Embargoed Advance Information from Science

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The Weekly Journal of the American Association for the Advancement of Science
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Science 2010 年 6 月 18 日号ハイライト
正確な古代エジプト年代記の完成
インフルエンザウイルスはブタで勢力増強?
脂肪細胞が導く希望の光
熱として逃げるまえにエネルギーを捕獲
正確な古代エジプト年代記の完成
Nailing Down Ancient Egypt's Chronology
数千年もの間、地中海世界を支配していた古代エジプト。古王国時代、中王国時代、新
王国時代を統治した王たちの治世の年表作成が懸命に進められている。これまでに完成
した年表は、相対年代の点ではかなり正確ではあるものの、特定の出来事の絶対年代を
決定する作業については議論の的であった。今回、古代エジプトの短命植物の遺物を詳
しく放射性炭素分析することで、正確な長い古代エジプト年表が完成した。それはこれ
ま で の 大 半の 説 と 一 致し て い る が、 部 分 的 に歴 史 を 修 正す る 必 要 が生 じ て い る。
Christopher B ronk R amsey と国際研究チームは、古代エジプトのそれぞれ王の治世と直接
ゆかりのある博物館の所蔵品、種子・かご・織物・植物の茎・果実などの 211 種類の植
物試料で放射性炭素年代測定を行った。次に、この放射性炭素データを王の治世の順序
や期間に関する歴史的情報と照合し、古代エジプト王朝の完璧な年表を作成した。Bronk
Ramsey らの作成した新しい年表によると、一部の出来事はこれまでの説より早い時代に
起きている。たとえば、古王国時代のジェセル王の統治は実際には西暦紀元前 2691~
2625 年に、新王国時代は紀元前 1570~1544 年に始まった。Bronk Ram sey らは、ナイル
渓谷については若干の放射性炭素年代測定値の食い違いを認めているが、その原因は古
代エジプトで冬期に集中する生育期の異常にあると述べている。Perspective 記事では
Hendrik Bruins がこれらの研究成果とその意義について詳しく説明している。
Article #19: " Radiocarbon-Based Chronology for D ynastic Egypt," by C. Bronk R amsey; M.W.
Dee; J.M. Rowland; T.F.G. Higham; S.A. Harris; Fiona Brock at University of Oxford in Oxf ord,
UK; A. Qu iles at (CEA)ñ Saclay in Gif- Sur-Yvette, France ; A. Qui les at Uni versitÈ Paris VIIDiderot in Gif-Sur-Yvette, France; E.M. Wild at Universitaet Wien in Wien, Austria; E.S. Marcus
at University of Haifa in Haifa, Israel; A.J. Shortland at Cranfield University in Swindon, UK.
Article #3: "Dating Pharaonic Egypt," by H.J. Bruins at Ben-Gurion University of the N egev in
Sede Boker Campus, Israel.
インフルエンザウイルスはブタで勢力増強?
Influenza Virus Gaining Power in Pigs?
香港の屠殺場に運ばれたブタを調べることによって、2009 年から大流行している H1N1
インフルエンザウイルスが、この 1 年半の間に、ブタの体内で遺伝子を組換えたことが
明らかになった。今後さらに遺伝子「再集合*」が起こり、最終的にはヒトに有害な別の
インフルエンザ株が出現する可能性があるため、研究者は懸念を抱いている。この事実
を発見した Dhanasekaran Vijaykrishna らは、ブタの世界的監視を強化する必要性を訴えて
いる。Brevium で、著者らは今年 1 月に H1N1 ウイルスの新たな遺伝子再集合を確認し分
析した結果、それが H1N1/2009 ウイルス由来であることが判明したと述べている。また、
ブタへの H1N1/2009 ウイルスの侵入によりウイルスが自らの遺伝子を組換えることがで
きたことを示唆し、ブタの体内でさらに 010H1N1 ウイルスの遺伝子再集合が起これば、
ヒトに対して有害なウイルスになりうると警告している。Vijaykrishna らは、H1N1 イン
フルエンザウイルス新株で同定した遺伝子 8 個の特徴を完全解明すべきであると強く主
張している。そうすれば、新たな遺伝子再集合を迅速に確認・同定できるであろう。
*再集合:同じ細胞に異なる 2 種類のウイルスが同時に感染した場合に、感染細胞内で新
しい遺伝子組み合わせのウイルスが生まれること。
Article # 12: "Reassortment of Pan demic H 1N1/2009 In fluenza A Vi rus in Swi ne," by D.
