シティグループ証券寄附講座「グローバル金融市場論」 国際金融論 2011年6月23日 シティグループ証券株式会社 東京都千代田区丸の内1丁目5番1号 新丸の内ビルディング シティグループ証券株式会社取締役副会長 シティ資本市場研究所理事長 藤田 勉, Ph.D. +81+81-3-62706270-4885 tsutomu.fujita@citi.com 本資料はシティグループ証券が情報提供を目的として作成したものであり、投資に関する助言又は金融商品の売買の勧誘を意図したものではありません。 1 高まる国際金融市場の重要性 1. 為替制度の歴史的変遷 ブレトンウッズ体制→先進国の変動相場制→新興国を含む変動相場制。 かつては、為替相場の急変動が世界経済に影響を与えた。例:1971年ニ クソンショック、1985年プラザ合意。 2. 拡大する国際金融市場 1997年アジア危機以降、金融取引の世界経済に対する影響が増大。 グローバル化の進展により、国際的な資金移動が増大。実体経済よりも、 金融市場の成長率が高い。 IT技術の進歩と新興国の成長により、高度化、複雑化、多様化。例:1998 年LTCM危機。2005年以降のサブプライムローン。 3. EUの出現とユーロの誕生 米国を凌ぐ、世界最大の経済圏。歴史が浅いため、制度が未成熟。 2 国際金融市場の経済に対する影響 1. 直接金融システムが発達しているアングロサクソン諸国の時価総額対名 目GDP比率は相対的に高い。その上昇率も高い 2. 非アングロサクソン系の日本(0.52倍)、フランス(0.45倍)、イタリア(0.18 倍)、ドイツ(0.30倍)の株式時価総額はGDPの半分以下(スイスは例外)。 3. ニューヨーク、ロンドン、香港など金融センターを持つアングロサクソン法 体系の国の優位。成長性の高いインド、カナダ、オーストラリア、シンガ ポールも英米法体系。大陸法体系の国の東京、フランクフルト、チューリッ ヒの優位性が低下。 世界の主要国の時価総額とGDP GDPの構成比 の構成比 世界の主要国の時価総額と 各国(証券取引所別)時価総額 の推移 各国(証券取引所別)時価総額((対名目GDP) 対名目GDP)の推移 (倍) 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 増減(2010-1990) 英国 0.84 1.16 1.76 1.34 1.61 0.77 米国 0.54 0.93 1.53 1.38 1.18 0.64 日本 0.96 0.67 0.68 1.05 0.75 -0.21 ドイツ 0.23 0.23 0.67 0.44 0.43 0.20 世界 0.40 0.58 0.96 0.95 0.87 0.47 注:左右の表の時価総額の出所は異なるため、時価総額対GDP比率の数値は若干異なる。 出所: IMF、World Federation of Exchanges、シティグループ証券 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 米国 日本 英国 カナダ フランス オーストラリア ドイツ スイス 中国 韓国 世界 時価総額 名目GDP 時価総額/GDP (10億ドル) (倍) 構成比 (10億ドル) 構成比 14,187 42.0% 14,658 23.3% 0.97 2,856 8.5% 5,459 8.7% 0.52 2,675 7.9% 2,247 3.6% 1.19 1,578 4.7% 1,574 2.5% 1.00 1,160 3.4% 2,583 4.1% 0.45 1,148 3.4% 1,236 2.0% 0.93 999 3.0% 3,316 5.3% 0.30 994 2.9% 524 0.8% 1.90 806 2.4% 5,878 9.3% 0.14 718 2.1% 1,007 1.6% 0.71 33,750 100.0% 62,909 100.0% 0.54 3 注: 時価総額(浮動株ベース)は2010年末、名目GDPは2010年。 出所: S&P Global Equity Indices、IMF、シティグループ証券 欧州の金融危機は長期化しよう 1. ギリシャ、アイルランドにとどまらず、ポルトガルも危機に直面。 2. ギリシャは債務不履行、公的債務ヘアカット実行へ。先進国の債務不履行 は、1949年西ドイツ以降、発生していない。 3. ギリシャ、アイルランド、ポルトガルのEUのGDP構成比は合計で4.6%。 4. スペインは5番目に大きい8.7%(ユーロ圏GDP構成比は11.8%、ドイツ、フラ ンス合計で48.4%)。 ドイツ国債スプレッドの推移 ドイツ国債スプレッドの推移 欧州主要国のGDP 構成比 欧州主要国のGDP構成比 (%) ドイツ フランス 英国 イタリア スペイン オランダ スイス スウェーデン ノルウェー デンマーク ギリシャ ポルトガル アイルランド ユーロ圏 EU27GDP構成比 20.4 15.9 13.8 12.6 8.7 4.8 3.2 2.8 2.5 1.9 1.9 1.4 1.3 74.9 2010 3.5 1.4 1.3 1.2 -0.1 1.8 2.6 5.3 2.1 2.1 -4.4 1.3 -1.0 1.6 (ppt) 14 2011E 3.5 2.0 1.8 0.8 0.3 2.7 3.1 5.0 3.2 2.1 -3.7 -2.1 0.5 2.1 2012E 2.5 1.7 2.6 1.0 0.2 1.8 2.4 3.3 3.3 2.1 -2.2 -1.9 1.9 1.6 13 12 11 10 ギリシャ スペイン ポルトガル イタリア 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 2008 注:CIRA予想。アイルランドのみIMF予想。GDP構成比は2010年。 