているか」にとどまらず「そ
個々の生徒の学習進歩の追跡
れを使って何ができるか」へと改善することが必要
③多様な生徒のニーズに応じた様々な指導方法の
である,と述べている。
活用
本章では,OECD 教育革新センター編著「formative
④生徒の理解を把握・予想(アセス)することへ
assessment 形成的アセスメントと学力」(有本昌弘
の多様なアプローチの使用
監訳)等を参考に,コンピテンシー育成に向けた評
⑤生徒の学力達成状況へのフィードバックと確認
価の在り方を考察する。
されたニーズに応じて授業を合わせる
⑥学習プロセスへの生徒の積極的な関与
(1)形成的アセスメントとは
有本昌弘は「形成的アセスメントと学力」の中で,
(3)形成的アセスメントの効果
OECD 教育革新センターは,形成的アセスメント
コンピテンシー育成には形成的アセスメントが不可
欠であると述べている。形成的アセスメントとは,
の効果を次のように分析している。
「生徒の学習ニーズを確認し,それに合わせて適切
1)生涯学習のゴールを満たす
な授業を進めるための,生徒の理解と学力進歩に関
この研究に参加している各国および各州政府は,
する頻繁かつ対話型のアセスメント」のことである。
生涯学習のゴールを満たす手段として,形成的アセ
形成的アセスメントは,特別な指導法や課題設定
スメントを用いている。
62
その根拠は,形成的アセスメントを組み込む授業
度達成される途上にあるのか,また,どの程度達成
が,生徒の学力水準の向上に役立っており,ますま
されたのかを決定する行為である。assessment は,
す多様化する生徒集団のニーズに応じることを可能
求められている結果が達成されたことを示す証拠を
にし,生徒への成果の公平性におけるギャップをさ
集めるために,多くの方法を意図的に用いることを
らに縮めることに役立つ。
意味する包括的な用語である。assessment は,
形成的アセスメントのアプローチを使っている教
evaluation よりも学習に焦点を当てた用語である。両
師は,ますます必要となってくる自分自身の「学習
者を同義語であると見なしてはならないのだ。
の学習」技能の開発に生徒を導く。
assessment とは,質を改善しゴールを達成できるよ
2)生徒の学力水準を高める
うにするために,スタンダードと照らし合わせてフ
ブラックとウイリアムスは,形成的アセスメント
ィードバックを与えたり用いたりすることである。
に関する英語文献の有力な 1998 年の論評の中で「形
対照的に,evaluation はより総括的で,資格認定に
成的アセスメントがもたらす学力達成状況から得ら
かかわるものである。換言すれば,私たちは,フィ
れるものは,教育的な是正措置としては,これまで
ードバックを与えるすべてのことについて,成績
報告された最大なもの」と結論付けている。
evaluation を与える必要はないのである。事実,理解
3)高い公平性を促進する
は,
formative assessment および performance assessment
ケーススタディ校の教師は,ある特定の教科で,
に対して通常よりもずっと多くの注意を払いつつ,
生徒の学習達成状況のばらつきの背後にある要因を
継続的な評価を複合的な方法で行うことによっての
特定し,確認されたニーズに取り組むべく授業を合
み発達し,引き起こされる」
わせていくために,形成的アセスメントを使った。
障害のある生徒が大きな割合を占めるケーススタ
これは OECD 教育革新センターの提唱する形成的
ディのうちの数校が過去数年間の間に模範的なステ
アセスメントと完全に重なる。新しい ESD 評価の枠
ータスに動いていた。期待以下の成績をとっている
組みは,formative assessment の視点から以下のよう
生徒のニーズを特にターゲットとしたプログラムに
に構想されるべきである。
スポットを当てて扱うケーススタディ校では,肯定
1)ESD 評価の基本
的なプラス効果を示してもいた。
①参加型評価:評価者,被評価者の協働による参
4)生徒の「学習の学習」技能を打ち立てる
加型の評価
形成的アセスメントは,生徒の「学習の学習」技
②プロセス評価:結果の評価よりもアセスメン
能を次のことによって構築する。
ト・フィードバックを中心としたプロセス評価
・教授学習プロセスに重点を置き,生徒をそのプロ
③学習改善型評価:成績証明のための評価
セスに活発に巻き込む
(evaluation)よりも学びの改善に向けた評価
・ピア・アセスメントおよびセルフ・アセスメント
(assessment)
のための生徒の技能を確立する
2)ESD 評価のプロセス
・生徒が自身の学習を理解し,「学習の学習」のた
①目標(育成すべき資質・能力)を明確にする
めの適切な方略を開発するのを助ける。自分自身
②目標に基づいてクライテリアを設定する
の学習及び仲間の学業の質を判断することを学ん
③クライテリアに基づいてアセスメントツールを
でいる生徒は,生涯にわたって学んでいくのに計
作成する
り知れないほどの貴重な技能を開発している。
④セルフ・アセスメント,ピア・アセスメントを
実施する
(3)ESD 評価への示唆
⑤振り返り(フィードバック)により継続的な改
善を図る
G.ウイギンズ/J.マクタイは「UNDERSTANDING
BY DESIGN 理解をもたらすカリキュラム設計」にお
⑥多様なアセスメント情報を集積,総合すること
いて以下のように述べている。
によって,より信頼性・妥当性のある evaluation
を実施する。
「assessment とは,求められている結果がどの程
3)ESD 評価の活用
63
・子どもの学びの改善に向けて
るか,を明らかにする
・学校マネージメントの改善に向けて
・郷土学の指導に際し,教職員がいかなる困難を抱
・カリキュラムの改善に向けて
えているかをアセスメントする
・教職員の資質・能力の向上に向けて
・郷土学の指導改善に向けた提案をさせ,教職員の
当事者意識・主体性を引き出す
2.形成的アセスメントの実践事例
2)研究組織の確立
コンピテンシー育成に向けた形成的アセスメント
・アンケートで明らかになった郷土学の改善に向け
の可能性を,秋田市立御所野学院高校の実践から得
たプロジェクトを組織する
られたエビデンスをもとに考察する。当校は平成 26
・プロジェクトは管理職と教諭から構成し,ボトム
年に東北大学大学院と連携し,探究型カリキュラ
アップ型の実践的研究を目指す
ム・評価法の研究に着手した。
・プロジェクトリーダーに教諭を指名することによ
まずは総合的な学習の時間「郷土学」の改善に向
り教職員の同僚性,参加意識を高める
けて,教職員,社会人講師に提言を求め,学びの質
3)共通理解の確立
改善に向けたロードマップづくりに着手した。次に,
・校長が東北大学と連携してコンピテンシー育成の
郷土学を通して育成すべき資質・能力を明確化し,
研究に着手することを表明する
教職員,生徒の共通理解を図った。また,郷土学発
・研究協力者(筆者)が委託研究の目的,意義,内
表会等においてピア・アセスメントを実施し,「自
容等について説明する
己調整力」の育成に確かな手応えを得た。
・プロジェクトリーダーが「学びの質改善」に向け
さらに,郷土学と教科学習を結びつける小論文指
た具体的提案をする
導・教科横断型授業の実践,理科「生物多様性」の
授業における ipad を活用した形成的アセスメントの
(2)研究の歩み
実施,逆向き設計によるテンプレートの作成などを
郷土学アンケート及び担当者からの聞き取り調査
試行した。その結果,汎用的資質・能力(コンピテ
により,育成すべき資質・能力を明確にすることな
ンシー)の育成に向けた形成的アセスメントの有効
く,学習活動を展開していることがわかった。また,
性を確認することができた。
最終評価も活動内容を記述するのみであり,適切な
ここでは,紙面の都合上「郷土学」の実践に絞っ
評価がなされているとは言い難い状況である。それ
て報告する。
ゆえ評価が学習改善に生かされていないことがわか
った。そこで,以下の手順で郷土学の改善を図った。
(1)学校マネージメント
まず,パフォーマンス課題に基づいてアセスメン
研究推進に当たって,以下の困難が予想された。
トツールを作成する。また,クライテリアを教職員
・生徒・教師共々,大学入試に直接反映されない学
及び生徒と共通理解を図り,アセスメントを形成的
習活動,とりわけ総合的な学習に対しては消極的
に実施することにより,学習の質改善に結びつける。
であり,苦手意識を持つ者が多い。
さらに,生徒に身に付けさせたい資質・能力を明確
・教職員は教科・科目にアイデンティティを持つ傾
にし,教員間で指導方法を共有化するためウィギン
向が強く,教科のコンテンツを教えることには熱
ズとマクタイの逆向き設計理論を参考にして,UbD
心だが,教科を超えた学力の育成にはさほど関心
テンプレート「郷土学まとめ単元設計シート」を作成
がない。
する。
・同僚性が弱く,教科・学年を超えた学習活動には
1)アセスメントツールの作成
消極的である。
9 月に学習の流れを説明するオリエンテーション
そこで,研究推進に当たって研究協力者(筆者)
の場面を設定した。その際,提示したアセスメント
と校長が協議し,以下の戦略を立てた。
ツールは担当教員で協議し作成した。より簡略化し
生徒が作品制作や中間発表に向けて学習の進め方を
1)アンケートの実施
イメージできるように工夫した。また良い点,改善
・教職員がいかなる意識で郷土学の指導を行ってい
点をお互いに示すことができるようにした。
64
2)ピア・アセスメントの実施
づかないところが分かったので,中間発表をやっ
中間発表会において,一つの班が発表したら直ち
て良かった。
にアセスメントシートに評価及びアドバイスを記入
・自分自身で不足していると感じているところ以外
し,発表者にフィードバックした。同時に,ピア・
にも指摘されるところがあり,非常に参考にな
アセスメントについてのアンケートを実施した。
った。発表に向けて良い意見をもらった。素直に
<ピア・アセスメントに対する生徒の反応>
受けとめて改善したい。
・他の人からの評価を受けて,改めて気づくことが
3)アセスメントツールの改善
ある。
中間発表で使用したアセスメントツールは,評価の
・図表だけでなく,自分たちの言葉で説明すること
段階と基準が曖昧であったため,以下の「発表会評価
も大事だということが分かった。
ルーブリック」作成した。それを生徒に事前提示し,
・内容については,良く評価してもらったが,声の
ルーブリックを参考にしながら作品を作成するよう
大きさ,話すスピードに問題があった。自分の気
段階
内容の明確さ
さすが
4
テーマと内容が合って
に助言した。
よくできた
3
テーマと内容が合って
がんばった
2
テーマと内容は合って
まだまだ
1
テーマと内容が合って
いて,最も伝えたいところが いて,伝えたいことも示され いるが,伝えたいところが漠 おらず,分かりにくい。
,きちんと明確に 示 さ れ て ている。
然としていて少し 分 か り に
いる。
くい。
展開の分かりや はじめに全体の流れが
すさ
はじめに全体の流れが
資料はあるが,はじめに 資料はあるが,流れが
示され,資料も十分あり,ま 示されていて,資料もあり, 全体の流れが示されていない 分かりにくい。
とめもきちんとさ れ 分 か り まとめられている 。
ので,少し分か り に く い 。
やすい。
話し方
適切な言葉遣いで,早口でな 適切な言葉遣いで,早口では 適切な言葉遣いであるが,す 言葉遣いが適切でなく,話し
く,話すテンポも ち ょ う ど ないが,話すテン ポ が 乱 れ こし話し方が早い ( 遅 い ) 方も早い(遅い ) 。
声量
良い。0
るところがある。
。
小さすぎず適当な大き
小さすぎず適当な大き
大 き く な っ た り ,小 さ く 小 さ す ぎ ( 大 き す ぎ )
さ で ,所 々 強 弱 を つ け て さ で , 聴 き 取 り や す い 。 な っ た り し て ,や や 聴 き で , 全 体 的 に 聴 き 取 り
おり,聴き取りやすい。
取りにくいところがあ
にくい。
る。
姿勢態度
聴衆を意識し,図表を示しな 図表を示しながら,原稿を読 図表を示しながら話そうとし 聴衆を意識せず,原稿を見な
がら,原稿を読む こ と な く むことなく話して い る 。
ているが,原稿を 見 る 場 面 がら話している 。
話している。
がある。
シート全体分か 文字ばかりでなく,効果 文字ばかりでなく,図表 文字ばかりではないが, 文字が多く,図表も少
りやすさ
的に見やすく分かりやすい図 やグラフも多く使っている。 図表が少し小さく情報が多す なく分かりにくい。
表,グラフを使 っ て い る 。
ぎて分かりにくい と こ ろ が
ある。
強調の仕方
最後のまとめ
文字を大きくしたり,色の使 文字を大きくしたり,色を多 文字を大きくしたり,色を使 全体的に同じトーンである。
い方を工夫したりするなど, く使ったりしている。
ったりしているが,効果的に
視覚的に働 き か け て い る 。
はなってい な い 。
最後のまとめのシート
最 後 の ま と め で ,大 体 の 最 後 の ま と め で ,口 頭 の 最 後 の ま と め は あ る が
を 見 た だ け で ,研 究 の 流 内 容 を つ か む こ と が で
説明が加わると内容を
,簡単にまとめすぎで
れ ,全 体 の 内 容 を つ か む き る 。
つかむことができる。
ある。
ことができる。
65
4)アセスメントの有効性の検証
・友人からの評価が刺激となり,回を重ねるごとに
発表会を終えた生徒に対して,ルーブリックを活
意欲が向上した。(多数意見)
用したセルフ・アセスメント,ピア・アセスメント
・目指すゴールが明確に示されていたので,生徒は
をどう受け止めたか,および発表会を通してどのよ
取り組みやすかった。
うな力を身に付けることができたか,についてアン
ケートを実施した。また,担当教員に対しても実施
<教師アンケート:指導側への効果>
後のアンケートを行った。
・一方的に指導しなくて良いので,負担も減り気負
わずに評価できた。
<生徒アンケート:自由記述>
・少しのコメントでも改善が見られた。
・発表前にルーブリックを使って2回練習し,自分
・私たちも評価基準を示したことで,生徒への助言
たちの改善点を見極めて発表に臨んだ。
指導がしやすくなった。
・辛口の評価もあったが,相手に伝える難しさを知
・どこがどのように足りないのかを示すことが出来
るきっかけにもなったと思う。
た(多数意見)。
・相手に伝える力や相手のことを考える力が身に付
いたと思う。
5)アンケートの分析・考察
・他の人の発表を見て,自分たちの良いところに活
アンケートを分析した結果,ルーブリック等を活
かすことができた。
用したアセスメントによってコンピテンシーが向上
・相互評価は自分にどのくらいの力が付いているの
した,と回答した生徒は約90%前後と高率であっ
が分かるので良かった。
た。また,教師も同様の成果を認めている。コンテ
ンツ型教育からコンピテンシー型教育への転換に向
<教師アンケート:生徒側への効果>
け,形成的アセスメントの大きな可能性を確認する
・互いに発表を真剣に聞くようになった。
ことができた。
<生徒アンケート:どんな力が身についたか>
項目
大きく向上した
向上した
少し向上した
向上はない
情報収集力
37.8%
発表する力
37.7%
62.3%
4.9%
0%
52.5%
11.5%
0%
他者と協力する力
59.0%
32.8%
8.2%
0%
物事を多面的に考える力
37.7%
47.5%
14.8%
0%
3)実践から得られた示唆
的把握が可能である。それゆえ,ペーパーテストに
御所野学院高校では郷土学で育成すべき資質・能
なじみやすい。しかし,探究型の学習を通して育成
力を明らかにし,それに基づいてアセスメントツー
される汎用的資質・能力(コンピテンシー)は見え
ルを開発した。そして,郷土学の中間発表会等でピ
にくい学力であり,ペーパーテストによる把握は容
ア・アセスメントを実施したところ,生徒たちは常
易ではない。それゆえ,従来の評価法を超えた工夫・
にクライテリアを参照しつつ自らの学びの改善に取
改善が必要である。
り組むようになった。
まずは,評価は学習の最終段階で行われるもの,
形成的アセスメントがカリキュラム・指導法の改
との常識を転換する必要がある。なぜなら思考力等
善のみならず,生徒自身による学びの改善に(自己
のコンピテンシーは学習のプロセスにおいて形成さ
調整力)資することが示唆された。御所野学院の実
れるものだからである。それゆえ教師は一人一人の
践から得られた知見を以下に整理する
生徒がどのように知識・思考を組み立てようとして
1)評価観の転換
いるのかを把握し,生徒の学びに合わせて指導を調
習得型学習を通して身につける知識・技能等(コ
整する必要がある。
ンテンツ)は見えやすい学力であり,数量化,客観
この「学びの把握と指導の調節」を「評価」と呼
66
ぶことには,誤解と混乱をもたらす危険性が常に伴
べきコンピテンシーを明確にする。第二に,「Wiek
う。これらを避けるために「形成的アセスメント」
の枠組み」と国立教育政策研究所「21世紀型能力」
と呼ぶことを提案したい。OECD教育革新センタ
および「観点別評価」との関係を整理する。第三に,
ーの報告書「形成的アセスメントと学力」は,キー・
「Wiek の枠組み」に基づいた ESD 評価の可能性を
コンピテンシーの育成には形成的アセスメントの不
検討する。
可欠であり,その効果はOECD各国の実践におい
て実証されている,と述べている。
(1)「Wiek の枠組み」とは
2)学校マネージメントの重要性
東北大学は文科省委託「多様な学習成果の評価手
校長はアンケート(学校評価)によって郷土学の
法に関する調査研究」事業の推進に際して,様々な
課題を明らかにし,教職員から改善に向けた提案を
評価指標を検討した結果 Wiek の枠組みに注目した。
引き出した。一方,教職員はアセスメントツールの
有本昌弘(東北大学)は,平成26年度委託研究
作成を通して育成すべき資質・能力の共通理解を図
報告書の中で「震災後の東北地方のシナリオとして,
り,カリキュラム・指導改善に結びつけた。これは,
持続可能な社会づくりとしてのコンピテンスとして
形成的アセスメントが,学習の改善のみならず学校
いきたい」として,「Wiek の枠組み」次のように紹
マネージメント(ガバンメント)とカリキュラムマ
介している。
ネージメントの改善に資することを意味する。
アリゾナ州立大学の Wiek e t . a l . ( 2 0 1 1 ) で
ESD を通した資質・能力の向上には評価の改善が
は , 持続可能な開発のための教育,カリキュラム
必要である。そのためには学校マネージメント,と
開発,持続可能性に関する専門知識,持続可能性
りわけ学校評価,教職員評価,成績評価等,評価の
の専門家,変革的な学習をキーワードにして,持続
在り方を形成的アセスメントの視点から根本的に見
可能性のためのキー・コンピテンシー:学問プログ
直す必要がある。
ラム開発のための参照枠組みを考えている。以下は
その要約である。
3.ESD コンピテンシーの構造化
「持続可能性に焦点を当てる新興の学問分野では,
「各個人に今後求められる資質・能力の向上に
どのようなキー・コンピテンシーを卒業予定者が持
ESD がどのように貢献するのかを理論的・実証的に
っていることが重要であると考えられるかについ
明らかにし,ESD の評価の枠組みを提案する」ため
て,充実した議論が交わされ,意見がまとまってき
には,まず育成すべき資質・能力を明確化する必要
た。持続可能性の課程は,10 年以上にもわたり,高
がある。 本章では ESD で育成すべきコンピテンシ
等教育において開発・指導されてきている。
ーの構造化と実践への予備的考察を試みる。そのた
め第一に,「Wiek の枠組み」をもとに ESD が育む
<Wiek の枠組み:Sustainability Competence>
67
しかし,持続可能性についての総合的な学問プログ
ラムは,大学生・大学院生レベルでは,この数年間
「本書の重要概念 systemic(「組織的な」を意味
に現れてきたばかりである。
する systematic とは違う)は,生物学的モデルに基
本稿は幅広い文献レビューの結果を示すものであ
づく自己組織性を意味します。それゆえ,この語を
る。本レビューは持続可能性のためのキーコンピテ
生命論(的)としました。この言葉は「複雑(系・
ンシーに関連した文献を特定し,持続可能性の研究
性)」と共に使われることが多い言葉です。私たち
と問題解決のためのコンピテンシーの首尾一貫
の体では固有の役割を果たす部分,例えば胃を摘出
した枠組み作成への主要な貢献を取りまとめ,持
しても他の臓器が胃の機能をしだいに果たすように
続可能性のためのキー・コンピテンシーの概念化に
なります。この性質が生物学モデルに基づく自己組
おける重大なギャップに取り組む。本研究から得ら
織性,ここで生命論的性質と称しているものです。
れた知見は,学問プログラムの考案・改訂における
この性質は生命体以外でも,例えば人間からなる組
制度的発展と,指導・学習評価,教員・職員の雇用・
織体でも持つことができます」
研修の基盤となるものである。」
ここでは湊にならって「システム思考」を,生物
有本が指摘する通り,上記「Wiek の枠組み」は
学モデルに基づく自己組織性,つまり「生命論的思
ESD の推進,とりわけ東北の震災復興への示唆に富
考」と解釈する。
んでおり,ESD の目標論・評価論として以下の可能
性を持っていると考えられる。
2)規範的資質(Normative Competence)とは何か
・育成すべき資質・能力(コンピテンシー)が明確
Norm は一般的に規範,模範という語で訳される。
である
一方,数学ではベクトルの「向き」という意味を持
・コンピテンシーの構造化が可能である
っている(Length はベクトルの長さ)。それゆえ,
・学習者をゴールへと導く「評価の枠組み」づくり
Normative Competence は四主要能力(システム思考
が可能である
力,戦略的思考力,未来予測力,対人関係力)とは
ただし,「Wiek の枠組み」がそのまま初等中等教
区別し,「人格的要素」として解釈する必要がある。
育における ESD 実践を導く指標として機能する保
数学的モデルに基づいて解釈すれば,四主要能力
証はない。それは日本的文脈で解釈され,学習指導
はベクトルの長さ(学力的要素),規範的資質
要領,論点整理等と関係づけられて,はじめて現場
(Normative Competence)はその力を使う方向(人格
に受け入れられ,目標・評価の指標として機能する
的要素)と理解することができる。
であろう。そのためには,以下の予備的考察が必要
である。
3)持続可能な未来づくりへの責任(Sustainability
①実践者が理解できる「解釈の枠組み」の提示
Competence)とは何か
②国立教育政策研究所「21世紀型能力」との関
生命論的に解釈すれば地球上のあらゆる生命は,
係づけ
危ういバランスの上に成り立っている。山と川と海
③学習指導要領・観点別評価との関係の整理
と大気は国境を越えてつながっており,大量生産,
大量消費,大量投棄,資源の浪費は,間違いなく限
(2)「Wiek の枠組み」の解釈
界を迎える。地球システムが耐えきれないからであ
有本が紹介した「Wiek の枠組み」の重要概念を筆
る。一方,我が国に目を転じれば少子高齢化,人口
者は次のように解釈した。
減少が未曾有の速度で進行し,限界集落をはじめ,
地方自治体が存続の危機に立っている。
1)システム思考力(System Thinking Competence)
かかる状況下では,
「Wiek の枠組み:Sustainability
とは何か
Competence 持続可能性のためのコンピテンシー」を
湊三郎は The Teaching Gap の翻訳書「日本の算
21世紀型能力の中核とし,それを人格的要素「未
数・数学教育に学べ」の解説文の中で次のように述
来への責任」へと方向付ける教育が望まれる。例え
べている。
て言えば,四主要能力(システム思考力,戦略的思
68
考力,未来予測力,対人関係力)は馬車,人格的要
定の教科や学科の知識を超えた知的能力)として次
素(規範的資質)は御者である。
の3点を紹介している。
(3)21世紀型能力との関連性
・批判的思考力(critical thinking)
今後の ESD 推進に当たって,「Wiek の枠組み」
・分析的な論理的思考力(analytical reasoning)
と国立教育政策研究所「21世紀型能力」との関係
・文章に書き表す力(writing)
を整理しておく必要がある。
これは,以下の3点を意味する。
・論理的・批判的思考力は,特定の教科や学科の知
1)基礎力とは何か
識を超えた知的能力である
国研は基礎力を「思考力を支える力,すなわち言
・論理的・批判的思考力の育成には「文章に書き表
語,数,情報(ICT)を目的に応じて道具として使い
す力(writing)」 が必要である
こなすスキル」と定義し,言語スキル,数量スキル,
・論理的思考力,批判的思考力,論理的記述力は全
情報スキルから成るとしている。
ての教科・科目における学習評価の規準とならな
OECD は連続的テキスト(言葉)だけではなく,
ければならない。
非連続的テキスト(数,式,表,グラフ)も言語で
あると規定している。この視点に立てば,基礎力=
③メタ認知,適応的学習力
言語力と理解することができる。基礎力(言語力)
国研はこれらの能力を「自分の問題の解き方や学
は思考力,実践力のベースとなる力であり,全ての
び方を振り返るメタ認知,そこから次に学ぶべきこ
教育活動を通して育成すべきスキルである。
とを探す適応的学習力等」と規定している。一方有
本は「形成的アセスメントと学力」(OECD 教育研
2)思考力とは何か
究革新センター編著・有本昌弘監訳)で,「形成的
思考力の定義「一人一人が自ら学び判断し自分の
アセスメントの最終ゴールは,生徒が自分自身の課
考えを持って,他者と話し合い,考えを比較吟味し
業を評価して改善することである」と述べている。
て統合し,よりよい解や新しい知識を創り出し,さ
このことから,メタ認知,適応的学習力は自己組
らに次の問いを見つける力」は,Wiek のステム思考
織性「アセスメント能力,自己調整力」とほぼ同義
力(System Thinking Competence )と未来予測力
であると理解することができる。
(Anticipatory Competence )とほぼ重なる。
思考力は21世紀型能力の中核であり,問題解
3)実践力とは何か
決・発見力・創造力,論理的・批判的思考力,メタ
国研は実践力を「日常生活や社会,環境の中に問題
認知・適応的学習力から構成される。
を見付け出し,自分の知識を総動員して,自分やコミ
①問題解決・発見力・創造力
ュニティ,社会にとって価値のある解を導くことがで
従来から提唱されてきた問題解決的学習,発見学
きる力,さらに解を社会に発信し協調的に吟味するこ
習,創造的学習等とほぼ重なり,ポストモダンの教
とを通して他者や社会の重要性を感得できる力」と定
育思想との親和性が高い。それゆえ「学ぶとは一人
義している。それは自律的活動力,人間関係形成力・
一人が自分自身の意味を構成することである」「知
社会参画力から成る。
識は間主観的に構成される」との前提に立つ社会的
①自律的活動力
構成主義に基礎づけられた学習観であると理解する
「自分の行動を調整し,生き方を主体的に選択で
ことができる。これは,講義型,知識注入型授業か
きる力」は,Wiek の枠組みにおける戦略的能力
らアクティブラーニング(生徒参加型,対話型,協
(Strategic Competence ),形成的アセスメントにおけ
調的探究学習等)へと,授業方法論の根本的転換を
る「自己調整力」とほぼ重なる。
示唆するものである。
②人間関係形成力・社会参画力
②論理的・批判的思考力
Wiek の対人関係力 (Interpersonal Competence)と
刈谷剛彦は著書「アメリカの大学・日本の大学」
ほぼ同義である。
の中で,アメリカの大学における学習評価の規準(特
69
③持続可能な未来への責任
ぼ同義である。まさに ESD の理念そのものであり,
Wiek の規範的資質(Normative Competence)とほ
今後最も重視すべきコンピテンシーであると言える
21世紀型能力
W iekの枠組み
システム思考力(Syste m T hinkin g Co mp ete nce )
未来予測能力 ( Anticip at o r y Co mp ete nce )
思考力(創造力,課題解決・発見力
批判的思考力,メタ認知・適応的学習力)
戦略的能力 ( Str ategic Co mp etence )
実践力(自律的活動力,
対人関係力( Inter p er so nal Co mp etence )
人間関係形成力・社会参画力)
規範的資質( No r mative Co mp etence )
持続可能な未来づくりへの責任
(4)学習指導要領・要録との関連
「コンピテンシーの評価手法開発」が課題である
「Wiek の枠組み」と学習指導要録との関係をどう
ことを考慮すれば個別的「知識・技能」に言及する
理解すべきか。観点別評価にもとづいて評価活動を
必要性はないものの,「コンテンツとコンピテンシ
行っている現場にとっては重い課題である。ここで
ーの一体的育成」は ESD の推進に向けて大きな課題
は,マルザーノ「学習の次元」をもとに「21世紀
になる。マルザーノ理論「学習の次元」を参照した
型能力」と「観点別評価」との関連を整理する。
問題解決型授業・カリキュラム開発が重要性を増す
1) 知識・技能
に違いない。
国研・21世紀型能力の「基礎力」とは異なるこ
2) 思考力・判断力・表現力
とに留意する必要がある。観点別評価における「知
21世紀型能力「思考力」は,観点別評価「思考
識・技能」はコンテンツ(宣言的知識 knowing that,
力・判断力・表現力」をより具体化したもの,指導
手続き的知識 knowing how )であるのに対して,基
方 法・評価方法を示唆するものと理解したい。
礎力の要素である言語スキル,数量スキル,情報ス
・問題解決・発見力・創造力は問題解決型授業・単
キルは,あくまでもコンピテンシー(汎用的資質・
元設計,発見的学習を示唆している。
能力)である。
・論理的・批判的思考力は「言語力」との関連が深
70
く,教科を超えて指導すべき資質・能力であるこ
では,Wiek の枠組みに基づいた ESD 目標と評価の
とを示唆している。
具体的方策を提案する。
・メタ認知,適応的学習力は「アセスメント能力,
4.実践に資する ESD 評価の枠組みの構想
自己調整力」とほぼ同義であることから,評価方
ここまでは「形成的アセスメント」の有効性を考
法を示唆している。
察するとともに,「Wiek の枠組み」による ESD コ
3) 関心・意欲・態度
ンピテンシーの構造化を検討してきた。最後に,
「形
21世紀型能力には「関心・意欲・態度」の観点
成的アセスメント」と「Wiek の枠組み」を関係づけ
はない。従って「関心・意欲・態度」はコンピテン
ることによって,実践に資する「ESD 評価の枠組み」
シーではないのか。では「関心・意欲・態度」等の
を提案する。
情意的学力をどう理解すべきか,大きな課題である。
そのために,御所野学院「郷土学」をケーススタ
この論点をマルザーノの「学習の次元」に基づいて
ディとして取り上げ,郷土学と「Wiek の枠組み」の
考察する。
目標論を整理する。評価は目標に基づいて行われる
マルザーノは学習についての態度と知覚(次元1)
べきであり,評価が実践を導く指標として機能する
をベースに,知識の獲得と統合(次元2),知識の
にはこのプロセスが欠かせない。次に,「形成的ア
拡張と洗練(次元3),知識の有意味な使用(次元
セスメント」と「Wiek の枠組み」を関係づけ,今後
4)へと学習の質が高まることによって,生産的な
の ESD の目標と評価の枠組みとして提案する
精神の習慣(次元5)が達成される,と述べている。
次元1と次元5は明らかに関心・意欲・態度等の情
(1)目標論の整理-御所野学院「郷土学」
意的要素である。これを次のように解釈する。
御所野学院・郷土学の目標は次のように規定され
親和的な学級の風土,課題に対する興味・関心を
ている。
ベースに学習が進行する。習得された知識が探究的
「郷土秋田を学びの原点とし,環境・健康などの問
学習を通して洗練され,構造化される(思考力)。
題を,国際的視野に立って考察し,表現し,行動で
さらに,それが日常的文脈の中で再解釈され,実践
きる自立した人間の育成と,郷土の一員としての自
知と再統合されることによって有意味な使用(実践
覚と誇り,愛郷心を持った生徒の育成を目指す。」。
力)が可能になる。その際に,productive attitude(関
これと「Wiek の枠組み」との関係を以下のように
心,意欲,態度)が本質的な働きをし,より高度な
整理したい。
情意的コンピテンシー(生産的な精神の習慣)が形
1)能力的要素
成される。
「国際的視野に立って考察し,表現し,行動でき
現時点においては,21世紀型能力の「実践力」
る自立した人間」は「持続可能な未来づくりの能力
は,基礎力,思考力等の「認知的コンピテンシー」
を持った人間」と解釈することができる。
と関心,意欲,態度等の「情意的コンピテンシー」
・考察→システム思考力,未来予測力
が統合された力である,との仮説に立って考察を進
・表現→対人関係力
めたい。その方が,より生産的な結果が得られると
・行動→戦略的能力
考える。
2)人格的要素
「郷土の一員としての自覚と誇り,愛郷心を持っ
(5)まとめ
た生徒」は人格的要素「未来への責任を自覚できる
本章では Wiek の枠組みと21世紀型能力を関係
生徒」と解釈することができる。
づけることによって,ESD コンピテンシーを思考力
・自覚,誇り,愛郷心→規範的資質
(システム思考力,未来予測力),実践力(戦略的
3)郷土学の今日的意義
能力,人間関係力),持続可能な未来への責任(規
日本で最も急速に少子高齢化,人口減少が進みつ
範的資質)の3次元に構造化した。その結果,Wiek
つある秋田において,郷土の持続的発展に取り組む
の枠組みは,(21世紀型能力を仲立ちに)観点別
人間の育成は急務である。ここで得られた教育的知
評価との関係づけが可能であり,ESD の探求的学習
見は,日本のみならず,世界の持続的発展に向けた
を導く評価指標ともなり得ることが分かった。次章
重要な資源となり得る。
71
(2)新しい ESD の目標・評価を求めて
事を見る」「つながりに気づく」こと,と解釈する。
新しい ESD 評価は,学習者を目標達成へと導くも
具体的には,異分野をつなげ,学問領域を超え,省
のでありたい。学習者は常に「我々はどこにいるの
庁を超え,国境を越えグローバルな視点から考える,
か」「我々はどこに行くのか」「我々はどうやって
等である。
そこに行くのか」を自らに問いつつ探求の旅を続け
一方,未来予測力とは時間的視点から,過去・現
る。この時のマイルストーンが評価指標であり,学
在・未来の時間軸で考える,歴史的視座から未来を
習者は評価指標を頼りにアセスメント・フィードバ
多角的に予測する,等の力である。
ックを繰り返しつつ目標へとアプローチする。
2)我々はどこに行くのか
このプロセスを,Wiek の枠組を用いて説明する。
次に,課題解決に向けゴールを定める学習が続く。
1)我々はどこにいるのか
この学習プロセスには規範的資質・態度が求められ
持続可能な社会づくりに向けた学習は,まず現状
る。具体的には,進むべきゴールを定める(方向付
把握,課題把握から始まる。この学習プロセスをシ
ける)ために,事象を倫理的側面から考える,未来
ステム思考・未来予測の力が導く。
社会に対する責任を自覚する,公平性を尊重する,
システム思考とは生命論的視座から「鳥の目で物
形成的アセスメント
我々はどこにいるのか
異文化を尊重する等の能力・態度である。
クライテリア
Wiekの枠組
システム思考力
○鳥の目で物事を捉える(空間的把握)
・異分野をつなげて考える
・学問領域を超えて考える
・省庁を超えて考える
・グローバルな視点から考える
・生命論的視座から考える
未来予測力
○時間的視点から考える(時間的把握)
・過去-現在-未来
・歴史から学ぶ
我々はどこにいくのか
(どこに行くべきか)
・未来を多角的に予測する→選択枝
規範的資質
○進むべき向きを定める(方向付ける)
・事象を倫理的側面から考える
・未来社会に対する責任を自覚する
・公平性,異文化を尊重する
我々はどうやって
戦略的思考力
そこに行くのか
○目標に向けた方策・道筋を考える
・使える資源は何か,どう組み立てるか
・どのルートを進むか
・いかなるリスクが待ち受けているか
それを,どうマネージするか
人間関係力
○人的ネットワークを構築する力
・いかに説得するか
・いかに賛同者を増やすか
・いかに組織を構成するか
・いかに組織の意思疎通を図るか
・いかに組織の士気を高めるか
・いかに外部との連携を深めるか
72
3)我々はどうやってそこに行くのか
歴史的視座から未来を多角的に予測する力が求め
そして,いよいよ課題解決に向けたチャレンジ(学
られる
習)が始まる。この学習のプロセスを導くのは,戦
・安心・安全な社会の構築は,すべてに優先して取
略的思考力,人間関係力等のコンピテンシーである。
り組むべき課題である
戦略的思考力とは,目標に向けた方策・道筋を考
・科学技術の使い方を方向付ける規範的資質・倫理
える力であり,使える資源は何か,どう組み立てる
的態度が重要である
か,どのルートを進むか,いかなるリスクが待ち受
東日本大震災を取材した海外のマスコミは次のよ
けているか,それをどうマネージするか,等の視点
うに日本人を称賛した。「未曽有の震災・津波に見
から考える力である。
舞われたにもかかわらず,日本の人々は誰一人とし
人間関係力とは,問題解決に向けて人的ネットワ
てパニックに陥ることなく,助け合い譲り合い,整
ークを構築する力であり,多様な人々を説得し,賛
然と行動した。暴動や略奪は皆無であった。なんと
同者を増やし,組織を構成し,意思疎通を図り,士
気高い国民性だろう。」半面,政府の対応を次のよ
気を高め,外部との連携を深めて問題解決を図る力
うに批判している。「素早く,有効な救援を組織化
である。
できず,いたずらに被害を拡大させてしまった。東
京電力福島原子力発電所への対応はその最たるもの
(3)まとめ
である。」
本章では「形成的アセスメント」と「Wiek の枠
海外のマスコミに指摘された日本の相反する姿
組み」を関係づけることによって,今後の ESD 目標
は,おそらくコインの裏表であろう。日本人に求め
と評価の枠組みを提案した。
られるのは,的確な現状認識と未来予測,素早い意
ESDに限らず21世紀の諸問題には,唯一絶対の「正
思決定,戦略的・組織的危機対応(リスクマネージ
解」は存在しない。解決の方策は,その時々の状況を
メント)等の能力である。それは,今後すべての日
的確に読み取り,未来を予測し,戦略をたて,協働の
本人が身に着けるべき資質・能力であり,Wiek の
努力で「最適解」を導きだすほかはない。そのプロセ
ESD コンピテンシーとほぼ重なる。
スは,我々はどこにいるのか,我々はどこにいくのか
「Wiek の枠組」は高等教育には使えるが初等中等
,我々はどうやってそこに行くのか,という3つの問
教育にはふさわしくない,との指摘もある。しかし,
いによって導かれるであろう。
それが「すべての日本人が身に着けるべき資質・能
力」であるとすれば,「Wiek の枠組」を初等中等教
5.おわりに
育でも使える枠組みに仕立て直す必要がある。その
東日本大震災は深刻な課題を突き付けた。我々が
ため,本稿においては Wiek の枠組みを,21世紀
当たり前と思って享受している豊かで,便利で,快
型能力,学習指導要領・要録等と関係づけることに
適な生活は,非常にもろい地盤の上に築かれている
よって構造化した。さらに,学習者をゴールへと導
事実を目の当たりにした。我々は震災の教訓をもと
く形成的アセスメントを検討し,新しい ESD 評価の
に,これまでの生き方,在り方を根本から見直し,
在り方を構想した。
持続可能で温かみのある社会の実現に向けて強固な
今後の目標は,現場で奮闘されている先生たちと
地盤を築かなければならない。最も重視すべきは「持
協働で実践的研究に取り組み,新しい ESD 評価の妥
続可能な社会を担う次世代の育成」であろう。最後
当性を検証することである。それが,震災復興に少
にその道筋を考える。
しでも資することがあれば望外の喜びである。
仙台平野の地質調査を行った東北大学は貞観地震
の痕跡を発見した。その結果,想定をはるかに超え
謝辞
る津波が押し寄せる可能性があることを警告した。
本報告書のアイデアは東北大学の有本研究室に集
東北電力女川原子力発電所は防波堤のかさ上げを決
う研究者,実践者との対話を通して生まれました。
断し,被害を最小限に食い止めることができた。こ
そして,「ESD の教育効果(評価)に関する研究会」
のエピソードは,我々に以下の教訓を与える。
での熱い討論を通して形を得ました。
・防災には異分野・学問領域,省庁を超えて考え,
OECD 教育革新センター編著「形成的アセスメン
73
トと学力」の副題は,「人格形成のための対話型学
5)濱田眞(2008)秋田市の知識活用能力に向けた学
習を目指して」です。筆者に豊かな対話型学習の機
校におけるネットワークづくり(スクールベー
会を与えていただいたすべての皆様に深い感謝の意
ストアセスメントと評価『教育研究組織におけ
を表して,ひとまず筆をおきます。
る評価に関する総合的研究(中間報告)』(pp.208
-216) 国立教育政策研究所
参考文献
5)ジェームズ・W・スティグラー/ジェームズ・ヒ
1)Black, P. & Wiliam, D. (1998) Assessment and
ーバート著 湊三郎訳「日本の算数・数学教育
に学べ」教育出版(2002):166
classroom learning. Assessment in education:
Principals policy & practice 5 (1) : 7-74
6)刈谷剛彦著「アメリカの大学・日本の大学」中央
2)Cowie, B. & Bell, B. (1999) A model of formative
新書(2012):233-234
assessment in science education. Assessment in
7)新川壮光,濱田眞,山本佐江,有本昌弘(2013)
education : Principals policy & practice 6(1) :
アセスメントを活用した学校改善『東北大学大
101-116
学院教育学研究科研究年報』第 62 集:329-338
3)G.ウイギンズ/J.マクタイ著,西岡加名恵訳「理解
8)東北大学大学院教育学研究科 平成 26 年度文部科
をもたらすカリキュラム設計」日本標準
学省委託事業報告書「高等学校における多様な
(2012):7‐8
学習成果の評価手法に関する調査研究」
4)OECD 教育革新センター編著,有本昌弘監訳「形
9)Wiliam, D. (2011). What is assessment for learning?
