2 - 知的財産部門

第7回 特許制度(2)
「特許取得⼿続と特許権の効⼒」
弁理⼠
重森 ⼀輝
2016年6⽉8⽇
特許取得⼿続のフロー(前回の復習)
特許庁「H27年度 知的財産制度説明会テキスト」より引用
1
特許取得⼿続-出願⾏為
■ 特許庁に「出願」という⾏為をしなければいけない
(公的⼿数料として1.4万円。弁理⼠費⽤はまた別途)
■ 願書には、「 ? 」と「 ? 」と「 ? 」と「?」を添付。
■ ところで、「誰が」出願できるのか?(出願⼈)
↓
「発明者⾃⾝」
or
「特許を受ける権利を有する者」
(=発明者から権利譲渡を受けたもの)
2
では、「発明者」とはだれ?
原則:
① 発明の創作⾏為に現実に加担した者だけが発明者
② 思想の創作⾃体に関係しない者、例えば、単なる
管理者・補助者⼜は後援者等は共同発明者ではない
◎発明の成⽴過程を、着想の提供(課題の提供⼜は課題解決の⽅向づけ)と、
着想の具体化との2段階に分け
■ 提供した着想が新しい場合は、着想(提供)者は発明者である。
■ 着想を具体化した者は、その具体化が当業者にとって⾃明程度のことに
属しない限り共同発明者である。
3
発明者に該当する例
■ 新しい着想をなし発明を完成した者
■ 不完全な他⼈の着想に対し、さらに別の新しい着想を加えて
発明を完成した者
■ 他⼈の発明を基にして、さらにその発明の範囲を拡⼤(改
良)する発明を完成した者
■ 他⼈の着想に、さらに具体的着想を付け加えて発明を完成に
導き、研究を指揮する⽴場で発明に係った者
■ 他⼈の⾏った実験、試験の中間的結果を総合的に判断して、
新しい着想を加え発明を完成に導き、研究を指揮する⽴場で
発明に係った者
4
発明者には該当しない例
単に⼀般的知識の助⾔、⼜は指導を⾏った者
他⼈の着想に対し、単に良否の意⾒を付加した者
他⼈の研究結果を単に総合的に整理して、⽂書化した者
研究者の指⽰に従い、単にデータをまとめた者⼜は実験を
⾏った者(単なる補助者)
■ 発明者に資⾦を提供したり、設備利⽤の便宜を与えることに
より、発明の完成を援助した者⼜は委託した者
■
■
■
■
5
研究過程における発明の把握(参考)
研究課題そのものが新規か
*課題⾃体が新規なら、研究成果も新規なはず
例: 新しいニーズへの応⽤、⽤途展開
課題を解決するための⼿段・⽅向性が新規か
*課題⾃体は公知だが、これまでにない⼿段を採⽤した
例:不具合対策
得られた結果に優れた効果・意外性があるか
*課題も⼿段もそれぞれ公知だが、思わぬ実験結果
例: 積極的な効果、消極的な効果
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発明の把握における留意点(参考)
■これまでの自らの(或いは職場近傍の)研究成果と比較しがち
であるが、あくまで世の中の従来技術との比較して新しい、或
いは優れているかを検討する
■良い結果が得られた場合でも、その本質的な要因がどこにある
のか比較実験の結果との比較を十分に行う
■狙った結果(ミッション)とは異なる研究成果が得られた場合で
も、それによる利点や応用可能性がないか考える
■研究者自身としては、あまり芳しい成果ではない、大した結果で
はない、というほうが有用な特許になる可能性
7
審査の実例を覗いてみましょう。
【発明の名称】ピックホルダー
【発明の課題】
楽器本体に取り付けが可能で、ピックの収容・取出しを容易に⾏うことがで
き、ピックの⽋落や交換による演奏の中断を最⼩限に抑えることができる、
簡潔な構造を有するピックホルダーを提供する。
ヴァリエーション1
ヴァリエーション2
8
請求項の記載(特許請求の範囲)
【請求項1】
ギター等の弦楽器の演奏の際に使⽤されるピックを収容するピックホルダー
であって、
略平板な形状の本体部と、
その本体部の表⾯上に前記ピックを収納する少なくとも1つ以上の収納部を
備え、
前記収納部は、前記本体部上に設けられた帯状部材と前記本体部との間に形
成された空間において前記ピックを固定すること
を特徴とする、ピックホルダー。
9
請求項の記載(特許請求の範囲)
【請求項2】
前記収納部が、前記本体部に所定の間隔で設けられた複数の孔に、前記孔と
