かもめの国から(第八回)2007 年 11 月 ②

か も め の 国 か ら ( 第 八 回 ) 2007
年 11 月 ②
~ヒツジの国から①~
前回の内容が非常に硬かったので、今回は柔らかい内容しますね(汗)
今まで触れてきたように、私はフィンランドの大学に駐在しながら、共同プロジェクトを進めています。
昨年11月末からは、その成果の一部を国際学会で発表するためにニュージーランドに行きました。ただ、
せっかくニュージーランドまで行くのですから、自腹で延長分の宿泊費等の費用を払って滞在し、ニュージランド国内を少し旅してきました。
前回の原稿と次回のとは研究の話がメインですので、今回の原稿では息抜きの意味を含めてその旅行の模
様を紹介したいと思います。なので今回と次回は「かもめの国」ではなく「ヒツジの国から」です(汗)
今回、ニュージーランドへはJALの直行便を使いました。本当はオーストラリアに一度飛んで、乗り換えた
ほうが多少安いのですが、だいぶ時間が違う(新豪間は結構遠い)ので直行便にさせてもらいました。JALの
NZ便は、ニュージーランド航空との共同運航です。ところが面白いことに、JALはワンワールド、ニュージー
ランド航空はスターアライアンスです。従って、スターアライアンスに乗ったのにワンワールドのマイルが
貯まるのです。こういうマイレージも、今回参加するマーケッティング学会の研究課題です!!
ニュージーランド航空ですが、非常に良かったです。以前なら当たり前だった機内食の選択制が残ってい
ますし、飲み物も無料でシャンパンまで出してくれます。シートのピッチも広いですし、オンデマンドポー
タルも充実しています。こういう飛行機会社がフィンランドへの直行便を出してくれると嬉しいのですが…
●基本インフォメーション
最初に、ニュージーランドの基本的インフォメーションです。ニュージーランドはオーストラリアの東、
太平洋に浮かぶ島国で、日本からは直行便で約11時間です。ヘルシンキまでが9時間ですから、かなり遠
いですね。時差は無さそうに見えますが、オーストラリアと違って4時間の時差があります。国土面積は日
本の約73%で、フィリピンやイタリアより少し狭い感じです。その国土に約410万人(日本の約33分
の1)の人口ですから、「人より羊が多い」と言われるのも納得です(人の10倍の羊がいます)
最も暖かい北島(南半球なので、北半球と逆です)で緯度が35度(京都と同じくらい)、最も南で樺太南
部に相当する47度です。国名の由来は、オランダ語の Zeeland 州に因んでいるそうです。
ここは元イギリス植民地で、今でも英連邦加盟国なため、エリザベス女王が国家元首です。フィンランド
はヨーロッパで最初に女性参政権が認められた国ですが、ニュージーランドは世界で最初に女性参政権を認
めた国になります。なので女性の社会進出がフィンランド以上に進んでおり、国家元首、総督、行政権の長
の首相、司法権の長の最高裁判所長官、立法権の長の国会議長まで全て女性ということもありました。
●クライストチャーチ
11 月 26 日、成田からの飛行機はクライストチャーチに到着しました。ここは南島最大の都市で、緯度や
人口は旭川と同じくらいです。ただ、人口が33分の1のNZでは、札幌のような感じでしょうね。
学会のあるダニーデンへは、ここで国内線に乗り換えです。本当レンタカーを借りて自分で運転していく
のが一番安くて早いのですが、旅費算定でレンタカー代は出ません。なので高くつくのですが、国内線の飛
行機で移動します。バスだと一日一便しかなく、それが 6 時間近くかかりますので…。とりあえずクライス
トチャーチでストップオーバーし、学会受付の始まる 12 月 1 日まで滞在することにしました。
クライストチャーチは、イングランド以外で最もイングランドらしいと言われるだけあって、奇麗な街で
した。都市の真ん中に巨大な公園があり、そこからエイボン川というクリークが市の中心を貫流しています。
そこでは、ケンブリッジやオックスフォードのように、イングランド流のパンティング遊びが出来ます。
パンティングの模様
エイボン川。雪解けの水は、透明でキレイ
クライスチャーチの大聖堂とスクエア
クライストチャーチ空港は南極への物資の搬入基地で、空港近くには南極体験ができる国際南極センター
もあります。しかし今回は、先住民族であるマオリ族の文化に触れられるKo Taneと貴重なKiwiも見られると
いうウィロウバンク野生動物保護区に行くことにしました。せっかくNZに来たのだから、ガラス張りでない
Kiwiを見たいですからね。
マオリショーは最初に、訪問者が敵か否かを判別して集落に迎え入れるマオリの伝統儀式から始まり、続
いて歓迎の挨拶やマオリの伝統的な遊びを見せてくれます。本物かシールかわかりませんが、男も女も顔に
黒い刺青が入っています。続いてテントに入ってマオリの音楽ショー(ギターを使うのは苦笑ですが)があ
り、観客も皆ステージにあげられて踊らせられたりします。最後に、希望者とマオリとの撮影(カメラマン
が撮って、後で買う仕組み)があり、ショーは終了です。魔除けなのか、女の子も含めてすごい表情をして
写真を撮るのが面白かったです。
マオリの風習を見せるショー
夜行性なのでフラッシュ厳禁です
大ウナギもいる公園内の池
社会主義に非常に近い性質をもつニュージーランドは、先住民族であるマオリ族に非常に気を使っていま
す。合衆国がネイティブアメリカンにした歴史を繰り返さないためか、過去の土地収用などを償う気持ちな
のか、マオリ族優遇はかなりのものがあります。しかし、最近ではこの政策に対する反動も出ているようで
注目ですね。マオリ族も NZ の土着民族というよりは、鎌倉時代あたりにポリネシアから渡ってきた民族です。
その更に後の江戸時代あたりから、白人が入植しています。なのでアメリカとは、少し事情が違います。
パンゲア大陸から早期に分離したオセアニアは、変わった動植物の生態系をもちます。NZには本来、地上生
活する哺乳類が存在せず、その結果、飛べない鳥類としてのモアやKIWIが天敵のいない状況で繁殖していまし
た。しかしマオリ族の移住による乱獲、それに伴う犬猫ネズミ等の哺乳類の流入は、モアを絶滅させ、キー
ウィを同じく絶滅させようとしています。
KIWI は夜行性なので、KIWI ハウスの中は真っ暗でムシムシしますが、運が良ければガラス越しでないすぐ
近くで KIWI が見られます。私は幸運にもすぐ近くで見られました。慣れると、KIWI も可愛いですよ!
翌日は、映画「Lord of the Ring」でのローハン国のEdrasに行くツアーに参加しました。TOYOTA製の4WD
で川や丘を越えて(ロケ地は広い農園の中にあるので)、ようやくEdrasの黄金砦のあったところに到着。
映画の中だけの世界に思えてしまう、作り物のような自然が現に目の前に広がっていました。
映画では山の麓に「ヘルム峡谷砦」の CG が合成されていました。 黄金砦から、エオウィンがアラゴンらの到着を待ちわびる有
中央が、黄金砦のセットのあった丘です。
名なシーンの場所です。
三日目からは一泊二日でマウントクック国立公園に行きました。中学校の英語の教科書で名前を覚えて以
来、ずっと行きたかった所です。南島は日本の北海道のように手つかずの雄大な景色が広がっています。初
日はTwizelという小さな町に泊まりましたが、ここでも「ロードオブザリング」ロケ地に行きました。
Twizel はプカキ湖のダム建設のためにできた町で、このプカキ湖は水がミルキーブルーです。この写真で
は分かりにくいかもしれませんが、とにかく絵の具でも溶かしたかのような奇麗な色です。この辺りに広が
る氷河の成分が水に溶けだし、水の屈折率を変えることで生じるマジックだそうで、水自体は透明です。
この運河の横に、ロードオブザリングのゴンドールのロケ地があります。雄大な平原と、遠くに見える雪
を抱いた霜降り山脈。想像通りの世界に大満足でした(昨晩、雪が降って白くなったと説明されました)