成的アセスメントと学力」明石書店(2008):
Studies in Educational Evaluation, 37(1),3-14
26‐62
74
ESD によるマルチレベルの教育変革プロセスの評価に関する考察
ドイツのプログラム効果測定と実践プロジェクト認定を事例に
フェリス女学院大学
はじめに:ESD の評価枠組みの構図
高雄 綾子
1.ESD の評価の考え方
国連 ESD の 10 年の後継プログラムとして「ESD に
(1)国家教育プログラム評価指標から見た ESD
関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)
」
が 2015 年よりスタートした。この 5 つの優先分野の
教育評価の基盤となる指標は、比較や管理のためで
一つである「政策支援」では、これまで個別に行われ
はなく、教育システムの性能や質に関する情報をより
てきた実践を体系化し支援対象として位置づける政策
入手しやすくするために開発される。一般的な教育報
の必要性が述べられている。これは ESD の目指す「持
告書では、人口統計や教育支出、教育内容・施設、質
続可能性」というグローバルな規範概念を、国家の教
の保証・評価、アウトカムやコンピテンシーなど、人
育行政の実情に適合させて政策的に実装させる目的を
間の発達を生涯の各段階に即して把握し、個人の対応
持っており、そのための測定可能な指標による ESD の
能力や社会参加、機会の平等、人的資源構築に貢献す
評価枠組みの構築が各国で試みられている。
る教 育を評価 するため の指標 が採用さ れている
ドイツ連邦共和国(以下ドイツ)においても、2014
(Döbert 2008) (Döbert und Klime 2009)。ESD に関する報
年 3 月に発行された国連 10 年の成果報告書『プロジ
告書はこれまで 3 冊が連邦教育・研究省(BMBF)か
ェクトから構造化へ』によって、個別プロジェクトを
ら発行されており、当初の国際的取り組みを重点的に
国内の教育行政に構造的に定着させていく段階に来た
述べる形から、国内により焦点を当てる形にシフトし
ことが述べられた。ここで政策的な戦略と並び、コミ
てきたが、指標に基づく形ではなく、各機関や領域の
ュニティの様々な教育分野の連携によるローカルな文
取り組みの概要の叙述にとどまっていた。このため、
脈に即した教育の「風景」を創り出すことが必要であ
ユネスコ国際実施スキーム(IIS)に準じた UNECE の
るとされた (de Haan 2014)。これによると ESD 実践は、
指標セット(2007 年)1)のような、教育制度のあらゆ
学校で行われたものであっても、授業やプロジェクト
る分野での ESD 実施プロセスを体系的にモニタリン
を超えてローカルな文脈につながる構図を創り出すも
グするための指標の必要性が、国内でも指摘されてき
のとして評価されるべきとなる。しかしこの評価枠組
た。しかし、そもそも複雑な社会政治的課題であり一
みの射程は、個人の能力開発から授業評価、学校づく
元的な政策目標が構築されていない ESD は、官庁や公
り、地域課題の解決、国家のプログラム評価やガバナ
的機関の統計にも、SOEP、ユーロバロメーター、ユー
ンスに至るまで多様なレベルに及ぶため、多層的で多
ロシュタットなどのデータベースにも、実証データが
面的な指標の採用と、誰が、どの時点で、誰のために
ほとんどない。ESD の質を評価するために必要なメカ
行うのかという評価の構図の明確化が必要となる。本
ニズムを実証する指標が存在しないなかで、国家レベ
論は、ESD の効果を個人、学校、地域、国家の各レベ
ルでは長いこと、ESD の教育効果を特定するために、
ルで多面的に検証しようとするドイツの取り組みを事
膨大な教育目標の妥当性と実行可能性の中で何が厳密
例に、ESD の評価枠組みの構図を浮かび上がらせるこ
に評価されるべきかという根源的な問題が議論された。
とで、今後の政策支援における評価範囲の考察を試み
ESD の国際的な政策文書では、識字や貧困克服から
る。
環境破壊の防止に至るまで幅広い理解がなされている
が、いわゆる先進国においては「技術、経済、政治、
75
社会の分野で形成される課題を予告し解決する近代化
にシンクロさせる」 (Fend 1998)ことで、学校教育の質
シナリオ」 (Haan and Harenberg 1999)として、あらゆる
を向上させる必要性が指摘されるようになった。しか
教育領域に関連するものと理解される。国際政策文書
し、学校の質は各州の学習指導要領から独立して発行
比較から、持続可能な開発の文脈で教育に付与された
されたガイドラインにとどまっており、コンピテンシ
機 能 を 整 理 し た 研 究 (Künzli und Kaufmann-Hayoz
ーと関連づけて具体的な評価に結びつける構図にはな
2008)によると、持続可能な開発概念を具体する手段や
っていなかった。
目標実現のための政策重点部門としての機能が多い。
ここで ESD は、独自のコンピテンシーを「形成能力」
しかしドイツをはじめとするドイツ語圏の共同研究プ
と命名し、
「持続可能な開発についての知識を応用し、
ロジェクトにおいては、持続可能な開発の実現に必要
持続不可能な開発の問題に気づくことのできる力を前
な行動力の獲得のための機能についての議論が活発で
提に、現状分析と未来研究から、相互依存における経
あり、むしろ独自のコンピテンシーの獲得という機能
済、環境、社会の発展の帰結を導き出し、それに基づ
を果たしたものを ESD として評価すべきという主張
いて、持続可能な開発プロセスを実現させる意思決定
が多く見られている。
を行い、理解し、個人や協働で、政治的に実践するこ
とができる力」 (トランスファー21 2011, 73)と定義し
(2)ESD 独自のコンピテンシーの評価の範囲
ている。一般的な定義と構造を同じくしながらも、問
題解決能力だけでなく、バラバラの事象をつなぎ合わ
このような指標化における議論によって、ESD は新
せて相互依存ネットワークとして認識し、コミュニケ
たな教育的取り組みとしての位置づけから、既存の教
ーションや参加によって継続的に行動する力を含めた
育原則やコンピテンシーの枠組みの中で存在を明確に
独自の能力観であり、そのための関係諸アクターの意
していく方向に転換していく。国家レベルでは、
「政策
識の抜本的な変革を主張している。
枠組み」
、
「普及・定着」
、
「学校現場」
、
「学術研究」の
これにならえば、ESD はまず、このような意識変革
カテゴリーで、ESD をできるだけ簡単かつわかりやす
を起こすプロセスの必要性の認識が学校で共有されて
く報告するための量的に把握可能な尺度を持った指標
いるかどうかが評価の対象となり、変革の量的な拡大
セットが開発された (Adomßent, et al. 2012)。このうち
のみならず深さや当事者性も問われることとなる。さ
「学校現場」の量的指標の一つとして、既存の教育行
らに「形成能力」の獲得のために、上記のような授業
政手段にどの程度 ESD が浸透しているかを把握する
外・学校外の学習機会と学校を接続するシステム構築
ため、
「学習指導要領
2」
と教育水準の中に記述された
も評価の対象となる。ESD の「形成能力」の評価が、
持続可能性のコンピテンシー獲得に向けた基準」が設
国家レベルの ESD 指標化における学習指導要領の記
定されている。
述の量的把握を出発点としつつ、そこにとどまらず、
一般的にコンピテンシーとは「ある特定の問題を解
地域、学校、生徒レベルの変革の実証的な把握を求め
決するための、個人の持っているもしくは習得される
る根拠がここに示された。
認知能力と技術であり、さらに、モチベーションと意
志と社会性を持って、多様な状況下で効果的かつ責任
2.国家 ESD プログラムの効果測定
を持って遂行できる問題解決能力」 (Weinert 2001, 21)
と定義されている。ドイツでは 2000 年の PISA ショッ
(1)学校の変革:教員による自己評価
ク以来、OECD の提唱した「キー・コンピテンシー」
への注目が高まり、多くの州の学習指導要領において
ESD は国家レベルでこの変革に向けたシステム構
「教科横断型コンピテンシー」
として言及されてきた。
築を 2 つのモデルプログラムにより具体的に提案して
この非認知的要素を多く含むコンピテンシーは、学ん
きた。モデル構築プログラム「BLK”21”」(1999-2003)
だことの有効な適用や使用が保障されない限り認知的
では、
「学際的知識」
、
「参加型学習」
、
「革新的構造」の
な転移をもたらさないため、授業外・学校外の学習機
3 つの原則に基づき、ESD 活動のモデルを学校種や地
会の要因に規定される範囲が大きくなる (Mayer und
域の文脈に即した教育プロセスの変革に結びつけるモ
Wittrock 1996)。このため、学校において、教育プログ
デルが提唱された。様々な持続可能性監査基準の活用
ラムと現場の実践プロセスを適合させる授業外の支援
や、後述する「持続可能な生徒企業」の実施、持続可
システムを設置し、
「学習内容とその利用可能性を最適
能な開発に向けた学校特色づくり、外部人材との連携
76
など、学校の内外に設置した学習機会によって、
「形成
(2)授業と学習の変革:生徒による自己評価
能力」を獲得し、
「個人や協働で、政治的に実践する」
場をローカルな文脈に組織論的に転移 (Coburn 2003)
教員調査に先立ち、2007 年度に約 2,000 人の生徒を
させていくプログラムである。
対象とした授業認知の調査が、シュトゥットガルト大
続くモデル拡大プログラム「Transfer-21」(2004-2008)
学に設置されたワーキンググループによって行われた
は、各学校レベルを超えて、この「計画的に管理され
(Petsch, Gönnenwein und Nickolaus 2012)。日本の中二〜
た変革」 (Jäger 2004) (Nickolaus und Gräsel 2006)を教育
中三に相当する 9〜10 年生を対象に、プログラム参加
システム自体に伝播することを目指している。ドイツ
校において最低一つの授業ユニットもしくはプロジェ
の小学校および中等教育の 10%に導入する目標を掲げ、
クトを行った生徒を「被験者グループ」
(1717 人)とし
さらにその授業実践の変革の深さの度合いに応じて、
て、そしてプログラムに参加していないが、州の学習
学校を 3 つのレベルに区分し、教員の当事者性の深化
指導要領に持続可能性テーマの学習が明記されている
や変革の時間的継続性も問うものとなった。
学校の生徒を「コントロールグループ」
(324 人)とし
「 Transfer-21 」 の 量 的 拡 大 目 標 の 達 成 を 受 け
て選出している。質問項目は、1(あてはまらない)〜
(Programm Transfer-21 2008)、変革の深さや時間を実証
5(当てはまる)の 5 段階選択肢で、生徒自身が認知し
的に測定するために、ヴッパータール大学に設置され
た「授業の特徴」
(状況的学習、自己組織的学習、共同
たワーキンググループが、2008 年の春と 2009 年の夏
的学習、授業開放、プログラム志向型授業、過剰な負
の 2 回にわたり、のべ 845 人の教員を対象に、学校や
担、楽しさ、教師の力量、参加能力)
、および「自分の
授業レベルでの変革の転移効果を測定するアンケート
意欲」
(内因的動機、外因的動機)を聞いている。また
調査を行った (Trempler, Schellenbach-Zell und Gräsel
同じ選択肢尺度によって、
「コンピテンシー」
(積極性、
2012)。対象者の 7 割近くがトランスファー21 プログ
協調性、知識、判断能力)と「行動力」
(テーマ横断型、
ラム参加校、3 割は他のプログラムへの参加校である
テーマ限定型(気候変動)
)を、さらに自由記述では「持
ため、ESD 以外の授業実践にも共通する学内組織や授
続可能性のために思いつく行動」と「持続可能性につ
業手法、コンピテンシーなどについて質問している。
いての自分の言葉による説明」を質問した。
学校レベルの変革については、
「取り組みの学校レベル
まず、それぞれのグループの質問回答をクラスター
での共有」
、
「教材の活用」
、
「カリキュラム構築」
、
「学
分析し、
「形成能力」の定義である行動力のためのレデ
校計画策定」
、
「学校施設の整備」の 5 項目について、
ィネスとして、生徒の持続可能性に対する態度を「コ
授業レベルでの変革については、
「授業手法の革新」
、
ントロール認知タイプ」として把握した (Nickolaus,
「ネットワーク思考の理解」
、
「計画的な学習能力」
、
「参
Gönnenwein und Petsch 2011)。その結果、(1)ポジティブ・
加能力」の 4 項目について質問した。それぞれ 1(全
相互作用タイプ(
「自分は問題に働きかけ、協力して良
く当てはまらない)〜4(当てはまる)まで 4 段階選択
い影響を与えられる」と考える)
、(2)あきらめ・悲観タ
肢の値を集計し、学校属性と紐付けた多変量解析を行
イプ(
「自分は問題に影響をほとんど及ぼせず、もっと
っている。
影響力のある人や政府が取り組むべきだ」と考える)
、
結果として、いずれも学校レベルではすべての質問
(3)無視タイプ(
「自分が問題に関わる必要を感じない」
でプログラム参加校が他校を大きく上回る値を示した。
と考える)の 3 タイプに表れた。(1)は被験者グループ
教員の自己評価という限定はあるものの、ESD の変革
の 51%、コントロールグループの 43%であった。また
の力は参加アクターの態度と価値観に大きく依存する
女子の方が男子よりも(1)の割合が顕著に高かった。
ことから、まずはプログラム参加校の学校レベルの変
次いで、生徒による授業の特徴と自分の意欲の認知
革への深いコミットメントを量的に把握した結果と位
では、すべてのポジティブな質問においては被験者グ
置づけられる。他方、授業レベルでは「ネットワーク
ループの値が、逆にネガティブな質問(過剰な負担、
思考」が参加校で高かった他は、ほとんど差が見られ
外因的動機)においてはコントロールグループの値が、
なかった。授業レベルで計画性や参加能力よりも「ネ
有意に高くなった。また生徒のポジティブな授業の認
ットワーク思考」が顕著に高く評価されているという
知と、
教師アンケートで聞いた授業タイプ
(正規授業、
ことは、ほかの実践アプローチと比べた ESD の独自性
選択必修、
プロジェクト)
との間に関係性は見られず、
を示すものと見なせる。
むしろ授業にかける時間の方が有意に働いており、多
くの時間が割かれた学校の生徒はポジティブな認知が
77
高くなっている。
固有のコンピテンシーなどの教育ニーズを反映した形
生徒によるコンピテンシーの自己評価は、積極性、
で行われることを想定している。このことを背景に、
協調性については両グループともに違いはなかったが、
学校 ESD プロジェクトを、地域における学校の質のガ
知識、判断応力については、被験者グループが顕著に
イドラインとリンクして評価し認定する試みが、ドイ
高かった。ドイツでは 2000 年以降、それまでの一方的
ツ北西部に位置するニーダーザクセン州の「持続可能
な教授型から生徒同士の協力とチームワークによって
な生徒企業」実践においてなされている。
行う協働型授業が積極的に取り組まれてきたため、
生徒企業とは、学校がサポートしながら、生徒によ
ESD プログラム以外でも積極性や協調性の向上が一
って商品(サービス)の計画、生産、販売、従業員(生
定程度表れているものと推測される。また行動力につ
徒)の雇用が行われるという、教育学的な目標設定に
いては被験者グループの値が有意に高かった。
基づいた学習プロジェクトである。ドイツ経済技術省
しかし自由記述であげられた思いつく具体的な行動
も主に中高生を対象に積極的に PR しており、近年は
名は、両グループとも平均 2.7 個と少なかった上に、
企業や NPO による活動支援プログラム 3)も充実して
環境問題、特にエネルギー節約やゴミ分別に偏ってい
きている
た。これは ESD の授業で開発問題を扱っていたとして
Technologie 2011)。さらに「持続可能な生徒企業」は、
も変わらない。さらに興味深いのは、グループの属性
その取り組みを持続可能性に基づいて展開するもので
に関わりなく、女子生徒と実科学校(大学進学を目指
あり (高雄 2012)、
「BLK”21”」でモデルが構築され、
さない学校)の生徒の値が高く、男子生徒や進学校で
ESD 普及指導員「マルチプリケーター」養成講座でも
あるギムナジウムの生徒よりも行動に即した知識量の
主要テーマとして採りあげられた (高雄 2009 a)。
多さを示したことである。ESD のコンピテンシーは、
(Bundesministerium für Wirtschaft und
ニーダーザクセン州の「持続可能な生徒企業」は 90
従来の教育における学校種のイメージを多少なりとも
年代から増え始め、現在は 820 校が参加している 4)。
変える可能性を持っているといえる。
2007 年から州の教育分野の一部門として確立され、教
これら回答値の相関を、個人の回答を下層、クラス
師達によるワーキンググループが州内に 15 カ所発足
の平均値を上層に置いたマルチレベル分析で把握した
し、情報交換を行ってきた。2012 年には州の学校の質
結果、説明因子として最も強く作用しているのは個人
ガイドラインと、欧州のビジネス品質管理モデルであ
レベルで「内因的な動機」であり、クラスレベルでも
る EFQM(European Foundation for Quality Management)
「クラスの内因的な動機の平均値」であった。全体で
モデルに沿った認定システムをスタートさせている
は個人よりもクラスの方がより高い影響を及ぼし、内
(Niedersächsische Landesschulbehörde 2011)。この認定は
因性の動機の他に、プログラム型授業づくりや教師の
生徒企業活動による教育の質の体系的な向上に向けた
力量、授業の楽しさも高い影響を及ぼすことが明らか
幅広い手段を提供することを目指しており、金(最上
となった。そしてクラスの平均値が高い場合に個人が
レベル)
、銀(コンピテンシーレベル)
、銅(品質レベ
自分のコンピテンシーを高く評価する割合も高まって
ル)の 3 レベルで審査される。州の専門コーディネー
いる。また生徒の持続可能性に対する 3 つの態度のタ
ターと、15 人の地域コーディネーターが審査するが、
イプはいずれも説明因子として十分ではないことがわ
彼らは認定に向けたアドバイスや協働プロジェクトも
かった。
行っており、インターネットで自分の地域のコーディ
ネーターを探してコンタクトをとることができる。認
3.地域 ESD プロジェクトの認定基準
定されると州文部省から認定証が授与され、全国レベ
ルでの「持続可能な生徒企業コミュニティ」サイトに
(1)ニーダーザクセン州における「持続可能な生徒
登録される。ニーダーザクセン州はこのコミュニティ
企業」の取り組み
に登録されている生徒企業の数が最も多く、次がノル
トライン・ヴェストファーレン州となっている。認定
国家による ESD プログラムは、実証研究で示された
は 3 年ごとに更新される。
ような個人、授業、学校のレベルで共振する変革の波
を、教育の質を向上する営みとしてローカルな文脈に
(2)ニーダーザクセン州文部省による「学校の質ガ
組織的に転移することまでを、
その目的に含んでいる。
イドライン」
これは究極的には、ESD 授業やプロジェクトが、地域
78
普通教育課程の学校の認定の際に参照される基準が、
5) プロセス、商品、サービス
「学校の質ガイドライン」である。ニーダーザクセン
州文部省は通常の学習指導要領と並び、
2014 年 8 月に、
これらは組織の構成員と顧客の満足度、より広いコ
普通教育課程の学校の質の向上に、より良い授業と学
ミュニティにおける成績指標を網羅しており、そのた
校組織の評価基準を提供することを目指したガイドラ
めに業績の改善を実現する学習と改善を求めている。
インを公布した (Niedersachsisches Kultusministerium
国際的なビジネスの文脈における教育へのニーズを反
2014)。ガイドラインの基準は各学校に拘束力を持つも
映したものとされている 5)。
のではないが、自己評価と外部評価を組み合わせ、以
下の 6 カテゴリー18 指標によって学校の教育プロセス
(4)
「持続可能な生徒企業」認定基準
の質をチェックするよう規定している。
ニーダーザクセン州では既述のように、金、銀、銅
1) 成果と効用(コンピテンシー、教育課程、定着)
の 3 レベルに分けて認定を行っている。下位の銅レベ
2) 授業と学習(コンピテンシー志向、授業づくり、
ルから基準内容と、それぞれの「学校の質ガイドライ
個人志向)
ン」および EFQM モデルとの関連性を番号で示す。
3) 学校の管理職と組織(リーダーシップ、共同責任、
学校組織)
表 1 銅(質)レベルの質の基準
4) 学校づくりの目的と戦略(学校プログラム、評価、
基準
職業能力)
「持続可能な生徒企業」ネ
5) ニーズに即した教育内容(授業内容、独自カリキ
学校の質
EFQM
3)
1),4)
1)
5)
4)
2),5)
2),3)
3),4)
3)
2),3),5)
ットワークとの協働
ュラム、成果測定)
実際の市場での定期的な
6) 協働と参加(教員同士の協働、外部との協働、参
営業
加)
学校の授業の基本構造と
しての生徒企業
各カテゴリーは密接に関連し、人格形成、健康で文
持続可能な開発に配慮し
化的な生活、個人の発達を支援する学校のすべての取
た商品/サービス
り組みの目的と原則を示す。ガイドラインは州の持続
学校で公的に認められた
可能な発展を実現するための公平で質の高い教育への
生徒企業
ニーズを反映したものとされている。
表 2 銀(コンピテンシー)レベルの質の基準
(3)欧州品質管理モデル EFQM
基準
職業教育課程の学校の認定の際に参照される基準が、
欧州品質管理財団が開発した欧州で最も一般的な品質
管理手法で、3 万以上の組織が採用した実績を持つ「欧
学校の質
EFQM
企業と同様の組織構造
1),2),3)
5)
キャリア教育の一環
2),5)
5)
ESD の重要な手段として
5)
2),4)
外部との協働
3),6)
1),4),5)
活動成果の振り返り
6)
2),5)
の持続可能な生徒企業
州品質管理モデル(EFQM)」である。組織の強みと、組
織の全ての活動の改善が必要な分野を客観的に測定す
るための、自己評価の枠組みを提供するもので、
「卓越
した組織の 8 つの原則」に基づき、以下の 5 つの「要
表 3 金(最上)レベルの質の基準
因」基準を評価することで 4 つの「結果」基準を満た
基準
すサイクルで構成されたモデルである。
1) リーダーシップ
2) 戦略
3) 従業員
4) パートナーシップと資源
79
学校の質
EFQM
長期的な定着
6)
1)
長期的な質の改善
6)
2),5)
生徒企業の成果の転移
3),6)
1),4)
永続的な企業組織形態
3)
5)
(4)
「銅」レベルの認定事例「Fun and Production」
図 2 人事部の社員達
2012 年 12 月、最初の「銅」認定が、エルプマルシ
ェン統合学校の生徒企業「Fun and Production」に授与
された。ここはドイツの三分岐制の中等学校種(基幹
学校、実科学校、ギムナジウム)のすべてが統合され
た学校で、全生徒数 43 クラス 1052 人を 78 人の教員
で教えているが、統合学校にありがちな学力格差が大
きいという問題も抱えている 6)。
「Fun and Production」は 2008 年に課外活動の一環で
設立され、現在の活動は週 1 回水曜日の、選択必修科
目「労働と経済」の授業として行われている 7)。つま
り、
「銅」レベルの 3 つ目の基準である「授業の基本構
(いずれも筆者撮影(2014 年)
)
造としての生徒企業」と、5 つ目の「公的に求められ
た生徒企業」を満たしており、これらは州の学校の質
入社に当たって、8 年生の時点でカバーレターと履歴
ガイドラインの「授業と学習」
、
「管理職と組織」
、
「学
書を提出し、人事部と面接する。3 ヶ月試用期間で認
校づくりの目的と戦略」に合致している。
められれば本契約となるのは、現実の労働市場を反映
企業は 4 部門
(社会福祉、
リサイクルファッション、
している。人事部も生徒によって構成されている。
金属・木工加工、自転車修理)に分かれており、2012
毎回の活動終了後、すべての活動部門で「自己評価
年時点で 9〜10 年生 85 人が「社員」となっている。顧
シート」
(図 2)を提出する。この評価シートの内容は
客は市民のほか、教師、生徒自身であり、環境と経済
主に活動内容の効率性を問うものであり、今日の活動
の両立を原則とした経営と、チームワークによる公平
で何が改善されたか、次回以降よりよく改善するため
な組織づくりという社会的側面にも配慮している。こ
には何が必要か、などを記述する。この自己評価シー
れは 2 つ目の基準
「現実の市場での定期的な営業」
と、
トが 1 学期分集まると、第三者としての教師が選択必
4 つ目の「持続可能な開発に配慮した商品/サービス」
修科目の成績をつける。成績評価のポイントは、持続
を満たし、
学校の質では
「成果と効用」
、
「授業と学習」
、
可能な企業経営のための知識、判断能力、自己管理能
「管理職と組織」に合致する。
力であるという。
またこの生徒企業は州のネットワークに定期的に参
加しており、1 つ目の基準「ネットワークとの協働」
図 3 自己評価シート
も満たしている。
図 1 自転車修理部門の社員達
(資料をもとに筆者作成)
この自己評価シートによる事業の自律的な改善プロ
80
セスは、
「金」レベルの「長期的な質の改善」を今後満
ドイツにおける ESD は、持続可能な開発に向けて、
たしていくことも見込まれる。活動が長期に持続的に
生徒個人と教員、学校組織、ローカルな文脈のマルチ
定着していくための不断の改善プロセスは、学校全体
レベルで、各主体が教育の質の向上に取り組む変革プ
がカリキュラム変革や外部との協働を進めながら、教
ロセスである。
「形成能力」獲得プロセスの組織的転移
育の質を高めていくプロセスを生み出していくことが
を目指す国家による ESD プログラムが、ESD 以外の
期待される。
教育実践とも共通性を持つ手法を基盤としつつ、マル
8)
2012 年 12 月 19 日の地元紙の取材 に対し、当時の
チレベルの変革プロセス自体を評価する構図において、
社長をつとめていた 15 歳の生徒は、
「ここではリアル
ESD 独自の教育の質が浮かび上がってきているとい
な生活と同じように物事が進む。
」と答えている。
える。
また事例が示すように、コンピテンシーは地域の文
おわりに:ESD のマルチレベルの変革プロセスの評価
脈とのつながりを志向する中で、多様な形で具現化す
の展開可能性
るものであり、それを「自己評価シート」のように評
価する指標や基準を、教育主体自身が開発できるよう
国家による ESD プログラム効果の測定結果は、ESD
になることが望ましい。今後、ESD の評価構図におい
の独自のコンピテンシーとしてのネットワーク思考を
て、言葉は矛盾するが、個別のローカルな教育ニーズ
特定するとともに、個人、授業、学校の多面的な変革
をより具体的に反映する多様な指標に基づくガイドラ
の相互作用を示していた。内因性の動機により取り組
インを、学校と地域の協働で作成し、相互参照するこ
まれた ESD に対する生徒のポジティブな評価と、クラ
とが可能となれば、学習指導要領を補完しうる評価枠
ス全体のポジティブな評価が相互に関連してくること
組みの一つとなることも考えられる。
が明らかとなった。これにより、ESD プログラムの効
果的な実施には、まず、授業前にすでに存在している
注
1) UNECE モニタリング実施レポート
www.unece.org/env/esd/Implement.Gov.htm(最終閲
覧日 2016 年 2 月 27 日)
2) ドイツでは一般教育行政における文化連邦主義に
よって、全国に 16 ある州ごとに独自の文部省と
学習指導要領が存在する。
3) ボストン・コンサルティンググループによる「ビ
ジネス@スクール」
、ドイツ青少年財団による
「生徒企業への道」
、ドイツ経済研究所ケルンに
よる「JUNIOR」などがある。
4) ニーダーザクセン州文部省ウェブサイト「持続可
能な生徒企業」
http://www.mk.niedersachsen.de/portal/live.php?naviga
tion_id=26966&article_id=90558&_psmand=8(最終
閲覧日 2016 年 2 月 27 日)
5) ニーダーザクセン州学校監督局ウェブサイト「公
立職業学校における EFQM に準じた品質管理の
導入」http://nibis.de/nibis3/uploads/2nlqa2/files/materialien/bbs-einf-qm.pdf(最終閲覧日
2016 年 2 月 27 日)
6) エルプマルシェン統合学校ウェブサイト
http://www.elbmarschen-schule.de/index.php(最終閲
覧日 2016 年 2 月 27 日)
7) 以下の記述は 2014 年 8 月に現地で行った聞き取
り調査に基づく
8) 地域紙の記事「現実生活への準備は万端」2012
年 12 月 19 日 www.kreiszeitung-wochenblatt.de
(最終閲覧日 2016 年 2 月 27 日)
生徒の意欲が最も重要であり、それは個人的な問題に
対する知識の多さや態度にも左右されるが、それ以上
に、内因性の動機により自発的に問題に取り組んだ場
合と、その意欲がクラスで共有される時に強く作用す
るものであることが導かれる。ESD プログラム参加校
では、学校の変革に深くコミットした教師によるプロ
ジェクトや授業が展開されていることから、変革を目
指す学校と教師の営みの中に、このような個人とクラ
スのポジティブな評価の共有が生まれ、教育の質を向
上していくプロセスとなっていくことが推測される。
教育の質への注目の高まりは、各地域・州で学校の
質についてのガイドラインの発行を促進してきたが、
それを実際に教育現場での実践の評価に結びつける構
図にはなっていなかった。そこでニーダーザクセン州
では、
「持続可能な生徒企業」の認定基準と学校の質ガ
イドラインをリンクさせることにより、どのような具
体的活動や成果を、教育の質の向上として評価するべ
きかを明らかにした。認定レベルが上がるにつれ、授
業内容だけでなく、学校全体の組織変革や地域との協
働が重視されるようになる。また参加能力の育成とと
もに、生徒やクラスの教育ニーズにも柔軟に対応でき
る教育が求められるようになる。生徒主体の活動を発
展的に保障して行くには、学校という組織による限界
を超えていく努力が必要となるだろう。
81
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82
ESD の教育効果(評価)の現状と展望
国立教育政策研究所研究指定校を中心に
国立教育政策研究所
後藤 顕一
1.次期学習指導要領の議論の方向性と ESD
う使うか(思考力・判断力・表現力等)
」
「ⅲ)どのよう
(1)学習指導要領改訂の視点と育成すべき資質・能力
に社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか(学びに
1)はじめに
向かう力,人間性等)
」を,三つの資質・能力の柱とし,
平成 26 年 11 月末,文部科学大臣が中央教育審議会
それらを育成する中核に,どのように学ぶのか(アクテ
(中教審)に「初等中等教育における教育課程の基準等
ィブ・ラーニングの視点からの不断の授業改善)
,学習
の在り方について」諮問した。これを受け,新しい時代
評価の充実として,カリキュラム・マネジメントの充実
にふさわしい学習指導要領等の基本的な考え方の議論
を位置付けている。
が始まり,平成 27 年 8 月末には,
「論点整理」1)をとり
まとめ,現在,次期学習指導要領の方向性が示されてい
る。
そこでは,
「社会に開かれた教育課程」を目指し,学校
の社会や地域における存在意義とともに,次代を担う児
童生徒がこれから求められる資質・能力を獲得していく
場としての学校の在り方を求めている。すなわち,学校
を変化する社会の中に位置付け,教育課程全体を体系化
することによって,学校段階間,教科等間の相互連携を
促し,さらに初等中等教育の総体的な姿を描くことを目
指している。
ここで示されている視点は,ESD の理念と同じ方向
図1 論点整理での「育成すべき資質・能力」図
性である。すなわち,これからの教育は,ESD の理念を
深く理解し,それを実践していくことが求められている
ともいえる。
ESD の理念でもあり,次期学習指導要領改訂の柱と
もいえるこれからの時代・社会に求められる資質・能力
の明確化とその具体的な獲得のために,一つには,質の
高い学校教育の推進が不可欠となろう。また,家庭地域
の教育力の向上も不可欠であろう。
これは,
「知識の量や質」の重要性とともに,つけたい力
である「資質・能力」を重視することを示したものであ
る。
「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送る
か」は,ESD そのものであるともいえる。このような目
標の実現のためには,学校・家庭地域が一体となり,学
校教育を取り巻く全体を通しての育成に向けた具体的
な実践を遂行し,さらに実践を検証するとともに,改善
2)求められる資質・能力の整理
を求め続けていく必要があろう。また,とりわけ学校に
論点整理では「社会に開かれた教育課程」の実現に向
けて,求められる資質・能力の整理を示している。今ま
で我が国が培ってきた教育を尊重し,国内外の社会の変
化や動向について先行的な研究動向を踏まえ,学校がど
うあるべきか,授業がどうあるべきかをまとめている1)。
整理では「ⅰ)何を知っているか,何ができるか(個別
の知識・技能)
」
「ⅱ)知っていること・できることをど
83
は,取り巻く全体の育成とともに,自校の特徴を捉え,
自校ならではの取組,さらには教育の核であるそれぞれ
