原 著 北里医学 2013; 43: 51-59 大学病院における医療秘書の有用性に関する研究 ─電子カルテ化における対応─ 岡本 牧人1,佐野 肇1,天川 久子2,大谷 真美2,野崎 祐子2, 山城 留美子2,坂井 かおる3,笹岡 政子4,中山 明仁1 北里大学医学部耳鼻咽喉科学 北里大学病院看護部 3 北里大学病院事務部 4 北里大学病院耳鼻咽喉科 1 2 目的: 電子カルテ化に伴い医療者に増えた負担を医療秘書の導入で減らせるか,カルテ入力漏れ防 止や診療時間短縮に有用か。経済的効果はあるかについて検討した。 方法: 医師に対し医療秘書導入前後で医療秘書および外来診療に関してアンケート調査を施行した。 医療秘書による補助件数,補助時間,およびそれらの保険請求点数を検討した。診察時間および残 業時間を医療秘書導入前後で計測した。 結果: 医師が負担と感じているのは生命保険等の診断書記入,検査・処置の実施入力であった。医 療秘書の補助で多かったのは病名入力補助と検査・処置入力であった。検査・処置の入力漏れは 27%と推測された。診療介助として医師から高評価を受けた。看護師,事務の補助も一部行った。 残業時間が減少した。 結論: パートタイム雇用でも補助は有効で,導入の効果はオーダや病名入力漏れの減少による経済 効果,医師の診療時間短縮や業務の軽減,看護師,受付事務の残業時間の短縮に現れた。効果を上 げるには医療秘書の熟練とコミュニケーション能力および固定した職場配置が重要と思われた。 Key words: 電子カルテ,診療時間短縮,診療報酬請求漏れ防止,残業時間減少,費用対効果 となっていて大学病院の医師不足という構図は改善さ れないままである。 北里大学病院耳鼻咽喉科外来は初診外来と再診外来 および専門外来 (原則再診患者) に分かれている。初診 外来は純粋の初診患者のほか予約外に受診した患者を 担当する。初診患者は病歴聴取や各種検査オーダ等で 一般的に再診外来より時間を要する。これまで,再診 外来において医療事務作業補助者の導入により,医師 の診察終了時間が31分ないし51分短縮したことを報告 した1。これを受けて初診外来でも同様の試みをしたと ころ処置入力件数が約50%増加したことを報告した2。 今回は,カルテの電子化に伴い増えた負担に対して医 療秘書を導入した際の効用について医師へのアンケー トを含めて検討した。 序 文 診療におけるコンピュータの導入はさまざまのメ リットがある反面,入力の手間など医療者にとっては 患者対応に割く以外の時間が増加するため必ずしも喜 ばれてはいない。電子カルテはカルテの一部という理 由から,すべてを医師が入力すべきという考えもある が現実的に不可能であり,一部の入力を医師の指導の 元に他者が代行することは一般的に行われている。た だ,代行の範囲を巡っていろいろの考えがあり完全に コンセンサスを得られているわけではない。何か問題 があるたびにできる限り医師が入力をという方向に戻 ることが繰り返される。代行作業に携わる職種として 平成20年4月に医療事務作業補助者の導入が診療報酬 請求項目に加えられた。しかし,同職種は特定機能病 院においては認められず,大学病院では相変わらずで きるだけ医師に入力をさせるという方向が続いてい る。そのため大学病院勤務医の負担は相変わらず大き く,消耗した結果,一般病院や開業へシフトする要因 対象と方法 今回検討に参加した医療秘書は以前に当院医事課に 勤務した経験があり,耳鼻咽喉科の受付を担当したこ Received 31 January 2013, accepted 25 February 2013 連絡先: 岡本牧人 (北里大学医学部耳鼻咽喉科学) 〒252-0374 神奈川県相模原市南区北里1-15-1 E-mail: okamotom@med.kitasato-u.ac.jp 51 岡本 牧人,他 ともある。前回の医療秘書とは別人である。今回本人 の午前のみ勤務という希望を受けて,パートタイム勤 務の有効性や成果を合わせて検討することとした。9時 から12時 (最大13時まで延長) までの3時間 (最大4時間) の補助を行った。医療秘書は平成2 4年6 月より雇用 し,訓練期間3か月の後,同年9月1か月間の補助業務 を計測した。導入前の同年4月,5月を対照期間とし た。検討項目を以下に示す。 1. 医療秘書導入前の現状把握のために,17名の医師に 対し外来診療で施行する主な耳鼻咽喉科検査・処置 (詳細は表1に記載) の施行頻度,施行した際の入力状 況,入力しない場合その理由と入力を増やす策をア ンケート調査した。 2. 医療秘書導入前に,主な業務の中で医師が入力等で 負担を感じている項目や医療秘書に補助を希望する 項目をアンケート調査した。導入後,実際に補助を 受けた項目や,補助が有用と感じた項目,補助を受 けなかったが今後補助を希望する項目,および補助 が不要な項目を調査した。 