報道解禁日時 生活上のストレスによるうつ病発症に遺伝子

報道解禁日時
2003 年 7 月 17 日(木)
米国東部標準時、午後 2 時
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生活上のストレスによるうつ病発症に遺伝子が関与
− Science 誌掲載論文著者
誰しも、傷つくこともあれば泣くこともある。しかし、すべての人がうつ状態になると
は限らない。新たに実施された研究により、失業、パートナーとの離別、住居の損失、
あるいは他の要因が加わった場合のストレスに対する人の反応を決定する遺伝子が、う
つ病発症に一部関与していることが示唆された。心理学者と遺伝学者からなるチームが、
米国科学振興協会(AAAS)発行の週刊誌、Science 誌の 7 月 18 日号において、こうし
た結果を発表する。
セロトニントランスポーター遺伝子に隣接する DNA 領域の変異により、ストレスの多
いできごとによってうつ病が発症するか否かが決定される。セロトニンは脳内の化学伝
達物質である。生活上のストレスの数が同じであったとしても、うつ病抵抗性が最も低
い遺伝子を持つ人は、防御性が最も高い人と比べて、同疾患の発症が 2.5 倍高くなる。
こうした結果から、精神病や他の複雑疾患を遺伝因子または環境因子のいずれかで説明
することは通常不可能であり、これら両因子の相互作用に起因することが多いという新
たな見解が再確認された。
「ストレスに満ちたできごとは同時にやってくる傾向がある。人々から、失業と離婚と
担保の債務不履行を一度に経験した、というような報告を受ける」と、キングスカレッ
ジ ロ ン ド ン( King's College London)、 ウ ィ ス コ ン シ ン 大学 マ ジ ソ ン 校 (University of
Wisconsin, Madison)、およびニュージーランドのオタゴ大学による論文の通信担当著者
である Terrie Moffitt は述べている。
Avshalom Caspi と Terrie Moffitt が率いる研究チームによれば、不幸なできごとが連続し
て起こると、最も防御力の低いセロトニントランスポーターを持つ人において、臨床的
うつ病が発症する可能性がきわめて高くなるという。
著書らの定義によれば、うつ病は、悲哀感や抑うつ気分が少なくとも 2 週間続く状態を
いう。うつ病患者はさまざまな活動に対する興味を失い、生活から楽しみを得ることも
もはやできなくなる。職場や家庭での活動も著しく低下する。さらにうつ病と診断され
るには、睡眠障害など心身のペルソナにおける一連の変化も認められる。
研究者らはニュージーランドの長期試験において、参加者の 21 歳の誕生日から 26 歳の
誕生日までに起こった生活上のストレス事象数を追跡し、ストレス事象の発生数とセロ
トニン遺伝子である「5-HTT」の関連性を調査した。
セロトニントランスポーター遺伝子には、「短いタイプ」と「長いタイプ」の 2 つのタイ
プがある。試験結果から短いタイプはストレスに弱く、一方、長いタイプはストレスに
対し防御性を示すことが明らかになった。Moffitt によれば、うつ病防止における遺伝子
の正確な役割は不明であるという。
人はそれぞれ、セロトニントランスポーター遺伝子コピーを 2 つ持っている。847 名を
対象とした試験では、2 つとも防御力が最低の遺伝子型である短いコピーを有する被験
者が 17%(147 名)、2 つとも防御力が最も高い被験者が 31%(265 名)、ストレス感受性
コピーと防御型コピーを 1 つずつ持つ被験者が 51%(435 名)であった。
防御力が低い、短いタイプの 5-HTT 遺伝子を 1 つまたは 2 つ持つ被験者では、生活上の
ストレス事象を複数経験した場合、33%がうつ状態になった。また、このタイプの遺伝
子コピーを 2 つ持っている被験者では、同率は 43%であった。一方、防御力が高い、長
いコピーを 2 つ有する被験者では、同率はわずか 17%であった。
研究にストレス事象の数を含めたことにより、同試験は他に類を見ない試験となり、う
つ病の遺伝的構成要素と環境的構成要素の関連性が明らかになったと、Moffitt は述べて
いる。
同試験の参加者は、大規模な Dunedin Multidisciplinary Health and Development Study の対
象者でもあった。同試験では、ニュージーランド、ダニーディンにおいて 1972 年 4 月か
ら 1973 年 3 月までに誕生した子供を対象に追跡調査が実施された。対象者の家族は、一
般的集団内のすべての社会的経済的地位および健康状態を示している。
本試験では、青少年期のうつ病発症について報告している。うつ病の発症数はこの時期
にピークに達するので監視するのに適切な時期であると、Moffitt は述べている。
Moffitt は、他のグループが比較的迅速に彼らの結果を再現するよう望んでいる。研究者
らはうつ病に関する遺伝学の過去の研究結果を再現するのに苦労しているが、おそらく
うつ病発症前のストレス事象を組み入れていないためであろうと、同氏は言及している。
「私たちは、疾患を引き起こす遺伝子について報告しているのではない。避けられない
生活上のストレスによりもたらされるマイナスの心理的効果に対し、人々が抵抗性を持
つかどうかに関与する遺伝子について考察している」と同氏は述べている。
過去において、遺伝学者は遺伝子の欠陥が疾患原因であると推測してきた。ダウン症候
群のような症例では、遺伝子の欠陥が主因である。
Moffitt は他の方法も探している。同氏は、自分たちの試験結果が「同分野の起爆剤」と
なる可能性を示唆し、「環境リスクの研究が強力な研究手段となることがわかれば、遺伝
子とすべての疾患との論証されていない関係も見つけやすくなるはずである」と述べて
いる。
Moffitt によれば、遺伝子タイプの違いによって、環境中の他の有害要素に対する防御レ
ベルも異なる可能性があるという。
「私たちはストレスの多い経験について考察したが、毒性曝露など、望ましくない環境
条件の考察も可能である」と、同氏は語っている。
***
Avshalom Caspi、Karen Sugden、Terrie Moffitt、Alan Taylor、Ian Craig、Joseph McClay お
よび Jonathan Mill は、英国、ロンドンのキングスカレッジロンドンに籍を置く。Avshalom
Caspi、Terrie Moffitt、および HonaLee Harrington は、米国ウィスコンシン大学マジソン
校に所属。Judy Martin、Antony Braithwaite および Richie Poulton は、ニュージーランド、
ダニーティンのオタゴ大学に籍を置く。
本研究は、ニュージーランドの保健研究審議会(Health Research Council)、およびウィ
スコンシン大学大学院より一部資金提供を受けた。また、英国の医学研究審議会(Medical
Research Council)、William T. Grant Foundation、および米国立精神衛生研究所(MH49414、
MH45070)より助成金が支給された。Terrie Moffitt は、Royal Society-Wolfson Research
Merit Award 受賞者である。
1848 年に創設された米国科学振興協会(AAAS)は、科学政策、科学教育、そして科学
における国際的協調での各種プロジェクト、プログラムおよび出版物を通して、人々の
ウェルビーイングに向けた科学の進歩に取り組んできました。AAAS と 14 万にのぼる個
人・法人購読者を擁する Science 誌は、およそ 130 を超える国々に 272 の提携機関を有
し、総計 1,000 万人の皆様にサービスを提供しています。すなわち、AAAS は世界最大
規模の科学者連盟なのです。Science 誌は世界で最も権威ある、編集上独立した、多くの
専門分野にわたる、ピアレビューのある週刊誌です。AAAS は、科学技術の最新動向を
取り上げたオンラインニュースサービス、EurekAlert!(http://www.eurekalert.org)を提供
しています。