バイウィークリー・マネタリー・アフェアーズ

2007 年 3 月 23 日 (第 143 号)
バイ ウ ィ ー ク リ ー ・ マネ タリ ー ・ ア フ ェ ア ー ズ
TFJ Bi-Weekly Monetary Affairs
「金融を科学する」 TFJ 編集ニューズレター
投資家から見る債券市場
国内企業ニュースダイジェスト
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隔週金曜日発行
編集
Tokyo Financial Journal
編集人 倉都康行
発行
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2-3
JGB 関連トピックス
4
社債・CDS 市場の動向
5
J-REIT 市場・株式市場
6
商品市況と新興国市場
7
国際金融 世界潮流
ヘッジファンド・トピックス
記者の眼
最近のクレジット市場周辺トピックス
8
9
10-11
田中 雅史 (フィスコ 記者)
特集:クレジットデリバティブズ
BBA のクレデリ・レポート抄訳
12-15
TFJ クレジット・リサーチ部
証券化ビジネス
マイクロ・クレジット #1
16-18
杜羅 三朗 (証券アナリスト)
金融史の光彩
低地地帯の金融史 #4
次号は 4 月 06 日号となります
1
19-21
平山 賢一 (アセット・アロケーター)
マーケットの視点
金融商品取引法と社債
22
八須 賀雄 (TFJ シニア・リサーチャー)
アナリストの座標軸
タウラの裏読み #3
23-24
田浦 哲哉 (フィスコ 資本市場アナリスト)
現代金融批評
ポスト新自由主義への道
25-26
倉都 康行 (RP テック 代表)
編集ノオト
(TFJ 編集人)
27
TFJ
市場情報
Bi-Weekly Monetary Affairs
投資家から見る債券市場
3/23/2007
(TFJ BMA 編集部)
◆ 格付けを取得しないこと(3月14日)
◆ ムーディーズの銀行格付け見直し(3月22日)
かつて格付けを取得しない発行体として、帝都
高速度交通営団があった。財務内容から見ても十
分に高い水準の格付取得が予想されたものの、な
かなか格付けを取得しようとせず、格付取得を投
資要件とする投資家が東京交通債券を購入しない
ために、スプレッドが厚めに付いていたのである。
後年になって格付けを取得し、普通に起債するよ
うになったが、それまでの間の機会損失は、決し
て小さくなかったのである。
ムーディーズは、2 月 21 日に発表した銀行への
複合デフォルト分析手法及び銀行財務格付けの修
正手法の適用について、急遽、3 月 9 日に予定され
た見直し分の発表(地域ごとに順次発表)を中止
し、3 月 16 日に適用計画の修正を公表した。当初
公表した新手法の採用に基づいて発表してきた北
米・北欧・ベネルクス・中欧諸国の銀行に対して
付与した新格付水準も見直すとのことである。
個別条件決定方式に移行した地方債においては、
徐々に格付けを取得している地方公共団体が増加
している。ところが、先般、川崎市長が格付けを
取得しないとの考えを記者会見で示している。格
付けを取得しない理由が、
「横浜市に比べて良いか
悪いかとの比較になる」からである。比較の対象
として意識しているのが隣接市というところが、
ミクロな世界しか意識していないということで、
首長としての力量の狭さを端的に表している。民
間企業の場合を考えて見たら、位置付けは良くわ
かるだろう。例えば、中部電力の社長が、関西電
力と比較されるのが好ましくないので、格付けを
取得しないと発言したらどうなるだろう。中部電
力債のスプレッドは、影響を受ける可能性がある。
これが公募債を初めて発行するような地方公共
団体であればやむを得ないかもしれないが、川崎
市は積極的に地方債の発行について取組んでおり、
昨年 5 月には起債運営アドバイザリー・コミッテ
ィと川崎市債投資家懇談会を設置している。前者
は学識経験者及び証券(アナリスト及び引受)、銀
行(公共法人及び市場営業等)などからなり、後
者は学識経験者及び生保・損保・運用会社・共済
組合等の投資家などからなっている。設置目的は、
“市債の商品性、流動性の維持・向上を図り、そ
の消化を一層確実かつ円滑なものとするとともに、
市場原理に即して中長期的に資金調達コストを抑
制していく観点から、継続的に市場のニーズ・動
向等に関し情報収集し、もって魅力的で信頼され
る市債発行に向けた自主的な取組の一層の充実強
化を図るため”となっている。両者における議論
の内容は、オブザーバー参加している財政部長止
まりであったのだろう。
市長は、格付けを取得した場合には、横浜市な
どと比べて「若干良いのではないか」と発言した
と言う。上位の格付けを取得できるのに、取得し
ないのは、民間企業なら経営者の怠慢である。実
際には、1 ノッチの差が存在するとも思えないが。
やはり市長は、格付けを理解していないとしか思
えない。むしろ横浜市長及びスタッフは、遥かに
良く格付けを理解しているように思えるのである。
Page
結局、市場参加者だけでなく、ムーディーズ自
身が、格付けの妥当性をユーザーの納得できるも
のにできなかったのである。理屈はどうであれ、
欧州のクレジット市場で表面化したような、アイ
スランドの A 水準銀行の格付けが、突然に Aaa 格
に引き上げられ、他の複合デフォルト分析手法未
適用の銀行に対する格付けと大きくバランスを失
するといったことは、容認されない。かつてのよ
うに、国ごとにクレジット市場が分断されていれ
ば可能だったかもしれないが、時差や各国固有の
要因こそ多少あれ、現在では大きな一つの世界的
な市場になっており、ましてや欧州内部での格付
けバランス・序列の変動は、様々な議論を呼び起
こしたのであった。
ムーディーズは、適用計画の修正に関して、①
システミック・サポートの影響を限定する、②ハ
イブリッド証券等の資本証券に関するノッチング
手法を見直す、③既発表のものについて 4 月 10 日
に修正後の再評価を発表する、④3 月 30 日までに
未発表の地域の銀行格付けに関する公表スケジュ
ールを発表する、としている。即ち、ムーディー
ズは、市場参加者から巻き起こった批判を受けて、
自らの評価を取り下げることとしたのである。
一度公表した格付けを 1 ヶ月以内に見直すのは、
極めて稀有の事態である。幸いなことに、日本の
銀行に対する修正手法の適用は、3 月 23 日に公表
予定であったことで、国内クレジット市場に大き
な混乱を招くことはなかった。それでも、サムラ
イ債の発行体や海外の銀行に対する与信を行って
いる投資家には、少なからず影響があったのであ
る。日本のメディアは、多少日経新聞が取上げた
程度であったが、もしムーディーズが当初計画の
まま突き進んでいたらと考えると、背筋が凍る。
ムーディーズは、複合デフォルト分析手法の採
用を通じて、政府関係機関や地方公共団体に対す
る格付けを大きく引き上げてきた。日本のソブリ
ン格付けより上位というレベル感は、どう考えて
も違和感は拭えない。今こそ、ついでに自らの非
を認めて、日本のソブリン格付けを改める絶好の
機会なのではないだろうか。
1
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TFJ
市場情報
Bi-Weekly Monetary Affairs
国内企業 ニュース・ダイジェスト
3/23/2007
(TFJ BMA 編集部)
◆ ダイエーが OMC 株売却へ
ダイエーが子会社の OMC カードの保有株式
約 52%のうち 30%程度を売却する方針を固
めた。売却額は 500 億円前後で有利子負債の
返済に充てる。ダイエーは 4 月にも入札で売
却先を決めるが、既にメガバンクや大手クレ
ジットカード会社などが買い手として浮上し
ている模様。一方、ダイエー再建に向けて筆
頭株主である丸紅とイオンが、出資比率 1%
程度の株式持ち合いで合意、協力関係を強化
することになった。
◆ 「すき家」が「かっぱ寿司」と提携
牛丼の「すき家」などを運営するゼンショ
ーが、回転すし「かっぱ寿司」のカッパ・ク
リエイトと資本業務提携する。ゼンショーが
カッパの約 100 億円の第三者割当増資を引き
受けると同時に同社創業者の持ち株を買い取
り、約 31%保有の筆頭株主となる。
◆ ジュピターTV が衛星放送会社買収
有料テレビ向け番組供給会社の最大手ジュ
ピターTV が松下や東芝などが出資するイーピ
ー放送を買収、同社が保有する東経 110 度 CS
放送のチャンネルを使って 4 月から通販番組
をハイビジョンで放送する。ジュピターは大
株主 2 社から 78%を取得した後、他の株主か
らも買取を行い 100%子会社化する方針と見
られる。
◆ キャノンが川崎に 300 億円で新設備
キヤノンは約 300 億円を投じて本年 7 月を
目処に川崎市に低コスト生産技術開発拠点を
新設することを決定、グループ各社の生産技
術部門を集約して自動化ラインの導入を加速
する。連結の売上原価率を現状より 5 ポイン
ト改善させる計画に向けた戦略を強化する。
◆ 東証が日興上場維持決定
東証は不正な利益水増しを行った日興コー
ディアルグループに関し、事前の上場廃止へ
の検討を一転させて株式上場を維持すると発
表、組織ぐるみとは断定できないとの認識と
ともに、市場や投資家に与えた影響は重大と
Page
まではいえないとの判断を示した。土壇場で
の上場維持決定は、大手証券を含む業界から
の強い懇願が影響したとの指摘も聞こえる。
これを受けて日興株も急伸、シティは TOB
価格を 1350 円から 1700 円に引上げることを
決定、当初シティとの共同戦略を検討してい
たみずほは、今回の TOB に応じて 4.8%の保
有株を全株売却する方針に転じた。
◆ 大丸と松坂屋が 9 月統合へ
経営統合交渉を進める大丸と松坂屋ホール
ディングスが本年 9 月に持ち株会社を設立す
る方向で基本合意に達した。両社は 5 月開催
の株主総会に統合案を提案する予定。事業会
社は「大丸」
「松坂屋」の屋号を残し、本社拠
点も両社の本拠でない東京銀座に置くことで
対等合併を内外に強調する。
◆ スティールがサッポロに抵抗
サッポロに買収提案を行っている投資ファ
ンドのスティール・パートナーズは、サッポ
ロが株主総会に提案する買収防衛策につき、
議決権を持つ約 35,000 人の株主に書類を発
送して否決委任状を集めると発表した。
◆ 日立が日本サーボを売却へ
日立製作所は東証 2 部上場の子会社で小型
モーター製造の日本サーボを日本電産に売却
する。日本電産が実施する TOB に日立が応じ
る形で持ち株比率を 51%から 5%に引き下げ
る見通しだ。日立は相乗効果の薄い子会社の
売却などの計画を打ち出しており今回の売却
はその第1弾となる。
◆ 三菱重工が米原発 2 基を受注
三菱重工業は米電力大手テキサス電力から
大型原子力発電所の建設を受注した。米政府
が 30 年ぶりに原発建設を再開する方針を決
めたことで売り込みを積極化、受注総額は
6000 億円程度で、日本企業単独では初の米国
受注となった。
2
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TFJ
Bi-Weekly Monetary Affairs
◆ 三洋電機が半導体撤退へ
三洋電機が半導体事業を売却する方針を固
めた。子会社「三洋半導体」を入札によって
売却し、充電池などコア事業への集中を図る。
既に国内外半導体メーカーや投資ファンドが
関心を示しており、今秋までには売却先を決
定する方針。譲渡価格は 1500-2000 億円との
観測だが足許を見られる可能性も。
また同社は、野中ともよ代表取締役会長が
辞任したと発表した。野中氏が臨時取締役会
で提案した第三者委員会立ち上げが金融 3 社
出身の経営陣に否決されたことが引き金とな
った。これで井植敏最高顧問の退任も避けら
れなくなったとの見方が浮上している。
◆ ビクター売却は TPG へ
松下電器産業は 52.4%を保有する日本ビク
ターの株式を米投資ファンドの TPG に全株売
却する方向で最終調整に入った。入札価格が
サーベラスより高く、また経営再建策などの
提案内容も優れていると判断、松下は TPG と
の交渉を優先して月内合意を目指す模様だ。
TPG は TOB にて他の株も購入してビクターを
非上場化し、5 年程度で再上場する計画とい
う見方も出ている。
◆ アルプス電気が HDD 事業譲渡
アルプス電気はハードディスク駆動装置
(HDD)用ヘッド事業の製造設備や特許を同事
業で世界シェア首位の TDK に資産譲渡する。
受注減少と HDD 単価下落で同事業の業績悪化
が見込まれており、社内技術を応用した新規
事業の立ち上げを急ぐ構えだ。
◆ 日立、富士通が巨額特損計上へ
日立製作所は 3 月期単体決算の業績予想を
下方修正、当期赤字の見通しを 550 億円から
2000 億円へ大幅拡大すると発表した。米国の
日立グローバルストレージテクノロジーズの
業績低迷で同社株の減損処理に踏み切る。評
価損は約 1800 億円でこれを特別損失計上す
るが、関係会社株売却などで一部を穴埋めし
連結の業績予想は据え置いた。
富士通は、3 月期単体決算での 550 億円の
当期黒字予想を一転して 2000 億円前後の赤
字見通しに修正する方針を固めた模様だ。英
国情報サービス子会社「富士通サービス」が
年金債務の負債計上で純資産が目減りし、穴
埋めするだけの業績は見込めないとの判断か
Page
3/23/2007
ら、監査法人からの強い要請もあり、約 2000
億円規模の減損処理を行う方針だ。
両社ともに、世界に通用する会計基準を用
いることで市場の信認を得るとの判断が働い
たとも見られている。
◆ 三菱重工が排出権担保で調達へ
三菱重工業は、温暖化ガス削減で得る排出
権の売却と売電収入を担保に、国際協力銀行
とみずほ CB がアレンジする協調融資で資金
調達する。融資対象はブルガリアで計画中の
風力発電事業で、黒海沿岸に風車を 35 基設置
しブルガリア国営電力会社に売電するプロジ
ェクト。その受取資金と排出権を担保とする
もので、特に後者は世界初の案件として注目
されている。
◆ 北陸電力が社債発行中止
北陸電力は、志賀原子力発電所での臨界事
故隠し発覚事件で、主幹事野村証券から再審
査の必要性を通知され、
「投資家保護および市
場の混乱を回避」するために、3 月 23 日に発
行予定だった社債 100 億円分の募集を中止し
た。
◆ 阪急・阪神が旅行事業統合へ
阪急阪神 HD は傘下の阪神電気鉄道の旅行
事業を分社化し、阪急交通社と来年度中にも
経営統合する。統合後の旅行取扱額は 4000 億
円台乗せとなり。業界 3 位の日本旅行に迫る
規模となる。
また懸案であった阪急百貨店と阪神百貨店
の統合は、10 月に持ち株会社と子会社化との
折衷案で経営統合することで合意した。阪急
阪神 HD が百貨店持ち株会社に 20%程度出資
し持ち分法適用関連会社とする。
◆ ファンドが配当増額要求へ
アクティビストで知られる英系ヘッジファ
ンドの TCI は、J パワーと中部電力に対して
それぞれ配当増額要求を行った。Jパワーに
対しては年間配当を前期の 60 円から 130 円に
引き上げるよう要求、同社側は「株主還元方
針と異なる」として拒否する姿勢を示してい
るが、TCI は続いて中部電力にも前期比で 30
円の増配を要求したことが判明、同社は自己
株式取得など別の方法での株主還元を検討す
る見通しだ。
3
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とするものではありません。ディスクレーマーの詳細はレポート巻末をご覧下さい。
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市場情報
Bi-Weekly Monetary Affairs
JGB 関連トピックス
(フィスコ
3/23/2007
久保田博幸)
◆ 岩田副総裁の会見より
◆ 電子マネーは金融を変えるか
やや古い話だが、日銀のホームページにアップ
された 3 月 7 日の岩田日銀副総裁による会見の要
旨についてみてみたい。
3 月 18 日から関東の私鉄や地下鉄で利用できる
磁気型乗車券「パスネット」の非接触 IC カード版
である「PASMO」の利用が開始された。JR の SUICA
との相互乗り入れも同時に開始され、これにより
首都圏のほとんどの鉄道やバスで利用することが
できる。切符代わりといった利便性だけではなく、
