日本語 - ジョーンズ ラング ラサール

アベノミクス後の日本不動産市場の検証
-いまだ勝機あり
2015 年 12 月
目次
03 エグゼクティブ・サマリー
04 はじめに
05 アベノミクスの概要
07 アベノミクスによる日本の不動産市場への影響
09 海外投資家
10 国内投資家
12 スプレッドは未だに魅力的か?
13 これは投資家にとって何を意味するのか?
14 セクター別分析
19 まとめ
エグゼクティブ・サマリー
20年間もの長い景気停滞期を経験した日本経済は、2012年、
内閣総理大臣に就任し
た安倍晋三氏による第二次安倍内閣のもと、金融緩和、財政政策、成長戦略の3本の矢
を柱とする政策「アベノミクス」
によって新たなスタートを切った。
その後、金利は過去
最低水準を記録し、
また大幅な円安がもたらされた。結果として輸出は目覚ましい回復
を遂げ、株式市場が活性化するとともに、外国人観光客流入により観光業も拡大してき
ている。
しかし、
日本経済全体を見回してみると、経済成長は未だ強靭なものではなく、
足元の景気も依然として弱含みの状態にあるということができるであろう。
アベノミクスによる金融緩和とそれによってもたらされた低金利は不動産投資市場も
活発化させており、2012年以降の不動産投資額は大幅な増加傾向にある。
また同時
に不動産価格も上昇しており、
あらゆる不動産セクター・エリアに及んでいる。東京Aグ
レードオフィスの賃料は2015年第3四半期においてほぼ横ばいとなったが、2012年
以降上昇を続けており、2015年通年では世界的にみてもトップクラスの賃料上昇が予
測される状況となっている。
日本の不動産をターゲットとする投資資金の増加により、東京Aグレードオフィスの
キャップレートは観測史上最低水準となっている。
しかし、安全資産と認識される10年
物国債利回りとオフィスキャップレートとの差で表されるスプレッド
(イールドギャップ)
は、前回の市場ピークである2007年と比較すると大きく確保されており、
さらなる
キャップレート低下の可能性も認められる。
構造改革・規制緩和が未だ大きな進展を見せていないことを考慮すると、
アベノミクス
の長期的な持続可能性は不透明であるといえよう。
しかしながら、継続が予想される金
融緩和は短中期的に不動産市場のさらなる成長を下支えすることが予測される。競争
が激化する不動産投資市場はすでに濡れ手に粟の如く容易に利益を確保できる状態
にはないが、世界的にも見ても日本のイールドギャップは大きく依然として魅力的であ
り、不動産投資家の日本への関心はすべてのセクターにおいて衰えておらず、不動産市
場の活況は今後も継続することが見込まれる。
本レポートにおいては、近年の不動産市場を振り返り、
アベノミクスが不動産市場に与
えてきた影響及びその変化を分析・検証し、
さらに今後の見通しを検討する。
はじめに
日本経済は1970年代、80年代と好景気が続いた。
しかし、1980年代の過剰
融資が株式市場および資産市場への大量の資金流入を助長し、結果ついにバ
ブル圏に突入する。
そして、公定歩合の引き上げや金融当局による不動産向け
融資総量規制によって90年代前半のバブル崩壊につながっていく。株式市場
は暴落し、不動産を含む資産価格は軒並み下落、
そして日本はその後20年以
上に及ぶ景気停滞期、
「失われた20年」
への道を歩むことになった。
バブル崩壊
以前の名目GDPは年平均6.2%の伸びを示しており、賃金給与も5.5%の成長
にあった
(1991年までの過去10年間の平均値)。
2012年時点ではこれら数値
はそれぞれ-0.5%、-0.6%となっている
(2012年までの過去10年間の平均
値)。
この時点でデフレは常態化しており、
また人口統計学的には既に高齢化が
進み、人口減少に向かいつつあった。
2012年、
日本経済への新たな急進的アプローチがアベノミクスという形で導
入された。
それ以降、
日本の不動産投資市場には強い追い風が吹き、2014年
には国内不動産に対する投資額が2012年比で135%増となり、不動産投資
市場は年間4兆7,000億円にまで拡大している。
これは主に、
アベノミクスによ
る金融政策、加えて広く世界的に実施された金融緩和策によって生み出された
国内外の資金が不動産に大量に流入したことによる。投資額は日本全体で伸
びており、価格も大きく上昇した。
また、
日本における投資額の大半を占める東
京では、Aグレード、Bグレードオフィスの価格がアベノミクス以降それぞれ
41%、51%上昇している。
投資家はここ2、3年間で優れた収益率を達成している。
しかし、取得競争が激
しさを増すにつれ、現在のキャップレートが過去最低水準となっている中、今現
在まだ投資の好機と言えるのか、
それとも手を引くべき時期なのだろうか。本レ
ポートではアベノミクスの成果についての評価と、各政策が不動産市場に及ぼ
した影響を検証する。特に、
これら政策がどのように現在と未来の日本不動産
市場に影響を与えるのか、賃貸および投資の両側面から考察し、
またアジア・パ
シフィック及び世界の不動産市場との比較も交え、賃料、価格、投資総額などの
検証・分析を行う。
4 JLL
アベノミクスの概要
「アベノミクス」
は3本の矢と称される3つの広範な戦略(金融緩和、財政政策、成長戦略)
に基づく一連の経済政策である。
これは長引くデフレからの脱却、富
の拡大を目的とし、最終的に持続可能な経済成長をもたらすことを目標としている。
2015年9月、安倍政権は上記「3本の矢」
を補うべく新たな3本の矢を発表した。新3本の矢は、希望を生み出す強い経済、夢を紡ぐ子育て支援、安心につなが
る社会保障を唱え、経済成長の促進、
出生率の回復、介護離職の解消等を目的としている。
1本目の矢 大胆な金融政策
「量的緩和」
により日銀は金融市場において、
