研究紀要第二六九号 中学校数学科 確かな学力を育てる発展的な学習 研 究 紀 要 第 269号 G3-03 中学校数学科 確かな学力を育てる発展的な学習 平成十八年二月 岡山県教育センター 平成 18 年 2 月 岡山県教育センター まえがき 国の小・中学校教育課程実施状況調査や国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2003), OECD生徒の学習到達度調査(PISA2003)の結果分析により,読解力や知識・技能を幅 広く活用する力,学ぶ意欲等が十分身に付いていない状況が明らかになり,それらの育成,向上が 課題として指摘されています。また,中央教育審議会においては,「確かな学力」「豊かな心」 「健やかな体」のバランスのとれた育成,義務教育の内容・水準の担保など,義務教育の使命の明 確化及び教育内容の改善についての検討が進められています。このような状況の中で,これからの 学校教育には,これまで以上に質の高い教育の実現を目指した取り組みが求められており,具体的 な指導方法や指導体制等の改善についての研究・実践を深めるとともに,教員一人一人が自らの資 質・指導力の向上を図ることが重要となってきます。 そこで,岡山県教育センターでは,教育に関する専門的,技術的事項の調査研究,教育関係職員 の研修,教育相談,教育情報の収集・蓄積・発信等の諸事業を通して,学校教育の支援を行ってい ます。特に,調査研究においては,国の教育改革の動向と本県の教育課題を踏まえ,幾つかの研究 主題を設定して共同研究・個人研究を行い,その成果の提供と普及に努めています。 平成15年2月に,当教育センターでは,研究紀要第242号「個性を伸ばす選択数学の学習」を発 行いたしました。先の研究は,中学校選択数学における発展的な学習について,学習の在り方,年 間指導計画,具体的な教材や指導方法を示したものです。本研究は,この研究成果と平成15年12月 の学習指導要領の一部改正を受けて行うものです。この一部改正により,学習指導要領に示してい る内容等を確実に指導した上で,生徒の実態を踏まえ,学習指導要領に示していない内容を加えて 指導したり,個に応じた指導の充実のために補充的な学習や発展的な学習などの学習活動を取り入 れた指導をしたりできることが明示されました。 中学校では,平成18年4月からこの発展的な学習の内容が盛り込まれた新しい教科書が使用され かんが ます。こうした時期を鑑 み,本研究では,中学校必修数学における発展的な学習について,その 在り方,具体的な教材や指導方法を提案しています。 御高覧の上,御意見,御批判をいただくとともに,学習指導要領の趣旨に沿う教育実践のための 資料として御活用いただければ幸いです。 終わりになりましたが,この研究を進めるに当たり,御協力をいただきました協力委員の先生方 並びに関係各位に厚くお礼申し上げます。 平成18年2月 岡山県教育センター所長 浮 田 信 明 目 次 研究の要旨 ············································································ 1 Ⅰ はじめに ·········································································· 2 Ⅱ 研究の目的 ········································································ 2 Ⅲ 研究の内容 ········································································ 2 1 発展的な学習の実施に向けての経緯 ················································ 2 2 発展的な学習の実施状況 ·························································· 3 3 生徒の数学の学力の現状 ·························································· 4 4 数学科における発展的な学習の在り方 ·············································· 5 (1) 個に応じた指導の一層の充実を図る ············································· 5 (2) 学習内容の理解を確かなものとする ············································· 5 (3) 確かな学力を育てる ··························································· 6 (4) 必修数学と選択数学の関連から ················································· 7 Ⅳ 指導事例 ·········································································· 7 ○数の集合と四則 ······················8 ○文字を用いて表そう ················· 9 ○平面をしきつめよう ··················10 ○正多面体のなぞ ····················· 11 ○指数の計算法則 ······················12 ○文字が3つある連立方程式 ··········· 13 ○グラフの違った見方 ··················14 ○正 ○円周角の定理を発展させよう ··········16 ○あることがらの起こらない確率 ······· 17 ○因数分解はパズルみたい ··············18 ○数の拡張 ··························· 19 ○やっぱり公式は便利 ··················20 ○放物線と直線の交点 ················· 21 ○比べてみよう ························22 ○いろいろな証明 ····················· 23 5 2 角形をかこう ·················· 15 Ⅴ おわりに ·········································································· 24 引用・参考文献及びWebページ ························································ 24 中 数学 研究の要旨 ・TIMSS2003 ・PISA2003 ・教育課程実 施状況調査 平成15年12月 学習指導要領の 一部改正 平成18年4月 発展的な学習を 掲載した教科書 の使用開始 学習指導要領で示されている 内容の確実な習得を目指す 十分満足できる状況(A) 発展的な学習 おおむね満足できる状況(B) 補充的な学習 努力を要する状況(C) 指導事例の提案 ○数の集合と四則 ○文字を用いて表そう ○平面をしきつめよう ○正多面体のなぞ ○指数の計算法則 ○グラフの違った見方 など16事例 日々の授業 の再考 個に応じた指導の一層の充実 -1- 研究の概要 平成15年12月の学習指導要領の一部改正で,個に応じた指導の一層の充実を図るために, 発展的な学習を取り入れた指導が例示として加わった。また,平成18年度から中学校では 改訂された教科書が使用される。そこで,本研究では,生徒の学力の実態を踏まえて,必 修数学における発展的な学習の指導のポイントを示し,中学校第1学年から第3学年まで の各学年における指導事例を提案している。 キーワード 中学校数学,確かな学力,発展的な学習,数学的な見方や考え方 Ⅰ はじめに Ⅱ 研究の目的 はぐく 生徒の「確かな学力」の育成のため,発展的な学 「生きる力」を育 むという現行学習指導要領の ねらいの一層の充実を図るため,平成15年12月,学 習指導要領の一部が改正された。学習指導要領の完 た 全実施から2年も経たない改正の主な背景は二つあ る。一つは,学習指導要領の下で,そのねらいを十 分に踏まえた指導がなされていない取り組みが見受 けられたことである。もう一つは,幾つかの学力調 査の結果から生徒の学習状況について課題が指摘さ れたことである。 一部改正のポイントは次の三つである。 習に焦点を当て,数学科における発展的な学習の在 り方及び具体的な教材や指導方法について研究する。 Ⅲ 研究の内容 1 発展的な学習の実施に向けての経緯 発展的な学習が初めて指導内容に示されたのは 選択教科である。