PASMO などの非接触 IC カードにはまた違った使い
方も可能となる。例えば交通費の支給ではなく会
社で用意した PASMO を利用しようとしている企業
もあるとか。ちなみにインターネット上で利用履
歴も確認できる。ある小学校では児童に一枚ずつ
このカードを持たせることによって、子供が学校
に着いたかどう確認できるシステムもできている
そうだ。
「短期的な物価の変動と、少し長い目でみた物
価の安定は同じことではありません。私どもとし
ては、中長期的な物価安定の理解で考えていると
ころに長い目でみた物価上昇率が上手く収まって
いくかということが基本的に重要な点でないかと
考えています。」
2 月金融政策決定会合において岩田副総裁は一
人利上げに反対、その理由については福井総裁が
会合後の会見において「岩田副総裁の主張は、物
価の先行き見通しの不確実性というところに他の
委員と比べるとより強い力点を置いておられた」
と述べていた。上記の岩田副総裁の発言からは、
福井総裁などの考え方とはそれほど大きくは乖離
していなかったことが伺われる。ちなみに、私で
はなく「私ども」ともなっている。
「賃金あるいは個人消費の弱めの動きは、現在、
必ずしも払拭されていない、物価上昇率の先行き
に不透明性が強いということが、私が反対した半
分の理由です。」「もう半分の理由は、中長期の意
味での物価安定が重要だということを考える場合、
展望レポートなどで丁寧に説明してからでも遅く
はないのではないかという点から反対票を投じま
した。」
物価上昇率の先行きに不透明性が強いことは確
かであり、もう少し様子を見る必要があるという
指摘も理解できる。しかし、福井総裁が会見で示
していたように「より長い目で消費者物価の動き
をみると、設備や労働といった資源の稼働状況は
高まっており、今後も景気拡大が続くと考えられ
ることから、基調として上昇していくと考えられ
ます。」との見方からの追加利上げについても共感
しうるところでもある。今後はこういった反対意
見があることによって、見方の違いからの意見交
換を通じて、より金融政策の決定過程の透明度が
増してくるとも考えられ、今回の副総裁の反対と
いうのはそういった意味では、結果としては良か
ったのではないかとも思う。
岩田副総裁は 2005 年 8 月のイングランド銀行理
事会でキング総裁が少数意見になってしまったに
もかかわらず決定事項に向けて全力を挙げて執行
した例を挙げている。こうした「意思表明」が日
銀への信認を高めるものとなるのではなかろうか。
Page
しかし、金融関係者にとって注目すべきは電子
マネーとしての存在であろう。PASMO は財布代わり
ともなる。利用できるコンビニなどを使えば小銭
を持ち歩く必要がない。SUICA を利用できる施設で
も PASMO は利用可能となり、使える範囲は拡大す
る。今後コンビニや飲食店、自動販売機といった
ものでも PASMO が使えるようになれば、それこそ
定期入れ一枚でとりあえず一日を済ませることも
可能になろう。
大きな買い物はクレジットカードで済ませ、細
かい買い物は PASMO などの非接触 IC カード、もし
くは携帯電話での同様の機能を使ってすませる。
さらに PASMO もクレジットカードを組み合わせる
ことで入金も容易になる。こういった使い方が多
くなれば、現金を持ち歩くことが多いといわれる
日本人の生活習慣も変わってくるかもしれない。
電子マネーとは、現金の代わりにコンピュータ
ーネットワーク上や IC カードを利用して決済す
る仕組みである。デジタル技術の発達に伴い、従
来では考えられなかったような取引がいろいろと
行われるようになったが、PASMO の登場はあらたな
変化を加速させる可能性がある。
こういった電子マネーを通じたサービスが、
金融の流れにどのような変化をもたらしていくの
かは、まだ普及が本格化したばかりであり研究も
これからであろう。いまのところ現金通貨に及ぼ
す影響は限られている。しかし、今後さらにこう
いった電子取引が拡大することが考えられ、これ
までになかったような手法が突然現れてくる可能
性もある。現金通貨そのものへの影響を含めて、
この電子マネーの今後の動向についても注意深く
見て行く必要がありそうだ。
4
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市場情報
Bi-Weekly Monetary Affairs
社債・CDS市場の動向
(TFJ
3/23/2007
BMA 編集部)
◆ CDS 市場スプレッド
◆ クレジット市場
セカンダリーでは小口売りが散見されてい
る。政地債や機関債などのハイグレード債や
地銀劣後債、事業債など幅広に売られた模様
で、特に消費者金融およびノンバンク銘柄な
どの売り物が並び、米系金融機関のサムライ
債のワイド化基調も続いている。
セクター
銀
行
証
券
店頭では業績下方修正報道で富士通の売り
物が出て 23 回債で T+20bp 台前半を観測、CDS
も 17bp へ拡大。ソフトバンクの 22 回債は
L+160-170bp 程度で取引された模様だ。業者
間では日興 CoG の 4 回債で L+35/40bp のレベ
ルが見えたが、上場維持決定の報道で CDS は
35/43 から 15/30bp レベルに一気に低下して
いる。またプロミスの 34 回債が L+28bp オフ
ァー、ポケットカードの 12 回債が L+105bp オ
ファー、ジャックスの 3 回債が L+55bp オファ
ーなども見えた。
ノ
ン
バ
ン
ク
電
機
航
空
米国サブプライム問題の余波で金融系サム
ライ債にも関心が高まり、ベアー・スターン
ズの 5 回債が L+21/35bp、リーマンの 5 回債
L+20/32bp 、 シ テ ィ の 9 回 債 が L+7/9bp 、
HSBCF12 回債が L+34/50bp といった気配を見
せている。
商
社
CDS 市場は銀行モノドル建て劣後に動意。
一時はプロテクション売りが優勢となってタ
イトニングが進行し、みずほが 11bp、SMBC が
10bp、りそな 16bp、農林中金が 13bp などの
取引が観測されたが、その後みずほは 13bp に
まで拡大している。
電
鉄
事業会社では株価大幅続落によって、プロ
テクション買いのフローが強まった。丸紅
43bp、伊藤忠 40bp など商社セクターや東芝
26bp、パイオニア 36bp、富士通 17.5bp など
電気銘柄も若干ながら拡大傾向となっている。
一方、野中会長辞任の報道で三洋の気配は
100/140bp へと気配ベースで縮小気味。
建
設
製
鉄
そ
の
他
日本企業のCDSマーケット (5年)
銘柄
格付け 2007/03/20
東京三菱
A
5/7
三井住友
A
5/7
みずほ
A
5/7
野村
A
12.5/14.5
大和
BBB+
13.5/15.5
日興
BBB
22/24
アイフル
BBB+
54/56
アコム
BBB+
27/29
オリックス
A22.5/24.5
プロミス
BBB+
26.5/28.5
武富士
BBB
38/40
ソニー
A12.5/14.5
日立
A14.5/16.5
NEC
BBB
23/25
東芝
BBB
25.5/27.5
パイオニア
BBB33.5/35.5
富士通
BBB+
15.5/17.5
三洋電機
BB120/140
日本航空
B+
205/225
全日空
BB
39.5/41.5
三菱商事
A
9/11
三井物産
A
13/15
住友商事
A
16.5/18.5
伊藤忠商事
BBB
37.5/39.5
丸紅
BBB42/44
東急
BBB13/15
東武
BB+
24.5/26.5
近鉄
BB+
27/29
阪急阪神
BB
24.5/26.5
新日鉄
BBB
11/13
JFEスティール
BBB
12/14
神戸製鋼
BBB12.5/14.5
住友金属
BBB12.5/14.5
鹿島建設
BB+
15/17
大成建設
BB+
19.5/21.5
大林組
BBB11.5/13.5
イオン
A13/15
住友不動産
BB
39.5/41.5
ソフトバンク
BB255/275
2007/03/14 2007/03/07
4.5/6.5
4.5/6.5
5/7
5/7
5/7
5/7
12/14
12/14
13.5/15.5
14/16
24.5/26.5
35.5/37.5
55/57
52/54
28/30
27.5/29.5
22.5/24.5
22.5/24.5
27/29
26.5/28.5
38.5/40.5
38.5/40.5
12.5/14.5
12.5/14.5
13.5/15.5
13.5/15.5
23/25
21.5/23.5
25.5/27.5
25.5/27.5
33.5/35.5
32.5/34.5
14/16
13.5/15.5
135/155
130/150
200/220
200/220
40/42
40/42
9/11
9/11
13/15
13/15
16.5/18.5
16.5/18.5
39/41
37/39
42/44
41.5/43.5
13/15
13/15
24.5/26.5
24.5/26.5
26.5/28.5
26.5/28.5
24/26
24.5/26.5
11/13
11/13
11.5/13.5
11.5/13.5
12.5/14.5
12.5/14.5
13/15
12.5/14.5
15/17
15/17
19/21
19/21
11.5/13.5
11.5/13.5
12.5/14.5
12/14
37.5/39.5
37/39
250/270
255/275
(格付けはS&P)
消費者金融もワイドニングしたが一巡後は
やや縮小してアコム 28bp、プロミス 25bp、武
富士が 38bp、アイフルは 55bp などの取引が
観測されている。
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市場情報
Bi-Weekly Monetary Affairs
J-REIT 市場・株式市場
3/23/2007
(TFJ BMA 編集部)
◆ 公示価格発表前の J-REIT
◆ 日経平均はダブルボトム形成か
先般ジャパンリアルエステート投資法人(JRE)
がスポンサー企業の三菱地所との間で丸の内・大
手町地区の保有ビルを交換したと発表した。三菱
地所は 2003 年 3 月完成した三菱 UFJ 信託銀行本店
ビルの持分の 22.6%を JRE に 447 億円で売却、一
方 JRE は大手町地区の三菱総研ビルを 419 億円で
地所に売却した。三菱 UFJ 信託銀行本店ビルは今
春完成予定の新丸ビルの隣にあり、さらに続く丸
ビル等の「三菱村」の一角を占める最新鋭の地上
30 階建のオフィスビルである。これに対し、三菱
総研ビルは築 37 年の地上 15 階建と小規模かつ古
いビルで、大手町地区では競争力の低下が懸念さ
れていた。このビル交換は、JRE にとっては保有物
件の競争力の向上につながり、三菱地所にとって
は大手町地区の再開発事業の足がかりとなろう。
上海市場急落を契機とする世界同時株安によっ
て 3 月 5 日には 16,500 円台へと約 10%の急落地合
を見せた日経平均は、3 月 12 日には 17,300 円台ま
でほぼ半値戻しの後、米国 Sub Prime Lending 問
題の深刻化で再び軟調展開となったが、海外市況
の回復で二番底を確認しつつある。
業界トップの日本ビルファンド投資法人(NBF)
とそのスポンサー企業である三井不動産は、2006
年 2 月に大手町の「JFE ビルディング」と「虎ノ門
琴平タワー」他 4 物件との交換を行っている。こ
のとき NBF はセカンドオピニオンまで取って、こ
のビル交換の適合性を投資家に公開した。旗艦物
件でポートフォリオの 11%強を占める「JFE ビル
ディング」の建替えを懸念していた投資家にとっ
ては運用の妙手として高く評価された。今回のビ
ル交換は NBF・三井不動産のそれに比べれば、規模
でははるかに及ばないものの、丸の内地区という
日本のトップオフィスビルの一角を保有する意義
は大きいものと思われる。市場もそれを評価し発
表翌日の JFE は大幅高となった。
日本を代表する三井不動産と三菱地所というス
ポンサー企業を持つ REIT 二社に比べると、他投資
法人の劣勢は否めない。優勝劣敗という時代の流
れは REIT にも押し寄せようとしている。こうした
なかで出遅れの REIT に集中投資して一躍注目を集
めたプロスペクト・アセット・マネジメント社は 2
月末時点での大量保有報告で新たに行政処分を受
け投資口価格が大幅に下落した「DA オフィス投資
法人」を 5.19%保有したことを明らかにしている。
こうした大口投資家の売買によっては、時価総額
の小さな REIT は価格変動も大きくなり、個人投資
家の参入がますます遠のく可能性もある。
一方、公示価格発表前の地価見通しは東京都心
部で強気一辺倒だ。バブル期と違いここ 3-4 年再
開発事業が持続するので地価上昇も続くとの見方
も多いが、2 月末の東京中心部 5 区の大型ビル空室
率はやや上昇気味だ。今度の公示価格発表は年初
来のフィーバーを抑制する可能性もあろう。
(証券アナリスト:薬王寺剛士)
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3 月上旬には市場にも「適度な調整」との見方が
強まるなど建設的な解釈も多く、市場は早期に底
打ちするとの観測も高まっていた。また懸念され
た円キャリーの巻き戻しもドル円で 115 円台、ユ
ーロ円でも 152 円台までに止まり、一服感が見え
たことで安心感も広まりつつあった。だが、米国
住宅問題に対して FRB のバイズ理事やグリーンス
パン前議長らがこの問題を過小評価すべきではな
いといった見方を示して一転して市場に不安感が
急速に台頭、米国経済の後退に繋がりかねないと
の懸念を引き起こし、日経平均は昨年 11 月の
15,600 円台を意識するのではといった警戒感も出
始めていた。
日本の経済基調には変化はなくファンダメンタ
ルズは好調だが、3 月中旬からの軟調局面では不動
産、鉄鋼の株価の下げが大きく、指数的にはソフ
トバンクやファナック、ホンダ、東エレク、アド
バンテスト、キヤノンなど値がさハイテクや国際
優良株といったインパクトの大きい銘柄の下げが
影響した。東証 1 部の出来高も連日 20 億株台と低
水準に止まるなど、真空地帯を大きく上下してい
る状況で資金の逃げ足も速いとの指摘がなされる
など、不安定感が台頭していた。
だが、為替市場での円高一服や、利上げにも関
わらず堅調な中国株式市場、そして欧州系と思し
き日本株買いなど、幾つか底打ちの手掛かりも見
え始め、これが東京市場を下支えすることになっ
た。上海市場が高値を更新するなど急速に切り返
したことや、日経平均が 17,000 円台をクリアした
ことで、市場には慎重ながらも明るさが戻りつつ
あるようだ。
特に、不安視されていた米国において、今週の
FOMC 後の声明で利上げへの文言が削除されたこと
で利下げへの思惑が台頭、米国株が持ち直しの気
配を示したことで、強気モードが回復する可能性
もある。日本の実体経済が悪くないだけに、再び
上昇気流に乗るのでは、といった楽観論も生まれ
始めている。
(TFJ BMA 編集部)
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市場情報
Bi-Weekly Monetary Affairs
商品市況と新興国市場
3/23/2007
(TFJ BMA 編集部)
◆ イラン国内の「石油危機」
◆ 中国が外貨準備運用機関設立へ
国連安保理の要求を無視し欧米を挑発しながら
核開発を進めるイランに対し、国際原子力機関
(IAEA) は同国への技術支援 55 件のうち 22 件を凍
結することを決定、イランにとっては金融制裁に
次いで大きな打撃となる。イラン政府は、独自技
術で原発建設を開始したと述べるなど強硬な姿勢
を崩さないが、一方でガソリンの値上げと配給制
度の導入を決定、国内でのエネルギー不安やイン
フレ懸念は確実に増大しているようだ。
溢れんばかりに積みあがる中国の外貨準備は、
あっさりと外準大国の日本を抜き去り昨年末には
1 兆ドルの大台を超えて、更に増加基調が続いてい
る。一時のような投機筋のドル売り・人民元買い
はやや影を潜めたようだが、拡大する貿易黒字に
よって外貨準備は月間 200 億ドル程度のペースで
純増している。その利用を効率化するにあたって
ここ数年間政府内でも議論があったが、今般の全
