化学的なエッチングを用いた ナノ精度の形状創成 大阪大学大学院工学研究科 附属超精密科学研究センター 准教授 山村和也 1 研究背景 機械的加工法 例:ローカル修正研磨 加工速度:◎ 加工精度:△ 加工量を切り込み量や荷重により制御するため、 加工精度は機械の精度に依存する(母性原則) 熱変形・振動等の外乱の影響を受けやすい ダメージ:× 原理的に欠陥が 外乱により加工精度低下 導入される 加工原理 装置価格:△ 高精度化 → 高剛性化 = 装置価格上昇 加工能率は高いがナノメータレベル の加工精度を得るのが困難 機械的作用による材料欠陥の導入、 運動、増殖を利用 加工能率と加工精度を両立する 新しい加工法の必要性 2 化学的手法によるナノ精度加工法の提案 ➣プラズマCVM(Chemical Vaporization Machining) ・大気圧プラズマを用いた局所ドライエッチングによる 超精密無歪形状創成法 ・マスクパターン不要 ・ダメージなし ➣ローカルウエットエッチング(Local Wet Etching) ・特殊構造ノズルを用いた局所ウエットエッチングによる 超精密無歪形状創成法 ・マスクパターン不要 ・ダメージなし ➣プラズマ援用研磨(Plasma Assisted Polishing) ・大気圧プラズマ照射による表面改質と軟質砥粒による研磨の 高硬度難加工材料に対する複合研磨法 ・ダメージなし 3 プラズマCVM① 低圧プラズマエッチングとの比較 p =10 - 1~ 10 2 Pa シリコンウエハ 排気 RF 電極 プロセスガス シリコンウエハ プラズマ プラズマ プロセスガス 排気 (a) プラズマエッチング ( b) 反応性イオンエッチング 低圧プラズマエッチングによる微細加工プロセス ⇒マスクパターンが必要、LSIの製造等に適用 金属ワイヤー パイプ電極 非球面レンズ プラズマ プラズマ 太陽電池 ワイヤー型 (太陽電池のパターニング;(株)三洋電機) パイプ電極型 (非球面レンズの加工;(株)ニコン) プラズマCVM: 大気圧下における局在プラズマの形成 ⇒機械加工に匹敵する空間分解能と加工速度 4 プラズマCVM② シリコン加工面の評価 表面 300 欠陥多 伝導帯 hν3 250 表面電位: Vs hν2 SPV 価電子帯 (表面光起電力) p型半導体におけるSPV発生のメカニズム 加工条件 He : SF6 = 99 : 1 Plasma CVM RF 電力 : 100W 砥粒径 : 0.1m, SiO2 機械研磨 研磨圧力 : 150gf/cm2 加速電圧 : 1kV Ar+ スパッタリング イオン電流密度 : 5A/cm2 ケミカル HF : HNO3 : H2O = 1 : 6 : 8 エッチング 表面準位密度(任意単位) 表面準位 hν1 禁制帯 Ar+ スパッタリング 機械研磨 200 欠陥少 150 Plasma CVM 100 ケミカル エッチング 50 0 0.6 0.7 0.8 0.9 Energy (eV) 1 1.1 SPVS測定によって得られた 各種加工面の表面状態密度 5 プラズマCVM③ 滞在時間制御による形状創成 1パスあたりの加工深さ[nm] 100 80 60 40 20 0 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 テーブル走査速度の逆数[min/mm] (プラズマの滞在時間に相当) (mm) コンボリューション = (mm) 単位加工痕 h(x.y) 目的形状 f(x.y) 加工痕形状 g(x.y) 滞在時間分布 6 プラズマCVM④ 形状計測に基づく決定論的形状創成 形状計測 シミュレーション コンボリューション = h (x, y) 目的形状 g (x, y) f (x, y) 単位加工痕 滞在時間分布 形状誤差 数値制御加工 完成 トライアンドエラーなしに ナノ精度の目的形状が得られる 形状誤差 7 プラズマCVM⑤ 応用例 楕円面X線集光ミラー SOIの膜厚分布修正・薄膜化 After Thinning Before Thinning A A A A 形状誤差 (<5 nm p-v) 190nm K. Yamamura, et al., Rev. Sci. Instrum. 74 (2003) 4549. 210nm 201.6±4.2 nm 5nm 25nm 13.0±2.0nm Y. Sano, et al., Rev. Sci. Instrum. 75 (2004) 942. 水晶基板の厚さ分布修正 Before Correction SiCウエハの薄膜化とべべリング After Correction 100 μm 薄膜化前 150 nm 150 nm 24mm 24mm 122.6 nm p-v 薄膜化後 Y. Sano, et al., Material Science Forum, 645-648 (2010) 857. 