平成10年に改訂された現行中学 校学習指導要領数学には,「指導計画の作成と内 容の取扱い」で次のように示されている1)。 ア 学習指導要領の基準性を踏まえた指導の一 5 選択教科としての「数学」においては,生 層の充実 徒の特性等に応じ多様な学習活動が展開でき イ 総合的な学習の時間の一層の充実 るよう,第2の内容その他の内容で各学校が ウ 個に応じた指導の一層の充実 定めるものについて,課題学習,作業,実 アは,学習指導要領に示しているすべての生徒に 験,調査,補充的な学習,発展的な学習など 指導する内容等を確実に指導した上で,生徒の実態 の学習活動を各学校において適切に工夫して を踏まえ,学習指導要領に示していない内容を加え 取り扱うものとする。 て指導することができることの明示である。イは, そして,発展的な学習の具体例として,中学校 総合的な学習の時間の取り組みがそのねらいを実現 学習指導要領解説数学編(平成10年12月)には, するものとなるように,学校の教育活動の中で総合 的な学習の時間の位置付けと意義を明確にすること 「 2 が無理数であることの証明を知ること」 「二次方程式の一般的な解法を理解すること」な である。ウは,個に応じた指導の充実のため,補充 どが示されている。なお,選択数学における発展 的な学習や発展的な学習などの学習活動を取り入れ 的な学習の在り方,年間指導計画,具体的な教材 た指導ができるようになったことである。 や指導方法については,「個性を伸ばす選択数学 平成18年4月からは,この学習指導要領の一部改 の学習」(平成15年2月発行,岡山県教育センタ 正を受けて,発展的な学習の内容が盛り込まれた新 ー研究紀要第242号)にまとめている。 しい教科書での指導が始まる。発展的な学習につい 発展的な学習の指導の流れが,大きく変わり始 めたのは,平成14年1月に「確かな学力の向上の ための2002アピール『学びのすすめ』」が出され て以降である。「学びのすすめ」に示された五つ の柱のうちの一つにおいて,「発展的な学習で, て,何をどのように指導していくかについては,教 師の指導力が問われるところである。 次期学習指導要領の改訂作業も進んでいる中,発 展的な学習について研究することは重要である。 −2− すか」についてである。この項目に対して中学校 一人一人の個性等に応じて子どもの力をより伸ば す」ア)と述べられている。このアピールでは,そ れまで強調されていた「ゆとりの中で生きる力を 育む」ことに代わって,「生きる力」の中の知の 側面である「確かな学力」の向上が強調されるよ うになった。同時に国の施策として,発展的な学 習を支援する教師用参考資料の作成と教科書に発 展的な学習に係る記述を可能にすることを打ち出 した。 平成14年9月に,前述の教師用参考資料として 数学担当の教師の61%から72%が肯定的な回答を している(図1)。さらに,肯定的な回答が前回 の平成13年度調査と比べて15∼20ポイント程度高 くなっており,教師の関心が高まっていることが 分かる2)。これは, 「学びのすすめ」の施策で ある学力向上フロンティアスクール事業等で,個 に応じたきめ細かな指導の一層の充実を図るとい う観点から,発展的な学習や補充的な学習などの 教材の開発,指導方法・指導体制の工夫改善につ 「個に応じた指導に関する指導資料−発展的な学 いての実践研究がされたことの成果と考えられる。 習や補充的な学習の推進−(中学校数学編)」が もう一つは,全国都道府県教育長協議会の報告 文部科学省から出された。この指導資料は,①新 書(平成16年6,7月実施)である。その中で, しい学習指導要領のねらいと個に応じた指導の充 全教科における発展的な学習の実施状況をまとめ 実,②個に応じた指導を進めるためのポイント, ている。この報告によれば,平成16年度に必修教 ③発展的な学習の展開例,④補充的な学習の展開 科の発展的な学習を年間指導計画に位置付けてい 例の4章から構成されている。③の発展的な学習 る学校の割合は28.9%であり,年間指導計画に位 について,文部科学省は,「発展的な学習は蓄積 置付けていない(状況に応じて対応している)と が十分でないので,指導内容を中心にまとめた」 した学校の割合は67.0%である。また,同報告書 と説明し,展開事例として14事例が掲載されてい の平成16年度の各学年各教科の実施状況(図2) る。 では,いずれの教科も学年進行に従って,実施率 以上のような流れの中,平成15年12月に学習指 が上昇し,数学の実施率が他教科に比較して極め 導要領の一部が改正され,個に応じた指導の一つ て高いことが分かるイ)。なお,この調査は,年間 として発展的な学習が例示された。 を通し実施したものだけでなく,ある単元の学習 本研究においても,具体的な指導事例を多く載 等の特定の時期に実施した場合も含んでいる。 せることにした。 2 発展的な学習の実施状況 (%) 述べる。一つは,平成15年度小・中学校教育課程 100 90 実施状況調査(中学校・数学)である。その中の 80 教師質問紙調査の授業の進め方に関する調査項目 70 60 発展的な学習の実施状況を二つの調査結果から の「発展的な課題を取り入れた授業を行っていま (% ) 平 成 13年 度 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 第1学年 第2学年 第3学年 50 40 30 20 平 成 15年 度 10 0 国語 社会 数学 理科 英語 図2 各学年各教科における発展的な学習の 実施状況 第 1学 年 第 2学 年 このような実施状況の中で,平成18年度から使 第 3学 年 用される教科書において,発展的な学習の内容が 図1 発展的な課題を取り入れた授業の実施 どの程度取り上げられているかは,表1に示すと 状況 −3− おりである。少ない教科書で8課題,多い教科書 づく評価と「基礎学力」「生きる力」の把握の観 で28課題と,教科書によってその取り上げ方に大 点から整理している。そこで,猿田の分類を念頭 きな差があることが分かる。 に置いて,それぞれの調査結果を見ていきたい。 表1 6社7種類の教科書の発展的な学習の課題数 B C D E F G 第1学年 5 3 6 3 6 1 1 第2学年 10 4 6 4 5 4 4 第3学年 13 4 8 8 5 3 4 合計 28 11 20 15 16 8 9 「基礎学力」の把握 TIMSS2003 小4,中2 全国調査(国際比較) 算数・数学,理科 教育課程実施状況調査 小5・6,中1∼3 全国調査(国内) 国,社・算,数,理,英 これらのことから,発展的な学習は,必修数学 PISA2003 15歳児(高1) 全国調査(国際比較) リテラシー(読解力, 数学的,科学的) において,これまで以上に多様に実施されるよう 「生きる力」の把握 になると考えられる。しかし,現在,年間指導計 図3 学力調査の特徴の分類 画に基づいて実施されている割合は低く,平成18 (猿田の分類を基に作成) 国際的な規準に 基づく評価 A 国内の規準に 基づく評価 教科書 年度から使用される教科書の取り上げ方も様々で あり,どのような教材をどのように指導していく まず,TIMSS2003の結果では,我が国の中学校 かということが,これからの課題になっていると 第2学年の数学の平均点は570点で第5位(参加 言える。 46か国/地域)であった。しかも,表2から,今 回の下がり具合が大きいことが分かる。TIMSS調 3 生徒の数学の学力の現状 査の特徴である同一問題全79題の正答率は67%で, 平成16年末から相次いで学力調査の結果が公開 され,「日本トップレベルから脱落」や「学力低 前回より4ポイント低くなっている。また,質問 下歯止めの兆し」という言葉が新聞等で飛び交っ 紙調査で「数学の勉強が楽しい」という項目に対 たことは記憶に新しい。これらの調査は実施順に して肯定的に答えた生徒の割合は前回と同じで 以下の3種類である。 39%(国際平均65%)であった3)。 ・平成15年2月実施 表2 数学の平均点の変化 国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2003) ・平成15年7月実施 OECD生徒の学習到達度調査(PISA2003) TIMSS1995 TIMSS1999 TIMSS2003 581点 579点 570点 増減 ・平成16年1∼2月実施 平成15年度小・中学校教育課程実施状況調査 −2点 −9点 次に,PISA2003の結果では,我が国の15歳の生 これらの学力調査は,基本的な調査の枠組みや 徒(高等学校第1学年)の数学的リテラシーの平 調査対象が異なっている。例えば,PISA2003の枠 均得点は534点で,前回より23点下がって6位 組みの特徴は,学校で学んだ知識や技能の定着そ (前回1位)であるが,前回の調査結果同様に世 れ自体ではなく,学んだ知識や技能が実生活の 界のトップレベル(第1位グループ)であること 様々な場面で生かせるようになっているかどうか が報告されている4)。