ニューズレター う 6 つのテーマに記事を整理し,掲載しています。先 します。人々は,自分の下したい結論を導く根拠とし の社会心理学会のまとめサイトに比較的早く掲載され て,各専門家の発言を用いていきます。 たことから,このサイトに注目してくれた人も少なか このような図式は普段から見られることですが,災 害後のネット上の情報の流れを眺めることで再認識で らずいたようです。 きました。専門家と非専門家との間のコミュニケーシ ョンには,難しさが伴います。今回のような場合にど 3 .専門家の情報発信 一連の災害を経て,あらためて専門家の情報発信の のようにすべきか,答えはわかりません。しかし,専 あり方が問われています。震災直後から,専門家のイ 門家の発言が妨げられるべきではないと思います。そ ンターネット上の情報発信が Twitter などで次々と引 の上で,情報の扱いを模索する必要がありそうです。 用され,拡散していく様子を見てきました。特に原発 の事故が明るみになって以降は,その傾向が激しさを *小塩 真司さんのプロフィール* 現任校に赴任して早くも 10 年が過ぎようとしていま 増してきたように思います。 そのなかで浮き彫りにされたのは,真実を知ること の難しさではないでしょうか。たとえ専門家が,自身 す。今回の執筆依頼をいただいて,このニューズレタ ーの編集委員長だった頃を思い出しました(委員長だ った時期があるのです!)。しかし,それが 8 年も前 の専門性に基づいて発言したとしても,その発言が真 だったことに愕然……若かったなあ,などと少しだけ 実とは限らない場合があります。そして,同じ事象に 思いを巡らせ,すぐに次の締切りに取り掛かるのでし 対して複数の専門家が,複数の立場から異なる発言を た……。 研究余滴 心理学 隙間 発見! 島 義弘(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)shima@nagoya-u.jp (私) 「アタッチメントの研究をしています。」→(A 学のゼミに進んだものの,ラットを使って実験をする さん)「子どもの発達を研究しているんだ。」→(私) ということ以外は何も決めていなかった時分,なんと 「…主な対象は青年です…。」→(A さん)「じゃあ,面 なく履修した他学部の講義の余談で,「世代間伝達」 接とか,臨床をやってるの?」→(私)「…基礎研究を という言葉を耳にしたのです。この時から,私はまる やっているつもりです…。今は言語刺激とか表情刺激 で運命に導かれるかのように,アタッチメントの研究 を使って,反応時間と内的作業モデルの関連を調べて へと駆り立てられていったのです。 います」→ (A さん) 「それって発達? 認知っぽいけ 卒業論文では世代間伝達について調べるために,ラ ど…」→(私)「方法は認知だけど,内容的には社会心 ットを 3 世代にわたって追跡するという,かなり大が 理のほうが近いですね。将来的には,基礎的な実験研 かりな実験を行いました。母仔分離中の仔ラットの体 究の成果を発達とか臨床に応用していきたいと考えて 温低下を防ぐために真夏の薬局に懐炉を買いに行くと います。 」→ (A さん) 「…?」 いう奇行に走ったり,何度も出産に立ち会ったり,午 後 9 時過ぎから午前 2 時ごろまで実験を行ったりと, 改めて振り返ってみるとなかなか大変ですが,当時は 隙間発見までのオートバイオグラフィー 上は,私が自分の研究を説明するときに,しばしば 繰り広げられる会話です。主題は発達・臨床心理学, 内容は社会・パーソナリティ心理学,方法は認知心理 「大変」と思う間もなく駆け抜けてきました。 ラットの世代間伝達の研究を進める一方で,アダ ルト・アタッチメント・インタビューで著名な Carol 学。私はこれら 3 領域の隙間に棲みついて,アタッチ George 博士の講演を聞く機会に恵まれ,Bowlby のア メントの研究を続けています。では,私はどうしてこ タッチメント理論を知るに至り,徐々に「大学院では のような隙間にはまり込んでしまったのでしょうか。 ヒトで,アタッチメントの研究をしたい」と考えるよ 発端は学部 3 年生にまでさかのぼります。学習心理 うになっていきました。