「合掌の里」 岐阜県 白川一郎 目 次 随 想 スノッブ達の世界…………………………………… <公文正人>… 318 解 説 シリーズ解説:食品産業における環境対策(第1回) 食品産業における環境負荷低減と ライフサイクルアセスメント(LCA) … ……… <椎名武夫>… 320 解 説 シリーズ解説:食品加工における微生物・酵素の利用(第29回) エリスリトールの特性と用途開発…………… <内田 実>… 330 肺魚のため息 カントーにて………………………………… <多紀保彦>… 337 海外技術・マーケット情報 2008年の最も革新的な製品と2009年のトレンド予想…………………… 340 栄養素の豊富な食品: 健康改善のための栄養ナビゲーションシステム(2)………………… 342 環境に優しい食品製造の探索……………………………………………… 345 有機酸の微生物増殖抑制機構……………………………………………… 348 金属容器とエネルギーコスト……………………………………………… 350 ビール容器とLCAの調査… ………………………………………………… 352 〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰 〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰 〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰 業界トピックス:ミネラルウォーター,今夏は価格戦へ………………………… 連載エッセー:食の遠近画法 遮蔽効果………………………<五明紀春>… 特別解説:アレルギー性,抗アレルギー性 評価用DNAチップ… …………………………………<小堀真珠子>… 特別解説:ハラル規制・制度について −技術的側面に焦点を当てて−………………………<並河良一>… 技術用語解説:電子レンジ対応容器包装…………………………………………… 今月の統計……………………………………………………………………………… 最近の技術雑誌から…………………………………………………………………… 353 354 356 362 367 368 370 野菜・果物を巡って (第六話) ロンドンで味わった野菜料理…………………………………<吉田企世子>… 375 FOOD & PACKAGING 缶詰技術研究会 http://kangiken.net/ 随 想 スノッブ達の世界 公 文 正 人 (㈳全国清涼飲料工業会 専務理事) 世の中には多種多様な酒があるが,それぞれの を進化させ,確固たる存在感を示しているものが 酒は基本的にそれ自体が一つの完成した商品とい ある。 「カクテルの王様」といわれる「マティーニ」 える。それにも拘わらず,貪欲な酒飲み達はその である。バーテンダーの腕の見せ所といわれる「マ 完成品同志を混ぜ合わせたり,清涼飲料・果汁な ティーニ」のレシピは,ジン,ベルモットをミキ どの割り材を加えて「カクテル」と呼ばれる新た シンググラスで素早く混ぜ(ステアし),必要以 な完成品を無数に生み出してきた。 上に氷を溶かさず短時間できりっと冷やし,オリ 誕生初期のカクテルは酒と酒だけを混合したも ーブを添え,好みでレモンピールを絞り香りをつ のであったが,果実飲料を始め様々な清涼飲料が けるというのが基本形。ベースとなるジンの銘柄 販売されるに至り,そのバリエーションは飛躍的 はビーフィーター,ゴードン,タンカレー等切れ に拡大した。つまり割り材として相性の良い清涼 味の鋭いタイプが定番で,私はいつもビーフィー 飲料の登場が酒文化に新たな道を拓いたわけだ。 ターの47度を指定している。ベルモットの銘柄は その結果,現在ポピュラーに飲まれているカクテ 概ねノイリー,チンザノ,ガンチャといったあた ルは,酒と割り材の比較的シンプルな組み合わせ りだろうか。 のものが主流になってきている。ソーダで割れば マティーニの進化を辿ってみると,原型といわ 「ウイスキー・ハイボール」 「ウォッカ・リッキー」 れるレシピは,ドライジン1/2にスィート・ベ 「カンパリ・ソーダ」など,ジンジャエールなら ルモット1/2,オレンジ・ビタースを1ダッシ 「ジン・バック」「モスコー・ミュール」,トニッ ュというもので,これにドライ・ベルモットが加 クウォーターなら「ジン・トニック」,あまり馴 わりやや辛口に変化し始め,次の段階ではスイー 染みはないかもしれないがジンをソーダとトニッ ト・ベルモットが消えるとともにドライ・ベルモ クで割る「ジン・ソニック」,コーラではラムを ットの量もどんどん減り始め,いかにベルモット ベースにした「クバ・リブレ(キューバ万歳)」, を少なくしてドライにしていくかを競うようにな ウーロン茶を使った「照葉樹林」,オレンジ・ジ ってきた。日本では,映画の007シリーズで披露 ュース系の代表格「スクリュー・ドライバー」, されたジェームス・ボンドのレシピ(正確な数字 グレープフルーツであれば「ソルティ・ドッグ」, は忘れたが,確か3桁の分母を持つ分数でジンと トマトジュースではなんと言っても「ブラッデ ドライ・ベルモットの比率を指定していたように ィ・マリー」,といった具合だ。 記憶している)の登場あたりからドライ化に加え 一方,酒と酒だけを混ぜるタイプのカクテルの てスタイルの多様化に拍車がかかり始めた。同じ 中にも時代の流れとともにレシピ(処方,作り方) 007シリーズから,オン・ザ・ロックスタイルの「ウ 食品と容器 318 2009 VOL. 50 NO. 6 ォッカ・マティーニ」が広がり,この飲み方に伴 ィ・マリー」に変わり,現在でもアメリカ国内で って,リンスタイプもしくはウォッシュタイプと は1日100万杯以上が飲まれているという。 いわれるベルモットでグラスを洗うスタイルも流 基本のレシピは,ウォッカをトマトジュースで 行りだし,また,ベルモットを噴霧機でスプレー 割り,ウースターソース,レモン汁,タバスコ,塩, するミスト・スタイルが登場。さらには,ベルモ 胡椒などを加え,マドラーがわりに葉のついたセ ットの瓶を横目で眺めながら冷たいジンを飲むチ ロリの細い茎,カットレモンを添えて,といった ャーチルズ・マティーニ(ほとんど梅干しを眺め ところだが,それぞれの配合比率,トマトジュー て飯を食べるような状況だ),ベルモットのボト スやウースターソースや塩の銘柄に対する作り手 ルやコルクキャップをグラスの上を通過させるだ のこだわりから,アメリカではバーの数だけ自称 けのもの,ついにはバーテンダーが小声で客の耳 「世界一うまいブラッディ・マリー」が存在する 元やグラスに“ベルモット”と囁くといったスタ といわれている。 イルまで現れ,これを飲んだ客が“今日のマティ 変化形としては,ウォッカをクラマト(あさり ーニは少しベルモットが効き過ぎている(声が大 等貝類のエキスとトマトジュースのプレミック きい!)”とバーテンダーに文句を言うというバ ス)で割った「ブラッディ・シーザー」,トマト ーのジョークが生まれた。脇役であるレモンピー ジュースとビーフ・ブイヨンで割った「ブラッデ ルの使い方にしてもしかりである。アメリカンス ィ・ブル」,トマト抜きのスープで割った「ブル・ タイルでレモンの皮を短冊型に切って結んだレモ ショット」「ブラッドレス・ショット」などがあり, ン・ツィストをグラスに入れる人もいれば,逆に, 食事とのマッチングが楽しめる。 バーテンダーがレモンピールを軽く絞っただけで また,割材であるトマトジュースを固定して, 「俺はレモネードを頼んじゃいない!」と怒り出 ベースの酒を変化させると,ジンなら「ブラッデ す輩もいる。 ィ・サム」,テキーラでは「ストロー・ハット」, 表題の「スノッブ(snob)」とは,このように「マ アクアビットだと「デーニッシュ・メアリー」, ティーニ」に対して異常に頑固で口うるさい連中 ビールとあわせれば「レッド・アイ」ということ を少し皮肉を込めて指すバーの言葉で,スノッブ になるわけだ。 達の世界は,もう何がなんだかわからない「マテ 酒飲み達はこのように努力を惜しまず新しい味 ィーニ」議論でいつも大変な騒ぎである。 を作り出してきたが,何故か清涼飲料の飲み手に また,割り材系の中にも独特の進化を続けるカ はこのような努力家をほとんど見かけることがな クテル「ブラッディ・マリー」があり,この作り い。ただ,最近では「ペリエ・バー」とか,「ミ 手達もまた「マティーニ」のスノッブに負けず劣 ネラルウォーター・バー」といった水にこだわっ らずの頑固者揃いである。 た業態も現れてきているので,下戸の世界にも, 「ブラッディ・マリー」は,フランス人バーテ 「飲料スノッブ」達がたむろする「ノンアルコー ンダーのフェルナンド・プティが考案したカクテ ル・バー」なるものが登場し,A社のオレンジジ ルで,1920年に始まったアメリカの禁酒法時代に ュース1/2にB社のソーダとC社のトニック1 ウォッカのオレンジ・ジュース割り「スクリュー・ /4ずつ,といったこだわりのオーダーが聞かれ ドライバー」同様,酒をジュースと偽るための飲 る時代がくるのではないかと期待している。 み方として劇的に広がった。流行初期は,ジンベ さて,段々のどが渇いてきたが,今晩はどんな ースの「ブラッディ・サム」が主流であったが, スノッブ達に遭遇するのだろうか。 次第に飲みやすいウォッカベースの「ブラッデ 食品と容器 319 2009 VOL. 50 NO. 6 シリーズ解説:食品産業における環境対策(第1回) □解説□ 食品産業における環境負荷低減と ライフサイクルアセスメント(LCA) し い な ・ た け お 岩手大学農学部卒業, 農水省食品総合研究所 入所,現在, (独)農業・ 食品産業技術総合研究 機構食品総合研究所食 品工学研究領域流通工 学ユニット長。 博士(農学) 椎 名 武 夫 地球温暖化防止に代表される環境負荷低減対策が喫緊の課題となっている。食品産業も例外で はなく,温室効果ガス排出量の削減をはじめとした環境対策が求められている。本シリーズ「食 品産業における環境対策」においては,食品産業における環境対策の最新動向を各分野の専門の 方々に解説していただく。1.食品産業における環境負荷低減とライフサイクルアセスメント,2. 食品産業温室効果ガス排出削減戦,3.温室効果ガス排出量の見える化「カーボンフットプリン ト」の最新動向,4.食品産業における環境負荷低減のための法令・行政施策,5.食品廃棄物 の資源化の現状と課題,6.食品の冷凍冷蔵システムにおける環境負荷低減対策の現状と課題,7. 食品工場における総合的省エネルギー技術の現状と課題,8.食品包装における環境負荷低減対 策の現状と課題,9.ビールメーカーにおける環境負荷低減対策の現状と課題,10.総合食品メ ーカーにおける環境負荷低減対策の現状と課題,11.物流業における環境負荷低減対策の現状と 課題,12.量販店における環境負荷低減対策の現状と課題,13.コンビニエンスストアにおける 環境負荷低減対策の現状と課題,の全13回の予定である。ご期待下さい。 (独)農研機構 食品総合研究所 椎名 武夫) ( に比べて,約9%上回る値であり,平成18年度の □1.はじめに□ 値(約13億4,200万t)と比べても,約2.4%の増加 環境省が2009年4月30日に発表した,平成19年 度の温室効果ガス排出量(確定値) 1) となっている。京都議定書の目標(基準年に対し によれば, て6%削減)達成のためには,さらなる削減努力 温室効果ガスの総排出量は二酸化炭素に換算して が不可欠である。 13億7,400万tであった。これは,気候変動に関す 食品産業におけるエネルギー起源の温室効果ガ る国際連合枠組条約第4条および同京都議定書の スの発生量は,15,271千t−CO2 と推計され,こ 規定による基準年の総排出量(約12億6,100万t) れは,産業部門の排出量(476,005千t−CO2)の 食品と容器 320 2009 VOL. 50 NO. 6 食品産業における環境負荷低減とライフサイクルアセスメント(LCA) 3.2%に相当する2)。食品産業における温室効果 ガスの削減対策が,正に待ったなしである。一方, LCA䈱㛽ᩰ ⋡⊛䈫⺞ᩏ▸ ࿐䈱⸳ቯ •⋥ធ⊛↪: ⸃ 食品産業においては,一般的に大量の水を使用す ㉼ ることから,温室効果ガス排出量の削減に加えて, 䉟䊮䊔䊮䊃䊥䊷 ಽᨆ •ຠ䈱㐿⊒䈍䉋䈶ᡷ⦟ •ડᬺ䈱ᚢ⇛┙᩺ •╷ቯ 水系への環境負荷物質の排出削減が求められる。 ⅣႺᓇ㗀⹏ଔ また,流通過程での損傷発生や返品(賞味期限切 䋨䉟䊮䊌䉪䊃⹏ଔ䋩 •䊙䊷䉬䊁䉞䊮䉫 ౖ: ISO 14040 れ,あるいは賞味期限よりも前倒し)などによっ 第1図 ライフサイクルアセスメントの枠組み て生じる食品ロスの低減,食品廃棄物の資源化な どの,多くの課題がある。 の開発および改善,戦略立案,政策立案,マーケ 環境負荷の低減を効果的に実施するためには, ティングなどがある(第1図3))。 環境負荷がどこでどれだけ発生しているのかを定 2.2 LCAの歴史 量的に把握することが不可欠である。製品やサー LCA研究は,米国コカコーラ社による容器の ビスの“ゆりかごから墓場まで”の環境負荷を定 環境影響評価(リターナブル瓶と飲料缶の環境影 量的に評価する手法であるライフサイクルアセス 響評価)が概念の発端といわれている。その後, メント(LCA)は,環境負荷低減対策の立案, 米国と欧州でSETAC(Society of Environmental 調査結果の解析および公表等への貢献が期待され Toxicology and Chemistry)が設立され,1980年 る。 代から研究活動が本格化した。1993年からLCAの 本稿では,LCAの概要と,その食品分野への 標準化作業が進められ,1997年にISO-14040が発 適用について解説する。 行され,わが国においても同年にJIS-Q-14040と し発行された。なお,2006年に行われたISO規格 □2.ライフサイクル アセスメント(LCA)とは□ の見直し作業により,14040シリーズは,14040と 14044として再編され,これに基づいてわが国に 2.1 LCAの概要 1) ISO-14040 おいてもJISの改訂が進められている。 によれば,LCAは,「製品システ わが国における研究体制の整備は欧米に比べて ムのライフサイクルを通した入力,出力及び潜在 遅れをとったが,1995年に産学官の包括的な検討 的な環境影響のまとめ及び評価」と定義されてい 体制を構築するためLCA日本フォーラムが設立 る。ここで,ライフサイクルとは, 「原材料の採取 された。さらに,その検討経過を踏まえて,より 又は天然資源の産出から最終処分までの連続的で 実際的な展開を図るために1998年度から5年間 相互に関連する製品システムの段階」である。す 「製品等ライフサイクル環境影響評価技術開発」 なわち,LCAは,製品の“ゆりかごから墓場まで” (略称:LCAプロジェクト)が実施され,①我が の環境に対するインパクト(影響)を評価しよう 国で共通使用できるLCA手法の確立,②パブリ とする手法である。 ックデータベースの構築,③データ活用・データ LCAは,4つのステップ,すなわち,①目的 メンテを容易に行えるネットワークシステムの構 と調査範囲の設定,②インベントリー分析,③環 築,を目的として研究が行われた。その後,2003 境影響評価,④解釈,から構成される。LCAの 年4月から2006年3月まで,第2期のプロジェク 直接の用途としては,環境負荷低減のための製品 トが実施された。 食品と容器 321 2009 VOL. 50 NO. 6 シリーズ解説:食品産業における環境対策 2.3 LCA手法 2.3.3 環 境影響評価(ライフサイクルインパク 2.3.1 目的と調査範囲の設定 トアセスメント,LCIA) 製品システムについて,資源採取を含む原料の インベントリー分析で求めた排出物を物質毎に 調達から製造,流通,使用,廃棄,リサイクルに 集計し,どの領域に関係するかを割り振り,それ わたるライフサイクル全体を対象として考えるの ぞれの影響度を定量化する。環境影響領域として がLCAの基本である。ただし,個別のLCAの実 は,地球温暖化,酸性化,富栄養化,オゾン層の 施においては,まず目標や目的を明確化し,それ 破壊などが提案されている。さらに複数の影響領 に基づいて製品,ライフサイクルの範囲や評価項 域で特性化した結果に統合化係数を用いて,一つ 目を十分に検討して絞り込みを行う。ここで,評 の指標に統合化が行われる場合もある(ISOでは 価を行う単位(機能単位:Functional Unit)を 任意項目である)。LCIA手法の例については,後 何にするのか,また,評価の範囲(システム境界: 述する。 System Boundary)をどこまでにするのかが決 2.3.4 解釈 定される。 インベントリー分析やインパクト評価の結果を, 2.3.2 インベントリー分析 単独または総合して評価,解釈する。 システム境界内の各工程における,資源消費量 2.4 インベントリー分析の手法 や大気,水質や土壌への環境排出物質を,項目毎 2.4.1 積み上げ法 に計算する。分析の結果を,消費された資源や環 ISOにおけるインベントリー分析は,積み上げ 境中への排出物の一覧表(Inventory)として示 法をベースとしている。そのため,積み上げ法を す。なお,計算精度は用いるデータの信頼性に影 インベントリー分析の前提として説明してきたの 響されるため,データの根拠,出典などの明示が で,改めて説明するまでもないが,個々のプロセ 必要である。インベントリー分析には,積み上げ スについて,資源消費や環境排出物を算定して, 法と産業連関法があるが,詳細については後述す 項目ごとの総和を求める方法である(第2図4))。 る。 2.4.2 産業連関法および3EID法 わが国の産業連関表は,生産活動の種類によっ て区分された約400の部門で構成され,各部門間 の経済的なつながりを,年間の取引額で 䊐䉤䉝䉫䊤䊮䊄䊂䊷䉺䋨LCAታᣉ⠪䋩 表現した行列形式の数表である。産業連 関表を用いて,積み上げ法によらず直接, 排出量を推計する方法が産業連関法であ る。 「産業連関表による環境負荷原単位デ ータブック(3EID)」は, 「産業連関表」 を用いて算出した“環境負荷原単位”デ ータベースである。3EIDの環境負荷原 䊋䉾䉪䉫䊤䊮䊄䊂䊷䉺䋨LCA䉸䊐䊃╬䋩 ࿑㧞ࠗࡈࠨࠗࠢ࡞ࠗࡦࡌࡦ࠻㧔.%+㧕࠺࠲ߩ㓸ᣇᴺ 第2図 ライフサイクルインベントリ(LCI)データの収集方法 食品と容器 322 単位は,各部門の単位生産活動(百万円 相当の生産)に伴って発生する環境負荷 2009 VOL. 50 NO. 6 食品産業における環境負荷低減とライフサイクルアセスメント(LCA) 量であり,当該部門製品の単価(例えば円/t) 研究部門に移行した。)では,日本の環境条件を が分かれば,物量当たりの環境負荷を算出するこ 基礎とした被害算定型環境影響評価手法(LIME: とができる。多くの原料や部品を使用する製品に Life cycle Impact assessment Method based on 関するLCAの場合,積み上げ法では膨大な計算 Endpoint modeling)を開発している。本手法に が必要となるが,産業連関法を利用することで, おいては,地球温暖化など11種の影響領域を通じ 比較的容易にLCIを算出することができる。 て発生する被害量を,人間健康などのエンドポイ 味の素㈱は,3EIDデータと産業連関表の内生 ントごとに求め,これらを基礎として環境影響の 部門生産単価をもとに,食品関連材料について, 統合化までを行う,被害算定型のアプローチを採 各部門に含まれる製品ごとの物量単位に基づく 用している。さらに2006年には,信頼性の向上, CO2排出係数を算出・データベース化し,これを 代表性の向上,網羅性の向上(影響領域数が11か 5) 公開している 。 ら15へ増加)が図られた,LIME2が開発されて 2.4.3 ハイブリッド法 いる(第3図)6)。 個別の製品システムのライフサイクル全体につ その他のLCIA手法としては,パネル法(早稲 いて,精度の高いLCIを算出しようとする場合, 田大学),EPS2000(スウェーデン),Eco-Point 積み上げ法の利用が望ましい。しかし,どうして 1997(スイス),Eco-Indicator95/99(オランダ), もデータの入手が困難な場合や,全体への影響の などが知られている。なお,LCIA手法は,方法 少ない部分の解析に要する労力を抑えたい場合が がまだ確立しておらず,現在も研究が継続されて ある。そのような場合に,主要なプロセスについ いる。 ては積み上げ法でLCIを算出し,全体への影響の 2.6 LCAソフトウエア 少ないプロセスやデータの得られないプロセスに LCAソフトウエア・データベースとしては, ついては,産業連 関法を用いるの インベントリ カテゴリエンドポイント 影響領域 PM10 法である。 Benzene 2.5 ライフサイク Lead 騒音 アノイアンス Noise オゾン層破壊 睡眠障害 ルインパクトアセ TCDD HCFCs 都市域大気汚染 シックハウス症候群 室内空気質汚染 慢性疾患 SO2 光化学オキシダント 手法 NOX 生態毒性 TotalN 酸性化 合研究所ライフ NMVOC Waste 単一指標 植物成長 Eco-index Yen 土地 廃棄物 水産物 Copper 鉱物資源消費 ユーザーコスト メント研究セン Oil を全うし,2008年 度から安全科学 食品と容器 生態系 農作物 富栄養化 サイクルアセス で7年間の任期 Yen 災害被害 エネルギー Wood 社会資産 熱ストレス 土地利用 ター(2007年度末 DALY 感染症 Land Natural gas 人間健康 白内障 地球温暖化 スメント(LCIA) TotalP 人間社会 発癌 有害化学物質 CO2 (独)産 業 技 術 総 統合化 呼吸器系疾患 がハイブリッド Formaldehyde 保護対象 生物多様性 EINES 一次生産 植物プランクトン 化石燃料消費 NPP 生物資源消費 統合化 被害評価 陸生生物種 水生生物種 特性化 運命分析/暴露評価 被害評価 影響評価 統合化 第3図 LIME2(日本版被害算定型ライフサイクル環境影響評価手法の第二版)4) 323 2009 VOL. 50 NO. 6 シリーズ解説:食品産業における環境対策 SimaPro,ECO-it,ecoinvent,TEAM,LCAiT, 畜肉や乳製品についても解析が行われている。 KCL-ECO,Gabi,AIST-LCA V4(JEMAI-LCA 和牛の肥育システムに関する研究10),養豚システ Pro)などがあり,インベントリーデータベース ム に 関 し て は 適 正 農 業 規 範(GAP),Label を利用して,個別のLCA解析を比較的容易に実 Rouge(LR),Agricultural Biologique(AB) な 施することができる。 どの環境保全型といわれるシステムと慣行システ ムの比較,牛乳生産における有機と慣行のシステ □3.食に関わるLCAの動向□ ム比較,牛乳の包装や廃棄物処理に関する解析, 3.1 食に関わるLCAの経過 などが行われている。 LCAは,工業製品に対して精力的な適用が進 アジア諸国において主食であるコメ,および米 められており,企業の環境報告書などにおいても 飯については,玄米,白米,パーボイルドライス, 公表されている。一方,農業・食品分野における 発芽玄米などに関する解析が行われている11,12)。 実施例はまだ少なく,とくに,ライフサイクルを 3.3 国内の研究動向 網羅する解析例は非常に限られている。それは, 農林水産省関係のLCA研究は,農林水産技術 農業生産段階における農薬等資材の生産に関わる 会議事務局のプロジェクト研究「持続的農業推進 インベントリーデータが未整備である,システム のための革新的技術開発に関する総合研究」とし 境界の設定・機能単位の選択・副産物等の配分 て農業環境技術研究所が主体となって1998〜2000 (Allocation)の方法が困難である,生産における 年度に,その後2001〜2002年度には独立行政法人 CO2固定などのベネフィットの定量化の問題,品 化した農業環境技術研究所と農業技術研究機構の 質変化やロスの発生をどのように考慮するかなど, プロジェクトとして実施された。その成果報告書 解析の上で多くの困難を伴うためである。 には,農業のLCA手法の開発に関する研究成果 食品に関するLCA実施上のこのような困難に に加えて,水稲,トマト,キャベツ,コムギ,テ もかかわらず,これまでに多くの関係者の努力に ンサイ,アズキ,緑茶,牧草,カンショ,ダイコ より,解析例は増えてきている。以下に,学術雑 ン,飼料トウモロコシ,ウンシュウミカン,ナシ 誌に掲載された論文から,その動向を簡単に紹介 の生産段階(一部は選果包装を含む)における する。なお,世界的な食品LCAの動向については, LCIデータが掲載されている13,14)。 Anderson(1994) 7),ROYら(2009) 8), 国 内 2004年には,食品のLCA研究の推進を目的と の 農 業・ 食 品LCA研 究 の 動 向 に つ い て は 増 田 する「食品研究会」が, (独)産業技術総合研究所 9) (2006) に詳しい。 ライフサイクルアセスメント研究センター,農林 3.2 LCA研究の動向 水産省所管の独立行政法人,大学,民間企業など 加工食品の中で,解析対象として最も多く取り のメンバーにより設立された。2004年度は経済産 上げられているのは,パンである。小麦生産段階 業省の「持続可能な消費」プロジェクトとして, における有機栽培と慣行栽培の比較,製粉システ 2005年度以降は,日本LCA学会の研究会として ムの比較,製パンプロセスの比較,包装,製造工 活動を行っている。食品研究会の目的は,①食に 程洗浄剤の比較,など多くの解析が行われている。 関するライフサイクル全体の環境影響評価の実施, その他,ビール,トマトケチャップなどの解析例 および②食の持続可能性を表現する指標の開発で がある。 ある。2007年3月に開催された第2回日本LCA 食品と容器 324 2009 VOL. 50 NO. 6 食品産業における環境負荷低減とライフサイクルアセスメント(LCA) 学会研究発表会では,食品研究会特別セッション は,「CO2の見える化」のための取組の一貫とし が設定され,食品研究会関係者から多くの研究発 て示した指針17) の中で,フードマイレージにつ 表が行われた15)。 