24mm 24mm Correction Time 107s 14.9 nm p-v K. Yamamura, et al., Ann. CIRP, 57 (2008) 567. Before Thinning After Thinning Y. Sano, et al., Material Science Forum, 600-603 (2009) 843. 8 プラズマCVM⑤ SOI膜厚分布の均一化 SOI(Silicon On Insulator) 埋込酸化膜 (SiO2): 0.4 m バルク Si : 625 m SOIの構造 薄膜化後 (市販SOI ウエハ) A A A Thickness of SOI layer [nm] 薄膜化前 薄膜化前 A 250 200 150 100 50 190nm 210nm 5nm 薄膜化後 13.5 ± 0.7 nm (± 5%) 25nm SOIの膜厚分布 (φ 6” UNIBOND wafer) 膜厚分布 201.6±4.2 nm 200.9 ± 2.1 nm 13.0±2.0nm (±15%) 0 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 Distance [mm] A-A断面の膜厚分布 9 プラズマCVM⑥ デバイス特性評価 市販8インチSOIウエハ (SOI/BOX=95nm/100nm) 数値制御プラズマCVM によりSOIを薄膜化 ※シャープ(株)のご協力により作製 10-3 10-4 10-5 70 60 60 50 50 SOI層厚さ [nm] 10-8 10-9 10-10 67 66 10-15 -0.50 64 65 97 96 95 0 94 0 93 10 92 10 91 20 10-7 10-14 30 20 熱酸化調整:熱酸化 と酸化膜除去によっ てSOI層を薄膜化し たもの 10-13 40 63 30 熱酸化調整 10-12 61 62 40 67nm NC-PCVM 10-11 60 頻度 [%] 70 90 頻度 [%] 60nm 97nm ドレイン電流 [A] 10-6 90nm (W/L = 10/0.35mm , Vd = 0.1V ) 10-2 0.00 0.50 1.00 1.50 ゲート電圧 [V] SOI層厚さ [nm] 直径180mmの円内における7mmピッチの格子点上において、 分光エリプソメータによって膜厚を測定 MOSFETは正常に動作し、リーク電流、立ち上がりの 急峻さとも、熱酸化調整ウエハと同等 10 薄膜化したSOIウエハの品質は生産グレードでそのままラインで使用可能 10 プラズマCVM⑦ 水晶ウエハへの適用 1.6mm Photoresist Au Cr 0.5mm 2.0mm 周波数許容値±10ppm 水晶ウエハ t0 水晶ウエハ Deposition of Cr & Au, Patterning of Photoresist Etching of Cr & Au Vibration Area 水晶 振動領域 Etching of Quartz Wafer 電極 t0 バイメサ型水晶振動子 f0 =1,670/ t0 f0 : 共振周波数 (MHz) t0 : 厚さ (μm) t0 Removal of Photoresist, Cutting of a Wafer プロセスフロー Goka et al. Tokyo Metropolitan University 個々の振動子の共振周波数を揃えるには 水晶ウエハの厚さ分布を均一化する必要あり 11 プラズマCVM⑧ 水晶ウエハ厚さ分布の均一化 修正前 修正後 122.6 nm (PV) Frequency 40 Before correction σ=33.2 nm 50 40 After correction σ=3.2 nm 加工時間 1 分 47 秒 Frequency 50 14.9nm (PV) 30 30 20 20 10 10 0 0 -80 -40 0 40 80 Deviation (nm) -80 -40 0 40 80 Deviation (nm) 12 ローカルウエットエッチング(LWE)① 原理と特長 加工原理 液状のエッチャントを局所的に供給・吸引し、数値 制御走査することによって任意の形状を創成する。 加工速度:○ 加工精度:◎ 非接触加工 → 外乱の影響を受けにくい エッチャントの温度管理により加工部の 温度は非常に安定 ダメージ:◎ 化学反応による無歪加工 装置価格:◎ 装置構成が単純、高剛性不要、インフラ 不要、ハンドリング容易 低価格装置でありながらナノメータ レベルの形状精度が容易に得られる 13 LWE② ガラス基板の平坦化 修正前:p-v 192 nm 200 nm 修正後:p-v 56 nm 200 nm 合成石英ガラス基板 ノズル径:φ15mm HF : 25 wt%, 25 ℃ 14 LWE③ 基板保持の影響を受けない決定論的な形状創成 例:中性子集光用極薄ミラー基板の作製 ミリメータ厚さ基板 多重化において吸収損失を抑えるため 