の授業においても求める資質・能力の育成に向けた学び
への工夫が求められる。
表1 求める資質・能力の3つの柱とその説明
3つの柱
主な内容
ⅲ)どのよう
に社会・世界
と関わり、よ
りよい人生
を送るか
ⅰ)及びⅱ)の資質・能力を、どのような方向性で働かせていくかを決定付ける重要な要素であり、以下の
ような情意や態度等に関わるものが含まれる。
・主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や、自己の感情や行動を統制する能力など、いわゆ
る「メタ認知」に関するもの。
・多様性を尊重する態度と互いのよさを生かして協働する力、持続可能な社会づくりに向けた態度、リーダ
ーシップやチームワーク、感性、優しさや思いやりなど、人間性等に関するもの。
ⅱ)知ってい
ること・でき
ることをど
う使うか
問題を発見し、その問題を定義し解決の方向性を決定し、解決方法を探して計画を立て、結果を予測しなが
ら実行し、プロセスを振り返って次の問題発見・解決につなげていくこと(問題発見・解決)や、情報を他
者と共有しながら、対話や議論を通じて互いの考え方の共通点や相違点を理解し、相手の考えに共感したり
多様な考えを統合したりして、協力しながら問題を解決していくこと(協働的問題解決)のために必要な思
考力・判断力・表現力等である。特に、問題発見・解決のプロセスの中で、以下のような思考・判断・表現
を行うことができることが重要である。
・問題発見・解決に必要な情報を収集・蓄積するとともに、既存の知識に加え、必要となる新たな知識・技
能を獲得し、知識・技能を適切に組み合わせて、それらを活用しながら問題を解決していくために必要とな
る思考。
・必要な情報を選択し、解決の方向性や方法を比較・選択し、結論を決定していくために必要な判断や意思
決定。
・伝える相手や状況に応じた表現。
ⅰ)何を知っ
ているか、何
ができるか
各教科等に関する個別の知識や技能などであり、身体的技能や芸術表現のための技能等も含む。基礎的・基
本的な知識・技能を着実に獲得しながら、既存の知識・技能と関連付けたり組み合わせたりしていくことに
より、知識・技能の定着を図るとともに、社会の様々な場面で活用できる体系化された知識・技能として身
に付けていくことが重要である。
3)資質・能力を育成する取組や授業作りに向けた視点
国立教育政策研究所
3)
(2014)では,ESD
めには,目的を明確にして,
「4)考えるための材料を見
を含めた
極めて提供し」ながら,答えのないような問いに向かい
実践事例を集積し,国内外での学習科学等の学術的な知
合っていく。さらにそのためには,学習者が当事者意識
見をまとめて,資質・能力(つけたい力)育成に向けた
を持ち,主体的・協働的に問題解決を進めていくこと(ア
授業づくりの視点として,整理している。これらは,授
クティブ・ラーニング)を余儀なくされるような「1)
業ばかりではなく,学校での様々な取組に向けた視点と
意味のある問いや課題」の設定,
「3)考えを深めるため
いえ,さらに同時に,今,注目されているアクティブ・
に対話のある活動を導入する」場面の設定が必然となろ
ラーニングに向けての視点であるといえよう。
う。それは,時間とともに終了が来るようなプログラム
1)意味のある問いや課題で学びの文脈を創る
2)子供の多様な考えを引き出す
3)考えを深めるために対話のある活動を導入する
4)考えるための材料を見極めて提供する
5)
「すべ・手立て」は活動に埋め込むなど工夫する
6)子供が学び方を振り返り自覚する機会を提供する
7)互いの考えを認め合い学び合う文化を創る
型の学びから,協働的に取り組む過程が含まれるプロジ
ェクト型の学びへの転換が求められているということ
に他ならない。また,学習者どうしが対話しながら考え
を深めるとともに,教員は,内容を羅列的に教え込むの
ではなく,
「2)子供の多様な考えを引き出し」ながら内
容理解を深めていく工夫が必要となる。単に「考えなさ
い」
「話し合いなさい」といっても子供には,目的や視点
これから求められる資質・能力(つけたい力)を育成
が直ぐに共有できるとは言い切れない。そこで、子供た
する学びを進めていくためには,学ぶ目的を明確にする
ちに目的や視点を意識化させるような思考を促すよう
とともに,子供一人一人の学びを大切にすること,加え
な動詞,
「5)子供が使うときには,
「すべ」
,先生が指導
て,学習内容をしっかり押さえ各学校の取組や授業を構
に用いるときには「手立て」を活動に埋め込む工夫をし
想し,時として答えのないような問いにも向き合い,最
ながら用いる」ことで,力をさらに伸ばすことが可能に
適解,最善解を求め続けるような実践が求められる。資
なると考えられる。また,評価本来の意味をもう一度考
質・能力の育成を目指した学びの質を向上させていくた
え直し,
「6)子供が学び方を振り返り自覚する機会を
84
提供する」とともに,その時間を保障することがさら
なる学びにつながると考える。また,その根底・基盤
となるのは,一人一人の多様性と価値,学びに向かっ
ていく学級の雰囲気づくり,人間関係作り,すなわち
「7)互いの考えを認め合い学び合う文化を創る」こ
とといえよう。
4)資質・能力を育成する取組や授業作りのために
図3 つながりを基盤にしたカリキュラム・マネジメントのイ
メージ図
5)これから求められる学校像
図2 学びの要素間のつながり
求められる学校像とは何か。先に示した「論点整理」
(2015)の議論を踏まえて述べる。
質の高い取組や授業とは,求められる資質・能力,内
学校とは,社会への準備段階であると同時に,学校そ
容,学習活動が結びついた授業である。どれか一つが欠
のものが,児童生徒や教職員,保護者,地域の人々など
けても,バラバラでも成立しない。まずは,子供にとっ
から構成される一つの社会でもある。子供たちは,学校
て求められる資質・能力とは何かを具体的に示すととも
も含めた社会の中で,生まれ育った環境に関わらず,障
に,子供たちにとって必要な内容を構想し,その獲得に
害の有無に関わらず,多様な背景,様々な人々と関わり
足る学習プロセスを重視した学習活動で学びを構成す
ながら学ぶ。その学びを通じて,学びを深くするととも
ること,すなわち,資質・能力と内容と学習活動をつな
に,自分の存在が認められることや,自分の活動によっ
いでいくことが重要である。
て何かを変えたり,社会をよりよくしたりできることな
論点整理で示された資質・能力の目標である「社会・
どの実感を持つことができる。そうした実感は,子供た
世界と関わり,よりよい人生を送ることができるような
ちにとって,人間一人一人の活動が身近な地域や社会生
力」を育成するためには,意味のある問いや学びの文脈
活に影響を与えるという認識につながる。このような経
を創ることが求められる。
験を積み重ねることにより,地球規模の問題にも関わり,
また,学習プロセスを捉えるため,1 時間の取組や授
持続可能な社会づくりを担っていく意欲を持つように
業(短期)での学習の変化の見取りとともに,取組全体,
なることが期待できる。学校はこのようにして,社会的
単元全体,1 学期間,1 年間といった期間(長期)での
意識や積極性を持った子供たちを育成する場といえる
学習集団全体や個人の変容を捉える視点も求められる。
のである。
いずれにおいても,求められる資質・能力,内容,学
すなわち,児童生徒が,学校とともに身近な地域を含
習活動といった要素間のつながりを意識し,目的に対応
めた社会とのつながりの中で学び,自らの人生や社会を
した評価規準を持ち,子供の変容や指導の授業計画と授
よりよく変えていくことができるという実感を持つこ
業実践の前後の変容の「差分」をみとることが求められ
とが,未来に向けて進む希望と力を与えることにつなが
る。すなわち,構想・計画(P)
,実践(D)
,更にそれを
るのである。
検証(S)
(または,チェック(C)改善(A)
)を行い続
資質・能力の育成に向けて,日々の学びの充実が望ま
けられる,カリキュラム・マネジメントサイクルへの取
れる。さらに,学校と家庭地域とが一体となって児童生
組が重要である。このような取組は,実践してみないと
徒を育てていく意識を持ち,身近な地域を含めた社会と
わからないことも多かろう。児童生徒の多様な学びを失
のつながりを意識した具体的な取組を構想,実践,検証
敗と捉えず,恐れることなく,挑戦し続けることが大切
し続けていくことが望まれる。そうすることで,
「高い
であろう。さらに,行った実践や学習評価に対し,検証・
志や意欲を持つ自立した人間として,他者と協働しなが
修正を重ねて,再構成すること,単線型でなく,循環型
ら価値の創造に挑み,未来を切り開いていく力」を育て
で粘り強く改善し続ける取組や授業実践が求められて
ることにつながる。それは,知・徳・体の包括的育成に
いるといえよう。
向けた教育文化の創造につながり,「社会に開かれた教
85
育課程」の実現につながるものと考えられる。
するだけでなく,それらを活用する思考力・判断力・表
現力が重視されなければならない。さらに,他者との望
(2)国立教育政策研究所プロジェクト研究における ESD
ましい関係の中で自律的な態度・行動が取れることも大
1)ESD の視点に立った学習指導とは
切である。ESD の枠組みでは,国内外で提案されている
国立教育政策研究所は,2012 年に「学校における持
様々な能力・態度を「生きる力」と関連付けて整理し,
続可能な発展のための教育(ESD)に関する研究」
〔最
「批判的に考える力」
「未来像を予測して計画を立てる
を刊行し,学校における ESD の目指すべ
力」
「多面的,総合的に考える力」
「コミュニケーション
4)
終報告書〕
き目標,課題を見いだすための視点,身に付けたい力,
を行う力」
「他者と協力する態度」
「つながりを尊重する
指導を進める上での留意事項を整理し,ESD の学習指
態度」
「進んで参加する態度」の7点を例示している。こ
導過程を構想し展開するために必要な枠組み(以下,
れらを学校種や学年,教科等に応じて具体化し,学習目
ESD の枠組み)を提案している。詳細は,最終報告書や
標や評価規準に組み込んでいくことにより,ESD の視
リーフレット
5)を参照されたい。ここでは,その概要を
点が,より明確な授業を展開することができるのである。
紹介する。
❶
❷
❸
❹
❺
❻
❼
2)ESD を進める視点(構成要素)とは
学習指導を進める上で大切なことは,目標を定めるこ
とである。ESD の枠組みでは,ESD の視点に立った学
習指導の目標を「持続可能な社会づくりに関わる課題を
見いだし,それらを解決するために必要な能力・態度を
批判的に考える力
未来像を予測して計画を立てる力
多面的,総合的に考える力
コミュニケーションを行う力
他者と協力する態度
つながりを尊重する態度
進んで参加する態度
身に付ける」と定めている。つまり,ESD を持続可能な
社会づくりに関する問題解決学習と位置付け,子供たち
4)ESD の視点に立った学習指導で重視すべきこと
ESD では多様な「つながり」が求められる。そのた
に持続可能な社会の形成者としてふさわしい資質や価
め,ESD の枠組みでは,教材のつながり(教材や学習課
値観を育成することを目指すこととしている。
持続可能な社会づくりに関わる課題を見いだすため
題を内容的・空間的・時間的につなげること)
,人のつな
には,何らかの視点を設けると考えやすい。ESD の枠組
がり(学習者同士,学習者と他の立場・世代の人々,学
みでは,その視点として,
「多様性」
「相互性」
「有限性」
習者と地域・社会などをつなげること)
,能力・態度のつ
「公平性」
「連携性」
「責任性」の6点を例示している。
ながり(身に付けた能力や態度をつなげることを具体的
教材をこれらの視点から多面的に解釈し,適宜,授業に
な行動に移し,実践につなげること。
)の三つの「つなが
取り入れることにより,ESD とは無関係のように思わ
り」を,ESD の視点に立った学習指導を留意事項として
れる学習も ESD の視点から捉え直すことができるので
示している。
ある。また,教師がこのような視点をもって授業に臨む
ここで紹介した ESD の枠組みは,国立教育政策研究
ことにより,持続可能な社会づくりに関連した子供たち
所の研究指定校のみならず,全国の多くの小・中・高等
の気付きや意見などを見逃さずに評価することも可能
学校で取り入れられ,各学校の特色や地域の特性などに
となる。
応じた多様な ESD の実践が進められている。
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
Ⅵ
多様性・・・いろいろある
相互性・・・関わり合っている
有限性・・・限りがある
公平性・・・一人一人大切に
連携性・・・力を合わせて
責任性・・・役割や責任を持って
3)ESD の視点に立った身につけさせたい能力・態度
とは
次に,学習指導では子供たちに身に付けさせたい能
力・態度を明確にしておくことも大切である。複雑な課
題を対象にしている ESD では,単に知識や技能を習得
86
5)文科省「論点整理」が示した資質・能力の 3 つの柱
とは無関係のように思われる学習も ESD の視点から捉
と国立教育政策研究所 ESD プロジェクトが示した能
え直すことが可能となり,それに向けた評価が考えられ
力・態度との関係
よう。また,このような視点を持って取組や授業に臨む
国で示している文科省「論点整理」が示した資質・能
ことにより,持続可能な社会づくりに関連した子供たち
力の 3 つの柱と国立教育政策研究所 ESD プロジェクト
の気付きや意見などを評価し,総体として教育課程につ
が示した能力・態度との関係を考えると,およそ図 4 の
いての評価が考えられよう。
ような関係性になっていると思われる。
一方,学習指導を進める上での留意事項として,挙げて
国で示した資質・能力は,抽象度の高いものであるが,
いる。
ESD プロジェクトで示しているものは,授業に生かす
A 教材のつながり・・教材や学習課題を内容的・空間
趣旨でまとめていることもあり,具体的な要素を示して
的・時間的につなげること
いるといえよう。
B 人のつながり・・学習者同士,学習者と他の立場・世
代の人々,学習者と地域・社会などをつなげること
C 能力・態度のつながり・・身に付けた能力や態度を具
文科省「論点整理」が示した資質・能力の3つの柱と
国立教育政策研究所ESDプロジェクトが示した能力・態度との関係
体的な行動に移し,実践につなげること
について,具体的な結び付きについて,それぞれ何と
何がつながったのか,どのようにつながったのか,それ
❶ 批判的に考える力
❷ 未来像を予測して計画を立てる力
によって何がどのように変わったのか,教育課程の視点
❸ 多面的,総合的に考える力
A 教材のつながり
B 人のつながり
C 能力・態度のつながり
❹ コミュニケーションを行う力
での評価が考えられよう。
❺ 他者と協力する態度
❻ つながりを尊重する態度
❼ 進んで参加する態度
文科省「論点整理」が示した資質・能力の3つの柱と
国立教育政策研究所ESDプロジェクトが示した能力・態度との関係
Ⅰ 多様性・・・いろいろある Ⅱ 相互性・ ・・関わり合っている Ⅲ 有限性・・・限りがある
Ⅳ 公平性・・・一人一人大切に Ⅴ 連携性・ ・・力を合わせて Ⅵ 責任性・・・役割や責任を持って
❶ 批判的に考える力
図 4 論点整理の資質・能力と国研 ESD の能力・態度と
の関係
❷ 未来像を予測して計画を立てる力
❸ 多面的,総合的に考える力
A 教材のつながり
B 人のつながり
C 能力・態度のつながり
❹ コミュニケーションを行う力
❺ 他者と協力する態度
❻ つながりを尊重する態度
❼ 進んで参加する態度
2.ESD における評価の在り方
1)何のために評価をするのか
例えば,
「ESD の視点に立った学習指導」の目標を達
成することを目標にするならば,これにおける評価とは,
カリキュラム自体の評価,すなわちカリキュラム・マネ
Ⅰ 多様性・・・いろいろある Ⅱ 相互性・ ・・関わり合っている Ⅲ 有限性・・・限りがある
Ⅳ 公平性・・・一人一人大切に Ⅴ 連携性・ ・・力を合わせて Ⅵ 責任性・・・役割や責任を持って
図 5 論点整理と国研 ESD のつながりとの関係
ジメントにつながる教育課程の評価,もう一つは,子供
が身につけるべき力に向けた評価,といった二つの視点
3)教育課程の検証としての評価の一事例~教科間で連
についての評価が考えられよう。
携した教材開発の工夫~
①実践の概要
2)教育課程の検証としての評価(カリキュラム・マネ
広島大学附属福山中・高等学校では,ESD に関連す
ジメントの視点を取り入れて)
るテーマとして,
「資源・エネルギー」
「環境・防災」
「安
これについては,例えば,国立教育政策研究所で示し
全・健康」
「国際化・グローバル化」
「地域・文化」を設
た六つの視点(構成要素)である「多様性」
「相互性」
「有
定し,各教科の特性に合わせて深く学習している。
「3
限性」
「公平性」
「連携性」
「責任性」がどのように捉え,
つのつながり」に留意し,家庭科と理科の共同による「リ
カリキュラムに取り入れられたかについて評価するこ
サイクル」についての教材,理科と社会科の共同による
とが考えられよう。
「新エネルギーの利用」についての教材など,教科間で
また,カリキュラムや,教材をこれらの視点から多面
連携した教材開発や,生徒同士の相互評価を取り入れた
的に解釈し,適宜,授業に取り入れることにより,ESD
協働学習,生徒が課題を設定し探究する活動など,カリ
87
キュラム全体で実践を進め,自然科学・人文科学・社会
点を取り入れることになるかが明らかになり,授業改善
科学の各領域のつながりを持った複眼的・多面的な思考
が行えることがわかった。
力の育成に力を入れている。
指導案作成においても,これまでの指導案をベースに
すぐには答えが出ない課題や唯一の解がない課題に
記載していくので比較的取りかかりやすい。
対して批判的に考える力(クリティカルシンキング)の
他教科(社会科,家庭科)との連携を図ることで,さ
育成に重点をおき,その力を意識させるための問いかけ
らに教科や教材のつながりが明らかになり,互いに課題
を全教員で共有して授業に臨んでいる。こうした取組の
を共有することで学んだことを総合的に活用する能力
積み重ねを通じて,課題に対して複眼的に分析し議論す
を育成できる。
ることができる能力を育んでいる。
4)子供が身に付けるべき力に向けた評価か
②国立教育政策研究所(2014)の授業作りの視点と本実
文科省「論点整理」が示した資質・能力の3つの柱と
国立教育政策研究所ESDプロジェクトが示した能力・態度との関係
践との比較
表2 授業作りの視点から見る学校の取組
国研(2014)授業作り 広島大学附属福山中高等学
の視点
校の本実践の評価
1)意味のある問いや 現代的で持続可能な社会の
課題で学びの文脈を 構築に向き合わざるを得な
創る
いような課題の設定をして
いる
2)子供の多様な考え 問題解決の過程を重視して
を引き出す
おり,計画,実践,評価,発
表,改善,さらなる計画,実
践,評価,プレゼンテーシ
ョン等,多様な考え方を引
き出す工夫がされている
3)考えを深めるため 対話のある活動が基本であ
に対話のある活動を る
導入する
4)考えるための材料 実際に作るという体験,さ
を見極めて提供する
らなる改善を求め続ける材
料であり,考えることを基
本にしている
5)
「すべ・手立て」は 学年の内容・目的に沿って
活動に埋め込むなど ツール的なものを使ってい
工夫する
るが,決して目的化されて
いることはない
6)子供が学び方を振 振り返り,作品を味わい,
り返り自覚する機会 互いに評価をする機会を作
を提供する
っている
7)互いの考えを認め 教科間連携など,互いに考
合い学び合う文化を えを認め合い学び合う文化
創る
を持ち合わせ,自信を持っ
て学びに参画している
❶ 批判的に考える力
❷ 未来像を予測して計画を立てる力
❸ 多面的,総合的に考える力
A 教材のつながり
B 人のつながり
C 能力・態度のつながり
❹ コミュニケーションを行う力
❺ 他者と協力する態度
❻ つながりを尊重する態度
❼ 進んで参加する態度
Ⅰ 多様性・・・いろいろある Ⅱ 相互性・ ・・関わり合っている Ⅲ 有限性・・・限りがある
Ⅳ 公平性・・・一人一人大切に Ⅴ 連携性・ ・・力を合わせて Ⅵ 責任性・・・役割や責任を持って
図 6 論点整理と国研 ESD の能力・態度との関係
① 実践の概要~問題解決のプロセスによる授業の展
開~
東京都多摩市立多摩第一小学校では,身に付けたい力
として,特に,
「問題解決力」の育成を目指している。い
かだ作りに挑戦する「多摩川探検」
(3年生)
,多摩川の
上・中・下流にある学校とテレビ会議で発表し合う「多
摩川水質調査」
(4年生)
,文化の多様性を学ぶ「世界の
米料理」
(5年生)
,エネルギーについてメールで意見交
換する「海外校との交流」
(6年生)など,生活科・総合
的な学習の時間を中心に,問題解決のプロセスを通じて,
批判的に考える力,未来像を予測して計画を立てる力,
多面的,総合的に考える力などの育成に取り組んだ。
「問題解決力」の評価に当たっては,能力・態度のつな
がりを意識し,毎回の活動の後に「振り返りカード」に
活動内容と気付いたことを記録したり,単元学習の前後
での意識調査やイメージマップを通して,課題把握力や
③実践者の評価~実践者の記述~
事象の関連性への理解度を評価したり,活動でまとめた
「持続可能な社会づくりの要素」
,
「重視する能力と態
作品をファイルにまとめてポートフォリオ評価をして
度」
「つながり」を考慮する留意事項を明確にしながら,
いる。
授業計画を立てていくことができた。
以前の授業のどの部分を強調・改善すれば ESD の視
88
表3 学校の取組と ESD の能力・態度との関係
多摩第一小で育む能力と 「7つの能力・態度」と
態度
の関係
問 課題を見付ける力
➊批判的に考える力
題 仮説に基づき計画を ➋未来を予測して計画
解 立てる力
を立てる力
決 調べる力・まとめる ➌多面的,総合的に考え
力 力・発信する力
る力
度との関係を吟味した上で,議論を重ねて計画を立て,
問題解決力が発揮できるような取組を繰り返し実践し,
それを検証していた。また,毎年,問題解決力が身につ
いたのか,七つの能力・態度が,発揮されたのか,身に
付いたのかについて,子供の学びから見取り,計画自体
を見直しながら,子供のさらなる学びにつなげている。
意図的に失敗を体験させ,その失敗の中から学び,最適
解を求めていくような取組を繰り返すこと,共有し合い,
価値を認め合うことで,子供につけたい力が明確になり,
それに基づいた学びの構想を学校全体で考えるように
なった。
② 国立教育政策研究所(2014)の授業作りの視点と本
子供は,自信を持って,主体的にテーマに取り組み,
実践との比較
テーマの中から,自ら課題を見つけ,仮説に基づき計画
を立てる力,調べる力・まとめる力・発信する力が育っ
表4 論点整理と国研 ESD のつながりとの関係
国研(2014)授業作り 多摩第一小学校の本実践の
の視点
評価
1)意味のある問いや 学年に応じた資質・能力目
課題で学びの文脈を 標を設定し,地域に沿った
創る
課題の設定をしている
2)子供の多様な考え 問題解決の過程を重視して
を引き出す
おり,内容に応じて多様な
学び方の工夫がされ,子供
の多様な考え方を引き出す
工夫がされている
3)考えを深めるため 対話のある活動が基本であ
に対話のある活動を る
導入する
4)考えるための材料 多摩地域に密着した材料か
を見極めて提供する
ら,世界・未来につながり,
考えることを基本にしてい
る
5)
「すべ・手立て」は 学年の内容・目的に沿って
活動に埋め込むなど ツール的なものを使う場合
工夫する
はあるが,決して目的化さ
れていることはない
6)子供が学び方を振 振り返り,作品を味わい,
り返り自覚する機会 互いに評価をする機会を作
を提供する
っている
7)互いの考えを認め 学校全体(児童・先生・地
合い学び合う文化を 域)が互いに考えを認め合
創る
い学び合う文化を持ち合わ
せ,自信を持って学びに参
画している
ていた。また,発達に応じて,批判的に考える力,未来
を予測して計画を立てる力,多面的,総合的に考える力
が発揮されている姿が随所に見られた。
自分の言葉で語り合い,発表し合う姿が印象的だった。
また,先生方は自信を持って,目の前の子供に必要な学
習方法を展開できていた。訪問時,驚かされたのは,全
てのクラスが,テーマ・内容は同じでありながら,目の
前の子供にとって必要な学習方法をそれぞれの先生が
工夫をし,担任ごとで異なる学習活動が展開されていた
ことであった。
3.ESD のカリキュラム・マネジメントの好事例
1)学校全体の取組の評価としての好事例
広島県立御調高等学校のカリキュラム評価
広島県立御調高等学校は,平成 26,27 年度の国立教
育政策研究所指定校事業における ESD 研究の指定校で
ある。この学校の取組は,1 章,2 章で示した学校全体
の取組の好事例と考えられ,ここでは,その一端を紹介
する。
① 学校全体の取組とするための工夫
御調高等学校では,学校の特徴と,ESD を通して身に
つけさせたい力を明確にして,学校全体が共有できるよ
うな仕組みや仕掛けが細部にわたるまで見て取れた。
下の図 7 は,学校が「ESD を通して身につけさせた
い力」として設定したものである。
③ 実践校の評価
学校全体で子供の発達を見通しながら,多摩川に隣接
1. 多面的・総合的に考えることができる
した豊かな自然環境や,近未来的な校舎等,学校の環境
2. 協同的に課題を解決することができる
という二つを目標として据えている。
を十分に活用しながら上記,問題解決力と七つの能力態
89
図7 御調高校の ESD の学びのデザイン
設定した資質・能力を獲得するために,各教科の学び
とともに,それを統合,活用探究できるように地域実践
での ESD,総合的な学習の時間での ESD を具体的な内
容として掲げている。細部にわたるまで,構造的に示さ
れており,これらは,論点整理でいう「社会に開かれた
図8 御調高校における生徒の成長過程イメージ図
教育課程」の実現に向けた具体例であるといえよう。ま
た,求められる資質・能力「ⅰ)何を知っているか,何
唆を与えてくれるものと思われる。
ができるか(個別の知識・技能)
」
「ⅱ)知っていること・
できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)
」
③ 各教科の学習内容のつながりへの意識
「ⅲ)どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を
各教科のつながりのイメージを共有するために,図 9
送るか(学びに向かう力,人間性等)
」についての整理が
のような関係を示している。
でき,カリキュラム・マネジメントの取組も位置付けら
各教科の固有性や特徴などを考えて,それぞれの位
れ,
「社会に開かれた教育課程」の具体例と考えられる。
置づけを明確にするとともに,学校が総体として子供
を育てることを示したものといえる。
② 学習プロセス重視の評価規準の提示の工夫
これに加えて,学校の教育目標の柱として据えてい
学習評価について,生徒の変容を六つの規準で示すと
る御調高校の 5 宝「福祉・医療,ソフトボール,伝統・
ともに,事前・手立て・変容について,具体的に子供の
文化,自然, 食物」と教科との関係などを明確に示
育つ姿として示している点は,今後の ESD 評価の在り
しているのが,次の図 10 である。
方におけるモデルであると考えられ注目に値する。
各教科の特性を生かして,総合的な学習の時間を核
とした ESD の授業を行っている。この図では,各教科
挙げられている 6 点は,第 2 章で示した「ESD の視
点に立った身につけさせたい能力・態度」等を学習プロ
が本校の ESD の枠組みでどう位置づくかを示してい
セスと関係づけながら,生徒が学ぶプロセスを誰もが見
る。
える形で具体的に示しており,実践を進める上で教育課
さらに,教科学習,総合的な学習の時間,地域での実
程の評価としても,学習評価としても,検証可能でかつ,
践を通して,生徒の力が伸長するイメージ図であるとい
改善に資する評価観に基づいた示し方であり,多くの示
える。
90
図 11 学校の目標(御調の 5 宝)と ESD との関係
図9 各教科と ESD の指導内容とのつながり
④ 御調の総合的な学習の時間である「まなびのとびら」
の実践と ESD 構成概念との関わり
・地域の方との連携を通して,立場や考え方の違う人々
や様々な世代の人々と関わっていく中で,多様な価値観
を認め,尊重する力を育むことができる。
【多様性】
【公
平性】
・地域の方の支援を受けながら活動を展開することによ
り,他者と協力してものごとを進める力を育むことがで
きる。
【連携性】
・それぞれのグループが計画を実行していく中で,様々
な要因が関わりあっていることを認識するとともに,い
かなるモノにも限りがあることを認識する力を育むこ
とができる。
【相互性】
【有限性】
・地域の将来について生徒一人一人が考え,地域を活性
化する計画を実践することを通して,責任を持って行動
する力を育むことができる。
【責任性】
⑤ 各教科,総合的な学習の時間,地域での実践の3つ
を柱とした ESD が進行するイメージ図
つながりのイメージを学校全体で共有している。つな
図 10 各教科とのつながりのイメージ図
がりが,段階を経て教科間のつながり,総合的な学習の
時間とのつながり,総合的な学習の時間の ESD の成果
が地域で実践され,生徒の力が発揮されている状態が示
されている。イメージを共有することが実践する際の一
つの支え,指針になっているものと考えられる。
91
図 13 一枚ポートフォリオ評価法の利用
斜里高校で実践した実際の一枚ポートフォリオの例
を図 14 に示す。
a. 知床自然体験
図 12 つながりのイメージ図
2)子供の学習評価としての好事例
~北海道斜里高等学校の学習評価~
図 14 知床自然体験における OPPA の活用
北海道斜里高等学校の学習評価の取組は,参加型評価
b. 史跡発掘体験学習
の一例 5)であるといえる。斜里高校では,ESD の特徴的
な取組について一枚ポートフォリオ評価法を活用した
社会科版の変形した図 15 のような一枚ポートフォリ
評価を取り入れている。
オの利用も見られた。これは時系列で学びを残すことを
目的としている。
① 一枚ポートフォリオ評価法とは
一枚ポートフォリオ評価法は,堀が考案した評価法で
ある 7)。学習履歴であるポートフォリオを 1 枚紙に再現
しる点が特徴である。図 13 にそのモデルを示した。こ
れによると,図の左には,学習前の考えの記述,図の中
程には,学習中の内容理解にかかる記述,一番右には学
習後の考えを記載することとしている。
さらに,学習を行った後,まとめた後,
,全体の学習を
俯瞰し,振り返り,学び方を自己評価する評価法である。
図 15 史跡発掘体験学習における OPPA
92
② 一枚ポートフォリオ評価法の分析
・斜里の歴史に興味を持ちました。
知床自然体験及び,史跡発掘体験学習の記述文の分析
・斜里についてもっと知りたいと思いました。
例
・古きこと,新しいことをこれからも伝え保存しなけ
記述文「学習前後の比較」を記述分析(形態素解析)
ればならないと思った。
した結果,学習前後の比較(自己評価)の視点として,
・斜里の文化を大切にしていきたいと思った。
次の事項があることが分かった。
・遺跡を未来へずっと残していけるようにしたいと思
頻出する記述(形態素)の中で,名詞に注目したとこ
いました。
ろ,地域の自然や文化財に関する形態素が多数抽出され
・知床に対する意欲が高まった。
た。
・自然体験学習をした後は興味が出てもっと知りたい
と思った。
・これからもこの自然を守り,今よりも素敵な自然を
実現できるように生活していきたい。
・知床にもたくさんの課題があることを知り,その課
題をどうやって解決していくかなど真剣に考えるよう
になった。
・自然とか動物あっての知床だと思う
また,動詞,助動詞の頻出形態素の中で,否定助動詞
「ない」
,動詞「知る」
,動詞 B「わかる」に注目したと
ころ,
「知らない」
「分からない」ことが「知る」
「分かる」
に変化した意味で使われている記述が多数あることが
分かった。
以上,学習により,地域の自然や文化財に関する次
の事項が促されていることが示唆された。
・身近な自然や文化財の具体についての発見や気付き
・身近な自然や文化財に対する興味・関心
・身近な自然や文化財の保全に関する態度や意欲
これらを総合すると,この学習によって,身近な地
域と自分とのつながりに関心を持ち,それらを尊重し
大切にしようとする態度が育成されていることが示唆
記述例
され,ESD における身に付けさせたい力のうち「つな
・前までは知らなかったことも知ることができて良か
がりを尊重する態度」の育成に資する学習が展開され
った。
たと考えられる。
・全然知らなくてわからないことばかりだったけどわ
かるようになってよかった。
謝辞
・アイヌ人しかわからなかったけど,斜里には深い歴
各学校や地域の取組事例の掲載については,掲載させ
史があることがわかった。
ていただいた学校の関係各先生方の多大なるご協力を
・身近にあったがあまり知らなかった知床をたくさん
いただいた。この場を借りて厚く御礼を申し上げる。
知ることができた。
・発掘体験や自然体験を通して,史跡や自然への関
参考文献
心・意欲・態度,史跡や自然の保全に対する考えの視
1)文部科学省「論点整理(案)」中央審議会 教育課程企
点で記述が多数あることが分かった。
画特別部会 2015
2) 国立教育政策研究所『資質・能力を育成する教育課
記述例
程の在り方に関する研究報告書1』2015
・斜里町にはこんなに歴史ある場所がたくさんあるこ
3)国立教育政策研究所『教育課程の編成に関する基礎
とを学びとても楽しかった。
的研究 報告書7』
「資質や能力の包括的育成に向
93
けた教育課程の基準の原理[改訂版]
」2014
_detail&item_id=1553&item_no=1&page_id=13&blo
4)国立教育政策研究所『学校における持続可能な発展の
ck_id=21
ための教育(ESD)に関する研究』
〔最終報告書〕2012
6) 源由理子「参加型評価の理論と実践」
,三好皓一『評
5)国立教育政策研究所『ESD リーフレット「持続可能な
価論を学ぶ人のために』
,世界文化社,95-112 2007.
