一般部門 一般 部門 岩手医科大学附属病院 石澤 毅士 Ⅰ.実施項目と回答方法 平成 25 年度の一般検査部門精度管理は、尿沈渣成分および髄液検査に関するフォトサーベイ を 17 設問(設問 14~16 は評価対象外)について実施した。尿沈渣については成分名を『尿沈渣 検査法 2000 および尿沈渣検査法 2010』の分類に従って、また髄液検査では細胞分類について選 択肢より選ぶように回答を求めた。 Ⅱ.参加施設数 50 施設(昨年度 54 施設) Ⅲ.設問毎正解率 設問毎正解率を示す(図)。正解率は 64.0~98.0%であった。評価対象で設問 7、設問 8、設問 12 は正解率 80%未満であったが、設問 7 と設問 12 は臨床的意義が高い成分であり評価対象とし、 設問 8 のみ『日臨技臨床検査精度管理調査フォトサーベイ評価法に関する指針』に基づき、評価 対象外とした。 100 正解率(%) 90 96 98 98 96 98 94 88 86 90 84 83.3 80 80 76 72 74 72 70 64 60 50 1 2 図.設問毎正解率 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 設 問 Ⅳ.設問、正解および解説 設問 1 (写真 1-A、写真 1-B) A と B の組み合わせで正しいと思われるのはどれか判定してください。 A:無染色 400 倍 B:無染色 400 倍 選択肢:1.A 糸球体型赤血球(変形赤血球)と B 糸球体型赤血球(変形赤血球) 2.A 糸球体型赤血球(変形赤血球)と B 非糸球体型赤血球(均一赤血球) 3.A 非糸球体型赤血球(均一赤血球)と B 糸球体型赤血球(変形赤血球) 4.A 非糸球体型赤血球(均一赤血球)と B 非糸球体型赤血球(均一赤血球) 写真 1―A 選択肢 写真 1-B 件 数 割合(%) 1 A 糸球体型赤血球(変形赤血球)と B 糸球体型赤血球(変形赤血球) 0 0.0 2 A 糸球体型赤血球(変形赤血球)と B 非糸球体型赤血球(均一赤血球) 5 10.0 3 A 非糸球体型赤血球(均一赤血球)と B 糸球体型赤血球(変形赤血球) 2 4.0 4 A 非糸球体型赤血球(均一赤血球)と B 非糸球体型赤血球(均一赤血球) 43 86.0 正解 4. A 非糸球体型赤血球(均一赤血球)と B 非糸球体型赤血球(均一赤血球) :正解率 86.0% 写真 1-A の赤血球形態は、非糸球体型赤血球(均一赤血球)である球状赤血球、コブ・球状 赤血球、一部に脱ヘモグロビン状の赤血球が認められ、全体的に単調な形態であり、不均一性は 認めないことから非糸球体型赤血球(均一赤血球)であると判定できる。写真 1-B は、委縮・ 球状赤血球、委縮・円盤状赤血球が認められ、単調な形態を示すことから非糸球体型赤血球(均 一赤血球)であると判定できる。委縮状を示す形態は、高浸透圧尿や、酸性尿中で観察できる。 設問 2 (写真 2-A、写真 2-B) 70 才代、男性・自然尿 外科入院時の患者の尿にみられた成分です。写真に示す細胞成分を判定してください。 A:無染色 400 倍 尿定性成績:pH6.0 B:Sternheimer 染色 400 倍 蛋白(-)、糖(-)、潜血(2+) 選択肢:1.扁平上皮細胞 2.尿路上皮(移行上皮)細胞 3.尿細管上皮細胞 4.円柱上皮細胞 5.混入物 写真 2-B 写真 2-A 選択肢 件 数 割合(%) 1 扁平上皮細胞 0 0.0 2 尿路上皮(移行上皮)細胞 2 4.0 3 尿細管上皮細胞 48 96.0 4 円柱上皮細胞 0 0.0 5 混入物 0 0.0 正解 3.尿細管上皮細胞 :正解率 96.0% 無染色では、色調が黄色調で、辺縁は角ばり棘状の突起も観察され、表面構造は微細顆粒状~ 均質状を呈している。