人代で運用専門機関の設立という戦略を採用する
こととなった。
サウジに次いで世界で第二位の石油埋蔵量を抱
えるイランで、ガソリンを配給制度に切り替える
というのも皮肉なものである。同国石油産業の衰
退がその理由であるが、その背景にはインフラ投
資不足による油田の老朽化や国内での無節操な消
費を呼ぶ補助金制度などが挙げられる、と米外交
評議会 (CFR) は Foreign Affairs 誌で述べている。
また年間 50 万人増という人口急増ペースもその問
題に深く関与している。
現在、同国の歳入の約 8 割を石油・天然ガス輸
出が占めているが、生産量は年々低下を辿ってお
り OPEC の生産枠にも達していない。
同国石油相も、
今後の投資増が無い限り生産は毎年 13%程度減少
すると危機感を強めている。既に、石油輸出減に
よる歳入減の埋め合わせに外貨準備を取り崩して
いるとの観測もあり、2015 年にはイランからの石
油輸出が事実上停止される可能性があると指摘す
る声もある。
イランのガソリン値上げや配給制度導入はこう
した危機感の表れでもあるが、欧米と対立姿勢を
鮮明にする限り投融資は中国やロシアに依存せざ
るを得ないのが現状だ。原油価格が低下するシナ
リオの下では更に経済状態の悪化が見込まれ、政
治的な問題に発展しかねないと CFR は指摘してい
る。安保理の制裁強化案には依然として中露が慎
重な姿勢を崩していないが、少なくともイラン経
済にとって順風が吹くような事態にはない。
こうして石油産業の梃入れがままならぬ状態に
追い込まれ、イランは益々核開発に専念すること
になる。即ち、原子力発電の実現で国内消費を賄
い余剰石油を輸出するというのがイランの基本構
想なのかもしれないが、そこに核兵器開発という
一石二鳥を目論んでいることは事実であろう。米
国は軍事オプションを捨てていない。だが同国経
済の不振を分析しその石油危機を逆手に取ること
で、他のオプション効果が高まる可能性はありそ
うだ。
Page
中国も外貨準備の運用先は公表していないが、
恐らく 8 割近くが米ドルでその殆どが米国短期財
務証券に投資されていると推測される。膨張する
外準残高に対し、もっと利回りを追求すべきだと
の声や、社会保障など国内支出に振り向けるべき
だといった意見が乱舞する中で、中国政府はシン
ガポールの政府系投資会社の Temasek をモデルと
した運用専門機関を設立してその効率性を追及す
ることに決めたようだ。
FT 紙に拠れば、同機関は中央銀行や財務省では
なく内閣に当たる国務院(State Council)の管轄
下に置かれる模様だ。その運用金額は約 3,000 億
ドル程度と推察される。構想を発表した金人慶
(Jin Renqing) 財政相は、基本構想として慎重に
運用する従来的発想の外貨準備と、積極的な運用
に振り向ける利回り重視の外貨準備とに二分し、
後者を新組織が担当することになると説明してい
る。
中 国 で は 現 在 、 中 銀 下 に あ る SAFE (State
Administration of Foreign Exchange) が外貨準
備運用を管理しており、外資系金融機関に運用委
託している。従って、金財務相が述べる従来型の
運用はそのまま SAFE に引き継がれ、新たな運用が
新機関を通じて行われるという二重構造になるも
のと思われる。その過程では、3,000 億ドルが国家
戦略の中で純粋な金融取引以外の価値判断で利用
されることも有り得るだろう。
中国がモデルとするシンガポールの Temasek は、
政府系機関と言いながらも中国建設銀行に出資す
るなど「ファンド」的な色彩の強い運用を行って
いる。その利回り追求姿勢を模倣するのが狙いだ
が、FT 紙は Temasek の運用資金は政府の財政黒字
であり中国の場合とは原資の性格が異なるものだ
と指摘する。これは重要な差異である。外貨準備
は結局中銀のバランスシートの一部でしかないが、
それが中銀の意図を離れて利用される時に一体何
が起きるのだろうか。
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市場情報
国際金融
Bi-Weekly Monetary Affairs
世界潮流
3/23/2007
(TFJ BMA 編集部)
◆ イスラム金融と LBO の対話
◆ ファンド巨額利益に税率変更の動き
Hedge Fund や PE Fund などの料率の高さに投資
家から徐々に批判が強まる中で、Fund 業界にもう
一つ頭痛の種が加わった。従来成功報酬として
20%の料率で計上してきた利益に対し、業界はそ
れを Capital Gain と認識する税務会計を採用して
きたが、米議会においてこれは不当な申告である
との指摘がなされ、通常の営業利益としての税制
を適用すべきだとの声も上がり始めているという。
米国においては、通常の営業利益に対する課税
は 35%であるが、有価証券など売買益への課税は
15%と優遇されている。Fund は成功報酬に当たる
部分は Capital Gain として計上し低料率での税金
を納めてきた。NY Times 紙に拠れば、共和党の有
力議員で上院財政委員会の委員でもある Charles
Grassley 議員はこの解釈はおかしいと噛み付き、
巨額の利益を計上する PE Fund への税制を再検討
すべきだと主張している。
PE Fund による企業買収の大型化の背景として、
豊富な資本蓄積や過剰流動性の存在が指摘されて
久しい。その原資に為替市場での円 Carry 取引ま
で動員されて説明されることも増えたが、LBO など
のファイナンスを支える資金の最終的な担い手は、
基本的に機関投資家であり銀行である。だが、今
後はそこにイスラム金融が参加してくる余地は充
分にある。英国市場では近々第 1 号案件が成立し
そうだと伝えられている。
先週 Ford は、傘下に置く英国高級車 Aston
Martin の株式の大半を売却すると発表した。譲渡
先は、来年から F1 に参戦する英国“Pro-Drive”
運営者の Dave Richards 氏が率いる投資家グルー
プである。Aston Martin といえば言わずと知れた
James Bond の愛用車であるが、1987 年に Ford に
買収された後、20 年経過して再び英国に戻ってき
た。だがその受け皿グループには、米国の銀行家
などと並んで中東の投資家も含まれている。
「出る杭は打たれる」の諺通り、最近の PE Fund
による超大型買収案件は企業経営者だけでなく労
働組合や政治家の神経をも揺さぶっている。欧州
では、英国最大労組が PE Fund の活動に政府がも
っと監視の目を光らせるべきだと不満をこぼし、
デンマークでは PE Fund への課税強化策が国会に
提出された。オーストリアでも財務相が Fund への
課税見直しを示唆している。Fund にとって最大の
悩みは、今やリターンではなくこうした反 Fund 機
運の高まりである。
今回の売却額は 479 百万ポンドと約 1,000 億円
の規模となる。FT 紙に拠れば、このうち約半分の
225 百万ポンドの資金調達を West LB がアレンジし
ている模様だが、その形式は通常のシ・ローンに
加えてイスラム系投資家の参加を意識した Sukuk
発行を併用することになりそうだ。その背景には、
今回の Martin 買収に Investment Dar と Adeem
Investment Company という二つのクウェートの投
資家が参加していることが挙げられる。
だが欧州における PE Fund による大型買収案件
は、BAA や VNU の案件に見られるように増加中であ
るとはいえその収益性は 10-15%程度であり、コン
スタントに 20%以上を稼ぐ米国案件に比べればま
だ大人しいとの見方もあるようだ。逆に言えば、
米国での PE Fund への逆風はまだまだ強まる可能
性がある。Chrysler の売却先が GM ではなく Fund
にといった結末になれば、課税強化論はさらに加
速するだろうと NY Times 紙は報じている。
双方の投資グループは厳格な Sharia 法での投資
が要請されている為、従来のローンでは投資が出
来ない。更に、高級車に目がない中東の投資家か
らの投資が増える可能性も高いと見られ、West LB
はこうした投資ニーズを惹き付ける為にも今回の
ファイナンスを、イスラム金融という性格を前面
に押し出したプレゼンを行うことも検討中のよう
だ。LBO の世界とイスラム金融との接点は、今後
益々拡大するだろう。
Fund が課す 20%の成功報酬に対しては、批判が
ある反面で CALPERS にようにそれを正当化しうる
利回りがある限り文句を言わないという投資家も
いる。だが仮に税制が修正されれば、Fund Managers
の実質報酬は桁が一つ下がるほどのインパクトも
予想されるが、それを投資家に付け替えれば Fund
のクビを占めることにもなる。税務当局は既に修
正へ動き出しているとの説もあり、PE Fund の巨大
化に対する大きな変局点になる可能性もあろう。
(世界潮流アップデート第 184 号抜粋)
英国市場はイスラム金融の取り込みに熱心であ
り、West LB だけでなく Barclays や Deutsche Bank、
そして Citigroup などが積極的な商品開発を進め
ている。現代金融は Fund の時代と言われるが、結
局 LBO など買収案件を支えているのはその資金の
安定供給に他ならない。幻想のイメージの強い過
剰流動性に比べれば、イスラム金融には石油に裏
付けられた実体性が伴う。イスラム金融の存在感
の高まりが、現代経済の救世主となる日が来るの
だろうか。
(世界潮流アップデート第 185 号抜粋)
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市場情報
Bi-Weekly Monetary Affairs
ヘッジファンド・トピックス
★ 2 月の Hedge Fund のリターンは、Trend Follow
型を除けば月末の株価急落の影響は微少だった模
様だ。HFR に拠れば、Dow Jones 指数が 3%下落し
たのに対して HF は速報ベースで 0.65%のプラスを
記録、1-2 月通算でも前者が 1%以上の損失に対し
て HF は 1.81%のリターンを上げている。中でも、
M&A 型が 2 月に 4.6%プラスと好調を継続している。
★ Sub-Prime Mortgage 市場の動揺で、Hedge Fund
にも明暗が分かれているようだ。同市場の成長に
賭 け た Greenlight Capital は New Century
Financial の経営不安により保有する同社株で損
失を被ったが、Paulson & Company は反対のポジシ
ョンで利益を上げたと NY Times 紙が報じている。
また Scion Value Fund のように Sub-Prime 市場の
行き過ぎを読んで CDS 市場を使って利益を上げた
Fund もあるという。
★ Observer 紙に拠れば、
英 FSA は近日中に Hedge
Fund の個人投資家への販売を事実上認可する提案
を公表するという。米国では SEC が個人投資家の
HF 購入を制限する方向で動いておりドイツは G8 で
の HF 規制案を検討するなど、当局の規制色が強ま
る中での英国の動きが注目されている。既に英国
では HF が LSE に上場されており、FSA が提案する
最低 1,000 ポンドからの個人投資も、既成事実の
事後承認との見方もあるようだ。
★ Euromoney 誌に拠れば、Fund of HF による CFO
(Collateralized Fund Obligation)の発行が増加
傾向にあると言う。全体の発行数は 20 件で昨年は
10 件が発行されたが、Merrill Lynch は本年の発
行数は昨年を超えそうだと予想している。
★ Hedge Fund による Washington 詣でが増加中だ
と NY Times 紙が報じている。年初に民主党の有力
上院議員である Schummer 氏が大手 HF の幹部を食
事に招いて政界との付き合い方を指南したとも報
じられているが、Cerberus など大手 HF も Lobbying
にかなりのエネルギーを使っており、最近の当局
によるやや緩やかな姿勢への変化にも影響してい
るのではないかと見られ、米国における政治・金
融の関係の深さがあらためて浮き彫りになってい
る。
★ BIS は今回の四半期報告において、Hedge Fund
のリターンと円 Carry Trade の間に何らかの相関
があるとの分析を公表した。円売りポジションの
造成による他市場への投資状況は把握が難しいが、
BIS は回帰分析によって為替市場における Carry
Trade と Fund of HF や Event Driven などの HF リ
ターンに強い相関があることを示している。FT 紙
に拠れば、Merrill Lynch は邦銀以外の円 Carry
Position が 2005 年末から約 6 兆円増加していると
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(TFJ
3/23/2007
BMA 編集部)
推測している。
★ Telegraph 紙に拠れば、金融機関や Fund など
が選ぶ最も競争力のある「国際金融都市」ランキ
ングで London が首位になった。New York は第二位
で、その差は拡大中だという。因みにアジア勢で
は香港が第 3 位でシンガポールは第 4 位、東京は 9
位に止まっている。
★ 世界同時株安は順張りの Hedge Fund に痛い損
失をもたらしたが、逆張りの Hedge Fund もまた辛
い目に遭っていると FT 紙が報じている。円 Carry
の反対ポジションで損失を重ねた Contra Fund は、
2 月末の市場急変の前に投資家が大量解約したた
めに、その恩恵に与れなかったという。同 Fund を
運用する Tony Dyesis 氏は、2000 年のドットコム
バブルでも全く同じ経験をしており、HF における
逆張りの難しさを象徴している。
★ Herald Tribune 紙に拠れば、Harvard 大学基
金で前運用責任者であった Jack Meyer 氏の後継者
となった Mohamed El-Erian 氏は、1 月末に 300 億
ドルの運用資金の約 5%に当たる 15 億ドルの株式
を売却した模様だ。PIMCO Emerging Fund での運用
歴が長い同氏は、Goldilocks は長く続かないとの
判断で株式売却を決断したと言う。
★
学 界 か ら の 「 Hedge Fund 攻 撃 」 は 続 く 。
Financial News 紙に拠れば、Texas 大学の John
Griffin 準教授は HF Manager との共同研究におい
て、HF が Mutual Fund に比べて株式運用成績が特
別良いという証拠はないとの結論を出している。
統計的に年率 1.32%程度の優位性はあるがその殆
どは 1999-2000 年のハイテク銘柄選択に負うもの
で、両者に能力的な差があるとは言えないと述べ
ている。
★ Reuters に拠れば訪米中のドイツ Steinbrueck
蔵相は、Hedge Fund が現在の順調な国際経済環境
に対する大きなリスクになっているとの認識を示
した。HF の運用規模が巨大になっている現在、何
らかの市場変調で Fund の破綻が起こった場合それ
が金融システムに与える影響は深刻であると強い
警戒感を表明している。
★ Activist で知られる Hedge Fund の TCI が ABN
AMRO に株価向上策として業務の切り売りを要求し
ているのに対し、Barclays が White Knight として
買収案を提示することを検討していると Sunday
Times 紙が報じている。FT 紙はむしろ ABN AMRO
が要求に応じて事業譲渡する可能性もあると報じ
ている。
9
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TFJ
記者の眼
Bi-Weekly Monetary Affairs
3/23/2007
最近のクレジット市場周辺トピックス
田中
◆ ABS のネガティブ・ウォッチ
S&P は 3 月 15 日、消費者ローンを裏付けと
する 21 件の ABS をネガティブ・ウォッチに指