また,質問紙調査で「数学 に焦点を当てたものである。つまり,学校の教科 を勉強しているのは楽しいからである」(調査は で扱われる一定範囲の知識の習得を超えた部分ま 今回のみ)という項目に対して肯定的に答えた生 で評価しようとしている。そのため,生徒の数学 徒の割合は26%(OECD平均38%)であった5)。 の学力の状況を総合的に分析することができる。 最後に,平成15年度小中学校教育課程実施状況 国立教育政策研究所教育課程研究センターの猿田 調査の結果についてである。前回は平成13年度に 祐嗣は,これらの調査の特徴を国内外の規準に基 実施され,旧学習指導要領の下での調査であった。 −4− 今回の調査は,現行学習指導要領の成果を問うも 成するためであった。同じように,発展的な学習 のである。加えて前述の国際学力調査の結果のこ や補充的な学習も,個に応じた指導の一層の充実 ともあり注目されていた。文部科学省は,調査結 を図り,学習指導要領に示されている内容の確実 果について,「学力の低下傾向に若干の歯止めが な習得を目指すことが大前提である。つまり,通 かかった。現場による基礎的事項の徹底の表れ 常の授業が,その後の発展的な学習や補充的な学 だ」と一定の評価をしている(平成17年4月23日 習の指導の実施を前提にして,おろそかになって 毎日新聞)。しかし,数学では,平成13年度の同 はいけない。教師は,生徒の学習状況を適切に把 調査に比べて,「数学的な表現・処理」の観点の 握して,発展的な学習や補充的な学習に取り組め 問題については改善が見られたが,「数学的な見 るようにする必要がある。 方や考え方」の観点の問題では課題があると分析 している。また,質問紙調査で「数学の勉強が好 きだ」という項目に対して肯定的に答えた生徒の 割合は45%程度で半数に満たないが,前回よりも 2∼4ポイント増えている6)。 以上のことから,生徒の数学の学力を総合的に とらえると,基礎的事項の定着など部分的には改 善されている側面があるが,自分の考えを数学的 な表現を用いて説明する力や実生活の中の課題を 数学的に解決する力が弱いことが分かる。また, 学習内容を解決する方法の理解だけでなく,数学 を更に学びたいという気持ちを育てるために数学 の楽しさを実感させる必要がある。したがって, 各種学力調査で浮き彫りにされた生徒の数学の学 力を向上させるためには,現在,積極的に行われ ている少人数指導や習熟度別指導といった指導形 態だけでなく,個に応じた指導を充実するために, 発展的な学習や補充的な学習についても,今こそ 真剣に考えるべきである。 4 数学科における発展的な学習の在り方 発展的な学習は,先の「個に応じた指導に関 する指導資料」の中で次のように定義されてい る7)。 (2) 学習内容の理解を確かなものとする 基礎的,基本的な内容を身に付けるには,学習 した事柄を繰り返し練習することが必要である。 加えて,学習した事柄が新たな問題解決場面で活 用され,問題が解決されることによって,一層確 かなものとなる。 このことを,発展的な学習としての連立三元一 次方程式を例に説明する。連立二元一次方程式は, 解き方についての十分な理解がなくても何度かの 試行錯誤を繰り返すと,二つの未知数のうちの一 つが消去され解を求めることができることがある。 しかし,連立三元一次方程式は,図4の誤答の例 のように消去しやすい未知数を消去していたので は,三つの未知数が残ることがある。つまり,三 元になると,三つの未知数のうち,どの未知数を 消去するかを決めて,それを一つずつ消去すると いう意識がなければ解くことができない。図4の 正答の例では,未知数zを消去すると決めて,x とyについての連立二元一次方程式に帰着しよう としている。このように,連立三元一次方程式を 学習することによって,この「未知数を一つずつ 消す」という基本的な考え方が一層確かなものと なる。 次の連立三元一次方程式を解きなさい。 発展的な学習とは,学習指導要領に示す内容 ⎧x + 5 y − 2z = 7 ⎪ ⎨ x − 4 y + z = −5 ⎪7 x − 3 y − z = 0 ⎩ を身に付けている生徒に対して,学習指導要領 に示す内容の理解をより深める学習を行った り,さらに進んだ内容についての学習を行った りするなどの学習指導であるといえる。 ……① ……② ……③ 誤答の例 ①−②より ②+③より ここでは,これまで述べてきたことを受けて, 幾つかの視点で発展的な学習のポイントを述べる。 (1) 個に応じた指導の一層の充実を図る 少人数指導や習熟度別指導が導入されたのは, 個に応じた指導の充実を図り「確かな学力」を育 9 y − 3 z = 12 8x − 7 y = 5 正答の例 ①+②×2より ②+③より 3 x − 3 y = −3 8x − 7 y = 5 図4 連立三元一次方程式の解き方 −5− (3) 確かな学力を育てる 「確かな学力」という言葉は,前述の「学びの すすめ」以降,使用されるようになった。平成15 年10月の中央教育審議会の答申で,「確かな学 力」を「学ぶ意欲」「思考力」「判断力」「表現 力」「問題解決能力」「知識・技能」「学び方」 「課題発見能力」の八つの要素を図示して説明し ている。これらの中で,「学ぶ意欲」や「学び 方」「問題解決能力」を育てるためには,学んだ ことを基に発展的に考える力を身に付けることが 必要になると考えられる。 発展的に考える例を,マッチ棒を規則的に並べ て,並べたマッチ棒の総数を求める問題を例に説 明してみよう。 通常の授業では,次の図のように,マッチ棒で 正方形をx個作ったときの,マッチ棒の総数を求 める。代表的な式とその考え方を簡単な図に示す。 発展的な学習では,問題の条件を変えていく。 例えば,正方形を正六角形にするとどうなるかと 考える。すると,正方形の場合と同じ考え方を使 って,マッチ棒の総数を求めることができること に気が付く。 (考え方) 6+5(x−1)=5x+1(本) このように条件を変えることで,問題と式との 関係を統合的に理解できる。実際の授業では,こ れらを基に,問題づくりをする。生徒は「下の図 のように並べたら,マッチ棒の総数はどうなるだ ろうか」と問いを発する。生徒にとっては,簡単 に解決できない課題となる。解決のために,既習 事項を総動員したり,生徒同士で意見交換したり しながら解決していくことになる。 x段 x段 x個 (考え方1) 4+3(x−1)=3x+1(本) (左上の図の場合) 段数,三角形の数,マッチ棒の総数について 対応表を考える。 (x−1)個 (考え方2) x+x+(x+1)=3x+1(本) 段数 1 2 3 4 … 三角形の数 1 3 6 10 … マッチ棒の総数 3 9 18 30 … x段になると三角形の数は x本 (x+1)本 1+2+3+……+x= x本 x(x + 1) 2 となる。 よって,マッチ棒の総数は (考え方3) 3× 4x−(x−1)=3x+1(本) x(x + 1) 2 = 3x(x + 1) 2 となる。 教師から課題を提示する場合にも,このように 生徒から問いが生まれ,その課題を学習する意義 がx個で,重複しているマッチ 棒が(x−1)本 を「なるほど」と実感できるように指導していき ここで,生徒には自分の考えた方法以外に,観 たい。 点を変えて,よりよい求め方はないか,他の求め なお,ここで説明したように代表的な発展的な 方はないかと追究させる。通常の授業でも,こう 考え方には,マッチ棒の総数を観点を変えて求め して発展的に考えることは可能である。 −6− たように観点を変更する発展的な考え方とマッチ 実な定着を図るとともに,個性を生かす教育を充 棒の並べ方を変えたように条件を変更する発展的 実するために選択教科に充てる授業時数を拡大し な考え方がある。 たことである。平成16,17年度の岡山県教育課程 さて,生徒の発展的に考える力につながると考 研究協議会の数学部会では,多くの中学校から, えられる意識や姿勢についての調査が,平成15年 必修教科で基礎・基本を中心に指導している現状 度小・中学校教育課程実施状況調査の質問紙調査 から,今後の発展的な学習についての取り組みに 8) の中にある (図5)。 不安を感じる声があった。 選択教科を計画する上では,必修教科との密接 第1学年 第3学年 第2学年 な関連が求められる。しかも選択教科はその特色 第1学年 第2学年第3学年 から,生徒の興味・関心・意欲や学習における理 解の仕方等を踏まえた柔軟な展開が求められてい 論理的に考えることができ 問3 るよう,数学を勉強したい る。したがって,必修数学における発展的な学習 では,基礎・基本の確かな定着や,数学的な見方 数学の問題を解くとき,前 に解いた問題と似ていると 問2 ころがどこかなどを考えよ うとしますか や考え方の伸長,数学への興味・関心の高まりを 中心的なねらいと考えるべきである。 ○ Ⅳ 指導事例 数学の問題が解けたとき, 問1 別な解き方を考えようとし ていますか 第1学年から第3学年までの指導事例は,次の表 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 (%) に示すとおりである。以降各指導事例をそれぞれ1 ページにまとめている。なお,単元名は啓林館の教 図5 数学の勉強にのぞむ意識及び姿勢に関す 科書によった。 る調査項目に肯定的に回答した生徒の割合 例えば,「数学の問題が解けたとき,別な解き 単元 実践例 方を考えようとしていますか」という質問項目は, 第 正の数・負の数 数の集合と四則 前述のマッチ棒の問題で,一つの考え方に満足し 1 文字の式 文字を用いて表そう ないで他の考え方を見付けようとすることに当た 学 平面図形 平面をしきつめよう る。この調査項目に肯定的に回答している生徒の 年 空間図形 正多面体のなぞ 式の計算 指数の計算法則 割合が30%程度であることは,生徒の発展的に考 える力について課題があることを示している。ま 文字が3つある連立方程 連立方程式 た,三つの調査項目において,肯定的に回答して いる生徒の割合が,学年が進むにつれて,低下し 第 ている点に注意しなければならない。本来,生徒 2 は中学校の数学の授業を通して,考える楽しさや 学 問題解決の喜びを味わっているはずである。した 年 がって,学年進行に伴って,これら三つの調査項 式 一次関数 グラフの違った見方 図形の調べ方 5 正 角形をかこう 2 図形の性質と証明 目において,肯定的に回答する生徒の割合は上昇 とを意識した指導を展開することにより,このよ うな意識や態度の改善を図ることができると考え る。そのことが,「確かな学力」の育成につなが るのではなかろうか。 (4) 必修数学と選択数学の関連から 現行中学校学習指導要領の柱の一つは,ゆとり のある教育活動を展開する中で,基礎・基本の確 −7− よう あることがらの起こらな 確率 すると考えられる。発展的に考える力を育てるこ 円周角の定理を発展させ い確率 式の展開と因数分解 因数分解はパズルみたい 第 平方根 数の拡張 3 二次方程式 やっぱり公式は便利 2 学 関数y=ax 放物線と直線の交点 年 図形と相似 比べてみよう 三平方の定理 いろいろな証明 「数の集合と四則」(第1学年:正の数・負の数) ◆教材について ④除法が可能になる数を考える。 ○中学校第1学年で初めて出会う「負の数」は数 の概念として理解に苦労する生徒は多い。これ までに学習している加法,減法,乗法,除法の ⑤自然数,整数,分数の関係を知る。 四則計算について,計算がいつでもできるため には数の範囲を広げる必要がある。この指導を ⑥授業を振り返り,数の範囲と四則計 通して,数の概念についての理解を深めたい。 算についてまとめる。 ○数の包含関係の指導と関連して,簡単な集合の 概念を導入し,自然数,整数,分数の関係を明 らかにする。また,数の拡張についての考え方 ◆問題例 ①次の□や○に自然数を入れて,計算しましょう。 は第3学年の無理数の導入に用いられる。現行 答えがいつも自然数になるものを選びましょう。 学習指導要領から高等学校の「数学Ⅰ」に統合 ア された内容である。 □+○ イ □-○ ウ □×○ エ □÷○ ②整数の範囲で,①のア~エの計算がいつでもで ◆指導上のポイント ○自然数同士の四則計算では,生徒一人一人に数 きるのはどれでしょう。 を決めさせる。そして,生徒に計算結果につい ③除法がいつでもできるようにするには,整数の て,自然数,整数,分数の判断をさせる。計算 ほかに,どのような数があればよいでしょう。 結果がいつでも自然数になるとは限らないとい ④数の範囲を,自然数の集合から整数,分数への う事実から,数を拡張する。 集合へと広げていくことと四則計算の可能性に ついてまとめましょう。 ○数を自然数,整数,分数と拡張するに従って四 分数 則計算がいつでもできるようになっていくこと 3÷5 2÷3 を実感させたい。 整数 ○整数の集合が,正の整数(自然数)と0,負の 2-3 3-5 自然数 2+3 3+5 整数を合わせたものであることを再度確認して おく必要がある。 2×3 3×5 ○数を考える際,分数の集合の中に整数を入れる ことに戸惑う生徒には,整数は1を分母とする ⑤四則計算と数の範囲について,次の表を完成し 分数と見ることができるという考え方を指導す ましょう。計算がいつでもできる場合は○,そ る。 うでない場合は×を入れましょう。ただし,除 ◆本時の流れ 法では,0で割る場合を除きます。 加 法 ①本時の目標を知る。 減 法 乗 法 除 法 自然数 ②自然数で四則計算の可能性を考える。 整 数 分 数 ◆教材を更に発展させる視点 ③整数で四則計算の可能性を考える。 ○小数と分数の関係について,小数が 0.333…… のような循環小数の場合,分数に表すことに触 れてもよい。 - 8 - 8 - 「文字を用いて表そう」(第1学年:文字の式) ◆教材について ○文字の式の単元では,その導入で,マッチ棒を 使って正方形をx個作ったときのマッチ棒の総 ③マッチ棒を使って,総数を求める問題 を作る。 数を求める活動をしている。この教材は,具体 的な操作活動を伴うため,操作活動を通してマ ッチ棒の増え方に着目しやすい。 ④各自が作った問題を紹介し,互いに問 題を解き合う。 ご ○マッチ棒や碁石を使うことにより,簡単に問題 場面を変えることができる。しかも自分で作っ た問題となると,生徒の興味・関心も高くなる。 ◆指導上のポイント ○現行学習指導要領では,aやxなどの文字を用 いた式は小学校では取り扱わないことになった。 文字の使用については苦手意識を持っている生 徒も多いので,丁寧な指導が求められている。 ⑤授業を振り返り,文字式のよさや求め 方等についてまとめる。 ◆問題例 ①図のように,マッチ棒で正方形をx個作ったと き,マッチ棒の総数を求めましょう。 早急に文字を用いて一般的に表そうとしないよ うにしたい。 ○事象の中にある数量について文字を用いて一般 ②図のように,階段状にマッチ棒を並べて,x段 的に考えることは,重要な数学的な見方や考え にしたとき,マッチ棒の総数を求めましょう。 方である。したがって,自分の作った式につい て,その理由を図と式を相互に関連付けながら 説明できるようにしたい。 ○問題例②は数量を表す式が二次式になる。小学 x段 校で,1から10までの自然数の和や1から100 までの自然数の和について学習している場合も ある。したがって,1からxまでの自然数の和 を一般化して求めることができる生徒もいる可 能性がある。しかし,ここでは,ガウスの逸話 を紹介し,1からxまでの自然数の和の求め方 ③マッチ棒を使って,①,②のような問題を作り ましょう。 (例) について考察しておくとよい。 ◆本時の流れ ④友達が作った問題を,解きましょう。 ①正方形をx個作ったときのマッチ棒の総 数を求める活動を通して目標をつかむ。 ⑤授業を振り返って学んだことや感想を書きまし ょう。 ◆教材を更に発展させる視点 ○①の問題で,正方形を三角形や五角形,立方体 ②階段状に並べたマッチ棒の総数の求め に変えたり,②のように並べ方を変えたり,求 方を考える。 めるものを周囲のマッチ棒の数や正方形の数に 変えたりすると,新しい問題へと次々に発展し て考えることができる。 --9 9- - 「平面をしきつめよう」(1年:平面図形) ◆本時の流れ ◆教材について ○図形の移動(平行移動,回転移動,対称移動) ①本時の目標を知る。 を学ぶ教材として,パズル感覚で取り組める 敷き詰めがある。数学の視点で見直すと,タ ②図形の移動について知る。 イルの床や壁などは,多角形が敷き詰められ た図形と見ることができるものが多いことに ③敷き詰めをしていく。 気が付く。図形の移動は現行の中学校学習指 導要領の改訂で削除された内容である。 ④答え合わせをする。 ○ただやみくもに図形を移動させただけでは,敷 き詰めはできない。辺の長さが等しいもの同士 を合わせるためには,どの移動を使えばよいか ⑤課題2の図を比較し気付いたこと をまとめる。 考えながら進める必要がある。図形の感覚を養 う上で,大変有効な活動となる。 ◆指導上の留意点 ⑥授業を振り返り,学んだこと等を 発表する。 ○直角二等辺三角形の敷き詰めを例に挙げ,図形 の移動について学んだ後,いろいろな形の敷き ◆教材を更に発展させる視点 ○エッシャーの作品を紹介し,様々な敷き詰めが 詰めをさせる。 ○行き詰まっている生徒には,辺の長さに着目さ あることを知らせ,挑戦させてもよい。また, せ,どのように移動すれば長さが等しい辺が合 正多角形を組み合わせた敷き詰めに発展するこ わさるのかを考えさせる。 ともできる。 ◆ワークシートの例 多角形で平面をしきつめよう 1年 組 番 <課題2>しきつめをやってみよう! 