2 細胞期胚のガラス化保存と個体復元 (財)実験動物中央研究所 江藤智生、日置恭司 タイムスケジュール 2細胞期胚の採卵とガラス化保存 第 1 日目(午後 13:00 以降) 性成熟に達したメスをオスと同居する。 第 2 日目(午前 9:00~11:00) プラグ確認と膣垢検査(性周期と精子進入)を行う。 第 3 日目(午前 9:00~12:00) 2細胞期胚の採取とガラス化保存を行う。 個体復元 第 1 日目(午後 13:00~) 性成熟に達したメスを精管結紮したオスと同居する。 第 2 日目(午前 9:00~11:00) プラグ確認と膣垢検査を行う。 第 2 日目(午前 9:00~12:00) 保存した2細胞期胚を加温して卵管内移植する。 第 25 日目(午後) 自然出産しない場合、帝王切開を行う。 * 動物室:ライトサイクル(明期 8:00~20:00)、湿度 55±5%、温度 22±1℃。 1. 溶液の調整 準備 DMSO、Acetamide、Propylene glycol、Sucrose、 表1.PB1の組成 試薬 100 mL PB1、混合ガス、フィルターシステム、 NaCl 800.0 mg ストレージボトル、アンプル熔閉器。 KCl 20.0 ㎎ CaCl2 12.0 ㎎ PB1 の作製 KH2PO4 20.0 ㎎ 1. MgCl2・6H2O 10.0 ㎎ 蒸留水 100mL に[表1]の上から順に ペニシリンまで試薬を溶解する。 Na2HPO4 2. 混合ガスで 15 分間バブリングを行う。 Na-pyrubate 3. BSA を 3mg/mL 加えて溶解するまで静置する。 Glucose 4. 0.22μm のフィルターで濾過滅菌する。 Penicillin G BSA 前処置液(1M DMSO in PB1)の作製 1. 92.2mL の PB1 に 7.8Ml の DMSO を入れて混和する。 3 115.0 ㎎ 3.6 ㎎ 100.0 ㎎ 7.5 ㎎ 300.0 ㎎ ガラス化保存液(DAP213)の作製 表2. A液の組成 試薬 1. A 液を調整する[表 2]。 2. B 液を調整して[表 3]0.22μm のフィルターで 濾過滅菌する。 3. A 液と B 液を 1:1 で混合する。 希釈液(0.25mol Sucrose in PB1)の作製 1. 100mL の PB1 に 18.56g の Sucrose を溶解して、0.22 23.1 mL Propylene glycol 45.6 mL DMSO 31.3 mL 表3.B液の組成 試薬 100 mL 11.0814 mg in PB1 溶液の長期保存 1. PB1 Acetamide μm のフィルターで濾過滅菌する。 100 mL 乾熱滅菌したガラスアンプルに溶液を分注して、混合ガスを注入した後に熔閉する。 2. 4℃暗所で約 1 年間保存できる。 2.膣垢の検査 準備 ギムザ染色液、スライドグラス、綿棒、水を入れた容器、倒立顕微鏡(×40~100) 方法 1. 交配翌朝に雌ラットを分離する。 2. 綿棒に水を浸し、膣垢を採取する。 3. 綿棒についた膣垢をスライドグラスに塗沫する。 4. スライドグラスを風乾した後、ギムザ染色をおこなう。 4. 倒立顕微鏡下で観察。レシピエントには発情期(図 1)の個体を使用する。 採卵には発情期と精子進入(図 1)を確認した個体を用いる。 3.2細胞期胚の採取 準備 PB1、ヒアルロニターゼ、ミネラルオイル、灌流針、1mL シリンジ、35mm シャーレ、採卵ピペット、 マウスピース、ピペットホルダー、滅菌ろ紙、ピンセット(A-5、A-7、No.5)、ハサミ(B5-H、B12H)、 実体顕微鏡、ホットプレート(37℃)、炭酸ガスインキュベーター(37℃、5%CO2、95%Air)。 方法 1. シャーレに PB1 のドロップを作りミネラルオイルで覆う(図2)。 1mL シリンジに PB1 を吸引して灌流針を取り付ける。これらを 30 分以上インキュベーター内で静置する。 