3. 導入後,医療秘書の必要性やあり方,秘書の能力や 医師との関係の変化について医師にアンケート調査 した。 方法1-3については匿名でアンケートを行った。ア ンケートの内容によって業務上不利になることはな い旨,文章および口頭で通知した。ただし経験年数 群で公表することをあらかじめ説明し,全員より了 解を得た。 4. 外来診療業務のうち医療秘書が補助できるものを, ①ファイバースコープ検査入力,②その他の検査・ 処置入力,③手術関係入力,④カルテ等入力整理, ⑤看護補助,⑥事務補助・その他,の6項目に分け て,平成24年9月1か月間の補助件数及び保険請求で きるものでは入力した請求点数合計を,また,補助 に要した総時間数を検討した。ファイバースコープ 検査は検査項目の一つであるが,件数が多く,かつ 入力漏れが生じやすいので一項目として取り上げ た。補助に要する時間は個々の行為に要する所要時 間を3回計測し,その平均時間を以て個々の所要時 間とし,件数を乗じて算出した。 5. 検査・処置のうち主なものを導入前 (5月) と導入後 (9月) で比較検討した。 6. 外来の診察時間 (開始時間,終了時間,診察時間, 12時までの診察患者数,12時以降の患者数,平均診 察時間) を医療秘書導入前後で計測した。 7. 以前の研究1で,再診外来では再診予約と再診時聴力 検査の予約を補助するのが有用と報告したが,難聴 専門外来 (木曜午後) で終了時間の遅い医師1名への 入力補助を行い,有効性を再検討した。また,受付, 看護師の残業の有無について調査した。受付,看護 師の個人情報を利用することを各人に了承を得た。 結 果 1. 導入前医師アンケート調査 (表1,2) アンケート調査した日常の診療行為を施行回数の多 寡によって分類した。施行回数が多かったのはファイ バースコープ検査や平衡機能検査など16件,中くらい なのは15件,少なかったのは16件,無いかほとんど無 いのは25件であった。頻度別にどの程度入力している かについては66.1%が80%以上を入力しており,4079%入力しているは25.8%,40%未満の入力に留まって いるは8.1%に過ぎなかった。このことは,施行頻度に 関わらず医師が自分で入力する状況は比較的高かった が,100%入力という点からはまだ入力漏れがあった。 入力しない理由としては, 「忙しくて,つい忘れた」 が174件と圧倒的に多く,ついで「入力が面倒」が29 件であった。 入力を増やす策としては, 「検査・処置入力補助」が 328件と多く,次いで「病名入力補助」が192件と多 かった。「カルテ記載補助」は73件であった。 2. 導入前医師アンケート調査2 (表3) 医師が日常業務において入力等に負担を感じている 項目で多かったのは,①生命保険診断書,②説明承諾 書,③病院診断書,④処置・検査入力,⑤再診時診察 前検査入力,であった。補助を希望する項目で多かっ たのは,①生命保険診断書,②処置・検査入力,③再 診時診察前検査入力,であった。 導入後,実際に医療秘書の補助を多く受けたと感じ たのは,①病名入力補助,②処置・検査入力,③カル テ入力補助,であった。これらは補助が有用であった という意見が多かった。また,今後補助して欲しい項 目で多かったのは,①紹介状返信補助,②再診予約入 力,③再診時検査予約入力,であった。ただ,紹介状 返信補助は補助不要という意見も同数あった。 3. 導入後医師アンケート調査 導入後アンケートでは, 「医療秘書の必要性」につい て15名の医師が必要,2名の医師が不要と答えた。不 要とした2名は経験年数5年から14年の中堅医師であっ た。 「医療秘書対医師数1対1の必要性」では,1対1の希 望が6名,今回のトライアルと同じ1対2〜3名の希望が 9名,不要が2名であった。また, 「3か月間の訓練期間 後医療秘書の技術やコミュニケーションの向上があっ たか」については,あったが15名,変わらず元から良 かったが2名であった。 「今後の雇用」について,公費 負担 (病院負担,当科負担を含む) なら良いが15名,自 費でも雇用したいが1名,雇用不要だが他の医師が必要 なら雇用しても良いが1名であった。 52 電子カルテ化における医療秘書の有用性 表1. 医師に対するアンケート調査 (導入前) 耳鼻咽喉科の検査・処置のうち,初診外来で各医師が施行する回数の多寡と施行した場合の入力状況を調査 (表中数字: 項 目数)。例: 施行頻度「多」の項目で施行後医師自らが80%以上入力すると回答した延べ項目数が92項目あった。 