氏名 合 同 な 図 形 を 使 っ て 平 面 を し き つ め ま す 。( タ イ ル を す き 間 なく並べること)そのときに,使うのが図形の移動です。 下の図の直角二等辺三角形のしきつめで,図形の移動につ いて考えましょう。 ☆平行四辺形 ☆台形 ☆三角形 ☆四角形 ② ③ ④ ① ① → ② :「 平 行 移 動 」・ ・ ・ ① → ③ :「 回 転 移 動 」・ ・ ・ ○感想や気づいたことなど書こう。 ① → ④ :「 対 称 移 動 」・ ・ ・ -- 10 11 -- 「正多面体のなぞ」(第1学年:空間図形) ◆教材について ○正多面体は,その立体自体を美しく感じる生徒 がいる。立体を作る活動は,生徒も興味を持っ て取り組む。 ④すべての面が正三角形の場合をまとめる。 ○正多面体が,実際には5種類しかないことに驚 きを持つ生徒もいる。その理由を考えることは, すべての面が正三角形のとき 第1学年においても可能である。 頂点の面の数が三つのとき 正四面体 ◆指導上のポイント 頂点の面の数が四つのとき 正八面体 ○正多面体が5種類しかない理由を考える際には, 頂点の面の数が五つのとき 正二十面体 最初に5種類を提示しておくと,理解しやすい。 頂点の面の数が六つのとき できない 正多面体の定義から,頂点に集まる正多角形の 面の数を順序よく,整理しながら考えていくこ とがポイントになる。また,正多面体を作る過 程で,理由付けをしながら取り組ませたい。 ○考察の時間を多く取りたいので,正多面体作り ⑤面の形が,正三角形以外の場合を考える。 にはプラスチック製の正多角形の板を使用した。 ・立体を作るには一つの頂点に面が三個以 厚紙で作った正多角形を使ってもよい。 上必要である。 ○導入では「二つの正 ・正六角形以上の場合は,立体を作ること 四面体を合わせた立 ができない。 体は正多面体だろう か」と生徒に問いか けると,正多面体の ⑥調べたことをまとめる。 定義を確認するのに 有効である。 ○正三角形が一つの頂点に六つ集まって 360°に ⑦授業を振り返り,学んだこと等を なると,平面になって立体を作ることができな 発表する。 い。具体物があるために,容易に平面になるこ とに気付くことができる。 ○サッカーボールのような立体を作りたいと言う ◆教材を更に発展させる視点 生徒も出ることが予想される。 ○具体物を使って,頂点の数,辺の数,面の数の ◆本時の流れ 関係について調べ,オイラーの多面体定理に気 付かせたい。 ①本時の目標を知り,正多面体の定義を確 ※オイラーの多面体定理 認する。 (頂点の数)-(辺の数)+(面の数)=2 頂点の数 辺の数 面の数 ・どの面もみな合同な正多角形である。 正四面体 4 6 4 ・どの頂点にも,面が同じ数だけ集まっ 正六面体 8 12 6 ている。 ②正三角形を使って,正四面体以外の他の正 多面体を作る。 ・頂点の面の数に注目させる。 ・頂点の面の数が四つと五つの場合がで きたところで途中 のまとめをする。 ③頂点の面の数が六つ の場合を考える。 - 11 - 11 - 正八面体 6 12 8 正十二面体 20 30 12 正二十面体 12 30 20 ○正十二面体や正二十面体の頂点の数や辺の数を 求めるのは,具体物があっても間違いやすい。 そこで,計算で求める方法を考えさせることも 興味深い。 「指数の計算法則」(第2学年:式の計算) ◆教材について ○高等学校の「数学Ⅰ」の内容である。指数法則 は生徒にとって比較的理解しやすい。指数法則 を学習することによって,単項式の乗法・除法 についての理解を一層深めることを目標とする。 ⑥授業を振り返り,学んだこと等を 発表する。 ○指数にも,0や負の数が存在することを知り, 数の広がりを実感させるとともに,0乗が0に ならなかったり,-1乗が負の数にならなかっ ◆問題例 ①乗法 たりする数学の不思議さも体験することができ ( る。 ・a3×a5=a( ) ・a2×a7=a( ) ・x2×x4=x( ) ・x5×x9=x( ) ◆指導上のポイント ○公式化し定着することよりも,数式に含まれる 規則性に関心を持ち,規則性を見付け出す楽し さを味わわせたい。 ○その他の発展問題では,具体的な数から導くと 分かりやすい。a0,a-1について,それぞれ 20,2-1として,次の視点で考える。 )に当てはまる数を求めましょう。 ②累乗の累乗 ・(a3)2 ・(a2)3 ・(x2)4 ・(x5)2 ③除法 (視点1)23=8,22=4,21=2, 20=□,2-1=□ の流れ ・a5÷a3 ・a7÷a2 (視点2)23÷23=23-3=20=1 ・x4÷x2 ・x9÷x5 (同じ数を同じ数で割ると1になる) ○互いに問題づくりをして,計算し合う活動を取 り入れると効果的である。 ④その他の発展問題 ・a3÷a3 ・a3÷a4 ◆教材を更に発展させる視点 ◆本時の流れ ○更に発展した問題の例 ・指数が負の数の場合 ①本時の目標を知る。 (例)2-2,2-3 は,それぞれいくらになる だろうか。 ②累乗の乗法をする。 ・指数が分数の場合 1 乗は存在するか。存在するなら, 2 (例)9の ③累乗の除法をする。 それはいくらになるだろうか。 (考え方)(□○)△=□○×△を使う ④指数の計算法則を見付ける。 □○×□△=□○+△,□○÷□△=□○-△ 1 9 2 =xとする (x>0) (□○)△=□○×△ 2 1 2 x =( 9 )2 x2=9 xは2乗して9になる正の数 よって x=3 ⑤a0,a-1 について考える。 - 12 - 12 - 「文字が3つある連立方程式」(2年:連立方程式) ◆教材について ○連立二元一次方程式は,文字を一つ消去するこ とによって,一元一次方程式に帰着させて解く ことができる。この考え方のよさを,より一層 定着させるために連立三元一次方程式は有効で ある。 ○連立二元一次方程式は,一元一次方程式を基に 学習する。未知数が一つから二つへと増える過 程で,未知数が三つになった場合に興味を持つ 生徒が現れる。このような生徒の興味・関心を 生かし,連立二元一次方程式を発展させる形で, 連立三元一次方程式の学習に取り組ませるのが ねらいである。 ◆指導上のポイント ○問題例のドリンクの価格以外にも,サッカーリ ーグの勝ち点の計算(勝ち=2点,引き分け1 点,負け0点)など,3種類に分かれた価格や 得点の例が身近にあることに気付かせる。 ○連立三元一次方程式から,既習の連立二元一次 方程式を作ればよいという見通しを持って取り 組めるよう,発問などを工夫する。 ○連立一元一次方程式の解法の応用で,案外簡 単に連立三元一次方程式が解けることを体験 させ,数学の楽しさを味わわせたい。 ◆本時の流れ ◆問題例 あるファーストフード店では,S,M,Lの3種 類のサイズのドリンクを販売しています。6人で来 店したグループが,Sを3杯,Mを2杯,Lを1杯 注文したときの代金の合計は 840 円,Sを2杯,M を3杯,Lを1杯注文したときの代金の合計は 910 円,Sを3杯,Mを1杯,Lを2杯注文したときの 代金の合計は 870 円です。S,M,Lサイズそれぞ れのドリンク1杯の価格はいくらですか。 (解答例) S,M,Lの価格をそれぞれx円,y円,z円と する。 3x+2y+z=840 2x+3y+z=910 3x+y+2z=870 答 S100 円,M170 円,L200 円 ◆計算問題の例 x+y=3 y+z=1 x+z=-6 (x,y,x)=(-2,5,-4) 4x+3y+z=7 -x+2y+z=0 3x+y-z=8 (x,y,x)=(1,2,-3) x+3y-z=-4 ①問題について説明を聞く。 2x-y+z=8 -3x+y+2z=-1 (x,y,x)=(2,-1,3) ②連立三元一次方程式を立式する。 2x+5y-4z=9 -3x-2y+3z=5 ③解法を考える。 5x+4y-2z=4 (x,y,x)=(-2,5,3) ◆教材を更に発展させる視点 ○連立四元一次方程式,連立五元一次方程式と, 更に未知数を増やしていく。四元なら式が幾つ あれば方程式を解くことが可能か,五元ならど うかと考えさせる。 ○連立三元一次方程式を利用して解く文章問題を 作らせる。 ④練習問題に取り組む ⑤解法をまとめる。 ⑥授業を振り返り感想を書く。 --1313- - 「グラフの違った見方」(2年:一次関数) ◆教材について ◆本時の流れ ○ 一次関数のグラフを求めるとき,一般の式を ①本時の目標を知る。 y=ax+bとして求めていくが,ここでは x軸とy軸を入れ替えた座標平面のグラフを 考え,一般の式をx=cy+dとして求める。 ②[問1]の式を求める。 ○この内容は,高等学校の「数学Ⅲ」の内容で ある逆関数の学習につながっていく。 ③[問2]の式を求める。 ◆指導上のポイント ○[問3]の活動では,時間を十分に取りたい。 [問2]で求めた式をyについて解いたり, ④二つの式を比較する。 