かつてない規模での国債及び株式の購入を実施、購入額は現在年間80兆円に及んでいる。
この政策
は、結果的に潤沢な資金を金融機関へ提供し、
これを実体経済の中で回遊・循環させることを目的とするものであり、次の3つの主要な成果を上げ
ることであった。
•金利を引下げ、融資を活用した企業による設備投資を促進させる
•低い為替レート
(円安)
を誘導し、輸出を増加させる
•2%のインフレ率を目標とし、
デフレを脱却する
インフレ目標は未だ達成されていないが、金利は過去最低レベルとなっている。
円安は輸出を大幅に増加させ、企業は記録的な収益を上げており、
企業による設備投資意欲は改善の兆しが見え始めている。
2本目の矢 機動的な財政政策
政府は公共投資によって景気を刺激しようと試み、2013年1月実施の緊急経済刺激策により、2013年から2014年にかけて計19兆3,000億円を
投入した。
これは景気対策として一定の成果を上げたものの、現在日本は毎年巨額の財政赤字を計上している。長期的な財政再建はアベノミクスの
最終目標でもあり、
段階的に公共支出を減らし2020年度には財政を黒字化する計画である。
しかしながら、
この計画は3-4%の経済成長を前提と
しておりその道は険しい。
これまでのところ、財政再建へ向けて実際に行われた施策は2014年に消費税率を5%から8%に引き上げたことぐらいで
ある。
だが、
その結果経済成長が鈍化、2014年第2四半期には実質GDPが年率換算マイナス6.8%となり、景気後退を阻止するべく取られた財政
刺激策にも関わらず、
日本は事実上、景気後退局面に立たされた。2017年にはさらに消費税率が10%に引き上げられる予定だが、政府は財政政策
については
「柔軟に」対応していくとしている。
3本目の矢 投資を喚起する成長戦略
成長戦略における規制緩和・構造改革は政府にとって最大の試練であり、時間を要する。
これには、労働力に占める女性比率の向上、農業分野にお
ける競争力の向上、減税特区を設ける等の様々な事項が含まれる。
これらの施策により最終的には、経済およびビジネスの効率を高め、10年以内
に一人当たりのGDPを40%伸ばす
(一人当たりの額で150万円もしくは年率3%の経済成長と同等)
としている。日本が今直面する避けられない
難題は、国全体としてもはや人口減少の時代に入っているということである。
出生率低下に伴い、2010年国勢調査時点でピークであった1億2,800
万の人口は、2060年には8,000万台に減少すると予測されている。
この総人口減少の問題に加え、
もう一つの問題は加速する人口高齢化であ
り、2003年には42.5歳であった平均年齢が2013年には45.8歳に上昇している。
このペースでいくと、2060年には労働人口は半減、高齢人口及
び年少人口が全人口に占める割合は36%から50%に跳ね上がる。政府は現在外国人の移住について僅かな緩和策に着手しているが、人口減少に
対抗するためには出生率が著しく上昇し、移民が大幅に増加する必要がある。他のすべての条件が不変であっても、人口減少問題は経済成長に対
し深刻な影響を及ぼす可能性がある。
また労働人口の減少も喫緊の課題であり、長期的な経済成長も見据え、早急な施策の実施が必要である。
新3本の矢
これまで放たれた上記3本の矢に加え、2015年9月、
アベノミクス第二段階の新たな政策として新3本の矢が発表された。
しかし、
これらは当初の3
本の矢の目指す目標への補完的政策として認識されるべきであり、
その初期段階における具体的な施策は未だ明確ではない。
希望を生み出す強い経済
夢を紡ぐ子育て支援
安心につながる社会保障
女性や高齢者の雇用を拡大すると
この政策は現在の日本社会における育児
政府は高齢者のみならず、働く世代、
すなわち高齢者を介護す
とにより、2020年度までにGDPを
まで回復することを目標とする。具体的な
兆円に拡大する。直近の2015年
援や不妊治療支援等が含まれるであろう。
ともに、
地方経済の活性化も促すこ
2014年度比で20%増加させ600
環境を改善し、
出生率を現在の1.4から1.8
る世代のためにもなる社会保障制度を構築しようとしている。
施策としては幼児教育の無償化、結婚支
いわゆる介護離職を解消し、
より多くの個人が就労継続または
第三四半期のGDPがマイナス成長
より多くの子供を持つ家庭を支援し最終
な目標となっている。
含まれる。
となっている状況下、
かなり野心的
的には人口1億人を維持することも目的に
目的は、家庭の高齢者介護による負担を軽減することにより、
職場復帰といった選択をできるようにすることである。
さらに、
働く意欲がある高齢者の就業機会を増加させる政策と組み合
わせることにより、
「一億総活躍社会」
の実現を目指す。
アベノミクス後の日本不動産市場の検証-いまだ勝機あり 5
主要経済指標
実質 GDP
h2.2%
失業率
i0.9%
h2.3%
3Q15 VS 4Q12
(過去20年間で最低レベル)
2015年9月 VS 2012年12月
2015年9月までの
12か月間 VS 2012年
消費者物価指数(CPI)
輸出額
人口
0.0%
h19.8%
i0.5%
2015年9月前年同月比
2015年10月までの
12か月間 VS 2012年
2015年10月 VS 2012年12月
名目賃金
訪日外客数
女性の労働力参加率
h0.3%
h117%
h4.5%
2015年9月までの
12か月間 VS 2012年
2015年9月までの
12か月間 VS 2012年
まとめ
これまでのところ、金融政策は緩やかな景気の改善、
円安と低金利をもたらした。大幅な円
安は国際的な日本製品の競争力向上につながり、輸出額は2012年と比較して19.8%増加
した。
また、観光業も円安の恩恵にあずかり、訪日外客数は2012年比で117%の伸びを記
録している。企業収益は記録的な回復を見せ、企業の景況感も改善、