医師による入力の現状 (延べ項目数) 施行状況 項目数 多 (毎日1回以上) 中 (月に数件以上) 少 (年に数件) 無 (ほとんど施行しない) 16 15 16 25 >80% 40〜79% <40% 92 58 46 50 32 17 22 25 12 11 5 2 66.1% 25.8% 8.1% 多: 施行頻度が多い (毎日1回以上) 16項目 喉頭ファイバースコープ検査,鼻・上咽頭ファイバースコープ検査,耳処置,耳垢塞栓除去,頭位 (変換) 眼振検査,鼻処 置,平衡機能標準検査,鼓膜切開,術後創傷処置,鼻出血止血,チンパノメトリー,鼓膜穿刺,イオントフォレーゼ,扁 桃周囲膿瘍穿刺,扁桃周囲膿瘍切開,視標追跡検査 中: 施行頻度が中くらい (月に数件以上) の15項目 副鼻腔術後処置,創傷処置,気管カニューレ交換,ネブライザー,耳小骨筋反射,上咽頭生検,中咽頭生検,静脈性嗅覚 検査,鼓膜チューブ挿入術,副鼻腔自然口開大処置,リンパ節針生検,中耳ファイバースコープ検査,内視鏡下嚥下機能 検査,口生検,迷路ろう孔症状検査 少: 施行頻度が少ない (年に数件) 16項目 口腔・咽頭処置,簡易聴力検査,耳管処置,鼓室処置,補聴器適合検査,鼻腔通気度検査,副鼻腔洗浄,咽頭異物摘出術, 副鼻腔生検,外耳道異物除去術,鼻内異物除去,下甲介粘膜焼灼術,鼻茸摘出術,甲状腺針生検,喉頭生検,摂食機能療 法 無: ほとんど施行しない25項目 上咽頭腫瘍摘出術,耳茸摘出術,中耳肉芽除去術,鼓膜穿孔閉鎖術,下甲介切除術,鼻良性腫瘍切除術,鼻骨骨折整復術, 上顎洞穿刺術,扁桃処置,唾石摘出術,食道ブジ―,声帯ポリープ切除術,耳生検,気管支ファイバースコープ検査,食 道ファイバースコープ検査,ガマ腫摘出術,中咽頭腫瘍摘出術,下咽頭腫瘍摘出術,喉頭膿瘍切開術,気管異物除去術, 気管内挿菅,食道異物除去術,鼻汁中好酸球検査,中耳機能検査,喉頭ストロボスコピー 表2. 医師アンケート (導入前) ・検査・処置をしても入力しない理由 1: うっかり (忙しくて,つい忘れた) 2: 入力が面倒 3: 主訴と別 4: 医療行為が請求できると思わなかった 5: 診察料が高くなる 174件 29件 9件 8件 5件 ・入力率を増やすために秘書または看護師に補助して欲しい項目やその他の策 1: 検査・処置入力の補助 328件 2: 病名入力の補助 192件 3: カルテへの記載の補助 73件 4: 検査・処置の説明 4件 5: その他自由記載 (患者基本情報の更新忘れチェック,デジカメ,ファイバース コープ写真の貼付,CTなど画像検査の予約,MRIは検査日をオーダ医が決めら れないので検査後の予約入力が二度手間になるのを秘書に入れて欲しい,手術 申込みの入力補助) 53 岡本 牧人,他 表3. 医師に対するアンケート調査 (導入前後) 主な作業のうち,医療秘書導入前に医師が入力を負担と感じている項目 (負担) と補助を希望する項目 (補助希望) を調 査した。経験年数で0〜4年,5〜14年,15年以上に分けてまとめた。表中数値は医師数を示す。 導入後,同項目で実際に補助を受けた項目 (補助),補助が有用であった項目 (有用),補助を受けなかったが今後補助を 希望する項目 (補助希望),補助は不要の項目 (補助不要) を調査した。 導入前 耳鼻科経験年数 導入後 0〜4年 5〜14年 15年以上 合計 0〜4年 5〜14年 合計 15年以上 業務 (行為) 補 負 助 負 担 希 担 望 補 補 補 助 負 助 負 助 希 担 希 担 希 望 望 望 補 補 有 助 助 用 希 望 補 補 助 補 有 助 不 助 用 希 要 望 補 補 助 補 有 助 不 助 用 希 要 望 補 補 助 補 有 助 不 助 用 希 要 望 補 助 不 要 生命保険等診断書 説明承諾書 病院診断書 処置・検査入力 再診時診察前検査入力 カルテ記入 院内紹介 紹介状返信 逆紹介依頼 再診予約 院内紹介返信 病名入力 5 5 3 5 4 4 2 5 2 3 2 3 5 2 2 1 2 0 0 0 0 2 0 1 3 4 3 6 2 4 0 0 0 3 0 8 1 0 0 0 1 0 1 2 1 1 2 0 0 0 0 0 0 0 2 0 2 1 1 0 1 0 1 0 0 0 1 1 1 0 1 0 2 0 1 0 1 0 4 3 4 2 4 0 4 1 4 3 1 0 0 1 0 1 0 2 4 4 4 1 3 2 2 1 1 1 1 0 5 4 5 5 4 4 5 2 4 2 3 4 3 2 1 4 4 2 0 0 0 2 0 0 14 12 13 1 12 7 11 8 11 7 10 2 9 0 8 1 7 0 6 1 6 0 7 3 3 4 4 6 2 5 0 0 0 2 0 6 1 0 1 0 1 1 2 2 2 1 2 0 2 2 3 5 2 4 1 2 1 1 2 8 1 3 2 4 1 3 1 1 1 1 1 6 2 2 1 0 2 0 1 2 1 2 1 0 4 1 2 5 2 2 1 1 0 2 0 5 1 1 0 3 1 2 0 1 0 2 0 1 0 1 0 0 1 0 0 0 0 1 0 0 9 5 7 8 8 6 16 13 6 4 10 10 2 1 3 2 1 1 6 5 2 1 21 13 3 3 2 0 4 1 3 4 3 4 3 0 自由記載の意見 (順不同) ・診療報酬請求事務経験がある人なので何でもできていますが,他の人ならどうなのか。 ・医療秘書は必要。 ・看護師が介助できないことが多いので,代わりに出来る仕事 (鼓膜切開準備やファイバーの準備) をしてもらえると助か る。 ・初診の患者数,診察の滞り具合を見て,そのブースに入って行くと患者の待ち時間も短縮するので,今後もトライアル 導入を科として考えても良いと思う。 ・処置や病名入力が自分と秘書で重複することがあり,かえってタイムロスになることがあった。1対1ならそういうこと が無いと思う。 ・レセプトチェック補助や診断書では大いに助かった。 表4. 補助内容と件数 補助内容 件数 所要時間 (分) 請求点数 ファイバースコープ入力 その他の検査・処置入力 手術関係入力 カルテ等入力整理 看護補助業務 事務補助・その他 合計 202 198 30 662 441 115 1,648 52.0 67.1 19.8 655.6 134.2 24.5 953 121,960 26,980 27,860 176,800 その他の内容: 医師の補助として医師PHS応対,検査オーダの変更・修正,処 方変更,入院予約修正,CD-ROMセッティング,画面上の連絡事項 (付箋) 入 力,ジェネリック薬品の種類・薬効の一覧提示,他院XP・CD-ROM預り書類 記入などいずれも医師の指示・指導のもとに行ったもの。 54 電子カルテ化における医療秘書の有用性 表5. 導入前後の処置件数と導入後の補助の実態 5月総件数 9月総件数 アシスト件数 アシスト入力割合 保険点数 喉頭ファイバー 副鼻腔ファイバー めまい1 めまい2 めまい3 耳垢 細菌検査 中耳ファイバー 生検 鼓室処置 副鼻腔自然口開大 気管カニューレ交換 その他 153 77 10 24 15 21 19 2 6 0 2 6 459 167 49 33 33 33 30 27 9 10 8 7 8 409 145 43 30 30 30 24 11 9 8 7 6 6 56 86.8% 87.8% 90.9% 90.9% 90.9% 80.0% 40.7% 100.0% 80.0% 87.5% 85.7% 75.0% 13.7% 87,000 25,800 600 4,200 3,600 3,600 1,540 2,160 4,200 385 150 5,400 38,165 合計 808 833 425 51.0% 176,800 初診患者数 897 675 9月の件数割合 で補正した場合 の5月の件数 5月の件数割合 で補正した場合 の9月の件数 808 1,107 299 833 608 -225 実数 補正値 差 表6. 医療秘書導入前後の初診外来の診察時間 前期集計: 4月7日から5月31日まで 月 開始時間 (時:分) 終了時間 (時:分) 診察時間 (時:分) 最短終了 (時:分) 最長終了 (時:分) 12時までの患者数 (人) 12時以降の患者数 (人) 合計患者数 (人) 平均診察時間 (分:秒) 8:59 13:39 4:40 13:11 14:06 30.2 12.0 41.9 20:06 火 水 木 金 合計 (平均*) 8:49 13:46 4:57 12:45 16:26 32.5 16.2 44.3 20:09 8:59 14:14 5:14 12:53 15:43 23.0 14.0 36.0 26:14 8:50 13:58 5:08 13:05 15:06 28.0 15.2 39.6 23:23 8:53 13:40 4:47 12:40 14:23 24.3 12.5 33.7 25:35 8:54* 13:51* 4:56* 11:50* 17:45* 120.2 55.2 175.4 25:23* 水 木 金 合計 8:50 13:15 4:25 12:30 14:10 19.5 8.8 26.3 30:17 8:47 13:26 4:38 3:20 15:10 26.8 10.5 34.5 24:14 8:47 12:49 4:02 13:20 13:18 16.3 6.5 20.8 35:03 8:49* 13:11* 4:21* 11:41* 17:45* 132.3 36.5 168.8 23:13* 後期集計: 9月3日から9月28日まで 月 火 開始時間 (時:分) 終了時間 (時:分) 診察時間 (時:分) 最短終了 (時:分) 最長終了 (時:分) 12時までの患者数 (人) 12時以降の患者数 (人) 合計患者数 (人) 平均診察時間 (分:秒) 8:55 13:37 4:42 11:41 15:20 24.0 11.7 30.3 27:59 8:50 12:41 3:50 12:45 13:28 31.3 8.3 36.8 18:51 55 岡本 牧人,他 4. 