S 染色では、赤紫色に良好に染色され、核は濃縮状で偏在していることか ら尿細管上皮細胞の角柱・角錐台型であると判定できる。また、写真 2-A では、円柱基質内に 封入されていることも重要な判定ポイントになる。 設問 3 (写真 3-A、写真 3-B) 70 才代、男性・自然尿 糖尿病外来の患者尿にみられた成分です。写真に示す細胞成分を判定してください。 A:無染色 400 倍 尿定性成績:pH6.0 生化学成績:BUN 選択肢:1.硝子円柱 B:Sternheimer 染色 蛋白(>=300mg/dl) 44.4mg/dl、CRE 2.赤血球円柱 400 倍 糖(100mg/dl) 潜血(2+) 3.45mg/dl 3.上皮円柱 4.顆粒円柱 5.空胞変性円柱 写真 3-A 選択肢 写真 3-B 件 数 割合(%) 1 硝子円柱 0 0.0 2 赤血球円柱 1 2.0 3 上皮円柱 0 0.0 4 顆粒円柱 0 0.0 5 空胞変性円柱 49 98.0 正解 5.空胞変性円柱:正解率 98.0% 無染色では、両辺が平行であることから円柱が考えられ、基質は空胞化、光沢感があり、ろう 様基質である。S 染色では、硝子円柱の基質が左側に認めるが、右側には青紫色に染色された空 胞化が認められ、空胞変性円柱であると判定できる。空胞変性円柱は、重症の糖尿病性腎症で多 くみられ、高度の蛋白尿や腎機能低下を伴う症例が多い。本症例では、尿蛋白(>=300mg/dl)、 尿糖(100mg/dl)、血清 CRE 3.45mg/dl であり、重症の糖尿病性腎症患者であることがわかる。 設問 4 (写真 4-A、写真 4-B) 80 歳代、女性・カテーテル尿 内科入院中の患者尿にみられた成分です。写真に示す集塊を構成する細胞成分を判定してくだ さい。 A:無染色 400 倍 尿定性成績:pH6.0 B:Sternheimer 染色 蛋白(±) 選択肢:1.扁平上皮細胞 糖(-) 400 倍 潜血(2+) 2.尿路上皮(移行上皮)細胞 亜硝酸塩(+)白血球(3+) 3.尿細管上皮細胞 4.大食細胞 5.異型細胞(腺癌細胞疑い) 写真 4-B 写真 4-A 選択肢 件数 割合(%) 1 扁平上皮細胞 0 0.0 2 尿路上皮(移行上皮)細胞 48 96.0 3 尿細管上皮細胞 2 4.0 4 大食細胞 0 0.0 5 異型細胞(腺癌細胞疑い) 0 0.0 正解 2.尿路上皮(移行上皮)細胞:正解率 96.0% 無染色で認められる細胞集塊を構成する成分は、黄色調で表面構造がザラザラしており漆喰状、 辺縁構造が角ばっていることから尿路上皮(移行上皮)系の細胞であると判定でき、S 染色では、 核異型を認めないことから尿路上皮(移行上皮)細胞であると判定できる。本症例はカテーテル 尿であることから、カテーテル挿入による機械的損傷により尿路上皮(移行上皮)細胞が細胞集 塊で出現したと考えられる。 設問 5 (写真 5-A、写真 5-B) 70 歳代、男性・自然尿 泌尿器科外来の患者尿にみられた成分です。写真に示す細胞成分を判定してください。 A:無染色 400 倍 尿定性成績:pH5.0 B:Sternheimer 染色 蛋白(-) 選択肢:1.尿細管上皮細胞 糖(-) 400 倍 潜血(-) 2 尿路上皮(.移行上皮)細胞 3.扁平上皮細胞 4.大食細胞 5.異型細胞(腺癌細胞疑い) 写真 5-A 選択肢 写真 5-B 件 数 割合(%) 1 尿細管上皮細胞 2 4.0 2 尿路上皮(移行上皮)細胞 4 8.0 3 扁平上皮細胞 0 0.0 4 大食細胞 2 4.0 5 異型細胞(腺癌細胞疑い) 42 84.0 正解 5.異型細胞(腺癌細胞疑い):正解率 84.0% 無染色の細胞集塊を構成する成分は、細胞質がやや黄色調で、透明感が強く、表面構造が均質 状であり、脂肪顆粒を有していることから円柱上皮系の細胞であることが疑われる。