「クルマの使い方」にガソリン価格高騰が及ぼした影響

「クルマの使い方」にガソリン価格高騰が及ぼした影響
Impact Analysis of High Fuel Prices on Drivers’ Behavior
谷 口
守*
安 立 光 陽**
本稿は2006年から2008年にかけて発生した、過去に例のないガソリン価格高騰に際し、
ドライバーの「クルマの使い方」が実際にどう変化したかについて、パネル形式(2WAVE)
のアンケート調査をもとに整理したものである。対象は倉敷市全域の居住者1万人(初年
度抽出ベース)で、分析に際しては個人の運転動機によってクルマの使い方が異なること
に着目した。具体的な検討対象として、運転量の変化のみならず、エコドライブ採用実態、
価格低下時の運転量復元、長期的な利用意向をも含んでいる。分析の結果、クルマ好きの
利用者が最初はクルマ利用削減に抵抗するものの、価格高騰が一定以上進むとレジャー分
野を中心に急激なクルマ離れが進むこと。長期的に見れば、ガソリン価格に限らず自動車
に要するコストが負担となって自動車利用をあきらめることを想定する者が少なくないこ
となどを実証データを通じてはじめて明らかにした。
キーワード ガソリン価格 運転動機 価格弾力性
1.はじめに
様々な社会的条件が激しく変化する中で、将来
の「クルマの使い方」を見通すことは非常に難し
くなっている。高速道路通行料金の週末割引、G
Mなどの破綻、電気自動車の量産開始、エコカー
減税とハイブリッド車の躍進など、新しい話題に
は事欠かない自動車業界だが、特に2006年頃から
2008年夏にかけて発生したガソリン価格の急騰は、
これら諸事象のトリガーになるとともに、一人一
人の「クルマの使い方」に大きな影響を及ぼした。
本稿ではこの2年の期間におよぶガソリン価格高
騰を振り返り、ドライバーに対するパネルベース
のアンケート調査をもとに、個人の「クルマの使
い方」にガソリン価格高騰が及ぼした影響を明ら
かにする。特に本稿では運転動機という観点から
クルマ愛用層が価格高騰に直面してどう反応した
かに焦点をあて、個人の意識にみる自動車利用の
将来的な展望も含めて考察を加える。
*
**
2.調査対象とその内容
2.1 調査対象
本稿で使用した調査の内容を表-1に示す。具体
的には農村から中心市街地まで幅広い地域特性を
内在する岡山県倉敷市を対象に、第1回調査の抽
出ベースで1万人(非ドライバーも含む)を対象
にパネル形式で1年の間隔をあけて2回実施した
ものである。なお、第2回調査は一連の価格高騰
で、2008年8月にガソリンが最高価格(185.1(円/
ℓ ))をつけた直後に実施した。また、表-1に示す
とおり第1回調査は価格高騰の中でも相対的に価
格上昇率が緩やかであった前半の1年間(漸騰期
と呼ぶ)に、第2回調査は価格上昇率が非常に高
かった後半の1年間(急騰期と呼ぶ)にちょうど
対応している。このため、全体として2年間に及
ぶ上昇率の異なる価格変化に対する「クルマの使
い方」の変化を2断面で対応して捉えている。
本稿では特集の主旨に添って、この調査データ
をもとにガソリン価格高騰に伴う「クルマの使い
正 会 員 筑波大学大学院システム情報工学研究科 社会システム・マネジメント専攻 教授(e-mail:mamoru@sk.tsukuba.ac.jp)
学生会員 筑波大学大学院システム情報工学研究科 社会システム工学専攻(e-mail:madachi@sk.tsukuba.ac.jp)
1
方」の変化に関わるポイントをわかりやすく伝え
ることに主眼を置く。なお、ここに含まれる分析
のいくつかは、その詳細について巻末に示す審査
付論文などで既に発表を行っている1)2)3)4)。細かな
数値、統計的な検定、関連する既存研究等の詳細
についてはそれぞれの文献を参照いただきたい。
2.2 運転動機群
個人の「クルマの使い方」やその変化には、そ
れぞれの運転動機(車が好き、仕事で使わざるを
えない、送迎で必要、むしろ安上がり他)が大き
く関係していると考えられる。また、このような
パネル調査はサンプル消耗が最大の課題であるた
め、回収率を下げる傾向の強い設問(年収や世帯
構成など)には注意が必要である。このような理
