樹脂流動解析による LCP 薄肉射出成形品の収縮異方性予測手法の

樹脂流動解析による LCP 薄肉射出成形品の収縮異方性予測手法の提案
Proposal of Shrinkage Anisotropy Prediction Method for Thin LCP Part by Flow Analysis
(松下電工)○(正)杉田寿夫,(金沢工大院)(学)松原永治,(正)瀬戸雅宏,(正)山部昌
Keywords: Liquid Crystalline Polymer/Flow Analysis/Anisotropic shrinkage/Injection molding
300
LCP
Linear Approximation
250
200
150
100
50
0
0
10
20
30
40
Molecular Orientation Ratio
50
Fig.2 Relationship between Molecular Orientation Ratio
and Thermal Expansion Coefficient Ratio (LCP)
30
Molecular Orientation Ratio
Toshio SUGITA*: Matsushita Electric Works, Ltd.
Eiji MATSUBARA, Masahiro SETO and Masashi
YAMABE: Department of Material Design Engineering,
Kanazawa Institute of Technology
* 1048 Kadoma, Kadoma-shi, Osaka, JAPAN 571-8686
Tel: 06-6906-3288, Fax: 06-6908-3181
E-mail: sugita@mail.mew.co.jp
Fig.1 Shape of Injection Molded Plate
Thermal Expansion Coefficient Ratio
[×10-6/℃]
1. 緒 言
液晶ポリマー(以下,LCP)はせん断配向による高強度・
高弾性率の自己補強効果や寸法安定性,低膨張性と
いった優れた特性から小型・薄肉・微細成形品に用い
られる1).しかし,剛直な分子構造により強い異方性を
示すことから,成形品の反り解析の精度が低くなる問題
点がある.瀬戸ら2)は,非晶性樹脂の PS を用い,金型
内可視化実験により求めたせん断ひずみエネルギー
と分子配向度・線膨張係数の関係を検討し,流動解析
結果から得られるせん断ひずみエネルギーから線膨
張係数分布を予測する反り解析の精度向上手法を提
案している.
本研究では,種々の機械的特性において非晶性樹脂
や結晶性樹脂よりさらに異方性が大きいとされる LCP
について線膨張係数の予測手法を検討した.
2. 分子配向度と線膨張係数の異方性評価
2.1 実験方法
本研究で用いた薄肉成形品の形状は図1 に示すように
100×50×0.5mm とし,薄肉部の樹脂流動方向を一方
向に限定するため,ゲートをフィルムゲートとした.供試
材料は液晶性樹脂LCP(VECTRA-E473i,ポリプラスチ
ックス㈱製)である.成形にはプランジャー径φ28mm
のプリプラ式射出成形機(TR50S2,ソディックプラステ
ック㈱製)を用いた.分子配向度は,成形品から 35×
35mm を切り出したのち板厚方向に 5 層研磨分割
(0.1mm/層)したスライス状試験片を作製し,マイクロ波
式分子配向評価装置(MOA-3012A,王子計測機器㈱
製)を用いて測定した.線膨張係数は,同様に作製した
10×5×0.1mm の試験片について,熱機械分析装置
(TMA-50,㈱島津製作所製)を用いて測定した熱たわ
みから JIS K7197 に基づき算出した.
25
20
15
10
5
0
Skin
Middle
Layer
Core
Fig.3 Relationship between Layer and Molecular
Orientation Ratio (LCP-IS150mm/s)
5
Skin
Middle
Core
4
3
2
1
0
0.00
0.02
0.04
0.06
Time [sec]
(3)
せん断ひずみエネルギーは成形品のスキン層で最大
となり,ミドル層,コア層に向かうにつれせん断ひずみ
エネルギーは小さくなった.しかし,図 3 に示した分子
配向度の測定結果と傾向が異なり,流動解析により算
出したせん断ひずみエネルギーと成形品の分子配向
度には相関性が低い結果となった.これは,充填過程
での樹脂の急冷現象を流動解析,特に伝熱計算にお
いて高精度に予測できていないためと考えられる.