定したと発表した。これに先立ち、3 月 9 日
には Moody's が 4 件の消費者ローン ABS をネ
ガティブ・ウォッチに指定。うち 3 件につい
ては、S&P が指定した取引と同一とみられる。
S&P および Moody's のプレス内容から判断
する限り、ネガティブ・ウォッチの主因は ABS
の裏付けとなる消費者ローン債権のパフォー
マンス悪化。がしかし、06 年以降は消費者金
融業界全体のアセット・クオリティの急速な
悪化が進行していることはクレジット市場参
加者に広く認識されており、それ自体は特に
目新しい悪材料ではない。
S&P は 21 案件のうち 5 件は案件名などの情
報を開示しているものの、開示情報の中にオ
リジネーター名は含まれていない。また、
Moody's のプレス内容や Bloomberg の開示情
報によると、当該 5 件のうち 3 件は三和ファ
イナンス、2 件はシンキがオリジネーターの
もよう。中堅消費者金融会社のアセット・ク
オリティ悪化が再確認された格好だ。
一般論として、消費者金融 ABS の仕組みに
おける格下げ自体は ABS の加速償還や劣後配
当停止を引き起こさないため、ABS を通じた
オリジネーターの資金繰りには直接の影響を
及ぼさない。むしろ懸念すべきは、S&P のセ
ンセーショナルな発表内容を目の当たりにし
た市場参加者の心理がより保守的な方向に傾
くことにより、資金調達上 ABS への依存度の
高い中堅消費者金融会社の資金調達環境に悪
影響を及ぼす可能性があるという点だ。
「特に追加的な調達が困難になる業者は、
新規顧客への貸付だけでなく、既存顧客に対
する貸付も行いづらくなるため、アセット・
クオリティが一層悪化する可能性もある」
(ド
イツ証券 株式調査部の清水純一クレジット
アナリスト)
。
一方、S&P の今次格付けアクションにおい
てサプライズだったのは、その件数はさるこ
とながら、約 1 ヵ月前における S&P のアナリ
ストコメントと相反する内容の格付けアクシ
ョンが突如講じられたこと。S&P は 2 月 16 日、
Page
雅史( フィスコ
記者 )
「消費者金融業界セミナー」を開催。その場
で ABS 担当アナリストは、
「裏付け資産のパフ
ォーマンス悪化は見られるが、当日時点で格
下げすべき案件はない」との認識を表明して
いたにもかかわらず、その 1 ヵ月後に一転、
21 もの案件をネガティブ・ウォッチに指定す
ることになった。
大手 5 社の信用力は現在進行中のストレ
ス・シナリオに耐えうるものの、全体の方向
性は弱含みと見込まれるため、足元の CDS ス
プレッドのタイト化はファンダメンタルズか
らは説明しづらい。同上・清水アナリストは、
「ABS の格下げがクレジット市場に心理的な
悪影響を及ぼす可能性や中堅消費者金融会社
の資金調達環境が厳しくなる可能性を踏まえ
ると、社債スプレッドに対して相当タイトな
水準にある大手 5 社の CDS スプレッドはファ
ンダメンタルズを十分に反映していない」と
の見解を示している。
◆ シティによる日興 TOB
シティグループは 3 月 14 日、日興コーディ
アルグループに対し、同日から TOB を実施す
ると発表した。TOB 価格は 1 株 1700 円と 13
日の東証終値 1490 円を約 14%上回る水準で、
期間は 4 月 26 日まで。現在約 4.9%の出資比
率を 50%超に引き上げ、子会社化を目指す。
日興も同日の取締役会で TOB への賛同を決
議。シティの支援を受け、市場や投資家から
失った信頼の早期回復を図る。シティバンク
在日支店のダグラス・ピーターソン CEO は
「1700 円との価格は公正で確固たるもの。引
き上げる考えはない」と述べた。
今次 TOB は全株式を対象にしており、買収
総額は最大 1 兆 6766 億円。外国企業による日
本企業の買収額としては過去最高となる。シ
ティは 50%超の株式確保を TOB の成立条件と
しているが、計 25%超を有する欧米ファンド
勢は 1 株 2000 円での買い取りを求めており、
その動向が成立のカギを握ることになりそう
だ。ピーターソン CEO は、当初提示した 1350
円は上場廃止の可能性を加味していたことを
明らかにした上で、価格を引き上げた理由を
「上場維持で日興のアウトルックが大幅に改
善した」と説明した。
10
著作権はリサーチアンドプライシングテクノロジー株式会社に帰属します。本レポートは、金融商品の売買勧誘を目的
とするものではありません。ディスクレーマーの詳細はレポート巻末をご覧下さい。
TFJ
Bi-Weekly Monetary Affairs
一方、日興の今後のクレジット・ストーリ
ーはシティによる TOB の動向が最たる注目点
になったが、マーケットでは「紆余曲折はあ
るにせよ、日興はいずれシティ傘下に入る」
(市場関係者)との見方がもっぱらだ。また、
上場廃止を免れた時点で格上げアクションを
講じた JCR はさておき、他の格付け会社はシ
ティからの資本参加を受けて格付けの引き上
げに動くはず。資本注入があればアップサイ
ドも期待できそうだ。
他方、リスクシナリオとしては TOB 価格の
折り合いがつかないケースが考えられ、その
場合には CDS スプレッドのワイドニングにつ
ながるだろう。みずほグループなどからの出
資という話が出てくる可能性はあるが、シテ
ィ傘下に入るほどのアップサイド・ストーリ
ーは期待できない。いずれにせよ、シティと
日興とのタイアップの着地の仕方がこれから
のクレジット・ストーリーを形作ることにな
り、それが可能な限りは多少のボラティリテ
ィがあっても、スプレッドはタイト化傾向に
あるといえよう。
3/23/2007
との見解を示す。
「iTraxx Japan」(シリーズ 7):メインの
新規採用銘柄は JT、神戸製鋼、商船三井、日
興、日通、日本製紙グループ本社、住不。除
外銘柄は旭硝子、伊勢丹、川崎重工、三井不
動産、西松建設、住友化学、東京海上日動。
一方、「iTraxx Japan」(シリーズ 7):HiVol
については東武鉄道が除外され、エルピーダ
メモリが新たに加わった。
これまでのメイン・インデックスは売買高
が多いこと、業種ごとに最大 10 銘柄という条
件で銘柄選定されてきたため、スプレッドの
変化の少ない低スプレッド銘柄もインデック
スに採用されてしまい、ボラティリティが低
くなった。だが今般の“iTraxx Japan 80”で
は、低スプレッド銘柄を取り除くことにした
ため、インデックスの動きがこれまで以上に
高まり、ヘッジ手段としては使い勝手が良い
ものとなりそうだ。
なお、タイト化するための提携・傘下入り
のタイミングについては、
「三角合併解禁後」
が候補の 1 つとなりそう。合併が現金のみで
はなく株式交換でも可能となってからであれ
ば、プレミアムが増加しても TOB が成功裡に
終わる可能性は高まりそうだ。
◆ CDS インデックス
CDS インデックスの「iTraxx Japan」(シリ
ーズ 7)が 3 月 20 日から取引開始となった。
シリーズ 7 の特徴としては、「50 銘柄で構成
されるメイン・インデックスに加えて、80 銘
柄で構成される“iTraxx Japan 80”が新たに
取引されること」、「メイン・インデックスの
採用銘柄はシニアに限定されていたが(例外
的にシリーズ 6 ではりそな銀行のサブが採用
されていた)
、サブも採用銘柄にできる」こと
が挙げられよう。
前者については、流動性の高いシングル・
ネームが増える期待効果が見込まれる。後者
については、メイン・インデックスにおける
銀行の参照債務がシニアからサブに変更され
た。日興シティグループ証券 債券本部の阿竹
敬之クレジットアナリストは、
「銀行のシング
ル・ネーム CDS 取引の中心がサブであるほか、
シニアの値動きが小さいため、インデックス
の指標性といった観点からも妥当な変更だ」
Page
11
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TFJ
特集
クレジット・
デリバティブズ
Bi-Weekly Monetary Affairs
BBA のクレデリ・レポート抄訳
(TFJ クレジット・リサーチ部)
このページより後の 3 ページは昨年 9 月に
BBA(英国銀行協会)が作成した BBA Credit
Derivatives Report 2006 の日本語訳のサマ
リーです。現在 BBA の Web に掲載されていま
す。このサマリー(英語版もあります)を読
まれて本書(英語版、日本語版いずれもあり
ます)をご購入希望の方は Web に案内の方法
で直接 BBA にお申し込みください。
http://www.bba.org.uk/content/1/c4/84/
11/CreditDeriv_Japanese_orderform.pdf
以下、関係者のコメントを掲載致します。
Daiwa Securities SMBC Europe Limited,
Credit Derivative Section 木野 勇人
で皆様にご紹介させて頂きたい。
(尚、翻訳は
BBA による。
)
目次をご覧頂ければお解りの通り、市場規
模や参加者の顔ぶれ、商品性、地域性などの
市場概要に加えて、市場で話題になったクレ
ジット・イベントやバックログなどについて
も言及されている。英語版・日本語版いずれ
も 145 ポンド(プラス税金)で BBA の HP から直
接注文が可能となっている。」
(編集部註:なお無料英語版サマリーをご
希望の方は、t-fj@rptech.co.jp までお申し
出下さい。)
<BBA の紹介(HP より)>
「本レポートはこれまで 2 年に一度作成さ
れクレジットデリバティブに関する統計では
最も利用されているもののひとつです。日本
の関係者の皆さんも利用されていると思いま
す。ただ英語版しか作成されないため実際に
そのレポートをご覧になられる方は一部の関
係者の方に限られていたと思います。
今般 BBA の担当者の方とお話しする機会が
あり、日本語訳の作成を提案してみたところ
是非日本の方にも見ていただきたいと前向き
な姿勢を示され本日ここに至っています。今
回の試みが日本におけるクレジットデリバテ
ィブに対する関心を少しでも高めることに役
立てば幸いです。」
RP テック
3/23/2007
代表 倉都 康行
「クレジット・デリバティブズは過去 10 年
間で最も成功した金融取引であり、その市場
規模の拡大には驚きを禁じ得ない。日本での
取引も増加しており同市場への関心は、金融
機関だけでなく当局や研究機関、メディアな
どの間で急速に高まっている。ただ、取引自
体は店頭市場が中心でありその素顔を知る為
の公開情報は乏しいのが現状だ。
今回、大和 SMBC ヨーロッパのご尽力で、同
市場の分析として最も信頼感の高い BBA(英
国銀行協会)によるレポートの日本語訳が刊
行されることとなった。本誌は、同社と BBA
からそのサマリー版を掲載する承諾を得たの
Page
http://www.bba.org.uk
The BBA is the leading UK banking and
financial services trade association and acts on
behalf of its members on all domestic and
international issues that affect the sector.
Our 219 members are from 60 different
countries, they provide the full range of banking
and financial services, operate 126m accounts and
manage 90% of all UK banking assets.
The British Bankers' Association was set up in
1919, working together with the Committee of
London Clearing Bankers (CLCB) with a
membership of British commercial banks.
In 1972 The BBA accepted foreign banks and
British merchant banks into their membership,
changing the structure of the organisation. In 1975,
the BBA and CLCB diverged becoming two
separate entities and ten years later saw the
transfer of responsibility for money transmission
services, to the new Association of Payment
Clearing Services (APACS). The BBA became
increasingly acknowledged as the voice for the
banking industry in the UK and that there was no
longer any justification for the continued
existence of another body that spoke only for a
small number of banks. So in 1991 it was decided
that the CLCB should be wound up and its work
absorbed with that of the BBA.
12
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Bi-Weekly Monetary Affairs
BBA クレジットデリバティブ
レポート 2006
ロス・バレー
ホールセール担当取締役
並びに
ジョン・イーワン
LIBOR マネージャー
3/23/2007
実務概略
1.世界市場の成長
クレジットデリバティブは、今日の銀行業
務にあって最も重要な市場の一つです。商業
的には予想を遥かに上まわりつつあります。
また規制の面からも規模や市場が若いという
こともあってこの産業に多くのチャレンジを
呈しています。この調査は1998年に遡っ
た最新のものです。ロンドン市場では無比の
一貫したデータと方法論を提供しています。
今年度の調査の主な進展は、ただの統計量リ
ストだけではなく数字を色分けするために参
加者の質の高いコメントを載せていることで
す。この目的は多くの人に市場で毎日行われ
ている取引についていくつかの洞察力と体験
を提供したいということです。
British Bankers’Association
(英国銀行協会)
Pinners Hall,105-108
Old Broad Street,London, EC2N 1EX
電話: 020 7216 8800
ファックス: 020 7216 8811 www.bba.org.uk
目次
1.実務概略
2.方法論と参加者
方法論
調査参加者
クレジットデリバティブの調査定義
3.世界のクレジットデリバティブ市場
地域の重要性
4.ロンドンクレジットデリバティブ市場
5.市場参加者
クレジットプロテクションのバイヤー
クレジットプロテクションのセラー
6.製品の使用
クレジットデフォルトスワップ
取引量
7.原資産の格付け
8.決済方法とクレジットイベント
決済方法
クレジットイベントに関する回答者の経験
回答者のバックログに関する経験
四半期決済
クレジットデリバティブ取引の契約期間
9.ISDA スタンダード・クレジットデリバティ
ブ・コンファメーション
10.クレジットデリバティブのアプリケーシ
ョン
11.市場に対する制約
国際市場の制約
将来の規制の影響
12.インデックス
13.電子取引とストレート・スルー・プロセシ
ング(STP)
14.その他情報
BBA 出版物
BBA コンタクトグループ
クレジットデリバティブ
世界市場 $bn
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
USD (bn)
1996
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2006
2008
(est.)