補助のまとめ (表4) 医療秘書による6項目の補助内容のうち,件数がもっ とも多かったのはカルテ等入力整理662件であった。 その内訳は病名入力補助442件,ファイバースコープ 写真の貼付作業100件,再診予約入力46件,説明同意 書入力補助41件などが多かった。所要時間は655.6分 (約 11時間) であった。 次いで多かったのはファイバースコープ検査入力で あり,件数は202件,保険請求点数は121,960点,入力 所要時間は52.0分であった。それ以外の検査・処置は 198件,27,363点,67.1分,手術は30件,27,860点, 1 9 . 8 分であった。医療秘書が入力した点数は総計 176,800点であった。この期間の医療秘書への報酬は 80,000円であり,入力した診療報酬請求額の4.5%に過 ぎなかった。 看護業務補助の内容は診療介助 (頭持ちなど),患者 振分け (初診医3名へのコンピュータ画面上での振分 け),患者誘導・説明,ファイバースコープ洗浄等で, 全所要時間は134.2分であった。 また,事務補助・その他は115件,24.5分であった。 内容は事務が行う患者への説明の補助,予約や処方内 容変更希望者への対応等であったが,内容のバラつき が多く,実際には時間の計測が難しかった。 6. 診療時間 (表6) 導入前後で診療開始時間は5分早まり,診察終了時間 は40分早まった。ただし,導入前に比べ総患者数は1 週間あたり6.6人減少していた。 平均診察時間は25分23秒から23分13秒に患者1人当 たり2分10秒短縮した。12時までの診察患者数は1週間 あたり12.1人,1日当たり2.4人,医師1人当たり0.8人増 加した。 7. 難聴専門外来の補助効果 (表7) 難聴外来の当該医師の診察終了時間は補助前 (4月) に 比べ補助後は患者数が1.7人増えているにもかかわらず 24〜26分短縮した。患者1人当たりの診察時間では1分 13秒の短縮であった。当該医師は診療が大変楽になっ て気持の余裕が出来たという感想であった。難聴外来 担当の他医師は,導入後診療後に行われるカンファレ ンスの開始時間が早くなったという感想であった。 受付事務の木曜の残業時間は補助前には毎回3人全員 が残業し,1日の残業時間総数は平均5.0時間であっ た。補助後は1回当たり1.3人が残業し,1日の残業時間 総数は平均1.4時間であった。看護師の残業は補助前は 毎回1名で残業時間は平均1.1時間であったが,補助後 は人数は1名で変化なかったが,残業時間は0.52時間に 減少した。ちなみに看護師の昨年同期の残業時間は1.4 時間であり,やはり大幅な減少であった。 5. 導入前 (5月) と導入後 (9月) の補助の比較 (表5) 検査・処置等保険請求できる行為のうち主なものを 導入前後で検討するとレセプト全体で請求された件数 (初診患者のみ) は5月の808件に対し9月は833件と25件 増加した。しかし,9月は5月より初診患者数が減少し ており9月の入力割合を5月の初診患者数に当てはめる と1,107件となり実際との差は299件である。逆に,5月 の入力割合を9月の初診患者数に当てはめると608件と なり,その差は225件である。この差が医療秘書によ る入力漏れの防止件数であり,27.0% (299/1,107),保険 点数で約5万点に相当する。 また,外来レセプトの査定率は5月の1.23%から9月 は0.53%に減少した。内訳は検査の査定減であった。 考 察 平成20年より診療報酬請求上導入された医療事務作 業補助者は一般病院ではそれなりに活用されている が,特定機能病院では認められていない。しかし, 我々は特定機能病院でも医療事務作業補助者が医師や 看護師の負担軽減に有用であることをこれまでも報告 してきた1,2。今回は当院での電子カルテ化に伴う医師 や看護師の負担減に医療秘書が有用かという観点で検 討した。カルテ記載は医療事務作業補助者の作業内容 の一つである3が,もともと医学的知識が要求される仕 事であり,電子カルテ化で直接文章や図を入力するの は医師でないと難しい。単に研修を受けただけでは難 表7. 医療秘書導入前後の難聴外来の診察終了時間 平均終了時間 (時:分:秒) 最長終了時間 (時:分) 最短終了時間 (時:分) 平均診察時間 (時:分:秒) 1人当たり診察時間 (分:秒) 平均患者数 (人) 導入前 導入後 差 (分秒) 16:45:32 17:04 16:25 3:45:32 10:21 22.0 16:21:16 16:38 16:00 3:21:23 09:08 23.7 24:16 25:56 25:02 24:09 01:13 1.7人 56 電子カルテ化における医療秘書の有用性 しい。