DISCO GLOB A L I NSIGH T 海 外 教 育 機 関 の 最 新 事 例 レ ポ ート Vol. 10 今号では、9号に引き続き、米国の高等教育機関において近年急速に注目を集めつつあるオンライン教育、 オープンエデュケーションなど、教育そのものにITを活用した革新的な試みなどのトレンドについてレポート します。 前号では、現在の米国の高等教育機関で起こっているオンラインの教育革命がより加速している様子を、 増大する「コスト」、爆 発的に拡がるデジタル「アクセス」、そして現代を生きるために教育に求められる 「関連性」などの観点からお伝えしました。具体的には、2000年代初頭に生まれた「オープンコースウェア (OCW)」、そして小学校から高校レベルのオンライン教育コンテンツとして話題になっている「カーン・ アカデミー」 ( Khan Academy)などが、その黎明期の代表的なプレーヤーといえます。 2012年に入り、今日、最も話題になっているキーワードの一つが、MOOC(Massive Open Online Course)と 呼ばれる新しい教育のシステムです。日本語にすると「大規 模公開オンライン学習コース」となります。 日本ではまだ一般的な用語として耳にすることは少ないのですが、現在、米国の大学経営に携わる人々、 教員の間ではもはや無視できないキーワードの一つといえるでしょう。 *参照:MOOCについて What You Need to Know About MOOC's / The Chronicle of Higher Education http://chronicle.com/article/ What-You-Need-to-Know-About-MOOCs/133475 1 MOO C(大規 模公開オンラインコース )とは? MOOCは、オンラインサービスを活用することで「学び」の民主化を実現することを目的としています。時間、 国境、所得格差などの壁を取り払い、無償で何千、何万人もの不特定多数の人々に教育機会を提供することを 目指す壮大な取り組みなのです。 OCWが授業のコンテンツをほぼそのままオンラインに掲載することでオープン化に貢献したことと比べると、 MOOCの場合は、1つの授業が10分∼15分程度で作られており、またゲーミフィケーションという手法を用いて 受講者の集中力が持続する工夫がなされています。 こうした点は 「カーン・アカデミー」 が生み出したイノベーションを 進化させているといえます。 また、SNSなどを活用して受講者同士の助け合い、コラボレーションを推進しており、オフラインで受講者同士が 実際にそれぞれの地域で交流することを可能にするプラットフォームも登場しています。 MOOCの授業は通常無料で提供され、最後まで授業を履修した人に対しては証明書が発行されるというケースが 一般的です。 Copyright 2012 DISCO Inc. 2 MOO Cを語る際にかか せない3つの代表事 例 ここでは、MOOCについて語るにあたり、必ず言及されるプログラムを3つ紹介します。 まず、1つ目は米国・スタンフォード大学でコンピュータ・サイエンスを 教えていた2人の教授が中心となり始めたプログラム、Udacity (ユーダシティ www.udacity.com ) です。2011年の夏にウェブ上で 公開された授業「人工知能(AI)入門講座」に対し、190カ国から 16万人の受講登録があったことで話題になりました。 その後、 創業者 が私財(30万ドル)を投じて起業し、ベンチャーキャピタルからの 資金調達にも成功しています。現在はコンピュータ・サイエンス 関連の授業を中心に14コース、すべて無料で提供しています。 2つ目が、2012年5月、米国・MIT(マサチューセッツ工科大学) と ハーバード大 学 が 提 携して生ま れ た e d X( エデックス www.edxonline.org )と呼ばれるプログラムです。2012年7月 にはUCバークレーも参加し、東西の名門校が大学機関として 本格的に無料のオンライン教育に取り組んでいる事例として、 注目が集まっています。 3つ目は 、現在もっとも広範囲な規模で展 開しているC o u r s e r a( コーセラ w w w. c o u r s e r a . o r g )です 。 Udacit yと同じく米国・スタンフォード大学でコンピュータ・サイエンスの教鞭をとっていた2人の教授により、 2012年4月に始められた教育系スタートアップベンチャー企業です。シリコンバレーの著名ベンチャーキャピタル であるK leiner Perkins Caufield & Byer s(K PCB)とNew Enter prise Associates(NE A)から合計 1600万ドルの資金調達に成功し、一躍話題になりました。 このようにスタンフォード大学やプリンストン大学など、一流大学の授業がオンライン動画を通じて無料で受講 できることに加え、授業内容の理解を促進するためのオンライン上のミニクイズや、受講者同士で授業内容に 関してディスカッションできるフォーラム、近い地域の受講者同士が実際にオフラインで会うことを可能にする ミートアップのしくみなど、総合的な学びのしかけが盛り込まれています。 