家族療法と職業リハビリテーションの家族支援との共通点と相違点

日本職業リハビリテーション学会第 35 回大会予稿集 A2-1 (2007.7.27)
家族療法と職業リハビリテーションの家族支援との共通点と相違点について
○仲村信一郎
加賀信寛
(障害者職業総合センター研究部門)
1.はじめに
基本的な社会技能に課題を有する障害者
(2)主訴及び目標の比較
(知的・精神・高次脳機能等)の家族支援に
家族療法の主訴は、多様な症状及び問題行
関 す る 文 献 調 査 報 告 ( 仲 村 ,2007) を ま と め
動であり、支援の目標はその治療及び改善で
る経過で、いわゆる心理療法としての家族療
ある。職リハの家族支援の主訴は、障害者の
法と職業リハとしての家族支援では、目的や
就 労( 職 場 適 応 を 含 む )に 関 す る こ と で あ り 、
支援方法に共通点や相違点があることに気が
目標は家族が本人の職業自立の支援者になる
ついた。今回はその点に着目し整理する。
ことである。
(3) 個人アセスメントの比較
2.目的と方法
家族療法における個人アセスメントは、個
治療の一環としての家族療法と職業リハと
人治療と同じ観点(心理テスト・面接・見立
しての家族支援について文献調査等に基づい
て)によって行われ、医療では診断と関って
て比較し、アセスメントや支援方法等につい
くる場合もある。
ての共通点や相違点を明確化する。それによ
職リハによる個人アセスメントも、心理査
り、今後の職リハとしての家族支援を効果的
定(心理テスト・面接)によって行われ、性
に実施していくための参考とする。
格テストや知能検査の使用等は家族療法と共
通している。しかし、内容が職業適性検査等
3.結果と考察
職業能力や職業準備性に関することが多く、
治療としての家族療法と職リハにおける家
職業評価の名称で行われており、障害の理解
族支援の比較を以下の5つの視点から比較し
や受容の程度についても把握する。
て、共通点と相違点について考える(表1参
(4) 家族アセスメントの比較
照 )。
家族療法での家族アセスメントは、家族の
(1)支援の中心となる対象者の比較
構造・機能に視点をおき、家族交流の悪循環
家 族 療 法 で は 、 中 心 と な る 対 象 者 は IP
を改善することに治療目的があるため、特に
( Identified Patient;患 者 と 見 な さ れ て い る
家族内コミュニケーションに重点が置かれて
人 )で あ る 。IP は 、家 族 の 危 機 に お い て 、家
いる。
族の均衡を保つため、症状(問題行動)を出
職リハによる家族アセスメントも、家族の
しているという円環的な思考法に基づいてい
構 造 ・機 能 に 視 点 を お い て い る 点 は 家 族 療 法
る。
と同様であるが、特に職場定着等を目的とし
職リハによる家族支援では、中心となる対
て、家族のサポート体制(外部機関を 含め)
象者は、障害者(手帳保持者等)である。
表1. 「家族療法」と「職リハにおける家族支援」との比較
(1)中心となる対象者
家族療法
(2)a主訴
多様な症
IP(患者として見なさ
状、及び問
れている人)
題行動
職リハにおけ
障害者
る家族支援
(2)b目標
(3)個人アセスメント (4)家族アセスメント
症状・問題の 心理査定(心理テ
改善
スト、面接)
家族が障害
就労に関す 者の職業自
ること
立への支援
者となる
職業評価
障害の理解・受容
度
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(5)支援内容
家族の構造・機能
「家族のケアのピラ
と見ていくが、特に
ミッド」の第一層から
家族のコミュニケー
第五層
ションに重点を置く
家族の構造・機能
と見ていくが、特に
家族のサポート体
制(外部機関も含
め)を重点に置く
「家族のケアのピラ
ミッド」の第一層から
第四層、加えて進路
決定や職業生活面
での相談・指導
日本職業リハビリテーション学会第 35 回大会予稿集 A2-1 (2007.7.27)
の 相 談 ・ 指 導 で あ る ( 仲 村 ,2006)。
を重点に置いている。
(5) 支援の内容の比較
精神障害者の医療ケアのモデルである「家
4.おわりに
族 ケ ア の ピ ラ ミ ッ ド 」( Mottaghipour&
家族療法に関する文献は、非常に数多くの
Bickerton,2005) を 用 い て 、 職 リ ハ に お け る
有益な書物が出版されており、職リハにおけ
家族支援との支援内容を比較し整理する。
る家族支援にも参考になると考えられる。し
「家族ケアのピラミッド」
( 図 1 参 照 )は 、ケ
かし、治療的な観点での書物が多いため、職
ア の 5 段 階 ( 下 層 か ら 第 一 層 は 、「 関 係 作 り
リハの家族支援に適用する時には、共通点と
と ア セ ス メ ン ト 」、第 二 層 は「 一 般 的 な 教 育 」、
相違点を明確に把握しておくことにより、よ
第 三 層 は「 心 理 教 育 」、第 四 層 は「 コ ン サ ル テ
り効率的に役立てることができるものと考え
ー シ ョ ン 」、 第 五 層 は 治 療 と し て の 「 家 族 療
る。さらに、職リハ支援者が、家族への支援
法 」) で 構 成 さ れ て い る 。
において、医療関係者等と連携する時に、役
下層は、誰もが必要とするケアと考えられ
割の違いを踏まえ、効果的な協同ができるも
ており、上層は、病理が重たいため特別に支
のと考える。
援が必要な家族に対する支援であり、対象者
も少なくなると考えられている。
5.参考文献
Mottaghipour.Y&Bickerton.A: ThePyramid
(尚、このピラミッドの概念では、第一層
から次第に支援者側の専門性が高くなると考
of Family Care:A Framework for family
えられている。しかし、筆者は、第一層 にお
involvement
ける関係作りにおいてもジョイニングという
services,Ae.JAMH,Volume4,Issue3 ,pp1-8,2
家族療法の一技法が使われており、専門的な
005
家族のアセスメントも含まれていることから、
仲 村 信一 郎:第 Ⅱ部 第 3 章 第 3 節2関 係 機関
下層程支援の専門性が低いとは必ずしも言え
と の 連 携( 外 部 連 携 ),精 神 障 害 者 の 職 業 訓 練
な い と 考 え る 。)
の 指 導 指 導 方 法 に 関 す る 研 究 .調 査 報 告 書 70 ,
with
adult
mental
health
障 害 者 職 業 総 合 セ ン タ ー ,pp183-191,2006
仲村信一郎:資料「補遺
家族支援の枠組み
と 関 係 機 関 の 取 り 組 み の 課 題 」,事 業 主 、家 族
等との連携による職業リハビリテーション技
法に関する総合的研究(第2分冊
関係機関
等 の 連 携 に よ る 支 援 編 ) .調 査 報 告 書 75 ,障 害
者 職 業 総 合 セ ン タ ー ,pp133-152,2007
〒261-0014
千葉市美浜区若葉3-
1-3
職リハとしての家族支援は、家族ケアのピ
独立行政法人高齢・障害者支援機構
ラミッドにおける第五層を除いた第四層まで
障害者職業総合センター研究部門
が視野に入る。さらに、このピラミッドには
上席研究員
ない職業相談に関する支援が必要である。具
Tel: 0 4 3 - 2 9 7 - 9 0 8 3
体的には、家族及び障害者との進路方針につ
E-mail: Nakamura.Shinichirou@jeed.or.jp
いての相談や、職業生活面での配慮について
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仲村
信一郎
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