略同⼀の幅を有する帯状部材を貫通するように表⾯側と裏⾯側とから交互に
挿⼊して、前記帯状部材の⼀部が前記本体部の表⾯に露出することによって
形成されており、
前記本体部と前記露出した帯状部材との間に形成された空間に前記ピックを
挟み込むことによって、前記収納部に前記ピックが固定されること
を特徴とする、請求項1に記載のピックホルダー。
10
拒絶理由通知が来ました。
■ 先⾏技術(引⽤⽂献1)
US4,785,708
11
拒絶理由通知が来ました。
■ 先⾏技術(引⽤⽂献2)
US6,140,564
12
拒絶理由通知の内容
■ 請求項1について
引例1には、基体26(請求項1に係る発明の「本体部」に相当する。以下
「 」書きは同様である。)と、ピックホールドポケット22(「収納
部」)と、帯 状部24(「帯状部材」)とを設けたピック20を収容する
ピックホルダー16 が記載されている(第2欄、第1〜3図)。
■ 請求項7について
引例1に記載のピックホルダーを弦楽器の弦が設けられている⾯とは反対側
の 表⾯に取り付けることは当業者が必要に応じて適宜実施し得る設計的事
項にすぎ ないと認められる。
■ <拒絶の理由を発⾒しない請求項> 請求項2-3に係る発明につい
ては、現時点では、拒絶の理由を発⾒しない。 拒絶の理由が新たに発
⾒された場合には拒絶の理由が通知される。
13
意⾒書・補正書を提出
■ 補正書=請求項の記載を変えるための書⾯
選択肢を狭くしたり、具体的な構成を特定したり。
■ 意⾒書=審査官に認定に反論するための書⾯。
or 受け⼊れて補正したことを説明する
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実際の対応
■ 請求項1を請求項2で限定
【請求項1】
ギター等の弦楽器の演奏の際に使⽤されるピックを収容するピックホルダー
であって、
略平板な形状の本体部と、
その本体部の表⾯上に前記ピックを収納する少なくとも1つ以上の収納部を
備え、
前記収納部が、前記本体部に所定の間隔で設けられた複数の孔に、前記孔と
略同⼀の幅を有する帯状部材を貫通するように表⾯側と裏⾯側とから交互に
挿⼊して、前記帯状部材の⼀部が前記本体部の表⾯に露出することによって
形成されており、
前記本体部と前記露出した帯状部材との間に形成された空間に前記ピックを
挟み込むことによって、前記収納部に前記ピックが固定されること
を特徴とする、ピックホルダー。
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特許査定⇒ 特許登録
■ 特許査定
「この出願については、拒絶の理由を発⾒しないから、特許査定をします。」
注)これは公開公報です。
特許後に出される特許公報とは異
なります。
本件は、まだ特許公報は未発行。
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特許権の効⼒1
第68条
特許権者は、業として特許発明の実施をす
る権利を専有する。
■ 消尽
■ 均等論
■ 間接侵害
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特許権の効⼒2
■ 「実施」とは?(特許法第2条)
「物の発明」(プログラム等を含む)
⇒その物の⽣産、使⽤、譲渡等(譲渡及び貸渡し、電気通信回線を通じ
た提供を含む)、輸出若しくは輸⼊⼜は譲渡等の申出(譲渡等のための
展⽰を含む)をする⾏為
⽅法の発明 ⇒その⽅法を使⽤する⾏為
「物を⽣産する⽅法」=製造⽅法
⇒その⽅法を使⽤する⾏為のほか、その⽅法により⽣産した物の使⽤、
譲渡等、輸出若しくは輸⼊⼜は譲渡等の申出をする⾏為
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特許権の活⽤
独占的実施
ライセンス・譲渡
(
サイクル)
特許権(
保護)
審査(
特許庁)
出願公開
出願(
発明者等)
発明の利用(改良発明)
権利の活用・行使
侵害訴訟
技術の累積進歩
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権利の活⽤の例
■ 独占的実施(⾃⼰実施)
⇒⾃分で頑張って商売するぞ!