いては慎重な扱いを求めている。 日本LCA学会誌の4巻2号には,「食を巡る なお,「CO2の見える化」のための方策として LCA」という特集が組まれ,解説として「有機 注 目 さ れ る カ ー ボ ン フ ッ ト プ リ ン ト(Carbon 農業は環境にやさしいのか:農業のLCAが示す FootPrint,CFP)については,本特集の3回目 こと」,「畜産におけるライフサイクルアセスメン に掲載を予定している。 ト研究」,「水産物のLCA」,「日本LCA学会食品 3.5 品質保持技術とLCA 研究会の成果の概要」,「バイオマスエネルギー利 第5図は,トマトの物流時の品質保持手段とし 用のLCA」が掲載されている。 2.50E+05 3.4 LCAとフードマイレージ トマトは周年供給されており,冬場の 2.00E+05 CO2 ឃ㊂䋨kg/t䋩 生産においては温室が使用され,適正な 温度を維持するために温室内の暖房が行 われる。そのため,夏秋トマトと呼ばれ る暖房不要の栽培と,年間を通じた温室 1.50E+05 1.00E+05 5.00E+04 栽培とでは,生産に関わるライフサイク ルCO2(LC-CO2)の差が極めて大きい。 なる可能性がある。実際にその解析を実 カ ル ラ ン ド ソ マ リア ア メリ カ ー ジ タ イ ガ ス マ ダ ュ ー (コンテナ船で低温輸送) (国内周年栽培のうち冬場の消費量を代替した場合) (国内周年栽培のうち冬春の出荷量(369千t)を代替した場合) 1200 国 内 で ハ ウ ス 栽 培 す る 場 合 よ り もLC- 1000 4図)16)。 ころ 一頃,フードマイレージという言葉を よく耳にした。地産地消などによって食 品の輸送距離を短くすることで環境負荷 の低減が可能であるという主張で使われ るが,上記の結果は,やみくもに地産地 消を進めることは得策でないことを示す。 CO2 ឃ㊂䋨kg/t䋩 CO2が少ないという結果が得られた(第 800 600 400 G-LT G-M AP 200 P-LT P-M AP 0 0 2000 4000 6000 8000 10000 㓸⩄ᣉ⸳䈎䉌ᶖ⾌䉁䈪䈱〒㔌䋨km䋩 農業の基本は,適地適作であり,不適地 食品と容器 ニ 雨よけ栽培トマトを東京へ低温輸送した場合のCO 2削減量 図4第4図 雨よけ栽培トマトを東京へ低温輸送した場合の CO2 削減量(コンテナ船で低温輸送) 当たる地域で栽培して船で輸送する方が, ることに注意が必要である。農林水産省 ュ 生産地 施してみると,日本から地球の反対側に での栽培は環境負荷を増やす可能性があ イ ン イ ド ン ド ネ シ ア マ レ ー シ ア フ ィリ ピ ン 沖 で輸送することの方がLC-CO2 が小さく デ シ 温暖な地域で生産し,そこから消費地ま ン グ ラ すなわち,冬場のトマトを暖房が不要な バ 縄 0.00E+00 第5図 ト マトの栽培方法,品質保持方法,輸送距離がLC-CO2に 及ぼす影響(コンテナ船輸送) (G:温室栽培,P:雨よけ栽培,LT:低温,MAP:MA包装) 325 2009 VOL. 50 NO. 6 シリーズ解説:食品産業における環境対策 て低温あるいはMA包装を採用したと仮定したと の割合)をパラメータとして,ライフサイクルイ 16) きの,LC-CO2 を示したものである 。輸送距離 ンベントリーの相対値(相対LCI)をプロットし が長くなると,低温輸送に比べてMA包装でLC- たものである8)。ここでは,ポストハーベスト手 CO2が少なくなることが分かる。第5図は,輸送 段のインベントリー(P)とロス率(L)との関 手段が船の場合の結果であるが,自動車の場合も 係として,P=A/Lを仮定している。ここで,A 同様の結果である。低温輸送は,低温の発生のた は生産に関わるインベントリーである。 めに電気(あるいはその発生のために使用する重 第6図から,ロス率が10%程度のところで相対 油などの燃料)を消費するため,出荷時にプラス LCIが極小となることが分かる。すなわち,ある チックの使用のためにLC-CO2 が発生するMA包 食品を一定量供給する際に,環境負荷を最少化す 装に比べて,輸送距離が長く長時間を必要とする るポストハーベスト条件が存在することになる。 場合には不利となる。なお,MA包装の有利・不 例えば,包装資材は,環境負荷の最大の原因で 利の分岐点は,自動車輸送で2,000km,船輸送で あるかのような扱いを受けているが,実は,適切 1,000kmであった。これは,自動車と船の輸送速 に選択されれば,食品供給(フードサプライチェ 度の違いに起因する。 ーン)における環境負荷を最少化することに大き 3.6 ロス率とフードサプライチェーンのLCA く貢献できることになる。このことは,他のポス 採用するポストハーベストシステムによって, トハーベスト手段についても言えることであり, 食品の品質変化が異なり,ロスの発生に差が生じ LCAは,食品供給における環境負荷の最少化に ることとなる。すなわち,採用したシステムにお 大きく貢献できると考えられる。 けるロスが大きい場合,同一量の供給を確保する ところで,第6図の曲線は,廃棄すべき品質基 ためには,ポストハーベストシステムに投入すべ 準の設定によって上下に移動する。すなわち,品 き食品の量を多くする必要がある。つまり,採用 質基準が厳しければ相対LCIが大きくなり,曲線 するポストハーベストシステムの違いによってロ は上方向にシフトする。逆に品質基準が緩ければ ス率に差が生じ,システムに投入すべき食品の量 相対LCIが小さくなり,曲線は下方向にシフトす が変化することになる。 る。すなわち,例えば多少の傷を問題としないよ 第6図は,ロス率(最終供給量に対する損耗量 うな消費行動をとることで,食品供給のLCIを削 減することができる。 㪊㪅㪇 㪩㪼㫃㪸㫋㫀㫍㪼㩷㪣㪚㪠㩷㩿㪄㪀 㪧㫆㫊㫋㪿㪸㫉㫍㪼㫊㫋㩷㪣㪚㪠㩷㪔㩷㪧㫉㫆㪻㫌㪺㫋㫀㫆㫅㩷㪣㪚㪠㩷㪆㩷㪣㫆㫊㫊㩷㩿㪛㪼㪺㫀㫄㪸㫃㪀 □4.食品産業における 温室効果ガスの削減対策□ 㪉㪅㪇 4.1 食品産業における自主行動計画 㪈㪅㪇 京都議定書目標達成計画(2008年3月改定)18) の中で,産業部門等におけるエネルギー起源の温 㪇㪅㪇 㪇 㪉㪇 㪋㪇 㪣㫆㫊㫊㩷㩿㩼㪀 㪍㪇 室効果ガスの削減に向けた個別業種単位の計画 㪏㪇 「自主行動計画」の作成が推進されている。2008 年3月末時点で,産業部門においては50業種,業 第6図 ロ ス率(最終供給量基準)が食料供給の相対 LCIに及ぼす影響 食品と容器 務その他部門で32業種,運輸部門で17業種,エネ 326 2009 VOL. 50 NO. 6 食品産業における環境負荷低減とライフサイクルアセスメント(LCA) ルギー転換部門で4業種が定量目標を持つ目標を 第1表 食品産業における自主行動計画策定団体 設定し,審議会等の評価・検証を受けており,産 業種 策定順 団体名 業・エネルギー転換部門の排出量の約8割,全部 1 精糖工業会 門の約5割をカバーするに至っている。なお,業 2 ㈳日本乳業協会 種ごとの自主行動計画の目標としては,各業種の 3 ㈳全国清涼飲料工業会 自主的な判断によって,エネルギー原単位,エネ 4 製粉協会 5 ㈳日本冷凍食品協会 7 全国マヨネーズ・ドレッシング類協会 9 ㈳日本即席食品工業協会 10 ㈳日本缶詰協会 11 全日本菓子協会 12 日本醤油協会 13 ㈳日本植物油協会 14 日本ハム・ソーセージ工業協同組合 の調査によれば,調査対象(2007年度の目標が設 15 ㈳日本パン工業会 定されている)の17団体・18業種のうち,目標達 16 日本スターチ・糖化工業会 成業種は3業種,目標未達成業種は15業種であっ 17 ㈳全日本コーヒー協会 た。目標達成業種は,2006年度の5業種から減少 18 日本ビート糖業協会 しているが,電力排出源単位が悪化したことが主 19 ㈳日本ハンバーグ・ハンバーガー協会 6 ㈳日本加工食品卸協会 8 ㈳日本フードサービス協会 19 ㈳日本ハンバーグ・ハンバーガー協会 ルギー消費量,二酸化炭素排出原単位,二酸化炭 素排出量の4通りの指標のいずれかが主に選択さ 食品製造業 れている。 食品産業分野においては,食品製造業17団体, 食品流通業1団体,外食産業2団体の合計19団 体・20業種において,自主行動計画が策定されて ちょく いる(第1表)2)。2007年度実績の進 捗 状況等 な要因であるとされている。2007年度の結果を見 流通 る限り,温室効果ガスの削減が順調に進んでいる 外食 とは言えず,今後の対策強化が不可欠である。 *6,8 の団体は,2007 年度の調査対象外 ところで,「2007年度環境自主行動計画フォロ ーアップ結果及び今後の課題等」19) によれば, を認識し,自主的取組のための基盤を確立すると 16団体のうち7団体がLCAによる取組を実施し ともに,排出量の情報を可視化することにより, ている。今後,CFPへの対応などを含めて,LCA 国民・事業者全般の自主的取組を促進し,その気 の利用が進むことを期待したい。 運を高めることを目指したものである。 4.2 温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度 最初の報告となる平成18年度の集計結果が平成 地球温暖化対策の推進に関する法律(いわゆる 20年3月28日に公表され,平成19年度の集計結果 「温対法」)に基づく, 「温室効果ガス排出量算定・ が平成21年4月3日に公表された(4月10日に修 報告・公表制度」がスタートし,平成18年4月1 正)。平成19年度の報告を行った事業所(者)数は, 日から,温室効果ガスを多量に排出する者(特定 特定事業所排出者が14,841事業所(7,813事業者), 排出者)に,自らの温室効果ガスの排出量を算定 特定輸送排出者が1,447事業者であった。また, し,国に報告することが義務付けられた。また, 報告された特定排出者の温室効果ガス排出量の合 国は報告された情報を集計し,公表することとさ 計 値 は 6 億5,041万t−CO2 で, わ が 国 の 平 成19 れている。本制度は,温室効果ガスの排出者自ら (2007)年度排出量(速報値)約13億7,100万t− が排出量を算定することにより,自らの排出実態 食品と容器 CO2の約5割に相当する。 327 2009 VOL. 50 NO. 6 シリーズ解説:食品産業における環境対策 同制度については,平成21年4月1日の温対法 り付けによる遮熱・省エネタイプの導入など,照 の改正施行により,対象範囲の拡大(事業所単位 明で昼休み消灯・間引き点灯・省エネタイプの導 の報告から,事業者・フランチャイズチェーン単 入など,文書作成で両面印刷・縮小印刷・紙の再 位での報告への見直し),電気の使用に伴う二酸 使用の実施,勤務時間でノー残業デー実施,エレ 化炭素排出量の算定方法の変更,調整後温室効果 ベーターの使用削減,不要時電源のオフ化の徹底, ガス排出量の報告規定の創設,などの改正が行わ 廃棄物の分別回収,電気・ガス・水道等の消費量 れた。なお,この改正に伴う報告については,平 把握,社員への環境教育,などが挙げられている。 成22年度の報告(平成21年度排出量)から適用さ 運輸部門では,モーダルシフトの推進,輸送ル れる。 ートの効率化,輸送トラックの大型化,ロットの 4.3 食品産業における具体的な削減対策例 集約化,積載効率の向上,共同輸配送の実施,空 「2008年度食品産業の自主行動計画の進捗状況 車情報管理システムの活用,燃費の良い車両の導 等について」 2) によれば,オフィス・運輸部門 入,エコドライブ(アイドリングストップ等)の のCO2排出削減の取組として,次のものが挙げら 推進,燃料消費量の把握,などが挙げられている。 れている。 上記の詳細および製造部門におけるCO2 排出削 オフィス部門では,事業所の統合,空調関連で 減の取組等については,次回以降に解説いただく 機器の効率的運転・クールビズ(ウォームビズ) 予定である。 の実施・温度設定の調節・ロールカーテン等の取 引 用 文 献 1)環境省:2007年度(平成19年度)の温室効果ガス排出量(確 in Food Science and Technology, 5, 134-138(1994) 定値)について,(2009年5月6日確認:http://www.env. 8)Poritosh Roy, Daisuke Nei, Takahiro Orikasa, Qingyi Xu, go.jp/press/press.php?serial=11091) Hiroshi Okadome, Nobutaka Nakamura and Takeo Shiina: 2)農林水産省環境自主行動計画フォローアップチーム会合: A Review of Life Cycle Assessment(LCA)on some 2008年度食品産業の自主行動計画の進捗状況等について, Food Products, Journal of Food Engineering, 90(1), (2009年 5 月 6 日 確 認:http://www.maff.go.jp/j/study/ 1-10, 2009 kankyo_followup/index.html) 9)増田清敬:我が国の農業分野におけるLCA研究の動向,北 3)ISO(International Organization for Standardization), 海道大学農経論叢,62,99-115,2006 ISO 14040:2006(E)Environmental management - Life 10)(A. Ogino, K. Kaku, K. Shimada: Environmental impacts cycle assessment - Principles and framework,(2006) of the Japanese beef-fattening system with different 4)稲葉敦:LCA(ライフサイクルアセスメント)とは何か feeding lengths as evaluated by a life cycle assessment −LCAの手法と適用−,農業におけるライフサイクルアセ method, Journal of Animal Science, 82, 2115-2122, 2004 スメント,農林水産省農業環境技術研究所編,養賢堂, 11)Poritosh Roy, Tsutomu Ijiri, Hiroshi Okadome, Daisuke pp1-14,2000 Nei, Takahiro Orikasa, Nobutaka Nakamura, Takeo 5) 味の素グループ:食品関連材料のLC-CO2 データベース Shiina: Effect of processing conditions on overall energy (2009年5月6日確認:http://www.ajinomoto.co.jp/company/ consumption and quality of rice(Oryza sativa L.),89 kankyo/lc-co2/) (3),343-348(2008) 6)ライフサイクルアセスメント研究センター:LIME2,(2009 12)Poritosh ROY, Tsutomu Ijiri, Daisuke Nei, Takahiro 年5月21日確認:http://www.aist-riss.jp/old/lca/ci/activity/ Orikasa, Hiroshi Okadome, Nobutaka Nakamura, Takeo project/lime2/index.html) Shiina: Life cycle inventory(LCI)of different forms of 7)K. Andersson, T. Ohlsson, P. Olsson: Life cycle assessment rice consumed in households in Japan, Journal of Food (LCA)of Food products and production systems, Trends 食品と容器 Engineering, 91(1),49-55, 2009 328 2009 VOL. 50 NO. 6 食品産業における環境負荷低減とライフサイクルアセスメント(LCA) 13)農業環境技術研究所(2003):「環境影響評価のためのライ http://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kankyo/090401_1. フサイクルアセスメント手法の開発」研究成果報告書 html(2009年5月6日確認) 14)農業環境技術研究所(2003):「LCA手法を用いた農作物栽 18)京都議定書目標達成計画(平成20年3月28日全部改定), 培の環境影響評価実施マニュアル」 (2009年5月6日確認:http://www.env.go.jp/press/press. 15)日本LCA学会:第2回日本LCA学会研究発表会講演要旨集, php?serial=9547) (2009年5月6日確認:http://www.jstage.jst.go.jp/browse/ 19)農林水産省環境自主行動計画フォローアップチーム会合: ilcaj/-char/ja) 2008年度食品産業の自主行動計画の進捗状況等について, 16)P. Roy, D. Nei, H. Okadome, N. Nakamura, T. Orikasa, T. (2009年 5 月 6 日 確 認:http://www.maff.go.jp/j/study/ Shiina: Life cycle inventory analysis of fresh tomato kankyo_followup/index.html) distribution systems in Japan considering the quality 20)環境省・経済産業省:温室効果ガス排出量算定・報告・公 aspect, Journal of Food Engineering, 86(2),225-233 表制度について,(2009年5月6日確認:http://www.env. (2008) go.jp/earth/ghg-santeikohyo/kouhyo/) 17)農林水産省:農林水産分野における省CO2効果の表示の指針, シンポジウムのご案内 日本包装学会 第₄₉回 シンポジウム -医薬品包装に求められる機能について考える- ◇日 時:平成21年6月3日(水)10:00〜16:40 ◇主 催:日本包装学会 ◇協 賛:㈳日本包装技術協会 ◇内 容 ・「認知的視点から見た医薬品包装のデザインと医療 の安全」 ◇後 援:日本食品包装研究協会,軟包装衛生協議会, 日本接着学会,日本食品科学工学会 ◇会 場:きゅりあん ₆F 大会議室 東京都品川区東大井5−18−1 TEL 03−5479−4100 (JR・東急・りんかい線 大井町駅下車) ◇参加 費:維持会員15,000円(注1),企業に属する 個人会員10,000円,その他の個人会員および学校・ 公的機関の会員5,000円,エキスパート会員2000 円,学生2,000円,非会員18,000円(注2) (注1):企業会員で1社2名以上申し込まれた場 合は,更に1名が無料になります。4名以上の場 合は1人につき10,000円の追加で参加できます。 (注2):申込み時に会員登録(年会費8,000円)をし ていただければ,個人会員として参加できます。 ◇申込・問合せ先: 日本包装学会「第49回シンポジウム」係 〒169−0073 東京都新宿区百人町1−20−3 バラードハイム703 TEL 03−5337−8717 FAX 03−5337−8718 ◇定 員:100名 法政大学 社会学部 教授 原田 悦子氏 ・「看護師のヒューマンエラー対策と注射薬の剤形」 武蔵野赤十字病院医療安全推進室 専従リスクマネージャー 看護師長 杉山 良子氏 ・「3極(日、米、欧)における包装資材の品質基準 と留意点」 元医療品医療機器総合機構 GMPエキスパート 人見 英明氏 ・「海外の主流な表示・包装規格の最新情報と3極の 差」 アストラゼネカ㈱医薬情報部 高池 敏夫氏 ・「医薬品のユニバーサルデザインと海外の包装事情 〜患者の視点を取り入れた医薬品包装設計の展望 〜」 田辺三菱製薬㈱経営戦略部 中川 祥子氏 食品と容器 329 ○シンポジウムの詳細は日本包装学会ホームページを ご覧下さい。 (http://www.spstj.jp/event/sympo/index.html) 2009 VOL. 50 NO. 6 シリーズ解説:食品加工における微生物・酵素の利用(第29回) ○解説○ エリスリトールの特性と用途開発 うちだ・みのる 1972年 に 東 京 田 辺 製 薬 ㈱ 入 社。 1999年 三 菱 化 学 ㈱との合併によ り, 三 菱 化 学 フ ー ズ ㈱ に 転 籍。 市場開発部第2 グ ル ー プ・ マ ネ ージャーとして 現在に至る。 内 田 実 つ,四炭糖の糖アルコールであり(第1図),ブ ○ は じ め に ○ ドウ糖を原料として酵母の発酵により生産される エリスリトールは,ショ糖の約75%の甘味をも “ブドウ糖発酵甘味料”である。 エリスリトールはメロンやブドウ,スイカなど そ しょう の果実類,味噌, 醤 油,清酒,ワイン,チーズ ほ などの発酵食品,キノコ類,牛などの哺乳動物の 体液などに含まれている1) (第1表)。 古くから,ごく自然な生活の中で食されており, ࡉ ࠼ ࠙ ♧ ࠛ ࠬ ࠻ ࡞ 第1図 エリスリトールの製造法 現在,国内・海外あわせて数社がエリスリトー ルを製造・販売しており,目的に応じて,粒状品, 第1表 自然界におけるエリスリトールの分布 生 物 界 地衣類 アサの葉 キノコ類 果 実 類 メロン ナシ 20 - 40(mg/g) 0 - 0.040(mg/g) 0 - 0.042(mg/g) チーズ 12 - 1460(mg/g) 日本酒 150 - 180(mg/g) 醤油 910(mg/ℓ) 味噌 1.31(mg/g) ヒトの精液 ヒトの血清 ヒトの尿 食品と容器 第2表 難 消 化 性 糖 質 のエネルギー換 算係数(kcal/g) 0.022 - 0.047(mg/g) 170 - 300(mg/ℓ) 類 牛の精液 微粉品,顆粒品などが供給されている。 1(mg/g) 発 酵 食 品 ワイン 乳 か 3 - 50(mg/g) ブドウ 哺 安心な食品素材である。 エリスリトール 0 マンニトール 2 パラチニット 0.45(mg/ℓ) ソルビトール 1.6 - 3.3(mg/hr) キシリトール 330 厚生省の平成8年5月 示基準制度」による難 ラクチトール 定性 エリスリトールは, 施行の「食品の栄養表 マルチトール 69(mg/ℓ) エネルギーゼロ(0 kcal/g) ラクチュロール イソマルチトール ○エリスリトール の生理的特性○ 3 消化性糖類のエネルギ ー換算係数において唯 2009 VOL. 50 NO. 6 エリスリトールの特性と用途開発 一0kcal/gに設定されている 2) 14 (第2表)。米国においてもその低 カロリー性がFDAに認められ, C-ERT 胃 0.2kcal/gの表示が可能となって いる。 小腸からの吸収 これは,エリスリトールは小腸 にて大部分が吸収されたのち,生 体内で代謝されずに90%以上が速 せつ やかに尿中に排泄され,小腸で吸 盲腸・結腸 収されなかったエリスリトールは, 尿 ふん (90%以上) (10%以下) 一部が未変化のまま糞便中に排泄 発酵 され,残りは腸内細菌により発酵 を受けるためである 3) (第2図)。 14 すなわち,エリスリトールは,エ 糞 ネルギー摂取を制限したい人や肥 (数%) CO2 14 CH4 腸ガス 呼気 短鎖脂肪酸 吸収 満症の人の食生活改善に役立つ素 代謝 し 材であり,嗜好食品のみならず, 14 特定保健用食品としても利用でき CO2 る素材である。 しょく 非う 蝕 性 第2図 エリスリトールの体内動態 エリスリトールは,マルチトー ルやキシリトールなど他 第3表 エリスリトールの非う蝕原性 の糖アルコール同様に, う 蝕 原 性 口腔内にいる虫歯菌 非水溶性 酸生成 グルカン 菌体凝集 動物う蝕 生 成 くう 甘 味 料 原材料 甘味度 (Streptococcus mutans), その他口腔細菌において も菌の発育および乳酸生 成に基質として利用され 対 照 砂 糖 さとうきび等 1 糖アルコール エ リ ス リ ト ー ル ブ ド ウ 糖 0.7~0.8 - - - - ソ ル ビ ト ー ルブ ド ウ 糖 0.6 + - - - 垢)の生成も認められな マ ル チ ト ー ル麦 糖 0.8 - - - - い非う蝕性の甘味料であ 還 飴 0.4 - - - ± カップリングシュガー ショ糖とでん粉 0.6 +(-)c - c ±(-) c +(-) ず,不溶性グルカン(歯 こう る 4)( 第 3 表 )。 さ ら に, ルに「う蝕を促進しない」 との健康効能促進表示を 食品と容器 水 芽 飴水 オ リ ゴ 糖 米 国FDAで は 食 品 ラ ベ 行うことができる糖アル 元 ネオシュガー(P)シ ョ 糖 0.5 +(-) - - ±(-)d パ ラ チ ノ ー スシ ョ 糖 0.4 - - - ± 糖 0.6 - - - ± ラクチュロース 乳 c d d 主要成分の maltosylsucrose 主要成分の nystose 331 2009 VOL. 50 NO. 6 シリーズ解説:食品加工における微生物・酵素の利用 第4表 摂取1回あたりの最大無作用量 最大無作用量 測定者 男(g/kg 体重)女(g/kg 体重) 糖質 エリスリトール 0.66 0.8 奥ら キシリトール 0.3 0.3 小泉ら ソルビトール 0.15 0.3 小泉ら マルチトール 0.3 0.3 小泉ら フラクトオリゴ糖 - 0.34 奥ら トレハロース - 0.65 奥ら 第5図 エリスリトールの加熱着色性 (濃度 30w/w%,加熱時間 1hr) る6)7) (第4表)。 ○エリスリトールの 物理化学的特性○ 第3図 エリスリトールの甘味質 甘味度と甘味質 エリスリトールの甘味度は,ショ糖の約75%で そう あり,すっきりとした爽快な甘味質である。また, 甘さの切れ味が良いため(第3図),後味の残り やすい液糖や高甘味度甘味料と併用すると甘味質 の改善を図ることが可能である。 吸熱作用 エリスリトールは,結晶が溶解する時に高い吸 熱作用を示す。このため,結晶状態で食すると口 第4図 各種糖質の溶解熱比較 の中で大きな冷涼感が得られる。その溶解熱は, コールの1つとしてエリスリトールを認めてい ショ糖の約10倍,ソルビトールの1.8倍である(第 5) る 。 4図)。 緩下作用(お腹がゆるくなる) 耐熱性 一般に糖アルコールは一度に多量に摂取すると, 糖アルコールは,糖類と比較して耐熱性にすぐ 一時的に下痢(緩下作用)を起こしやすい。これ れている。エリスリトールも他の糖アルコールと に対してエリスリトールは,90%以上が小腸で吸 同様に耐熱性が高く,アミノ酸共存下でもメイラ 収されるため,消化管下部への到達量が少なく, ード反応を生じない(第5図)。 ソルビトールやキシリトールなど他の糖アルコー 吸湿性 ルに比べ下痢を起こしにくい特性をもってい エリスリトールは,常温にて相対湿度90%の状 食品と容器 332 2009 VOL. 50 NO. 6 エリスリトールの特性と用途開発 第6図 エリスリトールの吸湿性 態にても吸湿せず,取り扱いの容易な甘味料であ る(第6図)。 第7図 エリスリトールの溶解性 溶解性 エリスリトールは結晶性が優れているため,溶 し,数多くの製品に採用されている。さらに,消 解度は常温にて約36%(w/w)である(第7図) 費者の健康志向を背景として,あらゆる分野での が,溶解温度を上げれば砂糖と同様の溶解性を示 低カロリー製品の検討,シュガーレス菓子への検 す。 討などが行われている。 安全性 そしてこれらの食品には,ゆうまでもなく「お エリスリトールは,急性毒性試験,亜急性毒性 いしさ」が求められる。これら,エリスリトール 試験,慢性毒性試験,変異原性試験等々の動物試 の特長を生かした製品は継続的に開発されていく 験およびヒトでの臨床試験により,その安全性が ものと思われる。それでは,エリスリトールの利 確認されている。1996年に米国の専門誌「Regu- 用例について,具体的な商品への使用例を含めて latory Toxicology and Pharmacology」に,各種 紹介する。 毒性試験について専門家グループが評価した結果 シュガーレス菓子 8) が掲載された 。1997年には,米国FDAにGRAS 日本は欧米諸国に比べると虫歯の数が多く,そ (Generally Recognized As Safe)物質であると の反省からチューインガム,キャンディ,タブレ 認定された。また,JECFA(FAO/WHO合同食 ットなどのシュガーレス製品が開発され,CVSや 品添加物専門委員会)はADI(1日摂取許容量) スーパーの棚の一角を占めている。エリスリトー を特定していない。 ルは,吸湿性が極めて低いこと,および冷たい食 感も加味された,虫歯になりにくいシュガーレス ○エリスリトールの用途9)○ のキャンディ,チューインガム,錠菓などに使用 エリスリトールは,ノンカロリー,冷たい食感 されている。 など,他の糖質には見られない多くの特長を活か 食品と容器 333 2009 VOL. 50 NO. 6 シリーズ解説:食品加工における微生物・酵素の利用 ⓒ THE CALPIS CO., LTD. 写真1 キャンディ ⓒ THE CALPIS CO., LTD. 写真2 キャンディ 冷菓 また果汁とともにセンターに使用して果汁感の エリスリトール 増強を目的とした使用方法も知られている。この は,結晶粉末が水 ような形で用いられるエリスリトールは,顆粒タ に溶解するときの イプのものや微粉タイプのものが適宜使用されて 吸熱作用が非常に いる。また,センターと共にキャンディの回りに 高いため,その特 も微粉をまぶした製品もある。その他,タブレッ 性を利用して冷た ト,チューインガムなどにも冷たい食感が活かさ い食感の菓子とし れ,特に,ラムネ菓子は崩壊性がよいため口の中 て利用されている。 で一気に溶け非常に冷たい食感が得られる。 その代表例がキャ 卓上甘味料 ンディであり,そ エリスリトールの甘味度は,砂糖の75%程度で, のキャンディの中 甘味質は軽いあっさりとしたものであり,先味の 心に粉末のエリス 立ち上がりが極めて早く,後味の切れが良い。さ リトールを封じ込 らに,吸湿性が低く,呈味改良効果が注目されて め,食べているう いる。これらの特長を生かし,各種の高甘味度甘 ちに溶けて冷たく 味料と組み合わせることにより,高甘味度甘味料 感じるものである。 特有の苦味などを改良することができ,顆粒タイ これらの商品に プや角砂糖タイプの卓上甘味料として商品化され は,カルピス株式 ている。 会社の「カルピス また,ダイエット指向の食生活が広く浸透しつ シ ャ ー ベ ッ トCA つあり,市場では,卓上甘味料の低カロリー化に NDY」(写真1) 対する要求が強くなっている。エリスリトールは や「カルピスかき カロリーゼロという特長から,この分野で最も有 氷キャンディ」 (写 用な素材のひとつである。これらの商品は,味の 真2)が発売され 素株式会社より,顆粒タイプや液体タイプの低カ ている。 ロリー甘味料「パルスイート」(写真3)として 発売されている。 飲料への利用 エリスリトールはカロリーを抑えた清涼飲料, 美容飲料,ダイエット飲料,機能性飲料などの甘 味料として最適である。これらの飲料には,高甘 味度甘味料を使用する場合が多いが,エリスリト ールとの併用により高甘味度甘味料の後味を抑え, 砂糖に近いボディ感のある甘味を与えることがで きる。 実際に,カロリーコントロールしたスポーツ系 写真3 卓上甘味料 食品と容器 334 2009 VOL. 50 NO. 6 エリスリトールの特性と用途開発 飲料や食物繊維,ビタミン, ミネラルなどの栄養素を配合 し,カロリーは抑制した栄養 補助食品的な飲料に甘味料と してエリスリトールが使用さ れている。 ゼリー食品,その他 エリスリトールは,果汁や 果実を配合したデザートゼリ 写真4 デザートゼリー ーや,クッキー,アルコール 飲料はもとより,病者用食品の低カロリー食品の 素材として,また,特定保健用食品の素材として 適している。 ゼリー類では,エネルギーゼロのデザートゼリ ーとして,株式会社マルハニチロ食品より「ゼリ ーdeゼロ」(写真4)が,ブルーベリー風味など, 各種発売されている。 また,子供向けの服薬補助ゼリーとして,薬の 苦味やにおいなどをゼリーで包んで飲みやすくし たゼリー状のオブラート「お薬飲めたね」(写真 写真5 服薬補助ゼリー 5,6)が株式会社龍角散から発売されている。 さらに,エリスリトールは,医薬品添加物とし て利用でき,平成5年6月に,エリスリトールを 矯味剤として使用した医薬品の製造が承認されて いる。その後,平成7年春には医薬品添加物事典・ 追補1995(日本医薬品添加物協会編集・㈱薬事日 報社1995.2.28刊)にも収載されている。 ○ お わ り に ○ 消費者の健康への関心がますます高まるなか, ノンカロリー,低カロリーをコンセプトとした各 写真6 服薬補助ゼリー 種の食品が開発されている。そして,このカテゴ である。 リーの食品に対しては「ゼロカロリー,非う蝕性, また,エリスリトールは大部分が小腸で吸収さ おいしい,安全」などが要求されてくる。エリス れ,生体内で代謝されにくいという特長のため, リトールはこれらの要件を兼ね備え,糖質の中で, 糖アルコールの中でも緩下作用を起こしにくいと 唯一カロリーゼロの素材であることは大きな特長 ころも大きな特長である。 食品と容器 335 2009 VOL. 50 NO. 6 シリーズ解説:食品加工における微生物・酵素の利用 エリスリトールは爽やかな甘味質をもっている 優れた甘味システムを組み上げることが可能であ ばかりでなく,高甘味度甘味料と併用することで, り,適用範囲の広い食品素材であるといえる。 参 考 文 献 1)小田恒郎,日下部正祐,佐々木堯:食品工業,32(4), 41(1989) 薬学雑誌,101(6),567(1981) 7)奥恒行「難消化吸収性甘味糖質の緩下性と取り方」 2)平成8年5月20日,厚生省告知第146号 食品と開発Vol.35, No.2,(2000) 3)奥恒行:臨床栄養学会誌,11(2),13(1989) 8)Regulatory Toxicology and Pharmacology, 24 4)川名部淳,池田正:日大口腔科学,16,27(1990) (2),S191-S308(1996) 5)FR63653, Dec.2, 1997 9)尾坂光亮:糖アルコールの新知識,早川幸男編, 6)丹羽弘司,引地登,桜井栄一,植田公孝,福勢元: 食品化学新聞社,P107-118,2006年 別刷り合本をご利用下さい 食品加工における微生物・酵素の利用 <伝統食品編> 本誌Vol.47 No.11よりVol.49 No.12まで24回にわたって連載してまいりました“シリーズ解説 食品加工における 微生物・酵素の利用”の別刷り合本です。食品製造と微生物の関りは微生物の存在を認識するよりもはるか以前 に始まる。近年,これらの技術はバイオ先端技術を始めとする最新の科学技術によって,その合理性と精微さが 明らかにされつつあるが,本書は<伝統食品編>として,微生物を利用した伝統的な発酵食品について専門の方々 に解説をしていただいた。ご希望の方は下記あてにお申し込み下さい。 B5版/本文183ページ 定価2,000円(消費税込み,送料別) 《内容》監修に当たって,Ⅰ 総論:発酵と微生物(日本大学生物資源科学部教授 農学博士 春見隆文)/Ⅱ 醸造食品:しょうゆ概論,しょうゆトピックス(㈶日本醤油技術センター技術第1部部長 田上秀男)/味噌という 発酵食品(新潟県味噌工業協同組合連合会顧問 農学博士 今井誠一)/味噌の機能性(新潟県農業総合研究所食 品センター主任研究員 渡辺 聡)/納豆-最近の研究-(共立女子大学家政学部食品加工学研究室助手 三星沙 織・同家政学部教授 農学博士 木内 幹)/漬物(発酵漬物) (東京都立食品技術センター副参事研究員 農学 博士 宮尾茂雄)/Ⅲ 酪農製品:発酵乳・乳酸菌飲料(明治乳業株式会社食品開発研究所 野路久展・河合良尚) /チーズ(チーズの多様性と乳酸菌由来酵素) (日本獣医生命科学大学応用生命科学部教授 博士(農学) 阿久澤 良造)/バター(発酵バター)概論(小岩井乳業株式会社小岩井工場乳製品製造部部長 杉田忠彦)/Ⅳ 酒精飲料: ビール小史(1),ビール小史(2)ビール・発泡酒・第3のビール(キリンビール株式会社醸造研究所 川崎正人) /清酒 概論,清酒の機能性(日本酒造組合中央会理事 農学博士 蓮尾徹夫)/焼酎(1)歴史,製法,焼酎(2) 焼酎の世界(鹿児島大学農学部生物資源化学科焼酎学講座教授 鮫島吉廣)/ワインの科学(1)ワイン造りの基 礎知識,ワインの科学(2)ブドウ栽培とワイン造り(山梨大学大学院医学工学総合研究部ワイン科学研究セン ター教授 農学博士 高柳 勉)/蒸留酒と微生物(1)ウイスキー・ブランデーの基礎知識と微生物,蒸留酒と 微生物(2)蒸留酒の貯蔵・熟成・ブレンダー,蒸留酒と微生物(3)酒の世界(蒸留酒)と微生物・その楽しみ 方(サントリー株式会社品質保証本部品質保証推進部部長 冨岡伸一)/Ⅴ パン類:製パン技術とパン酵母(㈳ 日本パン技術研究所常務理事所長 博士(農学) 井上好文)/冷凍生地製パン法と冷凍耐性パン酵母( (独)農業・ 食品産業技術総合研究機構食品総合研究所微生物利用領域酵母ユニット長 博士(農学) 島 純)/米粉を利用 した製パン技術( (独)農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所食品素材科学研究領域糖質素材ユニット 主任研究員 與座宏一) 缶詰技術研究会 食品と容器 電話 03(3663)7251 ファックス 03 (3663)7253 336 2009 VOL. 50 NO. 6 カントーにて た き やす ひこ 多 紀 保 彦 ( 東 京 水 産 大 学 名 誉 教 授 ) は地名のCan Thoとはまったく別の言葉になっ ■■■カントー,関東,Can Tho てしまうのである。母音の発音もちがって,Tho 電子メールが世界を飛び交い国際電話がサービ のoはオとウの中間――なんともやっかいな言葉 スを競ういまとはちがって,むかし海外に単身赴 だ。 任中のお父さんと留守宅のお母さんが連絡しあう ■■■胡志明 手段は,多くは航空郵便だった。とくに私のよう な途上国ドサ回り専門の身にとっては,遅ければ 音調言語としてよく知られているのは中国語だ 1週間もかかるこれが唯一の手段,いまより不便 が,ヴェトナム語とならんでインドシナ半島でひ なだけに有難みも大きかった。 ろく使われているタイ語やラオ語(ラオス語)も 女房からのそんなエアメールのなかで,こんな そうで,中国語は4声,ヴェトナム語が6声であ 一文があった。近所の奥さんから“お宅のご主人, るのに対しタイ・ラオ語はともに5声である。 お勤めが近くになってよかったですね”と言われ, となると,インドシナ半島のこの3か国語は同 おかしかったというのである。わが任地は当時の 系統の言語と思いたくなる。たしかにタイ語とラ 南ヴェトナム,メコンデルタのまん中のカントー オ語は数詞や基本単語がほとんど同じで,言語学 市にあるカントー大学だった。そう,その奥さん 的には同一言語の“地域変種”とされている。と はこれを関東大学つまり関東学院大学と思ったの ころがヴェトナム語は,タイ・ラオ語のグループ である。これならわが家から電車で20分の距離だ。 (タイ・カダイ語族)ではなくオーストロアジア いまなら女房の文末に(笑)が付くところだ。 語族に分類されている。声調があるところは同じ その当時カントー大学農学部にはOTCA(いま だが,ルーツを異にしているわけである。 のJICA)の国際協力プロジェクトで6分野の教 文字についてはヴェトナム語とタイ・ラオ語の 官が日本から派遣されていた。いちばん若造の私 違いははっきりしている。インドシナ地域でもっ は魚類学・水産養殖学担当だった。 とも古い文字はサンスクリット・パーリ語系のク カントーでの生活は楽しいものだったが,不自 メール文字で,のちにそれをもとに作り出された 由したのは言葉だった。ヴェトナム語は典型的な のがタイ語やラオ語の文字である。タイ文字は角 音調言語,6声つまり上がったり下がったりする 張っていてラオ文字は丸っこいという違いはある 6種類の声調がある。カントーはローマ字表記で が,例のローマ字をひねって先端を曲げヒゲを付 はCan Thoで,日本人ならだれでも“関東”と発 けたような字だ。これに対し,ヴェトナム語はむ 音するところだが,ヴェトナムの人にとってそれ かしは漢字で表記していた。ヴェトナムは越南, 食品と容器 337 2009 VOL. 50 NO. 6 ハノイは河内,サイゴンは西貢といったぐあいだ。 ーは魚類生理学の権威である川本信之先生で,赴 それがフランスの植民地になって,現在のローマ 任してまもなく,その川本先生に紹介されたヴェ 字を基本とするものが正式の表記となった。そう, トナムでの数少ない自然科学者のひとりロイ先生 Ðやêなどいろいろなアクセサリーがついたあの のお宅をサイゴンに訪問したことがあった。浮遊 文字である。この国では漢字を知る人は少なくな 生物学者ロイ先生のお宅は,南画風の掛け軸から っているが,いまでも教育を受けた高齢者は自分 螺鈿装飾の紫檀黒檀のテーブルと椅子まで,古い の名前くらいは書ける。因みにホーチミンは胡志 中国そのものだった。“日本人とヴェトナム人は 明である。 従兄弟同士ですよ。箸と漢字を使う文化圏の東の 言うまでもなく,言語と文字はその国の歴史・ 端が日本,西の端がヴェトナムです”という先生 文化の鏡そのものである。たとえば古くからイン の言葉は,いまでも耳に残っている。 らでん ド文明の影響下にあったタイでは,日常使う語彙 ■■■ネズミとヴェトコン にはサンスクリット・パーリ語からの借用語がき わめて多い。これに対し,中国文化圏内にあった カントー大学の日本人教官は,みな教官宿舎に ヴェトナムでは,わが国と同様に漢語起源の単語 住んでいた。校舎はお粗末なバラックだが宿舎は が幅をきかせている。ローマ字表記の現代ヴェト コンクリート造りの4階建て,ただしエレベータ ナム語はクォックグー〈国語〉と呼ぶ。私がいた ーはもちろんエアコンもなく,ベッドには植民地 カントー大学はDai Hoc Can Thoで,Dai Hocは 風の白い蚊帳が吊り下げられていた。高温多湿, 大学だ。これに対しタイでは大学はマハーヴィタ 寝苦しいデルタの夜,風を求めてベランダに出る ヤライ〈Mahavidthyalai〉,そう,サンスクリッ と,遠い夜空に,低い砲声とともに照明弾がしだ ト借用である。わがカントー大学には,校門を入 れ柳の花火のように落下する光景がよく見られた。 ったところに“Chu Y”と書いた掲示板があった。 時は1974年,ヴェトナム戦争の末期だった。 “注意”である。 そんな時代,山地やデルタの辺境地では南ヴェ 私たちカントー大学協力チームの初代のリーダ トナム政府軍とヴェトコン(南ヴェトナム解放民 族戦線)とのゲリラ戦 が絶え間なかったが, サイゴン,カントーな どの都市部や周辺の農 村地帯では戦争の匂い はごく薄かった。街は 輪タクと天秤棒で荷物 を運ぶおばさんたちで あふれ,道ばたはビニ ールシート1枚の露天 商のオンパレードだっ た。街の活気の中心で ある中央市場には,米 や野菜,魚から生きた ニワトリまで,口に入 るものはなんでもあっ 教官宿舎をバックに記念撮影。35年を経たいまも健在だった。 食品と容器 338 た。 田んぼの稲刈りシー 2009 VOL. 50 NO. 6 ズンになると,市場には,ブタやトリを押しのけ ャンスはなかった。 て,頭をとって腹から大の字に開いた小動物がと この3月,そのカントー再訪を私は果たした。 ころ狭しと並んだ。ネズミである。“ヴェトナム 35年ぶりである。私が所属する長尾自然環境財団 の食用ネズミは清潔で上質ですよ。彼らは田んぼ はインドシナ地域で現地の大学や研究所と協力し の米だけで育ったんですから”とはヴェトナム人 て淡水魚の分布調査をおこなっている。カントー 教官の言だが,売場には血なまぐさい臭いが立ち 大学訪問はその一環だった。 こめていて,とても買う気にはならなかった。そ 拡張工事で新しいビルを建築中だったが,カン のうえネズミのイメージ,とくにヴェトナムのそ トー空港はいまでも質素なもので,なにかほっと れは最悪だ。ある日本人教官の奥さんが渡し場の したことだった。しかし街に出ると,わがタイム 食堂でトイレを借りたときの話だが,トイレは調 マシンは機能を失ってしまった。あの田舎町が, 理場の流し台の隣にあって満足な扉もなく,調理 広い舗装道路が縦横に走るデルタの中心都市へと 場の床は水浸し,そこをネズミどもが,わが物顔 変貌してしまっていたのである。カントー大学も, で走り回っていたという。 いまでは3か所にキャンパスをもつ大きな大学に そんなカントーでの私の仕事は,学生への講義 成長していた。 と卒論指導,それにデルタの魚類調査だった。こ 着いた日の夕方,同行の大泉嬢と夕食のため街 の魚類調査では小舟を雇って水路を走りまわり, に出た。メコン最大の分流ハウ河(バサック河) 自分で網を入れたり村人がとった魚を買い上げた の河畔道路には,昔はなかったようなこざっぱり りする。一か所で採集が終わると,魚をフォルマ したレストランが並んでいた。そんな1軒に入っ リン液に入れ,採集データをフィールドノートに てメニューを見た。チャイヨー(ヴェトナム春巻: 書きこむ。日時,採集地,水温等々だが,ここで 南部での発音)やフォー(ヴェトナムそば)と並 困るのは採集場所の記録で,先方の発音をあのヴ んで,field mouseというのがあった。そう,あ ェトナム語表記で書くのは至難の業だ。そこで身 の田んぼのネズミである。 振り手振りでお願いして,地元の人に部落と川の 若く好奇心旺盛な大泉嬢は興味を示したが,当 名を書いてもらうことにしていた。 方はオーダーする気にはとてもなれなかった。だ ある日,デルタの奥での採集を終えて研究室に が,自らの弱みともいうべきものを逆手にとって 戻った私は,助手のルアン君にフィールドノート それを商売の種にするヴェトナム人のしたたかさ を見せた。地元出身の彼は驚いた。“えっ,ここ を,そこに私は見た気がした。メコンデルタはい はヴェトコンの本拠地の村ですよ。よく無事でし ま欧米観光客のデスティネーションのひとつにな たね”。親切に採集を手伝ってくれてフィールド っていて,河畔道路にはショートパンツ姿のそん ノートに地名を書き入れ,ヴェトナム茶までふる な観光客が散策している。ネズミのグリルは,彼 まってくれたそのオジさんの人相風体を述べると, らの体験談のかっこうの種になるのだろう。 彼はさらに驚いた。“隊長かもしれない”。 帰国の前日,学部長がむかし私がいたキャンパ スに連れて行ってくれた。水産学科は学部に昇格 ■■■再訪 していた。場所はむかしのままだが,新しい校舎 1975年4月,サイゴン陥落をもって泥沼のヴェ が建ち並んでいた。正門を入ったところで,私は トナム戦争は終結,翌年4月ヴェトナム社会主義 思わずあの“Chu Y”の掲示板を探してしまった。 共和国が誕生した。私はサイゴン陥落の直前に帰 もちろんなかった。だが,ベランダから照明弾を 国し,以来この新生ヴェトナムには長いこと縁が 眺めたあの教官宿舎は健在だった。近代的なマン なかったが,10年ほど前からときどき入国するよ ションの裏にひっそりと建つ古い公営住宅のよう うになった。だが,行き先はハノイやフエ,ホー なそのたたずまいは,35年のむかしを偲ばせてく チミンなどで,わが懐かしのカントーを訪れるチ れるに十分だった 食品と容器 339 2009 VOL. 50 NO. 6 2008年の最も革新的な製品と2009年のトレンド予想 The World of Food Ingredients(Neth.)38(’08・12) 文献 №5453 中国産粉ミルクのメラミン混入事件に代表され れる。 る2008年の食に関する様々な事件は,食品のトレ Followfish(独):魚介を使った食品として世 ーサビリティーに対する消費者の関心を大きく高 界で初めてその産地情報や加工工程などを明らか め,食品業界のトレーサビリティーへの取り組み にしたもので,パッケージに表示されたコード番 も活発化しており,RFID(ICタグ)の低価格化 号を使ってネットで詳しい情報を検索することが も手伝ってトレーサビリティーの充実が2009年の できる。 大きなトレンドとして注目される。 Glowelle(米):Nestlé社の美容ドリンク。抗 以下は,調査会社Innova Market Insights社が 酸化物質,ビタミン,各種の果汁エキスなどから 発表した2009年の食品産業10のキーワードである。 なり,体内からの美肌効果を謳う。 1.トレーサビリティー無しではノー:食品・材 Wrigley Eclipse(米) :チューインガム。漢方 料メーカーは一層のトレーサビリティーを うた に由来するモクレンの木皮から抽出した殺菌成分 2.古いものが新しい:古代食,伝統食で本物志 を含み,口臭防止効果を標榜(写真1)。 Asahi Citrulline(日本) :スイカから抽出した 向 3.シーズン商品:販売アップのための限定商品, 季節商品 多機能アミノ酸,シトルリンを含有する飲料。抗 酸化作用,血中アンモニアの低減,血管拡張,筋 4.外食から内食へ:金融危機による消費者の内 肉疲労の防止,新陳代謝に効果ありという。アサ 食回帰は食品メーカーにとってのチャンス ヒソフトドリンク,資生堂,ロッテのコラボレー 5.裏付け:食品材料のより科学的な裏付けのた ションによる開発。 SoBe Life(ペルー) :ステビアをソフトドリン めの投資 6.バランス:食のバランス,ヘルシーとノンヘ クの甘味料として最初に使ったPepsiCoがペルー ルシー で上市した栄養強化ボトルドウオーター。今後ラ 7.ムダの排除:形式主義的な規制の見直し テンアメリカ諸国に展開予定。 8.斬新さ:不況の時代にあっても受け入れられ Embodi(米) :赤ワイン用ぶどうの皮,種,茎 る高級さ,スペシャルさ のエキスを使った健康飲料。赤ワインのポリフェ 9.ニュートリゲノミクス:遺伝子レベルでの食 ノールによる強力な抗酸化作用をアルコールの副 の研究 作用なしに発揮する。 10.自然食品:自然食品志向の増大 写真1 食品と容器 Milk Time Probiotic これからのト (英) :Walls Ice Cream レンドにつなが 社による世界初のプロ る2008年度登場 バイオティクアイス。 の革新的な商品 フレッシュミルクとプ には下記のよう ロバイオティクヨーグ なものが挙げら ルトにストロベリーソ 340 写真2 2009 VOL. 50 NO. 6 写真3 ースをからめたもので,一日当た で開発,発売したナチュラル りのカルシウム推奨摂取量の30% ソフトドリンク。先行するオ のカルシウムを含み子供の歯や骨 ーガニック炭酸飲料Bionade に効果があり,またプロバイオテ 等に対抗する商品として欧州 ィクにより体内の良性バクテリア 市場に展開中。アップルジュ を増やすという(写真2)。 ースの酵素を利用した清涼な Emminent(スイス) :Emmi社 テイストを標榜している(写 のエネルギーショットドリンク。 真3)。 ミルク,フルーツ,プロバイオテ Big Shotz(英):ShotsHealth社がマルチビタ ィクバクテリアの組み合わせにタ ミンサプリメントに対抗して初の栄養強化フルー ウリンと緑茶エキスを加えた125 ツジュースショットドリンクとして発売。17種類 写真4 ㎖のショットボトル入り飲料。オレンジ,ベリー, のビタミン,ミネラル,オメガ3,プレバイオテ マンゴーの三つのフレーバーがあり,活動的な男 ィクファイバー,朝鮮人参などの成分をマンゴー, 性向けエネルギードリンクと位置づけ。通常のエ パッションフルーツ味のショットドリンクとして ネルギードリンクであるに留まらず,免疫効果も 構成。