また,説明承諾書や種々の診断書は使用頻度が 比較的少ないので,電子カルテシステムのどこに収納 されているかを探す作業から始まり,診療時間が延長 する要因となる。システムに精通している医療事務作 業補助者がいると診療時間の短縮につながる。さらに 当院の説明承諾書は一部手書き (またはキーボード) 入 力が必要なところがあり,印刷までしておいてもらう と診療時間はより短縮する。ファイバースコープ検査 で撮影した写真も台紙へ貼付してスキャンする方式の ため,台紙の印刷,貼付という作業にも時間を要す る。このほか,使用頻度の少ない検査・処置・手術は その項目を画面から探索するのに時間がかかるだけで なく,使用した薬剤 (種類や量) の入力も面倒なので多 くの医師が入力の補助を期待している。瀬戸ら4は電子 カルテ導入の有無による医師の間接的業務時間を比較 したが,文書作成以外では電子カルテ化で時間が延長 している。とくにオーダリング関係が大きく時間を消 費している。このことからは業務をうまく分担するこ とが医療事務作業補助者導入の効果を上げるポイント の一つといえる。 本論文では医療事務作業補助者を医療秘書とした が,医療事務作業補助者の名称および所属は施設に よってさまざまである3。名称によって業務内容を厳密 に規定した文献もあるが5,多くは病院ごとに従来から の呼称を優先しているようである。実は当院にも数年 来,病院として雇用された診療アシスタントがいる。 診療アシスタントは全科に配属されるため,同一者が 曜日によって配属先が異なり,仕事内容も異なるため 本人たちにとってもまた我々にとっても有効には機能 できなかった。とくに,より根本的問題と思われる が,診療アシスタントの所属を看護部門としたため医 師に対する補助が十分とは言えず,一方で看護助手と の業務の分担もあいまいな部分があった。一般の病院 では事務部門に所属していることが多いようである し,そもそも医療事務作業補助者がやってはならない 業務の一つが看護業務の補助であることからすると看 護部門所属は適当ではない。今回の調査に参加した医 療秘書は当科の研究費で雇用されたものであり,この ような形態は10.3%に過ぎない3。ただし,本論文にお ける医療秘書は,いわゆる医局の雑務を担当する医局 秘書とは異なり,あくまでも医療事務作業補助者とし て業務を行う職種である。報酬は当科の研究費から支 払われたが,保険請求の対象となる補助だけでも1か月 に補助した点数の4.5%に過ぎなかった。実際には保険 請求に反映されない補助 (たとえば残業時間の短縮な ど) の貢献も大きいので,科の雇用 (私的) ではなく病 院として積極的に雇用 (公的) を考慮するのが良いと思 われた。雇用形態はパートタイムであったが,非常勤 であっても終日雇用となると補助が必要でない時間帯 が出てきてしまうので,かえって効率は悪くなる。こ ういう職種では子育てなどで子供が学校や幼稚園に 行っている時間帯だけの勤務を希望する人も少なくな いので,双方にニーズはあると思われる。むしろ重要 なのはパートタイマーの能力と人柄である。数か月の 試用期間で教育を行い,職場環境,業務の把握,人間 関係を見て,採用を決定するのが良いと思われた。と くに教育については病院としてシステム作りが必要で ある6し,業務分担のマニュアル作りも必要である。 さて,診療の遂行に当たって医師はさまざまな行為 を実行しなければならないが,医師にとっての優先順 位は面接・診察を含めた患者対応がもっとも重要で, 良し悪しや是非はともかく,行為の記録や入力はもっ ともおろそかになりやすい。入力頻度の少ない検査・ 処置・手術は画面上から探すのに時間がかかるので入 力率が悪いのではないかと考えて,頻度別の入力率を 調査した (表1) が,今回の調査では頻度による差はな く,たまにしか行わない医療行為も意外と入力されて いることがわかった。しかし,件数で225件,27%, 保険点数で約5万点分の入力漏れがなお存在する可能性 があった。これは前回の調査2よりは改善しているが 100%入力という点からはまだほど遠い。これを医療秘 書が補助入力してくれると医師としては医療行為によ り集中できるし,病院としても請求漏れが減少するの で助かる。実際,導入前の5月と9月を比べると,初診 患者数は5月の897人から9月の675人へ大幅に減ってい るにもかかわらず件数は25件増加している。9月の処 置・検査実施率を5月の患者数で補正すると1,107件と なり,その差は299件となり,27%請求漏れの可能性が 考えられる。医療秘書の報酬が入力点数の4.5%であっ たことを考えれば,今後もう少し組織的な配置・対策 が望まれる。 医療秘書導入前調査では他の病院と同様7,生命保険 診断書の補助希望がもっとも多かったが,その後,当 院では院内の別組織で生命保険診断書の記入補助が開 始されたため,当科の医療秘書による実際の補助は数 件にとどまった。