■ ライセンス
⇒権利は⾃分で保有するけど、興味ある企業にやらせる
分け前はもらうぞ?
■ 譲渡
⇒欲しいひとがいるから、特許権をそっくり売ってしまう。
■ 権利⾏使(侵害訴訟等)
⇒勝⼿に特許技術を使われるのは困る。
ストップ or お⾦で償え。
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ライセンス
独占的ライセンス=「専⽤実施権」
⇒信頼できる誰かに、独占的に使⽤を許諾すること
ただし、⾃分も実施したい場合は、独占的通常実施権
⾮独占的ライセンス=「通常実施権」
⇒複数の誰かに同時にライセンスすることもできる。
⾃分も実施したい or スケールメリット等を求める場合
■ ⼀時⾦(マイルストーン)
■ 実績ベース分割払い(ランニングロイヤルティ)
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侵害訴訟
差⽌請求 (現在〜将来)
⇒侵害品の製造販売等をストップさせることができる
⇒侵害のおそれがある場合は予防もできる
⇒急ぐ場合は仮処分の申請も可能
損害賠償請求 (過去〜現在)
⇒故意・過失による、過去の違法⾏為(特許権侵害)によっ
て被った 損害を⾦銭的に賠償させることができる
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ここで、実際の事件を例に⾒てみましょう。
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ファンケル vs DHC
■ 東京地裁平24年5⽉23⽇判決(平22年(ワ)第26341号)
クレンジングオイル(メーク落とし)に関する特許の侵害訴訟
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ファンケル vs DHC
地裁判決では・・・
DHC製品は、ファンケル特許を侵害していると認定し、
約1億6500万円の損害賠償を命じた。
DHCに
(なお、製造販売は既に終了しているため、差⽌や廃棄は認められず)
■ ちなみに、
*切り餅事件
⇒ 約8億円の損害賠償+製造装置の廃棄(!)
純利益が7.4億から1億に下⽅修正(本年4⽉期)
*重⾦属固定化処理事件(東ソー:ミヨシ油脂)
⇒ 約18億円の損害賠償+製品の廃棄
ミヨシ油脂の社⻑が引責辞任(本年2⽉)
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特許侵害訴訟の概要(⼀般論)
1)侵害論
=特許の技術的範囲に属するか?(特70条)
=被告製品が、請求項の各構成要件を全て充たすか?
*⽂⾔侵害、均等論
2)無効論
=そもそも特許は無効ではないのか?
*特許無効の抗弁(特104条の3)
3)損害論
侵害製品の販売額、利益率等から権利者の逸失利益
を算定(特102条1項、2項)
⾃⼰実施していない場合は、ライセンス料相当額(同3項)
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特許侵害訴訟の流れ(⼀般論)
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弁論準備⼿続(⼀般論)
■ 「弁論準備⼿続」において、原告・被告双⽅の実質的な主張のやり
とりが⾏われる(複数回往復)。
↓
*対象製品の特定
*技術的範囲の属否の主張・反論
*無効論についての主張・反論
*プレゼン⽅式による技術説明会(専⾨委員も参加)
■ 典型的な「審理モデル」が東京地裁HPで公開
http://www.courts.go.jp/tokyo/vcms_lf/210001.pdf
⇒ ユーザフレンドリー?
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ちょっと休憩
ちなみに、ユーザフレンドリーつながりで・・・
実は、⼤阪地裁の知財専⾨部のHPに、クイズコーナーがあるのですが。
Q5. 特許の出願後は、審査請求を⾏って実体的審査を受けることになり
ますが、拒絶理由に当たらないのは、⼤阪弁でいうと、次のうちどれ?
1 こんなんやっても儲かりまへんで。
2 こんなん誰でも作れるんとちゃう?