開発のための教育(ESD)
」はこれからの世界の合い
7) 堀哲夫『一枚ポートフォリオ評価OPPA 教育評
言葉 みんなで取り組む ESD! : 持続可能な社会
価の本質を問う 一枚の用紙の可能性』東洋館出版
づくりを目指した取組に向けて』2015
社 2013
http://nier.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view
_main&active_action=repository_view_main_item
94
気仙沼市の実践を踏まえたESDの教育評価の枠組み
宮城教育大学
1. 学校教育におけるESD評価の枠組み
及川 幸彦
目としてただ指導案に盛り込むだけであったり、例示
よく学習評価においては、
「指導と評価の一体化」と
のままの抽象的な内容をそのまま目標に設定したりす
言われるが、やはりESDの評価というのも、その実
る授業や学習指導案が数多く見受けられるなど、それ
践と評価が結びつく必要があり、しかもESDは、
「先
らの概念や能力態度を具体的にどの場面でどのように
の見えない不透明な時代への学びの繰り返し」という
実践し検証するのかがよく見えない実践が多いのが現
意味において、場合によっては、旧来の評価の枠組み
状である。各学校や学年あるいはクラスごとに、目標
を超え、評価自身も今後の変化に対応できるような柔
であるとか学習する内容やテーマ、さらに発達段階を
軟かつ汎用性のある評価軸を提案していくという必要
踏まえて、授業の中で、いかに具体的にその7つの能
があると考える。さらに、将来的には、ESDが教育
力・態度を具体化して子供たちと一緒にそれを達成し
振興基本計画の中で生涯学習に入っていることを勘案
ていくかということが重要である。
すると、学校教育のみならず社会教育、あるいは生涯
もう一つの「持続可能性キー・コンピテンシー」つ
学習にも汎用できるような評価の枠組みというものが
いては、単なるコンピテンスを羅列するのではなく、
期待される。
それらを一つのプロセスとしてつながりを見ていくと
学校教育において、ESDの評価の枠組みを考えた
いう意味において大事な視点である。しかし、これは
場合には、何を評価対象にするかにより、以下の3つ
まだ実際の学校現場や教育実践の中で実証している事
の枠組み(ステージ)に分かれると考えられる。
例は少なく、今後、そのギャップをどう埋めていくの
かというのが大きな課題である。また、このコンピテ
(1)学習者の変容(能力・態度)の評価
ンシーと、現在、教育現場で普及している国立教育政
一つ目は、やはり学習者の変容の評価である。これ
策研究所や日本ユネスコ国内委員会のESDの能力・
は、能力開発(Capacity Building)にかかわる変容や
態度との関連性を整理したり発達段階を考慮したりし
達成度を評価する。
場合によっては学習者のみならず、
ていくことが求められる。このようなところは今後の
それに関係・協働する教師や保護者であるとか地域住
研究や実践を通して明らかにしていく必要がある。
民、他のステークホルダーも含まれる場合もあるが、
さらに、日本ユネスコ国内委員会の「ESDで育み
要は個人的な変容を見取るものである。それに当たっ
たい力」には、持続可能な開発に関する価値観や体系
ては、日本ユネスコ国内委員会が提唱する「ESDで
的な思考力、批判力思考力、情報の収集・分析能力、
育みたい力」や、国立教育政策研究所の「持続可能な
コミュニケーション能力、リーダーシップの向上など
社会の6つ構成概念とESDで育む7つの能力・態度」
、
が示されているが、これらを羅列的、個別的に捉える
そして佐藤真久氏ら提案する「持続可能性キー・コン
のではなく、これらを関連付けて、構造的にプロセス
ピテンシー」というのは、評価の観点として非常に大
としてとらえる必要がある。例えば、東日本大震災の
きな指針になり得る。しかし、反面、学校現場におい
ように凝縮して持続不可能性が出現する災害時におい
ては、なかなかそれらを有効的に活用した評価が実施
ては、その危機対応や復旧・復興プロセスにおいて、
されているとはいい難い状況にある。
これらの諸能力が集約的かつ体系的に必要となる。災
例えば、現在かなり学校現場に浸透している国立教
害発生時には、自分や子供たちの命を守るために、情
育政策研究所の6つの構成概念と7つ能力・態度にし
報網が寸断され限られた情報の中から、同僚や地域住
ても、まだ指導計画や授業の中で生かし切っていない
民とのコミュニケーションによって有益な情報を収
というのが実態である。例えばこれらの観点を評価項
集・分析し、それを体系的につなげたり(体系的な思
95
考)
、客観的、批判的に解釈したり(批判的な思考)し
ながら適切な意思決定をおこなって、的確かつ速やか
な避難行動につなげなくてはならない。このプロセス
を瞬時のうちに行えるかどうかで危機を乗り越えられ
るかどうかが決定する。当然のこととしてそこにはリ
ーダーシップも必要となる。すなわち、これらの連関
する諸能力こそ、上記のESDが求めている力と一致
するのである。そして、これは、災害時の瞬間的な危
機対応のみならず、その後の復旧・復興の長いプロセ
スにおいても必要とされる力であり、そのプロセス全
体を支えるのが、人間の尊重や多様性の尊重、非排他
性、機会均等、環境の尊重等の持続可能な開発に関す
図2 新しい学習指導要領で育成すべ資質・能力の柱
る価値観である(図1)
。
これを前述の「ESDで育みたい力」と比較してみ
ると、ESDの場合は、持続可能性に対する「価値観」
を強調し、中央教育審議会の論点整理では、個々の「人
間性」と掲げるという違いはあるものの、各段階(柱)
の資質・能力(力)の要素には、極めて共通性があり、
そのプロセスもほぼ符合していることがわかる。すな
わち、ESDで育むべき力は、これからの学習指導要
領で求められる(育成すべき)資質・能力と、その個々
の資質・能力も、そのつながりであるプロセスや構造
も軌を一にしていると言うことができる。
したがって、
今後の学校教育におけるESDの取組は、この共通認
図1 ESDで育みたい力の構造とプロセス
識の下で推進すべきであり、それを通じて変容する学
習者の能力・態度の評価においても、これらの能力・
一方で、学習指導要領の改訂に向けて、昨年(2015
態度(力)の要素やプロセス、そして全体の枠組みを
年)8 月に中央教育審議会教育課程特別部会がまとめ
活用して行うことが学校現場にとっては有効である。
た「論点整理」の中で、新しい学習指導要領等で育成
すべき資質・能力として、
「知識・技能」
「思考力・判
(2)学び(カリキュラム・学習手法)の評価
断力・表現力等」
「主体的に学習に取り組む態度」の3
第2の評価のステージは、集団、学校とか学級レベ
要素を踏まえて、次の「3つの柱」が掲げられた。
ルにおける評価である。社会教育であれば公民館など
① 個別の知識・技能
の社会教育施設も含まれるが、
学校教育中心であれば、
「何を知っているか、何ができるか」
学級、学校レベルでの評価である。ESDの学びすな
② 思考力・判断力・表現力等
わち、カリキュラムあるいは学習手法をどう評価して
「知っていること・できることをどう使うか」
いくかが課題となる。学習者の資質・能力(力)を高
③ 学びに向かう力、人間性等
めるためには、当然のこととして、それに高めるだけ
「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生
の学びが必要である。その学びそのものを評価せずに
を送るか」
学習者(子供)の変容やアウトプットだけを評価する
これらの資質・能力の柱についても、個別的・羅列
のでは、評価としてはバランスを欠いていると言わざ
的に捉えるのではなく、学習者の自己実現や社会への
るを得ない。やはり、ESDに限らず教育を質的に高
貢献のための課題解決に向けた学びのプロセスに必要
めるという視点での評価であれば、なおさらそのカリ
な資質・能力として理解すべきである(図2)
。
キュラムや学習手法等の学びのプロセスをどう評価す
るかということが重要である。その際には、2つの重
要な側面があると考える。
96
1)学ぶ目的や内容(カリキュラム)を評価する
要領改訂に向けても、主体的・協働的な学びが強調さ
まず第1に「何を」という目的や内容に関わる部分
れているが、それが学習プロセスとして実現できてい
の評価である。すなわち、持続可能な社会をつくる(S
るか、そのようなカリキュラムになっているかという
D)という課題を追究する切実感とかわくわく感とい
視点での評価・点検をしていく必要がある。
うものを子供たち(学習者)に喚起するためには、明
このカリキュラムの評価には、プログラム評価だと
確な学習目標(目的)と魅力的な教材や学習内容が必
か、フィードバック的な評価の手法が有効である。そ
須である。目的や内容のない中で学習手法だけ実践・
の際には、前述の2つ側面の評価をしていく必要があ
評価としても、子供たちの中に本当に持続可能な社会
る。学習の目標や内容である「何を」という部分と、
の構築にむけた意識や実践意欲が高まるのかは疑問で
学習の手法である「どのように」という2つの側面を
ある。そのように考えた場合に、やはり「何を」とい
評価することで、それが子供により質の高いESDの
う部分が重要であり、各学校には様々なバリエーショ
学びを提供するということにつながる。SDGsを上
ンがあり得る。身近な環境問題から迫るところもあれ
位的な課題・目標として置いておきながらも、学習を
ば国際理解、あるいは開発、人権、ジェンダー、経済、
地域の文脈に落としながら、やはり、Think Globally,
防災・減災など多様である。それらを包括すれば国連
Act locally で学習を具体的に進めていくことが必要
の「持続可能な開発目標」
(SDGs)と言えるが、直
である。そして、その評価は、相互的であったり参加
接SDGsを提示するとグローバルな抽象的な概念に
型であったりことで、なおアクティブな評価となり得
なるので、地域の文脈にいかに即して切実感のある教
る。
材を子供たちに提供しているかという検証は必要であ
る。たとえ全国同一律のESDを実践したとしても、
(3)システム(推進体制)の評価
それは本来の意味で地域に対する愛着とか持続可能な
最後に、発展的な評価として、ESDを推進する体
地域社会を創造する能力・態度が本当に培われるのか
制、すなわちシステムについての評価を提案する。
「国
疑問である。もう一方で、地域に根差しながらもグロ
連ESDの10年」の国内で先進的にESDを実践し
ーバルに考えるという空間的な視点、それから現在の
てきた地域や学校の取組をレビューしたときに、前述
みならず過去・未来という時間軸、そういうところを
の2つのステージを評価することによって、ESDが
勘案して、この発達段階の子供たちがこの地域でどう
進展していくのかというと、実は、そうではない。前
いう学びを展開していくのかということが、大事な評
述の2つのステージの評価というのは、個人やクラス、
価の対象になると考える。
学校の中での話であるとするならば、今後の評価のレ
ベルとして、3つ目のステージは、やはり地域や社会
2)学び方(学習手法)を評価する
との関連性の中での評価である。すなわち、1ステー
2つ目の側面は、
「学び方」の部分で、体験的・探求
ジ目は個人の資質・能力を対象として評価し、2ステ
的な学習や問題解決型学習など、すなわち「どのよう
ージ目はそのカリキュラムや学び方を評価する。そし
に」
(学習方法)の部分である。例えば、体験や経験の
て、3つ目として、
「システム」を評価するということ
乏しい子供に、即座に学習問題を設定し解決するとい
である。1,2のステージで成果を得るためには、そ
ってもなかなか難しい面がある。
課題を持つためには、
れを実現するためのシステムなり戦略が必要となる。
それを発見するためのイマジネーションやそれを支え
まず一つ目は、校内の推進体制の確立である。例え
る体験や経験が必要である。何も経験がない子供にい
ば、教員間のチームワークであるとか、校長先生のリ
きなり問題解決学習しましょうといっても無理な話で
ーダーシップであるとか、いわゆるホール・スクール・
ある。そういう体験的な学習が、探究的・問題解決的
アプローチ(Whole School Approach)に関わる部分で
な学習プロセスを支え、それが行動につながり、参加
ある。
型の学びへと高まっていく。最近、前述の中央教育審
次に、幼稚園、小学校、中学校、高校等の縦の校種
議会の要点整理では、
「アクティブ・ラーニング」が強
間の学びの連携である。ユネスコも言及しているよう
調されているが、このESDの学び方と共通性や親和
に、ESDは一年、二年の短い期間で結果を求めるの
性がある。さらに、この学びが創造的であり提案的で
ではなく、長いスパンをかけてじっくりと取り組んで
あり未来志向で行くべきであるということは、すでに
成果を上げていく教育である。したがって、難しい挑
ESDの学びとして共有されている。今度の学習指導
戦ではるが、何年間をかけて幼、小・中、高でESD
97
を段階的・系統的にESDを学び続けるというシステ
の構築をめざして活動を展開してきた。
ムの構築、すなわち、縦の学びのつながりをつくり上
気仙沼市は、宮城県の北東部、
「三陸復興国立公園」
げていくという努力が必要である。
の南玄関口に位置し、美しいリアスの海岸線を有する
それから、ESDはローカル・コンテクスト(地域
水産業と観光の街である。20 年以上にわたる「森は海
の文脈)に落として学び・実践することが重要である
の恋人運動」や全国に先駆けた「スローフード都市宣
という意味において、やはり地域と連携する体制が構
言」
、漁業基地としての「国際文化水産都市」の標榜な
築されることが特に重要である。
地域でのソーシャル・
ど、持続可能な社会づくりを原則として、
「森」
「川」
ラーニングが実現され、その中で個人(学習者)も学
「海」
の豊かな自然環境を生かした環境教育、
食教育、
びながら自己変革ができる。さらには、ESDの取組
国際理解教育等の特色ある活動を推進してきた。
の中に、専門知識・技能(Expertise)を導入すること
一方、学校教育においては、2002 年から面瀬小学校
が重要であり、それが、ESDの推進のためのプログ
を中心に、この恵まれた自然環境や地域の素材を生か
ラム開発も実践、そして評価にも大いに役立つ。その
して、地域に根ざした体系的なプログラムを開発し、
ような専門機関の機能を十分に生かしてESDの地域
実践してきた。そして、この取組は、フルブライトメ
拠点を形成するのが、国連大学のRCE(Reginal
モリアル基金のプログラムとして、
「水辺環境」をテー
Centre of Expertise)のコンセプトである。そして、
マに米国の学校と共同でローカルとグローバルの視点
それらの取組を学校間や地域間で連携し、さらに国際
を併せ持った国際的な環境共同学習へと発展し、現在
連携に発展させるというように空間的に広げていけば、
の気仙沼市のESDのベースとなったばかりではなく、
国際的な視野やグローバル人材としての資質というの
日本の学校教育におけるESDの先駆けとして、その
は自然に育っていく。
後のESDの推進に先導的な役割を果たした。
さらに、
これらはESDを推進するためのシステム、いわゆ
2004 年からは、この取組に市内の中学校と県立高等学
る仕掛けの問題であるが、それをしっかり構築し機能
校も加わり、地域・専門機関・海外との連携強化を図
させている学校と学校単独で実践している学校とでは、
りながら小、中、高校が連携した取組へと発展すると
ESDの成果が明らかに異なっている。したがって、
ともに、地域の他の学校へも波及した (図3)
。
学校の中の子供の変容やカリキュラムや学び方の熟成
こうした広範なESDの活動が評価され、気仙沼市
度に目を向けるとともに、それを支え補強するシステ
は、2005 年 6 月に、国連大学から「国連・持続可能な
ム(推進体制)を評価することで、ダイナミックなE
開発のための教育の 10 年」(DESD)の地域拠点(R
SDの評価が可能になると考える。
CE)の一つ「仙台広域圏」のモデルに認定され、世界
のESD推進の一翼を担うことになった。
さらに、
2008
2. 気仙沼市のESD実践を踏まえた学習評価
年からは、学校教育におけるESDの更なる質的な向
日本では、
「国連・持続可能な開発のための教育の 10
上を図るために、教育委員会のリーダーシップのもと
年(DESD)
」の提唱国として、この 10 年の間に、
ユネスコスクールの加盟を促進し、2015 年 2 月現在、
飛躍的に加盟校が拡大したユネスコスクールを中心に、
市内の幼稚園 2 園、全小学校 21 校、全中学校 13 校・
学校教育におけるESDに関する様々な実践や、それ
県立高等学校 2 校、合わせて 38 校が加盟した。
を支えるESDカリキュラムの開発と実践が行われて
(2012,2013 年東日本大震災等の影響により加盟校の
きた。ここでは、これらの実践の蓄積をもとに、ES
うち 3 校が統合された)
Dを学校の教育課程に組み込み効果的な取組がなされ
このような気仙沼市のESDの推進施策により、市
るためのESDの実践の成果や児童生徒の変容を多面
内の各学校は、RCEやユネスコスクールのネットワ
的かつ効果的に評価するための学習評価の枠組みや手
ークを活用し、地域に根ざしながらも国際的な視野か
法について、日本でも早くから地域を挙げて先進的に
ら自分たちの地域のよさや課題を捉え直すことを通し
取り組む気仙沼市の学校における実践例をもとに考察
て、地域への愛情と豊かな国際感覚の育成をめざして
する。
きたのである。
(1)気仙沼市のESDの実践の経緯と概要
気仙沼市は、ESDの国際的な流れと軌を一にする
ように地域や学校教育において、持続可能な地域社会
98
1)ESDの学習評価の観点
まず、
「ESDの学習評価の観点」についてみると、
各学校が設定している評価の観点は、①取組の目標や
活動内容に即して評価観点を設定する「目標及び活動
に準拠した評価観点」を設定している学校、②従来の
各教科でベーシックな評価観点となっている「関心・
意欲・態度」
、
「思考力・判断力・表現力」
、
「技能」
、
「知
識・理解」
(教科によって表現が多少異なる)のいわゆ
る「学力の4観点」でESDの学習も評価する学校、
③現在、総合的な学習の時間等でよく採用されている
課題・問題解決的なプロセスを重視し、それに必要な
能力を段階的に評価する「問題解決的能力」を評価の
観点として採用する学校、そして、④国立教育政策研
究所が 2012 年の
「学校教育における持続可能な発展の
ための教育調査研究最終報告書」で提案した「ESD
が重視する7つの能力・態度」を評価の観点として取
図3 気仙沼市のESDの推進体制 出典「メビウス」
り入れる学校、さらには、⑤これら評価の観点のうち
複数を組み合わせて併用して評価する学校というよう
(2)気仙沼市の学校におけるESDの学習評価
に5つのタイプに分類できる。いずれのタイプにして
気仙沼市では、
「国連のESDの 10 年」
(DES
も、各学校は、これらの評価の枠組みをそのままの自
D)の開始当初より、気仙沼市教育委員会がイニシャ
校のESDの学習評価に当てはめるのではなく、各校
ティブをとり、宮城教育大学との連携のもと、年2回
のESDの取組のねらいや特徴、児童・生徒の実態や
の「気仙沼ESD/ユネスコスクール研修会」を開催し
発達段階に応じて、それぞれ工夫したりアレンジした
てきた。これは、気仙沼市内の幼稚園や県立高校も含
りしながら自校化して独自の評価の観点を設定してい
め、幼・小・中・高のユネスコスクールを中心とする
る学校が多い。これは、気仙沼市のみならず、現在、
各学校のESDの取組の改善や質的向上をめざして、
ESDを意欲的に取り組んでいる全国の各地域のユネ
内外の講師を招きESDの最新事情を取り込みながら
スコスクールでも同様の傾向が見られるものと推測さ
継続的・発展的に開催してきたものである。第1回目
れる。
(年度初めの通常5~6月開催)の研修会では、各校
気仙沼市全体で見ると、ESDの学習評価の観点と
が推進するESDの年間指導計画を提出し、それ共有
しては、
「問題解決的能力」の観点と「目標・活動準拠」
することで各校の取組の質的向上に向けた研修と協議
型の観点が8割近くを占めており、その次に、国立教
を行う。また、第2回目(年度終わりの通常 1 月~2 月
育政策研究の「7つの能力・態度」
、そして教科の「学
開催)の研修会では、各校の 1 年間のESDの実践成
力の4観点」となっている(図4)
。これは、ESDの
果を報告し、その評価と次年度への改善に向けた研修
学習方法が探究型、問題解決型のアクティブ・ラーニ
や協議を行っている。
ングを基調にしていることと、ESDが統合的・学際
ここでは、2014 年7月9日に開催された 2014 年の
的なアプローチで進められることから、学校教育にお
第1回目の研修会で各校から提出されたESD/ユネ
いては当初からESDが「総合的な学習の時間」を基
スコスクールの指導計画を中心に、
気仙沼市の幼稚園、
軸に実践されている例が多いことによると分析できる。
小学校、中学校、県立高校の計 40 校園(うちユネスコ
特に、気仙沼市においては、DESD以前から全国に
スクール 38 校園)の「ESDの学習評価の観点と手
先駆けて、
「総合的な学習の時間」をメインに、教科の
法」を抽出し、その分析を行った結果を記述する。
(な
枠を越えてストーリー性のある探究型のESDプログ
お、
「学習評価の手法」については、気仙沼小学校と大
ラム・カリキュラムを開発し実践してきたことから、
谷中学校の指導計画に記述がなかったため、この2校
なお一層のこの傾向が強いと言える。
は分析から除外し、38 校園で分析を行っている。
)
99
する人材の育成をめざし、ESD(持続可能な社会を
気仙沼市の学校園のESDの学習評価の観点(2014)
(幼稚園6円・小学校18校・中学校13校・高校3校、
合計40校)
併用
7能力・態度
5%
10%
問題解決的
43%
目標・活動
準拠
35%
4観点
7%
構築するための学び)として、それらに焦点化したプ
ログラムを開発し実践している場合が多い。したがっ
目標・活動準拠
て、地域に根ざした課題に、地域と連携しながら、子
学力の4観点
供たちが主体的・実践的に取り組むプロジェクトベー
問題解決的能力
スの取組が数多く見られるのが特徴である。
もちろん、
小・中学校でも被災地を中心にいくつか見られるが、
ESDの7能力・態度
気仙沼市では、幼稚園と高校のすべてが「目標・活動
併用設定
準拠」型の評価観点を採用している。高校は、まだE
SDが教科や教育課程に浸透してないため、特定の分
図4 気仙沼の学校園のESDの学習評価の観点
野やプロジェクトに限定されていることが背景にある
(2014)
が、逆に、幼稚園では、保育活動そのものを地域の自
然や人との関わりを大切にして感性や心を育むESD
その中でも、
「問題解決的能力」の観点を採用してい
として捉え、先進的かつ実践的な取組を行っている園
る学校の特徴としては、ESDを「総合的な学習の時
が多くある。
間」を中心に学際的なアプローチでカリキュラム・プ
ログラムを編成していること、そして、育成すべき能
気仙沼市の中学校のESDの学習評価の観点(2014)
(中学校13校)
力・態度として個々の分野や課題に対処する力という
よりは、
「課題を見つける力」や「計画を立てる力」
、
「課題を解決する力」
、
「コミュニケーション力」など
併用設定
7能力・態度
15%
8%
問題解決のプロセスに必要な力を重視していることが
あげられる。学校種別に見ると、小学校及び中学校で
目標・活動
準拠
15%
4観点
8%
目標・活動準拠
学力の4観点
この傾向が特に強く、
「総合的な学習の時間」がESD
問題解決的
54%
のカリキュラム及び実践に中核的に機能していること
問題解決的能力
ESDの7能力・態度
併用設定
の証左と言えよう(図5・6)
。
気仙沼市の小学校のESDの学習評価の観点(2014)
(小学校18校)
図6 気仙沼の中学校のESDの学習評価の観点
(2014)
7能力・態度
17%
問題解決的
55%
目標・活動
準拠
17% 4観点
11%
目標・活動準拠
さらに、国立教育政策研究所が提案する「ESDで
学力の4観点
重視する7つの能力態度」は、ESDに先進的に取り
問題解決的能力
組み、経験が蓄積されている小学校レベルを中心に取
ESDの7能力・態度
り入れられ、能力項目が取捨選択されたり追加された
併用設定
りしながら各校の実情に応じてアレンジされ浸透しつ
つあるが、未だ主流とはなっていない。これは、その
図5 気仙沼の小学校のESDの学習評価の観点
概念の分かりづらさや評価の難しさに起因していると
(2014)
ころもあるが、気仙沼市が 10 年以上も実践を重ねて
きた体験と探究ストーリーを重視するESDカリキュ
一方、
「環境教育」や「防災教育」
、
「食育」
、そして
ラム・プログラムの中に違和感なくどのように適合さ
「東日本大震災からの復興」など、その学校のESD
せるか、その統合と熟成にはまだ時間を要するものを
の取組の柱やアプローチを明確に打ち出している学校
考える。
は、
「目標・活動準拠」型の評価観点を採用しているこ
学力の4観点については、ESD開始当初は、教科
とが多い。これらの学校は、地域が抱える課題や学校
との整合性を図るために多くの学校に取り入れられ、
の個性を前面に出し、それを克服ないしはそれに貢献
現在でもESDを教科における実践や能力育成の関連
100
を強く意識している学校では採用されているものの、
各校で、より教科横断的かつ総合的なESDのプログ
ラムやカリキュラムが開発・編成されるようなるにし
たがい、その数は減少しつつある。
2)ESDの学習評価の方法
ESDの学習成果を評価する方法やツールとして各
学校で取り組まれているのは、教師による観察(見取
り)や児童の作品やレポート等を累積的に評価する手
法(ポートフォリオ)
、児童の学習時の感想やノートや
ワークシートの記録から変容を評価する手法、プレゼ
ンテーションや発表会など表現活動から評価する方法、
評価カードの記入による自己評価や話し合いによる相
互評価、保護者や地域からの外部評価、そして、それ
図7 気仙沼市の学校園のESDの学習評価方法
らの評価のデータを得るためのアンケート等様々な手
(2014)
法がある。プロセスを重視し、多様性や創造性を尊重
し、
意識や行動の変革を志向するESDの学習評価は、
それに対し、中学校では、文化祭や交流活動による
教科のテストのように定量的に評価することが難しく、
生徒のプレゼンテーションや発表の機会を評価に活用
定性的また形成的に評価していく必要がある。したが
しているという学校が多く、生徒の自発的な表現や発
って、各学校では、ESDによる子供たちの変容を、
信を評価でも重視している傾向がある。また、半数の
教師の主観だけではなく、客観的データを持って把握
中学校が生徒や保護者等にアンケートを実施してお
し評価するための多様かつ効果的な評価方法の工夫や
り、生徒の変容や外部の意見をデータとして聴取する
開発に迫られている。現在の日本の学校現場において
ための重要なツールとして認識していると言える。反
は、学習スタイルや学習目標が類似し、ESDの実施
面、相互評価や保護者及び地域住民による外部評価を
領域の中核ともなっている「総合的な学習の時間」の
取り入れている学校は、1割にも満たず、教師の観察
評価手法を汎用ないしは応用することが多くなってい
や生徒の自己評価に頼っているという現状が浮き彫り
る。長くESDを推進している気仙沼市の学校におい
になっており、これが中学校の評価の今後の課題と言
ても同様の傾向が見られ、児童生徒の感想や記録、プ
える(図8)
。
レゼンテーションや発表などの表現活動からの評価や、
それらを累積し形成的に評価するポートフォリオの手
法を導入する学校が多くなっている。また、評価カー
ド等を活用した自己評価や相互評価を行っている学校
もある。さらには、学校行事や学校評価と絡めて、保
護者や地域住民に意見聴取やアンケートを実施し、外
部評価として活用する学校も増えてきている(図7)
。
この気仙沼市の評価の方法を小学校と中学校の比較
で見ると、感想や記録よる評価及び教師の観察(見取
り)は、小学校、中学校ともに高い割合を示している
が、小学校では児童の作品やレポート、記録等をポー
トフォリオとして累積的に評価に活用している傾向が
ある。また小学校では、児童の自己評価も積極的に取
り入れている学校も多い。その一方で、相互評価や、
図8 気仙沼市の小・中学校のESDの学習評価方法の
保護者・地域住民による外部評価を取り入れている学
比較(2014)
校は、3割程度に過ぎず、まだ浸透しているとは言い
難い状況である。
101
なお、幼稚園については教師の観察が中心であり、
参考文献
高校については生徒プレゼン等が主な評価方法となっ
1) 「ユネスコスクールと持続可能な開発のための教
ている。このように気仙沼市の各校では、ESDの実
育(ESD)
」
、日本ユネスコ国内委員会、2012
践の進捗とともに、その効果を的確に把握し評価する
2) 「学校教育における持続可能な発展のための教育
ための手法について現在も検討を重ねている状況であ
(最終報告書)
」
、国立教育政策研究所、2012
る。
3) 佐藤真久、岡本弥彦「持続可能性キー・コンピテ
ンシーの先行研究レビュー・分類研究に基づいて」
3. 結びに
『環境教育』VOL.25-1、環境教育学会、pp144-151、
最後に、ESDの評価をESDたらしめる評価軸を
2015
4) 「中央教育審議会教育課程企画特別部会論点整
考えたときに、学習指導要領や総合的な学習の時間も
理」
、文部科学省、2015
含めて日本の教育の目標というのは、基本的には個人
の資質・能力の育成や自己実現に重点が置かれている
5) 及川幸彦「学校教育における ESD の推進とその展
ように感じられるが、ESDというのは、そこから一
開事例:気仙沼の学校教育における多様な主体の
歩踏み出して社会を主体的・協働的に変えていく社会
参画と協働による豊かな学びの創造」
、
『季刊 環
の変革の主体者・人材(Change Agents)をどう育てる
境研究 2011』 No.163、日立環境財団編、2011
かということに重点を行く。換言すれば、
「皆が共生で
6) 「我が国における『持続可能な開発のための教育
きる持続可能な社会の創造」を担う人材をどのように
(ESD)に関するグローバル・アクション・プ
育成するかがESDの最終的な目標かつ使命であり、
ログラム』実施計画」
、持続可能な開発のための教
その視点で評価も考えていくことが重要である。ユネ
育に関する関係省庁連絡会議、2016
スコが提唱する学びに、
「Learning to live together」
(共に生きるために学ぶ)という言葉があるが、それ
7) 及川幸彦「東日本大震災からの復興に果たす ESD
とユネスコスクールの役割」、『季刊
環境研究
2014』No.173、日立環境財団編、2014
はまさしくESDの究極の学びの姿と言える。
8) 及川幸彦「メビウス-持続可能な循環-20052009」
、気仙沼市教育委員会他、2009
9) United Nation University Institute of Advanced Study
(UNU-IAS) (2005) “Mobilising for Education for
Sustainable Development: Toward a Global Leaning
Space based on Reginal Centres of Expertise”
10) Oikawa
Y (2014)
“Education
for
Sustainable
Development: Trends and Practice.” In: Shaw R &
Oikawa
Y
(eds),
“Education
for
Sustainable
Development and Disaster Risk Reduction.” Springer
Japan, pp15-35
102
ユネスコスクールにおける ESD の学習評価の取り組み
―北陸を中心として―
金沢大学 鈴木 克徳
とができた
(金沢市 26 校、
金沢市以外の石川県 11 校、
1.はじめに
本報告は、これまでに鈴木がかかわった調査研究の
富山県 7 校、福井県3校、岡山県 2 校)
。学校種別の回
中から、ESD の学習評価にかかわるものを抜粋整理し
収状況は表にまとめたとおりである。小学校からの回
たものであり、具体的には、ユネスコスクールに対す
答が多い状況になっている。これは、特に北陸ではユ
る全国調査の結果、北陸を中心とした ESD の学習評
ネスコスクールに認定されている学校は、小学校が圧
価への取り組み事例を紹介するものである。
倒的に多く(65 校中 49 校)
、中学校(13 校)
、高等学
校等(3 校)が少ないことによる。
この調査の中では、ESD に関する児童生徒の理解と
2.平成 24 年度ユネスコスクールに関する取り組み
概要調査
姿勢の評価方法についても調査した。回答では、多様
金沢大学は、文部科学省委託事業である平成 24 年
な評価方法が示された。特徴的なものの中には、例え
度日本/ユネスコパートナーシップ事業として、北陸を
ば以下のようなものが含まれた。
中心とするユネスコスクールの取り組み概要調査(ア
ンケート調査。以下「アンケート調査」という。
)を行
(例1)
った。この調査は、ユネスコスクールの質の確保とユ
本校のこれまでの取り組みから、ESD カレンダーや
ネスコスクール活動の一層の向上に向けて、ユネスコ
学習構想図を作成する際、子どもの思考の道筋を丁寧
スクールの活動概要、ユネスコスクールにおける ESD
に描きながら、
体験と言語活動を仕組むことによって、
活動の評価方法、ユネスコスクールが直面している課
子どもたちは自分の思いを明確にし、主体的に活動を
題や解決方策等を調査することを目的として実施され
続けていくことができることが解明された。しかし、
た。
教育課程の限られた時数の中で、より確かな資質や能
調査票は北陸におけるユネスコスクール 65 校(調
力を育てるという観点から、単元レベルでその構想や
査時点)すべてに送付するととともに、東北、東海、
評価規準をよりきめ細かく具体化していく必要がある
奈良、岡山等からも若干の回答が得られるよう、関係
という課題も見えてきた。
地域のユネスコスクール支援大学間ネットワーク加盟
本校では開校以来、生活科や総合的な学習の時間を
校の協力をお願いした。1 月 24 日時点までに、北陸か
中心に問題解決学習を進めてきたが、平成 24 年度は、
ら 47 校の回答を、岡山から 2 校の回答を回収するこ
教科、領域、特別活動等の全教育活動の中から持続可
能な社会づくりに関わる課題を見出し、それらを解決
するために必要な能力・態度を身に付けることを意識
石川
金沢市
( 金沢市
富山
福井
岡山
して、目標を明確化していく必要があると考えた。そ
計
こで、国立教育政策研究所の「学校における持続可能
以外)
(単位:校)
な発展のための教育に関する研究 最終報告書」
をもと
小学校
23
7
5
1
1
37
に、教科等の中にある持続可能な社会づくりを捉える
中学校
3
3
1
1
1
9
要素(構成概念)を明確にし、ESD で重視する7つの
0
1
1
1
0
3
26
11
7
3
2
49
高専/高
等学校
計
能力・態度を抽出し、ESD の視点を整理し、授業を展
開することとした。
教師は、単元の目標と ESD の視点から子どもに付
103
けたい力を授業での子どもの姿(発表の仕方、話し合
明確にし、それに対しての評価規準を設定し評価を行
いの仕方、他の子どもとのかかわり方等)やワークシ
っている。評価方法としては、自己評価を行うと同時
ートから捉えて評価し、その後の子どもへの支援につ
に保護者・地域の方達からの評価をもらう。
なげている。本校では、子どもの育ちを捉える場とし
最後は、学習をふり返る段階である。ここでは、こ
て、中間発表会と最終報告会(子ども同士の1年間の
れまでの自分の学習をふり返り、学習の深まりを実感
学習のまとめ)を開き、年間の育ちを評価している。
する中で、対象と自分とのつながりについて考えるよ
これらの活動を通して、教師は、子どもに付いた態度・
うにする。対象への関心が深まり大切にしようとする