また,紹介状の返事は内容が医学的 であること,および多くは当日全診療の終了後 (医療秘 書の帰宅後) に記入されることが多いため補助件数は少 なかった。この補助を進めるには1対1の補助と補助時 間の延長が必要と思われるので今後の検討課題とした い。 導入後の医師の意見として医療秘書の有用性と必要 性は概ね高かった。とくに経験5年未満の医師が補助を 受ける機会が多く,うち1名は自費でも雇用したいと記 載した。次いで指導医クラスの補助希望が多かった。 このクラスはキーボード入力が苦手というより面倒な ために医療秘書に任せたいというのが本音と思われ る。一方,不要という2名の医師は5年目以上の中堅医 師で,キーボード操作や電子カルテ操作が得意である こと,および今回の補助作業が秘書1名に対し医師3名 57 岡本 牧人,他 であったが,もっとも遠い場所で診療していたため, 補助を受ける機会が少なかったことが影響している。 ただ,これらの医師も自分にとっては不要だが,他の 医師のためには必要または居ても良いという意見で あった。これらからは医療秘書も一律に導入する必要 がないことを示唆している。 医療秘書が補助した件数でもっとも多かったのは病 名入力補助であった。紙カルテ時代から病名入力は当 病院では漏れやすい行為の一つであった。ただ,病名 入力は医師の専権事項であるので第三者が行えない行 為である。医療秘書は病名が入力されていない場合, 機会を見計らって医師に質問し入力を代行するという 作業を行った。この作業は医療秘書にとってもっとも 気を遣う作業の一つであったということであった。医 師との関係がうまくいってないと到底できない作業で ある。これが443件ともっとも多い補助行為だったこ とは,この医療秘書が当院外来の医療秘書として成功 している証である。これによって病名漏れ件数が大幅 に改善され,レセプトの査定率の半減に寄与した。 前述したように医療事務作業補助者は本来医師の業 務の補助を担い,看護業務の補助はしてはならない。 しかし,狭い診察室の中で,これは医師の補助,これ は看護師の補助,だから私の仕事です,とか,だから やりません,と言っていたのでは診察が中断されてし まう。今回医療秘書が看護業務として補助した業務は 診療介助,患者振分け,患者誘導・説明,ファイバー スコープ洗浄等であった。当院は特定機能病院で医療 事務作業補助者は認められていないので,医療秘書が 看護業務の補助をしても問題はないが,補助により看 護師の業務負担減になったのは確かである。重要なこ とは医療秘書が補助している間に看護師がどれだけよ り重要な看護を行えたか,また,いかに負担が減った かということであろう。これについては今後報告した いと考えている。今回の調査では看護師の残業時間の 短縮にも寄与しており,医療秘書の導入はいわゆる燃 え尽き症候群の減少にも寄与すると思われる。また, 医療事務作業補助者に看護業務の補助をどの程度認め るかも今後の検討課題である8。 診療時間は医療秘書導入前後で患者1人当たり約2分 10秒の短縮であり,午前中に診察が終わる患者を0.8名 増やせるという計算である。前回の検討1では再診外来 でもほぼ同様の短縮が得られ,午前の外来では医師が 昼御飯を食べられるようになり,また,その診察室を 午後の担当者が13時から使用できるようになった。今 回は午後の難聴外来の補助を検討したが,受付事務の 残業時間は1日当たり5時間から1.4時間に減少し,残業 人数も3人から1.3人に減少した。残業手当の減少も重 要だが,職員の疲弊の減少にも貢献した。当該医師も 診療が楽になったと感じており,看護師,受付事務3者 の消耗の減少に貢献したと思われた。難聴外来にはも う1名,診療終了時間が遅い医師がいる。この医師は非 常勤で他病院の午前の外来を終えてから来院するため 診療開始が遅いこともあるが,システムに不慣れなこ ともあるので,今後補助を行えば難聴外来自体の終了 時間がさらに短縮する可能性がある。このように医療 秘書は目的やターゲットを絞って投入することが重要 であると思われた。 以上を踏まえて,現在建設中の新病院における医療 秘書の配置や効果を考えると,無線LAN利用のラップ トップの活用により,医療秘書1名に対し医師1名ない し2名なら後方での入力補助は可能と思われる。幸い新 病院では医療秘書のワーキングスペースが確保されて おり,診断書や病名チェックなどはそこで作業するこ とが可能である。ただ,いずれにしても一律配置では なく,空間と時間の配置および人の選定をうまく行 い,必要な部門へ必要な時間帯に集中的に導入するの が望ましい。医療秘書は導入前に教育が必要3,6,9で,熟 練すればするほど有用性が増す。したがって,医療事 務作業補助者においては人事異動や配置転換はかえっ て非効率である。前回1,2と今回と医療秘書は別人であ るが,医事業務に精通して患者応対の良い人が適任と 思われる。 