S 染色では 核形の不整が強くクロマチン増量所見を有し、核小体が腫大していることから異型細胞(腺癌細 胞疑い)と判定できる。本症例は、前立腺癌の尿路浸潤で認められた異型細胞(腺癌細胞)であ った。 設問 6 (写真 6-A、写真 6-B) 円柱の判定の組み合わせで正しいと思われるものはどれか。 A:Sternheimer 染色 尿定性成績:pH5.5 400 倍 B:Sternheimer 染色 蛋白(1+) 糖(―) 選択肢:1.A:上皮円柱と B:白血球円柱 3.A:上皮円柱と B:上皮円柱 400 倍 潜血(2+) 2.A:白血球円柱と B::白血球円柱 4.A:白血球円柱と B:上皮円柱 写真 6-A 選択肢 写真 6-A 件 数 割合(%) 1 A:上皮円柱と B:白血球円柱 0 0 2 A:白血球円柱と B::白血球円柱 1 2.0 3 A:上皮円柱と B:上皮円柱 0 0.0 4 A:白血球円柱と B:上皮円柱 49 98.0 正解 4. A:白血球円柱と B:上皮円柱:正解率 98.0% 写真 A、B ともに S 染色での円柱成分であり、円柱の種類の組み合わせを選択する設問である。 写真 6-A の円柱内に封入された成分は、染色性が不良であり、細胞形は円形で、分葉した核が 観察できることから、白血球(好中球)が封入された白血球円柱であると判定できる。写真 6- B の円柱内に封入された成分は、S 染色性が赤紫色に良好に染色され、核は濃縮状、細胞質の厚 み、辺縁の角ばりがあることから封入された成分は尿細管上皮細胞であると判定でき、上皮円柱 が正解である。以上より、A が白血球円柱、B が上皮円柱であると判定できる。 設問 7 (写真 7-A、写真 7-B) 70 歳代、男性・自然尿 糖尿病性腎症の患者尿にみられた成分です。矢印で示す成分を判定してください。 A:無染色 400 倍 尿定性成績:pH6.0 B:Sternheimer 染色 蛋白(>=300mg/dl) 生化学成績:BUN 36.5mg/dl 選択肢:1.尿細管上皮細胞 400 倍 糖(250mg/dl) 潜血(2+) CRE 3.25mg/dl 2.大食細胞 3.細胞質内封入体細胞 4.卵円形脂肪体 5.異型細胞(腺癌細胞疑い) 写真 7-A 選択肢 写真 7-B 件 数 割合(%) 1 尿細管上皮細胞 0 0.0 2 大食細胞 12 24.0 3 細胞質内封入体細胞 0 0.0 4 卵円形脂肪体 38 76.0 5 異型細胞(腺癌細胞疑い) 0 0.0 正解 4. 卵円形脂肪体:正解率 76.0% 無染色では、黒褐色調に観察されるのは脂肪顆粒であり、S 染色では脂肪顆粒は染まらない。 無染色、S 染色ともに辺縁構造はケバケバして不明瞭であることから脂肪顆粒を含有した成分は 大食細胞由来であることが考えられるが、本症例は尿蛋白(>=300mg/dl)、尿糖(250mg/dl)、 血清 CRE 3.25mg/dl と、高度蛋白尿であり、腎障害を伴っている。腎障害に伴って出現する脂 肪顆粒を含有する細胞では、尿細管上皮細胞由来と大食細胞由来があり、これらは両者を区別せ ず卵円形脂肪体とすることは尿沈渣検査法 2010 に明記されている。以上より、卵円形脂肪体が 正解であり、大食細胞を不正解とした。また、正解率が 80%未満であるが、本成分は重症ネフロ ーゼ症候群患者に高率に認め本症診断基準の1つであり臨床的に有用な成分であることから評価 対象とした。 設問 8 (写真 8-A、写真 8-B) 80 才代、男性・自然尿 糖尿病外来患者の尿にみられた成分です。写真に示す細胞成分を判定してください。 A:無染色 400 倍 尿定性成績:pH5.5 B:Sternheimer 染色 400 倍 蛋白(30mg/dl)、糖(-)、潜血(-) 生化学成績:AST 73 IU/L ALT 81 IU/L BUN 24.3mg/dl 選択肢:1.