社員を海外へ出向等をさせるとき - 社会保険労務士法人横浜中央

平成 25 年 8 月号
VOL.99
社員を海外へ出向等をさせるとき
企業活動の国際化に伴って、社員を海外へ駐在させる場合がありますが、今回は在籍出向させ
る際の労災保険、社会保険、雇用保険などについてご紹介します。
【社会保険】
原則として就労地である外国(勤務先国)の社会保険制度への加入となりますが、国内企業か
ら在籍出向として雇用関係を継続し、出向元から給与の全部(一部)を支払い、健康保険・厚生
年金保険の被保険者資格を継続する場合があります。(将来の老齢年金が低額にならないように
等の配慮による。
)
この場合、日本国と勤務先国の保険料を二重に負担することになり、しかも、海外勤務期間は
通常数年程度と短期間のため、勤務先帰国において支払った保険料は結果的に掛け捨てになって
しまいます。
(保険料負担については、多くは日本の会社が全額負担しているようです。
)
※このような二重払い、勤務先国での保険料掛け捨ての問題については、日本では現在 14 か
国と社会保障協定を締結し、海外勤務が原則 5 年以内である場合は、相手国の保険加入が免除と
なっています。
(アメリカ・カナダ・ドイツ・フランスについては、出向直前 6 か月間に日本の
年金制度への加入をしていない場合は、適用が受けられるかは両国間の協議による等の、個別の
協定事項があります。
)
◇在籍出向者の配偶者・・・出向元から給与支払いのある国民年金第 2 号被保険者の被扶養配
偶者は、配偶者に同行して海外に居住した場合も、第 3 号被保険者の資格は継続します。
尚、国内の出向元企業から給与の全部(一部)が支給されなければ、出向元企業との雇用関係
が継続しているとは認められないため、被保険者資格は喪失します。
【雇用保険】
上記社会保険と同様に、国内企業から在籍出向として雇用関係が継続されている場合、引き続
き雇用保険被保険者となりますが、出向元から給与の一部が支払われる場合は、海外出向者が日
本へ帰国した後 1 年以内に退職して失業した場合に受ける失業給付の金額が低額となります。
(例外として、出向元から支払われていた給与が著しく低額とハローワークが認めた場合には、
海外出向前の給与を基に失業給付の金額を算定する場合はあります。
)
◇海外出向に帯同する配偶者・・・海外出向する社員の配偶者が、その海外勤務に同行する理
由で退職した場合は、配偶者自身が退職の翌日以後 30 日経過した日から 1 か月以内に、失業保
険受給期間の延長申請を行うことにより、配偶者自身の退職後 4 年以内に帰国すれば、失業給
付を受けられる場合があります。
【労災保険】
海外出向者に対しては、日本国内で行われる事業を対象とした労働者災害補償保険制度は適用
されないため、
「海外派遣者特別加入制度」に加入しなければ労災の適用はありません。
※海外派遣者の特別加入対象者は、以下の要件を満たす者です。
① 日本国内で行われる事業(有期事業を除く)から派遣されて、海外支店、工場、現場、
現地法人、海外の提携先企業等、海外で行われる事業に従事する労働者
② 日本国内で行われる事業(有期事業を除く)から派遣されて、海外にある一定数(注)
以下の労働者を常時使用する中小事業に従事する事業主およびその他労働者以外の者
③ 国際協力機構等開発途上国地域で行われている事業に従事する者
(注)中小事業と認められる規模は以下のとおり ※「出向先の事業」
金融業・保険業・不動産業・小売業 → 50 人
卸売・サービス業 → 100 人
上記以外の業種 → 300 人
海外派遣者特別加入制度の保険料率は、全業種一律の保険料率で、平成 25 年度現在の保険料
率は 4/1000 です。傷病の治療以外の保険給付(休業補償等)は、選択する「給付基礎日額」によ
ってその保険給付額が算出されますが、例えば月 30 万円の給与の海外出向者であれば給付基礎日
額は 10,000 円を選択するのが妥当と思われますが、この場合の年間の保険料は 14,600 円となり
ます。海外出向者が、前述の加入要件を満たす場合は、出向元については加入をお勧めします。
【健康診断】
海外出向させる社員の健康状態の適正な判断および派遣中の社員の健康管理のために、派遣前
健康診断の実施、また、帰国後には、その後の健康管理のために健康診断を実施することが定め
られています。
1. 派遣前の健康診断
労働者を海外に 6 か月以上派遣しようとするときは、あらかじめ、その労働者に対し、
定期健康診断の項目および次の項目のうち、医師が必要であると認める項目について、医
師による健康診断を行わなければなりません。
①腹部画像検査 ②血液中の尿酸の量の検査 ③B 型肝炎ウィルス抗体検査
④ABO 式および Rh 式の血液型検査
※上記項目について、6 か月間以内に健康診断(雇入時、定期健診等)で実施している
項目は省略できます。
2. 帰国後の健康診断
海外に 6 か月以上派遣した労働者を国内において一時的ではない業務に就かせるときは、
その労働者に対し、定期健康診断および次の項目のうち医師が必要であると認める項目に
ついて、医師による健康診断を行わなければなりません。
①腹部画像検査 ②血液中の尿酸の量の検査 ③B 型肝炎ウィルス抗体検査
④糞便塗抹検査
3. 派遣前または帰国後の健康診断の項目の省略
派遣前もしくは帰国後の健康診断の項目のうち、身長については 20 歳以上の者、喀痰
検査については胸部エックス線検査によって病変の発見されない者または胸部エックス
線検査によって結核発病の恐れがないと診断された者で、医師が必要でないと認めるとき
は、省略することができます。
(文責 Y.M)
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