No.3 MAY - 公益社団法人 日本航空機操縦士協会

ISSN 0389-5254
2010 No.3 MAY
JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION
平成22年5月1日
会
員
各
位
社団法人
会
日本航空機操縦士協会
長
萩 尾 裕 康
第回通常総会開催通知書
拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
さて、 平成22年度通常総会を下記のとおり開催いたしますので、 ご出席賜りたくご通知申し上げ
ます。 なお総会終了後、 記念講演ならびに懇親パーティーを開催致します。
正会員の方で、 当日出席いただけない場合は、 別封ハガキで通知いたしました議案事項について
書面表決権行使書により表決をお願いいたします。 また他の正会員を代理人として総会で表決され
る場合は同じく委任状をご提出下さいますようお願い申し上げます。
記
1. 日
2. 場
時
所
平成22年5月27日 (木) 13時30分開場
羽田空港第1旅客ターミナルビル
(ビッグバード内)
ガレリア6F ギャラクシーホール
Tel. 03−5757−8181
3. 総 会 14時∼15時30分
「議案」 第1号議案
平成21年度事業報告及び
決算報告について
第2号議案
平成22年度事業計画
及び予算案について
第3号議案
役員の選任について
第4号議案
公益社団法人認定取得に向けた定款変更
について
4. 記念講演 16時00分∼17時30分
「パパは南極へ行った∼第48次南極観測隊
486日間の越冬生活∼」
独立行政法人 電子航法研究所主幹研究員
工学博士 新井 直樹氏
5. 懇親パーティー 18時∼20時
交
通
案
内
東京モノレール
浜松町駅から羽田空港第一ビル駅下車。
京浜急行
京浜急行空港線終点羽田空港駅下車。
リムジンバス
東京八重洲口・新宿、 池袋、 赤坂地区・
東京シティエアターミナル・成田空港な
どから直通バスがあります。
京急バス
横浜駅・新横浜駅・川崎駅・蒲田駅・千
葉駅・木更津駅などからバスがあります。
【お願い】
別封ハガキの【総会出席届】【書面表決権行使書】【委任状】について、 該当される部分にご記入の上、 5
月26日 (水) 必着でご郵送下さい。 但し、 所属される会社等のメールボックスをご利用いただいている方は
メールボックス付近に置いてあります投票箱に5月25日 (火) までに投函いただいても結構です。
第45回通常総会への第45期出席予定理事
(役
職)
会
長
副
会
長
副
会
長
副
会
長
専務理事
常務理事
常務理事
常務理事
常務理事
常務理事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
理
事
(氏
萩 尾
増 田
薬師寺
大 畑
白 石
楠 本
高 岡
中 島
大 和
吉 田
有 野
池 内
池 羽
石 井
宇田川
大久保
大 澤
大 関
蔵 岡
越 田
齋 藤
管
菅 野
菅 原
鈴 木
田 頭
千 葉
根 本
野 口
平 山
名)
裕
奉
豊
晋
憲
清
茂
達
啓
雅
一
春
賢
善
賢
和
弘
英
博
裕
義
開
康
和
進
隆
樹
一
一
一
夫
徹
也
宏
次
清
之
高
朗
樹
治
彦
二
聖
廣
行
明
勝
茂
一
博
偉
操縦士協会のめざすもの
(第204回理事会決議)
1. 私達の活動の目的は、 定款に定められた通り 「航空技術の向上を図り、 航空の安全確保
につとめ航空知識の普及と諸般の調査研究を行い、 もって我が国航空の健全な発展を促
進する」 ことです。
2. 私達は、 定款の目的を踏まえ、 将来のあるべき姿として 「安全で誰からも信頼され、 愛
される航空を実現する」 というビジョンを描いています。
3. 私達は、 目的・ビジョンを達成するために下記を基本的指針に掲げて活動して行きます。
航空の安全文化を構築する。 (組織と個人が安全を最優先する気風や習慣を育て、
社会全体で安全意識を高めて行くこと)
地球環境と航空の発展との調和を図る。
航空に携わるものどうしが心を通わせ共存共栄を図る。
第45期 (平成21年度) 重点施策
本協会は、 航空の安全に資する事業を推進し、 航空関係者の知識と能力を育み、 もっ
て空の安全と技術向上を目指し、 操縦士の社会貢献を担うと共にその促進を図ります。
また、 諸事業を通じ、 社会とりわけ航空に関心を持つ方々に直接働きかけ、 航空との
出会いと触れ合いの場を提供し、 航空に対する興味と期待に応えていきます。 特に青少
年へは、 社会教育の一部を補完する意味で、 航空という新たな世界を紹介し、 健全な成
長を応援します。
操縦士が技能育成の場を容易に持てる環境を整えます。 訓練用の機材を協会事務所に
確保し、 経験豊富な操縦士が教育にあたります。 これらを通じて技術指導の充実及び資
格の維持に貢献し、 技術者としての雇用安定にも寄与していきます。
・教育・啓蒙事業
・改善への貢献
・技術支援
・操縦士の風土作り
・適切な事業展開と運営
・人の和と連帯感の促進
操縦士協会は会員を募集しています。
JAPAは公益法人として国土交通大臣の認可を受けた日本唯一の操縦士団体です。
目的
本協会は、 航空技術の向上を図り、 航空の安全確保につとめ航空知識の普及と諸般の調査研究を
行い、 もってわが国航空の健全な発展を促進することを目的とする。
協会の会員は、 下記のように分かれます。
正 会 員;協会の目的に賛同して入会された方で、 原則として操縦士技能証明をお持ちの方です。
賛助会員;協会の事業を賛助するため入会した個人または法人です。 個人賛助会員は、 満16歳以上の操
縦士技能証明を持たない方で、 法人賛助会員の資格は、 特に定めはありません。
正会員の会費;60歳未満:月額
1,700円
(内訳1,500円:協会運営費、 200円:共済費)
60歳以上:月額
1,500円:協会運営費
個人賛助会員;
月額 1,500円:協会運営費
法人賛助会員:
一口年額 50,000円:協会運営費
入会すると?
①協会機関誌 (AIM・PILOT誌など) の無償入手
②航空関連商品 (書籍等) の割引購入
③会員向け、 空港施設見学や講習会への参加
④協会契約割引施設の利用
お申し込みは別途 「入会申込書」 をお送り致しますので、 事務局までご連絡下さい。
皆様のご入会をお待ち致しております!
社団法人 日本航空機操縦士協会 JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOSIATION
TEL03-3501-0433 FAX03-3501-0435 E-Mail japa@japa.or.jp
Home page URL http://www.japa.or.jp/
CONTENTS
No.320
6
2010 No.3 MAY
新たな環境と今後の発展に向けて
専務理事
8
第4回
白石
61
FAI ニュース
豊樹
航空気象シンポジウム
62
奥貫
64
特別寄稿
65
開催案内
開催報告
ハートで飛ばそう!
山
73
協会からのお知らせ
74
JAPA 通信
77
第45回通常総会議案書
博行
競技曲技シークエンスの飛び方
全日本曲技飛行競技会に向けて
内海
昌浩
108
JAPA SHOP
109
JAPA で飛行訓練を!
航空史曼陀羅
その35. 馬賊を志した飛行機王
中島知久平の人間像
Flight Training Device
徳田
42
開催予告
西日本支部だより
平成21年度 中部支部総会報告
第39回 JAPA 航空安全セミナー
訓練監督担当者意見交換会報告
康夫
Fly with Airmanship ! −7−
36
オススメ!情報ボックス
全日本曲技飛行競技会
寄稿
テストパイロットに求められる役割と資質
小田
29
裕
恒夫
67
22
博・佐藤
書籍 & Goods 紹介
その2 訓練と経験の力
Capt.“Sully”(サレンバーガー機長) が
実証したもの
上田
16
博
NTSB NEWS
基調講演 「航空気象業務の現状と今後の計画に
ついて」
12
奥貫
忠成
安全の分水領
FTD 訓練室
110
JAPA Aerial Photo Exhibition
112
編集後記
アクシデント・インシデント概要
48
GA:ジェネアビ情報
関東平野空中衝突防止会議
奥貫
54
Aviation Cafe
Weather Radar!
Flight
博
使い方知って避ければ ECO
蔵岡
賢治
社団
法人
日本航空機操縦士協会
JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION
新たな環境と
今後の発展に向けて
専務理事
白
最初に、 日本航空機操縦士協会 (以下協会)
の事業運営に携わる機会を与えてくださった会
員の皆様に感謝します。 今年は役員の改選期を
迎え、 萩尾体制は4年間の任期を満了します。
引き継ぐに当り、 昨今の状況を協会の事業に照
らし合わせ考えてみました。 平成22年度の事業
方針と重複する部分もありますが、 内容の補足
ができればよいと思います。
環境の変化
2006年の公益法人制度改革法の公布、 2008年
のリーマンショック、 2010年は大手航空企業の
経営破綻が大きな出来事でした。 基幹企業の行
き詰りは、 誰しも想像すらできなかった事態で
す。 日本における航空輸送の構造が、 従前のま
までは立ち行かない状況となっています。 また、
法制度の変更は、 本協会の専権ともいえる操縦
士を代表する役割と事業の展開を直接左右する
大きな問題です。
長引く不況に加え航空業界の激変は、 操縦士
の雇用情勢を一段と不安定なものとし、 会員確
保への影響が懸念されます。 昨今の会員数は約
6,000名規模を維持できていますが、 団塊世代
が60歳を超えたことにより、 会費収入の面では
蔭りを見せています。
設立当初は日本の 「空」 の再生に、 公益法人
となってからは安全の促進及び行政との協力に
力を注いできた訳ですが、 今後は置かれた環境
の変化を正確に受け止め、 「民間が担う公共」
を模索していくことになります。
収支構造の見直し
平成18年度以来、 事業方針に沿って活動を進
6
2010 MAY
石
豊
樹
め、 各事業の維持と拡充に邁進してきました。
公益的な組織が財産を持つことは認められない
とした理念に沿って、 資産構造を是正する目的
で、 収支は赤字基調となりました。 資産構造が
適切な水準となった現在、 これまでとは逆に、
活動費を収入に見合った規模に圧縮しなければ
なりません。 平成22年度の予算には、 事業実績
を判断材料とした活動費と管理費の見直しを反
映させています。 避けて通れない課題は、 固定
費 (主に人件費と維持管理費) のスリム化です。
それぞれの事業に関わる収支は相償、 つまり
赤字か収支均衡が原則なので、 収入が見込めな
い事業は会費に頼ることになります。 収入を期
待できる事業は限られますから、 収入確保は一
段と厳しくなります。 全体の費用を抑えること
になりますが、 平成22年度の予算では積立金
700万円を収入に充てました。 来年はこれを200
万円程度に圧縮します。 財源は、 事務局の効率
化によるもので、 一年かけて仕事の役割分担と
業務内容の見直しを具体化します。
空への感謝と社会貢献
「民間が担う公益」 を目指して始まった公益
法人改革でしたが、 公共サービスを NPO 法人
や市民活動に委ねる 「新しい公共」 へと方向が
シフトしてきました。 政府は事業仕分に力を入
れ、 とりわけ事業内容、 役員構成、 事業規模に
着目しています。 歳入不足の顕在化を受けて、
公益法人への注目は高まる一方といえます。 本
協会は仕分け対象となる評価対象項目に該当し
ないと受け止めていますが、 各事業が 「不特定
多数の者の利益となる」 ことを裏づけていかな
ければなりません。 行政との協力、 安全文化の
普及は、 必然的に空の安全に役立っていると確
信しています。 誰もが参加できる環境を整える
ために、 HP (ホームページ) 等を活用し、 こ
れまでにも増して広く周知することに力を注ぐ
必要があります。
公益認定を受けるために、 事業の見直しも必
要となります。 発刊物については専門書等は公
益目的事業に認定される可能性が高いといわれ
ています。 現在の発行物については、 内容の検
討と変更が必要となるでしょう。 専門知識ある
いはそれに準じた情報提供の掲載を増やし、 更
に第三者が購入できる (販売拡充) ようにして
いくことも重要です。 刊行物は事業全体に占め
る費用規模が大きいので、 確実に公益事業の要
件を満たしていかなければなりません。
公益移行認定に向けて
新公益法人制度の公布を受けて、 「協会制度
あり方検討会」 の設置、 準備討論 (平成18年度)、
財務面の課題検討 (平成19年度)、 新定款案に
沿った財政構造、 公益事業比率、 経済的かつ合
理的な運営の必要性 (平成20年度) について、
通常総会の年度事業報告でお知らせしてきまし
た。
平成25年末までは特例民法法人として扱われ、
これまで通りの活動が保証されています。 移行
認定の手続きを余裕をもって進めるために、 平
成22年度通常総会に定款変更案を提案します。
新定款と平成22年度予算をもとに、 公益社団法
人への移行申請の準備を整えます。 申請は公益
認定委員会及び主務官庁との情報交換を基に適
切な時期に行います。
定款内容の変更部分は、 法人名称、 資格の喪
失・会費滞納期間、 役員に代表理事と業務執行
理事の新設、 行政庁への提出書類、 定款変更の
手続き、 解散手続き、 残余財産の処分です。
追加部分は、 役員の資格にかかわる要件、 常
務理事会の役割、 理事会の権限などが主なもの
です。
附則に、 停止条件つきの内容を定めています。
新定款は、 公益認定後の法人登記の日から効力
を生じます。 代表理事と執行理事は理事会で選
任することになっていますが、 新法上の理事会
を設置できませんので 「定款で直接氏名を記載
する」 方法を採らなければなりません。
(註:認定を受けると2週間以内に法人設立の
登記をしなければなりません。 この短い期間に
総会を開き、 新法上の理事を選任し、 最初の役
員を選任することは不可能です。)
他の選択肢となる一般社団法人については、
事業の自由度が増すことに加え営利事業を営む
ことも可能となりますが、 逆にこれまでの事業
活動に大きく影響を及ぼします。 操縦士の代表
的な役割をもつ本協会は、 知識普及、 行政との
協力、 関係者との情報交換などの事業を重ねて
きましたが、 公益法人であることが有利に働い
てきたといえます。 今回の改正では、 公益社団
あるいは一般社団の区別なく公益法人が蓄えて
いる財産の使途は制限されます。 また、 出版・
刊行事業は、 インターネットの普及に伴い先細
りとなるでしょう。
事業の性格、 資産の有効活用及び今後の展望
を考えれば、 自ずと公益法人への選択が適切と
考えます。 また、 多くの課題を抱えるジェネラ
ル・アビエイションが、 健全な発展を遂げるた
めにも役割を発揮したい訳で、 公益法人に拘る
理由がここにもあります。
4年前に川原体制を受け継ぎ、 次の体制に引
き継ぐ時期を迎えて、 携ってきた様々な事柄が
頭に去来します。 今後の日本航空機操縦士協会
の発展を願うとともに、 活動を通じて 「空」 に
対する認識が広がり、 「空」 への感謝の気持ち
を再確認できたことに感謝します。
2010 MAY
7
第4回
航空気象シンポジウム
基調講演
「航空気象業務の現状と今後の計画について」
気象庁総務部航空気象管理官
●航空気象業務の現状
現在航空気象に関して気象庁が行っている業
務と今後の計画、 航空気象業務の現状、 今年度
行っている業務改善、 将来の航空交通システム
と気象情報のかかわりについて、 簡単に紹介し
ます。
航空気象業務では、 航空機の運航の様々な段
階で運航を支援するために、 利用者の皆様に様々
な気象情報を提供しています。 すなわち、 運航
管理者やパイロットにより飛行計画の作成時に
飛行ルート及び飛行高度の検討、 飛行中の管制
官による飛行経路の調整等、 及び離着陸の制御
等に気象情報が利用されています。
気象庁は平成17年から平成18年度にかけて航
空気象業務の改善を行い、 本庁に航空気象予報
の全国中枢である空域予報班を設置するととも
図1
8
2010 MAY
田畑
明
に、 福岡の航空交通管理センター (ATMC) に
航空交通気象センター (ATMetC) を設置し、
航空局の航空交通管理に必要な気象情報を提供
しています。 また、 6箇所の管区気象台等の下
に、 地域航空気象官署を置き、 管内の予報発表
対象空港の予報を遠隔で作成・発表することと
しました (図1)。
気象庁本庁の空域予報班は、 航空気象予報の
全国中枢として、 福岡 FIR に関する空域気象
情報の作成・発表及び空域に関する悪天解析図、
悪天予想図の作成・発表を行っています。 また、
日本全国を対象に、 全国航空気象解説報を作成
しています。
ATMetC を、 福岡の ATMC 内に設置して、
ATMC の管理管制官等と同じ運用室で業務を
行っています。 ATMetC では、 随時管理管制
官等に対して気象解説を行う以外に、 福岡 FIR
及び日本国内の主要空港に関する悪天情報の作
航空気象業務の組織
成・発表及び航空交通流に影響を及ぼす悪天に
関する ATM 気象情報 (図2) を管理管制官
に提供しています。
東京航空路火山灰情報センター (VAAC) は、
北はカムチャッカ半島、 西は東経90度、 南はフィ
リピンを含む領域を責任範囲としています。 こ
こでは航空路火山灰情報の作成・発表及び火山
灰実況図・火山灰拡散予測図の作成・発表を行っ
ています。 平成21年のサリチェフ・ピーク火山
の噴火のように火山灰が複数の VAAC の担当
領域にまたがる場合には、 隣接する VAAC と
必要な情報交換を行い、 より的確な火山灰情報
の発表を行っています。
地域航空気象官署では、 地域内の空港の飛行
場予報・飛行場警報等の発表に加え、 風や視程
などについて、 9時間先までは1時間ごと、 そ
れ以降は3時間ごとの予報を飛行場時系列予報
として発表しています。 また、 地域内の全空港
を対象にカテゴリー予想を発表しています。 予
報作成は遠隔で行っており、 担当する予報官は、
数値予報などの予測資料のほか、 レーダー・衛
星、 地上観測データなど予報に必要な多くの資
料を総合的に判断して予報を発表しています。
●安全で快適な運航の支援
航空機の運航に危険な低層ウインドシアーを
図2
ATM 気象情報の例
発生させる現象として、 マイクロバーストとガ
ストフロントが知られています。
マイクロバーストは積乱雲に伴って発生する、
強い下降流です。 下降流は地面付近で発散しま
す。 仮にその下を航空機が通過すると、 向かい
風が急に追い風に変わるという大変危険な状態
になります。
ガストフロントは逆に収束性の風の変化です。
空港付近にガストフロントがあると風が急変す
るほか、 強いガストを伴います。 また、 低高度
でガストフロントの上空を通過すると、 強い乱
気流に遭遇することもあります。
マイクロバーストやガストフロントを監視す
る方法としては、 雨や雪が降っている時にはドッ
プラーレーダーが用いられています。 気象庁は
全国9空港に空港気象ドップラーレーダーを設
置し、 マイクロバーストやガストフロントに伴
うウインドシアーの監視を行っています。 レー
ダーが検出したウインドシアーの大きさが、 20
ノットを超えるとウインドシヤーアラートを、
30ノットを超えるとマイクロバーストアラート
が発出され、 これらのアラートは、 管制官から
直接パイロットに伝えられ、 危険なウインドシ
アーの回避に利用されています。
雨や雪が降っていない場合には、 光を使った
ドップラーライダーを使って、 低層のウインド
シアーを監視しています。 ドップラーライダー
は、 現在は羽田と成田空港にの
み設置されていますが、 平成22
年度中には、 関西空港にも設置
する計画です。
ドップラーライダーは半径10
km 以内の風の状況を詳しく観
測できます。 ドップラーライダー
を使うことにより、 雨などが降っ
ていなくても、 空港周辺のシアー
ラインなど風の変化を面的に観
測することが出来ます。
次に予測の難しい現象の一つ
に晴天乱気流があります。
毎時大気解析図は、 数値予報
2010 MAY
9
の予測結果をウインドプロファイラーや航空機
観測データで修正して得られるプロダクトです。
毎時大気解析図により、 晴天乱気流の発生と関
係が深いと考えられる鉛直シアーを精度よく把
握することが出来ます。
図3は、 2009年2月4日 01UTC の毎時大気
解析図です。 風の鉛直シアーを示す等値線は
25,000∼29,000フィートで混んでおり、 シアー
が大きいことが分かります。
図3と同時刻の航空機観測データと、 乱気流
のレポートをプロットした図 (省略) を見ると、
図3で鉛直シアーが大きく解析された高度
25,000∼29,000フィートにかけて、 ほとんど航
空機の観測データはありませんでした。 このこ
とから、 晴天乱気流の発生する可能性が高い領
域を避けて、 航空機が飛行していることが推測
されます。 このように、 毎時大気解析図は安全
で快適な航空機の運航を支援していると考えて
います。
当庁が作成する航空気象情報は、 航空気象情
報提供システム (MetAir) を使って皆様に提
供しています。 平成21年8月に MetAir の機能
を改善し、 気象情報を飛行場、 空域など大きく
分類し、 メニュー画面の上部のボタンからそれ
ぞれの情報へ移動できるようにするなど、 必要
な情報を容易に閲覧できるようにしました。
図3
10
2010 MAY
毎時大気解析図の例
たとえば飛行場の情報を選択するとそれぞれ
の飛行場を対象に発表されている飛行場予報、
時系列予報などの気象情報を一括して閲覧する
ことが出来るようになりました。
●今後の計画
これまでに、 航空気象業務の現状を簡単に紹
介しました。 次に今後の計画についてお話をし
ます。
積乱雲は急速に発達し、 航空の運航に影響を
与えます。 このため、 積乱雲を早い段階で検知
するために高頻度観測で衛星観測を行うことを
計画しています。 現在は30分毎の観測しか行え
ませんが、 たとえば5分間隔という高頻度で気
象衛星の観測が行えるようになると、 積乱雲が
発達する場合、 レーダーで観測される前に、 気
象衛星によって積乱雲を捉えることが出来るよ
うになると考えています。 また、 高頻度の観測
範囲については、 現在検討中ですが、 海上にお
ける積乱雲の振る舞いも詳細に観測できるよう
になる可能性があります。
現在、 全国31箇所でウインドプロファイラー
を使って上層の風の観測を行っています。 現在
は観測される10分毎のデータを1時間分まとめ
て収集していますが、 これを今後は10分毎に収
集するように改善を図る予定です。 10分毎にデー
タを収集することにより、 強風
域、 鉛直シアーが大きい地点を
ほぼリアルタイムで把握できる
ようになり、 航空機の、 より安
全な運航を支援できると考えて
います。
気象庁では数値予報により、
各種予報の基礎資料を作成して
います。 現在、 数値予報モデル
の解像度を改善して、 飛行場の
予報に適した数値予報モデルの
開発に取り組んでいます。 この
モデルにより、 たとえば10分刻
みで空港の気象の予測を行うな
ど、 空港及びその周辺のきめ細
かな予測を目指しています。
●将来の計画
ICAO では2025年までとそれ以降の航空交通
システムの運用に必要なサービスをグローバル
航空交通管理の運用概念として取りまとめまし
た。 これには、 航空交通管理システムの容量の
増加、 利用者の柔軟性と運用効率の最大化、 安
全性のレベルの改善のためのサービスについて
記述されています。 アメリカ及びヨーロッパで
は、 これに基づいて2025年までの航空交通シス
テムの改善計画が進められています。
その一つの米国の NextGen では、 衛星を利
用した運航の高度化として、 トラジェクトリ
(弾道・軌道) による運航管理や、 超密度運航
などが計画されています。 航空気象についてみ
ると、 運航の意思決定に気象情報を反映するこ
とが計画されています。 運航関係者が、 運航に
必要な観測から予測データまでの様々な気象情
報を共有して、 運航に関して協調的に意思決定
を行うことが計画されています。
日本では航空局が、 「将来の航空交通システ
ムに関する研究会」 を設置して、 2025年を目処
に航空交通システムの改善について検討してい
ます。 その中で、 軌道ベースの航空機運航の実
現を目指すことが検討されています。 この運航
※C-PIREP:Common Pilot Report
JAL、 JTA、 JEX、 JAZ、 JAC、 ANA、 ANK、
SKY、 ADO、 SNJ、 SFJ 及び IBX の12社が、
ACARS (Aircraft Communication Addressing
and Reporting System) や自社の航空無線に
よって収集した乱気流や着氷等のレポートを、
各社の端末で入力後航空局のシステムへ送信し、
航空局のシステムで統一フォーマットに変換後
のためには、 たとえば、 上空の風のデータとか、
航空路上の悪天に関する予測や観測情報など、
気象情報を高度化する必要があると考えられま
す。
●終わりに
航空気象業務の現状と今後の計画について紹
介しました。 私は、 数年前に成田の気象台に勤
務していたことがあります。 その当時は、 CPIREP※が作られる前で、 シグメットの発表に
航空機からの乱気流のレポートを大変苦労して
収集・整理して、 予報技術の改善に取り組んで
いました。 それが、 現在では、 C-PIREP を入
手できるようになり、 航空機が揺れに遭遇する
現象の理解がかなり進んできたと思っています。
気象庁は数値予報など、 最新の観測・予報技術
を使って皆様に気象情報を提供しているわけで
すが、 それでも乱気流に遭遇する時の気象状態
の把握はまだ十分ではないと考えています。
2010年から、 航空気象業務に品質マネジメン
トシステムの導入が義務化される予定です。 品
質マネジメントシステムの重要な原則の一つに
顧客重視があります。 今後とも気象情報を利用
していただく関係者の声をお聞きするとともに、
利用者との連携が重要と考えていますので、 こ
れらからもご協力をお願いします。
再び協力する航空会社へ一斉配信されるシステ
ム。 当庁にも変換後のレポートが入電しており、
1日3,000通を超えている。 C-PIREP が気象庁
に入電したことにより、 揺れていない場所もわ
かるようになり、 「空のアメダス」 のように空
域の実況監視能力が大幅に向上した。
2010 MAY
11
◎ 特別寄稿
=その2 訓練と経験の力=
Capt.“Sully”(サレンバーガー機長)が
実証したもの
元日本航空機長
上
田
恒
夫
筆者近影
フライトの目的地を 「Destination」 と言いますが、 「運命」 と言う語源が言いえて妙なフラ
イトもあります。 エンジンに大型の鳥を吸い込むバード・ストライクを起こしながら、 全員が
無傷で生還できたハドソン川のディッチング事故は、 機長の英断と乗組員の見事な連係プレー
によるものでした。 前号に引き続き、 元定期航空機長は分析しています。 この記事は日本ビジ
ネス航空協会会報にも同時に掲載されます。
編集委員会
皆が見た悪夢
「エンジンが突然大きな音を立てたと思った
ら、 次の瞬間急に音がしなくなり、 機内は図書
館のように静かになりました」、 これは事故直
後 NTSB (国家運輸安全委員会) のインタビュー
を受けた客室乗務員の証言である。
着水1分32秒前、 機長から“BRACE”(前
かがみの姿勢をとること) の指示が出された時、
彼女らは着水がもう避けられない事態であるこ
とを悟り、“Bend Over! Heads Down! Stay
Down!”(前にかがんで! 頭を下げて! そ
のままかがんで!) と叫びつづけた。 機が無事
着水してくれることを祈りながら。
だが他方で、 いままで経験したこともないこ