扁平上皮細胞 ビリルビン(1+) GGT 139 IU/L GLU 279mg/dl CRE 1.07mg/dl 2.尿路上皮(移行上皮)細胞 3.尿細管上皮細胞 4.円柱上皮細胞 5.異型細胞(扁平上皮癌細胞疑い) 写真 8-A 選択肢 写真 8-B 件 数 割合(%) 1 扁平上皮細胞 3 6.0 2 尿路上皮(移行上皮)細胞 10 20.0 3 尿細管上皮細胞 36 72.0 4 円柱上皮細胞 0 0.0 5 異型細胞(扁平上皮癌細胞疑い) 1 2.0 正解 3.尿細管上皮細胞:正解率 72.0% 無染色で認められる細胞集塊を構成する成分は、色調が黄色調、細胞質は均質状で非常に薄く、 S 染色では、赤紫色を呈し、染色性が良好で、一点から伸びるような放射状配列を有しているこ とから尿細管上皮細胞の洋梨・紡錘型であると判定できる。20%の施設が尿路上皮(移行上皮) 細胞と回答していたが、無染色で黄色調に観察されたのは尿定性でビリルビン(1+)であり、ビリ ルビン色素により黄色調を呈していたことや、尿路上皮(移行上皮)細胞の細胞質は、厚みがあ ることからも鑑別ができる。本設問については、正解率が 80%未満であり、今後の研修会で啓蒙 活動が必要なことから評価対象外とした。 設問 9 (写真 9-A、写真 9-B) 20 歳代、男性・自然尿 内科外来の患者尿にみられた成分です。写真に示す細胞成分を判定してください。 A:無染色 400 倍 尿定性成績:pH6.0 選択肢:1.赤血球 B:Sternheimer 染色 蛋白(+/-) 2 白血球 糖(―) 400 倍 潜血(1+) 3.シュウ酸カルシウム結晶 4.真菌 5.精液成分(前立腺分泌物) 写真 9-A 選択肢 写真 9-B 件 数 割合(%) 1 赤血球 3 6.0 2 白血球 0 0.0 3 シュウ酸カルシウム結晶 0 0.0 4 真菌 0 0.0 5 精液成分(前立腺分泌物) 47 94.0 正解 5. 精液成分(前立腺分泌物):正解率 94.0% 無染色、S 染色ともに小型の球状の成分が認められる。写真 9-B の S 染色では、小型球状の 成分は、赤紫色に染色されていることから精液成分(前立腺分泌物)と判定できる。また、時計 での 1 時の方向に精子が認められ、精液成分の混入が示唆される所見である。赤血球であれば、 S 染色で染色されないことから鑑別ができる。 設問 10 (写真 10-A、写真 10-B) 80 才代、女性・カテーテル尿 救急外来の患者尿にみられた成分です。写真に示す細胞成分を判定してください。 A:無染色 400 倍 尿定性成績:pH7.5 B:Sternheimer 染色 蛋白(-)、糖(250mg/dl) 選択肢:1.尿細管上皮細胞 400 倍 潜血(2+) 2.尿路上皮(移行上皮)細胞 亜硝酸塩(+) 白血球(1+) 3.円柱上皮細胞 4.扁平上皮細胞 5.大食細胞 写真 10-A 選択肢 写真 10-B 件 数 割合(%) 1 尿細管上皮細胞 3 6.0 2 尿路上皮(移行上皮)細胞 7 14.0 3 円柱上皮細胞 40 80.0 4 扁平上皮細胞 0 0.0 5 大食細胞 0 0.0 正解 3.円柱上皮細胞:正解率 80.0% 細胞集塊を構成する成分は、無染色で色調は透明感があり灰白色調、表面構造は均質状であり、 細胞集塊の細胞配列は柵状配列を認めることから円柱上皮細胞と判定できる。S 染色で、核異型 を認めず、選択肢に存在しないが異型細胞(腺癌細胞疑い)は否定できる。本症例はカテーテル 尿であることから、カテーテル挿入時の機械的損傷により円柱上皮細胞が出現したと考えられる。 設問 11 (写真 11-A、写真 11-B) 50 歳代、女性・自然尿 健康診断の患者尿にみられた成分です。写真に示す細胞成分を判定してください。 A:無染色 400 倍 尿定性成績:pH6.0 B:Sternheimer 染色 蛋白(-) 選択肢:1.