これにより雇用が伸
び、失業率も著しく低下した。但し、毎月支給される賃金にはほとんど変化がなく、2015年
9月までの1年間と2012年の賃金指数を比較しても若干の上昇にとどまる。
しかしながら
ボーナス支給額は2012年12月から2014年12月で1.2%上昇した。現在職に就いている
女性は2012年に比べ93万人の増加となっており、労働力参加率を4.5%引き上げている。
しかし、
これらの職の多くはパートタイム等である。
インフレ率は目標値である2%には程遠
いところにあり、2015年9月現在、年率±0.0%と低迷、
エネルギー価格の下落も響いてい
る。結論として、
アベノミクスが日本経済を長期的に持続可能な形で再建できるのか、未だ
判断はできない。
アベノミクスは勢いを失っているかという点については必ず議論が生じる
であろう。3本の矢やその他の政策によってこれが実現できるかどうかは時間とともに結果
としてあらわれることになるであろう。
しかし、過去の政権による政策の中で、
アベノミクスが
最も大胆な政策であることに間違いはない。
6 JLL
小売売上
2015年9月 VS 2012年12月
アベノミクスによる
日本の不動産市場への影響
「少なくともここ数年は、大きなマグニチュードを伴う市場の調整局面が
到来するとのシナリオをメインに据える必要はないと考えている。
ただし、価格が上昇し始めて、
それなりの時間が経過したので、単純な
アベノミクスベットではなく、具体性を帯びたサブ・ストーリーを描く
個別投資戦略を重視している」
日本で影響力のある国内投資家
アベノミクスにより、不動産価格は日本国内の全ての不動産
セクターにおいて堅調に上昇した。一例を挙げると、東京の
オフィス価格は、2012年末から2015年第3四半期までの
期間に、Aグレードで41%、Bグレードで59%上昇している。
(図表1参照)
また、図表2でも明らかなように、取引も2012年以降活発化
図1:東京Aグレード・Bグレードオフィス価格推移
価格(百万円/㎡)
5
4
3
し、2013年初頭に金融政策が施行されて以来急速に増加
2
と2012年と比較して倍以上に増えている。2015年第1四
1
している。商業用不動産投資額は2014年に4兆7,000億円
半期から第3四半期も同様に増加を続けており、前年同期比
15%の増額となっている。
オフィスセクターが日本における投資の大半を占めており、
ア
ベノミクスのスタートから全体の54%を占める。
次にリテール
0
05 Q05 Q06 Q07 Q08 Q08 Q09 Q10 Q11 Q11 Q12 Q13 Q14 Q14 Q15 Q18
4
1
4
2
2
2
4
4
4
4
3
3
3
1
1
1Q
Aグレードオフィス価格
Bグレードオフィス価格
出所:JLL Real Estate Intelligence Service (REIS), JLL, 3Q15
(23%)、
インダストリアル
(13%)
と続き、
ホテルが5%程度
図2:商業用不動産投資額推移(全国)
( 10億円)
8,000
7,500
6,000
5,000
4,500
3,000
2,000
1,000
15
20
14
20
13
12
11
20
4Q
20
3Q
20
10
20
09
08
2Q
20
1Q
20
07
20
06
0
20
の比率となっている。
出所:JLL, 2015年10月
アベノミクス後の日本不動産市場の検証-いまだ勝機あり 7
世界の主要都市における投資額を比較すると、東京はロン
ドンとニューヨークに次いで3位につけており、常に上位に
ある。
その理由として市場規模、流動性、
および整備された
REIT市場が挙げられる。
(図表3参照)東京への投資額は日
本国内では圧倒的に多く、2013年から2015年第3四半期
までの全国の取引の58%を占める。大阪も2012年に比較し
て投資額が増えており、国内全体投資額の7%を占める。
対照的にアジア太平洋地域全体の投資額は、2011年から
2012年にかけて比較的変動がなく、
(図表4参照)
2013年に
入ってからペースが上がっている。
しかし、
この増加は主に日
本とオーストラリアの増加に帰するものである。2013年から
2014年にかけては再び投資額の変化は乏しく、
日本が明ら
かに地域内の他国を上回っていることがわかる。
また、
この
期間には日本円と豪ドルが対米ドルでかなり低下している。
それがなければ米ドルベースの地域全体の伸びは、
はるかに
堅調であったはずである。
海外投資家による国内不動産への投資額は目覚ましい回復
を見せている。2014年の海外投資家による投資額は2011
年比で14倍にも達した。過去5年間では5%~10%台
であった海外投資家による投資額の全体投資額に対する
割合は2015年1月から9月の間では22%にも及んでいる。
実際に2015年9月までの投資額は日本円ベースで2012
年、2013年の通年額を上回っており、非常に堅調と言える。
(図表5参照)
図3:商業用不動産投資額 主要都市 2015年1月~9月
グローバルシティ
(10億米ドル)
アジア太平洋地域
(10億米ドル)
ニューヨーク
36.7
東京
13.6
ロンドン
29.0
香港
7.5
東京
13.6
シドニー
5
ロサンゼルス
12.8
シンガポール
5
シカゴ
9.8
北京
5
ワシントンDC
9.6
ソウル
4.4
サンフランシスコ
8.0
上海
2.8
シアトル
8.0
メルボルン
2.8
ボストン
7.7
ブリスベン
2.1
パリ
6.8
大阪
1.8
出所:JLL, 2015年10月
図4:アジア太平洋地域商業用不動産投資額推移(国別)
(10 億米ドル)
日本シェア(%)
60%
160
140
50%
120
40%
100
30%
80
60
20%
40
10%
20
0%
とは?