3.2 熱伝達係数をパラメータとした解析とその検討
そこで本検討では金型表面と樹脂表面との界面におけ
る熱の移動量を変化させ,成形品内部の急冷現象と固
化層の成長を表現することを目的とし,熱伝達係数を
変化さ せ て 定性的な 解析を 行っ た . 初期値を
500W/m2K とし,瀬戸ら2)の PS での可視化実験結果と
同様の傾向になるまで解析を繰り返した.
熱伝達係数を 15000W/m2K としたとき,図 4 に示すよう
にスキン層側からの急冷現象と固化層の成長が再現で
きた.また,固化層が形成される直前では,流動停止温
度付近まで流動中の樹脂の冷却が進んでいることから,
0.08
0.10
Fig.4 Relationship between Time after the Resin Passage
and Power by Shear Flow (LCP-IS150mm/s)
30
Molecular Orientation Ratio
&(T,γ
&)
P =τ⋅γ
粘度が急激に上昇しせん断ひずみエネルギーも大きく
なることがわかった.
図 5 に流動解析により算出したせん断ひずみエネルギ
ーと成形品の分子配向度の関係を示す.LCP では,せ
ん断ひずみエネルギーが小さいときでも,ある程度の
分子配向が生じていることがわかった.また,わずかな
せん断ひずみエネルギーを受けることで分子配向度
が急激に増加し,飽和することがわかった.この結果に
ついて,LCP の特異な性質である,溶融時でも分子鎖
がわずかに配向する液晶性と,わずかなせん断力によ
る分子鎖の剛直な配向性によるものと考えられる.
4. 結言
・流動解析で熱伝達係数をパラメータ化し変化させた
解析により,射出成形過程の急冷現象と固化層の成長
が再現できる.
・流動解析によるせん断ひずみエネルギーから線膨張
係数の異方性を予測することが可能である.
Power by Shear Flow
[×109 J/m3 ・s]
2.2 測定結果
分子配向度は分子鎖の配向の度合いを示し,線膨張
係数比は MD と TD の収縮の異方性の度合いを示す.
図 2 に示すように,LCP のスライス状試験片では分子
配向度と線膨張係数比の関係に相関性がみられた.
また,図 3 に示すように,LCP スライス状試験片の分子
配向度は,成形品のミドル層で最大となり,スキン層,コ
ア層の順に小さくなった.
3. 射出成形 CAE を用いた線膨張係数の異方性予測
3.1 流動解析による分子配向度予測の検討
本研究で用いる LCP は溶融時に透明度が低いため金
型内樹脂流動可視化によるせん断ひずみエネルギー
の評価が行えない.そこで,流動解析により算出したせ
ん断ひずみエネルギーと分子配向度および線膨張係
数の異方性との比較検討を行う.流動解析に用いたソ
フトは 3D TIMON ver.7.4(東レエンジニアリング㈱製)
である.ここでは,せん断応力とひずみ速度から単位
時間・単位面積当たりのせん断ひずみエネルギーを算
出した.単位時間,単位面積当たりのせん断ひずみエ
ネルギーをその作用時間で積分するとせん断ひずみ
エネルギーが算出できる.ここで、τ:せん断応力,
.
γ:ひずみ速度,η:粘度,tanθ:速度勾配,⊿v:速度
差,P:単位時間・単位面積あたりのせん断ひずみエネ
ルギーである.
(1)
&⋅η
τ= γ
&= ⊿v
(2)
&= tanθ
γ
⊿x
25
20
15
10
5
LCP
0
0
50
100
150
200
Shear Strain Energy [×106 J/m3]
Fig.5 Relationship between Shear Strain Energy and
Molecular Orientation Ratio
参考文献
1)末永:成形・設計のための液晶ポリマー, 22(1995)
2)瀬戸,田中,山部:成形加工 03 年次大会予稿集,
Ⅰ-106, P.43(2003)