とが次にどんな事態を生むのか、 彼女たちには
十分予測できていたのである。 すなわち最悪の
場合、 大破した機体に大量の水が流れ込み、 乗
客はベルトを外す間もなく水に飲み込まれてし
まう。 運よくベルトを外せても、 外の気温は零
下5度。 たちまちハイポサーミア (低体温症)
による意識喪失に襲われてしまうであろう。
当時機を誘導していた出発管制官ハルテン氏
(Patrick Harten) も例外ではなかった。 サレ
ンバーガー機長から、 機がラガーディア空港に
12
2010 MAY
も、 テタボロ空港にも届かないと知らされた時、
「自分はこの機と交信した最後の人間になるか
もしれない」 と思いながら、 機の誘導と関係機
関へ援助の要請を行っていたと証言している。
悪夢を見た人は、 ハドソン河の水上にもいた。
水上フェリーのクルーたちである。 ニューヨー
ク・ウォーターウェイズの船長とそのクルーは、
落下してくるように見えた飛行機が水上に墜落
した瞬間に爆発を起こし、 大きな火の玉となっ
て船を包み込んでしまうのではないかと考えた
のである。
1を知って10を知る (パターン認識)
1549便には3名の客室乗務員が乗務していた。
デイル女史 (Shelia Dail) ―経験28年
ウエルシュ女史 (Doreen Welsh)
―経験38年
デント女史 (Donna Dent) ―経験26年
サレンバーガー機長は言う。 「2001年9月11
日のあの忌まわしい事件以来、 不況に陥った航
空界は、 新人を採用しなくなったので年寄りば
かりが残った」 と。
しかし、 これは願ってもない幸運であった。
機を無事着水させたのがサレンバーガー機長な
当時の1549便のクルー
女らの状況判断であった (Chris Witkowski
客室乗務員協会安全部長)。 それはまさに1を
知って10を知る早業であった。 しかも、 浸水で
機体が水没するかもしれないという恐怖と、 時
間との過酷な戦いの中で、 置かれた自然環境、
機体の状態、 乗客の様子、 使える機材等などを
総合的に判断して最良の脱出方法を決定したの
である。
US Airways 客 室 訓 練 部 長 ヘ ン フ ィ ル 氏
(Bob Hemphill) は述べている。
「訓練と経験は、 たちまちのうちに正解を出
すスーパーコンピュータのような能力を人間に
与えてくれる。 これは状況を一つ一つではなく、
総合的に認識する〈パターン認識〉と言われて
いる人間の特技で、 経験の積み重ねは理性的、
本能的な判断をさらに加速させるのである」
らば、 乗客を無事脱出させたのが経験豊富な彼
女たちであるからだ。
機が河の中で停止した時、 彼女らはやや機首
を上向きにして浮かんでいる機の後方の乗客を
前方に移動させ、 前方の二個のドアーと主翼上
の非常脱出口を開けて乗客の脱出を開始したの
である。 前方のドアーにはボートとして使える
スライドシュートが装備されていたが、 ひとつ
はドアーの開閉とともに自動的に膨張しなかっ
たため、 手動で膨張させなければならかった。
やらなければならないことすべてが間髪をい
れずに、 確実に実行されたこの脱出をウォール
ストリート・ジャーナル紙は、 事故直後に掲載
した特集の中で実技を中心とした US Airways
客室乗務員の訓練の成果であると絶賛した。 だ
が、 プロの目から見ると絶賛に値するのは、 彼
US Air 1549便の飛行ルート
ディッチングした US Air 1549便
2010 MAY
13
ひと粒で二度おいしかった
(国民的感動)
事故から一カ月が過ぎた時、 サレンバーガー
機長は一通の手紙を受け取った。 その手紙は同
じ会社に働く、 若い地上職員から寄せられたも
のであった。
「あなたが果たした偉業は、 頭をハンマーで
叩かれたような大きな刺激を私に与えてくれま
した。 もう長い間不況から立ち直れないでいる
航空会社に働くことは、 私にとってお金をもら
うこと以外意味はなく、 毎日の通勤が苦痛でし
た。 しかし、 今の自分は誇りを持って仕事をし
ています。 大切な人命を預かる航空会社の仕事
を私も下から、 側面から支えていることを、 あ
なたは教えてくれたからです」
この手紙に代表されるように、 サレンバーガー
機長は少なくとも全米の多くのプロを眠りから
覚まし、 勇気づけたのである。 この事実は、 氏
に寄せられた一万通を超える感謝のEメールか
らも確認できるであろう。
マスコミが熱狂的に伝えたもう一つの事実が
ある。 それは氏の謙虚な人柄である。 氏は事故
直後の記者会見で、 「自分は訓練されたことを
忠実にやっただけである」 とヒーロー扱いされ
ることを嫌った。 たまたま1月末に予定されて
いたオバマ大統領の就任式に招待された時も、
「共に難関を乗り越えた他のクルーと一緒でな
いと、 招待を受けない」 と言って、 自分だけが
ヒーローになることを再び拒んだのである。 こ
の謙虚さは、 自己主張が強く、 社会に名前を知
られることが成功と考えるアメリカ人の多くに
とって不思議でもあり、 驚きでもあった。
あるテレビ局のニュースキャスターは 「サリー
機長は二度にわたってアメリカ国民に感動を与
えた。 一度目は彼の高い操縦技術で、 二度目は
謙虚な人柄で。 それは丁度二回違った味を楽し
めるキャンディー (Double Coated Candy)
に例えることができる」 とユーモラスに功績を
たたえた。
この指摘は、 パイロット (特に機長) に求め
られる資質とそれを付加する訓練を考えるとき、
14
2010 MAY
誠に的を突いた (射た) 表現である。 つまり、
パイロットに必要な技能とは、 ①航空機の運航
に不可欠な高度な操縦技能や、 技術的な知識を
応用してより安全で、 良質な運航を達成する技
術的な側面としての技能 (Technical Skill)、
②人間の力を結集させてチームワークを作り上
げたり、 共に働く仲間のやる気を引き出して率
先して問題解決にあたるリーダーシップ、 とい
う人間的な側面としての技能 (Non Technical
Skill) であるからである。
サレンバーガー機長の警告
「航空の安全記録があまりにも素晴らしいの
で、 乗客の多くは自分たちが地上から7マイル
も離れた上空を、 音速の80パーセントもの高速
で飛行することにチャレンジしていることを忘
れている。 また安い座席を提供することが、 サー
ビスの低下を招いているだけでなく、 すべての
価値 (人命や安全の価値まで) を低下させて、
次にどんな事態が発生するのかということも忘
れさせている」
事故以来、 サレンバーガー機長は米国上院の
公聴会で、 マスコミのインタビューで、 機会あ
る毎にこの警告を繰り返してきた。
気温零下50度以下、 酸素の濃度も地上の三分
の一以下、 こんな環境に放り出されたら人間は
3分間と生きていることはできない。 しかし、
2002年夏
最初の Airbus のフライト
人間はこんなところに飛行機を使って出かけて
いるのである。 時には日に何度も。
他方、 現代は人間の欲しいものが安価に手に
入る便利さをもたらした。 この便利さが人命の
尊さをも忘れさせるようになったら、 犯罪は凶
悪化し、 小さなヒューマンエラーによって起き
る大事故と私たちは背中合わせで暮らしていか
なければならなくなる。
おそらくこんなことは、 誰しもが言われれば
すぐに理解できることである。 しかし、 毎日の
生活に追われてめまぐるしく働いていると、 ま
た嫌なことは考えずに明日の幸せだけを夢見て
生きていると、 人間は危険や価値に盲目になっ
て、 とんでもない事態を招くことがあると、 サ
レンバーガー機長は警告しているのであろう。
最後に、 サレンバーガー機長が残したもう一
つの教訓に触れるならば、 US Airways 1549
便の生還の裏には、 氏の豊富な過去の事故事例
の知識と、 そこから来る事故への防御の姿勢が
あったのである。
それは訓練と経験のみが与える産物なのであ
る。
―完―
写真は 「HIGHEST DUTY My Search for What
Really Matters 」 Jeffery Zaslow 著 、 Harper
Collins 出版から引用しています
後日筆者から編集者に届いたメールの一部をご紹介します。
「ご存じとは思いますが、 サレンバーガー機長は3月8日のフライトを最後にリタイアーして
しまいました。 優秀な技量と、 高潔な人格を買われ、 どこかの要職に就くようです。 やはり一
機長としてそのままにしておかないのが、 アメリカだと思います。 ある意味では、 残念に思い
ます」
Internet では US Airways 1549便事故とサレンバーガー機長に関する多くの報告が紹介され
ています。 ATC の交信実録に同期させた動画による simulation を見ることもできます。 またテ
レビ局やシンポジウムでの機長のインタビューも収録されていますので、 その一例として
YouTube の web をご紹介します。
http://www.youtube.com/watch?v=kH7qmmHdfvg
上田 恒夫氏のプロファイル
1941年静岡県生まれ、 千葉県松戸市在住。 1963年日本航空入社、 副操縦士時代は米国に駐在。
1972年機長に、 同社運航安全推進部次長、 同技術研究所基礎技術部次長を歴任、 JAPA 理事。
2001年7月にラストフライトを迎える。 「敬天愛人」 を座右の銘に妻と長男の3人暮らしの日々、
退職後は自宅から孫のいるアメリカと北海道への行き来を楽しむ。 テニスで健康維持を努める
が、 一升ビンが近くにあることも多いと。
編集委員 柳井記
2010 MAY
15
◎寄
稿
テストパイロットに求められる役割と資質
SETP フェロー
小田
康夫
れました。 民間機分野では、 昭和33年 (1958年)、
双発ターボプロップ機 YS-11 開発の基本方針
●はじめに
航空自衛隊は戦後10年の空白を乗り越えて、
昭和31年、 T-1 ジェット練習機の開発を開始し
て以来、 今日までに9機種の航空機を開発・実
用化してきました。 そして C-1 型戦術ジェッ
ト輸送機、 T-2 型超音速高等練習機等の開発を
機に、 昭和44年 (1969年)、 試験飛行操縦士課
程を設立してテストパイロットの教育を開始し、
今日までに二百数十名のテストパイロットを養
成してきました。
これらのテストパイロットは、 航空機の開発
や導入等に際して、 審査や飛行試験等にあたり、
数々の困難や危険を克服してその役割を果たし、
その成功に大きく寄与しました。
こうしたテストパイロット達の活躍の事例を
戦後の航空機開発の歴史とともに振り返りつつ、
テストパイロットの役割やテストパイロットに
求められる資質とその教育訓練などについて、
その一端を紹介してみたいと思います。
が決定、 開発が開始され、 昭和37年 (1962年)
に初飛行し、 昭和39年 (1964年) に型式証明を
取得して実用化されました。 YS-11 のテスト
パイロット長谷川栄三さんは、 終戦前からの経
験を持つベテランで、 航空自衛隊から日本航空
機製造に移籍されました。
その後 XC-1 の社内試験も担当されました。
この時期までの航空機開発にあっては、 技術陣
もテストパイロットも、 主力は官・民共に戦前
の航空関係者でした。
● 航空自衛隊の航空機開発と
テストパイロット
航空自衛隊発足の翌年、 早くもジェット練習
機の開発を計画し、 翌々年の昭和31年 (1956年)
に T-1 型ジェット練習機の開発を開始。 昭和33
年1月には試作1号機が初飛行に成功し、 技術
試験、 実用試験を経て昭和36年 (1961年) 1月、
部隊使用承認 (実用化) に至りました。
この時のテストパイロットは、 旧帝国海軍の
ジェット戦闘機 「橘花」 のテストパイロット高
岡廸空将補で、 退官後、 昭和38年 (1963年) に
初飛行した三菱 Mu-2 の初期のテストも担当さ
16
2010 MAY
F15 イーグル試験飛行前の小田氏
USAF TEST PILOT SCHOOL
エドワーズ空軍基地
1960年代はじめ、 航空自衛隊は、 当時最後の
有人機といわれた F-104J ジェット戦闘機の導
入に際して、 3名のパイロットを米空軍テスト
パイロット・スクールに留学させ、 技術審査や
実用試験、 運用試験などにあたらせました。
また、 海上自衛隊パイロットも米国でテスト
パイロット教育を受け、 対潜飛行艇 PS-1 の開
発にあたりました。 航空機が急速に進歩・発達
するなかで、 その最先端を行く米国の進んだ試
験飛行技術と技法を習得したテストパイロット
の誕生でした。
T-33A、 F-86F 等のライセンス生産や T-1、
YS-11 等の開発で、 我が国の航空工業界は戦
後10年間の空白を急速に埋めて着実に力をつけ、
折からの高度経済成長と相俟って航空機の国産
化の気運が大いに高まっていくなか、 防衛庁・
航空自衛隊は昭和41年度から戦術輸送機 C-1、
42年度から超音速高等練習機 T-2 の開発を開
始することになりました。
これらの開発機のテストパイロットは、 当初、
米空軍テストパイロット・スクールに留学させ
て養成する予定でした。 当時、 F-1 戦闘機の開
発や次期主力戦闘機の導入も予定されていまし
た。 従って、 国内開発機についてはフォロー・
オンテスト等のために、 今後、 継続して相当数
のテストパイロットが必要になることなどから、
昭和43年度 (1968年度) に C-1 要員として米
国に派遣される2名を基幹要員として、 昭和44
年度に航空自衛隊実験航空隊に試験飛行操縦士
課程を新設することになりました。
こうして、 1968年度 (米国年度) 後期課程と
1969年度前期課程に夫々1名のパイロットが、
試験飛行操縦士課程の基幹要員として米国に派
遣されることになったのです。
昭和44年10月1日、 航空自衛隊に試験飛行操
縦士課程が創設され、 第1期課程学生4名の教
育が開始されました。 学生は 「卒業後直ちにテ
ストパイロットとしての役割が遂行できること」
を目標に、 極めてタイトな教育スケジュールで、
施設器材の不備などの困難を克服して所期の目
標を達成しました。
第2期以降、 教育期間の延長や教育器材等の
充実などの改善がはかられ、 各コース6名程度
の教育を実施できるようになりました。 テスト
パイロットの継続的な養成により、 開発試験等
の経験を有するテストパイロットが、 当該新機
種部隊の建設や上級司令部の関係幕僚ポストな
どに配置可能となっていくにつれ、 テストパイ
ロットの有用性が広く認識され、 その活躍の場
も広がっていきました。
これらの一部は、 要請に応じて航空機メーカー
2010 MAY
17
や政府研究機関等に転職・移籍等によって活躍
することになりました。 また、 陸海自衛隊のほ
か、 運輸省、 科学技術庁、 三菱重工、 日本航空
などのパイロットも受託教育されるようになり、
卒業後それぞれ、 飛行審査や研究開発等の分野
で 活 躍 さ れ ま し た 。 航 技 研 の STOL 研 究 機
「飛鳥」 のテストパイロットもこうしたパイロッ
ト達でした。
試験飛行操縦士課程で教育・養成されたテス
トパイロット達は、 戦術輸送機 C-1 の開発に始
まり、 今日までの各種の航空機の開発や新機種
の選定・導入等の審査や試験の各フェーズにお
いて活躍したのは勿論のこと、 航空事故防止/
調査や様々な研究開発の分野でも活躍致しまし
た。
● 高度な専門技能/技術者としての
テストパイロットの必要性
戦前は経験豊富で技量の優れた操縦士が試作
機のテストを担当していました。 しかし、 航空
機関係技術の著しい進歩発達と航空機の性能向
上と機能の多様化、 システムの複雑化に伴い、
これを設計・制作するには多岐に亘る高度な専
門的技術が必要になると共に、 こうした航空機
の操縦士は高度に訓練された専門的技能者たる
ことが要求されるようになっていきました。
こうして操縦士と技術者それぞれの専門的な
事項について相互間のギャップが拡大し、 航空
機の開発において、 運用者サイドと技術者サイ
ドの意思疎通の不足により、 設計や開発試験で
の改善策の決定などに困難を生ずる事態が生じ
ました。 また、 高速化・複雑化した航空機の飛
行試験も複雑多様になると共に、 危険も増大し、
テストパイロットは対象航空機の設計上の特性
や飛行上の特性、 起こりうる現象等について十
分理解しておくことが重要になってきたのです。
こうした事情からテストパイロットには、 航
空力学や関連技術の知識が極めて重要であると
認識されはじめました。 東京空襲で有名な米軍
のジミー・ドゥーリトルは、 航空工学の学位を
取得したパイロットで、 当時としては稀有な存
18
2010 MAY
在であり、 技術的素養が重要とされる現代テス
トパイロットの先駆者でした。 戦前の日本でも、
航空機技術者にパイロット訓練を実施したこと
があります。
こうした時代的要請から、 1943年の英国をは
じめとして米国、 フランスなどの航空先進国で、
専門的体系的なテストパイロット養成学校が逐
次誕生することになりました。
● テストパイロットの役割と資質
開発段階の航空機や研究用航空機などの飛行
試験のほか、 生産ないし修理、 整備等に伴う飛
行試験パイロットも広義のテストパイロットで
すが、 ここでは航空機の開発段階の飛行試験や
新技術等の実験・実証のための研究機/実験機
の飛行試験に任ずるテストパイロット、 所謂
「Experimental Test Pilot」 について述べます。
テストパイロットの主要な役割が、 初飛行に
始まる性能、 特性、 各種機能等の確認のための
試験飛行にあることは勿論です。 しかし飛行試
験だけがテストパイロットの役割ではありませ
ん。 開発の構想段階から設計段階・運用段階、
更には用途廃止まで、 テストパイロットの果た
すべき役割があります。
最新の技術を駆使する高性能機の航空機の開
発では、 開発の各段階で、 運用側の要求と技術
側の提案に関して相互の理解にギャップが生ず
ることがあります。 不可欠でもないほんの少し
過剰な要求やリスクの高い技術の採用が、 開発
期間の遅延やコストの高騰を招くことになりま
す。 逆に慎重過ぎたり、 期間やコストを重視し
過ぎて必要な要求を押さえると、 陳腐ないし危
険な航空機になる恐れがあります。 こうした場
合にテストパイロットは、 その調整に重要な役
割を果たすことになります。
設計・試作段階において、 コックピット審査
などマン・マシン・インターフェイスや運航に
関係する各種の審査、 操縦性・安定性など飛行
特性に関係する審査では、 テストパイロットは
責任と権威ある立場で参画者、 あるいは担当者
になります。 C-1 や T-2 では、 設計段階以降、
こうした問題にテストパイロットが重要な役割
を果たしました。 例えば XT-2 の設計段階で、
ロール・ヨー安定性の改善策として、 テストパ
イロットの提案で胴体後方下部にフィンが付加
されました。
以後の開発では、 さらに早い段階から、 テス
トパイロットが関るようになったのです。
飛行試験の計画段階や実施の各段階などでは
主導的役割が求められます。 試験期間に計画の
修正の必要が生じるのが常ですから、 飛行試験
計画策定の初期から開発完了まで、 責任ある主
要メンバーであり、 試験飛行の責任者です。
XC-1 の開発時、 飛行試験データの解析法は、
テストパイロットの提唱する飛行試験技法で収
集されるデータの補正方式の方が、 解析プロセ
スの段階での誤差要因を極限しうるとの観点か
ら、 飛行試験法及びデータの解析法は、 テスト
パイロット提案の方式を採用することになりま
した。 XT-2 の飛行試験計画は、 まずテストパ
イロットが素案を作成、 予定試験期間内におけ
る可能な飛行試験回数・飛行時間の見積もりか
ら、 飛行回数・時間の大幅な削減の要があると
判断され、 テストパイロット提案の自動データ
記録装置や飛行補助計器が装備され、 フライト
数は大幅に縮減できました。
安全・効率的な飛行試験の計画の立案には飛
行試験理論と対象航空機の設計上の特性の理解
が必要です。 またフライトの実施に当っては、
精度の高いデータの収集と客観的、 理論的観察
が肝要です。 ノット単位の速度保持、 フィート
単位の高度保持など高い飛行技量が要求されま
すし、 操縦特性では、 繊細な操縦感覚と技法が
必須です。 未確認の飛行領域やストール/スピ
ン特性、 フラッター試験など危険領域での飛行
試験では、 起こり得る危険と対処法について、
十分理解しておくこと、 異常や危険の発生時に
は、 その飛行条件や現象を正確に把握すること
が大切です。
又、 「予期しないこと」 が起こることを 「予
期しておく」 事も大切です。 XC-1 の失速特性
試験時、 予期しないストールスピンに入りまし
たが、 モードをよく観察し、 適切に対処して、
その後の改善を容易にしました。 XT-2 ではピッ
チ短周期振動テストで発散現象が起こり、 Gメー
ターが振り切れるほどでしたが、 異常状態のテ
スト機を無事着陸させ、 問題点の解明に大きく
寄与しました。 突然のエンジン停止やエンジン・
ストールなど、 予期しない危険は枚挙に暇があ
りません。
飛行試験は必ずしも理想的条件で実施できる
とは限りませんし、 記録されたデータだけで飛
行中の現象を十分に把握・評価できないことも
しばしばですから、 飛行中の現象やその条件を
正確かつ理論的に観察・把握し、 技術陣に伝達
することが重要です。 こうしたことから、 収集、
データの解析や評価および改善施策の検討には
参画し、 次の飛行試験の一ステップにするのです。
合理的・効率的な飛行試験の計画を作成した
り、 効率的でより安全なフェーズ毎の各飛行試
験を計画・実施するためには、 飛行試験技法の
「ノウ・ハウ」 のみならず 「ノウ・ホワイ」 が必
要ですし、 データ解析への参加はそのためにも
必要です。
全てのテストパイロットが開発の全段階に関
るわけではありませんが、 高度な飛行技術と開
発の各段階で、 さまざまな役割がはたせる技術
的な素養が求められます。 テストパイロットは、
いわば、 要求する側 (運用者) と提供する側
(技術者) の 「通訳」、 「調整役」 であり 「最適
解」 に導くキーマンともいえます。
YS-11 を背にした教官時代 (中央) と利渉氏 (右)
2010 MAY
19
● テストパイロットの教育
航 空 自 衛 隊 は 米 空 軍 の TPS (Test Pilot
School) を参考に試験飛行操縦士課程を設立
し、 その後も最新情報等を得て教育に反映して
いますので、 ここでは米空軍 TPS を柱に、 テ
ストパイロット教育の概要を紹介いたします。
教育目標は、 航空機の開発をはじめ航空兵器
システムの開発において試験、 審査・評価がで
きるテストパイロット (プロジェクトパイロッ
ト/エンジニア) を養成することです。 従って
学生には理数系の素養が重視されています。 博
士号を有する学生もいます。
期間は48週、 学科420時間、 飛行時間120+で、
「飛行性能」 「飛行特性」 「システム」 「テスト・
マネージメント」 の四つのフェーズからなり、
教育は前の三つの順序で進行します。 この流れ
に沿って、 学科教育と飛行訓練が各体系的に配
分/組み合わせられています。 航空力学と飛行
試験理論の理解、 その基礎にたって飛行試験技
法を体得させる飛行訓練を行います。 該当学科
の試験合格後、 飛行試験訓練に入ります。
教官同乗飛行は各項目、 原則一回、 あとは学
生自身でデータ収集等の飛行を実施します。 未
経験の機種もテクニカル・オーダーで自習して
一回のチェックアウトがあるだけです。 フェー
ズごと一定機種を模擬テスト機として各段階・
テストを計画・実施します。 テスト・マネージ
メント教育はこの流れに沿って行われます。
搭乗機種は体験操縦を含め、 二十数機種にお
よびます。 グライダー、 ヘリコプター、 飛行船
SETP Fellow 入会式典の小田氏 (左から3番目)
20
2010 MAY
などもあります。 飛行時間は主訓練時間のほか
に体験搭乗/操縦が50+時間ほどあり、 合計
170+時間ほどです。 多機種が使用されるのは、
飛行試験項目に適した航空機を使用すること、
機種によって飛行特性や操縦性がそれぞれ異な
ることを体験し、 速やかに適応する能力を養う
こと、 異なる航空機もその原理にそって飛ぶこ
とは同じであることを体得させること、 などで
す。 最後のフェーズで未経験機種を一つ選択し
て総合評価試験飛行を行います。 数回のフライ
トで性能・特性などを把握して適否を評価する
ものです。
原則的には、 飛行訓練は午前、 学科は午後に
行われます。 データ解析やレポート作成は、 夕
食後や休日に実施せざるを得ない場合がしばし
ばです。 夜間飛行や計器飛行など一般的なリク
ワイアメントは自己管理事項で、 休日に自分で
計画・実施します。 1968年当時、 USAF TPS
は USAF ARPS (Aerospace Research Pilot
School) の名称で Space Course が元来のテス
トパイロット課程後に付設されていました。 テ
ストパイロット課程の教育訓練期間は約8ヶ月
半ほどでしたが、 教育の後期にはスペース関係
の学科や宇宙遊泳、 月面歩行、 宇宙船操縦シミュ
レーター訓練や帰還/着陸訓練の一部が含まれ
ており、 望外の体験ができました。
1972年、 スペース・コースが廃止されてシス
SETP 会長と共に
テム・フェーズを付加、 1973年にはフライトテ
スト・エンジニアコースが、 1977年にはテスト
ナビゲーター・プログラムが開始され、 現在に
至っています。
航空自衛隊の試験飛行操縦士課程の教育期間
は44週間で、 教育用機種9、 体験搭乗機含め23
機種、 教育飛行時間120時間で、 フランスの
EPNER (仏テストパイロット飛行学校) とほ
ぼ同じです。 教育訓練飛行でも一寸したミスが
大きな危険を招くことがあります。 ゼロGスピ
ンテストで、 スピンエントリーの当て舵の遅れ
から背面スピンに入ったり、 ハイスピードダイ
ブ・テストでタックアンダーに入ったケースも
ありました。
●結びにかえて
退官してから17年、 最後のテストパイロット
らしい仕事は20年ほど前、 ある候補機の総合評
価飛行をしたこと、 開発機のコックピット審査
をしたこと位ですので、 かなり断片的、 抽象的
になってしまいましたことをご容赦願います。
より具体的な事例などは、 開発初期から終了ま
で担当したテストパイロットや、 最新のテスト
に関ったテストパイロットなどに譲ることにし
たいと思います。
*テストパイロットは 「虎穴に入る必要があ
る」 ただし 「鎧兜に刀を持って」。
*テストパイロットには 「特別な勇気や胆力
は不要である」。 「臆病ともいえる慎重さと
的確な判断力、 高い練度は、 勇気や胆力に
勝る」
*そして 「予期しない事態も発生することを
予期して飛び」 「事態にあたっては、 ゆっ
くり機敏に対処せよ」
ふと、 こんな事を呟いていた昔を思いだしま
す。
小田康夫氏略歴:防大3期・応用物理学科卒、
昭和44年、 米空軍テストパイロットコース
(TPS) 卒業。 帰国後、 国内初の試験飛行操
縦士課程を創設し、 実務を担当、 空自 TPC
教官として空地に優れた指導力を発揮し、 内
外に通用するテストパイロットの育成に努め
られた。 本課程は三菱重工、 日本航空、 運輸
省、 科学技術庁等のパイロットも教育を受け
ている。 宇宙飛行士に選ばれた油井亀美也氏
も TPC 卒業生である。 国産機の開発段階の
飛行試験、 導入機の実用試験、 製造会社での
飛行試験等の安全・円滑な遂行に寄与した功
績は大きい。 平成5年、 航空自衛隊幹部学校
長を最後に退職された。 平成13年、 日本人只
一人の SETP フェローとなり、 SETP 本部
特任副会長 (日本地区担当) として現在に至
る。
注:SETP (The Society of Experimental Test
Pilots) は、 テストパイロットの最も
権威ある国際的組織。
徳田
2010 MAY
記
21
「ハートで飛ばそう!」
Fly with Airmanship !