180
350
586
893
1,189
1,952
3,548
5,021
20,207
33,120
世界のクレジットデリバティブ市場は、
2006 年までには 8 兆 2000 億ドルになるだろ
うと予想した 2004 年度の BBA 調査より更に高
い成長を見せた。今年の調査は、2006 年の終
わりまでに市場のサイズが 20 兆ドルになる
だろうと推測しています。銀行は今年、2008
年の終わりには世界のクレジットデリバティ
ブ市場が 33 兆ドルまで拡大していると予測
しています。この成長は継続していくと予想
されています。さらに、成長し続けているの
は単に市場のサイズだけではなく製品の多様
性です。インデックス取引、細分化されたイ
ンデックス取引および公正な商品(ハイライ
トだが少数)の拡大は、クレジットデリバティ
ブ市場で先例がなく様々な取引商品を産み出
しました。
2.ロンドン市場の成長
この本はしかるべく配慮のもとに作成してありますが、間
違いあるいは誤謬脱落により如何なる損失が生じても、著
者あるいは BBA エンタプライズ社は責任を負いません。
著作権保有 c BBA エンタプライズ社 2006.
Page
今年のロンドン市場予測は、2004年の
調査からわずかに下がってちょうど40%未
満になりましたが、ロンドン市場のシェアは
引続き安定しています。ロンドンの全般的な
13
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Bi-Weekly Monetary Affairs
数量は、世界的な市場拡大成長に従って上昇
を続けています。 ロンドン以外のその他のヨ
ーロッパでは、初めて10%を突破し市場占
有率が膨らみ始めました。
35%
30%
市
場
シ
ェ
ア
%
3.市場参加者
前の調査で予測されたように、ヘッジファ
ンドはクレジットデリバティブ市場で主要な
ものになりました。2004年以来売買の数
量は2倍になりました。市場参加者としては、
銀行がやはり大多数を構成しています。BBA
クレジットデリバティブパネルとの協議に従
って、保険会社分割案はクレジットデリバテ
ィブの活動をしやすくするために排除されま
した。参入している銀行に見られるように、
銀行のタイプを区別するということよりも、
「銀行―取引活動」と「銀行―ローンポート
フォリオ」という業務内容に重点を置いてい
ます。 このことは、銀行のデリバティブ数量
のほぼ3分の2は取引活動であり3分の1は
貸付であることを強調しています。
4. 商品分野
一連の BBA クレジットデリバティブパネル
を見てみると、調査アンケートに含まれた商
品の範囲は現在の市場動向を反映するため
に大幅に改定されました。単一名のクレジッ
トデフォルトスワップは依然市場の本質的
な部分を表していますが、シェアは33%に
まで落ちました。インデックス取引は、20
06年第一四半期に見られるように30%
に相当する2番目に大きな商品になりまし
た。過去2年間は、期待された持続的な多様
化と共にクレジットデリバティブ商品の開
発速度に拍車がかかりました。合成 CDO(債
務契約の共同研究)は市場の16%を維持し
続けています。
3/23/2007
クレジットデリバティブ
商品 2006 / 08
25%
20%
15%
10%
5%
0%
単一名クレジット
フルインデックス
2000
2002
2004
バスケット商品
6.0%
6.0%
4.0%
1.8%
クレジットリンクノート
10.0%
8.0%
6.0%
3.1%
クレジットスプレッドオプ
ション
5.0%
5.0%
2.0%
1.3%
エクイティリンククレジッ
ト商品
n/a
n/a
1.0%
0.4%
フルインデックストレード
n/a
n/a
9.0%
30.1%
38.0%
45.0%
51.0%
32.9%
スワップション
n/a
n/a
1.0%
0.8%
合成 CDO – フルキャピタル
n/a
n/a
6.0%
33%
30%
16%
8%
13%
% End 08
29%
29%
16%
10%
16%
% 06 年末
3.7%
n/a
n/a
10.0%
12.6%
タル
トランシェインデックスト
レード
その他
% 08 年末
5.原資産の格付け
今年の調査では、原資産格付けについて以
前より粒細かな格付けがなされています。CDS
とインデックスの優先的格付けは現在分けて
あります。全体として、原資産の平均格付け
の下方傾向が見られます。というのは、CDS
の AAA ‐ BBB カテゴリーは65%から200
4年には59%に下がりました。この傾向は
2008年度末までには52%まで引続き下
がるだろうと予想されています。反対に BB ‐
B カテゴリーは13%から23%に拡大して
おり、2008年末には27%まで成長する
だろうと予想されています。
アンダーライング CDS の格付け
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
99-00
01-02
03-04
BB - B
A - BBB
05-06
AAA - AA
6.クレジットイベント
すべての回答者は、一定期間に渡り返済を
引き起こしたクレジットイベントを経験して
います。最も高い数字は高収益の分野で起き
ました。指定されたカテゴリーすべてにおい
てイベントの拡散が見られました。投資適格
ヨーロッパ、投資適格アメリカ、振興市場、
高収益、アジア/オーストラリアとその他。
デルフィダナ社とデルタ社は返済を引起した
クレジットとして頻繁に言及されました。
合成 CDO – パーシャルキャピ
n/a
n/a
2.0%
7.6%
41.0%
36.0%
8.0%
5.7%
Page
その他
% End 06
2006
単一名クレジットデフォル
トスワップ
トレード
トレード
B 以下
タイプ
トランシェインデックス
合成 CDO
デフォルトスワップ
14
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07-08
TFJ
Bi-Weekly Monetary Affairs
3/23/2007
7. 支払い
世界がわかる
2004年の調査とは対照的に、現実の決
済は86%から73%に落ちました。主な変
更は、昨年の11%から23%にまで2倍以
上になった現金決済です。固定金額決済は
3%のままでした。四半期決算は会社に影響
を及ぼし続けました。
現代マネー6 つの
視点
倉都
参加者のコメントの抜粋
康行 著
740 円(税別)
1.長期的には、製品の標準化を増加させるこ
とによる四半期決算への動きによりクレジッ
トデリバティブ市場は改善されるでしょう。
短期的には、四半期決算はビジネス活動をよ
り強化し、その結果コストが増加しました。
従って、活動強化による短期利益はそれほど
はっきりしていません。
12 月 10 日発刊
3 刷りまで増刷!
全国書店にて好評発売中
まえがき
第 1 章 投資時代への期待と幻想
1.貯蓄から投資へ
2.投資信託の大胆な変貌
3.分散投資のリスク
4.高金利通貨の魅力と魔力
5.商品市場とマネーとの接近
8.インデックス
現在取引されている広範囲のインデックス
取引は、クレジットデリバティブ市場にすさ
まじい影響を与えており、現在取引の数量お
よび価値の点からクレジットデフォルトスワ
ップについで2番目を占めています。然しな
がら、前の調査にあるように、インデックス
ドキュメンテーション、および市場開拓者が
追跡するインデックスの数を減らすための単
一組インデックスの一層の標準化をメンバー
は求めています。
第 2 章ポスト不良債権時代
1.ポスト不良債権時代の課題
2.自己資本比率との戦い
3.銀行の行動原理
4.金融行政の問題点
5.金融システムは改善されるか
第 3 章 経済社会を動かすファンド
1.ファンド=金融における「核問題」
2.社会はヘッジファンドをどう見ているか
3.PE ファンドの隆盛
4.ファンドへの期待と懸念
参加者のコメントの抜粋
2. ヨーロッパとアメリカのドキュメントに
均一性がないことは、インデックス未解決問
題として残されています。
第 4 章 米国型金融システムの揺らぎ
1.不均衡問題に揺れる「ドル共和制」
2.貯蓄過剰論のゆくえ
3.資本吸収システムの曲がり角
4.資金循環は変わるか
5.米国投資銀行の明と暗
9.調査参加者
1996年当初以来、市場参加者は BBA ク
レジットデリバティブレポートに活気ある資
本投資を行ってきました。方法論の連続性お
よび結果の比較を維持しながら現在の重要な
問題に焦点を当てています。詳細なアンケー
トを提出した大多数の機関は、貢献度の編集
に当たって相当な時間と資金を費やしてきま
した。いくつかの小さな会社も参加に招かれ
ましたが、その国の広範囲に渡るキープレイ
ヤーを中心に調査は行われました。
市場が急激に成長しているので、目立つと
ころにあるカテゴリーを排除してそれを絶対
値に置き換えるということが BBA 調査パネル
によって決定されました。今年度の調査回答
者の平均未払い負債は1兆ドル以下でした。
第 5 章 多様化へ動き出すマネー社会
1.新興国の外貨準備戦略
2.オイルダラーとイスラム金融
3.共同体への目覚め
4.M&A の多様化と金融資本の動向
5.グローバル化とローカル化
第 6 章 金融と社会との対話
1.保守化する金融市場
2.市場メカニズムの効用と限界
3.投資立国への道のり
4.3 つの E の時代で
あとがき
以上
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証券化ビジネス
Bi-Weekly Monetary Affairs
3/23/2007
4
防接種を行う というのは典型的な援助の方法で
マイクロ・クレジット
#1
す。
(杜羅三朗
ストラクチャード・ファイナンスの観点から見
たマイクロ・クレジット
マイクロ・クレジットと呼ばれる形態の融資が
世の中にあります。必ずしも明確な定義があるわ
けではありませんが、いわゆる貧困層の人々に対
して、事業用の小規模融資を、短期かつ無担保で
行うというのがマイクロ・クレジットであると考
えればいいでしょう。
「マイクロ・ファイナンス」
という表現もありますが、これは、マイクロ・ク
レジットより広い概念でして、マイクロ・クレジ
ットが「クレジット」、つまり融資であるのにたい
し、マイクロ・ファイナンスは他の金融の要素を
含みます 1。特に大きいのは預金の受け入れで、米
国など貯蓄率の低いもしくはマイナスの国をどう
考えるかはともかく、預金をするということが経
済的自立を促し、また、社会に資本を流通させる
ひとつの手法であることは確かですから、少額で
もいいから預金をしていきましょうね、というメ
ッセージを広めるわけです。また、マイクロ・イ
ンシュアランス、つまり保険もマイクロ・ファイ
ナンスの一形態と考えられています。
それはさておき、本稿では、証券化あるいはス
トラクチャード・ファイナンスという観点から、
マイクロ・クレジットについて考えてみたいと思
います。
◆ マイクロ・クレジットの発想の原点
上にも書いたとおり、マイクロ・クレジットは
「事業向け融資」であって、消費者ローンではあ
りません。これはよくある誤解 2 なのですが、小規
模の融資とはいっても生活費に回すものではなく、
むしろ「事業を始める」人々に対して、当初の運
転資金を融資するというのがマイクロ・クレジッ
トなのです。
ただ、一般的にマイクロ・クレジットといった
場合には、日本で露天を始める人とか、アメリカ
でホットドッグ・スタンドを始める人とか、そう
いう人に対する融資は該当しません。
筆者は専門家ではないので「そもそも」の話は
弱いのですが、発想の原点は「どうやったら、世
界の貧困問題を解決できるのか」というところに
あります。少し古いデータですが、世界銀行によ
る 2001 年の推計で、世界中で 11 億人の人々が 1
日 1 ドル未満で、27 億人の人々が 1 日 2 ドル未満
で、生活していたそうです 3。
証券アナリスト)
また、飢餓が問題になっている地域に食料を援助
する、着るものがなくて困っている人たちに古着
を送る、家を失った人たちにまず毛布を贈って寒
さをしのげるようにする、すべて同様の効果を狙
っています。
もっとも、このように「直接」貧困層を援助す
るやり方は、即効性はありますが、持続性はあり
ません。
無論、このような形の援助が重要なのは言うま
でもありません。薬がなかったら治る病気も治ら
ないかもしれませんし、食事をしなかったらお腹
がすいてしまいます。
しかし、同じくらい、もしかするともっと重要
なこととして、そもそも貧困から脱出させるとい
うことも考えなくてはなりません。貧困から脱出
するとは、要するに、仕事を持ち、カネを稼ぎ、
そのカネで自分の好きなものを買えるようになる、
少なくとも、毎日三度の食事を摂り、住むところ
を確保し 5、体調が悪ければ医者にかかれる、そし
て、次の世代を育てるために子供を学校に行かせ
る、そのような生活を自らですることです。われ
われからすると当たり前すぎるようなことですが、
貧しい地域ではこれがなかなか普通のことではあ
りません。
1 たとえば
http://www.microfinancegateway.org/section/faq
あたりが参考になるでしょう。
2 もっとも、多くの人はマイクロ・クレジットに関心な
んかないため、そもそも誤解するほどの知識もないのが
現実でしょう。
3
http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/TOPICS/EX
TPOVERTY/EXTPA/0,,contentMDK:20153855 menuPK:43504
0 pagePK:148956 piPK:216618 theSitePK:430367,00.ht
ml
4 もちろん、その原資は必要なわけで、その意味では現
金を与えているのと同じかもしれませんが、健康な人の
食事に換わってしまうことも考えられるため、直接的な
効果を狙うためには、薬・予防接種という形が望ましい
場合もあるのです。
5 本当の貧困とは、寝るときに、上に屋根がある保証が
ないこととも言えるようです。
貧困問題への対処にはいくつかの側面がありま
す。貧しくて薬が買えない、あるいは、予防接種
ができない人々に対して、薬を与える、無償で予
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Bi-Weekly Monetary Affairs
マイクロ・クレジットそのものは寄付や援助で
はなく、融資です。したがって、マイクロ・クレ
ジットを受けた債務者は、融資を返済しなくては
なりません。それどころか、マイクロ・クレジッ
トは狭義の慈善事業ですらなく、利息もとります。
したがって、債務者は元本だけではなく、利息も
払わなくてはなりません。
なぜそのような融資をするのかというと、非常
に広い、ある意味哲学的な議論をすれば、資本主
義が根付くことで社会全体が豊かになるという信
念があるからに他なりません。この結論には異論
もありましょう 6 が、少なくともマイクロ・クレジ
ットの発想の原点は、資本主義が広まることによ
って経済が活性化し、経済が活性化すると社会全
体が豊かになり、社会全体が豊かになればその構
成員も豊かになっている、というプロセスを経て、
貧困からの根本的な脱出が可能になるというもの
なのです。
で、具体的にどのように資本主義を定着させる
かというのが、マイクロ・クレジットの融資先選
定に表れます。マイクロ・クレジットは消費者ロ
ーンではなく、事業者向けに開業資金あるいは開
業用の運転資金を融資するもので、要するに、起
業家を育てるための融資なのです。もちろん、社
会そのものが貧しい中、起業といってもコンビニ
エンスストアのフランチャイジーになったり、自
動車ディーラーになったりというものではなく、
家内制手工業の域にとどまる場合がほとんどです。
篭を編んで地元の人に売るというのが典型例のよ
うですが、いずれにせよ、さほど大規模になるわ
けではありません。しかし、借りたカネを返すと
いう資本主義的な規律を利用して起業家精神を刺
激し、自らカネを稼ぐことで貧困から脱出する、
そのための資金を融資するのがマイクロ・クレジ
ットなのです。不思議なことに、債務者は女性の
ほうが圧倒的に多い 7 ということです。
なお、自らがカネを稼ぐことで貧困から脱出す
ることを助けるという目的を持ったマイクロ・ク
レジットですが、貧困からの脱出とは持続性とイ
コールであることはここまでの説明で明らかかと
思います。病気に対する薬であるとか、一回こっ
きりの食事というものではなく、きちんと、一日
三食食べられるように、必要な薬が買える様に、
「財力を持ちなさい」というメッセージを伝えて
いるともいえます。
◆ マイクロ・クレジットを提供する側の持続性
このようなメッセージを伝える媒体であるマイ
クロ・クレジットの供与者は、したがって、やは
り持続性のある組織であることが望まれます。こ
こでいう「持続性」というのは、人がやめないと
か、組織の態をなしているということは最低条件
ですが、
「資本主義の権化」たる立場も要求される
こともあるのでしょう、
「儲かっている」というこ
とが一番の鍵となります。なぜなら、儲かってい
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る組織というのは、誰かが助けなくても、儲けよ
うという欲をもったお金が自然に集まってくるか
らで、資本主義社会においてそれ以上強いインセ
ンティブはないということでしょう。
マイクロ・クレジットで儲けるためには、金利
は高くならざるを得ません。これは、次回触れる
返済率とは関係なく、事務コストをカバーするこ
とが大きな要因となります。言うまでもないこと
ですが、1 件 1000 ドルの融資と、1 件 100 ドルの
融資とでは、かかる事務手間の量は変わりません
から、後者でコストをカバーするには、金利に翻
訳すると前者の 10 倍を債務者に負担してもらわな
くてはなりません。
もちろん、最初から儲けられる、あるいは持続
性のあるマイクロ・クレジット業務を展開するこ
とは難しいでしょう。持続性という意味では収益
性が重要なポイントになるとはいえ、実際のとこ
ろは、本当の本当の意味で金儲けのためにマイク
ロ・クレジットに携わっている人たちはまれで、
やはり、慈善という側面も見逃すわけには行きま
せん。世界銀行などさまざまな国際団体が関与し
ている 8 のもそのあらわれであって、確かに、商業
ベースの話にならないわけではないものの、まだ
まだ、まず裾野が広がらなくてはならないという
ことが言えるようです。
なので、通常は慈善団体などが設立し、その慈
善団体の寄付や、その他国際機関からの寄付を基
にしてマイクロ・クレジット業務を開始するのが
普通です。その後、無利息・無期限の融資といっ
た形でさまざまな国や機関からの援助を受け始め
ます。規模が小さいうちは、そのような資金を用
いていればいいのですが、規模が大きくなり始め
る、つまりは軌道に乗って儲かり始めると、さら
にタネ銭が必要になってきます。そうなってくる
と、こんどは、資金調達源自身がより商業ベース
になってくるわけです。
6 筆者はある意味純粋な資本主義者なのでまったく異論
はありません。
7 もっともばらつきもあるようです。業界データの集計
によると、2005 年については女性債務者の比率は全体の
65.1%に過ぎません
(http://www.mixmbb.org/en/assets/MIX_MFI_Annual_B
enchmark_Series_2005_EN_FR_SP.xls)
。
8 マイクロ・クレジットに関連するプロジェクトを手が
けている世銀の CGAP(貧困層支援協議グループ)には、
わが国の国際協力銀行と外務省のほか、世界各国政府お
よび国際機関の資金によって運営されています。
17
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TFJ
Bi-Weekly Monetary Affairs
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金融史がわかれば
◆ マイクロ・クレジットを広めるための努力
世界がわかる
マイクロ・クレジットの商業的な成功の秘訣、
そして、それと証券化との関係については次回あ
らためて検討するとして、マイクロ・クレジット
が貧困問題への対策の重要なひとつとして世界
的に認識されていることを示すために、どのよう
な情報が公開されているかについて簡単に触れ
ておくことにしましょう。
まず、国連の「ミレニアム開発目標 9」のひと
つとして、1 日 1 ドル未満で生活する人々と、飢
餓で苦しむ人々を半減させようとしています。
∼「金融力」とは何か∼
倉都
720 円(税込み)
3 刷まで増刷!