同社ではこれを液体食品と位置づけており, あるとしている。 カプセル入りや錠剤の栄養剤よりも吸収のスピー Spirit of Georgia(独) :Coca-Cola社がドイツ ドと効率がよいという(写真4)。 (大池静男) 新刊紹介 ソフト・ドリンク技術資料No.157発刊のお知らせ 組みについて ㈳全国清涼飲料工業会では、「ソフト・ドリンク技 術資料」No.157を発刊しました。ご希望の方はホーム ページでお申し込み下さい。 ◇書 名:ソフト・ドリンク技術資料 No.156 (2009年・第1号)B5判 182ページ ◇価 格:1部購入の場合=4,500円(全清飲または 日清研会員は3,000円),定期購読の場合=9,000 円(全清飲または日清研会員は6,000円) ◎定期購読は年間3冊,価格はいずれも消費税 込,送料サービス,10部以上お求めの場合に は1割引。 (2009年度分はNo.157~No.159号)。 ◇申し込み先:ホームページ www.j-sda.or.jp ◇お問合せ先:㈳全国清涼飲料工業会 TEL 03 (3270) 7300 担当 東根または安達 ◇内 容 1.食品産業における放射線利用-食品照射の現状と 将来- (㈶原子力安全研究協会 久米 民和) 2.GM農作物(GM作物)をとりまく近年の動向 (農業・食品産業技術総合研究機構 田中 淳一) 3.腸の炎症と食品による制御 (東京大学大学院農学生命科学研究科 清水 誠) 4.食品の抗酸化指標確立に向けたAOU研究会の取り 食品と容器 (太陽化学㈱ 川崎 昭男) 5.ゼリー飲料のテクスチャーと飲み込み易さ (日本女子大学 大越 ひろ) 6.新しい栄養学展開~清涼飲料水と五感栄養学に ついて~ (静岡県立大学 教授 横越 英彦) 7.特定健康用食品と安全性 (㈶日本健康・栄養食品協会 橘川 俊明, 福本 成子,林 祐造) 8.PETボトルの3Rの推進と課題について (PETボトルリサイクル推進協議会 松野 建治) 9.EUの消費者向食品情報条項に関する欧州議会及 び欧州理事会規則案の解説と仮訳 (㈳全国清涼飲料工業会 福田 正彦) 10.大塚製薬株式会社の品質管理体制について (大塚製薬㈱ 渡邊 義也) ティータイム 面倒くさがりやの・・・ (森永乳業㈱ 井手 総一郎) トラベル・トラブル (㈳全国清涼飲料工業会 雛本 恵子) 341 2009 VOL. 50 NO. 6 栄養素の豊富な食品:健康改善のための 栄養ナビゲーションシステム(2) Journal of Food Science(U.S.A.)H222(’08・11−12) 文献 №5442 プロフィールシステム(第2表)では,栄養素 て複雑な栄養素プロフィールを開発する必要があ 成分の数を増やすことは良いことでないばかりか, るのかという疑問が生ずる。 手法的な問題が新たに生ずる。多くの食品は複数 ステップ3 1日当たりの摂取量の設定 の栄養成分を含んでおり,カルシウム・リン酸と 食品医薬品局が提供するデータに基づいて,食 食物繊維・ビタミンC・葉酸・カリウムは密接に 品に表示される基準1日摂取量あるいは基準1日 関連している。どの食品にも微量含まれる栄養素 摂取割合が計算される。 もあるし,特定食品に高濃度に含まれる栄養素も ステップ4 算出基礎の決定 ある。こうした問題に対処するには,指標とする 栄養素プロフィールは,100g当たり,100kcal 栄養素の選定,1日最大摂取量に上限値設定,そ 当たりあるいは1回摂取量当たりで計算する。 の他の微調整が必要である。重要なことは,食品 100kcal当たりの栄養豊富食品指数は1回摂取量 の栄養密度を正しく反映するため,摂取推奨栄養 当たりの指数と類似したものとなる。健康食事イン 素と摂取制限栄養素を適切に組合わせる点であ デックスを予測する最良のアルゴリズムは,摂取推 る。 奨栄養素と摂取制限栄養素を含んだものである。 エネルギー密度値との相関に関しては,栄養素 ステップ5 アルゴリズムの開発 を多く使用するモデルでは低くなり,少ないモデ 種々の栄養成分を用い,単位量当たりの栄養素 ルでは高くなる。選択栄養素が摂取推奨栄養素で プロフィール値を算出する多数の計算法が開発さ あっても摂取制限栄素であっても同じ傾向となる。 れている。 そのため,栄養素が数点の場合には簡便でエネル ステップ6 試験と有効性確認 ギー密度と関連深いものとなることから,はたし 有効性確認手法の開発は栄養素プロフィールに 第2表 摂取推奨栄養素だけを利用する栄養素プロフィールモデル 栄養素 プロフィール 主要栄養素 モデル名 NAS23;NDS23 タンパク質,繊維,リノール酸, リノレン酸,ドコサヘキサエン酸 NNR15 タンパク質,繊維, モノ不飽和脂肪酸 NAS16, タンパク質,繊維,リノレン酸, NDS16 afssa ドコサヘキサエン酸 NAS16, タンパク質,繊維 NDS16 darmon NRF14 タンパク質,繊維 NRF13 NRF12 NRF11 NRF5 タンパク質,繊維 タンパク質,繊維 タンパク質,繊維 タンパク質,繊維 摂取推奨栄養素 ビタミン ミネラル A,C,D,E,チアミン,リボフラビン, Ca,Fe,Zn,Mg, B6,B12,ニコチン酸,葉酸, Cu,Se,K,I(Ph) C,D,E,チアミン,リボフラビン,B12, Ca,Fe,Zn,K 葉酸 A,C,D,E,チアミン,リボフラビン, Ca,Fe,Mg,Zn,K B6,B12,葉酸 A,C,D,E,チアミン,リボフラビン, Ca,Fe,Mg B6,B12,ニコチン酸,葉酸, パントテン酸 C,D,E,チアミン,リボフラビン,B12, Ca,Fe,Zn,K 葉酸 C,E,チアミン,リボフラビン,B12 Ca,Fe,Zn,K A,C,E,チアミン,リボフラビン,B12 Ca,Fe,Zn,K A,C,E,B12 Ca,Fe,Zn,K,Mg C Ca,Fe モデル名略号の付属数値は,取推奨栄養素の数を表す。 ”NAS23,NAS16:成人で 2000kcal/day のフランス推奨摂取量に基づく栄養素妥当性スコア 食品と容器 342 2009 VOL. 50 NO. 6 第3表 NDS系列,NRF系列の栄養素プロフィールモデルの相互比較結果 NDS23 NNR15 NDS16 NRF14 NRF13 NRF12 NRF10 NRF7 NRF6 NRF5 NDS23 NNR15 0.96 0.94 0.94 0.93 0.93 0.93 0.88 0.87 0.84 NDS16 0.96 0.97 0.97 0.97 0.94 0.93 0.92 0.87 注)378 点の食品で得られた結果を比較した。 表の数値はログ変換値 NRF14 0.99 0.99 0.99 0.98 0.95 0.95 0.92 NRF13 1.0 1.0 0.95 0.95 0.95 0.92 NRF12 1.0 0.96 0.96 0.95 0.92 NRF10 0.99 0.96 0.95 0.92 NRF7 0.97 0.97 0.91 NRF6 0.99 0.91 0.93 は不可欠であり,最優先事項である。異なるモデ 変数とする回帰分析を実施した。 ルのテストには,相互比較(第3表),他の食品 算出基礎として 100g当たり,100kcal当たり, 成分との相関,健康的な食事指標との比較が必要 あるいは1回摂取量当たりのどれが適切かを健康 である。健康メリットやBMIとの比較も必要であ 食事インデックスとの回帰分析した結果,いずれ ろう。 も良好であったが(第4表),算出基礎が食事ピ DREWNOWSKI博士は「いかなる栄養素プロフィー ラミッドの場合には良好でなかった。特に,摂取 ルシステムでも試験と有効性確認は必須であり, 推奨栄養素と摂取制限栄養素を組み合わせた場合 栄養素プロフィールシステムを規制当局が決定す に良好な結果が得られた。また,一番高い寄与率 る前に,より多くの研究が必要である」と強調し は,摂取推奨栄養素11点と摂取制限栄養素3点を ている。どんな栄養素プロフィールシステムであ 用いた場合であった(第5表)。 っても,消費者に分かりやすく,計算方法が公開 摂取推奨栄養素11点+摂取制限栄養素3点の場 され,誰でも利用可能であるべきであり,有効性 合には,BMI,拡張期血圧,LDLと有意な相関が 確認と消費者によるテストは必須である。健康な 認められた。計算方法を簡素化するため,11点よ 食事選択の手助けとなる栄養素スコアーシステム りも少ない摂取推奨栄養素で良好な結果が得られ は,消費者がより健康的な食べ物をあらゆる食品 るよう検討中である。大半の栄養素プロフィール 群から選択できるべきである。 手法は小売業者やNGOで開発中であるが,実際 各種の栄養素プロフィールの比較 に使用する前に,食事の質やBMI等の健康指標と 「栄養素密度」には明瞭な定義が無いが,米政 の有効性を確認する必要がある。 府2005年版食生活ガイドラインでは,「比較的少 消費者から見た栄養素プロフィールと食品表示 ないカロリーで十分量のビタミン,ミネラル(微 2001−2002の米国全国健康・栄養調査によれば, 量栄養素)を提供する食品を栄養素高含有食品」 多くの者でビタミンA,E,C,マグネシウムが としている。栄養素密度の低い食品とは,カロリ 推定平均必要量に達していない。一部の者では, ー源とはなるものの微量栄養素の含量が少ないか, ビタミンB6,亜鉛,リンが不足している。推定 全く含まない食品である。多様な因子を用いた 平均必要量が未設定のビタミンK,カルシウム, 200を超える栄養素密度スコアーが開発されてい カリウム,食物繊維なども問題視されている。 る。栄養素の豊富な食品の基準を作り出すための 2005食生活ガイドライン諮問委員会の関心事項は 多くの選択肢があるが,それらの有効性を確認す 栄養素の豊富な食事の重要性である。食品企業や る客観的な方法を見いだすことが重要である。 量販店によるバラバラな栄養素プロフィールが激 有効性解析結果 増している。こうした栄養素プロフィールは,は 米国農務省により開発された健康食事インデッ たして消費者が食事ガイドラインに従う手助けと クス2005,体重・身長,血圧,コレステロールを なっているのかが問題である。システムに欠陥が 食品と容器 343 2009 VOL. 50 NO. 6 あるため,栄養素の豊富な食品の栄養素 が少なくなったり,その逆も生じている。 第4表 単位量が栄養密度スコアと健康食事インデックス2005の 関係に及ぼす効果(線形回帰分析結果) 例えば,東北部に 155店舗展開している 栄養含量インデックス スパーマーケットの方法では,飲料7 Division 指数使用の場合 100g 当たりの栄養含量 摂取抑制栄養素3点 摂取推奨栄養素 10 点 摂取推奨栄養素 10 点+摂取抑制栄養素3点 100kcal 当たりの栄養含量 摂取抑制栄養素3点 摂取推奨栄養素 10 点 摂取推奨栄養素 10 点+摂取抑制栄養素3点 1回摂取量当たりの栄養含量 摂取抑制栄養素3点 摂取推奨栄養素 10 点 摂取推奨栄養素 10 点+摂取抑制栄養素3点 Up Plusはカルシウムを強化しているた め一つ星であるが,9種類の必須栄養素 を含む2%脂肪牛乳も同じ一つ星であり, 問題である。 現存の栄養素プロフィールにはこうし た欠陥があるので,包装食品に含まれて いる全体の栄養素を考慮した栄養素プロ フィールを開発し,消費者の正しい選択 を補佐する必要がある。消費者が栄養表 示をどのようにとらえ,どのように使用 しているかを理解するため市場調査を 行った。 栄養素豊富とは 調査結果によれば,消費者は多くの栄 養素を食事から摂取することを望んでい るが,どのように正しい食品を選択した らよいかが分からない。正しい選択をす るための手段の不足や選択に困惑してい る。その結果,栄養素の豊富な食品を選 択することには熱心でない。 消費者にうったえるメッセージ 消費者にとって意味のない栄養関連情 報もある。「こうすべきではない」とい う情報は不評である。消費者は現実的で 不自然ではないメッセージを好む。「あ なたの健康は小さな一歩から」という米 国保健福祉省からのメッセージには好感 回帰係数 寄与率 (β) (R2,%) 15.97 28.51% −0.52 0.29 0.47 17.30% 19.37% 36.65% −1.24 0.43 0.45 32.14% 29.86% 39.81% −0.58 0.21 0.36 22.96% 15.66% 32.21% Wald 検定の p 値はいずれも 0.0001 未満であった。 米国全国健康・栄養調査データ(1999 ~ 2002,n = 15537)を使用。 第5表 栄養成分数が栄養密度スコアと健康食事インデックス 2005の関係に及ぼす効果(線形回帰分析結果) 栄養含量インデックス 100kcal 当たりの栄養含量 摂取推奨栄養素 10 点 摂取推奨栄養素 10 点+摂取抑制栄養素3点 摂取推奨栄養素 12 点 摂取推奨栄養素 12 点+摂取抑制栄養素3点 摂取推奨栄養素 11 点 摂取推奨栄養素 11 点+摂取抑制栄養素3点 摂取推奨栄養素 13 点 摂取推奨栄養素 13 点+摂取抑制栄養素3点 1回摂取量当たりの栄養含量 摂取推奨栄養素 10 点 摂取推奨栄養素 10 点+摂取抑制栄養素3点 摂取推奨栄養素 12 点 摂取推奨栄養素 12 点+摂取抑制栄養素3点 摂取推奨栄養素 11 点 摂取推奨栄養素 11 点+摂取抑制栄養素3点 摂取推奨栄養素 13 点 摂取推奨栄養素 13 点+摂取抑制栄養素3点 回帰係数 寄与率 (β) (R2,%) Wald 検定の p 値はいずれも 0.0001 未満であった。 米国全国健康・栄養調査データ(1999 ~ 2002,n = 15537)を使用。 0.43 0.45 0.34 0.36 0.42 0.43 0.33 0.35 29.86% 39.81% 28.02% 36.51% 31.14% 40.47% 29.04% 37.10% 0.21 0.36 0.15 0.26 0.20 0.34 0.15 0.25 15.66% 32.21% 14.28% 27.08% 16.19% 32.23% 14.73% 27.23% をいだいているし, 「上手に生きよう(live well)」 まとめ も好評である。 様々な栄養素プロフィールが激増しているが, 栄養表示の意識調査 その有効性を評価する標準的な手法が無い。競合 認定栄養士400名,消費者800名を対象とした穀 する栄養素プロフィールは,消費者を混乱させる 物,野菜,酪農品,肉,混合食品の栄養成分表示 ことから,食品医薬品局は,栄養素の豊富な食品 に関するオンライン調査の結果,認定栄養士の88 の栄養素プロフィールを標準化するためのメリッ %,消費者の78%が「栄養成分表示は食品に含ま ト・デメリットの調査を実施している。標準化さ れるすべての栄養素を表記すべきである」と回答 れた栄養素プロフィールシステムが開発されれば, し,「包装食品の栄養成分表示では,カロリーと より栄養豊富な食品を選択し,健康改善に大きな 栄養成分の併記が望ましい」と回答している。 効果を及ぼすであろう。 食品と容器 344 (林 清) 2009 VOL. 50 NO. 6 環境に優しい食品製造の探索 Food Engineering & Ingredients(U.S.A.)30(’08・11) 文献 №5449 近年,食品製造に関係のある者は“持続可能な 付き製品の選択,ボトルドウオーターの回避など 食品(sustainable food)”という言葉をよく耳に を含む“持続可能な食品の7原則”を展開した。 する。食品製造業者や小売業者は,これからの食 これは食品業界にとって行き過ぎかもしれないが, 品製造や流通には持続可能な取り組みが不可欠で 持続可能な食品の概念を特定の政策に取り入れる あると思いはじめている。問題は持続可能という ためにどう広げられるかを例証している。例えば, 漠然とした言葉は誤解を生む可能性があり,場合 持続可能な選択とされる有機食品製造システムは によって特定の施策のために歪曲される懸念があ 世界の人口増に対して十分な食品提供が可能か疑 る。しかし,食品の持続可能性運動はガイドライ 問である。一方,遺伝子組み換えの支持者は,GM ンや基準を明確にしつつあり,新しい枠組みは食 技術は痩せて不毛な土地でも農業が可能になり, 物の生産方法を大きく変える原動力になるかも知 持続可能な食品製造に大きく寄与できるという。 れない。 2006年の国連食糧農業機関(FAO)の報告に 人類の活動は,資源の代替に勝るスピードで地 よると,家畜の出す温室効果ガスは全世界の排出 球の資源を消費し,取り返しが困難なほど徐々に 量の18%を占め,さらに家畜は地球の不凍地の30 地球の気候を変えている。このプロセスを停止さ %,農地の70%を占め,家畜による水の消費と汚 せるために緊急に何かをしなければいけないとい 染は著しく,これ以上の被害を避けるために家畜 う世論が大きい。現在,環境保護主義の大きい考 生産による環境負荷を半減させるべきとしている。 えの1つは人間の活動は常に持続可能であるべき しかし畜産業者は,牧草による飼育を増やして穀 だということである。「持続可能な食品」に対す 物飼料の依存度を低減することによって環境負荷 る法的定義はまだ確立されていないが,英国の環 が激減し持続可能になると信じている。 境団体Sustainは持続可能な食品の生産,加工, 世界の食品業界は非常に複雑であり,特定製品 流通について次のようにいっている。 の環境負荷を計算することは簡単ではない。例え ・地元の経済と暮らしの持続可能な成長に寄与す ば,“フードマイル”は環境運動にとって重要で わい や ること あり,アフリカから遠く離れた市場へ食品を輸送 ・植物や動物の多様性を保護し,天然資源に被害 することは炭酸ガスの排出量を増大させることに を与えたり,気候の変動に影響を与えないこと なり好ましくない。しかし,ある食品の調査でア ・品質の良い製品や安全で健康に良い製品,教育 フリカから欧州市場へ空輸した場合と,地元で促 機会のような社会的利益を提供すること 成栽培や冷凍保存した場合の環境負荷を比較する これは定義というより公約であり,食品製造と と,前者の方が低い結果を示した。また,英国市 サプライチェーン全体を対象にした重要な行動基 場単独でもアフリカ人民100万人の生計を支えて 準である。それは一次製造の作業条件から最終製 いると見積もられている。 品の栄養組成まですべてを考慮に入れることを食 大企業が先導する 品業界に求めている。実際にSustainは消費者や 食品製造の持続可能性について,事前に定義や 企業に対し,動物由来食品の制限や公正取引認証 効果測定などを確立しておかないと真の進歩には 食品と容器 345 2009 VOL. 50 NO. 6 つながらない。現在,幾つかの団体が現実的な観 パーム油である。パーム油は食用であるが,優れ 点から基準作りを始めている。Sustainable Food たバイオ燃料にもなり,近年需要が急上昇したた Laboratoryもその1つで,食物の生育,収穫,流 め広大な熱帯雨林が新しい農場に開墾され,地球 通方法の改善策を積極的に探している。このプロ 上で最も環境を破壊する作物の1つとして非常に ジェクトには,H.J.社やHeinz社,Ahold社,Unile- イメージがよくない。そこで,大手パーム油生産 ver社,Starbucks社などの国際的な企業が会員 業者と顧客はNGOと協働して,2004年に「持続 になっている。これらの会社はRainforest Alliance 可能なパーム油円卓会議(RSPO)」を結成し, やWorld Wildlife FundなどのNGOや環境団体と 持続可能なパーム油製造の認証基準を作った。一 ネットワークを結んで,新しいアイデアのテスト 番最初にRSPOが認証したパーム油が今年(2008 や持続可能な食品製造に対する基準を作っている。 年)市場に出始めている。 興味深いことに,このネットワークが作った持続 漁業部門の盛衰 可能な食品の定義はSustainの定義と非常に似て 水産業界は絶滅危惧種の捕獲を減らすよう長年 いて,同じ基本原則が包含されている。 強制されてきた。漁場の中には,乱獲が原因で閉 Sustainable Food Laboratoryの 会 員 は 世 界 各 鎖された所もあり,他でも漁獲が漸減している。 地で持続可能性プロジェクトに参加している。例 漁獲対象を従来あまり利用されていない魚種にか えば,Unilever社はRainforest Allianceと提携し えれば漁獲減を多少埋め合わせできるが,これは て,Rainforest Allianceの認証を受けた栽培業者 漁業の壊滅的崩壊を遅らせるに過ぎないと海洋環 のお茶だけを調達している。東アフリカで始まっ 境運動家は信じている。天然魚の減少を危惧し, たこの認証システムは次第に他の地域へ広がると 漁業は持続可能であるべきと考える消費者も多く, 思われる。 持続可能性をセールスポイントにしている市場も 欧州食品産業組合(CIAA)も,持続可能な食 ある。 海洋保護協会 (Marine Conservation Society) 品 製 造 を 積 極 的 に 促 進 し て い て,2007年 に はウェブサイトで,環境に優しい魚や回避すべき 「Managing Environmental Sustainability in the 魚種の情報を出し消費者を啓蒙している。 European Food & Drink Industries」というレポ 欧州委員会は,漁獲高減少を食い止め,“持続 ートを発表した。CIAAでは,持続可能性の鍵は 可能な漁業”を認証するため欧州の漁業を厳しく 規制よりもむしろ協力と連帯責任であると考えて 規制している。海洋管理評議会(Marine Steward- おり,情報を共有して議論の輪を広げる取り組み ship Council:MSC)は持続可能な漁業と海産品 をしている。レポートは「製品のライフサイクル のトレーサビリティに対する基準を作り,認証を において,食品分野に影響する主要環境課題の概 管理し,MSCブルーエコラベルで消費者を啓蒙 要」から始まり,食品企業がその課題に取り組む している。 ために採っている戦略例を示し,将来の行動に対 世界人口の増加が続き,動物タンパク質の需要 する優先事項の確認へと続いている。持続可能な も増えるなか,中国やインド,ブラジル経済の急 食品製造に対するCIAAの取り組みの重要な側面 発展で既に肉や乳製品の需要が劇的に増加してい は,環境への影響だけでなく商業的,財政的恩恵 る。現在の持続可能性取組がこの需要増に対応可 も企業に明示することである。持続可能性の原則 能か疑わしいが,最新の魚養殖技術の中に1つの は企業にとって有用であり,食品のコスト抑制や 答えがあるかも知れない。FAOによると,魚の 競争力維持に役立つ。 養殖は年間成長率が約9%で,過去25年間で最も この提唱を契機に,企業は食品製造に伴う天然 成長した食品製造分野である。今日では,消費さ 資源への環境影響を減らすため積極的に専門家と れる魚の約45%(約48百万トン)が養殖されてい 提携している。そして現在,特定の食品製造シス る。魚の養殖は,エビ養殖に伴うマングローブの テムが効果的な基準に変わり始めている。適例は 破壊,餌や廃水による汚染,逃げた養殖魚による かぎ 食品と容器 ぐ えさ 346 2009 VOL. 50 NO. 6 野生種への影響等々,環境に対し悪評が高い。 オヒョウ,シーバスであり市場が確立されている FAOは環境破壊の最小化を支援するため,エビ が,世界で最も多い養殖魚は鯉で,養殖魚生産の 養 殖 の 国 際 基 準(International Principles for 約70%である。鯉は主に中国やインド,インドネ Responsible Shrimp Farming)を創設した。また, シアで養殖され,欧州市場ではあまり見られない 高効率で環境破壊の少ない養殖法の開発に多くの が,もし新市場が開発されれば養殖鯉の生産が拡 研究が行われた。 大されるとFAOはいう。現在アジアや中,北米 マグロの養殖を例にとると,数年前,地中海で で大規模に養殖されているアフリカ原産淡水魚の は生きた野生のマグロを捕獲し,ケージの中で太 テラピアは既に米国や欧州で新市場を得ている。 らせて市場に出していた。多くの環境団体は,こ テラピアは温水種だが,地域の環境を破壊しない の習慣は野生マグロを絶滅させると危惧していた。 閉鎖式システムで飼育可能であり,魚油やタンパ マグロは大洋回遊魚で,多くの酸素と餌が必要で ク質を含む餌を要しないという利点もある。理論 あり,水温に非常に敏感であるため養殖は難しく, 的には,工業や発電の廃熱を利用して都会地の閉 結果的に野生のマグロを畜養するより卵から育て 鎖式養殖池で養殖可能であり,現在の動物タンパ ることや,成育させるために必要な最適条件など ク質生産システムのどれよりもはるかに環境負荷 の研究へ向かった。この知識はやがて他の魚種に が小さい。逆説すれば,将来枯渇の心配がある食 適用できるかも知れない。 品資源にとって,世界のタンパク質供給源の1つ 欧州で最も多い養殖魚種は大西洋サケやタラ, として期待できそうに思える。 (池田映之) 別刷り合本をご利用ください ヘ ル ス フ ー ド 科 学 と 予 防 医 学 東京海洋大学大学院水産学研究科教授 矢 澤 一 良 著 本書は現代人がもつ様々な健康上の問題点を解決するための食の果たす役割を, 「ヘルスフード」と「予防医学」 の視点よりとらえ直した有益な解説書です。ご希望の方は下記あてお申し込みください。 