韓国
その他
日本
シンガポール
予測
測
予
14
15
香港
中国
20
13
20
20
12
11
20
10
20
09
20
08
20
07
20
06
20
05
20
04
オーストラリア
20
国内外の投資家が日本の不動産市場に魅力を感じた要素
20
20
03
0
日本シェア
出所:JLL, 2015年10月
(1)低い借入れコストと、国内外の量的緩和
によって経済に流入した資金により、資金調
達環境が改善
(2)アベノミクスによる景気回復に支えられ
た賃貸市場の回復期待
図5:海外投資家による投資額の推移(全国)
(10億円)
3,000
2,500
2,000
8 JLL
3
-Q
Q1
14
20
13
20
12
20
11
20
10
20
09
20
08
■ 海外投資家による投資額
出所:JLL, 2015年10月
15
資の増加
0
20
によるグローバル規模の不動産への分散投
500
07
(4)不動産投資ファンドおよび年金ファンド
1,000
20
投資家からの関心の高まり
06
国において魅力的なスプレッドを求める海外
1,500
20
(3)良くも悪しくも安全な避難場所と言える
海外投資家
「コアな物件に関しては、利回りを求めながらも比較的低い投資リターンを
容認する国内の投資家と競合するため、海外投資家には不利である。
リスク曲線の上を狙うということは収益元となる市場サイクルによる
回復、資産改善、
それにキャップレート圧縮を上手く組み合わせなければ
ならない。
そのためには市場に精通し、現地に強力な基盤が必要である。
決して容易なマーケットではない」
グローバル資産運用担当者
アベノミクスの導入以来、次のような形で国際的な資本が市場に流入している:
運用型ファンド
例: THE BLACKSTONE GROUP, LONE
STAR FUNDS, LASALLE INVESTMENT
MANAGEMENT, GREENOAK, GAW CAPITAL PARTNERS
政府系ファンドおよびグローバル年金基金
例: GIC REAL ESTATE, CHINA INVESTMENT CORPORATION,
富裕層およびファミリー・オフィス
例: THAKRAL
THE STATE OIL FUND OF AZERBAIJAN
従来からのコア投資家層が取引額で圧倒した。
良好な借入れ条件、他のグローバル市場に比べて魅力的なスプレッド、
それを支える為替ヘッジ環境等が投資
を促している。取得競争が激しくなる中、投資家は東京以外の大阪や名古屋といった都市にも食指を動かしている。
また、
ホテル、
学生寮、医療関連施設、
賃貸
マンションといった他のセクターにも関心が向いてきている。
アベノミクス後の日本不動産市場の検証-いまだ勝機あり 9
国内投資家
「借入コストは有利な状況にあり、NAVと比較したJ-REITの株価は収益アップを見
込める取得を容易にしている。新規公募にかかる非常に低い現状の借入コストを活か
し、長期にわたる借入を確保したいと考えている。
しかし、市場の取得競争の激化に
より、投資機会を見出すのは困難である。」
J-REIT担当者
日本では国内の投資家が投資市場を独占している。REIT等の国内投資家は競争力に勝り、市場を特に海外投資家にとって参入し難いものにしている。
国内投資家の中でも近年積極的なのは次の各グループである:
J-REIT
例: ジャパンリアルエステイト投資法
私募REIT
例: 日本オープンエンド不動産投資
人、森トラスト総合リート投資法人、
法人、DREAMプライベートリート投
テールファンド投資法人、野村不動
投資法人
大和証券オフィス投資法人、
日本リ
産マスターファンド投資法人
10 JLL
資法人、
ケネディクス・プライベート
不動産会社・デベロッパー
一般企業
例: 三菱地所、三井不動産、住友不
例: みずほ銀行、高島屋、
動産、東急不動産、
ケネディクス、
ヒ
ューリック
NEC、今治造船
J-REIT株およびそのETFは日銀の資産買入の対象となっていた。
それに加え機関投資家から
の引き合いがこれらの価格を大幅に上昇させることになった。株価が上昇してもなお、一般企
業の株式と比較して優位な一口当たりの分配金を実現できるため、
こういった間接的な不動
産投資の選好性は高い状態が続いてきた。株価に対する一口当たりの分配金の比率が下落す
る中、
これらのファンドはより低い利回りで新規物件の取得が可能なだけでなく、成長を持続
させ、投資家に対し引き続き高い配当利回りを提供することができたのである。
また、保有資産
の価値が上昇するにつれ、
レバレッジ規制如何によっては、新規取得戦略実現のための債券
市場での増資が可能となった。
同時に海外投資家からの価格上昇期待によってJ-REITはこれ
らの投資家からのさらなる取得競争の高まりに直面した。
私募ファンドもまた市場を大きく占めるプレーヤーである。私募ファンドもJ-REITと同様に市
場をけん引し、資産の取得競争に拍車をかけた。興味深いことに、時期を同じくして、一般企業
による不動産取得への意欲が見られた。
しかもその目的は自社使用でなく、既存事業と比べ、
より優れた収益が見込まれる投資行為としてである。
図6:国内外投資家による主要取引事例(2014-2015)
取引時点
都市
物件/ポートフォリオ名
セクター
価格
売主
買主
2014年
9月
神奈川
ロジポート相模原
物流施設
430億円*
ラサール不動産投資
顧問と三菱地所のSPC
三菱地所投資顧問の
SPC
2014年
10月
東京
パシフィックセンチュリー
プレイス丸の内
オフィス
1,700億円*
セキュアード・キャピタ
ル・インベストメント・
マネジメント
シンガポール政府投資
公社(GIC)
2014年
11月
複数都市
GE住宅ポートフォリオ
住宅
1,900億円以上
日本GE
ブラックストーン
2015年
1月
東京
目黒雅叙園
オフィス
1,430億円*
森トラスト株式会社
ラサール不動産
投資顧問
2015年
7月
沖縄
オキナワ マリオット
リゾート & スパ
ホテル
149.5億円
ローンスター
ジャパン・ホテル・
リート投資法人
2015年
7月
複数都市
GE商業ポートフォリオ
オフィス
1,000億円*
GE Capital Real Estate
PAGインベストメント・
マネジメント
2015年
8月
東京
Kirarito Ginza
リテール
523億円
オリックスとエリオット・
マネジメントのSPC
The State Oil Fund of
Azerbaijan
2015年
9月
仙台
アエル
オフィス
186.4億円
PAGインベストメント・
マネジメント
ジャパンリアル
エステイト投資法人
2015年
10月
福岡
トリアス
リテール
79.97億円
ラサール不動産
投資顧問
クリサス
リテールトラスト
*報道による
出所:JLL, 公表データ, 2015年10月
アベノミクス後の日本不動産市場の検証-いまだ勝機あり 11
スプレッドは未だに魅力的か?