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はじめに
また、国連資本開発基金(UNCDP:United Nations
Capital Development Fund)はマイクロ・ファイ
ナンスに関する教育・啓蒙活動に非常に力をいれ
ていまして 10、マイクロ・クレジットを含めたマ
イクロ・ファイナンス機関の育成などに多くの資
源を割いています。
第 1 章 英国金融の興亡
このほか各国別の援助機関、あるいは、国際開
発銀行などの努力もあるのですが、それらも次回
とりあげてみましょう。
第 2 章 米国の金融覇権
1.ポンドと銀貨の長い歴史
2.ポンドがめぐり英国経済はまわる
3.金が主役の時代へ
4.基軸通貨ポンドの誕生
5.英国金融の始祖「マーチャントバンク」
1.英国はなぜ動脈硬化に陥ったのか
2.新興国アメリカの挑戦
3.世界を動かすウォール街の金融資本
4.遅れてきた FRB
5.ドル覇権の完成
次回予告
ということで、次回は準ビジネスとしてのマイ
クロ・クレジットと、過去に例のある証券化の話
などを含めて、もう少しこのテーマを掘り下げて
みたいと思います。
9 2015 年までに達成すべき人類の 8 つの目標で、どれも
貧困の解消・緩和と関連しています。
http://www.un.org/millenniumgoals/index.html
10
http://www.uncdf.org/english/microfinance/index.ph
p
康行 著
第 3 章 為替変動システムの選択
1.ブレトンウッズ体制の時代へ
2.変動相場制の幕開け
3.金本位制の終焉は何を意味するのか
4.変動相場制とドル不安
5.為替をめぐる欧州と米国のかけひき
第 4 章 金融技術は何をもたらしたか
1.先物取引の誕生
2.金融技術はどう利用されたか
3.膨張するマネーと米国金融の底力
4.市場リスクを管轄するシステム
5.投資家は天使か悪魔か
第 5 章 二極化する国際金融
1.ユーロの驚くべき金融力
2.米国の金融覇権を支える FRB 議長
3.グローバル・バンクの再編劇
4.人民元がいよいよ表舞台に
5.日本の金融は生き残れるか
あとがきに代えて
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TFJ
金融史の光彩
Bi-Weekly Monetary Affairs
低地地帯の金融史
平山
前回は、アムステルダム銀行の設立を通して、
充実した資金決済機能の強化が、情報ネットワー
クによる付加価値の拡大というメリットと、最終
的には信用増大による行き過ぎというデメリット
の両面性を持っている点について指摘させていた
だきました。今回は、そのアムステルダム銀行が
融資したオランダ東インド会社について考えてみ
たいと思います。最終的には、デフォルトに至る
オランダ東インド会社も、株式会社発生史という
角度から見れば、株式会社の原点であったことな
どが、かの有名な大塚久雄「株式会社発生史論」
に詳述されています。オランダ金融史の特質の一
つであるオランダ型株式会社について、この名著
を頼りに見ていきましょう。
オランダ東インド会社設立の背景
フォール・コンパニーエン
株式会社の起源と称されるオランダ東インド会
社は、1602 年に設立されました。会社設立に際し
て与えられた特許状には、当初の設立期間(特許
状の期限)は 21 年間とされていたものの、会社は
1798 年の解散まで実に 196 年間の長期にわたり存
続 1 されることになります。
このオランダ東インド会社は、単独で設立され
たわけではなく、16 世紀の末に設立された、いく
つかのフォール・コンパニーエン(先駆諸会社)
が合併してできたものでした。フォール・コンパ
ニーエンは、アムステルダムの遠国会社 2 の流れを
くむ旧会社が新ブラバント会社と合併してできた
アムステルダム東インド会社、ゼーラント州のゼ
ーラント会社、そしてマース河畔のロッテルダム
などに設立された貿易会社などを指します。これ
らは、互いに東インド貿易で熾烈な競争を展開し
たため、バンダムやモルッカといった東インドに
おける香料・胡椒の買付価格が急騰するという問
題に直面していました。当然ながら、アムステル
ダムで、その香料等を販売する際にも、熾烈な競
争は販売価格の下落をもたらすことになり、利鞘
が縮小してしまったため、これを解決するための
道が検討されることになったのです。その方途が、
フォール・コンパニーエンの合併であり、消耗戦
を脱するためにオランダ東インド会社が設立され
るに至るのでした 3。
1 高橋琢磨「マネーセンターの興亡」(日本経済新聞社
1990 年)169 ページ。
2 出資者の持ち分に対して「持分証書」が発行され譲渡可
能であったとのこと。
3 アムステルダム東インド会社とゼーラント会社の対立
が激しく合併工作は難航を極めたものの、連邦議会が決
定することで合併が一気に進むことになったとのこと。
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#4
賢一 (アセット・アロケーター)
ところで、このフォール・コンパニーエンの取
締役は、機能資本家であり無限責任であった点で
は、その結合形態は中世イタリアの内陸商業都市
を起源とした合名会社ソキエタスそのものでした。
しかしながら、この機能資本家の背後に、機能資
本家に資金を託する形式で無機能資本家が存在し
ていた点で、ソキエタスとは異なっていました。
株式会社の特徴である有限責任の無機能資本家が
存在していたわけです。つまり、取締役である機
能資本家は、背後に有限責任の無機能資本家を抱
えており、この部分の出資者の結合形態はコンメ
ンダ(経営と資本が分離された形の持分資本)で
あったのです。大塚久雄「株式会社発生史論」で
は、
「ソキエタスを中心にコンメンダの集中せられ
たものであり、特にコンメンダの付着の形式は各
個のソキエタス社員を通じて間接的であったので
あって、従って明らかに分散型のマグナ・ソキエ
タス 4」であったと表現しており、この点では、や
はり株式会社の端緒を垣間見ることができるわけ
です。
株式会社の起源としてのオランダ東インド会社
フォール・コンパニーエンの合併により設立さ
れたオランダ東インド会社は、以下のような特徴
が指摘されています。
(ア) 無限責任のパートナー制から全社員有限責
任になったこと
(イ) 出資者が人を介さず直接に会社の出資者と
なり、取締役団は、より明確に会社の機関に
なったこと
(ウ) 徐々にゴーイング・コンサーンの性格を強め
たこと
(エ) 出資持分が「株式・アクシー(actie)」と称
せられ自由譲渡できるようになったこと 5
4 大塚久雄「株式会社発生史論」(岩波書店 1969 年)350 ペ
ージ。ゴーイング・コンサーンでなかった点やコンメンダ出資
者が匿名であったことから、特別に拡大された合資会社形態
であるとも表現しているが、東インド方面に支店が設置される
ことで取引が漸次恒常的となるにつれて、一回一回の取引で
生産する形式から永続企業としての性格が強くなってくると解
説している。
5 前掲書、高橋琢磨(1990 年)167 ページ。
有限責任制については、会社設立の特許状に取
締役に有限責任が規定され、フォール・コンパニ
ーエンにおける無機能資本家も直接的に会社と結
びつき、社員名簿への記載がなされるようになり
ます。また、有限責任となった取締役団は、会社
機関たる取締役会、そして取締役(当初は 73 人で
あったが後に定員 60 名)の代表者によって構成さ
れる最高機関である「十七人重役会」が規定され、
機能資本家という個人の無限責任をベースにした
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TFJ
Bi-Weekly Monetary Affairs
結合から、会社機関をベースにした法人組織とい
う位置づけが確立することになります。
年次
1605
1606
1607
1608
1609
1610
1611
1612
1613
1614
平均
3/23/2007
専制的株式会社のディスクロージャー不徹底
このように、オランダの東インド会社が、現代
の株式会社に共通する性格を有していたものの、
現代と比較すれば不十分な点も指摘されています。
株式会社の起源と称されるオランダ東インド会社
も、完成した姿の株式会社に対比して、
「民主的総
会」の欠如と、中心的取締役団による「専制的支
配」という不完全性を有していたのです 6。さらに、
この不完全性の弊害が顕著に表れたのが、会計報
告の不徹底であり、まさに株主によるガバナンス
とは程遠い状況にあったようです。
配当率6
15%
50%
10%
30%
20%
25%
50%
25%
12%
3%
24%
次にゴーイング・コンサーンについては、特許
状第 7 条−9 条に、出資は 10 年を期限として固定
されることが明示され、当座の短期間の事業を想
定したものでないことが明らかです。
そして株式制の顕著な発達は、
「社員名簿」の前
文において、譲渡の自由が許され、手続きが示さ
れていることからも明らかです。それまで資本金
に対する持分をあらわす単語としては「パールト」
という用語が使用されていたものの、オランダ東
インド会社に至って、配当請求権の概念が強まっ
たアクシーという用語が用いられるようになった
とのこと。
ここで興味深い点は、この持分から配当請求権
という性格が強くなった時期に、投機が加速した
という点でしょう。1633 年から 1637 年にオランダ
中を熱狂させたチューリップ投資熱から遡ること
四半世紀、1605 年から 1610 年代に至る時期には、
配当率の高さや配当そのもののボラティリティの
高さから投機熱が煽られたわけです。企業の所有
権としての持分という性格だけではなく、それが
配当という形でキャッシュフローを持続的に生み
出すものとして強く認識されたため、一回限りで
はない持続的なキャッシュフローの源泉としての
配当請求権の期待感は、格段に大きなものとして
みなされるようになったのではないでしょうか。1
航海(単年度)で解散している事業であれば、1 回
(1 年)限りの商取引での期待収益率を考えればよ
いものの、ゴーイング・コンサーンの配当請求権
となれば、数年にわたるキャッシュフローの期待
感(期待収益率)と、割引金利の変動を織り込ん
だものとなるため、配当請求権の期待価値が大き
く変動し、投機の対象として恰好の対象になった
と考えることができるからです。実際に、1610 年
には一切の株式の空取引が禁止される法令が連邦
議会で制定されるほどにまで投機熱が強まったの
でした。
Page
「購入した財貨と販売した財貨について、それ
を記入する一種の現金出納帳のようなものがある
に過ぎなかった。それは『艤装用費用』ならびに
積荷」と『帰り荷』のそれぞれ 1%を取締役団の手
数料として支払うために必要だったからでもある。
ところが取締役団が積荷を高く会社に売りつけ、
あるいは帰り荷をひどい安値で買い取るといった
背任行為が一般に行われ、
『会社の利益』は顧みら
れることなく損益勘定も作成されず、ましてや資
本勘定も作成されなかった。わずかに負債だけが
共通に認められたにすぎない 7」という具合に、デ
ィスクロージャーが蔑にされ、取締役団による専
制が行われていたのです。これでは、期間損益計
算を行うという仕組みが成立しないことになり、
到底ゴーイング・コンサーンの前提条件が満たさ
れないことになってしまうため、株式会社の起源
としては、甚だ説得力に欠ける状況であったわけ
です。当時は、すでにイタリアで発展していた複
式簿記を導入することが不可能であったわけでは
ないので、明らかに取締役団は、会計操作を行う
意図があったとみなしてもよいでしょう。
配当の恣意性と投機の振り子
この恣意性は、配当に如実に現れました。利益
配当は、
「十七人重役会」の決議により行われたも
のの、配当自体は、利潤の高低とは、全く無関係
に、取締役団の私利によって恣意的に決定されて
いたのです。また、
「出資だけで取締役団の役得に
与れない不満分子を懐柔しようとしたがため 8」、
全体としてその配当率は不当に高く、蛸足配当の
傾向があったのですが、これもディスクロージャ
ーが不徹底であった専制体制がもたらした現象と
言ってもよいでしょう。しかし、このような不備
にもかかわらず、外部環境の良さ、すなわちスペ
インとポルトガルの商売と植民地を次々と奪い、
経営立地の良さから「東インド会社は巨利を博す
るのに慣れて地道な海運業をいやがり、独占貿易
の維持に精力を費や 9」すことで、わが世の春を謳
歌したのでした。
この行き過ぎた投機と会計操作は、現代の株式
会社制度の中でも発生しうるものであり、17 世紀
の株式会社の起源にだけを取り立てて指摘するの
も野暮なのではないでしょうか。むしろ、金融の
歴史は、欲望と合理性の間を振り子のように行き
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とするものではありません。ディスクレーマーの詳細はレポート巻末をご覧下さい。
TFJ
Bi-Weekly Monetary Affairs
つ戻りつしているものであり、欲望に振り子が振
れている時代には、会計ディスクロージャーの後
退と投機の加速現象が確認されるのが、経済社会
の性(さが)なのではないかと思えてなりません。
投機の加速とバーストが、やがて規制を強化させ、
時代とともに新たなる合理的とみなされる金融技
術革新をつくり、それがまた欲望のスイッチをオ
ンにしていくのでしょう。
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TFJ の
好評ニューズレター
お蔭様で大好評!