3 今までのんとおんなじや。
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答え
Q5の答え: 1
その発明が具体的に実施できるんやったら、仮に儲からへんかっても、拒絶理
由にはならへんでー。
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ファンケル特許(特許4358266)の内容
■ 請求項1
「油剤(A)とデキストリン脂肪酸エステル(B)と炭素数8〜10
の脂肪酸とポリグリセリンのエステル(C)と陰イオン界⾯活性剤
(D)を含有する油性液状クレンジング⽤組成物であって、
デキストリン脂肪酸エステル(B)が、パルミチン酸デキストリン、
(パルミチン酸/2-エチルヘキサン酸)デキストリン、ミリスチン
酸デキストリンのいずれか⼜は複数であり、 陰イオン界⾯活性剤
(D)が、ジ脂肪酸アシルグルタミン酸リシン塩、ポリオキシエチレ
ンアルキルエーテル硫酸塩、N-脂肪酸アシルメチルタウリン塩、脂
肪酸塩、N-脂肪酸アシルグルタミン酸塩、N-脂肪酸アシルメチル
アラニン塩、N-脂肪酸アシルアラニン塩、N-脂肪酸アシルサルコ
シン塩、N-脂肪酸アシルイセチオン酸塩、アルキルスルホコハク酸
塩、アルキルリン酸塩のいずれか⼜は複数であること
を特徴とする油性液状クレンジング⽤組成物。」
呪⽂??・・・分かり難いですよね!
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ファンケル特許の構成要件
簡単にいうと、以下のような「混ぜ物」の発明です。
*オイル成分がないと化粧が落ちない
1-a
油剤(A)
1-b
デキストリン脂肪酸エステル(B)
*化粧品等の分野で、ゲル化剤(増粘剤)として⼀般に使⽤
1-c
非イオン性界面活性剤(C)
*⽔と油のつなぎ役
1-d
陰イオン性界面活性剤(D)
*主に透明性の確保
1-e
(A~Dを含有する)油性液状クレンジング用組成物
「技術的範囲に属する」というためには、これら全てを満たす必要
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発明の⽬的と課題
従来技術(明細書【0002】)
・従来の油性クレンジング料は、水で濡れた皮膚に使用すると乳化物や懸濁物
となって白濁し、洗浄力低下
・近年、水が混入しても白濁しないよう、予め水を配合したもの、或いは水を可
溶化できるように設計されたものが開発
・しかし、それらでは、粘度が低くなり、目的部分への塗布が難しい
・また、油性化粧料をデキストリン脂肪酸エステルで増粘する技術が知られてい
たが、それによって油性クレンジングを透明に増粘する技術は知られていな
かった
解決課題(明細書【0004】)
「手や顔が濡れた環境下で使用することができる透明な油
性液状クレンジング用組成物を提供すること」
疑問: 白濁しないものは既にあった。すると、透明に増粘させた点だけ
が本発明のポイント?