安定したキャッシュフローを有するアセットは、前回ピークよ
り低いキャップレートで取引されている。活発な取引により、
図7:主要都市オフィスキャップレートと10年物国債利回りとのイールドギャップ推移(bps)
(bps)
東京Aグレードオフィスの平均利回りは3.8%から3.1%へと
600
四半期の3.2%を下回る記録的数値となっている。
400
大幅に縮小しており、以前のピーク時であった2007年第3
500
300
200
四半期時点のスプレッドを見ると、現在Aグレードオフィスの
100
年ピーク時の150bpsを上回っている。東京を世界の主要
-100
国内不動産市場はまだ若干のキャップレート圧縮余地が見
込まれる環境にあると言える。
08
3Q
08
1Q
09
3Q
09
1Q
10
3Q
10
1Q
11
3Q
11
1Q
12
3Q
12
1Q
13
3Q
13
1Q
14
3Q
14
1Q
15
3Q
15
07
で魅力的なスプレッドを提供している。
このような状況の下、
-0
1Q
ニーを下回ったものの、
引き続き東京は低いボラティリティ
-200
07
都市と比較すると
(図表7参照)、昨年のスプレッドはシド
0
1Q
利回りと10年国債には270bpsのスプレッドがあり、
2007
3Q
では、
マーケットはピークに達したのだろうか。2015年第3
東京
香港
シンガポール
出所:JLL, Thomson Reuters, 2015年10月
また、融資慣行とレバレッジ依存についても注意を払う必要
がある。過去に日本では見境のない融資が価格高騰をもた
らし、1980年代、1990年代の不動産バブルの引き金となっ
た。貸し手は無分別ともいえる価格上昇期待に基づき融資
を実行し、時には融資額が取得価格を上回ることもあった。
現在の不動産投資家はどの程度のレバレッジをかけている
のだろうか?REITは既に法規制に基づき、融資に規制がな
されており、私募ファンドに関して言えばLTVは過去最低水
準にある。以上から、
マーケットは引き続き健全な状態を保
ちつつ、資産取得や将来の資産価値向上に向けてさらにレ
バレッジを効かせる余地を残していると言える。
12 JLL
シドニー
ニューヨーク
ロンドン
これは投資家にとって何を意味するのか?
今回の不動産市場サイクルの初頭に資本を投入した投資家の多くが、既に価格上昇に支えら
れた高い利益を得ている。前回のピーク以前から活発に投資を行っていたPAG、Fortress
Investment Group、LaSalle Investment Management、Elliott Advisors、
Lone
Star Funds等のプレーヤーは、金融危機の最中に魅力的な価格にて資産を取得し、
サイクル
が上向いている時点で売却を行っている。投資家の景況感がこのまま続くという前提でいけ
ば、
サイクルは未だ続いていくと考えられる。
しかし、容易な利益確保や予想を上回るキャピタ
ルゲインを得られるような環境は既に存在しない。2015年第3四半期において価格上昇は
若干鈍化した。
これは短期的な投資家の警戒や潜在的に緩やかな経済成長率に起因すると
も考えられる。
しかし、金利の大幅上昇やリーマンショックのような外部要因なくして、短期的
に不動産価格が下落するようなことはないであろう。
投資家にとって収益増大も重要であるが、賃料の
上昇は見込めるのか?
収益の構成要素には価格上昇だけではなく賃料上昇も含まれる。賃料の上昇は、主にビジネ
ス環境全体の改善および経済回復に起因する。
では、賃料についても同様に上昇が期待され
ているのだろうか?
2015年第3四半期の実質GDP成長率は年率換算で-0.8%となったが、2012年第4四半期
からは2.2%の経済成長となっている。
これは前年比33%という企業収益の増大という形で
表れており、
企業収益に関しては金融危機前を上回っている。
これまでのところ、
この収益のほ
とんどが内部留保にとどまっており、設備投資には回っていない。
しかし、
ついに設備投資にも
改善の動きが見られている。大企業の設備投資額は2014年度に5.9%の伸びを示した。
これ
は今後の企業成長の可能性を示す良い兆しであり、
日銀短観によると2015年度には設備投
資が10.9%拡大することが示唆されている。米国、
日本およびその他10の環太平洋諸国との
間で合意に至ったTPPもさらなる投資の加速を助長するであろう。安倍首相は国内企業の効
率性と競争力を高めるためにこのパートナーシップを生かすことを目指している。
前回の市場ボトムである2012年以降、東京Aグレードオフィスの賃料は14%上昇してお
り、Bグレードオフィスの賃料も同様の成長を見せている。今後も2~3年にわたっては同様の
緩やかな賃料成長が続くことが予測されている。
アベノミクス後の日本不動産市場の検証-いまだ勝機あり 13
セクター別分析
オフィス
日本企業は従業員数を増やしており、就業者数は2012
年12月から2015年7月の期間に全体で2.5%伸びてい
図8:東京Aグレード・Bグレードオフィス市場におけるテナントの移転理由
17%
6%
2%
その他
経費削減
4%
25%
集約
9%
アクセス向上
16%
BCP
42%
拡張
る。2015年7月現在有効求人倍率は1.21と、
ここ20年で
最高となっている。正社員、契約社員ともに増加が続いてい
て153万人分の雇用が創出されると予想されている。2011
る。
アベノミクス以降、2015年末までにサービス業におい
年の東日本大震災以降、Aグレードオフィスの需要は主に
築浅のビルに移転し、安全の確保とコスト削減を目的とする
企業によるものであった。
しかし、従業員の増加に伴ってオ
フィスの拡張を求める企業が徐々に増えてきている。JLLが
26%
実施する四半期毎の調査では、拡張移転が2014年の24%
から2015年1月-9月において42%と上昇している。
(図表8
参照)
このような動きは全業種においてみられるが、特にIT
9%
関連で顕著である。
20%
24%
2014
1Q15-3Q15
出所:JLL, 2015年10月
14 JLL
ここ数年、需要が供給を上回ったために、東京主要5区のA
グレードオフィスの空室率は、
ピーク時の2010年第2四半
期の7.9%から2015年第3四半期には3.3%まで縮小した。