由から、本調査では収入などは尋ねず、個人の運
転動機(全19項目)を直接尋ねる方法を採用した。
この回答をもとに年齢、職業、性別、世帯属性と
いう外部観察可能な4変数を組み合わせ、運転動機
の類似した9タイプにドライバーを分類(運転動機
群)している2)。
本稿ではこれら9類の群の中から、生活の中で車
利用に比較的重点がおかれており、今後の「クル
マの使い方」を考える上で意義深いと考えられる
表-2に示す4種の運転動機群のみをとりあげる。
A.愛用型・若年層:30歳未満の若年男女層が中心。
自動車に乗るという行為自体が好きで、将来の
自動車買換え購入の中心になる層と考えられる。
他群に比較してクーペ、ステーションワゴンな
どを保有する割合が相対的に高い。
B.道具・愛用型、壮年女性層:30歳から50歳まで
の女性(主婦、有職者両方を含む)が中心で多
くは子供のいる世帯に属する。主に利用する車
として軽自動車がほぼ50%に達する。送迎・買物
など生活の道具としての利用が中心であるが、
車愛用度も比較的高い。
C.必要・愛用型、壮年男性就業者層:30歳から50
歳までの男性のみから構成され、車好きであり、
かつ仕事でも車を使うという層である。世帯を
構成している者が多く、ワンボックス型ミニバ
ンを主として利用する割合が他の群と比較して
最も高い。
D.必要利用型、中高齢男性就業者層:50歳以上の
就業男性を中心に、車好きではないが仕事で使
う層である。主に利用する車種はセダンの割合
が他群と比較して最も高く、また軽自動車の割
合が他群と比較して最も低い。
表-1 調査の概要
wave
調査対象
配布・回収方法
調査実施時期
配布部数
有効サンプル数
(有効回収率)
主な質問項目
第1回(漸騰期)
倉敷市居住者(18歳
以上)の住民台帳より
無作為抽出
郵送配布・郵送回収
2007年9月14~30日
10,000
第2回(急騰期)
第1回調査において
自動車の運転を行っ
ていた者の内,継続協
力の意思を示した者
郵送配布・郵送回収
2008年9月14~30日
1,517
3.クルマの使い方の実態とその変化
3.1 分析の結果
以上の4タイプの運転動機群に対し、2回の調査
における共通サンプル(パネルデータ)を用い、
それぞれの期間における自動車利用抑制行動の有
無(図-1)、抑制行動の内容(図-2)、ガソリン
価格上昇に対する目的別価格弾力性値(実際)(図
-3)を示す。また、第2回調査時に尋ねた価格低
4,088(40.9%)
863(56.9%)
(運転を行っていた
者:2,600)
・個人属性
・個人属性の変化
・運転動機
・ガソリン価格が下落
・自動車利用実態
した場合の運転量
・態度,行動変容
増加意向
可能性
・ガソリン価格高騰による自動車利用の変化
表-2 本稿でとりあげる運転動機群
価格上昇による
回答時から過去1年間 回答時から過去1年間
影響の調査期間
調査期間中
145.4(円/ℓ)
185.1(円/ℓ)
の最高価格
調査期間中の
16.6(円/ℓ)
41.7円(円/ℓ)※1
最低価格からの
(12.90%)
(29.10%)
価格上昇分(%)
※1 ガソリン税暫定税率廃止期間(2008年4月1日~30日)中の
ガソリン価格は除く
記号
A
B
C
D
2
パネル
サンプル数
63
愛用型,若年層
129
道具・愛用型,壮年女性層
125
必要・愛用型,壮年男性就業者層
138
必要利用型,中高齢男性就業者層
運転動機群・名称
第1回(漸騰期)
第2回(急騰期)
下時における価格弾力性値(想定)を図-4に、第
1回調査時に尋ねた10年後の自動車利用意向を図
-5に示す。なお、図-2と図-5は各群で抑制行動の
有った者、10年後の運転削減を考える者をそれぞ
れ100%として選択率構成を算出している。
これらの図をもとに、以下ではA~Dの運転動
機群ごとに「クルマの使い方」に関するガソリン
価格高騰の影響と今後について、考察を加える。
A
B
C
D
あるかもしれない 少しある ある
80% 60% 40% 20% 0% 0%
20%
40%
60%
80%
図-1 運転動機群別ガソリン価格高騰を理由とする自動
車利用抑制行動の有無
第1回(漸騰期)
① 走行距離や運転回数の削減
A
B
C
D
②鉄道・バスへの手段変更
A