Vijaykrishna; L.L.M. Poon; H.C. Zhu; S.K. Ma; O.T. W. Li; C. L. Cheung; G.J.D. Smith; J.S. M.
Peiris; Y . G uan at U niversity of H ong Kong in H ong Kong, China; D. V ijaykrishna; H .C. Zh u;
G.J.D. Smith; Y. Guan at Shantou University Medical College in Shantou, China; D. Vijaykrishna
at Duke-NUS Graduate Medical School in Singapore, Singapore.
脂肪細胞が導く希望の光
Fat Cells' Silver Lining
科学者らは、脂肪細胞によって生成されるタンパク質 ―― 脂肪細胞によって作られるそ
の他の多くのタンパク質とは異なる ―― 代謝の健康に有益な効果を持つタンパク質を発
見した。このタンパク質は Sfrp5 と呼ばれ、新薬として利用する方法が見つかれば、肥
満が原因となる II 型糖尿病のような代謝性疾患の治療に役に立つのではないかと思われ
る。脂肪細胞から分泌される「アジポキニン」のほとんどは炎症およびインスリン抵抗
性を促進する。これは、肥満体のヒトでは II 型糖尿病などの代謝性疾患が発症し易くな
る主な原因のひとつである。Noriyuki Ouchi らは新たなアジポキニンを求めて、痩せたマ
ウスと肥満マウスそれぞれの脂肪組織の遺伝子発現プロフィールを比較した。著者らは、
肥満マウスから採取した脂肪組織に加え、肥満体のヒトの腹部脂肪の生検にも Sfrp5 が
多く含まれていることを発見した。肥満マウスでは、Sfrp5 が脂肪組織内に存在するマク
ロファージと呼ばれる重要な抗炎症細胞の活性を抑制しているが、これは JNK シグナル
経路を阻害することで行われていると考えられた。Sfrp5 と JNK シグナル分子の間の相
互作用についてのさらなる研究が進むことで、肥満が関与する代謝性疾患を治療する薬
剤の開発に向けた新たな機会が得られるかもしれない。
Article #29: "Sfrp5 Is an Anti-Inflammatory Adipokine That Modulates Metabolic Dysfunction in
Obesity," b y N. Ou chi; A. Higuchi; K. Ohashi; Y. Oshima; N. Go kce; Y. Akasak i; K. Walsh at
Boston University School of Medicine in Boston, MA; R. Shibata at Nagoya University Graduate
School of M edicine in N agoya, J apan; A . Shim ono at N ational University of Singa pore in
Singapore, Singapore.
熱として逃げるまえにエネルギーを捕獲
Capturing Energy Before It's Wasted as Heat
通常、太陽電池パネルからは過剰エネルギーが熱として放出されるが、そのエネルギー
を有する電子を捕獲する方法が開発された。あとはその過剰エネルギーを回路内へ導く
方法が見つかれば、太陽電池の性能向上につながるという。現在一般に使われているシ
リコン太陽電池の場合、ある閾値以上のエネルギーは急激に弱まるために従来の物質で
は捕獲できないこともあって、理論上は受けた光のうちせいぜい 31%しか捕獲できない。
William Tisdale らは、セレン化鉛ナノ結晶内の電子が光吸収によって励起したあと、過
剰エネルギーが熱として失われるまえに、隣接する二酸化チタン表面へすばやく移動す
るのを観察した。彼らの実験により、通常は失われてしまう高温電子(電荷)を適切な
電子受容体で実際に捕獲して、そのエネルギーを利用できることが立証された。今後、
こうした電子の高速移動が太陽電池内で実現すれば、太陽光から電気への変換効率は理
論上 66%まで上昇するという。
Article #16: " Hot-Electron Transfer fro m Sem iconductor N anocrystals," by W.A . Tisda le; K .J.
Williams; B.A. Ti mp; D.J. Norris; E. S. Ay dil; X. -Y. Zhu at University of Min nesota in
Minneapolis, MN; K.J. Williams; X.-Y. Zhu at University of Texas, Austin in Austin, TX.