尿細管上皮細胞 細胞 糖(-) 400 倍 潜血(1+) 2.尿路上皮(移行上皮)細胞 3.扁平上皮細胞 4.細胞質内封入体 5.異型細胞(扁平上皮癌細胞疑い) 写真 11-A 選択肢 写真 11-B 件 数 割合(%) 1 尿細管上皮細胞 1 2.0 2 尿路上皮(移行上皮)細胞 0 0.0 3 扁平上皮細胞 49 98.0 4 細胞質内封入体細胞 0 0.0 5 異型細胞(扁平上皮癌細胞疑い) 0 0.0 正解 3.扁平上皮細胞:正解率 98.0% 無染色、S染色ともに細胞質は薄く、表面構造はシワ状で一部に折れ曲がりがみられることか ら扁平上皮細胞と判定できる。これは性周期に伴うホルモンによる変化像であると考えられる。 尿細管上皮細胞との鑑別は、細胞質が非常に薄く、辺縁が不明瞭であることが鑑別点となる。 設問 12 (写真 12-A、写真 12-B) 80 歳代、男性・自然尿 内科外来の患者尿にみられた成分です。写真に示す細胞成分を判定してください。 A:無染色 400 倍 尿定性成績:pH6.0 B:Sternheimer 染色 蛋白(30mg/dl) 選択肢:1.尿細管上皮細胞 400 倍 糖(-) 潜血(3+) 2.尿路上皮(移行上皮)細胞 4.ヒトポリオーマウイルス感染を疑う細胞 3.円柱上皮細胞 5.異型細胞(尿路上皮癌細胞疑い) 写真 12-A 写真 12-A 選択肢 件 数 割合(%) 1 尿細管上皮細胞 0 0.0 2 尿路上皮(移行上皮)細胞 0 0.0 3 円柱上皮細胞 0 0.0 4 ヒトポリオーマウイルス感染を疑う細胞 14 28.0 5 異型細胞(尿路上皮癌細胞疑い) 36 72.0 正解 5. 異型細胞(尿路上皮癌細胞疑い):正解率 72.0% 無染色では、色調が黄色調で、辺縁の角ばりがあり、尿路上皮(移行上皮)系の成分であるこ とが推測でき、核の N/C 比が増大していることが確認できる。S 染色像では、無染色に比べると N/C 比は小さいが、核が粗顆粒状に濃染しており、核クロマチンの増量所見が確認できる。以上 のことから、異型細胞(尿路上皮癌細胞疑い)と判定できる。ヒトポリオーマウイルス感染を疑 う細胞を回答した施設が 28.0%認められたが、ヒトポリオーマウイルス感染を疑う細胞であれば、 核内構造は無構造なスリガラス状を呈することから鑑別ができる。本設問は、正解率が 80%未満 であったが、平成 23 年度の設問 4 に出題した異型細胞にも類似していることや、臨床的意義が 高い成分であることから評価対象とした。 設問 13 (写真 13-A、写真 13-B) 60 歳代、男性・自然尿 内科外来の患者尿にみられた成分です。写真に示す細胞成分を判定してください。 A:無染色 400 倍 B:Sternheimer 染色 尿定性成績:pH6.0 蛋白(100mg/dl) 選択肢:1.硝子円柱 2.赤血球円柱 400 倍 糖(-) 3.白血球円柱 潜血(1+) 4.上皮円柱 5.顆粒円柱 写真 13-A 選択肢 写真 13-B 件 数 割合(%) 1 硝子円柱 44 88.0 2 赤血球円柱 2 4.0 3 白血球円柱 0 0.0 4 上皮円柱 4 8.0 5 顆粒円柱 0 0.0 正解 1. 硝子円柱:正解率 88.0% 円柱の種類についての設問であり、無染色、S 染色ともに硝子円柱の基質内に細胞成分が2個 封入されている。封入された成分は無染色で黄色調、S 染色で赤紫色を呈し、細胞質の厚みから 尿細管上皮細胞であることが判定できる。尿沈渣検査法 2010 の『円柱の判別基準』では、硝子 円柱の基質内に上皮細胞が3個以上入っている場合は、上皮円柱とし、それ未満の場合には硝子 円柱とすると明記されている。したがって、本成分は硝子円柱の基質内に尿細管上皮細胞が2個 封入されているため、硝子円柱と判定する。 