B
C
D
③自転車・徒歩への手段変更
A
B
C
D
④訪問先の変更
A
B
C
D
⑤他人との相乗り
A
B
C
D
⑥急発進・急ブレーキの抑制
A
B
C
D
⑦停車時のエンジン停止
A
B
C
D
⑧燃費の良い自動車への乗り換え
A
B
C
D
⑨自動車の手放し
A
B
C
D
80% 60% 40% 20%
0%
0%
第2回(急騰期)
第1回(漸騰時)
a)通勤通学目的
第2回(急騰時)
A
B
C
D
b)自由利用目的(買い物・送迎等日常)
A
B
C
D
c)自由利用目的(観光・レジャー等非日常)
A
B
C
D
d)全目的
A
B
C
D
-1.5 -1.2 -0.9 -0.6 -0.3 0.0
0.0 -0.3 -0.6 -0.9 -1.2 -1.5
図-3 運転動機群別運転距離(台キロ)の目的別
価格弾力性値(価格上昇時、実際)
A
145(円/ℓ)に B
低下した場合 C
D
A
100(円/ℓ)に B
低下した場合 C
D
0.0 -0.1 -0.2 -0.3 -0.4
図-4 運転動機群別運転距離(台キロ)の価格弾力性値
(価格低下時、想定)
20% 40% 60% 80%
図-2 運転動機群別ガソリン価格高騰を理由とする自動
車利用抑制行動の内容(複数選択)
3
1) A.愛用型・若年層
図-1より、好きで車を運転している愛用型運転
動機群に属するA、B、Cのグループにおいて、
価格高騰を理由とする抑制行動実施者(「実施し
たことがあるかもしれない」という回答も含む)
は2年とも50%を超えている。車好きではないグル
ープDと比較するといずれも高い選択比となって
いる。すなわち、愛用者だから自動車利用抑制行
動をしないという訳では全くなく、好き嫌いとは
別の理由で利用抑制行動が生じているといえる。
一方図-2より、具体的な抑制行動の中身として、
このタイプはエコドライブに類する⑥急発進・急
ブレーキの抑制が他群よりも相対的に高く、一連
のガソリン価格高騰が、若者たちの粗暴運転の抑
止効果を誘発したという点は興味深い。また、漸
騰期である第1回調査時には⑤他人との相乗りや
⑧燃費の良い自動車への乗り換えを指向する割合
が相対的に高い。自動車利用を放棄するのではな
く、自動車利用にこだわりつつ方向性を探る様子
が読み取れる。
また、図-3の価格弾力性値を見ると、漸騰期に
比較し、急騰期で価格弾力性値の絶対値がトリッ
プ目的ごとに大きく跳ね上がっている。これはこ
のグループがまだ若年で可処分所得に余裕が無い
ことが理由であると考えられる。具体的には、多
少の値上がりに対しては我慢して好きな車利用を
優先させる(漸騰期)が、価格上昇が一定レベル
を超えると車を使いたくとも予算的に使えない状
態になってしまい、運転量が大きく減少する(急
騰期)という姿が垣間見える。これにトリップ目
的を絡ませて考察すると、漸騰期はb)日常利用の
買い物などから自動車利用を抑制し、c)非日常の
レジャーなどでは車利用を続けようとしているが、
急騰期についに耐え切れなくなって自動車利用全
体をバッサリと減らしてしまう形になっている。
このように価格変化が一定レベルを超えると極
端な変化を行うようになるという傾向は、価格低
下時の意識においても読み取ることができる。図
-4に示すとおり、この群では少し価格が低下した
ぐらい(185.1(円/ℓ )から145(円/ℓ ))では、自
動車利用を復元するつもりはほとんど無いことが
10年後に運転削減を考える者の割合
(ガソリン価格を理由とする削減は除く)
A
B
C
D
その理由の選択割合
A
B
ア)費用負担 C
D
A
イ)車への興味 B
C
喪失
D
A
ウ)交通事故 B
C
恐い
D
A
エ)送迎等利用 B
C
軽減
D
A
オ)車の必要ない B
地域へ引越し C
D
予定
A
カ)業務等利用 B
C
軽減
D
A
キ)肉体的に B
C
負担
D
A
ク)高齢のため等で B
C
運転危ない
D
A
ケ)地球環境 B
C
のため
D
0%
20% 40% 60% 80%
図-5 運転動機群別 10 年後に運転削減を考える者の割
合とその理由(ガソリン価格を理由とする削減は
除く)(複数選択)
3.2 運転動機群ごとに見るガソリン価格高騰の
影響
4