33
侵害論における攻防
■ 被告の主張
1) 本件(D)成分の陰イオン性界⾯活性剤は、明細書の記載の基
づけば、「1-bを透明に分散させる作⽤を有する」陰イオン性界⾯活
性剤に限定解釈すべき。
2) 構成要件1-eの油性液状クレンジング⽤組成物は、「透明な油
性液状クレンジング⽤組成物」と限定解釈すべき。
3) 被告製品は、「透明」という本件発明の作⽤効果を奏しない。
(作⽤効果不奏功の抗弁)
裁判所は、これらの主張を⼀蹴。被告製品の配合成分(化合物)⾃体が、
成分(A)〜(D)に該当する以上、⽂⾔侵害である。
また、3)は、時期に遅れた攻撃防御⽅法として却下。
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無効論における攻防
■ 被告の主張 =進歩性なし
1) 引⽤⽂献(⼄2の1)には、本件発明の(A)、(C)、
(D)の成分を含有する油性ゲル状クレンジング⽤組成物が開⽰
2) 当該引⽤⽂献には、成分(B)のデキストリン脂肪酸エステル
を含有させても良い旨が開⽰されており、増粘のために当該化合物
を⽤いることは周知
■ 原告の主張 =進歩性あり
1) 引⽤⽂献1の発明は、必須成分として本件構成以外の成分も含む
ものである
2) 成分(B)に対応するデキストリン脂肪酸エステルは任意成分で
あり、これを積極的に⽤いて透明に増粘させる技術的思想とは異なる
3) 引⽤⽂献1は、「ゲル状」であって「液状ではない」
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無効論についての裁判所の判断
■ 裁判所の判断
1) 引⽤⽂献(⼄2の1)の実施例には、本件発明の(B)〜(D)の
うちいずれかを⽋く構成しか開⽰されていない
2) そして、それら各実施例に対する透明性やかさつきの官能評価につ
いて、良い結果であることが記載されている
3) 従って、これに加えて本件発明の作⽤効果(透明で粘性⾼い)を得
るために、⽋けている成分を必須成分として加える動機付けはない
よって、本件発明は進歩性を有すると判断。
しかし・・・・
36
特許庁における無効審判
実は、ファンケル特許について無効審判請求が侵害訴訟と平⾏して
なされており、
■ 特許庁の審決
1) 引⽤⽂献(=侵害訴訟と同じ⽂献)には、本件発明の(A)、(C)、
(D)の成分を含有する油性ゲル状クレンジング⽤組成物が開⽰されてい
る
2) また、成分(B)のデキストリン脂肪酸エステルを油性液状クレンジ
ング組成物の粘性の調整のために添加して塗布性等を向上させることは周
知技術
3) そして、本件発明の実施例を⾒ても、成分(B)の効果は、粘度及び
塗布性の向上にすぎない
よって、進歩性なし、ファンケル特許は無効であると審決!
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無効論まとめ
■ 同じ先⾏技術⽂献を主引例としつつ、裁判所と特許庁の判断が正反
対となった⽐較的珍しいケース
⇒進歩性の判断は難しい
■ 被告は、特許庁の審決を証拠として提出したが、既に損害論の審理
が進⾏していたため、時期に遅れた攻撃防御⽅法として裁判所は却
下
⇒ ただし、無効審決を考慮しても結論同じと付⾔
■ 今後、侵害訴訟と審決のいずれも知財⾼裁に控訴される(ている)
と思われるためどちらかに統⼀されると予想される
*最終的に「和解」で終了。
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損害論
■ 原告(ファンケル)が、本件特許を⾃ら実施していないと認定され
たため、102条2項の適⽤はされず
⇒ 原告は、クレンジングオイル⾃体は製造販売していたが、本件
特許の成分ではなかったようである
■ 従って、102条3項のライセンス料相当額のみ損害として認めら
れた。⼀般的にいえば、もし原告が実施していれば、より⾼額な賠
償が算定された可能性が⾼い
↓
具体的な実施料率は伏字されているが、被告製品の売上⾼は、
H21で60.5億、H22で59.5億と認められている。すると、
⾼い利益率(40%)から考えても・・・。
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判決
●被告製品は、本件特許の請求項1の構成要件を全
て充たしており、かつ無効とされる理由もない。
↓
本件特許の侵害に該当。
なお、製造販売は既に終了しているため、差⽌や廃棄は認めない。
●被告製品の売上に実施料相当を掛けた額を損害額
として、約1億6500万円(弁護⼠費⽤含む)の
賠償を命じた。
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感想
■ そもそも、互いに業界の⼤⼿であり、研究開発能⼒も有しているにもか
かわらず、なぜこのような事態になってしまったのか疑問でもある。
⇒ 競業相⼿の特許ウォッチ、上市前の精査が重要
製薬等であれば、かかる⽐較的単純な構成の発明は
事前に容易に回避できるはず
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今回説明しきれなかった部分は、次回の講義で引き継いでやります。
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連絡先
アンダーソン・⽑利・友常 法律事務所
弁理⼠ 重森 ⼀輝
〒107-0051
東京都港区元⾚坂⼀丁⽬2番7号 ⾚坂Kタワー
E-Mail: kzs@amt-law.com
URL:
http://www.amt-law.com