7
運航技術委員会
山
博行
・運航技術委員会では、 前号に引き続き操縦技術や経験の伝承というコンセプトで、 操縦の技量向
上につながる考え方や、 ヒントのようなものをまとめています。
……………………………………………………………………………………………………………………
・今回は Descent についてお話しましょう。
操縦の心
【Decent の釣合】
前回 Cruise 編、 水平飛行では、 左下図、
で FPA (Flight Path Angle) と な り ま す が 、 Thrust Lever を 絞 れ ば
となり、 Idle の では、 右下図、
が負となり機体は降下します。
[例題1]
・B747-400、 翼面積5,500ft2、 WT 550,000lbs、
Mach 0.84で41,000ft から Idle Thrust (−)
2,000lbs/4ENG の FPA と Descent Rate を
求めてみます。
・Climb の計算と同様にまず を求めます。
以後、
水平線に対し、 角度と高度の変化を、
下向きはマイナス (−) 上向きはプラス
(+) と定義して話を進めます。
1月号の Climb 編と同じように、 Descent
も斜面の力学と同様に Flight Path の前後方
向の釣合いの式が使用できます。
右図において、 FPA (−) は
Descent
得られた =0.54から、 次の High Speed
Polar Curveから =0.0295を得ます。
……
Rate の式は Climb と同じで
22
2010 MAY
……
・Drag は
41,000ft ISA では、 気温と TAS が一定なの
で、 Acceleration Factor は0となり、 式と式に数値を代入して、 FPA は
また、 Rate of Descent は
M0.84 のグラフから、 =0.54の迎え角 3.2°が得られます。
したがって、 Pitch Attitude は
=−3.3°+3.2°=−0.1°
さらに次の
【Acceleration Factor の影響】
機 体 の 加 減 速 の 状 態 を 表 す Acceleration
Factor は1月号のClimb と Vertical Speed
の+/−符号を逆にして計算します。
成層圏で気温と Mach が一定の場合は Acceleration Factor は0です。 360,89ft 以下
に降下すると、 気温が約2℃/1,000ft 上がり
音速が大きくなります。 Mach を維持するに
は Pitch を下げて加速する必要があります。
つまり IAS と TAS の加速降下になります。
また30,000ft 付近から IAS 一定で降下する
と TAS の減速飛行となり、 Vertical Speed
は減少しますが、 Pitch はほぼ一定した飛行
となります。
【Idle Thrust の変化】
Idle Thrust は Mach 数と高度によって複雑
に変化し、 例えば B747-400・B767 Engine
(CF6-80C2CB7F) では−1400∼−300lbs の
範囲で変化します。
(注)機種によりやや違いがありますが、 大き
な Turbo Fan の Engine では、 Fan の
Wind Milling 状態で、 Drag は多くの
機種で増加します。
【重量の影響】
式から FPA は、 明らかに機体重量 の影響が大きいことが分かります。
の 大 き い 方 が Drag が 大 き く Descent
Rate が大きくなる、 と思われがちですが、
は の1/18程度なので影響は小さく、 常
用 の 速 度 域 で は 重 量 の 10% 増 加 に 対 し 、
FPA 、 ともに概ね10%減少します。
【気温の影響】
Descent で、 Idle では Thrust が0に近い値
なので、 気温の変化での Thrust の変化は無
視でき FPA は変化しません。
いっぽう Climb 編で説明したように、 気温
が10℃上昇すると、 気柱が4%伸び、 真高度
は、 気圧高度計の指示値より4%高いので同
じ FPA であれば Distance も4%多く必要
になります。
2010 MAY
23
の Time は TAS と が10℃につ
き2%増加しますが、 4%−2%で相殺され
2%多く必要となります。
Descent
【Gliding Angle】
No Wind で No Acceleration か つ Idle
Thrust を0と仮定し式を変形すると
B737-800では、
軽い重量で高速の時に Gliding Angle が 深 く 、 Minimum Gliding
Angle Speed は常用速度280kts より小さい
ので、 高速で飛ぶと非効率になります。
【Deceleration】
10,000ft の到達前に速度制限250kts に減速
しなければなりません。
[例題2]
・IAS 300kts、 FPA−3°で11,000ft まで降下
してきた機体が FPA−1°で240kts まで減
速する場合の距離を求めてみます。 TAS は
次の図中の値を使用します。
・ジェット旅客機でも Thrust 0ではグライダー
と同じで、 滑空比は次図と式から
となります。 例題1の B747-400の例では
=550,000lbs÷29,900lbs≒18.4
旅客機も
Idle にすれば
グライダー 【Minimum Gliding Angle Speed】
滑空比最大になるのは FPA が最小になる
点で、 と Mach (TAS) の比でみます。
B737-800、 25,000ft、 横軸 Mach 数 (TAS)、
縦軸 Vertical Speed、 重量毎にプロットし、
原点からの接線の接点が Minimum Gliding
Angle Speed で、 Vref+100kts 付近です。
・Climb 編で述べたように、 FPA 3°と加速
度1kts/sec は等価なので、 3°から1°、 2°
変化の2/3kts/sec (≒0.67kts/sec) で減速
することになります。
・減速に要する距離 (NM) を求めます。
以下の降下も同様に、 FPA −3°と
して、 4,000ft/240kts (TAS 254kts) から
3,000ft/170kts (TAS 177kts) の減速距離
を 求 め ま す 。 実 際 は FMC の Speed Command に従い Flap を下げるので、 Drag と
Idle Thrust が変化し一様ではありません。
2010 MAY
10,000ft
24
【Descent Profile】
1,000ft ごとの を計算すると、
次図のような高々度からの Profile を描くこ
とができます。
前図で、
Tail
風がある場合は、
【High Speed Descent と Optimum Descent】
次図は Optimum Descent の Low Speed と
High Speed の Profile 図 で す 。 降 下 中 の
Idle の Fuel Flow 値は小さいので、 Thrust
の影響は小さくなります。
High Speed Descent では減速距離は長くな
りますが、 Path が深いので降下開始地点は
遅くなります。 そのぶん、 Cruise Portion
が長くなり Level Flight の部分で Burn off
Fuel が多くなってしまいます。
下記の式で積算すれば風を
考慮した Distance が得られます。
【Wind Gradient の影響】
Descent での Wind Gradient の影響は Acceleration Factor、 の に GS を代
入すれば傾向を調べることができます。
・ 次 図 は 36,000ft∼31,000ft の 間 、 120kts∼
90kts、 6kts/1,000ft の Tail Wind Shear の
場合と、 平均風速105kts Steady Wind の場
合の Distance を計算したもので、 5,000ft で
約3nm の差が生じます。
Wind での降下中、 Tail Wind Component が急減したとき、 Auto Pilot の VNAV
PTH Mode は Path を守るので、 速度が増
加し に急速に近づく場合がありま
す。
このような場合、 VNAV PTH Mode から一
旦離れ、 状況に応じ SPD Brake で減速しま
す。
小さい速度で降下するのも一つの方法です。
Head Wind の中を降下していく場合は Air
Speed Loss の傾向となるので、 上記と逆に
Distance は Steady Wind より短くなります。
2010 MAY
25
B767で
FMC に Cost Index に0を入れると
ECON Descent Speed は250kts となり、 200
lbs 程度の Burn off Fuel 減少が表示されま
す。 たかが200lbs と一笑するなかれ! お
よそ120リットルになり、 自家用車の一カ月
に消費するガソリンより多いのではないでしょ
うか?
に近い
また機内で救急患者などで 高速での Descent を余儀なくされる場合な
ど、 難しい減速のタイミングを研究しておく
ことをお勧めします。
【Descent Plan】
FMC が登場する以前は Idle Descent での降
下開始点や Idle で平均の を暗算で正確
に 算 出 す る の は 容 易 で は な く 、 Vertical
Speed を暗算しやすい2,500ft/min として、
現在高度と目的地点の高度差を割り、 時間
(分) を算出し、 それに平均の GS (分速)
を掛けて Distance を求めていました。
これでは Jet 機の理想的な Descent とは言
えません。 いかに長く Idle で Descent でき
るかがエコ・フライトの要なのですから。
当時、 計算ミスや風の読み違いで、 ツンのめっ
た経験は筆者でも十指に余りあります。 現在
では風等の諸条件を加味した Idle Thrust に
よる Top of Descent が EHSI 上に表示され、
降 下 中 も Idle Path に 対 す る Deviation が
Vertical Track Error (VTKE) として表示
されているので、 ずいぶん樂になったものだ
と感心してしまいます。
とは言っても FMC 全盛の現在でも、 様々な
要因で Descent Plan の失敗はしばしば生じ
ているようです。
【Replan】
Jet 旅客機の多くが、 Idle Descent では FP
A−3°程度で降下します。 Plan どおり降下
を開始しても、 ATC の高度制限や Radar
Vector などで Idle Path から Well High と
なった場合、 Speed Brake を使用して FPA
を深くし Idle Path へ戻る操作をしなければ
26
2010 MAY
ならなくなります。
次 表 は Boeing の 各 機 種 の Clean と Full
Speed Brake の Flight Path Angle を計算
したものです。
25,000ft IAS 280kts
Idle Thrust
Clean
S/B Full
B767-300ER 260T
−2.7°
−5.3°
B777-200ER 440T
−2.4°
−5.9°
B737-800
120T
−3.1°
−4.3°
自分の乗務する機体で、 Speed Brake を使
用した時の目安を把握しておきましょう。
図は、
SPENS 16,000ft を指示され、 VTKE
が+2000ft になったときの修正方法の一例
です。 5分間で2000ft 処理するには、 Speed
Brake を引き、 Vertical Speed を400ft/min
以上増加させます。
Vertical Navigation の基本は、 目標地点ま
での距離と VTKE から、 Idle Path に対し
「高いか? 低いか?」 を Monitor します。
高低を 忘れて気がつき フルブレーキ 【加速による高度処理】
Jet
旅客機は高度の位置エネルギーと運動エ
ネルギーを Drag で消費しながら降下して
います。 何らかの理由で Speed Brake を使
用するということは、 せっかく温存してきた
エネルギーを、 を増やすことによってただ
空気中に放出してしまうということなので、
「もったいない」 話です。 したがって Well
High になった時、 加速して高度処理を行っ
たほうがいくらかおトクになるかも知れませ
ん。 しかし?です。
この方法で注意すべきは、 余剰になった速度
・・
エネルギーをいずれ後で処理しなければなら
ないということです。 高度が十分高いところ
では、 その運動エネルギーを利用する方法も
あるでしょうが、 加速による運動エネルギー
の余剰な速度の処理を、 Task が多く混雑す
る Terminal Area や低高度で行うことは、
「余裕」 を失い他のミスを誘発しかねず、 お
勧めできません。
重量が重く追い風の場合、 Wind Gradient
の効果も加わりエネルギー処理に予想外に距
離と時間を要することもあります。
高度へ降りるのはもったいない話です。
前方の Traffic に応じて減速するか、 が良く旋回半径も小さい250kts で様子を見
るのも一つの方法です。
そちらはハワイ
そんなに急いでどこへ行く いっぽう
SPENS を通過後、 MICKY 方向で
同時に低い高度を与えられたら、 Traffic は
少なく Final Coarse へ最短距離の Vector
が予想されます。 この場合 SPENS−MICK
Y 間の直線距離は42NM なので Idle Path よ
り少々高くなります。
図、 B767 Idle Path で、 MICKY 3,000ft ま
で 42NM の 地 点 は 13,000ft で す 。 Direct
MICKY とすると、 Idle Path からの VTKE
は+3000ft になります。 この3000ft High の
処理に Pilot Sense が問われます。
【Terminal Area Arrival】
羽 田 RWY 34L の Final Approach Fix
(FAF) の MICKY を タ ー ゲ ッ ト と し て
Area Arrival を行うという前提でお話します。
平均速度で所要時間を求め高度差から
SPENS
を16,000ft 300kts IAS で通過後、 ど
ちらの方向に Heading を与えられるか?が
最初のキーポイントです。
WESTN 方向ならば Traffic の混雑が考えら
れ、 High Speed で Fuel Save に不利な低い
Descent Rate を計算するやや複雑な方法もあ
りますが、 FMC ならでは!の方法は?
高度≒距離×100、
距離と高度差、 FPA 1°
FPA 3°≒距離×300は Pilot の常識です。
距離30nm で VTK 3000ft HI の場合、 Tail
Wind や Head Wind を算入した Idle Path
より FPA は1°高いだけです。
の時、
例えば、 Tail Wind の Idle Path が2.5°
30nm では約7500ft となり、 1°高い3.5度で
は10500ft、 つまり3000ft HI となります。 こ
の方法では Descent Plan に重要な距離を常
に Monitor し Path を 考 え 、 VTKE の
Monitor も対象となります。
2010 MAY
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Idle Path に 戻 る Descent Rate は 簡 単 に
1°≒GND Speed/60×100となります。
例えば、 現在の GND SPD 420kts、 Descent
Rate 2000fpm のとき、 FPA 1°≒700fpm
なので、 Descent Rate 2700fpm 以上で降下
すれば、 FMC が計算した Idle Path に戻る
事ができます。 VTKE と距離の計算は風も
含まれています。 FPA と Distance、 FPA
と VTK Error の関係を把握して下さい。
図の3000ft−42NM ではどうでしょうか?
さん
掛け算は
ればなりません。 Clean Configuration で
Speed Brake で対処し Idle Path を Capture
するのが望ましいのですが、 実際にはそうも
いかないケースがしばしば発生します。
FAF が迫ってきた場合、 先ず Speed Brake
で減速し、 Flap を Extend します。
次図は B767-300ER で Flaps 5と Full Speed
Brake を併用したときの Descent Rate の増
加を表したものです。 Full Speed Brake で
ほぼ倍の降下角が得られることがわかります。
ざん
3の算に強い
パイロット 【Traffic Separation】
通常、 Traffic が混んでいる場合、 2分間隔
で FAF へ導かれることが多いようです。
Pilot も TCAS 表示で現在の速度で2分ぶん
の距離を考えれば、 スムーズに飛行できます。
Arrival 2分間隔 数珠つなぎ 【Wake Turbulence】
Wake Turbulence は先行機の Flight Path
の 下 500ft∼1,000ft に 存 在 し ま す (AIM-J
934b参照) から、 先行機の Flight Path の
下に入ると Wake Turbulence の中へ入って
しまいます。 したがって、 先行機と同じ
Path か、 やや上の Path を飛行した方が良
い 場 合 も あ り ま す 。 Tail Wind の 場 合 の
Wake は Flight Path と交わっている可能性
があり要注意です。
【低高度での高度処理】
Terminal Area で は 、 Well High に な り
Flight Path Angle を大きくしたい時にも加
速させるのではなく、 Drag を増加させなけ
28
2010 MAY
なお上図の曲線では、
最近のファウラーフラッ
プ系の機体で Flap 単独では Drag の Device
としての効果はほとんど期待できないことも
読み取れます。
Arrival、
こりゃ高い!
減速が一番! 【Configuration の Set Up】
日常からできるだけ FAF の7NM くらい手
前で VNAV PATH Mode で FMC の Speed
Command にしたがって Flap を Extend し、
安定して FAF を通過するようにしたいもの
で す 。 も ち ろ ん Approach 状 況 に よ っ て
VNAV Mode を使えない場面も多々ありま
すが、 VNAV を使いこなし、 できるだけ機
体の設計思想に沿ったフライトを心がけるべ
きだと思います。
次回は最終回として、
Approach から Landing についてお話ししたいと思います
競技曲技シークエンスの飛び方
全日本曲技飛行競技会に向けて
競技曲技飛行チーム WP Competition Aerobatic Team
昨年試行された曲技飛行競技会の結果を反映
して、 今年の10月には国内での本格的な競技会
として第1回全日本曲技飛行競技会が開催され
ます。 曲技飛行を愛好されるパイロットや興味
がある方はもちろん、 曲技なんて特殊なものは
関係ないと思っている方にも、 スポーツとして
の曲技飛行について知って頂きたく本稿を書く
ことに致しました。
曲技飛行というと、 宙返り、 横転、 スピンな
ど通常の飛行では行わない特殊な機動を行う危
険な飛行というイメージが強いようですが、 セ
スナでシャンデルやレイジーエイトなどの機動
を行うのと根本的には何も変わりはありません。
宙返りやハンマーヘッドは極端なウイングオー
バー (レイジーエイトの半分) と考えることも
出来ますし、 インメルマンは間違いなくシャン
デルの仲間です。 曲技飛行だからと言って特別
な操作が必要な訳ではないのです。 姿勢と速度、
高度、 三舵の調和 (あるいは不調和) を適切に
コントロールすることがこのスポーツの基本に
なりますので、 飛行機を安全に正確に操縦する
ためにも有意義なスポーツと言えます。
今回は10月に行われる全日本曲技飛行競技会
のクラス2で参加者が飛ぶ事になるシークエン
ス (2010年 IAC Sportsman Known) につい
て、 競技における戦術や、 各課目で減点を少な
くするコツなどに触れながら解説したいと思い
ます。 競技に参加するつもりのない方にも、 読
んで頂いて少しでも曲技飛行競技について知っ
て頂ければ幸いです。
内海
昌浩
これが競技のシークエンス (一連の演技) を
示した図です。 曲技課目がそれぞれアレスティ
記号という記号で書かれています。 基本的な読
み方として、 ●からT字に向かって飛ぶことを
意味していて、 線は概ね審判席から見た競技機
のフライトパスを意味しています。 破線 (カラー
だと赤) は背面でのフライトパスを示します
(スピンの垂直部分は例外)。 これらの線の途中
2010 MAY
29
にある矢印や三角形はロールやスピンを意味し
ています。 このシートの右側が風上ですが、 風
がどちらから吹いても対応できるように審判席
には左が風上のシートも用意されています。
シークエンスに登場する各課目が個別に飛べ
るからといって、 いきなり一連のシークエンス
が飛べる訳ではありません。 曲技競技のシーク
エンスは、 次の課目を続けて実施します。 次の
課目に備えて速度や高度、 位置を調整するため
に上昇や降下、 旋回をすることは出来ませんの
で、 その課目が終了した時点で次の課目を開始
するために必要な諸元になるよう操縦しなけれ
ばなりません。
まず、 シークエンスを行う高度について考え
ます。 演技全体が余りにも高高度では審判には
見難く印象も悪くなります。 逆に低くなって下
限高度の1500feetAGL を切れば失格になりま
す。 そこでシークエンスのどこが最低高度にな
るのかを考えます。 それぞれの課目はどのくら
い高度を失うのかを予想し、 一番低くなるのは
いつなのか考えます。
恐らく演技中高度が一番低くなるのは9番の
金魚 (英語でも goldfish って呼びます) が終
わった時点でしょう。 ここで下限高度の1500
feetAGL に100feet 余裕を持たせた1600feet と
なるように計画します。 終わりが1600feet なら、
1000feet 損失するこの金魚の開始高度は2600
feet です。 8番のインメルマンは800feet 獲得
する課目ですので、 8番の開始高度は1800feet
になります。 このように予想される高度変化を
逆算して、 演技を開始するときの速度と高度を
決定します。 同じ機体でもパイロットによって
曲技課目ごとの高度変化には違いがありますし、
機体が変われば高度変化は全く異なることにな
ります。 高度管理に関しては日頃の訓練の積み
重ねによって自分なりの数字を持つことが重要
です。 上級のクラスで行われる Unknown で
は、 飛んだことの無いシークエンスを、 机上の
計算とイメージトレーニングのみで準備し、 練
習飛行無しで本番を飛行することになります。
考えるのは高度だけではありません。 演技空
域を審判正面、 審判の風上側、 風下側と3等分
30
2010 MAY
して考え、 各課目をどこで行うのか計画します。
例えばこのシークエンスの3番目のリバースハー
フキューバンエイトは風下に向かって開始しま
すが、 45度上昇から始まる前半部分で BOX の
半分くらいのスペースを必要とします。 審判正
面よりも風下で課目を始めてしまうと課目の途
中で BOX から風下にはみ出てしまうことにな
ります。 はみ出さないためには、 その前のスピ
ンを風上の端近くで行う必要があります。 この
ように、 どこで演技をすれば演技空域からはみ
出さず、 審判に良い印象を与えることができる
のか念入りに考える必要があります。
BOX の審判に面する軸をX軸、 審判から見
て奥行きの方向の軸をY軸としますが、 競技上
は風がX軸に沿って吹いていると考えます。 し
かし実際には全く横風成分がないというのはあ
り得ませんので、 Y軸方向の風下に流されなが
ら演技することになります。 今回のシークエン
スで、 Y軸上での位置を修正出来るのは4番目
の後半から5番目の引き起こしまでのY軸移動
分のみです。 つまり5番目のハンマーヘッドの
引き起こしに入ったら、 Y軸方向で移動するこ
とはほとんど出来なくなります。 位置取りを間
違えれば演技をするうちに風に吹かれて審判席
の上に来てしまい失格になることもあり得ます。
そこで競技時の風の強さに応じて位置取りを考
える必要があります。 横風がさほど強くないの
にY軸での風上の端で演技を始めてしまうと、
3番目のリバースハーフキューバンエイトが終
わっても、 Y軸での風上の端に近すぎて4番の
課目で風上に移動しようとすると BOX を風上
にはみ出してしまうことになります。 これ以降
でY軸上の位置を修正出来るところはないので
最悪5番目から10番目までの全ての課目がY軸
で BOX の外に出てしまい大減点されることに
なります。
こういった高度管理や位置取りの計画に選手
の個性が表れて来るのも、 見ている側の楽しみ
になります。 審判の印象が良い位置取りとして
は、 BOX の幅全体を使って偏らずに演技を行
い、 高い高度のときは BOX の奥で、 高度が下
がってくるにつれ BOX の手前に持ってくるの
が一般的です。 また、 得意な課目を充分な速度
を持って審判正面で大きく演技してアピールし
たり、 苦手な課目を審判から評価し難い高高度
でやる選手もいます。 シークエンスカードはた
だの縮小コピーではなく、 自分専用の作戦メモ
にしておくべきです。 「ここで2000feet 以上な
かったら中断」 とか、 「この課目は160kt 以上
で!」 とか、 「引き起こしは BOX の端で!」
とか、 自分のイメージに近いフライトをするた
めの覚書きを書きこんだシークエンスカードを
用意しましょう。
それでは、 ここからは各課目ごとに飛行のポ
イントについて解説します。
1番目の課目は45度上昇です。 水平飛行から
45度上昇姿勢にして、 その後水平飛行に戻しま
す。 この45度はフライトパスではなく、 機体の
姿勢で評価されます。 向かい風が強ければフラ
イトパスは45度より急になりますし、 エアロス
バルのようにパワーのない機体では、 上昇する
につれて速度が急激に低下しフライトパスが浅
い角度になっていきます。 審判は機体の姿勢で
45度を評価することになっていますが、 審判も
人間です。 向かい風が強いときなどは浅め (40
度くらい) で昇る方が得点は良かったりします
し、 低パワー機では速度が落ちてしまう前に止
めた方が得点は良いことが多いです。 最後の水
平飛行は水平姿勢にすると降下してしまうので、
スローフライトの要領でピッチアップ姿勢を保
ち水平飛行します。 水平飛行はフライトパスで
評価されますので降下していると減点されます。
これは競技中常に心掛けることですが、 一度
セットした姿勢はズレていても修正しないでく
ださい。 審判には空中に浮かぶ機体の姿勢を正
確に判断する拠り所がありません。 しかし、 選
手が姿勢のズレを修正すると、 審判にもそのズ
レが明確に見て取れることになり、 審判は自信
を持って減点することができます。 どうしても
修正したい場合はそぉ∼っと分からないように
行います。
2番目は1.5旋転のスピンです。 競技でのス
ピンの重要な点はエントリーとリカバリーです。
スピンエントリーは水平飛行から入ります。
速度に応じた機首上げが足らずに、 スピンに入
る前に降下してしまうと (英語では 「settled」
とコメントされます)、 この降下は地上からも
非常に目立つので確実に減点されます。 これを
避けるためにスピンエントリーに際してはエン
トリーまでに50feet くらい昇るつもりでピッチ
アップします。 そうすることで settled と言わ
れないばかりか、 失速する瞬間にメリハリが出
てスピンエントリーがきれいに見えます。
スピンエントリーでは失速と同時にスピンに
入ることが原則となっているため、 速度を残し
た状態で急激にスティックを引いてラダーを蹴
るような、 無理矢理スピンに入る操作 (Forced
entry) を行うと大きく減点されます。 機体が
失速した瞬間にラダーを踏み込むことを心掛け
ましょう。
スピンリカバリーでは狙ったヘディングで垂
直降下姿勢にピタリと止めることが求められま
す。 通常のスピンリカバリーでは垂直降下姿勢
になることはありませんので競技特有のルール
です。 垂直姿勢から5度ズレるごとに0.5点減
点されます。 垂直降下姿勢になったら、 次の課
目で必要な速度になるまでしっかり待ちます。
慌てて水平に戻すと、 次のリバースハーフキュー
バンエイトを行うために必要な速度が得られま
せん。
2010 MAY
31