極薄基板が必要不可欠 形状計測 設計したミラー形状 重力による基板のたわ み 中性子ビーム集光 NC-LWE スリット 検出器 真空チャック 速度制御走査 加工ノズル 工具の位置制御(従来手法)ではなく 加工量制御による決定論的形状創成 スーパーミラー成膜 両面成膜ならびに形状計測時と同じ姿勢で の支持により設計通りのミラー形状を実現 15 LWE④ 5軸制御LWE加工装置 16 プラズマ援用研磨① スクラッチとダメージが無い研磨法 砥粒加工 プラズマ CVM ダメージフリー 加工速度, 平滑化能力 RF プラズマ 反応ガス 平滑化能力 ラジカル 反応 生成物 加工変質層 (等方性エッチング) 加工可能材料が 限定 加工物 K. Yamamura, et al., CIRP 57 (2008) p.567. プラズマ援用研磨 (Plasma Assisted Polishing) 軟質砥粒 軟化層 大気圧プラズマ 反応種 高硬度材料 表面改質 研磨 硬度 改質層 < 砥粒 < 母材 軟質層の選択除去 K. Yamamura, et al., CIRP 60 (2011) p.571. 17 プラズマ援用研磨① 4H-SiC(0001)の断面TEM像 改質層 C SiC 未加工面 C SiC H2O プラズマ照射面 RF 電力: 18 W 照射時間: 1 h 18 プラズマ援用研磨② ナノインデンテーション試験 0.6 SiC SiC (plasma) 100 37.38 Hardness (GPa) Load (mN) 0.5 0.4 0.3 0.2 10 4.53 1 0.1 0 0.1 0 SiC 10 20 30 40 50 60 70 80 Displacement (nm) SiC(plasma) プラズマ照射条件 試料 プロセスガス 流量 (L/min) RF 電力 (W) 照射時間(h) 照射エリア (mm x mm) 4H-SiC (0001) He + 2.6% H2O 1.5 15 6 15 x 15 19 プラズマ援用研磨③ 表面粗さの改善 (1) 未加工面 (2) 研磨中 (3) 研磨後 1 μm 1 μm 1 μm P-V: 13.4 nm, RMS: 1.31 nm P-V: 2.26 nm, RMS: 0.21 nm P-V: 1.48 nm, RMS: 0.25 nm 200 nm P-V: 3.39 nm, RMS: 0.52 nm 200 nm P-V: 2.50 nm, RMS: 0.20 nm 200 nm P-V: 1.74 nm, RMS: 0.26 nm 20 プラズマ援用研磨④ RHEED測定による結晶性の評価 (b) 0.318 (a) Sample 2 Sample 1 Lattice Constant (nm) 0.316 0.314 0.312 0.310 0.308 a0=0.307 0.306 0.304 As Received プラズマ援用研磨後の RHEED パターン After PAP 格子定数 加工変質層が全くない 無歪み加工を実現 21 想定される用途 • SOI(Silicon on Insulator)、SOS(Silicon on Sapphire)、 水晶ウエハ基板の厚さ分布の均一化。 • ガラス基板の平坦化。 • 非球面光学素子(レンズ、ミラー)のナノ精度加工。 • デバイス用単結晶SiCウエハ、金型用焼結SiC基板のス クラッチフリー、ダメージフリー仕上げ。 実用化に向けた課題 • 加工速度の向上。 • 形状測定から加工に至るプロセスのユーザーフレンド リー化。 22 企業への期待 • 加工原理は単純で安定性や再現性に優れる。用途に応じた 加工ヘッドや試料ホルダーの開発が実用化の成否のカギ。 • 応用研究に関して数社との共同研究の実績があり、実用化に 結びついた例も有り。 • 企業からの共同研究員派遣と大学側スタッフとの密接な連携 による共同開発を期待します。また、大学保有の加工機を用 いたデモ加工、応用研究が可能です。 Work Holder B-ax 大気開放型数値制御プラズマCVM装置 5軸制御ローカルウエットエッチング装置 23 本技術に関する知的財産権、お問い合わせ先 ローカルウエットエッチング • 発明の名称 :表面加工方法及び装置 • 出願番号 :特開2007-200954 • 出願人 :大阪大学、関西ティー・エル・オー(株) • 発明者 :山村和也 プラズマ援用研磨 • 発明の名称:難加工材料の精密加工方法及びその装置 • 出願番号 :特開2011-176243 • 出願人 :大阪大学 • 発明者 :山村和也、是津信行 お問い合わせ先 • 大阪大学大学院工学研究科附属超精密科学研究センター • 山村和也 • TEL&FAX 06-6879-7293 • e-mail yamamura@upst.eng.osaka-u.ac.jp 24
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