B5判/本文 202ページ 定価 3,800 円(送料別) 《内容》予防医学と健康の三原則/ヘルスフード科学の概念と特定保健用食品/DHAとEPA-魚食と健康Ⅰ・ Ⅱ-/マリンビタミンの機能とその応用/ストレス障害と疲労回復/活性酸素と抗酸化物質/食品中の抗酸化物質 Ⅰ/食品中の抗酸化物質Ⅱ-トコトリエノール-/ブレインフードⅠ-ホスファチジルセリン-/ブレインフード Ⅱ-イチョウ葉エキス-/インド伝統医療の応用-バコパの抗不安作用-/西欧ハーブ医療食品-ビンカマイナ ー-/抗ストレス食品-睡眠改善ミルクペプチド-/補酵素食品Ⅰ/補酵素食品Ⅱ-α-リポ酸-/酵素阻害食品 Ⅰ-ペプチドによる高血圧抑制-/酵素阻害食品Ⅱ-糖質吸収抑制成分による抗糖尿病作用-/QOL改善食品Ⅰ -グルコサミン-/QOL改善食品Ⅱ-ノコギリヤシ果実エキスによる前立腺肥大抑制作用-/食べる美容食品 -アスタキサンチン-/骨粗鬆症とイソフラボン-女性ホルモン様作用天然成分-/動物性食物繊維とその応用 -キチン・キトサン-/腸内細菌食品-免疫乳酸菌-/抗肥満食品-脂肪燃焼ネットワーク-/抗疲労食品-カレ ー香辛料からの新素材探索-/マリンビタミン-海産性アミノ酸およびペプチド類の有用性/日本の伝統食品Ⅰ -ヘルスフードとしての米-/日本の伝統食品Ⅱ-ヘルスフードとしてのタマゴ-/食の安全性を考える-機能性 食品素材と薬の相互作用-/食育とアンチエイジング-2006年の食と健康に関わる研究と開発-/ヘルスフード開 発の特許戦略と起業/ヘルスフード研究・開発の今後の方向性-最新のトクホ情報-/ヘルスフード科学研究の進 め方-東京海洋大学の場合-/食による予防医学の展望-米国にみるヘルスフードの潮流-/食品の保存性・安全 性とおいしさを求めて-ヘルスフードから見た缶詰- 問合わせ・申込み先 缶 詰 技 術 研 究 会 電話 0 3( 3 6 6 3 )7 2 5 1 ファックス 0 3( 3 6 6 3 )7 2 5 3 食品と容器 347 2009 VOL. 50 NO. 6 有機酸の微生物増殖抑制機構 Journal of Food Science(U.S.A.)R12(’09・1−2) 文献 №5460 弱酸性食品中の有機酸による細菌増殖抑制の機 よれば,これらの実験条件では,すべての実験培 構は,完全には解明されていないが,細胞内アニ 地が¦A−¦in=475mMとなる。 オンの蓄積が,増殖抑制への主要な作用因子であ 各条件下の3連の実験の平均増殖曲線は第1図 ることは明らかである。本文献の著者らは,細胞 と第2図である。 内アニオンの蓄積は,外部アニオン濃度と外部酸 第1図および第2図からは,明確な抑制作用や 性度の2つの要因によると考えた。この考え方は, 異性体やKa,外部酸性度によることが分かる。 今までこの分野の研究に充分適用されてこなかっ 例えば,乳酸塩の異性体は,pHout=5.8で同程度に た基礎化学法則に沿っており,次式で表される 増殖を抑制したが,pHout=6.5ではD−乳酸塩が, − + ¦A ¦in=¦H ¦released L−乳酸塩より強く増殖を抑制した。このことは, =¦A−¦out×antilog(pHin−pHout)・・・・・(1) 細菌細胞はpHに依存してL−乳酸塩の細胞内レベ この式は,細胞内陰イオン濃度は外部陰イオン ルをより制御できることを示唆しており,食品安 濃度と細胞の内外のpHの差により制御されるこ 全のための乳酸添加物の選択に重要である。 とを表しており,この新しい考えに沿って著者ら また,酢酸塩がpHout=6.5において塩酸より強く は研究を実施している。 増殖抑制したが,pHout=5.8では弱かった。この現 Listeria sp.の増殖に対する有機酸の作用を明ら 象は,酢酸がより酸性の強い環境で外部酸性度か かにするために,特に即席食品の典型的なpHで ら保護する傾向があることを示している。また, あ るpH5.8−6.5の 培 地 に お け るListeria innocua この現象は,pHoutがより酸性化しても細胞にま U1の増殖に対するレブリン酸塩,酢酸塩,D− すます優位な効果を示している。今後は,¦A−¦in またはL−乳酸塩,および塩酸(アニオン非含有 やpHinが異なるタイプの酸の効果や,細胞内グル 調整有機酸)の作用について調べた。有機酸を タミン酸塩とカリウムのバランスの測定を行う必 BHI培地に添加し,各々pH5.8または6.5において 要がある。 ¦A−¦out=3または15mMとなるように塩酸で調製 L.innocua U1の増殖に対する酸アニオンの影 − し,各有機酸の終濃度は,目的¦A ¦out(第1表) 響については,さらにLinnocuaのあるタイプの になるようにpKaとpHを調製した。式(1)に 有機酸への暴露によりほかの酸に抵抗性となるよ うな効果や,内部pHを低下させるメカニズムや, 第1表 BHI栽培に添加した有機酸の総濃度 アニオン流出,酸耐性応答に関連する制御遺伝子 有機酸の総濃度(mM) 有機酸 レブリン酸 (4-oxopentanoic) 乳酸 (2-hydroxy propanoic acid) 酢酸 (ethanoic acid) 食品と容器 pKa 4.61 3.88 等を解明する必要がある。酸性度の効果と有機酸 pH=5.8 pH=6.5 ¦A ¦out=3mM ¦A − ¦out=15mM やアニオンの効果を区別して解明した新規の成果 − 3.2 15.2 3.0 15.0 を,今後さらに詳細に検討することが重要であろ う。研究を,モデルシステムから,フードマトリ ックスや細菌,有機酸などの相互作用をどう考慮 4.76 3.3 するかのシステムに向けることも同様に重要であ 15.3 ろう。そのような研究で蓄積される知見は,食品 348 2009 VOL. 50 NO. 6 第1図 pH5.8,¦A−¦out=3mM(式(1)より 第2図 pH6.5,¦A−¦out=15mM(式(1)より − ¦A ¦in=475mM)におけるL.innocus UIの増殖 ¦A−¦in=475mM)におけるL.innocus UIの増殖 安全をより確実にする有機酸の適用性や効率性の のような食中毒菌に対する有機酸の作用を抑制す 向上のために食品産業に利用されるだろう。この る成分や加工工程の排除等である。またそれ以上 研究提案による実用的事例としては(1)有機酸 に,有用なプロバイオティック細菌のアニオン抑 の新しい組み合わせや有機酸の周期的な循環使用, 制の分子機構に関するより詳細な研究は,これら (2)それ自体は抗菌性ではないが有機酸の抗菌 の微生物の食品や飲料での生残を向上させること 性を強化する物質の添加, (3)L.monocytogenes に貢献するだろう。 (森 勝美) 別刷り合本をご利用下さい 水 の 話 水は地球上のすべての物質と深い関わりをもち,生物の生命活動や人間の生活,文化,産業に重要な役割を演じ ています。本誌ではこの水の科学的知見から応用までをあらゆる角度から取り上げ,専門の方々に解説していただ きました。ご希望の方は,電話またはファックスで下記あてお申し込み下さい。 B₅判 本文 ₁₆₂ページ 定価 ₃,₀₀₀円(送料別) 《内容》 水の科学〔1〕水と生命の誕生と進化/〔2〕水の不思議:水と水溶液/〔3〕水の新たな利用法(機能水)とそ の評価 水と食品〔1〕食品中の水の状態/〔2〕食品加工と水/〔3〕微生物と水/〔4〕調理と水の関わり/ 〔5〕お茶類と水 水と生活・文化〔1〕日本人と水利用,健全な水循環を目指して/〔2〕水道水の安全性とおい しさ/〔3〕容器入り飲用水の国際規格:食文化と商売の観点から(1) (2)/〔4〕おいしい水とまずい水(水質 ・成分との関係)/〔5〕水道水とミネラルウオーターはどう違う? −その境界をめぐって− 水と産業〔1〕清 涼飲料と水/〔2〕醸造と水/〔3〕水の新しい利用:精密洗浄用機能水と超臨界水/〔4〕海洋深層水/〔5〕紫 外線殺菌装置の現況 水と健康〔1〕体液とそのはたらき/〔2〕体液の代謝調節とその異常/〔3〕スポーツと 水/〔4〕肌と水 缶 詰 技 術 研 究 会 電話 0 3( 3 6 6 3 )7 2 5 1 ファックス 0 3( 3 6 6 3 )7 2 5 3 食品と容器 349 2009 VOL. 50 NO. 6 金属容器とエネルギーコスト The Canmaker(U.K.)30('08・12) 文献 №5451 これまで製缶各社は材料コストの高騰への対策 生すると経済活動の停滞等によりオイル価格は1 を迫られてきたが,いまや需要の減少とエネルギ バレル12米ドルまで下落した。現在は次のエネル ー価格の下落が与える長期的な影響を検討する必 ギー価格下落サイクルに向かって備えている状況 要が生じている。 と見ることができる。 エネルギー価格がまたまた上昇している。過去 エネルギー価格の上昇が他の商品の価格を押し にさかのぼって見ると,エネルギー価格は1970年 上げたかどうかについては若干の議論がある。物 代後半から1986年まで上昇が続いたが,1990年代 価上昇の一因となったことは事実だが,それが主 初頭に経済が低迷し市場の値上げ圧力はある程度 たる要因であったのか。その答えは石油価格を押 解消した。その後,1998年にアジア通貨危機が発 し上げた同じ力,つまり,需要に対する供給不足 がアルミ,銅,その他原材料の価格に大きな影響 を与えたということである。また,電力や燃料も 2750 2500 コストが増大した結果,供給企業が販売価格をア $/トン 2250 2000 ップしそれが顧客に大きな打撃を与えた。 1750 では金融投資家による投機,市場操作がどの程 1500 度オイル価格を押し上げたのか。米連邦準備制度 1250 理事会のBERNANKE議長は,商品取引市場で取引さ 1000 れない鉄鉱石の価格が高騰したことから見て,石 750 油市場で金融投資家による市場操作があったとい 500 250 う証拠はほとんどない,と述べている。市場研究 0 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 データが間もなく大量に出てくるが,BERNANKE議 2008 長の見方は間違っている。金融投資家がオイルの 第1図 アルミニウムの価格の推移,LMEデータ 先物を大量に押さえ,その行動が少なくても一時 的に価格急騰をもたらした可能性がある。 商品価格の展望 価格上昇のピークの後にはしばしば下落が伴う。 また,価格が上昇すれば当然の反応として供給が 活発になる。だが,金融投資家のG.SOROS氏が指 摘しているとおり,オイル価格上昇の初期の局面 では市場が逆の動きをし,価格が上昇する中で売 りが減少した可能性があることも事実である。こ の場合,7月,8月(2008年)のオイル市場のよう に価格がさらに上昇することを期待して供給を控 第2図 主要容器に関する生産者価格指数 食品と容器 えたということになる。弱い米ドルと強いユーロ 350 2009 VOL. 50 NO. 6 という関係も商品価格に大きな影響を与えている。 オイルはドルで取引されるので,海外のバイヤー 第1表 欧州のデータによる容器の材料別CO2排出量 (単位 kg/100万ℓ) は自国の市場価格に釣り合うところまで高値を付 材料 けてドル経済下の応札者を競り落とすことも可能 スチール飲料缶 完全スチール缶 超軽量スチール缶 アルミ飲料缶 超軽量アルミ缶 PETボトル 大型ガラスびん 小型ガラスびん 軽量ガラスびん だったと多くの市場観測筋は指摘する。カリブ海 のハリケーンによって原油・天然ガスの供給が一 時的に滞り,その結果価格を押し上げられてこの ような異常事態が引き起こされることもあり得る。 米国商品先物取引委員会(CFTC)は原油の売 買を契約取引とすることを求めるいくつかの対策 材料に関わる CO2 排出量 128 143 103 250 232 233 180 300 135 加工に関わる CO2 排出量 44 47 34 35 34 70 24 24 24 出典:Utrecht University, by Hekkert Joosten and Worrell, 2000 を講じた。マージン条件を調整したり,空売りを 価格上昇局面に限定して市場価格の下落が加速さ サイズ構成の変化によるものと見られる。また, れるのを防止するなど,他にも投機を防止するた 缶ビールの卸売り価格の上昇は約1%に止まり, めに打つ手はいくつもある。 びんビールも同様であった。一方,同じ期間に米 2008年の夏場にオイル価格が下落し,これにア 国における炭酸飲料の小売価格は6%上昇,ビー ルミ,銅,ニッケル,鉄等の商品価格も追随した。 ルとジュース類も同様であった。今後引き続き原 この状況をLME(London Metal Exchange)のアルミ 材料価格が上昇すれば,それは最終的に小売価格 価格について示したのが第1図である。いろいろ に反映されることになる。 な状況を踏まえて見れば,現在進行中の需要減少 エネルギー・環境保全性から見た金属容器 が8月下旬から9月のときと同じようにエネルギ 容器には優れた保存性,品質,安全性,利便性, ー・商品市場を冷やすことになると考えられる。 等々,数え切れない利点があり,環境面でも優れ 金属容器とエネルギーコスト ている。リサイクル率が高く,絶えず製品の改良 エネルギー価格の高騰は企業の収益性やキャッ がなされていることを想定すれば,他の加工手段 シュフローに大きな影響を与える。2008年の天然 や搬送に比べてエネルギー消費量やCO2 排出量 ガス価格の急騰でガラスは大きな影響を受けた。 はわずかなものである。 第2図に示すとおり,2008年のガラス容器の卸売 金属缶の素材は鉄鉱石やアルミナを精錬して得 り価格は2006年平均価格に比べ14%上昇した。同 られるものなので,エネルギー・資源集約的であ じ時期に,米国におけるアルミ缶価格は14.7%, るということを数多くの研究が示している。アル スチール缶価格は12.9%上昇,PETボトルの価格 ミナの精錬工程で大量のエネルギーを必要とする も急激に上昇した。 し,第1表に示したとおり,最近のある研究によ 一方,飲料の小売価格は容器の価格上昇にその ればアルミナからアルミシートに加工されるまで まま追随せず,上昇したのは最近になってからで のCO2 排出量はアルミ飲料缶が最も多い。しか あった。消費者向け商品を扱う企業が値上げをた し,製缶工程での排出量は比較的少なくリサイク めらったことが全体的に物価の急騰を抑え,消費 ル率が60~70%に達しっていることを踏まえて見 の減退を防いできたのだ。サプライチェーンのそ ればアルミ缶はCO2 排出量とエネルギー消費量 れぞれの企業が人員削減,2008年前半に進んだ生 が最も少ない容器の1つである。 産性の改善,マージンの減少である程度のコスト カートンボックスやプラスチックフィルムは一 アップに対処し乗り越えることができた。 部が回収されて他の用途に使われてはいるが, 例えば,びん入り炭酸飲料の卸値は2006年の平 元々の用途に再利用することは不可能である。ア 均的な月に比べて2008年5月には7%上昇する一 ルミ缶は容器として再利用価値が高い特異な存在 方,缶入り炭酸飲料は約2%上昇したが,これは であり,回収率を勘案すれば最もエネルギー効率 食品と容器 351 2009 VOL. 50 NO. 6 の高い飲料用容器の部類に入る。 ノ・クリスタルコート技術による合金の耐摩耗性 エネルギーコスト対策 表面処理に利用される格子制御システムの活用等, このインフレの時代にコストを抑えるための数 これまでにはなかったような一連の取り組みも行 多くの取り組みがある。従来からの取り組みとし われている。さらに,金属缶の形状を改良するこ て,生産工程の改善による生産性の向上,熱電併 とにより容積に対する内容量の比率を高める研究 給システム,廃棄物からのガス・エネルギーの回 もある。 収等がある。この不況の時期に業界の収益性が高 高コスト環境の中で,とりわけ製缶業界は今後 まっていることから見て,製缶各社はこうした取 新技術の開発に拍車が掛かかり,より優れ,安く り組みのすべてを活用している。 効果的な容器を生み出し大きな成長をもたらす可 今日の特異な状況とも関連するが,ナノテクノ 能性を秘めている。 ロジーによる多孔性構造体のコーティングやナ (桜田三郎) 概略以下の知見を得た。 ・地球温暖化,大気の酸性化への影響:スチール ビール容器とLCAの調査 缶,PETボトルが最も小さい。 ・1次エネルギーと水の消費:スチール缶が最も 少なく,ガラスびんは最も多い。 Int.Bottler & Packer(U.K.)37(’ 09・3) 文献 № 5473 ・環境への影響:ビールの製造,1次包装が最も 大きく,輸送および2次包装は比較的小さい。 顧客が容器を選択する場合,環境影響が重要な ・リサイクル率:アルミ缶が高く,アルミ缶にと ファクターになるため,Sidel Groupは4種類の って重要ファクターである。アルミ缶はビール 500㎖入りビール容器を対象に公正な立場に基づ の包材として良い選択かも知れない。 く環境影響調査を委託した。いわゆるLCA調査 ・容器製造に使用される電力は“酸性化”“エネ は,100ℓのビール製造とサービスにかかわるエ ルギー消費”“気候変動”の指標として重要な ネルギー消費,地球温暖化,大気の酸性化,富栄 パラメーターである。 養化,水の消費等すべての環境影響について調査 ・500㎖PETボトルの重量が20g以下であれば, するもので,原料の穀物やホップが栽培され,収 PETは気候変動に関して好ましい選択である。 穫され,ビールの製造に使用されるところから, なお,Sidel社の持続可能性担当役員のL.DESOUTTER 1次包装容器の製造,スーパーマーケットや顧客 氏は「調査によって環境に最も影響する重要ファ への配送,最終的に容器が埋め立てや焼却,リサ クターが確認できた。リサイクル率や容器の重量 イクル工場へ送られるまで,ビールの全ライフサ も重要ファクターである。我々がビール容器の環 イクルについて調査された。 境影響を最小にするために取るべき行動の知見が 4種類の容器は,Actis塗装したPETボトル, 得られた。例えば,リサイクル率や容器重量の改 ロングネック型のガラスびん,アルミ缶およびス 善は環境影響の最小化に寄与できる」と言う。 チール缶で,どの容器が資源や汚染に関する環境 この調査によって,それぞれのバックグラウン 破壊が最も小さいか比較された。 ドに応じて世界中のビール製造業者が,自社の製 調査の基礎データは,製造および容器に関して 品にとって最も環境に優しい容器を決めるための はベルギーのMartens Breweries社から,配送お 新しい“LCA User”ツールが開発された。この よび消費,廃棄については英国から得た。 LCAツールはSidel社を通じて利用できる。 調査国や時期によってリサイクル率や輸送距離, (合田芳宏) 電力事情等に差異があり調査結果に影響するが, 食品と容器 352 2009 VOL. 50 NO. 6 業 界 ト ピ ッ ク ス ◇ミネラルウォーター,今夏は価格戦へ 昨年以上の広告宣伝を展開し,「エビアン」は1 今年のミネラルウォーター業界は,これまでの ℓペットのサイズを変更して競合との戦いに挑 勢いが完全に薄れた。好調さを保ってきた「輸入 む。 品」にブレーキがかかり,中でも昨年後半におけ この1ℓペットでは,輸入天然水を扱うキリン る移り香問題が大きく影響。また,「国産品」も MCダノンウォーターズ,伊藤園・伊藤忠ミネラ 節約志向の高まりにより価格商戦に突入し,体力 ルウォーターズ,大塚ベバレジ3社の共同企画と 勝負の様相が強まってきた。 して,各社の取り扱いブランド「ボルヴィック」 4月までのトレンドは,「輸入品」はマイナス 「エビアン」 「クリスタルガイザー」が共同で「1 で推移し,「国産品」もボリュームベースではど 日1L習慣プロジェクト」を立ち上げ,ミネラル うにか横ばいを保ったが,金額ベースでは一桁の ウォーターの総需要拡大をめざした共同キャンペ マイナスとなり,「輸入品」「国産品」とも今期の ーンを4月20日よりラジオCM中心に展開してい 拡大成長に黄信号が灯った。 る。1日1ℓを広告により提案をすることでオフ 「国産品」は,「サントリーの天然水」「キリン ィスユースなどに拡げていくもので,新たな需要 アルカリイオンの水」「六甲のおいしい水」「アサ 喚起策として注目されている。 ヒ富士山のバナジウム天然水」。それにコカ・コ 最大焦点は「い・ろ・は・す」 ーラの「ミナクア」,ダイドーの「ミウ」などが そして上半期の最大の焦点はコカ・コーラシス 激しく凌ぎを削り, 「輸入品」は, 「ボルヴィック」 テムによる新ブランド「い・ろ・は・す」の展開 「クリスタルガイザー」 「エビアン」 「ヴィッテル」 だ。「おいしい」と「環境」を両立した新ウォー などが攻防戦を展開しているが,いずれも決め手 ターブランドとして5月18日から新発売。コカ・ にかけている。 コーラボトラーにより価格戦略を打ってくること 唯一,トップを走る「サントリーの天然水」だ が確実とみられ,市場での激戦が予想される。 けは,4月までは拡大成長を続けているが,これ 消費者の環境意識の高まりを受け,従来品に比 も昨春から500㎖ペットを110円に値下げしたため べ40%の軽量化を実現した国内最軽量12gボトル で,2年目の今年も引き続き拡大するという保証 を採用。業界初の本格的な環境対応型商品と言っ はない。 ても過言ではなく,業界の関心は大きい。 そこで今期の取り組みはどうか。「サントリー 迎え撃つサントリーは,果たしていかなる作戦 の天然水」は引き続きテレビCMなどのイメージ で対抗するのかが焦点だ。既に価格戦略について アップ作戦でブランドロイヤリティーを高め,2 も再検討の考えを示しており,夏までには対応策 ℓの大型ペットは夏本番に向けて価格戦略に挑む。 が決まる。昨年以上に国産の価格戦略が進めば, 「アルカリイオンの水」は小型ペットによりパー 輸入品にも大きく影響することは確実だ。 ソナルユースを拡大。「富士山のバナジウム天然 昨年以上の安売り競争になれば,ノーブランド, 水」は今春のリニューアルを契機に健康水として ロープライスが再び脚光を浴び,再びスーパーが の付加価値を訴求し,特売戦争に巻き込まれない 水源と契約してPBラッシュになる可能性もある。 ようなポジションを保っていく。 PBの98円やNBの105円などが増えれば,恐ら 輸入品3社が共同で需要喚起 く平均価格も下がってくる。そうなれば現状の 今期が正念場の「輸入品」では,「ボルヴィッ 500㎖の110円が適性価格という議論も出てくるは ク」はフレーバー商品を拡充してシェアアップを ずで,今夏は昨年以上の低価格化が進むのは間違 推進。「クリスタルガイザー」は夏本番に向けて いない。 けた しの 食品と容器 353 (業界誌記者 井上拓郎) 2009 VOL. 50 NO. 6 味を守っている。うどんの看板が,かえってトン 食の遠近画法 連載エッセー カツの存在を強く印象づけているのも心憎い。 ○ 遮 蔽 効 果 ご みょう とし 新聞,テレビのニュースには,大・中・小・没 とある。限られたスペースと時間の中で,これら はる 五 明 紀 春 のニュースが読者・視聴者の目の前でせめぎ合っ (女子栄養大学教授) ている。当然,中ニュースは大ニュースの陰に隠 筆者の郷里,ローカル線駅前に映画セットのよ れ,小ニュースは中ニュースに遮られ,没ニュー うな典型的なゴースト商店街がある。かつての賑 スは文字通りそれが何であるか知りようがない。 わいはとうに煙のように消えて,軒並みのシャッ したがって,大ニュースになればなるほど他の ターがカタカタと風に鳴るばかり。一軒二軒と十 ニュースを覆い隠す遮蔽効果が大きくなるわけで 数年がかりで病人が増えて,ついには商店街の体 ある。不都合な事件ニュースが,突発大事故ニュ をなさなくなったと思われる。活気あってこそ, ースによって没になって安堵する人たちがいる一 人々は商店街に足を運ぶ。病人が枕を並べている 方,好都合のニュースがあえなく日の目を見ない 街に寄りつくはずもない。伝染病が蔓延したがご ままにお蔵入りとなる。たぶん毎日起こっている とくの惨状である。したがって,復興を賭けて一 悲喜劇であろう。泥酔して公園ベンチで羽目を外 人二人の意気に感じる商店主がいたとしても,ど したぐらいのことでも,世間が平和であれば,派 うにかなるものではない。とにかくこれは伝染病 手な大ニュースにもなるのはご存知の通り。 なのだから。 正確に事実を伝えることが報道の使命であると そのゴースト商店街から通り二本隔たった目立 しても,その事実を大きく伝えるか,小さく伝え たない場所に,「うどん」の看板を出している店 るか,あるいは伝えないかは,それぞれのデスク がある。人気は,とびきり辛い地場大根を使った の匙加減ひとつ,と見ることもできる。ニュース 「おしぼりうどん」である。おろし大根の搾り汁 価値(大きさ)の判定は,場合によるとニュース に味噌を溶かし,釜揚げうどんをつけて食べる。 内容そのものよりも重大な意味を帯びることがあ 信州の郷土料理。二十年来,客足が絶えることな り,ある意味では恣意的にもなりうるので,報道 く,近年では,東京辺りからもやって来る。休日 機関の姿勢を端的に表すことになると言ってもよ には行列が出来るくらいだから,さびれた目抜き いであろう。 の商店街とは好対照である。たまたま周囲の静か これを裏返すと,伝えたくないニュースはより な住宅が,伝染病感染を遮ってくれたためかとも 大きなニュースで隠す,という考えが出てきても 思われる。 不思議はない。この辺の事情をよく知る人は「マ 実はこの店,うどん店には違いないが,本当の スコミは操作可能である」と考えるだろう。九つ 売り物は,トンカツなのである。それまで表通り の事実を明らかにすることによって,ひとつの肝 で洋品店を営んでいた店主が,比較的手につけや 心な事実を隠すことができるかもしれない,と考 すいうどん店を始めたが,すぐにトンカツをメニ える。明らかにした事実がほかの事実を遮蔽する ューに加えたものの,看板は開店時のまま放って わけである。 ある。都内で半年,トンカツ専門店で修業した店 となると,小さなニュースも,あるいは没にな 主は,教わったレシピを「絶対に変えない」こと ったニュースさえ大きな意味を持つことがある, を心に誓って,同じトンカツを二十年作っている。 と用意せねばならない理屈になる。「このニュー 世のはやりすたりを,いわば遮蔽してトンカツの ス」は「どんな別のニュース」を遮蔽しているか, 食品と容器 354 2009 VOL. 50 NO. 6 と。 言えることである。 ○ ○ 筆者の大学(栄養学部)は,実学としての性格 大学が「象牙の塔」と言われた古き時代,筆者 上,理系でも文系でもなく,強いて言えば両者を はまだ大学生であった。憧憬と多少の軽侮の混じ 融合したカリキュラムから成っている。しかし, ったこの懐かしい形容(ニックネーム)が遮蔽し 多くの高校では,まるで羊羹を切るように理系と ていたものは何か。それは産業社会そのものであ 文系に生徒たちを切り分けて教育しているようで ったと思われる。競争原理に基づいて利潤を追求 ある。