毎週金曜日配信です
<世界の空気を読む>
TFJ 世界潮流アップデート
17 世紀のオランダ東インド会社の場合には、オ
ランダの経済覇権の強まりというマクロ情勢の中
で、新たなる独占企業の設立という革新が、欲望
の渦を発生させ、投機と会計操作という現象を巻
き起こしていたと考えることもできるわけです。
その意味では、状況次第では、オランダ東インド
会社に見られた株式会社制度の不備は、現代にも
十分に発生する可能性があることを忘れてはいけ
ないのでしょう。
金融市場も国際情勢や欧米企業ファイナンス環境の
情報収集なしには理解できない時代です。FT
紙やエコノミスト誌、本邦論壇誌などから海外
情勢をピックアップ、TFJ 独自の観点から分
析・論評いたします。
(年間購読料 税込 21,000 円)
6 前掲書、大塚久雄(1969 年)328 ページ。
7 前掲書、高橋琢磨(1990 年)169-170 ページ。
8 前掲書、高橋琢磨(1990 年)169-170 ページ。
9 前掲書、岡崎久彦(1991 年)195 ページ。
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た。詳細お問い合わせは t-fj@rptech.co.jp
までご連絡下さい。
第 184 号(3 月 16 日号)の目次です。
A. 海外企業・市場のアップデート
◆
◆
◆
◆
ファンド巨額利益へ税率変更の動き
長寿リスクのインデックス誕生へ
サブ・プライム問題への過小評価
揺らぐ資本市場の判断価値基準
B. 国際政治経済のアップデート
◆
◆
◆
◆
中国が外準運用機関を設立へ
イラン国内での「石油危機」
好調な東欧経済のアキレス腱
ドイツ経済は好調継続へ
C. 論壇誌等より注目トピックス
◆
◆
◆
◆
◆
分散投資の限界
「PE ファンド」対「ヘッジファンド」
反グローバル化への対処法
米株ボラティリティは変化するか
「C-I-A」トライアングルの行方
D. ファンドビジネストピックス
E. 円建て海外株式運用利回り比較(2007 年)
F. エマージング株式市場(2007 年)
G. ヘッジファンド収益率状況(2007 年)
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TFJ
マーケットの視点
Bi-Weekly Monetary Affairs
3/23/2007
金融商品取引法と社債
(TFJ
証券取引法は、その対象とする範囲等を拡大
して「金融商品取引法」となる(今夏施行の予
定)。日本版SOX法といった捉え方もあるが、
これは新しい金融商品取引法の一部の側面を見
ただけに過ぎない。また、証券会社のみならず、
投資顧問業者等をも規制する法律に拡大され、
限定列挙の対象商品も大きく拡充されている。
今回は、金融商品取引法が社債に与える影響に
ついて、考察してみたい。
◆ 社債の定義(第 2 条第 1 項関係)
従来の証券取引法において、社債については、
第 2 条第 1 項において、
“この法律において「有価
証券」とは次に掲げるものをいう。”とする中で、
第 4 号に“社債券(相互会社の社債券を含む。以
下同じ。)”とあるものが根拠となっている。金融
証券取引法においては、基本的にこの箇所は維持
されているが、ただし、証券取引法時代に後に追
加挿入された第 3 号の 2“資産の流動化に関する法
律に規定する特定社債券”が、金融商品取引法で
は第 4 号となったため、旧第 4 号の社債に関する
規定は、第 5 号に繰り下がっている。
なお、新第 4 号に特定社債券が規定されているよ
うに、厳密な社債以外の「一般債」については、
他の複数の号に関係規定が見られる。第 2 号は“地
方債証券”であり、第 3 号は“特別の法律により
法人の発行する債券”であって、政府関係機関債
や金融債を指すものと考えられる。なお、電力債
は一般担保付きとなっており、電気事業法第 37 条
によって一般担保が認められているのであるが、
この規定はあくまで一般電気事業者の発行する社
債の社債権者について、
“その会社の財産について
他の債権者に先だつて自己の債権の弁済を受ける
権利を有する。”とするだけのものである。
第 11 号は、“投資信託および投資法人に関する
法律に規定する投資証券若しくは投資法人債券又
は外国投資証券”としており、最近の発行例が増
加している投資法人債を規定するものとなってい
る。第 17 号は、証券取引法第 9 号と同様に、“外
国又は外国の者の発行する証券又は証書で第 1 号
から第 9 号まで又は第 12 号から前号までに掲げる
証券又は証書の性質を有するもの”と、広く「外
もの」を規定している。なお、本号では、号数が
ずれたことに対応しただけでなく、証券取引法第 9
号で“外国又は外国法人の”とあった箇所が、必
ずしも「法人」でないものをも含む規定となって
いる。
◆ 特定投資家と一般投資家(第 34 条等関係)
社債(政府関係機関債や国債・地方債において
も)においては、公募債とは別に私募債とい
うカテゴリーが存在する。公募債と私募債の差
は、本来的には、募集等に際しての情報開示の態
様や募集対象の投資家範囲等であるが、結果
Page
シニア・リサーチャー
八須
賀雄)
的には、発行体によって異なるイメージとなって
いる。ただし、公募債発行企業が、条件等によっ
て私募債を選択する場合も存在する。
今回の金融商品取引法においては、私募の概念
の拡大・修正が盛り込まれている。従来の私募に
ついては、投資家の数を絞る少人数私募と、投資
家の規模等で縛る適格機関投資家私募(プロ私募)
の2つの概念が存在した。金融商品取引法におい
ても、適格機関投資家(有価証券に対する投資に
係る専門的知識及び経験を有する者として内閣府
令で定める者)の概念は存続しているものの、募
集等の局面においては、より広範囲のものである
「特定投資家」に代替されよう。
「特定投資家」とは、適格機関投資家及び国・
日本銀行の他に、内閣府令で定める法人(上場企
業等)、申し出により特定等しかとして扱われるこ
とを希望する中小法人等及び知識・経験及び財産
の状況に照らして特定投資家に相当すると認めら
れて申し出た個人を含む。内閣府令等で定める法
人は、基本的に特定投資家とされるが、個々の状
況に応じて一般投資家に移行することが可能(金
融商品取引業者に申し出)である。
個人については、金融商品取引業者が、申し出
によって、契約の種類ごとに、知識・経験・財産
等の要件確認義務を負い、法定の説明書面を交付
し、書面で確認を行うこととされている。一般投
資家から特定投資家へ移行した効果は、中小法人
等及び個人の両方について、1 年の時限的有効とさ
れており、毎年の更新を要する。
特定投資家概念の導入によって、
「適格機関投資
私募」とは別に「特定投資家私募」という概念が
成り立つ。特定投資家として“プロ”と同様に取
り扱って良い中小法人や個人投資家に対して私募
債の販売対象が拡大されることから、私募債市場
における投資家の裾野拡大が期待されるところで
ある。
この 10 年を見ても、私募債については、転売制
限の廃止等様々な自由化が図られ、同時に、アッ
プフロントでの手数料収入を好む金融機関が融資
から私募債へのシフトを推奨した結果、私募債市
場は大きく拡大している。特定投資家私募概念が
どれだけ市場に受け入れられるか、また、1 年ごと
の更新制度が的確に運営されるかといった懸念は
残るものの、私募債市場の拡大に資するものと期
待できるのである。
◆ その他
金融商品取引法への改正において、間接的に社
債市場に影響を与える修正項目としては、金融商
品取引業者への規制の整備・強化、商品ファンド
や匿名組合等の集団投資スキームへの対象範囲横
断化、金融商品販売法の拡充等が考えられる。法
施行後の状況について、引続き注視してみたい。
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アナリストの座標軸
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タウラの裏読み
(田浦
◆ インフレ期待の役割
金曜の金融市場が 2 月雇用統計を消化して
いた頃、「米国金融政策フォーラム」(U.S.
Monetary Policy Forum 2007)という、シカ
ゴ大学とブランダイス大学共催で、実務家・
学者、そして金融政策当局者が集まり、議論
をアカデミックに戦わせる会合があった
(Fed からは、コーン副議長、クロズナー理
事、ラッカー・リッチモンド連銀総裁、スタ
ーン・ミネアポリス連銀総裁が出席)。
その Fed 側の発言は、通信社のニュースで
も流れたものの、市場にはインパクトはなか
った。その基調報告は、Fed の政策当局者の
政策枠組の一つを批判したものであり、コー
ン副議長がそれに反論した形となっている。
そこで、本稿では、具体的にどういう点が議
論されたのか、少し詳細に論じる。
コーン副議長が反論している論文は、
(NY
連銀出身の)Cecchetti ブランダイス大学教
授や学者と民間エコノミストら 5 名が連名で
執筆した「インフレ過程の変遷を理解するた
めに」という、資料の詳細にちりばめられた
論文である。
様々な多国間の計量経済的分析を経て、現
下の Fed の政策との意味合いでのその論文の
中心的な主張は、「
『インフレ安定期』(と著
者らが名付ける、80 年代半ば以降のインフレ
安定期)以降、インフレ期待・予想は、実際
のインフレの趨勢の予測には一切役に立た
ない。したがって、Fed は、金融政策運営に
おいてインフレ期待にウェイトを置きすぎ
ると、将来インフレの振幅が再び大きくなる
危険を冒していることになる」というもので
ある。
さて、コーン副議長は、用意されたテキス
トで、自身の 1970 年代初頭からの Fed での
体験を踏まえ、反論している。本稿の問題意
識との関連で取り上げるべきは、
「Fed の政策
運営においては、期待は核心である」
・
「将来
に対する期待が、支出やインフレに影響する
金融環境を形成する」
・
「インフレ期待が遅行
指標という主張はあまり説得力がない」うえ、
「(上記論文の)執筆者らがいう、中央銀行
が過度に注意を払っているという主張には
同意できない」・
「(FOMC)声明文に見られる
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#3
哲哉
フィスコ
資本市場アナリスト)
ように、資源稼働率などにも注目してい
る」
・
「1970 年代の明白な教訓は、中央銀行は、
インフレ期待の持続的な動きに注意すべき
だということだ」としている。
「謙虚になるべきは・・・実証データの全
てを満足に説明するインフレの力学の一致
した構造モデルがないということ・・・現行
のインフレ期待の各種指数は、企業や家計の
インフレ期待の有効な指標か、それはどうや
って賃金や価格設定のダイナミックスに反
映されるか」まだ未知の部分が多い、と結ぶ。
インフレの起源・作用のメカニズムに関す
る様々な学派の理論を細大もらさず紹介し、
それに基づいた吟味をするのは、筆者の手に
余るし、紙幅の都合もあり出来るものでもな
い。両者の議論は、しかし、見かけほど隔た
りがあるものでもない。ここで、インフレに
関し、故フリードマン教授の、
「インフレは、
いつでもどこでもマネー的現象である」とい
う有名な格言と、インフレ過程において「期
待」が果たす役割が大きいことを強調したこ
とは、容易に想起できよう。
この二つの主張の基本的な部分における
正当性は今も失われていない。資源稼働率も
失業率も、期待を通じてしか賃金コストや価
格(転嫁)に反映されようがないではないか、
というコーン副議長の暗黙の主張は、この後
者の一点にかかっている。
そして、特に後者に関し、70 年代半ばから
のインフレ時代での期待の不安定化を受け、
1980 年代初頭までのマネタリスト的実験に
より、経済主体のインフレ期待を中長期的に
安定させることに成功し、その後もかなり明
示的にインフレの許容レンジにコミットす
ることで、経済主体のインフレ期待に働きか
けていった Fed のスタンスは、金融政策の成
功といってよいだろうし、過度な楽観を排除
しつつ、この枠組を維持することは当面有効
であろう(もちろん、労組組織率の低下、90
年代の生産性革命、グローバリゼーション、
金融自由化などが安定化のプロセスを補強
していったのではあるが、その寄与は、金融
政策のコミットメント強化に比し、二次的と
いえるかもしれない)。
ただ、筆者は、その生産・インフレの安定
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Bi-Weekly Monetary Affairs
が、アセット市場において、何故繰り返しバ
ブル的と呼べる状況の頻出を招いたか、そし
て、今さまざまなクレジット市場でそういう
状況が出現していないかどうか、に興味が湧
くのだが、これは別稿に譲りたい。
◆ ブラックストーンの株式公開
複数の報道によれば、プライベート・エク
イティ・ファンドという、現在の「過剰流動
性」の鬼っ子の筆頭格、ブラックストーン・
グループが株式公開を検討中という。報道は、
「検討中」ということで、確定ではないのだ
が、ニューヨーク・タイムズの報道によれば、
ブラックストーンは、運営会社の株式の 10%
程度を売り出す予定という。
ファンド改め会社の時価総額は 300 億ドル
以上となるという。筆者の、そして、メディ
アの一部の総括は、クレジット・パーティは
終わりを迎えつつあるのだろう、ということ
となる。
長年、株式市場の短期志向、SOX 法による
過剰規制や公衆の監視の厳しさのデメリッ
トを訴えてきたファンドが、自ら株式公開す
るというのは、一抹ブラック・ユーモアの味
わいがある。最近の Fortune 誌によって「ウ
ォール・ストリートの新しい王」というあり
がたい肩書をいただいた同ファンドのシュ
ワルツマン会長は、多くの指摘にあるように、
今を売り時、と考えている、ということなの
だろう。
それでなくとも、欧州でドイツの経済閣僚
から「いなご」、目下会合を開いている労組
団体からも「ガン」というレッテルも貼られ、
4 月 G7 では、ヘッジファンドに続き、監視、
あるいは規制の必要性への言及があると見
られている。
一方で、マクロ的にも、歴史的な低クレジ
ット・スプレッドの時代が少なくとも一旦終
わりをみる可能性が高まっている中、また、
借入とエクイティの税制アービトラージを
可能にする規制環境も変化を見せつつある
中、永久資金を入手して事業基盤を磐石とす
る機会を考えている、というのが一般的な解
釈である。
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れとみる人は多い。
しかし、筆者の見るところ、プライベー
ト・エクイティという事業は、確かに株式市
場の、プライベート・エクイティ側のいう上