図9:東京Aグレードオフィス需給・空室率推移
(千m2)
9.0%
る限り持続すると、我々は考えている。2015年のネットアブ
800
8.0%
700
7.0%
年間72%のネットアブソープションの増加が予測される。
600
6.0%
500
5.0%
400
4.0%
300
3.0%
200
2.0%
100
1.0%
0
0.0%
ソープションは2014年と同水準、
そして2016年にかけては
歴史的に賃料の上昇は不動産価格上昇のペースを下回っ
ており、今回の不動産サイクルにおいても同様である。東
京Aグレードオフィスの賃料は金融危機以降大幅に下落
し、2008年第1四半期のピーク時から平均して42%の下落
となり、2012年までほぼ横ばいで推移した。
オフィス空室率
は需給バランスに適している4-5%を現在下回り、
オーナー
は強気になりつつあり、募集賃料アップに動いており、賃料
上昇機運が高まっている。賃料は2015年第3四半期時点で
20
00
20
01
20
02
20
03
20
04
20
05
20
06
20
07
20
08
20
09
20
10
20
11
20
12
20
13
1Q 201
15 4
-3
Q1
5
900
(図表9参照)
オフィス需要はマクロ経済が上向き傾向にあ
新規供給
ネットアブソープション
空室率
前四半期比0.7%の上昇、前年同期比では4.3%の上昇と
出所:Real Estate Intelligence Service (REIS),JLL, 3Q15
比較においても堅調な市場となると我々は予想しており年
図10:東京Aグレードオフィス賃料・価格インデックスおよびキャップレート推移
なっている。実際に、2015年には東京が世界の各都市との
間5%程度上昇、
そして2016年には年間6%程度の上昇と
なると予測する。
インデックス (1Q13 = 100)
200
4.0%
150
3.0%
東京と大阪のオフィス価格は2015年第1四半期から第3四
100
2.0%
た。
(図表11参照)短期的には5-10bps程度の緩やかな
50
1.0%
0
0.0%
日本に向けた資本流入の規模を鑑みると、短期的には不動
産価格は引き続き上昇すると見られ、2016年以降には緩や
かなペースに落ち着くと考えられる。
(図表10参照)実際に、
なく、米国の連邦準備銀行による金利上昇によってある程度
の影響を受けることが懸念される。10年国債は既に米国の
賃料
19
18
4Q
17
4Q
16
4Q
15
4Q
15
3Q
15
2Q
14
キャップレート
1Q
14
4Q
14
3Q
14
2Q
13
1Q
13
13
4Q
トの上昇が予測される。
マイナス面のリスクはないわけでは
3Q
賃料上昇が継続することを前提として、若干のキャップレー
2Q
ると考えられる。長期的には、2017年から2019年にかけて
1Q
キャップレートの低下が予測され、2016年には横ばいにな
13
半期にかけて、
アジア太平洋地域で最も高い成長率となっ
価格
金利上昇を見込んで若干上向いている傾向が見られるが、
出所:Real Estate Intelligence Service (REIS),JLL, 3Q15
て対抗策を講じるものと思われる。
このような前提の下、短
図11:アジア太平洋地域都市 年間価格上昇率ランキング
(3Q15)
大幅な国債金利の上昇に対しては、
日銀が量的緩和によっ
期金利のボラティリティが発生すると考えられる。
日本に
都市
とっては、最大の輸出国である米国のいかなる改善もプラス
価格上昇率(前年同期比)
に作用するはずである。
大阪
25.5%
日本の量的緩和策の方向転換が大きなリスク要因の一つで
東京
15.2%
オークランド
9.1%
上海
9.1%
バンコク
8.6%
はあるが、政府が近い将来これを解く可能性は低い。政府は
経済に持続可能な成長の兆しとインフレが見られるまでは、
量的緩和に徹するとしている。米国同様、緩和策からの撤退
がさらに先延ばしになる可能性がある。
今後の賃料上昇とキャップレートの若干の低下を勘案する
と、
ハードルともいえる3%前後の利回りを確保可能な投資
出所:JLL, 2015年10月
家にとってオフィスマーケットは引き続き魅力的であるとい
える。
アベノミクス後の日本不動産市場の検証-いまだ勝機あり 15
リテール
図12: 訪日外国人1人当たり旅行中支出
(国籍別)
あまり反映されておらず、賃金の上昇が消費税の増税に
経済全体の回復は、
これまでのところ国内の個人消費には
(円)
250,000
は微増にとどまっている。家計の収入は2014年度に0.4%
200,000
を与えた。2014年度の小売売上高は1.2%の減少となって
150,000
で2.3%の増加となったが、
それでも2015年度の売上高は
100,000
高に対し、東京の百貨店における高額品売上高は増加を続
50,000
よってほぼその効果が打ち消されており、近年小売売上高
のマイナスとなり、消費税の増税も相まって売上高に打撃
いる。2015年9月までの1年間の小売売上高は2012年比
0.2%の減少と予測されている。全国的に低迷する小売売上
けており、2012年以来25.5%の伸びを示している。
その波
及効果は東京プライムリテールエリアにおける店舗需要の
拡大に表れている。
もうひとつ小売に影響を与えている要素は、2012年から
0
ル
イン ギリス タリア メリカ
中国 ポー
イ
ア
イ
スペ
ガ
シン
リア
トラ
ス
オー
ツ
ス
ム
ドイ フラン ベトナ
出展:国土交通省観光庁, 2015年7月
117%増となった外国人観光客による需要である。
中国本
土からの観光客が一人当たり滞在中に平均23万円相当を
体によるものである。
このため、
アベノミクスの実施以来大幅
に価格が上昇している。
(図表13参照)銀座と表参道におい
てはここのところ、上昇ペースがより緩やかな賃料に比べ価
格の上昇率が急激にアップ、2012年第4四半期から2015
年第3四半期の間に東京プライムリテールの賃料は18%上
昇、価格は60%の上昇となっている。
キャップレートも同期
間に110bps縮小し、3.1%に下落している。今後の賃料上
昇ペースの鈍化と現在の魅力的なスプレッドを鑑みると、
ま