能力を評価し、次時の活動や次の学年に目指す子ども
態度が育ったかを、話し合いの様子やワークシート等
像を描くことができる。
で評価する。
評価の時期については、各段階での評価に加え、前
(例2)
期、後期終了時点で総括的な評価を行う。
本校では、
「地域に生きる」を学校テーマとし、学年
ごとに地域にある様々な素材(人・もの・こと)とか
(例3)
かわりながら、環境・福祉・産業・伝統文化に関する
・目標とする ESD を学習した姿を明確にして授業
をデザインする。
・問題解決で必要となる様々な情報を自ら獲得させ
るとともに、比較・分類・整理・順序付けなどの
過程を通して、探究的に学習させる。
・協同学習の場を重視し、多様な考えに出会うとと
もに、自分の考えを再構成できるようにする。
・自己評価・相互評価・教師による評価を工夫し、
子ども達に学びの変容を実感させる。
学習に取り組む。また、学校研究と関連させ、表現力
の向上を目指す。これらの学習活動を通して、地域へ
の深い愛情を育てるとともに、地域社会の発展に貢献
できる人材の育成を目指している。そうした学習過程
の中で評価を行っていく。
最初は、テーマとの出会いから学習課題の設定の段
階である。ここでは、自分なりの課題意識をもち、解
決に向けて見通しをもつことを目指し、それを評価す
(1) 目標(評価)の共有
る。評価方法は、児童の学習活動、発言の様子、学習
・ESD 学習の結果としての表現における目指す
で使用したワークシート等である。
姿を想定して、
単元や 1 時間の学習を設計する。
次は、課題解決のために調べる段階である。自分な
・教師と子ども、子どもと子どもなど、場や発達
りの見通しや予想をもち、地域の素材(人・もの・こ
段階に応じたデモンストレーションを取り入
と)にかかわりながら解決を目指す。この段階では、
れ、子どもに表現活動の見通しをもたせる。
コミュニケーション力を伸ばすことや、友達と協力す
・単元末などでの ESD の要素を含んだパフォー
る態度を養うことが大切になり、それを評価する。評
マンス課題の設定で求められる表現などにつ
価の方法としては、学習活動・体験活動中の児童の様
いて子ども達と共有する。
子の観察である。
(2)表現の見取り(評価基準・ルーブリック)
その次は、調べたことや、その結果から考えたこと
・目標の達成をノートやレポート、作品などの成
を伝えるためにまとめる段階である。グループで協力
果物から見取る。
して活動することも多く、他者と協力する態度、積極
的にかかわる態度を養うことになる。また、考えをま
・教師の評価力を向上させるため、ノートやレポ
とめる学習活動であることから、総合的に考える力の
ート、作品から見取るための基準(ルーブリッ
育成を目指す。さらに、学校研究との関連としての表
ク)づくりを行う。
現力の向上を目指す。態度については、学習活動中の
・子ども達と評価基準(ルーブリック)を共有し
児童の様子を観察することで評価する。総合的に考え
ながら、評価基準(ルーブリック)づくりへの
る力、及び表現力の向上については、児童が作成した
参画を促していく。
壁新聞やプレゼンの作品等を看取り評価する。
(3)表現する場の工夫
更に、その次は、伝える段階である。自分達のまと
・1時間の学習の中に考えを出力する時間を保障
めたことを、地域の人や保護者、他学年に対して伝え
する。
る。この段階でも学校研究との関連の表現力の向上を
・表現する必要感が生まれるようなリアルな学習
目指す。学習の内容、及び「話す・聞く」のねらいを
104
問題を設定する。
・相互性
10 校
・つながり
4校
絵本など言語を中核とした表現方法を経験さ
・多様性
3校
せる。
・責任性
3校
・公平性
1校
・言語・イメージ図・絵・式・新聞・ポスター・
・協同学習を中核にして、様々な方法で交流させ
る。
・ESD の要素を含んだ学習問題と結び付けて表
また、評価の観点については、国立教育政策研究所
現させる。
が指摘した
「持続可能な社会づくりの構成概念
(例)
」
、
「ESD の視点に立った学習指導で重視すべき能力・態
(4)学びの自覚を促す評価の工夫
度(例)
」をベースとして考えている学校と、従来の学
・相互評価前に観点を共有し、内容に即して評価
習指導要領で重視してきた評価の観点を重視している
ができるような共通理解の場をもつ。
学校とがほぼ同数混在しており、学校現場における混
・相互評価後、評価内容を分析・整理し、自己評
乱がうかがえる。学習指導要領に基づく評価の観点の
価することで、自分自身の変容をふり返る場を
中では、
「関心・意欲・態度」を重視する学校が多く、
もつ。
「思考・判断・表現」
、
「応用・統合・発展」などの総
・学習から生み出されたレポートや作品などの成
合力を重視する学校が続いている。
果物の集積であるポートフォリオを自ら整理
し、自信の学習をふり返ることで学びの自覚を
促す。
・教師が子ども達のよさをタイミングを逃さず評
価したり、アドバイスしたりすることで、学び
の自覚を促す。
・学習内容を生かした発展的な実験やものづくり、
将来の構想などを行い、それらについて解説を
させるなど、パフォーマンス課題を解決する過
程でや活用力を評価する場の設定を試みる。
13 校
・思考・判断・表現
9校
・応用・統合・発展
9校
・表現・技能
7校
・知識・理解
5校
・未来を予測する力
4校
・進んで参加する態度
3校
・学びを学習に活かす力
1校
評価の方法については、ワークシート、生徒の様子
調査結果から、評価の観点に関しては様々な能力・
の観察を指摘する学校が多い。その他、自己評価、ポ
態度、構成概念が指摘されており、必ずしも明確な傾
ートフォリオ、作品、相互評価等が指摘されており、
向が示されていないことが明らかになった。重視すべ
全体として生徒の自主的な気づきや相互評価を重視す
き能力・態度としては、コミュニケーション能力を指
る傾向がうかがえる。ESD の総合的な評価を支援する
摘する学校が多く、情報収集能力、表現力、問題解決
有力な方法として、ポートフォリオの活用を指摘する
型の思考力、批判的思考力、多面的・総合的思考力等、
意見も見られた。
自ら考え解決策を見出していくような能力が続いてい
た。持続可能な社会づくりの構成概念としては、
「相互
・ワークシート(振り返り・ノート) 25 校
性」を重視する学校が多く見られた。
・コミュニケーション能力
・関心・意欲・態度
・生徒の様子の観察
15 校
・情報収集能力
8校
・表現力
8校
・問題解決型の思考力
7校
・批判的思考力
6校
・多面的・総合的思考力
6校
・論理的思考力
2校
・判断力
1校
22 校
・自己評価
9校
・ポートフォリオ
8校
・作品
7校
・相互評価
6校
・アンケート
2校
・レポート
2校
評価の時期については、学期末、単元ごととの回答
が多かったが、授業ごと、日常・随時といった回答も
105
・子ども達は ESD で育てたいコミュニケーション
みられ、明確な有意な傾向を見出すことは困難であっ
た。なお、
「評価しない」との回答が1校あったが、こ
能力を少しずつ身に付けることができた。
れは、ESD について一定の時期に評価を行うことは困
・子ども達の、
「調べる力」や「まとめる力」
、
「伝え
難との指摘であり、
「日常・随時」との回答に類似する
る力」が伸びた。
との考え方も可能かもしれない。
・理科学習における問題解決型の学習を基礎に、仮
説、検証実験、考察、新たな仮説の構築と、追及
・学期末
14 校
・単元ごと
10 校
・授業ごと
7校
・日常・随時
6校
・ESD の視点を取り入れて生活科や理科、総合的な
・年度末
6校
活動の時間の学習に取り組むことで、学習がより
・学期中旬
5校
探究的になった。
・評価しない
1校
を進めることができた。
・総合的な学習の時間の年間計画と教科とを関連づ
けることができた。
・各学年に応じて、段階を踏まえた探究的な学習を
進めることができた。
活動の成果に関する調査結果として、以下のような
・継続して指導することで、上級生が下級生に教え
意見が見られた。
たり、下級生が上級生にアドバイスをもらいにい
・自分の町やそれを創ってきた人々の素晴らしさに
く姿が見られるようになった。
・各学年間のつながりの図や ESD カレンダーを作
気付くと同時に、積極的に自然や町や人に関わろ
うとする児童が増えた。
成することにより、各学年の系統性や他教科との
・学習を通して、自分が住んでいる地域をこれまで
つながりを大切にして学習することができた。
以上に好きになり、誇りを持つようになっていっ
・児童の目で実際に見て、手で触れて体験し、そこ
た。
から「自分が出来ることは何か」を考え実行する
・地域の環境や伝統文化に対する子供たちの関心が
ことが出来た。
高まり、より一層地域に愛着を持つようになった。
・児童はこれからの自分の行動について考えたり環
・
「一人一人ができること」に対する意識が育ち、行
動することができるようになった。
境や自然を守ったり大切にしたりしていかなけ
・地域の方々を交えて発信することができた。
ればならないという思いをもつことができた。
・自然を教材として学習を進めたため、児童は校区
これらの回答から、多くのユネスコスクールにおい
のことを理解し守りたいという意識を強くする
て、生徒たちが自分の住む地域に対して関心と愛着を
ことができた。
持つようになったことが伺われた。また、地域の人た
・身の回りの社会や自然を大切に思う心が育った。
ちとの交流を通じて、コミュニケーション能力が身に
・地域の方から声をかけられ、認められる喜びを感
つくとともに、地域の中で自分たちが果たすべき役割
じるようになった。自主的に挨拶したりボランテ
について考えるようになっていったことがわかる。父
ィアを自然にできたりという行動への高まりを
兄をはじめとする地域の人々の学校教育に対する理解
見せている。
と協力も深まっていることが判明した。
・自然環境や地域への関心の高まりや伝統文化の継
生徒たちが身に着ける態度・能力に関しては、多く
承の意気込みが高まった。
の学校で、問題発見能力、問題解決能力、コミュニケ
・世代を超えた人々との繋がりの重要性の意識が高
ーション能力等、自ら考え、解決策を見出していく能
まった。
力、それらをまとめて発表する能力が向上しつつある
・様々な人に支えられていることを学習できた。
ことが指摘された。
・地域の自然、人、そして世界へと学年を追うごと
に関わる対象が広がり、より良い社会にしていき
今後の課題に関する調査結果のうち、評価に関連す
たいという思いがついてきている。
るものとしては、以下のような意見が見られた。
・地域教材の資源発掘及び蓄積を進めることができ、
昨年度よりさらに地域との連携が深まった。
・全学年で学習成果を交流し合う場を設け、発信す
ることを計画的に位置づけたい。
106
・地域を知ることにとどまらず、グローバルな視点
ユネスコスクールとしての蓄積の程度に応じ、
教科間、
で事象をみることが出来るように学習の導入や
教科と総合的な学習の時間とのつながりの強化の必要
発展性を持たせるような学習内容・活動の工夫が
性、学年間のつながり、学校と地域との交流の強化等
必要である。
について、また、生徒の理解のさらなる深まりを求め
・総合的な学習の時間を中心に取り組んできた「自
る意見等多岐にわたる意見が示唆された。
然・伝統・人」といった内容を、さらに、「持続
また、多くの学校において、地域との交流、他校と
可能なよりよい社会づくり」の視点から捉え直し
の学校間交流についてさらなる進展が必要との指摘が
て、横断的・総合的に関連づけることが課題。
なされており、そのような交流を促進するためのさら
・教師が評価の観点としている「ESD で育みたい 7
なる仕組みづくりが求められていることが明らかにな
つの能力と態度」から、子どもの変容のとらえ方
った。
を明らかにすること。
・小学校 6 年間での学びの系統性や育てたい子ども
3.ESD の視点に立った学習指導における評価規準に
像を明確にした上で、当該学年における年間の見
関する研究
通しを持って取り組んでいく。
岡山理科大学岡本弥彦教授は、国立教育政策研究所
・
「総合的な学習」や「道徳」
、
「特別活動」との関連
が提案した「ESD の学習指導過程を構想し展開するた
を図ることが重要。また、教科等で学んだことと、
めの枠組み」に関し、
「ESD の視点に立った学習指導
実感を伴った体験とを相互に生かしていくこと。
で重視する能力・態度(例)」を、新学習指導要領の下で
・ESD を通じて育てたい資質や能力と活動との関
の観点別学習状況の評価の4観点に基づいて捉え直し、
連を明確にして、取り組む必要がある。
評価規準に盛り込むべき事項を提案した。そして、児
・ESD を通じて育てたい資質や能力を細かく設定
童生徒が習得すべき知識・技能の評価よりも、持続可
して、教育カリキュラム・指導計画に反映させる
能な社会づくりに関わる課題に自ら取り組もうとする
こと。
意欲・態度の評価や,各教科等で身に付けた知識・技
・児童の変容を、定量的な見方で見ることも考えな
能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判
がら、活動の充実を図っていくこと。
断力・表現力の評価に重点を置いた例を示した。
・説得力のある成果物にまとめ、発信できるような
さらに、中学校理科「自然環境の保全と科学技術の
豊かな表現力・言語力を育成すること。
利用」の単元において、評価規準に盛り込むべき事項
・学習したこと、学校での集団行動を、家庭や地域
として、
「他者との協力(関心・意欲・態度)
」
「未来を予
を含めた自分自身の生活の中に取り込んでいく
想して計画する力(思考・表現)
」
「情報や結果を共有す
こと。
る方法(技能)
」
「自分の役割の理解(知識・理解)
」を
挙げ、より ESD 的な指導と評価への改善の可能性を
・総合学習で学んだことを今後の自分の生活に生か
すまでには至っていない学年も見られる。
指摘した。
・授業以外の場や家庭でも、自然や社会に関心を持
てるように働きかけることが必要。
・学習したことを生活に生かしたり、新聞やテレビ
のニュースを学習に活用したりする活動を一層
重視したい。
・校内での発信にとどまっており、地域の方や保護
者の方など、もっと校外へと情報を発信させてい
きたい。
・世界とのかかわりを大切にした学びを充実させる
ことが不十分だった。視点を広く置き、
「地球人」
として考える子を育てていきたい。
多くの学校において、一定の成果が得られたと評価
しつつも、
さらなる向上を目指す必要性が指摘された。
107
「各教科等の授業」と「その他の教育活動全体」は子
どものくらし全般を意味している。授業だけでなく、
本校の教育活動の中心である朝活動やくらしのたしか
め、特別活動など、すべての教育活動が含まれる。当
然、子どものくらしづくりを基盤とした教育活動を展
開するためには、地域や世界の社会や人々にまで視野
を広げる必要があり、さらには今をつくり上げてきた
昔の人々に思いをはせたり、これから先の未来を予測
することも必要となる。そのように、まずは、子ども
のくらしを広くとらえることを大事にしている。私た
ちは、本年度、ESD に取り組むにあたり、今の子ども
たちのくらしづくりを基盤にしながら、そこで育てた
い力を整理し、明確に示すことから始めた。
②育てたい力
研究主題として掲げている「子どもの追究を拓く教
4.富山市立堀川小学校における実践事例
育」における追究とは、子どもがくらしの中で出会う、
学校における ESD は、従来は総合的な学習の時間を
ひと、もの、できごとなどと心をつなぎながら、真実
中心にして行われるケースが多かったが、近年は教科
を求めて全力を尽くしていくことである。その中で発
においても ESD 的な観点を導入する学校が増えている。
揮される思考力や、形成されていく価値観が ESD の
その例として、富山市立堀川小学校の実践を見ると、
考え方に合致する。また、ひと、もの、できごとと自
以下のようになっている。
分とのつながりを吟味しながら、よりよい自分、より
よい社会をつくろうと取り組み続けるには強い意志や
全体計画
継続させていくための力も必要であり、持続可能な社
①指導目標
会づくりの担い手を育てることにもつながる。
ESD では、人格の発達や、自律心、判断力、責任感
また、私たちは授業の中で、仲間との「学び合い」
などの人間性をはぐくむことを大切にしている。
また、
ということも大事にしている。それは、個人だけでは
他人との関係性、社会との関係性、自然環境との関係
到達不可能な学びの深まりも期待できるからである。
性を認識し、「かかわり」「つながり」を尊重できる
まさに、コミュニケーションそのものが学びを支える
個人を育むことを大切にしている。すなわち、社会や
要素である。
自然や人々とのつながりを吟味しながら、自分の在り
これまで述べてきたように、本校のくらしづくりの
方をみつめることになる。このことは、本校の教育目
中に、これらの ESD で願う力が育つ基盤は十分にあ
標「くらしをみつめ自らの可能性を拓く子ども」に示
ると考える。そこで、本校では、ESD で育てたい力を
すとおり、くらしづくりを基盤とした教育である。く
次の4つに整理統合した。そして、今ある各種教育活
らしづくりとは、
子どもの生活そのものの主体であり、
動において、これらの力が子どもに身に付いているか
それは子どもが生きる社会やかかわる人々や自然すべ
どうかを確かめながら、
次項に示すような体制で研究・
てのものとつながってこそ成り立つものである。
実践に取り組んだ。
そこで、本校における ESD 指導目標を次のように
ア 論理的思考力、多様な観点から考察する能
設定した。
力、情報収集能力
各教科等の授業やその他の教育活動全体の中
イ 豊かな感性と持続可能な発展に関する価値
で、持続発展教育の基本的な考え方を生かした取
観を見いだす力(人間の尊重、多様性の尊重、
組みを推進し、過去に生きた先人、今、未来を生き
機会均等、環境の尊重 等)
るすべての人々のことを考え、よりよい社会づく
ウ コミュニケーション能力
りにかかわろうとする力を育てる。
エ やり遂げる強い意志と継続する力
108
③研究体制
第3学年の教科の目標と ESD で育てたい力との関連
イ)中間研究部会による授業研究
本校では校内研究組織として、4つの研究部会があ
る。それぞれが授業者をたて、単元検討から、指導計
画、授業実践まで行う。学習指導においては、前述し
た4つの力と教科の目標との関連を明らかにしたうえ
で実践する。そこで、単元を提示する前に、右図のよ
うにマトリクス形式でその関連を位置づけ、具体的な
子どもの姿を描くようにする。ESD として育てたい力
を明確にすることで、より具体的な指導の手立てにつ
なげることができる。
ロ) ESD の視点を大切にした教育活動
授業以外では、主要な教育活動として朝活動やくら
しのたしかめ、自主活動がある。また、特別活動では
子どもの主体性を引き出しながら、児童集会や委員会
活動に取り組むようにしている。地域活動も含め、こ
れらの活動を日々のくらしの中で大切にしていくこと
が、ESDの力が子どもに確かなものとして身に付い
ていくものと考えている。なお、本年度は校舎周りの
環境整備にも重点を置いて取り組んでいる。子どもた
ちは身近な環境に主体的に働きかける活動を通して、
つながりを大切に思う心を育み、人や自然、社会との
つながりを深めている。
第3学年
第4学年の教科の目標と ESD で育てたい力との関連
理科
単元の趣旨
子どもたちは、身近な自然に興味や関心をもってか
かわっていく中で、心を動かされた自然の事物や現象
を観察し、仲間に紹介していく学習を行っていく。そ
の中で、より詳細に探究的に観察を続けながら、子ど
もの感性が磨かれていくと思われる。
また、その対象とする自然には、生き物や環境も含
まれており、自分たちのくらしとのつながりから、自
然や環境とかかわることの意味を考えたり、生命を尊
重していこうとしたりする態度が養われていくものと
考える。
第4学年 社会科
単元の趣旨
子どもたちは、富山市内を走る路面電車に関連する
施設や設備、地域の人々の利用の様子や変化、他地域
の路面電車と富山県の路面電車の違いなどについて調
査や見学をしたり、資料を活用して調べたりすること
を通して、自分たちのくらしと路面電車とのかかわ
りについて考える。
109
また、環境や全ての人に配慮した路面電車の導入や
コンパクトなまちづくりを目指す
第5学年の教科の目標と ESD で育てたい力との関連
富山市の取組み
等について理解を深める中で、地域への愛着を深めて
いくとともに、地域社会に生きる一員としての自覚を
高め、自分はどのように参画することができるかを考
える。
第5学年 国語
単元の趣旨
単元名を「椋鳩十の作品-大造じいさんとガン-」
とすることで、椋鳩十がどんなことを伝えたかったの
か、大造じいさんの魅力は何かなどを考えたくなり、
子どもは主体的に物語を読み進める。
また、椋鳩十の作品を読むことによって、動物との
共生や動物愛護について考えていく。そして、考えた
ことを伝え合うことを通して、仲間の発言から自分の
考えをみつめ見直したり、仲間の話を受け入れたりす
る。
第6学年
算数
単元の趣旨
だれに何を伝えるのかということを意識しながら、
表やグラフに表していく。目的に合う表やグラフにし
ようと、数値の取り方や表現方法を吟味し、よりよく
第6学年の教科の目標と ESD で育てたい力との関連
伝える方法を考えていく。表やグラフで表すことで新
たなことに気づいたり、相手に自分の考えが伝わる喜
びを感じたりすることを通して、
算数の有用性を感じ、
進んでくらしの中で算数を活用していく姿を期待して
いる。
また、
様々な視点から資料を考察することを通して、
多面的、総合的なものの見方を身に付け、情報をうの
みにせず、自分の根拠をもち判断していこうとする力
を育むことができると考える。
参考文献
1)金沢大学『平成 24 年度「日本/ユネスコパ
ートナーシップ事業」 ユネスコスクール に関す
る取り組み概要調査報告書』、2013
2)岡本弥彦・五島政一・鈴木克徳「ESD の視点
に立った学習指導における評価規準について」
『日本環境教育学会第 24 回大会発表』、2013
3)富山市立堀川小学校「ESD 実践報告」『平成
24 年度地球環境基金プロジェクト「 ESD を活用
した北陸における生物多様性保護等の推進」モ
デル事業報告書』pp.6~22、2013
110
総合的な学習と教科をつなぐESDの実践と評価
‐広島県福山市立駅家西小学校の事例-
岡山大学
1.はじめに
藤井 浩樹
につけたい力として,次の3つを掲げてきた。
平成 20 年改訂の小・中学校学習指導要領では,
「持
① 自律心(自分が決めたことに従って,自分を律
続可能な社会づくり」の観点が総則や各教科の目標
しながら行動しようとする心)
。
や内容に盛り込まれている。学校教育における ESD
② 思考力・判断力・表現力(問題を把握し,その
推進の動きが次第に高まっている。
解決の見通しを立て,実際に解決して上で必要と
広島県福山市立駅家西小学校は,平成 20 年度より,
なる能力)
。
それまで進めてきた環境学習や地域学習,体験活動
③ 責任意識(社会の集団において自分が担うべき
を ESD の視点から見直し,持続可能な社会の構築に
役割についての意識)
。
かかわる諸問題を多面的・総合的に捉える学習に発
そして,これらをしっかりと身につけていく中で,
展させることにした。そうすることで,子どもたち
子どもは社会の様々な問題を多面的・総合的に見る
の課題であった学習意欲や自己肯定感を高めること
ことができるようになるとともに,自分と異なる立
や,思考力・判断力・表現力を伸ばすことができる
場や考え方を理解し尊重しながら,協力して問題を
と考えたのである。研究主題を「自律と共生をめざ
解決できるようになると考えてきた。
し,豊かな学力を身につける子どもの育成」とし,
平成 27 年度には,それまでの実践によって,これ
ESD の視点から学校全体の教育課程と授業の改善を
ら①~③の育成は一定程度達成されたと判断し,子
進めてきた。そして,平成 23 年度の第2回ユネスコ
どもにつけたい力の再検討を行った。そして,国立
スクール大賞小学校賞の受賞に至るまでに,実践は
教育政策研究所の示した「ESD の視点に立った学習
充実していった。
指導で重視する能力・態度(例)
」
(国立教育政策研
本報告では,総合的な学習の時間と教科をつなぐ
究所,2012)等を参考にしながら,次の3つの力を
ことに力点を置きながら,その後も継続的な取り組
新たに掲げることとした。
みを進める同校の ESD の実践と評価について紹介す
① 未来力(構想力:未来を予測して計画を描くこ
る。そこでは,評価形態の具体的事例が見られるの
とができる能力,行動力:未来にたどり着くため
で,今回の日本/ユネスコパートナーシップ事業「ESD
に活動し,振り返ることができる能力)
。
の教育効果(評価)に関する調査研究」の一つの資
② 考え力(問題を把握し,その解決の見通しを立
料になると考えられる。なお,報告内容に関連する
て,実際に解決するために,多面的・総合的に考
文献として,同校の実践をまとめた本(広島県福山
えたり,批判的に考えたりする能力)
。
市立駅家西小学校,2012)がある。また,報告内容
③ つながり力(自律心と責任意識をもって,他者
の一部は,勇谷・藤井(2014)の論文と重複してい
とのつながりを尊重し,協力する態度)
ることをあらかじめ述べておく。
このうち①は,未来志向を旨とする ESD にとって
不可欠であるという理由から,新たに掲げることと
2.ESD の教育課程
した。また,②と③は,従来の子どもにつけたい力
(1)ESDで子どもにつけたい力
を発展させる形で掲げることとした。
駅家西小学校では,ESD を持続可能な社会づくり
次に,ESD の領域としては,環境,多文化・国際
の担い手の育成をめざす教育と捉え,ESD で子ども
理解,人権・平和の3つの領域を設定している。そ
111
表1 ESD の領域「環境」で子どもにつけたい力
して,低・中・高学年において,領域ごとに ESD で
(※印は,期待したい子どもの姿の例)
子どもにつけたい力を具体的に示してきた(表1,
領域「環境」の場合)
。これらのつけたい力は ESD の
つけたい力
低
学
年
中
学
年
高
学
年
自律心
思考力・判断力・
表現力
責任意識
身近な自然や社
会の中で,自分も
つながりを持っ
て生きているこ
とに気づき,行動
する。
※自分の決めた
約束を守ること
ができる。
身近な自然や社
会の中から,自分
の興味・関心のあ
るものを見つけ,
表現する。
※自然や社会の
中で,気づいたこ
とを自分の言葉
で表現できる。
身近な自然や社会を
大切にする気持ちを
持ち,それを行動に
移す。
※自然や社会のおか
げで自分の生活がで
きていることを実感
し,それらを大切に
する実践ができる。
地域の自然や社
会のつながりの
中で,自分にでき
ることを自覚し,
行動する。
※よいと思った
ことを行動に移
すことができる。
地域の自然環境
や社会環境を保
つために,自分に
できることを考
え,表現する。
※よりよい解決
策を考え,表現で
きる。
地域の自然環境や社
会環境を保つため
に,自分にできるこ
とを実践する。
※自然や社会に感謝
し,それらを守るた
めの実践ができる。
世界の自然や社
会のつながりの
中で,自分たちに
できることを自
覚し,行動する。
※他者のために,
進んで自ら行動
できる。
世界の自然環境
や社会環境に対
して疑問を持ち,
自分たちにでき
ることを考え,表
現する。
※様々な物事を
関連づけて考え,
表現できる。
世界の自然環境や社
会環境に対して,自
分たちにできるより
よい行動を考え,実
践する。
※自分と自然や社会
とのつながりを意識
しながら,よりよい
実践ができる。
目標であり,評価の規準でもある。新たに掲げたつ
けたい力(未来力,考え力,つながり力)を具体的
に示すことは,今後の課題となっている。
(2)ESD 関連カレンダー
東京都江東区立東雲小学校(多田ほか,2008)の
発案による ESD カレンダーは,ESD の各領域に関連
する単元を学習する順番に並べ,単元同士のつなが
りを考えながら,1年間の ESD の内容を一覧にした
ものである。これは多くの学校で採用されている。
駅家西小学校では,このカレンダーを発展させ,
単元同士のつながりを強く意識したカレンダーを作
成している。というのは,教師にとっては,
「なぜ,
この単元とこの単元がつながっているのか」を深く
考えることが,広がりのある ESD の授業を展開でき
ると考えるからである。そこで,従来の ESD カレン
ダーに単元同士の「つながりの理由」を追加し,こ
れをもって「ESD 関連カレンダー」と呼んでいる。
ここで第5学年の ESD 関連カレンダーの一部を取
り上げてみる(図1)
。ESD の領域「環境」では,総
合的な学習の時間の単元「今,地球が危ない!」を
中心に,道徳の「一ふみ十年」
「イルカの海を守ろう」
,
国語の「サクラソウとトラマルハナバチ」
「人と物の
つき合い方」
,社会科の「米づくりのさかんな地域」
つながりの理由
動植物や自然の美しさ,雄大さに
触れ,感動する心を持つことが,
それらを愛することや保護するこ
② とにつながる。わずかマッチ棒の
太さしかないチングルマにも10年
間に及ぶ成長があり,その生命力
の尊さを感じ取ることができるか
ら。
サクラソウとトラマルハナバチの
ように,自然界の生き物は長い年
月をかけて互いに利益を得るため
の共生関係を築いていること,そ
④ の関係が生態系とつながっている
ことを理解する。人間も生態系の
一部であり,自分たちの生活も自
然界とつながっていることを知
る。そうした中で,環境問題も自
分たちの問題として考えることが
できるから。
図1 ESD 関連カレンダー(第5学年の一部)
112
の領域の内容とつながっている。他の学年の内容と
もつながっている」というのが見えてくる。子ども
の学びのつながりを一層意識することとなる。
3.ESD の授業
(1) ESD の授業づくりの視点
駅家西小学校では,ESD のキーワードである「つ
ながり」に注目し,次の3つのつながりを大切にし
た授業づくりを進めている。これらは,ESD の授業
づくりの視点となっている。このうち,①は子ども
の主体的・能動的な学びを,③は協働的な学びを実
現することにつながっている。
① 自分と学びとのつながり
ESD で学習することが自分の生活や社会と関連し
ているということに気づかせる。また,ESD で学習
していることが,将来の自分の生き方や生活につな
図2 ESD の教育課程の3次元モデル
がるということに目を向けさせる。これらのために,
「自動車と私たちのくらし」
,理科の「植物の発芽と
目的意識を持った自然体験や社会体験を授業に取り
成長」などの単元を関連づけ,単元同士のつながり
入れる。また,学びの意義を子どもが自覚できるよ
の理由を示している。
うにするため,単元や授業の導入を工夫する。
ESD 関連カレンダーによって,教師は「前に教え
② 内容のつながり
たことが,ここで活きてくる」というのを実感でき
教師は,ESD 関連カレンダーを念頭に置き,教科・
る。子どもの学びのつながりが見えてくる。ESD 関
領域等を越えた単元同士のつながりや,ESD の領域
連カレンダーは,教育内容のつながりを全体的に理
を越えた単元同士のつながりを意識した授業づくり
解する上で重要な見取り図となっている。
を進める。これらのつながりが,子どもの獲得する
知識のつながりや能力のつながりに反映するように
(3)ESD の教育課程の3次元モデル
する。
学校の教育課程の内容は,元来,教科・領域等を
③ 自分と他者とのつながり
中心に編成されている。一方,ESD 関連カレンダー
学校,家庭,地域で自分と共に生きる人たちに気
においては,それは ESD の領域を中心に編成されて
づき,自分と学校とのつながり,自分と家庭とのつ
いる。したがって,教育課程の内容は,教科・領域
ながり,及び自分と地域とのつながりを大切にする。
等の側面と ESD の領域の側面の2つの側面から位置
授業では,ペア学習やグループ学習を取り入れ,例
づけられることとなる。こうした考えに立つと,教
えば付せんに自分の考えを書いて発表し,考えを他
育課程の内容は,教科・領域等の座標と ESD の領域
の人と共有したりする。また,家庭や地域の人に自
の座標,加えて学年の座標を持つ3次元のモデルで
分から働きかけ,協力して課題を解決できるような
表すことができる(図2)
。モデルにおいて,小さい
活動を進める。
箱は個々の教育内容,大きい箱は教育内容の全体を
示している。また,小さい箱同士を結ぶ線は内容同
(2)第4学年の授業の事例
士のつながりを示している。
1)授業の構想と実践
このモデルは,ESD 関連カレンダーを作成する過
授業の例として,第4学年の「身近なごみや水に
程で浮かんできた。もちろん,全ての教育内容が ESD
ついて考えよう」の実践を取り上げる。この実践は
にかかわるわけではないし,モデルは内容同士のつ
本報告の付録の「総合的な学習の時間(ESD)指導案」
ながりを例示したに過ぎない。しかし,教師はこの
に沿って展開されたものである。
モデルをイメージすることで,
「今,子どもが学んで
指導案では,
「6 ESD の視点」において,前節で
いる内容は,他の教科・領域等の内容や,ESD の他
述べた「ESD で子どもにつけたい力」の具体的内容
113
が記されている。また,
「9 学習展開と評価計画」
が大変な努力をしていることを学んだ。また,特別
と「12 本時の展開」において,どの授業でつけた
活動として,夏休みに国立吉備青少年自然の家で3
い力の育成に重点を置くのか,あるいは授業のいず
泊4日の宿泊体験学習を行った。子どもたちは小川
れの場面でその育成に重点を置くのかが記されてい
に入り,水生生物を採集・観察したり,水質検査を
る(付録中の下線の箇所)
。これらのことにより,ESD
したりした。そして9月からは,総合的な学習の時
の目標達成と評価のポイントが明確になっている。
間で,地域の芦田川の水質調査に取り組んだ。芦田
こうした指導案の工夫は,駅家西小学校の ESD の一
川の水質は中国地方でワースト1という残念な結果
つの特徴であるといえる。
となっている。実際,河川浄化施設で検査したパッ
続いて,実践の経過を見てみる。まず,1学期の
クテストの結果も良好ではないことを確認した。
「ごみ」についての学習では,子どもたちは社会科
これらの活動を通して,子どもたちから「芦田川
で「ごみの処理と活用」について学び,ごみに対す
をきれいにしたい!」という思いが生じてきた。そ
る問題意識を抱くようになった。この学習を踏まえ,
こで校区の近くを流れる芦田川の支流(服部川)に
総合的な学習の時間では,増え続けるごみを身近な
出かけ,水質調査や生き物調べを行った。子魚など
問題と捉え,ごみを減らすために自分たちにできる
の小さな生き物がいること,時折,アオサギが飛ん
ことを考えていった。
できて,エサをついばんでいることがわかった。生
授業の導入では,問題をしっかりと把握できるよ
き物を守るためにも,
「何とかして川をきれいにした
うにするため,
「未来から現在を考える」というバッ
い」という思いが強まっていった。自分と学びとの
クキャストの手法が用いられた。まず,
「あと 25 年
つながりを感じながら,
「未来力」や「考え力」を次
後に,埋め立て処分場がいっぱいになる。どうすれ
第に身につけていった。
ばいい?」という発問をした。子どもたちは「今,
そして,地域のスーパー,工場,飲食店,あるい
自分たちにできることは何?」
「どうやって進めてい
は学校の給食室で,汚れた水を流さないための工夫
けばいいの?」という思いを抱きながら,ごみ処理
や水を節約するための工夫についてインタビューを
の現状を調べて,具体的な解決策を考えていった。
し,様々な工夫や努力を知った。子どもたち自身が
自分と学びとのつながりを感じながら,
「未来力」や
学校や家庭でできること,家庭や地域の人に協力し
「考え力」を身につけていった。
てもらうことを考え,水道の流しにネットをつけた
そして,子どもにとって身近な食べ物や飲み物の
り,家庭でも食器を洗う前に,汚れを拭き取ったり
ごみに注目し,学校給食から出る牛乳パック,家庭
するなどの実践を行った。また,学校の他の学年に
から出る発泡スチロールトレイ,ペットボトル,空
も実践を呼びかけた。自分と他者とのつながりを大
き缶のリサイクルに取り組んだ。牛乳パックを飲ん
切にしながら,協働で課題の解決に取り組んでいっ