判断されますので、 風が吹けば形が変わります。
このリバースハーフキューバンエイトは風下方
向に向いて行うため、 風が強ければ Floating
3番目はリバースハーフキューバンエイトで
す。 文字通りハーフキューバンエイトを逆に行
います。 まず45度上昇して、 ハーフロールして
背面になり、 そこから5/8宙返りを行います。
競技上の注意点としては、 ハーフロールは45
度上昇のラインの中央部分に来ることです。 ラ
イン (フライトパス) の中央ですから上昇する
につれて遅くなる速度を考えてロールします。
引き起こして45度にしてから 「いち、 に、 ロー
ル、 いち、 にぃ、 さん」 というような感じです。
ラインの中央でロール出来ているかどうかは、
練習の際に地上から見てもらう以外に方法があ
りません。 背面オイルシステムのない機体でこ
の課目を飛ぶ場合は、 出来るだけ背面飛行をし
たくないので、 45度のラインを出来るだけ短く
します。 45度上昇にセットしたら直ちにロール
し、 ロールが終わったらほとんど待たずに宙返
り部分を行います。 審判は45度ラインの中央で
ロールが出来ているかを審査しますが、 そのラ
インの長さは採点に関係ありません。
宙返り部分で注意することは最初の1/4 (背
面45度上昇から背面45度降下まで) を柔らかく
大きく描くことです。 背面45度上昇の姿勢を支
えているエレベータの押し舵を緩めます。 そし
てほとんどエレベータを引かずに自然に機首が
落ちるのを待つくらいのつもりで宙返りの頂点
部分を描きます。 機首が水平線より下に向いた
ら少しずつスティックを引いて通常の宙返りを
するのにちょうど良いエレベータ位置に合わせ
ます。 このような操作を Floating と言います
が、 適切な Floating を行わないと低速になる
宙返りの天辺が潰れてしまいきれいな円が描け
ず、 減点となります。 Floating を大げさにやり
過ぎると 「Flat on top」 (天辺が平ら) となり、
Floating が 不 充 分 だ と 「 Pinched top 」 「 shape」 (天辺が潰れている) と減点されます。
宙返りが円形かどうかは当然フライトパスで
32
2010 MAY
が不充分でも風が押してくれるので比較的円形
に見えます。 Floating は他の選手の演技など
を見て、 風の強さを予想して加減する必要があ
ります。
4番目はクォータークローバーリーフ・ダウ
ンです。 宙返りの後半で90度ロールします。 ルー
ル上は後半の半宙返りの間に同じロールレイト
でロールし続けて、 その半宙返りが終わったと
きに90度のロールも終了してヘディングが90度
変わっていることが求められます。
文章で読んだり、 頭で想像すると複雑ですが、
飛んでみると意外に分かりやすいシンプルな課
目です。 前半の宙返りは通常の宙返りと同様に
行います。 ここでも Floating 操作は忘れない
ように心がけます。 ちょうど宙返りの頂点付近、
背面姿勢で Floating の最中に真上にある地面
を見ます。 自分の真下 (真上?) の地面と、 こ
の課目が終わったときに飛んで行くはずのY軸
の方向の地平線を目に捉えます。 ここからのエ
レベータの引き具合も通常の宙返りと同じです
が、 先ほどから目で追っているY軸方向の地平
線に向かうようエルロンを使います。 一定のロー
ルレイトになるように、 水平になったときにロー
ルも終わるようにイメージして飛んでください。
レイジーエイトで水平飛行に戻る際と似た感覚
だと思います。 感覚的な操作を要する課目です
が、 審判も前半の半宙返りの形、 ロールレイト
の変化、 ヘディング、 終了高度くらいしか正確
には評価できませんので気楽に楽しくやってく
ださい。
この課目でどちらに向かうかでY軸方向の位
置取りが限定されます。 単純なルールとしては
BOX のより広い方に行くというのが基本です
が、 横風を心配して風上側に寄り過ぎてこの課
目に入った場合、 広い方は風下ですから、 今後
流されても戻る方法がないことを覚悟しなけれ
ばなりません。 真ん中なら風上側に行くべきで
しょう。
5番目はハンマーヘッド・クォーターロール
ダウンです。 ハンマーヘッドターンを行い、 垂
直降下中に90度ロールして風下側に向かいます。
ロールの方向を間違えると風上に向かうことに
なります。 0点になりますので気をつけてくだ
さい。
Y軸上での狙った位置まで水平飛行した後、
引き起こして垂直に上昇します。 このとき機体
の腹か背中が審判席に向いていることになりま
すので、 審判には左右の傾きが一目瞭然です。
右手だけで引き起こすと、 無意識に斜め手前に
スティックを引いてしまい傾いてしまうことが
あります。 傾いてしまう場合は両手で引き起こ
すと良いでしょう。
垂直上昇で前進速度が無くなってきたら左フ
ルラダーを入力し、 その場で180度回転します。
機体を上からピンで刺して翼端を弾いたように
その場で回るのが理想です。 傾いたり、 ピッチ
が変わったりしないようエルロンやエレベータ
も使用しますが、 機体によって舵の加減は異な
ります。 (多くの機体では右エルロンとダウン
エレベータが必要です)
充分に訓練をしていないと危険な課目のひと
つです。 ラダーの入力のタイミングが遅れると、
テールスライド (機体によっては構造上禁止)
や背面フラットスピンに入ることがあります。
逆にラダーの入力が早すぎると、 その場でピボッ
ト回転せず大きくUターンするような動きにな
ります。 (「Fly over」 と表現され、 回転中心の
移動量によって減点が規定されています)
ターン部分が終わると、 前進速度はほとんど
無い垂直降下姿勢になっています。 ここから引
き起こすまでのラインのちょうど中心にロール
が来るようにしますので、 タイミングは 「いち、
にぃ、 さん、 ロール、 いち」 というような感じ
でしょうか。 これも地上から確認しながらの訓
練が必要です。
6番目はリバースシャークツゥースです。 3
番目のリバースハーフキューバンに似ています
が、 宙返り部分が無く、 正確な45度上昇ライン
と、 その中央でハーフロールすること、 垂直降
下ラインを描くこと、 が重要です。
アレスティ記号では頂上で鋭角に曲がってい
ますが、 実際に鋭角に曲がる必要はありません。
採点には影響しないので速度に応じた半径で好
きに回って下さい。 ただし、 あまり大きな半径
で頂点を回ると速度がつき過ぎて、 垂直降下の
ラインを描く余裕がなくなるかもしれません。
垂直降下ラインもラインの長さは採点に影響し
ませんが、 一般的に長めのラインの方が審判の
印象は良い傾向があります。 また、 審判から見
て垂直降下ラインが認識出来ないと0点になり
ますので、 垂直降下姿勢にしてから 「いち、 に」
くらいは数えるつもりでいた方が良いでしょう。
速度的、 高度的に垂直降下でラインを長く持て
ない場合は、 垂直で止めるのではなく、 垂直を
僅かに行き過ぎてから垂直に戻すことで、 審判
の目に曲率の変化を印象付けることで垂直ライ
ンを認識させることが出来ます。 (もちろん減
点されますが垂直ラインを作ったと認識されず
2010 MAY
33
に0点になるよりはマシです)
背面オイルシステムの無い機体では、 3番の
課目と同様に45度ラインを短くして対応するこ
とになりますが、 その為に開始速度はやや遅め
である必要があり、 その前のハンマーヘッドで
調整することになります。 また、 損失高度が大
きくなることを覚悟しなければなりません。
7番目はプル・プル・プル・ハンプティーバ
ンプです。 水平飛行から垂直上昇に移行し、 半
宙返りして垂直降下したのちに水平飛行に戻る
課目です。
最初の垂直上昇へ至る引き起こしと、 最後の
垂直降下から水平飛行に至る引き起こしが描く
円弧の半径は揃わないと減点ですが、 頂点の半
宙返りの半径は自由です。 ただ半宙返りですか
ら半円を描き、 始めた高度と同高度で垂直降下
にならねばなりません。 円弧がいびつになって
も減点されます。 あまり低速になってから半宙
返りを行うと正確な半円を描くことが困難にな
ります。 この半宙返りでは低速、 高出力、 機首
方向の急変化と条件が揃うため、 トルクやジャ
イロ効果の影響を大きく受けます。 曲がらずに
回るためには適切なラダー操作が要求されます。
半宙返りの前半から頂点を過ぎるくらいまで右
ラダーを、 後半で左ラダーを使うことになりま
すが、 操舵量は練習を繰り返して掴んでくださ
い。 上空に雲がある日に飛んで、 雲を目印に曲
がらずに回る練習をすると良いでしょう
34
2010 MAY
8番目はインメルマンターンです。 英国人が
頑なに 「ハーフループ、 ハーフロール」 と呼ぶ
この課目は、 英国人が言う通り半宙返り (ハー
フループ) をしてハーフロールするというもの
です。
競技上の注意点としては、 半宙返りの終了と
同時にロールが始まっている必要があります。
半宙返りが終わってからロールを始めるまでに
間が開いたと審判が見なした場合、 課目の得点
は0点となります。
半宙返りですので半円を描くことが理想にな
りますが、 半円では審判にも円弧の変化の判断
は困難ですので、 完全な宙返りのように
Floating する必要はありません。 背面45度あ
たりからエレベータの引きを少し緩めるくらい
で充分です。 ハーフロールのために可能な限り
速度を残すようにします。
ロールレイトの悪い機体の場合、 背面30度を
切ったあたりからロールを始めるくらいで良い
と思います。 低速での水平飛行にはピッチアッ
プが必要になるため、 背面水平姿勢に近づいて
からロールするとロール中に降下してしまうこ
ともありますし、 機内では半宙返りの操作中で
も、 地上からは半宙返りが終了したように見え
ることがあります。 半宙返りが終わる前にロー
ルを始めると減点なのですが、 余程先走ってロー
ルしない限り大きく減点されません。
高性能機では高性能機ならではの注意点があ
ります。 ハーフロールをする際には機体が低速
になっていますので、 大きく雑なエルロン操作
をするとスナップロールに入ってしまうことが
あります。 これも0点の恐れがあるミスですが、
高性能モノプレーンでは比較的良く見られる失
敗のひとつです。
9番目は金魚です。 英語でもゴールドフィッ
シュと呼んでいる人が多いと思いますが、 正式
な呼称は、 これに似たもの全てパーシャルエイ
トと呼ばれています。
インメルマンの後ですので、 低速で水平飛行
をしていますが、 そこから45度降下し、 3/4宙
返りをします。 45度降下から始めるハーフキュー
バンエイトと考えても良いでしょう。
アレスティ記号では、 最初の45度降下に入る
ところが鋭角になっていますが、 急激に入る必
要はありません。 背面オイルシステムの無い機
体の方はパワーを絞り、 充分に速度を抜いてか
らマイナスGを掛けないように45度降下に入っ
てください。 この部分の円弧と最後の45度降下
から水平飛行への移行の円弧が一致していない
と減点されることになっていますが、 余程極端
な操作をしない限り心配は無用です。 また、 開
始高度と終了高度は、 宙返り部分の底や頂点の
高度と一致する必要はありません。 各ラインの
長さも採点には影響しません。
3/4宙返りの形、 45度の姿勢 (フライトパス
ではなく姿勢で採点します)、 ハーフロールが
45度ラインの中央 (これはフライトパスで判断)
であること、 が採点に影響します。
45度降下でのロールは、 45度降下の姿勢が確
立したら正面に目標点を取り、 その目標点を軸
にしてロールします。 水平でのロールに比べて
それほどラダーを必要としません。
最後の課目はスローロール、 360度の横転で
す。 高度を変えずに、 一定のロールレイトで回
るように気をつけます。
ロールを始める前に15度から20度ピッチアッ
プして、 エルロンだけを操作してロールする
「エルロンロール」 という課目がありますが、
それとは全く異なる課目です。
スローロールでは水平飛行からロールを開始
します。 バンクが深くなるにつれて機首が下が
ろうとしますので、 下がらないようにラダーで
支える必要があります。 90度を過ぎて背面にな
れば、 エレベータを押して機首を支えます。 左
右のラダー、 エレベータを終始操作して機首が
下がらないように維持することが重要です。
背面オイルシステムが無い機体や、 エルロン、
ラダーの効きが不充分な機体では、 ロールを開
始する際にエルロンの入力と同時に僅かにエレ
ベータを引いて機首を上げ、 極小のバレルロー
ルを行うように操作します。 ロールの後半には
ほぼフルラダーが必要になりますが、 開始速度
さえ充分なら高度損失なくロールが行えるはず
です。 残念ながらこのような操作をすると、 ロー
ル軸は機体の中心から外れて、 地上から見ても
機体が螺旋状の動きをするのが明瞭に見えます
ので減点されます。
以上、 10月に福島で開かれる全日本曲技競技
会のクラス2で使用される曲技シークエンスに
関して、 私見を大いに交えた解説をさせて頂き
ました。 参加を考えている方や曲技飛行に興味
を持たれた方の参考になれば幸いです。 日本で
はまだまだ一般的ではない曲技飛行競技という
航空スポーツですが、 少しずつでも愛好者の裾
野が広がってくれればと願っております。
IAC の競技会で Sportsman を採点中 (暑い!)
2010 MAY
35
連
載
航
空
史
●
曼
●
陀
羅
その35. 馬賊を志した飛行機王
中島知久平の人間像
●
“大言壮語”癖
まったくの徒手空拳から一代で東洋一、 いや
ボーイング社に勝るとも劣らない世界一の航空
機製造会社を創りあげた中島知久平の人間像は、
とても一口では語りつくせない。
およそステレオタイプ的日本人とは程遠い、
計り知れない資質をもった彼の生き様を追って
いくと、 見えてくるのは、 その信念に基づいた
底知れないエネルギーが醸しだす、 驚天動地の
転進連続である。 周囲をハラハラさせながらも、
確かな先見性と、 気宇壮大ともいえる底知れな
い行動力は、 当時、 いや現在でも、 多くの人々
を魅了して止まない。 紙面の許すかぎり、 彼の
功績と共に人間的魅力を覗いてみたい。
生まれは群馬県新田郡尾島村字押切 (現・太
田市押切) で、 新田義貞ゆかりの地である。 北
には幕末、 侠客国定忠次が立てこもったという、
海抜1,828m の赤城山がそびえ、 西は板東太郎
の愛称で知られる利根川が滔々と流れ下ってい
はる な
る。 西には榛名
や秩父の連山を
いただき、 南西
には妙義山、 そ
の遠方には浅間
山、 そして南方
は関東平野が自
然の美をたたえ
ながら悠然と広
がる。
知久平は明治
17年11月1日、
おろし
晩年の中島知久平
赤城颪の 「空っ
36
2010 MAY
徳田
忠成
風とかかぁ天下」 で有名なこの地で、 3町歩ほ
どの農家をいとなむ中島粂吉の6人兄妹の長男
として生まれた。 きびしい気候の中で育った知
久平は、 自然とストイシズム的な自己鍛錬が培
われていった。 彼は頭が大きく短躯で肥満、 し
かし腕っ節が強く、 相撲がめっぽう強かったう
えに、 頭もよかった。 知久平がよく小学校を休
むので、 親が叱ると、 「ぼくは一日で全部覚え
てしまうから、 毎日いく必要はないんだ」 と平
然としていた。 大言壮語する癖があったが、 こ
の性癖は彼の特質でトレードマークになった。
といっても決してほら吹きではなく、 いつも巨
視的な先見性に裏打ちされていたが、 周囲がな
かなか理解できなかっただけである。
● 馬賊を夢見て家出
知久平が小学校高等科卒業後、 家の金箱から
150円をくすねて家出同然で上京したのは、 明
治33年4月だった。 海軍士官になるためである。
中島家で実権を握っていた祖母セキは、 常日頃、
百姓に学歴は無用と言っていたからだ。 だが家
出の理由はもう一つある。 明治28年4月、 日清
戦争に勝った日本は、 遼東半島と台湾を割譲さ
れたが、 ロシア帝国とドイツ、 フランスによる
三国干渉によって、 遼東半島を清国に返却せざ
るを得なかった。 これに大いに憤慨した知久平
は、 将来、 海軍士官になり、 満州に渡って馬賊
の頭目になり、 かならずロシアをやっつけてや
ると本気で思ったからだった。
知久平は、 上京するや極貧の生活をしながら、
まず専検 (専門学校入学者検定試験) を受ける
べく、 猛然と勉学に精をだした。 とくに知久平
が力を入れた科目は数学と英語だったから、 こ
こで早くも将来、 広く世界を視野に入れた活躍
の下地が見えてくる。
こころざし
見事、 専検に合格、 すでに知久平の志を認め
ていた父親・粂吉の意を受けいれ、 海軍機関学
校に合格した。 明治36年10月、 およそ二千人が
受験して40名合格、 知久平は21番だった。
15期機関学校生徒 (海兵34期相当) として、
3年間を横須賀の機関学校で過ごした知久平に
は、 入学当初の猛烈な体罰が待っていた。 これ
は陸海軍では娑婆っ気をなくすために、 先輩が
後輩を鉄拳制裁で鍛えぬくもので、 とくに海軍
が酷かった。 上州の地で鍛えた頑健な体の知久
平も相当堪えたが、 これによって心身ともに成
長していった。
知久平が機関学校在学中に日露戦争が勃発し
た。 宣戦布告は明治37年2月10日、 約1年3ヶ
月間続き、 日本軍は甚大な犠牲を蒙ったが、 翌
年5月末の日本海海戦による勝利によって幕を
閉じた。 日本国中が沸きかえったが、 知久平は
面白くなかった。 いずれ満州で馬賊になり、 ロ
つい
シアをやっつける野望が潰えたからだ。
こんなことを真剣な顔をして回りに言う知久
平に、 仲間は辟易していたが、 彼は頓着するど
ころか、 またまた雲を掴むようなことを言いだ
した。
「これからの時代は飛行機だよ。 ライト兄弟
が飛行機という空飛ぶ機械を作ったというでは
ないか。 この機械はガソリン・エンジンを搭載
しているらしい。 われわれでも作れるし、 将来
必ず軍用の役に立つぞ」
1903年12月にライト兄弟が初飛行したニュー
スは、 数年後に日本にもたらされたが、 まだ関
係者といえども、 それがどんなものかを知らな
い時代に、 このニュースをいち早く知った知久
平は、 先天的に先を読む資質があったとしか言
けいがん
いようがない。 天才的な炯眼に驚くが、 空想の
ような話を周囲が本気で聞くはずはない。 また
また知久平の大風呂敷が始まったと、 てんで相
手にしなかった。 しかし、 この時以来、 彼は馬
賊を夢みた志から一転、 飛行機へ目をむけ、 あ
まりの先見故に降りかかる幾多の障害を乗りこ
えて、 太平洋戦争終結までの約40年間、 飛行機
製作に全精力を注入し、 世界屈指の飛行機製造
王国を築きあげたのである。
● 飛行機の時代を先見
飛行機が、 将来、 絶対的な軍用機器として活
躍するようになると確信した知久平の信じられ
ないエピソードがある。 海軍にあっては、 日本
海海戦の勝利によって大観巨砲主義が絶対的な
幅をきかしていたが、 機関学校在学中、 早くも
彼はこれを批判している。 曰く、 艦艇中心の戦
闘はやがて時代遅れになる。 そしてロシアに勝っ
たというものの、 欧米の植民地拡大の様相から、
将来はアメリカが仮想敵国になるだろう。 その
アメリカ海軍をやっつけるには、 飛行機生産が
是非とも必要になってくる。 飛行機が200機も
あれば、 戦艦10隻、 巡洋艦10隻の大艦隊でも、
これを無力化することができる、 というものだ。
英語の得意な彼は、 恐らく飛行機に関する外
国文献を密かに入手し、 つぶさに読み漁って、
飛行機の将来性に確信を深めた結果だろうが、
徳川・日野両大尉が日本初飛行をおこなう4年
前のことである。 周囲は 「またほら吹き中島の、
たわけた寝言」 程度しか扱わなかった。
しかし、 彼は単なるほら吹きではなかった。
明治40年4月に機関学校を恩賜で卒業、 艦隊勤
務につき、 海軍中尉になっていた彼は、 43年3
月、 乗組していた巡洋艦 「生駒」 によって、 ヨー
ロッパへ遠洋航海をすることになった。 日本と
軍事同盟を結んでいた英国のジョージ5世即位
記念航海であり、 40日間のロンドン上陸が許さ
れた。 中島中尉は、 これを千歳一隅のチャンス
ととらえ、 機関長に談じ込んで行方不明にして
もらった。 当時、 もっとも飛行機開発が進んで
いたフランスの航空事情を探るためであった。
精力的にイッシー、 ランス、 シャロン、 エタン
プなどの飛行場に出向き、 飛行機を調査し、 パ
イロットたちの話を聞いて、 大いに意を強くし
たが、 日本に帰国するころは、 すでに誇大妄想
的な飛行機マニアという烙印が押されていた。
日本に軍官民による臨時軍用気球研究会が設
立したのは明治42年7月で、 3年後には海軍独
2010 MAY
37
自の海軍航空術研究委員会が横須賀に設立され
た。 中島は海軍大学校で航空関係の選科学生と
して1年間学んだあと、 前記研究会の指名によ
りアメリカへ5ヶ月間の出張を命じられた。 彼
の役目は飛行機の製作と整備技術の習得にあっ
たが、 ここでも彼は尋常ではなかった。 自分に
課せられた仕事以外に、 暇をみてはカーチス飛
行学校へ通い、 飛行士免状をとっている。 帰国
後、 海軍省は命令違反だと詰問したが、 彼は平
然としていた。
「与えられた任務は命令どおりやってきまし
た。 そして飛行機製作と整備の研究は、 飛行士
の知識が是非必要だと分かりましたので、 合間
をみて飛行士の訓練を受けたのです」
● 飛行機開発を上申
大正に入り、 中島大尉は海軍航空術研究委員
会の仕事をしながら、 横須賀鎮守府海軍工廠造
兵部々員を命じられた。 ここで彼は持論を推し
すすめて飛行機製作に着手、 周囲があれよあれ
よという間に、 日本海軍初の自家製飛行機を作
りあげてしまい、 一躍、 中島機関大尉の名は海
軍に知れわたった。 といっても、 精々、 中島と
いう変わり者が飛行機を作ったという程度の認
識しかなく、 かつての栄光にトラウマのように
固執し、 大鑑巨砲主義を信奉している海軍主流
派の牙城を崩すことはできなかった。 彼らにとっ
て中島は、 若造のくせに大鑑巨砲主義を批判す
け
る怪しからん奴でしかなかったのである。
かなめ
それでも中島大尉は海軍航空の要であるから、
大正3年1月、 航空機エンジンと飛行機開発状
況を視察するためにフランス出張を命ぜられた。
その出発の直前、 大正3年度の海軍予算配分の
内容を知った中島は憤慨していた。 艦船建造費
は数億円というのに、 航空関係予算はわずかに
20万円という貧弱なものだったことから、 中島
は航空術研究委員会長へ長文の意見書を提出し
ている。
その骨子は以下のようであった。
「わが国の航空機開発は、 列強から大きく立
ち遅れている。 しかも資源が少ないから、 飛行
機開発によってこれを補強すべきは必須である。
38
2010 MAY
艦隊に要する艦船建造費用を飛行機製作に回す
ならば、 優に8万機を製作することができ、 こ
れによって艦隊に多大の損害を与えることがで
きる。 是非々々、 この戦策を進めていただきた
い」
この意見は、 第一次大戦勃発直前に出された
もので、 世界的にみても優れた卓見であったが、
すでに“中島アレルギー”ができあがっていた
海軍上層部は無視した。 結果的に、 30年後の太
平洋戦争で、 彼の意見の正しさが証明されたが、
この意見を上層部が真面目に取り上げていれば、
太平洋戦争は起こらなかっただろうという歴史
家さえいる。 少なくとも戦争の様相は変わって
いたと断言してよい。
いつまで経っても艦船が幅をきかし、 飛行機
の重要性を理解してもらえないことに、 中島大
尉は歯がゆさを感じていた。 組織の中で疎外さ
れる存在になりつつあった彼は、 それでも飛行
機開発の信念が変わることはなかった。 やがて
海軍に見切りをつけ、 野に下って飛行機を作ろ
うと考えるようになったが、 組織の中枢にあっ
て、 将来、 将官が約束された者が、 容易に退官
できる筈はない。 同郷出身の鈴木貫太郎海軍次
官の力により、 大正6年12月、 予備役となって
帝国海軍を去った。 去るにあたって中島は、
退官の辞 という長文の挨拶状を各方面に配っ
たが、 その内容は、 飛行機の重要性を切々と訴
えている。
「金剛級巡洋艦1隻の費用は数千の飛行機に
匹敵する。 1艦隊の費用でなら数万機の飛行機
を製作することができる……飛行機工業民営起
立は、 国家最大最高の急務である……」
これはドゥーエやミッチェルの考えの受け売
りではない。 ライト兄弟のニュースが日本にも
たらされる頃から、 空へ異常な関心をもってい
た中島は、 かなり正確に列強の情報に通じてい
た。 艦隊勤務時代、 まだ徳川大尉による日本初
飛行前の1910年に航空先進国だったフランス航
空界を視察、 さらに1912年6月に設立された海
軍航空術研究委員会人事によって渡米、 欧米の
航空事情を洞察した結果であった。
● わが国初の飛行機研究所設立
自由の身になった中島知久平にノンビリして
いる暇はない。 早速、 民間人として飛行機製作
への道を突っ走った。 予備役になった直後、 地
元行政の協力や中島に呼応する資本家の援助に
より、 すでに下見をしていた太田の利根川河川
敷に 飛行機研究所 (昭和6年、 「中島飛行機」
と改称) を立ち上げた。 これには陸軍の実力者
で初代陸軍航空本部長を歴任した井上幾太郎
(のち大将) の知遇と協力が力になった。 井上
は長期にわたり、 相談役のような立場で中島を
側面から支えた。 研究所設立時のもっとも大き
なスポンサーは、 関西の毛織王とよばれた富豪・
川西清兵衛で、 資本金75万円のほとんどを出資
した。
当初の社員は、 中島の弟たち (喜代一、 門吉、
き み へい
乙未平)、 海軍工廠造機部の栗原甚吉 (東北帝
大機械科)、 奥井、 佐久間一郎 (海軍工廠造機
部)、 石川輝次 (陸軍砲兵工廠) ら10人に満た
ない。
彼らは休むことなく飛行機製作に没頭し、 利
根の河原で、 何回もの失敗を繰り返して周囲に
ひやかされながら、 大正8年2月、 ついに中島
トラクター式複葉4型飛行機を作りあげ、 陸軍
に20機を納入することができた。 民間飛行機製
作会社の真価が認められようとしていたが、 恐
れていた川西との経営方針の違いが浮き彫りに
なった。 金儲けを考える川西と、 憂国の情熱い
職人根性に徹した中島とは、 所詮、 水と油でし
かない。 中島が独断でアメリカから100台もの
大量のエンジンを買い込んだことから、 2人の
仲は決定的になった。 しかし、 自信の塊である
中島式複葉4型機
中島は平然として動ぜず、 結局、 中島が会社を
買い取ることで決着した。 8年11月のことであ
り、 買い取資金は井上幾太郎の尽力で手にする
ことができた。
翌年からの中島飛行機は、 軍拡に伴う戦略と
しての航空機が見直される上昇気流に乗りなが
ら、 大車輪の操業へつき進む。 大正11年2月の
ワシントン軍縮会議の議決も、 飛行機生産に拍
車をかけた。 日露戦争を制した日本に脅威を感
じた米英の圧力によって、 戦艦保有率を日米英
で3:5:5としたことに日本政府が批准した
からだ。
工場での飛行機生産数の急増は、 地元民を潤
したから、 彼らは中島を景気の神様のように有
難がり、 中島の納税額は群馬県でトップになっ
た。 といっても中島の態度には偉ぶるところが
ぼうばく
なく、 いつも茫漠と構えており、 昼食時になる
と、 食堂で工員たちと世間話をしながら、 うど
んをすすっていた。 そして、 「ぼくは金儲けを
しようと思って飛行機を生産したのではない」
と、 口癖のように語っていたという。
昭和6年10月、 陸軍が日本最初の国産戦闘機
上から1式戦 「隼」 と4式戦 「疾風」
2010 MAY
39
昭和13年当時の中島東京製作所
として正式に採用したのが91式戦闘機である。
この機体は初めて時速300km を突破し、 日中
戦争までの陸軍の主力戦闘機となった。 愛国号
として多数、 陸軍に納入されたことでも有名で
ある。 少なくとも中島が所長時代に製作した機
種は35種にのぼる。 主な機種は前掲以外では、
陸軍機として97式戦 (キ27)、 1式戦 「隼」 (キ
43)、 2式戦 「鐘馗」、 百式重爆 「呑龍」、 4式
戦 「疾風」、 海軍機としては、 90式艦戦、 97式
艦攻、 「零戦」 「2式水上戦闘機」、 艦攻 「天山」、
艦偵 「彩雲」、 陸爆 「銀河」、 局地戦 「天雷」 な
どがある。 昭和19年度には、 1年間で7,940機
を生産している。
エンジンでは、 零戦に搭載されて有名になっ
た 「栄」 (ハ25) は3万台余、 奇蹟のエンジン
といわれた 「誉」 (ハ45) は8,700台余が生産さ
れた。 これ国内総生産数の実に25%に相当する。
● 政界で活躍
中島が群馬県1区から代議士になったのは、
昭和5年2月で、 軍需航空産業の恩恵を受けて
いる地元民に押されて最高点で当選した。 政治
資金は会社からではなく、 株に投資して儲けた
カネをあてたのが中島らしい。 機を見る才能豊
かな中島は、 株で相当のカネを手にしたが、 こ
れを惜しげもなく政治に投入すると共に、 老父
母のために時価百万円という豪邸を建てて親孝
行をした。
彼の政治への意図は栄達のためではなく、 軍
事戦略としての航空機の重要性を、 いつまでも
40
2010 MAY
旧弊にかじりついている陸海軍首脳に知らしめ
んがためであった。 同時にケジメとして、 翌年、
「政」 と 「商」 との癒着を回避するために、 アッ
サリと社長の座を弟の喜代一に譲っている。
政治の場でも中島は大いに腕をふるった。 勉
強家の彼は政治に専心するため、 事務所に自費