わかる。一方で、さらに100(円/ℓ )までガソリン
価格が安くなると、自動車利用を他群より大きく
復活させたいと考えている。
ちなみに、将来(10年後)については、図-5よ
り3割程度の者が運転削減を考えている(ガソリン
価格高騰以外の理由)ことがわかる。その内訳と
して費用負担を理由にあげる者が最も多かった。
将来の収入の伸びが過去ほど期待できない現代の
若年層にとって、将来にわたって自動車利用を続
けることはガソリン価格高騰といった要素を除い
てもコスト的に容易ではないということで、若年
層の車離れの理由の一端が奇しくも浮彫りにされ
たといえる。
2) B.道具・愛用型、壮年女性層
図-1から明らかなとおり、このグループは他の
運転動機群と比較して、期間を通じて最も自動車
利用抑制行動をとった者の割合が高かった。その
中でも、図-2に示されるとおり、③自転車・徒歩
への交通手段転換を行った者の割合が他群と比較
して相対的に高くなっている。また、急騰期に至
っては、①走行距離や運転回数の削減を行った者
の割合が抑制行動をとった者の6割を超えている。
次に、図-3が示すとおり2回の調査を通じて価格
弾力性値の絶対値は他群に比較して相対的に大き
く、価格に対して最も敏感に反応するグループで
あるといえる。特に非日常自由目的に対する反応
が非常に大きく、ガソリン価格急騰によって車で
レジャーに出ること自体を一切やめてしまうとい
う極端な行動も散見された。その一方でガソリン
価格が安くなれば、自動車利用を復活させたいと
他グループより強く考えている(図-4)。これらの
ことから、車好きでありながら主婦的な経費節減
感覚も強く、価格に対する反応が鋭敏な一方、同
じ車好きでもAの若者ほど車利用に固執していな
いということもこのグループの特徴である。
また、図-5よりこの群で10年後に何らかの運転
削減を考える者は5割を超えており、エ)送迎等利
用軽減、ウ)交通事故が恐いといった他の群ではあ
まり選択率の高くない項目がその理由となってい
る。車は好きであっても、子育てが終わると送迎
などのいわゆる道具的利用は軽減されるので、そ
5
の分の自動車利用は削減されると想定されている。
3) C.必要・愛用型、壮年男性就業者層
A、B、Cの愛用型運転動機群の中で、最も自
動車利用抑制行動をとった者の割合が少なくなっ
ている(図-1)。図-2においても、他の運転動機群
と比較して、全般的に選択率が低い傾向が読み取
れる。仕事で車を利用しているグループであるた
め、運転量の削減自体はそれほど容易ではないこ
とが類推される。一方で、⑥急発進・急ブレーキ
の抑制などのエコドライブについては、車利用そ
のものを減らさなくとも実行は可能なはずである。
しかし今回の回答を見る限り、このグループは忙
しくてそこまで気が回っていないようにも見える。
この他にも仕事の場で必要に迫られて自動車を
利用しているために、図-3におけるa)通勤目的利
用における価格弾力性値は他の群と比較して最低
値になっている。一方で、同じく図-3において、
b)、c)などの自由利用目的での価格弾力性(絶対
値)が相対的に高くなっており、仕事で減らせない
分を家庭のレジャーで減らすという関係が読み取
れる。さらに、図-4から、価格が安くなった場合
でも、AやBといった他の愛用型運転動機群ほど
運転量を復活させるつもりはないことも読み取れ
る。
将来については、図-5より本稿で取り上げた4つ
の運転動機群の中では10年後に運転削減を考える
者の割合が一番低い。しかし、それでも3割の者が
運転削減を考えている。働き盛りでそれなりの収
入もあると思われる年齢層から構成されるグルー
プであるが、今後の運転削減理由として費用負担
を第一にあげている。この結果だけから判断して
も、経済的な問題が将来的なクルマ利用の全体量
に及ぼす影響は非常に大きいことが示唆されたと
いえる。
4) D.必要利用型、中高齢男性就業者層
図-1から読み取れるように、他の運転動機群と
比較して、価格高騰による自動車利用抑制は顕著
ではない。比較的所得に余裕がある者が多い層で
あることがこの理由であると考えられる。抑制行
動の実際の内容は、図-2より他手段への手段変更
は少ないものの、①走行距離や運転回数の削減、
⑥急発進・急ブレーキの抑制といった抑制行動の