記の一定の弊害はあれ、彼ら自身が、草創期
の企業に投資してその浮沈に大きく左右さ
れるベンチャー・キャピタルとは一線を画し
ており、ごく単純化すれば、事業やブランド
の確立した企業を、負債を負わせて買収し、
公衆に監視されないところでリストラし、そ
の後再び上場するという、公開市場を草刈り
場と考えている一面の強い、「ガン」とはい
わないまでも、寄生虫のようなタダ乗りの面
がある投資集団である。
このような投資手法が、限界的にはともか
く、のさばるようでは、株式市場の内なる衰
退を招くだけであろう。結局、彼らの投資手
法は、自分たちより愚かな投資家が大勢いる
公開株市場をうまく利用することに終始し
ており、今のところ、事業を育てる永続的な
資金・資本を提供する発想は、あっても、あ
くまで二次的なものでしかない。もちろん、
プライベート・エクイティがこのような投資
主体に発展してゆく・側面を強める可能性も
無論あるので、いたずらに批判のみすまい。
とはいえ、プライベート・エクイティの上
記の行動原理・精神に照らした場合、上場す
るのであれば、それは、再言めくが、やはり
愚かな投資家に高く自分たちを売ることが
最大の動機なのだろう、ということである。
狙われている最大の「アホ資金」(dumb
money)の提供者は、やはり一般大衆投資家
なのだろう。いい面としては、先だってのヘ
ッジファンド(Fortress)IPO ほどには事業
リスク(ボラティリティ)はないのだろうが、
彼らの事業の命運を決める最大要素である
クレジット・サイクルが変調の兆しを見せつ
つある今、筆者だったら、だいぶシビアなバ
リュエーションでしか買わないだろう。
この点、FT の報ずるところによれば、プラ
イベート・エクイティの雄 Carlyle のトップ
が、きたるべき減速時期に備えよ、と内部メ
モで警告したことを付言してとりあえず了
としたい。
今回の上場を、1999 年のゴールドマン・サ
ックスの上場とその数ヵ月後の IT バブル崩
壊になぞらえ、今すぐとはいわないまでも、
近々、メジャーな相場のトップが訪れる前触
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現代金融批評
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地域通貨の「通用力」
ポスト新自由主義への道
倉都
康行 (RPテック
代表)
◆ 漂流する GDP マシーン
本年 2 月末、上海市場で起きた 9%の株の暴
落は日本や欧米市場にも襲い掛かり、世界の金
融市場を震撼させた。但しその調整プロセスは、
リスク感覚が弛緩したバブル的リスクテイクへ
の警鐘との見方も多く、一時的な下げとしての
解釈が主流である。筆者も株価上昇過程の必然
的調整と見る立場ではあるが、この調整は意外
に尾を引く可能性も否定は出来ず、そこに潜む
本質的な現代資本主義の病巣の進展も決して無
視できない。
やや単純に言えば、現在の日本経済動向から
すれば日経平均はとっくに 20,000 円に達しても
おかしくないと考えるし、米国における不均衡
問題解消の糸口が見えないからと言って米国株
やドルが近々暴落するとも思っていない(但し
米株はあまり上昇余地はないと思うが)。中国や
インド株も、それなりに上昇カーブを継続する
だろうと考えている。つまり、経済環境の風向
きはそれほど変わっておらず、現代金融を支え
る資本主義システム自体も十分耐久性を維持し
ているものと見ている。
だがやや長期的に考えれば、米国が主導して
きた新自由主義的イデオロギーに基づく資本主
義は、徐々にその欠陥を露呈しつつ瓦解する方
向へ向かっているような漠然とした感覚を否定
できないでいる。それは単に年末に向けて景気
が後退するといった循環論でもなく、また決し
て資本主義そのものが崩壊するというものでも
ない。米国型とは違う資本主義が多方面からチ
ャレンジし始め、多種多彩な経済的イデオロギ
ーが林立していく時代の始まりにおいて、米国
が主導してきた新自由主義の綻びが露呈し始め
るというラフ・スケッチである。
に甘えて問題提起を先送りしている。あまりに
単純な対米追随による改革を狙った小泉政権と、
その保守反動ぶりが旗幟鮮明となってきた安倍
政権という新鮮味の無い政治体制の下で、史観
を踏まえた改革思想も真の保守思想もないまま、
まさに「太平洋に浮かぶ GDP マシーン」の如く
漂流し始めている。
余談ではあるが、ある経済学者が拙書「金融
史がわかれば世界がわかる」への書評の中で金
融を唯物史観ではなく市場構造史から見るアプ
ローチを評価してくれつつ「実は日本ではほと
んど経済学における保守主義などまともな形で
実現してはいないのだ」と指摘していたが、実
際にグローバリゼーションに名を借りた種々の
日本の政策は、過去における幾多の政府の失敗
を糧にして反動的に導入されたものに過ぎず、
保守思想と革新思想とが本格的に格闘した結果
ではなかったのである。ホリエモンに対する 2
年 6 ヶ月の懲役実刑が、そうした寂しさを一層
際立たせているようにも思える。
◆ 2006 年の教訓
思えば、昨年の 2006 年は、日本が資本主義と
真剣に向き合った最初の年として記録されても
良い年であった。楽天が TBS へ、村上ファンド
が阪神へ、ホリエモンがニッポン放送へとそれ
ぞれ触手を伸ばして旧来の伝統産業の経営陣の
心を揺さぶったが、それより重要だったのは、
彼等新興勢力によって各伝統企業における「資
本の意味と何か」という問題が浮き彫りになっ
たことであった。まさに資本主義の本質が問わ
れていたのである。
例えば欧州は、米国流の金融市場を導入しな
がらもその伝統的な社会福祉思想を決して捨て
ることはない。一方で、ロシアはプーチン流の
国家管理型資本主義を全面に打ち出しており、
中国も胡・温体制での新たな社会市場主義構想
を植え付け始めている。反米を鮮明にするベネ
ズエラなどの左翼政党やイランのようなイスラ
ム主義国もまた、独自の資本主義構想を建設し
ていく可能性もあるだろう。
だが議論は、資本主義の枠内で資本の論理を
肯定する意見と、資本主義の恩恵を忘れて資本
主義の短所を攻撃する批判とが、それぞれ自己
主張を繰り返してすれ違っただけであった。挙
句の果てに、品格という経済思想とは全く次元
の異なる言葉を持ち出して古き良き日本を称え、
盛り上がるかに見えたその資本主義論争は冴え
ない終焉を迎えてしまったのである。勿論それ
以降も企業の再編は起こったが、現代資本主義
を問い直すほどの意識の高まりは見られていな
い。
その中で日本だけが、米国追随の新自由主義
とカビの生えたような保守思想の不毛な対立の
中で、独自の経済思想を打ち立てられないまま
右往左往し、神風のように吹き続ける景気回復
その中で、新自由主義思想に沿った経済社会
作りは進んでいく。三角合併もその手段の一つ
である。海外ではヘッジファンドや PE ファンド
による金融市場のファンド化だけでなく企業経
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Bi-Weekly Monetary Affairs
済のファンド化も進み始め、こうした動きは「歴
史的進歩」であると信じて疑わない人々が、日
本もこうした金融構造を導入しなければ世界に
置いて行かれると主張する。
それに真っ向から反対するつもりははない。
ファンドの存在には合理性があり、企業買収も
経済成長過程の不可避的現象だと思う。日本金
融システムの発展の遅れは深刻であり、今後の
潜在的経済力を示現するためには、一層の改革
も必要なことは言うまでも無い。だが、その手
法が単なる米国追随で良いのかどうか、そろそ
ろ点検を始める必要もあるだろう。米国流資本
主義を支えてきた同国金融力に、様々な問題点
が噴出し始めているのがその理由である。
2006 年の資本主義の本質に迫るべき議論が中
途半端に終わったことで、日本は再び暗黒の経
済に向かう危険性を帯びている。現在の日本の
景気動向からすれば、かなり違和感を持たれる
読者も多い筈だ。だが、この景気サイクルが終
了するであろう数年後の問題として考えて見る
必要もある。過剰貯蓄の使い道がなく米国に流
入しているマネーが、米国の景気減退と途上国
におけるインフラ資金需要の高まりの同時発生
によって急激に逆流する可能性は小さくない。
SOX 法のように、一部の倫理感無き金融人の悪事
によって業界発展自体を抑制するような規制導
入に拍車がかかれば、米国金融が享受してきた
メリットは一瞬にして消滅しかねない。
仮に米国がこうした状況に見舞われて新自由
主義のイデオロギーに大きな疑問符が突きつけ
られた時、米国的思想に盲目的に追随してきた
日本が米国と同様に資本主義の座標軸を失って
右往左往する危険性は考えておく必要があろう。
マルクス主義からケインズ政策へ、そして新自
由主義へと米国を眺めながら簡単に思想転換し
てきた日本に、独自の経済思想を育む土壌は形
成されていないからである。
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笑い飛ばす人も多いだろうが、マルクス経済学
に出番はなくとも、マルクスによる経済学批判
はまだ輝きを失っていない。むしろ、マルクス
が観察した当時の英国資本主義はいわば原始的
な形態の資本主義であり、彼が処方箋を間違え
たのは無理からぬ結末であったとも言える。む
しろ、現代の新自由主義に基づいて成長を遂げ
る現代資本主義こそが、マルクスの批判したか
った経済イデオロギーなのではないか、とさえ
思えるのである。
マルクスは商品交換の概念を拡大して、資本
が労働や土地を商品化して生み出す「剰余価値」
に着目しその分配のあり方を通じて経済拡大プ
ロセスにメスを入れた訳だが、現代においては
資本が生み出す「余剰資本」はどういう価値を
持つのか、その源泉は一体何なのか、といった
本質の分析を迫られているようにも思える。
余剰資本とは、まさに経済と金融が折り重な
る分野での研究課題であり、それは資本主義を
冷酷に見つめる社会思想の視点から語られなけ
ればならない。近代史において、資本主義を最
も客観的にそして徹底的に分析したのは誰あろ
うマルクスその人であった。
経済が成熟期に入ったと思われる現代におい
て、余剰資本が合理性を求めて市場を駆け巡る
時それは人々に何をもたらすのだろうか。これ
はあまりに大きな話である。今回はそうした問
題意識を提起するに止め、折に触れてそうした
観点から新自由主義への批評を論じていくこと
にしたい。
◆ マルクスは現代をどう見るか
筆者はマルクス主義者でもなく社会主義思想
に幻想を抱く者でもない。やはり経済社会は市
場機能をベースにした資本に立脚したシステム
であるべきだという立場を取る。但し現代の、
純度を上げ続ける米国流資本主義体制には幾許
かの不安と懸念を抱いている。同時に、そうし
た社会を批判的に見るためには、従来の市場主
義的立場ではなかなか切り口が掴めないという
苛立ちも抱いている。
そこで頭に浮かぶのは、マルクスならば今の
資本主義をどう観察したか、という問題意識で
ある。今さらマルクスの出番などあり得ないと
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Bi-Weekly Monetary Affairs
3/23/2007
編集ノオト
2 月末の世界同時株安は、米国のサブプラ
イム問題を乗り越えられるかどうか、微妙な
時期に差し掛かっているようだ。筆者は
Credit に影響が無い限り金融市場の動揺は起
こりえないと述べてきたが、米国 New Century
の経営不安を契機に Mortgage 債市場にイン
パクトが生じ、サブプライム・ビジネスに深
入りしている投資銀行への財務懸念が生まれ、
ミクロ水準にまで縮小していた CDS 市場でも
各セクターで買い戻しが起き始めている。
ディスクレーマー(ご購読に際してのお断り)
TFJ Bi-Weekly Monetary Affairs は RP テック株式会社
(以下「弊社」)との購読契約に基づいて配布してお
ります。
無断複製禁止
有償、無償を問わず他人への譲渡、
複製の作成を禁じます。
無断転載禁止
本レポートに掲載されている情報、
データなどの著作権は弊社に帰属します。無断転載
はお断りいたします。
思えば昨年は、Equity も Credit も区別な
く順風満帆の世界に浸ってきた。過剰流動性
を合言葉に Goldilocks の継続を信じて金融
市場におけるリスク感覚はやや弛緩した。だ
がスープは冷めつつあるのかもしれない。
Greenspan 前議長の 1/3 の確率で米国は景気
後退入り、というご宣託は本音が洩れたもの
だろう。FRB のバイズ理事も警戒感を強めて
いる。
本レポートは、情報提供のみを目的として作成され
ており、金融商品の売買勧誘を目的とするものでは
ありません。弊社は、本レポートの法律上、監査上、
税務上及び会計上の側面に関していかなる助言もし
ないことにご留意ください。
本レポートの情報は、弊社が信頼に値すると判断し
た情報源に基づくものですが、当該情報は独立に確
認されてはおらず、弊社は、当該情報が正確である
こと若しくは完全であることについても、過失その
他の理由により本資料に含まれるかもしれないいか
なる誤りについても、また理由の如何を問わず本レ
ポートの全部又は一部に依拠した者が被った如何な
る損失についても、一切の責任を負わないことをご
了承ください。
Equity の下落には一定の歯止めがかかるだ
ろうが、Credit のコストは一気に上昇するか
もしれない、との見方も出始めている。これ
が一番危険なシナリオである。Equity は業績
修正に沿って通念的な PER 水準での下落修正
に止まるが、Credit は論理が効かない未曾有
の水準にあるため、その戻りの動きが激しく
なる可能性が高い。通念的な負債コスト水準
で言えば、数パーセント単位でも動きうる。
負債残高でこれだけ動くと、企業全体のコス
トとしては大打撃となりうる。
勿論、現時点では確定的な見取り図が書ける
ほどの景気後退感はない。但し Credit 市場の
急変が経済潮流を変えうるというリスクに無
防備になってはならないだろう。米国に関し
て言えば着実にそのシナリオ確率は高まって
いる。それがどこまで波及するのかはまた別
問題であるが、怖いのは巨大化した様々なフ
ァンドへの影響である。
筆者はファンドの行動原理を全面的に支持
する訳ではないが、その存在は市場機能の一
部として肯定的に見ている。但しその存在を
市場が支えきれなくなるならば、それもまた
別問題である。(Q)
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Tokyo Financial Journal
編集人 倉都 康行
発行
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