植物由来原料を用いた歯ブラシの商品化 -でんぷん粉末射出成形技術の実用化研究- 稲員尚紀 ○山下美月 廣瀬友典 平澤純一(ネクサス株式会社) 上村 誠(熊本県産業技術センター) 1 諸言 世界的に低炭素社会への対応が求められている 中、環境配慮型技術の導入が積極的に進められてい 2 歯ブラシ用材料の開発 2-1 開発した歯ブラシ材料用の種類 材料開発は、先に開発されていた、でんぷん粉末 る。わが国でも 25%の CO2排出量削減を目指し、 51%とポリ乳酸(PLA と略)49%をベース材として、 様々な動きがとられている。 それにポリブチレンアジペートテレフタレート バイオプラスチックは、低炭素社会の実現の為の (PBAT と略 エコフレックス BASF 製)を混合した 切り札として登場した。しかし、高価な材料である 材料(A 系)と、ベース材にポリ(3 ヒドロキシ酪酸-3 ことを主な理由にその普及は期待されたほど進んで ヒドロキシヘキサン酸)(PHBH と略 AONILEX カ いないのが現状である。そこでバイオマスを直接添 ネカ製)を混合した材料(B 系)を開発した。また、比 加する等の原料の低コスト化等のさらなる高機能化 較材として石油系ではあるがでんぷん粉末にポリプ に関する研究開発が行われている。しかし、バイオ ロピレン(PP と略)を 30%以上添加した材料(C 系)も プラスチックや石油系プラスチックにバイオマス粉 新規に開発を行った。 末を大量添加するのは困難で、最大でも 30%程度 2-2 開発材料の特徴とその組成 しか添加することが出来なかった。しかも、粉体の ① でんぷん+PLA+PBAT 添加(A 系) 導入により射出成形性等の加工性が著しく低下して、 最終製品のコストが非常に高いものとなっていた。 この材料は、ベース材のみでは、柔軟性が不足す るため、PLA と相溶性も良好で柔軟性も非常に良い。 我々の研究グループでは、バイオマス粉末の添加 PBAT を添加することで、歯ブラシの植毛の際に発 量を極限まで向上させることが出来る混練技術を開 生する白化や割れ等の不具合を解消できる材料であ 発し、バイオプラスチックにでんぷん粉末を重量比 る。その組成を下記に示す(表1)。この材料に添加 51%以上導入したにも関わらず、良好な加工性を示 した PBAT は、石油系ポリマーではあるが、生分解 す完全植物由来の射出成形用材料を開発することに 性を有しているポリマーである。 成功した。 我々は、その混練技術を利用した製品開発を進め て来た中で、特に環境先進国のドイツ等の EU 諸国 では、完全植物由来の脱石油化製品が強く求められ ていることを知り、手始めに自社製品としての販売 が可能な射出成形品(歯ブラシ)の開発に着手した。 表 1 A 系の材料種類とその組成 配合名 でんぷん PLA ベース材 51 49 A-10 51 39 A-15 51 34 A-20 51 29 (wt%) PBAT 0 10 15 20 ② でんぷん+PLA+PHBH 添加(B 系) 今回の報告では、完全植物由来材料で作製した歯 A 系で作製した材料は、強度及び成形加工性が非 ブラシの商品化に関する技術開発を行ったので、そ 常に優れているが、組成の一部に、生分解はするも の開発の経緯や、その中で行った評価実験の詳細に のの石油系ポリマーを用いていた。この為、完全植 ついて報告する。 物由来を実現するために、最近市場に出始めている PHBH を PBAT の代替材として添加して、柔軟性や 強度、成形加工性を確保する狙いで作製した。 用量の関係や生産性の問題で石油系が安いのが現状 その組成を下記に示す(表 2)。 であるが、今後は植物由来の材料への転換が予測さ 表 2 B 系の材料種類とその組成 配合名 でんぷん PLA ベース材 51 49 B-10 51 39 B-15 51 34 B-20 51 29 B-30 51 19 (wt%) PHBH 0 10 15 20 30 れているので、原料コストも低下してくると考えら れる。 原料コスト C 系<A 系<B 系 材料特性と原料価格の比較を下記に示す(図 1)。 ③ でんぷん+PP 添加(C 系) A 系・B 系の比較材として石油系ポリマーでは ありますが PP 添加材の作製も行った。この PP 添 加系では、加工性等の問題で従来でんぷんを 30% しか添加できていませんでしたが、開発した混練 方法を用いることで混合比率を少なくとも20%以 上は向上させることが可能となった。その組成に ついて表 3 に示す。 図 1 材料特性と原料価格の関係 表 3 C 系の材料種類とその組成 (wt%) 配合名 でんぷん PP C-30 30 70 C-40 40 60 C-50 50 50 4 結果とまとめ 射出成形性も非常に良く、植毛の際、白化や割れ 等の不具合が見られない良好な歯ブラシを作製する ことが出来るようになった(図 2)。 開発材の中でも、PBAT20%添加材が、最適である 3 実験 ことがわかった。現時点では、PP材には特性・コ 3-1 材料調製と試作評価 開発材料の混練特性を把握するため混練試験機 (ラボプラストミルS5-150東洋精機製作所製) を用 スト共に及ばないものの、CO2 排出等の環境面を考 慮すると、若干特性・コスト共に低下するが、現時 点では、PBAT 入りが最適である。 いて、材料の混合・分散性の評価を行った。次に、 材料の流動特性を把握するために、フローテスター (CFT-500C 島津製作所) を用いてメルトフローレー ト(MFR)測定を行った。これらで得られたデータを 基に、80 トン射出成形機(80MSP-2.5A 三菱重工 業製)を用いて成形試作を実施し、成形性評価と引張 試験用のテストピースを作製した。射出成形体の機 械特性を把握するために引張試験機(AUTOGRAPH AZ-100NG 島津製作所製)を用いて、強度等の特性を 評価した。これらの結果を基に、本材料に最適な金 型を作製して、40 トン射出成型機(PS40E 日精樹脂 工業製)を用いて、歯ブラシの射出成形試作を行った。 その後、植毛試験を実施した。 3-2 材料特性と原料コスト 数種類の材料を開発し、特性評価を実施して来た が、それらをまとめると下記のようになる。 引張強度 B 系<A 系<C 系 柔軟性 B 系<A 系<C 系 また、原料コストを整理すると、現時点では、使 図 2 歯ブラシ射出成形品と植毛品 5 お問い合わせ先 ネクサス株式会社 〒861-0821 熊本県玉名郡南関町下坂下 1683-4 TEL:0968-53-8181 FAX:0968-53-8677 E-mail: nexus@nexus-grp.co.jp URL:http://www.nexus-grp.co.jp
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