だ将来のキャップレートに圧縮の余地はあり、
リテール物件
は引き続き不動産投資家を魅了するであろう。
16 JLL
価格インデックス
10
1Q
11
4Q
11
3Q
12
2Q
13
1Q
14
4Q
14
3Q
15
09
2Q
08
3Q
08
4Q
07
1Q
06
0
2Q
は主に国内のREIT、商業施設の運営会社および複合企業
50
05
オフィスマーケット同様、
リテール物件に対する投資家需要
100
3Q
べきである。
05
いった人気の高い都市に限られているということにも注目す
150
4Q
客による売上高への影響は主に東京、大阪、名古屋、福岡と
200
04
上高のわずか0.5%と比較的限られたものである。
また、観光
1Q
るが、実際のところ訪日外国人による消費は、全国の小売売
250
03
収支がプラスに転じている。
これが大きく取り上げられてい
2Q
今や外国人観光客は安く日本を訪れることができ、
日本人に
とって海外旅行は高いものとなった。結果として、国の旅行
インデックス (4Q02 = 100)
300
02
している。
図13: 東京プライムリテール賃料・価格インデックス
3Q
既に中国語に堪能な従業員を揃え、
この層への対応を強化
4Q
消費し、他を圧倒する。
(図表12参照)
その結果、百貨店は
賃料インデックス
出所:Real Estate Intelligence Service (REIS),JLL, 3Q15
物流施設
図14: 東京圏大型物流施設賃料・価格インデックスおよびキャップレート推移
円安およびエネルギー価格の下落による好影響を受けた最
インデックス (1Q12 = 100)
160
たインターネット通販と3PLの拡大が物流スペースの需要
140
大の産業は輸出である。2014年度に14.6%の伸びを示し
を牽引している。
このため投資需要が改善した。
しかし、難題
であるのは、既存ストックの9割が未だエンドユーザーによっ
て所有されているということだ。他のセクター同様、
アベノミ
クスの実施以来価格上昇ペースが賃料上昇のそれを上回る。
(図表14参照)
6%
5%
120
100
4%
80
3%
60
2%
プレート圧縮の余地があると見られ、
その後はそれに伴う変
01
6
5
価格インデックス
Q4
2
01
Q3
2
01
Q1
2
01
Q3
2
01
Q1
2
01
Q3
2
01
Q1
2
01
2
Q3
2
賃料インデックス
5
ため、
ますます投資家の関心が高まる結果になっている。
こ
ういったことから、2015年末には10-20bps程度のキャッ
4
0%
4
0
需要と新規ストック積み上げの必要性に拍車をかけている
3
激しくなっている。
テナント層の拡大が、新たなスペースへの
3
1%
流通可能なストックに限度があるため、投資市場は競争が
01
2
20
Q1
2
40
キャップレート
化が賃料と価格に反映されるであろう。現在東京圏の大型
出所:Real Estate Intelligence Service (REIS),JLL, 3Q15
他のセクターに比べ非常に魅力的なスプレッドが期待でき
図15: 主要都市 プライムレジデンシャルとAグレードオフィスとのイールドギャップ
とって魅力あるセクターであり続けるであろう。
6.0%
物流施設は4.5-5.0%のキャップレートで取引されており、
る。
そのため今後も、
中短期的には投資家とデベロッパーに
(bps)
150
100
5.0%
ている。
東京の住宅需要を促進する要因に関する国内の指標は前向
オフィスキャップレート
レジデンシャルキャップレート
海
京
0.0%
-300
上
のスプレッドに対し、東京都心の賃貸マンションは概ねAグ
レードオフィスの利回りを120bps上回る4.5%で取引され
-250
東
ヨークではオフィスに対し+25bps、上海では-240bps
-200
シ
ド
ニ
ー
1.0%
-150
港
も特異で、Aグレードオフィスに比べキャップレートが高い。
-100
香
2.0%
プライムレジデンシャル
(下記参照)
セクターにおいてニュー
-50
3.0%
り、過去5年間の取引金額は2.1兆円を上回る。
そして、東京
のプライムレジデンシャルセクターはアジア・パシフィックで
0
シ
ン
ガ
ポ
ー
ル
が大きい部分を占める。東京は米国以外で最大の市場であ
4.0%
ロ
ン
ド
ン
アジアの他諸国と異なり、
日本では賃貸住宅への投資市場
50
ニ
ュ
ー
ヨ
ー
ク
住宅
イールドギャップ(bps)
出所:Real Estate Intelligence Service (REIS),JLL, 3Q15
きなものとなっている。全国的に人口減少傾向が続く中、東
京は人口増加が続いている。
マンションの稼働率は2009年
から5%伸びて95%となっている。
また都心部の賃貸需要も
改善した。賃料はようやく上向きになり始めたところであり、
投資家に対し今後の賃料上昇サイクルの好機を提供する。
プ
ライムレジデンシャルはその必要性から、変動の激しい市場
ではない。賃料の変動は平均的な10年間においてオフィス
の7.7%に対し、
わずか2.7%である。
この資産クラスの
「安全
性」
という特長、賃料予測、賃金上昇の見通しおよび低い資
金調達コストから、投資家の関心は引き続き強いであろうと
予想され、
キャップレートも通常の4.5%-5.3%の範囲から
4.0%に縮小される可能性もある。
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9:;<.:=#>:=?-#657-8#
@:AB-.#C<-=7#
アベノミクス後の日本不動産市場の検証-いまだ勝機あり 17
100
一部外国籍の訪日客に対するビザ要件緩和、
ビジネス客に
80
一部屋あたりの収入(RevPAR)
の上昇を牽引し、
さらに多く
60
0
き高いと考えられる。他方、
「建築物の耐震改修の促進に関
する法律」等の改正が耐震性に問題を抱える地方圏のホテ
ル等に与える影響は大きいと考えられ、政府による支援が
期待される。
1Q
2Q
3Q
20
15
引き続き底堅いと予想されるため、投資家の関心は引き続
20
14
20
20
13
観光客数が引き続き堅調に推移するという見通しと、
円安
による国内旅行者の増加が相まって、稼働率とRevPARは