で 「国政研究会」 を設けて、 毎週欠かすことな
く、 各分野の専門家や教授を招き、 講師として
政治経済研究を図っている。 相当の費用がかかっ
た筈だが、 これによってドイツやソ連の情報を
誰よりも早く、 しかも正確に読み取った。 本気
で政治に取り組もうとする姿勢は見上げたもの
で、 単に金持ちの政治道楽ではない。 政治の世
界でも、 彼の存在感は大きく、 たちまち1年に
満たない新米議員の中島は、 犬養内閣の商工政
務次官に異例の抜擢をされている。
折しも、 先のワシントン軍縮会議に次いで、
昭和5年1月、 ロンドン軍縮会議が開かれた。
ここでも対米比率約7割を確認したが、 いずれ
は日米戦必至とみた中島は、 新米議員でありな
がら、 陸海軍各大臣を向こうにまわして、 舌鋒
鋭く国防上の不利を諄々と説き、 空軍省設置の
必要性を説いている。 しかし、 健軍以来の犬猿
の仲である陸海軍首脳は、 その必要性を認める
一方で、 航空資材の分捕り合戦を演じており、
中島議員の意見を容易に受け容れることはでき
なかった。 精々、 必要に迫られた陸軍が、 昭和
13年10月、 陸軍航空士官学校を設立したに止まっ
ている。
中島は昭和12年6月、 請われて第一次近衛内
閣の鉄道大臣に就任、 さらに派閥抗争の中で、
14年4月、 政友会中島派総裁に祭り上げられた。
研究会によって内外の情報に通じていた中島
は、 太平洋戦争開戦の年6月、 独ソ戦でドイツ
軍がスターリングラードで死闘を展開している
とき、 背後からソ連を叩くことを進言した。 さ
らに将来、 日ソ中立条約を無視して、 ソ連は必
ず満州へ進攻してくることも予言したが、 それ
は皮肉にもことごとく実証された。
極秘裏に日本近海に進攻した米空母ホーネッ
トから飛び立った B25 双発爆撃機16機が、 東
京から名古屋、 阪神を奇襲したのは、 昭和17年
「富嶽」 完成予想図
4月18日であった。 これを目の当たりにした中
島は、 「東京はいずれ焼け野原になる」 と、 警
告した。 17年に入って国民は戦勝気分に酔って
いたが、 ミッドウェー海戦惨敗のあと、 中島は
空中戦艦ともいえる巨人機 「富嶽」 構想による
必勝戦策 を打ちだした。
● 中島の
必勝戦策
時の首相兼陸相・東条英機を唸らせた戦策と
は、“米本土に鉄槌を加えるべく、 全備重量
160t、 航続離距離16,000km、 1発5,000馬力エ
ンジン6発を備えた超大型爆撃機を400機製造、
太平洋をひと飛びして米本土を爆撃する”もの
だった。 しかし、 厳しい戦局と、 昭和19年7月
の東条内閣総辞職によって実現することはなかっ
た。 「富嶽」 については、 機会をみて書いてみ
たい。
19年末になり、 各地での日本軍の惨敗は加速、
ついに B29 大編隊による日本本土への無差別
爆撃がはじまった。 当然、 関東一円に展開して
いる中島飛行機の工場群は狙い撃ちされ、 三鷹
の北にあるエンジン製造の中枢、 武蔵工場は灰
燼にきした。 爆撃されるたびに、 中島は危険を
顧みず、 自宅の泰山莊の屋上に登って、 自分が
手塩にかけた工場群が焼け落ちる様子をジッと
眺めていたという。
昭和20年8月15日、 終戦と共に誕生した東久
邇宮内閣の軍需相として、 中島は国体護持を条
件に入閣、 戦後処理に従事したが、 早くも10月
には総辞職した。 その後、 彼はA級戦犯容疑者
に指定されたが、 容疑不十分で2年後に解除さ
れた。 戦後の4年間、 三鷹研究所にある泰山荘
で暮らしたが、 日本民族の優秀性を信じ、 近い
将来の日本復興を信じていた。 「チャンスがあ
れば、 4発大型輸送機を造ってみたい」 と、 知
人が訪れる度に話していたという。
生涯を独身で通し、 酒もタバコもたしなまず、
ひたすら憂国の想いにかられながら、 ブルドー
ザーのごとく世の中を駆け抜けた風雲児・中島
知久平は、 昭和24年10月29日午後4時、 泰山荘
で友人と対談中に突然倒れ、 眠るような大往生
を遂げた。 死因は脳出血だった。 享年66歳、 法
名は 「空」 の字を入れて 「知空院久遠成道大居
士」、 築地本願寺で盛大な葬儀が執りおこなわ
れた。
社員9名で開始した中島飛行機は、 1940年代
には大地下工場や疎開工場も建設、 中以上の工
場が102ヶ所、 小工場も百ヶ所に達しており、
総敷地面積1千万坪、 会社従業員26万人、 関連
会社67社の世界一の航空機製作会社に成長、 資
本金36億円 (国家予算の1/3以上)、 総製作機
数26,868機、 航空エンジン製作数46,726基であっ
た。
戦後、 中島飛行機は解体され、 やがて富士
重工として蘇ったことは、 皆さん、 ご承知であ
る。
中島と袂を分かった川西機械製作所は、 終戦
時、 76,000人の従業員で、 海軍の指定工場とし
て成長し、 世界に誇る97式大艇や2式飛行艇を
世にだした。 戦後は、 新明和興業、 そして新明
和工業として生まれ変わって現在に至っている。
(参考文献:豊田穣著 「飛行機王・中島知久平」)
2010 MAY
41
“安全の分水領”
アクシデント・インシデント概要
フライト・セイフティ・ファウンデーション(FSF) 2009年11月号より
訳
佐藤
裕
ここに示す文書は、 読者の皆様が飛行中に遭遇するかもしれない困難な状態を切り抜ける何らか
の手助けになれば、 と思い掲載し続けています。
なお、 この文書は各国の運輸安全委員会の発行した正式な報告書をもとに、 まとめてあります
:FSF 編集部
ジェット
運航の効率を高くすること、 という指示がプレッシャーに。
マクダネル・ダグラス MD-83:損傷なし、 負傷者無し。
運航の効率を高くするように、 と指示されて
いたフライト・クルーはこれがプレッシャーとな
り、 離陸性能の計算を誤まってしまい、 自ら選
択した滑走路から安全に離陸するには重すぎた、
と最近スウェーデン事故調査委員会 (SHK)
の発行したインシデント・リポートは書く。
MD-83 は滑走路のエンド近くで何とか離陸
するが、 上昇中数個のアプローチ・ライトと接
触してしまう。
乗客169名、 そしてクルー6名とも全員無事
であった。
夜間、 VMC での離陸であった。
地上風は130度8ノットで、 ランウェイ12で
の離陸が望ましかったが、 クルーは“上昇経路
上に障害物はなくトルコまでの飛行時間を短縮
できるランウェイ30からの離陸を決めた”と報
告書。
しかし、 彼らが選択したランウェイ30からの
離陸性能を計算するときに、 8ノットのテイル・
ウインドの補正を加えていなかった。
42
2010 MAY
離陸性能及び重量重心位置の計算はコーパイ
ロットが行ない、 キャプテンもこの計算結果を
確認している。
“なぜ追い風成分の補正を忘れてしまったの
か、 思い出せない、 と話している”と報告書。
事故調査官は彼らの計算した MD-83 の離陸
重量にいくつかのミスを発見する。
彼らが計算した積載表には、 当時の気象状態
でランウェイ30から離陸可能な総重量は155,620
ポンド (70,589kg) と記入されていて、 この
重量は離陸可能な重量を幾分下回る値になって
いた。
しかし事故調査官が計算すると、 この航空機
の離陸重量は限界値より6,940ポンド (3,148kg)
も上回っていた。
積載表に前方カーゴ・コンパートメントに搭
載された29個のバッグの重量が記載されていな
かったためである。
このミスの結果、 最も大きな影響は航空機の
重量重心位置に誤りが出たため、 ホリゾンタル・
スタビライザーそしてフラップのセッティング
にも影響は及んでしまう、 と報告書。
クルーはブレーキを解除する前にフルパワー
にし、 2500m (8,202フィート) のランウェイ
から離陸を。
この航空機がアプローチ・ライトに接触し、
これを破損したと言う事実が判明したのは、 反
対方向から進入してきた航空機からのリポート
によるものだった。
離陸前に計算している段階で、 航空機の重量
限界及び性能を得るため、 クルーは数名の乗客
と彼らの荷物を降ろさなくてはならないことを
知っていたはずであるが運航の効率を高くする
こと、 という“プレッシャーに負け、 乗客全員
と彼らの荷物全てを載せ離陸してしまった、 こ
のようなことがあってはならないのだが”と事
故報告書は結んでいる。
速すぎたアプローチ、 オーバーランを招く。
ブリティッシュ・エアロスペース146-200:中破、 負傷者無し。
通常より速すぎる接地速度、 開かなかったリ
フト・スポイラー、 そしてブレーキ系統の故障
を知ったフライト・クルーは緊急ブレーキを使
用したが、 この航空機は滑走路を飛び出してし
まった上、 メイン・ランディング・ギアのタイ
ヤは4本ともバーストしてしまった、 と英国航
空事故調査委員会 (AAIB) の報告書。
このインシデントは2007年2月20日、 ロンド
ン・シティ空港で発生した。
乗客55名、 クルー5名の乗るこの航空機はパ
リからの便。
ロンドン市内は VMC で風も弱かったが、 滑
走路の状態はウェット、 と報じられていた。
コーパイロットは計算を間違えてしまい、 リ
ファレンス・アプローチ速度 (VREF) を119
ノットとキャプテンに伝えてしまう。
正確な VREF は110ノットである、 と報告書。
この航空機は全長1,319m (4,327フィート)
あるランウェイ10にレーダ誘導される。
BAe146 航空機が1,000フィート以下に降下
したとき、 クルーは空港を視認する。
“機体はタッチダウン・ゾーンを飛び越え、
ほぼ水平の姿勢で速度119ノットのまま接地し
た”と報告書は書く。
接地した機体はバウンドしてしまい、 2.5秒
後に再び接地している。
記録されていたフライト・データを解析する
と、 メイン・ホイールに加わる荷重を軽減させる
ため、 操縦桿は通常の位置より前方に操作され
ているので、 ブレーキの効果も弱まってしまう。
キャプテンはリフト・スポイラーを操作した
が、 なぜか開かない。
この故障も航空機のブレーキ効果を弱めてし
まう。
これらの事実から、 キャプテンはブレーキ系
統が故障している、 と判断した。
“キャプテンはブレーキ・ペダルを一杯に踏
み込んだものの、 減速する感覚は得られなかっ
た、 と話している”と報告書にある。
他のハイドロリック・システムの圧力をブレー
キ系統に供給したが効果なく、 航空機は滑走路
上を進み続けてしまう。
そしてキャプテンは緊急ブレーキを作動させ
るが、 機体はなかなか減速しない。
“滑走の最終段階で4本有るメイン・ランディ
ング・ギアのホイールは全てロックしてしまい、
やがて滑走路面との摩擦でタイヤは磨耗し、 全
てバーストしてしまう”と報告書。
航空機は船のドックの160m (525フィート)
ほど手前で停止。
“このインシデントの後に行われた機体の調
査で、 操縦系統及びホイール・ブレーキ系統は
正常で、 着陸時開かなかったリフト・スポイラー
の原因に結びつく異常は発見されなかった”と
報告書。
そして事故調査官は、 エアーブレーキ/スポ
イラー・レバーをリフト・スポイラー位置から
引き出す操作をする場合、 ほとんど力を加える
必要のないこと気付く。
“航空機をテストした際、 リフト・スポイラー・
ディテント位置にあるレバーを軽く押すだけで
ディテントから外れてしまい、 開いていたリフ
ト・スポイラーは閉じてしまった”と報告書。
“軽く押すだけで移動してしまうことから、
レバーを押すかあるいは振動でディテントから
外れてしまい、 開いていたスポイラーは閉じて
しまった可能性が考えられる”とも書いている。
このインシデントを起こした航空機は、 1988
年航空機製造会社が発行した、 BAe146 及びア
ブロ RJ シリーズ航空機に装備されているエアー
2010 MAY
43
ブレーキ/スポイラー・レバーをリフト・スポ
イラー位置から引き出す際の操作力を大きくす
るように改修する指示、 に従う改修作業を行っ
ていなかった。
雪に覆われたランウェイ上を牽引されていた航空機、 衝突を。
マクダネル・ダグラス DC9-50:中破、 負傷者無し。
2008年12月3日、 合衆国ウィスコンシン州マ
ジソンの雪に覆われたランウェイに着陸したこ
の航空機はスリップし、 指示されたタクシーウェ
イを通り過ぎてしまう。
この航空機のフライト・クルーは ATC より、
ランウェイ上で180度反転する許可を得る。
“向きを変えている最中、 航空機は雪の上を
滑り出してしまい、 90度ほど向きを変えた状態
で機体を停止させることが出来た”と NTSB
の報告書。
この航空機を運航している会社は、 この
DC-9 航空機を牽引するためタグを現場に向か
わせ、 空港の作業員はスリップ防止用に航空機
の前方に砂をまく。
タグで牽引を開始し始めると、 タグと航空機
はジャックナイフ、 つまりくの字状になってし
まう。
“そしてタグは航空機の胴体左側面に衝突し、
金属製の胴体側面を突き破り、 内部にある構造
メンバーを破損した”と報告書。
“再度タグによる牽引作業が開始され、 乗客
はゲートまで牽引された航空機から通常どおり
に降りたという”とも書いている。
ターボプロップ
パイロット、 エンジン故障時の操作を誤まってしまう。
エンブラエル 110P ボンバルディア:大破、 1名重傷。
2005年11月8日、 VMC の夜間、 この航空機
は合衆国ニューハンプシャー州マンチェスター
を離陸し貨物輸送へ向かう。
44
2010 MAY
ランディング・ギアを上げた直後、 この航空
機のパイロットは爆発音を聞き、 計器を見ると
左エンジンが停止している状態を指示している
ことに気付く。
そして彼の目には、 左エンジンのプロペラが
自動的にフェザー位置になっている様子も飛び
込んでくる。
そしてこのパイロットは、 右エンジンをフル
パワーにしたが“速度を保てなかった”と話し、
ずっと失速警報フォーンが鳴り響いていたとも
話している、 と NTSB の事故報告書。
“立ち上がって右ラダー・ペダルを踏み込ん
だが、 航空機の左降下旋回を停めることはでき
なかった”とも話したと言う。
ボンバルディア航空機はデパートの荷物集積
所に向かって降下し続け、 大きな金属性コンテ
ナーと衝突してしまう。
同航空会社の運航規程に従い、 このパイロッ
トはフラップを25%下げて離陸している。
事故調査で判明した事実、 ならびにパイロッ
トの証言から“操縦装置の操作を誤まったもの”
と報告書は書いている。
“パイロットは立ち上がってラダー・ペダル
を踏んだ、 という証言から、 エンジン停止後こ
のパイロットは正しくトリムを調整しなかった、
あるいは逆方向に調整してしまった可能性がう
かがえる。
失速警報フォーンが鳴り続けていた、 という
証言及び速度を保てなかった、 という証言から、
このパイロットは片発動機不作動時の最良上昇
率 速 度 (VYSE : best single-engine rate of
climb airspeed)、 あるいは片発動機不作動時
の 最 良 上 昇 角 速 度 (VXSE : best singleengine angle of climb airspeed) を得るため、
機首を下げなかったことがうかがえる”とも書
いている。
機体を調査した結果、 エンジン故障の原因は
プロペラ減速ギアボックス内にあるファースト・
ステージ・サン・ギアの疲労破壊にあることが
判明する。
サービス・ブリテンには、 バンディランテ航
空機に装備される PT6A-34 エンジンに関し、
ファースト・ステージ・サン・ギアを12,000時
間ごとに交換するよう、 指示してある。
この事故を起こした運航会社は、 すでにオン
コンディション・メインテナンス・プログラム
の承認を受けていたため、 サービス・ブリテン
の指示事項に従う必要はなかった。
事故を起こした航空機のエンジンに装備され
ていたサン・ギアの総使用時間は、 22,065時間
に達していた。
NTSB はこの事故の原因について、 同社の
メインテナンス・プログラムのいい加減さ、 及
び検査確認の不十分さを上げ、 事故を招いた要
因として連邦航空局 (FAA) の姿勢を挙げて
いる。
“仮に FAA が同社のメインテナンス・プロ
グラムを細かく調査していたなら、 整備方法及
びそのほかの事項に関しての不十分さを指摘で
き、 承認を与えなかったはずである。 にもかか
わらず、 これを承認してしまったため、 エンジ
ン製造会社が定めているエンジンのサン・ギア
の使用時間の限界をはるかに超えた時間使用さ
れ続ける、 という結果を招いてしまった”と事
故報告書は指摘している。
大きな降下率、 アンダーシュートを。
ドルニエ 328-100TP:中破、 負傷者無し。
2008年11月6日の朝、 インドネシアの北スラ
ワジ、 マナドから乗客36名を乗せパプアのファ
ク・ファクに向け、 定期便として飛行している。
すでに、 この航空機の機長 (PIC) としての
トレーニングを受けていたファースト・オフィ
サーが操縦を担当していた。
ファク・ファクのトレア空港にある長さ1,120
m (3,675フィート) のランウェイには、 国際
民 間 航 空 条 約 (ICAO) で 求 め ら れ て い る
RESA (Runway End Safety Area) はどちら
側にも設けられていない、 インドネシア国家運
輸安全委員会 (NTSC:Indonesian National
Transportation Safety Committee) は話す。
ショート・ファイナルまでアプローチしたと
き、 ファースト・オフィサーは“プロペラの回
転面が抵抗になってしまう状態までパワーを絞っ
てしまったため、 航空機が設置点に到達する前
に降下率は急速に増加してしまった”と報告書
にある。
PIC (パイロットを指導する立場にあり、 フ
ライト・インストラクターを兼ねている) は航
空機の飛行全般にあまり注意していなかったた
め、 このパイロットの誤まった操作が招いてし
まった大きな降下率を回復させるタイミングを
失ってしまう”。
コクピット・ボイス・レコーダーのデータに
よると、 電波高度計が100フィートを指示して
いる、 とコールアウトした後“手前過ぎる……
手前過ぎる……僕が操縦する!”と PIC は叫
んでいる。
PIC はパワーを増加させたがドルニエ航空機
のメイン・ランディング・ギアはランウェイの
端より5m ほど手前、 ランウェイより30cm
(12インチ) 低い位置にある小石に覆われた地
面に接地してしまった、 と報告書。
左メイン・ランディング・ギアは2箇所で折
れてしまい、 この状態のまま機体をランウェイ
にこすりつけたまま500m (1,640フィート) ほ
ど滑り、 停止。
火災は発生せず、 乗客もメイン・キャビン・
ドア及びサービス・ドアから無事に脱出している。
事故調査の結果、 判明した事実をもとに
NTSC はこの航空会社に対し、 同社に所属す
るパイロットにクルー・リソース・マネイジメ
ント (CRM) トレーニング、 及びフライト・
セイフティ・ファウンデーションが作成した、
アプローチ及び着陸時の事故を減少させるため
の ツ ー ル ・ キ ッ ト (Approach-and-Landing
Accident Reduction:ALAR Tool Kit) を実
施させること、 と勧告している。
2010 MAY
45
ピストン航空機
急速な着氷、 不時着を招く。
ビーチ B60 デューク:中破、 負傷者無し。
2008年11月29日、 合衆国ネバダ州スコッツブ
ラフからワイオミング州サラトガへ、 ビジネス
のため計器飛行気象状態である高度16,000フィー
トを飛行していたデューク航空機は、 急速にク
リアー・アイスの着氷に見舞われてしまう。
“着氷気象状態から逃れようと、 パイロット
は低高度へ降下するリクエストを、 そしてすぐ
低高度へ降下するクリアランスを得た”と
NTSB の報告書。
“機首方位を変えようとリクエストしたが、
同じく着氷による問題を抱えた航空機2機が付
近を飛行しているため、 管制官はこのリクエス
トを拒否する”とも書いている。
高度9,000フィートまで降下すると、 パイロッ
トの目には時折地上の風景が見えるようになる。
“この時点でこの航空機の両ウインドシール
ド、 及び防氷装置の付いて無い機体部分は全て
クリアー・アイスに覆われており、 そして両エ
ンジンともほぼフル・パワーの状態になってい
た”と報告書。
パイロットはデューク航空機をハイウェイに
着陸させよう、 と決める。
しかしアプローチしている最中、 機体は送電
線と接触してしまい、 方向舵の上半分及び垂直
安定板の上部をかなり激しく損傷させてしまう。
パイロットはハイウェイの横にある空き地に
機体を着陸させた。
ぬかるみに突っ込んだとき、 ランディング・
ギアは折れて吹き飛んだが、 パイロットと乗客
は無事に脱出している。
トリップしなかったサーキット・ブレーカー。
パイパー・チーフテン:小破、 負傷者なし。
2008年5月30日、 コマーシャル・フライトへ
46
2010 MAY
向かうためイングランドのウィルトシャー・ボ
スコンベ・ダウンを離陸し、 上昇していたチー
フテン航空機の両パイロットは高度7,000フィー
ト付近で、 何かが燃えているような臭いに気づ
き、 機内を見回すと頭上にあるパネルから煙が
吹き出していることに気づく。
彼らは不要な電気装備品をオフにし、 空港へ
戻ろうとする。
“コーパイロットはハロン1211消火器で何と
か火を消そうとするが、 火の勢いは小さくなっ
たものの、 降下中ずっと続いていた”と AAIB
の報告書。
空港の消防隊員が待機している中、 特に事態
は悪化することなく、 この航空機は着陸を。
航空機を調査した結果、 コクピット内の空気
を循環させるエアー・リサーキュレーション・
ファン用モーターが故障していたのだが、 回路
を保護している10アンペアのサーキット・ブレー
カーは何故かトリップしていない。
“過大な電流がファンに流れ、 配線をオーバー
ヒートさせて、 被覆から煙と炎を発生させてし
まった”と報告書。
長時間、 10アンペア以上の過大な電流が流れ
続けたため、 サーキット・ブレーカーは発熱に
より、 激しく破損している。
報告書は、 ファン用の回路を保護するため、
10アンペア以下のヒューズを追加装備すること
とした1982年のサービス・ブリテンに書かれて
いる指示を守っていなかった点を強調し、 書い
ている。
この不具合が発生した後、 この航空機を運航
する会社は、 不具合を起こした航空機にヒュー
ズを取り付けたという。
緩んだクランプ、 ハイドロリック系統の故障を招く。
エアロコマンダー 500B:中破、 負傷者無し。
2008年6月1日、 チャーターされドミニカ共
和国からアメリカ合衆国バージン・アイランド
のシャーロット・アメリーに向かい、 着陸する
ためギアを降ろしたパイロットは、 左メイン・
ランディング・ギアが完全に下がらず、 ロックさ
れたことを示す表示も出ていないことに気付く。
通常操作及び緊急操作を行うが、 左メイン・
ランディング・ギアは降りず、 仕方なくパイロッ
トは右・メイン・ランディング・ギアをランウェ
イに接地させ、 左ギアを降ろそうとした。
しかし左メイン・ランディング・ギアは降りず、
パイロットはこの状態で着陸したが、 着陸時、
左メイン・ランディング・ギアは折れて吹き飛
んでしまう。
エアロコマンダー航空機内の7名は全員無事
だった。
NTSB の報告書は、 ギア下げ装置の故障は、
18,000時間も使用され続けたハイドロリック作
動油供給用アルミニウム製パイプに金属疲労に
よるクラックが発生し、 ここから作動油が流れ
出てしまったため、 と書いている。
パイプの固定には2つのクランプが必要なのだ
が、 この航空機のパイプには1つしか取り付けら
れていなく、 しかもクランプは緩んでいたという。
長年にわたる振動でパイプにクラックが発生
したもの、 と考えられている。
このエアロコマンダー航空機は5ヶ月前に年
次点検を受け、 その後62時間飛行しているが、
この年次点検を実施した整備士が点検時、 クラ
ンプの数の不足、 そして疲労によるクラックの
発生を見落としたことが、 今回の事故の原因で
はないかと書いている。
ヘリコプター
見落とされたテイル・ローター・ペダルのロック装置。
ヒューズ369:大破、 1名死亡、 1名重傷。
2008年12月28日、 ソロモン諸島のホニアラ付
近を航行していた漁船のデッキを離陸したこの
ヘリコプターは、 離陸した直後にスピンし始め
てしまう。
事態を見守っていたこのヘリコプターの整備
士はパイロットについて“ペダルのロック装置
を掴もうとしていた”と話し、 後日事故調査官
に、 多分離陸前にテイル・ローター・ペダルの
ロック装置を外し忘れていたのではないか、 と
話している。
操縦不能の状態でヘリコプターは降下し、 ソ
ロモン海に墜落した衝撃で両方のフロートも吹
き飛んでしまう。
この後ヘリコプターは沈んでしまい、 回収も
されていない。
“フィリッピン国籍を持つパイロットは行方
不明のままで、 すでに死亡したものと推定される。
中国国籍を持つ、 魚群を見つける同乗者はこ
の事故で重傷を負った”と NTSB の報告書。
緩んだフィッティング、 エンジン停止を招く。
ベル 206B ジェットレンジャー:中破、 2名軽傷。
2008年11月11日、 朝早くテレビ局の交通情報
を中継するため、 アメリカ合衆国フロリダ州、
ランタナを離陸したこのヘリコプターのエンジ
ンは8分ほど後、 突然停止してしまう。
パイロットは直ちにオートローテーションを
開始し、 ジェットレンジャーを工業団地内にあ
る道路へ向け、 旋回させる。
“不時着しようと決めた場所近くにある送電
線を回避したパイロットは、 コレクティブを操
作し、 滑空距離を伸ばそうとした。
この後ヘリコプターはハードランディングし
てしまい、 テイルブームを破損してしまう”と
NTSB の報告書。
このジェットレンジャーを調査した結果、 パ
ワータービン・ガバナーから燃料コントロール・
ユニット (FCU) に向かうニューマティック・
ラインは、 燃料コントロール・ユニットに固定
されていない状態で発見されている。
この事故の発生する3日前に実施されたエン
ジン・ギアボックスの点検時、 点検しやすいよ
うに取り外したラインを点検終了後に再度取り
付ける際、 フィッティングを固定するBナット
を規定トルクで締め忘れたためである、 と書い
ている。
2010 MAY
47
GA:ジェネアビ情報
関東平野空中衝突防止会議
奥貫
今年の1月10日と3月20日に、 米軍横田基地
で 「関東平野空中衝突防止会議」 (Kanto Plain
Mid-Air Collision Avoidance Conference) が
開催されました。
この会議は NPO 法人 AOPA- Japan、 社団
法人日本航空機操縦士協会及び社団法人日本飛
行連盟の協力のもとに、 米空軍第374航空団司
令部が横田基地において開催することになった
もので、 米軍横田基地と周辺空域で飛行してい
る操縦士が一堂に会し、 関東平野上空における
航空機の衝突防止に関して話し合いをすること
を目的とするものです。 会議では横田空域の運
用方法と米軍機の運航に関するプレゼンテーショ
ンが行われ、 会議を通じて日米双方の航空従事
者間で相互理解を深め、 空の安全かつ効率的な
利用のための情報の交換が行なわれました。
関東平野では、 例えば利根川上空での曲技飛
行練習等に際しては、 横田基地の同意が必要で
すし、 また、 同じ空域での、 航空機曳航による
グライダーの活動等もありますので、 横田基地
関係の飛行には従来より注意をしていました。
実際、 ほぼ同高度で進行してくる米軍の
C-130 をグライダーを曳航している飛行機が回
避するような場面もありましたから、 今回の会
議は非常にありがたく感じました。
そのような訳で、 先ずは、 次ページの図をご
覧下さい、 これが関東平野の、 低高度有視界で
の訓練活動場所等の現状です。
関東平野を低高度の有視界飛行で利用する場
合は、 この情報を頭に入れておき、 しっかりと
見張りをして飛行することが必要です。
48
2010 MAY
博
横田基地からのメッセージ (要約)
横田基地周辺では、 年間で15,000機以上の米
軍機が往来しています。 基地は西側の高さ
3,000m 級の連峰と東京湾の間の密集した首都
圏の住宅地に位置し、 年間を通じて激しい山岳
波、 極度の低雲高や悪天候による視界不良が発
生しやすい傾向があります。
また、 東京近郊上空は、 成田、 羽田空港に離
着陸する航空機の過密化した民間航空路により
飽和状態になっています。 横田基地にはエアロ
クラブ所有の民間仕様の小型セスナ機の他に、
軍用機の C-130, C-12, UH-1 ヘリコプター等が
駐機しています。 更に B-747, DC-10, L-1011
等の民間機、 C-5, KC-10, C-17等の軍用貨物
輸送機等の軍用機も受け入れて支援しています。
殆どの航空機が IFR で飛行している一方、
C-130及び UH-1は、 関東地域において高頻度
で高度1,000Ft 以下での VFR 編隊飛行を行なっ
ています。 関東を飛行中に C-130 が視界に入っ
てきた場合は、 更にもう1機以上が後続してい
る可能性があります。 関東地域ではこのような
低高度の飛行が行われているため、 空中衝突の
防止には十分な注意が必要です。 米軍の低高度
での編隊飛行等が横田基地の75マイル範囲内で
行なわれていることから、 航空機同士の衝突の
可能性が高い空域の情報を共有し、 横田周辺空
域の飛行に係わる危険性の存在を認識して常に