対応表を作ったりして,同じことを表してい ることを確かめる方法がある。生徒には,二 ⑤授業を振り返り,学んだこと等を 発表する。 つの答えが同じになることの驚きとすばらし さを感じさせたい。 ○[問2]の式を求めるとき,x軸との交点を ◆教材を更に発展させる視点 dとし,直線の傾きcを ○一次関数を「x=cy+d」としてまとめる (xの増加量) で求め,x=cy+dに当ては (yの増加量) めて,求めることができることに気付かせたい。 と,x軸切片が整数になるグラフの式を求め るときに役立つ。特に,ダイヤグラムの式を 求める活動に発展させたい。 ◆問題の例 [問1] グラフ1の直線は,ある一次関数のグラフ グラフ1 である。この関数の式を求めなさい。 [問2] このグラフをx軸とy軸を入れ替えた座標 平面上にかくと,グラフ2のようになる。 この関数の式を求めなさい。 グラフ2 [問3] 2つの答えを比べてみよう。 --1414 - - 5 2 「正 角形をかこう」(2年:図形の調べ方) ◆教材について ② 「 180 ° × ( n - 2 ) ÷ n 」 の 意 味 を 考 ○「多角形の内角の和」を発展的に取り扱った 教材である。正n角形の一つの内角は, 5 え,n= を代入して,内角を求める。 2 「180°×(n-2)÷n」で求めることがで きる。その値を,線分の回転角と見ることが 新しい見方である。 ③ 一つの内角の大きさが36°の正多角形がど ○正n角形のnに当てはめる数値を自然数から んな図形か考え,作図する。 分数に拡張することで,図形に対する見方や 考え方を広げ,統合的に見ることができる。 ④ 既習の正多角形との共通点や相違点を考察 ◆指導上のポイント する。 ○回転角という考え方を説明するために,既習 の正三角形や正方形を例に説明するとよい。 ⑤正 作図の時間は十分に取り,追究の楽しさと完 成したときの喜びを味わわせたい。 8 角形を作図する。 3 ○作図した図形が,長さの等しい5本の辺と大 ⑥本時のまとめをする。 きさの等しい五つの角からなることに注目し, 辺が交わるものの,正多角形の定義「内角の ◆教材を更に発展させる視点 大きさがすべて等しく,同じ長さの辺で囲ま ○正 5/2 角形は,「円周上に等間隔に五つの点 れた図形」をほぼ満たしていることを確認す をとり,一つとばしに(基準から2番目ごと る。図形に対する見方や考え方を広げること に)結んでいく」と作図できること,正 8/3 がねらいなので,それ以上は定義にこだわら 角形は,「円周上に等間隔に八つの点とり, ない。 二つとばしに(基準から3番目ごとに)結ん ◆本時の流れ でいく」と作図できることを試させ,分母や 分子の表す意味を考えさせることができる。 ※この実践例は,「個に応じた指導に関する指導資 ①本時の目標を知る。 料-発展的な学習や補充的な学習の推進-(中 学校数学編)」を基にした。 ◆ワークシートの例 発展的な学習 5 「正-角形を作図しよう」 (2年:図形の調べ方) 2 2年 組 番 8 正-角形を作図しましょう。 3 4 氏名 1 「180°×(n-2)÷n」の意味を考えましょう。 2 5 正-角形の一つの内角の大きさを求めましょう。 2 発展課題 ・ (1) 3 ・ 5 正-角形を作図しましょう。 2 ・ - -1515 - - (2) ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「円周角の定理を発展させよう」(第2学年:図形の性質と証明) ◆教材について ◆準備物 ○図形の性質と証明の単元で,円周角の定理を ・三角定規,竹ひご,セロハンテープ 学ぶ。円周角の定理を確認するとき,画びょ うと三角定規を使うことがある。三角定規の 画びょう(安全に注意) ◆本時の流れ 動きを少し工夫することによって,更に他の ①円周角の定理を復習し,本時の目標 を知る。 定理まで発展することができる。 ○図形を動的にとらえることで,様々な定理に はつながりがあることに気付かせることがで ②三角定規で確認する。 きる。接弦定理や円に内接する四角形の性質 は,現行学習指導要領から高等学校の「数学 A」に統合された内容である。 ③竹ひごを付けて教具を作り,範囲を広 げる。 ◆指導上のポイント ○三角定規を操作して,円周角の定理を簡単に示 した後,コンピュータを使って詳しく説明し理 ④接弦定理,円に内接する四角形の性質 について考える。 解を助けるようにする。 ○三角定規を操作して,「円周角の定理」「接 弦定理」「円に内接する四角形の性質」が, ⑤授業を振り返り感想を書く。 それぞれの関連したものとして統合して理解 ◆教材を更に発展させる視点 できるようにする。 ○理解の進んだ生徒には,「接弦定理」や「円 ○図形ソフトの軌跡機能を使うことで,円周角 に内接する四角形の性質」について,「円周 の定理の逆から発展し,円全体の軌跡をかく 角の定理」を使って証明させる。 ことができる。コンパス以外で円をかく方法 として紹介すると興味が高まる。 ◆教具の使用例 円周角の定理 接弦定理 円に内接する 四角形の性質 60° 60° 60° 60° 60° 60° - 16 - 16 - 「あることがらの起こらない確率」(第2学年:確率) ◆教材について ◆本時の流れ ○確率を余事象の考え(事柄Aの起こる確率をp ①本時の目標を知る。 とすると,Aの起こらない確率=1-p)によ って求めることをねらいとする。現行学習指導 ② ある事柄について,「起こる確率」と「起こ らない確率」とをそれぞれ求める。 要領から高等学校の「数学A」に統合された内 容である。 ◆指導上のポイント ○ある事柄が「起こる確率」と「起こらない確 ③ ある事柄が「起こる確率」と「起こらない確 率」との関係を考える。 率」とを,同時に求めさせることによって,そ の関係に気付かせる。 ○余事象の考えを使って確率を求めることの便利 ④練習問題に取り組む。 さを体験させることで,確率の学習への興味・ 関心を高めたい。 ⑤教師のまとめを聞く。 ○確率を求める場合には,次の3点を確実に押さ ◆教材を更に発展させる視点 えておきたい。 ・起こり得るすべての場合の数を求めること ○余事象の考えを使って確率を求める問題(例え ・そのどれが起こることも同様に確からしいこ ば,二つのさいころを投げるとき)を生徒に作 と らせ,学級で取り組むことによって,学習内容 ・求める事柄の起こる場合の数を求めること を更に発展させることができる。 ◆ワークシートの例 発展的な学習 「あることがらの起こらない確率」 (2年:確率) 2年 1 組 番 3 あるくじを1本ひくとき,当たる確率が‘ならば,当たらな い確率はいくらかを求めましょう。 4 3枚の 10 円硬貨を同時に投げるとき,少なくとも1枚は表 が出る確率を,工夫して求めましょう。 氏名 一つのさいころを投げるとき, (1)①5の目が出る確率を求めましょう。 ②5の目が出ない確率を求めましょう。 (2)①3の倍数の目が出る確率を求めましょう。 ②3の倍数の目が出ない確率を求めましょう。 2 あることがらが「起こる確率」と「起こらない確率」の関係 を考えましょう。 チャレンジ 「あることがらの起こらない確率」の考えを利用して考える確 率の問題をつくりましょう。 - 17 - 17 - 「因数分解はパズルみたい」(第3学年:式の展開と因数分解) ◆教材について ○因数分解の問題を考えることは,パズル的な面 ⑤たすき掛けの因数分解をする。 白さがある。出題の意図を正確にとらえて因数 分解ができたときには,単に計算問題を解いた ときには得られない喜びがある。ここではより ⑥その他の発展問題を解く。 高度な因数分解に挑戦し,その喜びを味わわせ たい。 ⑦教師のまとめを聞く。 ○内容は,現行学習指導要領から高等学校の「数 学Ⅰ」に統合された置き換えを利用するタイプ のほか,次数の低い文字について整理するタイ プ,たすき掛けタイプの因数分解を扱う。 ◆指導上のポイント ○むやみに難易度を上げないように配慮する。習 熟させることではなく,新しいタイプの因数分 解ができた喜びを感じさせることを目的にした い。 ○置き換えて考える方法は,複雑な式も単純化す ◆問題例 ①復習問題 ・6mx-2nx ・x2+7x+6 ・x2-3x-28 ・a2-12a+36 ・a2-4 ・3x2+18x-48 ②置き換えを利用する因数分解 ・(x+y)2+3(x+y)+2 ・(a+b)2-81 ることで,解決の糸口が見付けやすくなる。多 ・(x-y)2-6(x-y)+9 くの問題は,こうした新しい解き方を使えば確 ・a(x-1)+2(x-1) ③次数の低い文字について整理する因数分解 実に解決できる程度の式を取り扱う。 ○たすき掛けタイプの因数分解は,他の二つのタ ・x2-2a+2ax-x イプに比べて生徒にとってのハードルが極端に ・ab+a+b+1 高くなるので,生徒の状況で判断したい。 ・2a-3m+ma-6 ○問題を解くのにかなりの時間を要することもあ り,問題数や因数分解のタイプを絞る必要があ る。少人数による習熟度別学習を利用する方法 も考えられる。 ◆本時の流れ ・a2+ab+ac+bc+a+b ④たすき掛けの因数分解 ・2x2+3x+1 ・3x2+10x+3 ・3x2+7x+2 ・2x2-x-1 ⑤その他の発展問題 ①本時の目標を知る。 ・x2+4xy+4y2-25 ・x4-5x2+4 ②復習問題を解く。 ・(x+y)(x+y-5)-24 ◆教材を更に発展させる視点 ○上記のタイプの次数や項の数,文字数を増やし ③置き換えを利用する因数分解をする。 たり,複合型の問題を考えたりすることで,更 ④次数の低い文字について整理する因数分解を に発展させることができる。高等学校で学習す る内容に発展させることもできるが,生徒の実 する。 態に即した内容にしたい。 - 18 - 19 - 「数の拡張」(第3学年:平方根) ◆教材について ◆本時の流れ ○第3学年までに拡張してきた数についての総ま とめの学習である。根号を使った数をこれまで ①本時の目標を知る。 に学んだ数と関連付けながらその必要性を再認 識するとともに,数の拡張を実感し,数の概念 ②根号を使った数と既に学んでき の理解を一層深めることを目標とする。 た数との関連を考える。 ○内容は,根号を使った数と既に学んだ数との関 連,数の包含関係,小数と有理数・無理数との 関連を理解することを扱う。現行学習指導要領 ③数の包含関係を考える。 から高等学校の「数学Ⅰ」に移行された内容で ある。 ④小数との関連を考える。 ◆指導上のポイント ○講義形式になりがちな内容であるが,時間を十 ⑤授業を振り返り,感想や学んだ 分に取って生徒に考えさせ,その考えを生かし ことをまとめる。 ながら進めたい。 ◆教材を更に発展させる視点 ○「平方根」の学習がすべて終了し,十分に習熟 ○x2=-2を成り立たせることができるxの値 した時点で,本時を展開する。 を考えることで,数を虚数にまで拡張させるこ ○ワークシートの問3の「 2 は分数では表せな とは比較的容易にできる。 い」ことを背理法を利用して証明する考え方が ○虚数,背理法について扱うことで,数学的な見 大切であり,記述の仕方にはここではこだわら 方や考え方に触れることができ,そのよさを実 ない。 感することができる。 ◆ワークシートの例 発展的な学習「数の拡張」(3年:平方根) 3年 組 番 氏名 ・分数の形で表すことができる数を ・分数の形で表すことができない数を s 4 【 1 2 という。 という。 有理数,無理数,整数,自然数の包含関係をベン図で表してみよう。 は,今までに学習した数と違うのだろうか?】 2 は整数(自然数)ではないのだろうか。 5 2 2 は小数では表せないのだろうか。 3 2 は分数では表せないのだろうか。 有理数,無理数,整数,自然数と小数の関係を調べてみよう。 小数には, 6 -- 19 19- - , この時間の感想をまとめましょう。 , があります。 「やっぱり公式は便利」(第3学年:二次方程式) ◆教材について ○計算力の差が大きく影響するので,グループ 学習によって教え合える状況を作ったり,追 ○二次方程式の解法には,①因数分解による方法, 加の練習問題を用意したりする必要がある。 ②平方根の考えを利用する方法,③解の公式を ◆本時の流れ 利用する方法の三つがある。①,②の二つの方 法ですべての二次方程式は解けるが,③は②の ①本時の目標を知る。 煩雑な計算を軽減する便利なものである。形式 的な処理,公式化という数学的な見方や考え方 ②復習問題を解く。 のよさを知ることができる絶好の教材である。 ○解の公式を用いる二次方程式として,単に代入 して計算するだけの問題,平方根の部分の処理 ③解法②を一般化して,解の公式を知る。 として根号が外れたり根号の中の数が簡単にな ったりする問題を扱う。 ④練習問題を解く。 ◆指導上のポイント ○解の公式ができるまでの式の変形の過程の理 ⑤授業を振り返り,学んだこと等を発表 解や解の公式の計算の習熟ではなく,公式を する。 実際に活用すること,解法②との比較により ◆教材を更に発展させる視点 公式の有用性を実感することを指導の重点に ○ax2+bx+c=0の基本形に整理してから 置く。 ○公式を導く際には,係数が数字の問題と係数が 解の公式を利用する問題や,係数が分数や小 文字の問題を黒板の左右に比較しやすいように 数の問題などに発展することができる。 解くなど工夫したい。 ◆ワークシートの例 発展的な学習「やっぱり公式は便利!」 (3年:二次方程式) 二次方程式 ax2+bx+c=0 の解は,x= 3年 組 番 氏名 s 4 【二次方程式の解き方を極めよう!】 1 3x2+7x+1=0 (2) x2-5x+3=0 (3) 2x2-3x-2=0 (4) 3x2-4x-1=0 次の二次方程式を解きなさい。(復習) (1) 2 次の二次方程式を解きなさい。 (1) x2 +3x-10=0 平方完成を利用して,下の 方程式を解いてみよう。 2x2+5x+1=0 (2) 3 x2 +4x-10=0 2を参考にして,解の公式を導い てみよう。 ax2+bx+c=0 --2820- - 「放物線と直線の交点」(第3学年:関数y=ax2) ◆教材について ○単に連立方程式を解くだけでなく,グラフを かいて「交点の座標と連立方程式の解」の関係 ○第2学年において,座標平面上における2直線 を実感させるようにする。 の交点の座標は,その2直線を表す式の連立方 ◆本時の流れ 程式の解に一致することを学習している。ここ では,放物線と直線の交点の座標も同じ方法で ①本時の目標を知る。 求められることを目指す。 ○放物線と直線の交点は2個,1個,0個の3通 ②交点の座標が2個の場合について,交点の座 りあり,それぞれの場合について連立方程式の 標と連立方程式の解を比べる。 解を考えることで,交点の個数と連立方程式の 解の関係に気付かせたい。 ③交点の座標が1個,0個の場合について,連 ◆指導上のポイント 立方程式の解から交点を予想する。 ○交点の座標を求められるだけではなく,直線と 直線,放物線と直線のいずれの場合にも,「交 点の座標と連立方程式の解が一致する」という ④分かったことをまとめる。 共通する考え方の存在を意識させる。 ○二元二次方程式と二元一次方程式の連立方程式 ⑤授業を振り返り感想を書く。 を初めて解くことになるが,ここでも第2学年 ◆教材を更に発展させる視点 で学習した「文字を一つ消去する」という共通 する考え方を意識させたり,代入法が有効であ ○交点の数と連立方程式の解の関係について, ることを実感させたりしたい。 二次方程式の解の判別式の利用にまで発展さ せることができる。 ◆ワークシートの例 発展的な学習「放物線と直線」(3年:関数) 3年 組 番 氏名 【放物線と直線の交点の座標を求めてみよう!】 1 s 5 連立方程式 y=x2 y=x+2 を解き,これらのグラフの交点について予想し なさい。そして,予想したことを右の グラフ用紙で確かめなさい。 右のグラフ用紙に関数 y=x2 と y=-x+2 のグラフをかきなさい。 2 グラフの交点の座標を読み取りなさ い。 6 3 計算で交点の座標を求めなさい。 4 分かったことをまとめてみましょう。 連立方程式 y=x2 を解き,これらのグラフの交点について予想し y=2x-1 なさい。 7 分かったことをまとめてみましょう。 --2821- - 「比べてみよう」(第3学年:図形と相似) ◆教材について ◆本時の流れ ○図形と相似の単元では,相似な多角形について ①本時の目標を知る。 学習する。身の回りには相似な図形が多くある。 この授業では,相似な多面体についても取扱い, 面積や体積などを比較して,相似比との関係を ②面積の比を考える。 調べていく。 ○相似な図形として,まず長方形(三角形)と直 ③2乗になる理由を考える。 方体を扱うことで,「縦(高さ)」と「横(底 辺)」と「高さ」に着目させていく。高校で学 習する「xyz空間」の考え方につなげていき ④体積の比を考える。 たい。 ◆指導上のポイント ⑤3乗になる理由を考える。 ○導入で,身の回りにある相似な模型を提示し, 体積が何倍になっているか予想させるとよい。 平面図形はイメージを持ちやすく,空間図形 ⑥練習問題をし,感想を書く。 は具体物があることによって理解を助けるこ ◆教材を更に発展させる視点 とができる。 ○周の長さの比や表面積の比を考えさせてもよ ○面積や体積の計算では,丁寧に式を書かせて, い。また,「cm」「cm 2 」「cm 3 」などの単位 式を比べるようにさせる。 ○図中の各辺に色ペンで印を付けさせることで, についても扱うと,より理解が深まると思わ 図形の広がりを意識させる。 れる。 ◆ワークシートの例 発展的な学習「比べてみよう 」(3年:図形と相似) 3年 【面積の比】 【体積の比】 問題1 問題4 下のような相似比が1:2の長方形(三角形)がある。