2. ヒアルロニターゼを 1mg/mL の濃度で PB1 に溶解して、H-ase 液を作製する。溶液は、30 分以上インキュベーターで静置す る。 4 3. 交尾確認翌日の雌ラットから卵管と子宮を摘出してホット プレート上のろ紙にのせる。 4. 付着した組織液や血液を取り除き卵管のみ切り取り PB1 の ドロップ A に入れる。 5. 卵管を 1 つドロップ B に入れて卵管灌流をおこなう。 次いでもう1つの卵管も同様に処置する。 6. 胚に卵丘細胞が付着している場合は、H-ase 液をドロップ B に入れて除去する。 7. 灌流により得られた 2 細胞期胚をドロップ C~E に順に移しながら洗浄する。 4.2細胞期胚のガラス化保存と加温 1) ガラス化保存 準備 前処置液、 ガラス化保存液、液体窒素、クライオチューブ、プラスチックシャーレ、採卵ピペッ ト、マウスピース、ピペットホルダー、ピペットマン(P10、P100)、フィルターチップ、クラッシュア イス、ジュワー瓶 方法 1. 前処置液を室温で暖める。 ガラス化保存液はクラッシュアイスで冷却する。 2. シャーレの蓋に約 100μL の前処置液のドロップを2つ作製する。 3. 1つめのドロップに2細胞期胚を入れる。 4. 2細胞期胚がドロップ中で浮いた後にシャーレ 底面に沈む(図3)。 5. 2つ目のドロップに2細胞期胚を移した後、 ピペットマンで 5μL の前処置液と共に胚 をクライオチューブに移す。 6. 1つ目のドロップに 2 細胞期胚を入れてから約 5 分後、胚が入ったクライオチューブをクラッ シュアイスで冷却する。 7. 冷却 1 分後、95μL のガラス化保存液をクライオチューブに入れる。 8. 1 分後クライオチューブを液体窒素に入れて冷却する。 2) 加温 準備 PB1、ミネラルオイル、希釈液、シャーレ、採卵ピペット、マウスピース、ピペットホルダー、ピペット マン(P1000)、炭酸ガスインキュベーター(37℃、5%CO2、95%Air)。 5 方法 1. シャーレに 50μL の PB1 のドロップを 4 つ作り、ミネラルオイルで覆う。ドロップを作製したシ ャーレと希釈液をインキュベートする。 2. クライオチューブを液体窒素から室温下へ移動する。 3. ピペットマンに 900μL の希釈液を吸う。 4. 約 1~1.5min 後ガラス化面が白濁を始めた時点で、希釈液をチューブ内に入れて直ちに 5~ 10 回攪拌する。 5. シャーレの蓋にクライオチューブ内の溶液を移す。 6. 実体顕微鏡下で2細胞期胚を収集する。 7. PB1 の 1 つ目のドロップ底面に胚をゆっくりと移してそのまま静置する。 8. 2 分後に 2~3 番目のドロップに 2 細胞期胚を移動しながら洗浄する。 9. 生存胚を回収して卵管移植に用いる。 5.個体復元 1) 精管結紮 準備 ネンブタール(生理食塩水3倍希釈)、ハサミ(B-5H)、毛刈ハサミ(-2)、ピンセット(A-1、A-5、 結紮焼切用)、ピンセット曲(A-14)、ピンセット(A-5)、オートクリップ、ノエス尖剪、縫合針、炭 酸ガスインキュベーター(37℃、5%CO2、95%Air) 動物 クローズドコロニーの5週齢オスを使用。外部から導入する場合は、1週間の順化期間の後に手 術を行う。 方法 1, 雄ラットにネンブタール希釈液(表4)を腹腔内投与する。 十分に麻酔がかかった事を確認してから以下の作業に移る。 2. 腹部を毛刈りした後、正中に合わせて腹部の表皮を切開する。 3. 左部分の内皮と外皮をハサミで剥離したのち左内皮を縦に切開する。 4. 片側の脂肪をピンセットで掴んで、精巣と精巣上体尾部を滅菌ガーゼ上に摘み出す。 5. 精巣上体尾部以降の輸精管(曲部)を加熱したピンセットで焼き切る。 6. もう片側も同様に処置する。 7. 内皮を縫合糸で縫合する。外部をオートクリップでとめて麻酔が覚めるまで保温する。 8. 手術2週間後に雌と交配して不妊の確認を行う。 