氷河の成分で、ミルキーブルーに見える運河。
ゴンドールとシリーズ最大の戦いである「ペレンノール」の舞台です。
四日目はいよいよマウントックへ。と言っても、クック山に昇るのは超ハードなので、3-4 時間程度のト
レッキングです。ここには高級ホテルがあるのですが、日本人のシニア夫婦がいっぱい泊まっていました。
東北福祉大学では高齢者の福祉観光にも力を入れていますが、NZはそのいい舞台かもしれません。
Twizel からプカキ湖の横を抜けてマウントックを目指しますが、湖の青さとクック山の雪とが映えます。
この日の午前中は、クック山が奇麗に見えました。
プカキ湖の青さがわかりますね。ここはお勧めです。
午後からは曇って見られなくなりましたが。
クック山は、マオリ語では「アララキ」と言います。
二時間くらい登ると氷河が目前に見えます。
作り物のような風景です。
氷河の削り出した氷河湖が見られます
五日目は、私の本来の専門分野である「競馬」を見に、リカルトンパーク競馬場へ行きました。私の博士
論文のテーマは日本における公営ギャンブルの成立過程ですし、前の学校ではオセアニアの公営競技につい
ての報告書を書いたこともありますので。
ここは南島最大の競馬場ですが、非常にのどかな競馬場でした。ちょうどクリスマスシーズンで、競馬場
でクリスマスパーティーを開催しているグループが多く見られました。さすがイギリス文化圏ですね
緑に囲まれた奇麗な競馬場です。
日本とはだいぶ違って、のどかでした。 騎手や厩務員など、女性が非常に多いです。
●デニーデン
六日目からは、学会の開催されるデニーデンへ移動しました。学会の模様は次回書きますので、今回は柔
らかい話にします。ここデニーデンは、イギリスの中でもスコットランド系の人々が作った街だそうです。
寒い地域のスコットランド人には、南島の中でも南の寒いところのほうが過ごしやすいのでしょうね。デニ
ーデンという名前も、ゲール語でエジンバラにあたるそうです。なので街並は、スコットランドっぽいです。
私の今住んでいるヘルシンキとは、だいぶ違う感じですね。
オクタゴンと呼ばれる八角形の町の中心広場の周りには、スコットランド腸の建築がいっぱいありました。
我々の滞在中に、丁度クリスマスのパレードがありました。皆さんも教科書で見たことがあるでしょうが、
いわゆる南半球のクリスマスです。強い真夏の日差しの中を、お馴染みのサンタさんがパレードします。地
球の広さ、多様性を理解するのに、非常に良い機会でした。
スコットランド圏なのでバグパイプの行進です
二時間近いパレードの締めは、サンタでした。暑そう…
デニーデンで何より有名なのは、ペンギンだそうです。しかもキガシラペンギンという珍しい種類のペン
ギンだとか。そこで、学会の事前受付をした後に、ネイチャーツアーに参加して野生動物を見ました。
野生のニュージーランドアシカもいます 普通のペンギンはウジャウジャいました
イルカがすぐ近くまで寄ってきます
残念ながらアルバドロス(アホウドリ)は見られませんでしたが、野生動物と自然に触れられていい体験
でした。ニュージーランドでも自然破壊が進んでおり、その結果としてキガシラペンギンは減っているのだ
とか。京都議定書議長国だった日本の国民としては、少しでも自然環境の問題も考えないといけないかも知
れませんね。
こうした入江の奥に人工的コロニ-が有ります。トドも手を出せば触れる所にいます。 これがキガシラペンギンです。
●ウェリントン
約一週間の学会終了後、日本行きはオークランドからなので、デニーデンからオークランドに行かなけれ
ばなりません。ところがデニーデンからオークランドに行く直行便は非常に少なく、クライストチャーチかウ
ェリントンで乗り換えなければなりません。そこでストップオーバーして首都ウェリントンを訪れました。
ウェリントンは北島の南端、ちょうど国土の真ん中あたりにあります。元々は気候の温暖なオークランド
が首都でしたが、ゴールドラッシュで南島の人口が増えて勢力バランスが悪くなった為に遷都したとか。経