本研究は,平成24年度北里大学病院職員研究の一環と して行われた。 文 献 1. 岡本牧人,天川久子,坂井かおる,他. 大学病院一般外来に おける医療秘書導入の効果. 北里医学 2009; 39: 23-8. 2. 遠藤英美,天川久子,川上美智代,他. 北里大学病院耳鼻咽 喉科初診外来診療における医療秘書導入の有用性. 北里医学 2011; 41: 33-40. 3. 片田桃子. 医師事務作業補助者の採用・登用方法と業務内容 ─全国実態調査から─. ビジネス実務論集 2011; 30: 57-69. 4. 瀬戸僚馬,津村宏. 医師が電子カルテ操作に費やす業務時間 に関する調査. 医療情報学 2012; 32: 59-63, 5. 瀬戸僚馬. 医師事務作業補助者等の概念と役割. Hope Vision 2012; 14: 12-5. 6. 原茂順一. 聖路加国際病院における診療力&経営力を上げる 医師事務作業補助者の活用. Hope Vision 2012; 14: 16-7. 7. 瀬戸僚馬,蓮岡英明,三谷嘉章,他. 医師事務作業補助者の 業務と電子カルテ等への代行入力の現状. 医療情報学 2011; 29: 265-72. 8. 瀬戸 僚馬,蓮岡 英明,渡辺 明良,他. 外来業務における医 療関係職種と事務職員等の役割分担─東京都内の医師事務 作業補助体制加算届出病院の調査結果より─. 日本医療マネ ジメント学会雑誌 2012; 12: 245-9. 9. 片田桃子. わが国における医師事務作業補助者の実態調査 ─採用・登用方法および教育・研究方法を中心に─. 日本医 療秘書学会学会誌 2011; 8: 64-7. 58 電子カルテ化における医療秘書の有用性 Practicality of medical secretaries at university hospitals: impact on the electronic medical records system Makito Okamoto,1 Hajime Sano,1 Hisako Amakawa,1 Mami Otani,2 Yuko Nozaki,2 Rumiko Yamashiro,2 Kaoru Sakai,3 Seiko Sasaoka,4 Meijin Nakayama1 1 Department of Otorhinolaryngology, Kitasato University School of Medicine, Department of Nursing, Kitasato University Hospital 3 Department of Medical Secretary, Kitasato University Hospital 4 Department of Otorhinolaryngology, Kitasato University Hospital 2 Objective and Methods: We analyzed the impact of medical secretaries on medical staffs' workload using the electronic medical records system. Results: Inputs of diagnostic codes and medical evaluation costs were the most frequently conducted tasks. Aided tasks were estimated at 1,768,000 yen in medical expenses; without assistance, 27% of the inputs might have been ignored. Total examination time spent per patient was 2 minutes shorter in the group with assistance, and the overtime working hours of medical staffs was reduced. Improvement of workloads was reported by physicians. Conclusions: Efficient use of medical assistants can be achieved through better communications and proficiency. Key words: electronic medical records system, remuneration, overtime, cost effectiveness 59
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