細心の注意を払い 「目視確認し、 事故を回避
(see and avoid)」 することが必要です。
● 横田関係有視界飛行訓練空域
● 横田関係有視界飛行訓練空域
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑮
阿見飛行場
羽生滑空場
板倉滑空場
ホンダエアポート
大利根場外離着陸場
龍ヶ崎飛行場
関宿滑空場
三保場外離着陸場
130.150MHz
130.725MHz
130.675MHz
130.750MHz
130.700MHz
129.900MHz
130.650MHz
130.775MHz
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
⑯
読売大利根滑空場
妻沼滑空場
日本航空学園滑空場
富士川滑空場
霧が峰滑空場
長野滑空場
東京都調布飛行場
鬼怒川滑空場
130.775MHz
130.500MHz
130.800MHz
130.775MHz
130.625MHz
130.650MHz
130.800MHz
2010 MAY
49
進行中の課題と会議の目的
先ずは横田基地の第374空輸団安全部より、
横田基地周辺の空域における進行中の課題と、
会議の目的の説明がありました。 進行中の課題
については、 空域情報の提供、 及び航空スポー
ツ活動の問題が強調されました。
続いて、 厚木基地周辺を飛行する航空機、 そ
の飛行内容、 飛行経路、 注意事項等が、 詳細に
説明されました。 その内容は、 非常に細かく、
多岐にわたるもので、 改めて、 厚木基地周辺を
飛行する際の注意点が再認識されました。
厚木基地関係の飛行の説明の例
進行中の課題
続いて、 会議の目的が 「我々はなぜここに集
まったのか」 として紹介されました。
要は、 関東空域に存在する、 様々な任務と訓
練を目的とした多種多様な航空機の存在を認識
し、 他の航空機の飛行目的や飛行手順、 進路を
良く知ることが、 航空安全の重要な要素と言う
ものです。 また、 空域の運用様式の違いの認識
(ICAO 方式対 FAA) も重要な安全要素になる
と言うものです。 いずれも、 改めて会議の意義
が認識される内容でした。
会議の目的
50
2010 MAY
そのような有意義な内容の全てを紹介したい
ところですが、 今回は、 第374空輸団安全部の、
3月20日の配布資料から、 その要点を紹介する
ことにします。
ニアミスの実態とパイロットの役割
横田基地の配布資料によれば、 ニアミスは以
下のような状況下で発生するとされています。
・ニアミスの90%は小型機が関与
・85%は飛行高度3,000Ft 以下で発生
・75%は民間航空機が関与
・70%は飛行場、 空港の近辺で発生
・50%は See and avoid を怠った為に発生
・50%は管制施設のある飛行場、 空港で発生
ニアミスとは、 AIM では、 航空機の運航中、
他の航空機との距離が500Ft 未満に接近し、 衝
突の恐れがあった場合又は2機以上の航空機が
必要以上に接近し、 衝突の恐れがあったとの報
告が提出された場合としています。 米軍の規則
では、 空中衝突を避ける為の緊急の回避操作を
要した場合としています。
また、 航空活動の活発化に伴い、 空中衝突の
可能性も比例して高まるとされていて、 米国の、
民間航空機の空中衝突の白書によれば、 以下の
ような結論がまとめられています。
・フライトプラン無しの遊覧飛行
・週末の日中の VFR 状態
・管制が行われてない空港近くの3000Ft 以下
・飛行経験、 資格、 飛行時間に関係なく発生
・37%は教官同乗で発生
日本においても次の対策が重要とされています。
・IFR, VFR に関わらず See and avoid の
実行
・人間の目の機能を理解した上での、 適切な
スキャンニング・テクニックの実行
・大きな機動の飛行、 曲技飛行等は、 航空交
通管制機関に通報して実施
・空域に適用される飛行の規則に従うこと
・トランスポンダーの使用
・航空交通管制機関のアドバイスも有効、 ま
たアドバイスを受けても See and avoid の
徹底
・適切な航空交通管制機関の周波数の聴取
・10000Ft 以下で衝突防止等、 着陸灯の点灯
解し、 この中心視野を利用することが必要です。
そのためには、 10度ずつ目を動かして、 1秒保
持する等のテクニックが必要です。 一般には水
平スキャンが良く使われますが、 自分に合った
確実なスキャンの方法の確立が必要です。
また、 機外のスキャンには、 機内の3∼4倍
の時間がかかると言われています、 時間換算で、
機外が16秒なら、 機内は4∼5秒と言うわけで
す。 動く物体を追う場合は、 特にゆっくりとス
キャンすることが必要です。
計器板から目を離し、 遠くを見る場合にも、
ピント合わせに数秒を要しますので、 そのため、
例えば、 自分の機体の主翼前縁に視線を移し、
それからゆっくりと遠方に目を移して外部のス
キャンを始めるのが良いとされています。 人間
の目は、 だいたい3∼9m 程度の範囲に焦点
が合うようになっていますが、 このような目の
性質を理解した上で、 適切な外部スキャンを行
なうことで、 空中衝突を回避する能力が最大限
に発揮されることになります。
監視技術
(スキャンニング・テクニック)
IFR での飛行の場合、 横田への飛行経路は
東 側 5 − 15 マ イ ル に 設 定 さ れ 、 通 常 4,000∼
5,000Ft で飛行します。 アップウインドは南北
5−15マイルで、 それぞれのレーダーダウンウィ
ンドに誘導されます。 ベースレグは、 飛行場か
ら 10 − 25 マ イ ル の 地 点 か ら 西 に 誘 導 さ れ 、
3,000Ft に降下してファイナルに入ります。
VFR の場合は、 低高度での飛行を許可され
た場合を除き、 北方向への出発は他の飛行場の
管制圏を避けるため横田 TACAN R-360 より
西側を26マイルまで進出するか、 3,000Ft 到達
してから東側に飛行することが必要です。 場周
経路へは立川飛行場の管制圏を避けるため西側
から進入します。 C-130 編隊飛行 (物量投下訓
練を含む) は、 低高度で飛行場の北方向へ出発
し、 また、 北側から進入します。 出発は横田
TACANR-357 を対地1,000Ft (夜間2,000Ft)
で飛行します。
空中衝突防止には適切なスキャンニング技術
が必要です。 見て確認することが基本と認識し
た上で、 視認が容易ではない場面があることの
認識も必要です。 パイロットには一定レベル以
上の視力がありますが、 それでも適切なスキャ
ンが出来る保証はありません。 眼の構造及び人
の視力の限界を良く理解し、 様々な状況におい
て視力がどのように働くかの理解が必要です。
人間の視野は左右方向に約200度ありますが、
眼球の中心部のごく狭い部分のみが、 焦点の合っ
た鮮明な像を映し出すことが出来ます。 この中
心視野の部分では、 7マイル先の航空機を認識
できますが、 中心視野の外側では、 同じ航空機
は0.7マイルに接近しなければ見えないとされ
ています。 適切なスキャンには、 このことを理
C-130/C-12の横田基地における
運用
2010 MAY
51
VFR360度オーバヘッド進入は飛行場西側に
ブレークし、 高度は1,000−1,500FT とします。
東側へのブレークはごくまれで、 この場合は立
川管制圏を避けて1マイル以内を飛行します。
南からの VFR 進入は八王子市内を避けるた
め、 多摩川上空でベースターンを開始します。
横田基地では C-130 による編隊飛行訓練が
行なわれているので、 1機の C-130 を視認し
た場合は、 編隊飛行の後続機にも注意が必要で
す。 通常、 この編隊は2∼6マイル間隔の縦列
隊形で、 ほぼ同高度を飛行しています。
また、 この空域には、 横田滑走路 (明るいコ
ンクリート色)、 立川滑走路 (横田の東南東4
マイル、 暗い灰色のアスファルト色) 及び、 入
間滑走路 (横田の北北東7マイル、 暗い灰色の
アスファルト色) が存在しますので、 間違えな
いように、 注意が必要です。
C130 及び C12 は、 横田管制圏様々な方向の
高度5500Ft から急降下進入を行なうことがあ
ります。 また、 C-130 は、 地上から1,500Ft 以
下の低高度の関東平野内 (山河口を含む) にて
飛行訓練を行なっていることがあります。
C-130の低高度有視界編隊飛行
UH-1ヘリコプターの
横田基地における運用
横田基地では SVFR ルート及び位置通報点
が設定されています。 これらの情報を把握して
いない場合は、 RAPCON から、 それぞれの状
況に応じたクリアランスが発出されます。
横田管制塔は、 横田コントロールゾーン内外
52
2010 MAY
への、 SVFR を要求する全ての航空機に、 必
要 に 応 じ て RAPCON の 承 認 を 得 た 上 で 、
SVFR クリアラスを発出します。 横田コント
ロールゾーン内での全ての SVFR は飛行高度
2,500Ft MSL 以下で、 RAPCON は SVFR 対
SVFR, SVFR 対 IFR の間の管制間隔を確実
に保持しています。 RAPCON はまた、 SVFR
飛行経路での離陸とコントロールゾーン内での
SVFR と IFR の間の目視間隔の設定を管制塔
に対し許可する場合があります。 立川基地の管
制塔も同様なコントロールゾーンのサービスを
1,700Ft 以下の高度で提供しています。 横田の
レーダーアドバイザリー、 又は、 IFR のサー
ビスを必要とする航空機は、 横田アライバルに
261.4MHz 又は123.8MHz の周波数で通信設定
を行なうことが必要です。
・通常のパターンは滑走路の西側。 東側は、 例外と
して設定される。 入間及び立川の飛行エリアを避
けるため、 滑走路の延長線より、 1マイル以上東
側を飛行してはならない
・八王子市の上空を飛行してはならない
・入間又は立川基地を横田と誤認しない事
・2000Ft-MSL でのオーバーヘッド、 又は1500FTMSL のダウンウインドが管制塔から要求される
ことがある
・横田エアロクラブの標準出発/進入ルートには
2000FT から3000Ft が使用される。
C-130/C-12横田 VFR パターン
SVFR の飛行は、 事前に管制機関からの承
認を得た後、 適切なクリアランスで管制圏内に
進入し、 離脱の際も通報が必要です。 また、 常
に地上を視認し、 許可なしに定められた経路や
高度から逸脱してはなりません。
気象条件により、 SVFR が継続できない場
合は、 横田アライバルの261.4MHz 又は123.8
MHz にその旨通報することが必要です。
羽生滑空場上空を通過中の米軍 C130
おわりに
UH-1 SVFR ルート及びリポーティングポイント
・オーバーヘッドパターンは2500Ft-MSL
・ダウンウィンドパターンは2000Ft-MSL
・2000Ft-MSL オーバーヘッド又は1500FT-MSL の
ダウンウインドが管制塔から要求されることがあ
る
C-130の VFR リポーティングポイント
何と言いましても、 第2頁の図のような状況
ですから、 関東平野では、 低高度の米軍機の飛
行に大きな注意を払う事が必要です。 実際、 滑
空場上空を編隊飛行の C-130 が通過すること
もあって、 フライトサービスから 「C-130 の編
隊が南側から進入中、 曳航機は西側に退避」 等
の指示を出して、 安全を確保するような場面も
ありました。 この C-130 の低高度編隊飛行は、
自衛隊観閲式の集団飛行のような、 NOTAM
等での事前情報はありませんから、 目で見て回
避することが必要なのです。
上の写真は、 小さなデジカメで滑空場上空を
通過する C-130 写したものです。 実際、 この
位に写る高度を飛行していて、 滑空機が回避し
ているような情況です。 機体の大きさからは小
型機の方が先に C-130 を発見することが可能
ですし、 何はともあれ小型機の側で見つけて回
避することが必要と思います。
従来も、 航空会館等で横田基地側からの説明
を受けることがありましたが、 問題が起きてか
らでは手遅れですから、 今回、 米空軍第374航
空団司令部と、 AOPA-Japan, JAPA, 日本
飛行連盟の協力で 「関東平野空中衝突防止会議」
が開催されましたことは、 極めて有意義なこと
であったと思います。 これからも、 積極的な情
報交換を推進しながら、 関東の空の効率的な利
用と安全の確保を考えて行きたいと思います。
出展:米空軍第374航空団資料及び当日説明
2010 MAY
53
飛行機の機能を知る!
知って使いこなす!
Weather Radar!
使い方知って避ければ ECO Flight
B767 機長(元)
蔵岡
賢治
梅雨から夏の CB (Cumulonimbus:積乱雲) を避ける WX Radar の使用には、 その機能の知
識と状況に適応した Operationが求められます。
チョット待って下さい。 FL300を超える高い夏の CB が図などでよく引き合いに出されますが、
CB は夏だけに限ったものではありません。 WX Radar の使用には、 季節・地上気温・SAT (外気
温) などの状況に応じ、 雲の強弱を判断する必要があります。 それらを模式図などで考えてみます。
WX Radar System は機種ごとに違いがありますが、 基本的な操作は共通するものがあると思
います。 WX Radar Operation を、 機能を含めチョット考えてみては如何でしょうか!
※この稿では、 光や Radar Beam は屈折せず直進するものとして幾何学的に計算しています。
〈Weather Echo 把握〉
図−①
WX RADAR Target
WX Radar を使う際、 積乱雲等の雲の何処に焦点を合わせるか?を考えなけ
ればならない。 図−①、 CB を判断する場合、 基本的に水から氷晶、 氷晶から水
への熱交換 (80cal/g) が活発な過冷却水滴が存在する領域の 強弱・高さ で
判断する。 過冷却水滴が存在する領域は、 一般的に0℃から−15∼−20℃の間で、
0℃になる高度は、 概略、 2℃/1000ft で考えて良い。 例えば、 地上気温30℃の
時は、 FL150付近から約10000ft 上空の FL250の間になる。 WX Radar は、 その
付近が写る様に Radar Beam の Tilt (照射角) を Adjust する。
また WX Radar の Display 画面で、 WX Echo の反射波を見分ける場合には
Gain を使用する。 これらが適切でないと、 強い雲を避け得なかったり、 避ける
必要のない弱い雲を大きく迂回して余計に燃料を消費する結果になる。
54
2010 MAY
そうか! 30℃以上になる夏場の CB で、 0℃の高度は FL150以上と高くなり
ますが、 春秋の20℃だと10000ft 以上、 0℃付近になる冬場は地上から!となり
ますね。 CB は夏だけと思っていましたが、 春秋にも存在し、 冬は低い雲でも強
い揺れに遭ったこともあります。 OAT または SAT が0℃から−15∼−20℃の
雲は要注意! ですね。
図−①の WX RADAR Target の模式図は Image が容易ですね。
私の経験談で恐縮だが、 春に羽田に Approach した際、 Cloud Top FL250の
CB が Course 上に存在した。 その CB と隣の CB の間隙の Green に写る雲中を、
Seat Belt を点灯し乗客・乗員を着席させ通過したのだが、 温度範囲が悪く、 Severe に近い揺れを経験している。 同時刻に通過した他社の客室乗員は負傷し死
亡事故に至っている。 低い雲だから!と安心できない。 春秋の CB は夏の CB を
小さく凝縮した、 と言える。
図−②
Earth Curvature
図−③
FL350 Tilt Angle・Radar Beam
さて、 Radar では CB 等の雲の何処に焦点を合わせるか? Radar 照射角の
Tilt を考えてみよう。 実際の Radar Beam は屈折し水平線より遠方に到達する
が、 直線的幾何学的に考えても問題ではない。
図−②の模式図、 FL350の目視の見通し距離は約200nm だが、 Tilt 0度の
Beam 中心は、 Earth Curvature のため FL350より35000ft 上空になってしまう。
図−③の模式図、 120nm では Tilt 0度は+12700ft 上空になる。 Beam 中心を
FL350に合わせるには Tilt を−1度 Down にしなければならない。
WX Radar の Beam 幅は、 一般的に3度幅、 上下±1.5度なので、 FL350より
19000ft 下方の FL160までの Beam 幅で WX Echo を捉えることができる。
Earth Curvature と Tilt Angle、 WX Radar Beam 幅を計算したのが表−①だ。
2010 MAY
55
表−①
EARTH CURVATURE (地球湾曲) と WX RADAR TILT ANGLE
DIST(nm)
ALT(ft)
±0度
1.0度
1.5度
2.0度
2.5度
3.0度
5
22
22
530
796
1061
1326
1592
10
88
88
1061
1591
2122
2653
3184
20
40
60
353
1413
3179
353
1413
3179
2121
4242
6363
3182 6364 9546
4244 8487 12731
5306 10611 15917
6369 12737 19106
80
5651
5651
8485
12728
16974
21223
25474
100
8830
8830
10606
15911
21218
26528
31843
120
12713
12713
12727
19093
25461
31834
38212
160
22596
22596
16969
25457
33949
42445
50949
200
35296
35296
21211
31821
42436
53057
63686
表−①を見れば、 Tilt 0度で60nm の Beam 中心高度は、 Earth Curvature
のため、 現在高度より3179ft 高く、 Tilt −1度ではそれより6363ft 低いので、
Beam 中心は現在高度より3184ft 低くなります。 Beam 幅の下限は、 Beam 中心
より更に1.5度9546ft、 現在高度より12730ft 下方で、 FL350 ならば FL230 付近
まで照射でき、 現在高度に影響する雲を絞り込んで見るには Tilt −1度でも可
能ですね。
Tilt −1.5度の場合では、 同様に Beam 幅も更に下がり、 夏場の過冷却水滴が
存在する危険な空域も Beam 幅で照射できます。
現在高度に影響する雲を写す! が重要で、 それを考えた Tilt ですか!
もし Tilt を下げ過ぎると避ける必要のない雲も写り、 私も経験がありますが、
必要の無い Deviation をして無駄に燃料を消費する可能性もあります。
Weather Radar の Beam 幅は狭いと思っていたのですが、 3度の高度範囲は
意外と大きいのに驚きです!
この表は、 Earth Curvature (地球湾曲) や Radar の Tilt Angle と Beam 範
囲を考える場合に参考になりますね。
図−④
56
FL200 Tilt Angle・Radar Beam
2010 MAY
図−⑤
Navigation Display
240
50807
50807
25454
38185
50923
63668
76423
〈Weather Echo 解析 Tilt & Gail Control〉
図−④、 FL200では、 表−①から、 Tilt 0度でも現在高度や影響する雲を
Beam 範囲で十分に把握できる。
以上から、 Tilt Angle は FL200−現在の FL (÷100) 度 と言える。
降下では、 上記の設定で降下し、 FL200で Tilt 0度にした後、 SAT が0℃以
上になるまで0度で、 0℃以上で Tilt を Up していく。 こうすれば過冷却水滴
が存在する空域の状況を掴める。
図−⑤、 但し、 上記の様に Tilt を設定しても、 GND Echo が Navigation Display (HSI 等) の多くを占める場合は、 Display の外周に GND Echo が写る様
に Tilt を Adjust すれば、 その内側は WX Echo だけになる。 時折 GND Echo
が多く WX Echo の判断がつかない様な Operation が見受けられる時もある。
Auto Tilt 機能は高度で Tilt を Adjust するので、 冬場は高すぎる場合もあり、
Auto Tilt でも角度を確認する必要がある。 また、 WX Echo の強弱を判断する
には Gain を Adjust する。 これらが適切でないと、 強い雲を避け得なかったり
弱い雲を避けたりする結果になる。
過去、 私もそうでした。 Auto Tilt で雲が写らなかったので安心していたら、
突然雲が湧いて出た様に感じたことがあります。 また、 どれが雲やら判らない程、
Navigation Display が GND Echo で覆われていた事もありました。 できるだけ
WX Radar の画面は WX Echo に焦点を絞って表示させた方が無難と言えます。
Tilt は重要ですね。
図−⑥、 表−②、 Tilt 一定で近づいて行くと消えていく雲は低いですね。
60nm 以内では、 Beam 中心高度≒±Distance×Tilt Angle (×100) ですか!
WX Radar Operation には Tilt Angle の影響が大きいと再認識しました。
図−⑥
Tilt Angle 解析
表−② WX RADAR BEAM DATA
DIST(nm)
40
ALT(ft)
1413
±0度
1413
1.0度
4242
1.5度
6364
2.0度
8487
2.5度
10611
3.0度
12737
80
5651
5651
8485
12728
16974
21223
25474
120
12713
12713
12727
19093
25461
31834
38212
2010 MAY
57
図−⑦
Gain Control 解析
図−⑦上図、 Normal Gain と Tilt で、 Green で表示される左右の雲で、 右の
雲が大きくて強い様だが、 Gain を上げれば Green の中でも強い部分が強調され、
下図の様に左の雲が強いのが判る。 雲の強弱も山の等高線に例えれば理解が容易
だ。 つまり、 左が急峻な山、 右は丘で、 避けるべき雲は左なのが判る。
また、 Tilt を0度から Down すれば、 雲の下層の強い部分が同様に等高線の
様に表示され高さが判る。 この様に Tilt と Gain を使用して避けるべき雲を判断
する。
避け方 Deviation は、 左右の雲の中間ではなく、 風で雲や揺れの空域が流され
るので、 風上の雲から離れ、 風下の雲の近くに Deviation する。 そして、 雲の直
前ではなく、 余裕を持って直線的に避けた方が距離も短くなり計画的だ。 雲の直
前で避ける例も散見される。
また、 Deviation しては Course に戻り、 また Deviation する!を繰り返して
右往左往する様な Operation は避けるべきで、 Course を考え、 計画的に直線と
なる様な Deviation が望ましく、 飛行距離・時間・燃料消費なども有利になる。
耳が痛いですね。 私もそうでした。 Tilt や Gain を操作する事無く、 雲を見れ
ば避けていた様な、 Auto Tilt 機能装備の機体でも Auto Tilt に任せていた様な、
思いがあります。 WX Radar Operation には、 Gain と Tilt で探る!ですか。
ところで、 Takeoff や Climb ではどうしたら良いですか? Manual Tilt で
は Range 40nm と Tilt 5度で離陸していますが、 Auto Tilt では+15度になる
場合もあり、 チョット高すぎる!と思いますが?
58
2010 MAY
〈Weather Echo 解析 Tilt & Gail Control〉
図−⑧
WX Echo 解析 Takeoff Climb Phase
表−③
SHORT RANGE TILT ANGLE DATA
DIST(nm)
ALT(ft)
±0度
1.5度
5度
10度
15度
10
88
88
1591
5316
10714
16281
20
353
353
3182
10632
21427
32561
30
795
795
4773
15947
32141
48842
40
1413
1413
6364
21263
42855
65122
Takeoff から Climb で、 QNH 29.92に Set する Terminal Area の FL140付近
までは ATC や FLT Control で Workload が高い。
自機の通過する空域を見なければならないが、 表−③、 Manual Tilt 10度や15
度では自機が通過する遥か上の空域が写り、 通過する空域が写らない。 かって、
Tilt 10度で離陸した人がいたが、 目前の強い雲が写らず強弱も判らないまま雲
に突っ込み強い揺れに遭遇した事があった。
Airport 近辺の雲は、 離陸前に Dispatch Work 等で雲の状況を掴むべきだ。
Runway に入り WX Check のため、 ATC に30秒の余裕をもらい Takeoff 後の
Course を考え、 Plan をして上がった事もある。 自機の近辺ではなく、 20∼40
nm 付近の雲に焦点を合わせるべきだ。 Takeoff Climb Phase の Manual Tilt
では、 図−⑧、 表−③、 10000ft で適当な Tilt Angle は?を考えれば良い。
Auto Tilt 機能は Takeoff すると直ぐに Tilt Down していく。 余裕があった
ら確認しても良いだろう。
やはりそうですか! 私も気温などを考えず Tilt 10度で Takeoff し、 SAT が
直ぐ0℃になったのですが、 目前の強い雲が写りませんでした。 強い揺れの雲は、
夏場の CB だけとは限りませんね。 春秋は低く、 冬は地上付近からも考えられま
す。 温度範囲も考える!ですか。
自機の通過する高度を WX Radar 範囲に捉えて見る!が良さそうですね。
ところで、 月明りが無い夜間は雲が見えません。 どうしたら良いですか?
Gain や Tilt をどの様に使うのでしょうか? Chimney (煙突) の様な雲が散在
したり、 GND Echo が多く写る時があります。
2010 MAY
59
夜間、 月明りが無い時、 特に Chimney (煙突) の様な雲が散在する空域を飛
行する時は要注意だ。 かって太平洋上で雲の Echo が小さく見逃し易い Chimney (煙突) の雲に突込み、 乗客乗員が怪我をした例がある。 この様な時は Gain
を Max にし、 Range を80nm 等に小さくして Echo を強調させても良い。
月明かりの無い夜間の WX Radar Operation は一工夫が必要だ。
また、 Radar Beam は、 海上より陸上、 昼間より夜間、 が GND Echo を拾い
易く Tilt の Adjust が欠かせない。 しっかりと WX Echo を写す!が重要だが、
Navigation Display に NAV AID 等を多く表示させ、 WX Echo の判別が困難
な場合も見受けられる。
Navigation Display には、 Route や WX Echo 等に絞って表示させ、 その他
は、 必要な時以外は表示させず、 Display をすっきりさせ、 多くのものを写さな
い方が良いだろう。
Weather Radar Operation は何を見るべきか? が重要です。 Manual Tilt では雲の状況を
掴むのに必ず Adjust が、 Auto Tilt 装備機でも、 必要です。 そして Weather Radar で 状況を
掴む! のに経験は重要な要素です。
雲を見たら Tilt や Gain を Adjust して Weather Radar で見る!
雲の状況と原因は何?
とその癖を身につけて下さい。 その繰り返しが Weather 解析の Skill Up にも結び付きます。 より
良き経験は、 歴然と後になって現れます。 Turbulence 事故防止に Weather Radar は欠かせない
のです。
この稿は、 Auto Tilt 機能装備機が多い現在、 意外と盲点になり易い Weather Radar Operation
に Spot を当てて書いてみました。 B767 を例にしましたが、 機種や System が違っても概念は同
じと思います。 各自で Weather Radar Operation を振返るきっかけにして頂ければ幸いです。
Navigation Display、 何を写すの?
多く写して WX が判る?
大丈夫か?