出所:政府統計、IMF、Willem Buiter, “Global Economic Outlook Strategy”, CIRA, May 25 2011、シティグループ証券 アイルランド 2009 2010 2011 4 出所:データストリーム、シティグループ証券 EU通貨政策の構造問題 1. EU加盟国は27ヵ国、ユーロ加盟国は17ヵ国。10ヵ国が「適用除外」。 2. EU加盟国15ヵ国中11ヵ国が1999年に自国の通貨を永久に放棄。ユーロを 採用。ユーロ離脱の仕組みはない。EU離脱が必要。 3. EU加盟国は、経済収斂義務、法制度の整備の条件を満たした上で、ユーロ 導入の義務がある。 4. 経済水準の高いイギリス、スウェーデン、デンマーク(スイス、ノルウェーは EU非加盟)はユーロ未加盟。1992年ポンド危機、北欧金融危機。 5. 2004年EU拡大(東欧12ヵ国が新加盟)→ユーロ拡大。 6. スロヴェニア(2007年)、キプロス、マルタ(2008年)、スロバキア(2009年)、エス トニア(2011年)がユーロ参加。今後、東欧7ヵ国が参加の見込み。 7. トルコ、マケドニア、クロアチア、アイスランドがEU加盟準備。旧ユーゴ5ヵ国 も加盟へ。 8. ユーロ圏GDPの48%を占めるドイツ、フランスに過度な負担が生じやすい。 5 *EUウェブサイト参照 EUの起源 1. 長年に亘る独仏の戦争(百年戦争、ナポレオン戦争、普仏戦争、第一次世 界大戦、第二次世界大戦)。 2. 独仏間には、川や山などの自然の国境線がない。特に、19世紀以降は、 石炭、鉄鉱石の産地であった独仏国境をめぐる争いが激化。 3. 「最後の授業」の科目は何か?欧州議会は、元々、ドイツ語圏であるアル ザス・ロレーヌ地方(現在フランス)のストラスブールにある。 4. 1946年、チャーチル英国首相が、ヨーロッパ合衆国構想を発表。 5. 1952年欧州石炭鉄鋼共同体(フランス、ドイツ、イタリアなど6ヵ国)→1958 年欧州経済共同体(EEC)→1967年欧州共同体(EC)→1993年欧州連合 (EU)。現在は、27の加盟国を持つ。 6. ドイツのユーロ離脱は、EU離脱を意味し、同時に、EUとユーロの崩壊に直 結するリスクがある。 7. 経済よりも、政治や安全保障が優先されることがある。 6 *EUウェブサイト参照 ユーロ下落の影響 1. ユーロ全体が緩やかに下落して、ドイツ、フランスの輸出が増加し、欧州の 景気が回復。 2. ユーロの実効為替相場は下落しているものの、歴史的水準としては十分安 いとは言い難い。 3. ドイツの経常黒字は、2010年前年比5.8%増の1,414億ユーロ(対GDP比 5.7%)。2010年の経済成長率3.5%(内需は1.9%成長)。 (%) ドル、円、ユーロの実質実効為替相場の推移 120 米国、ドイツ、スペインの経済成長率の推移 米国、ドイツ、スペインの経済成長率の推移 10 米国 8 110 ドイツ スペイン 6 100 4 90 2 0 80 -2 円 70 ドル -4 ユーロ 60 -6 1999 2001 2003 2005 2007 注: 1998年末=100。 出所: FRB、ECB、日本銀行、シティグループ証券 2009 2011 2001 2002 2003 2004 2005 注: 四半期ベース。前年同期比。 出所: Eurostat、BEA、シティグループ証券 2006 2007 2008 2009 2010 7 2011 本日のまとめ 結論1:国際金融論の主な領域が変化した。 20世紀は、ブレトンウッズ体制以降のドルを機軸とする先進国通貨の為替相 場や国際収支の分析が研究の中心。 現在では、国際金融秩序の維持が大きな研究テーマとなりつつある。1990年 代以降、IMFによる通貨危機、金融危機の介入が成功し、国際機関の役割が 増大しつつある。 結論2:国際協調の必要性が高まる。 IMFのみならず、主要20カ国財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)、金融安定 化理事会(FSB)の役割増大。金融システムの健全性の維持を目的とするプ ルーデンス政策の重要性が高まる。 金融機関の自己資本規制(バーゼルⅢ)、国際会計制度改革(IFRS)などの 改革。 本格的通貨統合(ユーロ)が実現。 8 本資料は当社内のシティ資本市場研究所が作成したものであり、他の第三者に過去に提供された他の資料の抜粋を含む可能性があります。本資 料は、当社又はその関係会社が作成配布したリサーチレポートに言及している可能性がありますが、本資料は調査部門が作成したものでなく、本資 料に記載された情報は、適用される規制当局により定義された「アナリストレポート」及び「リサーチレポート」に該当することを意図しているものでは ありません。本資料に記載された情報は、一般的に入手可能な情報であり、信頼に足ると思われる情報源から入手したものですが、正確性及び完 全性を保証するものではありません。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の利用者の投資目的、財務状況、資力を考慮しておりません。 本資料は、投資に関する助言又は金融商品の売買の勧誘ではありません。先物、オプション、高利回り証券を含む特定の取引又は取引戦略は、相 当のリスクを内包しており全ての投資家に適したものではありません。直接、間接、派生的を問わず、本資料に記載された情報の使用により又は本 資料に起因する損失に対して、当社は一切の責任を負いません。当社は、税務及び法律の助言を行うものではありません。お客様におかれまして は、ご自身の税務及び法務アドバイザーより助言を受けた上で、ご自身の目的、経験、資力に基づく投資判断をなさるようお願いいたします。本資 料に含まれる資料、記述、情報は当社に帰属するものであり、著作権その他の知的財産に関する法律によって保護されます。いかなる目的におい ても他者への転送、再配布を行うことはできません。 Copyright © Citigroup Global Markets Japan Inc. 2011. 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