20
12
40
20
11
の投資家の関心を集めている。
(図表18参照)
20
10
よる需要、
「オリンピック」効果等が稼働率(図表17参照)
と
20
09
た。
(図表16参照)
(件)
120
20
08
増加傾向にある。2014年には取引数が42 %増 加し
20
07
投資家はまたホテルにも意欲を示しており、近年取引数も
図16: ホテル資産取引件数推移 (2015年9月末時点の情報に基づく)
20
06
ホテル
※関連会社間取引
(REITとそのスポンサー間の取引等)
を除く
4Q
出所:JLL, 公表データ, 2015年9月
(2015年9月末時点の情報に基づく)
図17: 東京都 宿泊施設タイプ別 延べ宿泊者数
(百万人)
60
50
40
30
20
10
H1
15
14
その他
20
H1
14
20
13
20
12
ビジネスホテル
出所:国土交通省観光庁, 2015年9月
20
シティホテル
20
20
11
10
20
09
20
20
08
0
図18: 東京ホテルパフォーマンス推移(ラグジュアリー&アップスケール)
(円)
35,000
100.0%
90.0%
30,000
80.0%
25,000
70.0%
60.0%
20,000
50.0%
15,000
40.0%
30.0%
10,000
20.0%
5,000
10.0%
RevPAR
出所:STRグローバルのデータをもとにJLL独自の基準で分類
18 JLL
客室稼働率
1月 20
∼ 15年
8
月
20
13
12
20
11
20
10
20
09
20
08
20
07
20
客室平均単価
1月 20
∼ 14年
8
月
0.0%
0
まとめ
人口減少は日本が直面する最大の問題であるが、主要都市においては、継続的に進行している都会化・大都市化現象がこの影響を緩和している。過去10年間
に東京の人口は8%超増加しており、名古屋は4%、大阪と福岡は微増している。
このため、
これら主要都市におけるダウンサイドリスクはある程度軽減されてい
ると思われる。
しかし、地方の人口は近年大幅に減少してきており、
日本全体の人口減少リスクは明らかである。
したがって都市部への人口流入を促す都会化・
大都市化の波のみが主要都市におけるリスクを長期間に渡り和らげることができるものであると考えられる。
結局のところ、
日本の不動産投資の筋書きは短期~中期的には量的緩和の継続にかかっている。市場における不動産の長期的パフォーマンスのためには、
政府による十分かつ適切なペースで構造改革の実施が最も重要であるが、
とりわけ伝統的な社会を重んじる日本において、
それは容易に実行できることではな
いのかもしれない。
しかし、
これが実現されるか否かは投資家の観点からは短期的にそれほど根本的な問題ではないと思われる。少なくとも、2018年まで継続
するであろう金融緩和による優位的な市場環境は、世界の主要市場において日本の不動産市場、特に日本の主要都市を、国内外の様々なタイプの投資家をし
て、魅力的な投資オプションと考えさせるであろう。
•
短期的なキャップレート縮小を求める投資家にとっては全てのセクターにおいて機会があると考える。前回のピークと比較してスプレッドは未だ魅力的な
•
長期的にはアベノミクス効果に期待を寄せる投資家に機会があると考える。景気刺激策が効果を発揮し、最終的に持続性のある長期的な成長となり、
範囲にあり、少なくとも短中期的に金利は過去最低水準のまま、若しくはそれに近い水準で推移すると思われる。
不動産市場に波及するという考え方である。
また、経済や環境変化に伴う価格上昇にとらわれない、専門分野の投資家にとっても長期的な投資機会があ
る。
これらの投資家は不動産価格の低下を想定せず、徹底した不動産管理手法によって資産価値向上の可能性を見出す層である。
•
セクター別で見ると、
より優れた投資利益をもたらすと考えられるのは、
日本の人口構成の変化を背景にエンドユーザーの需要が底堅いと見られる高齢
者用施設、東京都心部のリテール物件に比べて高いスプレッドを提供しうる地方のショッピングセンター、
そしてもはや最後の駆け込みに近いものの、
インターネット通販の拡大余地に支えられるロジスティクス、
さらには2020年の東京オリンピックのみならず、観光立国日本を見据えたホテルセクターで
ある。
アベノミクスのこれまでの最も顕著で目に見える成果は資産価格の上昇である。実質賃金を含め実体経済への効果は依然として精彩を欠く面がある。換言す
れば、長期的な経済成長への道程は険しい状況である。
しかし、最終的なインフレターゲットの達成を目指すには、市場へさらなる資金供給を行い、実体経済に
その道筋を作り上げるべきである。
日本不動産市場の規模、底深さそしてその流動性を鑑みると、市場サイクルにおける現在のありどころやアベノミクスが長期
的に成功に至るか否かに関係なく、投資機会は将来にわたって存在するであろう。
バブル崩壊以降、長きに亘った
「失われた20年」
を経て、
アベノミクスにより覚醒しつつある日本。歴史が示すように、
日本は閉鎖的な伝統的社会であるのか
もしれない。
しかし同時に日本は発明や技術革新に長けた国であることに間違いはない。2020年に予定される東京オリンピックへの布石を敷くは言うに及ば
ず、今こそ構造改革・規制緩和の確実な実行により成熟した先進国としての将来像を提示し、不動産における市場サイクルをも超えた長期的成長を描くべき時
期がやってきたのである。
アベノミクス後の日本不動産市場の検証-いまだ勝機あり 19
著者
日本
アジアパシフィック
Dr Jane Murray
赤城 威志
Head of Research
Asia Pacific
リサーチ事業部長
03 5501 9235
Takeshi.Akagi@ap.jll.com
Jane.Murray@ap.jll.com
伊藤 翔
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Asia Pacific
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水野 明彦
Neil Hitchen
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