※見通し距離:WX Radar の見通し距離は大気等の影響を受け屈折し、 幾何学的水平線より遠く
回りこむ。
幾何学的水平線距離≒1.07√ALT
WX Radar 水平線距離≒1.23√ALT
60
2010 MAY
ews
FAI N
FA I ニュース
Federation Aeronautique Internationale
今年の FAI 国際航空スポーツ競技会への参
加者は、 すでにその参加手続きを経て、 練習に
余念の無い段階に入っています。 良い結果を得
るには、 選手本人の努力もさることながら、 チー
ムとしての力の発揮が必要です。 日本の課題は
そこにあります。 国内の競技会を通じて、 その
辺に関する理解を進めなければなりませんが、
まずは、 手の付けられるところから始め、 人の
輪を作っていければと思います。 では今月の各
部門の報告です。
ロータークラフト (ヘリコプター)
FAI のロータークラフト部門の年次総会が
終わり、 昨年度の活動報告、 議事録、 役員交代、
決算や予算等の承認を経て、 また新しい年度の
活動が始まりました。 ここのところ、 大きな話
題としては、 ワールドエアゲームでの、 ロシア
勢と、 イタリアチームの競い合いがありました。
ロシア勢がいくら強力であっても、 連戦連勝で
は面白くありませんから、 イタリアチームの
R44 での頑張りには、 大きな拍手がありまし
た。
FAI 世界選手権の方は2008年にドイツで第
13回が開催された後、 少し開いてしまいました
が、 次回の第14回は2012年の8月にロシアの
Drakino Airfield での開催と発表されました。
この所、 過去に課目優勝の実績を有する日本
のアルファチームは、 本業が多忙で不参加が続
いているのですが、 新しいチームも含め、 日本
選手の参加を期待したいと思います。
GAC:ジェネラル・アビエーション(飛行機)
今年の FAI のジェネラル・アビエーション
競技は、 以下の日程で開催されます。 残念なが
ら日本からの参加はありません。
奥貫
博
・ラリー飛行世界選手権8月9日−15日
於 Dubnica Slovakia
これまでの JAPA の活動ではデレゲートが
総会に参加した実績はあるのですが、 それより
も競技会に見学として参加した方が、 得るもの
が多く、 国内での競技の試行につながる知識が
得られるかもしれません。 良く検討し、 可能性
を考えてみたいと思います。
もうひとつの競技の Red Bull エアレースの
方は、 室屋選手が今年も全9戦をフル参戦の予
定で、 上位進出が期待されています。
エアロバティックス (FAA-CIVA)
今年の CIVA チャンピオンシップは、 チェ
コ共和国 Touzim で開催される第17回パワー
(飛行機) アンリミッテッドのヨーロッパ選手
権、 ポーランド Radom で開催される第9回パ
ワー (飛行機) アドバンスドの世界選手権、 フィ
ンランド Jamijarvi で開催される第10回グラ
イダーアンリミッテッドのヨーロッパ選手権及
び第1回グライダーアドバンスドの世界選手権
(同時開催) の4つです。
このうち、 第9回パワー (飛行機) アドバン
スドの世界選手権には一昨年に続いて2回目の
出場となる内海昌浩さんがエントリーし、 第10
回グライダーアンリミッテッドのヨーロッパ選
手権には、 これも一昨年のヨーロッパ選手権、
昨年の世界選手権に続いて3回目の出場となる
梶智就さんがエントリーしています。 お二人と
も、 これまでは国外でトレーニングを積んでき
ましたが、 この半年ほどで国内での練習環境
(機体・練習場所等) が整いつつあり、 練習時
間が増えてきています。 日常的に練習できる環
境があれば上達も早いので、 今年はその成果が
楽しみです。
2010 MAY
61
NTSB はジェネラルアビエーションの小型機がグラス・コクピットを装備
しても、 安全性の向上には寄与していないことを明らかにした。
奥貫
博/佐藤
裕
現在、 米国合衆国運輸安全委員会が行ってい
る調査結果によると、 従来の計器を装備する単
発飛行機と、 グラス・コクピット装備の飛行機
の安全性を比較した場合、 グラス・コクピット
装備の飛行機のほうが安全であるとは言えない
ことが分かった。
氏名を公表した委員が数年前から行っている
安全性の調査では、 グラス・コクピットと呼ば
れるディジタル・プライマリー・フライト・ディ
スプレイを装備する小型機は、 従来の計器を装
備する飛行機に比べ、 本質的には安全性が高い
と言える、 と結論している。
しかし、 2002年から2006年にかけて製造され
た8,000機以上のピストン・エンジン小型飛行
機の事故発生率を調査すると、 従来の計器を装
備する飛行機に比べ、 グラス・コクピット装備
の飛行機での死亡事故発生率はかなり高くなっ
ている。
安全委員会は、 グラス・コクピットは複雑で
あり、 その機能、 デザインそして故障を表示す
るモードも飛行機によって異なっているため、
パイロットは、 必要な情報全てを得ているとは
いえない。 飛行機製造会社及び連邦航空局とも
に、 これらプライマリー・フライト計器を装備
する飛行機独自の操作方法や、 詳しい機能を理
解していなければならない、 と述べている。
これらを装備する飛行機の事故を防止するには、
操作方法を強調した訓練が必須であると強調す
る。
会議の結果、 グラス・コクピットを装備する
小型飛行機の事故発生率を低下させるには、 ト
レーニングが重要であり、 この調査結果からも、
複雑なシステムのトレーニング結果によって生
死が分かれることが明らかになっている、 と
Hersman は話す。
従来の計器を装備する飛行機で数千時間の飛
行経験を積んだパイロットといえども、 このグ
ラス・コクピットを装備する飛行機を安全に飛
行させる、 ということに関しては、 多くの飛行
経験とは別の話である、 とも話す。
NTSB 長官 Deborah A. P. Hermsman は、
急速に増加するグラス・コクピット機の割合
62
2010 MAY
従来型の計器表示
グラス・コクピット計器表示
今日、 新たに製造されるピストン・エンジン
小型飛行機は、 全てディジタル・プライマリー・
フライト・ディスプレイを装備している。 そし
て、 古い飛行機にもこれら最新装備に改造され
つつある。
グラス・コクピットを装備する飛行機の持つ
技術革新、 及びフライト・マネイジメント機能
は死亡事故発生件数を減少させるはずなのだが、
不運にも我々は事故件数の減少に関する事実を
掴んでいない、 と Hersman は言う。
“データは、 装備品ごとのトレーニングが、
命を救うことを物語っている。
このデータに応え、 安全性の向上につながる
パイロットの知識に関する試験方法、 訓練方法、
シミュレーター、 文書類に関する勧告が実行さ
れた場合には、 このシステムを使用する小型飛
行機のパイロット達の安全性向上が現実のもの
として得られるといえる。
調 査 の 結 果 判 明 し た 事 実 か ら 、 NTSB は
FAA に対し、 安全に関する6項目の勧告を行っ
た。
1. FAA はパイロットの知識及び訓練に求め
られる基準を強化すること。
2. FAA は製造会社に対し、 システムが故障
した場合、 より安全に飛行する方法をパイ
ロット用の文書として用意させること。
3. エレクトロニック・プライマリー・フライ
ト・ディスプレイに関する訓練方法及び知
識を、 FAA の訓練用の文書に加えること。
4. これらのシステムを装備する小型飛行機の
パイロットに対し、 異なる装備品及びディ
スプレイの操作方法、 及びエレクトロニッ
ク・プライマリー・フライト・ディスプレ
イに関する訓練方法及び知識について、
FAA はイニシャル及びリカレント・フラ
イト・プロフィシエンシーの要求を追加す
ること。
5. FAA は、 グラス・コクピット・シミュレー
ターの使用に関するガイダンスを作成し、
機材に関するパイロット・トレーニング・
プログラムを作成すること。
6. 小型飛行機の世界に対し、 エレクトロニッ
ク・フライト、 ナビゲーション、 コントロー
ル・システムに関する故障及び不具合発生
に関して、 SDR (Service Difficulty Reporting) システムへの通報がいかに重要
であるかを伝えること。
安全に関する調査の全体については、 近い内
に www.ntsb.gov に公表する。
出展:
1. NTSB NEWS For Immediate Release:
March 9, 2010 SB-10-07
2. NTSB Safety Study Report: Introduction of Glass Cockpit Avionics into Light
Aircraft − Study Overview Joseph
Kolly
2010 MAY
63
オススメ! 情報ボックス
書籍&Goods紹介
編集委員会
このコーナーでは、 書籍紹介を始めとして航空に関するお勧めグッズ等を紹介しています。 読者の皆
さんも、 是非、 フライトで使用している便利グッズや、 パイロット仲間に紹介したいグッズ、 書籍など
の情報を、 編集委員会までお知らせください。 もちろん、 ステイ先などでの飲食店情報なども大歓迎です。
テストパイロット
イン ジャパン
たむろ
岐阜基地に屯する、飛行開発実験団の勇士たち
文 :鳴海 章
写真:さいとうえいさだちか
発行:株式会社出版社
2010年2月28日発行
〒158-0096 世田谷区玉川台2 13 2
TEL :03−3708−5181
定価:1,500円+税
航空自衛隊の実験航空隊は昭和32年に岐阜に
移駐し、 昭和49年に航空実験団として編成され
た。 平成元年に飛行開発実験団として再編成さ
れ、 現在に至っている。
その任務は、 国産機 T-1 開発の頃から現在ま
で、 新規開発航空機等の試験、 評価を中心に、
主に以下の内容とされている。
1. 航空機、 ミサイル等の試験及び評価
2. 試験飛行操縦士、 技術幹部の養成
64
2010 MAY
3. 技術研究本部の試験等への協力
4. 契約本部の依頼による領収飛行
本書はその飛行開発実験団の任務を紹介すべ
くまとめられたものであるが、 その特徴は何と
言っても現地での取材の内容及び迫力ある写真
である。 著者の鳴海氏はテストパイロットとの
同乗飛行を含めた密着取材で、 難しいテーマを、
わかりやすく解説され、 また、 ジェット戦闘機
の魅力に取り憑かれたという写真家のさいとう
氏は、 本書を写真集としても楽しめるほどの力
作写真で飾っている。
テストパイロットは 「命をかけて危険にチャ
レンジ」 と言った面で見られがちだが、 現代の
テストパイロットは、 あらゆる航空機を飛ばす
ことが出来る腕前を持つと共に、 新しい航空機
等の研究開発段階から参画し、 技術検討や試験
等の結果にも関与した上で飛行に臨む技術者で
もある。 それでも実際の飛行では、 人智を越え
た現象が起こる事があると言う。 そのような事
態に直面したテストパイロットは、 航空機の基
礎的な法則と、 事前に技術検討した知識を総動
員して状況を分析し、 飛行の安全を維持しなが
ら、 冷静かつ迅速に、 最適な操作が出来なけれ
ばならない。
また、 更に大切なことは、 空の上で起こった
ことを、 技術者が正しく理解できるように分析
して報告できる能力である。 所定の基準に従っ
た厳正な評価と共に、 改善の示唆等々、 航空機
の完成に向けての技術者の姿がそこにある。
現代のテストパイロットや飛行試験に興味の
ある人には、 お勧めの一冊である。
開催予告
全日本曲技飛行競技会
開催案内
昨年の曲技飛行競技会 (試行) の結果を反映し、 今年は第1回全日本曲技飛行競技会を実施しま
す。 この競技会は、 曲技飛行競技の要領、 安全確保、 技量向上、 審判・採点要領等の講習を含むも
のとし、 また、 曲技飛行用飛行機の安全確実な着陸技術を身に付けるための着陸競技会を合せて実
施します。 今月号 「競技曲技シークエンスの飛び方」 (スポーツマンクラス) に課目と採点の解説
を掲載しましたので、 競技参加予定者は、 練習の参考にして下さい。 また、 競技エントリーの情報
は、 次号7月号に掲載の予定です。
1. 日時 (案):平成22年10月9日 (土)、 10 (日)、 11 (月) (予定)
第1日 AM フライイン/ブリーフィング/PM 公式練習 (10分/1スロット)
第2日 競技会1日目 (10分/1スロット)
第3日 AM 競技会2日目/ディブリーフィング&表彰式/PM フライアウト
2. 場所:福島県 ふくしまスカイパーク
3. 競技の内容:曲技飛行競技:
クラス1:プライマリークラス (FA200 C150/152 エアロバット シタブリア等の機体)
クラス2:スポーツマンクラス (デカスロン エクストラ200/300 ピッツ等の曲技飛行用機体)
着陸競技:曲技飛行競技機を優先するが、 その他の機体での着陸競技のみの参加も可とする。
4. 参加機体:曲技飛行競技への参加は、 曲技飛行の実施が承認された飛行機でなければならない。
5. 安全対策:飛行開始前にパイロットブリーフィングを実施し、 安全対策確認の署名を得る。
6. 主催・後援:主催:全日本曲技飛行競技会実行委員会 後援:社団法人日本航空機操縦士協会
(予定)、 NPO 法人ふくしま飛行協会 (予定)、 NPO 法人スーパーウィングス (予定)
7. 連絡先等:有限会社パスファインダー 福島市北沢又日行壇7 48 024 558 8318 担当:青島信介
エアロバティックス競技規定科目 (予定)
クラス1 (プライマリークラス)
クラス2 (スポーツマンクラス)
競技は IAC (International Aerobatic Club) の2010
年の規定科目、 及び、 IAC のルールで実施する。
Total K (Figure+Presentation)
プライマリークラス: 63 ( 60+3)
スポーツマンクラス:143 (137+6)
各科目は水平飛行で開始し、 水平飛行で終了する。
科目間に加速のための降下を入れると大きな減点
となるので注意のこと。
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競
技
空
域 (案)
・競技空域は1000m×1000m/下限高度 3000Ft (MSL)/上限高度 5000Ft (MSL)
・4隅にマーキングを設置 (の予定)
合せて、 曲技飛行用飛行機の確実な離着陸操作習得を目指す着陸競技を実施する。
FAI 方式準拠の着陸競技は、 Super Wings 主催の
枕崎空港での着陸競技方式に準じて実施の予定。
(PILOT 誌2009年5月号の GA 部会活動報告参照)
66
2010 MAY
開催報告
西日本支部だより
西日本支部
・航空保安大学校・関西空港管制施設見学会報告
西日本支部主催の、 航空保安大学校と関西空港管制施設の
見学会が、 2月19日に開催され11名が参加しました。
航空保安大学校では、 レーダー実習室、 360度スクリーン
が設置された管制実習室、 電子科実習室、 飛行場灯火実習室
等を見学。 パイロットの見えないところで、 いろんな訓練が
実施されていたり、 バックアップ体制がとられていることを
知りました。
関西空港事務所では、 運航情報官室、 タワー、 レーダー室
航空保安大学校見学
を見学。
日本にある航空情報提供システム2台のうち1台が関空にあることを知りました。 TCA の管制
官はコンタクトしてきた VFR 機の飛行経路等を把握し、 レーダーやタワー、 他の空港の管制官等
に連絡・調整を行うなど多忙な業務をこなしていました。
見学会のダイジェストは、 西日本支部 HP http://japawest.exblog.jp/ に掲載いたします。
・小型航空機安全セミナー・支部総会・懇親会報告
西日本支部主催の小型航空機安全セミナーと支部総会が、 3月13日、 大阪科学技術センターで開
催されました。
セミナーには28名が参加。 主催者あいさつの後、 講師にお招きした国土交通省航空局航空情報セ
ンター小野寺毅主幹航空情報管理管制運航情報官から 「ゼロから解説! 電子 AIP 無料活用術」、
朝日航空株式会社若谷哲也操縦士から 「20年も飛べばいろんなことが ハンガートーク&雑学クイ
ズ」、 JAPA 西日本支部木滑和明副支部長から 「知識のアップデートで安全運航 最近の法改正等
について」 のお話しを伺い、 参加者一同安全への意識をあらたにしました。
支部総会では支部枠選出理事、 支部委員、 平成21年度支部事業報告及び決算、 平成22年度支部事
業計画及び予算について審議され、 すべての議案が可決されました。
懇親会では空港や会社等の枠を越えて会員同士の交流・情報交換・親睦が図られました。
セミナー (一部) と総会の様子は http://www.ustream.tv/channel/japawest で動画でご覧い
ただけます。
・新支部委員
支部委員が次のとおり改選されました。
理事:平山開偉、 支部長:若谷哲也、 副支部長:岡勢繁典・阪本敏次、 支部委員:岡勢繁典、 植
野廣園、 大久保重和
2010 MAY
67
開催報告
平成21年度
中部支部総会報告
中部支部
2月27日13時から名古屋栄にて、 平成21年度
中部支部総会を開催いたしました。
薬師寺副会長から、 協会の近況報告があり、
その中で、 「MPL 准定期運送用操縦士の創設」、
「特定操縦技能の審査制度の創設」、 「航空身体
検査証明の有効期間の適正化」 について法改正
の概要説明があり最後に操縦士協会は操縦士に
とって、 飛びやすい環境作りを目指しており、
そのための協会員の協力がありました。
①平成21年度中部支部活動について
支部委員会、 安全セミナー、 航空安全講習会、
管制技術交流会、 航空教室などの活動の報告。
②平成21年度航空関連受賞者について
山本勝秀氏 (セントラルヘリコプターサービ
ス) の大阪航空局長表彰の報告。
③平成21年度支部決算について
佐藤支部委員から報告があり、 異議無く承認
を得ました。
④平成22年度支部委員選出について (敬称略)
退任:大川淳、 三浦芳郎、 新任:田中貴昭、
吉田善彦、 石田進及び、 その他21年度役員の留
任が諮られ、 承認を得ました。
総会で挨拶する薬師寺副会長
68
2010 MAY
平成22年度
中部支部役員
支部長 (理事兼務) 野口義博:中日新聞社
副支部長 佐藤和久:中日本航空
支部委員 青木富男、 石田 進、 奥本進介、
(HP 担当) 木島浩一、 具志賢治、
田中貴昭、 中里 巧、 野寺芳成、
林 晃一、 吉田善彦
以上12名
⑤平成22年度中部支部活動計画について
平成22年度活動予定が諮られ、 承認を得ました。
最後に野口中部支部長から閉会の挨拶があり、
21年度中部支部総会を終了しました。
総会終了後、 安全セミナーとして講師に航空
自衛隊第4航空団飛行群司令 松尾洋介氏をお
招きし、 「ブルーインパルスの考える安全」 に
ついて、 講演が行われました。
極限の曲技飛行に挑戦する部隊の指揮官とし
て、 どのような安全管理を心がけておられるか、
たいへん示唆に富む有意義な講演でした。
特に指揮官としての視点と操縦士としての視
点、 この2つの視点から、 安全に取り組んでい
るといった 組織としての安全管理の在り方
や、 操縦士としての具体的な経験から導かれ
た考え 等を、 時にユーモアを交えた話で、 大
変興味深く拝聴することが出来ました。
以上
松尾氏をかこんで
開催報告
第39回 JAPA 航空安全セミナー
奥貫
3月6日 (土) に東
京の航空会館で、 第39
回 JAPA 航空安全セミ
ナーが開催されました。
当日の講師は、 この
PILOT 誌の編集長、
日本航空の蔵岡機長で
す。 テーマは、 気象に
JAL 蔵岡機長
関するものと、 着陸技
術の2本立てです。
気象の方は、 「お風呂で気象解析」 と称して、
お風呂のお湯と水を暖気団と寒気団に例え、 滞
留や前線の活動等を、 立体的にわかりやすく解
説されました。 難しい気象の解説も蔵岡キャプ
テンの手にかかれば、 このような、 わかりやす
いものになってしまいます。 ともすれば天気図
を中心として平面的にとらえがちな気象が、 立
体的に理解できました。
気象の後は、 着陸に関するものです。
着陸とは、 要は所定の場所に、 所定の速度、
姿勢、 沈下率で接地させる事ですが、 小さな沈
下率で滑らかに接地させるためには、 フレアー
の部分が重要になります。 従って、 進入パスの
博
目標と、 フレアーを経て最終的に接地する点、
この二つの目標が必要と言うわけです。
また、 その両方の目標の間の視点移動のポイ
ントなども、 実に具体的に理解できました。
題材は大型機のエアライン運用でしたが、 小
型機の立場で見れば、 例えば600m 等の短い滑
走路等ではシビアな接地点の管理が必要ですし、
大空港では、 所定のタクシーウェイにおいて速
やかに滑走路から離脱するため、 そこから逆算
した接地点、 及び進入パスの目標設定が必要に
なります。 これがきちんとできていませんと、
2010 MAY
69
Expedite Vacating Runway を指示されたり、
下手をすれば後続のエアライン機をゴーアラウ
ンドさせるようなことにもなりかねません。
そのような訳で、 気象も、 着陸も、 現実に即
した、 非常にイメージの残る講義でした。
蔵岡キャプテンによる、 このような話の続編
を、 ぜひ期待したいと思います。
受講生のグループによる大島への航法計画作成
さて、 一息ついた後も、 充実した後半の時間
が待っていました。
受講生がいくつかのグループに分かれ、 与え
られた航法の目的地への飛行を計画しながら、
その間における障害やリスク等を話し合うと言
うものです。 課題は、 東京都調布飛行場から大
島空港への有視界飛行でした。
先ずは地図を読んでコースを設定し、 実際の
飛行において起こりうるであろう様々な障害や
リスクを、 コース設定の判断根拠と共に各グルー
プで話し合い、 発表し合うものです。 これは
CRM (Cockpit/Crew Resource Management) の訓練の一環として行なわれているシ
ナリオをベースとした判断等の訓練手法で、 そ
の障害やリスク等の分析に利用される SHELL
モデルの概念もわかりやすく解説されました。
職業パイロットの場合は CRM や LOFT 等、
ヒューマンファクターの体系的な教育は必須で
しょうが、 そのような講義を受ける機会が少な
い小型機の操縦者にとっては、 極めて新鮮で、
有用な内容でしたので、 ここで改めてその一部
を紹介させていただきます。 先ずは SHELL モ
デルですが、 様々な障害やリスクを、 以下の要
素で分析し、 考えてみようと言うものです。
70
2010 MAY
S:各種情報(Software)
H:各種機材(Hardware)
E:環
境(Environment)
L:関 係 者(Live ware)
L:Pilot 自身(Live ware)
更に、 実際の飛行における判断と行動のあり
方については、 いわゆる RADAR のステップ
が紹介されました。
R:認識
Recognize
A:分析
Analysis
D:思考・決定 Develop & Decision
A:実行
Action
R:評価
Review
CRM の第一歩は、 そこに存在する状況の、
正しい認識から始まります。 思い込みや、 独善
を排した、 客観的で正しい現状認識は、 基本中
の基本なのです。
その後は、 気象の最近の学科試験問題で冷や
汗をかき、 また、 懇親会は和やかに盛り上がっ
て、 非常に充実した1日でした。 このような参加
型の講習会をこれからも期待したいと思います。
根本講師による SHELL と RADAR の解説
グループによる作業と結果の発表
開催報告
訓練監督担当者意見交換会報告
乗員養成検討委員会
航空の情勢が大きく変革しつつあるこの頃で
すが、 乗員の養成はいずれの航空会社にとって
も重要なテーマです。 当協会では、 昨年の5月
に開催された乗員養成シンポジウムに引き続き、
「訓練監督担当者意見交換会」 を開催しました。
昨今の技術革新や新たな運航方式など環境変化
に伴い、 訓練や審査のあり方も変わろうとして
おり、 時代の状況に応じた訓練・審査がより高
次元な運航の安全に寄与するものと期待してお
ります。
さて意見交換会に先立って、 はじめに東海大
学生による研究発表と航空局乗員課の石原首席
の講演がありました。 以下にその内容をご報告
します。
〈概要〉
日 時:2010年3月18日 (木)
15時00分∼17時20分
会 場:羽田空港 ギャラクシーホール
出席者:約50名
研究発表 〈MCC について〉
東海大学 航空操縦学専攻学生
神成
上野
柴田
担当指導教員:遠山
樹治氏
朋克氏
一也氏
誠二教授
この発表を行った4年次生3人の共同研究の
具体的なテーマは、 「実運航に向けた MCC 訓
練の実践と研究」。 これまでパイロットに対す
る訓練や審査は個人の技術に焦点が当てられて
きたが、 近年は複数のパイロットが一つのクルー
として最大のパフォーマンスを発揮することを
目的とした MCC (Multi-Crew Cooperation)
訓練は重要かつ不可欠な訓練として注目されて
いる。 学生らは、 即戦力となるパイロット養成
のために、 MCC 訓練を大学教育の一環として
実現することに着目し、 海外での訓練方法を研
究し、 大学に適した効果的な訓練内容と適切な
評価方法について、 協定校である米国・ノース
ダコタ大学で体験した実機訓練を基にシナリオ
を作り、 シミュレーション画像などを用いて説
明をした。
学生による卒業論文の発表
出席者からは 「MCC のようなノンテクニカ
ルなことについて、 学生のうちに研究している
ことはパイロットになってから大きな財産にな
ると思う」 「MCC はこれから必要不可欠にな
る訓練プログラムで、 とても参考になった」 と
いう声が聞かれた。
講演 将来の乗員養成と試験制度について
国土交通省航空局技術部乗員課
石原 孝治 首席航空従事者試験官
エアラインが今後養成する乗員の資質やその
教育・訓練・審査のあり方、 また航空人に求め
られる姿勢、 訓練で培う意識について話をされ
た。
2010 MAY
71
に取り入れるか研究中である。
〈石原首席の講演についての意見交換〉
*MPL は航空法上ではどのように取り扱われ
講演をされた石原首席
自家用機のパイロットには定期航空会社のよ
うな再訓練、 審査はない。 安全講習会等で知識
の付与はできるが、 実践なくしては技量の維持
はできない。 ヒューマンファクターの教育を含
め、 訓練での意識付け、 航空人に求められる姿
勢を教える事が、 自家用パイロットの技量維持
をして行くうえで大切である、 と話された。
意見交換会での主な内容
〈東海大学の研究発表について意見交換〉
*航空大学校においても航空安全に関する授業
で事前にテーマを決めて研究発表をさせて向
上をはかっている。
*東海大学の就職状況は1期生、 2期生のうち
資格を取った者が33名、 就職内定者は24名で
ある。
*法政大学は飛行訓練をはじめたが、 事例研究
等テーマをあたえて航空安全の研究をさせて
いる。
*桜美林大学は東海大、 法政大とは訓練構成が
少し違うが、 海外での訓練で AMT (アビエ
イション・マネイジメント・テクノロジー) の科
目に航空安全を取り入れた訓練を行っている。
*崇城大は訓練が始まった段階なのでどのよう
72
2010 MAY
るか?