実施が目立っている。
また、図-3、図-4の両方から、価格上昇、低下
時に関わらず、価格弾力性値の絶対値は他群と比
較して相対的に小さい値となっている。クルマが
好きだというわけではないが、金銭的にも余裕が
あり、必要があって使用しているため、ガソリン
価格変化に対する反応は総じて鈍いグループであ
るということがわかる。
一方で、図-5から示されるように、10年後運転
を削減しようと思う者は7割を超えて最大であり、
ク)高齢のため等で運転危ない、キ)肉体的に負担、
といった年齢に関する理由がその原因となってお
り、この傾向は他のグループとは大きく異なる。
5) 全体的な傾向など
以上で運転動機群ごとに影響を整理してきたが、
全体を通し、次のような事項にも注意が必要であ
る。まず、図-3から、トリップ目的が異なること
でこれほども価格弾力性値は異なり、また価格の
上昇度合いによって同じ目的であってもその数値
はかなり異なったものになるということである。
また、図-3と図-4を見比べると価格上昇時の弾力
性値に比較し、価格低下時の弾力性値の方が絶対
値として小さな値になっている。これは第2回調
査時点が価格急騰期のピークに相当し、一種の社
会不安が存在したことが原因と考えられる。具体
的には、価格が低下しても自動車利用を回復させ
るだろうかという点について、懐疑的な気持ちに
陥った回答者が調査時に多かったことは想像に難
くない。
また、図-5でケ)地球環境のためを選択した者が
少なくないのは、この設問の回答が複数選択可能
であったためである。むしろ自動車愛用型の行動
群で自動車利用の罪滅ぼしであるかのようにこの
項目の選択率が高くなっていることは興味深い。
一方で、図-5より車好きの者が車に興味を失って
自動車利用を取りやめるというようなことは稀有
であり、経済的理由が運転削減の主たる理由とな
っていることが読み取れる。
4.おわりに
一連の分析より、個人の「クルマの使い方」は
単にガソリン価格変化の影響だけを取り上げても、
その運転動機、トリップ目的、価格の変動状況(漸
騰か急騰か)によってその影響は千差万別である
ことが示された。例えば車好きな群は、多少の価
格変化に対しては今までの車利用水準を保持しよ
うとするが、大きな価格変化に直面すると一気に
行動を変えてしまう傾向があることが明らかとな
った。各運転動機群で可処分所得の上限が潜在的
に異なっていることがこのような差を生む大きな
理由になっていると思われる。
本稿での検討内容は不透明感を増す今後の交通
需要予測や自動車販売のマーケティングにも資す
るものと考えている。実際の価格低下に伴う運転
量復元の実態や、ライフサイクルステージに応じ
た自動車の買換えの進展可能性など、周囲には興
味深い関連課題がまだ山積している状態である。
最後になったが、本調査研究の実施にあたり、
中野道王氏((株)豊田中央研究所)、筑波大学石
田東生教授、京都大学松中亮治准教授、岡山大学
橋本成仁准教授より有益なコメントをいただいた。
分析作業では横山大輔氏(国土交通省)、藤井啓
介氏(岡山大学大学院)の協力を得た。また、調
査実施においては倉敷市役所のご協力をいただい
た。記して謝意を申し上げる。
参 考 文 献
1) 横山大輔, 藤井啓介, 谷口守;"ガソリン価格高騰に
よる個人の自動車利用抑制の実態", 交通工学論文報告
集, Vol.28, pp.273-276, 2008
2) 谷口守, 藤井啓介, 安立光陽;"パネルデータに基づ
く運転動機を考慮したガソリン価格高騰の段階的影響分
析", 土木学会論文集, Vol.65, No.2, pp.129-142, 2009
3) 横山大輔, 谷口守, 松中亮治;"運転動機と環境意識
が交通環境負荷低減策の受容性に及ぼす影響", -ショ
ッピングCO2排出量指標を用いて-, 環境システム研究論
文集, Vol.36, pp.389-396, 2008
4) 谷口守, 松中亮治, 藤井啓介, 横山大輔;"「自動車
好き」:その行動と嗜好を探る", 第3回JCOMM(日本モビ
リティ・マネジメント会議), 2008
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