だ後に開封し,水洗,乾燥,梱包した。また,トレ
た。最終的には,取り組みがうまくいった理由やう
イやペットボトルを家庭から持参した。最初は4年
まくいかなかった理由の振り返りをした。このよう
生だけで行っていたが,
「他の学年に協力してもらえ
にして子どもたちは「つながり力」を高めていった。
るよう,お願いに行こう」ということになり,お願
いの手紙を携えて各学級を訪ねた。例えば,牛乳パ
2)授業の評価
ックでは,リサイクルすることの大切さ(上質な再
授業の評価は,授業を通した子どもの学習の評価,
生紙になる,紙の原料である木を守ることになる)
,
及びそれに基づいた授業自体の評価からなる。
リサイクルの方法(ストローとナイロンを取り除く,
まず,子どもの学習の評価は,ESD で子どもにつ
バケツ1杯の水で洗う)について説明し,協力を求
けたい力の育成で重点を置いている場面において行
めた。自分と他者とのつながりをはっきりと意識し
われている。各場面でつけたい力がどの程度達成さ
たようで,
「つながり力」を発揮していた。その後,
れたかを見取り,それを集約することによって,子
回収業者に引き取ってもらい,何本の木を節約でき
どもの何が変わったかを分析している。評価手法は
たのか,成果をまとめていった。
質的であり,子どもの授業での発言や行動,ノート
次に1・2学期の「水」についての学習は,ごみ
などの成果物の記述が分析に用いられている。例え
の学習と同様に,社会科からスタートした。
「命とく
ば,第4学年の授業では,担当の教師は子どもの学
らしを支える水」の単元で,水を確保するために人々
習を次のように肯定的に評価している。
114
① 未来力(構想力:未来を予測して計画を描くことが
できる能力,
行動力:未来にたどり着くために活動し,
振り返ることができる能力)について
・リサイクルをすることは,資源の節約にもつながるこ
とを理解し,
「いらない包装は断る」
「ばら売りの物を
買う」
「最後まで使い切る」などについて考えること
ができた。
・全校児童にリサイクルの協力を呼びかけるためには,
まず現状を伝え,その次にリサイクルの目的や具体的
な方法を知らせることが大切であるということを考
えることができた。
・授業の後,集会,ポスター,新聞,手紙,学級回りな
どにより,全校児童にリサイクルの協力を呼びかけ
た。集まった物をスーパーマーケットのリサイクル回
収ボックスに持って行き,リサイクル活動を続けてい
る。
② 考え力(問題を把握し,その解決の見通しを立て,
実際に解決するために,多面的・総合的に考えたり,
批判的に考えたりする能力)について
・児童が 35 歳になった時,埋め立て処分場がいっぱい
になるということから,自分たちの将来に向けて,今
できることを考えることができた。
・全校児童にも協力を呼びかける中で,多くの人がリサ
イクルを行うことによって,埋め立て処分場を長い間
使うことができることに気づくことができた。
・他の学年の児童が,学校にリサイクルできる物をたく
さん持ってきてくれるだけでよいのではなく,リサイ
クルの目的やごみを減らすことのよさに気づいてく
れることが大切であることを考えることができた。
③ つながり力(自律心と責任意識をもって,他者との
つながりを尊重し,協力する態度)について
・他の学年にもリサイクルの協力を求めるために,校内
放送で呼びかけをしたが,多くの協力を得ることはで
きなかった。そこで,できなかった原因を考え,具体
策を検討した。すると,児童は友だちの具体策を聞い
て,
「あ~」と言って感心したり,自然と拍手が出た
りして,お互いの意見を尊重する態度が見られた。
・話し合いの視点が明確ではなかったために,具体策の
内容と伝え方を混同している児童がいた。
4.おわりに
以上,駅家西小学校の ESD の実践と評価について
紹介した。特徴をまとめると,実践については,
「ESD
関連カレンダー」を用いて教育課程を編成し,
「授業
づくりの視点」に沿った授業を展開している。また,
評価については,
「ESD で子どもにつけたい力」の育
成で重点を置く授業場面を明確にし,つけたい力の
達成度を見取っている。その手法は質的方法であり,
子どもの授業での発言や行動,ノートなどの成果物
の記述がデータとして用いられている。
こうした質的方法は,
「具体的な事例を重視して,
それを時間的,地域的な特殊性の中で捉えようとし,
また人々自身の表現や行為を立脚点として,それを
人々が生きている地域的な文脈と結びつけて理解し
ようとする」立場である(フリック,2002)
。したが
って,この方法を ESD の評価に用いる場合には,今
直面する子どもたちとの具体的で特殊的な事例にお
いて,学習指導という行為の教育的意味を熟考する
力量が必要となる。駅家西小学校で進める ESD の評
価の方法がどのように深まっていくのか,今後の展
開に期待したいと思う。
謝辞
本報告の執筆にあたり,広島県福山市立駅家西小
学校の我妻育子校長先生をはじめ,同校の先生方か
ら全面的なご支援をいただきました。ここに記して
深くお礼申し上げます。
次に,こうした子どもの学習の評価に基づいて,
授業自体は次のように評価されている。
① 成果
・導入で,自分たちだけで集めた物(リサイクルできる
物)はとても少ないということを示したことで,
「この
ままではいけない」という課題意識をはっきりと持た
せることができた。
・
「35 歳の時に埋め立て処分場がいっぱいになる」という
具体的な数値があったので,自分の将来とのつながり
を考えさせることができた。
・
「1年生にわかると思いますか」など,相手意識を持た
せるための切り返しの発問をしたことで,自分たちだ
けでなく,全校児童を意識させることができた。
② 課題
・導入時で,
「リサイクルの目的を伝えていない」という
発言が見られたので,児童から本時のめあてを出させ
るとよかった。
・児童の考えは埋め立て処分場のことに集中していたの
で,ごみの行方や再利用できるごみについても,振り
返りや事前学習をさせた方がよかった。
参考文献
1) 広島県福山市立駅家西小学校『未来をひらく ESD
の授業づくり-小学生のためのカリキュラムをつ
くる-』ミネルヴァ書房,2012
2) 勇谷美奈子・藤井浩樹「総合的な学習の時間と教
科をつなぐ ESD の実践-ESD 関連カレンダーを活
用して-」
『日本教科教育学会誌』
,VOL.36 NO.4,
日本教科教育学会,pp.111-114,2014
3) 国立教育政策研究所『学校における持続可能な発
展のための教育(ESD)に関する研究 最終報告書』
,
2012
4) 多田孝志・手島利夫・石田好弘『未来をつくる教
育 ESD のすすめ』日本標準,2008
5) ウヴェ・フリック『質的研究入門』春秋社,2002
115
116
117
118
119
120
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公開シンポジウム「学校を中心とした ESD の教育評価のありかた」
日 時: 2016 年 1 月 11 日(月・祝)13:30~16:30
場 所: 東京国際フォーラム ガラス棟 G409 会議室
開会式
ルを ESD の推進拠点と位置づけて、ユネスコスクー
○司会 住野好久(岡山大学)
ルの数や分布地域、各ユネスコスクールの活動の充実
ただいまより平成 27 年度文部科学省日本/ユネス
を図ってきました。一方で、昨年 8 月、私ども日本ユ
コパートナーシップ事業、ESD の教育効果(評価)に
ネスコ国内委員会の ESD 特別分科会において、集中
関する調査研究公開シンポジウム「学校を中心とした
審議を行って報告書をまとめました。その中では ESD
ESD の教育評価のありかた」を始めます。開催に当た
の概念が分かり難い、あるいは効果が分かり難いとい
り、文部科学省国際統括官付国際統括官補佐、野田昭
った課題が依然として上げられています。
結論として、ESD が活発な地域の偏在の解消や、行
彦様よりご挨拶を頂きます。
政区域を越えた連携推進などが引き続き我々が取り組
○野田昭彦 (文部科学省)
んでいかなければいけない課題だと認識しています。
本日はお休みの中、こんなにも多くの方々に集まっ
これらの背景から、本日のテーマである「学校を中心
ていただき、ありがとうございます。主催者を代表し
とした ESD の教育評価のありかた」は、非常に時宜
て、簡単にご挨拶申し上げます。
を得たテーマであり、
我々の問題意識に即して ESD の
2014 年までの 10 年間、国連の ESD の 10 年がユネ
見える化を図っていこうという流れの一環であると考
スコを主導機関として世界的に展開されるとともに、
えています。本日のシンポジウムでは、皆様方の活発
一昨年の 11 月には、その最終年会合として、我が国に
な議論の成果として、我々にとって非常に有益な、今
おいて「ESD に関するユネスコ世界会議」が開催され
後の我々の道しるべとなるような成果を期待していま
たことは、まだ記憶に新しいことと思います。会議で
す。
は ESD の 10 年を通じて、多くの成果が共有されると
本シンポジウムを準備いただきました岡山大学の皆
ともに、今後、後継プログラムである、いわゆるGA
様方、並びに、お忙しいところお集まりいただきまし
P(グローバル・アクション・プログラム)の開始、
た皆様方に感謝申し上げ、引き続き ESD の推進に皆
また、ユネスコ/日本 ESD 賞の創設がアナウンスさ
様方のご尽力を賜りたいと考えています。
れ、あいち・なごや宣言、岡山宣言などが採択された
ことは承知のとおりです。昨年より既に、GAPは開
趣旨説明
始されており、ESD は引き続きユネスコを主導機関と
○川田 力(岡山大学)
して世界的に展開されている状況です。
決して ESD の
当シンポジウムの開催に当たり、この調査研究の概
10 年が終わり、そのまま ESD も終了するというわけ
略を説明いたします。これは文部科学省のユネスコパ
ではないことを改めて強調したいと思います。
ートナーシップ事業の委託事業として岡山大学が実施
また、昨年の 9 月に、ニューヨークでの国連総会で
しているものであり、調査研究の目的は ESD の評価
新しい開発枠組みである SDGs(持続可能な開発目標)
枠組みを提案するということです。また、ESD 実践校
が採択されました。そのゴール 4 には ESD もきちん
の取り組み効果と評価手法の事例収集も求められてい
と明記されていて、今後も「持続可能な開発」は、世
る調査研究です。
界の発展にとって最も重要なキーワードであり続ける
この委託事業の留意事項として、研究成果が学校現
ということが言えます。
場で有効に活用できること、また、既存の調査研究事
一方、我が国においては、この間、ユネスコスクー
業、特に国立教育政策研究所の調査研究の成果を発展
122
させること、学校への ESD のさらなる浸透に資する
ころもありますが、特定の評価枠組みを示すことで、
こと、といったことが付加されています。こうした枠
実践を規定してしまう恐れがあることから、この調査
組みに沿って研究目的を達成すべく研究分担者及び研
研究は極めて丁寧かつ慎重に進めるべきであるという
究協力者約 20 名で研究を実施しています。
共通理解がなされています。
したがって、
現時点では、
実は、私どもがこの調査研究を行うにあたり、ESD
この調査研究においては、統一的な見解の導出を目標
の評価の困難性に直面しています。
具体的には ESD と
とするのでなく、それぞれの研究者の多様な見解を多
は何なのかということが非常に大きな問題であり、こ
様なままに提示し、その結果を ESD を実践されてい
の調査研究に関わっているメンバーにおいても、ESD
る皆様に受けとめていただき役立てていただけないか、
の理解についてはかなりの多様性があります。実際に
と考えています。
ESD を研究したり、学校現場や社会で実践されたりし
本日は 4 名の報告者の方に、以上の流れに沿って多
ている方々の ESD の理解も非常に多様です。ESD は
様な見解をご報告頂き、議論につなげていただきたい
持続可能な社会の実現のための教育活動全てを包括す
と思います。参加者の方にも、このようなスタンスで
るものであるという非常に幅広い理解のもとで ESD
私たちが調査研究を行っていることをご理解いただき、
に取り組んでいる方々もいれば、SDGs などに掲げら
ESD の評価枠組みの提案に資する活発なご議論をい
れた持続可能な社会の実現のための個別具体的な課題
ただきたいと思います。
を解決するための教育活動であると狭く捉え、個々の
課題解決に向けた教育活動を行っている方々もいると
○報告1 持続可能性コンピテンシーと ESD の評価
思われます。したがって、こうした ESD に対する理
佐藤真久(東京都市大学)
解の多様性に基づいて、ESD の実践も非常に多様であ
私の話はキー・コンピテンシーの話がメインとなり
ますが、今までの ESD の経験と、それに基づいて近
るという現状があります。
また、評価も非常に幅広い概念であり、どのような
年議論されている持続可能な開発目標を踏まえた上で、
目的で評価するのか、その目的に応じていつ評価をす
このコンピテンシーの話を出来ればと思います。
るのか、
誰が誰に対してどのように評価するのかなど、
ESD の取り組みに 10 年以上をかけて長く関わって
目的、時期、主体、方法についても多様性があるので
きた中で、国際的にも、国内にも大きな動きが出てき
す。
ました。実際、2005 年の国際実施計画の中でも ESD
ESD の活動を行う前の診断的評価もあれば、ESD
についてさまざまな指摘がありました。2009 年には
の実践を行っているプロセスの中で、そのプロセスの
「ボン宣言」というテーマが出た上で、従来の国際実
改善に資する、形成的評価もあります。また、ESD の
施計画を踏まえ、例えば社会科学的な側面や、
「生命地
実践の終盤でどのような教育効果が得られたのかを確
域」といった言葉もこの 2009 年の ESD の中で出てき
認する総括的評価もあります。さらに、具体的にどの
ています。2009 年のこの中間会合では、新しい学習の
ように評価に対する情報収集をするのか、間接評価な
柱というのが提示されました。ご存じのとおり、従来
のか直接評価なのかという問題もあります。また、評
の4つの学習の柱に対して“learning to transform
価指標についても、定量的なものなのか定性的なもの
oneself and society”という言葉が出たのです。私は、
なのか、絶対的な評価なのか相対的な評価なのか、と
この言葉を「個人変容と社会変容の学びの連関」とい
いう観点もあり、ひとくちに評価といっても非常に多
う言葉で訳しました。要するに、
『
「個人が変わって社
様性があるものです。
会が変わる」だけではなく、
「社会が変わることによっ
このように ESD の理解には多様性があり、評価に
て個人も変わる」
という意味合いも合わせ持っている』
も多様性があるという状況の中で分析的にこの調査研
という理解があるということです。そして、その「個
究を進めていくのは、単年度事業では困難であるとい
人が変わることは社会が変わること」そのものを学び
うのが私どもの見解です。
そこで、
この調査研究では、
のプロセスとして位置づけていこうということが
学校を中心とした ESD に対象を絞り、学習評価を中
2009 年に提示されたのです。2011 年になると、
「プロ
心に本調査研究を進めていこうという方針をとりまし
セスと学習」というレポートが出て、協同と対話、全
た。実は評価枠組みが ESD の実践自体を規定すると
体システム、カリキュラムの刷新、そして行動的で参
いう側面がかなりの部分あります。これは逆も言え、
加型学習のプロセスといったものが重要な学習のプロ
ESD 実践が評価枠組みを規定するという相互的なと
セスとして提示されました。
123
じかと思いますが、
「VUCA」とは、
「変動性 Volatility」
、
2012 年のレポートでは、ESD の実践における「4 つ
のレンズ」が出されました。1 点目として ESD の取り
「不確実性 Uncertainty」
、
「複雑性 Complexity」
、
「曖
組みを“統合化”
、即ちものごとをつなげて見ていく。
昧性 Ambiguity」のことです。これは経営用語の中で
2 点目としてそれを“文脈化 Contextualization”させ
よく使われるようになってきています。非常に不確実
ていく。地域で、グローバルで、様々なものを意味づ
性の高い状況の中で、我々はこのグローバル化社会を
け、文脈化させていくというレンズ。そして、3 点目
過ごしていかなければならない。
そういう状況の中で、
として“批判性”
、4 点目として社会変容と個人変容と
さまざまな議論がされてきているわけです。典型的な
いう意味合いを有した“変容”というキーワードが出
例としては、今年から始まりました「持続可能な開発
てきたのです。
目標」で 17 の目標と 169 のターゲットが提示された
そして、昨年度、2014 年には、この ESD で重視さ
わけです。先ほどの説明のように、目標 4 がクオリテ
れている学習アプローチとして 213 のレポート・回答
ィ・エデュケーションとして立ち上げられつつ、教育
者を得た世界規模の調査がユネスコで行われましたが、
が全体にかかわるものであるということが提示された
そこでは参加型、協働型学習が一つの重視されている
わけです。
学習アプローチだろうという報告が出てきたわけです。
そういう状況の中で、この世界的な課題というもの
問題に基づく学習、そして学際的学習、批判的学習、
が、従来の貧困と社会的排除問題という MDGs で言
システム思考といったことも一つの遵守された取り組
われていた開発アジェンダの視点だけではなく、もう
みとして認知がされているようです。
一つ地球環境問題が今、世界的な SDGs の文脈の中に
このような状況の中で、私が先ほど申し上げた学習
入ってきているわけです。従来で言うならば、MDGs
の 柱 で あ る “Learning to Transform Oneself and
は開発アジェンダであり人権をベースとしたものだっ
Society”という意味は何なのだろうかということを私
たわけです。それが、この 2015 年を踏まえた上で開
はずっと考えていたわけです。これに対する一つの視
発と環境アジェンダを接合させていく、自然生存権と
点として、人によっては個人の能力が上がって社会が
人権に配慮をしながら、地球は1個しかないのだとい
よくなるという発想も当然あるわけですが、実はもう
う
「地球資源制約」
という考え方が出てきたわけです。
一つの視点があります。持続可能な社会というものを
この背景には、2000 年当時のバックグラウンドと今日
創ろうとすることによって、その中から共に学んでい
のバックグラウンドに大きな変化があることもわかる
こうという、そういう取り組みです。上位の方で言う
かと思います。気候変動の時代、自然災害の時代、そ
ならば、従来の学校教育であったり、個人の能力形成
して途上国でも肥満の問題があり、ユースの雇用の問
に資するような取り組みというのが上段の方に上げら
題があるというように、この 15 年でもかなり社会的
れるのかと思います。後半部分に関しては、例えば地
な状況が大きく変わってきているということも分かる
域づくりの人たちが地域の中で協働しながら共に学ん
と思います。そういう状況の中で、教育アジェンダと
でいくといったような、協働と社会的学習といったプ
いうものがこの環境と開発を結びつける大きな期待と
ロセスの中で、地域づくりをしながら学んでいこうと
して上げられているわけです。先ほどの目標4の中の
いう、そのような一連のプロセスもあるのかと思いま
「質ある教育」とは、SDGs というものは、この ESD
す。今回に関しては、上部のこの個人の資質・能力を
がこの 2 つの課題、つまり貧困の問題と環境の問題を
高めることによって社会の変容の学びを構築していこ
つなげるものとしても非常に注目されているというと
うというスタンスがあるわけですが、我々は決してそ
ころをご理解いただければと思います。
の個人性を中心としたものの捉え方だけではない、社
そのような状況の中で、もはや 2000 年代に想定さ
会の変容に関わることによって学ぶという、この社会
れた持続可能な社会と今日の社会において、もうこの
的構成主義の考え方というのも一つ捉えておく必要が
たった 15 年だけでも大きな変化が出てきているわけ
あるのかなとも思うわけです。
です。先ほど申し上げたようなさまざまな問題を踏ま
そのような状況の中で、私は今回、
「VUCA を有し
えた上で我々は、いわゆる、ありたい社会としての持
たグローバル化時代」という言葉をここで取り扱いた
続可能な社会だけではなく、あり得る社会の中での持
いと思います。
「グローバル化時代」そのものについて
続可能社会を考えていかなければなりません。これを
は、1980 年代末ごろから経済のグローバル化が世界的
通称、レジリエントな社会と最近言われますが、何が
に進展してきたということです。また、皆さんもご存
起きるかわからない時代であるわけです。冬になって
124
も雪が降らない、夏になると非常に暑くなってしまう
しながら、この 2000 年から 2015 年の間でも、人間開
という現状の中で、我々はそういうような状況をこれ
発のアプローチ、そして持続可能な開発、学習権の視
から 10 年、20 年考えていく中で、もうありたい社会
点、そして MDGs など、様々なものが議論されてきた
だけを考える時代ではなくなってきているわけです。
わけです。今日現在は、このように多くの議論の中か
あり得る社会も想定しながら物事を考えていくことの
ら、何を考えていかなければならないかというと、
重要性が今出てきているわけです。
VUCA の視点が出てくるわけです。持続可能な社会を
このような状況の中で、今回はこの個人の資質・能
目指してこのコンピテンシーも議論されてきたわけで
力を焦点に置いた持続可能性のキー・コンピテンシー
すが、今日においては、まさにこの VUCA(不確実性
について話をします。先ほど申し上げた個人の変容と
の高い状況)の中で持続可能な社会の構築の資質・能
社会変容の学びとの連関を見ると、まさにこの今回の
力論を考えていかなければならない。そういう時代が
テーマである「個人の資質・能力の向上」
、今回は特に
やってきたわけです。
従来の問題解決型だけではない、
「学校における ESD」を提示されていますが、そうい
よりその状況に対応していく能力、そして持続可能性
う状況の中で我々はどのような個人の資質・能力を捉
という規範というものに対して考えていかなければな
えていくべきかを考えていく必要があるわけです。先
らないといったことも出てきたわけです。
ほど申し上げた VUCA の時代、非常に不確実性が高
そして、このような中で、日本でもさまざまな取り
い状況の中で、この 2 つの基本問題、環境問題、そし
組みが行われてきたのです。現行の学習指導要領にお
て貧困的な社会的排除問題を踏まえた上で、それをつ
ける資質・能力論に関しては、知識基盤社会としての
なげる人間の自己関係としての教育実践というものが
取り扱いの中で、この DeSeCo のコンピテンシーが取
より重要視されてくるわけです。
り扱われてきたのです。下位概念としての持続可能な
2014 年の岡山でのユネスコ世界会議・ステークホル
社会の構築というものが提示されてきました。しかし
ダー会合において、安西先生は、コミュニケーション
ながら、これを学校の指導要領の中でも十分に、より
の質とスピードが高まる、個人の関与が高まる、双方
反映させていく必要があるのかと思っています。持続
向メディアに直接参加する機会が増える、多様な人々
可能社会という意味の中では、DeSeCo のコンピテン
と協働する機会が増える、知識・技能の活用力が重要
シーも位置づけられているわけですが、実は関連省庁
になる、学習継続力が重要になる、情報を吟味する力
の会議の報告でもありますように、学習指導要領と
や合理的思考力が重要になる、臨機的、応変的な力と
ESD とのつながりがまだまだ不明確です。教育効果の
いうものが重要になるということを申されていました。
体系的研究、手法開発が課題ということも 2014 年に
状況に応じた個々人の主体性というものが重要である
提示されています。さらには、私が先ほど申し上げた
ということが提示されたわけです。
VUCA(不確実性の高い状況)の中での資質・能力論
このような状況の中で、ESD の中におきましてもさ
というのはほとんど議論がされていません。こういう
まざまな資質・能力に関する議論が行われてきました。
状況の中で、この持続可能社会、とりわけそれに
代表的な例として、ドイツの Transfer 21 があります。
VUCA を有したその能力論として、今回は持続可能性
これは、従来の OECD の能力カテゴリーと関連づけ
キー・コンピテンシーというものを提示するわけです。
ながら形成コンピテンシーというものを提示してきた
まず初めに、この学校における能力観の外観を見た
わけです。このほかに国研の調査報告もあります。こ
いと思います。これは小玉先生がレポートを出されて
れについては、この次の岡本先生の話があるかと思い
いますが、学校の現場の中での生きる力、知識基盤社
ます。
会の背景にある DeSeCo のプロジェクト、そして総合
このような状況の中で、従来のキー・コンピテンシ
学習の背景にあるようなさまざまな文脈の中での能力
ーへの挑戦というものを今回考えてみました。1980 年
観、そして ESD の国内実施結果から提示された育み
代、経済がグローバル化していく中で、OECD のコン
たい力、能力、態度というものがあるわけです。しか
ピテンシーが出てきましたが、この背景とは職業人材
しながら、よく見ていただくと、能力に関して接点は
の育成であったということは皆さんもご存じかと思い
あるものの、随分この背景が違うことが分かるかと思
ます。とりわけ、EU内を移動する労働力の質保障と
います。DeSeCo に関しましては、ポスト工業化社会
いった中でこの問題を解決するための資質・能力とし
における経済のグローバル化に対する対応、総合学習
て、3 つの大きな枠組みが提示されたわけです。しか
に関しては探求、そして教科横断的、そして協働性、
125
地域性、自己実現性といったものを反映させたものの
レジリエントな社会に対してどう考えていくか。そこ
見方、そして、国内実施計画に関しては、持続可能な
には、SDGs で提示されているような地球資源制約と
開発、人間開発といった国際的な文脈が反映されてき
いうものも出てきているのです。
こういう状況の中で、
ているわけです。
何度も申し上げていますようですが、
安彦先生の言葉をかりるのであれば、能力開発型であ
この中に VUCA、不確実性に対する資質・能力論に関
りながら西洋型の教育観、どのように自分たちがこの
してはまだまだ反映されていないということがまず分
状況下で、地球が 1 個しかない状況の中でどういった
かるのではないでしょうか。
教育をつくっていくのかという、そのような教育観も
このような状況の中で、持続可能性のキー・コンピ
あわせて重要であることが理解できると思います。
テンシーという議論が行われたわけです。ESD のこの
2 点目として、規範性を有した主体的、創造的、探
10 年の中でさまざまな資質・能力論が問われている中
求的、協働的、問題解決的、状況的な発達段階に応じ
で、アリゾナ州立大学のウイークのグループは、持続
た資質・能力の獲得プロセスと見る。従来、この能力
可能なキー・コンピテンスを抽出してきたのです。そ
論、資質論というものは、各要素として提示されてき
れがこの 5 つのキー・コンピテンスです。
たわけです。しかしながら、このウイークのレポート
まず 1 つ目は、システム思考のキー・コンピテンス
にもありますように、実はこのコンピテンスの中には
です。いろいろなものを体系的に捉え、システムとし
獲得のプロセスがあるということが、このレポートで
て捉えるものの見方。2 点目として、時間軸で物事を
提示されてきているわけです。問題の発見と認識、問
考えていく予測の視点。3 点目として、持続可能性と
題の起きた原因や背景の認識、今後の起こり得る未来
いう規範性をコンピテンスとして位置づけるというも
の認識、活動の計画、計画に対する規範的な判断、活
のが出てきたわけです。4 点目として、それを踏まえ
動の実践、活動の振り返り、共有と改善。そして、そ
た上で戦略的、計画的、行動的に何かやっていこうと
れを皆さんでやっていくような協働のアプローチとい
いうコンピテンス。そして、それを 1 人でやるのでは
うのが重要であろう。私がここで強調したいのは、一
なくてみんなで一緒にやっていくという、対人関係と
つはコンピテンスというものを要素で考えるのではな
してのコンピテンスというものが提示されたわけです。
く、プロセスとして考えるということが一つとしてあ
このような持続可能性のキー・コンピテンスを基本的
るかと思います。
コンピテンス、つまり OECD のレポートで出ている
従来のキー・コンピテンスであれば、ある程度のそ
ようなコンピテンスとの連関の中でやっていくべきだ
の手段的なものをつくってやっていくわけですけども、
といったことが提示されたわけです。
そこには持続可能性というような規範性はなかったの
このような状況を今回の国研の枠組みとつなげてい
です。この持続可能性キー・コンピテンスで言われて
きますと、例えばシステム思考のコンピテンスとして
いるのは、持続可能な社会という規範性というものを
の多様性、総合性、多面性、関連性。予測としての有
一つのコンピテンスとして位置づけるというのが特徴
限であったり、未来といったような時間軸の考え方が
として上げられるということです。従来、規範という
出てきているわけです。規範性としての公平性、そし
ものはコンピテンスの中で位置づけられてきていない
て戦略としての責任、参加、対人関係としての連携、
わけですが、それを敢えて入れ、それをプロセスとし
協力という言葉もここで出てきているわけです。
て位置づけることによって、この能力を一つの一連の
このようなことを考えた上で、持続可能性のキー・
プロセスとして見る。そして、この一連のプロセスと
コンピテンシーの意味合いを考えていきたい。
一つは、
これから議論であるようなそのカリキュラムのマネジ
ありたい社会だけではなく、あり得る社会にも状況的
メントのプロセスと連関させていくといった可能性も
に対応した持続可能性のキー・コンピテンシーです。
見えてくるのかなと思うわけです。
従来なら、安彦先生の言葉で言うならば、ルソー以来
このような状況の中で、やはり国研でも言われてい
の教育思想の根底にある能力観としての個人の資質・
るような知識及び技能といったようなものの視点、そ
能力を最大限に向上させていこうという能力開発型の
して思考、判断、表現力といったような中でのコンピ
教育観があったわけです。
テンスベースのものが今主流になってきているわけで
しかしながら、今回は 2015 年を踏まえた上で、あ
すが、どうしてもここに機能的、そして技術的、手段
りたい社会×あり得る社会、つまり持続可能な社会を
的な性格が強いコンピテンスに対して、今回の持続可
求めるだけではなくて、あり得る社会も考えていく。
能性キー・コンピテンシー、つまり規範性であったり
126
時間軸で見ていくような、ものを連関させるコンピテ
なかなか難しい面がありました。私のこの報告でその
ンスとして位置づけていく。
従来の問題解決型のキー・
評価全てを網羅するわけにはいかないので、どこに焦
コンピテンスではなく、それにこの持続可能性という
点を当てていったかということを最初に話したいと思
規範性、そしてそれがこの不確実な社会の中における
います。
状況的対応型のコンピテンスということを考えていか
まず、そもそも論ですが、評価についての共通理解
なければならない。これらを大きく分けた 3 つの学力
を図る意味で敢えて乗せてみましたが、いわゆる教育
というような中に織り込もうとするようなことが重要
評価とは、教育目標を達成するためにトータルに教育
なのかと思います。
活動に対して活動を自己調整する一連の活動だという
しかしながら、
このコンピテンスの議論に関しては、
ことです。これは学校教育辞典というところからその
実は研究そのものが、発達段階に応じた議論というも
まま引っ張ってきたのですが、このこともややもすれ
のは十分になされていません。今後、このような議論
ば忘れてしまい、ただ成績をつけるといったことに陥
を、より発達段階に応じた中で議論していくというこ
りがちになりますので、このあたりは是非おさえてお
とが重要なのかと思います。そして、社会全体の協働
きたいと思います。よって、評価は学習や指導の改善
による人格形成。従来のコンピテンスをそのまま議論
に役立たなければならないということです。尚且つ、
するのではなく、コンピテンス議論を見据えたその人
私がターゲットにしているのは、言うなれば日々の先
格の議論、人格形成を見据えた上でのコンピテンス議
生方の授業の中での評価というところです。
すなわち、
論といったようなものにつなげていくと。安彦先生が
「学習評価」と言えば良いと思います。具体的には、
これを仰っていますが、こういった中で人格の問題と
診断的評価や形成的評価というものの中での ESD の
この資質・能力というものを関連づけて見ていくとい
評価をどうするか。もっと言い換えると、ただ評価だ
ったことが今後重要なのかと思います。
けではなく、指導と評価の一体化ということもあるの
以上で発表を終わります。ご清聴ありがとうござい
で、そういう視点から整理してみました。
ました。
そのような話が出てくると、どうしてもこういうと
ころまで出てくると思うのです。学習状況を分析的に
○報告2 国立教育政策研究所最終報告を踏まえた
捉えるためには、いわゆる観点別の学習状況-これは
ESD の評価枠組み
学校では当然浸透してきているわけですが―いわゆる
岡本弥彦(岡山理科大学)
関心、意欲、態度等の 4 つの評価の観点で、これらに
岡山理科大学の岡本です。よろしくお願いいたしま
ついては、
現行の学習指導要領においても各教科等で、
す。私は、この表題にありますように「国立教育政策
主にこの 4 つの評価の観点に基づいて学習目標も設定
研究所の最終報告を踏まえた ESD の学習評価」とい
され、そして評価も進められているというのが通常で
うことでお話を進めさせていただきたいと思います。
す。よって、ESD においても、これに準拠したものを
いわゆる国研の報告、あるいは国研による ESD の
やっていく必要があるのではないかと捉えています。
枠組みといったほうが通りがいいかもしれませんが、
ただ、通常の授業では学習指導要領があり、学習指導
それが 2012 年に出されたわけですが、本来ですとそ
要領が定めているところの目標に準拠した評価という
の時にこの評価についてもあわせてその中で論じるべ
ことになるわけですが、ESD の場合、幾らか現行の指
きであったかもしれません。そのあたりが若干不十分
導要領の中にもありますが、それほど多くあるわけで
ではありました。ですから、その後、国研のこの枠組
はないので、ESD を進める上ではその ESD の目標に
みをこの ESD の学習評価にどういうふうにうまく落
準拠した評価をどう進めていくかということになるか
とし込んでいったらいいのかということを今年度、幾
と思います。
らかまとめてみましたので、今日はその辺りのところ
それから、もちろんそれ以外の評価、いわゆる授業
を報告させていただけたらと思っています。
評価とかカリキュラム評価、さらには学校評価、こう
まず初めに川田先生から、今回この調査研究を進め
いったようなことも当然やらなければならないのです
るに当たって ESD の評価の困難性として、ESD 自体
が、今日の私の報告ではこれらは置いておき、日々の
に非常に多様な見方があるということもありました。
授業での学習評価というところに焦点化をさせていた
また、評価についてもその位置づけ等も含めて非常に
だけたらと思います。
多様性があり、その辺りがこの ESD の評価に関して
では、この ESD の学習評価を進める上でどういう
127
ことが課題になってくるかということですが、先ほど
してみました。
申しましたように、教科等だと学習指導要領に定めて
皆さんよくご存知とは思いますが、念のためにここ
いる目標やねらいに準拠した評価を進めればいいわけ