しかし,人の世代間伝達を研 ― 10 ― 2011 年 10 月 31 日 ニューズレター 究するには 30 年かかる…。そこで思い至ったのが, 「内的作業モデルの情報処理機能」だったのです。 第 64 号 にはなかなか留まらないような小さな研究です。「ゆ っくりでもいい,大きく育て」と願いながら,刺激を 変え,実験プログラムを変え,試行錯誤を繰り返しな 隙間で育ち,隙間を育てる がら研究をつづけ,現在に至ります。 不適切な養育を受けた仔ラット(第 2 世代)は成熟 後の養育行動に異常を示し,その仔(第 3 世代)の行 隙間を,今後どうするのか? 動にも異常が現れる,というのが,私の卒業研究の結 目下の課題は,発達・臨床,社会・パーソナリテ 果でした。第 2 世代の被養育経験が同じく第 2 世代の ィ,認知という 3 つの領域の狭間に落ち込んでいる研 養育行動に影響するには,経験が何らかの形で表象と 究を,今後どうしていくのか,というものです。極論 して蓄えられている必要があります。この考えを人に を言えば,隙間に棲みついて独自の進化を遂げるか, 当てはめた時に,世代間伝達を引き起こす原因を「内 隙間から出て,外界を探索するかの 2 択になります 的作業モデル」と呼ばれる表象に求めることができる が,私自身はこの隙間を安全基地として基礎研究をつ のではないかと考えたのです。 づけながら,基礎研究と応用・実践との間に架け橋を ここで, 「(認知)表象=情報処理」という至極単純 かけたいと考えています。私の研究生活の発端である な図式といくつかの先行研究を参考に,学部時代に培 「世代間伝達」に対する関心は,若干イレギュラーな ってきた基礎研究のノウハウと「世代間伝達」という 形で私の中に生き続けています。 応用を結びつける試みが始まったのです。実際にアイ ディアを実験ベースに乗せるという誰もが味わう苦労 *島 義弘さんのプロフィール* のほかに,質問紙の作成・実施(大学院で初!),人 名古屋大学文学部卒。同大学院教育発達科学研究科博 に実験参加をお願いする(学部の実験演習以来!)な ど,未経験の困難にもさらされましたが,多くの方々 士後期課程修了。博士(心理学)。ずっと実験室にこ もって研究を続けてきましたが,最近ようやく外にも 出るようになってきました。これを 1 つの足掛かり の支えと様々な幸運にも恵まれ,研究を軌道に乗せる に,基礎と臨床をつなぐ取り組みを続けていきたいと ことに(とりあえず)成功しました。 思います。 とはいえ,まだまだ芽が出たばかり,ほかの人の目 研究会紹介 言語発達分科会 活動報告 高橋 登(大阪教育大学)noborut@cc.osaka-kyoiku.ac.jp 大伴 潔(東京学芸大学)otomo@u-gakugei.ac.jp 小林 春美(東京電機大学)h-koba@mail.dendai.ac.jp 田中 みどり(女子栄養大学)ghh07725@nifty.com 言語発達分科会は 1999 年に分科会として認められ, 第 6 回(2006 年)までは「言語発達の根幹を問い, 活動を続けてきました。分科会に登録しているメンバ 研究の視野を広げる」という大層なサブタイトルも付 ーは 40 名ほどですが,メンバー間で活発な交流が行 けていたのですが,第 7 回以降は付いていません。う われているわけではありません。世話人である私たち っかり付け忘れたのか,恥ずかしくなって付けるのを だけで地味に活動を展開しているというのが実情で やめたのかは定かではありませんが,言語発達につい す。けれども私たちの分科会には誇れる実績がありま て根本のところから考えて行こうという私たちのスタ す。毎年言語発達について先端の研究を行っている研 ンスに変わりはありません。また,当初は各話題提供 究者を招き,発達心理学会で自主シンポを開催してい 者に発表の内容に加筆してもらい,冊子の形態にして るのです。シンポのテーマと各話題提供者の発表テー 翌年のシンポで配布していたのですが,この試みは文 マを一覧表にまとめたのでご覧下さい。 字通り三号雑誌で終わってしまいました。負担が大き ― 11 ―
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