このことは,生徒たちの適性に応じて,そ する営利集団と隔絶することに大学の存在意義・ の能力を伸ばすというより,一人一人の自己認識 価値を感じていた人が,大学にも一般社会にも大 に拭いがたい刻印を押す結果となっているのでは 勢いたということであろう。ある時代,わが国で なかろうか。 はそれはたしかに社会通念であった。 したがって,毎度のこと,入学してきた学生た しかし,「象牙の塔」が完全なフィクションで ちの意識の中にある理系と文系の隔壁を壊すこと あることが,その後,大学が大衆化すると同時に から教育を始めるのが実情である。入学早々のリ あっけなく露呈したのはご承知の通りである。産 メデイアル教育も,学力不足を補うことよりも, 学連携など特別の話ではとっくになくなった。筆 意識の中に築かれた隔壁を撤去する作業である, 者の小さな大学でも連携協定を結んでいる企業は と言った方が当たっていよう。 十指を下らない。最近は,連携どころか大学教授 自己認識(理系か文系か)ほど当の本人によく 自ら企業を立ち上げ,社長となり,華々しく産業 見えているものはないから,隔壁の撤去は簡単に 社会に打って出ることも珍しい話ではない。 はいかない。小・中・高と長年に渡って形成され だいたい,昔も今も大学の社会的使命は,その てきた一種の自己規定(あるいは自己暗示)から 時代が要求する水準の人材を産業社会に継続的に 目を逸らすことは至難である。この自己規定が明 供給することには違いなかったのである。その意 確な学生ほど,自分の中の潜在可能性を見る視線 味で産学連携はいつの時代も変わらなかった。こ が遮られるのである。思い込みによって,無用の んなわかりきった実態を遮蔽するフィクション 苦手意識が生まれ,いたずらに視野を狭め,学習 「象牙の塔」がなぜ生まれ,なぜ長い間人々の支 に困難を来たす例が少なくない。今日の高等教育 持を得てきたのか。その言葉の持つ遮蔽効果の摩 は,たいていの分野では複合的にカリキュラムが 訶不思議には驚かされる。 構成され,理系,文系で切り分けて済むほど単純 ○ ではないから始末が悪い。悪しき遮蔽効果と言え 遮蔽と隠蔽は似て非なるところがある。遮るは よう。 隠すとは違うからである。前者は「見せることに しかし,こんなことは学生たちに限った話では よって見えないようにする」ことであり,後者は ないことに気がつく。およそ常識,通念なるもの 「見せないことによって見えないようにする」こ も,日常,もっともよく馴染み,絶えず目の当た とと言ってよいであろう。遮蔽効果とは一種の逆 りにしていることである。つまり,もっともよく 説とも言えるのである。 「見ているもの」に違いない。あるいは「見せら 古 代 ロ ー マ の 医 学 者 ガ レ ノ ス(AD129頃 〜 れているもの」と言ってもよいであろう。 199)は膨大な著作を遺したことで知られる。そ したがって,これらの常識,通念が何かを遮蔽 の巨大な業績ゆえに,以後千年にわたって後世の しているのではないかと疑うこともまた許される 医学者たちは沈黙を強いられたという。これはガ であろう。このことはむろん学説や理論の上でも レノスによる遮蔽効果と言えるだろう。 食品と容器 355 2009 VOL. 50 NO. 6 特別解説 アレルギー性,抗アレルギー性 評価用DNAチップ 㩷 こぼり・ますこ 千葉大学大学院薬 学研究科博士前期 課 程 修 了。2006年 より(独)農業・食品 産業技術総合研究 機 構 食 品 総 合 研 究 所 機 能 性 評 価 技術ユニット長。 薬学博士。 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 小 堀 真珠子 ッセンジャーRNA(mRNA)が作られ,それに は じ め に 応じてサイトカインと呼ばれる様々なタンパク質 ぜん 喘息,花粉症,アトピー性皮膚炎,食物アレル が 産 生 さ れ る。 こ の タ ン パ ク 質 の 産 生 に 至 る ギー等のアレルギー性疾患と関節リウマチ等のリ mRNAの産生が遺伝子発現であるが,免疫・ア ウマチ性疾患を合わせて免疫アレルギー疾患とい レルギー反応が起こっている組織の遺伝子発現変 う。この免疫アレルギー疾患を有する患者は国民 化は大きく,また特徴的である。サイトカインは のおよそ30%以上にものぼり,今後も増加する傾 多様な機能を持ち,他のサイトカインと相互作用 向にある。食品は食物アレルギーの原因になるが, する等して,複雑なネットワークを形成し,免疫ア 一方で食生活により免疫アレルギー疾患の症状を レルギー疾患を引き起こす。そこで私達は組織の 緩和することも期待できる。そこで私達は,三菱 遺伝子発現の変化を測定することによって,免疫・ レイヨン株式会社と共同で,食品が示す免疫アレ アレルギー反応と食品成分によるその抑制効果を ルギー疾患の緩和効果を評価するためのDNAチ 評価するDNAチップを作製することにした1)。 ップを開発した。 DNAチップ(DNAマイクロアレイ)は,通常 ガラス等の基板にDNA断片を高密度で固定した アレルギー性,抗アレルギー性 評価用DNAチップの開発 ものである。サンプルのRNAを蛍光色で標識し て結合(ハイブリダイズ)させることによってそ 免疫・アレルギー反応が起こると,体内ではメ れぞれのDNAから作られたmRNAの量を測定す ることができるため,遺伝子発現の検出等に広く ∉䊶䉝䊧䊦䉩䊷䈮㑐䉒䉎 ⚂䋲䋰䋰ㆮવሶ䉕タ タ䈚䈢ㆮવሶ IL1-IL7, IL9-IL13, IL15, IL16, IL18, Ccl1-Ccl9, CCR1 -CCR9 , Csf1-Csf3 䊶䊶䊶 用いられている。私達は今回,三菱レイヨン株式 会社で開発した繊維型DNAチップ・ジェノパー ル®を 用 い た が, こ れ は 中 空 繊 維 体 配 列 に, DNA断片を固定した親水性ポリマーを封入し, スライスする独自の手法で作製されたものである。 サイトカインやその発現を調節する転写因子など, 免疫・アレルギー反応に関連して変動する遺伝子 を文献調査および実験結果から選抜し,そのうち ਛⓨ❫⛽㈩ の主要な約200遺伝子をこの繊維型DNAチップに 第1図 アレルギー性,抗アレルギー性評価用DNAチ ップ 搭載した(第1図)。その際,ヒトまたはマウス 繊維型DNAチップ「ジェノパール®」(三菱レイヨン㈱)に 免疫・アレルギー反応に関連する主要な遺伝子を搭載した。 食品と容器 の組織や培養細胞を用いた評価ができるように, 356 2009 VOL. 50 NO. 6 ヒトおよびマウスの2種類のDNAチップを作製 胞では炎症性遺伝子の発現量(mRNA量)が増 した。 えたため,より多くのスポットが明るく染色され ている。明るい程,炎症により増加した発現量は 炎症反応の評価による DNAチップの実用性の検証 多く,どの遺伝子が強く発現誘導されたのかがわ かる。各スポットの蛍光強度を測定した結果から, マクロファージは関節リウマチやアレルギーの LPSにより炎症反応が誘導された細胞では,搭載 組織で炎症を引き起こす。このマクロファージ細 した209遺伝子のうち65遺伝子の発現が無処理の 胞にバクテリアの細胞壁を構成するリポ多糖 細胞と比較して蛍光強度で3倍以上に上昇するこ (lipopolysaccharide(LPS))を作用させると, とが明らかになり,開発したDNAチップを用い 炎症反応が起こり,多くの炎症性遺伝子の発現が てマクロファージにおける炎症性遺伝子の発現を 誘導されて,TNFα,IL1β等の炎症反応に関わ 効率よく検出できることが示された2)。 るサイトカインの産生が増加することが知られて また,このマクロファージ細胞より抽出した いる。そこで,マウスのマクロファージ細胞をシ RNAを2枚のDNAチップで測定し,各チップか ャーレで培養し,バクテリアのLPSを添加して炎 ら得られた蛍光強度を横軸と縦軸にプロットして, 症反応を誘導した細胞とLPSを添加していない無 2枚のチップで同一サンプルを測定した場合の再 処理の細胞から,RNAを抽出,蛍光標識して, 現性を検討した。その結果,2枚のDNAチップ DNAチップに結合させた(第2図)。第2図の の測定結果は相関係数r=0.99と,高い相関性を 5.はそれぞれのDNAチップを測定して得られた 示すことが明らかになった(第3図a)3)。また, 画像である。各スポットがそれぞれ異なる遺伝子 LPSで炎症反応を誘導された細胞と無処理のコン に対応しており,LPSにより炎症が誘導された細 トロール細胞の遺伝子発現の差をDNAチップお 䋱. Ἳ∝䉕䈖䈜ಽሶ 䋨䊋䉪䊁䊥䉝䈱⚦⢩ო䋨LPS䋩䋩 䉕䉏䈩ೝỗ䈜䉎 4. Ἳ∝ᔕ䉕 䈖䈜⚦⢩ 䋨䊙䉪䊨䊐䉜䊷䉳䋩 Ἳ∝ᔕ䉕 䈖䈚䈩䈇䈭䈇⚦⢩ Ἳ∝ᔕ䉕 䈖䈚䈢⚦⢩ 2. DNA䉼䉾䊒䉕᷹ቯ䇮⸃ᨆ䈜䉎 5. ⚦⢩䈱RNA䉕䇮೨ಣℂ䈚䈩䇮 DNA䉼䉾䊒䈮⚿ว䈘䈞䉎 3. 䉮䊮䊃䊨䊷䊦䈱⚦⢩ Ἳ∝䉕䈖䈚䈩䈇䉎⚦⢩ Ἳ∝ᕈㆮવሶ䈱⊒䈏⺃ዉ䈘䉏䇮ᒝ䈒Ⱟశᨴ⦡䈘䉏䉎 第2図 DNAチップを用いた遺伝子発現の測定例 マウスマクロファージ細胞にバクテリアの細胞壁多糖(LPS)を作用させて炎色反応を誘導し,炎症が起こっている 状態をDNAチップで評価した。 食品と容器 357 2009 VOL. 50 NO. 6 よび定量RT-PCR法で測定し,それぞれ横軸およ そこで,ニガウリの抽出物をLPSと同時にマクロ び縦軸にプロットして,DNAチップの定量性を ファージに添加して培養した後,DNAチップで 検討した。その結果,DNAチップの測定結果は マクロファージの遺伝子発現を測定して,無処理 定量PCR法と高い相関(相関係数r=0.93)を示 の細胞およびLPSで炎症反応を誘導した細胞の遺 すことから,開発したDNAチップを用いて再現 伝子発現と比較した。その結果,ニガウリ抽出物 性および定量性の良い評価ができることが確認で 50μg/㎖または100μg/㎖を添加することにより, きた(第3図b)。 LPSで誘導された遺伝子発現がすべて無処理の細 胞に近いレベルにまで抑制され,ニガウリ抽出物 DNAチップを用いた ニガウリの炎症抑制効果の評価 がLPSで誘導されるマクロファージの炎症反応を 抑制することが明らかになった(第4図)2)。ま マクロファージの炎症反応を抑制する食品には, た,このことからDNAチップが食品成分による 関節炎やアレルギー性の炎症の緩和効果が期待で 炎症反応の抑制効果の評価に有用であることが示 きる。DNAチップを用いてマクロファージの炎 された。 症反応の評価ができたので,次に食品成分による ニガウリが関節炎やアレルギー性炎症の緩和効 炎症抑制効果を検討した。 果を示すかどうかは明らかにはなっていない。し ニガウリは(Momordica charantia L.),熱帯 かし,マウスにLPSで関節炎を誘導した動物モデ 地域を原産とし,現在,日本において広く食され ルを用いた実験では,ニガウリの搾汁液を毎日経 ている野菜であるが,その苦みによる健胃効果等, 口投与することによって関節炎がより早く回復す 健康野菜としての機能が期待されている。私達は ることが示唆された。私達は,またニガウリの抽 ニガウリの機能性を研究する過程で,ニガウリの 出物より炎症性サイトカイン産生抑制効果を示す 抽出物をLPSと共に添加することにより,マクロ 成分として,4種のリゾレシチン(1-α-linolenoyl ファージ細胞にLPSで誘導されるサイトカイン lysophosphatidylcholine(LPC),2-α-linolenoyl TNFαの産生が減少することを見出していた。 LPC,1-lynoleoyl LPCおよび2-linoleoyl LPC)を b 㪈㪇㪍 㪈㪇㪇㪇㪇㪇㪇 ቯ㊂㪧㪚㪩 㪩㪼㫃㪸㫋㫀㫍㪼㩷㪞㪼㫅㪼㩷㪜㫏㫇㫉㪼㫊㫊㫀㫆㫅㩷㩿㫃㫆㪾 ⊒㊂㧔NQIᲧ㧕 㪉 㫉㪸㫋㫀㫆㪀 㪚㪿㫀㫇㩷㪙㪑㩷Ⱟశᒝᐲ a r=0.99 㪌 㪈㪇 㪈㪇㪇㪇㪇㪇 㪈㪇㪋 㪈㪇㪇㪇㪇 㪊 㪈㪇 㪈㪇㪇㪇 㪈㪇㪉 㪉㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷 㪈㪇 㪍 …†• 㪋 r=0.93 ․†• 㪉 •†• 㪇 ‚․†•‛ 㪉 ‚…†•‛ 㪋 ‚ †•‛ 㪍 ‚ †•‛ 㪍 㪈㪇㪇 㪈㪇㪇 †• 㪈㪇㪊㩷㩷 㪈㪇㪇㪇 㪈㪇㪋㩷㩷 㪈㪇㪇㪇㪇 㪈㪇㪌㩷㩷㩷 㪈㪇㪇㪇㪇㪇 㪈㪇㪍 㪈㪇㪇㪇㪇㪇㪇 ‚…†•‛ 㪋 ‚․†•‛ 㪉 •†• 㪇 ․†• 㪉 …†• 㪋 †• 㪍 ⊒㊂㧔NQIᲧ㧕 㪉 㫉㪸㫋㫀㫆㪀 㪩㪼㫃㪸㫋㫀㫍㪼㩷㪞㪼㫅㪼㩷㪜㫏㫇㫉㪼㫊㫊㫀㫆㫅㩷㩿㫃㫆㪾 㪛㪥㪘䉼䉾䊒 㪚㪿㫀㫇㩷㪘㪑㩷Ⱟశᒝᐲ 第3図 DNAチップの再現性および定量性3) a:同一サンプルによる2枚のDNAチップ(ChipAおよびChipB)の蛍光強度の比較 b:DNAチップと定量PCRによる発現差の比較 食品と容器 358 2009 VOL. 50 NO. 6 単離・同定している2)。 上にある分子の刺激を受けて活性化し,炎症メデ ィエーターの放出やサイトカインの産生を誘導す DNAチップを用いたフラボノイド のアレルギー抑制効果の評価 る。そこで,私達はヒトの培養細胞を用いて,ま ずT細胞を活性化してその細胞膜を調整し,マス マスト細胞はアレルギーにおいて主要な役割を ト細胞に添加することによって,マスト細胞を活 果たしている。花粉症等では,花粉等の抗原に対 性化した。そして,活性化したマスト細胞の遺伝 してIgE抗体が産生され,IgE抗体および抗原の 子発現をヒト用DNAチップで測定して,活性化 作用によりIgEレセプターを介してマスト細胞が していないコントロールの細胞と比較した結果, 活性化されて,ヒスタミンおよびその他の炎症メ T細胞膜により活性化したマスト細胞では,サイ ディエーターの放出やサイトカインの産生が起こ トカインや細胞膜タンパク質等の34遺伝子の発現 4) ってその症状を発症する 。 が蛍光強度で3倍以上に誘導された。第5図にT 一方,喘息を発症した気道組織では,マスト細 細胞膜で活性化したマスト細胞の測定画像を示す。 胞は喘息の慢性化や重症化を引き起こす。その際, このようにDNAチップを用いて,アレルギー マスト細胞は他の免疫担当細胞であるT細胞の膜 反応に重要な役割を果たすマスト細胞の活性化が 䊆䉧䉡䊥‛ 100µg/ml 䊆䉧䉡䊥‛ 50µg/ml LPSಣℂ䋨Ἳ∝䊝䊂䊦䋩 䉮䊮䊃䊨䊷䊦 Csf3 Ccl9 Ccl5 䊆䉧䉡䊥‛䉕䇮 Ἳ∝䉕⺃ዉ䈜䉎 LPS䈫หᤨ䈮ᷝട䈚䈢 Ccl4 Ccl3 Ccl2 IL18 IL1b IL1a Tnf 100 ⚦⢩䈱㪩㪥㪘䉕䈚䈩 㪛㪥㪘䉼䉾䊒䈪᷹ቯ 1000 10000 100000 1000000 Ⱟశᒝᐲ 第4図 ニガウリの炎症抑制効果の評価2) マウスマクロファージ細胞に炎症を誘導するLPSと同時にニガウリ抽出物を添加して培養し,DNAチップで遺伝子 発現を測定して無処理のコントロールおよび炎症マクロファージと比較した。その結果,マクロファージの炎症反応 により,65遺伝子の発現が上昇し(蛍光強度で3倍以上),ニガウリ抽出物により抑制された。 食品と容器 359 2009 VOL. 50 NO. 6 ーロッパでは,既に欧州動物実験代替法評価セ 㘩ຠᚑಽ䉕䇮䉝䊧䊦䉩䊷 䉕⺃ዉ䈜䉎T⚦⢩⤑䈫 หᤨ䈮ᷝട䈚䈢 ン タ ー(European Center for the Validation of Alternative Method(ECVAM))において,再構 成ヒト表皮モデルEpiSkin®(SkinEthic Lablrat- 䉝䊧䊦䉩䊷ᔕ䉕 䈖䈜䊙䉴䊃⚦⢩ ories,France)を用いた試験等が,妥当性が確認 された動物実験代替法として承認されている5,6)。 EpiSkinモデルは成人のケラチノサイトをコラー きょく ゲン基盤上で培養,分化させ,基底層,有 棘 層, か 顆粒層および角質層から成る表皮を再構成したも のであり,日本においても,このような再構成表 皮モデルを用いた皮膚刺激性試験の妥当性確認が 行われ,その評価が開始されている。私達は日本 で市販されている再構成ヒト表皮モデルLabCyteTM ᵴᕈൻ䈚䈢䊍䊃䊙䉴䊃⚦⢩ 䈱᷹ቯ↹䋨䉝䊧䊦䉩䊷㑐ㅪ ㆮવሶ䈱⊒䈏⺃ዉ䈘䉏䈢䋩 EPI-MODEL(Japan Tissue Engineering Co. Ltd.)を用いて,DNAチップによる皮膚刺激性 の評価を行った。再構成ヒト表皮モデルに刺激性 第5図 活性化したヒトマスト細胞の測定画像 ヒトマスト細胞に活性化T細胞膜を添加して活性化し,DNA チップで遺伝子発現を測定して無処理のコントロール細胞と比 較した。その結果,マスト細胞の活性化により,34遺伝子の発 現が蛍光強度で3倍以上に上昇した。 物質であるsodium dodecyl sulfate(SDS)を添 測定できたので,次に食品成分によるマスト細胞 誘導され,DNAチップを用いて皮膚刺激性の評 活性化の抑制効果を検討した。タマネギ,イチゴ, 価が可能であることが示された(第6図a)5)。 リンゴ等の野菜や果物に含まれているフラボノイ ECVAMで承認されたEpiSkin®を用いた皮膚刺 ドのフィセチンをT細胞膜と同時に添加して培養 激性試験では,表皮の感染や損傷によりケラチノ した後,DNAチップでマスト細胞の遺伝子発現 サイトから急速に放出されるIL1αを評価指標と を測定した結果,フィセチンは活性化により誘導 する。そこで,IL1αのmRNAおよびタンパク質 されたすべての遺伝子発現を抑制し,マスト細胞 の発現をDNAチップ,定量PCR法およびELISA の活性化を抑制することが明らかになった。 法により測定した。その結果,DNAチップで検 また,ヨーロッパ等で伝統薬として喘息の治療 出されたIL1αの発現量の増加は定量RT-PCR法 に用いられてきたモウセンゴケ抽出物が, 同様にマ によっても確認でき,また遺伝子発現に伴うタン スト細胞の活性化を抑制することも明らかにした。 パク質の産生がELISA法により確認できた(第 加して培養した後,表皮組織の遺伝子発現をDNA チップを用いて測定した結果,10遺伝子の発現が 6図b)7)。 DNAチップを用いた 皮膚刺激性の評価 お わ り に 私達が開発したDNAチップは,異なる組織と このように,開発したDNAチップを用いて, その状態を測定することにより様々な評価への応 免疫アレルギー疾患にかかわる作用を評価するこ 用が可能である。そこで,化粧品等の安全性試験 とができ,また食品成分によるその抑制効果を評 として注目されている再構成ヒト表皮モデルに対 価することができた。さらに,微弱な皮膚刺激性 する皮膚刺激性の評価を試みた。 の評価にも利用することができた。今回,培養細 現在,化粧品等の安全性試験において,動物実 胞を用いた評価を示したが,ヒトやマウスの組織 験の代替法としてヒト3次元表皮モデルによる皮 をそのまま測定することも可能である。これまで 膚刺激性試験を用いることが検討されている。ヨ にLPSで刺激したマウスの組織や喘息モデルマウ 食品と容器 360 2009 VOL. 50 NO. 6 a b 䉮䊮䊃䊨䊷䊦䉕100䈫䈚䈢䈫䈐䈱㊂ % control ౣ᭴ᚑ䊍䊃⊹䊝䊂䊦 䈮ೝỗᕈ‛⾰䋨SDS䋩 䉕ᷝട 800 ** RT-PCR 600 400 DNA microarray ELISA * 200 ** 0 DW (control) 䉮䊮䊃䊨䊷䊦 ൻቇ‛⾰䈮䉋䉍ೝỗ䉕ฃ䈔䈢 ౣ᭴ᚑ䊍䊃⊹䊝䊂䊦䈱᷹ቯ↹ ** IL-1Į SDS 0.05% SDS 0.075% * p<0.05,** p<0.01 第6図 再構成ヒト表皮モデルを用いた皮膚刺激性の評価6) a:化学物質SDSにより刺激を受けた再構ヒト表皮モデルの測定画像。IL1α,IL1β,IL8等の10遺伝子の発現が誘導 された。 b:皮膚刺激によるIL1αの遺伝子及びタンパク質の発現誘導をDNAマイクロアレイ,RT-PCR法及びELISA法によ り測定した結果,それぞれの方法で明らかな誘導が確認できた。 スの肺における遺伝子発現の誘導が確認されてい しかし,様々なモデル系で利用することができる る。一方,本DNAチップを用いる評価の問題点は, ことから,本DNAチップは,主に免疫アレルギ 培養細胞および動物を用いて免疫アレルギー疾患 ー疾患の症状を軽減する食品成分の効率的なスク のモデルを作成する等,測定する細胞・組織の調 リーニングやメカニズムの研究において,強力な 整に専門的知識や技術が必要であることにある。 ツールとなり,さらなる応用が期待できる。 参 考 文 献 1)小堀ら,「アレルゲン性又は抗アレルギー性判定用 プローブ」特許出願2007-73890,実施許諾19年10月 26日 2)Kobori et al.(2008)J. Agric. Food Chem., 56(11), 4004-4011. 3)三菱レイヨンホームページ,http://www.mrc.co.jp/ genome/application/allergy_gx.html 食品と容器 361 4)J. Kalesnikoff and S. J. Galli(2008)Nat. Immunol. 9(11),1215-1223. 5)"Statement on the validity of in vitro tests for skin irritation." ESAC, ECVAM. April, 27th(2007). 6)"ESAC has endorsed alternative testing methods, Skin irritation" http://ecvam.jrc.it/(2009). 7)Niwa et al. (2009) Biol. Pharm. Bull. 32 (2) , 204-208. 2009 VOL. 50 NO. 6 特別解説 ハラル規制・制度について ―技術的側面に焦点を当てて― なみかわ・りょういち 1975年, 京 都 大 学・ 大学院修了,通商産 業省入省。JETROジ ャカルタ,同オース トラリア・パース事 務所長,名古屋大学 経済学部教授などを 経て現在、中京大学 ・大学院経済学研究 科・教授。 農学博士。 並 河 良 一 する食品に表示をさせ,適合しない食品等の生産, はじめに 流通,輸入などを制限する制度である。 イスラム圏の食品市場は,その経済発展を背景 イスラム教徒はハラルでない(以下「非ハラル」 に急速に拡大しつつあり,魅力ある輸出先となっ と記す)食品を買うことはない。また,国によっ ている。しかし,イスラム教に基づく「ハラル ては非ハラル食品の輸入に制限を加えている。世 (Halal)制度」が,日本や欧米の企業にとって, 界には16億人以上のイスラム教徒がおり,その食 市場参入の高いハードルとなっている。ハラル制 品市場の規模は5800億US$(約57兆円)と推算さ 度は宗教を基礎とする制度であり,イスラム教の れており,この巨大な市場を獲得するためには, 素養がないと理解できないと考えられているから ハラル認証を受けることが必要である。 である。たしかにハラル制度は宗教を背景として しかし,ハラル制度は,宗教と融合した経済制 いる。しかしハラル制度は,食品の原料,製造, 度であり,非イスラム国の企業にとって違和感を 流通,販売のサプライ・チェーンの各段階で,ど もって受け取られてきた。また,イスラム国家の のような技術的条件が満たされるべきかを具体的 中には,国際水準から見れば,ビジネスライクで に示す「技術的」な制度でもある。したがって, ない特殊な商習慣を有している国も少なからずあ ハラル制度は,非イスラム国の企業にとって決し る。これらが,高いハードルとなり,イスラム市 てクリアできないハードルではない。 場の開発は十分になされてこなかった。 本稿は,世界第二の厳しさとも言われるマレー もう一つの高いハードルは,各国のハラル規準 シアのハラル制度をとりあげて,ハラル制度は, の内容や厳しさに差がある点である。現時点では, 食品のサプライ・チェーン全体(包装・容器を含 国際的に統一されたハラル規準は存在せず,各国 む)を対象とする技術的色彩の強い制度であるこ がそれぞれ独自に規準を定めているからである。 とを説明する。 イスラム教という共通の基盤があるため,原則と して,ある国のハラル認証を受けた食品は他の国 1.イスラム市場とハラル制度 でも受け入れられるはずである。しかし,現実に 食品に関するハラル制度とは,イスラム法にし は,自国の規準より緩やかなハラル規準の国,と たがった食品の規準を定め,これを管理する制度 くに非イスラム国で認証された食品はハラル適合 である。具体的には,イスラム法の禁ずる豚肉や 品とされないことがある。57カ国が参加するイス アルコール等を含まない,安全な食品(以下, 「ハ ラム諸国会議(Organization of the Islamic Confe- ラル食品」と記す)の規準を定めて,規準に適合 rence: OIC)において,ハラル規準の国際統一の 食品と容器 362 2009 VOL. 50 NO. 6 議論がなされており,また,ハラル規準の国家間 がハラル認証を行う唯一の国である。マレーシア の差異を少なくするために,各国のハラル制度の でも,かつては宗教色の強いイスラム開発局 相互評価も行われている。しかし,これらの試み (Jabatan Kemajuan Islam Malaysia: JAKIM) はイスラム圏内での国際標準化であり,世界的な がハラル制度の担当機関であったが,2006年9月 国際標準化ではない。ハラル制度は,非イスラム に産業振興機関としての性格も有するハラル産業 国の企業にとって,一種の非関税障壁のように感 振興公社が設立され,イスラム開発局のハラル制 じられてきたのが現実である。 度に関する機能を吸収して現在に至っている。し ハラル制度の対象は,食品だけでなく,食品添 かも,マレーシアは近代国家であり,イスラム諸 加物,サプリメント,レストランなどにも及ぶ。 国の中では,リベラルで,ビジネスライクな経済・ 近年,その対象は拡大しつつあり,化粧品,医薬 行政システムを有しているため,ハラル制度の運 品,トイレタリー製品,革製品にも及びつつある 用も技術的で,わかりやすいものとなっている。 ため,非イスラム国の企業のハラル制度への関心 3.技術的性格の背景 は高まっている。 では,マレーシアが,ハラル制度を技術的でわ 2.ハラル政策の技術的性格 かりやすい内容としている背景には何があるので ハードルの高いハラル制度をクリアするために, あろうか。 近年,日本や欧米の企業から注目されているのが 第一に,マレーシアが多民族国家であることで マレーシアである。