で触れておくと、この国研の ESD の枠組みです。ま
ですから、ESD の場合は当然この ESD の目標に準拠
ず、ESD の視点に立った学習指導の目標を、
「持続可
した評価を進めていこうということです。
通常ですと、
能な社会づくりに関わる課題を見出し、それらを解決
このようなパターンになってくると思います。当然、
するために必要な能力や態度を身につける」と、簡単
事前に目標を明確に設定する。
その目標達成に向けて、
に表記した上で、その持続可能な社会づくりを捉える
ESD の視点に立った授業が実施、展開されていく。指
ために 6 つの構成概念、
多様性など。
身につける能力、
導の過程途中、あるいは指導後にその目標に照らして
態度として、この 7 つの能力、態度が提案されていま
評価をする。その時に評価規準が必要となり、評価方
す。あくまで例示です。それから、さらにそれらを授
法が問われます。その評価結果を授業の工夫改善に役
業の中で進めていく上で、
「3 つのつながり」と言って
立てていく。これを繰り返すことで、ESD の視点に立
います。これらが ESD の視点ということで提案され
った授業がバージョンアップしていき、ひいては ESD
ています。
で求める学力が子供たちに身についていくであろう、
国研の報告書やリーフレットには、この形で示され
ということになるかと思います。
ていることが多いのですが、今日はこれを別の切り口
よって、その ESD の視点に立った学習評価を進め
で表示し直してみました。これは ESD に限ったこと
る上では、その学習の目標や評価規準を当然明確にし
ではありませんが、学習指導というのは目標があり、
ておくということです。これは当たり前ではあります
内容があり、そして方法がありという 3 点セットが基
が、どうも評価に関して話を進めていくと、評価が先
本かと思います。よって、ESD の場合にも、その ESD
に立ってしまい、目標設定がおろそかになってしまう
の学習の目標、ESD の学習内容、ESD の学習方法と
ということもあったりします。すると、評価は何のた
いったものを明確にしていけば、ESD の視点に立った
めに評価しているのか分からなくなるということもあ
学習というものが見やすくなるのではないかというこ
り、評価というのは目標の明確化、それが表と裏の関
とです。
係で、それが評価規準になるので、この辺りをはっき
順序が逆になりますが、まず一番上に内容です。
ESD の場合は環境、社会、文化、経済といったような
りしておくことが大切ではないかと思います。
なお、評価方法についても当然しっかり議論する必
ものがあるわけですが、この内容を捉えるためのもの
要があるかと思いますが、私の報告の中では省略させ
が、国研の枠組みの例の 6 つの構成概念ということで
ていただきます。この後、報告の3と4の各先生方の
す。持続可能な社会づくりの構成概念です。これは、
中には、この評価方法についてのお話もあろうかと思
環境にしても、社会、文化にしても、経済にしても、
いますので、私の報告の中では、学校の先生が通常の
これらを全てシステムであると捉えています。システ
授業の中で行われているような評価で、ここに代表的
ムというのは多様な構成要素から成り立って、それら
なものを上げていますが、そういうものを駆使しなが
が互いに関連し合い、なおかつ全体で機能しながらあ
ら ESD の場合でもできるのではないかという前提で
る方向に不可逆的に変化しているというものであるわ
話を進めさせていただけたらと思います。
けですが、それに照らし合わせて設定したのがこの6
その ESD の視点に立った学習指導の目標や評価規
つの構成概念です。ただ、これもなかなか国研の最終
準の明確化ということが、本報告のメインのテーマに
報告書だけでは捉えにくいという意見がよく聞かれま
なりますが、やはり ESD の最初の話にありましたよ
すので、少し解説をしておきたい。先述したように、
うに、ESD を理解すること自体に極めて多様なものが
この環境、社会、経済が学習内容ですが、これらを授
あり、それはそれで ESD の特徴ではありますが、あ
業で取り扱う場合にどういう視点でその教材を解釈す
る程度枠組みを設定していかなければ前に進まないの
れば良いのか。あるいは、子供たちにどういう知識や
で、その元になるものが、この国研の最終報告におけ
概念を身につけさせたいのか。そういうものが、この
る ESD の枠組みです。よって、この国研の枠組みも
6つの構成概念です。ただ、6 つありますが、6 つが羅
結構学校現場に浸透しつつあるとは思いますが、ただ
列的に並んでいるわけでは決してなくて、大きく 2 つ
これが形骸化してしまっている可能性もあり、いま一
に分類しています。一つがシステムとして多面的に捉
度この国研の枠組みを今回の評価の視点からまとめ直
える。これはさっき述べたとおりです。また、環境と
128
人間の両面から捉えるという側面もあります。
よって、
す。
2×3 のいわゆるマトリックスになっているのです。シ
そして、3 番目の 3 つのつながりです。これは教育
ステムのほうは、先ほど申し上げましたが、スクリー
の方法ということです。教材のつながり、人のつなが
ンの青い方、環境と人間の両面という方の上側の、多
り、能力・態度のつながりとなっていますが、ただ今
様性・相互性・有限性-これは要するに人を取り巻く
日は学習評価には直接取り上げていないので、これは
環境、広い意味での環境や世界と言った方が良いかも
省略させていただきます。
しれませんが、我々の周りの世界がどのようになって
以上、この国研の枠組みを別の切り口でまとめると
いるのか、それを捉えるためにシステムとして 3 つの
いうまとめ方もできるのではないかと思います。その
概念、
視点が提案されているということです。
これは、
ように見ていくと、6 つの構成概念とは、児童・生徒
言ってみたら我々の周りの世界がどうなっているか、
に身につけたい概念、難しく言えばそうですが、要す
なので、実態概念という捉え方もできると思います。
るに子供たちに気づかせたい、あるいは理解をさせた
その上で、下側の人の意思行動に関する側面です。
い、
認識を深めさせたいようなものに関わるものです。
これは要するに我々の世界をいかに持続可能なものに
7 つの能力・態度は文字どおり子供たちに養いたい能
するにはどうしたらいいのかというための 3 つの視点
力・態度ということです。よって、これらをより具体
です。それが、公平性・連携性・責任性として、シス
化していくことで、ESD の視点に立った学習指導の目
テムとして捉えているわけです。こちらは、その世界
標が明確になってくるということです。
をどうすべきかに関わるものですから、いわゆる規範
この辺りから少し具体的なお話ですが、例えば6つ
概念というふうに捉えています。規範性というのは佐
の構成概念で、
「多様性」というと、それだけがひとり
藤先生の報告の中にもありましたが、私も学校に校内
歩きしてもらっても困るのですが、例えば自然や文化
研修でよく伺いますが、ESD を進めていると、どうし
などの地域のさまざまな特色に気づくことができると
ても学校の先生方はこちらの規範の方ばかりに目がと
か、多様性をねらいにしたときの一つの目標であり評
られがちになっています。要するに、こうすべきじゃ
価規準です。例えば「連携性」だと、人々が協力して
ないとか、こうすべきであるとか、こういうことが必
災害の軽減に努めていることを認識できるとか、こう
要だとか、そういうことを子供たちに植えつけよう、
いった具体的なものを、校種や児童・生徒の発達段階
というパターンが多いのです。もちろん大切ですが、
に応じて設定していけば良いということです。能力・
その前に、やはり我々の周りがどうなっているのだと
態度についても同様で、
批判的に考えるというものを、
いう実態概念と併せながらバランスよくやっていく必
幾らか学校の教科だとか学年だとかに応じて作ってい
要があるのではないかと思います。この 6 つの概念か
けば良いということです。
らは、そういうことも読み取れるということをお知り
これに関して具体的なものを幾つか持ってきました。
おき頂ければ有難いです。
この国研の枠組みに基づいた指導と評価ということを、
次に、学習目標です。目標は、その能力・態度に特
現行の学習指導要領の中に落とし込む場合に、まずこ
化した目標ということで、これは文字どおり 7 つの重
こで一つ考えなければならないのは、総合的な学習の
視する能力、態度ということです。これも簡単に触れ
時間で ESD を実践されていることが多いのですが、
ておきますが、国研で枠組みをつくる際には、ゼロか
総合的な学習の時間で実施する場合と、それ以外、特
ら作り上げたものではなく、幾つかの先行事例の中で
に教科で行う場合もあるのです。これは若干捉え方が
取り上げられている様々な能力・態度、また、当然日
違ってきますので、その辺りのところをまとめてみま
本の学校教育で ESD を進めるわけですから、生きる
した。
力、確かな学力や豊かな人間性等を位置づけながら選
総合的な学習の時間の事例が多いので、まず一つ目
択・抽出していって7つに整理したものが、この7つ
は、岡山県の林野高等学校で総合的な学習の時間で実
の能力・態度です。これは、先ほど佐藤先生のお話に
践しているものを紹介します。国研の新しいリーフレ
もありましたけど、OECD のキー・コンピテンスとの
ットの中にもこの事例が載っています。これは地域を
関連性も見据えながら設定をしているということです。
テーマにした探究活動ということで、要するに地域で
よって、この国研の枠組みの中で提案しているこの 7
活用し、地域を育てることができる人材の育成という
つの能力・態度は、生きる力やキー・コンピテンシー
ことを大きな目標に定めて、3 学年を縦割りのグルー
ともうまく整合しながら組み立てているということで
プ編成で、地域を基本にしているのですが、その上で
129
グループごとに、11~12 ぐらいのグループに分かれて、
いくことで評価もしやすくなるのではないかという事
様々なテーマを設定して探究活動を展開しています。
例です。
この中に、先ほどの 6 つの概念と 7 つの能力・態度を
最後に、今度は教科の場合です。これも、いろいろ
うまく組み込んで指導しつつ、評価にも活用されてい
な学校にお伺いしたときに、総合的な学習の時間だけ
るということです。
ではなく、教科でも ESD をやっていきたいのだが、
例えば、6 つの概念については、これは高校の事例
どうしたら良いのかというようなこともよく伺います。
なので、6 つの概念自体もあらかじめ学習の初めに生
教科の場合は、総合的な学習とは若干捉え方が違うと
徒に説明しています。例えばこれは「理美容チーム」
思います。例えば一つの例として、中学校の理科の最
と書かれていますが、テーマは「さまざまなものを活
終単元に、自然環境の保全と科学技術の利用という単
用して、外面だけでなく内面からの美の追求」と設定
元があるのですが、これには ESD 的な内容が入って
して、
このようなテーマで 1 年間探究活動をする中で、
いるものです。教科の場合は学習指導要領があり、そ
いくつかのステップに分けているのですが、そのステ
の学習指導要領のねらいに基づいて 4 つの評価の観点
ップごとにこの 6 つの概念に基づいた気づきを生徒た
ごとの目標があり評価規準というのがあるわけです。
ちが書いていく。当然、最初はほとんど書けないので
この中に ESD 的な視点のものが無いことはないです
すが、学習が深まるにつれて徐々にこういうものが完
が、これだけだと弱いのです。当然、これを無視する
成していき、概念が身につき、様々な見方が身につい
わけにはいきませんが、学習指導要領というのは最低
ていくという、そういう方法で使った一つの使い方で
基準であり、これらを押さえた上でさらに付加するこ
す。高校ではこういう使い方ができると思います。
とは当然許されているわけなので、そこに例えば 6 つ
それから、7 つの能力・態度については、これは通
の概念や 7 つの能力・態度の中から、当然全部は無理
常よく実践されているものですが、自己評価をさせる
ですが、幾らか可能な範囲で取り入れていくことで、
ために 7 つの能力・態度それぞれをさらに具体的に、
より ESD 的な学習指導が展開できるのではないかと
この地域をテーマにした探究活動に合うような評価規
考えます。もちろん、それで評価も進むのではないか
準を 22 ほど作成して、それぞれをステップごとに自
と考えています。このあたりが総合と教科との若干の
己評価をさせていって、その高まりを生徒自身も振り
違いであると同時に、注意しなければいけないところ
返りつつ、教員も見ていくといったことを行われてい
ではないかと思います。
最後にまとめると、今回 ESD の学習指導を進める
ます。
また、総合的な学習の時間の例として、最終報告書
に当たって、ESD の視点に立った学習の目標や評価規
の中にあるものを一つ持ってきました。これは小学校
準を明確にすることを忘れないでいきたいということ
5 年生で「防災リーフレットをつくろう」というもの
です。そのための一つの例として、国研が作成した枠
です。これは東北の震災があったとき、被災した地域
組みの中からの 6 つの概念と 7 つの能力・態度をうま
の児童が、想定外の震災を教訓としてその地域を復興
くピックアップし、なおかつ評価の観点に位置づけな
するために自分たちに何ができるのだろうかというこ
がら教科や総合的な学習の時間に取り組んでいくこと
とを学習する総合的な学習です。最終報告書には、そ
が、ESD の学習指導、そして評価の充実につながって
れぞれ構成概念と能力・態度が具体的な載っています。
いくのではないかというふうに思っております。
これはこれでもいいのですが、これを先ほどの 4 つの
ここまで、方法の 3 つのつながりというところは触
評価の観点にきちんと位置づけし直すということをし
れませんでしたが、教材のつながりでは、例えば教科
ても良いのではないかと思っています。そうすると、
横断やカリキュラムマネジメント、
人のつながりでは、
6 つの構成概念と 7 つの能力・態度、両方の組み合わ
地域連携、能力・態度のつながりでは、もっと幅広く
せとかも出てくるのですが、それで例えば、知識・理
人間を見て、先ほどの人格形成というのは佐藤先生の
解であれば、
「協力して災害に努めていることや新たな
ご報告にありましたが、そういったようなものまでも
地域づくりに取り組んでいると理解している。
」とか、
含めたようなものですので、もちろん学習評価にも使
関心・意欲・態度だと、
「人同士のつながり、自分と地
えると思います。授業評価やカリキュラム評価とか、
域のつながりを大切にして地域を災害から守ろうとす
さらに学校評価とかの一つの指標としても活用できる
る。
」といったような、より具体的な目標や評価規準と
のではないかと考えています。これは今後の課題とい
ができるということです。こういうことを明確にして
うことですが。
130
以上、
私からの報告を終わりにさせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。
す。これは外在的価値、いわゆる値打ちというふうに
言われ、コスト・ベネフィットとか、アカウンタビリ
ティといった言葉によく置きかえられるものと思うの
○報告3 ESD へのプログラム評価の導入
ですが、そういうことについて考えようという視点に
米原あき(東洋大学)
なります。そして、この 1 舟のたこ焼きが、いかに大
東洋大学の米原と申します。本日は、ESD へのプロ
阪という町を有名にしているかという点です。もう全
グラム評価の導入ということでお話をさせていただき
国的に、たこ焼きといえば大阪、大阪といえばたこ焼
たいと思います。
きというふうに理解されているかと思うのですが、こ
私自身は、実は ESD そのものの専門家ではないの
のたこ焼きが担っているこの社会的価値-そんな大げ
ですが、開発途上国の教育政策、教育プロジェクトの
さな話か?というものなのですが-その社会的意義も
評価などを専門にやっています。アマルティア・セン
評価の一側面として考えるべきだと言われています。
の人間開発論の中に出てくる、例えばウェルビーイン
実は、アメリカの評価論の分野には評価哲学という
グという概念や、教員研修やキャパシティビルティン
分野があり、そこで評価哲学の父と呼ばれているマイ
グのプロジェクトなどを実施した際の学習者の行動変
ケル・スクリヴェンという学者の定義によると、評価
容の評価や、最近だと、先ほど佐藤先生がご紹介され
というのはこういった物事の本質、意義、それから値
た SDGs ゴール 4 とかゴール 17 の中にある教育とか
打ち、こういった 3 側面の価値判断を総合的に行うプ
キャパシティビルディングという項目の評価をどうい
ロセスだと定義されています。一方で、日本社会で一
うふうにやっていくのか、どんな指標を立てていくの
般的に評価といわれると、どうしても値打ちというと
かといったような、一般的に評価することが難しいと
ころに偏っているのではないかと思われます。ESD の
か評価できないのではないかといったことが言われて
評価には、もっと本質的価値とか社会的意義といった
いる対象を、特に定量的に評価していこうといったよ
ところにフォーカスした評価の考え方が必要なのでは
うなことを研究の対象にしています。
ないかと考えられます。今日の報告では、そういった
今回も、従来の評価の枠組みでは評価は難しいと言
観点からこのプログラム評価という考え方をご紹介し
われる分野に属すると思われる ESD という教育活動
たいと思っています。
を評価していくときに、どういうふうにやっていくこ
プログラム評価の位置づけについてですが、評価の
とができるだろうかということを、こちらの研究会で
概念を方法と目的という 2 つの軸で整理してみること
他の先生方と一緒に勉強させていただいてまいりまし
ができるのではないかと思います。
た。本日は評価理論の立場から、このプログラム評価
まず、横軸の目的軸というところですが、既に岡本
という考え方をご紹介したいと思っています。
先生のご発表等でも評価概念の概要というのはお話し
プログラム評価自体のご紹介をする前に、評価のそ
いただいているかと思いますが、2 つの極に相対評価
もそも論ということでたこ焼きを例にちょっと考えて
と絶対評価という極があるのではないかと思います。
みたいのです。
「なぜいきなりたこ焼き?」という感じ
我々にとってなじみがあるのは、いわゆる相対評価の
ですが、それは私が大阪の出身だからというのが理由
方なのかと思うのですが、
ある投入とか介入を行って、
の大きな部分を占めるので、たこ焼きでなくてもよか
その成果が事後的・総括的にどうだったかということ
ったのですが、このたこ焼きを評価するということに
を見るという視点です。相対評価なので、基本的には
なった時に、どのような点に私たちは関心を払うでし
他者との比較をして良かったか、良くなかったか、と
ょうか?まずやっぱりたこ焼きなので、食べてみてお
いった判断をすることになります。
分かりやすいのは、
いしいかおいしくないかというのは外せないところか
点数をつけてランキングをしていくといった形の評価
なと思います。これが、いわゆる内在的価値とか本質
の使い方、評価の目的になると思います。その対極に
的価値と言われる部分になります。そのもの自体が持
あるのが絶対評価というもので、ランキングというよ
っている価値です。たこ焼きだったらおいしいかどう
りも自己改善であるとか振り返り学習といったような
かというところですね。そして、恐らく、ただ単にそ
改善のための形成的な評価を目的とするという目的の
れだけではなくて、お値段のほうも気になるのではな
軸が考えられます。
いかと思います。幾らおいしいと言っても、1 舟 2,000
次に、縦が方法軸と書いていますが、参加型で行う
円のたこ焼きとか普通買わないですよね、という話で
評価と非参加型で行う評価があるのではないか、とい
131
う話です。恐らく、私たちに馴染みがあるのはこの非
プログラムが目的を達成するよう機能しているかどう
参加型の方であり、要するに評価者と被評価者、評価
かを検討し、必要に応じて既存のプログラムを修正し
する側とされる側が独立していて、評価するほうはす
たり、新たなプログラムを始めたりする一連の評価活
る仕事、されるほうはされる立場ということでそれぞ
動のことをプログラム評価と言う」と、少し抽象的な
れ役割分担が決まっているという形です。一方、今、
レベルで定義がなされています。一定の取り組みを行
評価学の分野ではこの参加型評価が 1980 年頃から非
った後に、その達成度を例えば点数などで測定して行
常に注目を浴びています。参加型評価とは、いわゆる
う総括的・事後的な評価とは違い、取り組みの最中に
非参加型の逆で、評価する側とされる側が一緒になっ
改善の方法を提案することを目的とする形成的な評価
て評価のプロセスに関わっていくという、まさに文字
の手法であると言われています。特に、取り組みの過
どおり“参加して行っていく”という形になります。
程で様々な変化が起こりやすい対人サービス―教育な
このようなやり方をすると、その評価過程に関わると
どはそのど真ん中だと思いますが―、保健医療サービ
いうこと自体がその学習者のエンパワーメントや新た
ス等の関係でもよく活用されており、人材育成や社会
な学習効果、また、その振り返りや「何の為に今この
開発系の活動の評価に適した手法であると言われてい
ような活動をしようとしているのか」といった認識を
ます。
新たに持って、主体性を喚起するといった付加効果が
プログラム評価とは、5つの評価の段階―ニーズ評
あるということで、今非常に注目を浴びている評価の
価、セオリー評価、プロセス評価、効率性評価、アウ
手法の一つです。本日紹介したいと思っているプログ
トカム評価―の総称として扱われています。ですから
ラム評価というのが、こちらに位置します。
プログラム評価と言われたら、5 段階があることをイ
この図で見ていただくと、いわゆる「アチーブメン
メージしていただければと思います。日本でも有名に
トテスト型」というのがその総括的な相対評価で、か
なった「PDCA サイクル」というサイクルがあると思
つ非参加型でやっていく評価のあり方ということにな
いますが、その PDCA の C(Check)が評価の段階で、
るかと思いますが、最近はこうしたペーパー試験だけ
プラン
(Plan)
とかドゥー
(Do)
とかアクション
(Action)
では図れないもの、5 段階評価では評価できないよう
の段階は、普通は評価の対象とは考えられませんが、
なものを、例えばルーブリックやポートフォリオを使
プログラム評価の考え方では、この PDCA の各段階に
って行っていこうという考え方も現れています。その
評価の活動が入ってくるようなイメージになります。
辺が、パフォーマンス型ということで、第 1 象限と第
つまり、PDCA というのは C の段階でのみ評価をする
4 象限に現れているところになります。パフォーマン
「点の評価」のイメージですが、このプログラム評価
ス型とかルーブリック、ポートフォリオといっても、
の考え方は「線の評価」
、つまり、プログラムを形成す
例えばそのルーブリックでここまで出来ていたら 3 点、
る段階から評価活動が実は始まっているというイメー
ここまで出来ていたら 5 点といったような形でルーブ
ジとなります。
リックを指標、点数化し、どちらかと言えば総括的な
プログラム評価の特徴としては、まず、社会調査の
相対評価の目的に合わせて活用するといった第 2 象限
活用が挙げられます。各段階で形成的にどういうこと
寄りの使い方から、どちらかと言うとパフォーマンス
が今起こっているのか、どうすれば改善できるのかと
をより重視し、それぞれ違うグループで違う課題に取
いうことを、出来るだけ科学的-ロッシの言葉をかり
り組んで発表し、それを比較し、どちらが良い悪いで
れば“システマティック”―に把握するために、何が
はなく各グループの改善のために、各グループがどん
起こっているのかというのをきちっと調査しなければ
な力を身に付けたかを見る為に、例えば発表などのパ
ならないという考え方があり、社会調査を各段階で実
フォーマンスをしてもらうといった形で、どちらかと
施していき、何が起こっているのか現状を把握すると
言えば第 4 象限に近いような使い方もなされていると
いうことがプログラム評価の手法的な特徴の一つとし
思います。この辺りについては、様々な使われ方がさ
て挙げられています。
れているので、やや曖昧に書いています。プログラム
また、ログラム評価は参加型・協働型評価との親和
評価は、この第 1 象限、参加型でかつ形成的な絶対評
性が非常に高いという特徴があります。これはロッシ
価の手法として紹介します。
たちのグループが言っていることではありませんが、
プログラム評価を定義的に言うと、この考え方を現
私は幾つかの分野でこのタイプの評価に関わらせてい
在リードしているロッシらのグループは「設計された
ただき、
自分自身が経験的に実感しているところです。
132
具体的に各段階で何をするかというと、まず、その
少し英語を話す自信を生徒に付けてもらおう。
」
という
ニーズ評価という計画を作る P の段階から始まるので
ことで、生徒自身も、是非そういう力を身につけたい
すが、例えば ESD の文脈で、ある学校だと、
「うちは
となれば、例えば「話し合いをするための英語を話す
防災を中心に ESD をやっていきたい。
」というところ
自信」といったような主観指標を立てることも可能か
もあります。もちろん、
「環境を中心にうちはやってい
と思います。こういった客観指標や主観指標、またグ
きたい」
、あるいは「異文化理解を中心にやっていきた
ループワークなどでは多分ピア指標もあり得るかと思
い」といったような学校もあるかと思います。ここで
うのですが、お互いに評価をし合うための指標や複数
は、まず、どのようなニーズがあるのかを、きちんと
の様々な種類の指標が入ってきて良いでしょう。この
把握することが大切になります。評価の中で目的をき
中に、例えばテストの点数が入ってきても構わないで
ちんと立てることが大切であるのに、そこが案外軽視
しょう。
されているのではないかということは、先程の岡本先
続いて、
「プロセス評価」では、PDCA の D のとこ
生のご指摘のとおりだと思います。したがって、正し
ろで、Do「実施の段階の評価」になります。実施の段
い目的を立てること。本当にターゲットにするべきと
階では、実際に P の段階で立てたプランを実施してい
ころをクリアにするためにも、このようなニーズ評価
く。そこで、それが上手くいっているのかどうかをモ
を行っていく必要があると思います。これは協働で行
ニタリングする段階になります。
「セオリー評価」の段
うので、例えばそれがクラス単位の話であれば、可能
階で指標を立てていれば、その指標を追っていくこと
であればその生徒や、ターゲットとする ESD 活動に
で、実際に目標どおり何分で避難できるようになった
関わる人たちを出来るだけたくさん集めて皆で話し合
か、
出来ていないのならば、
それは何故出来ないのか、
っていくという方法がとれると一番理想的だと思いま
どうすればできるようになるのか、といったことを、
す。
学習者とともに話し合って改善をしていくことができ
続く、
「セオリー評価」という段階ですが、ここはそ
ます。英語の自信がついたか。それがついてないとい
の教育の目的と手段、実際にその目的を達成するため
うのはなぜなのか。ついてないというのはどういう意
に行っていく教育活動との整合性を確認していく段階
味なのか。そういったことを、学習者と一緒に探索し
になります。具体的には「ロジックモデル」という、
ていくというきっかけがこの指標によってもたらされ
実際どういう目的があって、その目的のもとにどうい
るでしょう。
う活動をしていくのか、といったアイデアを可視化し
こうした改善を繰り返して、PDCA サイクルの C
たものを作っていくという段階になります。この段階
(Check)―「
(従来の)評価の段階」
、アカウンタビ
で指標を立てると良いでしょう。つまり、例えば「う
リティといったところで我々がイメージしやすい評価
ちは防災教育を中心にやっていこう!」と決めたら、
の段階かと思いますが―でその投入に対してどんな成
それでは活動として生徒の防災能力をつけるために何
果が得られたのか、とか、開始時点からどんな変化、
をやるのかを考え、
「防災訓練をやってみよう!」とな
どんなインパクトがもたらされたか、といったことを
れば、例えば、
「防災訓練を行う生徒の自助・共助の心
調べることができます。ちょっと余談になりますが、
を培うために、
こういった防災訓練を行う」
こととし、
この指標をとっていく調査を繰り返すことによって事
「その防災訓練で一体何を目指すのか」というところ
前事後でどのような変化が起きたかといったような、
を具体的「指標」という形で確認しておくということ
いわゆる統計的な検定を伴う科学的な評価というのも
です。その教育活動を行って実際何を達成したいのか
この段階でやろうと思えばできることになります。経
というところも可能な限り協働で、実際に行う学習者
年で時系列のデータをとっていくと、科学的な評価も
と共に、何を目的にするのかといった指標を一緒に考
混ぜ込んでいくことが可能になります。
えていただくと良いと思います。例えば単純な例で言
このような形で、プログラム評価を行って、最終的
うと、
「何分で避難出来るのだろうか」という目標を立
にはや学習者にとっての自己改善といった振り返り学
ててもらう。そのような客観的な数値目標・客観指標
習のようなことにも役立ててもらうと同時に、その
を立てていくのも一つであり、例えば異文化理解を進
ESD プログラム自体を改善していくといった取組み
めるので、
「よし、じゃあうちは海外研修をやろう。修
も、この A の段階で期待されることかと思います。
続いて、ではそのプログラム評価を使って ESD プ
学旅行で海外に行ってみよう。
」となれば、そこで何を
目的にそういう活動をするのかを考える。
では、
「まず、
133
ログラムを評価するとなると、例えばどのようなこと
が考えられるかという例です。プログラム評価とは評
ったという自己評価が入ってきた方が良いのではない
価の手法の一つであり、先述したように、極端な話で
か、ということもあるかもしれません。こういった形
は教育以外の分野にも応用可能になります。よって、
で、色々な種類の指標が複数入ってくるということが
学校の ESD プログラムの事例に際しても、ただ学校
あって良いのではないかと思います。
だけではなく例えば学級レベル―今、ここでは学校レ
どのレベルでこのプログラム評価を適用するかによ
ベルに適用した例を挙げていますが―例えば教科ごと
っても変わってくるし、プログラムによっては地域の
に ESD プログラムを作成し、それにプログラム評価
方々の助けを借りてアクティブラーニング的なことを
を適用したり、
「うちのクラスではこういうことをやっ
行うこともあり得るかと思いますが、そういう場合に
てみよう」といったクラス単位でのプログラムにプロ
は、その地域の方々とも一緒に協働してこのロジック
グラム評価を適用したりすることも可能です。また、
モデルと指標をつくっていくという作業をまず行って
児童や生徒個人の評価はどうすれば良いかといったこ
いけば良いのではないかと思います。そして、この作
とも考えられていると思いますが、指標があれば、そ
成した指標を使ってプロセス評価を行っていって、プ
の指標で測ったものを個人の評価に置きかえることも
ログラムや学習者の改善にフィードバックしていくと
できるかと思います。
いう流れになります。
これがロジックモデルと呼ばれるものですが、一番
このようなプログラム評価をやることのメリットで
上の段階にあるものが上位目的と呼ばれるもので、そ
すが、プログラム評価は個別性への対応ができるとい
の下にあるものが戦略目的と呼ばれたりします。名前
うところに強みがあると思います。何度も申し上げて
はどうでも良いですが、
「戦略目的」と呼ばれる、上位
いるとおり、ESD の取り組みは非常に個別性が強いも
目的をもう少し具体化した目的が幾つか挙げられます。
ので、
守備範囲が大変広く、
色々な活動―それぞれ個々
その下の部分に、具体的にその目的を達成するための
の特徴的な活動―に対して対応して、それごとにプロ
活動を、大体この 3 段階で入れ、そのそれぞれについ
グラムを作成し、それごとに指標を立てれば良いとい
て、どのような指標でその目的の達成状態を計測して
うことになり、そういった意味での個別性への対応の
いくのかを「指標」として入れる形になります。ESD
可能性が高いというのがひとつ挙げられると思います。
プログラムの場合、
先ほどの例でも申し上げたとおり、
もう一つは、行動変容やダイナミズムへの対応にも
学校によっては恐らく国際感覚の醸成に力を入れたい
柔軟に対応できるという点が挙げられると思います。
学校もあれば、環境への配慮に力を入れたい学校もあ
この ESD の取り組みというのは、基本的に変化を期
れば、防災に力を入れたいという学校もあるかと思い
待するもの、変化を目的とするものであると思います。
ます。学校ごとに、例えば「うちの学校は国際感覚の
つまり、従来の静的な評価、実績測定、パフォーマン
醸成に力を入れよう。では、実際にそのためにどんな
ス・メジャーメントという、初めにゴールを設定して
活動をすればいいんだろう。
」
ということで、
例えば
「歴
100 点中何点取れたというような形で PDCA の C の
史文化遺産への理解は大事だろう。いや、それだけで
段階で評価するといった形では、そもそも評価できな
はなくてやはり日本語以外の言語、外国語というのも
いものが多々あり過ぎます。そういった意味では、参
大事だろう。
」
というようなことが多分挙がってくる可
加型で形成的な評価を行うことで行動変容であるとか
能性があります。そこで、
「では、歴史文化遺産の理解
ダイナミズムへの対応が可能になってくると考えられ
を深めるためにどんな教育活動をやるのか。
」
となれば、
ます。
例えば、
「まずは地元の遺産について理解を深めよう。
ただし、もちろん、それではプログラム評価が簡単
あるいは、とある有名な世界遺産を持っているある国
にできるのかと言うと、やはり実践に向けての課題も
について関心を持つような学習をやってみよう。
」
とい
少なくないというのは正直なところです。
ったことがあるかもしれません。それぞれについて、
まず初めに、総括的な相対評価ではなくて形成的な
「では、どうやってそれを評価するのか。
」という指標
絶対評価で良い、その評価で別に他者と比較できなく
設定のところで、例えば社会では、世界史でも地理で
て良い、という発想の転換をしなければならないとい
も、やはり試験で一定程度の知識が定着していること
うことがあります。また、協働型で機能させていくた
をきちんと見る必要があり、テストの点数をカウント
めには、例えば実際に話し合いをやるとかアンケート
することも必要だろうということになるかもしれませ
をとるとか、色々な形で機能させていくために何か働
んし、学習課題に対して学習者が関心を持つようにな
きかけをしなければならなくなりますし、特に学外の
134
関係者とのつながりをもって協働型評価を行うという
であるとして、方向性が示されました。これを見てみ
ことになるとやはり誰かがリーダーシップを取らなけ
ると、
学習指導要領改訂の方向性は、
今まで佐藤先生、
ればならないということになってきます。これらの点
岡本先生、
米原先生がお話しされた ESD の理念等に、
は、
決して低くはないハードルかもしれません。
また、
合致しているということに気付かされます。
開始時点での仕組みづくりも必要になってきます。実
そして論点整理の中では、次期学習指導要領が目指
は、プログラム評価が一旦回り始めると割とあとはス
す、育成すべき資質・能力の 3 つの柱として、次の 3
ムーズに回っていくのですが、初めてこのプログラム
つが示されています。ひとつめは、
「何を知っているの
評価に挑戦してみる初めの第一歩として、やはりその
か、何ができるのか」
、ふたつめは、
「知っていること、
指標を作らなければなりませんし、調査もしなければ
できることをどう使うのか。
」さらに、
「どのように社
なりません。さらに、インパクト評価という形で定期
会、世界とかかわり、よりよい人生を送るのか。
」とい
