項目と背景写真の適合性が文脈依存再認弁別におよぼす効果 ○松田祐貴1 1 静岡大学大学院情報学研究科 漁田俊子2 漁田武雄3 2 静岡県立大学短期大学部 3 静岡大学情報学部 Key words: context-dependent recognition, back ground picture, sensitivity 再認における環境的文脈依存効果を説明する理論として ICE 序及び組み合わせは,実験参加者間でランダムに変化させた。 (item-context-ensemble) 理論があげられる。ICE 理論によれば, 緩衝課題では,計算課題を5分間行わせた。 項目と文脈は独立に処理されると予測し,項目と文脈が一緒に提示 テストフェーズでは,60個の旧項目に60個の新項目を加えた計 されたという経験がアンサンブル (ensemble) として統合され,ア 120項目を1項目ずつ提示した。実験参加者は,提示された項目が学 ンサンブル情報として記憶される。アンサンブルとは,項目と文脈 習フェーズにあったかなかったかを, 項目の下に提示した 「あった」 , との間に形成される有意味情報であり,絵画や写真などの意味内容 「なかった」のボタンをマウスでクリックすることで回答した。ど (meaningful content) が多い文脈であるほど形成されやすく,コ ちらかのボタンをクリックすると「次へ」が表示され,「次へ」を ンピュータディスプレイの背景色・前景色・提示位置を組み合わせ クリックすると項目が切り替わり,切り替わった項目の回答をして た単純視覚文脈 (simple visual context) など,意味内容が少ない もらった。また,テストフェーズは制限時間を設けず実験参加者の 文脈ではアンサンブルは形成されにくいと考えられている。 ペースで行わせた。実験終了後,学習や再認方略に関する内省報告 しかし,ICE 理論を実証した Murnane et al. (1999) の実験は, 質問紙に記入させた。 結 果 意味内容が多い文脈として,項目を提示するのに適している画像 (sensitive 画像; e.g., 教室の黒板に表示,道路の標識に表示) が用 実験結果を Figure1 に示す。CRS とは,再認弁別における指標で いられていた。これは,意味内容が多い文脈を用いるという操作と, ある。CRS ではテスト文脈の主効果[F(1,33) = 5.69, MSE = 3.23, p 項目と文脈をマッチさせるという操作の 2 つが交絡していたとい < .03]と交互作用[F(1,33) = 20.65, MSE = 3.23, p < .02]がともに有意で えよう。ICE 理論が正しく,意味内容が多い文脈がアンサンブル形 あり,文脈の種類の主効果[F(1,33) = 1.17, MSE = 3.23, p > .2]は有意 成をさせやすいのならば,sensitive 画像を用いる必要はなく,項 ではなかった。交互作用が有意であったので下位検定を行った。下 目を提示するのに適していない画像 (insensitive 画像; e.g., 浴槽 位検定の結果 sensitive 条件では文脈の単純主効果が有意であっ の中に表示,畳の上に表示)でも,アンサンブルは形成できるはず たが[F(1,33) = 13.28, MSE = 3.23, p < .01],insensitive 条件では有意 である。 でなかった[F < 1]。 本研究は,意味内容の豊富さだけでなく,画像が sensitive か insensitive かも,アンサンブルの形成に影響するか否かを検討し 考 察 本研究は文脈依存効果を引き起こすのは sensitive な画像であり, た。そのために,sensitive 画像と insensitive 画像を用いて条件を insensitive な画像ではたとえ,意味内容が多い文脈だとしても文脈 設定し実験を行い,それぞれが文脈依存効果に与える影響を調べた。 依存効果を生じさせるわけではないということを見出した。これは, 方 法 意味内容が多い文脈ほど文脈依存効果を生じやすいと予測する 実験参加者 静岡大学心理学関連科目受講生 34 名が参加した。 ICE 理論に疑問を投げかける結果となった。このことから,意味内 材料 熟知価が 3.50 以上のカタカナ 3 音節綴り(小柳・石川・ 容が多い文脈としても,無条件で項目と文脈が連合しやすくアンサ 大久保・石井, 1959)をひらがな表記したもの 120 個を,相互に無 ンブルを形成しやすいのではなく,項目と文脈に何かしらの関連, 関連となるように選出した。120 個のうち, 60 個を旧項目 (old あるいは連合しやすい状況 (sensitive 条件)においてアンサンブル item) ,60 個を新項目(new item)にランダムに割り当てた。 を形成しやすく文脈依存効果を生じさせやすいと説明する方が妥 文脈 sensitive な画像を 4 種類,insensitive な画像 4 種類の計 8 当であると考える。 種類を選出した。そのうち,sensitive な画像と insensitive な画像そ れぞれ 1 種類を再認テスト時に新たに提示する文脈 (新文脈 new 0.65 context) として使用した。 0.6 脈: different context, DC 条件) × 文脈の種類 (sensitive 条件 vs. 0.55 insensitive 条件) の 2 要因実験参加者内計画を用いた。テスト文 0.5 脈は,学習時と再認テスト時に同じ画像を提示したものを SC 条件, テスト時に新文脈を提示したものを DC 条件とした。 手続き 実験参加者は個別に実験に参加した。実験についての教 示の後,実験参加者はPC画面と実験者の指示に従い実験を遂行し た。実験は (1) 学習フェーズ,(2) 緩衝課題,(3) テストフェーズ の3セッションで構成した。 学習フェーズでは,6秒/項目 (提示時間5秒,提示間隔1秒)の提 示速度で60個の旧項目を提示した。項目の提示順序と背景の提示順 CRS 実験計画 テスト文脈 (同文脈: same context, SC 条件 vs. 異文 SC DC 0.45 0.4 0.35 0.3 sensitive insensitive Figure 1. Mean CRSs as a function of test context x contextual sensitivity. (MATSUDAYuki ISARIDA Toshiko ISARIDA Takeo)
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