済の中心は未だにオークランドなので、アメリカのワシントンのように政治・行政だけの中心としての首都
です。その分、東京のように人口が過密でないので、海もきれいで素晴らしい街でした。
ニュージーランドは、最近では郵政民営化のお手本としても注目されました。また二院制を廃して一院制
にするなど、政策実験の盛んな国として有名です。せっかくそうした国の首都に来たので、国会ツアーにも
参加しました。これに参加すれば、無料で特徴的な建築からビーハイヴと呼ばれる議員会館、国会議議事堂、
国会図書館を見て回れます。以前に本学に在籍した藤井浩司早稲田大学教授は、本学時代から NZ の福祉政策
を研究なさっていましたので、本学と NZ もあながち無縁ではありません。
奇麗なオリエンタル湾の眺望
ビーハイヴと国会議事堂
ヴィクトリア大学
●オークランド
NZ最後の都市は、オークランドです。日本行きフライトが午前早い時間のため、オークランドに前日泊し
ないと間に合いません。この域圏にはNZの人口 410 万人の約 1/3 が集中している大都市です。その為、ニ
ュージーランドいう感じがあまりしないのが残念です。なので、皆がNZに対して抱いているイメージを見る
ためには、南島が良いと思います。(特に、私は行けませんでしたがミルフォードサウンドが最高だとか)
近代的な都市オークランドの夜景 ニュージーランド最大のエラズリー競馬場
フリーマンズ湾。NZ はラグビーとヨット大国
人口の少ない NZ では、モータリゼーションの発展に伴って鉄道が廃れ(通勤路線以外の鉄道は、観光用路
線)、主要交通手段は車やバスになります。しかし便数も少なく、バスが一日一本というのも珍しくありませ
ん。なので NZ では、日本人のようなあくせくする旅をするにはバスを借り切るパックツアーしかないです。
私の今回の日程も、こちらの事情がわかっている人には理解していただけますが、日本の感覚からすると「贅
沢に、のんびりしている」と映ってしまうでしょう(汗)
日本の常識が通用しないところが多くありますので、そのあたりは気をつけておいたほうが良いです。例
えば、NZ のある競馬場は公共交通機関では殆ど行けません。一日に一本の鉄道で、降りて一時間歩くしかな
いのです。それがダメならタクシーかレンタカーか。車社会の NZ の常識ですが、日本人からはなかなか想像
できませんね。またオークランドでも、平時なのに東海道本線に類する電車の終電が 20:40 分でした。
●マタマタ
近代的な大都市オークランドでも、車で二、三時間も移動すれば、そこは緑の広がる羊の園になります。
今回は、日本に戻る前日にそうした緑の風景を見に行きました。マタマタという小さな町までバスで行き、
そこから近くの農場に行くツアーに参加しました。マタマタは競走馬の調教で有名な土地らしく、有名な騎
手や調教師も多く輩出しているそうです。
ここマタマタはロードオブザリング(またロードオブザリングか…と思う方も多いでしょうが)のホビッ
ト庄のロケ地として、世界的に有名です。なんでも、電線をはじめとする 20 世紀の産物が移らないロケ地を
求めて NZ 中を飛行機でロケハンしていた際に、ここを見つけたとか。
そのお目に適うだけあって、見渡す限りの丘と草原、そして羊でした。ホビット村のロケ地跡よりも、こ
の自然が素晴らしかったです。
見渡す限りの草原と青空
羊がウジャウジャいます
人口建造物の残ってる LTR 唯一の場所
下手くそな合成ですが、パノラマ代わりに…
ニュージーランドはこうした自然の他に、本文中に書いたように非常に面白い政策を実験している国です。
学会以外の時間でのこうした旅は、私の知的好奇心を大いに活性化してくれました。
まだ若い諸君は大いに旅をして、刺激を受けて、何かのエネルギーにして欲しいと思います。旅とは、そ
ういうものなのですから。
ご意見、ご要望等は、hiroo@tfu-mail.tfu.ac.jpまでお寄せください。
萩野 寛雄