allFIN : 2011/4/4(18:34) 第 3 章 協力ゲームの古典理論 3.1 凸集合と凹関数 凸性についてはこれまでにも言及してきたが,ここでは本書で使う 範囲の基礎的用語などについてまとめておこう. 集合 X ⊆ n が凸集合 (convex set) であるとは, x, y ∈ X, λ ∈ [0, 1] =⇒ λx + (1 − λ)y ∈ X となることをいう.ここに,[0, 1] := {λ ∈ | 0 ≤ λ ≤ 1} である. 線分や三角形,球などは身近な凸集合である.また,1点のみから なる集合や全空間,さらには空集合も自明な凸集合である. 2点 x, y ∈ n と λ ∈ [0, 1] に対し,λx + (1 − λ)y を2点 x, y の凸 結合(convex combination)という.λ = 0, 1 であるときは真の凸結 合という. 凸集合 X の端点 (extreme point) とは,X の異なる2点の真の凸 結合としてあらわすことが出来ない点 x ∈ X をいう.集合 X の端点 の集合を ext X と書く. 119 allFIN : 2011/4/4(18:34) 第 3 章 協力ゲームの古典理論 集合 Y を含む最小の凸集合を Y の凸包 (convex hull) といい,ch Y と書く.すると,クライン−ミルマン (Krein-Milman) の定理とは Y が n のコンパクト凸集合ならば, Y = ch ext Y であることを述べている1 .この定理は,後で凸ゲームのコアを特徴 付けるときに用いられる. 関数 u : n → が凹関数(concave function)であるとは,任意 の x, y ∈ n と任意の λ ∈ [0, 1] に対して u(λx + (1 − λ)y) ≥ λu(x) + (1 − λ)u(y) となることである. 凹関数の和は凹関数であることは定義から明らかである. 凸集合 X ⊆ n で定義された凹関数は定義域の内点で連続である2 . n それゆえ,非負象限 n + で定義された凹関数は正象限 ++ におけ る連続関数である.定義域の境界で連続であるとは限らないことは, u(0) = 0,u(x) = 1 − x2 , x > 0 をみたす関数 u : + → は凹であ るが原点で不連続であることからわかる. −u が凹関数であるとき,u は凸関数(convex function)であると いう. 関数 u : n → が準凹関数(quasiconcave function)であるとは, 任意の x, y ∈ n と任意の λ ∈ [0, 1] に対して u(x) ≥ u(y) 1 証明はたとえば =⇒ u(λx + (1 − λ)y) ≥ u(y) Ichiishi [17, 1983] など参照のこと. 2 証明はたとえば Mangasarian [22, 1969] など参照のこと. 120 allFIN : 2011/4/4(18:34) 3.1. 凸集合と凹関数 であることをいう. 凹関数は準凹関数であることも定義から直ちにしたがう. 正象限での2変数関数 f (x, y) = xy は準凹関数であるが凹関数で はない.凹でないことは,2点 (1, 1) と (2, 2),λ = 1 2 をとれば確か められる.準凹であることは,たとえば 相加平均 ≥ 相乗平均 で あることを使って定義から直接に示すことができる. 準凹関数の和は準凹関数であるとは限らない.たとえば関数 h(x, y) = 2 x + y 2 は 2+ で準凹ではないが,関数 x2 + 0y 2 と 0x2 + y 2 は 2+ で いずれも準凹であることを確かめることができる. 次の不等式はジャンセンの不等式 (Jensen’s inequality) と呼ば れるもので,市場ゲームのところで必要となる. 関数 f : n → が凹関数 ⇐⇒ 任意有限 m 個 m m の xi ∈ n の凸結合 p i xi ただし pi = 1, pi ≥ i=1 i=1 0, i = 1, . . . , m に対して, f m i=1 m pi xi ≥ pi f (xi ). i=1 証明. 十分性は定義より明らか.逆は数学的帰納法によ る.m = 2 ならば凹関数の定義からしたがう.m > 2 で 成立するならば m + 1 でも成立することは以下のように 確かめられる. 121 allFIN : 2011/4/4(18:34) 第 3 章 協力ゲームの古典理論 f m+1 i=1 =f pi xi m pi xi + pm+1 xm+1 i=1 m pi = f [1 − pm+1 ] xi + pm+1 xm+1 1 − pm+1 i=1 m pi ≥ [1 − pm+1 ]f xi 1 − pm+1 i=1 + pm+1 f (xm+1 ) ≥ [1 − pm+1 ] m i=1 pi f (xi ) 1 − pm+1 + pm+1 f (xm+1 ) = m pi f (xi ) + pm+1 f (xm+1 ) i=1 = m+1 pi f (xi ). i=1 3.2 3.2.1 シャープレイ値とポテンシャル シャープレイ値 ゲーム (N, v) のシャープレイ値は,各 i ∈ N の利得が 1 φ(v)i = |S|!(n − |S| − 1)![v(S ∪ {i}) − v(S)] n! S⊆N \{i} 122 (3.1) allFIN : 2011/4/4(18:34) 3.2. シャープレイ値とポテンシャル で与えられる利得ベクトル φ(v) である.ここでは,オーマン(Aumann [1, 1989])による公理系からの導出とともに,ハート=マスコレル (Hart and Mas-Colell [15, 1989]) のポテンシャル関数からの導出を紹 介し,また,ハルサニー値 (Harsanyi [14, 1977]) としての特徴付けに も触れる. /S か 定義 3.1. プレイヤー i, j ∈ N が互いに交代可能であるとは i ∈ つj∈ / S であるようなすべての S ⊆ N に対して, v(S ∪ {i}) = v(S ∪ {j}) となることをいう. / S である また,プレイヤー i ∈ N が無為プレイヤーであるとは i ∈ ようなすべての S ⊆ N に対して v(S ∪ {i}) = v(S) となることをいう. v(S ∪ {i}) = v(S) + v({i}) をみたすプレイヤー i を一般に駄身 (dummy) というが,無為プレイヤー i とは v({i}) = 0 である駄身 のことである. 定義 3.2. GN ⊆ 2 n −1 をすべてのゲーム v の集合とするとき,以 下の条件をみたす関数 φ : GN → n を GN 上のシャープレイ値 (Shapley value) またはたんに値 (the value ) という. 対称性 ゲーム v におけるすべての互いに交代可能なプレイヤー i と j に対して, φ(v)i = φ(v)j . 無為プレイヤー ゲーム v のすべての無為プレイヤー i に対して φ(v)i = 0. 効率性 i∈N φ(v)i = v(N ). 123
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