Courseraの特徴は国内外に拡がる豊富な提携大学の数、多岐にわたる授業内容、そして急速に拡大している 登録受講者数などです。提携校の数は2012年10月の時点で既に33大学までに拡がり、米国内の有名校のみならず、 英エジンバラ大学、カナダのトロント大学、インド工科大学、香港科技大学など、世界的に知名度のある大学が名を 連ねています。さらに2013年1月からはヴァージニア大学のMBAプログラムの授業の提供が予定されています。 講義内容もコンピュータ・サイエンス、ヘルスケア、薬学、生物学、 人文系の社会科学、数学、統計学、経済学、 ファイナンス&ビジネス など幅 広く 、現 在 2 0 0 近い講 義が 提 供されています 。中には インド工科大学の教 授による「We b Int e llige n c e a n d B ig D a t a 」やペンシルバニア大学の 教 授による「 G a m i fi c a t i o n (ゲーミフィケーション)」 など、世界で話題になっている最先端の テーマについて講義を受けることも可能です。登録受講者数は 設 立から半年にも関わらず、10月上旬時点で既に16 0万人を 超えています。内訳は 3分の1が米国から、その他に受講生が 多いのはブラジルとインドです。 米国のメディアではMOOCをめぐる話題が頻繁に取り上げられていますが、一方で、MOOCのような動きはまだ まだ新しく、導入に対して慎重論を唱える意見もあります。 Copyright 2012 DISCO Inc. カーン・アカデミー(Khan Academy)のホームページ その顕著な例が、MOOC導入に消極的であるとして2012年6月に理事会から学長職を解任されたヴァージニア大学 のような例です(ただし、その直後に判断を覆し復職)。 In Colleges' Rush to Try MOOC's, Faculty Are Not Always in the Conversation The Chronicle of Higher Education(2012年9月26日) http://chronicle.com/ar ticle/In-Colleges-Rush-to-Try/134692/ 多くの大学が M O O Cに教育の来るべき未 来を感じており、矢 継ぎ早にオンライン教育を導入している中、 最 近ではMOOCのもたらしうる成果や今後のビジネスモデルなどを含め、将来どのように活用していくかを 議論する機運も高まっています。 2 012 年の10月上旬から11月中旬まで「 C u r r e n t / F u t u r e St ate of Higher Educ ation, An Open Online Course」 ( www.edfuture.net )というタイトルで開講されるオンラインの 授業は、 まさにこうしたテーマに興味を持つ高等教育機関関係者の 間で話題になっています。オンライン講座の中では、たとえば 次にあげるテーマについて議論されています。 【1】ウェブサービスにより私たち一人ひとりがつながりやすくなる中で、学びのプロセスにアプローチする新しい 方法は何か? 【2】起業家精神と商業行為∼新しい収益モデルがどのように教育の枠組みにインパクトを与えるのか? 【3】ビッグデータと分析∼ビッグデータ分析によりどのような新しい教訓を得られるか、またその教訓が教育 現場にどのようなインパクトを与えるのか? 【4】分配された調査∼個人による調査がますます容 易になりつつある中で、教育機関にとってはどのような インパクトがあるのか? 【5】パワーシフト∼リーダーシップと学習の階級制が崩壊することにより、教育の未来にどのようなインパクトを 与えるのか? MOOCに代表されるオンライン教育は、果たして乗り遅れてはならない列車なのか、あるいはビジネスモデルなき ままに拡大し続ける伝統的な教育プログラムからの逸脱なのか、目を離すことができない課題です。時間をおいて おそらく日本にも上陸するであろう、このようなオンライン教育に対する議論は、今後、求められていくでしょう。 ※本文中に紹介しているサイトのアドレスは、執筆当時のものです。参照する際に、移動または削除されている場合が ありますのでご了承ください。 編集 : 株式会社ディスコ 教育広報カンパニー 企画開発グループ ライター : 市川裕康(株式会社ソーシャルカンパニー 代表取締役 / ソーシャルメディアコンサルタント) ソーシャルメディア・コンサルタントとして、ツイッター、フェイスブック等を活用したビジネス・ コンサルティング、非営利団体や企業のCSR / 社会貢献活動の推進・支援に取り組んでいる。 講談社「現代ビジネス」にて「ソーシャルビジネス最前線」、 「デジタル・キュレーション」を連載中。 著書に『Social Good 小事典』 (講談社)がある。 株式会社ディスコ 教育広報カンパニー 企画開発グループ [東京本社]〒112-8515 東京都文京区後楽2-15-1 TEL:03-5804-5568 E-mail info_kyoiku@disc.co.jp URL:www.disc.co.jp Copyright 2012 DISCO Inc.
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