面積の比はどうなる 組 番 氏名 下のような相似比が1:3の直方体がある。体積の比はどうなるだろうか? だろうか? 2cm 3cm 4cm 6cm 面積の比 問題2 面積の比 相似比が2:3の長方形(三角形)では面積の比はどうなるだろうか? 体積の比 体積の比は相似比を 問題5 面積の比 面積の比は相似比を 問題3 そのようになる理由を考えてみよう 。(問題4を例に説明しよう 。) 面積の比 した比になりそうだ。 そのようになる理由を考えてみよう 。(問題1を例に説明しよう 。) ◆気付いたことや感想を書こう。 -- 22 22- - した比になりそうだ 。 「いろいろな証明」(第3学年:三平方の定理) ②ア ◆教材について a ○三平方の定理は直角三角形の三辺の長さの関係 a を示しており,活用範囲が大変広い有名な定理 c c である。数学の歴史に触れることができ,更に b b b b 数学が持つ「美しさ」を示していることからも, a a 中学校数学を代表する定理であると言える。こ こでは,この三平方の定理の様々な証明を考え ヒント:三角形を移動させてみましょう。 させたい。 イ ○数多く発見されている証明のうち,中学生にも 理解できるものを数種類用意し,図をヒントに c b 三平方の定理を証明させる。 ◆指導上のポイント a ○証明できそうなものを生徒に自由に選ばせ,で ヒント:太枠の中で四つの三角形を並べ替えて きるだけ多くの証明を考えさせたい。図を難易 みましょう。 度順に並べたり,更にヒントを与えたりしなが ウ ら,数学が苦手な生徒にも幾つかの証明を完成 c a させたい。 b ◆本時の流れ ヒント:三角形と正方形を並べ替えてみましょ ①本時の目標を知る。 う。 ③ ヒント:相似な三角形の a b ②学習課題を知る。 相似比を考えてみ ましょう。 c ③図を選び,証明方法を考える。 ④ア イ ④できた証明を個別に確認する。 a b c ⑤授業を振り返り,感想を発表し合う。 ◆学習課題例 ①ア イ a b c ヒント:塗りつぶした図形の面積が等しいことを利 用してみましょう。 c c b a b a ウ ヒント:全体の面積を二 b c つの方法で示して みましょう。 a -- 23 23 - - ◆教材を更に発展させる視点 ○三平方の定理の証明は100通り以上もあると言 われており,上記以外にも多数ある。また,④ の図において,1辺の長さがa,bの正方形を切 り分けた図形で,1辺の長さが cの正方形を埋 めることもできる。 べての生徒に発展的な学習を経験させ発展的な見方 Ⅴ おわりに や考え方を育てるべきであるといった意見も出てい 本研究では,中学校必修数学における発展的な学 る。今後の動向を見守りたい。 習の在り方について研究し,指導事例を提案した。 必修数学での発展的な学習の研究を通して,最も 平成18年度から使用される数学の教科書には,発 重要であると感じたことは,日々の授業の再考であ 展的な学習については,全員が一律に学習する内容 る。本来数学は,指導内容が系統性を持っている。 ではないことが明記されている。したがって,発展 したがって,年間計画や授業の展開を考える際に, 的な学習は,単元の終末で評価規準に照らして,次 必修数学の内容を発展的に構成していくことは可能 の図のような観点で補充的な学習と並行して指導し である。その授業を通して,生徒は発展的な考え方 ていくのが現実的である。 を身に付けていく。生徒自らが内容や考え方を発展 させることは,学び方を育てることにつながる。そ して,生徒は新たな課題を見付け,その課題解決に 十分満足できる状況(A) 発展的な学習 向けて取り組む。これら一連の過程で,生徒は数学 おおむね満足できる状況(B) のすばらしさ,数学を学ぶことの楽しさを実感して 補充的な学習 いくであろう。日々の授業を再考することが発展的 努力を要する状況(C) な学習を指導する際のキーポイントである。 しかし,数学の教師の願いは,授業を進める過程 なお,御多忙中にもかかわらず,本研究の協力委 で,生徒から発展的な学習をやってみたいという声 員をお引き受けいただいた先生方に,心から感謝の を聞きたいことではなかろうか。現在,次期学習指 意を申し上げる。 導要領の改訂作業が進む中で,中央教育審議会の算 最後に,本研究が,生徒の「確かな学力」を育て 数・数学専門部会では,発展的な学習の必要性やす る一助になることを願って,研究のまとめとしたい。 ○ 1) 2) 3) 4) 5) 6) 7) 8) ○ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ○ ア) イ) 引用文献 文部省:中学校学習指導要領解説数学編,大阪書籍,p.128,1999 文部科学省:平成15年度小・中学校教育課程実施状況調査(中学校・数学),p.7,2003 文部科学省:TIMSS2003の結果について(数学・中学校第2学年),p.1,p.10,2005 文部科学省:PISA2003の結果について(数学的リテラシー),p.1,2005 国立教育政策研究所:生きるための知識と技能2,ぎょうせい,p.127,2004 文部科学省:2)前掲書,p.5 個に応じた指導に関する指導資料(中学校数学編),教育出版,p.12,2002, 文部科学省:2)前掲書,p.6 主な参考文献 文部省:中学校学習指導要領解説数学編,大阪書籍,1999 文部科学省:中学校学習指導要領(平成10年12月)解説総則編平成16年3月一部補訂,東京書籍,2004 青山庸:多面的にものを見る力 論理的に考える力を育てる数学の授業,東洋館出版社,2004 根本博:数学教育の挑戦,東洋館出版社,2004 磯田正美:確かな学力を育てる数学科の学習指導(中学1∼3年編),明治図書,2005 猿田祐嗣:岡山県教育センター所員研修会資料「国際学力調査に見る日本の学力の現状と指導法の改 善」,2005年4月19日 国立教育政策研究所:算数・数学教育の国際比較,ぎょうせい,2005 Webページ 文部科学省:確かな学力の向上のための2002アピール (http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/01/020107.htm) 全国都道府県教育委員会連合会:「学習指導要領の一部改正等」の内容に関する取組について (http://www.kyoi-ren.gr.jp/report/h161bukaihoukokusyo.pdf) - −8− 24 - FAX 用紙(所員研究係行き) 岡山県教育センター研究紀要をお読みくださり,ありがとうございました。皆様の御意見を,今後の 所員研究や学校支援の改善のための参考とさせていただきますので, 次のアンケートに御協力ください。 岡山県教育センター研究紀要に関するアンケート 研究紀要第269号 中学校数学科 確かな学力を育てる発展的な学習 1 あなたの所属はどちらですか。 県内:小学校,中学校,高校,盲・聾・養護学校,大学,教育機関,その他( 県外:小学校,中学校,高校,盲・聾・養護学校,大学,教育機関,その他( ) ) 2 本書を何で知りましたか。 (a)岡山県教育センターからの送付 (c)岡山県教育センターの Web ページ (e)岡山県教育センター所員研究成果発表会 (g)その他( (b)岡山県教育センターの所報 (d)岡山県教育センターの研修講座 (f)他の先生等からの紹介 ) 3 本書の内容についての御意見・御感想をお聞かせください。 (1)よかった点,教育実践に役立つと思われる点について記述してください。 (2)工夫,改善すべき点について記述してください。 4 中学校数学に関する研究に,今後どのような内容を取り上げてほしいですか。 御協力ありがとうございました。 このページの写しをファクシミリで下記までお送りください。 FAX 086-272-1207 岡山県教育センター所員研究係 平成16・17年度岡山県教育センター個人研究 中学校数学協力委員会 協力委員 森田 圭一 岡山県立岡山操山中学校教諭 佐藤 俊行 岡山市立操南中学校教諭 林 岡山市立灘崎中学校教諭 俊雄 なお,岡山県教育センターでは,次の者が本研究に当たった。 大月 一泰 教育経営部指導主事 平成18年2月発行 研究紀要第269号 中学校数学科 確かな学力を育てる発展的な学習 編集兼発行所 岡山県教育センター 〒703-8278 岡山市古京町二丁目2番14号 TEL(086)272-1205 FAX(086)272-1207 URL http://www.edu-c.pref.okayama.jp/ E-Mail kyoikuse@pref.okayama.jp C 2006 Okayama Prefectural Education Center Copyright ○
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