マレーシアのハラル制度は技 ある。国内人口に占めるイスラム教徒(マレー系 術的な合理性で貫かれており,日本や欧米の企業 国民)の割合は約65%であり,イスラム教になじ にとってもわかりやすい内容となっているからで みのない中国系,インド系の国民の経営する企業 ある。なぜ,日本企業等にとって,マレーシアの も,ハラル認証を取得できるように配慮されてい ハラル制度は技術的で,わかりやすいと感じるの る。多民族国家であるが故に,英語が事実上の準 であろうか。 公用語となっていることも,制度の内容・運用を 第一に,マレーシアのハラル規準は,マレーシ わかりやすいものとしている。 ア規格(Malaysian Standard(MS)1500)の「ハ 第二は,マレーシアの置かれた国際経済上の地 ラル食品の製造,調整,取扱い及び貯蔵に関する 位である。マレーシアは,ASEAN諸国の中では 一般ガイドライン」に規定されていることがあ 国内人口(2600万人)が比較的少なく,海外から る。同規格の根拠法はマレーシア標準法(日本の の工場・投資の誘致にハンディキャップがある。 工業標準法(JIS法)に相当)であり,ハラル規 このため,近代的でリベラルなイスラム国である 準は工業規格あるいは農業規格として位置づけ という特徴を活用して経済発展を考えたのである。 られている。このため,マレーシアのハラル規準 つまり,わかりやすいハラル制度を利用して,外 (規格)は全体を通して技術的な記述となってい 国企業の工場・投資を誘致し,そこで生産された る。 製品をイスラム圏に輸出し,外貨を獲得する政策 第二に,マレーシアでは,政府機関がハラル制 (ハラル・ハブ(Halal Hub)政策)を立案した 度を担当しているからである。他の国では,宗教 のである(第3次工業化マスタープラン(IMP3: 団体がハラル認証を行うため,制度の内容もその 2006-2020))。 運用も宗教的な色彩を帯びることとなり,これが このような政策の前提には,マレーシアのハラ 非イスラム国の企業に対する無形の壁となってき ル認証が他のイスラム諸国でも認められるという た。マレーシアでは,首相府直轄のハラル産業開 現実がある。マレーシアのハラル規準は宗教的な 発公社 (Halal Industry Development Corporation 厳密性は維持しており,サウジアラビアに次いで : HDC)がハラル制度を担当しており,政府機関 世界第二と言われるほど厳しい内容となっている。 食品と容器 363 2009 VOL. 50 NO. 6 その認証を受けた食品等は,中東をはじめ他のイ 載してある。 スラム国でも受け入れられてきた。日系スーパ 5.1 食材 ー・マーケット,日系食品企業,現地食品企業な MS1500には,ハラルでない食材,つまり利用 どの聞き取り調査でも,マレーシアのハラル認証 できない食材が規定されている。一般には,豚肉 の信頼性は高く,中東の国でも人気を有しており, とアルコールと理解されているが,下記に例示す ブランドとなっているとの回答が聞かれた。 るように,それ以外にも多くのものが規定される。 つまり,マレーシア政府は,ハラル制度を非イ 第一に,陸上生物では,まず,所定の方法で屠 スラム教国の企業に対する非関税障壁とするので 殺されなかった動物である(屠殺方法の詳細は次 はなく,ハラル制度の利用を促進し,普及するこ 項に記す)。次に,豚,犬のほかに,捕食のため とに価値を見出しているのである。それが故に, の牙 などを持つ動物(虎,熊,象,猫,猿など), マレーシア政府は,ハラル規準を対外的にわかり 肉食性鳥類,ムカデ,サソリ,ハチ,嫌悪感をい やすいように,技術的に合理的なものとしている。 だく生物(ノミ,ハエなど)が規定されている。 と きば とら くま す 第二に,水陸に棲む動物(ワニ,カメ,カエルな 4.基本概念の技術性 ど),第三に,遺伝子組み換え生物(Genetically マレーシアのハラル規格は,その基本概念の中 Modified Organisms: GMO)があげられている。 に,すでに技術的な性格を内包している。同規格 これらに挙げられていなくても,有毒,中毒性, は,二つの基本概念から構成される。一つは(狭 有害なものはハラルではない。なお,キノコ類, 義の)ハラルであり,他の一つはトイバン(Tho- 微生物(細菌,藻類,カビ)およびその産物は原 yyiban)である。認証を得るためには,この二 則としてハラルであり,食材として用いることが つの要素が両方とも満たされる必要がある。ハラ できる(アルコールは微生物の代謝産物であるが, ルとはイスラム法に適合しているという意味であ 不可)。 る。トイバンとは,体に良い(wholesome)とい 食材については,ハラルであるか否かの一般基 う意味であり,具体的には健康,安全,栄養,品 準を示すのではなく,ハラルでない主なもの(例) 質という概念を含んでいる。 を列挙する形式をとっている。このような形式の 前者の(狭義の)ハラルはイスラム法を基礎と ほうが,非イスラム国の企業でも理解しやすく, するため,本質的に技術的な概念ではない。しか 現場の技術者にとってはわかりやすいと言えるで し,後者の健康,安全,栄養,品質については, あろう。一般基準が示されただけでは,イスラム イスラム法に特別の規定ではなく,技術的な規定 教の素養がないとハラルか否かを判断するのは容 であり,国際規格との整合性も考慮されている。 易ではないからである。MS1500の食材に関する 具体的には,MS1500は,HACCP(Hazard Ana- 規定は明快で,技術的な規定であると言える。 lysis and Critical Control Point)等の国際的な食 5.2 屠殺方法 品衛生基準を援用しているほか,国際標準化機構 動物の屠殺方法については,詳細に規定されて 規格(ISO),国際食品規格(CODEX)のような いる。 国際規格との整合性にも配慮している。このよう 一定の資質(資質についても規定がある)を有 に,マレーシアのハラル制度の基本概念は,本質 するイスラム教徒が屠殺すること,屠殺に際して 的に技術的な要素を含んでいる。 の行動様式(特定の宗教的な文言を唱えることな ど)や精神状態,イスラム教徒の検査員が屠殺を 5.内容の技術性 チェックすることなどが規定されている。技術的 MS1500に記載されているマレーシアのハラル にも,対象は生きた健康な動物であること,ナイ 規準の内容を概観し,項目ごとにその技術的な性 フの形状,ナイフ等を当てる部位,処理用具の素 格を見てみよう。包装,表示については次節に記 材が定められている。また,食肉処理ラインなど 食品と容器 364 2009 VOL. 50 NO. 6 は,例えば豚肉などとは共用にせず,ハラル食品 した食品等は非ハラルとなる。 専用とすることが規定されている。電気ショック たとえば,製品となった食品に豚肉が含有され により屠殺する場合には,一定の資質を有するイ なくても,製造プロセスで豚由来のものが使用さ スラム教徒の監督下で行われることが規定される れると,その食品は非ハラルになる。製造段階で とともに,動物の種類ごとに使用する電気の電流, は,非ハラルのものと同じ施設内で非ハラルの食 電圧が数値で指定されている(付属書A1)。家 品等が製造されている場合,過去に製造機械を非 禽を機械ナイフで屠殺する方法についても,機械 ハラルの食品等に使用した場合など,流通過程で の操縦はイスラム教徒によりなされること,特定 は,非ハラルの食品等と混載された場合などに, の宗教的な文言を唱えるべきことなどが規定され その食品は非ハラルとされる。 ている(付属書B)。 加工,取扱い,流通における最も重要なポイン 規定されている屠殺方法はイスラム教に密接に トは,ハラル製品と非ハラル製品の接触,混合の 関連しており,非イスラム国の企業にとって理解 防止である。この規定は,工場や流通段階におけ が難しいと言われている。また,イスラム教徒の る,施設の構造設計や作業マニュアルの作成の基 少ない国では,実施が難しく,高いハードルにな 準となるために,極めて技術的な性格を有してい っている。ただし,規定は宗教を背景としつつも, る。ただし,一部には,宗教的な規定もある。た 現場で何をどうすべきかについて具体的に規定し とえば,過去に非ハラル食材等に利用された装置, ており,非イスラム国の企業でも理解しやすいよ 道具,機械は,イスラム法を基礎とする所定の洗 うに,技術的な性格を維持しようとしている。 浄方法によるべきことが規定されている。 5.3 サプライ・チェーン(加工,取扱い,流 5.4 サプライ・チェーン(保管,提供,陳列, 通) 販売) MS1500は,製品としての食品の品質だけを見 サプライ・チェーンの下流に位置する保管,陳 ているのではなく,製造プロセス,製造機械,包 列,販売,提供段階においても,同様に,すべて 装・容器,流通,レストランなどサプライ・チェ の段階がハラルであること,非ハラルのものと直 ーン全体を視野に入れている。食品のサプライ・ 接,間接に接触しないようにすることが求められ チェーンの全体がハラルであってはじめて,その る。また,ハラル食品にはハラル・マークを表示 食品はハラルになる。サプライ・チェーンの1カ し,非ハラル食品と区別できるようにすべき旨が 所が非ハラルであると,その食品は非ハラルにな 規定されている(写真1および写真2を参照)。 る。MS1500は,非ハラルの食材等とは物理的に 保管には,倉庫,冷蔵施設,ターミナル,輸送 隔離されることを求めており,サプライ・チェー における作業など,いわゆるロジスティックが含 ンにおいて,非ハラルのものと直接・間接に接触 まれる。これらロジスティック施設もハラル認証 きん 写真1 自動販売機に表示されたハラル・マーク (左上部のマーク) ネスレ社はマレーシアのハラルを取得している。 (農林水産省総合食料局・橋本一也氏提供) 食品と容器 365 写真2 レストランのメニューに見られるハラル・マ ーク(メニューの右下) このレストランはハラル認証を受けている。 2009 VOL. 50 NO. 6 を得ることができる(注:ロジスティック専用の 染されていないこと,包装・容器の前処理,組立 ハラル規格は,現在作成中である)。提供とは, て,保管,輸送に際して,ハラルでない食品等と レストラン,業務用 厨 房,カフェテリア,パン・ 隔離されることなど。 ショップ,ファーストフード店,大学等の食堂, 第二に,包装材料は人体に有害な原料も含まな クラブなどにおける業務を意味する。レストラン いこと。包装工程は清潔で衛生的であること。 等の施設はハラル認証の対象であり,例えば,提 なお,表示に関する規定も,包装・容器の項に 供メニューに非ハラル食品が含まれる場合,調理 規定されている。表示に関しては,判読できるこ 器具,食器が過去に非ハラル食品の調理等に使用 と,文字が消えないことを規定している。表示事 された場合には,非ハラルとなる。陳列,販売と 項は,製品名,正味重量,製造者・輸出者・販売 は小売店の業務である。スーパー・マーケットは 業者,商標,成分の一覧表,賞味期限,原産地な ハラル認証の対象ではないが,ハラル食品と非ハ どとされている。 ラル食品の売り場を厳密に別にして陳列・販売し 包装・容器に関する規定,表示事項に関する規 ている。そうしなければ,本来ハラルの食品が非 定はいずれも,イスラム教に関連する特別の規定 ハラルとなるからである。 ではなく,一般的で,技術的な規定である。 ちゅう これら保管,陳列,販売,提供の段階に関する むすび 規定も,施設の構造設計や作業マニュアルの作成 の基準となるために,技術的な性格を有している。 日本企業は,巨大なイスラム市場に関心を有し 5.5 衛生,公衆衛生,食品安全 ているが,イスラム教を背景とするハラル制度の 衛生,公衆衛生,食品安全については,農業生 故に,その市場を十分に開発できてこなかった。 産の段階で付着する土壌,飼料,肥料,殺虫剤な しかし,以上述べてきたように,マレーシアのハ どによる汚染の防止,害虫,汚物,微生物などに ラル制度は,宗教的な厳密性を維持しつつも技術 よる汚染の防止が規定されている。また,生産機 的な内容となっており,日本企業にとっても比較 械に由来するプラスチック,ガラス,金属片など 的理解しやすいものとなっている。また,その運 の異物の混入の防止も規定されている。さらに, 用もビジネスライクで,技術的な合理性を保って 工場における廃棄物の管理や有害化学物質の保管 いる。ハラル産業開発公社は,ハラル制度の90% なども規定されている。また,国際規格との整合 は技術的な内容であり,技術レベルの高い日本の 性の規定もある。 企業は容易にクリアできると述べている。ハラル これらの規定は,一部を除き特にイスラム教に 制度は,イスラム教徒が安心して購入できる食品 関連する特別の規定ではなく,純粋に技術的な規 の規格に関する制度であると解するとわかりやす 定である。 いであろう。 日本企業は,マレーシアのハラル認証を得るこ 6.ハラル規格と包装・容器に 関する規定 とにより,中東をはじめとするイスラム市場への 参入が容易になるだろう。同公社は,日本企業の MS1500は,包装・容器もハラルであることを マレーシアへの投資と一体となったハラル認証の 要求しており,食品そのものがハラルであっても, 取得に期待している。 包装・容器がハラルでなければ,製品としての食 なお,本稿は一般的な理解のために記述したも 品は非ハラルとなる。包装・容器が満たすべき具 のであり,宗教的な意味での正確性を欠く表現も 体的な条件として下記のように規定されている。 ある。正確な内容を知るためには,MS1500の原 第一に,包装・容器の素材は非ハラルでないこ 文(英文でも出版されている)を参照されたい。 と,包装容器の製造機械は,非ハラルのもので汚 食品と容器 366 2009 VOL. 50 NO. 6 〜〜〜〜 技術用語解説 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 レーやパウチが使われている。また,無菌包装米 飯などでは酸素吸収機能を持ったバリア多層成形 電子レンジ対応容器包装 (Microwavable Packaging) 容器なども開発されている。 電子レンジで加熱する際に食品から発生する蒸 ふた 電子レンジは1960年代に市販されて以来急速に 気で包装容器が膨張することを防ぐため,蓋材を 普及が進み,現在では100%近い普及率となって 途中まで剥がしたり,切込みを入れたり,穴を開 いる。それに対応するように電子レンジ食品も けたりする必要がある。万が一これを忘れてしま 1980年代に登場してからすでに20年以上が経過し, うと,加熱時に包装容器が爆発する危険性がある。 容器包装の物性や使用時の使いやすさなど多くの そこで,加熱すると自動的に蒸気が排出される機 問題がクリアされ商品化が進んだ。 構をもたせた包装容器が開発されている。冷凍食 電子レンジ対応包装食品には,冷凍食品,チル 品用包材の事例では,シール部の基材層とシーラ ド食品,レトルト食品,無菌充填食品,水を加え ント層の間に常温以下では所定の強度をもつが, てから加熱する食品など,様々なタイプの商品が 高温になると軟化する高温軟化樹脂を入れ,この ある。このような食品に使用される包装容器には, パウチを電子レンジで加熱すると,発生した蒸気 耐熱性はもちろんのこと,流通条件に適した内容 の熱と圧力により,シーラントに亀裂が入り,高 物の保存性,マイクロ波透過性(ムラなく均一に 温軟化樹脂層が破壊されて自動的に開封する仕組 加熱できる),さらには加熱使用時の安全性やお みとなっている。 いしさを追及した機能などが求められている。 電子レンジ食品のおいしさを追求するために食 容器の耐熱性については,100℃前後の耐熱温 品の表面に焦げ目を付ける機能を付与した包材が 度では不十分であり,食品に含まれる油脂分や塩 開発されている。通常の金属箔ではマイクロ波を 類によって130℃以上になることも想定しておか 照射すると反射してしまうが,これを薄くしてい なければならない。ポリプロピレンは,実用上 くことでマイクロ波の一部を透過させ,一部が薄 135℃前後の耐熱性があり,タルクや炭酸カルシ い金属層で渦電流となってジュール熱を発生する ウム等の無機フィラーを練り込むことによりさら 仕組みである。ポリエステルフィルムにアルミニ に20%程度耐熱性を向上させることができること ウムを真空蒸着して薄膜を形成し,蒸着面を紙と から,電子レンジ用包装容器に最も広く使用され 貼り合わせたシートが一般的に用いられている。 ている材料である。この他にも,ポリエステル樹 接触している食品にクリスピー性を付与したり, 脂を結晶化して耐熱性を向上させたC-PET樹脂 ピザや餃子などの食品の表面に焦げ目を付けたり や,保香性,透明性,剛性に優れフィラー入り することができる。 は はく ぎょうざ PPと同等の耐熱性があるポリカーボネート,200 はく ℃以上の耐熱性があるとともに内容物剥離性が良 参 考 文 献 いことから耐熱性の紙トレーとして使用されてい 1) 特 許 庁「 標 準 技 術 集 食 品 用 包 装 容 器 」: http:// www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/ るポリメチルペンテン樹脂などが利用されている。 内容物を長期保存しようとする場合には酸素に syokuhinyou/mokuji.htm 2)塩川俊一「最新 食品用機能性包材の開発と応用」, よる品質劣化を抑制する必要があり,バリア性の 日本食品包装研究協会編,シーエムシー出版発行, 高い包材との組み合わせが必要になる。レトルト 100-113(2006) 食品では,エチレン−ビニルアルコール共重合体 ( (独)農業・食品産業技術総合研究機構 やポリ塩化ビニリデンに加えて,シリカ蒸着やア 食品総合研究所 石川 豊) ルミナ蒸着などの無機蒸着フィルムを使用したト 食品と容器 367 2009 VOL. 50 NO. 6 今月の統計 ╙㧝࡞࠱ࠕࠛޓຠߩຠ⒳↢↥ᢙ㊂ ޓޓޓޓޓޓޓޓᐕ Ვ ⯻ ⒳㘃 ࡂࠛⰆ↪Ვ⯻ ߘߩઁ Ვ⯻ 㧔ዊ⸘㧕 Ⴃ ᢱ ቶ ౝ ᶖ ⥇ ࠢ ࠽ ኅ ᐸ ࡢ࠶ࠢࠬࡐ࠶ࠪࡘ ↪ᵞ ữ ↪ ຠ ຠ ߘ ߩઁ ኅᐸ ↪ຠ 㧔ዊ⸘㧕 ࡋࠕࠬࡊ ઁߩ ߘ ޓ㗡㜬 ↪ຠ ੱ ៤Ꮺ↪ࠬࡊ ↪ 䉲䉢䊷䊎䊮䉫䉪䊥䊷䊛 ຠ ࠝ࠺ࠦࡠࡦ㚅᳓ ක ⮎ ຠ ੱᶖ⥇᳨ ߘ ߩઁ ੱ ↪ຠ 㧔ዊ⸘㧕 ㊄ ዻ ត ் Ꮏ㒐 ㍕ Ả Ṗ ᬺੇ ῎ ᛥ ↪ ߘ ߩઁ Ꮏᬺ ↪ຠ ຠ 㧔ዊ⸘㧕 ⥄ ߊ ߽ ࠅ ᱛ േ ゞ ߘߩઁ⥄ޓേゞ↪ຠ ↪ 㧔ዊ⸘㧕 ຠ ࠦ࠼㕒㔚㒐ᱛ ߘ ◲ ᤃ ᶖ Ἣ ౕ ߩ ߩ ઁ ઁߘ 㧔ዊ⸘㧕 ✚ ⸘ ↢↥㊂ 㧔ᧄ㧕 ᐕ ᭴ᚑᲧ 㧔㧑㧕 ↢↥㊂ 㧔ᧄ㧕 ᐕ ᭴ᚑᲧ 㧔㧑㧕 ↢↥㊂ 㧔ᧄ㧕 ᭴ᚑᲧ 㧔㧑㧕 ᐕ ೨ᐕᲧ 㧔㧑㧕 㧡ᐕ೨Ყ 㧔㧑㧕 ᐕ೨Ყ 㧔㧑㧕 ᐕ ೨ᐕᲧ 㧔㧑㧕 㧡ᐕ೨Ყ 㧔㧑㧕 ᐕ೨Ყ 㧔㧑㧕 ╙㧞࡞࠱ࠕࠛޓຠߩኈེ↢↥ᢙ㊂ ޓޓޓޓޓޓޓޓᐕ ⒳㘃 ࡉ ࠠ ኈ ࠕ ࡞ ࡒ ኈ ว ᚑ ᮸ ⢽ ኈ ࠟ ࠬ ኈ ✚ 食品と容器 ེ ེ ེ ེ ⸘ ↢↥㊂ 㧔ᧄ㧕 ᐕ ᭴ᚑᲧ 㧔㧑㧕 㧙 ↢↥㊂ 㧔ᧄ㧕 ᐕ ᭴ᚑᲧ 㧔㧑㧕 㧙 368 ↢↥㊂ 㧔ᧄ㧕 ᭴ᚑᲧ 㧔㧑㧕 2009 VOL. 50 NO. 6 今月の統計 第1図 エアゾール製品の品種別生産数量 (億本) 3.5 3.0 1998 2.5 2003 2.0 2008 1.5 1.0 0.5 0.0 殺虫剤 塗料 家庭用品 人体用品 工業用品 自動車用品 その他 第2図 エアゾール製品の容器別生産数量 (億本) 3.5 3.0 1998 2.5 2003 2.0 2008 1.5 1.0 0.5 0.0 ブリキ容器 アルミ容器 合成樹脂容器 平 均 気 温,降 水 量, 日 照 時 間 平 均 気 温 (℃) 平年差 前年差 2008年 5月 平均 18.5 -0.2 -1.3 6月 平均 21.3 -0.5 -1.9 7月 平均 27.0 +1.6 +2.6 8月 平均 26.8 -0.3 -2.2 9月 平均 24.4 +0.9 -0.8 10月 平均 19.4 +1.2 +0.4 11月 平均 13.1 +0.1 -0.2 12月 平均 9.8 +1.4 +0.8 2009年 1月 平均 6.8 +1.0 +0.9 2月 平均 7.8 +1.7 +2.3 3月 平均 10.0 +1.1 -0.7 4月 下旬 15.7 -0.7 -0.7 平均 15.7 +1.3 +1.0 5月 上旬 19.3 +1.7 +0.3 中旬 20.6 +2.0 +4.4 注)平年値は1971年~2000年の月,旬平均値 食品と容器 ガラス容器 (5月中旬・東京) 降 水 量 (mm) 平年比(%) 前年比(%) 255.0 199 221 225.5 137 282 48.0 30 19 387.5 250 4079 158.5 76 50 204.5 125 151 74.0 80 200 70.5 178 98 142.0 292 811 46.5 77 82 98.5 86 82 94.0 160 989 162.5 108 68 55.5 135 171 16.5 45 11 369 日 照 時 間 (h) 平年比(%) 前年比(%) 136.9 76 60 106.9 89 57 168.4 114 209 130.0 73 40 124.1 110 102 141.0 109 118 142.9 101 96 190.8 112 113 174.7 97 106 131.2 81 61 162.9 102 87 74.4 127 168 226.7 137 174 55.0 94 159 57.1 102 105 2009 VOL. 50 NO. 6 最近の技術雑誌から 国 ਈ 内 編 ဩ ู̡݈ᆎ ɜព៥ɝドレッシング類,健康意識の差別化鮮明に −マヨネーズ値下げを市場活性化の一助に− ᧘ᯕᯨقᏎឞಏܫᶬ¶²ᶨ³ᶩ³᷾²±ᶨ'±º¯µᶩᶮ ௴ ࿁ ۹ ɜព៥ɝ特集―糖質新素材と食品開発― ᯨँقඋᶬ¶³ᶨ²±ᶩ²º᷾·ºᶨ'±º¯¶/´±ᶩᶮ Ⱦህᎊᶭκᯕʍূᒓᶭˏ˅̃̍˦ʺˀˇ˵ˏ˞̀̎ʍݾ నɰƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃϟᙸ Ⱦᓧ৷ˀ̀ˊᎊʍၔ৷ʇԢᄍ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃࢡಢ 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˫̎˟ˇ˵ˁ́ᶬ³¶ᶨ¶ᶩ²¸᷾·¶ᶨ'±ºᶩᶮ Ⱦ۔ᬫᄍ༐Ւၑᶯంବ࠳ʍୁၤ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃሾᶄฬ࠙ࠍ Ⱦ۔ᬫᄍᰖ௶ʍంବ࠳ʇବ࠳ʊᔷʪ˭̃ˑˏʊʃɣ ʅƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃࢨಳআΈ Ⱦంବ࠳༐Ւၑ˳̀˓́˯̎˞ʍၔ৷ʇড়ᄍ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃᓫᄑحు Ⱦంᄅ௶ءˣˀ˜̎˶ʍၔʇᯨقড়ᄍ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃᆏࣽᇍᄒᑬ Ⱦ˞ˉ˫ʽ̃̎́᧦ʾˏ˜́ʍᯨقʗʍড়ᄍ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃࣽ ۮ ɜព៥ɝ特集―食品検査の基本技術と現場活用― ಏԗ᷐᷈᷁᷃᷃ᶬ²¶ᶨ¶ᶩ²º᷾µ¹ᶨ'±ºᶩᶮ ȾᯨقϜඋʊɩɰʪᔵᎲᗕ൮ʍܛಢ૮ ƃƃƃƃƃƃࡨಢয়̍״ฮΠᦿ̍ීΥࣽ·इᄕ Ⱦˤ̃ʼʺ́ˏ๘ЀඋʍႻࡩܬড় ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃͼྙ༒ࠗ Ⱦፍప̍᥌ᥴ൮ຫʍוʊʎᝒႻܬʆʍˇ̎ˏˏ˕ ˝ʹʍҰ࠷ɫͭดƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃࣽࣉ ౄ ȾᯨقᎲᗕ൮ʡᔴॅ൮૮जɫԟ࠳ᶯʧʩᱝᎃ्ʆ᥌ ᥴʉ൮ʱᆾବɶʅ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃ̘ఖಢ্ᄉၑለኴ 食品と容器 370 2009 VOL. 50 NO. 6 最近の技術雑誌から 冷凍食品の消費活性化策― 有名メーカーの商品戦略を探る Ᏼᯨقᶬ´³ᶨ²²ᶩ´±᷾µ±ᶨ'±º¯µᶩᶮ Ⱦͼ۔ᄊࠍΟϗঃɬɹʩӲӻᯨقऐܬʊѩཡ Ⱦͼ۔ᄊᦪʍʝʝʆʎ٦قʍ˦˿ʾ˜ʹɫԎɺʉɣ Ⱦ٦قᶬݫʩܬʆʍӖឱʆӲӻᯨقʍМђʇМഓʍӖ ථጶʗ Ⱦంᝒقᆌও֊ʆͥఴशʞʗ࠷ᐠۋटᆾବɸ˴́˥ ˡ˗̃ᯨق Ⱦ۔