→これから局の法改正チームで論議していく
が、 航空法としては新しいライセンスにな
ると思う。 FAA と JCAB の教育証明の違
いの整理も必要となる。 法改正の経過は局
の HP に載せられる事になると思う。
*首席がおっしゃった意識を持って飛行するこ
とは、 自家用でもラインでも同じだが、 昔は
操縦がうまければいいと言った感があったが、
今は自分で自分の弱点を知って、 それを直す
ことができる能力が必要とされる。
*試験の為の訓練にならないようにしたい。 ボー
イング社で何を教えているのかと教官にたず
ねると、 安全を教えていると言った答えが返っ
てきた。
*間もなく国産初のジェット旅客機が誕生する
が、 ふさわしい訓練体制が構築されることを
のぞむ。
石原首席と JAPA 白石専務理事
協会からのお知らせ
正会員 (60歳未満の方) 会費納入額が変更になりました。
平成22年4月より1,700円から1,500円に変わりました。
共済保険制度の改訂ならびに会費の減額について、 下記のとおり変更となりました。
現共済制度の廃止
新公益法人法では、 現在の制度は認められません。 一方、 ①小額短期保険業登録、
②保険会社に事業譲渡、 の選択肢はありますが、 ①資格取得に必要な経費と運営業務
の負担増②保険料が現在の共済費200円では収まらない、 などの問題があります。 更
に、 共済事業は会員向けの共益事業として扱われるため、 公益認定を取得する上で、
不利に働くことになります。 従って現行制度を廃止することと致します。
新たに協会福利厚生制度の新設
現在の共済制度に変えて、 新公益法人制度で認められる制度、 社会通念上妥当な制
度 (弔慰金10万円以内など) を新設し、 会員サービスの低下を補います。
また、 現在の共済基金積立預金を原資とした新たな福利厚生事業積立金を設け、 運
営基金と致します。
平成22年7月に発効
会員の皆様に周知するために、 制度変更を平成22年度の総会で報告し、 7月1日よ
り新たな制度をスタートさせます。 暫定措置として6月30日までは、 一般財源を充当
し現在の制度を運用します。 従いまして、 4月1日以降の共済運営費200円は必要な
くなります。
会費は1,500円となります
毎月1,700円を会費として納入頂いておりましたが、 平成22年4月1日から、 月額
1,500円 (協会運営費) になりました。
新制度における給付金の詳細
・結婚祝金
20,000円
・祝電
・弔慰金
100,000円
・供花料
20,000円
・弔電
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通信
理事会通信
4月22日に開催した第255回理事会において、 平成21年度事業報告及び決算、 平成22年度事業計画及び予算
案、 役員候補者の選任、 公益社団法人認定取得に向けた定款変更案が承認されました。
今回議題の中で、 公益社団法人認定取得に向けた定款変更について提案しております。 新定款は、 総て停
止条件付の決議となり、 公益認定後に新定款が発効となります。 それまでは、 現在の定款承認が有効です。
詳しくは総会議案書を参照願います。
巻頭でもご案内しておりますが、 来る5月27日 (木) 第45回通常総会が開催されます。 是非ご参加いただ
きますよう宜しくお願い致します。
[活動報告]
−平成22年3月−
3月1日
第2回我が国の自発的安全報告制度のあ
3月18日
り方に関する調査・研究委員会
乗員養成検討委員会
(訓練監督者意見交換会)
3月2日
編集委員会
3月4日
航空保安システムの費用対効果分析マニュ
3月23日
月次検査 (出塚会計事務所)
アル改訂に関する調査委員会
3月24日
ビジネス航空委員会
航空保安大学校講義
3月25日
経理委員会/協会制度検討会
3月5日
平成21年度航空保安業務運用連絡会議
(レーダー管制専門研修)
3月6日
東日本支部総会
航空医学研究センター理事会・評議員会
3月26日
運航技術委員会
航空安全セミナー (GA)
航空安全委員会
北海道支部総会
航空保安施設信頼性センター
3月9日
航空身体検査証明審査会
第40回理事会
3月11日
航空交通管制協会理事会
航空輸送技術研究センター評議員会
3月12日
第254理事会
3月27日
航空気象委員会
3月13日
ATS 委員会
3月28日
夢は叶う Yes I Can (航空教室) 北九州
西日本支部総会
3月29日
航空管制官等の英語試験問題検討委員会
九州支部総会
3月31日
航空保安大学校卒業式
3月15日
学科試験問題検討会
航空振興財団理事会
−平成22年4月−
航空保安協会理事会
4月3日
航空安全講習会 (札幌)
3月16日
平成21年度第2回理事会・評議会
4月5日
法政大学準会員入会説明会
3月17日
滑走路誤進入防止対策推進チーム会議
FTD 教官ミーティング
(航空機運航支援センター)
4月6日
外部監査 (八重洲監査法人)
航空身体検査証明審査会
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4月10日
ATS 委員会
4月22日
第255回理事会
航空安全講習会 (東京)
航空医学問題懇談会
4月14日
航空保安無線システム協会
航空医学委員会
4月15日
ジェネラルアビエーション委員会
(第36回評議員会)
4月23日
内部監査
ビジネス航空委員会
編集委員会
4月24日
航空気象委員会
4月16日
航空安全委員会
4月25日
航空安全講習会 (埼玉)
4月17日
航空安全講習会 (大阪)
桜を見る会
4月20日
我が国の自発的安全報告制度のあり方に
関する調査研究委員会
外部監査 (八重洲監査法人)
RNAV/RNP に係わる連絡会 小型機 WG
4月21日
NPO 航空鉄道安全推進機構定例総会
4月27日
4月28日
ASI−NET 会議
経理委員会
編集委員会
[活動計画]
−平成22年5月−
5月8日
ATS 委員会
5月11日
航空身体検査証明審査会
5月14日
フライトテスト委員会
−平成22年6月−
5月15日
航空安全講習会 (宮城県)
6月1日
航空身体検査証明審査会
5月21日
運航技術委員会
6月11日
第258回理事会
5月22日
航空安全セミナー (GA)
6月12日
航空安全講習会 (愛知)
5月25日
航空保安大学校講義
(レーダー管制専門研修)
5月26日
航空振興財団理事会
5月27日
第45回通常総会・第256・257回理事会
5月29日
ATS 委員会
6月15日
航空機安全運航支援センター
平成22年度
6月18日
第1回理事会
GA 委員会主催 (施設見学)
JAL 啓発センター
航空保安協会理事会及び評議会
5月28日
航空安全講習会 (熊本)
管制施設
航空医学研究センター理事会
6月23日
航空交通管制協会理事会
航空保安施設信頼性センター理事会
6月24日
運航技術委員会
航空大学校卒業式
6月25日
編集委員会
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事務局だより
PILOT・AIM−J 等確実にお届けするために、 自宅・勤務地・mail box 等、 変更された場合は速やかに協
会事務局までご連絡下さい。 また郵便振替にて会費を納入いただいております会員の皆様には、 便利な口座
自動引落による納入についてご案内致しますので、 協会事務局までご連絡下さい。 申込書をお送りさせてい
ただきます。
∼ 結婚祝金を給付しております ∼
正会員の方 (60歳未満の方) が対象となりますが、 結婚祝金を給付しております。 (給付額は20,000円) 給付申請には戸籍抄本1通 (原本)、 振込口座の書類提出が必要となります。 なお、 婚姻届の届出より 3ヶ月以内に申請いただくこととなっておりますので、 予めご了承願います。 JAPA ホームページ (http://www.japa.or.jp) 会員限定ページより申請書をダウンロード出来ますので、 是非ご利用下さい。 JAPA ホームページ会員専用ページ開設しました
JAPA ホームページ (http://www.japa.or.jp) に会員専用ページを開設しました。
ログインしていただくには、
①
TOP ページ左上の【会員専用ページ】をクリック
②
ユーザー名欄に [ja 会員番号] (小文字 ja の後ろに続けて入力。 会員証の番号)
③
パスワード欄に [********] (本誌巻末の編集後記 下欄にある JAPAWEB**** の数
字部分を入力)
*パスワードは毎号変わります。 新しいパスワードは発行月 (奇数月) の翌月1日
(偶数月) より適用となります。 (例:3月号のパスワードは4月1日から適用)
現在 PILOT 誌記事等掲載していますが、 今後コンテンツの充実を図っていきます。
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2010 MAY
第回通常総会議案書
平成22年5月27日
社団法人
日本航空機操縦士協会
2010 MAY
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第1号議案
平成21年度事業報告について
平成21年度も、 引き続き空の安全に資するための事業を進めました。 諸活動を通じ、 広く 「航空」 の実情を
伝え、 航空文化の普及に努めました。 とりわけ、 三次元空間における危機管理は、 航空以外の分野で注目を受
け、 講演の機会も増えています。 啓発及び教育などにも力を入れ、 特に技能支援の拡充を図るために、 双発機
の訓練も可能とする機材 (FTD) を導入し体制を整えました。
また行政・企業・業界 (定期運送、 使用事業) と操縦士が、 委員会や懇談会などを通じた相互の理解を進め
てきました。 現在の重要な課題は、 やはり新公益法人制度への適切な対応といえます。 公益目的事業の促進と
収支相償となる事業展開が重要となります。
本協会は、 公益認定要件である 「不特定多数の人々に役立つ」 事業内容を分かり易く示して行かなければな
りません。 (説明責任)
この4年間は、 予算において事業の活性化を計る運営を行ってきましが、 新制度を考慮したためです。 従前
の公益法人が新たな法人に移行した場合、 その有する資産は公益目的事業以外に使えません。 結果として、 財
産構造資産の割合は適切な水準となりました。
公益法人の認定には、 公益事業比率が問題となります。 コスト割合の高い事業が、 公益要件を満たすことは
不可欠です。 一方、 一定の収入を確保できない事業については、 収支相償の原則により会費のみが財源となり
ます。 本協会の事業は持ち出しはあっても収入を期待できないのが現実です。 単年度の収支バランスを整える
ために、 事業内容と費用構造の最適化がこれまで以上に重要となります。
註;収支相償とは公益事業は赤字または収支均衡でなければならないこと。
操縦士の PR 活動
本協会の存在と活動を PR することは、 組織の活動拡充と会員確保に欠かせません。 諸活動を通じた宣伝
活動を進め、 特に協会紹介 DVD はイベント等の限られた時間の中で活用しました。 操縦士の団体というこ
とで、 各イベントの共催などの役割を果たしてきました。 また、 会員専用の HP を開設し、 会員への情報開
示に力を入れ、 機能の向上に組みました。 会員数は、 6,000名規模を維持しています。
航空関連情報・知識の提供と技能支援
航空に対する理解者の裾野を広げる目的で、 下記の事業を行いました。 パイロット誌・AIM−J の発行・
ホームページへの掲載及び講師派遣により、 専門知識と関連情報を提供し、 安全を支える航空文化の普及に
努めました。 課題は講師が不足していることで、 人材の育成と確保が必要です。
改善への貢献
行政の要請を受けて、 検討会・審査会・研究会・セミナー・ワーキンググループへ操縦士の立場で参加し、
運航担当者の受け止め方を伝えました。 また、 運航の実態を反映させる意味で、 国家試験問題に関わる検討
事業は他の団体と協力して活動しています。
課題を共有する関係者が適宜集まり、 意見交換の機会を提供しました。 懇談会や定例的な検討会は認識の
平準化に有効であり、 参加者の信頼関係が進みました。
技術支援
経験豊富な操縦士 F.T.D の教官として、 操縦体験・計器飛行方式等の教育と操縦訓練を担当しました。
技能資格のリフレッシュ及び技量確認により、 新たな雇用機会へのチャレンジにも貢献しています。
新機材の導入により教育内容の拡充が期待でき、 知識と技能の向上が飛行の安全を支える事業として前進
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2010 MAY
できました。 (US21D 型固定翼 F.T.D)
乗員養成の検討会
操縦士の風土作りの一環として、 乗員養成検討委員会を定例的に開催しました。 各養成機関の担当者と行
政の関係者が情報交換を行い、 各組織の実情、 特に米国に於ける訓練について課題が確認できました。
操縦士の基礎データ、 現在の操縦士数や訓練内容と組織などを纏め、 記録として残す作業は検討委員会が
進めています。 歴史の事実関係を整えることは、 「運航の信頼性」 に拘る組織風土づくりに役立つと受け止
めています。
適切な事業展開と運営
理事会の開催数を年6回から4回に減らし、 常務理事会が運営と業務の執行を補完しました。 新たに運営
連絡会を置き、 各支部長を交えた幅広い意見交換の場を持ちました。 委員会活動は、 例年規模を維持し各事
業のシンク・タンクとして機能しています。 事務局は日常活動についての連絡・確認の役割を果たし、 事業
活動を支えました。
人の和と連帯感の促進
年次の基幹事業として位置づけた、 ジェネラル・アビエイション部門のスカイレジャージャパン及び小型
航空機セーフティーセミナーは、 関係した団体の交流を深めると共に、 参加者及び運営担当者の連帯感を高
めたといえます。 定期航空の関係者が行う事業は、 従前の活動の中で懇親と連携を深めました。
スカイレジャージャパン (10.16∼18)
第7回小型航空機セイフティーセミナー (2.18∼19)
調布空港祭り (10.17)
ATS シンポジウム (10.24)
航空気象シンポジウム (11.20)
訓練監督者意見交換会 (3.18)
新公益法人制度への対応
これまで、 「協会制度検討会」 の発足と準備討論 (平成18年度)、 財務面の課題検討 (平成19年度)、 新定
款案に沿った財政構造、 公益事業比率、 経済的かつ合理的な運営の必要性 (平成20年度) を、 通常総会の年
度事業報告で示してきました。
平成25年末に法制度変更の移行措置の期限を控え、 第255回理事会で承認された定款変更案を作成し、 平
成22年度通常総会に提案する事といたしました。
その他
・平成22年3月末現在
会員数6,325名 (前年比+177名/H21年3月末会員数6,148名)
<内訳>
(単位:人)
正 会 員
定期、 事業用
賛助会員
個
準 会 員
人
3694
自
118
法
家
967
用
569
人
37
シ
ニ
ア
940
5203
155
967
・共済規程に基づく弔慰金・結婚祝金の支払
(2名)
2,000,000円
結婚祝金 (70名)
弔慰金
1,400,000円
2010 MAY
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・褒章・表彰関係受賞者一覧
春季黄綬褒章 (2009年5月18日) 5名 (当協会からの推薦者数5名)
中村
好喜 (エアーセントラル)、 森山
馬渕
務 (ジェイエア)、 森田
利隆 (全日本空輸)、 山村
明好 (全日本空輸)
寛 (ジャルエクスプレス)、
秋季黄綬褒章 (2009年11月10日) 3名 (当協会からの推薦者数3名)
石井
善克 (ジャルウェイズ)、 田中
樋口
文男 (全日本空輸)
耕治 (日本航空インターナショナル)、
国土交通大臣表彰 (2009年9月16日) 21名 (当協会からの推薦者数23名)
白濱
良一、 岩倉
具克、 若葉
亀田
昭一 (以上日本航空インターナショナル)
會澤
修、 永濱
原田
広幸、 清水
敏朗 (以上全日本空輸)、 岡田
藤田
俊嗣、 吉田
信宏 (以上エアーニッポン)、
山口
隼司 (アイベックスエアラインズ)、 信田
哲矢、 川口
忠良、 戸澤
純生、 白水
充、 南部
武史、 大門
利明、 大根田
勝彦、 増渕
秀朗、
博美、 山田
務 (日本トランスオーシャン航空)、
重夫 (朝日航洋)
東京航空局長表彰 (2009年10月1日)
下吉
隆、 川上
文隆 (以上朝日航洋)
大阪航空局長表彰 (2009年10月1日)
宮永
浩二 (日本エアーコミュータ)、 田上
山本
勝秀 (セントラルヘリコプターサービス)、 櫻井
賢 (琉球エアーコミュータ)、
昭 (四国航空)
日本航空協会賞表彰 (2009年9月16日)
航空亀齢賞
磯部
利彦、 田中
敏行
国際航空連盟 (FAI) 賞
ポール・ティサンディエ・ディプロマ
宮本
裕夫
操縦士協会表彰 (5名)
小山
80
敏勝、 村上
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耕一、 小賀野
耕正、 千葉
貴、
博茂、 山崎
博行
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83
84
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第2号議案
平成22年度事業計画について
はじめに
戦後最大と言われる不況は、 回復のテンポが鈍いものの最悪の時期は脱したと伝えられています。 航空需
要の低迷も昨年末から僅かながら持ち直し、 アジア地域、 ロー・コスト・キャリア部門が健闘しているとい
えます。 引き続き日本航空機操縦士協会は、 継続して航空の安全に資する役割を果たしていきます。 当面の
着目点は、 公益法人制度の変更・政権交代による行政機能の変化・大手航空企業の経営破綻・航空需要の激
減などが及ぼす影響です。 また政府の事業仕分けは公益事業の質とコストに厳しく迫り、 最近では公共サー
ビスを NPO 法人や市民活動に委ねる 「新しい公共」 といった構想が持ち上がっています。 公益法人に対し
ても厳しい視線が注がれています。 航空産業の構造が、 大きく変化する時代を迎えています。
本協会は、 引き続き航空の安全に資する事業を推進し、 航空関係者の知識と能力を育み、 大きな変化が顕
在化してきた状況の下、 事業の公益性を一段と高め、 移行認定 (公益認定) の手続きを進めます。 あわせて
財政の安定化を図り、 事業に要するコストの効率化を進めます。
本協会が行なっている事業は、 公共性を有していると判断できます。 操縦士としての経験と知識を活かし、
日本の空の安全と発展に資するために活動を続けています。 安全情報の提供、 制度の解説、 知識の普及は空
の安全に役立っています。 行政との関わりは、 安全講習会の開催や、 安全関連検討会への委員の派遣、 専門
書の監修依頼など多岐に亘っています。 今後も公益社団法人の役割を担う事と考えます。
事業を進める上で、 安定した財政は欠かせません。 協会の収入は会費と事業収入から成り立っています。
新制度は収支相償が原則となっているので、 公益目的事業は赤字か収支均衡を余儀なくされます。
本協会は、 シンポジウムや委員会活動のように収入の伴わない活動と講習会・書籍の発刊・販売などの収
入が発生する事業を運営しています。 施設費、 人件費、 諸経費などの管理コストと事業に要する全ての費用
を、 会費のみで賄うことは相当厳しいといえます。
財政を安定させる為には、 事業費に占める管理費の適度なバランスを保ち、 更に事業内容の是正が課題と
なります。 平成22年度の方針の中で、 事務局体制の効率化と各事業の費用構造を最適化していきます。 変化
の激しい環境を迎え、 会員数を維持し拡大していくことに努めていきます。
この様な環境を踏まえ、 私たちは航空機の運航と空中における豊富な経験と培った知見を活かし、 次の事
業を行ないます。
航空の安全文化の普及と啓発
航空に対する理解を広げる目的で、 各種行事を開催し、 参加者に直接働きかけていきます。 社会とりわけ
航空に関心を持つ方々に、 航空との出会いと触れ合いの場を提供し、 航空に対する興味と期待に応えていき
ます。 特に青少年へは、 社会教育の一部を補完する意味で、 航空という新たな世界を紹介し、 健全な成長を
応援します。 関連する団体と協力し、 各種イベント (行事) への参加者を募り、 航空の実情と課題を社会に
紹介し、 参画した団体及び担当者相互で関係組織との連帯感を密にし、 航空全体の 「安全に資する」 活力を
育んでいきます。
イ ベ ン ト:SLJ (Sky Leisure Japan)/小型航空機セーフティーセミナー
航空安全セミナー/青少年航空教室 (Yes I Can)
シンポジウム:ATS/乗員養成/航空気象
地 域 活 性 化:北海道/東日本/中部/西日本/九州/沖縄
安全対策 (制度と運用)
航空局、 関連団体に係わる委員会、 検討会などには引き続き担当者を派遣し、 経験に基づいた知識と培っ
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た知見を提供していきます。 安全対策、 運航方式、 国家試験問題 (英語能力、 学科試験) などを検討するに
当たり、 実際の運航に即した内容が反映されるように努力します。 航空関係者と情報交換を密に保ち、 適切
な情報の認識をもとに、 各種の対策に積極的に参加していきます。
航空安全講習会/航空英語能力試験問題/学科試験問題/AIM 関連事業/航空法英語版/
区分航空図/航空医学/航空気象/航空関連の会議への参加
情報伝達と提供
空の安全を担保するために、 航空に関する情報を広く多くの人々に伝えていきます。 会員への情報提供は、
パイロット誌・ホームページなどを活用します。 安全かつ経済性に富んだ健全な航空を標榜し、 情報伝達に
は会員が窓口となります。
ホーム・ページ/マスコミ・ミーティング/Pilot 誌/スタディーガイド/パイロットハンドブック/
Take Off/Pilot Guidance/ヘリコプター操縦教本/空中衝突/航空気象
技能習熟の支援
容易に技能育成の場が持てる環境を整えます。 新たな機材に更新し、 訓練スペースを新設しました。 経験
豊富な操縦士が操縦体験・計器飛行方式等の教育訓練を担当します。 F.T.D (飛行訓練装置) を使用し、 知
識と技能の向上を計るための教育訓練を提供し、 飛行の安全に貢献していきます。 技能のリフレッシュ及び
確認を訓練することにより資格の維持、 あるいは新たな雇用機会へのチャレンジを支援します。
知識 (機長養成講習会)
技術 (FTD 訓練)
情報収集及び調査研究
経験と実績の集大成を図り、 着実に 「運航の信頼性」 を向上させていくことこそ我々操縦士の使命です。
そのために操縦士の基礎データ (操縦士数・技能要件・訓練内容・組織など) を纏め、 記録として遺す作業
を進めます。 操縦士の世界を客観的な指標をもとに表現できること、 文字として遺していくことは、 操縦士
の風土作りに貢献します。 企業あるいは事業分野などの垣根がない、 私たちの協会の役割といえます。
国際機関を活用して世界的な情報を収集し、 また関係者が定例的に集う場 (懇談会や委員会など) を確保
し、 状況判断に役立てていきます。
事故調査:研修/ISASI
国
際:FAI (総会)/FAI 分科会/FSF 資料の入手と翻訳/航空医学海外調査
その他、 本協会の運営に必要な事項
長期的な目標を見失うことなく、 現実的な改善と地道な活動を進めます。 操縦士が持つ経験と培った知見
を活かすことに加え、 正確な判断材料を持つための調査活動に注力した運営を心掛けていきます。
理事会は運営全体の企画調整を行うと共に、 都度の事業を執行するに当たり、 状況に応じた裁量と機動力
を常務理事会が担い、 活動の最適化を図ります。
委員会は、 情報の整理と運航経験に裏打ちされた意見などを纏めて、 実態に見合った内容を事業に反映さ
せる役割を担います。 その為に多くの操縦士と航空関係者の参加を呼びかけていきます。
事務局は、 日常活動についての連絡・確認の役割を確実に果たし、 タイムリーかつ継続した活動となるよ
うに事業を支えていきます。
本協会の活動は、 関係者の弛まぬ努力と相互の信頼関係が原動力となります。 空域の安全確保、 運航環境
の整備・改善、 参加者の情報交換、 地域との交流などに力を注ぎ、 人の和を育み、 共に 「汗を流す」 なかで
信頼の輪を拡げていきます。 一歩一歩確実に活動を積み上げていくために、 毎年行う恒例行事の定着化を図
ります。
94
2010 MAY
平成22年度
予
自
至
算
案
平成22年4月1日
平成23年3月31日
. 収支予算書
2010 MAY
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96
2010 MAY
2010 MAY
97
第3号議案
役員の選任について
1. 役員の任期満了に伴い、 平成22年5月から平成24年5月までの期間における役員候補者が、 以下の通り選
出されました。
理事候補者
有野
達也 (定期航空)
同
池内
宏 (定期航空)
同
池田
晃二 (定期航空)
同
石井
清 (飛行機)
同
大内
同
大澤
一朗 (飛行機)
同
大関
春樹 (ヘリコプター)
同
大塚
敬久 (定期航空)
同
大畑
隆 (飛行機)
同
大村
大 (定期航空)
同
木村
貴文 (定期航空)
同
楠本
晋一 (ヘリコプター)
同
蔵岡
賢治 (定期航空)
同
小林
宏之 (定期航空)
同
早乙女一成 (飛行機)
同
酒井
同
佐藤
同
白石
豊樹 (定期航空)
同
菅原
弘行 (ヘリコプター)
同
管
同
鈴木
英明 (定期航空)
同
中野
計人 (定期航空)
同
中村
俊治 (定期航空)
同
根本
裕一 (定期航空)
同
野口
義博 (飛行機)
同
蓮
康夫 (定期航空)
同
馬場
良直 (飛行機)
同
平山
開偉 (飛行機)
同
薬師寺
進 (ヘリコプター)
同
吉田
徹 (飛行機)
監事候補者
志鳥
學修
同
増田
奉和
同
矢後
三雄
学 (定期航空)
文彦 (定期航空)
香 (ヘリコプター)
聖 (飛行機)
(以上
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2010 MAY
アイウエオ順)
第4号議案
公益社団法人認定取得に向けた定款変更について
平成21年度事業報告で承認された内容を受けて、 定款変更の決議を提案します。
大枠で現行を基本とし、 主な変更部分は、 名称 (公益社団法人)、 事業を公益目的に限定、 代表理事と業務
執行理事の新設、 支部体制の読み替え、 情報公開及び個人情報の保護条項の追加です。 新定款は、 総て停止条
件付の決議となりますので、 公益認定後に新定款が発効となります。 それまでは、 現在の定款承認が有効です。
また、 公益認定後の最初の代表理事と業務執行理事は現定款にはない新たな内容なので、 総会の決議を必要と
します。
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お買い求めは操縦士協会もしくは、 お近くの販売店をご利用ください。
直販の場合は代金先払いとなりますのでお近くの郵便局よりお振込みください。
(お振込前に必ず在庫確認をお願いいたします。)
振込口座:郵便局00180−9−88490 社団法人 日本航空機操縦士協会宛
お問い合わせ先:TEL 03−3501−0433
FAX 03−3501−0435
E-Mail:japa@japa.or.jp
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JAPA Aerial Photo Exhibition
風のある日のレンズ雲
富士山の風上側は快適に飛べます
富士山を背景に西へ向かう Super Wings の FA200
GA 委員
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2010 MAY
管
聖様の投稿写真です
あなたが写した
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表紙 に!
編集委員会では、 PILOT 誌の表紙を飾る皆様からの航空機の写真を
募集しています。
尚、 応募写真は編集委員会で審査の上、 掲載いたします。
下記応募要領をご了承の上、 ふるってご応募ください。
・写真はカラー・白黒・Digital Data を問いませんが、 投稿者が撮
影されたものに限ります。 撮影日時・場所・説明等の添書きも添
付してください。
尚、 Digital 写真の場合はできるだけ大きな画素数で撮影したも
のとして下さい。
・応募写真の取り扱いは日本航空機操縦士協会に属し、 お返しでき
ませんのでご了承ください。
・PILOT 誌の表紙に採用させて頂いた場合、 謝礼として2万円
(複数写真で表紙構成となった場合は分割)、 表紙に掲載とならな
かった場合でも優秀な写真は本誌に掲載し薄謝を進呈いたします。
・住所、 氏名、 年齢、 職業、 電話番号、 E-Mail Address 等を明記
してください。
※個人情報に関しては当協会で厳重な守秘扱いと致します。
送付・お問合せ先
社団法人 日本航空機操縦士協会
編集委員会
〒1050003 東京都港区西新橋1−18−14
TEL 03 (3501) 0433 FAX 03 (3501) 0435
E-mail:japa@japa.or.jp
JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION
2010 MAY 111
編集後記
●東京大学大学院で、 マイクロ波ロケットによ
る打ち上げの研究がおこなわれている。 費用
は従来の1/100で、 持続的推力の開発がカギ
という。 実現の予定は2030年と遠いが、 宇宙
旅行が日常になる日も夢ではない? (徳田)
●先日、 米軍横田基地での関東平野空中衝突防
止会議に出席して、 関東の有視界飛行におけ
る過密な状況を再認識してきました。 要はお
互いを良く理解し、 安全を確保しながら共存
を図る。 これに尽きるようです。
(奥貫)
●なにをいうかではなく、 なにをするかでその
人の値うちがきまる (不言実行) 近頃、 批判
ばかりが多すぎて実行が伴わない。 (RYU)
●暑くなったり寒くなったり、 強風が吹いたり
激しい気象の春でした。
(T. O)
●中国やマレーシアに後れ、 世界で24位の地位
に甘んじていた我が国のビジネス航空 (プラ
イベート・ジェット) の世界に光が射し始め
たようだ。 空港容量、 運用制限が首都圏空港
を中心に少し緩和されると。 国内の活性化が
進み、 海外の利用者の Japan Passing が無
くなってほしいものだ。
(カレン)
●山崎直子さんが無事任務を終え、 4月20日午
後8時8分 (日本時間)、 STS 131 Discovery
号で Kennedy Space Center に着陸しました。
STS の運用が今年で終わりとなるため、 今
後の有人宇宙活動は、 打ち上げ帰還ともに、
ロシアのソユーズを使うことになっています。
航空の安全のみならず宇宙飛行の安全も気に
なる時代となりました。
(KEN)
●アイスランドの火山噴火で、 ヨーロッパの空
今月の表紙は Boeing787 です。 片側2枚の大
きなコクピットの窓で見分けがつきます。 現在
急ピッチで飛行試験が進み、 国内での就航が待
たれています。 撮影は榊原寛様です。 (奥貫)
港が大混乱に陥っている。 火山噴火といえば、
桜島とか有珠山、 大島の三原山等の影響を受
けた事を思い出す。 WINDSHIELD が曇り
ガラスのようになった経験がある編集委員も
いる。
(T. A.)
●3期6年も勤めた編集長! 5月 JAPA 総
会を経て発足する新体制! 今後の良き発展
を祈るばかり!
(編集長 蔵岡)
No.320 2010年 5 月号/平成22年5月発行
発行
社団法人 日本航空機操縦士協会
(Japan Aircraft Pilot Association)
〒105-0003
ホームページ
FAX 03 3501 0435
E-Mail:japa@japa.or.jp
振替口座/00180 9 88490
112
落丁・乱丁本がありましたら
お取替えいたします
東京都港区西新橋1−18−14
TEL 03 3501 0433 (代)
2010 MAY
禁無断転載
URL http://www.japa.or.jp/
JAPAWEB20100501
編集人
蔵
岡
賢
治
発行人
白
石
豊
樹
定価
印
刷
800円 (税込)
株式会社プリカ