エリザベス一世女王を読みとる

一般教育科
エリザベス一世女王を読みとる
文学や絵画に表現された処女王
16 世紀から 17 世紀にかけてイングランドを統治
したエリザベス一世女王は、王権を戦略的に演出
した最初の君主でした。文学や絵画に描かれる女
王を読み解きながら、近代国家確立にむけて女王
像はどのように操作されていったのかを探ります。
鏡 ますみ
准教授 修士(文学)
左上の作品は、エリザベス女王の戴冠時に描かれた作品です。当時すでに 25 歳だったと
はいえ、王権に戸惑うような女王の表情が印象的です。右上の作品は『アルマダ・ポートレ
ート』と呼ばれるもので、1588年にイングランドがスペインの無敵艦隊を撃破したことを祝っ
て描かれたものです。女王の左背後には、イングランド軍に攻撃されるスペイン艦隊が、右
背後には座礁したスペイン船が描かれ、理想的な神話を語っています。これは、はっきりとし
た勝敗がつく戦いではありませんでしたが、イングランド政府はスペインへの「大勝利」とみ
なし、大がかりな祝勝記念を行ったのです。その時、大量に描かれたのがこのような構図の
絵画でした。大国スペインに勝利した女王は堂々とした君主として描かれ、イングランドのア
イコンのようになっています。
この作品とほぼ同時期に発表された文学作品にエドマンド・スペンサーの『妖精の女王』
があります。題名そのものがエリザベス女王を意味し、女王は「愛の女王にして、天の祝福
を受け給うた平和の君主、/ わが君こそはこの歌を捧げるに最もふさわしい」と賞賛されま
す。彼女は至高の存在へと昇華されていきます。
こうして、当時の絵画や文学作品は、国家の体現者としての女王を象徴的に描き、イング
ランドがヨーロッパの大国に並ぶ国であることを高らかにアピールしたのです。
キーワード・専門分野
エリザベス一世女王、イギリス・ルネサンス文学、エドマンド・スペンサー、『妖精の女王』
連絡先
鳥羽商船高等専門学校 一般教育科 鏡 ますみ
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