6 2) 胚の卵管内移植 準備 PB1、ネンブタール(生理食塩水3倍希釈)、エピネフィリン(生理食塩水3倍希釈)、採卵ピペッ ト、移植ピペット、シャーレ、マウスピース、ピペットホルダー、ハサミ(B-5H)、毛刈ハサミ (B-2)、ピンセット(A-1、No.5)、ピンセット曲(A-14)、止血クレンメ(40mm)、オートクリップ、ノエ ス尖剪、炭酸ガスインキュベーター(37℃、5%CO2、95%Air) 方法 1. 雌ラットにネンブタール希釈液(表4)を腹腔内投与する。 十分に麻酔がかかった事を確認してから以下の作業に移る。 2. 背部を毛刈りした後、正中に合わせて背部表皮を切開する。 3. ピンセットで脂肪を掴んで、左側の卵巣から子宮までを滅菌ガーゼ上に摘み出す。 4. 卵巣上部の脂肪に止血クレンメを留めて、卵巣~子宮を保定する。 6. 採卵ピペットに Air と2細胞期胚を吸入する(図4)。 7. 卵巣嚢にエピネフィリンを 1~2 滴落とす。すぐに膜表面の血管が収縮を始める。 8. ピンセット(No.5)で卵巣嚢を摘んで、ノエス尖剪で大きく膜を切開する。 8. 移植ピペットを卵管采に挿入して、胚と Air を吹き込む。 9. 止血クレンメを外して卵巣~子宮を腹腔内に戻す。 10. 反対側も同様に胚移植する。 11. 外皮をオートクリップで留めて、 ケージに入れて白熱灯下で保温 する。動き出したら動物室に戻して飼 育を行う。 表4 ネンブタール麻酔投与量 体重 (g) 注射量 (ml) 体重 (g) 注射量 (ml) 体重 (g) 注射量 (ml) 100 0.23 200 0.46 300 0.69 110 0.25 210 0.48 310 0.71 120 0.27 220 0.50 320 0.74 130 0.31 230 0.52 330 0.76 140 0.33 240 0.54 340 0.78 150 0.35 250 0.59 350 0.81 160 0.38 250 0.61 360 0.83 170 0.40 270 0.63 370 0.85 180 0.42 280 0.65 380 0.87 190 0.43 290 0.67 390 0.90 *ネンブタールを生理食塩水で3倍希釈。 7 6.出産・帝王切開・里親 自然出産は胚移植日を 1 日目として 22 日の夕方~23 日目にかけて行われる。23 日の午後ま でに産まれない場合、帝王切開を行い里子に出す。里親はレシピエントと同日か前日に出産して いる個体を使用する。 帝王切開の準備 ハサミ(B-5H、B-12H)、ピンセット(A-1、A-5)、キムワイプ、白熱灯。 帝王切開の方法 1. 頸椎脱臼法でレシピエントを処分する。 2. ハサミ(B-5H)で腹部を大きく切開する。 3. ハサミ(B-12H)で子宮を切開して胎子を摘出する。臍帯はピンセットで暫滅してからハサミ (B-12H)で切り離す。 4. キムワイプで胎子の口の羊水をふき取る。尾を軽くピンセットでつまんで産声を上げさせてか ら白熱灯下で保温する。 5. 里親に産子を抱かせる。 8 7.器具・試薬リスト 器具/機材 用途 溶液 調整 器具 作製 採卵 保存 ○ ○ ○ 移植 帝王 切開 名称 メーカー(例) Cat. No. ○ 実体顕微鏡 Nicon ○ 移植用実体顕微鏡 カールツアイス ステミ2000C ○ ファイバー照明装置 ハヤシ LA-150T ○ 炭酸ガスインキュベーター ESPEC CORP. BNA-111 加温板 SAKURA PS-52 ○ チルヒーター IWAKI SHT-100 ○ 液体窒素タンク(液層) ー ー ○ ○ ○ ○ SMZ-U 白熱灯(保温用) ー ー アイスバス ー ー ○ ○ ○ ピペットマン(1ml用)、チップ GILSON P-1000 ○ ○ ○ ピペットマン(200ul用)、チップ GILSON P-200 ○ ○ ○ ピペットマン(10ul用) GILSON P-10 フィルターチップ ATR ART-10RECH ○ 移植台 特注 ー ○ ピペットホルダー 特注 ー 毛刈ハサミ Napox B-2 ハサミ Napox B-5H ハサミ Napox B12-H ピンセット 直 Napox A-1 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ピンセット 直 Napox A-5 ピンセット 直 Napox A-7 ○ ピンセット 曲 Napox A-14 ○ ピンセット No.5 REZINE No.5 ○ 止血クレンメ(40mm) CLAMP AJ-0613-190 ○ オートクリップ CLAY ADAMS 42-4730 ○ オートクリップ針 CLAY ADAMS 42-4731 ○ ノエス剪刃 Napox MB 54-1 ○ 医療用縫合針 MATSUDA 眼科用丸針~0バネ 灌流針 30G 特注 ー ○ ○ ○ ○ ○ 採卵ピペット 自作 ー ○ ○ ○ マウスピペット 自作 ー ○ シリコンキャップ フナコシ DRM 5200000 マウスピース フナコシ DRM 05103003 縫合糸 夏目製作所 東大式No.3 ガラス管 DURMMOND SCIENTIFIC CO. Microhematocrits 75mm 濾紙 TOYO ROSHI #3 シャーレ(3cm) FALCON 351008 シリンジ(1ml) TERUMO SS-01P ○ ベビー綿棒 白十字株式会社 10919 ○ スライドグラス MATSUNAMI S-2442 ○ ガラス用鉛筆 ー ー ○ クライオチューブ NUNC 375353 ○ 355077 ○ ○ ○ ○ ○ カラーコード(クライオチューブ用) NUNC ○ フィルターシステム(250ml) CORNING 431096 ○ ストレージボトル(250ml) CORNING 430281 9 試薬1(作業に使用) 用途 ホルモン 採卵 保存 投与 胚 名称 メーカー例 Cat. No. 移植 ○ 生理食塩水 生理食塩水 扶桑薬品 大塚製薬 5ml 20ml 液体窒素 クラッシュアイス ギムザ染色液 ー ー メルク・ジャパン ー ー 1.09204. ○ ○ ミネラルオイル エピネフィリン(1mg/1mL) Nakarai 第一製薬 261-17 ボスミン注・20管 ○ ペントバルビタール(ネンブタール) Hiaruronidase 大日本製薬 Sigma 50mg/mL H-3506 PMSG(1000単位/管) hCG(1000単位/管) あすか製薬 あすか製薬 セロトロピン1000 ゴナトロピン1000 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 試薬2(溶液調整) 用途 PB1 前処置 ガラス化 希釈 液 保存液 液 名称 メーカー例 Cat. No. ○ ○ ○ NaCl KCl CaCl 2 Sigma Sigma Sigma S-7653 P-5405 C-5670 ○ ○ KH 2 PO4 MgCl 2 ・6H 2 O Sigma Sigma P-5379 M-2670 ○ ○ ○ Na 2 HPO 4 Na-pyrubate Glucose Sigma Sigma Sigma S-7907 P-4562 G-7528 ○ ○ Penicillin G BSA Sigma Sigma P-4687 A-8806 DMSO Propylene glycol Sigma Sigma D2650 P-4347 Acetamide Sucrose PB1 Sigma Sigma 自作 A-0500 S-7903 ー 混合ガス(5%CO 特注 ー ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 2 ,5%O 2 ,95%N 2) 10
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