設問 14 (写真 14)【評価対象外】 40 歳代、男性・自然尿 内科外来の患者尿です。赤血球形態を尿沈査検査法 GP1-P4(尿沈渣検査法 2010)に従い判定 し、糸球体型赤血球の場合は 3 段階分類基準表に従って分類してください。 選択肢:1.非糸球体型赤血球(均一赤血球) 2.糸球体型赤血球(変形赤血球)・大部分 3. 糸球体型赤血球(変形赤血球)・中等度混在 4. 糸球体型赤血球(変形赤血球)・少数混在 写真 14 選択肢 件 数 割合(%) 1 非糸球体型赤血球(均一赤血球) 2 4.0 2 糸球体型赤血球(変形赤血球)・大部分 11 22.0 3 糸球体型赤血球(変形赤血球)・中等度混在 34 68.0 4 糸球体型赤血球(変形赤血球)・少数混在 3 6.0 正解 2、3. 糸球体型赤血球(変形赤血球)・大部分、中等度混在:正解率 90.0% 写真 14 の赤血球形態は、ドーナツ状不均一赤血球、標的・ドーナツ状不均一赤血球、有棘状 不均一赤血球が中等度~大部分存在していることから糸球体型赤血球(変形赤血球)・大部分と 同・中等度混在を正解とした。写真の赤血球のピントが合っているものと合っていないものをカ ウントに含めるか否かで判定が変わってしまうことから両者を正解としている。 設問 15 (写真 15)【評価対象外】 60 歳代、男性・自然尿 泌尿器科外来の患者尿です。赤血球形態を尿沈査検査法 GP1-P4(尿沈渣検査法 2010)に従い 判定し、糸球体型赤血球の場合は 3 段階分類基準表に従って分類してください。 選択肢:1.非糸球体型赤血球(均一赤血球) 2.糸球体型赤血球(変形赤血球)・大部分 3. 糸球体型赤血球(変形赤血球)・中等度混在 4. 糸球体型赤血球(変形赤血球)・少数混在 写真 15 選択肢 件 数 割合(%) 1 非糸球体型赤血球(均一赤血球) 32 64.0 2 糸球体型赤血球(変形赤血球)・大部分 18 36.0 3 糸球体型赤血球(変形赤血球)・中等度混在 0 0.0 4 糸球体型赤血球(変形赤血球)・少数混在 0 0.0 正解 1. 非糸球体型赤血球(均一赤血球):正解率 64.0% 写真 15 の赤血球の大部分が膜部顆粒成分凝集状脱ヘモグロビン赤血球であることから非糸球 体型赤血球(均一赤血球)を正解とした。膜部顆粒成分凝集状脱ヘモグロビン赤血球は前立腺生 検後患者尿や、多発性嚢胞腎患者尿で認められる非糸球体型赤血球(均一赤血球)である。 設問 16 (写真 16)【評価対象外】 50 歳代、男性・自然尿 泌尿器科外来の患者尿です。赤血球形態を尿沈査検査法 GP1-P4(尿沈渣検査法 2010)に従い 判定し、糸球体型赤血球の場合は 3 段階分類基準表に従って分類してください。 2.糸球体型赤血球(変形赤血球)・大部分 選択肢:1.非糸球体型赤血球(均一赤血球) 3. 糸球体型赤血球(変形赤血球)・中等度混在 4. 糸球体型赤血球(変形赤血球)・少数混在 写真 16 選択肢 件 数 割合(%) 1 非糸球体型赤血球(均一赤血球) 37 74.0 2 糸球体型赤血球(変形赤血球)・大部分 8 16.0 3 糸球体型赤血球(変形赤血球)・中等度混在 4 8.0 4 糸球体型赤血球(変形赤血球)・少数混在 1 2.0 正解 1. 非糸球体型赤血球(均一赤血球):正解率 74.0% 写真 16 の赤血球は、非糸球体型赤血球(均一赤血球)である典型・円盤状赤血球、円盤・球 状移行型赤血球が大部分を占めており、糸球体型赤血球(変形赤血球)は認められない。以上よ り、非糸球体型赤血球(均一赤血球)が正解である。また、小球状の赤血球は、赤血球の断片で あり、これらは赤血球としてカウントしない。 設問 17 (写真 17) 50 歳代、男性、髄液、サムソン染色 400 倍、フックスローゼンタール計算盤 頭痛、発熱、嘔吐を主訴に緊急受診となった患者です。