共生・共助の「福祉国家」構築をめざして ① 徹底的に歳出内容を見直したうえで、税金と保険料の 「公平な負担」構造を構築する。 ② 国や地方自治体の「公的責任と役割」を明確にし、ナショナルミニマムを向上・堅持する。 ③ 「共生・共助」の考え方を、社会保障制度や雇用政策、地域社会に浸透させる。 ■ 安心が遠のく社会状況 景気の回復基調は、昨年も定 まらなかった。ニートと呼ばれ る若年やパート労働者が増加 し、終身雇用は昔話。大規模な自 然災害や凶悪犯罪も続発した。 将来を見ても、人口減少社会 における低成長や産業分野を超 えての労働移動、国と地方財政 の破綻、エネルギー源の欠乏な ど、不安材料が溢れている。 このような時こそ、政治の役 割は大きい。小泉改革への国民 の支持は衰えないが、いったい 日本社会をどこに導こうとして いるのか。民主党は、対抗軸を どこに置くのか。そんなことを 考え続ける1年だった。 ■ 福祉国家像の再構築を 戦後の日本社会は 「福祉国家」 を目指してきた。 しかし、与党や官僚機構によ る恣意的な配分構造 (バラマキ、 利益誘導など)の結果生じた国 家財政の行き詰まりは、「大き な政府」 「高福祉の弊害」 と、批判 の矛先を福祉国家に向けさせた。 安心して暮らせる社会をめざ して、「福祉国家」の理念を明確 にする必要がある。 ■ 際限ない「給付削減」 政府の社会保障政策から、小 泉改革とは何かを考えてみる。 政府は、当面の改革期間を、 「団塊の世代」がほぼ消失する 2025年までと定め、次のような 方針を定めている。 まずは給付の抑制である。社 会保障経費の伸びを、国民所得 の伸びの範囲内に収めるとの大 方針の下で、理念のないままに 給付抑制が繰り返される。 04年年金改革では、給付額の 抑制はできても、頼りになる年 金額ではなくなってしまう。 介護保険の「見直し」でも、軽 度者への給付は抑制される。 「地 方にできることは地方に」の聞 こえのいい「三位一体改革」の本 質は、社会保障・福祉における 国の責任の放棄と、地方への押 し付けである。「民間でできる ことは民間で」も、公的責任の 放棄という側面がある。 いま求められているのは、国 や地方自治体の「公的責任と役 割」を明確にし、あわせて「ナシ ョナルミニマム」を向上・堅持 する努力である。 ■ 社会保険方式への依存 社会保障財源の確保のために 消費税等の増税がやむを得ない 事態だが、まず歳出構造の見直 しと、無駄な支出の徹底的な排 除がなされるべきであることは 当然である。 しかし、縦割り行政の弊害を 温存する形で、政府は「ペイ・ アズ・ユウ・ゴー」を唱える。す なわち、歳出増となる場合は、 自ら歳出削減で確保するか、歳 入増の途を切り開けという。 このため、厚労省は独自財源 としての社会保険料の引き上げ に躍起となる。その結果、年金 制度の抜本改革への第一歩であ る「基礎年金税方式」は採用しな い。介護も高齢者医療も、さら には子育て支援も、すべてが社 会保険として構築されることに なる。 社会保険方式の是非を、負担 者の範囲と負担の限界、企業負 担のあり方など、負担構造の面 から徹底的に議論すべきである。 ■ 応益負担と応能負担 負担増では、「応益負担」原則 が強化される。このことは、障 害者支援費制度や三位一体の改 革に伴う地方への財源移譲に関 する議論の中で明確になった。 受益者が一定割合を負担すべ きだという考えは理解できなく もないが、所得に関係なく一律 に負担を求めることが妥当でな いことに異論はないだろう。 所得に応じた「応能負担」が原 則とされるべきだし、その前提 として、就業形態に左右されな い所得捕捉と賦課の構造(公平 で公正な税負担)が整備される べきである。いつまでも「自営業 者は所得捕捉ができない」と言 い訳することは許されない。 ■ 働き方の見直しも不可欠 働き方や職場の変革も、福祉 国家には欠かせない要因である。 政府は派遣や有期雇用への誘 導策を講じてきたが、その場合 は、パートと正社員の均等待遇 が前提となるべきである。 また、長時間労働からの解 放、女性の「M字型」雇用の解消 などに国を挙げて取り組まない といけない。 企業活動を妨げることはでき ないといっている間に、ニート やフリーター、パート労働者は 増えるばかりである。このまま では、日本社会は引き返せない ところまで行ってしまうのでは ないか。 ■ 共生・共助への転換を いずれにしても、情報公開が されないままに、競争に重きを 置き、 「自助・自立」 を強調して、 対処療法を繰り返している小泉 政権では、福祉国家は遠のくば かりである。 地域や職場での共同体意識は 薄れていく一方だが、いま一 度、「共生・共助」の社会を目指 すべきではないか。そこに、日 本社会活性化への道筋があるは ずだと考える。 読者の皆さんから、ご意見、 ご批判をいただければ幸いだ。
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