的にデータを収集して一定の期間の前後で統計的な変
ったものです。これらは、大きな資質・能力の柱を立
化が見られるかどうかの分析をしたい場合は、そのデ
てているということに気づかされます。さらに、その
ータを管理することも必要になってきます。また、そ
真ん中に据えているのが、
「どのように学ぶのかという
のような調査やアンケートやディスカッションなどを
アクティブラーニング」
、さらに「学習評価の充実、カ
した後に、それをどのように改善に向けてフィードバ
リキュラムマネジメントの充実」という言葉で示され
ックしていくかという点でも、工夫が必要になってく
ています。
るので、そういった意味での仕組みづくりというハー
一方、国立教育政策研究所(国研)ESD プロジェク
ドルもあるのが正直なところです。
ト研究を基にまとめましたリーフレットに示されてい
以上のように、課題は決して少なくはないですが、
る授業を行う視点
(構成要素)
、
能力・態度に関しては、
ESD に求められているのはその教育活動の本質的な
岡本先生から詳しく説明いただきました。
価値とか社会的な意義というところにあると思います。
論点整理で国が示したものと、国研 ESD プロジェ
その本質的価値とか社会的意義というものにも配慮し
クトで示しているものとがどんな関係にあるのか、見
た評価活動、つまりその評価活動を PDCA の C で見
ていきます。資質・能力については、ESD の視点、能
るように、評価という独立した一つの活動として見る
力・態度と結びつきがあることに気づかされます。ま
のではなくて、一つの大きな教育活動の一環として評
た、ここのちょうど岡本先生に語って頂いた、つなが
価を位置づけていくというような考え方で理解してい
りという部分、教材のつながり、人とのつながり、能
ただければ、恐らく多少のコストを支払うことにも価
力、態度のつながりというのは、まさに「どのように
値があると考えられなくもないのでは、と最後に申し
学ぶのか」
、それから「学習評価の充実」というところ
上げさせていただき、私からの報告とさせていただき
に一致しており、非常に親和性が高いところが見てと
ます。どうもありがとうございました。
れます。
さらに、能力態度というふうに私たちがまとめたこ
の 7 点については、
まさにこの 3 つの資質・能力の柱、
○報告4 国立教育政策研究所研究指定校における
ESD の評価の動向
とりわけ知っていること、できることをどう使うかと
後藤顕一(国立教育政策研究所)
か、どのように社会、世界にかかわり、よりよい人生
皆様、こんにちは。私は、文部科学省の教育動向、
を送るのか、といったところに非常に親和性が高いな
さらには国立教育政策研究所指定校事業における
ということに気づかされます。そして、それの土台に
ESD 評価などを中心にしながらお話をさせていただ
なるものがこれら 6 つの視点―岡本先生に説明してい
きたいと思います。
ただいた部分―に当たるのではないかと見てとれます。
まず、文部科学省は 25 年 11 月に次期学習指導要領
これから私の話は、論点整理、国研の整理を踏まえ
の議論を始めるよう文部科学大臣が中央教育審議会に
ながら、ESD の評価について「何のために評価するの
諮問され、その後、26 年 8 月には中央教育審議会から
か」
、
「どうやって評価するのか」
、
「どのように改善に
論点整理ということで、次の学習指導要領に見立てた
つなげていければいいのか」について、お話をさせて
一つの方向性が示されました。その中で、何を学ぶの
いただければと思います。
か、どのように学ぶのか、何ができるようになるのか
岡本先生のお話の中にもありましたが、教育課程の
ということが大きな視点―学習指導要領改訂の視点―
検証としての評価として用いる部分、そして、子供が
135
身につけるべき力、学習評価のような部分というよう
ながら問題解決に向かっていく。そして、意見を交換
に見てみる必要があります。更に、次期学習指導要領
し合って発表するといったものでした。山下先生は、
の重視する部分も問題解決のように見てとるならば、
これまでの授業のどこを改善、強調すれば ESD の視
このようなことも頭の片隅に置く必要があります。さ
点を取り入れることができるかというような授業改善
らに米原先生のお話の中にもありましたが、参加型・
を行うポイントが分かったと、
自己評価されています。
改善型の評価が求められるであろうことを留めておく
今までであれば、どうしてもやり放しで終わっていた
必要があると思っています。静岡大学の学習科学研究
ものが、やった後にもう一度授業改善を考え続けると
者、益川氏は、従来型のカリキュラムは時間と共にど
いうモードに実践された先生が立てたということが、
んどんただ進めば良いといった学習観でなされていた
今までと違っているところです。さらに、これは国研
のかもしれないとおっしゃっています。しかし、ESD
の示した視点や、能力・態度が十分機能したという評
での学びはまさに状況の変化を見据えながら、その都
価を頂いています。さらに、注目すべきは、他教科と
度その都度を改善に資するものにしていって、状況を
の連携を考えるようになったということで、風力発電
把握しながら常に改善を求め続けなければならない。
を素材に発電について科学的な現象として理科の授業
まさに、カリキュラムマネジメントを果たしながら、
でただ説明していた実践は、理科を背景にした実践に
歩きながら考え、
そしてより良き方向に向かっていく。
留まっていましたが、社会科とのつながりや、家庭科
ゴールはここに向かっていくが、目の前の子供たちが
とのつながり、さらに家庭ではどうなのか等といった
予期せぬ問題、主体的・協働的に問いなどを解決しよ
ことを考え、今の世の中、社会とのつながりも生まれ
うとしているので、立ち止まってしまうこともあれば
てどんどん広がっていきます。すなわち、それぞれの
想像以上に、予想以上に上手くいく場合、色々なこと
つながり・連携を図ることになって、教科や教材のつ
が想定され、そのような中でどのように指導の改善に
ながり、さらには地域、社会とのつながりも少し意識
つなげていくのかというのを常に考えていかなければ
するようになり、互いの課題を共有することで学んだ
ならない。このような事も併せながら考えていくと、
ことを総合的に活用するという力が育成できるのでは
米原先生が示したこの評価というのも第 1 象限に向か
ないかという報告を実践者の山下先生から頂いていま
っていくような状況改善型の参加型評価がこれから
す。私自身もその授業を拝見させて頂き、それを強く
益々求められるのではないでしょうか。
感じているところです。こういったものをどういうふ
そして、評価規準としてどんなものを用いていけば
うに指標として設けるかというのは、3 つのつながり
良いかについて整理してみると、1つ目の教育課程の
というところで取り上げられていますが、これをどの
検証の評価においては、つながりのようなものを一つ
ように生かしていくのか、さらに考えを深めていく必
の評価の規準、評価の指標として置いてみるのも良い
要があると思っています。
のではないかと思います。
続いて、子供が身につけるべきその力に向けた評価
そして、私たちはこのリーフレットの中の青いペー
について、この7つの力を子供たちに育成するために
ジで、広島大学附属福山中・高等学校の例を事例とし
何をどのようにすれば良いのでしょうか。リーフレッ
て挙げていますが、まさに今言われているアクティブ
トでは好事例として、多摩第一小学校の取組を示して
ラーニング、さらにはカリキュラムマネジメントの充
います。ここでは問題解決に当たって能力、態度との
実と非常に結びつきのある、このつながりというキー
つながりを重視しながら、
毎回の活動振り返りカード、
ワードを持ちながら、好事例としてもう一度読み取る
それから単元の意識などをイメージマップなどでまと
ことができるとも感じているところです。実践された
めながら、課題の把握力、事象の関連性の理解を評価
山下先生は、持続可能な社会づくりの要素、重視する
したり、活動でまとめた作品をまとめてポートフォリ
能力、態度、つながりを考慮する、そういった留意事
オ評価などに加えていったりして、まとめていく力な
項を明確にしながら授業計画を立てていくことができ
どを総合的・多面的に考える力、批判的に考える力、
たと自己評価されています。私もこの授業を拝見させ
未来を予想して計画を立てる力など、その都度その都
ていただいて、まさにそういうことが言えているなと
度丁寧な指導をされています。私も今年度、多摩第一
思いました。授業は、風力発電でいかにより効率の良
小学校の実践を拝見させて頂き、目の前の子供にとっ
い、
そして環境に優しいものをつくることができるか、
て必要な力をどのようにつけるかということと本当に
グループごとにアイデアを出しながら、他者と協働し
向き合いながら、深い学びの場が提供され、実際に子
136
供も先生も力をつけていたと感じています。1 年生か
ふうに思っています。
ら 6 年生まで、段階的、系統的に構造化された、総合
そんな中で私が訪問させていただき出会った評価と
的な学習の時間の内容において、各先生方のアプロー
して、非常に立派な、まさに参加型、形成型の評価に
チの仕方が 1 組から 4 組まで全クラスで違っていまし
向かっていくヒントを与えてくれた学校の事例を紹介
た。これは、素晴らしいなと思いました。判で押した
します。北海道斜里高等学校の評価です。この学校は
ように金太郎あめのような学習活動―これをやれば活
環境を題材にしながら、知床というまさに大きな自然
動だ―などということではなく、目の前の子供にとっ
を題材にしながら自然体験をしたり、文化などを勉強
て必要な力を育てるために、どんな学習活動を構想し
したりする中で、1 枚ポートフォリオというものを学
たら良いかが示されていたと感じています。子供につ
習者がまとめていくという評価、まさにその都度その
けたい力に基づく学習活動が、一つ一つのクラスで展
都度を大事にしながら次の実践に向かっていくような
開していたというのが非常に私の中では印象として残
あり方です。史跡発掘体験学習のほうは少し形式が違
っています。
った形式で示していますが、逆に時系列で分かりやす
さて、このような素晴らしい学習活動や評価活動が
いのでこれも参考になるかと思います。学習前の考え
展開されていますが、さらに、ではどういった評価が
を示し、それから要約、記述などをここに示す。そし
必要なのかについて考えてみます。どうしても、今ま
て、学習後の感じたことなどをまとめてみよう、分か
での評価のデザインとしては、
「実践に対してのテスト。
ったことをまとめてみるというのをそれぞれの場所に
以上、
終わり。
」
という様なものだったかもしれません。
書き示す。そして、学習を俯瞰してまとめ、感想など
やはり素晴らしい実践で見られる価値のある評価とし
を最後に書いているという感じです。山梨大学の堀教
て共通であると言えるのは、
「ぐるぐる回る評価観」だ
授が考えたオリジナルの1枚のポートフォリオで見て
と思います。先ほどの米原先生のお話も、好事例とし
みます。学習の前を一番左、学習後の考えを右に、そ
て挙げさせていただいている広島大学附属福山中・高
して学習中の内容のまとめ、把握などをちょうど真ん
等学校も、多摩第一小学校の実践も、一つやって終わ
中に、ここは学んだ内容を要約していくような感じで
りということではなく、常に子供の学び、その実際を
すので、まさに内容把握、知識、理解につながるとこ
見ながら指導の改善につなげ、それを子供の学びの改
ろになってくるかと思います。
そして、
学習後の感想、
善につなげていっているというものばかりです。そし
意見などを書いていくという作りになっていました。
て、それをお互いに感じながら、自己の伸びを感じな
もし、内容理解をきっちり捉えられているかを判断す
がら、教材の深まりを感じながら進めているというこ
るには、こちらに書かれているものを評価基準に基づ
とが共通事項として示すことができます。まさに、参
いてしっかりと分析することも可能ですし、能力、態
加型、改善型の評価がなされているのです。
度をもし見据えるのであれば、学習前の考え、学習後
こうした評価観をナショナルカリキュラムの中に入
の考えの比較などをしてみたり、それから学習後の感
れている国もあります。ニュージーランドのカリキュ
想、意見、分析、ここの部分などを分析したりとかす
ラムは、小学校から高等学校までで 50 ページ足らず
ることで個人の変容、集団としての変容を見取ること
の非常に大綱化されたカリキュラムですが、その中に
ができるのではないかと期待しております。
この評価の考え方を取り入れています。わずか 50 ペ
さらに、改善に向けて、一例として挙げたいのが、
ージの中に、ぐるぐる回すこの評価観というのが書か
相互評価のようなものを使ってみるのはどうかという
れていることに驚かされました。
ことです。まさに、これは参加型評価の一つのアイデ
いろいろな評価の例、先ほども岡本先生がおっしゃ
アだと考えています。実は、斜里高校における先ほど
っていましたが、やはりこの状況改善型の評価をどう
の例においても、先生がポートフォリオを見て学習が
するかを、もう少し精査して考えていく必要が出てき
終わっているのです。それを生徒たち同士で見せ合っ
ているのかなと思っています。そのような視点で、今
て、お互いにある評価基準を持って、もう一度自分た
年の国研が行っている指定校の評価を拝見させていた
ちの学びがどうだったかという検証をしていけば、更
だくと、どの学校も評価には悩みを持っておられるの
に深まるのではないかということを伺ったときに校長
も事実ですが、
ずいぶん頑張っている学校もあります。
先生に申しました。すると、それは良い考えだ、来年
それは、まさに答えのないところにどういうふうに向
度は是非そういう相互評価を行ってみたいという話し
き合っていくかという産みの苦しみでもあるなという
になりました。
137
これ以外の相互評価の例として、私がまとめた一つ
以上です。ありがとうございました。
の研究を最後に紹介させていただきます。お示しする
大宮高校というのは進学重視の学校です。指導者は学
○司会 住野好久(岡山大学)
報告された 4 名の先生方、
ありがとうございました。
習において生徒が相互に関わりを持つとことが少ない
ことに課題を感じていました。学びの中でなかなかお
互いの学びを認め合う、見つめ合うという経験が無か
[休憩]
ったそうです。そこで、生徒たちに自分が書いた考察
記述について評価基準まで考えてもらうという取組を
○司会 住野好久(岡山大学)
しました。まさに先ほど米原先生がおっしゃった、参
後半の進行ですが、まず、お二人の先生からコメン
加者が評価規準までも考える例と同じです。一方、私
トをいただきます。その後、報告を聞いていろいろ聞
と担当の化学の先生は、私たちの評価基準を事前に用
いてみたいこととかディスカッションしたい、質問し
意をしておきました。協議後、子供たちからどんなこ
たいことがあるのではないかと思いますので、グルー
とが出てくるか黒板に自由に書いてもらって、それを
プを作り、交流する中で発表者に聞きたいことをそこ
KJ法のような形で整理をしていくと、私たちが用意
で整理をした上でお出しいただくこととし、それをも
したその評価基準と彼らが考えた評価基準がぴったり
とに議論をしていきたいと考えていますので、よろし
当てはまったのでした。
指導者として育てたい規準と、
くお願いいたします。
学習者が学びたいと感じている規準が一致したと言う
では、最初に、広島市立大学の卜部先生からコメン
ことです。そして子供たちは自己評価をまずとても意
トをよろしくお願いいたします。
欲を持ってこのような小項目を見据えながら、例をあ
わせて考えながら評価をしていきました。一番顕著な
○コメント1
例を挙げます。このJ君というのは初めひどい書き方
卜部匡司(広島市立大学)
をしていました。詳細に書かなければならないはずの
皆さんこんにちは。
広島市立大学の卜部と申します。
考察記述において「自分の出した結果と資料集が同じ
私からは2点ほどコメントさせていただきたいと思い
だからこれを特定した」としか初めは書いてなかった
ます。
わけです。そして、自己評価も非常に厳しい評価。
「他
私はこの評価の研究プロジェクトが始まっていつも
者評価からも、資料からとはせずに自分の言葉で説明
悩んでいたことがあります。それは、従来の評価では
するとよいと思う」
、
「具体的な根拠と実験結果が含ま
ESD の学習成果は捉えにくいということを踏まえて
れていなかった」みたいなことが書かれていました。
評価はどうしたらよいのかということです。先程、
再提出、もう一度書き直してみると、改善を考えて、
ESD に規範性があると佐藤先生はおっしゃいました
しっかりと立派な記述を残しました。再提出の自己評
が、規範性のある授業ほど面白くないものは無いと思
価では、さらなる改善の必要性を書いてきました。
「根
います。答えが分かっているわけです。道徳の授業も
拠についてもっとしっかり書ければよかったと思う」
子供がさっと求められる規範を言って終わりとなりま
と書いています。また、他者評価もさらなる改善が書
す。保健の授業の喫煙についての単元では「たばこは
かれています。しかし、本人は、この学習の意味・意
吸わないほうがいい、以上終わり。
」のように方向性が
義を深く受け止めている様子がわかります。学習の振
決まったものの中で、重要なのはやはり子供たちへの
り返りの中では「自分が出した結果に根拠が述べられ
揺さぶりであろうと思います。そのようなところから
るようになった、実験でわかったことについても書け
スタートして、評価の問題を考えると、評価の理論で
た」と。さらには、感想では、
「今まで考察の仕方がよ
は、
「番犬型の評価」と「盲導犬型の評価」があるとい
くわかっていなかったが、考察の道筋や記述の仕方が
うように言っているのです。
こうしなければならない、
わかりとても勉強になった」というようなプラスの自
それをしないとワンワン、これをしてはいけない、で
己変容を感じ、
自己評価していることが分かりました。
もしたらワンワンというういう番犬型の評価と、いや
時間が足りませんので、自己評価や相互評価の効果み
いや、こっち、間違っていますよ、こっちはいいです
たいなことをお配りの資料で少しまとめています。後
よという盲導犬のような評価があるということです。
ほど何かありましたら質問していただければと思いま
プログラム評価についてご紹介がありましたが、ESD
す。
では、やはり盲導犬型の評価を目指すべきではないの
138
かということで議論をはじめ、私も色々と議論に加わ
うするかです。要は、教室の中で実践すれば、先生と
ってきました。要は評価指標、評価基準が非常に整理
子供はそれなりに学習活動をやっています。今日出て
されてきたので、これを元に次にどうするかというこ
きた評価指標などは、どうも外からの評価指標のよう
とです。今の段階を、ちょっと乱暴に野球でたとえる
なイメージです。というのは、例えばこの間、箱根駅
と、バットを振るにはこう振ったほうがいい、足を高
伝を見ていましたが、ランナーに対して後ろから監督
く上げる、腰の回転を使う、バットのヘッドは高い位
がこうしろああしろと言っている。その選手の表情を
置・いい位置にあるか、
という基準ができてきました。
見ながらああしろこうしろと言っているわけです。足
でもゲームが無いのです。つまり、どこに向かって
が高く上がっているとか細かいことを言っているわけ
ESD の実践を走らせていけば良いのかということで
ですが、一方、競技の役員の人たちはこの競争をどう
す。つまり、練習はあって、練習のチェックポイント
安全に実施するかを考えています。つまり個人の資質
があるが、実際のゲームはなかなか難しいというイメ
を評価する場面とプログラムそのものを評価する場面
ージで捉えられるような感じがします。たまたま、私
とがあり、誰がどの評価を役割分担としてやるのかと
は昨秋にドイツに行き、ドイツのサステナビリティの
いう問題です。現場の先生は、子供の資質能力がどう
実践に衝撃を受けました。そこでは、ESD は環境と社
ついたのかという評価をするのはなかなか難しいです。
会と経済の三角形のバランスだというのです。環境と
例えば保健室の先生とお医者さんは評価の力が違いま
社会と経済をそれぞれ学ぶのではなく―三角形の重心
す。お医者さんは医学的な診断を下しますが、保健室
を意識しながら指一本で支える練習をしたのですが、
の先生は応急的な判断をし、このままではまずいかも
なかなか難しいのですが―このバランス感覚がまさに
しれないので病院に行ったほうが良いといったことは
サステナビリティなのだという授業を実際にドイツの
できます。つまり現場での評価の方法と、今まで専門
ギムナジウム(高校)でされているのを見たのです。
家が指標だ何だと開発してきたその専門的な見地から
その授業は道路をつくるというテーマでしたが、道路
の評価とどうつなげていくのか、そして、それを踏ま
をつくるとどんなメリットがあるのかを考えると経済
えて現場でどういう実践を行っていくのかという課題
的なメリットばかりです。ただ、先程の三角形のバラ
があると思います。
ンスが崩れたら、どうやって戻すのか、環境的に戻し
よりおもしろい実践、子どもたちを揺さぶる実践を
ていくのか、それとも社会のほうに戻していくのか、
どう整えていくのか、それらの実践の成果の評価は誰
ということを考えさえていて非常に面白いものでした。
がどの部分を役割分担して行うのか、の2つが今後の
このバランスを考慮して試作したプログラムを走らせ
課題になってくるのではないか、ということを指摘し
ると、どうしても必ずどこかに傾きます。その中で、
て、私のコメントとしたいと思います。
ではどうサステナビリティを保っていくかということ
どうもありがとうございました。
をめぐって議論を行うのです。つまり、一つのプロジ
ェクトに対して、環境、社会、経済のバランスをどう
○司会 住野好久(岡山大学)
するのかで激論する中で子供たちは実際に数々の指標
ありがとうございました。
であったように批判的思考力とか、ESD で重要な力が
それでは、続きまして、宮城教育大学の及川先生、
ついていくのです。子供たちに批判的思考力が必要だ
よろしくお願いいたします。
から、これが批判的思考力ですよといって目指すもの
ではなく、一つのネタをじっくり考えることによって
○コメント2
批判的思考力がついていくものである、というイメー
及川幸彦(宮城教育大学)
ジです。せっかくつくった指標を今度は生かすための
及川です。よろしくお願いします。
実践を開発する段階に来たという感じがしています。
4 人のエキスパートの先生方のすばらしいプレゼン
つまり、それぞれの評価の指標、ESD の視点が非常に
テーションに私がコメントをするという資格は全然な
整ってきたので、次の段階として、よりおもしろい実
いのですが、長く教育現場、あるいは教育行政、ある
践、ゲームをするためにどういうネタを開発するのか
いは地域、大学と一緒に ESD に取り組んできたその
という段階に到達していると言えるのではないかと思
ボトムアップの視点で、この 4 人の先生方のお話をど
います。
う実際の教育現場の評価に生かしたら良いかと悩みな
二つ目が、今度は評価ですが、評価の役割分担をど
がら、聞いていたところでした。それについて、自分
139
で抱えている課題と思いを皆さんと共有したいと思い
学校現場とか教育実践の中で実証している事例という
ます。やはり ESD の評価というのは指導と評価の一
のを私は見たことがありません。だから、そこの部分
体化と言いますが、ESD は指導ではなく、学びとか実
の間のギャップをどうこれから埋めていくのかという
践だと思っているので、その実践と評価がやはり結び
のが非常に重要で、これらのコンピテンシーと国研の
つく必要があり、しかも皆さんおっしゃっている変化
ものとの関連性などをきちんと整理していかなければ、
に対応できる、先の見えない学びを繰り返しているわ
現場は混乱すると思うのです。よって、そういうとこ
けですから、評価自身もその変化に対応できるような、
ろはやはりこれからの研究としてきちんと行っていく
そういう評価軸というのをやはり提案していくという
必要があると思います。これが第1ステージです。
必要があるのではないかと思います。
場合によっては、
第 2 ステージは、集団、学校とか学級レベルの話だ
旧来の評価の枠組みを超えた、さらに個人的な期待と
と思います。社会教育でいえば公民館みたいなところ
すれば学校教育のみならず社会教育、あるいは生涯学
もあるかもしれませんが、今日は学校教育中心なので
習、教育振興基本計画では ESD は生涯学習に入って
学級、学校レベルで話をします。これは、岡本先生や
いるので、そういう生涯学習にも汎用できるような評
皆さんの話にもありましたが、カリキュラム、取り組
価というものを期待したいなと思って自分もいろいろ
みをどう評価していくか。つまり、学習者の能力を高
考えて取り組んでいるところです。
めるためには、当然それに高めるだけの学びが必要な
その評価を考えた場合に、皆さんも重々、現場の先
わけですね。その学びそのものを評価せずに子供だけ
生方も実際に実践されている先生もいらっしゃるので
評価するのは非常に無責任ではないか、と私は常日頃
お分かりのように、やはり評価は何を評価するかによ
から思うのです。やはり教育を質的に高めるという視
ってステージが 3 つくらいに分かれると私は思います。
点での評価であれば、なおさらそのカリキュラムをど
第 1 ステージは、やはり学習者の変容ですね。能力
う評価するかといったことが必要だと思います。その
開発、キャパシティビルディングにかかわるその変容
際には、2 つの大事な側面があるかと思います。
を評価する。場合によっては学習者のみならず、それ
これも、後藤先生のプレゼンテーションにあって、
に関係する親であるとか地域住民、そういう部分も含
まず「何を」という部分です。目的と岡本先生はおっ
むかもしれませんが、要は個人的な変容を見る。それ
しゃいましたが、
「何を」というこの部分が最近忘れら
に当たって、佐藤先生が提案された持続可能性キー・
れているのではないかと感じます。最近の ESD の取
コンピテンシーと、岡本先生の報告された、既にかな
組では、
「どのように」という学習手法のほうが強調さ
り学校現場に浸透している国研の 7 つの能力・態度は、
れている部分がある。
そうするとどうなるかというと、
大きな指針になるのかなと思います。しかし、反面、
それは ESD でなくても良いのではないか、というこ
各学校を回っていると、国研の能力・態度のほうから
とになりかねません。つまり、持続可能な社会をつく
いうとやはりまだこなれていないというのが実感で、
るという非常にせっぱ詰まった切実感とかわくわく感
国研が掲げている項目をただ指導案に盛り込んで、そ
とかを、子供たちに喚起するためには、やはり魅力的
れで評価した気になっていたり、あるいは目標に設定
な教材や学習内容、コンテンツが絶対必要なのです。
してその観点をやった気になっていたりします。
では、
コンテンツのない中で学習手法だけ取り入れても、子
それはどうそれを検証するのか、というのがいま一つ
供の中に本当にそういう力が高まるのかは非常に疑問
よく見えない授業や学習指導案がよくあるということ
です。そう考えた場合に、やはり「何を」という内容・
です。何が言いたいかというと、やはり岡本先生もお
コンテンツの部分で、米原先生も述べていたように、
っしゃっていましたが、
目標や学習する内容やテーマ、
各学校にバリエーションがあります。持続可能性に環
さらに発達段階を踏まえていかに具体的にその学校、
境から迫る学びもあれば国際理解、あるいは開発、人
あるいはクラスの、あるいはその授業の中で、その7
権、ジェンダー、経済、防災減災、いろいろあるわけ
つの能力・態度を具体化して子供たちと一緒にそれを
ですね。それをひっくるめれば SDGs のような話にな
達成していくか、
ということが重要となると思います。
るのだと思いますが、直接 SDGs に言及するとかなり
佐藤先生の提案は非常に私も勉強になりました。単
雲の上の話になるので、その際に大事なことは、やは
なるコンピテンスを羅列するのではなくて一つのプロ
りローカルな地域の文脈にいかに即して切実感のある
セスとしてつながりとして見ていくというのは非常に
ような教材を子供たちに提供しているかという検証が
大事な視点だと思います。しかし、これをまだ実際の
必要なのではないかと思うのです。全国同じ金太郎飴
140
のような ESD を実践しても、それでそれぞれの地域
験上、私は実はそうではないと思います。この2つの
に対する愛着や持続可能な地域社会をつくるといった
ステージの評価というのはクラスの中、学校の中での
意識が本当に培われるのかというのは、非常に疑問な
話です。
ところがあると思います。
しかしながら、
もう一方で、
第 3 のステージは、やはり地域、社会のステージだ
やっぱりグローバルという視点は欠かせません。身近
と思うのです。
これは今後の評価の話だと思いますが、
な地域に根差しながらも、課題の空間的な広がりの部
何が言いたいかというと、
第 1 ステージは個人の資質・
分と、現在のみならず過去・未来という時間軸を勘案
能力を対象として評価する。
第 2 ステージはその学び、
して、発達段階を考慮し、子供たちにそれぞれがおか
カリキュラムを評価する。そして第 3 ステージは、
「シ
れた地域でどういう学びを展開していかなければなら
ステム」を評価するということです。つまり、第 1,
ないのか、ということを考えることも大事な評価の対
第 2 のステージを実現するためにはシステム、戦略が
象になると思います。
絶対必要です。
2 つめの側面は、それプラス E(教育)の部分での
そのために、まずは、校内態勢をきちっと整えなけ
「学び方」
、例えば体験的な学習、探求的な学習、問題
ればならない。例えば、チームワークであるとか、校
解決型学習、つまり「どのように」
(学習方法)の部分
長先生のリーダーシップであるとか、ホール・スクー
です。きなり何もそういう経験もしたこともない、知
ル・アプローチというそういうものであるとか。
次に、
識もない子供に問題をつくって問題を解決しましょう
ユネスコもこの ESD を始めた当時に言ったように、
と言ってもこれは無理な話です。やはりイマジネーシ
ESD は 1~2 年実践しただけでそんな力がつくわけで
ョンや課題を持つためにはそれなりのベースが必要で
はなく、長いスパンで ESD を実践しなければならな
す。体験的な学習が行動につながり、そして参加型に
い。難しい挑戦ですが、幼、小・中、高で ESD をやる
なって高まっていくのです。これがアクティブラーニ
というシステムを何年間もかけてつくり上げていくと
ングというかどうか分かりませんが、そういう部分に
いう、そういう縦の学びのつながり構築が必要です。
高まっていくと考えます。さらに、創造的であり、提
更に、先程述べたグローカルなコンテクストという
案的であり、未来志向でいくとか、こういうのは ESD
のは、やはり地域と連携することで、佐藤先生もおっ
の共通語として我々は持っていますし、今度の学習指
しゃったような地域のソーシャル・ラーニングが実現
導要領改定でもありますが、主体的とか自立的とかキ
され、その中で学んで自己変革ができる。そのとおり
ー・コンピテンシー、さらに、協働的、そういう部分
だと思います。そして、ここにも大勢の大学の先生が
をきちんと実現できているか、そういうプログラムに
いますが、私は現場で ESD の推進のために最初にや
なっているかといったプログラム自体の評価・点検を
ったのは専門家の知識を十分借りること。すなわち、
やはり行っていくべきだと思います。
エキスパティーズを導入することでした。プログラム
この時に先ほど米原先生がおっしゃったプログラム
開発も実践も評価もです。そういう部分が国連大学の
評価とか、後藤先生がおっしゃったフィードバック評
RCE(Reginal Centre of Expertise)のコンセプトな
価が使えるのです。その際に前述の 2 つの側面の評価
のです。RCE の E はエキスパティーズですから。そ
をしなければなりません。内容である「何を」という
して、さらにそれらの取組を学校間連携、さらには地
部分と、学習手法である「どのように」という 2 つの
域間連携、そして国際連携のような話に空間的に広げ
側面を評価することで、それが子供によりよい、より
ていけば、国際的な視野やグローバル人材は自然に育
質の高い ESD の学びを提供するということになるの
っていくと思うのです。このように、これらは ESD を
だと思います。SDGs も、そういうことを目論んで作
推進するためのシステム、仕掛けの問題です。そうい
ったのかどうか分かりませんが、それらを見据えつつ
うものをきちんとやっている学校とやっていない学校
も、やはり Glocally に考えていくところが必要なのか
というのは、これは ESD の効果的に明らかに違うわ
なと思います。そして、その評価は参加型であれば尚
けですね。そういうところを評価しないで学校の中だ
素晴らしいというのは、これは皆さんが提案している
けに目を向けても、さっき言った、最初に言ったダイ
とおりだと思います。
ナミックな ESD の評価というのはなかなかできない
最後に、発展的な話ですが、1つの提案として話し
のではないかという気がしています。
ます。
これまでの2つのステージを評価すれば ESD が
以上の 3 つのステージを考えて、最終的に言いたい
うまくいくのかというと、実際 ESD をやってきた経
ことは、日本の学びというか、総合的な学習の時間や
141
学習指導要領も含めて日本の教育というのは、基本的
閉会式
には個人の自己実現がメインで、個人の育成がメイン
○司会 住野好久(岡山大学大学院教育学研究科)
となってきたような気がしますが、ESD というのはそ
気がついてみると、もうこのような時間となりまし
こから一歩踏み出して社会を変えていくそのチェン
た。今日のこのシンポジウムに対する皆様方の満足度
ジ・エージェント、すなわち社会の変革の主体者・人
はどれぐらいだったのでしょうか。このシンポジウム
材をどう育てるか、もっと言えば、共生できる社会を
は、学校における ESD の学習評価に焦点を絞って議
担える担い手をどのように育てるのかが ESD の使命
論するということでしたが、気がついてみるとやはり
だと思うのです。そういう視点で学びを考えていくこ
「ESD とは一体何なのか、何のために ESD をやらな
とが最終的な目標なのかなと思います。
「Learning to
ければいけないのか。
」という ESD の本質をめぐる議
live together」の言葉がありました。ユネスコの推奨
論に展開してきました。ここに ESD の評価をめぐる
する最後の学びの段階ですが、それはまさしく究極の
一つの困難性というのがあるのかなとも思います。こ
ESD の姿なのかなというふうに思ったりしていまし
うした課題も含めて、この ESD の評価をめぐる調査
た。
研究は、今後も継続してなされなければいけないし、
今日の 4 名の報告者とコメンテーターの先生からの、
これまでのコメントは、私の勝手な見識なので、皆
さんのご意見と合致する部分、あるいは逆にこういう
非常に刺激的で示唆に富む提案をどう学校現場の実践
視点がもっと必要だとか、これは違うという部分もあ
レベルで具体化していくのかという課題にも私たち研
ろうかと思いますが、それはご賢察いただいてご議論
究者が学校現場の先生と協働して取り組まなければい
いただけばと思います。
けないと思います。そうした私たちに対する刺激的な
以上です。どうもありがとうございました。
提案をしていただきました先生方に大きな拍手を送っ
ていただき、本シンポジウムをお開きにさせていただ
総合討論 (省略)
きたいと思います。今日はご参加いただき、ありがと
うございました。
142
平成 年度文部科学省
﹁日本/ユネスコパートナーシップ事業﹂
27
平成27年度文部科学省
「日本/ユネスコパートナーシップ事業」
ESDの教育効果
︵評価︶に関する調査研究 報 告 書
Education for
Sustainable
Development
ESDの教育効果
(評価)に
関する調査研究
報 告 書
ロゴ
編集・発行:岡山大学
〒700‐8530 岡山市北区津島中3‐1‐1
岡山大学大学院教育学研究科ESD協働推進室
TEL:086‐251‐7723
平成28年3月
岡山大学