写真の矢印に示す成分を髄液検査法 2002 に従い、単核球・多核球を分類してください。 選択肢:1.単核球 13 個、多核球 0 個 2個 4.単核球 10 個、多核球 3 個 2. 単核球 12 個、多核球 1 個 3. 単核球 11 個、多核球 5. 単核球 9 個、多核球 4 個 写真 17 選択肢 件 数 割合(%) 1 単核球 13 個、多核球 0 個 0 0.0 2 単核球 12 個、多核球 1 個 5 10.0 3 単核球 11 個、多核球 2 個 40 80.0 4 単核球 10 個、多核球 3 個 2 4.0 5 単核球 9 個、多核球 4 個 1 2.0 正解 3. 単核球 11 個、多核球 2 個:正解率 80.0% 写真 17 の計算盤状には、白血球が 13 個認められる。単核球(M)11 個、多核球(P)2 個が 正解である。単核球、多核球の鑑別は分葉核の判別だけでなく、細胞質が重要な所見となる。こ れは血液検査の塗抹標本と異なり、計算盤上の白血球は立体的に観察されることから好中球の分 葉核は角度によって核が重なり、単核様に認められる。それで髄液検査法 2002 における細胞分 類では、サムソン液における細胞質の染色態度で単核球、多核球を区別できるとされ、類円形で 細胞質が狭いものがリンパ球、細胞質の染色が良好なものが単球であり、これらが単核球の特徴 となる。また、組織球も単核球に含める。そして、好中球では細胞質にサムソン色素が入り込み にくいために細胞質の染色性が不良であることが特徴とされる。 Ⅴ.考察 基本的な成分についての正解率は 90%程度と概ね良好な成績が得られた。しかし、設問 1~13、 設問 17 で正解率が 80%未満であった設問について考察する。設問 7 では脂肪顆粒を含有する成 分について出題し、症例では腎障害を伴うことから本来、卵円形脂肪体と判定すべきところを、 細胞由来である大食細胞と回答した施設が比較的多く認められた。これは細胞成分のみで判定し ていることが原因であると予想され、症例の尿定性成績や生化学成績の確認不足があったのでは ないかと考えられた。設問 8 の尿細管上皮細胞では、円柱に付着していれば判定しやすいと考え らえるが、今回は円柱に付着していない成分を出題したことで正解率が低くなったと考えられる。 設問 12 の異型細胞(尿路上皮癌細胞疑い)では、S 染色の核異型がやや乏しかったことが原因と 考えられるが、ヒトポリオーマウイルス感染疑い細胞と回答した施設が多いため、ヒトポリオー マウイルス感染疑い細胞の特徴を再確認することが重要であると考える。 尿沈渣検査法 2010 に糸球体型赤血球形態の 3 段階分類が掲載され、約 3 年が経過した。今回、 評価対象外として設問 14~16 は糸球体型赤血球形態の 3 段階分類について出題を試みた。設問 15、16 は非糸球体型赤血球(均一赤血球)として出題しているのに関わらず、糸球体型赤血球に バラけた回答となった。この結果から施設間差が大きいことが明確になり、個人間差はさらに大 きいことが示唆される。3 段階分類が岩手県内にどれくらい普及しているか調査が必要であるが、 導入するにはまず施設内の技師が赤血球形態の糸球体型赤血球(変形赤血球)と非糸球体型赤血 球(均一赤血球)を適切に鑑別できるかどうかが重要であり、これらの鑑別が達成できてから 3 段階分類を導入することが重要であると考えられる。 今回のサーベイ結果を基に、岩臨技一般検査部門研修会を企画し、岩手県内における一般検査 技術向上につながるよう取り組みたい。 岩臨技一般検査部門長 岩手医科大学附属病院 中央臨床検査部 石澤 毅士 E-Mail:usass96@yahoo.co.jp 出題者:岩臨技一般検査部門長 石澤 毅士 平内中央病院(青森県) 坂牛 省二
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