ᄊᎫಲˍ̀̎ːʇ̀ˡ˻̎ʸ́ʆܟɮۋၯɥˡ ˗̂ʺ Ⱦᝒقʍˆ̂̎˟ʸ˙˭ʆӖʒМђឱɸʪءʍᎫӲᯨ Ⱦᄉ˧ˏ˕ʇ˓̎ˏʍˑ˙˞ࡶӁʆˏ˃́ʸ˙˭ۑʪఖ ༒˫̎ː Ⱦɩɣɶɣʊʂʜʲˍ̀̎ːʍѪʆႾᨂᗚ༜ࡸʱସ ۋɶɾʸ˅̀˫̎ː ȾJTʇʍᏎɫͥ์ʇᜓᶯˉ˿˲ʆˬ˿̉˟ও֊ۑ ʪՒ˞ Ⱦɔ˭̂˵ʸ˶ˊ̎́˟ɕ݇Ւʆˬ˿̉˟ሯዒʊᔵдʞ ɺʪఖಢᝒ፫ Ⱦˏ˜ʸ̃ʺ́Ζ᧦ˠ˞̀ʼ˶ʍᯨقʗʍԢᄍ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃಳͫΓ Ⱦ˨˟̃˃ˍ˭̃˪́˷˗́ˑ́̃̎ˏʍၔ৷ʇড়ᄍ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃ༈ྙᑬᄒ Ⱦˠʺˍ̉ʍԢᄍ૮ʊʃɣʅƃƃƃƃƃƃƃࡷሾ֬వ Ⱦʍం༐Ւၑƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃᐁᭂᧅ ర ઍ ̡ ඟ ઍ ɜព៥ɝ可食性すり身フィルムの保存中における性状変 化 ᑽ ฮᩂ̍ށᥖͥ̍װᄑͼ࠰দᶺఖಢᯨ௶вᙀቿࠜ ϥ៕ᶬ´¶ᶨ³ᶩ¶º᷾·´ᶨ'±º¯´ᶩᶮ ۄᆎ ̡ ௧ ഉ ɜព៥ɝ2008年清涼飲料生産量(全国清涼飲料工業会) −茶系飲料や果実飲料苦戦,生産量は1.2%減− ᧘ᯕᯨقᏎឞಏܫᶬ¶²ᶨ³ᶩ²²᷾²´ᶨ'±º¯µᶩᶮ ɜព៥ɝ緑茶市場,業務用低迷下で家庭用TB健闘 −国産茶へのシフトが顕著に− ᧘ᯕᯨقᏎឞಏܫᶬ¶²ᶨ³ᶩ³º᷾´³ᶨ'±º¯µᶩᶮ ࠍѨ҈̡ӟһӞһ௴࿁ ɜព៥ɝなめ茸びん詰,内食化・コメ食回復で好調 −景気低迷でデフレ再燃を懸念− ᧘ᯕᯨقᏎឞಏܫᶬ¶²ᶨ³ᶩ¸±᷾¸´ᶨ'±º¯µᶩᶮ ɜព៥〕2008年輸入酒市場/品目別・銘柄別動向(2) −環境悪化のなかカテゴリー・ブランド間で格差− ᧘ᯕᯨقᏎឞಏܫᶬ¶²ᶨ³ᶩ´´᷾µ¹ᶨ'±º¯ᶴᶩᶮ ɜព៥ɝ特集―果実缶詰の供給・市場動向Ⅱ― ͫᄑ०ᶺᑉ៊ీܫᶬ¹¹ᶨ¶ᶩ²²᷾³µᶨ'±ºᶩᶮ ɜព៥ɝ特集―果汁/野菜汁/低アルコール飲料― Beverage Japanᶬ Ɖ´³¹ ´᷾·¶ᶨ'±º¯µᶩᶮ Ⱦ֊ɸʪऐܬშ݄ʇۋʊɰʅʍ៨ᯌ Ⱦೖ̍ᨂᗚʍˬ˿̉˟ʍթ Ⱦϵʸ́ˉ̎́ᯯ௶ʍऐܬʇˬ˿̉˟ʍթ Ⱦೖˋ˭˿ʺ˺̎ʍթ ȾᤤӁೖୟኌᜟᶨ³±±¶श᷾³±±¹शᶩ ௴ ࿁ ڵ ཥ ɜព៥ɝ製パン市場,消費動向汲んだ製品提案進む −イースト市場は各社の特長活かした販促展開− ᧘ᯕᯨقᏎឞಏܫᶬ¶²ᶨ³ᶩ²¸᷾³´ᶨ'±º¯µᶩᶮ ɜព៥ɝ好ペース一巡,真価が問われるチルドめん −不安定要素浮上も商品力で勝負− ᧘ᯕᯨقᏎឞಏܫᶬ¶²ᶨ³ᶩµº᷾¶¸ᶨ'±º¯µᶩᶮ ᆱ ̡ ߦ ೮ ɜព៥ɝ特集―冷菓・デザート食品の近況― ˎ˹˧̉˫̎˟ˋʺʾ̉ˏᶬµ¹ᶨ¶ᶩ²º᷾µ²ᶨ'±ºᶩᶮ Ⱦ˝ˌ̎˞ᄍᎫಲʍ᥎ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃᰧᄑ ّ ȾӲᗗ̍˝ˌ̎˞ᯨقᄍ˫̂̎˦̎ʍᆌթ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃೋׄ ۮ Ⱦᓨᓌᶰᶨ˒̃ᶩʆʡɩɣɶɮɸʪᎫಲ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃኚऐحΓ ȾۨပʱԢᄍɶɾ˾̎ˆ́˞ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃ̘ഈᰧ˫̎ː ȾӲᗗ̍˝ˌ̎˞̍ګᎫಲ ɜព៥ɝ特集―食品マーケティング最前線― ᯨँقඋᶬ¶³ᶨºᶩ´´᷾·¶ᶨ'±º¯¶/²¶ᶩᶮ Ⱦᯨقʍ˨˙˞ం٦قʇີᆾˁ˜ˊ̀̎ʊʪᡸˏ˕ ʺ́ʍ҂ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃಳͫѪރ Ⱦᡶʂʅʡʨɧʪђͫɱ̍˭̃˸̎ˍ˽̉ʇђͫɱनʍ ࠳ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃͫᄑᬟኤ ȾऐܬՄʍʎˍ̉ˆ́ˏʊɡʩƃƃƃƃƃ௰ᙸ ᬟ Ⱦɔݫʪɕʱɔᡶɥɕɪʨᒑɧʪᡶၑธ˴̎ˇ˜ʹ̉ˆ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃజ Ԣদ ɜព៥ɝ特集―商品と売り場で何を訴求する?! 食品と容器 371 2009 VOL. 50 NO. 6 最近の技術雑誌から ɜព៥ɝ特集―来年の食料消費― ᒙςᶺᑉ៊ీܫᶬ¹¹ᶨ¶ᶩ³᷾²±ᶨ'±ºᶩᶮ ᄵ ࠰ ̡ ၆ ɜၔԠϜᄘɝPETボトルと金型ビジネス/ブランド戦略 をサポートするPETボトルの金型ビジネス Beverage Japanᶬ Ɖ´³¹ ¹³᷾¹¸ᶨ'±º¯µᶩᶮ ௴࿁݈ী̡ဲഇ ɜព៥ɝ特集―食品の無菌包装技術― ˎ˹˧̉˫̎˟ˋʺʾ̉ˏᶬµ¹ᶨ¶ᶩµ´᷾¶¸ᶨ'±ºᶩᶮ ȾంۿҰܾɔTetra Pak A´ /CompactFlexɕ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃಳ࿇আͥ Ⱦˁ˙˭ࡄګʍᗕҰܾᆌʍ᥎ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃΥ໙Γ Ⱦ˂̉˴ᏺဆʊʧʪᯨقւᝀಲʍམᗕ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃປԢ ɜព៥ɝ特集―進化する“イージークッキング”と包装 ― ᯨقւᝀᶬ¶´ᶨ¶ᶩ²¸᷾³ºᶨ'±ºᶩᶮ Ⱦžфᯨ֊ీϐſʊו႟ʎ²±±ᶥʗᶯУԢɴʍҳʊžᑬ ءɶɴſʣžඕɶɴſʍᥟʡƃƃƃƃƃƃᐁᭂᧅ Ⱦžӑᯨۋटſʗʍీ໐טరɪᶯፍ֫ႾʆʡɔЀʩ ɕʱƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃᐁᭂᧅ Ⱦ˝ˌʺ̉ӂᮅ̀ˡ˻̎ʸ́ᶯɔ̂̉ˎ˅˙˅ɕʊᶳʸ ʺ˜˶ᥟՒƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃ˃˼̎˪̎ Ⱦ˧ʼ˗ɪʨˁ̎˞̉ʝʆݼපʊ࢘ᶯUDᧅɫឮឞ ʊͮᶬӑ˿˲ʆࠪӂោʡƃƃƃƃށఖಢִԨ Ⱦᥨన˥ʺ˦̀ʸ˫ʹ́˶ɫໍᣱᶯ˓˫˞ᮅʆʡࠪ̍ ࠪӂ୯ഛʱˋ˳̎˞ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃԌ၅ִԨ ȾႾᎹΛাʡዒϹݳথʱᏢପᶯড়ՏᭂͼʱԢᄍɶɾᘛ ૽ɬථ˧ʼ˗ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃຼᝒᑑ Ⱦ᭙ࠍ̂̉ˎɰӲӻᯨಲʍՒပពӻᄍࡄګᶯ IHႾ ࡩګড়̅̉ʼʽʺᘛɶႾګʡᆌƃƃƃᑑᕁඋ Ⱦˏ˶̎ːʉᘛ૽ɬʱ࠷Ⴛᶯ̂̉ˎࡩড়˧ʼ˗ʊం ᓧʡϊͮƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃӉִԨ Ⱦᶴಏʊ˷ˡ˻̎ʉʈ̀ˡ˻̎ʸ́ᶯɔDĤ̉ˎࡄګɕ ʆᏴᗚ֤ᝒقʱ࢘ƃƃƃƃƃƃƃƃƃ˝̀ʸᯨق ધਯ̡ᅻ෭ ɜព៥ɝ特集―青果物流通は今後どうなっていくか― ˫̂˙ˍ˻˫̎˟ˍˏ˜˶ᶬ ´¹ ᶨ³ᶩ²᷾¶³ᶨ '±º¯ లᶩ ɜព៥ɝ飲料自販機市場,急激な経済悪化で低迷 −積極的な市場活性化策を− ᧘ᯕᯨقᏎឞಏܫᶬ¶²ᶨ³ᶩ¶¹᷾·µᶨ'±º¯µᶩᶮ ɜព៥ɝ消費者の「食の志向」/国産食品と輸入食品の 購入に関する意識と実態 ̘ఖಢጐᨅᛧӆॏᶺᑉ៊ీܫᶬ ¹¹ᶨ¶ᶩ³¹᷾´² ᶨ'±ºᶩᶮ ࠊ ᅬ ࡚ ୠ ࠅ ɜព៥ɝ特集―食品企業における危機管理の実際― ᯨقʇቿࠜᶬ¶²ᶨ¶ᶩ·´᷾¸µᶨ'±º¯ᶩᶮ ȾᯨܬँقʍֵጫႾƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃປࢲح ȾᯨقΟ̍Οϗɪʨࠜʕ̀ˏ˅˴ˣ̎ˎ˷̉˞ʇֵ ጫႾNjƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃᕚۭूᄕ ჵ ൏ ɜព៥ɝ特集―カーボンフットプリントの行方― ւᝀ૮ᶬµ¸ᶨ¶ᶩ´᷾µ³ᶨ'±ºᶩᶮ Ⱦˁ̎˲̉˫˙˞˭̀̉˞ʍ៨ᯌʇ࢘ಙƃƃƃኜᗼ Ⱦˁ̎˲̉˫˙˞˭̀̉˞ʍጣ࠳ఄຫ̍ᜟቌఄຫʊʃɣ ʅƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃՒۨ Ⱦˁ̎˲̉˫˙˞˭̀̉˞ʍໟݹթƃƃƃƃͼॐᇽᨁ Ⱦɔقᢑʎᄢɪʨɕɪʨˁ̎˲̉˫˙˞˭̀̉˞ʗ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃᛁ᮶ฬዞ Ⱦᯨګࡄقւᝀʇˁ̎˲̉˫˙˞˭̀̉˞ƃƃೋࣨѪຟ ȾัሼԺʆʍˁ̎˲̉˫˙˞˭̀̉˞ោᜓƃƃࢨᄑ༊ؓ Ⱦ์˲̎́˷̎ˁ̎ɪʨʞɾˁ̎˲̉˫˙˞˭̀̉˞ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃ·ށвזਚ ɜព៥ɝ特集―食品工場における温湿度管理機器― ᯨقീᝀᑝᶬµ·ᶨ¶ᶩ¶³᷾¸¹ᶨ'±ºᶩᶮ Ⱦʾ˴́ˍ˽̉૮ʱԢᄍɶɾɔࠪМɕʆɔሯ࠷ɕʉ༦ ्࢝ำʺ̉ˎˇ̎˕̎ƃƃƃƃƃƃƃƃƃवྙ ಘ Ⱦ˩ˎˣˏʍႻܬʱខ֊ɸʪ̅ʺ˺̂ˏˑ̉ˋˣ˙˞ ˶˜ˏˍܫƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃᑼᄉ ू Ⱦᇄʾˣ́˄̎֊ʱۑʪᬐཁˍˏ˜˶ʊʃɣʅ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃಟरᔷ Ⱦ̅ʺ˺̂ˏ˝̎˕̃˂̎ʆʍᯨقᑉ៊ᝒ˿ʺ̉༦् ̍᷆ᶭђ̀ʸ́˕ʺ˶˸ˡ˕̀̉ˆ ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃ˴ʺ˅̍ʼ˒˿˙˅ Ⱦ༦ཁ्̍கጫႾɫᓧʉ᭙ࠍឧ᩻ឞʍᎶς ƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃƃށᡅ໙ह 食品と容器 ࢪ ၔ ᆮ ̡ ၔ ࡋ ɜព៥ɝ牛乳・乳製品等容器包装のリサイクルの現状と 課題 ށໄۧؓ̍ࢡᄑह̍ၐᨂࠗᶺΖඋ૮ᶬ¶¹ ´³ ᷾¶±ᶨ'±º¯´ᶩᶮ 372 2009 VOL. 50 NO. 6 最近の技術雑誌から ○6カ月貯蔵における市販茶葉の緑茶カテキンの安定 海 外 編 性 Stability of Green Tea Catechins in Commercial Tea Leaves during Storage for 6 Months 邦文の題名は内容に従って付けてありま すので,原題と異なる場合があります。 M.Friedman et al.…………………………… H47〜H51 The World of Food Ingredients(Neth.) Mar.(2009) ○新しいハイドロコロイド戦略 Journal of Food Science(U.S.A.)Vol.74 Mar.(2009) New Hydrocolloid Strategy ○食品中の危険な微生物,毒物,化学物質の評価のた ○最近のアイスクリームの開発傾向 R.Wyers……………………………………………13〜17 めのリスクランキングのフレームワークの開発 Cold Comforts Development of a Risk-Ranking Framework to T.Barker Evaluate Potential High-Threat Microorganisms, ……………………………………… 18〜20, 22 Toxins, and Chemicals in Food ○世界の飲料市場の現状と将来 R.Newsome et al. Sink or Swim? ……………………………………… R39〜R45 M.Hilliam… ………………………………………24〜26 ○ビーフ挽肉およびフランクフルトの照射によるトラ ○EUの添加物規制と酵素およびフレーバーの影響 ンス脂肪酸の生成 Enzyme and Flavour Law Formation of Trans Fatty Acids in Ground Beef J.Savigny… ………………………………………30〜35 and Frankfurters due to Irradiation X.Fan and S.E.Kays ○バニラの新しい用途とトレンド ……………………………………… C79〜C84 New Vanilla Routes ○模造肉中の繊維生成のリアルタイムマッピングのた D.Havkin-Frenkel…………………………… 36, 38〜39 めのレーザースキャニングシステム ○消費者の要望や嗜好に合った飲料のブレンド Laser Scanning System for Real-Time Mapping Beverages with Impact of Fiber Formations in Meat Analogues C.Baggs……………………………………… 42, 44〜45 J.Ranasinghesagara et al. ○Naturalと効能 ……………………………………… E39〜E45 Natural and Efficacious ○貯蔵中の酸および胆汁条件で安定なプロバイオティ J.Gruenwald………………………………… 56, 58〜60 ク菌のためのマイクロカプセル化の改良された方法 ○新しいダイエット食品 An Improved Method of Microencapsulation of Fuller for Longer Probiotic Bacteria for Their Stability in D.Berry… …………………………………………62〜64 Acidic and Bile Conditions during Storage ……………………………………… M53〜M61 Cereal Foods World(U.S.A.)Vol.54 Mar./Apr.(2009) ○天然の添加物を用いた生鮮カットアップル,ペアお ○ベーカリー産業と持続可能性への取り組み W.K.Ding and N.P.Shah よびメロンの品質改善 Sustainability in a New Era Improving the Quality of Fresh-Cut Apples, R.Zvaners… ………………………………………52〜53 Pears, and Melons Using Natural Additives ○食品産業とエコへの取り組み L.Alandes et al.… ………………………… S90〜S96 Eco Trends in the Food Industry K.A.Larson…………………………………………55〜57 食品と容器 373 2009 VOL. 50 NO. 6 最近の技術雑誌から Wellness Foods(U.S.A.)Apr.(2009) ○穀物の品質を最適化する生産管理 ○より健康な飲料の構築 Wheat in the Grain Chain: Managing Production to Optimize Grain Quality Building A Healthier Beverage C.W.Wrigley and M.J.Gooding D.Feder ……………………………………………58〜63 …………………………… WF3, WF5〜WF6 Fruit Processing(DEU)Vol.19 Mar./Apr.(2009) Beverage World(U.S.A.)Vol.128 Apr.(2009) ○フルーツジュースに適した高品質飲料缶 ○2009年,アメリカのエネルギー飲料 Vitamins to Go: Fruit Juices in High Quality Pure Performance Beverage Cans……………………………………66〜67 J.Cirillo… …………………………………………20〜22 ○植物から得られる自然の力:抗酸化物質 ○2009年,アメリカの飲料市場 Antioxidants− Natural Power from Plants State of the Industry Report‘09 D.Wolfstädter… …………………………………68〜69 ・炭酸飲料 Challenging Times Journal of Food Science(U.S.A.)Vol.74 Apr.(2009) ………………………………… S2〜S3, S6〜S7 ○ワイン製造技術で比較したPrimitivoワインのフェノ Uncharted Waters ・ボトルドウオーター ール化合物含有量と抗酸化活性 ………………………………………… S8〜S9 Phenolic Content and Antioxidant Activity of ・エネルギー飲料 Primitivo Wine: Comparison among Winemaking Filling A Need-State Technologies ……………………………………… S10〜S11 A.Baiano et al. ・RTD茶 …………………………………… C258〜C267 Fresh Brews ○グルテンフリーフランスパンの処方の最適化 ……………………………………… S14〜S15 Optimization of Gluten-Free Formulations for ・機能性飲料 French-Style Breads Liquid First Aid S.Mezaize et al. ……………………………………… S18〜S19 …………………………………… E140〜E146 ・ビール ○脱カフェインした緑茶の官能特性と消費者の受容 Cheer to Beer Sensory Characteristics and Consumer ……………………………………… S20〜S22 Acceptability of Decaffeinated Green Teas ・ワイン,スピリッツ S.M.Lee et al.… ………………………… S135〜S141 Raise A Glass ○調理法が野菜の抗酸化活性に与える影響 ……………………………………… S23〜S24 Influence of Cooking Methods on Antioxidant ○健康増進素材を用いた飲料 Activity of Vegetables The Antioxidant Boom A.M.Jiménez-Monreal et al.… ………… H97〜H103 H.Landi… ………………………………………… 72, 74 ○バイオプラスチックを用いた飲料容器 Food Processing(U.S.A.)Vol.70 Apr.(2009) Bottling Nature ○2009年,北アメリカの食品企業の設備投資調査 A.Kaplan… ………………………………………76〜77 The Cookie Crumbles M.Weil… …………………………………… 18〜20, 22 Packaging Digest(U.S.A.)Vol.46 Apr.(2009) ○将来有望な3つの新技術 ○環境に優しいパッケージに関する消費者調査 March of the New Machines It’s Sustainable? So What? B.Sperber and D.Fusaro…………………………41〜43 E.Raymond… ……………………………………40〜42 食品と容器 374 2009 VOL. 50 NO. 6 ・パン三種(自分でトーストするパン二種,クロ 野菜・果物を巡って アッサン),マーマレード,いちごジャム,ブラ ックベリージャム・チーズ二種類,バター (第六話) ロンドンで味わった 野菜料理 ・メインディッシュ…卵料理三種類(スクランブ ルエッグ,ベークドエッグ,ボイルドエッグ), スライスマッシュルームのソテー,白いんげんの トマト風味煮,ベークドトマト(1ヶ 120g程度 吉田 企世子 の丸のまま) (女子栄養大学名誉教授) ・飲み物(牛乳,オレンジジュース,アップルジ ュース,イングリシティー,コーヒー,チョコレ 6月号はロンドンから届けることになった。実 ートなど) は4月初旬から6週間の予定で再びロンドンに滞 緑色の野菜が何もないのが少々不満ではあった 在することになったのである。7月を予定してい が,トマトは現在緑黄色野菜に分類されているの たがその時期は私的な用件が重なり,訪英が困難 で,これで120gが摂取できることになる。しかし, と予想されたので,思い切ってこの時期を選んだ。 昼食,夕食を外食でとると野菜の摂取が困難であ 語学力を深めること,市販の野菜,果物その他の る。その上安価ではないのであまり満足できない。 食品について調査することなどが目的ではあるが, 時にはサラダと飲み物だけの昼食にしたが,一皿 英国の雰囲気に再び接したかったのが本音でもあ の量が多いので,この場合には150g程度の野菜が る。 摂取できる。しかしサラダのドレッシングに使用 この季節のロンドンは色とりどりの花と萌え出 される油の量が多いので,カロリーも多くなって た新緑が美しく,真から心がなごむ環境である。 いる。若い女性がダイエットを意識してサラダを ヒースロー空港から宿に着くまでの風景にホッと メインに食べているところをしばしば目にするが, するものを感じた。来英した頃は肌寒い気温の日 このドレッシングでは?と気になってしまう。あ が多かったが,4月末の現在は陽が差すと夏日と るカフェーでのサラダは次のような内容であった。 いう感じである。しかし一日の中に四季があるよ レタス,サニーレタス,パプリカ,ピーマン, うな天候で,早朝が5℃,日中が21℃ということ ゴーダーチーズ,ローストしたとり肉の細切りな があり,着る物のコントロールを上手にしないと ど。150g〜180gという量で7ポンド(980〜1000 快適に過ごせない。行き交う人の服装も厚手のコ 円)であった。 ートあり,ノースリーブありと多様であるが,お 前回住んでいたフラット(日本のマンション又 互に他人を全く気にしないところが日本とはかな はアパート)の近くにフランス人が経営するカフ り異なる。ロンドンの中心街に出掛ければあらゆ ェーがあり,そこの味と価格が気に入ったのでよ る国の人々を目にすることができ,服装も更に多 く利用した。今回も顔なじみのオーナーと会い好 様である。移住民やツーリストの多い国であるこ みのメニューを注文したが,以前と同じ内容が嬉 とを実感する。イギリス経済はこのようなツーリ しかった。そこのサラダは何種類もの野菜が用い ストにかなり支えられている感じがする。 られている。すべてをミックスするのではなく, 20日間ほど朝食つきのホテルに滞在したが,次 野菜とドレッシングの内容の異なるものを盛り合 のようなメニューで毎朝全く同じ内容であった。 わせている。例えば次のような内容である。 勿論セルフサービスである。 にんじんせん切りのマヨネーズソース和え,な ・シリアル四種類(コーンフレークス二種,大麦 すを炒めてフレンチドレッシングで和える。クス レーズン,スライスナッツ入りのフレークス,米 クス(穀物の一種)に小さな角切りの黄ピーマン, のフレークス) パプリカ,さいの目切りのきうりを混ぜてドレッ 食品と容器 375 2009 VOL. 50 NO. 6 シングで和える。大小混合した白いんげん豆のド パースニップという野菜も日本ではあまり目に レッシング和え,ソフトチーズの角切り,ビーツ しないが,こちらではごく一般的な野菜の一つで の甘酢づけ,これらがレタスを敷いた器に美しく ある。外形は太めのにんじんのようで色は淡い黄 盛り合わせてある。全体で200g弱の野菜となる。 白色である。歯ごたえはごぼうに似ているがにん 残念なのはここのドレッシングも油が多めで,若 じんのような甘味がある。煮込み料理に多く用い 者にはよいが高齢者向きではない。しかし,こち られるが,細切りでマヨネーズで和え,サラダと らの高齢者はこの程度の油の使い方には抵抗がな しても用いられている。 いようである。 先日,昨年お世話になった大家さんがお昼に招 ロケット菜と呼ばれる西洋ほうれん草に似た葉 待して下さったので伺った。彼女は典型的なイギ 形で葉脈が紅色をした野菜がカフェーではよく用 リス婦人であるが,日常の食事で用いる野菜は多 いられている。この野菜とほうれん草の葉,ちぎ くはない。しかし,此の度は私を意識してか野菜 ったレタスなどがミックスされたポリ袋入りのも を多く添えたローストチキンが用意されていた, のを,スーパーマーケットで多く見掛ける。こち とはいえ,非常にシンプルな料理でグリーンアス らのほうれん草は葉の部分だけがポリ袋入りで売 パラガスを蒸して,熱い内にバターを混ぜたもの, られていて,根がついているのはほとんど見掛け いんげんとグリンピースを蒸して同様にバターを ない。ファーマーズマーケットでは根つきも扱っ 加えたもの,小粒の新じゃがをソテーにしたもの, ている。 いずれもごく薄い塩味だけで自分で適宜に塩,こ 日本ではほとんど見ることのない野菜で,スプ しょうで味を補うという食べ方をする。久しぶり リンググリーンと呼ばれる葉菜が大変味が良い。 にたっぷりの野菜を頂いた。ちなみに,この時は 葉形はブロッコリーの葉に似ているが軽く結球し 食前酒がつき,食事に白ワインがついて,食後は ている。一見硬そうなのであるが,3分弱ゆでる 甘いデザート(市販品)とコーヒーという内容で と丁度よい歯ごたえとなり,甘味があって見かけ あった。 とはかなり異なる。細切りにしてかつお節をかけ, 現在,ホームスティをしているが,朝食と夕食 しょうゆ味で味わうと大変おいしい。しかしこち は奥様が作ってくれる。しかし,全体的に野菜は らでは煮込み料理に用いられるのが主である。イ 少なく,カロリーオーバーという感じである。彼 ギリスの食品成分表によるとスプリンググリーン 女も大学生の息子も肥満気味である。 はビタミンC,カロテン,カリウム,カルシウム 日本人の食生活は個々には問題があるものの平 が多い。 均的に大変良好であることを感じる此の頃である。 今年のGWは比較的天候にも恵ま れ,特にETC(高速道路:どこま で行っても1000円)を利用し,自 家用車で行楽地や故郷に行かれた 方が多かった様で,大渋滞に巻き 込まれた方もおられると思います。 各地からは祭りやイベントの便 りも多く聞かれました。東京では当会界隈の日本三大 祭の一つに讃えられる神田祭が大々的に行われ盛況だ った様です。また原宿ではH&MやFOREVER21等の海 外格安ブランド品を求める人や定番の竹下通りの若者 などで大混雑し,駅のホームからも人が溢れ,山手線 も徐行運転をしていました。 新型インフルエンザの報道が毎日行われていますが, 成田空港では大型連休をこれから海外で過ごす人,帰 国した人でごった返していました。国民性と思います が,日本人のマスク着用者が機内や海外の空港で数多 く見られ,ちょっと異様な雰囲気でした。 (一) 食品と容器 376 食 品 と 容 器 第 50 巻 第 6号 FOOD & PACKAGING 平成21年6月 1 日発行 発行所 缶 定 価 1部 800円 年間 8,000円 (送 料 共) −禁無断転載− 詰 技 術 研 究 会 〒103−0002 東京都中央区日本橋馬喰町1−8−4 TEL 0 3( 3 6 6 3 )7 2 5 1 FAX 0 3( 3 6 6 3 )7 2 5 3 Eメール:kangiken@kangiken.net 郵便振替 0 0 1 5 0 −0− 4 2 2 1 5 編 集 人 発 行 人 印刷所 飯 十 塚 時 秀 正 夫 義 大和サービス株式会社 乱丁・落丁本はお取り替えいたします。 2009 VOL. 50 NO. 6
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